(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記銀含有組成物が、前記銀化合物(A)及び前記アミン化合物(B)20〜80質量%と、溶媒20〜80質量%とを含む請求項1記載の誘電体基材表面の金属化方法。
前記誘電体基材が、フッ素含有高分子樹脂、あるいはフッ素含有高分子樹脂とポリエステルなどの液晶性高分子、ポリイミド誘電体との高分子アロイや共重合体である請求項1又は2に記載の誘電体基材表面の金属化方法。
前記グラフト化剤が、N、P及びSからなる群から選択される少なくとも1つを含み銀イオンと配位結合する原子団からなる官能基を含む錯化化合物及び/又は錯化高分子からなる請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体表面の金属化方法。
前記錯化化合物がビニルアミン、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルアニリン、ビニルイソシアネート、ビニルピロール、ビニルピロリドン、ビニルトリアジン、ビニルホスホン酸、ビニルリン酸、ビニルチオール、ビニルチオフェン及びビニルスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、前記錯化高分子が前記錯化化合物の重合体からなる少なくとも1種の高分子化合物である請求項5に記載の誘電体基材表面の金属化方法。
グラフト化剤及び銀含有組成物は、スピンコート法、スプレー噴霧法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法のうちのいずれかの液相法により塗布する請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体基材表面の金属化方法。
【背景技術】
【0002】
誘電体基材表面を金属化する方法としては、例えば、特許文献1には、特定の銀化合物(A)とアミン化合物(B)を含む銀含有組成物を、ガラス、シリコン、ポリイミド、ポリエステル及びポリカーボネートなどからなる基材上に塗布し、該基材を加熱して金属銀膜や銀配線等の銀膜を形成する方法が開示されている。この方法によれば、触媒非存在下、150℃未満の低温で速やかに金属銀膜を得ることができ、例えば、耐熱性の低い樹脂製基材上への金属銀膜形成が短時間で可能であり、また、150℃以上の高温では短時間で金属銀膜の形成が可能となることから生産性の向上が期待できる。更に、この方法により得られる金属銀膜は、基材に対する平坦性・密着性が高いことから、この組成物を塗布・印刷後加熱することで得られる金属銀膜は、配線材料や反射材等の様々な分野への使用が期待できる。
【0003】
携帯電話や通信回路などに使用される高周波デバイスでは、動作周波数の高速化や低消費電力化への開発が進められている。しかし、デバイスの高速化に伴い配線容量の影響が増大してしまい、信号伝播速度の遅延や消費電力の増加といった技術課題が生じている。これらの課題を解決するため、従来広く使われていたポリイミド系絶縁材料(比誘電率3.2〜3.5)よりも誘電率の低い材料が必要とされ、比誘電率が2.1のポリテトラフロロエチレン(以下、PTFEと略記することもある。)に代表されるフッ素樹脂が注目されている。フッ素樹脂の誘電特性についてはGHz帯においても優れた特性を有するだけではなく、耐薬品性、耐熱性、電気的特性に極めて優れており、ポリイミドに取って代わる高周波用プリント基材、衛星放送の受信アンテナ等への応用が期待される。
【0004】
ところが、フッ素樹脂はその高い化学的安定性のため表面エネルギーが低く、他の物質群との接着は極めて困難であり、前記特許文献1に開示された銀含有組成物の場合、ガラス、シリコン、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネートなどからなる基材に対する密着性は問題ないものの、前記のような高い化学的安定性のため他の物質群との接着が極めて困難なPTFEに代表されるフッ素樹脂に対する密着性は必ずしも十分でなく、その改善が求められていた。
【0005】
一方、前記のようなPTFEに代表されるフッ素樹脂からなる基材に対する密着性に優れた金属膜を形成する方法として、特許文献2には、誘電体基材の表面を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して表面に親水性官能基を導入する工程、既に重合された一次構造が明確な錯化高分子及び目的とするめっき層と同じ金属種を含む前駆体を液相法により誘電体基材の表面に塗布し超薄膜を作製する工程、前記親水性官能基を反応点として、錯化高分子が自発的に共有結合を形成し高密度にグラフト化されるとともに、錯化高分子に前駆体が配位結合により連結され、この金属イオンを含む錯化高分子膜を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して、金属イオンを原子状金属へ還元する工程、生成した原子状金属が自己組織的に凝集してナノサイズのクラスターを形成した後、無電解めっき浴中に浸漬して、金属ナノクラスターを触媒として金属層を形成する工程、よりなる誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法が開示されている。
【0006】
前記触媒フリー金属化方法によれば、低投入電力によって発生した大気圧下における非平衡プラズマ処理とその後の錯化高分子の自己組織的なグラフト重合により、フッ素樹脂基材表面に新たに分子レベルの凹凸構造が形成され、グラフトされた錯化高分子とめっき金属の前駆体が配位結合により直接連結し、その後、この前駆体を大気圧プラズマにより原子状金属まで還元させて形成させた金属クラスターが無電解めっき工程において触媒として作用し、金属ナノクラスターを起点とした自己触媒反応により樹脂表面に金属層が形成されることから、フッ素樹脂と錯化高分子、錯化高分子と金属層の全てが共有結合性の強い多点相互作用により結びついているため、PTFEなどのフッ素樹脂との強い密着強度を実現することができる。
【0007】
さらに、前記触媒フリー金属化方法において、親水性官能基を反応点として錯化高分子を自発的に共有結合させて高密度にグラフト化させた後、めっき層と同じ金属種を含む前駆体を液相法により誘電体基材の表面に塗布し、前記錯化高分子に前駆体を配位結合させる工程を実施する前に、予め前記誘電体基材に直接結合していない未反応の錯化高分子を洗浄除去する工程を取り入れることで、誘電体基材表面に対する金属層の密着性を大幅に改善するとともに、密着性の不均一の問題も解決した方法も開示されている(特許文献3参照。)
【0008】
前記特許文献2、3に開示された方法によれば、その高い化学的安定性のため、他の物質群との接着が極めて困難なフッ素樹脂からなる誘電体基材表面に密着性に優れた金属膜を形成することができる。しかしながら、これらの方法においては、誘電体基材の表面を希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して表面に親水性官能基を導入し、錯化高分子を塗布して前記親水性官能基を反応点として錯化高分子を自発的に共有結合させて高密度にグラフト化させたうえで、目的とするめっき層と同じ金属種を含む前駆体を液相法により誘電体基材の表面に塗布し、前記錯化高分子に前駆体を配位結合させ、更に前記前駆体により導入された金属イオンを含む錯化高分子膜を、再度、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を実施して、金属イオンを原子状金属へ還元させるとともに、生成した原子状金属が自己組織的に凝集してナノサイズのクラスターを形成したり、金属ナノ粒子に成長させる工程、更には前記ナノクラスターや金属ナノ粒子が表面に形成された誘電体基材を無電解めっき浴中に浸漬して、金属ナノ粒子を触媒として金属層を形成する工程、といった多くの工程を必要とすることから、工程の簡素化が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の誘電体基材のベースとなる樹脂基材としては、例えば、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィン樹脂等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ビスマレイミドトリアジン系樹脂などを用いることができる。
本実施形態では、誘電体基材としてフッ素樹脂基材を用いてプリント基板を作製する例を示す。
【0023】
ベースとなるフッ素樹脂基材には、フッ素含有高分子樹脂の他、フッ素含有高分子樹脂とポリエステル系に代表されるような液晶性高分子、ポリイミド誘電体との高分子アロイや共重合体を用いることができる。これらの高分子膜などからなる誘電体基材の膜厚は特に限定されない。また、それらの高分子膜中にはガラスクロスなどの無機物を含むものも用いることができる。なお、以下の説明中では、特に断わりがない場合、フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0024】
本発明に係る誘電体基材表面の金属化方法の概念図を
図1に示す。
図1(a)は誘電体基材としてのフッ素樹脂基板1を大気圧プラズマ処理するステップを示している。プリント基板となるフッ素樹脂基板1を二枚の対向する電極間に設置し、主成分として希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を行う。プラズマ中に含まれるラジカル、電子、イオン等により、フッ素樹脂表面の脱フッ素によるダングリングボンドの形成を誘起する(
図1(b)参照)。その後、大気に数分から10分程度曝すことにより、大気中の水成分と反応して、ダングリングボンドに過酸化物ラジカル基を始め、水酸基、カルボニル基などの親水性官能基が自発的に形成される(
図1(c)参照)。なお、プラズマ処理及びプラズマ処理装置は、一般的な方法及び装置を用いることができ、プラズマ処理装置としては置換型、大気開放型のいずれでもよい。
【0025】
大気圧プラズマ処理により過酸化物ラジカル基が表面に導入されフッ素樹脂基板1の表面に、グラフト化剤をスピンコート法等の液相法により塗布し超薄膜を作製する(
図1(d)参照)。このとき、フッ素樹脂表面に形成した過酸化物ラジカル基を反応点として、グラフト化剤2と自発的に共有結合を形成し、フッ素樹脂表面からグラフト化剤が高密度にグラフトされる(
図1(e)参照)。グラフト化剤を塗布する方法としては、前記スピンコート法以外に、例えば、スプレー噴霧法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
前記グラフト化剤としては、金属イオンと配位結合を形成するような、カルボニル基、低級アミノ基(1級アミノ基)、高級アミノ基(2級以上のアミノ基)、アミド基、ピリジル基、ピロリル基、イミダゾール基、イソシアネート基、水酸基、エーテル基、エステル基、リン酸基、ウレア基、チオール基、チオフェン基、チオウレア基をなどの官能基を有する化合物又は高分子が好ましく、少なくともN、P、Sのいずれか1つを含む原子団からなる銀イオンと配位結合する官能基を有する錯化化合物又は錯化高分子がより好ましい。好ましい錯化化合物の具体例としては、例えば、ビニルアミン(例えば、アクリルアミンなど)、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルアニリン、ビニルイソシアネート、ビニルピロール、ビニルピロリドン、ビニルトリアジン、ビニルホスホン酸、ビニルリン酸、ビニルチオール、ビニルチオフェン、ビニルスルホン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、好ましい錯化高分子としては、例えば前記錯化化合物の重合体である、ポリビニルアミン(例えば、ポリアクリルアミンなど)、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアニリン、ポリビニルイソシアネート、ポリビニルピロール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルトリアジン、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルチオール、ポリビニルチオフェン、ポリビニルスルホン酸などが挙げられ、ポリアクリルアミンとしては、例えば、1級アミノ基含有アクリルポリマー(例えばアミノエチル化アクリルポリマーなど)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
次いで、フッ素樹脂基板1の表面に直接結合していない未反応のグラフト化剤を洗浄除去し(
図1(f)参照)、最後に形成する金属膜(銀薄膜層)3の密着性を改善することが好ましい(
図1(g)参照)。なお、この洗浄工程は省略することもできる。
【0028】
その後、銀含有組成物をスピンコート法等の液相法により塗布し超薄膜を作製する(
図1(h)参照)。次いで、塗布した銀含有組成物の薄膜を加熱して硬化させることで、銀薄膜層3が形成される(
図1(i)参照)。
【0029】
本発明で用いる銀含有組成物は、上記式(1)で表される銀化合物(A)と、上記式(2)で表されるアミン化合物(B)とを特定割合で含有する。
【0030】
銀化合物(A)は、アセトンジカルボン酸銀であり、その形態は通常粉体である。該銀化合物(A)は、溶剤に希釈した際に粘度が高くなり、印刷等のパターニングが難しい物質である。しかし、上記アミン化合物(B)と組み合わせることで、銀含有量の高い組成物においても粘度を低く設定することができる。また、銀化合物(A)は、単体での分解温度が高く、150℃以下の焼成にて金属銀を生成するには長時間を有する。しかし、上記アミン化合物(B)と組み合わせることで、150℃以下の低温・短時間焼成にて金属銀を生成することが可能となる。さらには、銀化合物(A)とアミン化合物(B)との相乗効果により、他のカルボン酸銀を用いたときに比べ保存安定性(銀粒子の沈殿の生成により判断)が格段に向上する。
【0031】
上記の銀含有組成物中において、銀化合物(A)及びアミン化合物(B)の合計100質量%に対する、銀化合物(A)の含有割合は10〜50質量%及びアミン化合物(B)の含有割合は50〜90質量%である。その好ましい範囲としては、銀化合物(A)の含有割合は20〜40質量%及びアミン化合物(B)の含有割合は60〜80質量%である。アミン化合物(B)の含有割合が50質量%未満では銀化合物(A)の溶解性が著しく低下する場合がある。
【0032】
本発明に用いるアセトンジカルボン酸銀である銀化合物(A)の製造方法は、何ら制限されず、公知文献、例えば、“Jornal fur praktische Chemie. Band 312(1970)pp.240−244”に記載の方法が挙げられる。特に、塩基性物質を用いてアセトンジカルボン酸銀を製造する場合、金属イオンの混入を避けるために有機塩基を用いることが望ましい。
【0033】
本発明に用いるアミン化合物(B)は、上記式(2)で表される化合物であり、式中、R
1は、水素原子、−(CY
2)a−CH
3又は−((CH
2)b−O−CHZ)c−CH
3を表し、R
2は、フェニル基、−(CY
2)d−CH
3又は−((CH
2)e−O−CHZ)f−CH
3を表す。ここで、Yは水素原子又は−(CH
2)g−CH
3を表し、Zは水素原子又は−(CH
2)h−CH
3を表す。aは0〜8の整数、bは1〜4の整数、cは1〜3の整数、dは1〜8の整数、eは1〜4の整数、fは1〜3の整数、gは1〜3の整数、hは1〜2の整数である。
【0034】
アミン化合物(B)としては、例えば、エチルアミン、1−プロピルアミン、1−ブチルアミン、1−ペンチルアミン、1−ヘキシルアミン、1−ヘプチルアミン、1−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、イソペンチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、tert−アミルアミン、ベンジルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2−エトキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、2−エトキシエチルアミンの1種又は2種以上が挙げられる。尚、以下では、例えば「1−プロピルアミン」などの表記に含まれる「1−」の部分については省略し、単に「プロピルアミン」などと記載する場合がある。
【0035】
本発明に用いる銀含有組成物を、例えば、光反射機能を必要とする反射電極等に適用する場合には、得られる金属銀膜には、より高い平坦性(平滑性)が求められるが、このような用途に用いられる場合には、前記アミン化合物(B)のR
1は、水素元素、−(CY
2)a−CH
3、−((CH
2)b−O−CHZ)c−CH
3が好ましく、Y及びZは水素原子又はメチル基、aは2〜6の整数、bは1〜3の整数及びcは1又は2であることが特に好ましい。同様に、R
2は、−(CY
2)d−CH
3又は−((CH
2)e−O−CHZ)f−CH
3であり、Y及びZは水素原子、dは1〜6の整数、eは1〜3の整数及びfは1〜2の整数であることが望ましい。さらに、150℃未満の低温焼結性を発揮させる場合、沸点が130℃未満のアミン化合物(B)を用いることがより好ましい。これらを満足するアミン化合物(B)としては、例えば、1−プロピルアミン、1−ブチルアミン、1−ペンチルアミン、1−ヘキシルアミン、1−ヘプチルアミン、1−オクチルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、イソペンチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2−エトキシプロピルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、2−エチルヘキシルアミンの1種又は2種以上が好適に挙げられる。
【0036】
本発明で用いる銀含有組成物には、基材への塗工性の改善や粘度の調節を目的に、銀化合物(A)及びアミン化合物(B)に加えて溶媒を適宜添加することができる。溶媒の使用量は、銀化合物(A)及びアミン化合物(B)の合計20〜80質量%に対して、20〜80質量%が好ましい。さらには、銀化合物(A)及びアミン化合物(B)の合計40〜60質量%に対して40〜60質量%がより好ましい。溶剤量が80質量%を超えると銀含有量の低下により均一な銀膜が得られない場合がある。
【0037】
前記溶媒の種類は特に制限されないが、銀膜作製時に除去しやすいものが好ましい。溶媒の種類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール(n−ヘキシルアルコール)、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、アセトキシメトキシプロパン、フェニルグリシジルエーテル及びエチレングリコールグリシジル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル及びイソブチロニトリル等のニトリル類、DMSOなどのスルホキシド類、水ならびに1−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は、用途に応じて単独もしくは混合して用いることができる。
【0038】
形成される銀膜の平坦性及び低温焼結性の点においては、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリルの1種又は2種以上が好ましく挙げられる。
【0039】
上記溶媒を用いる場合、銀化合物(A)及びアミン化合物(B)の混合物に添加するだけでなく、アミン化合物(B)と溶媒との混合物に、銀化合物(A)を添加したり、銀化合物(A)と溶媒との混合物に、アミン化合物(B)を添加するなど、添加する順序には特に制限はない。
【0040】
本発明で用いる銀含有組成物には、必要により、炭化水素、アセチレンアルコール、シリコーンオイル等により基材に対するレベリング性を調整したり、シランカップリング剤のようなカップリング剤等により基材に対する密着性を調整したり、樹脂や可塑剤等により粘度特性を調整したり、他の導電体粉末や、ガラス粉末、界面活性剤、金属塩及びその
他この種の組成液に一般に使用される添加剤を配合しても良い。
【0041】
本発明で用いる銀含有組成物には、焼結時間をさらに短縮するために、組成物をあらかじめ加温したり、一般に知られる還元剤を作用させて銀クラスター及びナノ粒子を形成させた銀コロイド分散液とすることもできる。この場合、還元剤としては、ホウ素化水素化合物、三級アミン、チオール化合物、リン化合物、アスコルビン酸、キノン類、フェノール類等を導電性や平坦性を失われない程度に添加することができる。
【0042】
本発明の銀含有組成物の基材への塗布は、スピンコート法や印刷等により行うことができる。塗布方法としては、例えば、スプレー噴霧法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
銀含有組成物塗布後に基材を加熱処理する際の加熱温度は、室温以上であれば特に規定されないが、生産性を考慮した場合、短時間で焼成するためには80℃以上の加熱が好ましい。耐熱性の低い樹脂基材上に金属銀膜や銀配線を形成する場合、80℃以上150℃未満の温度で焼成することが好ましいが、フッ素樹脂などの耐熱性に優れる基材を用いた場合、生産性の点から120℃以上170℃未満が好ましい。
【実施例】
【0044】
先ず、本発明で用いる銀含有組成物を用いた銀含有インクの製造例を示す。
【0045】
(合成例)アセトンジカルボン酸銀(銀塩A)の合成
アセトンジカルボン酸43.8gを1000mlビーカーに秤量後、600gのイオン交換水に添加し溶解させ氷冷し、さらに102gの硝酸銀を溶解させた。そこへ、48gのヘキシルアミンを投入後、30分間撹拌した。得られた白色の固体をろ取しアセトンで洗浄後、減圧乾燥することで88.2gのアセトンジカルボン酸銀を白色固体として得た(収率:82%)。得られたアセトンジカルボン酸銀のTGA分析を、熱重量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製)を用いて行った。分析条件は、昇温速度10℃/分、測定雰囲気を空気中とした。その結果、熱分解温度は175℃であった。また、熱重量分析後の残分は59.7%であり、理論残存率(59.4%)と一致していた。
【0046】
(製造例1:銀含有インク1の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀200mgを、遮光瓶中でヘキシルアミン(HA)800mgに溶解させ、銀含有組成物を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液800mgを、遮光瓶中でイソプロピルアルコール(IPA)200mgに添加して、銀含有インク溶液1を調製した。
【0047】
(製造例2:銀含有インク2の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中でヘキシルアミン(HA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でイソプロピルアルコール(IPA)600mgに添加して、銀含有インク溶液2を調製した。
【0048】
(製造例3:銀含有インク3の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中でブチルアミン(BA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でイソプロピルアルコール(IPA)600mgに添加して、銀含有インク溶液3を調製した。
【0049】
(製造例4:銀含有インク4の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中でプロピルアミン(PA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でイソプロピルアルコール(IPA)600mgに添加して、銀含有インク溶液4を調製した。
【0050】
(製造例5:銀含有インク5の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中でジブチルアミン(DBA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でイソプロピルアルコール(IPA)600mgに添加して、銀含有インク溶液5を調製した。
【0051】
(製造例6:銀含有インク6の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中で2−エトキシエチルアミン(2−EOEA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でイソプロピルアルコール(IPA)600mgに添加して、銀含有インク溶液6を調製した。
【0052】
(製造例7:銀含有インク7の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中で2−エチルヘキシルアミン(2−EHA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でイソプロピルアルコール(IPA)600mgに添加して、銀含有インク溶液7を調製した。
【0053】
(製造例8:銀含有インク8の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中でヘキシルアミン(HA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)600mgに添加して、銀含有インク溶液8を調製した。
【0054】
(製造例9:銀含有インク9の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中でヘキシルアミン(HA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でn−ヘキシルアルコール(n−HA)600mgに添加して、銀含有インク溶液9を調製した。
【0055】
(製造例10:銀含有インク10の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中でヘキシルアミン(HA)600mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でtert−アミルアルコール(TAA)600mgに添加して、銀含有インク溶液10を調製した。
【0056】
(製造例11:銀含有インク11の製造)
合成例で調製したアセトンジカルボン酸銀400mgを、遮光瓶中で2−エチルヘキシルアミン(2−EHA)200mg及び2−エトキシエチルアミン(2−EOEA)400mgに溶解させ、アセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液を得た。得られたアセトンジカルボン酸銀含有アミン溶液400mgを、遮光瓶中でメタノール(MeOH)600mgに添加して、銀含有インク溶液11を調製した。
【0057】
次に、本発明に係る誘電体表面の金属化方法及びそれにより得られる金属膜付き誘電体基材の具体例を以下に示す。
【0058】
(実施例1)
以下の手順により、表面に銀薄膜からなる金属膜が形成されたPTFE製誘電体基材を製造した。樹脂基材としては、日東電工株式会社にて厚さ0.2mmに切削されたPTFEシートを使用した。また、グラフト化剤としては、アミノ基を有するアミノエチル化アクリルポリマーを使用した。
【0059】
(I)準備
1) PTFEシートを一定の大きさ(20mm×50mmの長方形)に切り分けた。
2) 切り分けたPTFEシートをアセトンの入ったビーカーに入れ、1分間超音波洗浄
を行った。
3) 前記2)においてアセトン中で超音波洗浄後のPTFEシートを超純水の入ったビーカーに入れ、1分間超音波洗浄を行った。
4) 前記3)において超純水中で超音波洗浄後のPTFEシートに対して、エアガンにより窒素ガス(純度:99%以上)を吹付け、超純水を飛散させ除去した。
【0060】
(II)大気圧プラズマ処理
5) 超音波洗浄後のPTFEシートの両端に養生テープ(積水化学工業(株)製)を貼り、PTFEシートをプラズマ処理装置の電極下に固定した。
6) プラズマ処理は、直流パルス電源を用い、プロセスガスとしてArガス流量を3slmで流し、投入電圧5kV
p-v、プラズマ処理時間20分、電極と試料台のギャップ1.5mmの条件で行った。
使用したプラズマ処理装置は、積水化学工業(株)製の常圧プラズマ表面処理実験装置(AP−T05−L150)である。
【0061】
(III)表面グラフト化
7) グラフト化剤として、超純水で10wt%に希釈したアミノエチル化アクリルポリマー(ポリメント(登録商標)、NK−100PM、(株)日本触媒製)溶液を使用した。本実施例における表面グラフト化は、プラズマ処理したPTFEシートをアミノエチル化アクリルポリマーに20秒間浸漬することにより行った。
8) PTFEシート上の未反応なグラフト化剤を除去するため、表面グラフト化したPTFEシートを超純水の入ったビーカーに入れ、10分間超音波洗浄を行った。
9) 超音波洗浄後のPTFEシートに対して、エアガンにより窒素ガス(純度:99%以上)を吹付け、超純水を飛散させ除去した。
【0062】
(IV)銀薄膜層の形成
10) 表面グラフト化したPTFEシート上に製造例7で作製した銀含有インク7をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、回転数1000rpm、回転時間10秒の条件で行った。
11) 銀含有インクの硬化は、銀含有インクを塗布したPTFEシートを加熱温度120℃、加熱時間20分の条件で熱処理することにより行った。これにより、PTFEの表面に銀薄膜からなる金属膜が形成された金属膜付き誘電体基材を得た。
【0063】
(V)密着強度試験
12) 得られた金属膜付き誘電体基材における銀薄膜とPTFEシートの間の密着強度は、JIS K6854−1に基づいた90°剥離試験により評価した。ナガセケムテックス(株)製の2液混合型のエポキシ接着剤(主剤:EPOXY RESIN AV138、硬化剤:HARDENER HV998、質量比:主剤/硬化剤=2.5/1)をステンレスの棒に塗布し、銀薄膜を接着剤に接触させた。接着剤の硬化は、加熱温度80℃、加熱時間30分の条件で行われた。引張試験機として、(株)イマダ製作所製のデジタルフォースゲージ(ZP−200N)と電動スタンド(MX−500N)を使用した。PTFEシートの端部をクリップではさみ、1mm/秒で引張試験を行った。本実施例において、0.60N/mmの密着強度が得られた。
【0064】
(比較例1)
実施例1において、前記5)〜9)までの工程を省略して(II)プラズマ処理及び(III)グラフト化を行なわない以外は、実施例1と同様にしてPTFEシートの表面に銀薄膜を形成し、金属膜付き誘電体基材を得た。得られた金属膜付きPTFEシートについて、実施例1と同様にして銀薄膜とPTFEシートの間の密着強度を測定した結果、密着強度は0.0N/mmであり、PTFEシートから銀薄膜が簡単に剥がれた。
【0065】
(比較例2)
実施例1において、前記7)〜9)の工程を省略して(III)グラフト化を行わない以外は、実施例1と同様にしてPTFEシートの表面にプラズマ処理を行い、銀薄膜を形成し、金属膜付き誘電体基材を得た。得られた金属膜付きPTFEシートについて、実施例1と同様にして銀薄膜とPTFEシートの間の密着強度を測定した結果、密着強度は0.32N/mmであった。
【0066】
以上の実施例1及び比較例1、2の結果より、誘電体基材であるPTFEシートの表面にプラズマ処理及びグラフト化を施したうえで銀含有組成物を塗布、加熱硬化すことにより、銀薄膜とPTFEシートの間の密着強度が顕著に向上することが分かった。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、樹脂基材をPTFEシートに代えてポリイミド(PI)シートとした以外は、実施例1と同じ手順により、表面に銀薄膜からなる金属膜が形成された誘電体基材を製造し、金属膜の密着試験を行った。PI樹脂基材としては、「カプトン(登録商標)H300、製造元:東レ・デュポン(株)」を用いた。グラフト化剤としては、実施例1と同じアミノ基を有するアミノエチル化アクリルポリマーを使用した。
密着試験の結果、PI樹脂基材が破断し、金属膜と樹脂基材とは、樹脂基材自体の破断強度以上の密着力を有することが確認できた。なお、PI樹脂基材自体の破断強度を測定したところ、17.2N/mmであった。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、樹脂基材をPTFEシートに代えてシクロオレフィンポリマー(COP)シートとした以外は、実施例1と同じ手順により、表面に銀薄膜からなる金属膜が形成された誘電体基材を製造し、金属膜の密着試験を行った。COPシートとしては、「ゼオノアフィルム(登録商標)ZF−16−100、製造元:日本ゼオン(株)」を用いた。グラフト化剤としては、実施例1と同じアミノ基を有するアミノエチル化アクリルポリマーを使用した。
密着試験の結果、COP樹脂基材が破断し、金属膜と樹脂基材とは、樹脂基材自体の破断強度以上の密着力を有することが確認できた。なお、COP樹脂基材自体の破断強度を測定したところ、6.0N/mmであった。