特許第6551411号(P6551411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551411
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】電荷輸送性材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20190722BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   H05B33/22 D
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-535942(P2016-535942)
(86)(22)【出願日】2015年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2015070758
(87)【国際公開番号】WO2016013556
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2018年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-150768(P2014-150768)
(32)【優先日】2014年7月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中家 直樹
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−163710(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/140905(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/058777(WO,A1)
【文献】 特開2015−092560(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/137395(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H05B 33/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性物質と、ハロテトラシアノキノジメタンと、このハロテトラシアノキノジメタンとの錯形成能を有する錯化剤とを含み、
前記ハロテトラシアノキノジメタンと錯化剤とが錯形成しており、
前記錯化剤が、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンであることを特徴とする電荷輸送性材料。
【請求項2】
前記ハロテトラシアノキノジメタンが、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンである請求項1記載の電荷輸送性材料。
【請求項3】
さらにヘテロポリ酸を含む請求項1または2記載の電荷輸送性材料。
【請求項4】
前記電荷輸送性物質が、電荷輸送性オリゴマーである請求項1〜3のいずれか1項記載の電荷輸送性材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の電荷輸送性材料を用いて作製される電荷輸送性薄膜。
【請求項6】
請求項5記載の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載の電荷輸送性材料を基材上に塗布し、乾燥させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法。
【請求項8】
電荷輸送性物質と、ハロテトラシアノキノジメタンとを含む組成物から形成される電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法であって、前記組成物に前記ハロテトラシアノキノジメタンとの錯形成能を有する錯化剤として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを添加することを特徴とする電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法。
【請求項9】
電荷輸送性物質と、ハロテトラシアノキノジメタンと、有機溶媒とを含む組成物から形成される電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法であって、
前記有機溶媒の少なくとも一部として、前記ハロテトラシアノキノジメタンとの錯形成能を有する錯化剤として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いることを特徴とする電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子には、発光層や電荷注入層として、有機化合物からなる電荷輸送性薄膜が用いられる。特に、正孔注入層は、陽極と、正孔輸送層あるいは発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動および高輝度を達成するために重要な機能を果たす。
正孔注入層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスと、スピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別され、これら各プロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能な正孔注入層が望まれている。
このような事情に鑑み、本発明者らは、各種ウェットプロセスに適用可能であるとともに、有機EL素子の正孔注入層に適用した場合に優れたEL素子特性を実現できる薄膜を与える電荷輸送性材料や、それに用いる有機溶媒に対する溶解性の良好な化合物を開発してきている(例えば特許文献1〜4参照)。
しかし、正孔注入層用のウェットプロセス材料に関しては常に改善が求められており、特に、電荷輸送性に優れた薄膜を与えるウェットプロセス材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/067276号
【特許文献2】国際公開第2008/129947号
【特許文献3】国際公開第2006/025342号
【特許文献4】国際公開第2010/058777号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電荷輸送性に優れた薄膜を与えるとともに、当該薄膜を正孔注入層に適用した場合に低駆動電圧の有機EL素子を実現できる電荷輸送性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、電荷輸送性物質と、そのドーパント物質として少なくともハロテトラシアノキノジメタンを含む組成物に、ハロテトラシアノキノジメタンの錯化剤を添加して錯形成させた電荷輸送性材料から得られた薄膜が電荷輸送性に優れることを見出すとともに、当該薄膜を有機EL素子の正孔注入層に適用することで低駆動電圧の素子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
1. 電荷輸送性物質と、ハロテトラシアノキノジメタンと、このハロテトラシアノキノジメタンとの錯形成能を有する錯化剤とを含み、前記ハロテトラシアノキノジメタンと錯化剤とが錯形成していることを特徴とする電荷輸送性材料、
2. 前記錯化剤が、アミド化合物である1の電荷輸送性材料、
3. 前記アミド化合物が、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである2の電荷輸送性材料、
4. 前記ハロテトラシアノキノジメタンが、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンである1〜3のいずれかの電荷輸送性材料、
5. さらにヘテロポリ酸を含む1〜4のいずれかの電荷輸送性材料、
6. 前記電荷輸送性物質が、電荷輸送性オリゴマーである1〜5のいずれかの電荷輸送性材料、
7. 1〜6のいずれかの電荷輸送性材料を用いて作製される電荷輸送性薄膜、
8. 7の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子、
9. 1〜6のいずれかの電荷輸送性材料を基材上に塗布し、乾燥させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法、
10. 電荷輸送性物質と、ハロテトラシアノキノジメタンとを含む組成物から形成される電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法であって、前記組成物に前記ハロテトラシアノキノジメタンとの錯形成能を有する錯化剤を添加することを特徴とする電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法、
11. 電荷輸送性物質と、ハロテトラシアノキノジメタンと、有機溶媒とを含む組成物から形成される電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法であって、前記有機溶媒の少なくとも一部として、前記ハロテトラシアノキノジメタンとの錯形成能を有する錯化剤を用いることを特徴とする電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上方法、
12. 前記錯化剤が、アミド化合物である10または11の電荷輸送性向上方法、
13. アミド化合物からなるハロテトラシアノキノジメタンの錯化剤、
14. アミド化合物からなる、電荷輸送性物質およびハロテトラシアノキノジメタンを含む電荷輸送性薄膜の電荷輸送性向上剤
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電荷輸送性材料は、電荷輸送性物質およびドーパント物質としてハロテトラシアノキノジメタンを含むとともに、これと錯形成能を有する錯化剤を含んでおり、ハロテトラシアノキノジメタンと錯化剤とが錯形成しているため、電荷輸送性に優れた薄膜を与える。電荷輸送性が向上する理由は定かではないが、錯化剤が薄膜中に残存してハロテトラシアノキノジメタンと何らかの相互作用をする結果、電気特性が向上するものと推測される。
また、電荷輸送性材料中でハロテトラシアノキノジメタンが錯化剤と錯形成しているため、材料の保存安定性が向上するという利点も有する。
本発明の電荷輸送性材料から作製した薄膜は、有機EL素子をはじめとした電子デバイス用薄膜として好適に用いることができる。特に、この薄膜を有機EL素子の正孔注入層に適用することで、低駆動電圧の有機EL素子を得ることができる。
また、本発明の電荷輸送性材料は、スピンコート法やスリットコート法等、大面積に成膜可能な各種ウェットプロセスを用いた場合でも電荷輸送性に優れた薄膜を再現性よく製造できるため、近年の有機EL素子の分野における進展にも十分対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1−1および比較例1−1で調製した電荷輸送性材料を、それぞれ質量基準で1,000倍に希釈した希釈液のUV−Visスペクトル図である。
図2】溶液A1〜溶液A3のUV−Visスペクトル図である。
図3】溶液A4のUV−Visスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電荷輸送性材料は、電荷輸送性物質と、ハロテトラシアノキノジメタンと、このハロテトラシアノキノジメタンとの錯形成能を有する錯化剤とを含み、ハロテトラシアノキノジメタンと錯化剤とが錯形成しているものである。
【0010】
電荷輸送性物質としては、電荷輸送性を有する物質であれば特に限定されるものではなく、従来有機EL素子の分野等で用いられる電荷輸送性化合物を用いることができるが、中でも、分子量200〜9,000の電荷輸送性化合物が好ましい。
電荷輸送性化合物の具体例としては、オリゴアニリン誘導体、N,N'−ジアリールベンジジン誘導体、N,N,N',N'−テトラアリールベンジジン誘導体等のアリールアミン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、チエノチオフェン誘導体、チエノベンゾチオフェン誘導体等のチオフェン誘導体、オリゴピロール誘導体等のピロール誘導体等の各種正孔輸送性物質が挙げられるが、中でも、アリールアミン誘導体、チオフェン誘導体が好ましく、アリールアミン誘導体がより好ましい。
なお、電荷輸送性物質は、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、ドーパント物質とともに用いた際に電荷輸送性が発揮されるものでもよい。
【0011】
本発明において、電荷輸送性化合物の分子量は、上述の通り、好ましくは200〜9,000であるが、耐溶剤性の高い電荷輸送性薄膜を得る観点から、300以上がより好ましく、400以上がより一層好ましく、平坦性の高い薄膜を再現性よく与える均一なワニスを調製する観点から、8,000以下が好ましく、7,000以下がより好ましく、6,000以下がより一層好ましく、5,000以下がさらに好ましい。
また、薄膜化した場合に電荷輸送性物質が分離することを防ぐ観点から、電荷輸送性化合物は分子量分布のない(分散度が1)ことが好ましい(すなわち、単一の分子量であることが好ましい)。
【0012】
一方、ハロテトラシアノキノジメタン化合物としては、式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0013】
【化1】
【0014】
式中、R1〜R4は、互いに独立して、水素原子またはハロゲン原子を表すが、少なくとも1つはハロゲン原子であり、少なくとも2つがハロゲン原子であることが好ましく、少なくとも3つがハロゲン原子であることがより好ましく、全てがハロゲン原子であることが最も好ましい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0015】
ハロテトラシアノキノジメタン化合物の具体例としては、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、2,3,5,6−テトラクロロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2−フルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2−クロロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジクロロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン等が挙げられるが、本発明においては、F4TCNQが最適である。
【0016】
本発明の電荷輸送性材料におけるハロテトラシアノキノジメタン化合物の含有量は、電荷輸送性物質に対して、好ましくは0.0001〜1当量、より好ましくは0.001〜0.5当量、より一層好ましくは0.01〜0.2当量である。
【0017】
本発明の電荷輸送性材料では、ドーパント物質として上記ハロテトラシアノキノジメタンに加え、その他のドーパント物質を用いてもよい。
その他のドーパント物質としては無機系のドーパント物質、有機系のドーパント物質のいずれも使用できる。
【0018】
得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、高寿命の素子を再現性よく得ることを考慮すると、無機系のドーパント物質としては、ヘテロポリ酸が好ましい。ヘテロポリ酸とは、代表的に式(D1)で示されるKeggin型あるいは式(D2)で示されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【0019】
【化2】
【0020】
ヘテロポリ酸の具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンタングストモリブデン酸等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、本発明で用いるヘテロポリ酸は、市販品として入手可能であり、また、公知の方法により合成することもできる。
特に、1種類のヘテロポリ酸を用いる場合、その1種類のヘテロポリ酸は、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。また、2種類以上のヘテロポリ酸を用いる場合、その2種類以上のヘテロポリ酸の1つは、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましい。
なお、ヘテロポリ酸は、元素分析等の定量分析において、一般式で示される構造から元素の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。
すなわち、例えば、一般的には、リンタングステン酸は化学式H3(PW1240)・nH2Oで、リンモリブデン酸は化学式H3(PMo1240)・nH2Oでそれぞれ示されるが、定量分析において、この式中のP(リン)、O(酸素)またはW(タングステン)もしくはMo(モリブデン)の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。この場合、本発明に規定されるヘテロポリ酸の質量とは、合成物や市販品中における純粋なリンタングステン酸の質量(リンタングステン酸含量)ではなく、市販品として入手可能な形態および公知の合成法にて単離可能な形態において、水和水やその他の不純物等を含んだ状態での全質量を意味する。
【0021】
本発明の電荷輸送性材料に含まれるヘテロポリ酸は、質量比で、電荷輸送性物質1に対して1.0〜70.0程度とすることができるが、好ましくは2.0〜60.0程度、より好ましくは2.5〜55.0程度である。
【0022】
有機系のドーパント物質としては、ベンゾキノン誘導体が好ましい。
ベンゾキノン誘導体の具体例としては、テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン(クロラニル)、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)などが挙げられる。
これら無機系および有機系のドーパント物質は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記ハロテトラシアノキノジメタンと錯形成能を有する錯化剤としては、錯形成能を有する物質であれば限定されるものではないが、特に、アミド化合物が好ましい。
アミド化合物の具体例としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の常温で液状の炭素数3〜5のアミド化合物が挙げられるが、中でも、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましい。
なお、このような炭素数3〜5のアミド化合物は、電荷輸送性物質(特に分子量200〜9,000の電荷輸送性化合物)およびハロテトラシアノキノジメタン化合物を良好に溶解するため、錯化剤および溶液(ワニス)の態様である本発明の電荷輸送性材料の溶媒として機能し得る。それゆえ、当該アミド化合物を用いることで、平坦性に優れる薄膜を与えるワニスとして、本発明の電荷輸送性材料を得ることができる。
【0024】
また、錯形成の有無は、電荷輸送性材料のUV−Visスペクトルを測定することにより確認することができ、具体的には、錯形成することで、波長600〜1,000nmにかけての吸収、およびその範囲に2つの顕著なピークを確認することができる。
【0025】
本発明において、錯化剤の使用量は、特に限定されるものではないが、質量比で、ハロテトラシアノキノジメタン:錯化剤=1:1〜1:100程度とすることができ、1:5〜100程度が好ましく、1:30〜100程度がより好ましい。
【0026】
本発明の電荷輸送性材料は、上記錯化剤が溶媒として機能する場合、電荷輸送性物質、ハロテトラシアノキノジメタン、錯化剤および必要に応じて用いられるその他のドーパント物質からなるものとしてもよいが、電荷輸送性物質等の溶解性確保の観点や、電荷輸送性材料の粘度調整等の観点から、その他の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0027】
例えば、その他の有機溶媒として、電荷輸送性物質およびドーパント物質を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。
このような高溶解性溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができ、その使用量は、溶媒全体に対して1〜90質量%の範囲内で、錯形成の阻害の程度、電荷輸送性物質等の溶解性の程度等を考慮しながら適宜決定される。
なお、ここで言う「溶媒全体」の「溶媒」とは、錯化剤が溶媒として機能する場合は当該錯化剤全ておよびその他の溶媒全ての合算を意味し、錯化剤が溶媒として機能しない場合はその他の溶媒全ての合算を意味する(以下、同様)。
【0028】
また、25℃で10〜200mPa・s、特に35〜150mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50〜300℃、特に150〜250℃の高粘度有機溶媒を用いることができる。これにより、電荷輸送性材料の粘度の調整が容易になり、その結果、平坦性の高い薄膜を再現性よく与える、用いる塗布方法に応じた材料の調製が可能となる。
高粘度有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールジクリシジルエーテル、1,3−オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
高粘度有機溶媒の添加割合は、溶媒全体に対して1〜90質量%の範囲内で、錯形成の阻害の程度、電荷輸送性物質等の溶解性の程度等を考慮しながら適宜決定される。
【0029】
さらに、基板に対する濡れ性の向上、溶媒の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン、エチルラクテート、n−ヘキシルアセテート等を、錯形成の阻害の程度、電荷輸送性物質等の溶解性の程度等を考慮しながら、溶媒全体に対して1〜90質量%の割合で混合することもできる。
これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0030】
本発明の電荷輸送性材料の粘度は、作製する薄膜の厚み等や固形分濃度に応じて適宜設定されるものではあるが、通常、25℃で1〜50mPa・sである。
また、本発明における電荷輸送性材料の固形分濃度は、電荷輸送性材料の粘度および表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、0.1〜10.0質量%程度であり、電荷輸送性材料の塗布性を向上させることを考慮すると、好ましくは0.5〜5.0質量%程度、より好ましくは1.0〜3.0質量%程度である。
【0031】
以上で説明した電荷輸送性材料を基材上に塗布して焼成することで、基材上に電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
その塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、スリットコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられ、塗布方法に応じて電荷輸送性材料の粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0032】
また、本発明の電荷輸送性材料を用いる場合、焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面および高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることができる。
【0033】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、100〜260℃程度の範囲内で適宜設定されるものではあるが、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140〜250℃程度が好ましく、145〜240℃程度がより好ましい。
なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0034】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、5〜200nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、電荷輸送性材料中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0035】
本発明の電荷輸送性材料を用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にUVオゾン処理、酸素−プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
【0036】
本発明の電荷輸送性材料から得られる薄膜からなる正孔注入層を有するOLED素子の作製方法の例は、以下のとおりである。
上記の方法により、陽極基板上に本発明の電荷輸送性材料を塗布して焼成し、電極上に正孔注入層を作製する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子輸送層/ホールブロック層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属やこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、インジウム、スカンジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ハフニウム、タリウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、チタン、鉛、ビスマスやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0037】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、N,N’−ビス(ナフタレン−2−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−スピロビフルオレン、N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−スピロビフルオレン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−ジメチル−フルオレン、N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−ジメチル−フルオレン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−ジフェニル−フルオレン、N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−ジフェニル−フルオレン、N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン、9,9−ビス[4−(N,N−ビス−ビフェニル−4−イル−アミノ)フェニル]−9H−フルオレン、9,9−ビス[4−(N,N−ビス−ナフタレン−2−イル−アミノ)フェニル]−9H−フルオレン、9,9−ビス[4−(N−ナフタレン−1−イル−N−フェニルアミノ)−フェニル]−9H−フルオレン、2,2’,7,7’−テトラキス[N−ナフタレニル(フェニル)−アミノ]−9,9−スピロビフルオレン、N,N’−ビス(フェナントレン−9−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン、2,2’−ビス[N,N−ビス(ビフェニル−4−イル)アミノ]−9,9−スピロビフルオレン、2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン、ジ−[4−(N,N−ジ(p−トリル)アミノ)−フェニル]シクロヘキサン、2,2’,7,7’−テトラ(N,N−ジ(p−トリル))アミノ−9,9−スピロビフルオレン、N,N,N’,N’−テトラ−ナフタレン−2−イル−ベンジジン、N,N,N’,N’−テトラ−(3−メチルフェニル)−3,3’−ジメチルベンジジン、N,N’−ジ(ナフタレニル)−N,N’−ジ(ナフタレン−2−イル)−ベンジジン、N,N,N’,N’−テトラ(ナフタレニル)−ベンジジン、N,N’−ジ(ナフタレン−2−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン−1,4−ジアミン、N1,N4−ジフェニル−N1,N4−ジ(m−トリル)ベンゼン−1,4−ジアミン、N2,N2,N6,N6−テトラフェニルナフタレン−2,6−ジアミン、トリス(4−(キノリン−8−イル)フェニル)アミン、2,2’−ビス(3−(N,N−ジ(p−トリル)アミノ)フェニル)ビフェニル、4,4’,4”−トリス[3−メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4’,4”−トリス[1−ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1−TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5”−ビス−{4−[ビス(4−メチルフェニル)アミノ]フェニル}−2,2’:5’,2”−ターチオフェン(BMA−3T)等のオリゴチオフェン類などが挙げられる。
【0038】
発光層を形成する材料としては、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq3)、ビス(8−キノリノラート)亜鉛(II)(Znq2)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル、9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン、2−t−ブチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン、2,7−ビス[9,9−ジ(4−メチルフェニル)−フルオレン−2−イル]−9,9−ジ(4−メチルフェニル)フルオレン、2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン、2−(9,9−スピロビフルオレン−2−イル)−9,9−スピロビフルオレン、2,7−ビス(9,9−スピロビフルオレン−2−イル)−9,9−スピロビフルオレン、2−[9,9−ジ(4−メチルフェニル)−フルオレン−2−イル]−9,9−ジ(4−メチルフェニル)フルオレン、2,2’−ジピレニル−9,9−スピロビフルオレン、1,3,5−トリス(ピレン−1−イル)ベンゼン、9,9−ビス[4−(ピレニル)フェニル]−9H−フルオレン、2,2’−ビ(9,10−ジフェニルアントラセン)、2,7−ジピレニル−9,9−スピロビフルオレン、1,4−ジ(ピレン−1−イル)ベンゼン、1,3−ジ(ピレン−1−イル)ベンゼン、6,13−ジ(ビフェニル−4−イル)ペンタセン、3,9−ジ(ナフタレン−2−イル)ペリレン、3,10−ジ(ナフタレン−2−イル)ペリレン、トリス[4−(ピレニル)−フェニル]アミン、10,10’−ジ(ビフェニル−4−イル)−9,9’−ビアントラセン、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’:4’,1’’:4’’,1’’’−クウォーターフェニル]−4,4’’’−ジアミン、4,4’−ジ[10−(ナフタレン−1−イル)アントラセン−9−イル]ビフェニル、ジベンゾ{[f,f’]−4,4’,7,7’−テトラフェニル}ジインデノ[1,2,3−cd:1’,2’,3’−lm]ペリレン、1−(7−(9,9’−ビアントラセン−10−イル)−9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)ピレン、1−(7−(9,9’−ビアントラセン−10−イル)−9,9−ジヘキシル−9H−フルオレン−2−イル)ピレン、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン、1,3,5−トリス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン、4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)−2,2’−ジメチルビフェニル、2,7−ビス(カルバゾール−9−イル)−9,9−ジメチルフルオレン、2,2’,7,7’−テトラキス(カルバゾール−9−イル)−9,9−スピロビフルオレン、2,7−ビス(カルバゾール−9−イル)−9,9−ジ(p−トリル)フルオレン、9,9−ビス[4−(カルバゾール−9−イル)−フェニル]フルオレン、2,7−ビス(カルバゾール−9−イル)−9,9−スピロビフルオレン、1,4−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、ビス(4−N,N−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−4−メチルフェニルメタン、2,7−ビス(カルバゾール−9−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン、4,4”−ジ(トリフェニルシリル)−p−ターフェニル、4,4’−ジ(トリフェニルシリル)ビフェニル、9−(4−t−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール、9−(4−t−ブチルフェニル)−3,6−ジトリチル−9H−カルバゾール、9−(4−t−ブチルフェニル)−3,6−ビス(9−(4−メトキシフェニル)−9H−フルオレン−9−イル)−9H−カルバゾール、2,6−ビス(3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ピリジン、トリフェニル(4−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル)シラン、9,9−ジメチル−N,N−ジフェニル−7−(4−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)フェニル)−9H−フルオレン−2−アミン、3,5−ビス(3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ピリジン、9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィン オキサイド、9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)、3−(2,7−ビス(ジフェニルフォスフォリル)−9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)−9−フェニル−9H−カルバゾール、4,4,8,8,12,12−ヘキサ(p−トリル)−4H−8H−12H−12C−アザジベンゾ[cd,mn]ピレン、4,7−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)−1,10−フェナントロリン、2,2’−ビス(4−(カルバゾール−9−イル)フェニル)ビフェニル、2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン、ビス(2−メチルフェニル)ジフェニルシラン、ビス[3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ジフェニルシラン、3,6−ビス(カルバゾール−9−イル)−9−(2−エチル−ヘキシル)−9H−カルバゾール、3−(ジフェニルフォスフォリル)−9−(4−(ジフェニルフォスフォリル)フェニル)−9H−カルバゾール、3,6−ビス[(3,5−ジフェニル)フェニル]−9−フェニルカルバゾール等が挙げられ、発光性ドーパントと共蒸着することによって、発光層を形成してもよい。
【0039】
発光性ドーパントとしては、3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H,11H−10−(2−ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a,1gh]クマリン、キナクリドン、N,N’−ジメチル−キナクリドン、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)、ビス(2−フェニルピリジン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)(Ir(ppy)2(acac))、トリス[2−(p−トリル)ピリジン]イリジウム(III)(Ir(mppy)3)、9,10−ビス[N,N−ジ(p−トリル)アミノ]アントラセン、9,10−ビス[フェニル(m−トリル)アミノ]アントラセン、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(II)、N10,N10,N10',N10'−テトラ(p−トリル)−9,9’−ビアントラセン−10,10’−ジアミン、N10,N10,N10',N10'−テトラフェニル−9,9’−ビアントラセン−10,10’−ジアミン、N10,N10'−ジフェニル−N10,N10'−ジナフタレニル−9,9’−ビアントラセン−10,10’−ジアミン、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル、ペリレン、2,5,8,11−テトラ−t−ブチルペリレン、1,4−ビス[2−(3−N−エチルカルバゾリル)ビニル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]ビフェニル、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、ビス[3,5−ジフルオロ−2−(2−ピリジル)フェニル−(2−カルボキシピリジル)]イリジウム(III)、4,4’−ビス[4−(ジフェニルアミノ)スチリル]ビフェニル、ビス(2,4−ジフルオロフェニルピリジナト)テトラキス(1−ピラゾリル)ボレートイリジウム(III)、N,N’−ビス(ナフタレン−2−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−トリス(9,9−ジメチルフルオレニレン)、2,7−ビス{2−[フェニル(m−トリル)アミノ]−9,9−ジメチル−フルオレン−7−イル}−9,9−ジメチル−フルオレン、N−(4−((E)−2−(6((E)−4−(ジフェニルアミノ)スチリル)ナフタレン−2−イル)ビニル)フェニル)−N−フェニルベンゼンアミン、fac−イリジウム(III)トリス(1−フェニル−3−メチルベンズイミダゾリン−2−イリデン−C,C2')、mer−イリジウム(III)トリス(1−フェニル−3−メチルベンズイミダゾリン−2−イリデン−C,C2')、2,7−ビス[4−(ジフェニルアミノ)スチリル]−9,9−スピロビフルオレン、6−メチル−2−(4−(9−(4−(6−メチルベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェニル)アントラセン−10−イル)フェニル)ベンゾ[d]チアゾール、1,4−ジ[4−(N,N−ジフェニル)アミノ]スチリルベンゼン、1,4−ビス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)スチリル)ベンゼン、(E)−6−(4−(ジフェニルアミノ)スチリル)−N,N−ジフェニルナフタレン−2−アミン、ビス(2,4−ジフルオロフェニルピリジナト)(5−(ピリジン−2−イル)−1H−テトラゾレート)イリジウム(III)、ビス(3−トリフルオロメチル−5−(2−ピリジル)ピラゾール)((2,4−ジフルオロベンジル)ジフェニルフォスフィネート)イリジウム(III)、ビス(3−トリフルオロメチル−5−(2−ピリジル)ピラゾレート)(ベンジルジフェニルフォスフィネート)イリジウム(III)、ビス(1−(2,4−ジフルオロベンジル)−3−メチルベンズイミダゾリウム)(3−(トリフルオロメチル)−5−(2−ピリジル)−1,2,4−トリアゾレート)イリジウム(III)、ビス(3−トリフルオロメチル−5−(2−ピリジル)ピラゾレート)(4’,6’−ジフルオロフェニルピリジネート)イリジウム(III)、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルピリジナト)(3,5−ビス(トリフルオロメチル)−2−(2’−ピリジル)ピロレート)イリジウム(III)、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルピリジナト)(3−(トリフルオロメチル)−5−(2−ピリジル)−1,2,4−トリアゾレート)イリジウム(III)、(Z)−6−メシチル−N−(6−メシチルキノリン−2(1H)−イリデン)キノリン−2−アミン−BF2、(E)−2−(2−(4−(ジメチルアミノ)スチリル)−6−メチル−4H−ピラン−4−イリデン)マロノニトリル、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−ジュロリジル−9−エニル−4H−ピラン、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エニル)−4H−ピラン、4−(ジシアノメチレン)−2−t−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジン−4−イル−ビニル)−4H−ピラン、トリス(ジベンゾイルメタン)フェナントロリンユーロピウム(III)、5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン、ビス(2−ベンゾ[b]チオフェン−2−イル−ピリジン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)、ビス(1−フェニルイソキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、ビス[1−(9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)−イソキノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、ビス[2−(9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)キノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス[4,4’−ジ−t−ブチル−(2,2’)−ビピリジン]ルテニウム(III)・ビス(ヘキサフルオロフォスフェート)、トリス(2−フェニルキノリン)イリジウム(III)、ビス(2−フェニルキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、2,8−ジ−t−ブチル−5,11−ビス(4−t−ブチルフェニル)−6,12−ジフェニルテトラセン、ビス(2−フェニルベンゾチアゾラト)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、5,10,15,20−テトラフェニルテトラベンゾポルフィリン白金、オスミウム(II)ビス(3−トリフルオロメチル−5−(2−ピリジン)−ピラゾレート)ジメチルフェニルフォスフィン、オスミウム(II)ビス(3−(トリフルオロメチル)−5−(4−t−ブチルピリジル)−1,2,4−トリアゾレート)ジフェニルメチルフォスフィン、オスミウム(II)ビス(3−(トリフルオロメチル)−5−(2−ピリジル)−1,2,4−トリアゾール)ジメチルフェニルフォスフィン、オスミウム(II)ビス(3−(トリフルオロメチル)−5−(4−t−ブチルピリジル)−1,2,4−トリアゾレート)ジメチルフェニルフォスフィン、ビス[2−(4−n−ヘキシルフェニル)キノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス[2−(4−n−ヘキシルフェニル)キノリン]イリジウム(III)、トリス[2−フェニル−4−メチルキノリン]イリジウム(III)、ビス(2−フェニルキノリン)(2−(3−メチルフェニル)ピリジネート)イリジウム(III)、ビス(2−(9,9−ジエチル−フルオレン−2−イル)−1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾラト)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、ビス(2−フェニルピリジン)(3−(ピリジン−2−イル)−2H−クロメン−2−オネート)イリジウム(III)、ビス(2−フェニルキノリン)(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオネート)イリジウム(III)、ビス(フェニルイソキノリン)(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオネート)イリジウム(III)、イリジウム(III)ビス(4−フェニルチエノ[3,2−c]ピリジナト−N,C2')アセチルアセトネート、(E)−2−(2−t−ブチル−6−(2−(2,6,6−トリメチル−2,4,5,6−テトラヒドロ−1H−ピローロ[3,2,1−ij]キノリン−8−イル)ビニル)−4H−ピラン−4−イリデン)マロノニトリル、ビス(3−トリフルオロメチル−5−(1−イソキノリル)ピラゾレート)(メチルジフェニルフォスフィン)ルテニウム、ビス[(4−n−ヘキシルフェニル)イソキノリン](アセチルアセトネート)イリジウム(III)、白金(II)オクタエチルポルフィン、ビス(2−メチルジベンゾ[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)、トリス[(4−n−ヘキシルフェニル)キソキノリン]イリジウム(III)等が挙げられる。
【0040】
電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、8−ヒドロキシキノリノレート−リチウム、2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンズイミダゾール)、2−(4−ビフェニル)5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、ビス(2−メチル−8−キノリノレート)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,3−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]ベンゼン、6,6’−ビス[5−(ビフェニル−4−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−2−イル]−2,2’−ビピリジン、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール、4−(ナフタレン−1−イル)−3,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール、2,9−ビス(ナフタレン−2−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2,7−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]−9,9−ジメチルフルオレン、1,3−ビス[2−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]ベンゼン、トリス(2,4,6−トリメチル−3−(ピリジン−3−イル)フェニル)ボラン、1−メチル−2−(4−(ナフタレン−2−イル)フェニル)−1H−イミダゾ[4,5f][1,10]フェナントロリン、2−(ナフタレン−2−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、フェニル−ジピレニルフォスフィンオキサイド、3,3’,5,5’−テトラ[(m−ピリジル)−フェン−3−イル]ビフェニル、1,3,5−トリス[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン、4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)ビフェニル、1,3−ビス[3,5−ジ(ピリジン−3−イル)フェニル]ベンゼン、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム、ジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン、3,5−ジ(ピレン−1−イル)ピリジン等が挙げられる。
【0041】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al23)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、三酸化モリブデン(MoO3)、アルミニウム、Li(acac)、酢酸リチウム、安息香酸リチウム等が挙げられる。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。
電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられる。
【0042】
本発明の電荷輸送性材料を用いたPLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
上記OLED素子作製において、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、正孔輸送性高分子層、発光性高分子層を順次形成することによって本発明の電荷輸送性材料によって形成される電荷輸送性薄膜を有するPLED素子を作製することができる。
具体的には、陽極基板上に本発明の電荷輸送性材料を塗布して上記の方法により正孔注入層を作製し、その上に正孔輸送性高分子層、発光性高分子層を順次形成し、さらに陰極電極を蒸着してPLED素子とする。
【0043】
使用する陰極および陽極材料としては、上記OLED素子作製時と同様のものが使用でき、同様の洗浄処理、表面処理を行うことができる。
正孔輸送性高分子層および発光性高分子層の形成法としては、正孔輸送性高分子材料もしくは発光性高分子材料、またはこれらにドーパント物質を加えた材料に溶媒を加えて溶解するか、均一に分散し、正孔注入層または正孔輸送性高分子層の上に塗布した後、それぞれ焼成することで成膜する方法が挙げられる。
【0044】
正孔輸送性高分子材料としては、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(N,N’−ビス{p−ブチルフェニル}−1,4−ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(N,N’−ビス{p−ブチルフェニル}−1,1’−ビフェニレン−4,4−ジアミン)]、ポリ[(9,9−ビス{1’−ペンテン−5’−イル}フルオレニル−2,7−ジイル)−co−(N,N’−ビス{p−ブチルフェニル}−1,4−ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン]−エンドキャップド ウィズ ポリシルシスキノキサン、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(p−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0045】
発光性高分子材料としては、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキソキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0046】
溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロホルム等が挙げられ、溶解または均一分散法としては撹拌、加熱撹拌、超音波分散等の方法が挙げられる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット法、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗布は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
焼成する方法としては、不活性ガス下または真空中、オーブンまたはホットプレートで加熱する方法が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)1H−NMR:日本電子(株)製 JNM−ECP300 FT NMR SYSTEM
(2)ワニスのUV−Visスペクトル測定:(株)島津製作所製 可視紫外線吸収スペクトル測定装置UV−3100PC
(3)基板洗浄:長州産業(株)製 基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(4)ワニスの塗布:ミカサ(株)製 スピンコーターMS−A100
(5)膜厚測定:(株)小坂研究所製 微細形状測定機サーフコーダET−4000
(6)EL素子の作製:長州産業(株)製 多機能蒸着装置システムC−E2L1G1−N
(7)EL素子の輝度等の測定:(有)テック・ワールド製 I−V−L測定システム
【0048】
[1]化合物の合成
[合成例1]アリールアミン誘導体1(AN1)の合成
【化3】
【0049】
N,N’−ジフェニルベンジジン1.00g、3−ブロモ−9−エチルカルバゾール1.96g、Pd(dba)234.7mg、およびt−BuONa0.860gを反応容器に入れ、窒素置換をした後、トルエン15mLおよび別途準備したP(t−Bu)3のトルエン溶液0.51mL(濃度47.2g/L)を加え、50℃で6.5時間撹拌し、反応させた。室温まで冷却した後、トルエンと飽和食塩水を加え分液した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥後、活性炭を加え、室温で30分撹拌した。ろ過にて活性炭を除去後、濃縮し、得られた濃縮液を、MeOH−AcOEt混合溶媒中に滴下して室温下で撹拌した。スラリー溶液をろ過後、乾燥し、トルエン−メタノール混合溶媒で再度スラリー洗浄した。ろ過後、得られた粉末を乾燥してAN1を得た(収量1.87g、収率87%)。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(300MHz, DMSO-d6) δ[ppm]:8.10(d, J=7.8Hz, 2H), 7.99(d, J=1.8Hz, 2H), 7.59-7.66(m, 4H), 7.42-7.51(m, 6H), 7.23-7.29(m, 7H), 6.94-7.18(m, 11H).
【0050】
[2]電荷輸送性材料の調製
[実施例1−1]
AN1 0.143g、リンタングステン酸(PTA)0.416gおよびF4TCNQ0.273gを、窒素雰囲気下で、錯化剤である1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)14.0gに溶解させた。得られた溶液に、2,3−ブタンジオール(2,3−BD)4.0gおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)2.0gを加えて撹拌し、電荷輸送性材料(ワニス)を調製した。
【0051】
[比較例1−1]
AN1 0.143g、PTA0.416gおよびF4TCNQ0.273gを、窒素雰囲気下で、シクロヘキサノン(CHN)20gに溶解させ、得られた溶液を撹拌し、電荷輸送性材料(ワニス)を調製した。
【0052】
[3]ワニスのUV−Visスペクトルの測定
実施例1−1および比較例1−1で調製したワニスを、それぞれ質量基準で1,000倍に希釈した。なお、実施例1−1のワニスの希釈には、混合溶媒(DMI:2,3−BD:DPM=70:20:10)を、比較例1−1のワニスの希釈にはシクロヘキサノンを、それぞれ用いた。そして、各希釈したワニスのUV−Visスペクトル(波長300〜1,000nm、以下同様)を測定した。結果を図1に示す。
【0053】
また、以下の方法で調製した溶液A1〜A4のUV−Visスペクトルを測定した。結果を図2(溶液A1〜溶液A3)、図3(溶液A4)にそれぞれ示す。
【0054】
(1)溶液A1
F4TCNQ0.068gを、窒素雰囲気下で、DMI3.5gに溶解させた。得られた溶液に、2,3−BD1.0gおよびDPM0.5gを加えて撹拌し、溶液A1を調製した。
(2)溶液A2
PTA0.104gを、窒素雰囲気下で、DMI3.5gに溶解させた。得られた溶液に、2,3−BD1.0gおよびDPM0.5gを加えて撹拌し、溶液A2を調製した。
(3)溶液A3
AN1 0.143gを、窒素雰囲気下で、DMI3.5gに溶解させた。得られた溶液に、2,3−BD1.0gおよびDPM0.5gを加えて撹拌し、溶液A3を調製した。
(4)溶液A4
F4TCNQ0.068gを、窒素雰囲気下で、DMI5gを加えて溶解させ、得られた溶液を撹拌し、溶液A4を調製した。
【0055】
図1に示されるように、実施例1−1のワニスは、波長600〜1,000nmにかけて特徴的な吸収を有していることがわかる。また、図2,3に示されるように、F4TCNQを混合溶媒(DMI:2,3−BD:DPM=70:20:10)やDMIに溶解させて調製した溶液も、同様の特徴的な吸収を有していることがわかる。
一方、図1に示されるように、比較例1−1のワニスは、波長600〜1,000nmに上述のような吸収を有していなかった。
また、図2に示されるように、F4TCNQを添加せずにリンタングステン酸のみやアリールアミン誘導体(AN1)のみを混合溶媒に溶解させて調製した溶液も波長600〜1,000nmに上述のような吸収を有していなかった。
これらの事実は、ワニス中でF4TCNQとDMIが相互作用し、ある種の錯体を形成していることを示唆している。
なお、実施例1−1のワニスの600〜1,000nmにかけての吸収では、2つの顕著なピークが認められる(750〜800nmの間および850〜900nmの間)。それぞれピークの波長は、762nm、866nmであった。
【0056】
[4]単層素子の製造および特性評価
電気特性を評価する際の基板には、インジウム錫酸化物が表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板(以下、ITO基板と略す)を用いた。ITO基板は、O2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)を用いて表面上の不純物を除去してから使用した。
【0057】
[実施例2−1]
実施例1−1で得られたワニスを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、80℃で1分間乾燥し、さらに、大気雰囲気下、230℃で15分間焼成し、ITO基板上に30nmの均一な薄膜を形成した。
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置を用いてアルミニウム薄膜を形成して単層素子を得た。アルミニウム薄膜の膜厚は120nmとし、蒸着は、真空度1.3×10-3Pa、蒸着レート0.2nm/秒の条件で行った。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点−85℃以下の窒素雰囲気中で、素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着材((株)MORESCO製、モレスコモイスチャーカット WB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製、HD−071010W−40)を素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着材を硬化させた。
【0058】
[比較例2−1]
実施例1−1で得られたワニスの代わりに、比較例1−1で得られたワニスを用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で単層素子を作製した。
【0059】
作製した各単層素子について、駆動電圧3Vにおける電流密度を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示されるように、F4TCNQとDMIとが錯形成している実施例のワニスから作製した薄膜は、F4TCNQが錯形成していない比較例のワニスから作製した薄膜に比べ、優れた電荷輸送性を有していることがわかる。
【0062】
[5]有機EL素子の製造および特性評価
[実施例3−1]
実施例1−1で得られたワニスを用い、実施例2−1と同様の方法で、ITO基板上に30nmの均一な薄膜を形成した。
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いてN,N'−ジ(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq3)、フッ化リチウム、およびアルミニウムの薄膜を順次積層し、有機EL素子を得た。この際、蒸着レートは、α−NPD、Alq3およびアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ30nm、40nm、0.5nmおよび100nmとした。
そして、実施例2−1と同様の方法で、有機EL素子は封止基板により封止した。
【0063】
[比較例3−1]
実施例1−1で得られたワニスの代わりに、比較例1−1で得られたワニスを用いた以外は、実施例3−1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0064】
作製した各素子について、輝度5,000cd/m2で発光させた場合における駆動電圧、電流密度および電流効率を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示されるように、比較例3−1の素子と比較した場合、実施例3−1の素子の駆動電圧は低く、その電流効率も高いことがわかる。
以上のとおり、本発明の電荷輸送性材料から得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いることで、有機EL素子の低駆動電圧化が可能となる。
図1
図2
図3