(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
食品や飲料等の包装材料は、様々な流通、冷蔵等の保存や加熱殺菌などの処理等から内容物を保護するため、強度や割れにくさ、耐レトルト性、耐熱性といった機能ばかりでなく、内容物を確認できるよう透明性に優れるなど多岐に渡る機能が要求されている。
その一方で、ヒートシールにより袋を密閉する場合には、熱加工性に優れる無延伸のポリオレフィン類フィルムが必須であるが、無延伸ポリオレフィンフィルムには包装材料として不足している機能も多い。
【0003】
このようなことから、前記包装材料は、異種のポリマー材料を組み合わせた多層構造の複合フレキシブルフィルムが広く用いられている。一般に複合フレキシブルフィルムは、商品保護や各種機能を有する外層となる熱可塑性プラスチックフィルム層等と、シーラント層となる熱可塑性プラスチックフィルム層等からなり、これらの貼り合わせには、ラミネートフィルム層に接着剤を塗布してシーラント層を接着させることで多層フィルムを製造するドライラミネート法(例えば特許文献1参照)が簡便であり、主流となっている。
【0004】
一方近年、包装材料にはさらなる高機能化が求められている。例えば酸化を抑えるため外部からの酸素の侵入を防ぐ酸素バリア性や、二酸化炭素バリア性、各種香気成分等に対するバリア性機能等が要求される。また、食品の賞味期限や消費期限を延ばす方法として、不活性ガスやエチルアルコールの蒸散材やエチルアルコール蒸気を食品と共に包装内に封入し食品の劣化や腐敗の原因である微生物類やカビ類の繁殖を防止することが広く行われており、こうした包装類の場合、食品の状態を維持するために、不活性ガスやエチルアルコールの漏洩を防止するバリア機能も要求される。
【0005】
これらの要求に対し、ラミネート時に使用する接着剤にガスバリア機能を付与する方法が知られている。この方法は、特殊なガスバリア機能付与済みのフィルムを使用しなくともガスバリア用多層フィルムを製造できる利点を持つ。しかしながら、一般に接着剤に要求される柔軟な分子構造はガス透過性が高いものが多い。即ち、接着機能とガスバリア機能とはトレードオフの関係にある事が多く、技術的な難易度を高めている。
【0006】
また、蒸着フィルムを使用する方法も公知である。例えばガスバリア機能を有するフィルムとしてシリカ、アルミナ等を蒸着したフィルムが使用されている。しかしながら、蒸着フィルムには僅かな蒸着欠陥があるのが通常であるため、酸素バリア性が完全ではない場合が多い。また、アルミ蒸着フィルムや、アルミ箔を含むフィルムを用いても同様の欠点を有する場合がある。更にアルミ蒸着フィルムやアルミ箔を含むフィルムは柔軟性に乏しく、クラック、ピンホールによりバリア性能がばらつく問題点もある。特にアルミ箔包装は、非常に高いバリア機能を付与するために使用されることが多いが、実際には包装のヒートシール部分や、ガゼット(折り曲げ)部分で亀裂が入りバリア機能が損なわれる場合がある。従って、アルミ箔を使用する際のバリア補填技術は重要である。
【0007】
これに対し、出願人らは、2個以上の水酸基を有するポリエステルポリオール(A)と2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート(B)とを含有してなる酸素バリア性接着剤層、及びアルミ蒸着層若しくはアルミ箔を含む層を有するガスバリア性多層フィルムが、食品を中心とした包装材等に使用でき、酸素バリア性に優れることを見いだしている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、近年におけるさらなるバリア性機能の要求には、まだ工夫が必要であった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガスバリア性多層フィルムは、金属蒸着フィルムの蒸着面側にガスバリア層を有する。金属蒸着フィルムは通常ポリエチレンテレフタレート(以下PETと称する場合がある)フィルム等の基材フィルム上に金属蒸着層を有し、場合によっては金属蒸着層の損傷防止目的に該金属蒸着層上にコーティング層を設けている場合もある。本発明においては、コーティング層を有してあってもなくてもよく、蒸着面側にガスバリア層を有しておれば効果を有する。
【0018】
(金属蒸着フィルム)
本発明において金属蒸着フィルムは、OD(光学濃度)値が1.7以上であることが特徴である。ここでOD値とは、全光透過率(JIS K 7136)により測定して計算した。
【0019】
前記金属蒸着フィルムは、OD値が1.7以上であれば特に金属種に限定はなく使用することができる。例えば、アルミ、亜鉛、金、銀、銅、ニッケル、クロム、チタン、錫、鉄、鋼、鉛等の金属箔およびこれら金属の合金の金属箔や、金属蒸着フィルムが使用できる。
中でもアルミ蒸着フィルムが、市販品等の入手が容易であり好ましい。蒸着の基材フィルムとしても特に限定は無く、PETフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエチレンフィルム(LLDPE:低密度ポリエチレンフィルム、HDPE:高密度ポリエチレンフィルム)やポリプロピレンフィルム(CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム)等のポリオレフィンフィルム等が使用できる。蒸着の方法としては公知の技術が使用でき、高真空下でアルミを溶融、蒸発させ、アルミをフィルムに付着させてアルミの薄膜を形成させる方法が一般的である。
また、アルミ箔も市販品等の入手が容易であり好ましい。その製法も公知の技術が使用でき、例えばアルミ箔地を圧延機にて圧延して厚さを調整し、圧延油を除去する為に高温の電気炉等で焼鈍しを実施する方法があげられる。
【0020】
(ガスバリア層)
本発明においてガスバリア層に使用するガスバリア剤は、酸素バリア性が600cc/m
2・day・atm以下(但しガスバリア層の塗膜量が3.5g/m
2且つガスバリア測定の環境が23℃/0%RHの時の測定値とする)を満たすことが特徴である。
【0021】
(酸素バリア性の測定方法)
本発明において、酸素バリア性の測定方法は、MOCON社製酸素透過率測定装置 OX−TRAN 2/21を使用し、JIS K 7126に準拠して行った。
【0022】
前記ガスバリア剤は、前記酸素バリア性が600cc/m
2・day・atm以下(但しガスバリア層の塗膜量が3.5g/m2且つガスバリア測定の環境が23℃/0%RHの時の測定値とする)を満たすものであれば特に限定はなく、例えばバリア機能を有する接着剤や、バリア機能を有するコート剤等を使用することができる。
例えばバリア機能を有する接着剤であれば、前記金属蒸着フィルムと、例えば印刷を設ける事を目的とした基材フィルム層、表面保護を目的とした基材フィルム層やシーラント層となる熱可塑性プラスチックフィルム層との接着剤として使用すればよく、またバリア機能を有するコート剤であれば、前記金属蒸着フィルムの蒸着面側にコート剤を塗布し、これを各種フィルムと貼り合わせて使用すればよい。
【0023】
前記ガスバリア剤として好ましい具体的態様について説明する。
前記ガスバリア剤として好ましい樹脂は、例えばポリエステルポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン等を使用することができる。中でも、ポリエステルポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。これらは市販品を使用しても良く、その場合、例えばバリア機能を有するコート剤として、市販品であればクラレ製ポリビニルアルコールPVA105、日本合成化学工業株式会社製ソアノールD、サンケミカルコーポレーション製「SUNBAR O2 BARRIER1.1PartA」、旭化成アドバンス社製サランラテックス L509、DIC(株)製PASLIM VM001 等が挙げられる。
またバリア機能を有する接着剤として市販品であればDIC(株)製PASLIM VM001やDIC(株)製PASLIM J35OX等が挙げられる。
もちろん、市販品以外にも、前記酸素バリア性の値を満たすものであればよく、例えば2個以上の水酸基を有するポリエステルポリオール(A)と2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート(B)とを含有してなる酸素バリア性接着剤は、前記酸素バリア性が600cc/m
2・day・atm以下を満たすことができ好ましい。
【0024】
(前記金属蒸着フィルム及び前記ガスバリア層以外のガスバリア性多層フィルム構成物)
本発明においては、金属蒸着フィルムの蒸着面側にあるガスバリア層の他、所望の用途に応じた熱可塑性樹脂フィルムを適宜選択することができる。(以下「前記金属蒸着フィルム及び前記ガスバリア層以外のガスバリア性多層フィルム構成物」を、構成フィルム(F)と称す)
構成フィルム(F)は、例えば食品包装用としては、PETフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリエチレンフィルム(LLDPE:低密度ポリエチレンフィルム、HDPE:高密度ポリエチレンフィルム)やポリプロピレンフィルム(CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム)等のポリオレフィンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム等が挙げられる。これらは延伸処理を施してあってもよい。延伸処理方法としては、押出成膜法等で樹脂を溶融押出してシート状にした後、同時二軸延伸或いは逐次二軸延伸を行うことが一般的である。また逐次二軸延伸の場合は、はじめに縦延伸処理を行い、次に横延伸を行うことが一般的である。具体的にはロール間の速度差を利用した縦延伸とテンターを用いた横延伸を組み合わせる方法が多く用いられる。
【0025】
(式(1)で表される酸素バリア性)
本発明のガスバリア性多層フィルムは、前述の通り、前記式(2)にて算出される酸素バリア性の15倍以上の酸素バリア性を有することを見いだした。
即ち、前記金属蒸着フィルムの酸素バリア性をX(cc/m
2・day・atm)、前記ガスバリア層の酸素バリア性をY(cc/m
2・day・atm)、前記金属蒸着フィルム及び前記ガスバリア層以外のガスバリア性多層フィルム構成物の酸素バリア性をZ(cc/m
2・day・atm)、としたときに、X、Y、Zから得られる計算上の多層フィルムのバリア性A(c)cc/m
2・day・atmと前記多層フィルムのバリア性A(r)cc/m
2・day・atmが式(1)を満たす。
【0027】
なお、式(1)から明らかであるが、計算上の多層フィルムのバリア性A(c)は式(3)から算出される。
【0029】
一方、前記金属蒸着フィルム及び前記ガスバリア層以外のガスバリア性多層フィルム構成物の酸素バリア性Z(cc/m
2・day・atm)は、該フィルム構成物が複数ある場合は、その酸素バリア性を、予め前述の式(2)から算出し、その値を使用することができる。
【0030】
本発明のガスバリア性多層フィルムがなぜ非常に高い酸素バリア性を有するのかについては定かではないが、以下のように推定している。即ち、アルミ蒸着フィルムはプラスチックフィルムにナノレベルの金属が各種蒸着手法により積層されたフィルムである。蒸着層にクラックやピンホールがない理想的な状態では酸素等のガスが透過する事はないが、市場に流通している蒸着フィルムは様々な原因により欠陥が存在し、ここをガスが透過する。基材のフィルムがPETの様に延伸された硬いフィルムの場合、この欠陥は少ないが、CPPの様な無延伸の軟質のフィルムでは欠陥が多く、ガスが透過し易い。従来フィルムメーカーはアルミ蒸着フィルムのバリア性を向上させるためにアルミ蒸着層の膜厚を厚くすることも行っているが、アルミ蒸着CPPでは厚蒸着としてもバリア性がさほど向上していない。
一方、本願のように、金属蒸着フィルムの蒸着面側にガスバリア層を有する構成は、蒸着層の欠陥を補填しバリア性が向上すると推定される。更に本発明では蒸着フィルムのOD値が高い(蒸着膜の膜厚が厚いと推定)ので、バリア性が飛躍的に高まったと推定している。
【0031】
本発明においては、前記ガスバリア層の酸素バリア性は、0.01〜600(cc/m
2・day・atm)であることが好ましく、より好ましくは0.01〜300の範囲であり、なお好ましくは0.01〜200の範囲である。
また、金属蒸着フィルムの酸素バリア性Xは5cc/cc/m
2・day・atm以上であることが好ましい。
【0032】
(接着剤を使用する製造方法 )
本発明で使用するガスバリア性多層フィルムは、たとえばガスバリア層が接着剤の場合は前記金属蒸着フィルムまたは構成フィルムFのどちらか一方にガスバリア層としての接着剤を塗工後、もう一方のフィルムを重ねて貼り合わせることで得られる。
構成フィルムFは目的に応じて適宜選択すればよく、例えば包装材として使用する際は、金属蒸着フィルムのフィルムがCPP、PE等の未延伸フィルム、或いはヒートシール性を有するOPPフィルムの場合、最外層をPET、OPP、ポリアミドから選ばれた熱可塑性樹脂フィルムを使用した2層からなる複合フィルム、或いは、金属蒸着フィルムがPET、OPP、ポリアミド等の延伸フィルムの場合、例えばPET、ポリアミド、OPPから選ばれた最外層を形成する熱可塑性樹脂フィルムと、金属蒸着層を有するPET、OPP、ポリアミドから選ばれた中間層を形成する熱可塑性樹脂フィルム、CPP(無延伸ポリプロピレン)、LLDPE(直線状低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)から選ばれた最内層を形成する熱可塑性樹脂フィルムを使用した3層からなる複合フィルム、さらに、例えばOPP、PET、ポリアミドから選ばれた最外層を形成する熱可塑性樹脂フィルムと、PET、ナイロンから選ばれた第1中間層を形成する熱可塑製フィルムとPET、ポリアミドから選ばれた第2中間層を形成する熱可塑製フィルム、LLDPE、CPPから選ばれた最内層を形成する熱可塑性樹脂フィルムを使用した4層からなる複合フィルムは、バリア用フィルムとして、食品包装材として好ましく使用できる。金属蒸着フィルムは第1中間層または第2中間層のいずれかに使用すればよい。
また、本発明の接着剤を用いて金属蒸着バリアフィルムの蒸着面同士を接着させると、更に高機能なバリアフィルムを合成することが可能である。
【0033】
前記ガスバリア層である接着剤を前記金属蒸着フィルムに接着剤を塗工する方法は特に限定はなく公知の方法で行えばよい。例えば粘度が調整できる溶剤型の場合は、グラビアロール塗工方式等で塗布することが多い。また無溶剤型で、室温での粘度が高くグラビアロール塗工が適さない場合は、加温しながらロールコーターで塗工することもできる。ロールコーターを使用する場合は、本発明の接着剤の粘度が500〜2500mPa・s程度となるように室温〜120℃程度まで加熱した状態で、塗工することが好ましい。 また、金属蒸着フィルム表面には、膜切れやはじきなどの欠陥のない接着層が形成されるように必要に応じて火炎処理やコロナ放電処理などの各種表面処理を施してもよい。
【0034】
前記金属蒸着フィルムにガスバリア層としての接着剤を用いて、構成フィルムFを重ねてラミネーションにより貼り合わせることで、本発明のガスバリア性多層フィルムが得られる。ラミネーション方法には、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、押出しラミネーション等公知のラミネーションを用いることが可能である。
【0035】
ドライラミネーション方法は、具体的には、前記金属蒸着フィルムまたは構成フィルムFのどちらか一方にガスバリア層としての接着剤をグラビアロール方式で塗工後、もう一方のフィルムを重ねてドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせる。ラミネートロールの温度は室温〜60℃程度が好ましい。
【0036】
また、ノンソルベントラミネーションは前記金属蒸着フィルムまたは構成フィルムFのどちらか一方に予め室温〜120℃程度に加熱しておいたガスバリア層としての接着剤を室温〜120℃程度に加熱したロールコーターなどのロールにより塗布後、直ちにその表面にもう一方のフィルムを貼り合わせることによりラミネートフィルムを得ることができる。ラミネート圧力は、10〜300kg/cm
2程度が好ましい。
【0037】
押出しラミネート法の場合には、前記金属蒸着フィルムまたは構成フィルムFのどちらか一方に接着補助剤(アンカーコート剤)としてガスバリア層としての接着剤の有機溶剤溶液をグラビアロールなどのロールにより塗布し、室温〜140℃で溶剤の乾燥、硬化反応を行なった後に、押出し機により溶融させたポリマー材料をラミネートすることによりラミネートフィルムを得ることができる。溶融させるポリマー材料としては低密度ポリエチレン樹脂や直線状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂などのポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0038】
また、本発明のガスバリア性多層フィルムは、作製後エージングを行うことが好ましい。エージング条件は、硬化剤としてポリイソシアネートを使用する場合であれば、室温〜80℃で、12〜240時間の間であり、この間に接着強度が生じる。
【0039】
(コーティング剤を使用する製造方法 )
本発明で使用するガスバリア性多層フィルムは、たとえばガスバリア層がコーティング剤の場合は、前記金属蒸着フィルムに塗工する事で得られる。あるいは、前記金属蒸着フィルムを汎用の接着剤で所望の構成フィルムFとラミネートした後、前記金属蒸着フィルム側にガスバリア層であるコーティング剤を塗布すればよい。これら金属蒸着フィルムにコーティング剤が塗工された積層体のコーティング剤面に所望の構成フィルムFをラミネートする事でガスバリア性多層フィルムを得ることが出来る。塗布方法、ラミネート方法は前述と同様の方法でよく、また使用する汎用の接着剤も汎用のイソシアネート硬化系、エポキシ硬化系、活性エネルギー線硬化系、非硬化系、等を使用することができる。このとき使用する接着剤の酸素バリア性は、式(1)においてZとして計算する。
【0040】
(ガスバリア機能の対象ガス)
本発明のガスバリア性多層フィルムは、酸素バリア性で特定しているが、遮断できるガスの対象は酸素に限定されることはなく、水蒸気、酸素の他、不活性ガス、アルコール、香り成分等に使用することができる。
【0041】
(対象となる不活性ガス)
前記不活性ガスとは、食品等に対して不活性であり一般的な化学変化を起こしにくいことより、食品周囲への酸素や水蒸気の接触を防ぐ等の機能により、食品の風味の維持、内容物の保持、酸化防止の役に立つガスのことである。具体的には、窒素、炭酸ガスの他、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンの希ガスが例示できる。中でも、窒素、アルゴン、炭酸ガスが不活性ガスとしては広く用いられる。
【0042】
(対象となるアルコール)
前記アルコールとは、少なくとも一箇所にアルキル鎖に対して水酸基が結合している構造を持つ、一般的にアルコール類に分類される材料類であれば特に制限がない。また、一価のアルコールでも多価のアルコールでも差し支えない。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ネオペンチルグリコール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、アリルアルコール、シクロヘキサノール等を例示できる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチルプロパン等が例示できる。更には、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン等のアミノアルコール類の他、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエーテル基含有のアルコール化合物等も用いることができる。また、アルコール化合物の状態としては、常温領域で気体から液体である材料が本発明の有効性が高く好適である。
【0043】
更に、本発明のガスバリア性多層フィルムは、香り成分の保香用バリア性多層フィルムとして用いることが可能である。本発明で対象とする香り成分は、食品やお茶等の嗜好品に含まれる香り、シャンプー、リンス、洗剤、柔軟剤、石鹸等の香り成分を含むサニタリー分野の製品中に含まれる香り、ペットフード、防虫剤、芳香剤、毛染め類、香水、農薬類、各種有機溶剤類等の香りや低分子成分の放出を妨げたい分野の軟包装材料に好適に用いることができる。また、活性炭、ゼオライト等の吸着剤、消臭剤、浄水器カートリッジ、米穀類、インスタントラーメン、ミネラルウオーター、そうめん、綿類等の、外部からの香りの進入を防ぎたい用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を、実施例及び比較例により具体的に説明する。例中断りのない限り、「部」「%」は質量基準である。
【0045】
〔ガスバリア層 バリア接着剤1〕
DIC(株)製PASLIM「VM001(ポリエステルポリオール)」を100部、DIC(株)製PASLIM「VM105CP(芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート混合物)」を25部、酢酸エチルを50部を混合し、バリア接着剤1を調整した。
【0046】
〔ガスバリア層 バリア接着剤2〕
DIC(株)製PASLIM「J35OX(ポリエステルポリオール)」を100部、DIC(株)製PASLIM「MX35(脂肪族ポリイソシアネート)」を40部、酢酸エチルを40部を混合し、バリア接着剤2を調整した。
【0047】
〔ガスバリア層 バリアコート剤1〕
クラレ製ポリビニルアルコールPVA105の10部をイソプロピルアルコール20部、イオン交換水70部に溶解させ、バリアコート剤1を調整した。
【0048】
〔ガスバリア層 バリアコート剤2〕
日本合成化学工業株式会社製ソアノールD(EVOH(エチレン共重合比率29%))1部をイソプロピルアルコール3部およびイオン交換水3部の混合溶媒にて溶解した溶液(A)を調整した。一方エチルシリケート40を11.5部、東レ・ダウコーニング株式会社製シランカップリング剤(SH6040)を0.05部、イソプロピルアルコール30部、イオン交換水50部、酢酸0.05部からなる加水分解液(B)を調整した。
溶液(A)に溶液(B)を加えて攪拌混合することでバリアコート剤2を調整した。
【0049】
〔ガスバリア層 バリアコート剤3〕
サンケミカルコーポレーション製「SUNBAR O2 BARRIER1.1PartA」(特殊ビニルアルコール系樹脂)30部に同「SUNBAR O2 BARRIER1.1PartB」60部を混合してバリアコート剤3を調整した。
【0050】
〔ガスバリア層 バリアコート剤4〕
旭化成アドバンス社製サランラテックス「L509(ポリ塩化ビニリデン系)」100部をバリアコート剤4として調整した。
【0051】
〔ガスバリア層 バリアコート剤5〕
DIC(株)製PASLIM「VM001(ポリエステルポリオール)」を100部、住化バイエルウレタン製「デスモジュール L75(芳香族ポリイソシアネート)を40部、酢酸エチル60部を混合し、バリアコート剤5を調整した。
【0052】
〔酸素透過性接着剤 非バリア接着剤1〕
DIC(株)製DICDRY「LX703VL(ポリエステルポリオール)」を15部、DIC(株)製「KR90(脂肪族ポリイソシアネート混合物)」を1部、酢酸エチルを18部を混合し、非バリア接着剤1を調整した。
【0053】
(製造方法1 接着剤を使用した多層フィルムの製造方法)
前記バリア接着剤あるいは非バリア接着剤を、バーコーターを用いて、塗膜量3.5g/m
2(固形分)となるように厚さ12μmのPETフィルム(東洋紡績(株)製「E−5102」)のコロナ処理面に塗布し、温度70℃に設定したドライヤーで希釈溶剤を揮発させ乾燥した。次に前記バリア接着剤あるいは非バリア接着剤が塗布されたPETフィルムの接着剤面と、厚さ25μmのアルミ蒸着CPPフィルムのアルミ蒸着面とラミネートし、PETフィルム/前記バリア接着剤層あるいは非バリア接着剤層/アルミ蒸着CPPフィルムの層構成を有する複合フィルムを作製した。次いで、この複合フィルムを40℃/3日間のエージングを行い、接着剤の硬化を行って、多層フィルムを得た。
【0054】
(製造方法2 コート剤を使用した多層フィルムの製造方法)
前記バリアコート剤を、バーコーターを用いて、塗膜量0.5g/m
2(固形分)となるように、厚さ25μmのアルミ蒸着PETフィルムのアルミ蒸着面に塗布し、温度70℃に設定したドライヤーで希釈溶剤を揮発させ乾燥させ、アルミ蒸着面にバリアコート剤が塗布されたフィルム(*)を作成した。
非バリア接着剤1を、バーコーターを用いて、塗膜量3.0g/m
2(固形分)となるように厚さ12μmのPETフィルム(東洋紡績(株)製「E−5102」)のコロナ処理面に塗布し、温度70℃に設定したドライヤーで希釈溶剤を揮発させ乾燥し、接着剤が塗布されたPETフィルムの接着剤面と、アルミ蒸着面にバリアコート剤が塗布されたフィルム(*)のバリアコート剤塗布面とをラミネートし、PETフィルム/非バリア接着剤/バリアコート剤/アルミ蒸着PETフィルムの層構成を有する複合フィルムを作製した。次いで、この複合フィルムを40℃/3日間のエージングを行い、接着剤の硬化を行って、多層フィルムを得た。
【0055】
(製造方法3 接着剤またはコート剤の酸素バリア性測定用フィルム)
前記バリア接着剤あるいは非バリア接着剤は塗膜量3.5g/m
2(固形分)となるように、前記コート剤は塗膜量0.5g/m
2(固形分)となるように、バーコーターを用いて厚さ12μmのPETフィルム(東洋紡績(株)製「E−5102」)のコロナ処理面に塗布し、温度70℃に設定したドライヤーで希釈溶剤を揮発させ乾燥し、40℃/3日間のエージングを行い、接着剤またはコート剤の酸素バリア性測定用フィルムを得た。
【0056】
(評価方法)
(1)金属蒸着フィルムのOD値の測定
日本電色工業製NDH5000を用い、JIS K7361−1(プラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法)に順じ、金属蒸着フィルムの全光線透過率(T)を測定した。この全光線透過率を用い、式(4)にて光学濃度(OD)を計算した。
【0057】
【数4】
式(4)
【0058】
(2)酸素バリア性の測定と算出方法
(2−1)酸素透過率(OTR)の測定方法
測定フィルムを、モコン社製酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21MLを用いてJIS−K7126(等圧法)に準じ、23℃0%RHの雰囲気下で酸素の透過率(単位:cc/m
2・day・atm)を測定した。なおRHとは湿度を表す。
酸素透過率の値が小さいほど酸素バリア性に優れるといえる。
製造方法3により得た接着剤またはコート剤の酸素バリア性測定用フィルムの酸素バリア性の測定値から式(2)により計算したバガスリア層の酸素バリア性(OTR1と表記する)は、塗膜量を3.5g/m
2時とするための換算を、式(5)により行った。この「ガスバリア層の塗膜量が3.5g/m
2且つガスバリア測定の環境が23℃/0%RHの時の値」をOTR2と表記する。
なお、式(5)中、t1は製造方法1または2における塗膜量(接着剤であれば3.5g/m
2、コート剤であれば0.5g/m
2)であり、t2は3.5g/m
2である。
一方、製造方法1または2で得た多層フィルムの酸素バリア性の測定値はOTR(A(r))と表記する。
【0059】
【数5】
式(5)
【0060】
本発明で使用するバリア接着剤1〜2、非バリア接着剤1、バリアコート剤1〜5の酸素バリア性の測定値(OTR1)、塗膜量が3.5g/m
2且つガスバリア測定の環境が23℃/0%RHの時の値」(OTR2)を、表1及び表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
(実施例及び比較例)
製造方法1または2で得た多層フィルムの酸素バリア性の測定値A(r)を測定した。
一方、製造方法1または2の多層フィルムを構成する、前記金属蒸着フィルムの酸素バリア性をXcc/m
2・day・atm、前記前記ガスバリア剤の酸素バリア性をYcc/m
2・day・atm、前記金属蒸着フィルム、前記バリア剤以外の積層体構成物であるPETフィルムの酸素バリア性をZcc/m
2・day・atm、としたときに、X、Y、Zから得られる計算上の積層体の酸素バリア性A(c)cc/m
2・day・atmを、前述の式(3)に従い算出した。算出したA(c)と測定値A(r)との関係を、式(1)に当てはめ評価した。
各々の値、および酸素バリア性を表3〜5に示す。
【0064】
【数6】
式(3)
【0065】
【数7】
式(1)
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
この結果、実施例で得た多層フィルムの測定OTR(A(r))は、すべてOTR(A(c))÷15で算出される値よりも小さくなり、同一の材料を用いた場合でも15倍以上の酸素バリア性を得ることが証明された。