【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
なお、実施例において用いたマウスは下記の通りに用意又は作製した。また、以下の説明において、マウスの名称の前に「SPF」又は「GF」と付けて、各マウスを称することもあるが、これらは各々、特定の病原性細菌の非存在下(specific pathogen−free、SPF)又は無菌(Germ−Free、GF)下で維持されたマウスであることを示している。
【0086】
<マウス>
SPF又はGF条件下で維持されたC57BL/6、Balb/c、及びIQIマウスは三協ラボサービス(日本)、SLC(日本)、クレア(日本)又はジャクソン研究所(USA)より購入した。GFマウス及び純粋隔離群(ノトバイオノート)マウスは東京大学、ヤクルト中央研究所、三協ラボサービスのノトバイオート施設内で繁殖させ、維持した。
Myd88−/−、
Rip2−/−、及び
Card9−/−マウスは非特許文献1〜3に記載の通りに作製し、8代以上の戻し交配を行い、遺伝的背景をC57BL/6にした。Foxp3
eGFPマウスはジャクソン研究所から購入した。
【0087】
<
Il10venusマウス>
Il10プロモーター制御下にIl10及びVenusがコードされているバイシストロニックな領域を作製するために、先ず、targeting constructを作製した。すなわち、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)に続いて、配列内部リボソーム侵入部位(IRES)、黄色蛍光蛋白質(Venus)及びSV40ポリAシグナル(SV40 polyA)からなるカセット(IRES−Venus−SV40ポリAシグナルカセット、非特許文献4参照)をIl10遺伝子の終止コドンとポリAシグナル(エクソン5)との間に挿入した。次に得られたtargeting constructを用いて、マウスゲノム内のIl10遺伝子領域との相同組み換えを生じさせ、
Il10venusアレルを有する
Il10venusマウスを作製した(
図1参照)。なお、
図1中、「tk」はチミジンキナーゼをコードする遺伝子を示し、「neo」はネオマイシン耐性遺伝子を示し、「BamH1」は制限酵素BamH1による切断部位を示す。
【0088】
また、
Il10venusマウスからゲノムDNAを抽出し、BamH1で処理し、
図1中に示すプローブを用いてサザンブロッティングを行った。得られた結果は
図2に示す。野生型及び
Il10venusのアレルは各々19kb及び5.5kbの大きさのバンドで検出されるため、
図2に示した結果から明らかなように、
Il10venusマウスのゲノム内において
図1に示した相同組み換えが生じていることが確認された。
【0089】
さらに、FACSAriaを用いて、
Il10venusマウスの大腸粘膜固有層のCD4
+Venus
−細胞又はCD4
+Venus
+細胞をソーティングした。そして、後述の方法にて、ABI7300システムによるリアルタイムRT−PCRを行い、IL−10mRNAの発現量を調べた。得られた結果は
図3及び4に示す。
図3及び4に示した結果から明らかなように、IL−10mRNAの発現はCD4
+Venus
+細胞のみで検出され、
Il10venusマウスにおいて、IL−10mRNAの発現はVenusの発現として正確に反映されていることが確認された。なお、かかる
Il10venusマウスは実験動物中央研究所(川崎、日本)で無菌状態にし、三協ラボサービス(東京、日本)のビニールアイソレーター内で維持して、下記実施例において用いた。
【0090】
また、実施例における各実験並びに解析は下記の通りに行った。
【0091】
<細菌のマウスへの定着方法並びにその解析>
非特許文献5、6の記載の通りに、SFB又はクロストリジウムを定着させたマウスを作製し、得られたノトバイオノートマウスの盲腸内容物又は糞便を滅菌水または嫌気性希釈液に溶かし、そのままあるいはクロロホルム処理をした後、GFマウスに経口投与した。乳酸桿菌属細菌3株及びバクテロイデス属細菌16株はBL及びEG寒天培地で嫌気的に個々に培養した。培養した細菌を回収して嫌気性TS培地に懸濁し、強制的にGFマウスに経口投与した。マウスにおける細菌の定着具合は、糞便を塗沫標本にし顕微鏡観察して評価した。
【0092】
<細胞分離及びフローサイトメトリー>
大腸及び小腸粘膜固有層からリンパ球を単離するために、小腸及び大腸を採取し、長手方向に開裂し、中の糞便等を洗い除去した。そして、37℃で20分間、5mM EDTA含有HBSS中にて振盪した。上皮細胞及び脂肪組織を除去した後、腸組織は細かく小切片にし、RPMI1640(4%ウシ胎児血清(FBS)、1mg/mlコラゲナーゼD、0.5mg/mlディスパーゼ、及び40μg/ml DNaseI(全てロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製))を添加し、37℃の水浴中で1時間振盪した。消化した組織を5mM EDTA含有HBSSで洗浄し、5ml 40%パーコール(GE Healthcare)に再懸濁し、15mlファルコンチューブ中の2.5ml 80%パーコールの上に重層した。そして、室温下にて2000rpmで20分間遠心し、パーコール密度勾配による細胞分離を行った。境界面の細胞を回収し、粘膜固有層リンパ球として使用した。回収した細胞は染色バッファー(PBS、2% FBS、2mM EDTA、及び0.09% NaN
3)に懸濁し、PE−又はPE−Cy7で標識された抗CD4抗体(RM4−5、BD Biosciences)を用いて染色した。CD4を染色した後、細胞内Foxp3の染色は、Cytofix/Cytoperm Kit Plus with Golgistop(BD Biosciences)またはFoxp3 Staining Buffer Set(eBioscience)及びAlexa647−で標識された抗Foxp3抗体(FJK−16s、eBioscience)を用いて行った。フローサイトメトリーはFACScant IIを使用して行い、データはFlowJoソフトウェア(TreeStar Inc.)により解析した。細胞のソーティングは、FACSAriaを使用して行った。
【0093】
<リアルタイムRT−PCR>
RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて調製したRNAから、MMV逆転写酵素(Promega)により、cDNAを合成した。得られたcDNAは、Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)及びABI 7300 real time PCR system(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムRT−PCR、又はSYBR Premix Ex Taq(TAKARA)及びLightCycler 480を用いたリアルタイムRT−PCRにて解析した。各々のサンプルにおいてはGAPDHの量で標準化して値を出した。プライマーセットはPrimer Express Version 3.0(Applied Biosystems)を用いて設計し、初期評価で90%以上の配列一致性を示したものを選択した。用いたプライマーセットは以下の通りである
Foxp3
5’−GGCAATAGTTCCTTCCCAGAGTT−3’(配列番号:1)
5’−GGGTCGCATATTGTGGTACTTG−3’(配列番号:2)
CTLA4
5’−CCTTTTGTAGCCCTGCTCACTCT−3’(配列番号:3)
5’−GGGTCACCTGTATGGCTTCAG−3’(配列番号:4)
GITR
5’−TCAGTGCAAGATCTGCAAGCA−3’(配列番号:5)
5’−ACACCGGAAGCCAAACACA−3’(配列番号:6)
IL−10
5’−GATTTTAATAAGCTCCAAGACCAAGGT−3’(配列番号:7)
5’−CTTCTATGCAGTTGATGAAGATGTCAA−3’(配列番号:8)
GAPDH
5’−CCTCGTCCCGTAGACAAAATG−3’(配列番号:9)
5’−TCTCCACTTTGCCACTGCAA−3’(配列番号:10)
Mmp2
5’−GGACATTGTCTTTGATGGCA−3’(配列番号:11)
5’−CTTGTCACGTGGTGTCACTG−3’(配列番号:12)
Mmp9
5’−TCTCTGGACGTCAAATGTGG−3’(配列番号:13)
5’−GCTGAACAGCAGAGCCTTC−3’(配列番号:14)
Mmp13
5’−AGGTCTGGATCACTCCAAGG−3’(配列番号:15)
5’−TCGCCTGGACCATAAAGAA−3’(配列番号:16)
Ido1
5’−AGAGGATGCGTGACTTTGTG−3’(配列番号:17)
5’−ATACAGCAGACCTTCTGGCA−3’(配列番号:18)。
【0094】
<大腸 腸上皮細胞(IEC)の調製及び培養>
先ず、大腸を採取し、長手方向に開裂し、PBSにてすすいだ。次に1mM ジチオスレイトール(DTT)、37℃、30分間、振盪機により処理し、次いで1分間ボルテックスすることにより、上皮組織の完全性(epithelial integrity)を崩壊させた。遊離したIECを回収し、5ml 20%パーコールに懸濁し、15mlファルコンチューブ中の2.5ml 80%パーコールの上に重層した。そして、25℃にて780gで20分間遠心し、パーコール密度勾配による細胞分離を行い、境界面の細胞を回収し、大腸IEC(純度90%以上、生存率95%)として使用した。回収して得られたIECは、10%FBS含有RPMIに懸濁し、1×10
5個を24ウェルプレートにて24時間培養した。その後、培養上清を回収し、活性型TGF−β1のレベルをELISA(Promega)によって測定した
また、インビトロT細胞培養のため、GFマウス又はクロストリジウム定着マウスから単離したIECを培養した50%駲化培地と、25ng/ml hIL−2(Peprotech)と共に、96ウェル丸底プレートにて、MACS精製脾臓CD4+T細胞を各ウェル1.5×10
5個ずつ、25μg/ml 抗TGF−β抗体(R&D)存在下又は非存在下において培養した。なお前記丸底プレートには、10μg/ml 抗CD3抗体及び抗CD28抗体(BD Bioscience)が結合してある。そして、5日間培養した後、CD4
+T細胞を回収し、リアルタイムPCRを行った。
【0095】
<大腸炎実験モデル>
C57BL/6マウス(2週齢)に、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を経口投与し、コンベンショナルな環境下で6週間飼育した。
【0096】
DSS誘導大腸炎モデル作製のため、6日間マウスに2%(wt/vol)DSS(試薬等級、DSS塩、分子量=36〜50kD、MP Biomedicals社製)を飲料水と共に与えた。
【0097】
また、オキサゾロン誘導大腸炎モデル作製のため、150μl 3%オキサゾロン(4−ethoxymethylene−2−phenyl−2−oxazolin−5−one、Sigma−Aldrich)/100%エタノール溶液を経皮塗布することによって、マウスを前感作した。そして、その5日後、浅麻酔下、150μl 1%オキサゾロン/50%エタノール溶液を前感作マウスの直腸内に再投与した。なお、直腸内投与は3.5Fカテーテルを用いて行った。
【0098】
また、各マウスにおいては、体重、潜血、肉眼で確認できる出血(gross blood)、及び便の硬さを毎日分析した。さらに、「S.Wirtz,C.Neufert,B.Weigmann,M.F.Neurath,Nat Protoc 2,541(2007).」の記載に沿って、体重減少率、腸内出血(出血なし、潜血(hemoccult+)、又は肉眼で確認できる出血)、及び便の硬さ(正常便、軟便、又は下痢)に点数をつけ、疾患活動性指数(disease activity index(DAI))を算出した。
【0099】
<OVA特異的IgE反応>
クロストリジウム定着マウス(2週齢)の糞便懸濁液をBALB/c SPFマウスに接種し、コンベンショナルな環境下で飼育した。そして、1μg OVA(グレードV、Sigma)及び2mg アラム(Thermo Scientific)全量 0.2mlをマウス(4週齢時、及び6週齢時)の腹腔内に注射した。かかるマウスの尾の付け根から血清を毎週回収し、OVA特異的IgEをELISA(Chondrex)によって測定した。そして、8週齢時に脾細胞を回収し、各ウェル1×10
6個ずつ96ウェルプレートに播種し、3日間OVA(100μg/ml)によって刺激した。その後、培養上清を回収し、IL−4及びIL−10レベルをELISA(R&D)によって測定した。
【0100】
<統計解析>
コントロールと実験群との差は、スチューデントt検定によって評価した。
【0101】
(実施例1)
先ず、大腸粘膜固有層における制御性T細胞(Treg細胞)の集積は共生細菌依存的なものであるかどうかを調べた。すなわち、特定の病原性細菌の非存在下(SPF)で飼育されたBalb/cマウスの末梢リンパ節(pLN)、又は、大腸(colon)若しくは小腸(SI)の粘膜固有層からリンパ球を単離し、CD4及びFoxp3の抗体染色を行い、CD4
+リンパ球におけるFoxp3
+細胞の比率をフローサイトメトリーを用いて解析した。得られた結果を
図5に示す。
図5に示した結果から明らかなように、特定の病原性微生物の非存在(SPF)環境下で維持されたマウスの、消化管の粘膜固有層、特に大腸の粘膜固有層において、Foxp3
+Treg細胞は高頻度に存在していることが確認された。また、大腸の粘膜固有層において、Foxp3
+Treg細胞数は生後3カ月まで徐々に増加していくが、末梢リンパ節においては生後2週から、その数は基本的に一定であることも確認された。
【0102】
(実施例2)
次に、実施例1で確認された大腸における経時的なTreg細胞の集積は、腸内共生細菌の定着と関連しているかどうかを調べた。すなわち、無菌(GF)又はSPF環境下で飼育したマウス(8週齢:Balb/cマウス、IQIマウス及びC57BL/6マウス)の小腸、大腸及び末梢リンパ節から単離したリンパ球のCD4及びFoxp3の発現について解析し、三回以上の独立した実験から同様の結果を得た。得られた結果は
図6及び
図7に示す。なお、
図7中の白丸は各々、個々のマウスにおけるCD4
+Foxp3
+細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。
【0103】
また、SPFマウス及びGFマウス(Balb/Cマウス又はC57BL/6マウス)から粘膜固有層リンパ球を回収し、CD4及びFoxp3の抗体染色を行い、FACSで解析した。得られた結果は
図8に示す。なお、
図8中の白丸は個々のマウスにおけるCD4
+Foxp3
+細胞の絶対数を示し、**は「P<0.001」であることを示し、また、*は「P<0.01」であることを示す。
【0104】
さらに、抗生物質を水とともに8週間経口投与したマウス(SPF C57BL/6マウス)の大腸(colon)及び小腸(SI)の粘膜固有層、パイエル板(PPs)、並びに、腸間膜リンパ節(MLNs)からリンパ球を単離し、CD4及びFoxp3の抗体染色を行い、FACSで解析し、二回以上の独立した実験から同様の結果を得た。得られた結果(個々のマウスのCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合)は
図9に示す。なお、抗生物質は下記文献の記載の通り、以下の物を組み合わせて使用した
アンピシリン(A;500mg/L Sigma)
バンコマイシン(V;500mg/L ナカライテスク)
メトロニダゾール(M;1g/L ナカライテスク)
ネオマイシン(N;1g/L ナカライテスク)
Rakoff−Nahoum, J. Paglino, F. Eslami−Varzaneh, S. Edberg, R. Medzhitov, Cell 118, 229 (Jul 23, 2004)
Fagarasan et al., Science 298, 1424 (Nov 15, 2002)
図9中、白丸は個々のマウスにおけるCD4
+Foxp3
+細胞の割合を示し、水平バーはそれらの平均値を示し、また*は「P<0.01」であることを示し、「AVMN」は投与した抗生物質の種類を、各抗生物質の頭文字をとって示したものである。
【0105】
図6〜9に示した結果から明らかなように、GFマウスの小腸又は末梢リンパ節におけるFoxp3
+CD4
+細胞の頻度及び絶対数は、SPFマウスのそれと比較して変わらない、又は多かった(
図6〜8参照)。また、抗生物質を8週間経口投与したSPFマウスにおいても、小腸粘膜固有層、パイエル板及び腸間膜リンパ節のTreg細胞数は変わらない、又は増えていた(
図9参照)。一方、SPFマウスと比較して、GFマウスの大腸粘膜固有層におけるFoxp3
+CD4
+細胞数は有意に減少していた(
図6及び7参照)。この減少は、異なる遺伝的背景のマウス(Balb/c、IQI、C57BL/6)においても、異なる動物施設で飼育したマウスにおいても共通して観察された(遺伝的背景に関しては
図7参照、異なる動物施設で飼育したマウスに関しては図に示さず)。また、抗生物質を投与したSPF C57BL/6マウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数も有意に減少することも明らかになった(
図9参照)。
【0106】
(実施例3)
次に、実施例2で示したGFマウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数の減少は、微生物叢の不在によるものなのかということを直接的に確認した。すなわち、ジャクソン研究所から購入したB6 SPFマウスの糞便懸濁液をGF−IQIマウスに経口投与し(conventionalization)、その3週間後に大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、CD4
+リンパ球におけるFoxp3の発現を解析した。得られた結果は
図10及び
図11に示す。なお、
図11中の白丸は各々、個々のマウスにおけるCD4
+Foxp3
+細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示し、*はStudent t検定において「P<0.01」であることを示し、**は「P<0.001」であることを示す。
図10及び11に示した結果から明らかなように、小腸粘膜固有層のTreg細胞数は変わらなかったが、大腸粘膜固有層のTreg細胞数は顕著に増加した。したがって、大腸粘膜固有層におけるFoxp3
+Treg細胞の集積において、宿主と微生物との相互作用が重要な役割を果たしており、一方、小腸粘膜固有層Treg細胞の集積は異なるメカニズムによるものであることが明らかになった。
【0107】
(実施例4)
次に、M.N.Kweon et al.,J Immunol 174,4365(Apr1,2005)に記載の方法に沿って、マウス消化管関連リンパ組織と、大腸粘膜固有層におけるFoxp3
+細胞数との関連を調べた。すなわち、妊娠14日目のC57BL/6マウスの腹腔内に、100μgの細胞外ドメイン組み換え蛋白質(リンホトキシンβ受容体(LTβR)とヒトIgG1のFc部位との融合蛋白質(LTβR−Ig)、Honda et al., J Exp Med 193, 621 (Mar 5, 2001)参照)を注入し、かかるマウスから得られた胎児にもLTβR−Igを再度腹腔内に注入し、孤立リンパ小節(ILF)、パイエル板(PP)及びcolonic−patch(CP)が完全に除去されたマウスを作製した。そして、LTβR−Igで処理したマウス、又はラットIgGで処理したマウス(コントロール)の大腸粘膜固有層のCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合をFACSにて解析した。得られた結果を
図12に示す。なお、
図12中、白丸は個々のマウスにおけるFoxp3
+細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図12に示した結果から明らかなように、孤立リンパ小節、パイエル板及びcolonic−patchを欠損させたマウス(LTβR−Igで処理したマウス)の大腸粘膜固有層において、Foxp3
+細胞の割合はむしろ増加していることが確認された。したがって、GFマウス又は抗生物質で処理したマウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数の減少は、単に消化管関連リンパ組織の形成不全による二次的な影響というより、むしろ大腸粘膜固有層におけるTreg細胞集積を促進する腸内細菌によって引き起こされる特定のシグナル伝達が生じなかったことによるものだということが示唆された。
【0108】
(実施例5)
特定の腸内細菌叢(intestinal flora)が大腸Treg細胞の集積を誘導しているかどうかを調べるため、グラム陽性菌に対する抗生物質としてvancomycin、グラム陰性菌に対する抗生物質としてpolymyxin BをSPFマウス(4週齢〜)に4週間投与し、CD4
+細胞群におけるFoxp3
+細胞の割合([%]Foxp3
+in CD4)を分析した。得られた結果を
図30に示す。なお
図30中、「SPF」はSPFマウス(コントロール)の結果を、「ポリミキシンB」はpolymyxin Bを投与したSPFマウスの結果を、「バンコマイシン」はvancomycinを投与したSPFマウスの結果を示す。また、*は「P<0.01」であることを示す。
【0109】
図30に示した結果から明らかなように、コントロールと比較して、vancomycinを投与したマウスの大腸においてTreg細胞の数は顕著に減少していた。対して、polymyxin Bを投与したマウスにおけるTreg細胞の数に影響は見られなかった。これらのことから、Treg細胞の集積においては、グラム陽性共生細菌が主要な役割を担っていることが示唆された。
【0110】
(実施例6)
最近の報告から、腸のT細胞応答において芽胞形成性細菌(spore−forming bacteria)が重要な役割を担っていることが示唆されている(V.Gaboriau−Routhiau et al.,Immunity 31,677(Oct 16,2009) 参照)。そこで、3%クロロホルムに耐性を示す糞便微生物(芽胞形成細菌画分、spore−forming fraction)をGFマウスに経口投与し、CD4
+細胞群におけるFoxp3
+細胞の割合([%]Foxp3
+in CD4)を分析した。得られた結果を
図31に示す。なお
図31中、「GF」はGFマウスの結果を、「+chloro」はクロロホルム処理した糞便を投与したGFマウスの結果を示す。また、**は「P<0.001」であることを示す。
【0111】
図31に示した結果から明らかなように、クロロホルム処理した糞便を投与してから3週間後、SPFマウス又は無処理の糞便を強制投与したGFマウスと同程度に、投与したマウスにおいてTreg細胞の数は顕著に増加していた(
図7及び11 参照)。
【0112】
従って、実施例5に示した結果と併せて、常在微生物叢(indigenous microbiota)の特定成分はグラム陽性に属している可能性が高く、芽胞形成細菌画分がTreg細胞の誘導において重要な役割を担っていることが明らかになった。
【0113】
(実施例7)
次に、実施例4〜6において示唆された大腸Treg細胞の集積を誘導する腸内細菌種の同定を行った。すなわち、GF−Balb/cマウス又はGF−IQIマウスに、セグメント細菌(segmented filamentous bacteria(SFB))、バクテロイデス属細菌16株(Bactero.(
B.vulgatus 6株、
B.acidifaciens group1 7株、
B.acidifaciens group2 3株))、乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.(
L. acidophilus、
L. fermentum、及び
L. murinum))、クロストリジウム属細菌46株(Clost.「Itoh, K., and Mitsuoka, T. Characterization of clostridia isolated from faeces of limited flora mice and their effect on caecal size when associated with germ−free mice. Lab. Animals 19: 111−118 (1985))」参照)、又はコンベンショナルな環境下で飼育したマウス(SPF)から採取した微生物叢を経口投与し、その後三週間ビニルアイソレータの中で維持した後、これらマウスから大腸及び小腸のCD4細胞を単離し、フローサイトメトリーを用いて大腸及び小腸におけるTreg細胞数を解析した。Balb/cマウスのCD4
+細胞にゲートを設定したFACSドット−プロットは
図13に示し、個々のマウスのCD4
+細胞におけるFoxp3
+細胞の割合は
図14に示す。
【0114】
なお、クロストリジウム属に属する細菌は、以下に示す通り、16SrRNAの配列を決定することによって分類した。すなわち、細菌の16SrRNA遺伝子を、下記16SrRNA遺伝子特異的プライマーペアを用いたPCRによって増幅した
5’AGAGTTTGATCMTGGCTCAG−3’(配列番号:19)
5’ATTACCGCGGCKGCTG−3’(配列番号:20)
(Aebischer et al., Vaccination prevents Helicobacter pylori−induced alterations of the gastric flora in mice. FEMS Immunol. Med. Microbiol. 46,221−229(2006)参照)。そして、1.5−kbのPCR産物をpCR−Bluntベクターに挿入した。前記挿入されたPCR産物の配列を決定し、ClustalWソフトウェアプログラムを用いてアラインメントをかけた。得られた、クロストリジウム属細菌46株のうちのstrain1〜41に由来する16SrRNA遺伝子のシークエンス結果を、配列番号:21〜61に示す。また、クロストリジウム41株のシークエンス結果とGenbankデータベースから得られた既知の細菌のシークエンスとに基づき、Megaソフトウェアを用いた近隣結合法によって構築した系統樹を
図49に示す。
【0115】
図13及び
図14に示した結果から明らかなように、セグメント細菌(SFB)を定着させたGFマウスの大腸Treg細胞数への影響は確認されなかった(
図14参照)。また、乳酸桿菌属細菌3株のカクテルを定着させたマウスにおいても同様の結果であった(
図14参照)。一方、クロストリジウム属細菌46株を定着させたマウスにおいては、大腸粘膜固有層のFoxp3
+細胞の集積が強く誘導されていることが明らかになった。そして、重要なことに、かかる集積はマウスの遺伝的背景とは関係なく促進され、単属の腸内細菌の定着にも関わらずSPFマウスと同程度の増加を示した。また、クロストリジウムの定着は小腸粘膜固有層のTreg細胞数を変化させないことも明らかになった(
図14参照)。なお、バクテロイデス属細菌16株を定着させた場合も、大腸においてTreg細胞数は有意に増えていたが、定着させたマウスの遺伝的背景によって増加の程度は異なっていた(
図13及び14参照)。
【0116】
(実施例8)
次に、SPFマウス、GFマウス、乳酸桿菌定着マウス、又はクロストリジウム定着マウスの胸腺又は大腸のLPリンパ球における、CD4、Foxp3、及びHeliosの発現をフローサイトメトリーで分析した。得られた結果を
図32及び33に示す。なお
図32及び33中、「GF」又は「Germ Free」はGFマウスの結果を、「SPF」はSPFマウスの結果を、「SPF」はSPFマウスの結果を、「Lacto.」は乳酸桿菌定着マウスの結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスの結果を各々示す。また
図32中、縦軸はFoxp3
+細胞群におけるHelios
−細胞の割合([%]Helios
−in Foxp3
+)を示し、**は「P<0.001」であることを示す。
【0117】
図32及び33に示した結果から明らかなように、SPFマウス又はクロストリジウム定着マウスにおいて認められたFoxp3
+細胞のかなりの部分は、Heliosを発現していなかった。なお、Heliosは胸腺産生ナチュラルTreg細胞において発現していることが知られている転写因子であることから(A.M.Thornton et al.,J Immunol 184,3433(Apr 1,2010) 参照)、SPFマウス又はクロストリジウム定着マウスにおけるTreg細胞の多くは末梢部において誘導されているTreg細胞、いわゆるiTreg細胞であることが示唆される。
【0118】
(実施例9)
次に、クロストリジウム等の定着による他のT細胞への影響の有無を調べた。すなわち、GF IQIマウスにSFB、バクテロイデス属細菌16株(Bactero.)、クロストリジウム属細菌46株(Clost.)、又はコンベンショナルな環境(SPF)下で飼育したマウスから採取した微生物叢を定着させ、3週間後にこれらマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、Golgistop(BD Bioscience)の存在下で、PMA(50ng/ml)及びイオノマイシン(1μg/ml)で4時間刺激した。そして、刺激を与えた後、cytofix/cytopermキット(BDバイオサイエンス)の説明書に従って、細胞内サイトカインの染色を抗IL−17 PE抗体(TC11−18H10)、抗IFN−g FITC抗体(BDバイオサイエンス)を用いて行い、IFN−γ
+細胞又はIL−17
+細胞のCD4
+白血球における割合について、フローサイトメトリーを用いて解析した。得られた結果は
図15及び
図16に示す。なお、
図15及び
図16中の白丸は各々、個々のマウスにおけるCD4
+IFN−γ
+細胞の割合又はCD4
+IL−17
+細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。
図15及び16に示した結果から明らかなように、クロストリジウムの定着は、大腸においてTh1細胞(CD4
+IFN−γ
+細胞)には影響せず、Th17細胞(CD4
+IL−17
+細胞)においてはわずかな増加しか引き起こさなかった。したがって、クロストリジウム属に属する細菌はTreg細胞を特異的に誘導する細菌であることが示唆された。
【0119】
(実施例10)
クロストリジウム46株は大腸においてCD8
+腸管上皮細胞間リンパ球(intraepithelial lymphocyte、IEL)の集積に影響を与えることが報告されている。それゆえ、クロストリジウムは免疫系を様々な側面から調整していることが考えられ、前述の通り、特に大腸のTreg細胞の誘導及び維持において顕著な能力を発揮していることが考えられる。また、サイトカインの一種である、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)は、Treg細胞の発生を調節するにあたって、重要な役割を担っていることが知られている。
【0120】
そこで、クロストリジウムの定着は、大腸においてTGF−βが豊富に存在する環境を提供しているということを検証した。すなわち先ず、GFマウス、クロストリジウム定着マウス、又は乳酸桿菌定着マウスの全大腸を24時間培養し、その培養上清における活性型TGF−β(TGF−β1)の濃度をELISAによって測定した(分析数は各グループマウス4匹ずつ)。得られた結果を
図34に示す。なお
図34中、「GF」はGFマウスの結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスの結果、「Lacto.」は乳酸桿菌定着マウスの結果を示す。また、*は「P<0.02」であることを、**は「P<0.001」であることを示す。
【0121】
図34に示した結果から明らかなように、GFマウス、又は乳酸桿菌定着マウスと比較して、クロストリジウム定着マウスの大腸におけるTGF−βの産生量の有意に多かった。
【0122】
次に、GFマウス又はクロストリジウム定着マウスのIEC(腸上皮細胞)を24時間培養し、それらの培養上清における活性型TGF−β(TGF−β1)の濃度をELISAによって測定した(分析数は各グループマウス4匹ずつ)。得られた結果を
図35に示す。なお
図35中、「GF」はGFマウスの結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスの結果を示す。また、**は「P<0.001」であることを示す。
【0123】
図35に示した結果から明らかなように、クロストリジウム定着マウスから単離されたIECの培養上清において、TGF−βが検出された。しかしGFマウスから単離されたIECの培養上清においては検出されなかった。
【0124】
次に、前述の通り、GFマウス又はクロストリジウム定着マウスから単離したIECを培養した50%駲化培地と、抗CD3抗体と共に脾臓CD4
+T細胞を、抗TGF−β抗体存在下又は非存在下において5日間培養した後、T細胞を回収し、リアルタイムRT−PCRによってFoxp3の発現を分析した。得られた結果を
図36に示す。なお
図36中、「培地」は何の細胞をも培養していない培地による結果を、「GF」はGFマウスのIECを培養した駲化培地による結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスのIECを培養した駲化培地による結果を、「Clost.+αTGFβ」は抗TGFβ抗体を添加したクロストリジウム定着マウスのIECを培養した駲化培地による結果を示す。また、**は「P<0.001」であることを示す。
【0125】
図36に示した結果から明らかなように、クロストリジウム定着マウス由来のIEC培養上清を脾臓CD4
+T細胞に添加することにより、Foxp3発現細胞への分化は亢進した。一方、このTreg細胞への分化は、抗TGF−β抗体によって阻害された。
【0126】
さらに、潜在型TGF−βの活性化に寄与していると考えれられている、MMP2、MMP9、及びMMP13の発現についても調べた。また、Treg細胞の誘導に関与していると考えられているインドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の発現についても調べた。すなわち、C57BL/6 germ−freeマウスにクロストリジウム属細菌46株(Clost.)又は乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.)を経口投与し、投与してから3週間後にIECを回収し、MMP2、MMP9、MMP13、又はIDO遺伝子の相対的mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した(分析数は各グループマウス3匹ずつ)。得られた結果を
図37〜40に示す。なお
図37〜40中、「GF♯1〜3」はGFマウスの結果を、「Clost.♯1〜3」はクロストリジウム定着マウスの結果、「Lacto.♯1〜3」は乳酸桿菌定着マウスの結果を示す。
【0127】
また、潜在型TGF−βの活性化と前記MMPとの関連については、D’Angelo et al.,J.Biol.Chem.276,11347−11353,2001;Heidinger et al.,Biol.Chem.387,69−78,2006;Yu et al.,Genes Dev.i4,163−176,2000 参照のこと。IDOとTreg細胞の誘導との関連については、G.Matteoli et al.,Gut 59,595(May,2010)参照のこと。
【0128】
図37〜39に示した結果から明らかなように、前述のTGF−β産生と一致して、MMP2、MMP9、及びMMP13をコードする遺伝子の転写産物は、GFマウス又は乳酸桿菌定着定着マウスと比較して、クロストリジウム定着マウス由来のIECにおいて高レベルにて発現していた。
【0129】
さらに、
図40に示した結果から明らかなように、クロストリジウム定着マウスにおいてのみ、IDOが発現していた。
【0130】
従って、クロストリジウムによりIECが活性化され、大腸内においてTGF−βや他のTreg細胞誘導分子が産生されることが明らかになった。
【0131】
(実施例11)
次に、クロストリジウムの定着が誘導するTreg細胞の集積は、病原体関連分子パターン認識受容体シグナル伝達に依存的なものであるかどうかを調べた。すなわち、
Myd88−/−(Myd88(Toll−like様受容体のシグナリングアダプター)欠損)、
Rip2−/−(Rip2(NOD受容体アダプター)欠損)、又は
Card9−/−(Card9(Dectin−1シグナル伝達の主要なシグナル伝達因子)欠損)のSPFマウスにおける大腸粘膜固有層のTreg細胞数を調べた。また、
Myd88−/−GFマウスにクロストリジウム属細菌を定着させ、Treg細胞数の変化を調べた。得られた結果を
図17及び18に示す。
図17及び18に示した結果から明らかなように、病原体関連分子パターン認識受容体の関連因子を欠損させた各SPFマウスにおいて、コントロールである野生型同腹子と比較して、Treg細胞の数は変わらないものであった。また、Myd88欠損GFマウスにクロストリジウム属細菌を定着させても、大腸粘膜固有層におけるTreg細胞の集積は誘導されることが確認された。したがって、大腸粘膜固有層のTreg細胞蓄積を誘導するメカニズムは、大多数の細菌によって引き起こされる主な病原体関連分子パターン認識経路の活性化ではなく、特定の共生細菌に起因しているものであることが示唆された。
【0132】
(実施例12)
腸管Foxp3
+Treg細胞はIL−10産生を通して、一部の免疫抑制機能を発揮することが知られており(非特許文献9参照)、また、CD4
+Foxp3
+細胞からIL−10が特異的に除去されている動物は炎症性腸疾患を発症する(非特許文献18参照)ことも知られている。そこで、先ず、各組織のリンパ球におけるIL−10の発現を調べた。すなわち、リンパ球をSPF
Il10venusマウスの各組織から単離し、フローサイトメトリーを用いてCD4及びVenusの発現を解析した。得られた結果は
図19に示す。なお、
図19中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0133】
また、
Il10venusマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、細胞表面におけるT細胞受容体β鎖(TCRβ)の発現をFACSにて検出した。得られた結果(CD4
+細胞にゲートを設定したFACSドット−プロット)は
図20に示す。なお、
図20中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0134】
さらに、大腸粘膜固有層のリンパ球を
Il10venusマウスから単離し、Golgistop(BD Bioscience)の存在下において、PMA(50ng/ml)及びイオノマイシン(1μg/ml)で4時間刺激した。刺激を与えた後、cytofix/cytopermキット(BDバイオサイエンス)の説明書に従って、細胞内サイトカインの染色を抗IL−17 PE抗体、抗IL−4 APC抗体(11B11)、抗IFN−g FITC抗体(BDバイオサイエンス)を用いて行った。得られた結果(CD4
+細胞にゲートを設定したFACSドット−プロット)は
図21に示す。なお、
図21中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0135】
また、Foxp3
+CD4
+細胞及びFoxp3
−CD4
+細胞をFoxp3
eGFPレポーターマウスの脾臓(Spl)から単離し、
Il10venusマウスの大腸(colon)及び小腸(SI)粘膜固有層からVenus
+細胞を単離した。そして得られた各細胞について、所定の遺伝子発現の解析を行った。遺伝子発現は、Power SYBR Green PCR Master Mix (Applied Biosystems) 及びABI 7300 real time PCR system(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムRT−PCRにて解析し、各々の細胞においてはGAPDH量で標準化して値を出した。得られた結果は
図22に示す。なお、
図22中、エラーバーは標準偏差を示す。
【0136】
図19〜22に示した結果から明らかなように、Venus
+細胞(IL−10産生細胞)は、SPF条件下で維持されたマウスの頸部リンパ節(末梢リンパ節)、胸腺、末梢血、肺、肝臓においては、殆ど検出されないのに対し、脾臓、パイエル板及び腸間膜リンパ節においては、僅かではあるがVenus
+細胞が検出された(
図19参照)。一方、小腸及び大腸の粘膜固有層リンパ球においては、多数のVenus
+細胞が確認された。そして、腸のVenus
+細胞は、殆どがCD4陽性であり、かつT細胞受容体β鎖(TCRβ)陽性の細胞であった(
図19及び20参照)。さらに、Venus
+CD4
+T細胞は、Th2型(IL−4産生)又はTh17型(IL−17産生)の表現型は示さなかったが、Foxp3並びに、細胞障害性Tリンパ球抗原(CTLA−4)及びグルココルチコイド誘導性TNFR関連蛋白質(GITR)といった、その他Treg細胞関連因子を発現していることが確認された(
図21及び22参照)。また、腸内Venus
+細胞のCTLA−4発現レベルはFoxp3
eGFPレポーターマウスから単離された脾臓のGFP
+Treg細胞におけるそれよりも高いものであることが明らかになった(
図22参照)。
【0137】
(実施例13)
Venus
+細胞は、細胞内Foxp3発現に基づき、少なくとも2つのサブセット、すなわちVenus
+Foxp3
+ダブル陽性(DP)Treg細胞、及びVenus
+Foxp3
−Treg細胞に分けることができ、後者の細胞は1型制御性T細胞(Tr1)に該当する(非特許文献8、9参照)。そこで、実施例8で確認されたVenus
+細胞(IL−10産生細胞)について、Foxp3の発現を調べた。すなわち、GF又はSPF条件下で維持されている
Il10venusマウスの大腸及び小腸の粘膜固有層におけるCD4、Foxp3、Venusの発現をFACSにて解析し、SPF及びGF
Il10Venusマウス間の腸管粘膜固有層におけるVenus
+細胞数を比較した。得られた結果(CD4
+細胞にゲートを設定したドット−プロット)を
図23に示す。
【0138】
また、SPF
Il10venusマウスの様々な組織におけるCD4細胞の細胞内Venus及びFoxp3の発現をフローサイトメトリーによって解析した。得られた結果(CD4
+細胞にゲートを設定したドット−プロット)を
図24に示す。なお、
図24中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0139】
さらに、消化管制御性細胞におけるIL−10発現に共生細菌の存在が影響しているかどうかを確認するために、
Il10Venusマウスを無菌化(GF化)した。そして、得られたGF
Il10venusマウスに所定の細菌を定着させた。細菌を定着させてから3週間後に、大腸及び小腸においてFoxp3及び/又はVenusが発現しているCD4
+細胞群(V
+F
−,Venus
+Foxp3
−cells;V
+F
+,Venus
+Foxp3
+cells;V
−F
+,Venus
−Foxp3
+cells)をフローサイトメトリーで解析した。大腸のCD4
+細胞にゲートを設定したドット−プロットは
図25に示し、個々のマウスのCD4
+細胞群における比率は
図26及び27に示す。なお、
図25中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。また、
図26及び27中のエラーバーは標準偏差を示し、*は「P<0.02」であることを示し、**は「P<0.001」であることを示す。
【0140】
また、消化管制御性細胞におけるIL−10発現に共生細菌の存在が影響しているかどうかを確認するために、一グループにつき5、6匹の
Il10venusマウスに抗生物質を水とともに10週間飲ませた。抗生物質は以下の物を組み合わせて使用した。
アンピシリン(A;500mg/L Sigma)
バンコマイシン(V;500mg/L ナカライテスク)
メトロニダゾール(M;1g/L ナカライテスク)
ネオマイシン(N;1g/L ナカライテスク)
そして、大腸(colon)及び小腸(SI)の粘膜固有層、腸間膜リンパ節(MLN)並びにパイエル板(PPs)におけるリンパ球のCD4及びFoxp3を抗体染色し、FACSで解析し、同様の結果が得られる二回以上の独立した実験から結果を得た。得られた結果(個々のサンプルのCD4
+細胞におけるVenus
+細胞の割合)は
図28に示す。なお、
図28中の白丸は個々のサンプルを示し、水平バーは平均値を示し、*は「P<0.02」であることを示し、「AVMN」は投与した抗生物質の種類を、各抗生物質の頭文字をとって示したものである。
【0141】
図23及び24に示した結果から明らかなように、小腸粘膜固有層においては、Venus
+Foxp3
−細胞、すなわちTr1様細胞が豊富であり、またVenus
+Foxp3
+DP Treg細胞はSPFマウスの大腸において高頻度に存在していることが明らかになった(
図23及び24参照)。一方で、十分な数のFoxp3
+細胞は他の組織においても観察されているが、その殆どの細胞においてVenusの発現は確認されなかった(
図24参照)。
【0142】
また、
図23、25〜28に示した結果から明らかなように、大腸のVenus
+Foxp3
−、Venus
+Foxp3
+、Venus
−Foxp3
+、いずれの制御性T細胞分画も、GF条件下で有意に減少していることが明らかになった(
図23、26及び27)。さらに、抗生物質で処理したSPF
II10Venusマウスにおいても同様のVenus
+細胞の減少が確認された(
図28参照)。
【0143】
さらに、
図25〜27に示した結果から明らかなように、クロストリジウム属細菌の定着は、大腸においてVenus
+Foxp3
−、Venus
+Foxp3
+、Venus
−Foxp3
+いずれの制御性T細胞分画も、強く誘導し、その誘導の程度は、SPFマウスのそれと同様であった(
図25及び27参照)。また、乳酸桿菌属細菌3株やSFBの定着による大腸Venus
+及び/又はFoxp3
+細胞数への影響はごくわずかであることが確認された(
図25及び27参照)。さらに、バクテロイデス属細菌16株を定着させてもVenus
+細胞は誘導されるが、定着による影響はVenus
+Foxp3
−Tr1様細胞特異的なものであった(
図25及び27参照)。一方、試した細菌種の中には、小腸粘膜固有層のIL−10産生細胞数に有意に影響を及ぼしたものは確認されなかった(
図26参照)。
【0144】
したがって、大腸に定着しているクロストリジウム属に属する細菌又は該細菌に由来する生理活性物質が、IL−10
+制御性T細胞の大腸粘膜固有層への集積、又はT細胞におけるIL−10発現誘導のためのシグナルを提供していることが明らかになった。一方、小腸におけるVenus
+細胞数は、共生細菌が存在していない又は減少しているという状況に有意に影響されず(
図23、26及び28参照)、小腸粘膜固有層におけるIL−10
+制御性細胞(Tr1様細胞)は共生細菌に非依存的に集積することが明らかになった。
【0145】
(実施例14)
クロストリジウム属細菌によって誘導されたVenus
+細胞が、SPFマウスの大腸におけるVenus
+細胞と同様の免疫制御性の機能を持つかどうかを確認した。すなわち、脾臓から単離したCD4
+CD25
−細胞(エフェクターT細胞、Teff細胞)を平底96穴プレートに2x10
4/wellになるよう播種し、2x10
4の30Gy放射線照射処理を施した脾臓CD11c
+細胞(抗原提示細胞)、0.5μg/ml 抗CD3抗体、及び多数のTreg細胞と共に3日間培養した。また最後の6時間は[
3H]−チミジン(1μCi/well)を添加した状態で培養した。なお、実施例14においてはTreg細胞として、Foxp3
eGFPレポーターマウスの脾臓から単離されたCD4
+GFP
+T細胞、又はクロストリジウム属細菌を定着させたGF
Il10venusマウス若しくはSPF
Il10venusマウスにおける大腸粘膜固有層のCD4
+Venus
+T細胞を用いた。そして、[
3H]−チミジンの取り込み量によって細胞の増殖を測定し、分当たり計数カウント(cpm)の値で示した。
【0146】
図29に示した結果から明らかなように、クロストリジウム属細菌を定着させたマウスのVenus
+CD4
+細胞は、インビトロでCD25
−CD4
+活性型T細胞の増殖を抑制した。この抑制活性は、Foxp3
eGFPレポーターマウスから単離されたGFP
+細胞のそれよりもわずかに劣るものであるが、SPF
Il10Venusマウスから単離されたVenus
+細胞のそれと同程度であった。したがって、クロストリジウム属に属する細菌は、十分に免疫抑制活性を有するIL−10発現性T細胞を誘導し、大腸における免疫恒常性を維持するのに重要な役割を果たしていることが明らかになった。
【0147】
(実施例15)
次に、大量のクロストリジウムの定着、その結果として生じるTreg細胞の増殖による、局所性免疫応答への影響を調べた。
【0148】
<デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎モデル>
先ず、前述の通りDSS誘導大腸炎モデルを作製し、そのモデルマウスにおいて、クロストリジウムの接種及びTreg細胞の増殖による影響を調べた。すなわち、コントロールマウス及びクロストリジウム接種マウスを2%DSSで処理して6日間、体重の減少、便の硬さ、及び出血を観察、測定し、点数をつけた。
また、6日目に大腸を回収し、解剖し、HE染色によって組織学的分析を行った。得られた結果を
図41〜43に示す。なお
図41〜43において、「SPF+Clost.」又は「SPF+Clost.♯1〜3」は、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を接種し、コンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウスの結果を示し、「SPF」又は「SPF♯1〜3」は、前記糞便懸濁液を接種せずにコンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウス(コントロールマウス)の結果を示す。また
図41中、縦軸「疾患スコア」は、前述の疾患活動性指数(DAI)を示し、横軸「ポスト2%DSS(d)」は、マウスに最初に2%DSSを投与してからの経過日数を示す。さらに
図41中、*は「P<0.02」であることを示し、**は「P<0.001」であることを示す。また、DSS誘導大腸炎モデルにおいて、制御性樹状細胞によって誘導されたTreg細胞は予防の役割を担っていることが知られている(S.Manicassamy et al.,Science 329,849(Aug 13,2010)参照)。
【0149】
図41〜43に示した結果から明らかなように、大腸炎の症状、例えば体重の減少および直腸出血は、コントロールマウスと比較して、大量のクロストリジウムを有するマウス(以下、「クロストリジウム豊富マウス」とも称する)において有意に抑制されていた(
図41 参照)。また、大腸の短縮、浮腫、及び出血といった大腸の炎症における全ての典型的な特徴は、クロストリジウム豊富マウスと比較して、コントロールマウスにおいては顕著に認められた(
図42 参照)。さらに、DSS処理クロストリジウム豊富マウスにおいては、コントロールマウスと比較して、粘膜びらん、浮腫、細胞浸潤、及び陰窩欠損といった組織学的特徴が軽減されていた(
図43 参照)。
【0150】
<オキサゾロン(oxazolone)誘導大腸炎モデル>
次に、前述の通りオキサゾロン誘導大腸炎モデルを作製し、そのモデルマウスにおいて、クロストリジウムの接種及びTreg細胞の増殖による影響を調べた。すなわち、コントロールマウス及びクロストリジウム接種マウスをオキサゾロンに感作し、次いで1%オキサゾロン/50%エタノール溶液によって直腸内を処理し、体重の減少を観察、測定した。また、大腸を解剖し、HE染色によって組織学的分析を行った。得られた結果を
図44及び45に示す。なお
図44及び45において、「SPF+Clost.」は、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を接種し、コンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウス(クロストリジウム豊富マウス)の結果を示し、「SPF」は、前記糞便懸濁液を接種せずにコンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウス(コントロールマウス)の結果を示す。また
図44中、縦軸「最初の体重に対する割合(%)」は、1%オキサゾロン投与前の体重を各々100%とした際の該投与後の体重を示し、横軸「ポスト1%オキサゾロン(d)」は、マウスに1%オキサゾロンを投与してからの経過日数を示す。また、オキサゾロンによって誘導される大腸炎は、Th2型T細胞が介していることが知られている(M.Boirivant,I.J.Fuss,A.Chu,W.Strober,J Exp Med 188,1929(Nov 16,1998)参照)。
【0151】
図44及び45に示した結果から明らかなように、コントロールマウスにおいては持続的な体重減少とともに大腸炎が進行した。一方、クロストリジウム豊富マウスにおいて体重減少は軽減されていた(
図44 参照)。また、クロストリジウム豊富マウスの大腸において、粘膜びらん、浮腫、細胞浸潤、及び出血といった組織学的疾患の部位は抑制されていることも明らかになった(
図45 参照)。
【0152】
(実施例16)
次に、大量のクロストリジウムの定着、その結果として生じるTreg細胞の増殖による、全身性免疫応答(全身性IgE産生)への影響を調べた。すなわち、前述の通り、アラムに吸着させた卵白アルブミン(alum−absorbed ovalbumin(OVA))を2週間間隔で2回投与することによって、コントロールマウス及びクロストリジウム接種マウスに免疫性を付与した。そして、これらマウスから血清を回収し、ELISAによってOVA特異的IgEのレベルを調べた。また、各々のグループのマウスから脾細胞を回収し、インビトロにおけるOVAの再刺激によるIL−4及びIL−10産生を調べた。得られた結果を
図46〜48に示す。なお
図46〜48において、「SPF+Clost.」は、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を接種し、コンベンショナルな環境下で飼育したBALB/c SPF(クロストリジウム豊富マウス)の結果を示し、「SPF」は、前記糞便懸濁液を接種せずにコンベンショナルな環境下で飼育したBALB/c SPF(コントロールマウス)の結果を示し、**は「P<0.001」であることを示す。また
図46中、縦軸「OVA特異的IgE(ng/ml)」は、血清におけるOVA特異的IgEの濃度を示す。さらに
図46中、横軸は、当該クロストリジウム豊富マウス又はコントロールマウス(4週齢)に最初にアラムに吸着させた卵白アルブミンを投与してからの経過日数を示し、「OVA+Alum」はアラムに吸着させた卵白アルブミンを投与した時期を示す。また
図47及び48中、横軸において「OVA」はインビトロにおいてOVAによる再刺激を施した結果を、「−」はインビトロにおいてOVAによる再刺激を施さなかった結果を示す。さらに
図47及び48中、縦軸において「IL−4(pg/ml)」及び「IL−10(pg/ml)」は、脾細胞の培養上清におけるIL−4濃度及びIL−10濃度を各々示す。
【0153】
図46〜48に示した結果から明らかなように、クロストリジウム豊富マウスにおいて、コントロールマウスと比較してIgEレベルは有意に低かった(
図46 参照)。さらに、OVA及びアラムで感作したクロストリジウム豊富マウスの脾細胞において、コントロールマウスのそれと比較して、OVAの再刺激によるIL−4産生は低下し(
図47 参照)、IL−10産生は増加した(
図48 参照)。
【0154】
従って、実施例15に示した結果と併せて、大腸におけるクロストリジウムによるTreg細胞の誘導は、局所性及び全身性の免疫応答に重要な役割を担っていることが明らかになった。
【0155】
(実施例17)
次に、無菌Balb/cマウス(GF Balb/c)に、クラスター4に属するClostridium(クロストリジウム)3株(
図49に示すstrain22、23及び32)を定着させた。三週間後、大腸のFoxp3
+Treg細胞をFACSにて分析した。得られた結果を
図50に示す。
図50に示した結果から明らかなように、クロストリジウム3株を定着させた純粋隔離群のマウスにおけるTreg細胞の誘導パターンは、無菌マウス(GFマウス)と46株全てを接種したマウスとの中間程度であった。
【0156】
(実施例18)
次に、マウスから得た糞便試料の芽胞形成画分同様に、ヒトから得た糞便試料の芽胞形成画分(例えば、クロロホルムに耐性を示す画分)が、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有しているかどうかを調べた。
【0157】
すなわち、健常被験者(日本人、男性、29歳)から得たヒト糞便をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、クロロホルム(最終濃度:3%)と混合した。そして、37℃の水浴中で60分間振盪しながら培養した。窒素ガスで沸き立たせながらクロロホルムを留去した後、ヒト腸内細菌のクロロホルム耐性を示す画分(例えば、芽胞形成画分)を含むアリコートを、無菌(GF)マウス(IQI、8週齢)に経口接種した。処理したマウスを3週間ビニルアイソレータの中で維持した。そして、大腸を採取し、長手方向に開裂して糞便内容物を洗い除去し、37℃で20分間、5mM EDTA含有ハンクス平衡塩溶液(HBSS)中にて振盪した。上皮細胞及び脂肪組織を除去した後、大腸を細かく小切片にし、4%ウシ胎児血清、1mg/mlコラゲナーゼD、0.5mg/mlディスパーゼ及び40μg/ml DNaseI(全てロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)を含むRPMI1640にて、37℃の水浴中で1時間振盪しながらインキュベートした。消化した組織を5mM EDTA含有HBSSで洗浄し、5ml 40%パーコール(GE Healthcare社製)に再懸濁し、15mlファルコンチューブ中の2.5ml 80%パーコールの上に重層した。そして、25℃、780gで20分間遠心し、パーコール勾配分離を行った。境界面の細胞を回収し、PBS、2% FBS、2mM EDTA及び0.09% NaN
3を含む染色バッファーに懸濁し、フィコエリシンで標識された抗CD4抗体(RM4−5、BD Biosciences社製)を用い、細胞表面のCD4を染色した。また、細胞内Foxp3の染色は、Alexa647−で標識された抗Foxp3抗体(FJK−16s、eBioscience社製)及びFoxp3染色バッファーセット(eBioscience社製)を用いて行った。そして、CD4陽性リンパ球の細胞集団におけるFoxp3陽性細胞の比率をフローサイトメトリーにて分析した。得られた結果を
図51及び52に示す。
【0158】
各図において、無菌マウス由来(GF)又はクロロホルム処理ヒト糞便を投与した無菌マウス由来(GF+Chloro.)のCD4陽性リンパ球によるFox3発現について、代表的なヒストグラム(
図51)及び総合したデータ(
図52)を示す。また、
図51中の数値はゲート中の細胞の割合を示す。
図52中の各丸は、個々の動物における結果を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示し、**は「P<0.001」であることを示す。
【0159】
図51及び52に示した結果から明らかなように、ヒト腸内細菌の芽胞形成(例えば、クロロホルムに耐性を示す)画分がGFマウスに定着した際に、当該マウスの大腸粘膜固有層において、Fox3
+制御性(Treg)細胞の集積が誘導されることも明らかになった。
【0160】
次に、クロロホルム処理ヒト糞便の投与によって、どのような細菌種が増殖しているのかを調べた。
【0161】
すなわち、QIAamp DNA糞便ミニキット(QIAGEN社製)を用い、前述の健常被験者の糞便(ヒト糞便)又はクロロホルム処理ヒト糞便を投与した無菌マウス由来の糞塊(GF+Chloro.)から細菌のゲノムDNAを単離した。定量的PCR解析は、ライトサイクラー480(Roche社製)を用いて行った。相対量はデルタCt法により算出し、総細菌量、試料の重量及び希釈を基準として求めた。また、下記プライマーセットを用いた。
【0162】
総細菌
5’−GGTGAATACGTTCCCGG−3’ (配列番号:62)及び
5’−TACGGCTACCTTGTTACGACTT−3’ (配列番号:63)
クロストリジウムクラスター14a(クロストリジウム コッコイデス 亜群(Clostridium coccoides subgroup))
5’−AAATGACGGTACCTGACTAA−3’(配列番号:64)及び
5’−CTTTGAGTTTCATTCTTGCGAA−3’(配列番号:65)
クロストリジウムクラスター4(クロストリジウム レプタム(Clostridium leptum))
5’−GCACAAGCAGTGGAGT−3’(配列番号:66)及び
5’−CTTCCTCCGTTTTGTCAA−3’(配列番号:67)
バクテロイデス
5’−GAGAGGAAGGTCCCCCAC−3’(配列番号:68)及び
5’−CGCTACTTGGCTGGTTCAG−3’(配列番号:69)
得られた結果を
図53に示す。
【0163】
図53に示した結果から明らかなように、クロロホルム処理ヒト糞便を投与したマウスにおいて、クロロホルム処理前のヒト糞便と比較して、Clostridium(クロストリジウム)クラスター14a及びClostridium(クロストリジウム)クラスター4等の芽胞形成細菌が大量に存在していることが示され、Bacteroides(バクテロイデス)等の非芽胞形成細菌の著しい低下が示された。