特許第6551944号(P6551944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6551944制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551944
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20190722BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20190722BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20190722BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
   A61K35/742ZNA
   A61P37/02
   A61P29/00
   A61P31/00
   C12N1/20 A
   !C12N15/09
【請求項の数】12
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2017-49543(P2017-49543)
(22)【出願日】2017年3月15日
(62)【分割の表示】特願2015-238780(P2015-238780)の分割
【原出願日】2011年6月3日
(65)【公開番号】特開2017-137332(P2017-137332A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2017年4月14日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2010/071746
(32)【優先日】2010年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-129134(P2010-129134)
(32)【優先日】2010年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 2009年12月2日〜4日(2009年12月4日)第39回日本免疫学会総会・学術集会 プレゼンテーションデータ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、JSTさきがけ研究「可視化を通じて解析する消化管粘膜免疫系の誘導維持機構」事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 賢也
(72)【発明者】
【氏名】新 幸二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 喜久治
(72)【発明者】
【氏名】田ノ上 大
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−112485(JP,A)
【文献】 特開2005−124495(JP,A)
【文献】 Journal of Immunology,2010年 4月,Vol. 184, No. 1, Supp.,Abstract Number: 49.19
【文献】 Immunity,2009年,Vol.31,p.677-689
【文献】 日本細菌学雑誌,2008年,Vol.63, No.1,p.166, 3-E-27/P43
【文献】 防菌防黴,2004年,Vol.32, No.3,p.105-113
【文献】 Microbiol. Immunol.,2004年,Vol.48, No.11,p.889-892
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
健常なヒトドナーの糞便試料から単離され、クロストリジウム クラスター14a又はクラスター4に属する細菌を含む、芽胞形成細菌画分を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導するための組成物。
【請求項2】
前記芽胞形成細菌画分が、前記糞便試料のクロロホルム処理画分であり、かつクロストリジウム
クラスター14a又はクラスター4に属する細菌を含む画分である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
免疫抑制作用を有する、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
医薬組成物である、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、健常なヒトドナーの糞便試料から単離され、クロストリジウム クラスター14a又はクラスター4に属する細菌を含む、芽胞形成細菌画分を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
【請求項7】
前記芽胞形成細菌画分が、前記糞便試料のクロロホルム処理画分であり、かつクロストリジウム
クラスター14a又はクラスター4に属する細菌を含む画分である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、請求項6又は7に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
【請求項9】
前記感染症が、クロストリジウム.ディフィシル感染症である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、請求項6〜9のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
免疫抑制作用を有する、請求項6〜10のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
医薬組成物である、請求項6〜11のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロストリジウム属に属する細菌、該細菌に由来する生理活性物質または細菌芽胞等を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物に関する。また、本発明は、制御性T細胞の増殖又は集積を誘導するための方法又は阻害するための方法に関する。さらに、本発明は、クロストリジウム属に属する少なくとも1種の細菌または細菌芽胞を含む、ワクチン組成物、並びに該ワクチン組成物をそれらを必要としている個体に投与することにより、感染症及び自己免疫疾患から選択される少なくとも一の疾患または病態を治療又は予防するための方法に関する。また、本発明は、制御性T細胞の増殖又は集積を促進する化合物をスクリーニングするための方法、並びに該方法に用いられるIL−10遺伝子発現の制御下においてレポーター遺伝子を発現させる非ヒト哺乳動物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類の消化管には何百種という共生微生物が定着しており、それらは宿主の免疫系と密接に結びついている。パイエル板(PPs)及び孤立リンパ小節(ILFs)の組織形成、上皮細胞からの抗菌性ペプチドの分泌、及び、イムノグロブリンA産生形質細胞、上皮間リンパ球、IL−17産生CD4陽性T細胞(Th17)、IL−22産生NK様細胞のようなユニークなリンパ球の粘膜組織における集積といった、粘膜免疫系の発達に、共生微生物が多大な影響を与えていることが、無菌(Germ−Free、GF)動物を用いた研究成果から示されている(非特許文献1〜7)。また、その結果、腸内細菌の存在が粘膜防御機能を増強し、体内に侵入してくる病原性微生物に対する強い免疫応答を宿主に付与することになる。一方、粘膜免疫系は、食物抗原及び無害な微生物に対する無反応性を維持している(非特許文献3)。そのため、共生細菌と免疫系のクロストークの調節異常(腸内菌共生バランス失調)は、環境抗原に対する過度で強い免疫応答を誘導し、結果として炎症性腸疾患(IBD)を引き起こすことになる(非特許文献8〜10)。
【0003】
最近の研究成果から、個々の共生細菌は、粘膜免疫系における特定の免疫細胞分化を制御していることが明らかになっている。例えば、ヒトの共生細菌、Bacteroides fragilisは、マウスにおいて特異的に全身性Th1細胞及び粘膜IL−10産生T細胞応答を誘導し、そして病原体が引き起こす大腸炎から宿主を守る役割を果たし(非特許文献3)、マウスの腸内共生細菌であるセグメント細菌(Segmented Filamentous Bacteria)は、粘膜Th17細胞を誘導し、宿主の消化管病原体感染に対する抵抗性を増強することが明らかになっている(非特許文献11〜13)。また、いくつかの共生細菌由来の短鎖脂肪酸は、腸炎を抑制することが知られている(非特許文献14)。さらに、ある種の腸内細菌種の存在は、免疫系の恒常性を維持する制御性T細胞(以下、「Treg細胞」とも称する)の分化にも多大な影響を与えると考えられている。
【0004】
また、免疫を抑制するサブセットとして同定された制御性T細胞は、転写因子Foxp3が発現しているCD4T細胞であり、免疫学的恒常性を維持するのに重要な役割を果たしていることが知られている(非特許文献8、9、15、16)。さらに、Foxp3発現細胞は、大腸において特に多く存在しており、大腸に局在するTreg細胞だけが免疫抑制性サイトカインであるIL−10を常に高発現させていることが知られており(非特許文献17)、CD4Foxp3細胞からIL−10が特異的に除去されている動物は、炎症性腸疾患を発症することも知られている(非特許文献18)。
【0005】
従って、大腸におけるIL−10を高産生するTreg細胞の誘導メカニズムが解明されれば、免疫抑制を亢進させることが可能となり、ひいては炎症性腸疾患等の自己免疫疾患の治療や臓器移植への応用が可能となる。
【0006】
しかしながら、大腸にTreg細胞が多数存在し、また、大腸のTreg細胞がIL−10を高産生するメカニズムについては未だ明らかになっていない。さらに、腸内共生細菌叢を構成するどのような細菌種が制御性T細胞の誘導に影響を与えているかも未だ明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.J.Cebra、「Am J Clin Nutr」、1999年5月、69、1046S
【非特許文献2】A. J. Macpherson, N. L. Harris、「Nat Rev Immunol」、2004年6月、4、478
【非特許文献3】J. L. Round, S. K. Mazmanian、「Nat Rev Immunol」、2009年5月、9、313
【非特許文献4】D. Bouskra et al.、「Nature」、2008年11月27日、456、507
【非特許文献5】K. Atarashi et al.、「Nature」、2008年10月9日、455、808
【非特許文献6】Ivanov, II et al.、「Cell Host Microbe」、2008年10月16日、4、337
【非特許文献7】S. L. Sanos et al.,「Nat Immunol」、2009年1月、10、83
【非特許文献8】M. A. Curotto de Lafaille, J. J. Lafaille、「Immunity」、2009年5月、30、626
【非特許文献9】M. J. Barnes, F. Powrie、「Immunity」、2009年9月18日、31、401
【非特許文献10】W. S. Garrett et al.、「Cell」、2007年10月5日、131、33
【非特許文献11】Ivanov, II et al.、「Cell」、2009年10月30日、139、485.
【非特許文献12】V. Gaboriau−Routhiau et al.、「Immunity」、2009年10月16日、31、677
【非特許文献13】N. H. Salzman et al.「Nat Immunol」、11、76.
【非特許文献14】K. M. Maslowski et al.、「Nature」、2009年10月29日、461、1282
【非特許文献15】L. F. Lu, A. Rudensky、「Genes Dev」、2009年6月1日、23、1270
【非特許文献16】S. Sakaguchi, T. Yamaguchi, T. Nomura, M. Ono、「Cell」、2008年5月30日、133、775
【非特許文献17】C. L. Maynard et al.、「Nat Immunol」、2007年9月、8、931
【非特許文献18】Y. P. Rubtsov et al.、「Immunity」、2008年4月、28、546
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御性T細胞(Treg細胞)の増殖または集積を誘導する腸内共生細菌を同定することにある。本発明は、さらに、同定された腸内共生細菌またはそれに由来する生理活性物質を含有する、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物等を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分及び芽胞形成細菌画分が大腸における制御性T細胞(Treg細胞)の集積を誘導することを見出した。さらに、クロストリジウム属に属する細菌が大腸における制御性T細胞の増殖または集積の誘導することを見出した。また、本発明者らは、これら細菌により誘導された制御性T細胞が、エフェクターT細胞の増殖を抑制することをも見出した。さらに、クロストリジウム属に属する細菌の定着、その結果として生じるTreg細胞の増殖または集積によって、局所性及び全身性の免疫応答を制御していることも見出した。
【0010】
これら知見から、本発明者らは、クロストリジウム属に属する細菌、それらの芽胞またはそれらに由来する生理活性物質を用いることにより、制御性T細胞(Treg細胞)の増殖や集積を誘導すること、さらには、免疫機能を抑制することが可能であることを見出した。
【0011】
本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
[1] 健常なヒトドナーの糞便試料から単離された芽胞形成細菌画分を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
[2] 前記芽胞形成細菌画分が前記糞便試料のクロロホルム処理画分である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 免疫抑制作用を有する、[1]〜[3]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[5] 医薬組成物である、[1]〜[4]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[6] 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、健常なヒトドナーの糞便試料から単離された芽胞形成細菌画分を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
[7] 前記芽胞形成細菌画分が前記糞便試料のクロロホルム処理画分である、[6]に記載の組成物。
[8] 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、[6]又は[7]に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
[9] 前記感染症が、クロストリジウム.ディフィシル感染症である、[8]に記載の組成物。
[10] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[6]〜[9]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[11] 免疫抑制作用を有する、[6]〜[10]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[12] 医薬組成物である、[6]〜[11]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[13] 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、下記(a)〜(b)からなる群より選択される3以上の細菌を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌。
[14] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される4以上の細菌を有効成分とする、[13]に記載の組成物。
[15] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される5以上の細菌を有効成分とする、[13]に記載の組成物。
[16] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される6以上の細菌を有効成分とする、[13]に記載の組成物。
[17] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される7以上の細菌を有効成分とする、[13]に記載の組成物。
[18] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される8以上の細菌を有効成分とする、[13]に記載の組成物。
[19] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される9以上の細菌を有効成分とする、[13]に記載の組成物。
[20] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される10以上の細菌を有効成分とする、[13]に記載の組成物。
[21] 前記ヒト由来の細菌が芽胞形状である、[13]〜[20]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[22] 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、[13]〜[21]のうちのいずれか一に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
[23] 前記感染症が、クロストリジウム.ディフィシル感染症である、[22]に記載の組成物。
[24] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[13]〜[23]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[25] 免疫抑制作用を有する、[13]〜[24]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[26] 医薬組成物である、[13]〜[25]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[27] 下記(a)〜(b)からなる群より選択される3以上の細菌を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌。
[28] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される4以上の細菌を有効成分とする、[27]に記載の組成物。
[29] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される5以上の細菌を有効成分とする、[27]に記載の組成物。
[30] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される6以上の細菌を有効成分とする、[27]に記載の組成物。
[31] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される7以上の細菌を有効成分とする、[27]に記載の組成物。
[32] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される8以上の細菌を有効成分とする、[27]に記載の組成物。
[33] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される9以上の細菌を有効成分とする、[27]に記載の組成物。
[34] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される10以上の細菌を有効成分とする、[27]に記載の組成物。
[35] 前記ヒト由来の細菌が芽胞形状である、[27]〜[34]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[36] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[27]〜[35]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[37] 免疫抑制作用を有する、[27]〜[36]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[38] 医薬組成物である、[27]〜[37]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[39] 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも1の細菌を有効成分とし、かつグラム陰性菌を含まない、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌。
[40] 前記グラム陰性菌がバクテロイデスである、[39]に記載の組成物。
[41] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される2以上の細菌を有効成分とする、[39]又は[40]に記載の組成物。
[42] 前記ヒト由来の細菌が芽胞形状である、[39]〜[41]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[43] 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、[39]〜[42]のうちのいずれか一に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
[44] 前記感染症が、クロストリジウム.ディフィシル感染症である、[43]に記載の組成物。
[45] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[39]〜[44]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[46] 免疫抑制作用を有する、[39]〜[45]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[47] 医薬組成物である、[39]〜[46]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[48] 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも1の細菌を有効成分とし、かつラクトバチルスを含まない、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌。
[49] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される2以上の細菌を有効成分とする、[47]に記載の組成物。
[50] 前記ヒト由来の細菌が芽胞形状である、[48]又は[49]に記載の組成物。
[51] 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、[48]〜[50]のうちのいずれか一に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
[52] 前記感染症が、クロストリジウム.ディフィシル感染症である、[51]に記載の組成物。
[53] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[48]〜[52]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[54] 免疫抑制作用を有する、[48]〜[53]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[55] 医薬組成物である、[48]〜[54]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[56] 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも1の細菌を有効成分とし、かつビフィドバクテリウムを含まない、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物。
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌。
[57] 前記(a)〜(b)からなる群より選択される2以上の細菌を有効成分とする、[56]に記載の組成物。
[58] 前記ヒト由来の細菌が芽胞形状である、[56]又は[57]に記載の組成物。
[59] 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、[56]〜[58]のうちのいずれか一に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
[60] 前記感染症が、クロストリジウム.ディフィシル感染症である、[59]に記載の組成物。
[61] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[56]〜[60]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[62] 免疫抑制作用を有する、[56]〜[51]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[63] 医薬組成物である、[56]〜[62]のうちのいずれか一に記載の組成物。
また、本発明は、以下の発明を提供するものでもある。
[1] 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、下記(a)〜(b)からなる群より選択される2以上の物質を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
[2] 前記ヒト由来の細菌が芽胞形状である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、[1]又は[2]に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
[4] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[1]〜[3]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[5] 免疫抑制作用を有する、[1]〜[4]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[6] 医薬組成物である、[1]〜[5]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[7] 下記(a)〜(b)からなる群より選択される2以上の物質を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
[8] 前記ヒト由来の細菌が芽胞形状である、[7]に記載の組成物。
[9] 前記制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、[7]又は[8]に記載の組成物。
[10] 免疫抑制作用を有する、[7]〜[9]のうちのいずれか一に記載の組成物。
[11] 医薬組成物である、[7]〜[10]のうちのいずれか一に記載の組成物。
<1> 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症の治療用組成物であって、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物
(a) クロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) クロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
<2> 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、<1>に記載の組成物
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
<3> 制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞又はIL−10産生性の制御性T細胞である、<1>又は<2>に記載の組成物。
<4> 免疫抑制作用を有する、<1>〜<3>のうちのいずれか一に記載の組成物。
<5> 医薬組成物である、<1>〜<4>のうちのいずれか一に記載の組成物。
<6> 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症を治療するための剤であって、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質を含む、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する剤
(a) クロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) クロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
<7> 自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症を治療するための薬剤であって、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する薬剤を、製造するための、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質の使用
(a) クロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) クロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
<8> 前記自己免疫疾患、炎症性疾患又は感染症が、下記(a)〜(h)からなる群より選択される少なくとも一の疾患である、<7>に記載の使用
(a)炎症性腸疾患
(b)アレルギー疾患
(c)感染症
(d)糖尿病
(e)多発性硬化症
(f)スプルー
(g)リウマチ性関節炎
(h)移植片対宿主拒絶反応。
<9> 下記工程(a)及び(b)を含む方法によって調製される組成物であって、該組成物を必要とする個体において制御性T細胞の増殖又は集積を誘導するための組成物
(a)ヒトドナーから糞便試料を得る工程
(b)前記試料から芽胞形成細菌画分を分離する工程。
<10> 下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
<11> 下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質を含む、ワクチン組成物
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
<12> 制御性T細胞の増殖または集積を誘導する薬剤を製造するための、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質の使用
(a) ヒト由来のクロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) ヒト由来のクロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
(1) 下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質を有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物
(a) クロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) クロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
(2) 制御性T細胞が、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である、(1)に記載の組成物。
(3) 免疫抑制作用を有する、(1)または(2)に記載の組成物。
(4) 医薬組成物である、(1)〜(3)のうちのいずれかに記載の組成物。
(5) 下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも1の物質を含む、ワクチン組成物
(a) クロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) クロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
(6) 下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質を含む、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する剤
(a) クロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) クロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
(7) 制御性T細胞の増殖または集積を誘導する薬剤を製造するための、下記(a)〜(b)からなる群より選択される少なくとも一の物質の使用
(a) クロストリジウム クラスター14aに属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) クロストリジウム クラスター4に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質。
【発明の効果】
【0012】
本発明のクロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質を有効成分とする組成物等は、制御性T細胞(Treg細胞)の増殖や集積を誘導するための優れた組成物となる。本発明の組成物を医薬品として投与あるいは飲食品として摂取することによって、生体における免疫抑制を図ることができる。従って、本発明の組成物は、例えば、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の予防または治療や臓器移植時などにおける免疫拒絶の抑制に利用することが可能である。また、本発明の組成物を健康食品などの飲食品に含有させれば、健常者が日常的に容易に摂取することができ、これにより制御性T細胞の増殖や集積を誘導し、免疫機能の改善を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1Il10venusマウスの作製方法を示す概略図である。
図2Il10venusマウスがIl10venusアレルを有することについて解析したサザンブロッティングの結果を示す図である。
図3Il10venusマウスからVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞をソーティングした結果を示すFACSドット−プロット図である。
図4Il10venusマウスのVenus陽性細胞及びVenus陰性細胞におけるIL−10mRNA発現量をリアルタイムRT−PCRにより解析した結果を示す、グラフである。
図5】SPFマウスのCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率の変化を示すグラフである。
図6】GFマウス及びSPFマウスの小腸、大腸及び末梢リンパ節から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図7】GFマウス及びSPFマウスの小腸、大腸及び末梢リンパ節から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図8】GFマウス及びSPFマウスの小腸、大腸及び末梢リンパ節から単離したCD4Foxp3細胞数について解析した結果を示す、グラフである。
図9】抗生物質で処理したSPFマウスの様々な組織におけるCD4細胞におけるVenus細胞の比率について解析した結果を示す、プロット図である。
図10】SPFマウスの糞便懸濁液を投与したGFマウスの大腸粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図11】SPFマウスの糞便懸濁液を投与したGFマウスの大腸及び小腸の粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図12】ILF、PP及びcolonic−patch欠損マウスの粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図13】特定の共生細菌を投与したGFマウスの大腸粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図14】特定の共生細菌を投与したGFマウスの大腸粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図15】特定の共生細菌を定着させたマウスの大腸粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるIFN−γ細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図16】特定の共生細菌を定着させたマウスの大腸粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるIL−17細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図17】病原体関連分子パターン認識受容体関連因子を欠損させた各SPFマウスの大腸から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図18】クロストリジウムを定着させたMyd88−/−マウスの大腸粘膜固有層から単離したCD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率について解析した結果を示す、グラフである。
図19Il10venusマウスの様々な組織から単離したリンパ球におけるVenus細胞の比率について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図20Il10venusマウスの大腸粘膜固有層から単離したリンパ球におけるT細胞受容体のβ鎖の細胞表面での発現について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図21Il10venusマウスの大腸粘膜固有層から単離したリンパ球におけるIL−17、IL−4及びIFN−γの発現について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図22】脾臓Foxp3CD4細胞、脾臓Foxp3CD4細胞、大腸粘膜固有層のVenus細胞、及び小腸粘膜固有層のVenus細胞における、IL−10、CTLA4,Foxp3及びGITR mRNAの発現量について解析した結果を示す、グラフである。
図23】GF Il10venusマウス及びSPF Il10venusマウスの小腸及び大腸の粘膜固有層におけるCD4、Foxp3及びVenusの発現について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図24】SPF Il10venusマウスの様々な組織におけるCD4細胞のVenus及びFoxp3の発現について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図25】特定の共生細菌を定着させたIl10venusマウスのFoxp3及びVenusの発現について解析した結果を示す、FACSドット−プロット図である。
図26】特定の共生細菌を定着させたIl10venusマウスの小腸におけるCD4細胞のFoxp3及び/又はVenusの発現について解析した結果を示す、グラフである。
図27】特定の共生細菌を定着させたIl10venusマウスの大腸におけるCD4細胞のFoxp3及び/又はVenusの発現について解析した結果を示す、グラフである。
図28】抗生物質で処理したIl10venusマウスの様々な組織から単離されたCD4細胞におけるVenus細胞の比率について解析した結果を示す、プロット図である。
図29】クロストリジウム属細菌を定着させたGF Il10venusマウスの大腸粘膜固有層CD4Venus細胞、SPF Il10venusマウスの大腸粘膜固有層のCD4Venus細胞、及び、Foxp3eGFPレポーターマウスの脾臓CD4GFP細胞の免疫制御機能を解析した結果を示す、グラフである。
図30】SPF B6マウスをポリミキシンB(polymyxinB)又はバンコマイシン(vancomycin)で4週間処理し、CD4細胞群におけるFoxp3細胞の割合を分析した結果を示す、グラフである。
図31】SPFマウス由来クロロホルム処理糞便をGFマウスに経口投与し、CD4細胞群におけるFoxp3細胞の割合を分析した結果を示す、グラフである。
図32】SPFマウス、GFマウス、乳酸桿菌定着マウス、又はクロストリジウム定着マウスの胸腺又は大腸のLPリンパ球における、Heliosの発現をフローサイトメトリーで分析した総合的な結果を示す、グラフである。
図33】SPFマウス、GFマウス、乳酸桿菌定着マウス、又はクロストリジウム定着マウスの胸腺又は大腸のLPリンパ球における、CD4、Foxp3、及びHeliosの発現をフローサイトメトリーで分析した代表的な結果を示す、プロット図である。
図34】GFマウス、乳酸桿菌定着マウス、又はクロストリジウム定着マウス由来の全大腸を培養し、それらの培養上清におけるTGF−β1の濃度をELISAで分析した結果を示す、グラフである。
図35】GFマウス又はクロストリジウム定着マウス由来の腸上皮細胞(IEC)を培養し、それらの培養上清におけるTGF−β1の濃度をELISAで分析した結果を示す、グラフである。
図36】脾臓CD4T細胞を、抗CD3抗体と、GFマウス又はクロストリジウム属細菌46株定着マウス(Clost.)から単離したIECの培養上清、加えて抗TGF−β抗体存在下又は非存在下において培養し、その培養5日後にT細胞を回収し、リアルタイムRT−PCRによってFoxp3の発現を分析した結果を示す、グラフである。
図37】C57BL/6 GFマウスにクロストリジウム属細菌46株(Clost.)又は乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.)を経口接種し、接種してから3週間後にIECを回収し、MMP2遺伝子の相対的mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した結果を示す、グラフである。
図38】C57BL/6 GFマウスにクロストリジウム属細菌46株(Clost.)又は乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.)を経口接種し、接種してから3週間後にIECを回収し、MMP9遺伝子の相対的mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した結果を示す、グラフである。
図39】C57BL/6 GFマウスにクロストリジウム属細菌46株(Clost.)又は乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.)を経口接種し、接種してから3週間後にIECを回収し、MMP13遺伝子の相対的mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した結果を示す、グラフである。
図40】C57BL/6 GFマウスにクロストリジウム属細菌46株(Clost.)又は乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.)を経口接種し、接種してから3週間後にIECを回収し、IDO遺伝子の相対的mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した結果を示す、グラフである。
図41】コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)を2%DSSで処理して6日間、体重の減少、便の硬さ、及び出血を観察、測定し、点数をつけた結果を示す、グラフである。
図42】コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)を2%DSSで処理してから6日目に回収した大腸の状態を示す、写真である。
図43】コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)を2%DSSで処理してから6日目に回収した大腸を、HE染色によって組織学的分析した結果を示す、顕微鏡写真である。
図44】コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)をオキサゾロンに感作し、次いで1%オキサゾロン/50%エタノール溶液によって直腸内を処理し、体重の減少を測定した結果を示す、グラフである。
図45】コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)をオキサゾロンに感作し、次いで1%オキサゾロン/50%エタノール溶液によって直腸内を処理して得られた大腸を、HE染色によって組織学的分析した結果を示す、顕微鏡写真である。
図46】アラムに吸着させた卵白アルブミン(alum−absorbed ovalbumin (OVA))を2週間間隔で2回投与することによって、コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)に免疫性を付与してから、血清を回収し、これら血清におけるOVA特異的IgEの濃度をELISAによって分析した結果を示す、グラフである。
図47】アラムに吸着させたOVAを2週間間隔で2回投与することによって、コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)に免疫性を付与してから、脾細胞を回収し、インビトロにおけるOVAの再刺激によるこれら脾細胞のIL−4産生を分析した結果を示す、グラフである。
図48】アラムに吸着させたOVAを2週間間隔で2回投与することによって、コントロールマウス(SPF)及びクロストリジウム投与マウス(SPF+Clost.)に免疫性を付与してから、脾細胞を回収し、インビトロにおけるOVAの再刺激によるこれら脾細胞のIL−10産生を分析した結果を示す、グラフである。
図49】Clostridium(クロストリジウム)41株のシークエンス結果とGenbankデータベースから得られた既知の細菌のシークエンスとに基づき、Megaソフトウェアを用いた近隣結合法によって構築された系統樹である。
図50】Fox3発現によってゲートをかけた無菌マウス由来のCD4細胞(無菌マウス♯1及び♯2)と、Fox3発現によってゲートをかけたクラスター4に属するクロストリジウムの3株を定着させた無菌マウス由来のCD4細胞(クロストリジウム3株マウス♯1及び♯2)とを示すヒストグラムである。
図51】無菌マウス由来のCD4陽性リンパ球によるFox3発現(GF)と、クロロホルム処理ヒト糞便を投与した無菌マウス由来のCD4陽性リンパ球によるFox3発現(GF+Chloro.)とを示すヒストグラムである。
図52】無菌マウス由来のCD4陽性リンパ球によるFox3発現(GF)と、クロロホルム処理ヒト糞便を投与した無菌マウス由来のCD4陽性リンパ球によるFox3発現(GF+Chloro.)とを示すグラフである。
図53】クロロホルム処理ヒト糞便を投与したマウスの糞便における、Clostridium(クロストリジウム)及びBacteroides(バクテロイデス)の量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物>
本発明は、下記(a)〜(c)からなる群より選択される少なくとも1の物質をを有効成分とする、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する組成物を提供する
(a) クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) 哺乳動物から得られた糞便試料の芽胞形成細菌画分または該画分の培養上清
(c) 哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分または該画分の培養上清。
【0015】
本発明において「制御性T細胞」とは、異常あるいは過剰な免疫応答を抑制する機能を持ち、免疫寛容を担うT細胞を意味する。制御性T細胞は、典型的には、転写因子Foxp3陽性CD4陽性T細胞であるが、転写因子Foxp3が陰性である場合でもIL−10産生性のCD4陽性T細胞である場合には、本発明における制御性T細胞に含まれる。
【0016】
本発明において「制御性T細胞の増殖または集積を誘導する」とは、制御性T細胞の増殖または集積に至る、未成熟T細胞から制御性T細胞への分化を誘導する作用を含む意である。また、インビボにおける作用、インビトロにおける作用、およびエクスビボにおける作用を含む意である。従って、クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質等の投与もしくは摂取により、生体内で制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用、培養している制御性T細胞に、クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質等を作用させることにより、その増殖または集積を誘導する作用、および、生体から採取し、その後生体に導入する予定である制御性T細胞に、クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質等を作用させることにより、その増殖または集積を誘導する作用のいずれをも含む意である。制御性T細胞を導入する生体としては、例えば、制御性T細胞を採取した生体、制御性T細胞を採取した生体とは異なる生体が挙げられる。制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用は、例えば、無菌マウスなどの実験動物に、クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質等を経口投与し、その後、大腸におけるCD4陽性細胞を単離し、該細胞に含まれる制御性T細胞の割合を、フローサイトメトリーにより測定することで、評価することができる(実施例7を参照のこと)。
【0017】
本発明の組成物により増殖または集積を誘導するための制御性T細胞は、好ましくは、転写因子Foxp3陽性の制御性T細胞またはIL−10産生性の制御性T細胞である。
【0018】
本発明の組成物の有効成分である「クロストリジウム属に属する細菌」としては、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する限り、特に制限されない。好ましくは、クラスター14aまたはクラスター4に属する細菌である。これらの細菌は、1種のみを本発明の組成物に用いることもできるが、2種以上の菌種と本発明の組成物とを併用することもできる。クラスター14aまたはクラスター4に属する細菌を複数組み合わせて用いることにより、制御性T細胞に対し優れた作用を発揮させることが可能である。これらクラスターに属する細菌に加えて、他のクラスターに属する細菌(例えば、クラスター3に属する細菌)を組み合わせて用いることもできる。1種以上の菌種を用いる場合(例えば、1種以上の菌種はクラスター14aに属する細菌であり、1種以上の菌種はクラスター4に属する細菌であり、1種以上の菌種はクラスター14a又はクラスター4に属する細菌であり、1種以上の菌種は、クラスター3に属する細菌である場合)、菌種のタイプ及び数は広範囲に及ぶ。用いられる前記タイプ及び数は、因子の種類に基づき決めることができる(因子としては、例えば、所望する効果、制御性T細胞の増殖または集積の誘導または抑制、治療、治療の補助、重症度の軽減または予防の対象となる疾患または病態、受領者の年齢または性別などが挙げられる)。複数の菌種は、同時に摂取または吸収される場合、同一の組成物中に存在することができる。また、複数の菌種を別々に摂取することができ、または組成物を複合して用いることができ、結果として併用して摂取または吸収される場合(併用組成物の場合)、該複数の菌種は2以上の組成物の中に存在することもできる(例えば、それぞれ別々の組成物中に存在することもできる)。また、効果を奏する菌種の数または組み合わせを投与することができる(効果を奏する菌種の数としては、1〜200のうちの任意の数、例えば、1〜100、1〜50、1〜40、1〜30、1〜20、1〜10、1〜5、これら数値範囲のうちの任意の数が挙げられる)。文献(Itoh,K.,and Mitsuoka,T.Characterization of clostridia isolated from faeces of limited flora mice and their effect on caecal size when associated with germ−free mice.Lab.Animals 19:111−118(1985))に記載されている46菌株の一部または全部を組み合わせて用いることが、本発明のある好適な態様として挙げられる。例えば、前記46株のうち、少なくとも1、2以上、3、3以上、4、4以上、5、5以上、6、6以上の菌株、または、46株を含むその他の数の菌株を組わせて用いることができる。また、これら菌株は互いに組み合わせて用いることができ、また前記文献に記載されていない他の菌株と組み合わせて用いることもできる(例えば、クラスター3に属する1または複数の菌株と組み合わせて用いることもできる)。
【0019】
なお、「クロストリジウム属に属する細菌」のクラスターは、例えば、以下に示す方法にて同定することができる。すなわち、クロストリジウム属に属する細菌は、配列番号:64及び65に記載の塩基配列からなるプライマーセット(クロストリジウムクラスター14aに属する細菌用)または配列番号:66及び67に記載の塩基配列からなるプライマーセット(クロストリジウムクラスター4に属する細菌用)を用いたPCRによって分類することができる(実施例18を参照のこと)。また、クロストリジウム属に属する細菌は、配列番号:19及び20に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用い、増幅した16SrRNAの配列を決定することによって分類することができる(実施例7を参照のこと)。
【0020】
本発明の組成物において、クロストリジウム属に属する細菌は、生菌として用いることができるが、死菌体として用いることも考えられる。また、熱にも安定であり、抗生物質等にも耐性を有し、貯蔵期間が長いという観点から、クロストリジウム属に属する細菌は芽胞形状であることが好ましい。
【0021】
本発明における「クロストリジウム属に属する細菌に由来する生理活性物質」は、該細菌に含まれる物質、該細菌の分泌産物、該細菌による代謝産物を含む意である。このような生理活性物質は、該細菌、その培養上清、またはクロストリジウム属に属する菌だけが定着したマウスの腸管内容物から、公知の精製手法により、活性成分を精製することにより同定することが可能である。
【0022】
本発明の組成物の有効成分である「哺乳動物から得られた糞便試料の芽胞形成細菌画分」としては、哺乳動物の糞便中に存在しており、芽胞を形成する細菌であって、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する限り、特に制限されない。
【0023】
また、本発明の組成物の有効成分である「哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分」としては、哺乳動物の糞便をクロロホルム(例えば、3%クロロホルム)で処理して得られる画分であって、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する限り、特に制限されない。
【0024】
なお、本発明において「哺乳動物」とは特に制限されることなく、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコが挙げられる。
【0025】
また、本発明の組成物の有効成分である「画分の培養上清」は、「哺乳動物から得られた糞便試料の芽胞形成細菌画分」又は「哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分」を培地にて培養した際に、これら画分に含まれる細菌等から放出される、該細菌に含まれる物質、該細菌の分泌産物、該細菌による代謝産物を含む意であり、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する限り、特に制限されないが、例えば、前記培養上清のタンパク質画分、前記培養上清のポリサッカライド画分、前記培養上清の脂質画分、前記培養上清の低分子代謝産物画分が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する医薬組成物、飲食品(動物用飼料を含む)、あるいはモデル動物実験などに用いられる試薬の形態であり得る。本実施例において、クロストリジウム属に属する細菌等により誘導された制御性T細胞(Treg細胞)が、エフェクターT細胞の増殖を抑制することが判明した。従って、本発明の組成物は、免疫抑制作用を有する組成物として好適に用いることができる。免疫抑制作用は、例えば、本発明の組成物を経口投与したマウスなどの実験動物から単離した制御性T細胞を、脾臓から単離したエフェクターT細胞(CD4CD25細胞)に作用させ、その後の増殖能を[H]−チミジンの取り込み量を指標に測定することで、評価することができる(実施例14を参照のこと)。
【0027】
本発明の組成物は、例えば、慢性炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症、橋本病などの自己免疫疾患や、花粉症や喘息などのアレルギー疾患を予防または治療するための医薬組成物として、臓器移植などにおける拒絶反応を抑制するための医薬組成物として、免疫機能を改善するための飲食品として、エフェクターT細胞の増殖や機能を抑制するための試薬として、利用することができる。
【0028】
本発明の組成物のより具体的な対象疾患として、自己免疫疾患、アレルギー疾患、臓器移植などにおける拒絶反応に関しては、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease、IBD)、潰瘍性大腸炎、クローン病、スプルー、自己免疫性関節炎、リウマチ性関節炎、1型糖尿病、多発性硬化症、骨髄移植に付随する移植片対宿主拒絶反応、変形性関節症、若年性慢性関節炎、ライム病関節炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、脊椎関節症、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病、甲状腺炎、ぜんそく、乾癬、強皮症皮膚炎(dermatitis scleroderma)、アトピー性皮膚炎、移植片対宿主拒絶反応、臓器移植に関連した急性又は慢性の免疫疾患、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化、播種性血管内凝固症候群、川崎病、グレーブス病(パセドゥ病)、ネフローゼ症候群、慢性疲労症候群、ヴェーゲナー肉芽腫症、ヘノッホ・シェ−ライン紫斑病、腎臓における顕微鏡的血管炎、慢性活動性肝炎、ブドウ膜炎、敗血症性ショック、毒素性ショック症候群、敗血症候群、悪液質、エイズ(後天性免疫不全症候群)、急性横断性脊髄炎、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中、原発性胆汁性肝硬変症、溶血性貧血、多腺性機能不全症候群1型、多腺性機能不全症候群2型、シュミット症候群、成人(急性)呼吸窮迫症候群、脱毛症、円形脱毛症、血清反応陰性関節症、関節症、ライター病、乾癬性関節症、クラミジア感染症、エルシニア・サルモネラ感染に関する関節症、脊椎関節症/動脈硬化症、アトピー性アレルギー、食物アレルギー、花粉アレルギー、自己免疫性水疱性疾患、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、類天疱瘡、線状IgA疾患(linear IgA disease)、自己免疫性溶血性貧血、クームス試験陽性溶血性貧血、後天性悪性貧血、若年性悪性貧血、筋肉脊髄炎/ロイヤルフリー病、慢性粘膜皮膚カンジダ症、巨細胞性動脈炎、原発性硬化性肝炎(primary sclerosing hepatitis)、原因不明自己免疫性肝炎(cryptogenic autoimmune hepatitis)、後天性免疫不全関連疾患(Acquired Immunodeficiency Related Diseases),C型肝炎、分類不能型免疫不全症(分類不能型低ガンマグロブリン血症)、拡張型心筋症、肺線維症(fibrotic Iung disease)、原因不明の線維化性肺胞炎、炎症後間質性肺炎、間質性肺炎、結合組織病間質性肺疾患、混合性結合組織疾患肺疾患、全身性硬化症間質性肺疾患、関節リウマチ間質性肺疾患、全身性エリテマトーデス肺疾患、皮膚筋炎/多発性筋炎肺疾患、シェーグレン病肺疾患、強直性脊椎炎肺疾患、汎血管炎肺疾患(vasculitic diffuse lung disease)、ヘモジデリン沈着症肺疾患、薬剤誘発性間質性肺疾患、放射線線維症、閉塞性細気管支炎、慢性好酸球性肺炎、リンパ球浸潤性肺疾患、感染後間質性肺炎、痛風性関節炎、自己免疫性肝炎、1型自己免疫性肝炎(古典的自己免疫性又はルポイド肝炎)、2型自己免疫性肝炎抗(抗LKM 1抗体肝炎)、自己免疫性低血糖、黒色表皮腫によるインスリン受容体異常症 B 型、副甲状腺機能低下症、臓器移植に関連した免疫疾患、臓器移植に関連した慢性免疫疾患、変形性関節症、原発性硬化性胆管炎、特発性白血球減少症、自己免疫性好中球減少症、腎疾患 NOS(renal disease NOS)、糸球体腎炎、腎臓における顕微鏡的血管炎、円板状エリテマトーデス、特発性男子不妊症又はNOS、精子自己免疫疾患(sperm autoimmunity)、多発性硬化症(全てのサブタイプに関する)、インスリン依存性糖尿病、交感性眼炎、肺高血圧症による結合組織病、グッドパスチャー症候群、結節性多発動脈炎の肺症状、急性リウマチ熱、リウマチ様脊椎炎、スティル病、全身性硬化症、高安病/動脈炎、自己免疫性血小板減少症、特発性血小板減少症、自己免疫性甲状腺疾患、甲状腺機能亢進症、甲状腺腫甲状腺機能低下症(橋本病)、萎縮性自己免疫性甲状腺機能低下症(atrophic autoinmiune hypothyroidism)、原発性粘液水腫、水晶体起因性ブドウ膜炎、原発性血管炎、白斑、アレルギー性鼻炎(花粉アレルギー)、アナフィラキシー、ペットアレルギー、ラテックスアレルギー、薬物アレルギー、アレルギー性鼻炎結膜炎、好酸球性食道炎、好酸球増加症候群、好酸球性胃腸炎、及び皮膚エリスマトーデスが挙げられる。
【0029】
また、本発明の組成物は、免疫を介した過度な炎症によるダメージにより、感染症に対する耐性が損なわれている個体の感染症を予防または治療するための医薬組成物としても利用することができる。
【0030】
このような、宿主の恒常的な状態(ホメオスタシス)の維持又は回復を損ない、結果として免疫病理学的な組織ダメージを与える感染性病原体としては例えば、サルモネラ、赤痢菌、クロストリジウム.ディフィシル(C.difficile)、マイコバクテリウム(疾患としては結核)、原虫(疾患としてはマラリア)、糸状線虫類(疾患としてはフィラリア症)、住血吸虫(疾患としては住血吸虫症)、トキソプラズマ(疾患としてはトキソプラズマ症)、リーシュマニア(疾患としてはリーシュマニア症)、HCV及びHBC(疾患としてはC型肝炎及びB型肝炎)、並びに単純ヘルペスウィルス(疾患としてはヘルペス)が挙げられる。
【0031】
本発明における組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤などとして、経口的または非経口的に使用することができる。
【0032】
これら製剤化においては、薬理学上もしくは飲食品として許容される担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。
【0033】
また、これら製剤化においては、大腸における制御性T細胞の増殖または集積をより効率的に誘導するという観点から、特に経口投与を目的とする製剤においては、本発明における組成物を大腸に効率良く送達することを可能にする組成物と組み合わせることが好ましい。
【0034】
このような大腸への送達を可能とする組成物又は方法については特に制限されることなく、公知の組成物又は方法を適宜採用することができ、例えば、pH感受性組成物、より具体的には、胃を通過した後、pHがアルカリ性になった時に内容物を放出する腸溶性ポリマーが挙げられる。また、pH感受性組成物を製剤化に利用する場合は、該組成物の分解される閾値がpH6.8〜7.5である高分子であることが好ましい。かかる数値範囲は、胃の遠位部において生じているアルカリ性側へのpHシフトの範囲であるため、大腸への送達に利用するのに好適な範囲となる。
【0035】
さらに、大腸への送達を可能とする組成物としては、内包物の放出をおよそ小腸通過時間に相当する3〜5時間遅らせることにより大腸への送達を確保する組成物が挙げられる。また、放出を遅らせる組成物の製剤化においては、胃腸液に接触することによって水和して膨張し、それによって内包物を効果的に放出するハイドロゲルを殻とする製剤化が挙げられる。さらに、放出を遅らせる計量ユニットとしては、薬剤をコーティング、又は選択的コーティング材料を有する、薬剤含有組成物が挙げられる。かかる選択的コーティング材料としては例えば、生体内分解性ポリマー、徐々に加水分解されていくポリマー、徐々に水溶していくポリマー、及び/又は酵素分解性ポリマーが挙げられる。また、効率的に放出を遅らせるのに好適なコーティング材料としては特に制限はなく、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースといったセルロース系ポリマー、メタクリル酸重合体及び共重合体といったアクリル酸重合体及び共重合体、ポリビニルピロリドンといったビニル酸重合体及び共重合体が挙げられる。
【0036】
また、大腸への送達を可能とする組成物としては、大腸粘膜特異的に接着する生体接着性組成物(例えば、米国特許第6.368.586号明細書に記載のポリマー)、消化管において特に生物学的製剤をタンパク質分解酵素活性による分解から守るためにプロテアーゼ阻害剤を組み込んだ組成物が挙げられる。
【0037】
さらに、大腸への送達を可能とするシステムとしては、例えば、細菌発酵によるガス産生の結果として生じる胃の遠位部における圧力変化を利用して内容物を放出するような、圧力変化によって引き起こされる大腸への送達システムが挙げられる。かかるシステムとしては特に制限はないが、より具体的には、疎水性ポリマー(例えばエチルセルロース)によってコートされた、坐薬の基剤に分散された内包物からなるカプセルが挙げられる。
【0038】
また、大腸への送達を可能とするシステムとしては、例えば、大腸に存在する酵素(例えば、炭水化物−加水分解酵素、炭水化物−還元酵素)によって特異的に分解される大腸への送達システムが挙げられる。かかるシステムとしては特に制限はないが、より具体的には、非でんぷん性多糖類、アミロース、キサンタンガム、及びアゾポリマーといった食物成分を利用したシステムが挙げられる。
【0039】
本発明の組成物を医薬組成物として用いる場合には、免疫抑制に用いられる公知の医薬組成物と併用してもよい。かかる公知の医薬組成物としては特に制限はないが、コルチコステロイド、メサラジン、メサラミン、スルファサラジン、スルファサラジン誘導体、免疫抑制剤、シクロスポリンA、メルカプトプリン、アザチオプリン、プレドニゾン、メトトレキサート、抗ヒスタミン、グルココルチコロイド、エピネフリン、テオフィリン、クロモグリク酸ナトリウム、抗ロイコトリエン、抗コリン鼻炎薬、抗コリン充血除去剤、肥満細胞安定化剤、モノクローナル抗IgE抗体、ワクチン(好ましくは、次第にアレルゲンの量を上げていくワクチン接種に用いられるワクチン)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも一の治療用組成物が挙げられ、これらを本発明の組成物と併用することが好ましい。
【0040】
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品、あるいは動物用飼料であり得る。本発明の飲食品は、上記のような組成物として摂取することができる他、種々の飲食品として摂取することもできる。飲食品の具体例としては、ジュース、清涼飲料水、茶飲料、ドリンク剤、ゼリー状飲料、機能性飲料等の各種飲料;ビール等のアルコール飲料;飯類、麺類、パン類およびパスタ類等の炭水化物含有食品;魚肉ハム、ソーセージ、水産練り製品等の練製品;カレー、あんかけ、中華スープ等のレトルト製品;スープ類;牛乳、乳飲料、アイスクリーム、チーズ、ヨーグルト等の乳製品;みそ、ヨーグルト、発酵飲料、漬け物等の発酵物;豆製品;ビスケット、クッキーなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、ゼリー、プリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;インスタントスープ、インスタントみそ汁等のインスタント食品、電子レンジ対応食品等が挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。 本発明の組成物は、ヒトを含む動物を対象として使用することができるが、ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などを対象とすることができる。具体的には、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒル、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サルなどが挙げられるが、これらに制限されない。
【0041】
また、本発明においては、理論に束縛されることは望まないが、Firmicutesグループ(クロスロリジウム クラスター4及び14aが属するグループ)に属する細菌の相対存在量が豊富である個体の方が、Bacteroidetesグループに属する細菌の相対存在量が豊富である個体よりも体重が増加している。従って、本発明の組成物によって、栄養の吸収を整え、飼料効率を向上させることができる。かかる観点から、本発明の組成物は、体重増加促進のため、又は飼料効率の良い動物用飼料に用いることができる。
【0042】
さらに、本発明の組成物を抗生物質無添加飼料に添加することによって、抗生物質含有飼料と同等に又はそれよりも多く、飼料摂取対象の体重を増加させ、また典型的な抗生物質含有飼料と同程度に胃の中の病原菌を減らすことができるため、本発明の組成物は抗生物質の添加を必要としない動物用飼料に用いることができる。
【0043】
また、家畜の生産に容易に組み込むことができない、商業的に利用されている既存の菌(Lactobacillus及びBifidobacteria)とは違い、芽胞形状の本発明の組成物は、ペレット化され、スプレーされ、又は容易に動物飼料に混合することができ、飲料水にも添加することもできる。
【0044】
かかる本発明の組成物を用いた動物飼料の摂取に関しては特に制限はなく、定期的に、選択的に対象に摂取させてもよく、ある一時期(例えば、出生時、離乳期、又は、摂取対象を移動(relocation)又は輸送(shipping)する際に摂取させてもよい。
【0045】
さらに前述の観点から、本発明の組成物は栄養不良状態のヒトに好適に用いること、すなわち、摂取対象がヒトである場合においても、体重増加を促進させるため、また食物からのエネルギー吸収を亢進させるため、本発明の組成物を好適に用いることができる。
【0046】
本発明における飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。当該飲食品においては、免疫抑制作用による免疫機能の改善に有効な1種もしくは2種以上の成分(例えば、栄養素など)を添加してもよい。また、免疫機能の改善以外の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0047】
また、通常のプロバイオテック株が破壊されてしまうような加工工程を要する食品にも好適に組み込むことができる。すなわち、大抵の商業利用が可能なプロバイオテック株は、熱処理、長期保管、冷凍処理、機械的ストレス処理、又は高圧処理(例えば、押し出し成形及びロール成形)を加工に要する食品に組み込むことができない。一方、本発明の組成物は芽胞を形成するという有利な特性を有しているため、そのような加工食品に容易に組み込むことができる。
【0048】
例えば、本発明の組成物は乾燥食品の中でも芽胞形状にて生存することができ、摂取された際にもまだ生存することが可能である。同様に、本発明の組成物は低温殺菌加工、典型的には70℃以上及び沸点以下の温度による加工にも耐えられる。それゆえ、乳製品の全ての種類に組み込むことができる。さらに、何年もの長期保存にも本発明の組成物は耐えることができ、焼く及び煮るといった高温工程にも耐え、冷凍及び冷蔵といった低温工程にも耐え、押し出し成形及びロール成形といった高圧処理にも耐えられる。
【0049】
かかる厳しい条件の工程を要する食品としては特に制限はなく、例えば、食べるために電子レンジでの加工を要する食品(例えば、オートミール)、食べるために焼くことを要する食品(例えば、マフィン)、食べるために短時間殺菌・高温処理を要する食品(例えば、ミルク)、及び飲むために加熱を要する食品(例えば、ホットティー)が挙げられる。
【0050】
本発明の組成物を投与または摂取する場合、その投与量または摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品など)などに応じて、適宜選択される。例えば、1回当たりの投与量または摂取量は、一般に、0.01mg/kg体重〜100mg/kg体重であり、好ましくは、1mg/kg体重〜10mg/kg体重である。本発明は、このように、クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質を対象に投与もしくは摂取させることを特徴とする、対象における免疫抑制方法をも提供するものである。
【0051】
本発明の組成物の製品(医薬品、飲食品、試薬)またはその説明書は、免疫を抑制するために用いられる旨の表示(免疫抑制作用を有する旨の表示、あるいはエフェクターT細胞の増殖や機能を抑制する作用を有する旨の表示を含む)を付したものであり得る。ここで「製品または説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物などに表示を付したことを意味する。
【0052】
<制御性T細胞の増殖または集積を誘導するための方法>
前述の通り、及び本実施例において示す通り、本発明の組成物を個体に投与することにより、該個体において制御性T細胞の増殖または集積を誘導することができる。従って、本発明は、下記(a)〜(c)からなる群より選択される少なくとも1の物質を個体に投与する工程を含む、該個体において制御性T細胞の増殖又は集積を誘導するための方法を提供することもできる
(a) クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) 哺乳動物から得られた糞便試料の芽胞形成細菌画分または該画分の培養上清
(c) 哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分、前記画分の培養上清。
【0053】
なお、本発明において「個体」とは特に制限されることなく、例えば、ヒト、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などが挙げられる。また「個体」は、健常状態であってもよく、羅患状態であってもよい。
【0054】
さらに、後述の実施例5において示すように、制御性T細胞の増殖又は集積においてグラム陽性共生細菌が主要な役割を担っていることから、本発明は、グラム陰性菌に対する抗生物質を個体に投与する工程を含む、該個体において制御性T細胞の増殖又は集積を誘導するための方法を提供することもできる。
【0055】
本発明において、「グラム陰性菌に対する抗生物質」としては特に制限はなく、例えば、アミノグリコシド系抗生物質(アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルミシン、トブラマイシン、パロモマイシン)、セファロスポリン系抗生物質(セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフォキソチン(cefoxotin))、スルホンアミド、アンピシリン、及びストレプトマイシンが挙げられる。また、理論に束縛されることは望まないが、本発明にかかる「グラム陰性菌に対する抗生物質」は、グラム陰性菌を減少させ、グラム陽性菌の定着に寄与するものが好ましい。
【0056】
さらに、アーモンド皮、イヌリン、オリゴフルクトース、ラフィノース、ラクチュロース、ペクチン、へミセルロース(例えば、キシログルカン、αグルカン)、アミロペクチン及び難消化性デンプンといった上部消化管では分解されず、腸管内で腸内細菌の生育を促す、プレバイオティクス(prebiotic)組成物や、アセチル−CoA、ビオチン、ビート糖蜜、及び酵母抽出物といった増殖因子は、クロストリジウム属に属する細菌の増殖に寄与することから、本発明は、これら物質からなる群より選択される少なくとも一の物質を個体に投与する工程を含む、該個体において制御性T細胞の増殖又は集積を誘導する方法を提供することもできる。
【0057】
また、本発明の「制御性T細胞の増殖又は集積を誘導する方法」においては、本発明の組成物、前記「グラム陰性菌に対する抗生物質」、前記「プレバイオティクス組成物や増殖因子」を併用してもよい。かかる併用としては特に制限はなく、例えば、前記「グラム陰性菌に対する抗生物質」を事前に個体に投与した後に本発明の組成物を投与すること、前記「グラム陰性菌に対する抗生物質」と本発明の組成物を同時に個体に投与すること、前記「プレバイオティクス組成物や増殖因子」を事前に個体に投与した後に本発明の組成物を投与すること、前記「プレバイオティクス組成物や増殖因子」と本発明の組成物を同時に個体に投与すること、本発明の組成物、前記「グラム陰性菌に対する抗生物質」、及び前記「プレバイオティクス組成物や増殖因子」を同時に、又は各々適宜随時に個体に投与することが挙げられる。
【0058】
さらに、本発明の組成物、前記「グラム陰性菌に対する抗生物質」、及び前記「プレバイオティクス組成物や増殖因子」からなる群から選択される少なくとも一の物質と共に治療用組成物を個体に投与しても良い。
【0059】
かかる治療用組成物としては特に制限はないが、コルチコステロイド、メサラジン、メサラミン、スルファサラジン、スルファサラジン誘導体、免疫抑制剤、シクロスポリンA、メルカプトプリン、アザチオプリン、プレドニゾン、メトトレキサート、抗ヒスタミン、グルココルチコロイド、エピネフリン、テオフィリン、クロモグリク酸ナトリウム、抗ロイコトリエン、抗コリン鼻炎薬、抗コリン充血除去剤、肥満細胞安定化剤、モノクローナル抗IgE抗体、ワクチン(好ましくは、次第にアレルゲンの量を上げていくワクチン接種に用いられるワクチン)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも一の治療用組成物が挙げられ、これらを上記物質と併用することが好ましい。
【0060】
また、本発明の組成物、前記「グラム陰性菌に対する抗生物質」、及び前記「前生物学的組成物や増殖因子」からなる群から選択される少なくとも一の物質と、治療用組成物との併用としては特に制限はなく、例えば、前記「一の物質」と治療用組成物とを同時に、又は各々適宜随時に個体に、経口又は非経口的に投与することが挙げられる。
【0061】
さらに、前述の「制御性T細胞の増殖又は集積を誘導する方法」において、本発明の組成物等の投与により、制御性T細胞の増殖又は集積を誘導できているかどうかについては、制御性T細胞の数、大腸のT細胞群における制御性T細胞の割合、制御性T細胞の機能、及び制御性T細胞のマーカーの発現からなる群より選択される少なくとも一が増加又は増強されていることを指標として判断することができ、IL−10発現の促進、CTLA4発現の促進、IDO発現の促進、及びIL−4発現の抑制からなる群より選択される一の測定結果を制御性T細胞の増殖又は集積を誘導できていることの指標とすることが好ましい。
【0062】
なお、かかる発現を検出する方法としては、転写レベルの遺伝子発現を検出する場合には、例えば、ノーザンブロッティング法、RT−PCR法、ドットブロット法が挙げられ、翻訳レベルの遺伝子発現を検出する場合には、例えば、ELISA法、ラジオイムノアッセイ、イムノブロッティング法、免疫沈降法、フローサイトメトリーが挙げられる。
【0063】
また、かかる指標を測定するのに用いられる試料としては特に制限はなく、個体から採取した血液、生検で得られた組織片が挙げられる。
【0064】
<本発明の組成物に対する個体の応答及び/又は個体の予後を予測するための方法>
本発明は、個体の微生物叢におけるクロスロリジウム属に属する細菌の絶対量又は割合を測定し、典型的な健康状態の個体における同様の測定をして得られた基礎値と比較し、クロストリジウム属に属する細菌の割合又は絶対値が減少していることは、該個体は本発明の組成物に対して応答性を有するであろうと判定する方法を提供することができる。
【0065】
<制御性T細胞の増殖または集積を阻害するための方法>
後述の実施例5において示すように、制御性T細胞の増殖又は集積においてグラム陽性共生細菌が主要な役割を担っていることから、本発明は、グラム陽性菌に対する抗生物質を個体に投与する工程を含む、該個体において制御性T細胞の増殖又は集積を阻害するための方法を提供することもできる。
【0066】
本発明において、「グラム陽性菌に対する抗生物質」としては特に制限はなく、例えば、セファロスポリン系抗生物質(セファレキシン、セフロキシム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファクロル、セファマンドール、セフォキソチン(cefoxotin)、セフプロジル、セフトビプロール(ceftobiprole))、フルオロキノロン系抗生物質(シプロ、レバキン(Levaquin)、フロキシン(floxin)、テクインtequin、アベロックス(avelox)、ノルフロックス(norflox))、テトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン)、ペニシリン系抗生物質(アモキシシリン、アンピシリン、ペニシリンV、ジクロキサシリン、カルベニシリン、バンコマイシン、メチシリン)、カルバペネム系抗生物質(エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム)が挙げられる。
【0067】
また、前述の通り、本発明において「個体」とは特に制限されることなく、例えば、ヒト、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などが挙げられる。また「個体」は、健常状態であってもよく、羅患状態であってもよい。かかる羅患状態としては特に制限されることなく、例えば、癌免疫療法を受けている状態、感染症を患っている状態が挙げられる。
【0068】
さらに、本発明において、「制御性T細胞の増殖又は集積を阻害するための方法」の別の態様として、下記(a)〜(c)からなる群より選択される少なくとも一の物質を抗原とする、抗体、抗体フラグメント、又はペプチドを個体に投与する工程を含む、該個体において制御性T細胞の増殖又は集積を阻害するための方法を提供することもできる
(a) クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) 哺乳動物から得られた糞便試料の芽胞形成細菌画分または該画分の培養上清
(c) 哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分、前記画分の培養上清。
【0069】
<ワクチン組成物、並びに該組成物による感染症、自己免疫疾患を治療又は予防するための方法>
前述の通り、及び後述の実施例15において示すように、大腸におけるクロストリジウムによるTreg細胞の誘導は、局所性及び全身性の免疫応答に重要な役割を担っていることから、本発明は「下記(a)〜(c)からなる群より選択される少なくとも1の物質を含む、ワクチン組成物
(a) クロストリジウム属に属する細菌
(b) 哺乳動物から得られた糞便試料の芽胞形成細菌画分中の細菌芽胞
(c) 哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分中の細菌」、並びに「該ワクチン組成物を個体に投与し、個体における、感染症及び自己免疫疾患から選択される少なくとも一の疾患を治療、該疾患の治療を補助、該疾患の重症度を軽減又又は該疾患を予防するための方法」を提供することもできる。
【0070】
なお、かかる「自己免疫疾患」としては特に制限はなく、<制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物>に記載の「具体的な対象疾患」が例として挙げられる。また「感染症」としては特に制限はなく、<制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有する組成物>に記載の「感染性病原体」が関与する感染症が例として挙げられる。
【0071】
<制御性T細胞の増殖又は集積を促進する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法>
本発明は、下記工程(1)〜(6)を含む、制御性T細胞の増殖又は集積を促進する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法をも提供することができる。
(1)下記(a)〜(c)からなる群より選択される少なくとも一の物質から被験物質を調製する工程
(a) クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質
(b) 哺乳動物から得られた糞便試料の芽胞形成細菌画分または該画分の培養上清
(c) 哺乳動物から得られた糞便試料のクロロホルム処理画分または該画分の培養上清、
(2)IL−10遺伝子発現の制御下においてレポーター遺伝子を発現させる非ヒト哺乳動物を調製する工程、
(3)前記被験物質を前記非ヒト哺乳動物に接触させる工程、
(4)前記被験物質を接触させた後、前記非ヒト哺乳動物のCD4Foxp3細胞集団において、前記レポーター遺伝子が発現している細胞を検出し、該細胞の数又は前記レポーター遺伝子が発現していないCD4Foxp3細胞集団に対する割合を求める工程、(5)前記被験物質に接触していない前記非ヒト哺乳動物において、CD4Foxp3細胞集団における前記レポーター遺伝子が発現している細胞を検出し、該細胞の数又は前記レポーター遺伝子が発現していないCD4Foxp3細胞集団に対する割合を求める工程、
(6)工程(4)において求めた前記数又は前記割合と工程(5)において求めた前記数又は前記割合とを比較し、工程(4)において求めた前記数又は前記割合が工程(5)において求めたそれらより多い場合に、前記被験物質はTreg細胞の増殖又は集積を促進する化合物であると判定する工程。
【0072】
本発明にかかる「被験物質」としては、前記(a)〜(c)からなる群より選択される少なくとも一の物質から調製される物質であれば特に制限はなく、例えば、前記(a)〜(c)からなる群より選択される少なくとも一の物質由来のタンパク質、ポリサッカライド、脂質、核酸が挙げられる。
【0073】
本発明にかかる「IL−10遺伝子発現の制御下においてレポーター遺伝子を発現させる非ヒト哺乳動物」はIL−10遺伝子発現制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー)によって発現が制御されるレポーター遺伝子を有している非ヒト哺乳動物あればよく、特に制限はされることはない。かかるレポーター遺伝子としては、例えば、蛍光蛋白質(例えば、GFP)をコードする遺伝子、ルシフェラーゼをコードする遺伝子が挙げられ、本発明にかかる「IL−10遺伝子発現の制御下においてレポーター遺伝子を発現させる非ヒト哺乳動物」としては、後述の実施例において示すIl10venusマウスを好適に用いることができる。
【0074】
本発明にかかる「接触」としては特に制限はなく、例えば、前記被験物質を前記非ヒト哺乳動物に経口又は非経口的(例えば、腹腔内投与、静脈注射)に投与することが挙げられる。
【0075】
また、本発明は、該方法に用いられる、IL−10遺伝子発現の制御下においてレポーター遺伝子を発現させる非ヒト哺乳動物を提供することもできる。
【0076】
さらに、本発明は、下記工程(1)〜(3)を含む、クロストリジウム属に属する細菌のサンプルから、制御性T細胞の増殖または集積を促進する活性を有する化合物を単離するための方法を提供することもできる
(1)クロストリジウム属に属する細菌のサンプルからゲノムDNAを調製する工程、
(2)前記ゲノムDNAをクローニングシステムに挿入し、クロストリジウム属に属する細菌のサンプル由来の遺伝子ライブラリーを調製する工程、
(3)工程(2)で得られた遺伝子ライブラリーを用いて、制御性T細胞の増殖または集積を促進する活性を有する化合物を単離する工程。
【0077】
かかる工程において、調製方法や単離方法については特に制限はなく、インビトロ又はインビボの系における公知の技術を適宜用いることができる。また、この方法によって単離される化合物としては特に制限はなく、クロストリジウム属に属する細菌由来の核酸(例えば、DNA、mRNA、rRNA)、クロストリジウム属に属する細菌由来のポリペプチド又はタンパク質が挙げられる。
【0078】
<本発明にかかる他の実施態様>
本発明は上記態様以外にも以下に示す態様も提供することができる。
【0079】
すなわち、本発明の組成物の個体への投与前より投与後において、クロストリジウム属に属する細菌の割合又は絶対数が増加していることを免疫抑制が増強されていることの指標とする、該個体における微生物叢の組成を測定する方法も提供することができる。かかる方法において、微生物叢の組成を測定する方法としては特に制限はなく、公知の技術(例えば、16srRNAシークエンシング)を適宜用いることができる。
【0080】
また、本発明の組成物の個体への投与前より投与後において、該個体のTreg細胞の分化が増加していることを免疫抑制(又は免疫調節)が増強されていることの指標とする、Treg細胞の分化を測定する方法も提供することができる。
【0081】
さらに、本発明の組成物を抗生物質治療を行っている個体に投与することもできる。かかる投与の時期としては特に制限はなく、例えば、本発明の組成物を抗生物質治療に先んじて又は同時に投与することができる。また、本発明の生成物としては、抗生物質に対して耐性を有するという観点から、芽胞形状を有しているものを投与することが好ましい。
【0082】
さらに、かかる投与の好適な実施形態としては、グラム陽性菌に対する抗生物質の投与後又は投与と同時に本発明の組成物を投与することが挙げられる。なお、かかる「グラム陽性菌に対する抗生物質」としては特に制限はなく、例えば、セファロスポリン系抗生物質(セファレキシン、セフロキシム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファクロル、セファマンドール、セフォキソチン(cefoxotin)、セフプロジル、セフトビプロール(ceftobiprole))、フルオロキノロン系抗生物質(シプロ、レバキン(Levaquin)、フロキシン(floxin)、テクインtequin、アベロックス(avelox)、ノルフロックス(norflox))、テトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン)、ペニシリン系抗生物質(アモキシシリン、アンピシリン、ペニシリンV、ジクロキサシリン、カルベニシリン、バンコマイシン、メチシリン)、カルバペネム系抗生物質(エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム)が挙げられる。
【0083】
また、かかる投与の好適な実施形態として、バンコマイシン、メトロニダゾール、リネゾリド、ラモプラニン(ramoplanin)、又はフィダキソマイシン(fidaxomicin)を用いた治療の後に(又は同時に)発明の組成物を投与することが挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
なお、実施例において用いたマウスは下記の通りに用意又は作製した。また、以下の説明において、マウスの名称の前に「SPF」又は「GF」と付けて、各マウスを称することもあるが、これらは各々、特定の病原性細菌の非存在下(specific pathogen−free、SPF)又は無菌(Germ−Free、GF)下で維持されたマウスであることを示している。
【0086】
<マウス>
SPF又はGF条件下で維持されたC57BL/6、Balb/c、及びIQIマウスは三協ラボサービス(日本)、SLC(日本)、クレア(日本)又はジャクソン研究所(USA)より購入した。GFマウス及び純粋隔離群(ノトバイオノート)マウスは東京大学、ヤクルト中央研究所、三協ラボサービスのノトバイオート施設内で繁殖させ、維持した。Myd88−/−Rip2−/−、及びCard9−/−マウスは非特許文献1〜3に記載の通りに作製し、8代以上の戻し交配を行い、遺伝的背景をC57BL/6にした。Foxp3eGFPマウスはジャクソン研究所から購入した。
【0087】
Il10venusマウス>
Il10プロモーター制御下にIl10及びVenusがコードされているバイシストロニックな領域を作製するために、先ず、targeting constructを作製した。すなわち、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)に続いて、配列内部リボソーム侵入部位(IRES)、黄色蛍光蛋白質(Venus)及びSV40ポリAシグナル(SV40 polyA)からなるカセット(IRES−Venus−SV40ポリAシグナルカセット、非特許文献4参照)をIl10遺伝子の終止コドンとポリAシグナル(エクソン5)との間に挿入した。次に得られたtargeting constructを用いて、マウスゲノム内のIl10遺伝子領域との相同組み換えを生じさせ、Il10venusアレルを有するIl10venusマウスを作製した(図1参照)。なお、図1中、「tk」はチミジンキナーゼをコードする遺伝子を示し、「neo」はネオマイシン耐性遺伝子を示し、「BamH1」は制限酵素BamH1による切断部位を示す。
【0088】
また、Il10venusマウスからゲノムDNAを抽出し、BamH1で処理し、図1中に示すプローブを用いてサザンブロッティングを行った。得られた結果は図2に示す。野生型及びIl10venusのアレルは各々19kb及び5.5kbの大きさのバンドで検出されるため、図2に示した結果から明らかなように、Il10venusマウスのゲノム内において図1に示した相同組み換えが生じていることが確認された。
【0089】
さらに、FACSAriaを用いて、Il10venusマウスの大腸粘膜固有層のCD4Venus細胞又はCD4Venus細胞をソーティングした。そして、後述の方法にて、ABI7300システムによるリアルタイムRT−PCRを行い、IL−10mRNAの発現量を調べた。得られた結果は図3及び4に示す。図3及び4に示した結果から明らかなように、IL−10mRNAの発現はCD4Venus細胞のみで検出され、Il10venusマウスにおいて、IL−10mRNAの発現はVenusの発現として正確に反映されていることが確認された。なお、かかるIl10venusマウスは実験動物中央研究所(川崎、日本)で無菌状態にし、三協ラボサービス(東京、日本)のビニールアイソレーター内で維持して、下記実施例において用いた。
【0090】
また、実施例における各実験並びに解析は下記の通りに行った。
【0091】
<細菌のマウスへの定着方法並びにその解析>
非特許文献5、6の記載の通りに、SFB又はクロストリジウムを定着させたマウスを作製し、得られたノトバイオノートマウスの盲腸内容物又は糞便を滅菌水または嫌気性希釈液に溶かし、そのままあるいはクロロホルム処理をした後、GFマウスに経口投与した。乳酸桿菌属細菌3株及びバクテロイデス属細菌16株はBL及びEG寒天培地で嫌気的に個々に培養した。培養した細菌を回収して嫌気性TS培地に懸濁し、強制的にGFマウスに経口投与した。マウスにおける細菌の定着具合は、糞便を塗沫標本にし顕微鏡観察して評価した。
【0092】
<細胞分離及びフローサイトメトリー>
大腸及び小腸粘膜固有層からリンパ球を単離するために、小腸及び大腸を採取し、長手方向に開裂し、中の糞便等を洗い除去した。そして、37℃で20分間、5mM EDTA含有HBSS中にて振盪した。上皮細胞及び脂肪組織を除去した後、腸組織は細かく小切片にし、RPMI1640(4%ウシ胎児血清(FBS)、1mg/mlコラゲナーゼD、0.5mg/mlディスパーゼ、及び40μg/ml DNaseI(全てロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製))を添加し、37℃の水浴中で1時間振盪した。消化した組織を5mM EDTA含有HBSSで洗浄し、5ml 40%パーコール(GE Healthcare)に再懸濁し、15mlファルコンチューブ中の2.5ml 80%パーコールの上に重層した。そして、室温下にて2000rpmで20分間遠心し、パーコール密度勾配による細胞分離を行った。境界面の細胞を回収し、粘膜固有層リンパ球として使用した。回収した細胞は染色バッファー(PBS、2% FBS、2mM EDTA、及び0.09% NaN)に懸濁し、PE−又はPE−Cy7で標識された抗CD4抗体(RM4−5、BD Biosciences)を用いて染色した。CD4を染色した後、細胞内Foxp3の染色は、Cytofix/Cytoperm Kit Plus with Golgistop(BD Biosciences)またはFoxp3 Staining Buffer Set(eBioscience)及びAlexa647−で標識された抗Foxp3抗体(FJK−16s、eBioscience)を用いて行った。フローサイトメトリーはFACScant IIを使用して行い、データはFlowJoソフトウェア(TreeStar Inc.)により解析した。細胞のソーティングは、FACSAriaを使用して行った。
【0093】
<リアルタイムRT−PCR>
RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて調製したRNAから、MMV逆転写酵素(Promega)により、cDNAを合成した。得られたcDNAは、Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)及びABI 7300 real time PCR system(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムRT−PCR、又はSYBR Premix Ex Taq(TAKARA)及びLightCycler 480を用いたリアルタイムRT−PCRにて解析した。各々のサンプルにおいてはGAPDHの量で標準化して値を出した。プライマーセットはPrimer Express Version 3.0(Applied Biosystems)を用いて設計し、初期評価で90%以上の配列一致性を示したものを選択した。用いたプライマーセットは以下の通りである
Foxp3
5’−GGCAATAGTTCCTTCCCAGAGTT−3’(配列番号:1)
5’−GGGTCGCATATTGTGGTACTTG−3’(配列番号:2)
CTLA4
5’−CCTTTTGTAGCCCTGCTCACTCT−3’(配列番号:3)
5’−GGGTCACCTGTATGGCTTCAG−3’(配列番号:4)
GITR
5’−TCAGTGCAAGATCTGCAAGCA−3’(配列番号:5)
5’−ACACCGGAAGCCAAACACA−3’(配列番号:6)
IL−10
5’−GATTTTAATAAGCTCCAAGACCAAGGT−3’(配列番号:7)
5’−CTTCTATGCAGTTGATGAAGATGTCAA−3’(配列番号:8)
GAPDH
5’−CCTCGTCCCGTAGACAAAATG−3’(配列番号:9)
5’−TCTCCACTTTGCCACTGCAA−3’(配列番号:10)
Mmp2
5’−GGACATTGTCTTTGATGGCA−3’(配列番号:11)
5’−CTTGTCACGTGGTGTCACTG−3’(配列番号:12)
Mmp9
5’−TCTCTGGACGTCAAATGTGG−3’(配列番号:13)
5’−GCTGAACAGCAGAGCCTTC−3’(配列番号:14)
Mmp13
5’−AGGTCTGGATCACTCCAAGG−3’(配列番号:15)
5’−TCGCCTGGACCATAAAGAA−3’(配列番号:16)
Ido1
5’−AGAGGATGCGTGACTTTGTG−3’(配列番号:17)
5’−ATACAGCAGACCTTCTGGCA−3’(配列番号:18)。
【0094】
<大腸 腸上皮細胞(IEC)の調製及び培養>
先ず、大腸を採取し、長手方向に開裂し、PBSにてすすいだ。次に1mM ジチオスレイトール(DTT)、37℃、30分間、振盪機により処理し、次いで1分間ボルテックスすることにより、上皮組織の完全性(epithelial integrity)を崩壊させた。遊離したIECを回収し、5ml 20%パーコールに懸濁し、15mlファルコンチューブ中の2.5ml 80%パーコールの上に重層した。そして、25℃にて780gで20分間遠心し、パーコール密度勾配による細胞分離を行い、境界面の細胞を回収し、大腸IEC(純度90%以上、生存率95%)として使用した。回収して得られたIECは、10%FBS含有RPMIに懸濁し、1×10個を24ウェルプレートにて24時間培養した。その後、培養上清を回収し、活性型TGF−β1のレベルをELISA(Promega)によって測定した
また、インビトロT細胞培養のため、GFマウス又はクロストリジウム定着マウスから単離したIECを培養した50%駲化培地と、25ng/ml hIL−2(Peprotech)と共に、96ウェル丸底プレートにて、MACS精製脾臓CD4+T細胞を各ウェル1.5×10個ずつ、25μg/ml 抗TGF−β抗体(R&D)存在下又は非存在下において培養した。なお前記丸底プレートには、10μg/ml 抗CD3抗体及び抗CD28抗体(BD Bioscience)が結合してある。そして、5日間培養した後、CD4T細胞を回収し、リアルタイムPCRを行った。
【0095】
<大腸炎実験モデル>
C57BL/6マウス(2週齢)に、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を経口投与し、コンベンショナルな環境下で6週間飼育した。
【0096】
DSS誘導大腸炎モデル作製のため、6日間マウスに2%(wt/vol)DSS(試薬等級、DSS塩、分子量=36〜50kD、MP Biomedicals社製)を飲料水と共に与えた。
【0097】
また、オキサゾロン誘導大腸炎モデル作製のため、150μl 3%オキサゾロン(4−ethoxymethylene−2−phenyl−2−oxazolin−5−one、Sigma−Aldrich)/100%エタノール溶液を経皮塗布することによって、マウスを前感作した。そして、その5日後、浅麻酔下、150μl 1%オキサゾロン/50%エタノール溶液を前感作マウスの直腸内に再投与した。なお、直腸内投与は3.5Fカテーテルを用いて行った。
【0098】
また、各マウスにおいては、体重、潜血、肉眼で確認できる出血(gross blood)、及び便の硬さを毎日分析した。さらに、「S.Wirtz,C.Neufert,B.Weigmann,M.F.Neurath,Nat Protoc 2,541(2007).」の記載に沿って、体重減少率、腸内出血(出血なし、潜血(hemoccult+)、又は肉眼で確認できる出血)、及び便の硬さ(正常便、軟便、又は下痢)に点数をつけ、疾患活動性指数(disease activity index(DAI))を算出した。
【0099】
<OVA特異的IgE反応>
クロストリジウム定着マウス(2週齢)の糞便懸濁液をBALB/c SPFマウスに接種し、コンベンショナルな環境下で飼育した。そして、1μg OVA(グレードV、Sigma)及び2mg アラム(Thermo Scientific)全量 0.2mlをマウス(4週齢時、及び6週齢時)の腹腔内に注射した。かかるマウスの尾の付け根から血清を毎週回収し、OVA特異的IgEをELISA(Chondrex)によって測定した。そして、8週齢時に脾細胞を回収し、各ウェル1×10個ずつ96ウェルプレートに播種し、3日間OVA(100μg/ml)によって刺激した。その後、培養上清を回収し、IL−4及びIL−10レベルをELISA(R&D)によって測定した。
【0100】
<統計解析>
コントロールと実験群との差は、スチューデントt検定によって評価した。
【0101】
(実施例1)
先ず、大腸粘膜固有層における制御性T細胞(Treg細胞)の集積は共生細菌依存的なものであるかどうかを調べた。すなわち、特定の病原性細菌の非存在下(SPF)で飼育されたBalb/cマウスの末梢リンパ節(pLN)、又は、大腸(colon)若しくは小腸(SI)の粘膜固有層からリンパ球を単離し、CD4及びFoxp3の抗体染色を行い、CD4リンパ球におけるFoxp3細胞の比率をフローサイトメトリーを用いて解析した。得られた結果を図5に示す。図5に示した結果から明らかなように、特定の病原性微生物の非存在(SPF)環境下で維持されたマウスの、消化管の粘膜固有層、特に大腸の粘膜固有層において、Foxp3Treg細胞は高頻度に存在していることが確認された。また、大腸の粘膜固有層において、Foxp3Treg細胞数は生後3カ月まで徐々に増加していくが、末梢リンパ節においては生後2週から、その数は基本的に一定であることも確認された。
【0102】
(実施例2)
次に、実施例1で確認された大腸における経時的なTreg細胞の集積は、腸内共生細菌の定着と関連しているかどうかを調べた。すなわち、無菌(GF)又はSPF環境下で飼育したマウス(8週齢:Balb/cマウス、IQIマウス及びC57BL/6マウス)の小腸、大腸及び末梢リンパ節から単離したリンパ球のCD4及びFoxp3の発現について解析し、三回以上の独立した実験から同様の結果を得た。得られた結果は図6及び図7に示す。なお、図7中の白丸は各々、個々のマウスにおけるCD4Foxp3細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。
【0103】
また、SPFマウス及びGFマウス(Balb/Cマウス又はC57BL/6マウス)から粘膜固有層リンパ球を回収し、CD4及びFoxp3の抗体染色を行い、FACSで解析した。得られた結果は図8に示す。なお、図8中の白丸は個々のマウスにおけるCD4Foxp3細胞の絶対数を示し、**は「P<0.001」であることを示し、また、*は「P<0.01」であることを示す。
【0104】
さらに、抗生物質を水とともに8週間経口投与したマウス(SPF C57BL/6マウス)の大腸(colon)及び小腸(SI)の粘膜固有層、パイエル板(PPs)、並びに、腸間膜リンパ節(MLNs)からリンパ球を単離し、CD4及びFoxp3の抗体染色を行い、FACSで解析し、二回以上の独立した実験から同様の結果を得た。得られた結果(個々のマウスのCD4細胞におけるFoxp3細胞の割合)は図9に示す。なお、抗生物質は下記文献の記載の通り、以下の物を組み合わせて使用した
アンピシリン(A;500mg/L Sigma)
バンコマイシン(V;500mg/L ナカライテスク)
メトロニダゾール(M;1g/L ナカライテスク)
ネオマイシン(N;1g/L ナカライテスク)
Rakoff−Nahoum, J. Paglino, F. Eslami−Varzaneh, S. Edberg, R. Medzhitov, Cell 118, 229 (Jul 23, 2004)
Fagarasan et al., Science 298, 1424 (Nov 15, 2002)
図9中、白丸は個々のマウスにおけるCD4Foxp3細胞の割合を示し、水平バーはそれらの平均値を示し、また*は「P<0.01」であることを示し、「AVMN」は投与した抗生物質の種類を、各抗生物質の頭文字をとって示したものである。
【0105】
図6〜9に示した結果から明らかなように、GFマウスの小腸又は末梢リンパ節におけるFoxp3CD4細胞の頻度及び絶対数は、SPFマウスのそれと比較して変わらない、又は多かった(図6〜8参照)。また、抗生物質を8週間経口投与したSPFマウスにおいても、小腸粘膜固有層、パイエル板及び腸間膜リンパ節のTreg細胞数は変わらない、又は増えていた(図9参照)。一方、SPFマウスと比較して、GFマウスの大腸粘膜固有層におけるFoxp3CD4細胞数は有意に減少していた(図6及び7参照)。この減少は、異なる遺伝的背景のマウス(Balb/c、IQI、C57BL/6)においても、異なる動物施設で飼育したマウスにおいても共通して観察された(遺伝的背景に関しては図7参照、異なる動物施設で飼育したマウスに関しては図に示さず)。また、抗生物質を投与したSPF C57BL/6マウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数も有意に減少することも明らかになった(図9参照)。
【0106】
(実施例3)
次に、実施例2で示したGFマウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数の減少は、微生物叢の不在によるものなのかということを直接的に確認した。すなわち、ジャクソン研究所から購入したB6 SPFマウスの糞便懸濁液をGF−IQIマウスに経口投与し(conventionalization)、その3週間後に大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、CD4リンパ球におけるFoxp3の発現を解析した。得られた結果は図10及び図11に示す。なお、図11中の白丸は各々、個々のマウスにおけるCD4Foxp3細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示し、*はStudent t検定において「P<0.01」であることを示し、**は「P<0.001」であることを示す。図10及び11に示した結果から明らかなように、小腸粘膜固有層のTreg細胞数は変わらなかったが、大腸粘膜固有層のTreg細胞数は顕著に増加した。したがって、大腸粘膜固有層におけるFoxp3Treg細胞の集積において、宿主と微生物との相互作用が重要な役割を果たしており、一方、小腸粘膜固有層Treg細胞の集積は異なるメカニズムによるものであることが明らかになった。
【0107】
(実施例4)
次に、M.N.Kweon et al.,J Immunol 174,4365(Apr1,2005)に記載の方法に沿って、マウス消化管関連リンパ組織と、大腸粘膜固有層におけるFoxp3細胞数との関連を調べた。すなわち、妊娠14日目のC57BL/6マウスの腹腔内に、100μgの細胞外ドメイン組み換え蛋白質(リンホトキシンβ受容体(LTβR)とヒトIgG1のFc部位との融合蛋白質(LTβR−Ig)、Honda et al., J Exp Med 193, 621 (Mar 5, 2001)参照)を注入し、かかるマウスから得られた胎児にもLTβR−Igを再度腹腔内に注入し、孤立リンパ小節(ILF)、パイエル板(PP)及びcolonic−patch(CP)が完全に除去されたマウスを作製した。そして、LTβR−Igで処理したマウス、又はラットIgGで処理したマウス(コントロール)の大腸粘膜固有層のCD4細胞におけるFoxp3細胞の割合をFACSにて解析した。得られた結果を図12に示す。なお、図12中、白丸は個々のマウスにおけるFoxp3細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差を示す。図12に示した結果から明らかなように、孤立リンパ小節、パイエル板及びcolonic−patchを欠損させたマウス(LTβR−Igで処理したマウス)の大腸粘膜固有層において、Foxp3細胞の割合はむしろ増加していることが確認された。したがって、GFマウス又は抗生物質で処理したマウスの大腸粘膜固有層におけるTreg細胞数の減少は、単に消化管関連リンパ組織の形成不全による二次的な影響というより、むしろ大腸粘膜固有層におけるTreg細胞集積を促進する腸内細菌によって引き起こされる特定のシグナル伝達が生じなかったことによるものだということが示唆された。
【0108】
(実施例5)
特定の腸内細菌叢(intestinal flora)が大腸Treg細胞の集積を誘導しているかどうかを調べるため、グラム陽性菌に対する抗生物質としてvancomycin、グラム陰性菌に対する抗生物質としてpolymyxin BをSPFマウス(4週齢〜)に4週間投与し、CD4細胞群におけるFoxp3細胞の割合([%]Foxp3in CD4)を分析した。得られた結果を図30に示す。なお図30中、「SPF」はSPFマウス(コントロール)の結果を、「ポリミキシンB」はpolymyxin Bを投与したSPFマウスの結果を、「バンコマイシン」はvancomycinを投与したSPFマウスの結果を示す。また、*は「P<0.01」であることを示す。
【0109】
図30に示した結果から明らかなように、コントロールと比較して、vancomycinを投与したマウスの大腸においてTreg細胞の数は顕著に減少していた。対して、polymyxin Bを投与したマウスにおけるTreg細胞の数に影響は見られなかった。これらのことから、Treg細胞の集積においては、グラム陽性共生細菌が主要な役割を担っていることが示唆された。
【0110】
(実施例6)
最近の報告から、腸のT細胞応答において芽胞形成性細菌(spore−forming bacteria)が重要な役割を担っていることが示唆されている(V.Gaboriau−Routhiau et al.,Immunity 31,677(Oct 16,2009) 参照)。そこで、3%クロロホルムに耐性を示す糞便微生物(芽胞形成細菌画分、spore−forming fraction)をGFマウスに経口投与し、CD4細胞群におけるFoxp3細胞の割合([%]Foxp3in CD4)を分析した。得られた結果を図31に示す。なお図31中、「GF」はGFマウスの結果を、「+chloro」はクロロホルム処理した糞便を投与したGFマウスの結果を示す。また、**は「P<0.001」であることを示す。
【0111】
図31に示した結果から明らかなように、クロロホルム処理した糞便を投与してから3週間後、SPFマウス又は無処理の糞便を強制投与したGFマウスと同程度に、投与したマウスにおいてTreg細胞の数は顕著に増加していた(図7及び11 参照)。
【0112】
従って、実施例5に示した結果と併せて、常在微生物叢(indigenous microbiota)の特定成分はグラム陽性に属している可能性が高く、芽胞形成細菌画分がTreg細胞の誘導において重要な役割を担っていることが明らかになった。
【0113】
(実施例7)
次に、実施例4〜6において示唆された大腸Treg細胞の集積を誘導する腸内細菌種の同定を行った。すなわち、GF−Balb/cマウス又はGF−IQIマウスに、セグメント細菌(segmented filamentous bacteria(SFB))、バクテロイデス属細菌16株(Bactero.(B.vulgatus 6株、B.acidifaciens group1 7株、B.acidifaciens group2 3株))、乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.(L. acidophilusL. fermentum、及びL. murinum))、クロストリジウム属細菌46株(Clost.「Itoh, K., and Mitsuoka, T. Characterization of clostridia isolated from faeces of limited flora mice and their effect on caecal size when associated with germ−free mice. Lab. Animals 19: 111−118 (1985))」参照)、又はコンベンショナルな環境下で飼育したマウス(SPF)から採取した微生物叢を経口投与し、その後三週間ビニルアイソレータの中で維持した後、これらマウスから大腸及び小腸のCD4細胞を単離し、フローサイトメトリーを用いて大腸及び小腸におけるTreg細胞数を解析した。Balb/cマウスのCD4細胞にゲートを設定したFACSドット−プロットは図13に示し、個々のマウスのCD4細胞におけるFoxp3細胞の割合は図14に示す。
【0114】
なお、クロストリジウム属に属する細菌は、以下に示す通り、16SrRNAの配列を決定することによって分類した。すなわち、細菌の16SrRNA遺伝子を、下記16SrRNA遺伝子特異的プライマーペアを用いたPCRによって増幅した
5’AGAGTTTGATCMTGGCTCAG−3’(配列番号:19)
5’ATTACCGCGGCKGCTG−3’(配列番号:20)
(Aebischer et al., Vaccination prevents Helicobacter pylori−induced alterations of the gastric flora in mice. FEMS Immunol. Med. Microbiol. 46,221−229(2006)参照)。そして、1.5−kbのPCR産物をpCR−Bluntベクターに挿入した。前記挿入されたPCR産物の配列を決定し、ClustalWソフトウェアプログラムを用いてアラインメントをかけた。得られた、クロストリジウム属細菌46株のうちのstrain1〜41に由来する16SrRNA遺伝子のシークエンス結果を、配列番号:21〜61に示す。また、クロストリジウム41株のシークエンス結果とGenbankデータベースから得られた既知の細菌のシークエンスとに基づき、Megaソフトウェアを用いた近隣結合法によって構築した系統樹を図49に示す。
【0115】
図13及び図14に示した結果から明らかなように、セグメント細菌(SFB)を定着させたGFマウスの大腸Treg細胞数への影響は確認されなかった(図14参照)。また、乳酸桿菌属細菌3株のカクテルを定着させたマウスにおいても同様の結果であった(図14参照)。一方、クロストリジウム属細菌46株を定着させたマウスにおいては、大腸粘膜固有層のFoxp3細胞の集積が強く誘導されていることが明らかになった。そして、重要なことに、かかる集積はマウスの遺伝的背景とは関係なく促進され、単属の腸内細菌の定着にも関わらずSPFマウスと同程度の増加を示した。また、クロストリジウムの定着は小腸粘膜固有層のTreg細胞数を変化させないことも明らかになった(図14参照)。なお、バクテロイデス属細菌16株を定着させた場合も、大腸においてTreg細胞数は有意に増えていたが、定着させたマウスの遺伝的背景によって増加の程度は異なっていた(図13及び14参照)。
【0116】
(実施例8)
次に、SPFマウス、GFマウス、乳酸桿菌定着マウス、又はクロストリジウム定着マウスの胸腺又は大腸のLPリンパ球における、CD4、Foxp3、及びHeliosの発現をフローサイトメトリーで分析した。得られた結果を図32及び33に示す。なお図32及び33中、「GF」又は「Germ Free」はGFマウスの結果を、「SPF」はSPFマウスの結果を、「SPF」はSPFマウスの結果を、「Lacto.」は乳酸桿菌定着マウスの結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスの結果を各々示す。また図32中、縦軸はFoxp3細胞群におけるHelios細胞の割合([%]Heliosin Foxp3)を示し、**は「P<0.001」であることを示す。
【0117】
図32及び33に示した結果から明らかなように、SPFマウス又はクロストリジウム定着マウスにおいて認められたFoxp3細胞のかなりの部分は、Heliosを発現していなかった。なお、Heliosは胸腺産生ナチュラルTreg細胞において発現していることが知られている転写因子であることから(A.M.Thornton et al.,J Immunol 184,3433(Apr 1,2010) 参照)、SPFマウス又はクロストリジウム定着マウスにおけるTreg細胞の多くは末梢部において誘導されているTreg細胞、いわゆるiTreg細胞であることが示唆される。
【0118】
(実施例9)
次に、クロストリジウム等の定着による他のT細胞への影響の有無を調べた。すなわち、GF IQIマウスにSFB、バクテロイデス属細菌16株(Bactero.)、クロストリジウム属細菌46株(Clost.)、又はコンベンショナルな環境(SPF)下で飼育したマウスから採取した微生物叢を定着させ、3週間後にこれらマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、Golgistop(BD Bioscience)の存在下で、PMA(50ng/ml)及びイオノマイシン(1μg/ml)で4時間刺激した。そして、刺激を与えた後、cytofix/cytopermキット(BDバイオサイエンス)の説明書に従って、細胞内サイトカインの染色を抗IL−17 PE抗体(TC11−18H10)、抗IFN−g FITC抗体(BDバイオサイエンス)を用いて行い、IFN−γ細胞又はIL−17細胞のCD4白血球における割合について、フローサイトメトリーを用いて解析した。得られた結果は図15及び図16に示す。なお、図15及び図16中の白丸は各々、個々のマウスにおけるCD4IFN−γ細胞の割合又はCD4IL−17細胞の割合を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。図15及び16に示した結果から明らかなように、クロストリジウムの定着は、大腸においてTh1細胞(CD4IFN−γ細胞)には影響せず、Th17細胞(CD4IL−17細胞)においてはわずかな増加しか引き起こさなかった。したがって、クロストリジウム属に属する細菌はTreg細胞を特異的に誘導する細菌であることが示唆された。
【0119】
(実施例10)
クロストリジウム46株は大腸においてCD8腸管上皮細胞間リンパ球(intraepithelial lymphocyte、IEL)の集積に影響を与えることが報告されている。それゆえ、クロストリジウムは免疫系を様々な側面から調整していることが考えられ、前述の通り、特に大腸のTreg細胞の誘導及び維持において顕著な能力を発揮していることが考えられる。また、サイトカインの一種である、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)は、Treg細胞の発生を調節するにあたって、重要な役割を担っていることが知られている。
【0120】
そこで、クロストリジウムの定着は、大腸においてTGF−βが豊富に存在する環境を提供しているということを検証した。すなわち先ず、GFマウス、クロストリジウム定着マウス、又は乳酸桿菌定着マウスの全大腸を24時間培養し、その培養上清における活性型TGF−β(TGF−β1)の濃度をELISAによって測定した(分析数は各グループマウス4匹ずつ)。得られた結果を図34に示す。なお図34中、「GF」はGFマウスの結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスの結果、「Lacto.」は乳酸桿菌定着マウスの結果を示す。また、*は「P<0.02」であることを、**は「P<0.001」であることを示す。
【0121】
図34に示した結果から明らかなように、GFマウス、又は乳酸桿菌定着マウスと比較して、クロストリジウム定着マウスの大腸におけるTGF−βの産生量の有意に多かった。
【0122】
次に、GFマウス又はクロストリジウム定着マウスのIEC(腸上皮細胞)を24時間培養し、それらの培養上清における活性型TGF−β(TGF−β1)の濃度をELISAによって測定した(分析数は各グループマウス4匹ずつ)。得られた結果を図35に示す。なお図35中、「GF」はGFマウスの結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスの結果を示す。また、**は「P<0.001」であることを示す。
【0123】
図35に示した結果から明らかなように、クロストリジウム定着マウスから単離されたIECの培養上清において、TGF−βが検出された。しかしGFマウスから単離されたIECの培養上清においては検出されなかった。
【0124】
次に、前述の通り、GFマウス又はクロストリジウム定着マウスから単離したIECを培養した50%駲化培地と、抗CD3抗体と共に脾臓CD4T細胞を、抗TGF−β抗体存在下又は非存在下において5日間培養した後、T細胞を回収し、リアルタイムRT−PCRによってFoxp3の発現を分析した。得られた結果を図36に示す。なお図36中、「培地」は何の細胞をも培養していない培地による結果を、「GF」はGFマウスのIECを培養した駲化培地による結果を、「Clost.」はクロストリジウム定着マウスのIECを培養した駲化培地による結果を、「Clost.+αTGFβ」は抗TGFβ抗体を添加したクロストリジウム定着マウスのIECを培養した駲化培地による結果を示す。また、**は「P<0.001」であることを示す。
【0125】
図36に示した結果から明らかなように、クロストリジウム定着マウス由来のIEC培養上清を脾臓CD4T細胞に添加することにより、Foxp3発現細胞への分化は亢進した。一方、このTreg細胞への分化は、抗TGF−β抗体によって阻害された。
【0126】
さらに、潜在型TGF−βの活性化に寄与していると考えれられている、MMP2、MMP9、及びMMP13の発現についても調べた。また、Treg細胞の誘導に関与していると考えられているインドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の発現についても調べた。すなわち、C57BL/6 germ−freeマウスにクロストリジウム属細菌46株(Clost.)又は乳酸桿菌属細菌3株(Lacto.)を経口投与し、投与してから3週間後にIECを回収し、MMP2、MMP9、MMP13、又はIDO遺伝子の相対的mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した(分析数は各グループマウス3匹ずつ)。得られた結果を図37〜40に示す。なお図37〜40中、「GF♯1〜3」はGFマウスの結果を、「Clost.♯1〜3」はクロストリジウム定着マウスの結果、「Lacto.♯1〜3」は乳酸桿菌定着マウスの結果を示す。
【0127】
また、潜在型TGF−βの活性化と前記MMPとの関連については、D’Angelo et al.,J.Biol.Chem.276,11347−11353,2001;Heidinger et al.,Biol.Chem.387,69−78,2006;Yu et al.,Genes Dev.i4,163−176,2000 参照のこと。IDOとTreg細胞の誘導との関連については、G.Matteoli et al.,Gut 59,595(May,2010)参照のこと。
【0128】
図37〜39に示した結果から明らかなように、前述のTGF−β産生と一致して、MMP2、MMP9、及びMMP13をコードする遺伝子の転写産物は、GFマウス又は乳酸桿菌定着定着マウスと比較して、クロストリジウム定着マウス由来のIECにおいて高レベルにて発現していた。
【0129】
さらに、図40に示した結果から明らかなように、クロストリジウム定着マウスにおいてのみ、IDOが発現していた。
【0130】
従って、クロストリジウムによりIECが活性化され、大腸内においてTGF−βや他のTreg細胞誘導分子が産生されることが明らかになった。
【0131】
(実施例11)
次に、クロストリジウムの定着が誘導するTreg細胞の集積は、病原体関連分子パターン認識受容体シグナル伝達に依存的なものであるかどうかを調べた。すなわち、Myd88−/−(Myd88(Toll−like様受容体のシグナリングアダプター)欠損)、Rip2−/−(Rip2(NOD受容体アダプター)欠損)、又はCard9−/−(Card9(Dectin−1シグナル伝達の主要なシグナル伝達因子)欠損)のSPFマウスにおける大腸粘膜固有層のTreg細胞数を調べた。また、Myd88−/−GFマウスにクロストリジウム属細菌を定着させ、Treg細胞数の変化を調べた。得られた結果を図17及び18に示す。図17及び18に示した結果から明らかなように、病原体関連分子パターン認識受容体の関連因子を欠損させた各SPFマウスにおいて、コントロールである野生型同腹子と比較して、Treg細胞の数は変わらないものであった。また、Myd88欠損GFマウスにクロストリジウム属細菌を定着させても、大腸粘膜固有層におけるTreg細胞の集積は誘導されることが確認された。したがって、大腸粘膜固有層のTreg細胞蓄積を誘導するメカニズムは、大多数の細菌によって引き起こされる主な病原体関連分子パターン認識経路の活性化ではなく、特定の共生細菌に起因しているものであることが示唆された。
【0132】
(実施例12)
腸管Foxp3Treg細胞はIL−10産生を通して、一部の免疫抑制機能を発揮することが知られており(非特許文献9参照)、また、CD4Foxp3細胞からIL−10が特異的に除去されている動物は炎症性腸疾患を発症する(非特許文献18参照)ことも知られている。そこで、先ず、各組織のリンパ球におけるIL−10の発現を調べた。すなわち、リンパ球をSPF Il10venusマウスの各組織から単離し、フローサイトメトリーを用いてCD4及びVenusの発現を解析した。得られた結果は図19に示す。なお、図19中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0133】
また、Il10venusマウスから大腸粘膜固有層のリンパ球を単離し、細胞表面におけるT細胞受容体β鎖(TCRβ)の発現をFACSにて検出した。得られた結果(CD4細胞にゲートを設定したFACSドット−プロット)は図20に示す。なお、図20中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0134】
さらに、大腸粘膜固有層のリンパ球をIl10venusマウスから単離し、Golgistop(BD Bioscience)の存在下において、PMA(50ng/ml)及びイオノマイシン(1μg/ml)で4時間刺激した。刺激を与えた後、cytofix/cytopermキット(BDバイオサイエンス)の説明書に従って、細胞内サイトカインの染色を抗IL−17 PE抗体、抗IL−4 APC抗体(11B11)、抗IFN−g FITC抗体(BDバイオサイエンス)を用いて行った。得られた結果(CD4細胞にゲートを設定したFACSドット−プロット)は図21に示す。なお、図21中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0135】
また、Foxp3CD4細胞及びFoxp3CD4細胞をFoxp3eGFPレポーターマウスの脾臓(Spl)から単離し、Il10venusマウスの大腸(colon)及び小腸(SI)粘膜固有層からVenus細胞を単離した。そして得られた各細胞について、所定の遺伝子発現の解析を行った。遺伝子発現は、Power SYBR Green PCR Master Mix (Applied Biosystems) 及びABI 7300 real time PCR system(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムRT−PCRにて解析し、各々の細胞においてはGAPDH量で標準化して値を出した。得られた結果は図22に示す。なお、図22中、エラーバーは標準偏差を示す。
【0136】
図19〜22に示した結果から明らかなように、Venus細胞(IL−10産生細胞)は、SPF条件下で維持されたマウスの頸部リンパ節(末梢リンパ節)、胸腺、末梢血、肺、肝臓においては、殆ど検出されないのに対し、脾臓、パイエル板及び腸間膜リンパ節においては、僅かではあるがVenus細胞が検出された(図19参照)。一方、小腸及び大腸の粘膜固有層リンパ球においては、多数のVenus細胞が確認された。そして、腸のVenus細胞は、殆どがCD4陽性であり、かつT細胞受容体β鎖(TCRβ)陽性の細胞であった(図19及び20参照)。さらに、VenusCD4T細胞は、Th2型(IL−4産生)又はTh17型(IL−17産生)の表現型は示さなかったが、Foxp3並びに、細胞障害性Tリンパ球抗原(CTLA−4)及びグルココルチコイド誘導性TNFR関連蛋白質(GITR)といった、その他Treg細胞関連因子を発現していることが確認された(図21及び22参照)。また、腸内Venus細胞のCTLA−4発現レベルはFoxp3eGFPレポーターマウスから単離された脾臓のGFPTreg細胞におけるそれよりも高いものであることが明らかになった(図22参照)。
【0137】
(実施例13)
Venus細胞は、細胞内Foxp3発現に基づき、少なくとも2つのサブセット、すなわちVenusFoxp3ダブル陽性(DP)Treg細胞、及びVenusFoxp3Treg細胞に分けることができ、後者の細胞は1型制御性T細胞(Tr1)に該当する(非特許文献8、9参照)。そこで、実施例8で確認されたVenus細胞(IL−10産生細胞)について、Foxp3の発現を調べた。すなわち、GF又はSPF条件下で維持されているIl10venusマウスの大腸及び小腸の粘膜固有層におけるCD4、Foxp3、Venusの発現をFACSにて解析し、SPF及びGF Il10Venusマウス間の腸管粘膜固有層におけるVenus細胞数を比較した。得られた結果(CD4細胞にゲートを設定したドット−プロット)を図23に示す。
【0138】
また、SPF Il10venusマウスの様々な組織におけるCD4細胞の細胞内Venus及びFoxp3の発現をフローサイトメトリーによって解析した。得られた結果(CD4細胞にゲートを設定したドット−プロット)を図24に示す。なお、図24中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。
【0139】
さらに、消化管制御性細胞におけるIL−10発現に共生細菌の存在が影響しているかどうかを確認するために、Il10Venusマウスを無菌化(GF化)した。そして、得られたGF Il10venusマウスに所定の細菌を定着させた。細菌を定着させてから3週間後に、大腸及び小腸においてFoxp3及び/又はVenusが発現しているCD4細胞群(V,VenusFoxp3cells;V,VenusFoxp3cells;V,VenusFoxp3cells)をフローサイトメトリーで解析した。大腸のCD4細胞にゲートを設定したドット−プロットは図25に示し、個々のマウスのCD4細胞群における比率は図26及び27に示す。なお、図25中の数字は4分割された個々の区分における細胞の割合を示す。また、図26及び27中のエラーバーは標準偏差を示し、*は「P<0.02」であることを示し、**は「P<0.001」であることを示す。
【0140】
また、消化管制御性細胞におけるIL−10発現に共生細菌の存在が影響しているかどうかを確認するために、一グループにつき5、6匹のIl10venusマウスに抗生物質を水とともに10週間飲ませた。抗生物質は以下の物を組み合わせて使用した。
アンピシリン(A;500mg/L Sigma)
バンコマイシン(V;500mg/L ナカライテスク)
メトロニダゾール(M;1g/L ナカライテスク)
ネオマイシン(N;1g/L ナカライテスク)
そして、大腸(colon)及び小腸(SI)の粘膜固有層、腸間膜リンパ節(MLN)並びにパイエル板(PPs)におけるリンパ球のCD4及びFoxp3を抗体染色し、FACSで解析し、同様の結果が得られる二回以上の独立した実験から結果を得た。得られた結果(個々のサンプルのCD4細胞におけるVenus細胞の割合)は図28に示す。なお、図28中の白丸は個々のサンプルを示し、水平バーは平均値を示し、*は「P<0.02」であることを示し、「AVMN」は投与した抗生物質の種類を、各抗生物質の頭文字をとって示したものである。
【0141】
図23及び24に示した結果から明らかなように、小腸粘膜固有層においては、VenusFoxp3細胞、すなわちTr1様細胞が豊富であり、またVenusFoxp3DP Treg細胞はSPFマウスの大腸において高頻度に存在していることが明らかになった(図23及び24参照)。一方で、十分な数のFoxp3細胞は他の組織においても観察されているが、その殆どの細胞においてVenusの発現は確認されなかった(図24参照)。
【0142】
また、図23、25〜28に示した結果から明らかなように、大腸のVenusFoxp3、VenusFoxp3、VenusFoxp3、いずれの制御性T細胞分画も、GF条件下で有意に減少していることが明らかになった(図23、26及び27)。さらに、抗生物質で処理したSPF II10enusマウスにおいても同様のVenus細胞の減少が確認された(図28参照)。
【0143】
さらに、図25〜27に示した結果から明らかなように、クロストリジウム属細菌の定着は、大腸においてVenusFoxp3、VenusFoxp3、VenusFoxp3いずれの制御性T細胞分画も、強く誘導し、その誘導の程度は、SPFマウスのそれと同様であった(図25及び27参照)。また、乳酸桿菌属細菌3株やSFBの定着による大腸Venus及び/又はFoxp3細胞数への影響はごくわずかであることが確認された(図25及び27参照)。さらに、バクテロイデス属細菌16株を定着させてもVenus細胞は誘導されるが、定着による影響はVenusFoxp3Tr1様細胞特異的なものであった(図25及び27参照)。一方、試した細菌種の中には、小腸粘膜固有層のIL−10産生細胞数に有意に影響を及ぼしたものは確認されなかった(図26参照)。
【0144】
したがって、大腸に定着しているクロストリジウム属に属する細菌又は該細菌に由来する生理活性物質が、IL−10制御性T細胞の大腸粘膜固有層への集積、又はT細胞におけるIL−10発現誘導のためのシグナルを提供していることが明らかになった。一方、小腸におけるVenus細胞数は、共生細菌が存在していない又は減少しているという状況に有意に影響されず(図23、26及び28参照)、小腸粘膜固有層におけるIL−10制御性細胞(Tr1様細胞)は共生細菌に非依存的に集積することが明らかになった。
【0145】
(実施例14)
クロストリジウム属細菌によって誘導されたVenus細胞が、SPFマウスの大腸におけるVenus細胞と同様の免疫制御性の機能を持つかどうかを確認した。すなわち、脾臓から単離したCD4CD25細胞(エフェクターT細胞、Teff細胞)を平底96穴プレートに2x10/wellになるよう播種し、2x10の30Gy放射線照射処理を施した脾臓CD11c細胞(抗原提示細胞)、0.5μg/ml 抗CD3抗体、及び多数のTreg細胞と共に3日間培養した。また最後の6時間は[H]−チミジン(1μCi/well)を添加した状態で培養した。なお、実施例14においてはTreg細胞として、Foxp3eGFPレポーターマウスの脾臓から単離されたCD4GFPT細胞、又はクロストリジウム属細菌を定着させたGF Il10enusマウス若しくはSPF Il10venusマウスにおける大腸粘膜固有層のCD4VenusT細胞を用いた。そして、[H]−チミジンの取り込み量によって細胞の増殖を測定し、分当たり計数カウント(cpm)の値で示した。
【0146】
図29に示した結果から明らかなように、クロストリジウム属細菌を定着させたマウスのVenusCD4細胞は、インビトロでCD25CD4活性型T細胞の増殖を抑制した。この抑制活性は、Foxp3eGFPレポーターマウスから単離されたGFP細胞のそれよりもわずかに劣るものであるが、SPF Il10Venusマウスから単離されたVenus細胞のそれと同程度であった。したがって、クロストリジウム属に属する細菌は、十分に免疫抑制活性を有するIL−10発現性T細胞を誘導し、大腸における免疫恒常性を維持するのに重要な役割を果たしていることが明らかになった。
【0147】
(実施例15)
次に、大量のクロストリジウムの定着、その結果として生じるTreg細胞の増殖による、局所性免疫応答への影響を調べた。
【0148】
<デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎モデル>
先ず、前述の通りDSS誘導大腸炎モデルを作製し、そのモデルマウスにおいて、クロストリジウムの接種及びTreg細胞の増殖による影響を調べた。すなわち、コントロールマウス及びクロストリジウム接種マウスを2%DSSで処理して6日間、体重の減少、便の硬さ、及び出血を観察、測定し、点数をつけた。
また、6日目に大腸を回収し、解剖し、HE染色によって組織学的分析を行った。得られた結果を図41〜43に示す。なお図41〜43において、「SPF+Clost.」又は「SPF+Clost.♯1〜3」は、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を接種し、コンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウスの結果を示し、「SPF」又は「SPF♯1〜3」は、前記糞便懸濁液を接種せずにコンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウス(コントロールマウス)の結果を示す。また図41中、縦軸「疾患スコア」は、前述の疾患活動性指数(DAI)を示し、横軸「ポスト2%DSS(d)」は、マウスに最初に2%DSSを投与してからの経過日数を示す。さらに図41中、*は「P<0.02」であることを示し、**は「P<0.001」であることを示す。また、DSS誘導大腸炎モデルにおいて、制御性樹状細胞によって誘導されたTreg細胞は予防の役割を担っていることが知られている(S.Manicassamy et al.,Science 329,849(Aug 13,2010)参照)。
【0149】
図41〜43に示した結果から明らかなように、大腸炎の症状、例えば体重の減少および直腸出血は、コントロールマウスと比較して、大量のクロストリジウムを有するマウス(以下、「クロストリジウム豊富マウス」とも称する)において有意に抑制されていた(図41 参照)。また、大腸の短縮、浮腫、及び出血といった大腸の炎症における全ての典型的な特徴は、クロストリジウム豊富マウスと比較して、コントロールマウスにおいては顕著に認められた(図42 参照)。さらに、DSS処理クロストリジウム豊富マウスにおいては、コントロールマウスと比較して、粘膜びらん、浮腫、細胞浸潤、及び陰窩欠損といった組織学的特徴が軽減されていた(図43 参照)。
【0150】
<オキサゾロン(oxazolone)誘導大腸炎モデル>
次に、前述の通りオキサゾロン誘導大腸炎モデルを作製し、そのモデルマウスにおいて、クロストリジウムの接種及びTreg細胞の増殖による影響を調べた。すなわち、コントロールマウス及びクロストリジウム接種マウスをオキサゾロンに感作し、次いで1%オキサゾロン/50%エタノール溶液によって直腸内を処理し、体重の減少を観察、測定した。また、大腸を解剖し、HE染色によって組織学的分析を行った。得られた結果を図44及び45に示す。なお図44及び45において、「SPF+Clost.」は、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を接種し、コンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウス(クロストリジウム豊富マウス)の結果を示し、「SPF」は、前記糞便懸濁液を接種せずにコンベンショナルな環境下で6週間飼育したC57BL/6マウス(コントロールマウス)の結果を示す。また図44中、縦軸「最初の体重に対する割合(%)」は、1%オキサゾロン投与前の体重を各々100%とした際の該投与後の体重を示し、横軸「ポスト1%オキサゾロン(d)」は、マウスに1%オキサゾロンを投与してからの経過日数を示す。また、オキサゾロンによって誘導される大腸炎は、Th2型T細胞が介していることが知られている(M.Boirivant,I.J.Fuss,A.Chu,W.Strober,J Exp Med 188,1929(Nov 16,1998)参照)。
【0151】
図44及び45に示した結果から明らかなように、コントロールマウスにおいては持続的な体重減少とともに大腸炎が進行した。一方、クロストリジウム豊富マウスにおいて体重減少は軽減されていた(図44 参照)。また、クロストリジウム豊富マウスの大腸において、粘膜びらん、浮腫、細胞浸潤、及び出血といった組織学的疾患の部位は抑制されていることも明らかになった(図45 参照)。
【0152】
(実施例16)
次に、大量のクロストリジウムの定着、その結果として生じるTreg細胞の増殖による、全身性免疫応答(全身性IgE産生)への影響を調べた。すなわち、前述の通り、アラムに吸着させた卵白アルブミン(alum−absorbed ovalbumin(OVA))を2週間間隔で2回投与することによって、コントロールマウス及びクロストリジウム接種マウスに免疫性を付与した。そして、これらマウスから血清を回収し、ELISAによってOVA特異的IgEのレベルを調べた。また、各々のグループのマウスから脾細胞を回収し、インビトロにおけるOVAの再刺激によるIL−4及びIL−10産生を調べた。得られた結果を図46〜48に示す。なお図46〜48において、「SPF+Clost.」は、クロストリジウム定着マウスの糞便懸濁液を接種し、コンベンショナルな環境下で飼育したBALB/c SPF(クロストリジウム豊富マウス)の結果を示し、「SPF」は、前記糞便懸濁液を接種せずにコンベンショナルな環境下で飼育したBALB/c SPF(コントロールマウス)の結果を示し、**は「P<0.001」であることを示す。また図46中、縦軸「OVA特異的IgE(ng/ml)」は、血清におけるOVA特異的IgEの濃度を示す。さらに図46中、横軸は、当該クロストリジウム豊富マウス又はコントロールマウス(4週齢)に最初にアラムに吸着させた卵白アルブミンを投与してからの経過日数を示し、「OVA+Alum」はアラムに吸着させた卵白アルブミンを投与した時期を示す。また図47及び48中、横軸において「OVA」はインビトロにおいてOVAによる再刺激を施した結果を、「−」はインビトロにおいてOVAによる再刺激を施さなかった結果を示す。さらに図47及び48中、縦軸において「IL−4(pg/ml)」及び「IL−10(pg/ml)」は、脾細胞の培養上清におけるIL−4濃度及びIL−10濃度を各々示す。
【0153】
図46〜48に示した結果から明らかなように、クロストリジウム豊富マウスにおいて、コントロールマウスと比較してIgEレベルは有意に低かった(図46 参照)。さらに、OVA及びアラムで感作したクロストリジウム豊富マウスの脾細胞において、コントロールマウスのそれと比較して、OVAの再刺激によるIL−4産生は低下し(図47 参照)、IL−10産生は増加した(図48 参照)。
【0154】
従って、実施例15に示した結果と併せて、大腸におけるクロストリジウムによるTreg細胞の誘導は、局所性及び全身性の免疫応答に重要な役割を担っていることが明らかになった。
【0155】
(実施例17)
次に、無菌Balb/cマウス(GF Balb/c)に、クラスター4に属するClostridium(クロストリジウム)3株(図49に示すstrain22、23及び32)を定着させた。三週間後、大腸のFoxp3Treg細胞をFACSにて分析した。得られた結果を図50に示す。図50に示した結果から明らかなように、クロストリジウム3株を定着させた純粋隔離群のマウスにおけるTreg細胞の誘導パターンは、無菌マウス(GFマウス)と46株全てを接種したマウスとの中間程度であった。
【0156】
(実施例18)
次に、マウスから得た糞便試料の芽胞形成画分同様に、ヒトから得た糞便試料の芽胞形成画分(例えば、クロロホルムに耐性を示す画分)が、制御性T細胞の増殖または集積を誘導する作用を有しているかどうかを調べた。
【0157】
すなわち、健常被験者(日本人、男性、29歳)から得たヒト糞便をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、クロロホルム(最終濃度:3%)と混合した。そして、37℃の水浴中で60分間振盪しながら培養した。窒素ガスで沸き立たせながらクロロホルムを留去した後、ヒト腸内細菌のクロロホルム耐性を示す画分(例えば、芽胞形成画分)を含むアリコートを、無菌(GF)マウス(IQI、8週齢)に経口接種した。処理したマウスを3週間ビニルアイソレータの中で維持した。そして、大腸を採取し、長手方向に開裂して糞便内容物を洗い除去し、37℃で20分間、5mM EDTA含有ハンクス平衡塩溶液(HBSS)中にて振盪した。上皮細胞及び脂肪組織を除去した後、大腸を細かく小切片にし、4%ウシ胎児血清、1mg/mlコラゲナーゼD、0.5mg/mlディスパーゼ及び40μg/ml DNaseI(全てロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)を含むRPMI1640にて、37℃の水浴中で1時間振盪しながらインキュベートした。消化した組織を5mM EDTA含有HBSSで洗浄し、5ml 40%パーコール(GE Healthcare社製)に再懸濁し、15mlファルコンチューブ中の2.5ml 80%パーコールの上に重層した。そして、25℃、780gで20分間遠心し、パーコール勾配分離を行った。境界面の細胞を回収し、PBS、2% FBS、2mM EDTA及び0.09% NaNを含む染色バッファーに懸濁し、フィコエリシンで標識された抗CD4抗体(RM4−5、BD Biosciences社製)を用い、細胞表面のCD4を染色した。また、細胞内Foxp3の染色は、Alexa647−で標識された抗Foxp3抗体(FJK−16s、eBioscience社製)及びFoxp3染色バッファーセット(eBioscience社製)を用いて行った。そして、CD4陽性リンパ球の細胞集団におけるFoxp3陽性細胞の比率をフローサイトメトリーにて分析した。得られた結果を図51及び52に示す。
【0158】
各図において、無菌マウス由来(GF)又はクロロホルム処理ヒト糞便を投与した無菌マウス由来(GF+Chloro.)のCD4陽性リンパ球によるFox3発現について、代表的なヒストグラム(図51)及び総合したデータ(図52)を示す。また、図51中の数値はゲート中の細胞の割合を示す。図52中の各丸は、個々の動物における結果を示し、エラーバーは標準偏差(SD)を示し、**は「P<0.001」であることを示す。
【0159】
図51及び52に示した結果から明らかなように、ヒト腸内細菌の芽胞形成(例えば、クロロホルムに耐性を示す)画分がGFマウスに定着した際に、当該マウスの大腸粘膜固有層において、Fox3制御性(Treg)細胞の集積が誘導されることも明らかになった。
【0160】
次に、クロロホルム処理ヒト糞便の投与によって、どのような細菌種が増殖しているのかを調べた。
【0161】
すなわち、QIAamp DNA糞便ミニキット(QIAGEN社製)を用い、前述の健常被験者の糞便(ヒト糞便)又はクロロホルム処理ヒト糞便を投与した無菌マウス由来の糞塊(GF+Chloro.)から細菌のゲノムDNAを単離した。定量的PCR解析は、ライトサイクラー480(Roche社製)を用いて行った。相対量はデルタCt法により算出し、総細菌量、試料の重量及び希釈を基準として求めた。また、下記プライマーセットを用いた。
【0162】
総細菌
5’−GGTGAATACGTTCCCGG−3’ (配列番号:62)及び
5’−TACGGCTACCTTGTTACGACTT−3’ (配列番号:63)
クロストリジウムクラスター14a(クロストリジウム コッコイデス 亜群(Clostridium coccoides subgroup))
5’−AAATGACGGTACCTGACTAA−3’(配列番号:64)及び
5’−CTTTGAGTTTCATTCTTGCGAA−3’(配列番号:65)
クロストリジウムクラスター4(クロストリジウム レプタム(Clostridium leptum))
5’−GCACAAGCAGTGGAGT−3’(配列番号:66)及び
5’−CTTCCTCCGTTTTGTCAA−3’(配列番号:67)
バクテロイデス
5’−GAGAGGAAGGTCCCCCAC−3’(配列番号:68)及び
5’−CGCTACTTGGCTGGTTCAG−3’(配列番号:69)
得られた結果を図53に示す。
【0163】
図53に示した結果から明らかなように、クロロホルム処理ヒト糞便を投与したマウスにおいて、クロロホルム処理前のヒト糞便と比較して、Clostridium(クロストリジウム)クラスター14a及びClostridium(クロストリジウム)クラスター4等の芽胞形成細菌が大量に存在していることが示され、Bacteroides(バクテロイデス)等の非芽胞形成細菌の著しい低下が示された。
【産業上の利用可能性】
【0164】
以上説明したように、本発明によれば、クロストリジウム属に属する細菌または該細菌に由来する生理活性物質等を利用して、制御性T細胞(Treg細胞)の増殖や集積を誘導するための優れた組成物を提供することが可能となる。本発明の組成物は、免疫抑制作用を有するため、例えば、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の予防または治療や臓器移植時などにおける免疫拒絶の抑制に利用することが可能である。また、健康食品などの飲食品として、健常者が日常的に容易に摂取して、免疫機能の改善を図ることもできる。
【配列表フリーテキスト】
【0165】
配列番号1〜20、62〜69
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列
配列番号21〜〜61
<223> 各々のクロストリジウム属細菌株の16S rRNAコーディング遺伝子配列
図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]