特許第6552070号(P6552070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552070レジストパターン形成方法およびレジスト材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552070
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】レジストパターン形成方法およびレジスト材料
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20190722BHJP
   G03F 7/38 20060101ALI20190722BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20190722BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20190722BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   G03F7/004 503Z
   G03F7/38 511
   G03F7/039
   G03F7/11 501
   G03F7/11 503
   G03F7/11 502
   G03F7/20 521
   G03F7/20 502
   G03F7/20 503
   G03F7/20 504
【請求項の数】13
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-552739(P2017-552739)
(86)(22)【出願日】2016年11月25日
(86)【国際出願番号】JP2016085024
(87)【国際公開番号】WO2017090745
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229767(P2015-229767)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】田川 精一
【審査官】 倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−172741(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129556(WO,A1)
【文献】 特開2011−252967(JP,A)
【文献】 特開平04−363014(JP,A)
【文献】 特表2008−543033(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/054047(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F7/004−7/06;7/075−7/115;
7/16−7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、ベース樹脂、増感体前駆体、強酸発生剤および塩基を含有するレジスト層を形成するレジスト層形成ステップと、
前記レジスト層にパターン露光を行うことによって、前記増感体前駆体から増感体を生成するパターン露光ステップと、
前記パターン露光ステップの後、前記増感体の生成された前記レジスト層にフラッド露光を行い、前記強酸発生剤から酸を発生させるフラッド露光ステップと、
前記フラッド露光ステップの後、前記レジスト層を現像する現像ステップと
を含有し、
前記パターン露光ステップは、
前記強酸発生剤から強酸を発生させるステップと、
前記強酸と前記増感体前駆体との反応によって増感体を生成するステップと、
前記強酸と前記塩基との反応によって弱酸を生成し、前記弱酸と前記増感体前駆体との反応によって増感体を生成するステップと
を含む、レジストパターン形成方法。
【請求項2】
前記レジスト層形成ステップにおいて、
前記増感体前駆体は、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラクロロフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメチルフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメトキシフェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラクロロフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメチルフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメトキシフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパルギルアルコール、および、これらのいずれかの誘導体からなる群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1に記載のレジストパターン形成方法。
【請求項3】
前記レジスト層形成ステップにおいて、
前記塩基は、光分解性塩基を含む、請求項1または2に記載のレジストパターン形成方法。
【請求項4】
前記レジスト層形成ステップにおいて、前記レジスト層は塩基発生剤をさらに含有する、請求項1から3のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【請求項5】
前記フラッド露光ステップは、
前記増感体を励起させ、前記励起した増感体と前記強酸発生剤との反応から前記酸を発生させる第1フラッド露光を行う第1フラッド露光ステップと、
前記塩基発生剤から塩基を発生させる第2フラッド露光を行う第2フラッド露光ステップと
を含む、請求項4に記載のレジストパターン形成方法。
【請求項6】
前記フラッド露光ステップの後、前記レジスト層をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行う変質ステップをさらに包含する、請求項1から5のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【請求項7】
前記レジスト層と前記基板との間に位置する下地層を形成する下地層形成ステップをさらに包含する、請求項1から6のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【請求項8】
前記レジスト層の上にトップコートを形成するトップコート形成ステップをさらに包含する、請求項1から7のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【請求項9】
前記フラッド露光ステップにおいて、前記フラッド露光の時間は1分間以内である、請求項1から8のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【請求項10】
前記フラッド露光ステップにおいて、前記フラッド露光中に前記増感体の吸収スペクトルは変化しない、請求項1から9のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【請求項11】
ベース樹脂、増感体前駆体、強酸発生剤および塩基を含有するレジスト組成物を含むレジスト材料であって、
前記増感体前駆体は、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラクロロフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメチルフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメトキシフェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラクロロフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメチルフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメトキシフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパルギルアルコール、および、これらのいずれかの誘導体からなる群から選択された少なくとも1つを含み、
前記強酸発生剤から発生する強酸と前記塩基との反応によって生成される弱酸と前記増感体前駆体との反応によって増感体が生成される、レジスト材料。
【請求項12】
前記塩基は光分解性塩基を含む、請求項11に記載のレジスト材料。
【請求項13】
前記レジスト組成物は、塩基発生剤をさらに含有する、請求項11または12に記載のレジスト材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジストパターン形成方法およびレジスト材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化および高速度化を図るために半導体デバイスの微細化が年々進んでおり、半導体デバイスのフォトリソグラフィ工程において、より微細なパターンが求められている。微細なパターンを実現するための手法として、主に露光源の短波長化が検討されている。例えば、極端紫外光(EUV、波長:13.5nm)は、次世代半導体デバイスの製造に有望な技術として注目されており、現在開発が進められている。
【0003】
しかし、量産適用に必要な露光装置に搭載された光源の出力(250W)を有する光源装置の開発は困難であり、パターン潜像を形成するためには露光を長時間行うことが必要となる。また、電子線(EB)を用いた電子線直接描画法では、ビーム径が小さいことから高寸法精度で微細なパターンを形成することができる反面、複雑で大面積のパターンを形成する場合、描画に時間がかかる。このように、極端紫外光および電子線を用いた露光技術では、微細なパターンを形成できるものの、スループットが低いという問題があった。
【0004】
光源強度が足りないという問題を解決すべく、露光時間をできるだけ減らすように、レジスト材料の高感度化が進められている。例えば、特許文献1に開示されているレジスト組成物では、特定の樹脂および化合物を含む組成によって、レジストの感度および解像度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−174894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)というレジストの重要な3つの性能の間にはトレードオフの関係があるため、単純に、レジストの高感度化を行うと、解像度および線幅ラフネスが低下するという問題が生じる。このため、従来の手法では、解像度および線幅ラフネスを低下させずにレジストの感度を向上させることには限界があり、スループットが低いという問題を十分に解決することができなかった。さらに、これまでの最大の課題であったトレードオフ問題以上に重要な課題としてフォトンショットノイズによるパターンのラフネスが近年問題視されているが、光源の高出力化や露光光の高吸収化レジストの開発などの以外に、今まで解決策は見出されていなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジスト層の感度を向上させるとともにフォトンショットノイズによるラフネスを抑制可能なレジストパターン形成方法およびレジスト材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるレジストパターン形成方法は、基板に、ベース樹脂、増感体前駆体、強酸発生剤および塩基を含有するレジスト層を形成するレジスト層形成ステップと、前記レジスト層にパターン露光を行うことによって、前記増感体前駆体から増感体を生成するパターン露光ステップと、前記パターン露光ステップの後、前記増感体の生成された前記レジスト層にフラッド露光を行い、前記強酸発生剤から酸を発生させるフラッド露光ステップと、前記フラッド露光ステップの後、前記レジスト層を現像する現像ステップとを含有する。前記パターン露光ステップは、前記強酸発生剤から強酸を発生させるステップと、前記強酸と前記増感体前駆体との反応によって増感体を生成するステップと、前記強酸と前記塩基との反応によって弱酸を生成し、前記弱酸と前記増感体前駆体との反応によって増感体を生成するステップとを含む。
【0009】
ある実施形態では、前記レジスト層形成ステップにおいて、前記増感体前駆体は、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラクロロフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメチルフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメトキシフェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラクロロフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメチルフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメトキシフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパルギルアルコール、および、これらのいずれかの誘導体からなる群から選択された少なくとも1つを含む。
【0010】
ある実施形態では、前記レジスト層形成ステップにおいて、前記塩基は、光分解性塩基を含む。
【0011】
ある実施形態では、前記レジスト層形成ステップにおいて、前記レジスト層は塩基発生剤をさらに含有する。
【0012】
ある実施形態では、前記フラッド露光ステップは、前記増感体を励起させ、前記励起した増感体と前記強酸発生剤との反応から前記酸を発生させる第1フラッド露光を行う第1フラッド露光ステップと、前記塩基発生剤から塩基を発生させる第2フラッド露光を行う第2フラッド露光ステップとを含む。
【0013】
ある実施形態では、前記レジストパターン形成方法は、前記フラッド露光ステップの後、前記レジスト層をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行う変質ステップをさらに包含する。
【0014】
ある実施形態では、前記レジストパターン形成方法は、前記レジスト層と前記基板との間に位置する下地層を形成する下地層形成ステップをさらに包含する。
【0015】
ある実施形態では、前記レジストパターン形成方法は、前記レジスト層の上にトップコートを形成するトップコート形成ステップをさらに包含する。
【0016】
ある実施形態では、前記フラッド露光ステップにおいて、前記フラッド露光の時間は1分間以内である。
【0017】
ある実施形態では、前記フラッド露光ステップにおいて、前記フラッド露光中に前記増感体の吸収スペクトルは変化しない。
【0018】
本発明によるレジスト材料は、ベース樹脂、増感体前駆体、強酸発生剤および塩基を含有するレジスト組成物を含む。前記増感体前駆体は、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラクロロフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメチルフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメトキシフェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラクロロフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメチルフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメトキシフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパルギルアルコール、および、これらのいずれかの誘導体からなる群から選択された少なくとも1つを含む。前記強酸発生剤から発生する強酸と前記塩基との反応によって生成される弱酸と前記増感体前駆体との反応によって増感体が生成される。
【0019】
ある実施形態において、前記塩基は光分解性塩基を含む。
【0020】
ある実施形態において、前記レジスト組成物は塩基発生剤をさらに含有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジスト層の感度を向上させるとともにフォトンショットノイズによるラフネスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)〜(d)は、本発明によるレジストパターン形成方法の実施形態の各工程を示す模式図である。
図2】パターン露光時にレジスト層内において生じる主な反応式を示す図である。
図3】フラッド露光時にレジスト層内において生じる主な反応式を示す図である。
図4】(a)および(b)は、パターン露光後およびフラッド露光後のレジスト層内の濃度分布をそれぞれ示す模式図である。
図5】(a)〜(d)は、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
図6】(a)〜(d)は、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
図7】(a)〜(d)は、本発明によるレジストパターン形成方法の実施形態の各工程を示す模式図である。
図8】(a)および(b)は、パターン露光時およびフラッド露光時のレジスト層内の濃度分布をそれぞれ示す模式図である。
図9】(a)〜(e)は、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
図10】本実施形態において、増感体前駆体、増感体および塩基発生剤の吸収波長の模式的なスペクトルを示す。
図11】本実施形態によるレジストパターン形成方法の実施に好適なレジスト潜像形成装置の模式図である。
図12】本実施形態によるレジストパターン形成方法の実施に好適なレジスト潜像形成装置の模式図である。
図13】本実施形態によるレジストパターン形成方法の実施に好適なレジスト潜像形成装置の模式図である。
図14】(a)〜(c)は実施例のレジスト層のSEM像を示す図である。
図15】(a)〜(c)は実施例のレジスト層のSEM像を示す図である。
図16】(a)〜(c)は実施例のレジスト層のSEM像を示す図である。
図17】(a)〜(c)は参考例のレジスト層のSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0024】
まず、図1図4を参照して、本発明によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料の実施形態を説明する。なお、レジスト材料から構成されるレジスト層の種類には、露光部分が現像液において溶解するポジ型と露光部分が現像液において溶解しないネガ型とがあるが、以下の説明では、一例として、ポジ型のレジスト層を説明する。レジスト層は、露光によって酸を発生させる強酸発生剤と酸の作用によって現像液での溶解性が変化する基材(ベース樹脂)を含有する化学増幅型であってもよい。
【0025】
図1(a)〜図1(d)のそれぞれは、本発明によるレジストパターン形成方法の実施形態の各工程を示す模式図であり、図2は、パターン露光時にレジスト層内において生じる主な反応式を示しており、図3は、フラッド露光時にレジスト層内において生じる主な反応式を示している。また、図4(a)および図4(b)は、パターン露光後およびフラッド露光後のレジスト層内の濃度分布をそれぞれ示す模式図である。
【0026】
まず、図1(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。例えば、レジスト層10は、用意した基板S(例えばウェハー)上に、溶液に溶解させたレジスト材料を塗布してプリベークを行うことによって形成される。典型的には、基板Sの表面に、フォトリソグラフィの対象物(例えば、半導体層または絶縁層)が形成されている。
【0027】
レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、強酸発生剤SPA(Strong Photo Acid Generator)および塩基Baを含有している。なお、レジスト層10は、基板S上に直接形成されてもよく、あるいは、基板S上に設けられた下地層の上に形成されてもよい。レジスト層10において、強酸発生剤SPA、増感体前駆体Ppおよび塩基Baは場所によらずほぼ一定の濃度を有している。
【0028】
レジスト層10中において、例えば、100質量部のベース樹脂Rに対して、増感体前駆体Ppは0.1質量部以上40質量部以下であり、強酸発生剤SPAは0.1質量部以上40質量部以下であり、塩基Baは0質量部よりも多く40質量部以下である。
【0029】
ベース樹脂Rは、例えば、メチルメタクリレート系高分子(以下「MMA樹脂」と記載することもある)である。後述するパターン露光L1およびフラッド露光L2の少なくとも一方に起因する化学反応には、中間体、ラジカルおよびイオン(カチオンまたはアニオン)等が関与するが、MMA樹脂は、中間体、ラジカルおよびイオンを消失させにくい。ただし、ベース樹脂Rは、ポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)を含むものであってもよい。あるいは、ベース樹脂Rは、MMA樹脂およびPHS樹脂の混合型であってもよい。
【0030】
また、ベース樹脂Rは、フェノール樹脂またはアセタール型等の保護基を有する種々の樹脂でもよい。EUV露光またはEB露光の場合、プロトンは、主としてベース樹脂Rから発生して、ベース樹脂R中もしくはベース樹脂R間を移動し、強酸発生剤SPAの解離によって生成したアニオンと反応して酸を生成する。ベース樹脂Rは、高分子化合物だけでなく低分子化合物を含むものであってもよいが、低分子化合物から発生したプロトンが、ベース樹脂間を移動し、強酸発生剤SPAの解離によって生成したアニオンと反応して強酸を生成することが好ましい。さらに、ベース樹脂Rは、ベース樹脂R中もしくはベース樹脂R間を移動するプロトンを発生させない樹脂でもよい。あるいは、ベース樹脂Rは無機物でもよい。
【0031】
なお、EUVまたはEBのビームを照射する場合、レジスト層10では放射線化学反応が生じる一方で、ArFレーザまたはKrFレーザのビームを照射した場合、レジスト層10では光化学反応が生じる。このように、照射するビーム源の種類に応じて、強酸発生剤SPAの励起状態から開始される酸生成反応は異なる。
【0032】
なお、ベース樹脂Rは、パターン露光L1およびフラッド露光L2の少なくとも一方によって分解され、中間体、ラジカルおよびイオンを生成してもよい。特に、パターン露光L1のビームとして電子線またはEUVビームを用いる場合、ベース樹脂Rは比較的容易に分解できる。
【0033】
増感体前駆体Ppは、増感体を生成する。例えば、増感体前駆体Ppは、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラクロロフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメチルフェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−パラメトキシフェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラクロロフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメチルフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1−フェニル−1−パラメトキシフェニル−3−フェニルプロパルギルアルコール、1,1−ジフェニル−3−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパルギルアルコール、および、これらのいずれかの誘導体からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよい。1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコールの構造式を下記に示す。
【0034】
【化1】
【0035】
例えば、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコールの誘導体は、上記1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコールのフェニル基とナフチル基を他のパラクロロフェニル基、パラメトキシフェニル基、(トリフルオロメチル)フェニル基などの種々の芳香族分子に置換した化合物であってもよい。
【0036】
増感体前駆体Ppはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、増感体前駆体Ppはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、増感体前駆体Ppは、ベース樹脂Rに結合されている。
【0037】
増感体前駆体Ppがアルコール型である場合、レジスト層10はラジカル発生成分を含有している。ラジカル発生成分は、ベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、ラジカル発生成分はレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、ラジカル発生成分は、ベース樹脂Rに結合されていてもよく、あるいは、強酸発生剤SPAに結合されていてもよい。
【0038】
レジスト層10内においてラジカル発生成分から発生したラジカルにより、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。例えば、増感体前駆体Ppは、アルコール型増感体前駆体であってもよい。あるいは、増感体前駆体Ppは、アセタール型およびアルコール型の混合型であってもよい。
【0039】
強酸発生剤SPAは、例えば、ヨードニウム塩(R2IX)系のジフェニルヨードニウムパーフルオロブタンスルホン酸(DPI−PFBS)でも、スルフォニウム塩(R3SX)系のトリフェニルスルホニウムパーフルオロブタンスルホン酸(TPS−PFBS)でもよい。また、強酸発生剤SPAは、PBpS−PFBSのようなヨードニウム塩でもよい。
【0040】
なお、強酸発生剤SPAは、拡散係数の小さいバルキーであることが好ましいが、強酸発生剤SPAはベース樹脂Rに結合されていてもよい。強酸発生剤SPAは励起状態の増感体Psから効率よく電子移動を受けるものが好ましい。また、強酸発生剤SPAの濃度が高く、電子移動が起きやすいことが好ましい。なお、同じ化合物が増感体前駆体Ppおよび強酸発生剤SPAの両方として機能してもよい。
【0041】
塩基Baは、光分解性塩基(Photodedecomposable Base)を含むことが好ましい。なお、光分解性塩基は、光分解性クエンチャー(PDQ)と呼ばれることもある。例えば、塩基は、酢酸スルホニウム塩、酢酸ヨードニウム塩、サリチル酸スルホニウム塩、サリチル酸ヨードニウム塩、o−ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、および、o−ニトロベンジル−n−オクチルカルバメートからなる群から選択された少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0042】
例えば、塩基Baはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、塩基Baはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、塩基Baは、ベース樹脂Rに結合されている。塩基Baは、小さい拡散係数を有することが好ましい。
【0043】
次に、図1(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
【0044】
パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10aにエネルギーが付与される。高解像度を実現するためにパターン露光L1のパターンが微細な場合、エネルギーの強度分布はサイン波で近似されることがある。領域10aに付与されたエネルギーにより、レジスト層10内の組成が励起またはイオン化されて活性状態が生成され、最終的には、レジスト層10の増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。図4(a)に、増感体Psおよび塩基Baの濃度分布を示す。増感体Psは、パターン露光L1のエネルギーの付与された領域10aに存在し、塩基Baは、パターン露光L1のエネルギーの付与されなかった領域10bに存在する。
【0045】
具体的には、レジスト層10にパターン露光L1が行われると、レジスト層10において以下のように反応が進む。まず、図2の反応式(1)に示すように、強酸発生剤SPAから強酸SAcが発生する。強酸SAcの濃度分布は、ほぼパターン露光L1のビーム強度分布を示す。
【0046】
領域10aにおいて発生した強酸SAcは、図2の反応式(2)に示すように、増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。なお、強酸SAcに起因して生成される増感体Psの濃度分布もシャープになる。
【0047】
また、強酸SAcは、図2の反応式(3a)に示すように、塩基Baと反応して中和物Neおよび弱酸WAcを生成する。このように、レジスト層10は、塩基Baを含有しているため、強酸SAcは塩基Baと反応して中和し、強酸SAcの濃度分布がシャープになる。例えば、弱酸WAcとして、酢酸、プロピオン酸、シクロへキシルカルボン酸、または、サリチル酸が生成される。なお、弱酸WAcの拡散係数は比較的小さいことが好ましい。
【0048】
また、図2の反応式(3b)に示すように、弱酸WAcは増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。
【0049】
このように、強酸SAc(化合物HX)および塩基Ba(化合物AZ)の中和反応によって強酸発生剤SPA(AX)以外に弱酸WAc(化合物HZ)が生成する。弱酸WAc(化合物HZ)は、増感体前駆体Ppの酸触媒反応を起こし、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。ただし、強酸SAc(化合物HX)とは異なり、弱酸WAc(化合物HZ)は、ベース樹脂Rの極性変換等の化学増幅型レジスト反応を起こすものではない。
【0050】
なお、例えば、レジスト層10周辺の環境は、増感体Psの生成に関与する酸やラジカルの減衰を制御できる雰囲気であることが好ましい。増感体Psの生成に関与する酸やラジカルの減衰を制御できる雰囲気は、塩基性物質を含まない不活性ガス雰囲気または真空雰囲気であってもよく、レジスト層10の上に塩基性物質および/または酸素を遮断するトップコート層が設けられてもよい。レジスト層10周辺の環境を不活性ガス雰囲気にする場合、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスが用いられる。この場合、圧力は、減圧下であってもよく、または、加圧下であってもよい。また、レジスト層10周辺の環境を真空雰囲気にする場合、レジスト層10の周辺が真空下であればよく、レジスト層10の周辺が気圧1Pa以下の真空状態であることが好ましい。不活性ガス雰囲気または真空雰囲気の環境中では、レジスト層10内で増感体Psの生成に関与する酸やラジカルの減衰が抑制される。
【0051】
増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、パターン露光L1は、現在の半導体量産プロセスで主に用いられている化学増幅レジストと同様に、クリーンルーム中に設置された露光装置の中にさらに塩基除去用フィルターを挿入して酸の失活が起きない雰囲気下で行うことが好ましい。また、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、パターン露光L1は、酸の失活が起きず、かつ、真空または不活性の雰囲気下で行われることが好ましい。
【0052】
パターン露光L1のビームとして、例えば、極端紫外線(EUV)、電子線(EB)またはArFエキシマーレーザ、KrFエキシマーレーザ等が用いられる。また、レジスト層10の上に塩基性物質および/または酸素を遮断するトップコート層が設けられてもよい。
【0053】
その後、図1(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2によって、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。例えば、フラッド露光L2の時間は、1分間以内であることが好ましく、30秒間以内であることがさらに好ましい。
【0054】
フラッド露光L2が行われると、増感体Psが励起状態に遷移する。図3に示すように、強酸発生剤SPAは励起状態の増感体Psを介して強酸SAcを発生させる。
【0055】
このように、フラッド露光L2においてエネルギーが付与されると、図4(b)に示すように、領域10aにおいて強酸発生剤SPAから強酸SAcが発生する。なお、増感体Psの生成されていない領域10bにフラッド露光L2のビームが照射されても、領域10bにおける強酸発生剤SPAおよび増感体前駆体Ppは実質的に反応しない。上述したように、パターン露光L1によって形成された増感体Psの濃度分布がシャープであるため、増感体Psを介して強酸発生剤SPAから発生する強酸SAcの濃度分布をシャープにできる。
【0056】
例えば、フラッド露光L2により、増感体Psは励起状態に遷移する。増感体Psを介して強酸発生剤SPAから強酸SAcが領域10aにおいて発生する。増感体Psを介して強酸発生剤SPAから強酸SAcが発生する場合、増感体Psの励起状態の電子が強酸発生剤SPAに移動すると、強酸発生剤SPAは解離型電子付加反応を起こして分解し、強酸SAcと励起前の増感体Psを新たに生成する。
【0057】
増感体Psおよび強酸発生剤SPAの存在する領域10aにフラッド露光L2を続けると、強酸発生剤SPAおよび増感体前駆体Ppがほぼ消失するまで強酸SAcおよび増感体Psが生成される。
【0058】
典型的には、フラッド露光L2のビーム強度はパターン露光L1のビーム強度よりも高く、フラッド露光L2はパターン露光L1よりも安価な光源を用いて実行可能である。また、典型的には、フラッド露光L2のビームとしてパターン露光L1のビームよりも長波長のビームが用いられる。ただし、本発明はこれに限定されず、フラッド露光L2のビームとしてパターン露光L1のビームよりも短波長のビームが用いられてもよい。例えば、パターン露光L1前のレジスト層10がパターン露光L1のビームよりも短波長に吸収を有しない波長帯域Aを持つ一方、波長帯域Aにパターン露光L1後に生成される増感体Psのみが吸収を有する波長のフラッド露光L2のビームが用いられる場合などが挙げられる。レジスト層10がポジ型の場合、レジスト層10の領域10aを除去可能な潜像が形成される。
【0059】
なお、フラッド露光L2のビームはレジスト層10の全体にわたって照射されることが好ましい。ただし、フラッド露光L2のビームはレジスト層10の全体に対して一部のエリアにわたって照射されてもよい。また、フラッド露光L2は、フラッシュ露光で短期間に行われてもよい。例えば、フラッド露光L2は、レーザーフラッシュ露光でもよい。例えば、フラッド露光L2の時間は、エリアごとに1分間以内であることが好ましく、30秒間以内であることがさらに好ましい。
【0060】
フラッド露光L2を行った後、さらに、一般的に行われる処理をレジスト層10に行ってもよい。例えば、フラッド露光L2の後に、熱処理(Post Exposure Bake:PEB)を行ってもよい。熱処理は、例えばパルス熱処理であってもよい。熱処理により、酸拡散反応が発生する。例えば、熱処理は100℃以上110℃以下で行われる。また、フラッド露光L2後、レジスト層10をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行ってもよい。
【0061】
その後、図1(d)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、強酸SAcの発生した領域(潜像が形成された領域)10aは現像液に溶解して除去される。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。
【0062】
なお、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する反応は室温以下で行うことが望ましい。ただし、必要に応じて、パターン露光L1後に、解像度を犠牲にして高感度化するために室温よりやや高い温度に加熱してもよい。
【0063】
以上のようにして、レジスト層10にレジストパターンを形成できる。
【0064】
なお、上述したように、レジスト層10をフラッド露光L2後に変質処理を行う場合、変質処理は現像プロセスの後半のリンス液を用いる過程で行われてもよい。例えば、シリコンを含有するリンス液を用いると、レジスト層10のうちパターン露光L1のエネルギーの付与された領域10aにシリコンが含浸する場合がある。この場合、ドライエッチングで現像すると、領域10aが除去されることなく領域10bが除去される場合がある。
【0065】
一般に、ポジ型のレジスト層を形成する場合、パターン露光およびフラッド露光を行った後に、アルカリ水溶液で現像することでレジスト層はポジ型のパターンに形成される。しかしながら、アルカリ水溶液に代えて有機溶媒で現像することで、レジスト層はネガ型のパターンに形成されてもよい。
【0066】
本実施形態のレジスト材料は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、強酸発生剤SPAおよび塩基Baを有するレジスト組成物を含有する。本実施形態のレジスト材料では、レジスト組成物にパターン露光L1のビームが照射されると、増感体前駆体Ppから、パターン露光L1のビームの波長とは異なる波長のビームに対して強い吸収を示す増感体Psが生成する。この増感体Psはパターン露光L1のビームの照射に応じてパターン形状に生成される。また、フラッド露光L2のビームが照射されると、増感体Psがフラッド露光L2のビームを吸収し、増感体Psに起因して反応が促進される。例えば、増感体Psを介して強酸発生剤SPAから強酸SAcが発生し、所定の潜像パターンを簡便に形成させることができる。
【0067】
本実施形態によれば、図2の反応式(2)および反応式(3b)に示したように、強酸SAcおよび弱酸WAcのいずれも増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。一方、レジスト反応である樹脂の極性変換等の反応は強酸SAcのみで生じる。これにより、増感化学増幅レジストの高解像度化で起きるフォトンショットノイズの問題を解決することができる。
【0068】
本実施形態では、パターン露光L1によってレジスト層10の領域10aに増感体Psを生成させた後に、フラッド露光L2によって増感体Psを励起させて強酸発生剤SPAから強酸SAcを発生させている。このため、パターン露光L1のビーム光源として低出力の光源を使用しても、適切なパターン形状の潜像を形成できる。例えば、パターン露光L1のビームとしてEUVビームでレジスト層10の領域10aを照射した後に、フラッド露光L2のビームとしてUVビームでレジスト層10を照射することで、領域10aに潜像を形成できる。この場合、EUVビームの照射時間を短縮でき、低出力の光源を用いても高いスループットが得られる。
【0069】
また、本実施形態によれば、レジスト層10の領域10aに強酸SAcを発生させる一方で、レジスト層10全体に塩基Baが存在しているため、PEB前には、室温下でも、領域10aにおいて発生する強酸SAcの一部は塩基Baと中和して減少するものの領域10aには強酸SAcが存在し、領域10bには塩基Baが存在する。PEBよる温度上昇と強酸SAcの拡散に起因する解像度の低下は領域10bに存在する塩基Baによって抑制できる。
【0070】
なお、PEB温度での強酸SAcおよび塩基Baの拡散係数が小さい場合、PEB後の反応で生成する化学勾配を大きくできる。LWRは化学勾配に反比例し、同様にフォトンショットノイズによるLWRも化学勾配の大きさに反比例するので、このプロセスでは、フォトンショットノイズによるLWRを大幅に改善できる。
【0071】
この関係は非常によく知られた関係であり、以下のように定式化されている。
LWR ∝ constant/dm/dx
σLWR ∝ σm/dm/dx
ここで、σは標準偏差値、mは反応前の物質濃度で規格化した反応後の化学物質の濃度、xはレジスト層の位置、dm/dxは化学勾配を示す。フォトン数が少なくなると、反応のばらつきが大きくなるのでσmは大きくなるが、本実施形態では化学勾配dm/dxを非常に大きくできるので、σmが大きくても、LWRの標準偏差値を小さくできる。
【0072】
このように、本実施形態によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消し、パターン解像度を維持しながらレジスト層10の感度を向上できる。また、本実施形態によれば、近年、トレードオフ以上に大きな課題となっているフォトンショットノイズを大幅に改善できる。この結果、露光工程のスループットの向上が実現され、露光システムの大幅な低コスト化を実現できる。また、低出力の光源が適用可能なため、光源装置、露光装置内の消耗部品の寿命を長くし、保守および運転コストも大幅に低減できる。以上のように、本実施形態によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジストの感度を向上させるとともに、フォトンショットノイズによるLWRを抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、レジスト層10が塩基Baを含有することにより、レジスト層10は塩基性を示すため増感体前駆体Ppの分解を抑制できるとともに、パターン露光L1としてEUVを用いた場合の帯域外光(Out of Band)によって領域10bに生成される極低濃度の酸を除去することができる。
【0074】
なお、本実施形態のレジスト材料において、前述のプロパルギルアルコール等の増感体前駆体Ppとともに、ベース樹脂Rとしてポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)等を用いることが好ましい。一般に、PHS樹脂は高いガラス転移温度Tgを示すため、酸の拡散を抑制しやすい。また、前述のプロパルギルアルコール等の増感体前駆体Ppは弱酸とも反応しやすい。
【0075】
なお、フラッド露光L2を行った場合、レジスト層10内の反応の一例は以下のように考えられる。フラッド露光L2を行うと、増感体Psが励起され励起状態となる(Ps→Ps*)。励起状態の増感体Ps*は強酸発生剤SPAと反応して強酸SAcを生成する。具体的には、励起状態の増感体Ps*から強酸発生剤SPAに電子移動が起こり、強酸発生剤SPAは電子を受け取ってX-を生成し、これらの結果として強酸SAc(HX)が生成する。
【0076】
ある実施形態では、増感体のカチオンラジカル(Ps・+)からベース樹脂Rの高分子にホールが移動して増感体Psに戻る。
【0077】
ある実施形態では、増感体のカチオンラジカル(Ps・+)からベース樹脂Rの高分子にプロトンが移動する。なお、この反応後の吸収スペクトルは元の増感体Psと吸収スペクトルと変わらず、フラッド露光L2中に増感体Psの吸収スペクトルが変化しないことが好ましい。
【0078】
なお、上述した説明では、図2の反応式(2)に示したように、パターン露光L1により、強酸SAcが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psが生成される。一方、フラッド露光L2において、強酸SAcが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psが新たに生成されてもよい。ただし、増感体前駆体Ppから増感体Psの生成は、パターン露光L1において進行する一方、フラッド露光L2において進行しないことが好ましい。
【0079】
また、上述したように、フラッド露光L2はフラッシュ露光で短期間に行うことが好ましい。フラッド露光L2によって増感体Psが生成すると、新たな増感体Psによって意図せぬ強酸SAcが生成されてしまうことがある。フラッド露光L2を短期間に行うことにより、意図せぬ強酸SAcの生成を抑制できる。
【0080】
また、図2の反応式(3b)で示した弱酸WAcと増感体前駆体Ppとの反応は、室温下ではあまり進行しない一方で、加熱環境下において進行してもよい。この場合、パターン露光L1において反応式(3b)の反応を進行させるために、パターン露光L1において加熱(PEB)することが好ましい。パターン露光L1後の加熱によって、弱酸WAcと増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する反応は進行するが、パターン露光L1後のPEBにおいて、強酸SAcおよび弱酸WAcが拡散することは好ましくない。ただし、パターン露光L1後の加熱(PEB)温度はフラッド露光L2後の加熱(PEB)温度より低いことが好ましい。
【0081】
なお、上述した説明では、レジスト層10内のレジスト組成物は塩基Baを含有し、塩基Baは、強酸SAcと反応することによって中和物Neおよび弱酸WAcを生成したが、本発明はこれに限定されない。レジスト組成物は塩基Baに加えて塩基Baよりも弱い弱塩基を含有してもよい。この場合、レジスト組成物が弱塩基を含有することにより、強酸SAcと塩基Baとの中和によって生じる弱酸WAcがパターン露光L1のエッジ部分から外部に拡散することを抑制できる。
【0082】
上述したように、増感体前駆体Ppは、パターン露光L1によって強酸発生剤SPAから発生した強酸SAcと反応して増感体Psを生成してもよい。この場合、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppと強酸SAcとが反応して増感体Psを生成するプロセス1が進行した後に、フラッド露光L2により、励起状態の増感体Psと強酸発生剤SPAとが反応するプロセス2が進行してもよい。
【0083】
プロセス1では、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppと強酸SAcとが反応して増感体Psを生成する。典型的には、強酸SAcがレジスト層内を拡散し、拡散する強酸SAcの近くに増感体前駆体Ppが存在していると、強酸SAcが増感体前駆体Ppと反応し、強酸SAcおよび増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。このように、プロセス1は強酸SAcの拡散によって進行する。拡散長は塩基濃度、酸分子の大きさ、温度、レジストのガラス転移温度Tgなどに依存して大きく変化する。一般に、温度が高いほど、強酸SAcの拡散長は長くなる。例えば、ベース樹脂のガラス転移温度Tgよりも高い温度において、強酸SAcの拡散長は比較的長くなる。以上のように、プロセス1は強酸SAcの熱拡散に伴う反応であり、強酸SAcの発生した領域から離れた領域でも、強酸SAcと増感体前駆体Ppとの反応が生じ得る。
【0084】
また、プロセス2では、典型的には、励起した増感体Psが強酸発生剤SPAと反応して強酸SAcを発生させる。このように、プロセス2は、電子移動またはエネルギー移動等を生じさせる光化学反応であり、励起した増感体Psから比較的短い距離で3次元的かつ等方性の高い反応が生じる。
【0085】
ここで、プロセス1およびプロセス2におけるラフネス、および、フォトンショットノイズについて検討する。特に少量のフォトンで反応を進行させる場合、フォトンショットノイズに起因するラフネスが目立つことがある。フォトンショットノイズに起因するラフネスを抑制するために、反応距離は、プロセス1およびプロセス2のいずれにおいても短いことが好ましい。なお、プロセス1およびプロセス2を比較した場合、反応距離のばらつきは、熱拡散に伴うプロセス1において生じやすい。特に、強酸SAcの濃度が比較的低い場合、プロセス1の反応において拡散に伴うフォトンショットノイズに起因するラフネスが生じやすい。このため、フォトンショットノイズに起因するラフネスを抑制するために、プロセス1を行う際、強酸SAcおよび増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する反応が効率よく進行するのであれば、温度を低くして強酸SAcの拡散長を比較的短くすることが好ましい。例えば、パターン露光L1は、強酸SAcの拡散の温度依存性、および、強酸SAcおよび増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する反応の温度依存性等を考慮して行うことが好ましい。
【0086】
プロセス2では、3次元等方性の高い励起した増感体Psから強酸発生剤SPAへの電子移動またはエネルギー移動に伴って強酸SAcが効率よく生成されるように励起した増感体Psと強酸発生剤SPAを選択し、強酸発生剤SPAの濃度を高くすることが好ましい。また、プロセス1よりプロセス2の比率を大きくすることがラフネスやフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減する上で有効である。このように、パターン露光L1およびフラッド露光L2において、強酸SAcと増感体前駆体Ppとの反応における強酸SAcの拡散距離、および、励起した増感体Psから強酸発生剤SPAへの電子移動またはエネルギー移動の反応距離を短くすることが好ましい。さらに、強酸SAc等のランダムな拡散軌道に従った反応よりも3次元等方性の高い電子移動、エネルギー移動反応によって強酸SAcを生成する反応の寄与する度合を大きくすることが好ましい。これらにより、レジストパターンのフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減させることができる。
【0087】
なお、上述したように、増感体前駆体Ppが、パターン露光L1によって強酸発生剤SPAから発生した強酸SAcと反応して増感体Psを生成する場合、増感体前駆体Ppは、増感体Psを生成するための反応物としてのみではなく、強酸発生剤SPAから強酸SAcを発生させる反応に対して増感作用を有することが好ましい。なお、パターン露光L1の際に、増感体前駆体Ppは、増感体前駆体Ppから増感体Psを発生させる反応に対する増感作用および/または強酸発生剤SPAから強酸SAcを発生させる反応に対する増感作用を有することが好ましい。
【0088】
また、上述の説明では、パターン露光L1およびフラッド露光L2はそれぞれ1回行われたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光L1およびフラッド露光L2はそれぞれ複数回行われてもよい。例えば、フラッド露光L2は複数回行われてもよい。
【0089】
なお、上述した説明では、パターン露光L1によって強酸発生剤SPAから発生した強酸SAcが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成し、また、パターン露光L1前のレジスト層10は強酸SAcを中和するための塩基Baを含有していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト層10は、パターン露光L1によって発生させたラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psを生成し、パターン露光L1前のレジスト層10はラジカル捕捉成分Rkを含有してもよい。
【0090】
以下、図5を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法およびレジスト材料は、パターン露光L1を行う前のレジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有する点を除いて、図1および図2を参照して上述したレジストパターン形成方法およびレジスト材料と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。なお、本実施形態においてレジスト層10の増感体前駆体Ppはアルコール型であり、パターン露光L1によって発生したラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。
【0091】
図5(a)〜図5(d)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
【0092】
まず、図5(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、強酸発生剤SPA、塩基Baおよびラジカル捕捉成分Rkを含有している。
【0093】
例えば、ラジカル捕捉成分Rkとして、ヒンダードフェノールなどのラジカル捕捉剤、ラジカル禁止剤が用いられる。なお、ラジカル捕捉成分Rkはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、ラジカル捕捉成分Rkはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えばラジカル捕捉成分Rkはベース樹脂Rに結合されている。ベース樹脂Rとして、ポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)を用いる場合、PHS樹脂はラジカル捕捉剤として機能し得る。
【0094】
次に、図5(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
【0095】
パターン露光L1を行う前には、レジスト層10の強酸発生剤SPA、増感体前駆体Pp、塩基Baおよびラジカル捕捉成分Rkは場所によらずほぼ一定の濃度を有している。なお、ラジカル捕捉成分Rkの濃度は、強酸発生剤SPAおよび増感体前駆体Ppの濃度と比べて比較的低い。
【0096】
パターン露光L1が始まると、領域10a内にラジカルが発生し、ラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。ここでは、レジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有しているため、発生したラジカルの一部はラジカル捕捉成分Rkに捕捉される。このため、増感体Psの濃度分布は、レジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有していない場合と比べてシャープになる。
【0097】
次に、図5(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。パターン露光L1によって形成された増感体Psの濃度分布がシャープであるため、増感体Psを介して強酸発生剤SPAから発生する強酸SAcの濃度分布をシャープにできる。
【0098】
その後、図5(d)に示すように、レジスト層10の現像を行う。以上のように、レジスト層10に予め少量のラジカル捕捉成分Rkを添加することにより、コントラストおよび解像度を改善できるとともに、領域10bへの迷光または帯域外光(Out Of Band)の照射に伴う少量の酸の生成を抑制でき、レジスト性能を向上できる。
【0099】
また、上述したように、レジスト層10は、強酸発生剤SPAとは別にラジカル発生成分を含有してもよいが、強酸発生剤SPAおよびラジカル発生成分は同一の成分であってもよい。この場合、フラッド露光L2により、強酸SAcおよび増感体Psが生成される。この反応は、ラジカルに伴う反応を含むので、上述したように、レジスト層10は、ラジカル捕捉成分Rkを含有することが好ましい。また、レジスト層10は、露光(例えば、フラッド露光)によってラジカル捕捉成分を生成するラジカル禁止剤発生剤を含有してもよい。
【0100】
図1図5を参照した上述の説明では、レジスト層10は露出されており、外気と直接的に接触していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト層10の表面にトップコート層が設けられてもよい。また、レジスト層10と基板Sとの間に下地層が設けられてもよい。
【0101】
以下、図6を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、レジスト層10の下に下地層Uをさらに形成し、かつ、レジスト層10の表面にトップコート層Tをさらに形成する点を除いて、図1図5を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0102】
まず、図6(a)に示すように、基板S上に下地層Uを形成する。下地層は、例えば、市販の無機材料または有機材料から形成される。
【0103】
次に、下地層Uの上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、強酸発生剤SPAおよび塩基Baを含有している。
【0104】
次に、レジスト層10の表面にトップコート層Tを形成する。トップコート層Tにより、塩基性物質および/または酸素のレジスト層10への侵入が遮断される。トップコート層Tは、パターン露光L1とフラッド露光L2のビームを透過し、帯域外光(Out of Band)のビームをなるべく遮断することが好ましい。
【0105】
例えば、増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、トップコート層Tは、酸の失活を防ぐために、塩基性化合物を浸透しないことが好ましい。また、例えば、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、トップコート層Tは、酸素の透過しない架橋した高分子膜、または、ヒドロキノンや3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエンなどの酸素と反応する物質を含む高分子膜から形成される。トップコート層Tの厚さは、パターン露光L1のビーム源に応じて決定される。例えば、ビーム源としてEUVを用いる場合、トップコート層TでのEUVのエネルギー損失が大きいため、トップコート層Tの厚さは20nm以上50nm以下であることが好ましい。また、ビーム源としてEBを用いる場合、トップコート層Tの厚さは、EBのエネルギーに依存するが、50nm以下であることが好ましい。さらに、ビーム源として、ArFまたはKrFを用いる場合、トップコート層Tはビームに対して透明であることが好ましく、トップコート層Tの厚さは20nm以上200nm以下であってもよい。
【0106】
次に、図6(b)に示すように、トップコート層Tを介してレジスト層10にパターン露光L1を行う。上述したように、パターン露光L1により、領域10aに増感体Psが形成される。
【0107】
次に、図6(c)に示すように、トップコート層Tを介してレジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2により、上述したように、領域10aに強酸SAcが形成される。
【0108】
次に、図6(d)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、強酸SAcの発生した領域(潜像が形成された領域)10aは現像液において溶解し除去される。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。なお、パターン露光L1の後、または、フラッド露光L2の後、必要に応じてレジスト層10上のトップコート層Tを除去してもよい。パターン露光L1の間、または、フラッド露光L2の間、トップコート層Tが設けられていることにより、レジスト層10への塩基性物質および/またはラジカル捕捉成分の意図しない侵入が抑制され、これにより、レジスト層10のレジスト性能をさらに向上させることができる。
【0109】
なお、図6を参照して上述した説明では、レジスト層10の上方にトップコート層Tを設け、レジスト層10の下方に下地層Uを設けたが、本発明はこれに限定されない。トップコート層Tを設けることなくレジスト層10の下方に下地層Uを配置してもよい。あるいは、下地層Uを設けることなくレジスト層10の上方にトップコート層Tを設けてもよい。
【0110】
また、下地層Uは、フラッド露光L2のビームの反射防止膜として機能することが好ましい。下地層Uの最適な厚さは、フラッド露光L2の波長によって決定される。
【0111】
なお、上述した説明では、パターン露光L1の露光前にレジスト層10内に塩基Baが存在しており、塩基Baの量はレジスト層10内における強酸SAcの発生に伴って減少したが、本発明はこれに限定されない。レジスト層10は塩基発生剤PBGを含有してもよい。
【0112】
以下、図7および図8を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法およびレジスト材料は、パターン露光L1を行う前のレジスト層10が塩基発生剤PBGを含有する点を除いて、図1図6を参照して上述したレジストパターン形成方法およびレジスト材料と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0113】
まず、図7(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、強酸発生剤SPAおよび、塩基発生剤PBGを含有している。レジスト層10中において、例えば、100質量部のベース樹脂Rに対して、塩基発生剤PBGは0質量部よりも多く40質量部以下である。
【0114】
なお、塩基発生剤PBGは、非イオン型であってもよく、イオン型であってもよい。非イオン型の塩基発生剤PBGは、例えば、9−アンスリルメチルーN,N−ジエチルカルバメートである。また、イオン型の塩基発生剤PBGは、例えば、シクロヘキシルアンモニウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート、ジシクロヘキシルアンモニウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナートなどである。なお、塩基発生剤PBGから発生する塩基Baの拡散係数は小さいことが好ましい。
【0115】
次に、図7(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
【0116】
パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10aにエネルギーが付与されると、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。図8(a)に、領域10aにおける増感体Psの濃度分布を示す。
【0117】
その後、図7(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2によって、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。
【0118】
塩基発生剤PBGは、フラッド露光L2により、塩基Ba1を発生させる。塩基Ba1は、レジスト層10に予め含有された塩基Baと同じであっても異なってもよい。本実施形態によれば、フラッド露光L2により、図8(b)に示すように、領域10bにおいて塩基発生剤PBGから塩基Ba1が発生する。なお、領域10aにおいて、領域10a内の塩基発生剤PBGから発生した塩基Ba1は強酸SAcと反応し、強酸SAcの濃度を低減させる。
【0119】
なお、一般に、室温における強酸SAcおよび塩基Ba1の拡散係数は非常に小さいので、強酸SAcのピーク濃度および塩基Ba1のピーク濃度はそれぞれほぼ一定であり、強酸SAcの濃度および塩基Ba1の濃度は、領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻な勾配を形成する。
【0120】
なお、図7および図8を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Ba1の発生はフラッド露光L2によって行われたが、本発明はこれに限定されない。塩基発生剤PBGから塩基Ba1の発生はフラッド露光L2だけでなくパターン露光L1によって行われてもよい。
【0121】
以下、図9を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、フラッド露光を2回行う点を除いて図7および図8を参照して上述したレジストパターン形成方法およびレジスト材料と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0122】
図9(a)〜図9(e)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
【0123】
まず、図9(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、強酸発生剤SPA、塩基Baおよび塩基発生剤PBGを含有している。
【0124】
次に、図9(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10aにビームが照射されることにより、領域10aにおいて増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。
【0125】
その後、図9(c)に示すように、レジスト層10に第1フラッド露光L2aを行う。第1フラッド露光L2aによって、レジスト層10の全体にビームが照射されることにより、増感体Psを介して強酸発生剤SPAから強酸SAcが発生する。なお、強酸発生剤SPAがなくなるまで強酸SAcが発生すると、その後、強酸SAcは発生しなくなるので、強酸SAcのピーク濃度は領域10aにわたってほぼ一定になる。最終的には、強酸SAcの濃度分布は、領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻に変化する。
【0126】
その後、図9(d)に示すように、レジスト層10に第2フラッド露光L2bを行う。第2フラッド露光L2bによって、レジスト層10の全体にビームが照射されることにより、塩基発生剤PBGから塩基Ba1が発生する。
【0127】
ここで、塩基発生剤PBGからの塩基Ba1の発生を説明する。第2フラッド露光L2bを行う前には、レジスト層10には塩基発生剤PBGがほぼ均一に存在している。第2フラッド露光L2bが始まると、領域10bにおいて塩基発生剤PBGが減少し、塩基発生剤PBGから塩基Ba1が発生する。なお、領域10aにおいても塩基発生剤PBGから塩基Ba1が発生するが、領域10aにおいて発生した塩基Ba1は強酸SAcと中和し、強酸SAcの濃度を低減させる。
【0128】
第2フラッド露光L2bをさらに続けると、領域10bにおいて塩基発生剤PBGがさらに減少し、塩基発生剤PBGから発生した塩基Ba1の濃度が増加する。例えば、第2フラッド露光L2bは、領域10bの塩基発生剤PBGが無くなるまで続けられる。
【0129】
また、領域10aにおいて、領域10a内の塩基発生剤PBGから発生した塩基Ba1は強酸SAcと反応し、強酸SAcの濃度を低減させる。強酸SAcのピーク濃度および塩基Baと塩基Ba1の和のピーク濃度はそれぞれほぼ一定であり、強酸SAcの濃度および塩基Baと塩基Ba1の濃度は、それぞれ領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻に変化する。したがって、PEB後の化学勾配も非常に大きくなる。フォトンショットノイズによるLWRは化学勾配の大きさに反比例するので、フォトンショットノイズによるLWRは大幅に改善される。
【0130】
その後、図9(e)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、強酸SAcの発生した領域10aが取り除かれる。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。
【0131】
なお、図9を参照した上述の説明では、第2フラッド露光L2bは、領域10bの塩基発生剤PBGが無くなるまで続けられたが、本発明はこれに限定されない。第2フラッド露光L2bは、領域10bの塩基発生剤PBGが無くなるまで続けなくてもよい。
【0132】
また、図9を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Ba1への反応は、第1フラッド露光L2aでは進行せずに、第2フラッド露光L2bによって進行する。このような反応は、例えば、以下のような条件下で進行する。
【0133】
図10に、増感体前駆体Pp、増感体Psおよび塩基発生剤PBGの吸収波長の模式的なスペクトルを示す。増感体Psの吸収波長は増感体前駆体Ppの吸収波長よりも長く、塩基発生剤PBGの吸収波長は増感体Psの吸収波長よりも長い。
【0134】
この場合、パターン露光L1で比較的短い波長のビームを照射すると、強酸発生剤SPAから強酸SAcが発生するとともに、強酸SAcおよび増感体前駆体Ppから増感体Psが形成される。また、第1フラッド露光L2aでパターン露光L1のビームの波長よりも長い波長のビームを照射すると、増感体Psを介して強酸発生剤SPAから強酸SAcが発生する。さらに、第2フラッド露光L2bで第1フラッド露光L2aのビームの波長よりも長い波長のビームを照射すると、塩基発生剤PBGから塩基Ba1が発生する。
【0135】
なお、図10を参照して、フラッド露光を2回行う場合の吸収波長の模式的なスペクトルを説明したが、フラッド露光は3回以上であってもよい。また、図7および図8を参照して上述したように、フラッド露光は1回であってもよい。
【0136】
なお、増感体前駆体Ppはアセタール型であっても、アルコール型であってもよい。あるいは、増感体前駆体Ppはアセタール型およびアルコール型の混合型であってもよい。例えば、増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、強酸発生剤SPAから発生した強酸SAcが触媒として機能し、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。あるいは、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、レジスト層10は、ラジカル発生成分を含有し、発生したラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psが発生する。
【0137】
なお、図9図10を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Ba1の発生は第2フラッド露光L2bによって行われたが、本発明はこれに限定されない。塩基発生剤PBGから塩基Ba1の発生は第2フラッド露光L2bだけでなくパターン露光L1および/または第1フラッド露光L2aによって行われてもよい。また図9図10を参照した上述の説明では、フラッド露光として、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行ったが、本発明はこれに限定されない。第2フラッド露光L2bの後に、増感体Psを介して強酸発生剤SPAから強酸SAcを発生させる第3フラッド露光を行ってもよい。
【0138】
なお、上述したように、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppから増感体Psを直接的に生成してもよい。例えば、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppが励起もしくはイオン化して増感体前駆体Ppが構造変換することにより、吸収波長または吸収係数の異なる増感体Psが生成されてもよい。構造変換は、例えば、共役長の変化、分解またはシストランス異性化である。または、パターン露光L1により、レジスト層10内の含有物のイオン化によって生成された電子と増感体前駆体Ppとの反応によって増感体Psが生成されてもよい。あるいは、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppは、強酸発生剤SPAから発生した強酸SAcと反応して増感体Psを生成してもよい。
【0139】
なお、図7図10を参照して上述した説明では、塩基発生剤PBGはフラッド露光L2によって塩基Ba1を生成したが、本発明はこれに限定されない。塩基発生剤PBGは熱処理によって塩基Ba1を生成してもよい。
【0140】
なお、上述したレジストパターン形成方法におけるパターン露光およびフラッド露光はレジスト潜像形成装置において好適に行われる。以下、図11を参照してレジスト潜像形成装置200を説明する。
【0141】
レジスト潜像形成装置200は、パターン露光機210と、フラッド露光機220とを備える。パターン露光機210は、基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光する。上述したように、レジスト層10はベース樹脂、増感体前駆体、強酸発生剤および塩基を含有している。なお、レジスト層10は、基板S上に直接形成されてもよく、あるいは基板S上に別の層を介して形成されてもよい。パターン露光機210のパターン露光L1により、レジスト層10の増感体前駆体から増感体が生成される。その後、フラッド露光機220はレジスト層10にフラッド露光L2を行い、パターン潜像を形成する。フラッド露光機220のフラッド露光L2により、増感体を介して強酸発生剤から酸が発生する。
【0142】
パターン露光機210は、チャンバ212と、パターン光源214とを有している。チャンバ212は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ212内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。活性ガス雰囲気は、例えば、分圧の制御された水素ガスを含む。チャンバ212は、収納している基板Sの温度を−10℃から100℃の範囲で制御可能であることが好ましい。
【0143】
パターン光源214は、チャンバ212内のレジスト層10にパターン形状のビームを照射する。パターン光源214のビームは、可視光、UV、DUV、EUVのような電磁波である。または、パターン光源214のビームは電子線またはイオンビームであってもよい。例えば、パターン光源214は、イオンビーム照射部、電子線照射部または電磁波照射部を含む。
【0144】
パターン露光L1の光源としてEUV光源を用いる場合、EUVの波長は1nm以上13.5nm以下であることが好ましく、6nm以上13.5nm以下であることがさらに好ましい。あるいは、パターン露光L1のビームとして電子線を用いる場合、電子線の加速エネルギーは10keV以上300keV以下であることが好ましく、40keV以上130keV以下であることがさらに好ましい。
【0145】
ここでは、パターン露光機210が基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光を行った後、基板Sはパターン露光機210からフラッド露光機220まで運搬される。基板Sがパターン露光機210からフラッド露光機220まで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。パターン露光からPEBまでの間に酸の失活が起きないように、レジスト潜像形成装置200では、塩基性化合物の除去用フィルター等を用いて、雰囲気が厳しく制御されることが好ましい。これにより、パターン露光機210によって生じたレジスト層10の活性が減衰することを抑制できる。チャンバ222は、収納している基板Sの温度を−10℃から100℃の範囲で制御可能であることが好ましい。
【0146】
フラッド露光機220は、チャンバ222と、フラッド光源224とを有している。チャンバ222は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0147】
フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10にフラッド露光L2のビームを照射してパターン潜像を形成する。フラッド露光L2のビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。図11では、フラッド露光L2のビームはミラーによって反射されて、チャンバ222内に導入されている。例えば、フラッド光源224は、イオンビーム照射部、電子線照射部または電磁波照射部を含む。
【0148】
フラッド露光機220は、ビームをエリア形状にするための機構をさらに有してもよい。例えば、フラッド露光機220は、投影レンズ系および遮断マスクを有する。ただし、フラッド露光機220は、投影レンズ系を有しておらず、遮断マスクのみを有してもよい。遮断マスクのみを有する場合、フラッド露光機220の構成が簡素になり好適である。
【0149】
このように、パターン光源214がレジスト層10のエリア内に、パターン形状にビームを照射した後、フラッド光源224が上記エリアにわたってビームを照射し、レジスト層10に所定のパターン潜像を形成する。パターン光源214は、パターン形状にビームを照射するパターン照射源であるのに対して、フラッド光源224は、エリア照射源である。
【0150】
レジスト層10にパターン潜像が形成された後、レジスト層10は、図示しない現像装置において現像されてもよい。現像により、所定のパターンのレジスト層10が出現する。
【0151】
なお、レジスト潜像形成装置200は、一例として、パターン光源214を備えるパターン露光機210、および、フラッド光源224を備えるフラッド露光機220に加えてコータ/デベロッパ(ここでは図示せず)をさらに備えることが好ましい。レジスト潜像形成装置200がコータ/デベロッパを備える場合、レジスト潜像形成装置200は、レジスト層10のパターン形成を以下のように行う。まず、コータ/デベロッパは、基板S上にスピンコートでアンダーレイヤーを形成し、アンダーレイヤーをベークする。
【0152】
次に、コータ/デベロッパは、アンダーレイヤー上にレジスト層10をコーティングし、レジスト層10をプリベークする。なお、必要に応じて、レジスト層10上にスピンコートでさらに別の層を形成し、当該層をベークしてもよい。
【0153】
次に、パターン露光機210のパターン光源214は、レジスト層10にビームを照射する。その後、フラッド露光機220のフラッド光源224はレジスト層10にビームを照射する。これにより、レジスト層10にパターン潜像が形成される。
【0154】
次に、コータ/デベロッパは、ポストベークを行う。その後、コータ/デベロッパは、レジスト層10を現像する。これにより、所定のパターン形状のレジスト層10が形成される。次に、コータ/デベロッパは、レジスト層10を純水でリンスし、ポストベーク(乾燥)を行う。以上のようにして、レジスト層10にパターンを形成することができる。
【0155】
なお、基板Sが、コータ/デベロッパ、レジスト層10を活性化する場所、レジスト層10にパターン潜像を形成する場所の間で運搬される場合、運搬は、所定の不活性ガス雰囲気下、活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行われることが好ましい。運搬部材として、温度調整機能を有するステージが好適に用いられる。
【0156】
また、コータ/デベロッパは、パターン露光機210のチャンバ212内に配置されてもよく、あるいは、フラッド露光機220のチャンバ222内に配置されてもよい。さらには、コータ/デベロッパは、パターン露光機210およびフラッド露光機220と共通のチャンバ内に配置されてもよい。
【0157】
図11を参照して上述した説明では、チャンバ212においてパターン光源214から出射されたビームが照射され、チャンバ222においてパターン光源214とは異なるフラッド光源224から出射されたビームが照射されたが、本発明はこれに限定されない。
【0158】
また、図11を参照して上述した説明では、基板S上に形成されたレジスト層10を活性化した後、基板Sは、チャンバ212から一旦とり出されて、チャンバ222まで運搬されたが、本発明はこれに限定されない。基板Sは、チャンバ212とチャンバ222とを連絡する連絡経路を通ってチャンバ212からチャンバ222まで搬送されてもよい。
【0159】
また、図11を参照して上述した説明では、パターン露光機210およびフラッド露光機220は、チャンバ212およびチャンバ222をそれぞれ備えていたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光機210およびフラッド露光機220のチャンバは同一であってもよい。
【0160】
また、図11を参照して上述したレジスト潜像形成装置200は、1つのフラッド露光機220を備えていたが、本発明はこれに限定されない。レジスト潜像形成装置200は、波長の異なるビームを出射する複数のフラッド露光機を備えてもよいし、また、1つのフラッド露光機が複数の異なるビームを出射してもよい。
【0161】
以下、図12を参照して本実施形態のレジスト潜像形成装置200を説明する。本実施形態のレジスト潜像形成装置200は、2つのフラッド露光機を備える点を除いて図11を参照して上述したレジスト潜像形成装置と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0162】
レジスト潜像形成装置200は、パターン露光機210と、第1フラッド露光機220aと、第2フラッド露光機220bとを備える。パターン露光機210が、基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光L1を行った後、第1フラッド露光機220aがレジスト層10に第1フラッド露光L2aを行い、第2フラッド露光機220bがレジスト層10に第2フラッド露光L2bを行い、パターン潜像を形成する。
【0163】
パターン露光機210は、チャンバ212と、パターン光源214とを有している。パターン光源214は、チャンバ212内のレジスト層10にパターン形状のビームを照射する。パターン光源214のビームは、可視光、UV、DUV、EUVのような電磁波である。または、パターン光源214のビームは電子線またはイオンビームであってもよい。
【0164】
第1フラッド露光機220aは、チャンバ222aと、第1フラッド光源224aとを有している。チャンバ222aは、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222a内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0165】
パターン露光機210が基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光を行った後、基板Sはパターン露光機210から第1フラッド露光機220aまで運搬される。基板Sがパターン露光機210から第1フラッド露光機220aまで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0166】
第1フラッド光源224aは、チャンバ222a内のレジスト層10に第1フラッド露光L2aのビームを照射する。第1フラッド光源224aから出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。第1フラッド露光L2aのビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。図12では、第1フラッド露光L2aのビームはミラーによって反射されて、チャンバ222a内に導入されている。
【0167】
第1フラッド露光機220aが基板S上に形成されたレジスト層10に第1フラッド露光L2aを行った後、基板Sは第1フラッド露光機220aから第2フラッド露光機220bまで運搬される。基板Sが第1フラッド露光機220aから第2フラッド露光機220bまで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0168】
第2フラッド露光機220bは、チャンバ222bと、第2フラッド光源224bとを有している。チャンバ222bは、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222b内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0169】
第2フラッド光源224bは、チャンバ222b内のレジスト層10に第2フラッド露光L2bのビームを照射してパターン潜像を形成する。第2フラッド光源224bから出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。第2フラッド露光L2bのビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。図12では、第2フラッド露光L2bのビームもミラーによって反射されて、チャンバ222内に導入されている。
【0170】
なお、第2フラッド光源224bの出射するビームの波長は、第1フラッド光源224aの出射するビームの波長よりも長いことが好ましい。ただし、第2フラッド光源224bの出射するビームの波長は、第1フラッド光源224aの出射するビームの波長よりも短くてもよい。
【0171】
レジスト層10にパターン潜像が形成された後、レジスト層10は、図示しない現像装置において現像されてもよい。現像により、所定のパターンのレジスト層10が出現する。
【0172】
なお、図12を参照して上述した説明では、異なる第1フラッド露光機220aおよび第2フラッド露光機220bが異なるフラッド露光を行ったが、本発明はこれに限定されない。フラッド露光機の同一のフラッド光源により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われてもよい。
【0173】
以下、図13を参照して本実施形態のレジスト潜像形成装置200を説明する。本実施形態のレジスト潜像形成装置200は、フラッド露光機220内の同一のフラッド光源224により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われる点を除いて図12を参照して上述したレジスト潜像形成装置と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0174】
フラッド露光機220は、チャンバ222と、フラッド光源224とを有している。チャンバ222は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0175】
フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10にフラッド露光L2のビームを照射してパターン潜像を形成する。フラッド露光L2のビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。
【0176】
ここでは、フラッド露光機220は、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行う。フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10に第1フラッド露光L2aのビームを照射する。フラッド光源224から出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。
【0177】
その後、フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10に第2フラッド露光L2bのビームを照射する。この場合も、フラッド光源224から出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。なお、典型的は、第2フラッド露光L2b時のビームの波長は、第1フラッド露光L2a時のビームの波長とは異なる。このように、フラッド露光機220内の同一のフラッド光源224により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われてもよい。
【0178】
また、上述した説明では、フラッド露光はパターン露光の後に行われたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光に先立ち、予備的なフラッド露光を行ってもよい。あるいは、パターン露光のみによって、増感体前駆体Ppからの増感体Psの生成が完了しなくてもよく、パターン露光の後に、増感体前駆体Ppからの増感体Psを生成するためのフラッド露光を行ってもよい。
【0179】
なお、上述した説明では、ポジ型のレジスト層を説明したが、本発明はこれに限定されない。レジスト層はネガ型であってもよい。
【実施例】
【0180】
以下、実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0181】
[実施例1]
[A.増感体前駆体の合成]
(1)200mLの4つ口フラスコに2−ブロモナフタレン(1.99g、9.60mmol)、1,1−ジフェニル−2−プロピン−1−オール(2.00g、 9.60mmol)、ヨウ化銅(12.8mg、0.07mmol)をトリエチルアミン(32mL)中で攪拌した。
(2)(1)の溶液を攪拌しながら、アルゴンバブリング(50mL/分)を15分間行った。
(3)反応溶液にPdCl2(PPh32 (13.5mg、0.029 m mol)を加え、アルゴンフロー(200mL/分)の状態で内温70℃まで加熱し、24時間攪拌を行った。
(4)反応液を室温に戻し、塩化アンモニウムを加えて反応の停止を行った。
(5)酢酸エチルと飽和食塩水で分液操作を行い、得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて脱水した。
(6)エバポレータで溶媒を留去し、粗生成物(約2.8g)を得た。
(7)シリカゲルカラム(150mL)を用いてカラム精製を行った。
酢酸エチル/ヘキサン=1/6
(8)減圧乾燥機で40℃12時間乾燥を行った。
収量:2.0g(収率:62%)
(9)H1−NMR分析結果とTOF−MS測定(分子量344.4)より、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコールが得られていることを確認した。
【0182】
[B.レジストの露光実験]
予めヘキサメチルジシラサン(HMDS)処理を行ったシリコン基板上に、下地膜を形成した。
【0183】
次に、ベース樹脂Rとして、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)系高分子、強酸発生剤SPAとしてはスルホニウム系強酸発生剤、増感体前駆体Ppとしては1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコール、強酸との反応によって弱酸を生成する塩基からなるレジスト材料を調製した。下地膜上にレジスト材料を付与し、スピンコーター(ミカサ株式会社製)を用いて1000 rpm、120秒でスピンコートした。スピンコート後、100℃で1分間の熱処理を行い、レジスト層を形成した。スピンコート後、AFM(株式会社日立ハイテクサイエンス製NanoNavi II/SPA−300HV)を用いて計測したレジスト層の厚さは約50nmであった。さらに、レジスト層の上にトップコートを形成した。
【0184】
パターン露光機としてはElionix社製電子ビーム露光装置(ELS−100T:市販のELS−125F相当)を用いて加速電圧125keV、照射電流 50pAでレジスト層を照射した。パターン露光L1を行った後、レジスト層をインターバルとして大気中に1分間保持した後、フラッド露光を行った。フラッド露光機としてLED光源(365nm、岩崎電気株式会社)を用いた。パターン露光L1後のレジスト層に対して、大気中においてレジスト表面での露光強度が40mW/cm2の露光条件でフラッド露光L2を行った。その後、所定の条件でPEB、濃度2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)現像液によって現像処理を行った。現像処理後のパターンサイズは、ZEISS社製NVsion−40D(In lensタイプ)を用いて評価した。
【0185】
図14(a)、図14(b)、および図14(c)はパターン露光後に5分間フラッド露光を行ったレジスト層のSEM像を示す。図14(a)は、パターン露光として、30nmのドットパターンで露光量160μC/cm2の電子ビームで露光し、5分間フラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。図14(b)は、パターン露光として、30nmのドットパターンで露光量180μC/cm2の電子ビームで露光し、5分間フラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。図14(c)は、パターン露光として、30nmのドットパターンで露光量200μC/cm2の電子ビームで露光し、5分間フラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。
【0186】
図14(a)に示すように、電子ビームの露光量が160μC/cm2の場合、露光量が若干不足しているが、ドットパターンが形成された。図14(b)に示すように、電子ビームの露光量が180μC/cm2の場合、十分なドットパターンが形成された。図14(c)に示すように、電子ビームの露光量が200μC/cm2の場合、若干オーバー露光になったが、ドットパターンが形成された。
【0187】
なお、図14(a)〜図14(c)において、縦方向にドットパターンがオーバーラップして見えるのは、高感度化学増幅レジストの測定には適さないElionix社製電子ビーム露光装置(ELS−100T:市販のELS−125F相当)の保証している電流値より低い電流値で測定しているため、不安定で掃引方向(縦方向)に漏れ電流が出ているためと考えられる。横方向にはきれいに分離しているので、レジストの性能としては分離したドットパターンを形成していると考えられる。
【0188】
なお、上述のレジスト材料と同一の材料に対して、フラッド露光として波長365nmのLED光を照射しなかったことを除き、プリベーク、PEB、現像等のプロセス条件を同じにしてレジスト層を形成した。
【0189】
図15(a)、図15(b)、および図15(c)はパターン露光を行った後にフラッド露光を行わずに現像したレジスト層のSEM像を示す。図15(a)は、パターン露光として、30nmのドットパターンで露光量240μC/cm2の電子ビームで露光し、フラッド露光を行わずに現像したレジスト層を示す。図15(b)は、パターン露光として、30nmのドットパターンで露光量300μC/cm2の電子ビームで露光し、フラッド露光を行わずに現像したレジスト層を示す。図15(c)は、パターン露光として、30nmのドットパターンで露光量360μC/cm2の電子ビームで露光し、フラッド露光を行わずに現像したレジスト層を示す。
【0190】
図15(a)に示すように、電子ビームの露光量が240μC/cm2の場合、フラッド露光を行わなくても、露光量が若干不足したもののドットパターンが形成された。図15(b)に示すように、電子ビームの露光量が300μC/cm2の場合、十分なドットパターンが形成された。図15(c)に示すように、電子ビームの露光量が360μC/cm2の場合、フラッド露光を行わなくても若干オーバー露光になったが、ドットパターンが形成された。
【0191】
なお、図15(a)〜図15(c)においてドットパターンは縦方向にオーバーラップしてみえる。これは、図14(c)と同様に、高感度化学増幅レジストの測定には適さないElionix社製電子ビーム露光装置(ELS−100T:市販のELS−125F相当)の保証している電流値より低い電流値で測定していることが原因で不安定で掃引方向(縦方向)に漏れ電流が出ていることから、オーバーラップが起こっているため生じた事象であり、横方向には分離しているので、レジストの性能としては分離したドットパターンを形成していると考えられる。
【0192】
今まで、大気中で5分間のフラッド露光を行うと大気中の塩基成分のため引き置き効果が発生し、高解像度のドットパターンの形成ができなかったが、弱酸でも増感体前駆体から増感体の生成反応が進行する増感体前駆体として、1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコールを、光分解性塩基(PDB)とともに用いることにより、高解像度レジストでも高感度化することが示された。
【0193】
図16(a)、図16(b)、および図16(c)は、ベース樹脂R、強酸発生剤SPA、増感体前駆体Ppおよび強酸との反応によって弱酸を生成する塩基を含有したレジスト層に対して、パターン露光、またはパターン露光およびフラッド露光の両方を行った後のSEM像を示す。ここでは、レジスト層は、上述と同様に形成した。ベース樹脂Rとして、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)系高分子、強酸発生剤SPAとしてはスルホニウム系強酸発生剤、増感体前駆体Ppとしては1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコール、強酸との反応によって弱酸を生成する塩基からなるレジスト材料を調製した。下地膜上にレジスト材料を付与し、スピンコーター(ミカサ株式会社製)を用いて1000 rpm、120秒でスピンコートした。スピンコート後、100℃で1分間の熱処理を行い、レジスト層を形成した。スピンコート後、AFM(株式会社日立ハイテクサイエンス製NanoNavi II/SPA−300HV)を用いて計測したレジスト層の厚さは約50nmであった。さらに、レジスト層の上にトップコートを形成した。
【0194】
図16(a)は、レジスト層に対して、露光量500μC/cm2の電子ビームでパターン露光を行った後に現像したレジスト層を示す。図16(b)は、レジスト層に対して、露光量430μC/cm2の電子ビームでパターン露光を行い、露光量2.4J/cm2でフラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。図16(c)は、レジスト層に対して、露光量360μC/cm2の電子ビームでパターン露光を行い、露光量4.8J/cm2でフラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。
【0195】
図17(a)、図17(b)、および図17(c)は、塩基以外は図16と同一成分を含有したレジスト層に対して、パターン露光、またはパターン露光およびフラッド露光の両方を行った後のSEM像を示す。なお、この塩基は強酸と反応して弱酸を形成しない。
【0196】
図17(a)は、レジスト層に対して、露光量500μC/cm2の電子ビームでパターン露光を行った後に現像したレジスト層を示す。図17(b)は、レジスト層に対して、露光量460μC/cm2の電子ビームでパターン露光を行い、露光量2.4J/cm2でフラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。図17(c)は、レジスト層に対して、露光量400μC/cm2の電子ビームでパターン露光を行い、露光量7.2J/cm2でフラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。
【0197】
一般に、微細なパターンを形成するためには高濃度の塩基を必要とするが、塩基は強酸と反応するので、増感体前駆体と反応する強酸の数が減少する。したがって、生成する増感体も減少する。しかし、塩基が強酸と反応しても弱酸を形成すれば、強酸と弱酸を足した酸の数は減少しない。
【0198】
図16(a)〜図16(c)では、形成される弱酸が増感体前駆体と反応して増感体を生成する増感体前駆体である1,1−ジフェニル−3−(2−ナフチル)プロパルギルアルコールを用いているので、レジストを高感度化することができた。また、図16(a)〜図16(c)では高濃度の塩基を用いても生成する増感体が減少しないので、高感度化だけでなく、フォトンショットノイズの問題も改善された。
【0199】
一方、図17(a)〜図17(c)に示されるように、強酸と塩基の反応によって弱酸が形成されない場合、増感体の生成量が少ないので図16と比較してレジストを高感度化することができなかった。特に、図16(c)では露光量360μC/cm2の電子ビームでパターン露光を行い、露光量4.8J/cm2のフラッド露光でドットパターン形成ができたが、図17(c)に示したように、電子ビームの露光量が400μC/cm2でも、フラッド露光の露光量を7.2J/cm2にまでも増加しても充分なドットパターンを形成することはできなかった。
【0200】
本実施形態において、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジスト層の感度を向上させるとともにフォトンショットノイズによるラフネスを抑制可能なレジストパターンを形成するためには、パターン露光L1によって、増感体Psを狭い空間に効率よく生成し、フラッド露光L2によって、増感体Psを用いて強酸SAcを狭い空間に効率よく分布のラフネスを低減させながら生成することが好ましい。そのためには、以下の(1)〜(5)のうちの少なくともいずれかに留意することが好ましい。
【0201】
(1)パターン露光L1のビーム強度分布とほぼ同一の濃度分布を有する増感体Psを生成するためには、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppを直接イオン化するか、励起させて増感体前駆体Ppを分解および/または異性化させて増感体Psを生成することが好ましい。このように、増感体前駆体Ppの直接イオン化または励起によって増感体Psを生成することが好ましい。
【0202】
(2)パターン露光L1によってレジスト層10内に生成した熱化電子が増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを直接的に生成する場合、パターン露光L1の照射によって生成されたイオン化生成物の濃度分布はパターン露光L1のビーム強度分布とほぼ同一である。しかしながら、イオン化生物から発生した電子の熱化距離は数nmであり、また、熱化電子と増感体前駆体Ppとの反応頻度は増感体前駆体Ppの濃度に依存するが、この反応距離は通常数nmである。したがって、イオン化生成物を介して生成された増感体Psの濃度分布はパターン露光L1のビームの強度分布よりも若干広がることになる。
【0203】
(3)パターン露光L1によって、強酸発生剤SPAから強酸SAcおよび/またはラジカルが生成し、強酸SAcおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。この場合、強酸SAcおよび/またはラジカルは、パターン露光L1の照射によって生成されたイオン生成物から数nm離れた地点で生成する。強酸SAcおよび/またはラジカルと増感体前駆体Ppとの反応は増感体前駆体Ppの濃度に依存するが、反応距離は数nmであるので、増感体Psの濃度分布はパターン露光L1のビーム強度の分布よりもやや広がることになる。
【0204】
(4)フラッド露光ステップにおいて、フラッド露光L2によって励起された増感体Psが強酸発生剤SPAと反応して強酸SAcおよび/またはラジカルを生成し、強酸SAcおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。励起した増感体Psと強酸発生剤SPAが反応して強酸SAcおよび/またはラジカルを生成する反応は、励起した増感体Psから強酸発生剤SPAへの電子移動またはエネルギー移動であり、3次元空間での距離依存性の強いほぼ等方的な反応で開始するため、強酸SAcおよび/またはラジカルは励起した増感体Psを中心に球状に生成する。一方、生成した強酸SAcおよび/またはラジカルと増感体前駆体Ppとの反応によって増感体Psを生成する反応は、強酸SAcおよび/またはラジカルの熱拡散・衝突によって起こるので、酸やラジカルのランダムな拡散軌道に沿って生成する。
【0205】
(5)3次元等方性の高い励起した増感体Psから強酸発生剤SPAへの電子移動またはエネルギー移動反応による酸生成反応が効率よく起こるように励起した増感体Psと強酸発生剤SPAを選択し、強酸発生剤SPAの濃度を高くすることが好ましい。また、強酸SAcおよび/またはラジカルのランダムな拡散軌道に沿った反応よりも、3次元等方性の高い電子移動、エネルギー移動反応による酸生成反応の比率を大きくすることがラフネスやフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減する上で有効である。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明のレジストパターン形成方法およびレジスト材料は、基板上にレジストパターンを形成する露光工程に好適に用いられる。本発明のレジストパターン形成方法、レジスト潜像形成装置およびレジスト材料によれば、レジスト層の感度を向上させることができる。
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