(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記層(A)が、前記硬化性組成物(α)を厚み2〜40μmで基材層上に塗布し、硬化性組成物(α)の(メタ)アクリロイル基の反応率が5%以上60%未満となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を少なくとも2回行って得られる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の積層体。
前記基材層が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、水添ポリイミド樹脂、及びポリシクロオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる層である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の積層体。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。また、本発明において、「(メタ)アクリル」という表現を用いた場合、「アクリル」と「メタクリル」の一方又は両方を意味するものとする。「(メタ)アクリレート」「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
【0022】
〔積層体〕
本発明の積層体は、基材層上の少なくとも一方の面に、基材層側から下記層(A)及び下記層(B)をこの順で有するものである。
層(A):アクリロイル基を有する化合物を少なくとも含む硬化性組成物(α)を、厚み2〜40μmで基材層上に塗布し、硬化性組成物(α)のアクリロイル基の反応率が5%以上60%未満となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を少なくとも1回行って得られる層
層(B):アクリロイル基を有する化合物を少なくとも含む硬化性組成物(β)を、厚み2〜40μmで上記層(A)上に塗布し、硬化性組成物(β)のアクリロイル基の反応率が60%以上となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を経て得られる層
【0023】
なお、本発明において、硬化性組成物(α)及び硬化性組成物(β)における「アクリロイル基」とは、アクリロイル基そのもののみならず、アクリロイル基中のC=Cの炭素原子に直接結合した水素原子が他の原子又は置換基をも含む意味で用いることとする。例えば、アクリルロイル基のC=Cに直接結合した水素原子がメチル基やハロゲン元素等で置換された基、より具体的にはメタクリロイル基やフルオロアクリロイル基等も「アクリロイル基」に含まれる意味で用いられるものとする。
【0024】
本発明の積層体は鉛筆硬度及び層間密着性に優れるという効果を奏する。本発明においては、層(A)と層(B)の2層構造としてそれぞれを硬化させることによりいずれか1層を一括で硬化させるよりも基材付近における内部架橋度が高められ、より良好な鉛筆硬度が得られるものと考えられる。更に、硬化性組成物(α)の反応率を制御すると、層(A)の架橋度が高くなり過ぎず、続いて層(A)上に硬化性組成物(β)を塗布した際に、層(A)の表面近傍に硬化性組成物(β)が含浸し、これを硬化することにより、層(A)と層(B)との層間密着性を得ることができるものと考えられる。即ち、本発明者らは層(A)の硬化性組成物(α)と層(B)と硬化性組成物(β)とをそれぞれ特定の反応率とすることにより、積層体の鉛筆硬度と層間密着性が優れたものとなることを見出したものである。
【0025】
[基材層]
基材層の構成材料については特に制限はないが、本発明の積層体の基材層は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリメチルメタクレート(PMMA)樹脂(本発明において、「ポリメチルメタクリレート樹脂」とは、メチルメタクリレートを構成単位の50モル%以上用いて得られる樹脂を意味する。)、ポリカーボネート(PC)樹脂(本発明において、「ポリカーボネート樹脂」とは、芳香族ポリカーボネート樹脂のみを意味するものではなく、その構成単位がカーボネート結合により連結した樹脂一般を意味する。)、水添ポリイミド(水添PI)樹脂(本発明において、「水添ポリイミド」とは原料として、少なくとも芳香環が水素化された化合物を用いて得られるポリイミドである。)、及びポリシクロオレフィン(COP)樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる層であることが、透明性、光学特性、耐熱性、入手のし易さ等の点において好ましい。
基材層は、これらの樹脂よりなる2層以上の積層構造のものであってもよい。
【0026】
本発明の積層体において、基材層の厚み(基材層が2層以上の積層構造の場合は、その合計の厚み)については、積層体の機械的強度の面から厚い方が好ましく、また、表示体等として用いるための薄型化、軽量化の要求から薄い方が好ましい。これらの観点から、基材層の厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、更に好ましくは15μm以上であり、一方、好ましくは250μm以下であり、より好ましくは180μm以下であり、更に好ましくは130μm以下であり、特に好ましくは110μm以下である。
【0027】
基材層は、他の樹脂基材上に形成されたものであってもよく、その場合他の樹脂基材としては、例えば、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS樹脂)、変性ポリオレフィン、水素化ポリスチレン等が挙げられる。
【0028】
[層(A)]
層(A)は、アクリロイル基を有する化合物を少なくとも含む硬化性組成物(α)を、厚み2〜40μmで基材層上に塗布し、硬化性組成物(α)のアクリロイル基の反応率が5%以上60%未満となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を少なくとも1回行って得られる層である。以下に硬化性組成物(α)について説明し、層(A)の形成方法及び好適な厚みについては後述する。
【0029】
<硬化性組成物(α)>
硬化性組成物(α)はアクリロイル基を有する化合物を少なくとも含むものである。また、この硬化性組成物(α)のアクリル当量は100g/mol以上であることが層(A)を硬化させた際にクラックが入ることを防ぐ観点から好ましい。一方、硬化性組成物(α)のアクリル当量の上限は特に制限されないが、通常、10,000g/mol以下であり、好ましくは6,000g/mol以下であり、より好ましくは3,000g/mol以下であり、更に好ましくは2,000g/mol以下であり、特に好ましくは1,000g/mol以下である。
【0030】
本発明において、硬化性組成物(α)及び後に説明する硬化性組成物(β)における「アクリル当量」とは、これらの組成物に含まれるアクリロイル基を有する化合物の分子量(g/mol)を、その化合物1分子内に存在するアクリロイル基の数で除した値であり、アクリロイル基を有する化合物が2種以上含まれる組成物である場合には、各々の化合物のアクリル当量に重量比率を乗じた値の和として定義する。なお、アクリロイル基を有さない化合物については考慮しないものとする。
【0031】
(アクリロイル基を有する化合物)
硬化性組成物(α)に含有されるアクリロイル基を有する化合物としては、単官能(メタ)アクリレート及びその誘導体、多官能(メタ)アクリレート及びその誘導体、アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子等が挙げられる。これらの中でも層(A)の硬度を高める観点から、多官能(メタ)アクリレート及びその誘導体並びにアクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子からなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、さらに、これのうちの少なくとも2つを含むことがより好ましい。
【0032】
単官能(メタ)アクリレート及びその誘導体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびそのカチオン化剤による変性体、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびそのカチオン化剤による変性体、シアノエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2−(メタ)アクリロイルプロピルフタレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
多官能(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレート誘導体としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、無水コハク酸へのペンタエリスリトールトリアクリレート付加物、無水コハク酸へのジペンタエリスリトールペンタアクリレート付加物などの多官能アクリレート類;側鎖又は側鎖と末端にアクリロイル基を有するポリエステルオリゴマー(具体的には、東亞合成社製のM8030、M7100等)等のポリエステル(メタ)アクリレート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)のイソシアヌレート体、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の反応物、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアネート体とPTMG反応物へのペンタエリスリトールトリアクリレートの反応物等の多官能ウレタン(メタ)アクリレート類;ポリカーボネートジオールを用いたオリゴエステルとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応物等のカーボネート結合を有するポリエステル(メタ)アクリレート類;IPDIとポリカーボネートジオールの反応物と、HEAの反応物などのカーボネート結合を有するポリウレタン(メタ)アクリレート類;ビスフェノールAのアクリル酸付加物(具体的には、新中村化学社製のEA−1025)等のポリエポキシ(メタ)アクリレート類;トリエトキシイソシアヌル酸ジアクリレート、トリエトキシイソシアヌル酸トリアクリレート(具体的には、東亞合成社製のアロニックス(登録商標) M315、M313)等のイソシアヌレート環を有するトリエトキシ(メタ)アクリレート類;これらのアルキレンオキサイド変性物;これらのポリカプロラクトン変性物等が挙げられる。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
これらの中でも、粘度、硬化性、得られる硬化物表面の硬度等から、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート;これらのアルキレンオキサイド変性体;これらのカプロラクトン変性体等が特に好ましい。
【0035】
アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子は、例えば、溶媒に分散させたシリカ粒子と、アクリロイル基を有するシラン化合物とを加水分解縮合反応させることにより製造することができる。アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子は例えば、特開2006−249322号に記載されている方法により製造することが可能であり、より具体的には、表面をアクリロイル基を有する化合物により修飾されてなるシリカ粒子は、まず、有機溶媒を分散媒とするシリカ粒子に、アクリロイル基を有するシラン化合物を加え、さらに水、アセチルアセトンアルミニウムを加水分解触媒として加えて、加熱下で攪拌しながら加水分解反応を進行させることで得ることができる。
【0036】
溶媒に分散させたシリカ粒子としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、キシレン、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、シクロヘキサノン等の1種又は2種以上の溶媒に分散させたシリカ粒子が挙げられる。これらは市販品として入手することが可能であり、その例としては例えば、日産化学工業(株)製メタノールシリカゾルMA−ST−M、イソプロピルアルコールシリカゾルIPA−ST、エチレングリコールシリカゾルEG−ST、キシレン/ブタノールシリカゾルXBA−ST、ジメチルアセトアミドシリカゾルDMAC−ST、メチルエチルケトンシリカゾルMEK−ST、メチルイソブチルケトンシリカゾルMIBK−ST、エチレングリコールモノn−プロピルエーテルシリカゾルNPC−ST−30、プロピレングリコールモノメチルエーテルシリカゾルPGM−ST、酢酸エチルシリカゾルEAC−ST、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートPMA−ST、トルエンシリカゾルTOL−ST、シクロヘキサノンシリカゾルCHO−ST−M等を用いることができる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
また、前記溶媒に分散させたシリカ粒子は、平均一次粒子径が、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが更に好ましく、一方、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。前記シリカ粒子の平均一次粒子径が上記下限値以上であると耐擦傷性、鉛筆硬度が向上する傾向にあり、また、上記上限値以下であると硬化物の透明性が良好となる傾向にある。なお、本発明における溶媒に分散させたシリカ粒子の平均一次粒子径は、BET吸着法による比表面積測定値(JIS Z8830に準拠)を求め、以下の式から換算値として求められる値であるが、市販品についてはこの測定値に基づく規格値(カタログ値)を採用することができる。
[平均一次粒子径(nm)]=
6,000/〔[比表面積(m
2/g)]×[密度(g/cm
3)]〕
【0038】
また、アクリロイル基を有するシラン化合物としては、例えば、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジエトキシシラン、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルメトキシシラン、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエトキシシラン、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等を用いることができる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子のシリカ粒子表面に修飾されるアクリロイル基の量(表面をアクリロイル基を有する化合物により修飾されてなるシリカ粒子1g当りの二重結合量(mol))、仕込み値からの計算値で0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることが更に好ましく、一方、2.0mmol/g以下であることが好ましく、1.5mmol/g以下であることがより好ましく、1.0mmol/g以下であることが更に好ましい。
【0039】
硬化性組成物(α)がアクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子を含む場合、その含有量は、硬化性組成物(α)中のアクリロイル基を有する化合物の合計100重量部に対して、1重量部以上であることが好ましく、5重量部以上であることがより好ましく、10重量部以上であることが更に好ましく、一方、200重量部以下であることが好ましく、100重量部以下であることがより好ましく、60重量部以下であることが更に好ましい。硬化性組成物(α)がアクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子を含有することにより、層(A)、ひいては積層体の鉛筆硬度、耐擦傷性を高めることができるが、アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子の含有量が上記上限値以下であると樹脂の硬化性、透明性、配合液の安定性が良好であり、上記下限値以上であると、アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子による上記効果を十分に得ることができる。
【0040】
なお、以上に説明したようにシリカ粒子はアクリロイル基を有する化合物で表面を修飾されたものとして含まれるものであることが好ましいが、混合物の成分として、表面を修飾されていない状態で硬化性組成物(α)に含まれていてもよく、この場合に使用可能なシリカ粒子としては例えば、先に挙げた溶媒に分散させたシリカ粒子と同様のものを使用することができる。このように、硬化性組成物(α)において、混合物の一成分として含まれている場合のシリカ粒子の含有量、平均一次粒子径は、アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾されたシリカ粒子と同様である。
【0041】
(光重合開始剤)
本発明に用いる硬化性組成物(α)は、硬化性を向上させるため、光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤は公知のものを使用することができる。光重合開始剤としては例えば、光ラジカル発生剤、光酸発生剤等が挙げられる。
【0042】
硬化性組成物(α)に用いることのできる光重合開始剤のうち、光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[例えば、商品名「イルガキュア(登録商標)184」、BASF製]、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン等のアセトフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;ベンゾフェノン及びその各種誘導体;ベンゾイルギ酸メチル、ベンゾイルギ酸エチル等のギ酸誘導体等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
これらの光ラジカル発生剤の中でも、硬化物の耐光性の観点から、好ましいのはアセトフェノン類、ホスフィンオキシド類、ギ酸誘導体であり、更に好ましいのは、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ベンゾイルギ酸メチルであり、特に好ましいのは、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイルギ酸メチルである。
【0044】
光酸発生剤としては公知のものが使用可能であるが、中でもジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が硬化性、酸発生効率等から好ましい。具体例を挙げると、ジ(アルキル置換)フェニルヨードニウムのアニオン塩(具体的にはPF
6塩、SbF
5塩、テトラキス(パーフルオロフェニル)ボレート塩等)が例示できる。(アルキル置換)フェニルヨードニウムのアニオン塩の具体例としては、ジアルキルフェニルヨードニウムのPF
6塩[商品名「イルガキュア(登録商標)250」、BASF製]が特に好ましい。これらの光酸発生剤は1種のみで用いても2種以上を組み合わせてもよい。
【0045】
硬化性組成物(α)が光重合開始剤を含む場合、その含有量は、硬化性組成物(α)中のアクリロイル基を有する化合物の合計100重量部に対して、硬化性を向上させる観点から、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.1重量部以上である。一方、硬化性組成物(α)を溶液としたときの液の安定性を維持する観点から、好ましくは10重量部以下であり、より好ましくは8重量部以下である。
【0046】
(有機溶媒)
硬化性組成物(α)は、有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、硬化性組成物(α)に含まれる成分の種類等を考慮して適宜選択することができる。用いることができる有機溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、アニソール、フェネトール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテート等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。
【0047】
これらの有機溶媒は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。これらの有機溶媒のうち、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒及びケトン系溶媒が好ましく使用される。
【0048】
有機溶媒の使用量には特に制限はなく、調製される硬化性組成物(α)の塗布性、液の粘度・表面張力、固形分の相溶性等を考慮して適宜決定される。硬化性組成物(α)は、上述の溶媒を用いて、好ましくは固形分濃度が20〜95重量%、より好ましくは30〜80重量%の塗液として調製される。ここで、硬化性組成物(α)における「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味するものであり、固体の成分のみならず、半固形や粘稠な液状物のものをも含むものとする。後述の硬化性組成物(β)についても同様である。
【0049】
(その他の成分)
本発明に用いる硬化性組成物(α)は、本発明の効果を阻害しない範囲で上記のアクリロイル基を有する化合物、光重合開始剤及び有機溶媒以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、充填剤、シランカップリング剤、反応性希釈剤、帯電防止剤、有機顔料、スリップ剤、分散剤、チクソトロピー性付与剤(増粘剤)、消泡剤、酸化防止剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0050】
[層(B)]
本発明の積層体において、層(B)は、アクリロイル基を有する化合物を少なくとも含む硬化性組成物(β)を、厚み2〜40μmで前記層(A)上に塗布し、硬化性組成物(β)のアクリロイル基の反応率が60%以上となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を経て得られる層である。以下に硬化性組成物(β)について説明し、層(B)の形成方法及び好適な厚みについては後述する。
なお、硬化性組成物(β)は、硬化性組成物(α)と同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0051】
<硬化性組成物(β)>
硬化性組成物(β)はアクリロイル基を有する化合物を少なくとも含むものである。また、この硬化性組成物(β)のアクリル当量は100g/mol以上であることが層(B)を硬化させた際にクラックが入ることを防ぐ観点から好ましい。一方、硬化性組成物(β)のアクリル当量の上限は特に制限されないが、通常、10,000g/mol以下であり、好ましくは6,000g/mol以下であり、より好ましくは3,000g/mol以下であり、更に好ましくは2,000g/mol以下であり、特に好ましくは1,000g/mol以下である。
【0052】
(アクリロイル基を有する化合物)
硬化性組成物(β)に含有されるアクリロイル基を有する化合物としては、特に制限されないが、例えば以下の(1)〜(5)などが挙げられる。
(1) 単官能(メタ)アクリレート及びその誘導体
(2) 多官能(メタ)アクリレート及びその誘導体
(3) アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子
(4) パーフルオロアルキル構造、パーフルオロアルキレン構造、パーフルオロポリエーテル構造及びポリシロキサン構造のうち少なくとも1種を含み、且つ分子内に1個以上のアクリロイル基を有する化合物以下、「(メタ)アクリレート(β)」と称す場合がある。)
(5) 下記式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレートとエポキシ基を有する(メタ)アクリレートとを共重合して得られた共重合体にカルボキシル基及びアクリロイル基を有する化合物を反応させて得られる(メタ)アクリル系共重合体(以下、「(メタ)アクリル系共重合体(β)」と称す場合がある。)
【0054】
(上記式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数1〜12のアルキレン基であり、R
3及びR
4はそれぞれ独立してメチル基又はフェニル基であり、R
5は炭素数1〜12のアルキル基であり、nは平均値であり、10〜100の数である。)
【0055】
上記(1)〜(5)のアクリロイル基を有する化合物は、いずれも1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記(1)〜(5)のうちの2種以上の化合物群から選ばれるものを複数種混合して用いることもできる。
【0056】
これらの中でも層(B)の硬度を高める観点から、(2)多官能(メタ)アクリレート及びその誘導体並びに(3)アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子からなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、これらに加えて、更に、耐擦傷性と防汚性の向上の面で、(4)(メタ)アクリレート(β)並びに(5)(メタ)アクリル系共重合体(β)からなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0057】
(1)単官能(メタ)アクリレート及びその誘導体、(2)多官能(メタ)アクリレート及びその誘導体、(3)アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子としては、硬化性組成物(α)に含まれるものとして、前述したものが挙げられ、好ましいものについても硬化性組成物(α)におけると同様であるが、硬化膜の硬度と耐擦傷性が良好となり、また硬化時の反応性も高い点から、硬化性組成物(β)中の多官能(メタ)アクリレート及びその誘導体、アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子のアクリロイル基の数は、3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましい。また、硬化前の粘度が塗工に適する観点から、9個以下であることが好ましく、7個以下であることがより好ましい。
【0058】
(4)(メタ)アクリレート(β)のうち、パーフルオロアルキル構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物のパーフルオロアルキル基は、好ましくは炭素数4〜12のパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基の炭素数が4以上であると防汚性の観点で好ましく、一方、炭素数が12以下であると溶解性が良好となり、得られる硬化膜の透明性や外観が良好となる傾向にあるために好ましい。パーフルオロアルキル構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物の具体例としては、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
また、パーフルオロアルキレン構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物のパーフルオロアルキレン基は、好ましくは炭素数4〜12のパーフルオロアルキレン基である。パーフルオロアルキレン基の炭素数が4以上であると防汚性の観点から好ましく、一方、パーフルオロアルキレン基の炭素数が12以下であると溶解性が良好となり、得られる硬化膜の透明性や外観が良好となる傾向にあるために好ましい。パーフルオロアルキレン構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物の具体例としては、パーフルオロオクタンジオールジ(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキサンジオールシジ(メタ)アクリレート、パーフルオロブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
また、パーフルオロポリエーテル構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物としては、例えば下記式(2)で表されるものが挙げられる。
【0062】
(上記式(2)中、Xは水素原子又はフッ素原子を表し、mは0〜100の数である。)
【0063】
上記式(2)で示される化合物としては、その機能を十分に発揮するために、m=1〜20で、X=Fであることが好ましい。上記式(2)で示される化合物は、特開2009−9138号公報に記載の方法により製造することができる。
【0064】
パーフルオロポリエーテル構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物は市販品として入手することも可能であり、市販品の例としては、ダイキン工業社製「オプツール(登録商標) DAC−HP」等が例示される。
【0065】
ポリシロキサン構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物としては、ポリシロキサン構造として、ポリジメチルシロキサン構造を有するものが好ましく、このような化合物としては、片末端にアクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(例えば、市販品としてはJNC社製サイラプレーン(登録商標) FM0711、FM0721、FM0725等)、両末端にアクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(例えば市販品としては信越化学社製のX−22−164A等)、両末端にエポキシ基を有し、かつ側鎖にアクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン、主鎖及び/又は側鎖にポリジメチルシロキサンを有し、側鎖及び/又は末端に1〜2個のアクリロイル基を有する共重合体等が挙げられる。これらの中でも、片末端及び/又は両末端にアクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0066】
ポリシロキサン構造と1個以上のアクリロイル基を有する化合物の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500以上であり、より好ましくは1,000以上であり、一方、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは8,000以下である。この化合物の数平均分子量が上記下限値以上であると、防汚性や滑り性発現の観点で好ましく、一方、上記上限値以下であると他の成分との相溶性が維持される観点から好ましい。
【0067】
(5)(メタ)アクリル系共重合体(β)の原料として用いるシリコーン含有(メタ)アクリレートを表す前記式(1)において、R
1は水素原子又はメチル基を表す。R
1は、得られる(メタ)アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)が高くなり、層(B)を硬化させた際の表面の硬度が高くなるためにメチル基であることが好ましい。
【0068】
式(1)中、R
2は炭素数1〜12のアルキレン基である。原料を入手し易く、また、製造し易いために、その炭素数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、一方、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0069】
式(1)中、R
3及びR
4はそれぞれ独立してメチル基又はフェニル基である。原料を入手し易く、また、製造し易いためにメチル基であることが好ましい。
【0070】
式(1)中、R
5は炭素数1〜12のアルキル基である。R
5の炭素数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、一方、R
5の炭素数は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。R
5の炭素数が上記範囲であると、原料を入手し易く、また、製造し易いために好ましい。
【0071】
式(1)中、nは平均値であり、10〜100の数である。nが10以上であると、硬化性組成物(β)を硬化させた硬化膜の表面易滑性が十分に発現して滑り性が良好となる。この効果をより良好なものとする観点から、nは25以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。一方、nが100以下であると、溶媒への溶解性が良好となる。この効果をより良好なものとする観点から、nは90以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましい。なお、nの値は数平均分子量(Mn)から計算により求めることができる。
【0072】
式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレートの数平均分子量(Mn)は、硬化性組成物(β)を硬化させた硬化膜の表面易滑性が十分に発現して滑り性を良好なものとする観点から、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが更に好ましい。また、式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレートの数平均分子量(Mn)は、溶媒への溶解性を良好なものとする観点から、50,000以下であることが好ましく、20,000以下であることがより好ましく、10,000以下であることが更に好ましい。
【0073】
式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレートの中でも、ポリジメチルシロキサン構造を有するものが好ましく、特に好ましいものとして片末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(市販品の具体例としては、JNC社製「サイラプレーン(登録商標) FM0711」、「サイラプレーン(登録商標) FM0721」、「サイラプレーン(登録商標) FM0725」等が挙げられる。)等が挙げられる。なお、式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレートは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(メタ)アクリル系共重合体の原料として用いるエポキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でもグリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。エポキシ基を有する(メタ)アクリレートは1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレートとエポキシ基を有する(メタ)アクリレートとを共重合させる際には更にその他のモノマーを共重合させてもよい。その他のモノマーは炭素原子間二重結合を有し、式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレート及びエポキシ基を有する(メタ)アクリレートと共重合させることができるものであれば特に制限されないが、例えば、これら以外の(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0076】
その他のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート等の(メタ)アクリレート;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメトキシ(メタ)アクリルアミド、N−エトキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエトキシ(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、及びN,N−エチレンビス(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。その他のモノマーとしては、炭素数4〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0077】
式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレート、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート及び必要に応じて用いられるその他のモノマーを共重合させて(メタ)アクリル系共重合体(β)を製造する際の、各モノマーの使用量には特に制限はないが、好ましくは式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレート5〜90重量%、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート10〜95重量%、及び必要に応じて用いられるその他のモノマー0〜80重量%(ただし、式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレート、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート及び必要に応じて用いられるその他のモノマーの合計で100重量%とする。)、特に好ましくは式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレート10〜80重量%、エポキシ基を有する(メタ)アクリレートト20〜90重量%、及び必要に応じて用いられるその他のモノマー5〜60重量%の割合で用いるのが耐傷付性、防汚性の観点から好ましい。
【0078】
式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレート、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート及び必要に応じて用いられるその他のモノマーを共重合させる反応は、通常、ラジカル重合反応であり、具体的には、有機溶媒中でラジカル重合開始剤の存在下で行うことができる。この反応の反応時間は通常、1〜50時間であり、好ましくは3〜12時間である。ここで用いることのできる有機溶媒、ラジカル重合開始剤は次の通りである。
【0079】
有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶媒;エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−エトキシエチルアセタート等のエステル系溶媒;トルエン等の芳香族炭化水素溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ラジカル重合開始剤としては、例えば一般にラジカル重合に用いられる公知の開始剤を用いることができ、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
(メタ)アクリル系共重合体(β)は、少なくとも式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレート、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート及び必要に応じて用いられるその他のモノマーを共重合して得られた共重合体にカルボキシル基及びアクリロイル基を有する化合物を反応させて得られるものであり、この反応において、反応温度は好ましくは50〜110℃であり、より好ましくは55〜100℃である。また、反応時間は好ましくは3〜50時間であり、より好ましくは4〜30時間である。なお、この反応は通常、(メタ)アクリル系共重合体(β)のエポキシ基とカルボキシル基及びアクリロイル基を有する化合物との付加反応である。
【0082】
この反応で用いることのできるカルボキシル基及びアクリロイル基を有する化合物としては例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートと無水コハク酸の付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと無水コハク酸の付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと無水フタル酸の付加物等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと無水コハク酸の付加物が好ましい。なお、カルボキシル基及びアクリロイル基を有する化合物は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
上記のカルボキシル基及びアクリロイル基を有する化合物は、(メタ)アクリル系共重合体(β)におけるエポキシ基に対するカルボキシル基のモル%として、好ましくは10〜150モル%、より好ましくは30〜130モル%、特に好ましくは50〜110モル%の割合で用いることが好ましい。アクリロイル基を有する化合物を(メタ)アクリル系共重合体(β)に対して上記の範囲で反応させることが反応を過不足なく進行させる観点と原料の残渣を少なくなくする観点から好ましい。
【0084】
また、(メタ)アクリル系共重合体(β)にカルボキシル基及びアクリロイル基を有する化合物を付加させる反応を促進させるため、触媒を用いて反応させることができる。触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。触媒の使用量は原料の合計量に対して0.01〜2重量%であることが好ましく、0.05〜1重量%であることがより好ましい。なお、この反応においては(メタ)アクリル系共重合体(β)の製造における反応に用いた有機溶媒をそのまま用いて反応させてもよいし、適宜有機溶媒を追加して反応させてもよい。この反応に用いることのできる有機溶媒は先に挙げたものと同様である。
【0085】
硬化性組成物(β)が(メタ)アクリレート(β)を含有する場合、硬化性組成物(β)中のアクリロイル基を有する化合物の合計に対し、(メタ)アクリレート(β)の含有量は、0.05重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、0.2重量%以上であることが更に好ましく、一方、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることが更に好ましい。(メタ)アクリレート(β)の含有量が上記下限値以上であると、防汚性、耐擦傷性の観点から好ましく、一方、上記上限値以下であることが硬化性組成物の溶液安定性が良好となる傾向にあり、また、表面硬度が軟らかくなり過ぎず、耐擦傷性の観点から好ましい。
【0086】
硬化性組成物(β)が(メタ)アクリル系共重合体(β)を含有する場合、硬化性組成物(β)中のアクリロイル基を有する化合物の合計に対し、(メタ)アクリル系共重合体(β)の含有量は、0.05重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、0.2重量%以上であることが更に好ましく、一方、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることが更に好ましい。(メタ)アクリル系共重合体(β)の含有量が上記下限値以上であると、防汚性、耐擦傷性の観点から好ましく、一方、上記上限値以下であることが硬化性組成物の溶液安定性が良好となる傾向にあり、また、表面硬度が軟らかくなり過ぎず、耐擦傷性の観点から好ましい。
【0087】
硬化性組成物(β)が、アクリロイル基を有する化合物として、(2)多官能(メタ)アクリレート及びその誘導体並びに(3)アクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子からなる群のうちの少なくとも1つ(以下、「主として硬化性を担う成分」と称す場合がある。)と、(4)(メタ)アクリレート(β)及び (5)(メタ)アクリル系共重合体(β)からなる群のうちの少なくとも1つ(以下、「主として防汚性を担う成分」と称す場合がある。)を含む場合、これらの合計に占める主として硬化性を担う成分の割合は90〜99.95重量%で、主として防汚性を担う成分の割合は0.05〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは、主として硬化性を担う成分の割合は95〜99.9重量%で、主として防汚性を担う成分の割合は0.1〜5重量%であり、さらに好ましくは、主として硬化性を担う成分の割合は97〜99.8重量%で、主として防汚性を担う成分の割合は0.2〜3重量%であることが、硬化性と防汚性及び耐擦傷性との両立の面で好ましい。
【0088】
(光重合開始剤)
本発明に用いる硬化性組成物(β)は層(B)の硬化性を向上させるために光重合開始剤を用いることが好ましい。ここで用いることのできる光重合開始剤は硬化性組成物(α)において挙げたものと同様である。
【0089】
硬化性組成物(β)が光重合開始剤を含む場合、その含有量は、硬化性組成物(β)中のアクリロイル基を有する化合物の合計100重量部に対し、硬化性を向上させる観点から、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.1重量部以上である。一方、硬化性組成物(β)を溶液としたときの液の安定性、硬化性組成物(β)を硬化させた際の耐傷付性を維持する観点から、好ましくは10重量部以下であり、より好ましくは8重量部以下である。
【0090】
(有機溶媒)
本発明に用いる硬化性組成物(β)は有機溶媒を用いることが好ましい。ここで用いることのできる有機溶媒の種類及びその量、即ち、硬化性組成物(β)の固形分濃度は、硬化性組成物(α)において挙げたものと同様である。
【0091】
(その他の成分)
本発明に用いる硬化性樹脂組成物(β)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、アクリロイル基を有する化合物、光重合開始剤及び有機溶媒以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、充填剤、シランカップリング剤、反応性希釈剤、帯電防止剤、有機顔料、スリップ剤、分散剤、チクソトロピー性付与剤(増粘剤)、消泡剤、酸化防止剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0092】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体は、基材層上に各層を順次積層することにより製造することができる。本発明の積層体の製造方法は特に制限されないが、通常、基材層上に層(A)を形成し、次いで層(B)を形成することにより得ることができる。
なお、本発明の積層体は、基材層の一方の面にのみ層(A)及び層(B)が形成されていてもよく、両面に層(A)及び層(B)が形成されていてもよい。
【0093】
本発明の積層体の層(A)は、前述の硬化性組成物(α)を、厚み2〜40μmで基材層上に塗布し、硬化性組成物(α)のアクリロイル基の反応率が5%以上60%未満となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を少なくとも1回行うことにより形成される。
また、層(B)は、前述の硬化性組成物(β)を、厚み2〜40μmで層(A)上に塗布し、硬化性組成物(β)のアクリロイル基の反応率が60%以上となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を経て形成される。
なお、アクリロイル基の反応率は、後述の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0094】
層(A),(B)のそれぞれの層は、例えば、硬化性組成物(α)、硬化性組成物(β)を基材層上(層(B)の場合は層(A)上)に塗布し、必要に応じて40〜100℃程度で乾燥させた後、これに上記の硬化条件となるように、活性エネルギー線を照射して形成することができる。これらの硬化性組成物を基材又は層(A)上に塗布する方法としては、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法等が挙げられる。なお、本発明において、「塗布」とは硬化前の硬化性組成物(α)又は硬化性組成物(β)を塗る工程を意味する。
【0095】
本発明の積層体において、硬化性組成物(α),(β)を硬化させる際に用いることのできる活性エネルギー線には、紫外線、電子線、X線、赤外線及び可視光線が含まれる。これらの活性エネルギー線のうち硬化性と樹脂劣化防止の観点から好ましいのは紫外線及び電子線である。
【0096】
本発明の積層体を製造する際、硬化性組成物(α),(β)を紫外線照射により硬化させる場合には、種々の紫外線照射装置を用いることができ、その光源としてはキセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LED−UVランプ等を使用することができる。紫外線の照射量(単位はmJ/cm
2)は、通常10〜10,000mJ/cm
2であり、硬化性組成物(α),(β)の硬化性、硬化物(硬化膜)の可撓性等の観点から好ましくは15〜5,000mJ/cm
2であり、より好ましくは20〜3,000mJ/cm
2の範囲で、各硬化工程で必要とされるアクリロイル基の反応率に応じて適宜決定される。
【0097】
また、本発明の積層体を製造する際、硬化性組成物(α),(β)を電子線照射で硬化させる場合は、種々の電子線照射装置を使用することができる。電子線の照射量(Mrad)は、通常、0.5〜20Mradであり、硬化性組成物(α),(β)の硬化性、硬化物の可撓性、基材の損傷防止等の観点から好ましくは1〜15Mradの範囲で、各硬化工程で必要とされるアクリロイル基の反応率に応じて適宜決定される。
【0098】
<層(A)>
層(A)は、前述の通り、硬化性組成物(α)を、厚み2〜40μmで基材層上に塗布し、硬化性組成物(α)のアクリロイル基の反応率が5%以上60%未満となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を少なくとも1回行うことにより形成される。
【0099】
層(A)の形成に当たり、1回の硬化工程における塗布厚みが、上記下限以上であると、硬化時の酸素による架橋反応の阻害を抑制できて硬度が高くなり、逆に上記上限以下であると、均一な膜厚分布の硬化膜を得ることができる。また、1回の硬化工程におけるアクリロイル基の反応率が上記下限以上であると、製造時の巻き取り時のブロッキングを抑え、高硬度の膜を形成することができる。逆に上記上限以下であると、層間密着性に優れた積層体を得ることができる。即ち、本発明の積層体では、下層の層(A)の硬化工程におけるアクリロイル基の反応率を60%未満とし、硬化が完了しない状態で、この上に硬化性組成物(β)を塗布してアクリロイル基の反応率60%以上で硬化させることにより、この層(B)の硬化時に層(A)の硬化を完了させると共に、層(A)の硬化性組成物(α)中の未反応のアクリロイル基を層(B)の硬化性組成物(β)中のアクリロイル基と反応させることで層(A)と層(B)との層間密着性が高められる。層(A)の硬度と、層(B)との層間密着性の観点から、1回の硬化工程におけるアクリロイル基の反応率は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが特に好ましい。また、55%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。このようなアクリロイル基の反応率となるように硬化を行う場合の活性エネルギー線の照射量は通常20〜200mJ/cm
2程度である。
【0100】
層(A)の形成に当たり、硬化性組成物(α)を、厚み2〜40μmで基材層上に塗布し、硬化性組成物(α)のアクリロイル基の反応率が5%以上60%未満となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程は2回以上行うことが好ましく、このような硬化工程を2回以上行うことにより、基材層付近における内部架橋度が高められ、より鉛筆硬度の高い積層体を得ることができる。ただし、生産性の観点から、この工程は通常、4回以下、好ましくは3回以下である。
【0101】
なお、各工程において用いる硬化性組成物(α)の種類や硬化性組成物(α)の塗布厚み、アクリロイル基の反応率は同一であってもよく異なるものであってもよいが、アクリロイル基の反応率については、目的のアクリロイル基の反応率とするための活性エネルギー線照射条件を全ての工程で同一として、装置仕様や操作を簡略化するために同一とすることが好ましい。また、硬化性組成物(α)についても各工程で形成される層の層間密着性を高める上で同一であることが好ましい。
【0102】
このようにして形成される層(A)の厚みは、得られる積層体の鉛筆硬度の観点からは厚い方が好ましく、耐クラック性の観点からは薄い方が好ましい。従って、層(A)の厚みは、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、更に好ましくは23μm以上であり、特に好ましくは30μm以上であり、一方、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは90μ以下であり、更に好ましくは80μm以下であり、特に好ましくは70μm以下である。なお、層(A)を2回以上の硬化工程を経て形成する場合、1回の硬化工程で形成される層の厚みについては、前述の通り2〜40μmであるが、好ましくは4μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、一方、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは18μm以下である。
【0103】
<層(B)>
槽(B)は、前述の通り、硬化性組成物(β)を、厚み2〜40μmで、層(A)上に塗布し、硬化性組成物(β)のアクリロイル基の反応率が60%以上となるように活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を経て形成される。
【0104】
層(B)は、通常、上記の工程を1回行うことにより形成される。層(B)を形成する際の硬化工程におけるアクリロイル基の反応率が60%以上、好ましくは70%以上となるように硬化を行うことにより、層(A)の未反応のアクリロイル基を反応させると共に、層(B)の硬化性組成物(β)中のアクリロイル基の反応を十分に進行させて、耐擦傷性に優れ、鉛筆硬度の高い良好な硬化膜を形成することができる。このようなアクリロイル基の反応率となるように硬化を行う場合の活性エネルギー線の照射量は、通常300〜2,000mJ/cm
2程度である。
【0105】
このようにして形成される層(B)の厚みは、得られる積層体の鉛筆硬度や耐擦傷性の観点からは厚い方が好ましく、耐クラック性の観点からは薄い方が好ましい。従って、層(B)の厚みは、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは3μm以上であり、更に好ましくは4μm以上であり、特に好ましくは5μm以上であり、一方、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは40μm以下であり、更に好ましくは30μm以下であり、特に好ましくは15μm以下であり、とりわけ好ましくは10μm以下である。
【0106】
また、層(A)と層(B)の合計の厚みは、10μm以上であることが好ましく、30μmいk上であることがより好ましく、一方、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0107】
なお、本発明の積層体において、基材層と層(A)との間、層(A)と層(B)との間のそれぞれにおいて、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の層が積層されていてもよい。
【0108】
また、本発明の積層体の総厚みは、各層の厚みを確保して、各々の機能を十分に発揮させる観点から30μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが特に好ましい。一方、本発明の積層体が適用される製品の薄型化、軽量化の観点から300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることが特に好ましい。
【0109】
[用途]
本発明の積層体は、鉛筆硬度、耐傷付性、透明性、層間密着性、防汚性等に優れたものである。このため、本発明の積層体は、タッチパネル、液晶テレビ等の光学ディスプレイ用部品;ランプ関連物品、ウインドウ関連物品(リアウィンドウ、サイドウィンドウ、天窓等)等の自動車関連部品;各種電気機器の筐体、化粧板、家具等の生活関連物品等の幅広い物品の表面カバーに好適に用いることができる。これらの中でもタッチパネル、液晶テレビ等の光学ディスプレイ用部品の表面カバー、即ち表示体カバーとして特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例において「部」とあるのは「重量部」を意味する。
【0111】
〔積層体の評価〕
以下の実施例・比較例で得られた積層体(比較例7では基材のみ)は以下の方法により評価した。
【0112】
(1)密着性
積層体の層(B)に対して、JIS K−5400に従って碁盤目剥離試験(10×10マス)を1回行い、膜が残ったマスの数により、下記の通り評価した。
◎:90個以上
○:80〜89個
△:50〜79個
×:49個以下
【0113】
(2)鉛筆硬度
積層体の層(B)又は基材に対して、JIS準拠鉛筆硬度計(太佑機材社製)を用い、JIS K−5400の条件に基づき測定を行い、傷の入らない最も硬い鉛筆の番手を確認した。なお、鉛筆硬度4H以上を合格とした。
【0114】
(3)透明性(ヘーズ)
JIS K−7136に従ってヘーズメーター(村上色彩技術研究所製「HAZE METER HM−65W」)にて、積層体又は基材のヘーズ値を測定し、以下の通り評価した。
○:1.0未満
△:1.0以上2.0未満
×:2.0以上
【0115】
(4)耐スチールウール摩耗性(耐擦傷性)
#0000のスチールウール、加重200g/cm
2にて、積層体の層(B)又は基材表面を20往復擦り、試験後の層(B)の硬化膜又は基材の傷付きの程度を以下の通り評価した。なお、△以上を合格とした。
◎:傷0〜10本
○:傷11〜20本
△:傷21〜100本
×:傷無数又は白化
【0116】
(5)防汚性
黒マジック(ゼブラ社製「マッキーケア黒」)にて、積層体の層(B)又は基材の表面の1cm×1cmの範囲を黒く塗り、10秒静置後、表面を不織布(クラレ社製「KURAFLEX CLEAN WIPER」)で拭き取るという操作を繰り返し、拭き取り不可能(書き込んだマジックが黒く残る)となるまでの前記操作の回数を調べ、以下の通り評価した。
◎:10回以上
○:2〜9回
△:1回
×:0回
【0117】
〔合成例〕
<合成例1>
撹拌機、還流冷却管、及び温度計を取り付けた反応器に、コロイダルシリカ(カタログ値:平均一次粒子径10〜20nm(カタログ値))のメチルエチルケトン(MEK)溶液(日産化学社製「MEK−ST」、不揮発分30重量%)293.3重量部、3−(アクロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−5103」)12重量部、MEK16.5重量部を仕込み、撹拌開始後に系内に乾燥空気を通気し、70℃に昇温した。ここへ、p−メトキシフェノール(和光純薬工業社製)0.05重量部、水1重量部、アセチルアセトンアルミニウム(岸田化学社製)0.5重量部、MEK1重量部を加え、70℃で4時間攪拌し、アクリロイル基で表面が修飾されたコロイダルシリカ(Ac−Si)のMEK溶液を得た。反応液の組成はAc−Si/MEK=31/69(重量比)であった。また、シリカ粒子表面に修飾されたアクリロイル基の量は0.49mmol/gであった。
【0118】
<合成例2>
撹拌機、還流冷却管及び温度計を取り付けた反応器に、数平均分子量5,000の片末端メタクリロイル基置換ポリジメチルシロキサン(JNC社製「サイラプレーン(登録商標) FM0721」、前記式(1)で表されるシリコーン含有(メタ)アクリレートに該当する化合物)10重量部、グリシジルメタクリレート(三菱レイヨン社製「アクリエステルG」)60重量部、メチルメタクリレート(三菱レイヨン社製「アクリエステルM」)20重量部、ステアリルメタクリレート(三菱レイヨン社製「アクリエステルS」)10重量部、メチルイソブチルケトン(MIBK)150重量部を仕込み、撹拌開始後に系内を窒素置換し、55℃に昇温した。ここへ、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V−65」)0.06重量部、1−ドデカンチオール(和光純薬社製)0.09重量部を添加した後、系内を65℃まで昇温し、3時間撹拌した後、さらに、V−65を0.06重量部添加して65℃で3時間撹拌した。系内を100℃まで昇温し、30分間撹拌した後、MIBK98.2重量部を加え、再度系内を100℃まで昇温した。ここへ、p−メトキシフェノール(和光純薬工業社製)0.05重量部とトリフェニルホスフィン(和光純薬工業社製)2.6重量部を添加した後、アクリル酸(三菱化学社製)31重量部を加え、110℃まで昇温し6時間撹拌し、MIBK64.1重量部を加え共重合体(PDMS−Ac)の溶液を得た。反応液の組成はPDMS−Ac/MIBK=30/70(重量比)であった。
【0119】
〔実施例・比較例〕
[実施例1〜12、比較例1〜7]
<塗液の調製>
表−1に示す配合組成に従って、塗液(硬化性組成物)HC−1、HC−2、HC−3及びHC−4を調製した。
【0120】
なお、表−1中の略号は以下の通りである。
DPHA:ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(日本化薬製「カヤラッド(登録商標) DPHA」)
M313:ビス/トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亜合成製「アロニックス(登録商標) M−313」)
PF77:アクリル系レベリング剤(共栄社化学社製「ポリフローNo.77」)
PFPE−Ac:パーフロオロポリエーテル構造及びアクリロイル基を有する化合物(ダイキン社製「オプツール(登録商標) DAC−HP」の不揮発分)
HFCP:1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(「オプツール(登録商標) DAC−HP」製品中に50重量%含有されている。)
Irg184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製「Irgacure(登録商標) 184」)
【0121】
【表1】
【0122】
<積層体の製造及び評価>
得られた塗液を用いて、表−2に記載の条件に従って、厚さ100μmのPETフィルム(三菱樹脂社製「O321E100(CE SE98−)」)上に塗工後、高圧水銀灯を使用して紫外線を照射し、硬化するという工程を繰り返して各層の硬化膜を得た。なお、表−2中の塗工条件A〜Cは次のとおりである。
塗工条件A:高圧水銀灯出力80W、UV照度100mW/cm
2、
UV照射量50mJ/cm
2
塗工条件B:高圧水銀灯出力120W、照度450mW/cm
2、
UV照射量500mJ/cm
2
塗工条件C:高圧水銀灯出力120W、UV照度450mW/cm
2、
UV照射量700mJ/cm
2
【0123】
また、表−2中の
(メタ)アクリロイル基の反応率(表−2中、「反応率」と表記)は、各工程において塗液を塗布、乾燥後、硬化前後に塗膜表面側から全反射型FT−IR(ATR FT−IR)で硬化膜表面側のスペクトルを測定し、
(メタ)アクリロイル基のC=O由来のピーク(1722cm
−1)とC=C二重結合由来のピーク(808cm
−1)の強度比から下式を用いて算出した。
反応率[%]=[1−(Sa
808/Sa
1722)/(Sb
808/Sb
1722)]×100
Sa
808:硬化後の808cm
−1のピーク強度
Sa
1722:硬化後の1722cm
−1のピーク強度
Sb
808:硬化前の808cm
−1のピーク強度
Sb
1722:硬化前の1722cm
−1のピーク強度
【0124】
なお、ATR FT−IRの測定に用いた装置および測定条件は下記のとおりである。
装置名:Perkin Elmer社製 FT−IR Spectrometer
「Spectrum100」にオプション「Universal ATR
Sampling Accessory」を取り付け
光源:MIR[800−30]cm
−1
ビームスプリッタ:OptKBr[7800−400]cm
−1
検出器:MIR TGS[15000−370]cm
−1
窓材:Opt KBr
最適スキャン範囲:[7800−650]cm
−1
クリスタル:ダイヤモンド/ZnSe
反射回数:1
測定範囲:4000−600cm
−1
分解能:4cm
−1
積算回数:4スキャン
【0125】
得られた積層体につき、前記(1)〜(5)の評価を行った。結果を表−3に示す。なお、比較例7は何も塗布されていない基材のみの結果である。
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
表−2,3より、本発明によれば、層間密着性、鉛筆硬度、透明性、耐擦傷性に優れ、特に層(B)を構成する硬化性組成物(β)に、前述の(メタ)アクリル系共重合体(β)や(メタ)アクリレート(β)を用いたり、層(A)を構成する硬化性組成物(α)にアクリロイル基を有する化合物で表面を修飾したシリカ粒子を用いることにより、防汚性や耐擦傷性により一層優れた積層体とすることができることが分かる。
これに対して、層(B)のみで、層(A)を有しない比較例1〜4では、鉛筆硬度が低い。
層(A)と層(B)を有していても、層(A)又は層(B)の硬化性組成物中のアクリロイル基を有する化合物の反応率が本発明を満たさない比較例5では層間密着性が劣り、また鉛筆硬度の測定時に塗膜がはがれてしまったため評価できなかった。比較例6では耐擦傷性が劣る結果となる。