(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本実施形態について、次の順序で説明を行う。
〈1.磁性コンパウンドを構成するための磁性粉末複合体〉
1−1.金属磁性粉末
1−2.被覆物と磁性粉末複合体
〈2.磁性コンパウンドの製造方法〉
2−1.使用される樹脂
2−2.準備工程
2−3.被覆工程(表面処理9
2−4.樹脂との混練工程
〈3.変形例等〉
本明細書において「〜」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを指す。
【0026】
<1.磁性コンパウンドを構成するための磁性粉末複合体>
本実施形態における磁性コンパウンドを構成するための磁性粉末複合体は、金属磁性粉末と、カルボン酸もしくは、その分子内における脱水、もしくは複数のカルボン酸の脱水作用によって生成した無水物、芳香族カルボン酸エステルおよびそれらの誘導体から選択される一種以上の被覆物とを含む。
以下、各構成について説明する。
【0027】
1−1.金属磁性粉末
本実施形態における金属磁性粉末は、一例としては、以下の構成を有する。
金属磁性粉末は、磁性特性、粒径などを適宜設計したものを用いれば良い。
磁性特性としては、飽和磁化(σs)により磁性コンパウンドの透磁率、誘電率を設定できる。ほかには、保磁力(Hc)、角形比(SQ)等、また粉体特性として、粒径、形状、BET(比表面積)、TAP(タップ)密度を調整すればよい。例えば、本実施形態における金属磁性粉末には、Fe(鉄)若しくは、FeとCo(コバルト)に、希土類元素(Y(イットリウム)を含む、以降同様。)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)から選択される一種以上(以後「Al等」という。)が含まれる。
金属磁性粉末の原材料となる元素を含む水溶液中において、Yを含む希土類元素量を変化させることで、最終的に得られる金属粒子の軸比(=長軸長/短軸長)を変更することができる。
希土類元素が少ない場合は軸比が大きくなり、より損失を低減した金属粉末を得ることができるが、透磁率は低減する。その一方、希土類元素が多い場合は軸比が小さくなり損失はやや大きくなるが、希土類元素が少ない場合と比べると透磁率が大きくなる。
【0028】
つまり、金属磁性粉末において適切な希土類含有量とすることで、より低い損失と高い透磁率を有するようになる。この結果、kHzからGHz帯域といった広い範囲において利用できうる金属磁性粉末を得ることが出来る。
【0029】
ここで、上述のように特性のバランスを維持するために適切な元素の具体的な含有範囲は、FeとCoの総和に対する希土類元素含有量で0at%(好ましくは、0at%を超え)〜10at%とすることが好ましく、0at%を超え5at%以下であることがより好ましい。また、使用する希土類元素種としては、YやLaが好ましい。
【0030】
金属磁性粉末がCoを含む場合、Co含有量に関しては、原子割合でFeに対するCoの割合(以下「Co/Fe原子比」という。)において0〜60at%を含有させることが好ましい。Co/Fe原子比が5〜55at%のものがより好ましく、10〜50at%のものが一層好ましい。このようなCo/Fe原子比の範囲において金属磁性粉末は、飽和磁化が高く、かつ安定した磁気特性が得られやすい。
【0031】
また、Al等は焼結抑制効果も有しており、熱処理時の焼結による金属磁性粉末の粒子の粗大化を抑制することができる。本発明ではAl等を「焼結抑制元素」の1つとして扱っている。
ただし、Al等は非磁性成分であるので、金属磁性粉末の磁気特性が担保できる範囲で含有させることが好ましい。具体的には、FeとCoとの総和に対するAl等の含有量は、1at%〜20at%とすることが好ましく、3at%〜18at%がより好ましく、5at%〜15at%が一層好ましい。
【0032】
本実施形態における金属磁性粉末は、金属成分からなるコアと主として酸化物成分からなるシェルから構成されるコア/シェル構造を有することが好ましい。コア/シェル構造を有しているか否かは、例えば、TEM写真により確認することができ、また組成分析は、例えばICP発光分析、ESCA(別名XPS)、TEM−EDX、SIMSなどの方法を採用することができる。
【0033】
なお、金属磁性粉末の平均一次粒子径は10nm以上500nm以下(好ましくは100nm以下)のナノ粒子であるのが好ましい。尤も、マイクロレベル(μm)の大きさの金属磁性粉末であっても用いることができるが、通信特性の向上、機器の小型化の観点からより小さい粒径が望ましい。
【0034】
また、金属磁性粉末の含有量は、所定の樹脂(後述)に対し、50体積%以下、好ましくは40体積%以下、一層好ましくは35体積%以下となるように、配合を調整するとよい。所望の優れた通信特性を得ながら、樹脂の曲げ強度を損なうことなく、弾性率の向上が図れるからである。
【0035】
1−2.被覆物と磁性粉末複合体
本実施形態における被覆物は、後述の表面処理工程により金属磁性粉末の表面に形成され、磁性粉末複合体となる。おそらく、当該被覆物は、金属磁性粉末の表面の少なくとも一部に付着して磁性粉末複合体を形成していると考えられる。当該被覆物は、カルボン酸もしくは、その分子内の脱水作用によって生成した無水物、芳香族カルボン酸エステルおよびそれらの誘導体から選択される一種以上である。ここで「誘導体」とは、官能基の導入、酸化、還元、原子の置き換えなど、母体の構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物をさし、「原子の置き換え」には、末端がアルカリ金属で置換がなされ、可溶性とされたものも含む概念である。
【0036】
本発明者が検討したところ、カルボン酸のなかでも、樹脂のように分子量が何万もある高分子より、分子量が500以下のカルボン酸が好ましい。さらに、炭素数は4から30までのものが好ましい。具体的には、カルボン酸もしくはその無水物、芳香族カルボン酸エステル、およびそれらの誘導体のなかでも、フタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、無水コハク酸、マロン酸、フマル酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、安息香酸、フタル酸ジメチル、およびそれらの誘導体であることが好ましく、一層好ましくは、フタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、無水コハク酸、マロン酸、フマル酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、安息香酸、フタル酸ジメチルを主骨格としつつ、炭素数が4以上30以下である構造を有するものが好ましい。
なお、これらカルボン酸又はその誘導体は必ずしも一種だけで使用する必要は無く、複数種のカルボン酸を使用することを妨げるものではない。
炭素数が上記の範囲内ならば、樹脂と磁性粉末複合体とのなじみが一層改善するので適当である。なお、ここでいう「無水物」とは、化合物から水分子が加熱等により除去(分子内脱水)されることで形成される化合物(フタル酸と無水フタル酸の関係)とともに、オキソ酸2分子が脱水縮合した化合物(安息香酸と無水安息香酸の関係)をも含む。
【0037】
なお、金属磁性粉末の表面を被覆物で被覆した磁性粉末複合体における被覆物量は、高周波燃焼法での炭素計測値が、磁性粉末複合体中の0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0038】
<2.磁性コンパウンドの製造方法>
以下、磁性コンパウンドの製造方法について説明する。
【0039】
2−1.使用される樹脂
本実施形態における樹脂として好適なのは、IEC60250またはJISC2138:2007に規定された1MHzにおけるtanδεが0.05以下の熱可塑性樹脂である。当該樹脂を用いることで本実施形態の効果を奏することができる。特に、芳香環を有する熱可塑性樹脂を使用するとtanδεが良好であるため好ましく、とりわけ、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、および、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)から選択される一種以上を使用することが好ましい。
実施例の項目で後述するように、PPS、SPSおよびm−PPEから選択される一種以上を樹脂として採用し、当該樹脂と本発明に係る磁性粉末複合体とで混練し、本発明に係る磁性コンパウンドを製造することが可能である。
【0040】
本発明に従う磁性コンパウンド(複合体中における金属磁性粉末の構成:30体積%相当)により与えられる成形体の高周波(2GHz)領域における磁気特性としては、複素比透磁率の実数部μ’が1.450以上、好ましくは1.50以上、更に好ましくは1.70以上であることが好ましい。こうした特性を有する磁性コンパウンドは、透磁率が高いため十分な小型化効果を発揮することができ、かつリターンロスの小さいアンテナの構築に極めて有用である。
【0041】
また、本発明に従う磁性コンパウンドにより形成された成形体の磁気損失については、例えば、前記熱可塑性樹脂、または、前記PPS、SPSおよびm−PPEから選択される一種以上の樹脂に、前記磁性粉末複合体として、前記金属磁性粉末100質量部に対して、前記カルボン酸もしくはその無水物、芳香族カルボン酸エステル、およびそれらの誘導体から選択される一種以上の5質量部を添加して作製した磁性粉末複合体を体積割合で30%含有させて磁性コンパウンドとしたとき、測定時周波数2GHzにおいて、tanδμが0.10以下、より好ましくは0.05以下であり、一層好ましくは0.02以下を示すものであるとよい。またtanδεが0.10以下、より好ましくは0.05以下、一層好ましくは0.02以下を示すものであるとよい。
【0042】
2−2.準備工程
本工程においては、磁性コンパウンドの作製に係る諸々の準備を行う。例えば、上記の金属磁性粉末などの各種原材料や、被覆体の原材料、混ぜ入れる対象となる樹脂を用意する。
【0043】
2−3.被覆工程(表面処理)
金属磁性粉末に対し、有機化合物(カルボン酸、カルボン酸無水物、芳香族カルボン酸エステルおよびそれらの誘導体から選択される一種以上。)を添加して混合し、磁性粉末複合体を得る。カルボン酸のなかでも、樹脂のように分子量が何万もあるような高分子より、分子量が500以下のカルボン酸が好ましい。さらに、炭素数は4から30までのものとするのが良い。具体的には、カルボン酸、カルボン酸無水物、芳香族カルボン酸エステル、およびそれらの誘導体のなかでも、フタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、無水コハク酸、マロン酸、フマル酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、安息香酸、フタル酸ジメチル、およびそれらの誘導体であることが好ましく、一層好ましくは、フタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、無水コハク酸、マロン酸、フマル酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、安息香酸、フタル酸ジメチルを主骨格としつつ、炭素数が4以上30以下である構造とするのが良い。
なお、これらカルボン酸、カルボン酸無水物、芳香族カルボン酸エステル、およびそれらの誘導体は必ずしも一種だけで構成する必要は無く、複数種のカルボン酸、カルボン酸無水物、芳香族カルボン酸エステル、およびそれらの誘導体を使用することを妨げるものではない。
また、磁性粉末複合体において、炭素量が0.1質量%以上あれば、磁性粉末複合体の樹脂への分散が好適に行え好ましい。一方、炭素量が10質量%以下であれば非磁性成分が過剰にならず、磁性粉末複合体あるいはその後に形成する磁性コンパウンドとしたときの透磁率が低下しないので好ましい。
【0044】
具体的には、磁性粉末複合体において有機化合物の添加量は、質量比で金属磁性粉末100に対して2〜15、より好ましくは2.5〜10、一層好ましくは5〜10である。
当該質量比が2以上だと、金属磁性粉末と樹脂とがなじむため、生産した時の製品の性質安定性が向上する。15以下だと、金属磁性粉末における非磁性成分が適量となり、被覆体が被覆された金属磁性粉末により構成される磁性粉末複合体そのものの磁気特性の低下を抑制できる。ひいては、磁性粉末複合体を樹脂に混ぜ入れて磁性コンパウンドとしたときの高周波特性を比較的高く維持することができ、最終的に形成されるアンテナの特性についても同様に比較的高く維持することができる。
【0045】
上記の有機化合物が、当該金属磁性粉末と当該樹脂との間の「ぬれ性」を向上させるメカニズムについての詳細は不明であるので、推測にとどまるが、有機化合物の構造式から鑑みて、カルボキシル基側が金属磁性粉末の表面に引き寄せられる一方、反対側(カルボキシル基が存在しない側)が疎水性の樹脂側になじむようになり、結果として金属磁性粉末が樹脂によくなじむようになると考えられる。また、金属磁性粉末と、所定の有機化合物を混合して、その一部を磁性粉に被覆させるが、「被覆に利用されていない」フリーな状態の当該有機化合物をあえて除去することなく金属磁性粉末中に残存させ、そのままの状態としたため、前述の「ぬれ性」作用以外においても何らかの分散作用も生じさせているとも推察している。
【0046】
なお、表面処理の際に添加する溶媒(粉末と被覆物とのなじみを向上させるために添加する液体)は、上記の有機化合物が必ずしも完全に溶解するものであることを要しない。
そこで、乾燥した磁性粉末複合体を得るには、上記の有機化合物と当該溶媒を加えたものに金属磁性粉末を加え、金属磁性粉末を当該溶媒に含浸させた後、溶媒を除去する方法を採用すると簡便である。
【0047】
また、磁性粉末複合体を製造するのに、上記の有機化合物の溶液に金属磁性粉末を加え、自転公転併用式攪拌機で攪拌、もしくは剪断力を加えながら攪拌することでペースト化させる方法を採用してもよい。ペースト化の工程を経ることにより、上記の有機化合物と金属磁性粉末とが良くなじむように混合され、そのため、金属磁性粉末の表面に有機化合物が吸着しやすくなり、ひいては被覆体が形成されやすくなる。
つまり、金属磁性粉末に対して添加した有機物が満遍なく行き渡るようであれば、問題はない。また、混練を行いながら溶媒の除去、乾燥を行うために、ミキサーなどを使用しても差し支えない。なお、当該除去、乾燥後において、有機化合物を金属磁性粉末の粒子表面に残存させることが肝要である。
【0048】
また、磁性粉末複合体を製造するのに、金属磁性粉末と上記の有機化合物との間の接触を効率的に生じさせつつ被覆体を形成する必要があるので、高い剪断力を有した分散、混練機を用いてもよく、当該溶媒に対して強い剪断力を加えながら金属磁性粉末を当該溶媒に対して分散させる方法を採用しても良い。
【0049】
ペーストの作製後に、乾燥して粉末態にする方法を採用した際に用いられる、強い剪断力を有する分散機としては、タービン・ステータ型攪拌機として知られるプライミクス株式会社のT.K.ホモミクサー(登録商標)、IKA社のUltra−Turrax(登録商標)などが例示でき、コロイドミルとしては、プライミクス株式会社のT.K.マイコロイダー(登録商標)、T.K.ホモミックラインミル(登録商標)、T.K.ハイラインミル(登録商標)や、株式会社ノリタケカンパニーリミテドのスタティックミキサー(登録商標)、高圧マイクロリアクター(登録商標)、高圧ホモジナイザー(登録商標)等が例示できる。
【0050】
上述した剪断力の強弱は、攪拌翼を有する装置であれば、攪拌翼の翼周速度で評価することができる。本実施形態において、「強い剪断力」とは、翼周速度が3.0(m/s)以上、好ましくは5.0(m/s)以上のものを指す。翼周速度が上記の値以上だと、剪断力が適度に高く、ペースト化の時間を短縮化でき、生産効率が適度に良い。ただし、金属磁性粉末に与えるダメージを低減することを考慮すると、翼周速度を低く調整してダメージを低減することも可能である。
【0051】
なお、翼周速度は、円周率×タービン翼の直径(m)×1秒あたりの攪拌回転数(回転数)で算出することができる。例えば、タービン翼の直径が3.0cm(0.03m)で、攪拌回転数が8000rpmであれば、1秒あたりの回転数は133.3(rps)となり、翼周速度は12.57(m/s)となる。
【0052】
得られたペースト状の処理物は、乾燥して溶媒を除くとよい。このときは、ペーストをバット上に広げ、溶媒の乾燥温度以上、被覆物質の分解温度未満に設定して乾燥することができる。溶媒の乾燥は、例えば酸化しやすい物質に対して被覆処理を行っている場合には、不活性雰囲気下、コスト面で考えると窒素中にて乾燥処理を行うことが好ましい。
【0053】
ここで金属磁性粉末に対し強固に被覆されうる有機化合物を用いて表面処理を行う場合には、例えばろ過を行ってある程度の溶媒を除いた後に、乾燥を行うという手法を採用してもよい。こうすることにより、予め溶媒の含有量を減ずることができるので、乾燥時間を短縮することもできる。なお、当該被覆が強固か否かを確認するには、例えばろ液を蒸発させて、残留成分がどの程度あるかで評価することもできる。
【0054】
一方、ペースト化することなく、溶媒と被着されうる有機化合物とを混合後に、金属磁性粉末を添加し、攪拌混合を行いながら表面処理を行う方法を採用する際には、日本コークス株式会社のFMミキサー、株式会社カワタのスーパーミキサーといったものが使用できる。また、こうした装置に、溶媒を蒸発させるために加熱装置が付属したものを用いれば、処理後の粉末を取り出して乾燥に付す操作が必要なくなるので好ましい。
【0055】
こうした処理を行う際には、金属磁性粉末の酸化による特性低下を抑制する目的で、不活性雰囲気下で処理を施すのが好ましい。さらに、一旦溶媒と有機化合物を混合した液に不活性ガス(コスト的には窒素)を通気させる操作を施すのがより好ましい。処理容器内を不活性ガスで置換した後、金属磁性粉末を酸化しないように添加して、溶媒、有機化合物、金属磁性粉末を混合して混合体を作製した後、加熱処理を行って溶媒の乾燥温度以上、被覆物質の分解温度未満に設定して乾燥することができる。より短時間で乾燥するには、ミキサーを運転し、混合体を転動させながら乾燥させることが好ましい。
【0056】
こうして得られた、被覆体が表面に形成された磁性粉末複合体の凝集体において、分級機やふるいなどを用いて粗粒子を除くのがよい。大きな粗粒子を除くことで、アンテナを作製した際に、粗粒子のある部分に力がかかってしまい、機械的特性が悪化する事態を回避することができるからである。篩を用いて分級する時には、500メッシュ以下の目開きのものを用いるのが適当である。
【0057】
なお、上記の工程を経て得られた磁性粉末複合体の特性および組成は、以下の方法により確認した。
【0058】
(BET比表面積)
BET比表面積は、ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUSを用いて、BET一点法により求められる。
【0059】
(磁性粉末複合体の磁気特性評価)
得られた磁性粉末複合体(または金属磁性粉末)の磁気特性(バルク特性)として、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して、外部磁場10kOe(795.8kA/m)で、保磁力Hc(OeまたはkA/m)、飽和磁化σs(Am2/kg)、角形比SQ、保磁力分布SFDを測定可能である。Δσsは、磁性粉を60℃、90%の高温多湿環境下に一週間放置した時の飽和磁化の低下割合を百分率(%)で示したものである。
【0060】
(TAP密度の測定)
特開2007−263860号明細書に記載された方法で測定可能である。また、JISK−5101:1991の手法を採用しても測定可能である。
【0061】
2−4.樹脂との混練工程
得られた磁性粉末複合体と上述の樹脂とを混練し、磁性コンパウンドを形成する。混練工程により樹脂中に金属磁性粉末が分散された状態となる。混練後の状態は、樹脂中に磁性粉末が均一濃度に分散されているのが好ましい。樹脂に混ぜ込むことのできる磁性粉末複合体の量が多い場合、高周波を加えた際の透磁率が高くなる一方、樹脂の有する機械的特性は低下することになる。そのため、磁性コンパウンドへの磁性粉末複合体の添加量は機械的特性と高周波特性との間のバランスを考慮して検討することが好ましい。
【0062】
磁性コンパウンドを作製する手段としては、特に制限はない。例えば、市販の混練機を用いて、混練強度等を調整すればよい。
樹脂、金属磁性粉末、上記の有機化合物を含む混合物を加熱し、磁性コンパウンドを作製する方法を採用しても構わないし、樹脂を溶融させたところに磁性粉末複合体を添加する方法を採用しても構わない。
【0063】
なお、樹脂の溶融温度は樹脂の溶融温度よりも高い温度で通常行い、樹脂の分解性が高いときには分解温度以下で設定する。
【0064】
また、樹脂の機械的強度などを改善するために、通常知られている添加物として知られている、繊維態であるガラス繊維、炭素繊維、石墨繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、麻繊維、ケナフ繊維、竹繊維、スチール繊維、木綿、レーヨン、アルミニウム繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、コットンフィブリル、窒化珪素ウイスカー、アルミナウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ニッケルウイスカー、板状であるタルク、カオリンクレイ、マイカ、ガラスフレーク、アラゴナイト、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、有機化モンモリロナイト、膨潤性合成マイカ、黒鉛、粒状である炭酸カルシウム、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ワラストナイト、バーミキュライト、シラスバルーン、ガラスバルーン、ナノ酸化チタン、ナノシリカ、カーボンブラックといったものを添加することができる。その他、添加によりアンテナとしての特性が低下しない範囲で、経時劣化抑制物質を添加することもできる。
【0065】
(磁性コンパウンドの特性評価)
上述の方法により得られた磁性粉末複合体と特定の樹脂から構成される磁性コンパウンド0.2gをドーナッツ状の容器内に入れて、ハンドプレス機、もしくはホットプレス機を用い、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の磁性コンパウンドの成形体を形成する。その後、アジレント・テクノロジー株式会社製のネットワーク・アナライザー(E8362C)と株式会社関東電子応用開発製の同軸型Sパラメーター法サンプルホルダーキット(製品型番:CSH2−APC7、試料寸法:φ7.0mm−φ3.04mm×5mm)を用い、得られた磁性コンパウンドの成形体の高周波特性すなわち0.5〜5GHzの区間、測定幅は0.05GHz刻みで行い、透磁率の実数部(μ’)、透磁率の虚数部(μ”)、誘電率の実数部(ε’)、誘電率の虚数部(ε”)を測定し、高周波特性を確認した。ここで、tanδε=ε”/ε’であり、tanδμ=μ”/μ’で算出することができる。
【0066】
以上、本実施形態によれば、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、および、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)のいずれかの樹脂を用いて、高周波特性に優れ、かつ機械的強度に優れた磁性コンパウンドおよびその関連物を提供できる。
【0067】
<3.変形例等>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0068】
(金属磁性粒子、被覆体、磁性粉末複合体および樹脂)
本実施形態においては、金属磁性粒子、被覆体、磁性粉末複合体および樹脂に関し、主となる元素や化合物について詳述した。その一方、上記で列挙した元素や化合物以外のものを、金属磁性粒子、被覆体、磁性粉末複合体および樹脂が含有していても構わない。
【0069】
(アプリケーション)
本実施形態における得られた磁性粉末複合体と特定の樹脂から構成される磁性コンパウンドは、アンテナ、インダクタ、電波遮蔽材に用いることができる。特に、当該磁性コンパウンドにより構成されるアンテナ、更には当該アンテナを備えた電子通信機器(電子機器)においても、後述の実施例の項目で示すような比較的高い通信特性を享受することが可能である。つまり、本実施形態における磁性コンパウンドは、上記のような電子部品、アンテナ、電子機器等々へと加工可能なものである。
【0070】
このような電子通信機器としては、例えば、本実施形態におけるアンテナが受信した電波に基づいて電子通信機器としての機能を奏する部分と、受信した電波に基づいて当該部分を制御する制御部とを有するものが挙げられる。
【0071】
なお、本実施形態における電子通信機器としては、アンテナを備える関係上、通信機能を有する通信機器であるのが好ましい。しかしながら、アンテナにより電波を受信して機能を発揮する電子機器であれば、通話などの通信機能を備えない電子機器であっても差し支えない。
【実施例】
【0072】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
なお、本項目で挙げる各例における条件および測定結果を表1〜5に記載する。
表1は、実施例1〜20、比較例1〜6に係る試料の原料について記載する。
表2は、実施例1〜20、比較例1〜6に係る試料の磁気的特性および機械的特性について記載する。
表3は、実施例1〜20、比較例1〜6に係る試料の高周波特性(750MHz〜1GHz、2GHz)について記載する。
表4は、実施例1〜20、比較例1〜6に係る試料の高周波特性(800MHz、1.5GHz)について記載する。
表5は、実施例1〜20、比較例1〜6に係る試料の高周波特性(2.5GHz、3.0GHz)について記載する。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
なお、各表の空欄は未測定または測定不能であった項目である。
以下、各例について説明する。
【0074】
<実施例1>
本例においては、少量サンプルを作製した。
まず、金属磁性粉末(DOWAエレクトロニクス株式会社製:鉄−コバルト金属粒子、長軸長:40nm、BET:37.3m
2/g、σs:179.3Am
2/kg、炭素含有量(高周波燃焼法):0.01質量%)を500メッシュ篩で篩わけし、篩下の金属磁性粉末(50g)に、フタル酸(和光純薬工業製特級試薬)を磁性粉に対して5%(2.5g)、エタノールを磁性粉に対して30重量%(15g)添加して、メノウ乳鉢中で5分間混合させた。乾燥は60℃で2時間行い、本例における磁性粉末複合体を得た。なお、得られた磁性粉末複合体の真密度を気相(Heガス)置換法で求めたところ、5.58g/cm
3であった。求めた真密度の値は、コンパウンド中の磁性粉末複合体の含有量を所望の割合にするための配合比の算出に使用した。
【0075】
酸素濃度計で0%になるまで窒素にて充満させた雰囲気中においた小型混練機(DSM Xplore(登録商標) MC15、Xplore Instruments社製)中で、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS/ポリプラスチック株式会社製ジュラファイド(登録商標)0220A9)13.2gを、設定温度300℃において、混練攪拌速度100rpmにて溶融させつつ、磁性粉末複合体を溶融樹脂に混ぜ入れた。なお、磁性粉末複合体の量としては、成形体形成時の体積充填率が30体積%に相当する23.4gとした。そして、10分間混練(樹脂および磁性粉の投入時間を含む)し、混練物すなわち磁性コンパウンドを作製した。
【0076】
得られた磁性コンパウンドは、小型混練機のオプション装置である射出成形機にシリンダ温度300℃、金型温度130℃の条件で投入し、曲げ試験用の成形体(ISO178規格サイズ:80mm×10mm×4mm)を作製したのち、デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製 ZTS−500N)を用い、支点間距離を16mmとして、曲げ強度を測定し、曲げ変位を算出した上で弾性率(MPa)を測定した。
【0077】
更に、高周波特性を測定するため、磁性コンパウンド0.2gを直径6mmのドーナツ形冶具中へ投入後、小型ホットプレス機(アズワン製)にて300℃で20分間加熱した。こうすることにより磁性コンパウンド中の樹脂を溶融させた後、加圧しながら、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の成形体へと成形して冷却し、得られた成形体に対し、上記の実施の形態に記載の方法で高周波特性を測定した。
【0078】
<実施例2>
本例では、実施例1において添加する処理剤を無水マレイン酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0079】
<実施例3>
本例では、実施例1において添加する処理剤をマレイン酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0080】
<実施例4>
本例では、実施例1において添加する処理剤をフタル酸ジメチルとした以外は実施例1と同様にした。
【0081】
<実施例5>
本例では、実施例1において添加する処理剤をコハク酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0082】
<実施例6>
本例では、実施例1において添加する処理剤を無水コハク酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0083】
<実施例7>
本例では、実施例1において添加する処理剤を無水フタル酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0084】
<実施例8>
本例では、実施例1において添加する処理剤を安息香酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0085】
<実施例9>
本例では、実施例1において添加する処理剤をマロン酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0086】
<実施例10>
本例では、実施例1において添加する処理剤をフマル酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0087】
<実施例11>
本例では、実施例1において添加する処理剤をグルタル酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0088】
<実施例12>
本例では、実施例1において添加する処理剤をアゼライン酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0089】
<実施例13>
本例では、実施例1において添加する処理剤をセバシン酸とした以外は実施例1と同様にした。
【0090】
<実施例14>
本例においては、中量サンプルを作製した。
まず、フタル酸(和光純薬工業株式会社製特級試薬)25gにエタノール(和光純薬工業株式会社製特級試薬)を500gになるように添加し、フタル酸をエタノールへと溶解させた。この溶液に対し、金属磁性粉末(DOWAエレクトロニクス株式会社製:鉄−コバルト金属粒子、長軸長:40nm、BET:37.3m
2/g、σs:179.3Am
2/kg、炭素含有量(高周波燃焼法):0.01質量%)500gを不活性雰囲気下で添加し、溶液中にて金属磁性粉末を沈降させた。これを大気中で高速攪拌機(プライミクス株式会社製TKホモミキサーMarkII)で8000rpmにおいて2分間攪拌して、金属磁性粉末のペースト態とした。
【0091】
得られたペーストをアルミのバット上に広げ、エタノールの揮発温度近傍(78℃)で1時間、その後120℃に昇温して1.5時間加熱し、ペーストからエタノールを除き、フタル酸と金属磁性粉末が混在した凝集体を得た。得られた凝集体を500メッシュのふるいにかけて粗大粒子を除き、本例にかかる磁性粉末複合体とした。得られた磁性粉末複合体は、BET:34.9m
2/g、σs:173.5Am
2/kg、炭素含有量(高周波燃焼法):2.82質量%の特性を有したものだった。
ここで、磁性粉末複合体の真密度を気相(Heガス)置換法で求め、求めた真密度の値を、コンパウンド中の磁性粉末複合体の含有量を所望の割合にするための配合比の算出に使用した。
以降は実施例1と同様にして評価した。
【0092】
<実施例15>
本例では、ガラス繊維が30%含有された比重1.57g/cm
3のジュラファイド(登録商標)1130A64(PPS/ポリプラスチックス株式会社製 ポリフェニレンサルファイド)へと樹脂を変更した以外は実施例14と同様にした。
【0093】
<実施例16>
本例では、成形体形成時の体積充填率が20体積%に相当する磁性粉末複合体と、比重1.18g/cm
3のXAREC(登録商標)SP105(SPS/出光興産株式会社製、シンジオタクチックポリスチレン)を11.5gそれぞれ窒素中で秤量して5号規格瓶に入れてフタをした。軽く手で振ってかき混ぜたあと、小型混練機(DSM Xplore(登録商標) MC15、Xplore Instruments社製)にて、窒素雰囲気中で、設定温度300℃、混練攪拌速度100rpmにて、10分間混練(樹脂および磁性粉の投入時間を含む)して、混練物すなわち磁性コンパウンドを作製した。その余は実施例1と同様にして評価した。
【0094】
<実施例17>
本例では、実施例16において、磁性粉末複合体の体積充填率が30体積%に相当するように、磁性粉末複合体とSPSの添加量を調整した以外は実施例16と同様にした。
【0095】
<実施例18>
本例では、実施例16において、磁性粉末複合体の体積充填率が40体積%に相当するように、磁性粉末複合体とSPSの添加量を調整した以外は実施例16と同様にした。
【0096】
<実施例19>
本例では、樹脂を比重1.06g/cm
3のザイロン(登録商標)AH−40(PPE/旭化成ケミカルズ株式会社製 変性ポリフェニレンエーテル)に変更した以外は実施例16と同様にした。
【0097】
<実施例20>
本例では、ガラス繊維が30%含有された比重1.31g/cm
3のザイロン(登録商標)GH−30(PPE/旭化成ケミカルズ株式会社製 変性ポリフェニレンエーテル)へと樹脂を変更した以外は実施例16と同様にした。
【0098】
<比較例1>
本例では、実施例1において、フタル酸で表面処理していない金属磁性粒子を用いた。更に、熱可塑性樹脂ではなく熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂(一液型エポキシ樹脂 テスク株式会社製)を、金属磁性粉末が30質量%になるように秤量し、株式会社EME社製真空攪拌・脱泡ミキサー(V−mini300)を用いて、当該金属磁性粉末をエポキシ樹脂に分散させペースト状にした。このペーストをホットプレート上で60℃、2時間乾燥させて、金属磁性粉末−樹脂の複合体を得た。この複合体を解粒して複合体の粉末を作製し、この複合体粉末0.2gをドーナッツ状の容器内に入れて、ハンドプレス機により1tの荷重をかけることにより、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の成形体とした。以降は実施例1と同様にして評価した。
【0099】
<比較例2>
本例では、比較例1に用いた金属磁性粉末を実施例14で使用した磁性粉末複合体に変更した以外は同様にした。
【0100】
<比較例3>
本例では、実施例14において、金属磁性粉末をフタル酸で表面処理しなかった以外は同様にした。
本例においては、混練物の作製の際、混練物を大気中に取り出した段階で金属磁性粉末が発火して発煙が生じ、そもそも混練物を作製することができなかった。
【0101】
<比較例4>
本例では、実施例17において、金属磁性粉末をフタル酸で表面処理しなかった以外は同様にした。
本例においては、混練物の作製の際、混練物を大気中に取り出した段階で金属磁性粉末が発火して発煙が生じ、そもそも混練物を作製することができなかった。
【0102】
<比較例5>
本例では、実施例19において、金属磁性粉末をフタル酸で表面処理しなかった以外は同様にした。
本例においては、混練物の作製の際、混練物を大気中に取り出した段階で金属磁性粉末が発火して発煙が生じ、そもそも混練物を作製することができなかった。
【0103】
<比較例6>
本例においては、既存の技術である熱可塑性樹脂と芳香族ナイロンの混合樹脂を用いて、磁性粉末複合体に同様の効果が見られるか確認した。具体的には、実施例1において、金属磁性粉末をフタル酸で表面処理せず、かつ、樹脂をジュラファイド(登録商標)(PPS/ポリフェニレンサルファイド樹脂 ポリプラスチックス株式会社製 A0220A9)と、芳香族ナイロン6T ベスタミド(登録商標)(ダイセル・エボニック株式会社製 HTplus M1000)を混合した以外は同様にした。
本例においては、混練物の作製の際、混練物を大気中に取り出した段階で金属磁性粉末が発火して発煙が生じ、そもそも混練物を作製することができなかった。
【0104】
<結果>
上記の内容をまとめたのが、先に挙げた表1〜5である。
上記の各表を見ると、いずれの実施例も、各表に記載した全ての周波数において、透磁率の実数部(μ’)、透磁率の虚数部(μ”)、誘電率の実数部(ε’)、誘電率の虚数部(ε”)、(tanδμ)および(tanδε)、更には750MHz〜1GHzにおけるμ’やε’の標準偏差も含め、全てが良好な値となっていた。それに加え、曲げ強度や弾性率についても良好であった。
【0105】
その一方、比較例においては、比較例3〜6において磁性コンパウンドを作製する際に、発火の手前の発煙が生じて、混練物を得ることができなかった。
比較例1、2においては、磁性コンパウンドを作製できた。しかし、高周波特性において実施例よりも劣る結果となっていた。
【0106】
以上の結果、上記の実施例によれば、電子通信機器の小型化を図ることを可能としつつも所望の通信特性を実現可能な磁性粉末複合体およびその関連物を提供できることが明らかとなった。