特許第6552346号(P6552346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552346
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   H01L21/302 101B
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-175045(P2015-175045)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2017-50509(P2017-50509A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】富岡 武敏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康晴
(72)【発明者】
【氏名】岸 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】徐 智洙
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−134375(JP,A)
【文献】 特開2005−064460(JP,A)
【文献】 特開平08−055905(JP,A)
【文献】 特開平09−213773(JP,A)
【文献】 特開2010−034256(JP,A)
【文献】 特開2012−199535(JP,A)
【文献】 特開2011−151280(JP,A)
【文献】 特開2016−025277(JP,A)
【文献】 特開2016−184645(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/109848(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/052291(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0061447(US,A1)
【文献】 特開2014−3085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電吸着機構を有し、基板を静電吸着する下部電極と、
処理容器内にて前記下部電極の周縁部に配置され、前記下部電極の静電吸着機構と接触するフォーカスリングと、
前記処理容器内に高周波電力を供給する高周波電源と、を有し、
前記高周波電力によって前記処理容器内に導入されたガスからプラズマを生成し、該プラズマにより基板を処理する基板処理装置であって、
前記高周波電源は第1の高周波電力と前記第1の高周波電力より高い第2の高周波電力とを交互に繰り返しながら供給し、
前記フォーカスリングから前記静電吸着機構への電荷の移動をし難くするために前記フォーカスリングの接触面及び前記下部電極の部材の接触面の少なくともいずれかは、0.1μm以上の表面粗さである、
基板処理装置。
【請求項2】
前記静電吸着機構は、基板用の静電吸着機構と、フォーカスリング用の静電吸着機構とを有する、
請求項に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記フォーカスリングの接触面は、シリコン含有材料、アルミナ(Al)又は石英のいずれかで形成される、
請求項1又は2に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォーカスリング及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
処理容器の内部にて基板を載置する下部電極の周縁部に配置されたフォーカスリングの裏面は、鏡面状であることが多い。これに対して、フォーカスリングの裏面又は表面を所定の粗さに加工し、凹凸を設けることが提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
特許文献1では、フォーカスリングの裏面に形成された凹凸にポリイミドテープを設け、該テープを変形させてフォーカスリングを支持する誘電体板とフォーカスリングとを密着させる。これにより、誘電体板及びフォーカスリング間の熱伝導性をよくする。
【0004】
特許文献2では、フォーカスリングの裏面に凹凸を設けることで、フォーカスリングの放熱特性を向上させ、接触熱抵抗が高くなることを抑制する。
【0005】
特許文献3では、フォーカスリングの表面に凹凸を設け、これにより、フォーカスリングの取り付け直後に放電異物の発生を防止するために行う空放電時間を短縮させる。これにより、空放電時間が長くなって生産性が低下するという課題を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/109848号パンフレット
【特許文献2】特開2011−151280号公報
【特許文献3】特開平11−61451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1〜3では、フォーカスリングの裏面が鏡面状であると、フォーカスリングを静電吸着させる静電チャックとフォーカスリングとの間において、フォーカスリングを吸着する力が弱くなるという課題を解決する手段を開示してはいない。
【0008】
他方、プロセス時間が長くなると徐々にフォーカスリングを吸着する力が弱くなり、その結果、静電チャックとフォーカスリングとの間に供給される伝熱ガスのリーク量が増える。
【0009】
上記課題に対して、一側面では、本発明は、フォーカスリングの吸着特性を安定化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、一の態様によれば、処理容器内にて基板を載置する下部電極の周縁部に配置され、該下部電極の部材と接触するフォーカスリングであって、前記フォーカスリングの接触面は、シリコン含有材料、アルミナ(Al)又は石英のいずれかで形成され、前記フォーカスリングの接触面及び前記下部電極の部材の接触面の少なくともいずれかは、0.1μm以上の表面粗さである、フォーカスリングが提供される。
【発明の効果】
【0011】
一の側面によれば、フォーカスリングの吸着特性を安定化させることで、伝熱ガスのリーク量が増えることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る基板処理装置の縦断面の一例を示す図。
図2】鏡面状のフォーカスリングと静電チャックとの間の電荷の状態の一例を示す図。
図3】一実施形態に係るフォーカスリングと静電チャックとの間の電荷の状態の一例を示す図。
図4】一実施形態及び比較例のフォーカスリングの裏面の粗さと伝熱ガスのリーク量との関係の一例を示す図。
図5】一実施形態及び比較例のフォーカスリングの裏面の粗さと伝熱ガスのリーク量との関係の一例を示す図。
図6】一実施形態及び比較例のフォーカスリングの裏面の粗さとエッチングレートとの関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
【0014】
[基板処理装置の全体構成]
まず、本発明の一実施形態にかかる基板処理装置10の全体構成について、図1を参照しながら説明する。基板処理装置10は、アルミニウム等からなり、内部を密閉可能な筒状の処理容器11を有している。処理容器11は、接地電位に接続されている。処理容器11の内部には、導電性材料、例えばアルミニウム等から構成された載置台12が設けられている。載置台12は、半導体ウェハW(以下、「ウェハW」という。)を載置する円柱状の台であり、下部電極としても機能する。
【0015】
処理容器11の側壁と載置台12の側面との間には、載置台12の上方のガスを処理容器11外へ排出する経路となる排気路13が形成されている。排気路13の途中には排気プレート14が配置される。排気プレート14は多数の孔を有する板状部材であり、処理容器11を上部と下部とに仕切る仕切り板として機能する。排気プレート14によって仕切られた処理容器11の上部は、プラズマ処理が実行される処理室17である。排気プレート14によって仕切られた処理容器11の下部は、排気室(マニホールド)18である。排気室18には、処理容器11内のガスを排出する排気管15及びAPC(Adaptive Pressure Control:自動圧力制御)バルブ16を介して排気装置38が接続されている。排気プレート14は、処理室17にて生成されるプラズマを捕捉し、排気室18への漏洩を防止する。排気装置38は、処理容器11内のガスを排気するとともに、APCバルブ16の調整により処理室17内を所定の圧力に減圧する。これにより、処理室17内が所望の真空状態に維持される。
【0016】
第1の高周波電源19は、整合器20を介して載置台12に接続され、例えば載置台12上のウェハWにプラズマ中のイオンを引き込むのに適した低めの周波数、例えば13.56MHzの高周波電力RF(以下、「高周波電力LF」(Low Frequency)とも表記する。)を印加する。整合器20は、載置台12からの高周波電力の反射を抑え、バイアス用の高周波電力LFの供給効率を最大にする。
【0017】
載置台12には、静電電極板21a及び静電電極板21bを内部に有する静電チャック22が配置されている。静電チャック22は絶縁体であってもよいし、アルミニウム等の金属にセラミック等が溶射されていてもよい。静電電極板21aには、直流電源23aが接続され、静電電極板21bには、直流電源23bが接続されている。
載置台12にウェハWを載置するとき、ウェハWは静電チャック22上に置かれる。静電チャック22は、載置台12に設けられ、ウェハWを静電吸着する静電吸着機構の一例である。静電吸着機構は、基板用の静電吸着機構とフォーカスリング用の静電吸着機構とを有する。静電電極板21a及び直流電源23aは、基板用の静電吸着機構の一例であり、静電電極板21b及び直流電源23bは、フォーカスリング用の静電吸着機構の一例である。
【0018】
静電チャック22の外周部には、ウェハWの周縁部を囲うように、円環状のフォーカスリング24が載置される。フォーカスリング24は、導電性部材、例えば、シリコンから形成され、処理室17においてプラズマをウェハWの表面に向けて収束し、エッチング処理の効率を向上させる。
【0019】
フォーカスリング24は、シリコン含有材料、アルミナ(Al2O3)又は石英のいずれかで形成される。フォーカスリング24がシリコン含有材料で形成される場合、シリコン単結晶又はシリコンカーバイド(SiC)が含まれる。フォーカスリング24は、これらの部材の何れかによって一体型で形成されている。
【0020】
静電電極板21a及び静電電極板21bに正の直流電圧(以下、「HV」(High Voltage)とも表記する。)が印加されると、ウェハWの裏面及びフォーカスリング24の裏面に負電位が発生して静電電極板21a及び静電電極板21bの表面と、ウェハWの裏面及びフォーカスリング24の裏面との間に電位差が生じる。ウェハWは、この電位差に起因するクーロン力又はジョンソン・ラーベック力により、静電チャック22に静電吸着され、保持される。また、フォーカスリング24が静電チャック22に静電吸着される。
【0021】
また、載置台12の内部には、例えば、円周方向に延在する環状の冷媒室25が設けられる。この冷媒室25には、冷媒用配管26を介してチラーユニットから低温の冷媒、例えば、冷却水やガルデン(登録商標)が循環供給される。該低温の冷媒によって冷却された載置台12は静電チャック22を介してウェハW及びフォーカスリング24を冷却する。
【0022】
静電チャック22におけるウェハWが吸着する面(吸着面)には、複数の伝熱ガス供給孔27が開口している。これら複数の伝熱ガス供給孔27には、伝熱ガス供給ライン28を介してヘリウム(He)ガス等の伝熱ガスが供給される。伝熱ガスは、複数の伝熱ガス供給孔27を介して静電チャック22の表面とウェハWの裏面との間隙、及び、静電チャック22の表面とフォーカスリング24の裏面との間隙に供給され、ウェハW及びフォーカスリング24の熱を静電チャック22に伝達するように機能する。
【0023】
処理容器11の天井部には、載置台12と対向するようにガスシャワーヘッド29が配置されている。第2の高周波電源31は、整合器30を介してガスシャワーヘッド29に接続され、例えば処理容器11内にてプラズマを生成するために適した周波数、例えば60MHzの高周波電力RF(以下、「高周波電力HF」(High Frequency)とも表記する。)をガスシャワーヘッド29に供給する。
【0024】
このようにしてガスシャワーヘッド29は上部電極としても機能する。なお、整合器30は、ガスシャワーヘッド29からの高周波電力の反射を抑え、プラズマ励起用の高周波電力HFの供給効率を最大にする。なお、第2の高周波電源31から供給される高周波電力HFは、載置台12に印加されてもよい。
【0025】
ガスシャワーヘッド29は、多数のガス穴32を有する天井電極板33と、天井電極板33を着脱可能に釣支するクーリングプレート34と、クーリングプレート34を覆う蓋体35とを有する。また、クーリングプレート34の内部にはバッファ室36が設けられ、バッファ室36にはガス導入管37が接続されている。ガスシャワーヘッド29は、ガス供給源8からガス導入管37及びバッファ室36を介して供給されたガスを、多数のガス穴32を介して処理室17内へ供給する。
【0026】
ガスシャワーヘッド29は、処理容器11に対して着脱自在であり、処理容器11の蓋としても機能する。処理容器11からガスシャワーヘッド29を離脱させれば、作業者は処理容器11の壁面や構成部品に直接触れることができる。これにより、作業者は処理容器11の壁面や構成部品の表面をクリーニングすることができ、処理容器11の壁面等に付着した付着物を除去することができる。
【0027】
基板処理装置10では、ガスシャワーヘッド29から供給されたガスからプラズマが生成され、そのプラズマによってウェハWにエッチング等のプラズマ処理が施される。基板処理装置10の各構成部品の動作は、基板処理装置10の全体を制御する制御部50によって制御される。
【0028】
制御部50は、CPU51,ROM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53を有する。制御部50は、RAM53などに記憶されたレシピに設定された手順に従い、エッチング処理等のプラズマ処理を制御する。なお、制御部50の機能は、ソフトウエアを用いて実現されてもよく、ハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0029】
かかる構成の基板処理装置10においてエッチング等の処理を行う際には、まず、ウェハWが、搬送アーム上に保持された状態で、開口されたゲートバルブ9から処理容器11内に搬入される。ゲートバルブ9は、ウェハWを搬入後に閉じられる。ウェハWは、静電チャック22の上方でプッシャーピンにより保持され、プッシャーピンが降下することにより静電チャック22上に載置される。静電チャック22の静電電極板21a及び静電電極板21bに直流電源23a及び直流電源23bからの直流電圧HVが印加される。これにより、ウェハW及びフォーカスリング24は、静電チャック22上に静電吸着される。
【0030】
処理容器11内の圧力は、排気装置38及びAPCバルブ16により設定値に減圧される。ガスは、ガスシャワーヘッド29からシャワー状に処理容器11内に導入され、所定の高周波電力が処理容器11内に印加される。導入されたガスは、高周波電力により電離及び解離され、これによりプラズマが生成される。ウェハWにはプラズマによりエッチング処理や成膜処理が施される。その後、ウェハWは、搬送アーム上に保持され、処理容器11の外部に搬出される。
【0031】
[フォーカスリングの裏面]
次に、本実施形態にかかるフォーカスリング24の裏面における表面粗さRaと電荷の移動について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、裏面が鏡面状(滑らか)のフォーカスリング24と静電チャック22との間の電荷の状態の一例を示す。図3は、裏面が粗い本実施形態に係るフォーカスリング24と静電チャック22との間の電荷の状態の一例を示す。
【0032】
図2(a)〜(c)及び図3(a)〜(c)において、静電チャック22の静電電極板21a及び静電電極板21bには、直流電源23a及び直流電源23bから正の直流電圧HVが印加される。図2(a)〜(c)及び図3(a)〜(c)に示す各プロセス中、印加される直流電圧HVの値は一定であり、変化しない。一方、図2(a)及び図3(a)では、第2の高周波電源31から処理容器11内に、比較的低いプラズマ生成用の高周波電力HFを供給してプラズマを生成する。
【0033】
これにより、フォーカスリング24の裏面に負電荷が発生する。これにより、静電チャック22の表面の正電荷とフォーカスリング24の裏面の負電荷とが引きあうことで、フォーカスリング24が静電チャック22に静電吸着される。
【0034】
次に、図2(b)及び図3(b)では、図2(a)及び図3(a)にて印加した高周波電力HFよりも高い高周波電力HFを供給してプラズマを生成する。この結果、静電チャック22の表面の正電荷とフォーカスリング24の裏面の負電荷とが引きあう力が強くなり、フォーカスリング24と静電チャック22との間の距離が狭くなる。
【0035】
次に、図2(c)及び図3(c)では、図2(b)及び図3(b)にて印加した高周波電力HFよりも低い高周波電力HFが印加される。
【0036】
図2では、フォーカスリング24の裏面が鏡面状であって、例えば、フォーカスリング24の裏面の表面粗さは0.08μm以下である。この場合、図2(a)にて印加した高周波電力HFよりも高い高周波電力HFが印加された場合、図2(b)に示すようにフォーカスリング24と静電チャック22との間の距離は、図2(a)のときの距離よりも狭くなる。その後、図2(b)にて印加した高周波電力HFよりも低い高周波電力HFが印加された場合、図2(c)に示すように、フォーカスリング24と静電チャック22との間の距離は、図2(b)のときの距離よりも広くなる。その際、フォーカスリング24の負電荷の一部が静電チャック22の表面に残る。このようにして、低パワーと高パワーの高周波電力HFを印加することで、フォーカスリング24から静電チャック22へ移動する負電荷が増える。この結果、フォーカスリング24の裏面の負電荷の数が減り、フォーカスリング24の静電チャック22への吸着力が低下する。
【0037】
プロセスによっては、第2の高周波電源31から低パワーと高パワーとの高周波の印加が繰り返される。この繰り返しにより、フォーカスリング24を静電チャック22に吸着させるための電荷がさらに減っていく。この結果、フォーカスリング24の静電チャック22への吸着力が更に低下して、フォーカスリング24と静電チャック22との間に供給される伝熱ガスがフォーカスリング24と静電チャック22との間から漏れる量(以下、「リーク量」ともいう。)が増える。
【0038】
例えば、プラズマ生成用の高周波電力HFの適正値は、実行されるプロセスに応じて異なる。例えば図2(a)では、プラズマ生成用の高周波電力HFが1000Wに制御されたとする。次に、図2(b)においてプラズマ生成用の高周波電力HFが2000Wに制御されたとき、図2(b)の時点でのプラズマ中の電子密度Neは、図2(a)の時点でのプラズマ中の電子密度Neよりも高い。
【0039】
一方、前記の通り、静電チャック22に印加される直流電圧HVの値は一定である。このため、静電チャック22の吸着力は、図2(a)及び図2(b)で印加された高周波電力の差分「1000W」だけ高くなる。これにより、静電チャック22の吸着力は図2(a)の時点の吸着力よりも高くなる。この結果、図2(b)の時点では図2(a)の時点と比較してフォーカスリング24と静電チャック22との距離が狭まる。
【0040】
図2(c)では、再びプラズマ生成用の高周波電力が1000Wに制御される。これにより、静電チャック22の吸着力は図2(b)の時点の吸着力よりも低くなる。この結果、図2(c)の時点では図2(b)の時点と比較してフォーカスリング24と静電チャック22との距離が広がる。このとき、フォーカスリング24から静電チャック22への電荷の移動が生じる。これにより、フォーカスリング24と静電チャック22との間の吸着力が弱くなり、静電チャック22とフォーカスリング24との間に供給される伝熱ガスのリーク量が増える。
【0041】
伝熱ガスのリーク量を減らすためには、フォーカスリング24の裏面から静電チャック22の表面に負電荷が移動することを防止又は抑制する必要がある。このため、本実施形態では、静電チャック22に接触するフォーカスリング24の裏面を粗くする。つまり、本実施形態にかかるフォーカスリング24の裏面の表面粗さRaが0.1μm以上にする。
【0042】
図3は、裏面の表面粗さRaが0.1μm以上の本実施形態に係るフォーカスリング24を用いた場合のフォーカスリング24と静電チャック22との間の電荷の状態の一例を示す。本実施形態に係るフォーカスリング24は、やすりなどを用いて裏面の表面粗さRaを0.1μm以上にする。しかしながら、本実施形態に係るフォーカスリング24の裏面の加工方法は、これに限らず、例えばブラスト処理によって裏面の表面粗さRaを0.1μm以上にしてもよい。
【0043】
本実施形態に係るフォーカスリング24を用いた場合、フォーカスリング24の裏面の凸凹により、フォーカスリング24の裏面が鏡面状の場合よりもフォーカスリング24と静電チャック22との接触面積が小さくなる。これにより、フォーカスリング24の裏面に生じる接触抵抗を増加させることができる。接触抵抗が増加することで、フォーカスリング24から静電チャック22への電荷の移動がし難くなる。この結果、フォーカスリング24の裏面の負電荷が静電チャック22へ移動することを防止し、フォーカスリング24と静電チャック22との間の吸着力が低下することを回避することができる。これにより、フォーカスリング24と静電チャック22との間に供給される伝熱ガスのリーク量が増えることを防止できる。
【0044】
本実施形態にかかるフォーカスリング24によれば、第2の高周波電源31から低パワーと高パワーとの高周波が繰り返し印加されるプロセスであっても、フォーカスリング24と静電チャック22との間の吸着力を保持することができる。よって、本実施形態によれば、多種のプロセスにおいてフォーカスリング24と静電チャック22との間に供給される伝熱ガスのリーク量の増大を防止できる。
【0045】
[リーク量の実験結果]
次に、本実施形態にかかるフォーカスリング24の裏面の表面粗さRaと伝熱ガスのリーク量との関係について、図4を参照しながら説明する。本実施形態では、伝熱ガスとしてヘリウム(He)ガスがウェハWの裏面及びフォーカスリング24の裏面と静電チャック22の表面との間に供給される。
【0046】
図4(a)の縦軸は、フォーカスリング24の裏面が滑らかな場合(表面粗さRa≦0.08μmの場合)のフォーカスリング24と静電チャック22との間から漏れるヘリウムガスの量を示す。
【0047】
図4(b)の縦軸は、フォーカスリング24の裏面が粗い場合(すなわち、表面粗さRa≧0.1μmの場合)のフォーカスリング24と静電チャック22との間から漏れるヘリウムガスの量を示す。
【0048】
図4(a)及び図4(b)の横軸は時間を示す。a〜fの各時間はプロセス中である。つまり、a〜fの各時間におけるNo.1及びNo.30で示す曲線は、基板処理装置10においてプラズマ処理された1枚目のウェハ(No.1)及び30枚目のウェハ(No.30)の各プロセスにおけるヘリウムガスのリーク量を示す。
【0049】
本実験結果によれば、図4(a)に示すフォーカスリング24の裏面が滑らかな場合、1枚目のウェハ(No.1)のヘリウムガスのリーク量は1sccm前後であるのに対して、30枚目のウェハ(No.30)のヘリウムガスのリーク量は3〜4sccm程度に上昇している。この結果から、図4(a)に示すフォーカスリング24の裏面が滑らかな場合、ウェハの処理枚数が多くなるとヘリウムガスのリーク量が増すことがわかる。
【0050】
他方、図4(b)に示すフォーカスリング24の裏面が粗い場合、1枚目のウェハ(No.1)及び30枚目のウェハ(No.30)のいずれも、ヘリウムガスのリーク量は2.5sccm±0.5sccmである。この結果から、図4(b)に示すフォーカスリング24の裏面が粗い場合、ウェハの処理枚数が多くなってもヘリウムガスのリーク量はほとんど変化しないことがわかる。
【0051】
本実施形態にかかるフォーカスリング24の裏面における表面粗さRaと伝熱ガスのリーク量との関係について、図5を参照しながら更に説明する。図5の横軸は、プロセス中に印加される高周波電力HFの累積時間を示し、図5の縦軸は、フォーカスリング24と静電チャック22との間からリークするヘリウムガスのリーク量を示す。曲線Aは、フォーカスリング24の裏面が滑らかな場合(すなわち、表面粗さRa≦0.08μmの場合)のヘリウムガスのリーク量を示す。曲線Bは、フォーカスリング24の裏面が粗い場合(すなわち、表面粗さRa≧0.1μmの場合)のヘリウムガスのリーク量を示す。
【0052】
本結果によっても、フォーカスリング24の裏面が滑らかな場合、ウェハの処理枚数が多くなるとヘリウムガスのリーク量が増すことがわかる。これは、フォーカスリング24を静電吸着させる静電チャック22とフォーカスリング24との間において、時間とともに電荷の移動が発生し、徐々にフォーカスリング24を吸着する力が弱くなることを示す。
【0053】
他方、フォーカスリング24の裏面が粗い場合、ウェハの処理枚数が多くなってもヘリウムガスのリーク量は変化していないことがわかる。これは、静電チャック22とフォーカスリング24との間における電荷の移動を防止し、フォーカスリングの吸着特性が安定していることを示す。
【0054】
以上の結果から、本実施形態にかかる基板処理装置10では、裏面を表面粗さRa≧0.1μmにしたフォーカスリング24を使用してプラズマプロセスを実行することで、フォーカスリングの吸着特性を安定化させることができることがわかる。これにより、フォーカスリング24と静電チャック22との間の封止性が安定し、ウェハの処理枚数が増えても伝熱ガスのリーク量の変動を防止することができる。
【0055】
[エッチングレートの実験結果]
最後に、本実施形態にかかるフォーカスリング24を用いた場合のプラズマエッチング処理の結果について、図6を参照しながら説明する。
【0056】
図6(a)の縦軸は、フォーカスリング24の裏面が滑らかな場合(すなわち、表面粗さRa≦0.08μmの場合)のエッチングレートを示す。図6(b)の縦軸は、フォーカスリング24の裏面が粗い場合(すなわち、表面粗さRa≧0.1μmの場合)のエッチングレートを示す。
【0057】
図6(a)及び図6(b)の横軸はウェハWの位置を示す。図6(a)及び図6(b)では、300mmのウェハWを径方向に向かってエッチングレートを測定する。図6(a)及び図6(b)では、任意の一径方向をx方向とし、x方向とx方向に垂直なy方向とのエッチングレートの平均値をプロットする。なお、エッチング対象膜は、ポリシリコン膜及び酸化シリコン膜の2種類である。
【0058】
本実験結果によれば、図6(a)に示すフォーカスリング24の裏面が滑らかな場合、及び図6(b)に示すフォーカスリング24の裏面が粗い場合のいずれも、ポリシリコン膜及び酸化シリコン膜をエッチングしたときのエッチングレートはほぼ同じである。以上から、本実施形態にかかるフォーカスリング24を用いた場合、プラズマ処理特性を良好に保ちながら、フォーカスリングの吸着特性を安定させ、伝熱ガスのリーク量の変動を防止できることがわかる。
【0059】
以上、本実施形態にかかるフォーカスリング24及びそのフォーカスリング24を有する基板処理装置10について説明した。本実施形態にかかるフォーカスリング24によれば、フォーカスリング24の裏面(つまり、フォーカスリング24の静電チャック22との接触面)は、0.1μm以上の表面粗さRaを有する。これにより、フォーカスリング24の裏面に生じる接触抵抗を増加させ、フォーカスリングの吸着特性を安定化させ、伝熱ガスのリーク量を減らし、ガスの封止性を高めることができる。
【0060】
ただし、フォーカスリング24の裏面を粗くし過ぎるとフォーカスリング24の吸着特性が悪くなり、伝熱ガスのリーク量が増える懸念がある。つまり、フォーカスリング24の裏面を粗くし過ぎると、フォーカスリング24と静電チャック22との間の距離が物理的に離れる。
【0061】
つまり、フォーカスリング24の裏面の表面粗さRaの値が大きくなる程、フォーカスリング24と静電チャック22との距離が広がるため、静電チャック22表面の正電荷とフォーカスリング24裏面の負電荷とのクーロン力等が低くなる。この結果、フォーカスリング24の吸着力が弱くなり、伝熱ガスのリーク量が増える。そこで、フォーカスリング24の裏面の表面粗さRaは、1.0μm以下であることが好ましい。つまり、本実施形態にかかるフォーカスリング24の裏面の表面粗さRaは、0.1μm以上であって、1.0μm以下であることが好ましい。
【0062】
以上、フォーカスリング及び基板処理装置を上記実施形態により説明したが、本発明にかかるフォーカスリング及び基板処理装置は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0063】
例えば、上記実施形態では、フォーカスリング24の裏面を0.1μm以上であって1.0μm以下の表面粗さRaにした。しかしながら、フォーカスリング24と静電チャック22とが接触するフォーカスリング24の接触面及び静電チャック22の接触面の少なくともいずれかを、0.1μm以上の表面粗さRaにすればよい。さらに、フォーカスリング24と静電チャック22とが接触するフォーカスリング24の接触面及び静電チャック22の接触面の少なくともいずれかを1.0μm以下の表面粗さRaにすることが好ましい。
【0064】
本発明に係るフォーカスリングは、図1に示す容量結合型プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)の基板処理装置だけでなく、その他の基板処理装置に適用可能である。その他の基板処理装置としては、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)、ラジアルラインスロットアンテナを用いた基板処理装置、ヘリコン波励起型プラズマ(HWP:Helicon Wave Plasma)装置、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECR:Electron Cyclotron Resonance Plasma)装置等であってもよい。
【0065】
本明細書では、エッチング対象としてウェハWについて説明したが、LCD(Liquid Crystal Display)、FPD(Flat Panel Display)等に用いられる各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等であっても良い。
【符号の説明】
【0066】
8:ガス供給源
10:基板処理装置
11:処理容器
12:載置台(下部電極)
16:APCバルブ
19:第1の高周波電源
21a、21b:静電電極板
22:静電チャック
23a、23b:直流電源
24:フォーカスリング
27:伝熱ガス供給孔
28:伝熱ガス供給ライン
29:ガスシャワーヘッド(上部電極)
31:第2の高周波電源
32:多数のガス穴
33:天井電極板
34:クーリングプレート
35:蓋体
36:バッファ室
37:ガス導入管
38:排気装置
50:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6