(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1のガスのプラズマを生成する前記工程において、前記第1のガスの前記プラズマからのイオンを前記第2の多層膜に衝突させて該第2の多層膜をエッチングするよう、前記被加工物をその上に搭載したステージの下部電極に高周波が供給される、請求項1〜3の何れか一項に記載のエッチング方法。
前記第1の多層膜をエッチングする前記工程では、前記チャンバ内において前記第1の多層膜をエッチングするために、該チャンバ内において希ガスのみのプラズマが生成される、請求項1〜3の何れか一項に記載のエッチング方法。
第1の多層膜をエッチングする前記工程において、前記希ガスのみの前記プラズマからのイオンを前記第1の多層膜に衝突させて該第1の多層膜をエッチングするよう、前記被加工物をその上に搭載したステージの下部電極に高周波が供給される、請求項6に記載のエッチング方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0016】
図1は、一実施形態に係るエッチング方法を示す流れ図である。
図1に示すエッチング方法MT(以下、「方法MT」という)は、被加工物をエッチングする方法であり、磁気抵抗効果素子の製造において実行される。
【0017】
図2は、一例の被加工物の一部を拡大して示す断面図である。方法MTは、例えば、
図2に示す被加工物Wに対して適用することが可能である。
図2に示すように、被加工物Wは、多層膜ML1(第1の多層膜)、及び、多層膜ML2(第2の多層膜)を有する。多層膜ML1は、第1の磁性層L11、トンネルバリア層L12、及び、第2の磁性層L13を含んでいる。トンネルバリア層L12は、第1の磁性層L11と第2の磁性層L13との間に設けられている。第1の磁性層L11、トンネルバリア層L12、及び、第2の磁性層L13は、磁気抵抗効果素子において、磁気トンネル接合を形成する。第1の磁性層L11及び第2の磁性層L13は、例えばCoFeB層である。トンネルバリア層L12は、金属の酸化物から形成された絶縁層である。トンネルバリア層L12は、例えば、酸化マグネシウム層(MgO層)である。
【0018】
一例において、多層膜ML1は、キャップ層L14、上層L15、及び、下層L16を更に含んでいる。第1の磁性層L11、トンネルバリア層L12、及び、第2の磁性層L13は、上層L15と下層L16との間に設けられている。上層L15及び下層L16は、例えば、タングステン(W)から形成されている。キャップ層L14は、上層L15の上に設けられている。キャップ層L14は、例えば、タンタル(Ta)から形成されている。
【0019】
多層膜ML2は、多層膜ML1と積層されている。多層膜ML2は、金属多層膜であり、磁気抵抗効果素子においてピニング層を構成する多層膜である。一例において、多層膜ML2は、複数のコバルト層L21及び複数の白金層L22を含んでいる。複数のコバルト層L21及び複数の白金層L22は交互に積層されている。また、多層膜ML2は、ルテニウム(Ru)層L23を更に含み得る。ルテニウム層L23は、複数のコバルト層L21及び複数の白金層L22の交互の積層における中間に設けられている。
【0020】
多層膜ML1及び多層膜ML2は、下部電極層BLを介して、下地層ULの上に設けられている。下地層ULは、例えば、酸化シリコンから形成されている。一例において、下部電極層BLは、第1層L31、第2層L32、及び、第3層L33を含んでいる。第3層L33は、Ta層であり、下地層UL上に設けられている。第2層L32は、Ru層であり、第3層L33上に設けられている。第1層L31は、Ta層であり、第2層L32上に設けられている。
【0021】
多層膜ML1と多層膜ML2を含む積層体の上には、マスクMKが設けられている。マスクMKは、単層であってもよいが、
図2に示す例では積層体である。
図2に示す例では、マスクMKは、層L41〜L44を含んでいる。層L41は酸化シリコンから形成されており、層L42は窒化シリコンから形成されており、層L43は窒化チタン(TiN)から形成されており、層L44はルテニウムから形成されている。
【0022】
以下、
図2に示した被加工物Wに適用される場合を例にとって、方法MTの説明を行う。方法MTでは、被加工物Wの多層膜ML1及び多層膜ML2をエッチングするために、プラズマ処理装置が用いられる。
図3は、
図1に示す方法の実行に用いることが可能なプラズマ処理装置を概略的に示す図である。
図3には、プラズマ処理装置の縦断面の構造が概略的に示されている。
図3に示すプラズマ処理装置10は、容量結合型のプラズマ処理装置である。
【0023】
プラズマ処理装置10は、チャンバ本体12を備えている。チャンバ本体12は、略円筒形状を有している。チャンバ本体12は、その内部空間をチャンバ12cとして提供している。チャンバ本体12は、例えばアルミニウムから構成されている。チャンバ本体12の内壁面、即ち、チャンバ12cを画成する壁面には、耐プラズマ性を有する膜が形成されている。この膜は、陽極酸化処理によって形成された膜、又は、酸化イットリウムから形成された膜といったセラミックス製の膜であり得る。また、チャンバ本体12の側壁12sには被加工物Wの搬送のための開口12gが設けられている。この開口12gはゲートバルブ14により開閉可能となっている。このチャンバ本体12は接地電位に接続されている。
【0024】
チャンバ12c内では、支持部15が、チャンバ本体12の底部から上方に延在している。支持部15は、略円筒形状を有しており、石英といった絶縁材料から形成されている。また、チャンバ12c内には、ステージ16が設けられている。ステージ16は、その上に搭載された被加工物Wを支持するよう構成されている。被加工物Wは、ウエハのように円盤形状を有し得る。ステージ16は、下部電極18及び静電チャック20を含んでいる。このステージ16は、支持部15によって支持されている。
【0025】
下部電極18は、第1プレート18a及び第2プレート18bを含んでいる。第1プレート18a及び第2プレート18bは、例えばアルミニウムといった金属から形成されており、略円盤形状を有している。第2プレート18bは、第1プレート18a上に設けられており、第1プレート18aに電気的に接続されている。
【0026】
第2プレート18b上には、静電チャック20が設けられている。静電チャック20は、絶縁層、及び、当該絶縁層内に内蔵された電極を有している。静電チャック20の電極には、直流電源22がスイッチ23を介して電気的に接続されている。静電チャック20の電極に直流電源22からの直流電圧が印加されると、静電チャック20はクーロン力等の静電力を発生する。静電チャック20は、この静電力により被加工物Wを当該静電チャック20に引き付け、当該被加工物Wを保持する。
【0027】
第2プレート18bの周縁部上には、被加工物Wのエッジ及び静電チャック20を囲むようにフォーカスリング24が配置されている。フォーカスリング24は、プラズマ処理の均一性を向上させるために設けられている。フォーカスリング24は、プラズマ処理に応じて適宜選択される材料から構成されており、例えば石英から形成され得る。
【0028】
第2プレート18bの内部には、流路18fが設けられている。流路18fには、チャンバ本体12の外部に設けられたチラーユニットから配管26aを介して冷媒が供給される。流路18fに供給された冷媒は、配管26bを介してチラーユニットに戻される。このように、流路18fには、当該流路18f内を循環するよう、冷媒が供給される。この冷媒の温度をチラーユニットによって制御することにより、静電チャック20によって支持された被加工物Wの温度が制御される。
【0029】
また、プラズマ処理装置10には、ガス供給ライン28が設けられている。ガス供給ライン28は、伝熱ガス供給機構からの伝熱ガス、例えばHeガスを、静電チャック20の上面と被加工物Wの裏面との間に供給する。
【0030】
プラズマ処理装置10は、上部電極30を更に備えている。上部電極30は、ステージ16の上方に設けられており、下部電極18に対して略平行に設けられている。上部電極30は、部材32と共にチャンバ本体12の上部開口を閉じている。部材32は、絶縁性を有している。上部電極30は、この部材32を介してチャンバ本体12の上部に支持されている。
【0031】
上部電極30は、天板34及び支持体36を含んでいる。天板34はチャンバ12cに面している。天板34には、複数のガス吐出孔34aが設けられている。この天板34は、限定されるものではないが、例えばシリコンから構成されている。或いは、天板34は、アルミニウム製の母材の表面に耐プラズマ性の膜を設けた構造を有し得る。なお、この膜は、陽極酸化処理によって形成された膜、又は、酸化イットリウムから形成された膜といったセラミックス製の膜であり得る。
【0032】
支持体36は、天板34を着脱自在に支持するものであり、例えばアルミニウムといった導電性材料から構成され得る。支持体36の内部には、ガス拡散室36aが設けられている。このガス拡散室36aからは、複数のガス孔36bが下方に延びており、当該複数のガス孔36bは、複数のガス吐出孔34aにそれぞれ連通している。また、支持体36には、ガス拡散室36aにガスを導くガス導入口36cが形成されており、このガス導入口36cには、ガス供給管38が接続されている。
【0033】
ガス供給管38には、バルブ群42及び流量制御器群44を介して、ガスソース群40が接続されている。ガスソース群40は、複数のガスソースを有している。複数のガスソースは、一以上の希ガスのソース、炭化水素ガスのソース、炭素及び酸素を含むガスのソース、及び、酸素(O
2)ガスのソースを含んでいる。複数のガスソースは、一以上の希ガスのソースとして、Neガスのソース及びKrガスのソースを含み得る。炭化水素ガスは、例えば、メタンガスである。炭素及び酸素を含むガスは、一酸化炭素ガス、及び/又は、二酸化炭素ガスである。
【0034】
バルブ群42は複数のバルブを含んでおり、流量制御器群44はマスフローコントローラといった複数の流量制御器を含んでいる。ガスソース群40の複数のガスソースはそれぞれ、バルブ群42の対応のバルブ及び流量制御器群44の対応の流量制御器を介して、ガス供給管38に接続されている。このプラズマ処理装置10は、ガスソース群40の複数のガスソースのうち選択された一以上のガスソースからのガスを、個別に調整された流量で、チャンバ12cに供給することが可能である。
【0035】
チャンバ12c内、且つ、支持部15とチャンバ本体12の側壁12sとの間には、バッフルプレート48が設けられている。バッフルプレート48は、例えば、アルミニウム製の母材に酸化イットリウム等のセラミックスを被覆することにより構成され得る。このバッフルプレート48には、多数の貫通孔が形成されている。バッフルプレート48の下方においては、排気管52がチャンバ本体12の底部に接続されている。この排気管52には、排気装置50が接続されている。排気装置50は、圧力制御器、及び、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ12cを減圧することができる。
【0036】
プラズマ処理装置10は、第1の高周波電源62を更に備える。第1の高周波電源62は、プラズマ生成用の第1の高周波を発生する電源であり、27〜100MHzの範囲内の周波数、例えば60MHzの周波数を有する高周波を発生する。第1の高周波電源62は、整合器63を介して上部電極30に接続されている。整合器63は、第1の高周波電源62の出力インピーダンスと負荷側(上部電極30側)の入力インピーダンスを整合させるための回路を有している。なお、第1の高周波電源62は、整合器63を介して下部電極18に接続されていてもよい。第1の高周波電源62が下部電極18に接続されている場合には、上部電極30は接地電位に接続される。
【0037】
プラズマ処理装置10は、第2の高周波電源64を更に備えている。第2の高周波電源64は、被加工物Wにイオンを引き込むためのバイアス用の第2の高周波を発生する電源である。第2の高周波の周波数は、第1の高周波の周波数よりも低い。第2の高周波の周波数は、400kHz〜13.56MHzの範囲内の周波数であり、例えば、400kHzである。第2の高周波電源64は、整合器65を介して下部電極18に接続されている。整合器65は、第2の高周波電源64の出力インピーダンスと負荷側(下部電極18側)の入力インピーダンスを整合させるための回路を有している。
【0038】
一実施形態においては、プラズマ処理装置10は、制御部Cntを更に備え得る。制御部Cntは、プロセッサ、記憶装置、入力装置、表示装置等を備えるコンピュータであり、プラズマ処理装置10の各部を制御する。具体的に、制御部Cntは、記憶装置に記憶されている制御プログラムを実行し、当該記憶装置に記憶されているレシピデータに基づいてプラズマ処理装置10の各部を制御する。これにより、プラズマ処理装置10は、レシピデータによって指定されたプロセスを実行するようになっている。例えば、制御部Cntは、方法MT用のレシピデータに基づいて、プラズマ処理装置10の各部を制御する。
【0039】
このプラズマ処理装置10を用いたプラズマ処理の実行の際には、ガスソース群40の複数のガスソースのうち選択されたガスソースからのガスが、チャンバ12cに供給される。また、排気装置50によってチャンバ12cが減圧される。そして、チャンバ12cに供給されたガスが、第1の高周波電源62からの高周波によって発生する高周波電界によって励起される。これにより、チャンバ12c内でプラズマが生成される。また、下部電極18に第2の高周波が供給される。これにより、プラズマ中のイオンが被加工物Wに向けて加速される。このように加速されたイオン、及び/又は、ラジカルが被加工物に照射されることにより、被加工物Wがエッチングされる。
【0040】
以下、
図1と共に、
図4〜
図7を参照して、方法MTについて詳細に説明する。
図4の(a)は工程ST1を説明する図であり、
図4の(b)は工程ST1の実行後の被加工物の状態を示す図である。
図5の(a)は工程ST2を説明する図であり、
図5の(b)は工程ST2の実行後の被加工物の状態を示す図である。
図6の(a)は工程ST3を説明する図であり、
図6の(b)は工程ST3の実行後の被加工物の状態を示す図である。
図7は、
図1に示す方法の終了時における被加工物の状態を示す図である。なお、以下の説明では、
図2に示した被加工物Wに対してプラズマ処理装置10を用いて方法MTが適用される場合を例にとって、方法MTの説明を行う。
【0041】
方法MTでは、被加工物Wが、ステージ16の静電チャック20上に載置され、当該静電チャック20によって保持される。そして、以下に説明する工程ST1、工程ST2、及び、工程ST3が実行される。
【0042】
工程ST1では、多層膜ML1がエッチングされる。一実施形態の工程ST1では、チャンバ12c内において希ガスのみのプラズマが生成される。工程ST1では、例えばKrガスのプラズマPL1が生成される。工程ST1では、ガスソース群40から希ガスがチャンバ12cに供給される。また、チャンバ12cの圧力が指定された圧力に排気装置50によって設定される。また、第1の高周波電源62から第1の高周波がプラズマの生成のために供給される。これにより、
図4の(a)に示すように、チャンバ12c内において希ガスのみのプラズマPL1が生成される。一実施形態の工程ST1では、第2の高周波電源64から第2の高周波が下部電極18に供給される。これにより、プラズマPL1からのイオン(希ガス原子のイオン)が被加工物Wに引き込まれて、当該被加工物Wに衝突する。即ち、一実施形態の工程ST1では、希ガスのスパッタリングにより、多層膜ML1のエッチングが行われる。この工程ST1の実行により、多層膜ML1はマスクMKから露出されている部分においてエッチングされる。その結果、
図4の(b)に示すようにマスクMKのパターンが多層膜ML1に転写される。
【0043】
なお、多層膜ML1は、後述する工程ST2及び工程ST3を含むシーケンスの一回以上の実行によってエッチングされてもよい。また、多層膜ML1をエッチングすることができれば、任意のプラズマエッチング処理が工程ST1に用いられてもよい。
【0044】
一実施形態では、次いで、工程ST2が実行される。工程ST2では、多層膜ML2をエッチングするために、チャンバ12c内において炭化水素ガス及び希ガスを含む第1のガスのプラズマが生成される。炭化水素ガスは、例えばメタンガスである。希ガスは、例えばKrガスである。工程ST2では、ガスソース群40から第1のガスがチャンバ12cに供給される。また、チャンバ12cの圧力が指定された圧力に排気装置50によって設定される。また、工程ST2では、第1の高周波電源62から第1の高周波がプラズマの生成のために供給される。これにより、
図5の(a)に示すように、チャンバ12c内において第1のガスのプラズマPL2が生成される。一実施形態の工程ST2では、第2の高周波電源64から第2の高周波が下部電極18に供給される。
【0045】
工程ST2では、プラズマPL2からイオン及び/又はラジカルが被加工物Wに照射される。多層膜ML2は、炭化水素、炭素、及び、水素のイオン及び/又はラジカルによって改質され、容易にエッチング可能となる。また、工程ST2では、多層膜ML2がプラズマPL2からのイオンのスパッタリングによりエッチングされる。さらに、工程ST2では、炭素を含む堆積物DPが被加工物W上に形成される(
図5の(b)参照)。
【0046】
続く工程ST3では、堆積物DPを除去するために、チャンバ12c内において、第2のガスのプラズマが生成される。第2のガスは、炭素及び酸素を含有するガス、酸素(O
2)ガス、並びに、希ガスを含み、水素を含まない。炭素及び酸素を含有するガスは、例えば一酸化炭素ガス及び/又は二酸化炭素ガスである。希ガスは、例えばNeガスである。工程ST3では、ガスソース群40から第2のガスがチャンバ12cに供給される。また、チャンバ12cの圧力が指定された圧力に排気装置50によって設定される。また、工程ST3では、第1の高周波電源62から第1の高周波がプラズマの生成のために供給される。これにより、
図6の(a)に示すように、チャンバ12c内において第2のガスのプラズマPL3が生成される。一実施形態の工程ST3では、第2の高周波電源64から第2の高周波が下部電極18に供給される。
【0047】
工程ST3では、プラズマPL3からイオン及び/又はラジカルが被加工物Wに照射される。工程ST3では、プラズマPL3からの酸素イオン及び/又はラジカルにより、堆積物DPが除去される(
図6の(b)参照)。
【0048】
続く工程STJでは、停止条件が満たされるか否かが判定される。停止条件は、工程ST2及び工程ST3を含むシーケンスの実行回数が所定回数に到達している場合に、満たされる。工程STJにおいて停止条件が満たされないものと判定されると、工程ST2及び工程ST3を含むシーケンスが再び実行される。即ち、工程ST2と工程ST3が交互に繰り返される。一方、工程STJにおいて停止条件が満たされるものと判定されると、方法MTの実行が終了する。方法MTの実行が終了すると、マスクMKのパターンが多層膜ML1及び多層膜ML2に転写されて、
図7に示すように、多層膜ML1と多層膜ML2を含むピラーが形成される。一実施形態では、被加工物Wには、複数個のピラーが同時に形成され得る。なお、工程ST1及び工程ST2を含むシーケンスの実行回数は1回であってもよい。
【0049】
上述したように、方法MTの工程ST3で用いられる第2のガスは、水素を含んでいない。水素を含むガスのプラズマを生成して堆積物DPの除去を行うと、磁気抵抗効果素子の磁気特性が劣化する。これは、水素イオン及び/又はラジカルが磁気抵抗効果素子の多層膜を変質させるからであると推測される。一方、方法MTの工程ST3では、水素を含まない第2のガスのプラズマを生成することにより、堆積物DPの除去が行われる。したがって、磁気抵抗効果素子の磁気特性の劣化が抑制される。なお、第2のガスでは炭素及び酸素を含むガスと希ガスにより酸素ガスが希釈されているので被加工物Wの過剰な酸化が抑制される。
【0050】
また、一実施形態の工程ST1では、多層膜ML1のエッチングのために希ガスのみのプラズマが生成される。希ガスイオンのみのスパッタリングによって多層膜ML1をエッチングすると、磁気抵抗効果素子の磁気特性の劣化が更に抑制される。
【0051】
以上、種々の実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。例えば、
図2に示した被加工物では、マスクMKと多層膜ML2の間に多層膜ML1が設けられているが、マスクMKと多層膜ML1の間に多層膜ML2が設けられていてもよい。マスクMKと多層膜ML1の間に多層膜ML2が設けられている場合には、工程ST1よりも先に、工程ST2及び工程ST3が実行される。
【0052】
また、方法MT及びその変形態様に係る方法の実行においては、容量結合型のプラズマ処理装置以外のプラズマ処理装置を用いることが可能である。このようなプラズマ処理装置としては、誘導結合型のプラズマ処理装置、プラズマの生成のためにマイクロ波といった表面波を用いるプラズマ処理装置が例示される。
【0053】
以下、方法MTの評価のために行った種々の実験について説明する。なお、本開示は以下に説明する実験によって限定されるものではない。
【0055】
第1の実験では、
図3に示した構造のプラズマ処理装置を用いて
図2に示した構造の被加工物に方法MTを適用し、
図7に示した磁気抵抗効果素子の構造を有する複数の実験サンプル1を作成した。以下に、実験サンプル1の作成において用いた方法MTの処理条件を示す。
<実験サンプル1の作成における方法MTの処理条件>
・工程ST1
チャンバの圧力:30[mTorr](4[Pa])
Krガスの流量:200[sccm]
第1の高周波:60[MHz]、200[W]
第2の高周波:400[kHz]、800[W]
処理時間:6[秒]
・工程ST2
チャンバの圧力:10[mTorr](1.333[Pa])
第1のガス中のKrガスの流量:170[sccm]
第1のガス中のメタンガスの流量:30[sccm]
第1の高周波:60[MHz]、200[W]
第2の高周波:400[kHz]、800[W]
処理時間:5[秒]
・工程ST3
チャンバの圧力:10[mTorr](1.333[Pa])
第2のガス中の酸素(O
2)ガスの流量:10[sccm]
第2のガス中の一酸化炭素ガスの流量:140[sccm]
第2のガス中のNeガスの流量:50[sccm]
第1の高周波:60[MHz]、200[W]
第2の高周波:400[kHz]、800[W]
処理時間:5[秒]
・工程ST2及び工程ST3の繰り返し回数:25回
【0056】
また、第1の実験では、比較のために、
図3に示した構造のプラズマ処理装置を用いて
図2に示した構造の被加工物のエッチングを行って、
図7に示した磁気抵抗効果素子の構造を有する複数の比較サンプル1を作成した。比較サンプル1の作成においては、第1の工程で多層膜ML1をエッチングし、しかる後に、第2の工程と第3の工程を交互に繰り返すことにより多層膜ML2をエッチングした。これら第1〜第3の工程の処理条件を以下に示す。
<比較サンプル1の作成における第1〜第3の工程の処理条件>
・第1の工程
チャンバの圧力:30[mTorr](4[Pa])
Krガスの流量:200[sccm]
第1の高周波:60[MHz]、200[W]
第2の高周波:400[kHz]、800[W]
処理時間:6[秒]
・第2の工程
チャンバの圧力:10[mTorr](1.333[Pa])
Krガスの流量:170[sccm]
メタンガスの流量:30[sccm]
第1の高周波:60[MHz]、200[W]
第2の高周波:400[kHz]、800[W]
処理時間:5[秒]
・第3の工程
チャンバの圧力:10[mTorr](1.333[Pa])
水素(H
2)ガスの流量:100[sccm]
窒素(N
2)ガスの流量:50[sccm]
Neガスの流量:50[sccm]
第1の高周波:60[MHz]、200[W]
第2の高周波:400[kHz]、800[W]
処理時間:5[秒]
・第2の工程と第3の工程の繰り返し回数:25回
【0057】
そして、作成した複数の実験サンプル1及び複数の比較サンプル1の各々の抵抗値RとMR比を測定した。
図8の(a)に実験サンプル1の抵抗値RとMR比を示し、
図8の(b)に比較サンプル1の抵抗値RとMR比を示す。
図8の(a)及び
図8の(b)のグラフにおいては、横軸は抵抗値Rであり、縦軸はMR比である。
図8の(b)に示すように、複数の比較サンプル1には、低い抵抗値と低いMR比を有する多くのサンプルが含まれていた。即ち、複数の比較サンプル1の作成においては、磁気特性が大きく劣化したサンプルが得られた。一方、
図8の(a)に示すように、複数の実験サンプル1の抵抗値及びMR比は高くなっていた。なお、複数の実験サンプル1の抵抗値の相違は、磁気抵抗効果素子のピラーの幅(CD値)の相違に起因するものである。以上の結果から、方法MTのエッチングによれば、磁気抵抗効果素子の磁気特性の劣化が抑制されることが確認された。
【0059】
第2の実験では、上述した実験サンプル1と同様に複数の実験サンプル2を作成した。また、
図3に示した構造のプラズマ処理装置を用いて
図2に示した構造の被加工物から複数の実験サンプル3を作成した。複数の実験サンプル3の作成においては、工程ST2と工程ST3の交互の繰り返しのみにより、多層膜ML1及び多層膜ML2のエッチングを行った。複数の実験サンプル3の作成における工程ST2の処理条件及び工程ST3の処理条件は、複数の実験サンプル2の作成における工程ST2の処理条件及び工程ST3の処理条件とそれぞれ同様であった。
【0060】
また、比較のために、上述した比較サンプル1と同様に複数の比較サンプル2を作成した。また、
図3に示した構造のプラズマ処理装置を用いて
図2に示した構造の被加工物から複数の比較サンプル3を作成した。複数の比較サンプル3の作成においては、比較サンプル1の作成に関連して上述した第2の工程と第3の工程の交互の繰り返しのみにより、多層膜ML1及び多層膜ML2のエッチングを行った。複数の比較サンプル3の作成における第2の工程の処理条件及び第3の工程の処理条件は、複数の比較サンプル2の作成における第2の工程の処理条件及び第3の工程の処理条件とそれぞれ同様であった。
【0061】
そして、複数の実験サンプル2、複数の実験サンプル3、複数の比較サンプル2、及び、複数の比較サンプル3の各々の保磁力Hcを測定した。各サンプルの保磁力Hcの測定においては、試料振動型磁力計を用いて、
図9に示すように、磁化曲線を作成して磁場の強さHc1及びHc2を測定した。そして、Hc1とHc2の平均値を保磁力Hcとして求めた。そして、複数の実験サンプル2の保磁力Hcの平均値、複数の実験サンプル3の保磁力Hcの平均値、複数の比較サンプル2の保磁力Hcの平均値、及び、複数の比較サンプル3の保磁力Hcの平均値を求めた。
図10に結果を示す。
図10のグラフにおいて、E2、E3、C2、C3はそれぞれ、複数の実験サンプル2の保磁力Hcの平均値、複数の実験サンプル3の保磁力Hcの平均値、複数の比較サンプル2の保磁力Hcの平均値、及び、複数の比較サンプル3の保磁力Hcの平均値を示している。
図10から分かるように、複数の実験サンプル3の保磁力Hcの平均値(E3)は、複数の比較サンプル3の保磁力Hcの平均値(C3)よりも相当に大きくなっていた。したがって、工程ST3の実行時に第2のガスとして水素を含まないガスを用いることにより、磁気抵抗効果素子の磁気特性の劣化を抑制することが可能であることが確認された。また、
図10から分かるように、複数の実験サンプル2の保磁力Hcの平均値(E2)は、複数の実験サンプル3の保磁力Hcの平均値(E3)よりも相当に大きくなっていた。したがって、多層膜ML1のエッチングにおいて希ガスのみのプラズマを用いることにより、磁気抵抗効果素子の磁気特性の劣化を更に抑制することが可能であることが確認された。