特許第6552898号(P6552898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552898
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】多結晶SiCウエーハの生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20190722BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20190722BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20190722BHJP
【FI】
   H01L21/304 611Z
   B23K26/53
   B23K26/00 N
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-139679(P2015-139679)
(22)【出願日】2015年7月13日
(65)【公開番号】特開2017-22283(P2017-22283A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
(72)【発明者】
【氏名】西野 曜子
【審査官】 石丸 昌平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−124206(JP,A)
【文献】 特開2012−169363(JP,A)
【文献】 特開2010−153590(JP,A)
【文献】 特開2013−049161(JP,A)
【文献】 特許第3842769(JP,B2)
【文献】 特開平08−078711(JP,A)
【文献】 特開2006−024782(JP,A)
【文献】 特開2014−205194(JP,A)
【文献】 特許第5625520(JP,B2)
【文献】 特開2014−216555(JP,A)
【文献】 特開2015−032771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/00
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶SiCインゴットから多結晶SiCウエーハを生成する多結晶SiCウエーハ生成方法であって、
保持テーブルに多結晶SiCインゴットを保持する被加工物支持工程と、
保持テーブルに保持された多結晶SiCインゴットに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線の集光点を多結晶SiCインゴット入射面から所定の位置に位置付けて照射しながら該保持テーブルを所定の加工送り速度で移動させることで多結晶SiCウエーハと多結晶SiCインゴットとの界面となる位置に改質層を形成する改質層形成工程と、
該改質層形成工程により形成された該界面より上方側に対して外力を付与し該界面から多結晶SiCウエーハを剥離する多結晶SiCウエーハ剥離工程と、
から少なくとも構成され、
該改質層形成工程において、パルスレーザー光線のスポットの径をDとし、隣接するスポットの各々が有する特定の点間の最短距離をxとした場合、1パルス当たりのパワー密度が、70乃至100J/cmとなる高さ位置の(D−x)/Dで求める重なり率が、0.6乃至0.8になるようにパルスレーザー光線を照射することにより、該改質層形成工程において形成される該界面が、パルスレーザー光線の集光点で多結晶SiCがアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離して初期の改質層が形成され、次に照射されるパルスレーザー光線が、先に照射されたパルスレーザー光線により形成されたアモルファスカーボンで吸収されて該集光点よりも入射面側で多結晶SiCがアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離し、連続して照射されるパルスレーザー光線が先に連続して形成されたアモルファスカーボンで吸収されながらパワー密度が一定であって、該重なり率が、0.6乃至0.8になる高さ位置でアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離して形成された改質層が連鎖して形成される、多結晶SiCウエーハの生成方法。
【請求項2】
該多結晶SiCインゴットは、カーボン基板を備えている請求項1に記載された多結晶SiCウエーハ生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶SiCインゴットに対してレーザー光線を照射し、多結晶SiCウエーハを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、LED等は六方晶単結晶SiCを素材としたウエーハの表面に分割予定ラインによって区画されて形成され、切削装置、レーザー加工装置によって個々のデバイスに分割されて携帯電話、パソコン等種々の電気、電子機器に利用されている。
【0003】
デバイスが形成される六方晶単結晶SiCウエーハは、一般的に単結晶SiCインゴットをワイヤーソーでスライスして生成され、スライスされたウエーハの表裏面を研磨して鏡面に仕上げられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、高価な六方晶単結晶SiCウエーハを製造するに当たり、製造コストを低減する方法として、六方晶単結晶SiCよりも安価な多結晶SiCインゴットを形成し、該多結晶SiCインゴットから平らな多結晶SiCウエーハを例えば300μm程度の厚みで切り出し、その切り出した多結晶SiCウエーハの上面に対して、所定の厚み(例えば1μm厚)に水素イオンを注入するなどして剥離層を形成した六方晶単結晶SiCウエーハを接合して1μm厚の六方晶単結晶SiC層を該多結晶SiCウエーハの上面に残して六方晶単結晶SiCウエーハを剥離することにより多結晶SiCウエーハを基材とし、表面を六方晶単結晶SiCウエーハからなるウエーハを形成する技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
しかし、多結晶SiCは、単結晶SiCに比べ安価であるものの、従来知られているカーボン基板に多結晶SiCのインゴットを成長させた後にカーボン基板を除去して所望の厚さとなる多結晶SiCウエーハを生成する方法では、多結晶SiCインゴットからカーボン基板を除去する際に、当該多結晶SiCインゴットが大きく変形し、多結晶SiCウエーハを切り出す際に当該変形部分を高い割合で捨てることになってしまい、安価である多結晶SiCを使用するにも関わらず不経済であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−094221号公報
【特許文献2】特開2014−216555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑み、多結晶SiCインゴットから、多結晶SiCウエーハを効率よく生成し、捨てられる割合を軽減する多結晶SiCウエーハの生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によれば、多結晶SiCインゴットから多結晶SiCウエーハを生成する多結晶SiCウエーハ生成方法であって、保持テーブルに多結晶SiCインゴットを保持する被加工物支持工程と、保持テーブルに保持された多結晶SiCインゴットに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線の集光点を多結晶SiCインゴット入射面から所定の位置に位置付けて照射しながら該保持テーブルを所定の加工送り速度で移動させることで多結晶SiCウエーハと多結晶SiCインゴットとの界面となる位置に改質層を形成する改質層形成工程と、該改質層形成工程により形成された該界面より上方側に対して外力を付与し該界面から多結晶SiCウエーハを剥離する多結晶SiCウエーハ剥離工程と、から少なくとも構成され、該改質層形成工程において、パルスレーザー光線のスポットの径をDとし、隣接するスポットの各々が有する特定の点間の最短距離をxとした場合、1パルス当たりのパワー密度が、70乃至100J/cmとなる高さ位置の(D−x)/Dで求める重なり率が、0.6乃至0.8になるようにパルスレーザー光線を照射することにより、該改質層形成工程において形成される該界面が、パルスレーザー光線の集光点で多結晶SiCがアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離して初期の改質層が形成され、次に照射されるパルスレーザー光線が、先に照射されたパルスレーザー光線により形成されたアモルファスカーボンで吸収されて該集光点よりも入射面側で多結晶SiCがアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離し、連続して照射されるパルスレーザー光線が先に連続して形成されたアモルファスカーボンで吸収されながらパワー密度が一定であって、該重なり率が、0.6乃至0.8になる高さとなる位置でアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離して形成される、多結晶SiCウエーハの生成方法が提供される。
【0010】
また、該多結晶SiCインゴットは、カーボン基板を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明による多結晶SiCウエーハの生成方法では、少なくとも、改質層形成工程において、パルスレーザー光線のスポットの径をDとし、隣接するスポットの各々が有する特定の点間の最短距離をxとした場合、1パルス当たりのパワー密度が、70乃至100J/cmとなる高さ位置の(D−x)/Dで求める重なり率が、0.6乃至0.8になるようにパルスレーザー光線を照射することにより、改質層形成工程において形成される界面が、パルスレーザー光線の集光点で多結晶SiCがアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離して初期の改質層が形成され、次に照射されるパルスレーザー光線が、先に照射されたパルスレーザー光線により形成されたアモルファスカーボンで吸収されて該集光点よりも入射面側で多結晶SiCがアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離し、連続して照射されるパルスレーザー光線が先に連続して形成されたアモルファスカーボンで吸収されながらパワー密度が一定であって、該重なり率が、0.6乃至0.8になる高さとなる位置でアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離して形成された改質層が連鎖して形成されることにより、多結晶SiCインゴットから多結晶SiCウエーハを切り出す際に変形をきたすことがなく、また、単結晶SiCウエーハをインゴットから取り出す際のように界面となるC面に依存することがないことから、効率よく多結晶SiCインゴットから、多結晶SiCウエーハを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による多結晶SiCウエーハの生成方法を実施するためのレーザー加工装置の斜視図。
図2図1に示す保持テーブルに被加工物としての多結晶SiCインゴットを装着する状態を示す図。
図3図1に示す多結晶SiCインゴットに対してパルスレーザー光線を照射する状態を示す図。
図4図1に示す多結晶SiCインゴットに対してパルスレーザー光線を照射した状態で界面となる高さHにおいてスポットが重なる状態を示す図。
図5図1に示す多結晶SiCウエーハ剥離工程により多結晶SiCインゴットから多結晶SiCウエーハを剥離させる状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による多結晶SiCウエーハの生成方法の好適な実施形態について、添付図面を参照して更に説明する。
【0014】
図1には、本発明による多結晶SiCウエーハの生成方法を実施するためのレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置1は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示すX軸方向に移動可能に配設された被加工物を保持するための保持テーブル機構3と、静止基台2上に配設されたレーザー光線照射手段としてのレーザー光線照射ユニット4とを備えている。
【0015】
上記保持テーブル機構3は、静止基台2上にX軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上にX軸方向に移動可能に配設された第1の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上にX軸方向と直交する矢印Yで示すY軸方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2滑動ブロック33上に円筒形状からなり内部にパルスモータを備えることにより回転可能に構成された保持テーブル34とを備えている。図1に示されたレーザー加工装置では、該保持テーブル34上に被加工物である該多結晶SiCインゴット7が載置されるが、該多結晶SiCインゴット7は、カーボン基板9上に成長されたものであり、該保持テーブル34の上面に塗布されたボンド剤を介して該カーボン基板9が強固に結合されている。
【0016】
上記第1の滑動ブロック32は、下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、上面にY軸方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された
第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動可能に構成される。図示の保持テーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動させるためのX軸方向移動手段35を備えている。X軸方向移動手段35は、上記一対の案内レール31と31との間に平行に配設された雄ネジロッド351と、該雄ネジロッド351を回転駆動させるためのパルスモータ352等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド351は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック353に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ352の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド351は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ352によって雄ネジロッド351を正転および逆転駆動することにより、第1の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動させられる。
【0017】
上記第2の滑動ブロック33は、下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、Y軸方向に移動可能に構成される。図示の保持テーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1に滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿って移動させるためのY軸方向移動手段36を備えている。Y軸方向移動手段36は、上記一対の案内レール322、322との間に平行に配設された雄ネジロッド361と、該雄ネジロッド361を回転駆動するためのパルスモータ362等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド361は、一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受けブロック363に回転自在に支持されており、他端が上記パルスモータ362の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド361は、第2の滑動ブロック33の中央下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジロッド361を正転及び逆転させることにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動させられる。
【0018】
上記第1の滑動ブロック、第2の滑動ブロックは、それぞれ図示しないX軸方向位置を検出するX軸方向位置検出手段、Y軸方向位置を検出するY軸方向位置検出手段を備えており、後述する制御手段により、検出された各第1、第2の滑動ブロックの位置に基づいて、上記各駆動源に対して駆動信号を発信し、所望の位置に保持テーブル34を制御することが可能となっている。
【0019】
上記レーザー光線ユニット4は、上記静止基台2上に配設された支持部材41と、該支持部材41によって支持された実質上水平に延出するケーシング42と、該ケーシング42に配設されたレーザー光線照射手段5と、該ケーシング42の前端部に配設されレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像手段6を備えている。なお、撮像手段6は、被加工物を照明する照明手段と、該照明手段によって照明された領域を捕える光学系と、該光学系によって捕えられた像を撮像する撮像素子(CCD)等を備え、撮像した画像信号を後述する制御手段に送る。
【0020】
上記レーザー光線照射手段5は、ケーシング42内部に収納されたパルスレーザー光線発振手段から発振されたレーザー光線を集光し、保持テーブル34に保持された被加工物に照射する集光器51を備えている。図示は省略するが、ケーシング42内のパルスレーザー光線発振手段は、パルスレーザー光線の出力調整手段、パルスレーザー光線発振器、これに付設された繰り返し周波数設定手段等から構成され、該パルスレーザー光線の集光点位置を、保持テーブルの上面である保持面に対して垂直な方向(Z軸方向)に調整可能なように制御される。
【0021】
さらに、図示のレーザー加工装置1は、静止基台2上に配設され、上記案内レール31、31の終端部(雄ネジロッド351を支持する軸受ブロック353側)近傍に設置された多結晶SiCウエーハ剥離手段8を備えている。該多結晶SiCウエーハ剥離手段8は、剥離ユニットケース81と、該剥離ユニットケース81内にその一部が収納され、矢印Zで示されるZ軸方向(上下方向)に移動可能に支持された剥離ユニットアーム82と、該剥離ユニットアーム82の先端部に配設された剥離用パルスモータ83と、当該剥離用パルスモータ83の下部に、該剥離用パルスモータ83によって回転可能に支持され、その下面に図示しない吸引手段により吸引可能とされた複数の吸引孔を備えたウエーハ吸着手段84とを備えている。該剥離ユニットケース81内には、剥離ユニットアーム82をZ軸方向に移動制御するZ軸方向移動手段が備えられており、Z軸方向移動手段は、該剥離ユニットアーム82を支持する図示しない雄ネジロッドと、該雄ネジロッドを支持する軸受ブロックと、該雄ネジロッドを正転、逆転駆動するためのパルスモータが収納されている。該剥離ユニットケース81には、剥離ユニットアーム82のZ軸方向の位置を検出する図示しないZ軸方向位置検出手段が備えられており、後述する制御手段にその位置信号が送られる。
【0022】
図示のレーザー加工装置1は、図示しない制御手段を備えている。該制御手段は、コンピュータにより構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置と、制御プログラムを格納するリードオンリメモリ(ROM)と、演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)と、入力、出力インターフェースとを備えている。該制御手段の入力インターフェースには、上記したX軸方向位置検出手段、Y軸方向位置検出手段、Z軸方向位置検出手段、撮像手段6等からの検出信号が入力され、出力インターフェースからは、上記X軸方向移動手段35、Y軸方向移動手段36、剥離ユニットケース81内のZ軸方向移動手段、パルスレーザー光線の集光点位置制御手段、パルスレーザー光線の出力制御手段、剥離用パルスモータ83等に制御信号を出力する。
【0023】
以上のように構成されたレーザー加工装置1を用いて実施する本発明による多結晶SiCウエーハの生成方法について説明する。
図2には、本発明の第1の実施形態における多結晶SiCウエーハの生成方法によって加工される被加工物としての多結晶SiCインゴット7と、該多結晶SiCインゴット7を保持する保持テーブル34が示されている。該多結晶SiCインゴット7は、カーボン基板9上に多結晶SiCを成長させ生成されたものを用いており、例えば10mmの厚みで生成されているものを用いる。
【0024】
図2に示すように、保持テーブル34上には多結晶SiCインゴッ7がカーボン基板9を下側にして固定される。当該固定は、保持テーブル34とカーボン基板9間に介在されたボンド剤(例えば、エポキシ樹脂)により行われるものであり、一般的なレーザー加工装置にて用いられる被加工物を固定するための吸引手段を用いたチャックテーブルよりも強固に固定される(被加工物支持工程)。なお、該多結晶SiCインゴット7の表面は図示しない研磨装置により、後述する透過性を有する波長を用いたレーザー光線の入射を妨げることがない程度に研磨される。
【0025】
(改質層形成工程)
上記した被加工物支持工程を実施したならば、多結晶SiCインゴット7を保持した保持テーブル34は、X軸方向移動手段35およびY軸方向移動手段36により撮像手段6の直下に位置付けられる。保持テーブル34が撮像手段6の直下に位置付けられると、撮像手段6及び前記制御手段によって多結晶SiCインゴット7のレーザー加工を実行する領域、及び保持テーブル34上に載置された多結晶SiCインゴット7の表面高さを検出するアライメント工程を実行する。
【0026】
アライメント工程を実行したならば、上記X軸方向移動手段35、Y軸方向移動手段36を作動させて、該レーザー加工を開始する地点に該多結晶SiCインゴット7を位置付けるとともに、アライメント工程により検出した多結晶SiCインゴット7の表面高さ位置に基づいて、図示しない集光点位置調整手段により保持テーブル34上に固定された多結晶SiCインゴット7の表面から所定距離(例えば510μm)内側に、該パルスレーザー光線の集光点Pを合わせる。そして、パルスレーザー光線照射手段を作動させ、多結晶SiCに対して透過性を有するパルスレーザー光線の照射を開始する。図3(a)、(b)に示すように、パルスレーザー光線を照射開始するとともに、X軸方向移動手段を作動させて保持テーブル34をX軸の矢印方向に移動させる。
【0027】
上記パルスレーザー光線による加工条件は、例えば次のように設定されている。
波長 :1064nm
繰り返し周波数 :80kHz
平均出力 :3.2W(2.6〜3.8W)
パルス幅 :4ns
スポット径 :集光点φ3.0μm(界面φ7.8μm)
開口率(NA) :0.43
インデックス量 :250〜400μm
送り速度 :120〜260mm/秒
【0028】
さらに、本願発明の改質層形成工程の詳細について説明する。該制御手段に予め設定されているパルスレーザー光線による加工ラインに沿ってパルスレーザー光線の照射を開始すると、最初のパルスレーザー光線の集光点P及びその近傍が、多結晶SiCのバンドギャップ超えるエネルギーとなり、アモルファスシリコンと、アモルファスカーボンとに分離した初期の改質層が形成される。この状態で前記X軸方向移動手段35により上記保持テーブル34を所定の加工送り速度で移動させるとともに、予め設定された上記繰り返し周波数により、次のパルスレーザー光線が照射される。
【0029】
ここで、該次に照射されたパルスレーザー光線は、初期に形成された該初期の改質層とX軸方向にて重なるように照射されるため、該次に照射されたパルスレーザー光線は、該初期の改質層に形成されたアモルファスカーボンで吸収されることになり、その結果、集光点Pよりも入射面側で、パワー密度が一定(例えば85J/cm)となる高さ位置H(例えば前記集光点Pから上方に10μm、すなわち上面から500μm)にて改質層が形成される(図4(a)、(b)を参照)。そして、図4(a)の高さHにおけるパルスレーザー光線のスポット形状を上方から見た図4(c)の上段図に示すように、パルスレーザー光線の集光点Pよりも入射面側のパワー密度一定となる該高さ位置Hにおいて隣接するスポットが、該スポットの直径Dよりも小さい間隔xをもって連続的に照射されるので、連続するパルスレーザー光線のスポットQ1〜が、D−xの範囲で重なるように照射され、先行して形成された改質層のアモルファスカーボンで吸収されながらアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離した面が形成される。なお、図4(c)の上段図のA−A断面を表す下段図に示すように、パワー密度一定となる該高さ位置Hにおいて、アモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに分離して形成された改質層が連鎖して形成される。
【0030】
そして、上記したパルスレーザー光線の照射を、図3(b)に示された加工予定ラインすべてに対して実行されると、上記高さ位置Hよりも上面側を多結晶SiCウエーハとして分離するための界面となる改質層が、多結晶SiCインゴットの内部であって、高さ位置Hの領域全域に渡り形成される。なお、当該界面を形成するに際し、図3(b)のように直線的に改質層を設ける場合に限らず、図3(c)に記載されているように、渦巻き状に改質層を連続して形成することも可能である。この場合は、パルスレーザー光線の照射開始地点を、Y軸方向から見て多結晶SiCインゴットの中心を通り、且つ最外周側の位置に設定し、保持テーブル34を回転させながら、X軸方向に保持テーブル34を移動させることで実現することができる。
【0031】
(多結晶SiCウエーハ剥離工程)
前記改質層形成工程を終了すると、多結晶SiCインゴットが載置された保持テーブル34を、X軸方向移動手段35、及びY軸方向移動手段36を制御して、多結晶SiCウエーハ剥離手段8が配設された終端部側に移動させ、ウエーハ吸着手段84の直下に位置付ける。先に検出し制御手段に入力された多結晶SiCインゴット7の上面の高さ位置に基づいて、剥離ユニットアーム82を降下させて該多結晶SiCインゴット7の上面に密着させるとともに、図示しない吸引手段を作動させて多結晶SiCインゴット7にウエーハ吸着手段84を吸着させ固定する(図5を参照)。そして、該ウエーハ吸着手段84と、多結晶SiCインゴット7とが固定された状態で、剥離用パルスモータ83を作動することにより該ウエーハ吸着手段84を回転駆動させて多結晶SiCインゴット7に対して捻り力を与え、該界面を境にして多結晶SiCインゴット7の上部側を剥離させ、1枚の多結晶SiCウエーハ7´を得ることができる。
【0032】
上記した多結晶SiCインゴット7から、多結晶SiCウエーハ7´を得た後、多結晶SiCインゴット7からさらに多結晶SiCウエーハを得る場合には、静止基台2上に設けられた図示しない研磨手段により多結晶SiCインゴットの上面を研磨し、新たな多結晶SiCインゴットとして上記の工程を最初から繰り返し実行することで、多結晶SiCを殆ど無駄にすることがなく、複数の多結晶SiCウエーハ7´を得ることができる。
なお、必要に応じて多結晶SiCウエーハ7´の下面(界面側)を研磨してもよい。
【0033】
上記した界面となる改質層を形成する際の高さ位置がHとなる位置のスポット径をDとし、隣接するスポット同士の距離をxとした場合に、(D−x)/D、すなわち隣接するスポット同士の重なり率を0.6〜0.8に設定することが好ましい。このように設定することで、多結晶SiCウエーハを分離する際の界面となるアモルファスカーボンとアモルファスシリコンが分離する層が、途切れることなく連続して形成することが可能となる。
【0034】
また、上記界面を形成しようとする高さ位置Hにてスポットを形成するパルスレーザー光線のパワー密度は、上記実施形態では85J/cmとなるように設定したが、70〜100J/cmの値で設定するとよい。該界面が所望の高さHにて形成されるための適切なパワー密度は使用する多結晶SiCインゴットの品質等により多少ばらつきがあるが、スポット径が重なるように連続してパルスレーザー光線を照射し、剥離するための界面を連続的に形成するためには、該数値範囲となるようにパワー密度を設定することで良好な界面を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1:レーザー加工装置
2:静止基台
3:保持テーブル機構
4:レーザー光線照射ユニット
5:レーザー光線照射手段
6:撮像手段
7:多結晶SiCインゴット
8:多結晶SiCウエーハ剥離手段
9:カーボン基板
31:案内レール
32:第1の滑動ブロック
33:第2の滑動ブロック
34:保持テーブル
35:X軸方向移動手段
36:Y軸方向移動手段
82:剥離ユニットアーム
83:剥離用パルスモータ
84:ウエーハ吸着手段
図1
図2
図3
図4
図5