特許第6553321号(P6553321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6553321
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】茹卵の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20190722BHJP
【FI】
   A23L15/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-517469(P2019-517469)
(86)(22)【出願日】2019年2月1日
(86)【国際出願番号】JP2019003647
【審査請求日】2019年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2018-19384(P2018-19384)
(32)【優先日】2018年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-198541(P2018-198541)
(32)【優先日】2018年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】結城 慶華
(72)【発明者】
【氏名】池田 大騎
(72)【発明者】
【氏名】田村 崇
(72)【発明者】
【氏名】松本 ミサ
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 由記
(72)【発明者】
【氏名】西岡 未来
(72)【発明者】
【氏名】松田 始
(72)【発明者】
【氏名】中本 大介
(72)【発明者】
【氏名】長谷 紘明
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−042682(JP,A)
【文献】 特開2013−063240(JP,A)
【文献】 特開2013−233120(JP,A)
【文献】 特開平03−224466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 15/00−15/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茹卵の製造方法であって、
殻付き茹卵を処理液で冷却する工程と、
前記殻付き茹卵の殻を剥く工程と、
を含み、
前記冷却工程直前の殻付き茹卵の卵白表面温度が70℃以上であり、
前記処理液の温度が25℃以下であり、
前記処理液が粒径100μm以下のファインバブルを含有する、
ことを特徴とする、茹卵の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の茹卵の製造方法において、
前記処理液は水である、茹卵の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の茹卵の製造方法において、
前記殻付き茹卵1部に対する前記処理液の割合が3部以上である、茹卵の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の茹卵の製造方法において、
前記処理液の粒子密度は、3×10個/mL以上である、茹卵の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の茹卵の製造方法において、
前記冷却工程の前に、卵殻にひびを入れる工程をさらに含む、茹卵の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業的に有利な茹卵の製造方法であって、茹卵の卵殻をきれいに効率よく剥くことができることを特徴とする、茹卵の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、殻付き生卵を加熱して茹卵を製造した場合に、卵白が卵殻に付着し、殻をきれいに剥けないという問題があった。このような問題に対して、例えば、加熱前に卵殻にひびを入れることによって、冷却工程において、卵殻膜と卵白との間に冷却水を侵入させて、卵殻膜と卵白との剥離性を高めることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−42682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように卵殻にひびを入れるだけでは、卵が殻にくっついたまま剥かれてしまい、茹卵の身の部分が欠けたり、卵白表面に卵殻が残ったままになったりすることも多い。また、加熱前に卵殻にひびを入れる際に、誤って卵を割ってしまうこともある。したがって、製造効率および製造コスト上の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究した結果、茹卵の製造において、高温の殻付き茹卵を、微小な気泡を含む低温の処理液で冷却することにより、卵殻を効率良くきれいに剥くことができることを見出した。
【0006】
一態様において、本発明は、
茹卵の製造方法であって、
殻付き茹卵を処理液で冷却する工程と、
前記殻付き茹卵の殻を剥く工程と、
を含み、
前記冷却工程直前の殻付き茹卵の卵白表面温度が70℃以上であり、
前記処理液の温度が25℃以下であり、
前記処理液がファインバブルを含有する、
ことを特徴とする、茹卵の製造方法である。
【0007】
一態様において、本発明は、
茹卵の製造方法であって、
殻付き茹卵を処理液で冷却する工程と、
前記殻付き茹卵の殻を剥く工程と、
を含み、
前記冷却工程直前の殻付き茹卵の卵白表面温度が70℃以上であり、
前記処理液の温度が25℃以下であり、
前記処理液が粒径100μm以下の粒子を含有する、
ことを特徴とする、茹卵の製造方法である。
【0008】
上記態様において、前記処理液は水であることが好ましい。
【0009】
上記態様において、前記殻付き茹卵1部に対する前記処理液の割合が3部以上であることが好ましい。
【0010】
上記態様において、前記処理液の粒子密度は、3×10個/mL以上であることが好ましい。
【0011】
上記態様において、前記冷却工程の前に、卵殻にひびを入れる工程を更に含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の茹卵の製造方法は、茹卵の製造において、高温の殻付き茹卵を、微小な気泡を含む低温の処理液で冷却することにより、卵の殻を効率良くきれいに剥くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<茹卵の製造方法>
本発明は、茹卵の製造方法に関する。本発明の茹卵の製造方法は、少なくとも冷却工程および殻剥き工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明において、「茹卵」とは、卵白が熱変性によって凝固し、殻剥き後でも卵の形状を保つものをいう。したがって、殻を剥ける程度に卵白が凝固していれば良く、卵黄の凝固状態は問わない。卵黄は、流動性のある液状から凝固によりほぐれやすくなっている状態まで、種々の状態をとることができる。また、「殻付き茹卵」とは、殻を剥いていない状態の茹卵のことをいう。
【0015】
本発明において、「卵」とは、食用の鳥類の卵のことをいい、鶏卵、ウズラの卵などを含むが、特に好ましくは鶏卵のことをいう。鶏卵のサイズは農林水産省で定めた鶏卵規格取引要項に従って重量により規定され、LL寸は70g以上76g未満、L寸は64g以上70g未満、M寸は58g以上64g未満、MS寸は52g以上58g未満、S寸は46g以上52g未満、SS寸は40g以上46g未満である。
【0016】
<冷却工程>
本発明において、冷却工程とは、任意の方法により製造した殻付き茹卵を冷却する工程のことをいう。本発明の冷却工程において、卵白表面温度が70℃以上の高温の殻付き茹卵に25℃以下の低温の処理液を接触させることにより、殻付き茹卵を冷却することができる。殻付き茹卵と処理液とを接触させる方法は、所望に応じて、バッチ式、連続式のいずれの処理方法としてもよい。
【0017】
本発明において、冷却工程開始時の殻付き茹卵の卵白表面温度は、70℃以上であり、好ましくは75〜100℃、最も好ましくは、80〜98℃である。本発明においては、卵白表面温度が70℃以上の高温状態の殻付き茹卵を冷却することにより、冷却時に卵殻膜と卵白との間に隙間が生じて処理液が侵入しやすくなり、卵殻をより効率良くきれいに剥くことができる。
【0018】
本発明において、「卵白表面温度」とは、茹卵の鋭端部表面近傍の卵白部分の温度のことをいう。当該温度は、茹卵の鈍端部から鋭端部へ向けて当該技術分野において通常用いられる温度計を挿入し、鋭端部表面近傍の卵白部分の温度を測定することにより求めることができる。 茹卵の鋭端部表面近傍とは、茹卵のとがっている方の先端部の卵白表面から卵黄中心方向へ、5mm程度内側のことをいう。
【0019】
本発明の冷却工程において、殻付き茹卵の卵白表面温度が70℃から40℃まで冷却される時間は、好ましくは、400秒以下であり、より好ましくは、300秒以下であり、さらにより好ましくは、250秒以下であり、最も好ましくは、5〜200秒である。このように、高温の殻付き茹卵を所定の時間以内に冷却することにより、卵殻をより効率良くきれいに剥くことができる。
【0020】
本発明において、処理液は、茹卵を冷却することができればよく、特にこれらに限定されるものではないが、水道水、蒸留水、滅菌水、井水、調味液などの通常食品を冷却する際に用いられる液体とすることができる。本発明において、処理液は、そのような液体のうち、水であることが好ましい。処理液を水とすることにより、例えば、塩分を含む液体に接触させて冷却した場合に見られるような茹卵の中身の収縮が生じない点において、本発明の効果を奏しやすい。
【0021】
本発明において、冷却工程開始時の処理液の温度は、25℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、最も好ましくは0〜10℃である。また、処理液の温度は、例えば、処理液が攪拌されて該液の温度が略均一である状態で、当該技術分野において通常用いられる温度計を挿入することなどにより測定することができる。本発明においては、処理液の温度を上記温度範囲の処理液を用いて茹卵を急速に冷却することにより、卵殻をより効率良くきれいに剥くことができる。
【0022】
本発明において、処理液は、粒径が約100μm以下の粒子を含有することを特徴とする。そのように微小な気泡などの粒子を含有する低温の処理液で、高温の茹卵を冷却することにより、殻を効率良くきれいに剥くことができる。本発明において、処理液に含まれる粒子の粒径は、好ましくは1nm〜80μm、より好ましくは10nm〜60μm、最も好ましくは20nm〜50μmである。
【0023】
本発明において、処理液に含まれる気泡などの粒子の粒径とは、粒子の直径のことをいう。粒子の直径とは、各粒子を完全な球体と仮定した場合における、その直径に相当する値のことをいう。本発明において、ウルトラファインバブルの粒径は、ナノ粒子トラッキング解析法(NTA法)により、処理液中の粒子の散乱光とブラウン運動パターンから計測することができる。また、本発明において、マイクロバブルの粒径は、バブル発生直後の気泡をハイスピードマイクロスコープカメラで撮影し、そのようにして撮影した写真を、画像解析装置を用いて解析することにより計測することができる。
【0024】
本発明において、「粒子密度」は、処理液中に含まれる粒子の密度のことをいい、処理液中に含まれる気泡の密度と相関性がある値である。本発明において、ウルトラファインバブルの粒子密度はナノ粒子トラッキング解析法(NTA法)により、液中の粒子の散乱光およびブラウン運動パターンから計測した粒子数と、処理液の体積から算出することができる。また、本発明において、マイクロバブルの粒子密度は、粒径と同様に、バブル発生直後の気泡をハイスピードマイクロスコープカメラで撮影し、そのようにして撮影した写真を、画像解析装置を用いて解析することにより計測することができる。
【0025】
本発明において、処理液の粒子密度は、好ましくは3×10個/mL以上、より好ましくは4×10個/mL以上、さらに好ましくは6×10個/mL以上、最も好ましくは8×10〜8×10個/mLである。処理液の粒子密度と気泡密度とは相関性があることから、粒子密度が所定の値以上であれば、微小気泡粒子が相当程度以上の密度で含まれることとなり、茹卵全体に十分に気泡を接触させることができることから、殻をより効率良くきれいに剥くことができる。
【0026】
上記のような、「粒径が100μm以下の気泡」は、ISO 20480−1によると、「ファインバブル」とよばれる。また、そのうち、粒径1μm超100μm以下の目視可能な白濁の気泡を「マイクロバブル」、粒径1μm以下の目視不可能な無色透明の気泡を「ウルトラファインバブル」という。本発明において、そのような気泡は、旋回液流式、加圧溶解式、微細孔式など、公知の任意の発生方法により発生させることができる。本発明において、例えば、株式会社ナック製 Foamestコラムタイプ_FP−20−300、IDEC株式会社製 ultrafineGaLF FZ1N−05S、株式会社ナノクス製 ナノフレッシャー NF―WP0.4、エンバイロ・ビジョン株式会社製 YJノズル YJ−21、株式会社テクニカルライト製 UFB DUAL等を用いることができる。これらの装置を使用する場合、各装置のバブル発生方式に応じて、供給するガス圧(ガス流量)や液圧(液流量)、使用するフィルターの孔径などを調整することなどにより、所望の粒径および気泡粒子密度とすることができる。例えば、旋回液流式装置などのバブルを発生させる液の流動を伴う発生装置の場合には、主に、供給するガス圧(ガス流量)および液圧(液流量)を調整することにより、バブルの粒径や気泡粒子密度を調整することができる。また、バブルを発生させる液の流動を伴わない発生装置である、例えば、細孔式発生装置の場合には、供給するガス圧(ガス流量)や液圧(液流量)に加えて、使用するフィルターの孔径を調整することにより粒径や気泡粒子密度を調整することができる。さらに、異なるバブル発生方式の装置を適宜組み合わせることによって、バブルを発生させてもよい。
【0027】
本発明において、数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値またはある数値未満の意味で使用する。例えば、100μm以下は、100μmまたは100μm未満を意味する。更に数値範囲に係る「〜」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、または他のある数値の意味で使用する。例えば、1〜100μmは、1μm、1μm超かつ100μm未満、または100μmを意味する。
【0028】
本発明において、冷却工程に用いる処理液の量は、殻付き茹卵1部に対して、好ましくは2部以上、より好ましくは3部以上、最も好ましくは4部以上100部以下である。殻付き茹卵に対して処理液の量を十分に確保することにより、茹卵全体に処理液を接触させることができ、殻をより効率良くきれいに剥くことができる。なお、殻付き茹卵とそれを冷却する際に用いる処理液の割合は、重量部により規定する。重量部とは、重量の比のことであり、これらの重量は当該技術分野において通常用いられる方法により測定することができる。
【0029】
<殻剥き工程>
本発明において、「殻剥き工程」とは、冷却した殻付き茹卵の殻を剥く工程のことをいう。茹卵の殻剥き方法は、従来公知の任意の方法とすることができ、人の手で剥く方法、機械的に剥く方法のいずれの処理方法としてもよい。機械的に剥く方法としては、例えば、回転円筒内でひび入れ処理しながらゆで卵の殻を剥く装置(特開昭55−9769号公報)や、中央にゆで卵を固定する固定孔をあけた受け台の上に蛇腹で帽子形状とした空気圧縮体を載せ、その中に空気侵入用の孔をあけておいた茹卵を置き、空気圧縮体を伸縮させて卵の殻と中身を剥離させて殻剥きする装置(実公昭58−49117号公報)など、任意の装置を用いてもよい。
【0030】
上記の冷却工程および殻剥き工程を少なくとも含む、本発明の製造方法により得られた茹卵は、殻の剥けやすさが向上することから、凝固卵白を傷つけることなく卵殻を効率良く、きれいに剥くことができる。
【0031】
本明細書において、「殻の剥けやすさ」とは、茹卵から卵殻を取り除く容易度のことをいい、茹卵から卵殻を剥くのに要する時間、および/または、剥いた後の茹卵の外観の良好度により評価することができる。
【0032】
<任意工程>
本発明の茹卵の製造方法は、冷却工程および殻剥き工程以外の任意の工程を含むことができる。そのような任意の工程としては、例えば、ひび入れ工程、加熱凝固工程、選別工程、および殺菌工程などの、公知の茹卵の製造方法と同様の工程を含むことができる。
【0033】
<ひび入れ工程>
本発明の茹卵の製造方法において、冷却工程の前の任意の段階において卵殻にひびを入れることができる。本発明においては、卵殻にひびを入れることは必須ではないが、処理液に茹卵を接触させる前にひびを入れることにより、従来の方法によりひびを入れて製造した殻付き茹卵と比較して、殻をより効率良くきれいに剥くことができる。
【0034】
本明細書において、「ひび」とは、公知の方法で卵殻に入れた裂開や穴のことをいう。ひびは、例えば、スプーンなどの金属製治具の平坦部でたたいたり、針で穴を開けたりするなどの人の手による処理や、ひび入れ機械による機械的処理など、従来公知の任意の方法により形成することができる。
【0035】
<加熱凝固工程>
本発明において、加熱凝固処理の方法としては、公知の茹卵と同様の方法を採用することができる。例えば、殻付生卵を冷水から加熱する方法、90〜100℃の湯中に投入し加熱する方法、加圧蒸気で加熱する方法などをあげることができる。ここで、茹卵とは、上述の通り殻を剥ける程度に卵白が凝固していれば良く、卵黄の状態は問わないことから、加熱凝固処理とは、少なくとも殻剥きできる程度に卵白を凝固する処理をいう。
【0036】
<選別工程>
本発明において、良品、不良品の選別方法としては、熟練の作業員による目視での選別や、専用の検査装置を用いた機械的検知による選別など、公知の茹卵と同様の方法を採用することができる。選別基準としては、殻の有無、殻刺さりの有無、外形異常の有無などを判定基準として、茹卵の選別処理を行う。
【0037】
<殺菌工程>
本発明において、殺菌処理の方法としては、公知の茹卵と同様の方法を採用することができる。例えば、所定の温度および時間での加熱殺菌や、殺菌剤溶液への浸漬、オゾン殺菌処理など、当該技術分野において従来用いられている任意の方法とすることができる。
【0038】
さらに、本発明の製造方法は、従来の茹卵の製造ラインを用いて、工業的にも容易に実施することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
評価方法
以下の実施例および比較例において、訓練された評価者によって、茹卵の卵殻を剥いた際の剥けやすさの評価を行った。卵殻の剥けやすさは、所定の個数の茹卵の卵殻を剥くのに要する時間(秒)と、剥いた卵の外観の目視観察により行った。なお、外観の評価は、以下の3つのランクに従った。
Aランク:茹卵の表面に傷が全くないもの
Bランク:茹卵の表面に傷が少しあるが問題のないもの
Cランク:茹卵の表面に割れ、大きな欠けがあるもの
【0041】
処理液の調製方法
以下の実施例および比較例において、対照処理液として水道水を用い、液中に含まれる気泡の粒径により、以下の2種類の処理液を調製した。気泡の発生には、ファインバブル発生装置を用いて、気泡発生時のバブリング圧力範囲を適宜調整等することにより、発生する泡の粒径および粒子密度を以下の数値範囲となるようにした。
処理液A:水道水にウルトラファインバブルを発生させたもの
処理液B:水道水にマイクロバブルおよびウルトラファインバブルの両方を発生させたもの
【0042】
処理液Aに含まれる粒子の粒径および粒子密度の測定方法
処理液Aに含まれる粒子の粒径および粒子密度は、ナノサイト(日本カンタムデザイン社取扱い、Malvern社製、測定範囲1〜2000nm)で分析した。処理液A中の粒子の粒径は、いずれも約50〜150nmであった。また、気泡発生時のバブリング圧力等を調整することにより、各試験例において、処理液A中の粒子密度が、いずれも4×10個/mL以上となるように調整した。
【0043】
処理液Bに含まれる粒子の粒子密度
処理液Bに含まれる粒子のうち、ウルトラファインバブルについては、処理液Aと同様にして分析した。マイクロバブルについては、バブルの発生直後にハイスピードマイクロスコープカメラで撮影し、そのようにして撮影した写真を解析装置へ供することにより粒径を測定した。処理液Bに含まれる気泡の粒径および粒子密度は、以下の通りであった。
ウルトラファインバブル
・粒径:約50〜250nm
・密度:1×10個/mL以上であった。
マイクロバブル
・粒径:約10〜100μm
・密度は測定できなかった。
したがって、処理液Bに含まれる粒子密度は、少なくとも1×10個/mL以上であった。
【0044】
卵白表面温度の測定
茹卵の卵白表面温度は、温度計(エラブジャパン社製)を茹卵の鈍端部から鋭端部に向けて刺し、鋭端部の卵殻にあたるまで挿入することにより、卵白表面から卵黄方向に5mm内側を測定した。
【0045】
[試験例1]
実施例1〜2および比較例1〜2
処理液に含まれる気泡の粒径が殻の剥けやすさに与える影響について試験を行った。
【0046】
原料卵および茹卵の調製方法
殻付き生卵(MSサイズ、pH=約8.9(無調整))20個を使用した。これらの生卵にひびを入れ、95℃で10分ボイルして、茹卵を調製した。
【0047】
冷却条件
上記の通り調製した茹卵を、下表1の冷却条件で冷却した。なお、冷却開始時の卵白表面温度は80℃であり、冷却に用いる冷却水の温度は5℃であった。また、この時の卵白表面温度が70℃に達した時から40℃になるまでの冷却時間は283秒であった。
比較例2において使用した冷却水は、水槽に水道水を入れ、そこへ市販の水槽用エアポンプを用いてエアを吹き込むことにより調製した。
【0048】
歩留まり率の算出方法
全殻付き茹卵の個数に対する外観評価AおよびBの茹卵の合計個数から歩留まり率を算出した。また、冷却水として水道水を用いた場合の歩留まりを基準として、歩留まりの向上率を算出した。
【0049】
結果
実施例1〜2および比較例1〜2の結果は、下表1の通りである。
【0050】
【表1】
【0051】
溶存酸素濃度は同じであっても、ウルトラファインバブルを含む処理液A、およびウルトラファインバブルとマイクロバブルを含む処理液Bを用いて茹卵を冷却した場合に、歩留り率が向上していた。
【0052】
[試験例2]
実施例3および比較例3〜5
殻付き茹卵を冷却液に接触させる温度が殻の剥けやすさに与える影響について試験を行った。
【0053】
原料卵および茹卵の調製方法
試験例1と同様の原料卵20個を、ひび入れ後に試験例1と同様の条件でボイルして茹卵を調製した。
【0054】
冷却条件
上記の通り調製した茹卵を、以下の冷却条件で冷却した。このとき、殻付き茹卵1部に対する処理液の割合が10部となるように調整した。
(1)実施例3
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵20個を、5℃の処理液Aに30分間接触させた。
(2)比較例3
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵20個を、5℃の水道水に30分間接触させた。
(3)比較例4
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵20個を、5℃の水道水に15分間接触させた。その後、冷却終了後10℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵20個を、5℃の処理液Aに15分間接触させた。
(4)比較例5
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵20個を、5℃の水道水に15分間接触させた。その後、冷却終了後10℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵20個を、5℃の処理液Aに30分間接触させた。
【0055】
結果
実施例3および比較例3〜5の結果は、下表2の通りである。
【0056】
【表2】
【0057】
卵白表面温度が70℃以上で、ウルトラファインバブルを含む処理液に接触させると、剥く時間が短縮された。
【0058】
[試験例3]
実施例4〜5および比較例6
茹卵の冷却速度が殻の剥けやすさに与える影響について試験を行った。
【0059】
原料卵および茹卵の調製方法
試験例1と同様の原料卵20個を、ひび入れ後に試験例1と同様の条件でボイルして茹卵を調製した。
【0060】
試験方法
上記の通り調製した殻付き茹卵を以下の冷却条件で冷却し、冷却後の茹卵の殻を剥くのに要する時間を測定した。このとき、殻付き茹卵1部に対する処理液の割合が10部となるように調整した。
(1)実施例4
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵を、該温度が25℃になるまで5℃の処理液Aに接触させた。
(3)実施例5
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵を、該温度が25℃になるまで15℃の処理液Aに接触させた。
(2)比較例6
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵を、該温度が25℃になるまで5℃の水道水に接触させた。
【0061】
冷却速度の算出
冷却速度は、卵白表面温度が70℃に達した時から40℃になるまでの所要時間を用いて算出した。
【0062】
剥けやすさの評価
いずれの例においても、殻付き茹卵を5℃まで冷却した後に20個の茹卵の殻を剥くのに要する時間を測定することにより、殻の剥けやすさの試験を行った。
【0063】
結果
実施例4〜5および比較例6の結果は、下表3の通りである。
【0064】
【表3】
【0065】
冷却開始時に15℃以下の処理液を用いた場合には、剥きやすさが向上した。また、冷却水の温度が低いほど、効果が高かった。
【0066】
[試験例4]
実施例6〜7および比較例7
処理液Aに含まれる粒子密度が殻の剥けやすさに与える影響について試験を行った。
【0067】
試験方法
試験例1と同様にして調製した殻付き茹卵15個を、以下の冷却条件で冷却し、殻の剥けやすさを比較した。このとき、殻付き茹卵1部に対する処理液の割合が5部となるように調整した。
(1)実施例6
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵を、5℃の処理液Aに30分間接触させた。殻付茹卵に接触させた時の処理液Aの粒子密度は、約8×10個/mLであった。
(2)実施例7
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵を、バブリングする圧力を変え、粒子密度を約4×10個/mLにした5℃の処理液Aに30分間接触させた。
(2)比較例7
90℃の卵白表面温度を有する殻付き茹卵を、5℃の水道水に30分間接触させた。
【0068】
結果
実施例6〜7および比較例7の結果は、下表4の通りである。
【0069】
【表4】
【0070】
粒子密度が4×10個/mL以上であると剥く時間が短くなり、8×10個/mL以上だとより短くなった。粒子密度は気泡密度と密接な相関関係があることから、ウルトラファインバブルを多く含む処理液を用いた場合の方が、卵殻の剥けやすさが高かったと考えられる。
【0071】
[試験例5]
実施例8〜9および比較例8
ひびの有無が卵殻の剥けやすさに与える影響について試験を行った。
【0072】
試験方法
試験例1と同様に調製したひび入り茹卵と、同様の生卵をひびを入れずに95℃で10分ボイルした茹卵を、それぞれ20個ずつ処理液Aで冷却して殻の剥けやすさを比較した。このとき、冷却開始時の卵白表面温度は90℃であり、殻付き茹卵1部に対する処理液の割合が10部となるように調整した。
【0073】
結果
実施例8〜9および比較例8の結果は、下表5の通りである。
【0074】
【表5】
【0075】
ひびが無い場合でも、ウルトラファインバブルを含有する処理液で冷却した方が、水道水で冷却したものよりもきれいに剥けた。
【要約】
[課題]加熱前に卵殻にひびを入れない場合でも、卵殻を効率良くきれいに剥けるように茹卵を製造する方法を提供する。
[解決手段]茹卵の製造において、高温の殻付き茹卵を、微小な気泡を含む低温の処理液で冷却することにより、卵の殻を効率良くきれいに剥くことができる。