【実施例1】
【0040】
まず、
図1ないし
図10を用いて本発明の第1の実施例に係るデータ処理装置を説明する。ここでは、有磁場マイクロ波プラズマエッチング装置において、高精度のエッチング処理を目的としたプラズマ分光によるエッチング終点検出に本発明を適用した例について説明する。
【0041】
図1に、第1の実施例のデ−タ処理装置1の構成図を示す。本実施例では、デ−タ処理装置1は、デ−タ入出力装置2、記憶装置であるデータ記憶装置3、データ処理プログラム記憶装置4、データ演算処理装置5で構成され、相互にデータ移動が可能なように接続されている。
【0042】
また、必要に応じて上記に加え、データ表示装置(図示省略)が設けられる。データ処理装置1は、対象とする系6(装置、分析データ等)とデータを入出力することができる。これにより、対象とする系6を高精度に制御する。本実施例の場合、対象とする系6は、マイクロ波プラズマ処理装置である。また、データ処理装置1は、単独で使用しても良く、デ−タ解析等に利用することができる。
【0043】
データ入出力装置2は、処理データ、データ処理プログラムのパラメータ等を入出力することができる。データ入出力装置2は、対象とする系6等より一括あるいは逐次に処理するデータを受け取る。データ入出力装置2により受け取られたデータは、RAM等のデータ記憶装置3で記憶され、RAM等のデータ処理プログラム記憶装置4に記憶されたデータ処理プログラムに従ってデータ演算処理装置5によってデータスムージング処理、データ微分処理を行われる。データ演算処理装置5によるデータの演算後、データ入出力装置2によってデータスムージング処理結果データ、データ微分処理結果データを対象とする系6等に出力して対象とする系6の制御に利用する。
【0044】
データ処理プログラムに記憶されているデータ処理方法の全体フロー図を
図2に示す。一括あるいは逐次に処理するデータを受け取り、デ−タが入力される。入力データは、時系列データY1
t:t=1、2、・・・とした。次に後述する方法により初期値を導出する。次に1回目の2段指数平滑化処理を行い、1回目出力のデータの平滑化の予測値S1
tと平滑化されたデータの傾きの予測値B1
tを得る。
【0045】
この場合、下記式(5)〜式(14)に示されたタイプIの応答型2段指数平滑化処理法で処理した。
【0046】
データの平滑化 :S1
t = α1
t Y1
t + (1 - α1
t) (S1
t-1 + B1
t-1) 式(5)
平滑化されたデータの傾き:B1
t= γ1
t (S1
t - S1
t-1) + (1 -γ1
t) B1
t-1 式(6)
平滑化係数: α1
t = (K
α-L
α) F
α+ L
α 式(7)
応答係数: F
αt = (|δα
t/Δα
t|+φ)
N 式(8)
相対誤差: δα
t = A1(Y1
t - S1
t) + (1 - A1) δα
t-1 式(9)
絶対誤差: Δα
t = A1 |Y1
t - S1
t| + (1 - A1) Δα
t-1 + φ 式(10)
平滑化係数: γ1
t = (K
γ-L
γ) F
γ+ L
γ 式(11)
応答係数: F
γt = (|δγ
t/Δγ
t|+φ)
N 式(12)
相対誤差: δγ
t =A2{(S1
t - S1
t-1)- B1
t}+(1 - A2)δγ
t-1 式(13)
絶対誤差: Δγ
t =A2|(S1
t - S1
t-1)- B1
t|+(1 - A2) Δγ
t-1+φ 式(14)
ここで、入力データは、例えば、時系列データY1
t:t=1、2、・・・とし、出力のデータの平滑化の予測値S1
tと平滑化されたデータの傾きの予測値B1
tを逐次データ処理により得ることができる。また、K
α、L
α、K
γ、L
γ、N、A1、A2、φは、任意の定数である。但し、1> K
α> L
α>0、1>K
γ > L
γ>0、1>A1>0、1>A2>0である。φは、絶対誤差Δα
tおよびΔγ
t、または、応答係数F
αtおよびF
γtがゼロ値となるのを回避するためにある。また、通常の演算に影響が非常に少なくなるようにφとして極微小値が選択される。
【0047】
式(8)、式(12)においてN=0の場合、応答係数F
α=1、F
γ=1となり、平滑化係数α
t=K
α、γ
t=K
γとなって一定値となる。従って、N=0の場合は、通常の2段指数平滑化法となる。N=1の場合、各平滑化係数は、各相対誤差/絶対誤差に比例して、K
α〜L
α、K
γ〜L
γの範囲を変化する応答型2段指数平滑化法となる。同様にN=5の場合、各平滑化係数は、各相対誤差/絶対誤差の5乗に比例して、K
α〜L
α、K
γ〜L
γの範囲を変化する応答型2段指数平滑化法となる。
【0048】
応答型2段指数平滑化法は、各相対誤差/絶対誤差が小さい場合に各平滑化係数を小さくしてデータスムージング性能を向上させる。一方、各相対誤差/絶対誤差が大きい場合は、各平滑化係数を大きくしてデータ応答性能を向上させる。データスムージング性能とデータ応答性能は、トレードオフ関係にあり、両者のバランスは、上記N値で変化するため、入力データの特性に応じて、上記N値を選択する。
【0049】
次に前述の初期値の導出方法を説明する。一般に、2段指数平滑化処理における、データの平滑化の予測値S1の初期値および平滑化されたデータの傾きの予測値B1の初期値は、例えば、次の方法で導出される。データの平滑化の予測値S1の初期値は、S1
1=入力データY1
1(方法A1)、あるいはS1
1=初期N個の入力データの平均値({Y1
1+Y1
2+・・・+Y1
N}/N)等(方法A2)で導出される。
【0050】
平滑化されたデータの傾きの予測値B1の初期値は、B1
1=Y1
2-Y1
1(方法B1)、B2
1={(Y1
2-Y1
1)+(Y1
4-Y1
3)}/2等(方法B2)で導出される。一般に2段指数平滑化処理は、データ処理の開始直後において誤差が大きいという課題があった。その原因の1つは、上記従来の導出方法による初期値が真の初期のデータの平滑化の予測値、真の初期の平滑化されたデータの傾きの予測値との誤差が大きいことにあった。
【0051】
ここでは、所望のN個のデータ入力開始後初期のデータY1
t(t=1、2、・・・、N)を用いて最小2乗法により多項式近似式を導出する。また、初期10個の等時間の間隔の時系列データを使用した。上記で導出された多項式近似式より入力データの直前t=0の仮想データであるデータの平滑化の予測値S1
0、平滑化されたデータの傾きの予測値B1
0を導出する。
【0052】
ここでは、多項式近似式として直線1次式を使用し、データの平滑化の予測値S1
0、平滑化されたデータの傾きの予測値B1
0は、各々、式(15)、式(16)により導出される。
データの平滑化の予測値S1
0 = { 330 Y1
1 + 275 Y1
2 + 220 Y1
3 + 165 Y1
4
+ 110 Y1
5 + 55 Y1
6 + 0 Y1
7 - 55 Y1
8 - 110 Y1
9
- 165 Y1
10 } / 825 式(15)
平滑化されたデータの傾きの予測値B1
0 = { -45 Y1
1 - 35 Y1
2 - 25 Y1
3 - 15 Y1
4
- 5 Y1
5 + 5 Y1
6 + 15 Y1
7 + 25 Y1
8 + 35 Y1
9
+ 45 Y1
10 } / 825 式(16)
また、
図2に記載された2回目の2段指数平滑化処理における、データの平滑化の予測値の初期値S2
1と平滑化されたデータの傾きの予測値の初期値B2
1は、各々、S2
1=S1
1、B2
1=0に設定している。上記の初期値設定方法は、データ入力開始後初期の入力データも誤差が少なく、高精度にデータスムージング処理、データ微分処理できるという効果がある。
【0053】
ここでは、多項式近似式により入力データの直前t=0の仮想データであるデータの平滑化の予測値S1
0、平滑化されたデータの傾きの予測値B1
0を導出したが、t=1等、任意の時間の多項式近似式による各予測値を各初期値として使用しても良い。但し、この場合、t=0の仮想データを用いた場合よりも短時間ステップのデータスムージング処理、データ微分処理等には不利となる。
【0054】
上述のように1回目の2段指数平滑化処理を行い、1回目出力のデータの平滑化の予測値S1
tと平滑化されたデータの傾きの予測値B1
tを得る。次に、1回目出力の平滑化されたデータの傾きの予測値B1
tを2回目の入力データY2
tとして下記式(17)及び式(18)による2回目の2段指数平滑化処理を行うことによって2回目出力のデータの平滑化の予測値S2
tと平滑化されたデータの傾きの予測値B2
tを得る。
【0055】
データの平滑化 :S2
t = α2 Y2
t + (1 - α2) (S2
t-1 + B2
t-1) 式(17)
平滑化されたデータの傾き:B2
t = γ2 (S2
t - S2
t-1) + (1 -γ2) B2
t-1 式(18)
次にデータスムージング処理結果データS1
t、デ−タ1次微分処理結果データS2
t、データ2次微分処理結果データB2
tは、一括あるいは逐次データとして出力される。ここで、2回目の2段指数平滑化における、データの平滑化の平滑化パラメータα2、平滑化されたデータの傾きの平滑化パラメータγ2は、予め任意の定数に設定されている。但し、0<α2<1、0<γ2<1とする。1回目出力の平滑化されたデータの傾きの予測値B1
tも1次微分処理結果に相当するため、これを使用しても良いが、データ結果のばらつきが大きいため、2回目の2段指数平滑化処理により、デ−タスム−ジング処理を行っている。
【0056】
上述のタイプIの応答型2段指数平滑化法および2段指数平滑化処理を2回実施する方法によりデータスムージング処理結果、データ1次微分処理結果、データ2次微分処理結果等における、S/N比の増加と遅延時間の短縮を両立を大きく改善することができた。しかしながら、対象とする系の変化点を1次微分データや2次微分データにより検出し、対象とする装置を更に実時間に近く、更に高精度で制御する場合には、更に時間遅延の短縮や応答性の向上、更に高S/N比の両立等のデータ処理性能を向上を図ることにより対象とする装置の制御精度を向上することができる。
【0057】
このため、
図2の1回目の2段指数平滑化処理において、本実施例のタイプIIの場合は、下記式(19)〜式(24)を用いてデータ処理を行った。
データの平滑化 :S1
t = α1
t Y1
t + (1 - α1
t) (S1
t-1 + B1
t-1) 式(19)
平滑化されたデータの傾き:B1
t = α1
t (S1
t - S1
t-1) + (1 -α1
t) B1
t-1 式(20)
平滑化係数: α1
t = (K - L) F
t+ L 式(21)
応答係数: F
t = 1 - Exp[-δα
t2/(2σ
t2)] 式(22)
相対誤差: δα
t = A1(Y
t - S1
t) + (1 - A1) δα
t-1 式(23)
予測誤差分散: σ
t2 = A1(Y
t - S1
t)
2 + (1 - A1)σ
t-12 式(24)
ここで、K、L、A1は、任意の定数である。但し、1> K> L>0、1>A1>0である。また、σ
tの初期値は、上述の初期値導出方法と同様に入力データにおいて、初期数点のデータを用いた多項式近似の結果と入力データとの誤差の標準偏差より算出した。また、応答係数F
tは、1から確率密度関数(正規分布型関数、ガウス分布型関数)を減算したものである。一般に、誤差は、正規分布となるケースが多い。このため、正規分布を表現する確率密度関数を利用した応答係数F
tとした。これにより誤差を最小化するのに適した平滑化係数をデータ変化に応じて設定することができる。
【0058】
図3Aに示すように例えば、平均0、標準偏差σ=1の正規分布に従う乱数データにおいて、予測値が最もおこり易い値、平均値からのズレ量を定義する。
図3Bには、前記ズレ量/標準偏差σと応答係数F
tとの関係を示す。ここで、N=0、N=1、N=5は、式(5)から式(14)に示したタイプIの応答型2段指数平滑化法における応答係数である。1- PDFは、式(19)〜式(24)に示したタイプIIの確率密度関数を用いた応答型2段指数平滑化法における応答係数である。
【0059】
ここで、PDFは、確率密度関数(Probability Density Function)を示す。1-PDFは、N=5と類似の応答係数の特性を示すが、1-PDFは、N=5と比較してズレ量/標準偏差σ<約1の場合は、応答係数は大きく、ズレ量/標準偏差σ>約1の場合は、応答係数は小さい。この応答特性によりデータスムージング性能(S/N比)とデータ応答性(遅延時間の低減)の両立できる、データスムージング処理、データ微分処理ができるという効果がある。
【0060】
上述の1回目の2段指数平滑化処理において、本実施例のタイプIIIの場合、下記式(25)〜式(32)を用いてデータ処理を行った。
データの平滑化 :S1
t = α1
t Y1
t + (1 - α1
t) (S1
t-1 + B1
t-1) 式(25)
平滑化されたデータの傾き:B1
t = α1
t (S1
t - S1
t-1) + (1 -α1
t) B1
t-1 式(26)
平滑化係数: α1
t = (K - L) F
t+ L 式(27)
応答係数: F
t = 1 - Exp[-δα
t2/(2σ
t2)] 式(28)
相対誤差: δα
t = A1
t(Y1
t - S1
t) + (1 - A1
t) δα
t-1 式(29)
予測誤差分散: σ
t2 = A1
t(Y1
t - S1
t)
2 + (1 - A1
t)σ
t-12 式(30)
応答型加算係数: A1
t = MAX(A1、β
tA1
max) 式(31)
傾き係数 : β
t = 1 - Exp[-B
t2/(2 NN C)
2] 式(32)
ここで、A1
maxは、加算係数の上限値(0<A1
max<1)であり、NNは感度係数で任意の定数である。またCは、上述の初期値導出方法と同様に入力データにおいて、初期数点のデータを用いた1次近似式の結果より算出した傾きである。タイプIIIは、タイプIIに応答型加算係数を導入したものであり、タイプIIIの式(25)〜式(30)は、タイプIIの式(19)〜式(24)とほぼ同じである。入力となる信号出力の傾きの変化の例を
図4に示す。この場合には、初期値の算出期間での初期傾きCを基準として傾きが大きくなり、再び初期と同程度の傾きに変化する。
【0061】
本実施例では、傾きの変化に応じて加算係数を変化させる。式(29)、式(30)より、加算係数A1
tは、指数荷重平均処理の係数に相当する。従って、初期傾きに応じて指数荷重平均処理の係数を変化させる。つまり、初期傾きCと比較し、平滑化データの傾きB1
tが大きくなった場合には、応答型加算係数A1
tを小さくし、実効的に最新のデータの係数の比率が大きくなるようにして応答性を向上させる。応答型加算係数A1
tは、まず式(32)により傾き係数β
tを算出する。
【0062】
傾き係数β
tは、前述の応答係数F
tと同様に確率密度関数(正規分布関数、ガウス型関数)を用いて算出している。応答型加算係数A1
tは、式(31)により通常時に設定値A1を使用し、平滑化データの傾きが大きくなり、設定値A1よりもβ
tA1
maxが大きくなった場合、この値を加算係数として使用する。但し、過度に応答性が良くなることを抑制するため、上限値A1
maxを設定できる。
【0063】
応答型加算係数A1
tの導入により平滑化されたデータの傾きが初期傾きと同程度の傾きの場合、加算係数を設定値に保つ。データの状態の変化を示す平滑化されたデータの傾きが大きくなった場合には、応答型加算係数A1
tを大きくすることにより最新のデータの比重が大きくなるため、データ処理の応答性が更に向上するという効果がある。
【0064】
上述の1回目の2段指数平滑化処理において、本実施例のタイプIVの場合は、下記式(33)〜式(42)を用いてデータ処理を行った。
データの平滑化 :S1
t = α1
t SGB0D
t + (1 - α1
t) (S1
t-1 + B1
t-1) 式(33)
平滑化されたデータの傾き:B1
t = α1
t SGB1D
t + (1 -α1
t) B1
t-1 式(34)
SGB0D
t = (83Y1
t + 54Y1
t-1 + 30Y1
t-2 + 11Y1
t-3 - 3Y1
t-4 - 12Y1
t-5 -16Y1
t-6
- 15Y1
t-7 - 9Y1
t-8 + 2Y1
t-9 + 18Y1
t-10 ) / 143 式(35)
SGB1D
t = (945S1
t + 456S1
t-1 + 67S1
t-2 - 222S1
t-3 - 411S1
t-4 - 500S1
t-5
- 489S1
t-6 - 378S1
t-7 - 167S1
t-8 + 144S1
t-9 + 555S1
t-10) / 4290
式(36)
平滑化係数: α1
t = (K - L) F
t+ L 式(37)
応答係数: F
t = 1 - Exp[-δα
t2/(2σ
t2)] 式(38)
相対誤差: δα
t = A1
t(Y
t - S1
t) + (1 - A1
t) δα
t-1 式(39)
予測誤差分散: σ
t2 = A1
t(Y
t - S1
t)
2 + (1 - A1
t)σ
t-12 式(40)
応答型加算係数: A1
t = MAX(A1、β
tA1
max) 式(41)
傾き係数 : β
t = 1 - Exp[-B
t2/(2 NN C)
2] 式(42)
ここで、SGB0D
tは、非特許文献3に記載の後退型Savitzky-Golay法により、連続した11項の入力データY1
t〜Y1
t-10を使用すると共に最新のデータY1
tの時点におけるデータスムージング処理結果である。同様にSGB1D
tは、後退型Savitzky-Golay法により、連続した11項のデータの平滑化の予測値S1
t〜S1
t-10を使用すると共に最新のデータの平滑化の予測値S1
tの時点における1次微分処理結果である。但し、非特許文献3には、一部誤記等があると思われ、修正し使用した。
【0065】
式(33)、式(34)、式(37)〜式(42)は、前述のタイプIIIの式(25)〜式(32)と概ね同じである。2段指数平滑化法およびタイプIの応答型2段指数平滑化法の基本部分である式(5)、式(6)の意味は、各々、下記式(43)、式(44)である。
データの平滑化 :S1
t = α1
t (入力データ)
t + (1 - α1
t) (S1
t-1 + B1
t-1)
式(43)
平滑化されたデータの傾き:B1
t=γ1
t(データの平滑化の予測値の傾き)
t+(1 -γ1
t)B1
t-1 式(44)
タイプIVでは、式(43)の入力データの替わりに前処理として後退型Savitzky-Golay法を用いてデータスムージング処理した結果を用いている。また、式(44)の平滑化されたデータの予測値の傾きの替わりに前処理として後退型Savitzky-Golay法を用いて1次微分処理した結果を用いている。通常、多項式適合法(Savitzky-Golay法)は、複数の連続したデータを使用し、この連続データの期間の中心点でのデータ処理結果を導出する場合が多い。ここでは、これを中心型Savitzky-Golay法とする。これに対し、最新データの時点におけるデータ処理結果を導出する場合を後退型Savitzky-Golay法とする。
【0066】
中心型Savitzky-Golay法の場合、連続データの中心点でのデータ処理結果を導出するため、データ処理に遅延時間が生じることは避けられない。Savitzky-Golay法は、使用するデータ数が多いほどS/N比は向上するが、中心型では、遅延時間が使用するデータ数とともに増加する。後退型Savitzky-Golay法の場合、最新データの時点におけるデータ処理結果を導出するので、データ処理の遅延はほとんどない。しかし、後退型は中心型よりも、S/N比は低下する。
【0067】
検討の結果、中心型でデータ数5ケの場合と後退型でデータ数11ケの場合を比較した結果、ほぼ同程度のS/N比が得られると分かった。Savitzky-Golay法は、複数データを用いて2次あるいは3次曲線に多項式近似するものであるため、データ数が増加すると、使用したデータ数の期間において3次以上の変化が生じる場合には対応できない。即ち、使用するデータ数が増加すると、高周波成分が欠落するリスクが生じる。
【0068】
以上を鑑みてタイプIVでは、式(33)の入力データに後退型Savitzky-Golay法データ数11ケのデータスムージング処理を使用し、式(34)のデータの平滑化の予測値の傾きに後退型Savitzky-Golay法データ数11ケのデータ1次微分処理値を使用した。このため、本実施例によれば、データ遅延時間を増加させず、また、データ処理の周波数特性を劣化を少なく抑えてデータスムージング処理、データ微分処理のS/N比を向上させる効果がある。タイプIVでは、後退型Savitzky-Golay法データ数11ケを使用したが、要求されるデータ処理性能に応じて他のデータ数を使用したり、あるいは中心型と後退型の中間等の時点でデータ処理を行うSavitzky-Golay法を使用しても良い。
【0069】
更にSavitzky-Golay法以外の前処理として入力データをデータスムージング処理した結果を式(43)の入力データとし、また、データの平滑化の予測値をデータ1次微分処理した結果を式(44)のデータの平滑化の予測値の傾きに使用しても良い。
【0070】
図5は、本発明の第1の実施例に係る有磁場マイクロ波プラズマエッチング装置の縦断面図を示す。本実施例では、有磁場マイクロ波プラズマエッチング装置が
図1の対象とする系6(装置、分析データ等)に相当する。容器7、放電管8、石英板9及び石英窓10で区画された処理室11の内部を排気用開閉バルブ12を開とし、真空排気装置13により減圧する。エッチングガスは、マスフローコントロ−ラ(図示省略)を介してガス配管14を通り、石英板9と石英シャワープレート15の間を通過して石英シャワープレート15のガス孔から処理室11に導入される。処理室11に導入されたエッチングガスは、排気速度可変バルブ16により処理室11内の圧力を所望の圧力に調整される。
【0071】
また、処理室11は、コイル17、18とヨーク19により生成される磁場領域内にある。マグネトロン20から発振された、この場合周波数2.45GHzのマイクロ波は、アイソレータ(図示省略)、パワーモニタ(図示省略)、整合器21を経由して矩形導波管22内を矩形TE10モードで伝播し、円矩形変換器23を経由して円形導波管24内を円形TE11モードで伝播する。その後、マイクロ波は、空洞共振器25に導入され、石英板9、石英シャワープレート15を透過して処理室11内に入射される。処理室11内には、導入される2.45GHzのマイクロ波と電子サイクロトロン共鳴を生じる磁束密度875Gaussの磁場領域が、処理室11の中心軸およびマイクロ波の導入方向に対し垂直に、また、処理室11の中心軸に対する断面方向に対して全面に形成されている。
【0072】
この2.45GHzのマイクロ波と875Gaussの磁場との相互作用により主に生成されたプラズマにより試料台であるウェハ載置用電極26に載置されたウェハ27がエッチング処理される。また、試料であるウェハ27のエッチング形状を制御するため、ウェハ載置用電極26には整合器(図示省略)を介して高周波電源28が接続され、高周波電圧を印加することが可能になっている。また、ウェハ載置用電極26には、チラーユニット(図示省略)が接続され、ウェハ27の温度を制御することができる。
【0073】
処理室11、ウェハ27、ウェハ載置用電極26は、各々同軸に配置されている。また、エッチングガスを導入する石英シャワープレート15のガス孔領域、真空排気部である排気用開閉バルブ12、排気速度可変バルブ16、真空排気装置13も処理室11に対し各々同軸に配置されている。このため、ウェハ27上でのガス流れは同軸対称である。磁場を生成するコイル17、18、ヨーク19も処理室11に対して同軸に配置されているため、処理室11内の磁場プロファイル、磁束875Gaussの電子サイクロトロン共鳴領域は処理室11に対し同軸に形成される。また、円形導波管24、空洞共振器25も処理室11に対し同軸に配置されているため、処理室11に導入されるマイクロ波も処理室11に対し同軸に導入される。
【0074】
磁場が処理室11に対し同軸に生成され、マイクロ波も処理室11に対し同軸に導入されるため、磁場とマイクロ波との相互作用によって形成されるプラズマは、処理室11に対し同軸に生成される。これにより、プラズマ中の電子やイオンは、ウェハ27に対し同軸に輸送される。また、エッチングガスの流れも処理室11に対し同軸であるため、プラズマにより生成されたラジカルやウェハ27のエッチングによる反応生成物もウェハ27に対し同軸に導入、排気される。従って、エッチングレートや材料選択比やエッチング形状等のエッチングプロセス処理性能をウェハ面内で均一性良くエッチング処理することができる。
【0075】
処理室11で生成されたプラズマからであり処理室11側方からの発光は、石英窓10及び光ファイバー29を通過して分光器30に導入され、光強度の波長依存性の時系列データとして出力される。また、処理室11上方からのプラズマからの発光は、石英シャワープレート15、石英板9、空洞共振器25、円形導波管24、円矩形変換器23及び光ファイバー31を通過して分光器32に導入され、光強度の波長依存性の時系列データとして出力される。
【0076】
処理室11には、エッチングガスおよびウェハ27からのエッチング反応生成物が導入され、これらがマイクロ波と磁場の相互作用により、解離し、プラスマを生成する。このため、処理室11で生成されたプラズマからの発光には、エッチングガスおよびエッチング反応生成物の構成される原子、分子、ラジカルおよびこれらの反応物の情報が含まれている。
【0077】
例えば、パターンマスクの下方にpoly-Si膜とSiO
2膜が配置されたSi基板の代表的なpoly-Siエッチングでは、下地SiO2と高選択比でPoly-Siエッチングすることが要求される。エッチングガスは、ハロゲン系ガスが使用され、エッチング反応生成物には、被エッチング材料であるSiとハロゲンが含まれる。エッチング反応生成物は、プラズマにより再解離されるため、プラズマからのSiに起因した波長288nmの発光の光強度を分光器30あるいは分光器32でモニタする。
【0078】
この場合、poly-Si膜のエッチングが終了し、下地SiO2が出現した場合、下地SiO2のエッチレートは小さいため、Siに起因した波長288nmのプラズマ発光強度が急激に減少し、遂には一定値に近づく。このプラズマ発光の変化をモニタしてエッチング処理の終点検出を行う。
【0079】
処理室11側方からのプラズマの発光には、エッチングガスとエッチング反応生成物の情報が含まれるが、処理室11上方からのプラズマの発光には、上記情報に加え、プラズマ光がウェハ27の膜構造および段差構造で干渉を生じるため、ウェハ27の膜構造および段差構造の情報も含んでいる。このプラズマの発光データを解析することによりエッチング中の膜厚、エッチング深さなどをモニタすることができる。本実施例では、簡単のために処理室11側方からのプラズマの発光データをエッチング終点モニタに使用した。
【0080】
エッチング終点検出のための代表的なデータ処理フローを
図6に示す。入力デ−タY1
tは、エッチング中のプラズマ発光強度の変化を模擬した式(45)の評価関数で作成した。
【0081】
Y1
t =H/[1+exp{ -A(t - T)}]+C t+D+F (R - 0.5) 式(45)
ここで、H、A、T、C、D、Fは、任意の定数、Rは0〜1の乱数である。上記評価関数を使用すれば、データスムージング処理、1次微分処理、2次微分処理の解析的な真値が既知であるため、種々のデータ処理方法において、真値との絶対誤差、データ処理に伴なう遅延時間、S/N比(シグナル/ノイズ比)等のデータ処理性能を比較、評価することができる。
【0082】
図6に示すようにエッチング終点のための代表的なデータ処理フローは、
図6(A)に示すような入力データ波形を
図6(B)に示すようにデータスムージング処理を行った後、
図6(C)に示すように1次微分処理、
図6(D)に示すように2次微分処理を行う。ノイズが多く含まれる入力データは、データスムージング処理により変化点が明瞭となる。この変化点を1次微分処理ではピーク値の点(時間)として2次微分処理ではゼロクロスする点(時間)として検出する。ゼロクロスする点(時間)を基準にエッチング終点を判断し、エッチング装置を制御し、高精度のエッチング処理を行う。
【0083】
変化点は、1次微分処理のピーク、2次微分処理のゼロクロスによって順次、より明確により簡便に判断できるが、シグナル強度の絶対値は、順次小さくなる。このため、S/N比の高いデータ処理が重要となる。特に、被エッチング面積が小さい低開口率のマスクパターンのエッチングの場合は、エッチング終点前後のプラズマ発光強度の変化が小さいため、更に高S/N比のデータ処理が必要となる。
【0084】
一般にデータスムージング処理、データ微分処理では、S/N比が高くなると、遅延時間が長くなり、真値との絶対誤差が大きくなる。つまり、S/N比と遅延時間、絶対誤差は、トレードオフ関係となっており、S/N比、遅延時間、絶対誤差を同時に満足する、データスムージング処理、データ微分処理が必要である。
【0085】
本実施例では、
図2のデータスムージング処理、データ微分処理フローを用いて
図6のデータ処理を行う。また、
図6の入力データは、
図5の有磁場マイクロ波プラズマエッチング装置におけるエッチング中のプラズマ発光をモニタする分光器30からの出力データに相当する。
図5に示すように有磁場マイクロ波エッチング装置をシステムとして制御するシステム制御装置33(データ入出力装置、データ処理装置、データ表示装置等を含む)と本実施例のデータ処理装置1とが設けられている。データ処理装置1は、システム制御装置33の一部として、組み込まれても良い。
【0086】
分光器30、分光器32からの出力データは、データ処理装置1に伝送される。データスムージング処理結果、データ1次微分結果、データ2次微分結果は、制御装置であるシステム制御装置33に伝送される。このデータスムージング処理結果、データ1次微分結果、データ2次微分結果に基づいてシステム制御装置33はエッチング終点判定を行い、有磁場マイクロ波エッチング装置をシステムとして制御する。エッチング終点判定では、主にプラズマ生成を制御するため、
図5において、システム制御装置33は、マグネトロン20、高周波電源28への接続が図示されている。また、
図5での図示は省略したが、システム制御装置33は、システムを構成する他の機器にも接続されている。
【0087】
図7は、本発明の実施例のデータ処理装置1において、
図2のデータ処理フローを用い、式(33)〜式(42)のタイプIVの応答型2段指数平滑化法を用いた場合のデータ処理結果である。
図8は、式(5)〜式(14)のタイプIの応答型2段指数平滑化法において、N=0とした場合のデータ処理結果である。また、
図9は、
図8と同様でN=1とした場合のデータ処理結果である。
図10は、
図8と同様でN=5とした場合のデータ処理結果である。
【0088】
図7〜
図10において、(A)は、入力データ(Y1
t)とデータスムジング処理結果(S1
t)を示し、(B)は、1次微分処理結果(B1
t)を示し、(C)は、1次微分スムージング処理結果(S2
t)を示し、(D)は、2次微分処理結果(B2
t)を示す。また、
図7〜
図10の入力データは、同一のものを使用した。
【0089】
図7〜
図10を比較すると、まず(A)のデータスムージング処理において、本発明のタイプIVの実施例である
図7(A)は、タイプIの、
図8(A)、
図9(A)、
図10(A)よりもデータスムージング処理結果が入力データの変化に追随しており、オーバーシュート等が少なく、さらに応答性が良く、誤差が小さいことが分かる。次に(C)の1次微分スムージング処理において、本発明のタイプIVの実施例である
図7(C)は、タイプIの、
図8(C)、
図9(C)、
図10(C)よりも1次微分のピークの時間が早く、また波形の半値幅も小さい。このため、データ処理の遅延時間が小さく、応答性が良いことが分かる。
【0090】
(D)の2次微分処理において、本発明のタイプIVの実施例である
図7(D)は、タイプIの、
図8(D)、
図9(D)、
図10(D)よりも、2次微分のゼロクロスの時間が早く、また、2次微分波形の全体の幅も小さい。さらに波形もなめらかで、2次微分の信号強度も大きい。このため、データ処理の遅延時間が小さく、応答性が良く、S/N比も良いことが分かる。数値で比較すると、本発明のタイプIVの実施例である
図7(D)、タイプI(N=0)の
図8(D)、タイプI(N=1)の
図9(D)、タイプI(N=5)の
図10(D)の順で各々の2次微分波形のS/N比は、1862、68、621、957である。
【0091】
遅延時間は、2次微分波形のゼロクロス時間において、本発明の実施例である
図7(D)は、タイプI(N=0)の
図8(D)よりも3.9秒早く、タイプI(N=1)の
図9(D)よりも1.6秒早く、タイプI(N=5)の
図10(D)よりも0.9秒早く、遅延時間が短縮されている。このため、本発明の実施例では、遅延時間とS/N比がともに、タイプIよりも性能向上しており、遅延時間短縮(応答性向上)とS/N比向上を両立させる効果がある。
【0092】
従って、エッチング終点判定の基準となる1次微分のピークの点(時間)、2次微分のゼロクロスの点(時間)を明瞭に検出することができることが分かる。このため、本発明の実施例によれば、絶対値誤差が小さく、S/N比が高く、遅延時間が短い、データスムージング処理、データ微分処理をリアルタイムで逐次処理できるという効果がある。
【0093】
また、(B)1次微分処理において、本発明のタイプIVの実施例である
図7(B)は、タイプIの、
図8(B)、
図9(B)、
図10(B)よりも波形がなめらかである。これは、後退型Savitzky-Golay法による前処理の効果である。このため、
図2の処理フローにおいて、2回目の入力データとなる、1回目の出力データ(S1
t)、(B1
t)がなめらかな波形であるため、2回目の2段指数平滑化の平滑化係数を大きくすることができる。これにより、2回目の出力である、1次微分スムージング結果(S2
t)と2次微分処理結果(B2
t)の遅延時間を短縮し、応答性を向上させることができる。
【0094】
また、データスムージング処理結果およびデータ1次微分処理結果のみが必要な場合には、本実施例によれば、後退型Savitzky-Golay法による前処理の効果により1回目の2段指数平滑化処理によって1次微分のなめらかな波形が得られるため、2回目の2段指数平滑化処理を実施せずに1回目の出力データ(S1
t)、(B1
t)を用いても良い。この場合、データ処理プログラムが簡単となり、データ処理速度が向上するという効果がある。
【0095】
更に式(5)〜式(14)に示すタイプIの応答型2段指数平滑化法に後退型Savitzky-Golay法を適用した場合をタイプVとし、下記式(46)〜式(57)に示す。
データの平滑化 :S1
t = α1
t SGB0D
t + (1 - α1
t) (S1
t-1 + B1
t-1) 式(46)
平滑化されたデータの傾き:B1
t = γ1
t SGB1D
t + (1 -γ1
t) B1
t-1 式(47)
SGB0D
t = (83Y1
t + 54Y1
t-1 + 30Y1
t-2 + 11Y1
t-3 - 3Y1
t-4 - 12Y1
t-5 -16Y1
t-6
- 15Y1
t-7 - 9Y1
t-8 + 2Y1
t-9 + 18Y1
t-10 ) / 143 式(48)
SGB1D
t = (945S1
t + 456S1
t-1 + 67S1
t-2 - 222S1
t-3 - 411S1
t-4 - 500S1
t-5
- 489S1
t-6 - 378S1
t-7 - 167S1
t-8 + 144S1
t-9 + 555S1
t-10) / 4290 式(49)
平滑化係数: α1
t = (K
α-L
α) F
α+ L
α 式(50)
応答係数: F
αt = (|δα
t/Δα
t|+φ)
N 式(51)
相対誤差: δα
t = A1(Y1
t - S1
t) + (1 - A1) δα
t-1 式(52)
絶対誤差: Δα
t = A1 |Y1
t - S1
t| + (1 - A1) Δα
t-1 + φ 式(53)
平滑化係数: γ1
t = (K
γ-L
γ) F
γ+ L
γ 式(54)
応答係数: F
γt = (|δγ
t/Δγ
t|+φ)
N 式(55)
相対誤差: δγ
t =A2{(S1
t - S1
t-1)- B1
t}+(1 - A2)δγ
t-1 式(56)
絶対誤差: Δγ
t =A2|(S1
t - S1
t-1)- B1
t|+(1 - A2) Δγ
t-1+φ 式(57)
タイプVの場合は、タイプIVよりも応答性等は劣るが、データ処理プログラムが簡単となると言う効果がある。要求されるデータ処理の性能に応じて必要なレベル、複雑さの方式を選択すれば良い。
【0096】
更に式(19)〜式(24)に示すタイプIIの応答型2段指数平滑化法に後退型Savitzky-Golay法を適用した場合をタイプVIとし、下記式(58)〜式(65)に示す。
データの平滑化 :S1
t = α1
t SGB0D
t + (1 - α1
t) (S1
t-1 + B1
t-1) 式(58)
平滑化されたデータの傾き:B1
t = α1
t SGB1D
t + (1 -α1
t) B1
t-1 式(59)
SGB0D
t = (83Y1
t + 54Y1
t-1 + 30Y1
t-2 + 11Y1
t-3 - 3Y1
t-4 - 12Y1
t-5 -16Y1
t-6
- 15Y1
t-7 - 9Y1
t-8 + 2Y1
t-9 + 18Y1
t-10 ) / 143 式(60)
SGB1D
t = (945S1
t + 456S1
t-1 + 67S1
t-2 - 222S1
t-3 - 411S1
t-4 - 500S1
t-5
- 489S1
t-6 - 378S1
t-7 - 167S1
t-8 + 144S1
t-9 + 555S1
t-10) / 4290 式(61)
平滑化係数: α1
t = (K - L) F
t+ L 式(62)
応答係数: F
t = 1 - Exp[-δα
t2/(2σ
t2)] 式(63)
相対誤差: δα
t = A1(Y1
t - S1
t) + (1 - A1) δα
t-1 式(64)
予測誤差分散: σ
t2 = A1(Y1
t - S1
t)
2 + (1 - A1)σ
t-12 式(65)
タイプVIの場合もタイプIVよりも応答性等は劣るが、データ処理プログラムが簡単となると言う効果がある。また、タイプVにおいてN=0の場合は、平滑化係数が固定の2段指数平滑化法に後退型Savitzky-Golay法を適用した方式となり、最も簡単となる。要求されるデータ処理の性能に応じて必要なレベル、複雑さの方式を選択すれば良い。
【0097】
タイプIIは、タイプIの応答型2段指数平滑化法に確率密度関数を用いたデータ応答型平滑化係数を導入したものである。また、タイプIIIは、タイプIIにデータ応答型加算係数を導入したものである。更にタイプIVは、タイプIIIに後退型Savitzky-Golay法の前処理を導入したものである。タイプVと同様に各々の改善要素である、確率密度関数を用いたデータ応答型平滑化係数、データ応答型加算係数を個別にタイプIの応答型2段指数平滑化法に適用しても良い。また、確率密度関数を用いたデータ応答型平滑化係数、データ応答型加算係数、後退型Savitzky-Golay法を適宜、組合わせてタイプIの応答型2段指数平滑化法に適用しても良い。前述と同様に要求されるデータ処理の性能に応じて必要なレベル、複雑さの方式を選択すれば良い。
【実施例2】
【0098】
上述のようにデータスムージング処理、データ微分処理において、S/N比性能向上とデータ応答性能向上(遅延時間短縮)は、トレードオフ関係である。このため、上述したタイプIの応答型2段指数平滑化法、あるいは本実施例に記載したタイプII、タイプIII、タイプIV、タイプV、タイプVI等のデータスム-ジング処理方法およびデータ微分処理方法では、データ処理の対象である入力データに応じて各データ処理方法のパラメータを最適化する必要がある。
【0099】
従来は、データ処理のパラメータを順次変更し、データ処理を行い、各データスムージング波形、データ微分波形、およびS/N比、遅延時間等の数値データを総合的に俯瞰し、最適なパラメータを見出していた。しかしながら、上述の方法では、最適なパラメータを見出すのに長時間を要し、また最適なパラメータを見出す時間短縮等には、データ処理の知識や経験が必要等の課題があった。
【0100】
また、非特許文献3には、1段指数平滑化法において、1期先予測値の誤差の総和を最小とすることにより最適な平滑化パラメータを推定する方法が開示されている。しかし、この方法では、予測値の曲線のなめらかさについて配慮されていないため、変化点を検出する1次微分処理、2次微分処理において、ノイズが大きく、S/N比が良くないという課題があった。
【0101】
このため、入力データをデータスムージング処理、データ微分処理するのに最適なパラメータを簡便かつ短時間に自動で見出すことができる方法を以下に示す。
【0102】
まず、下記式(66)の評価関数Wを使用する。
【0103】
評価関数W=平均二乗誤差(E)+係数λ×2次微分の二乗平均(D) 式(66)
ここで、平均二乗誤差であるEは、入力データとデータスムージング処理結果の平均二乗誤差であり、入力データに対する、データスムージング処理結果の適合度を評価する。2次微分の二乗平均であるDは、データスムージング処理波形の曲線のなめらかさを評価する。係数λは、任意の数値で、上記の入力データに対する適合度評価と曲線のなめらかさ評価の重要度の比率を調整する。
【0104】
入力データに対するデータスムージング処理結果の適合度が大きいほど、オーバーシュート等が無く、かつ、データ処理の応答性が良く、かつ、データ処理の遅延時間が小さい。また、データスムージング処理波形がなめらかな曲線である程、データ1次微分処理波形、データ2次微分処理波形は、なめらかな曲線となる。その結果、データ1次微分処理とデータ2次微分処理の各々のS/N比が向上する。曲線のなめらかさは、データスムージング処理波形の2次微分の二乗平均Dで評価するが、ここでは差分法で2次微分を算出した。
【0105】
2次微分の二乗平均Dは、直線に近づくほど、小さな値となる。従って、単に2次微分の二乗平均Dが小さいだけでなく、平均二乗誤差Eが小さい値であり、かつ、入力データに対するデータスムージング処理結果の適合度も良く両者が両立した場合、S/N比が良く、データ処理の応答性が良い(遅延時間が少ない)最適なデータ処理となる。本実施例で使用した評価関数Wを下記式(67)に示す。
【0106】
W=Σ(Y1
t - S1
t)
2 / N+λ×Σ{(S1
t+1 - 2×S1
t + S1
t+1)/ΔT
2 }
2 / N
式(67)
ここで、Nはデータ数、ΔTは入力データのサンプリング時間(時間間隔)である。データスムージング処理、データ微分処理の最適パラメータは、評価関数Wが最小値となるように、最急降下法等の勾配法等を用いて導出する。評価関数Wの特性を2次元グラフで示すため、簡単なタイプIの応答型2段指数平滑化法の場合を例に
図11〜
図13を用いて説明する。但し、入力データは、
図7〜
図10で使用した入力データと類似しているが、違うデータを使用した。
【0107】
図11は、タイプIの応答型2段指数平滑化法の1つのパラメータを順次変化させた場合における、入力データ(Y1
t)及びデータスムージング処理結果(S1
t)を示す(A)と2次微分処理結果(B2
t)を示す(B)とからなる図である。パラメータ1、2、3、4の順に数値は大きい。最も数値が大きいパラメータ4の場合、入力データ波形とデータスムジング波形はほぼ一致し、適合度が良いことがわかる。しかし、2次微分波形は、ゼロクロスの時間が早く、応答性は良いが、ノイズが多く、S/N比が良くないことが分かる。一方、数値が最も小さいパラメータ1の場合、入力波形に対してデータスムージイング波形はオーバーシュートがあり、適合度は良く無く、応答性が良くないことが分かる。また、2次微分波形は、ノイズが小さいが、信号強度も小さく、また、ゼロクロスの時間が遅く、遅延時間が大きいことが分かる。
図11の場合、(B)の2次微分処理波形からは、S/N比と遅延時間を両立しているのは、パラメータ2の場合と判断できる。
【0108】
図12は、
図11の場合において、平均二乗誤差E、2次微分の二乗平均Dおよび評価関数Wのパラメータ依存性を示した図である。また、
図11に対応するパラメータの位置を矢印で図示している。また、×印は、最急降下法等の勾配法等を用いて自動的に導出した評価関数Wが最小値となるパラメータの位置と評価関数Wの数値の位置を示したものである。
図13は、
図12における、評価関数Wを用いて自動で導出した×印の位置のパラメータを使用した場合の、入力データ(Y1
t)及びデータスムージング処理結果(S1
t)を示す (A)と2次微分処理結果(B2
t)を示す(B)とからなる図である。
【0109】
図12に示すようにパラメータの数値が増加するとともに平均二乗誤差Eは減少し、2次微分の二乗平均Dは増加することが分かる。この結果、評価関数Wは、最小値を有することが分かる。この結果、評価関数Wの最小値を求めることによりS/N比と応答性を両立するパラメータを見出すことができることが分かる。
図11に示す定性的なデータ処理波形の特性のパラメータ依存性を
図12において定量的に示している。
【0110】
図12に示す×印のパラメータの最適値は、パラメータ2とほぼ一致する。また、
図13に示すデータスムジング処理波形及びデータ2次微分処理波形は、
図12のパラメータ2のデータスムージング処理波形とデータ2次微分処理波形と各々ほぼ一致していることが分かる。
【0111】
本実施例では、説明の都合上、1つのパラメータを変化させた場合について説明したが、複数のパラメータを最急降下法等の勾配法等を用いて導出することができる。この場合、局所最小値(最適値)の有無等を配慮し、パラメータの初期値および探索範囲を検討する必要がある。また、実施例では、説明の都合上、簡単なタイプIの応答型2段指数平滑化法の場合について説明したが、上述のタイプII、タイプIII、タイプIV、タイプV、タイプVIのデータ処理方式、あるいは1段指数平滑化法(指数加重移動平均:EWMA)、応答型1段指数平滑化法、ローパスフィルタ、カルマンフィルタ等のその他のデータスムージング処理、あるいは差分法等によるデータ微分処処理においても同様に評価関数Wを最小化することによってS/N比と応答性を両立する最適なパラメータを簡便に見出すことができる。
【0112】
また、本実施例では、式(66)および式(67)の2次微分の二乗平均Dにデータスムージング処理結果の2次微分値を使用したが、1次微分処理結果あるいは2次微分処理結果の2次微分の二乗平均を用いても良い。この場合は、各々、1次微分波形の曲線のなめらかさ、2次微分波形の曲線のなめらかさを直接、評価することになる。この場合、データスムージング処理結果と比較して1次微分処理結果、2次微分処理結果は、順に、数値の絶対値が小さくなるため、式(66)および式(67)の係数λを大きくする等の調整が必要である。
【0113】
非特許文献3に記載された、式(1)〜式(4)に示す応答型1段指数平滑化法では、現在の時間tでの入力データY1
tと現在時間tでのデータ平滑化の予測値S1
tを用いて1期先の時間t+1でのデータ平滑化の予測値S
t+1を導出している。一方、タイプI〜タイプVIの実施例では、現在時間tでの入力データY1
tと1期前の時間t-1でのデータ平滑化の予測値S1
t-1を用いて現在の時間tでのデータ平滑化の予測値S1
tを導出している。前者は、「1期先予測」、後者は「現在推定」と呼ぶことができる。タイプI〜タイプVIの実施例の場合でもS1
t-1→S1
t、S1
t→S1
t+1等の変換により「1期先予測」に変更しても良い。
【0114】
但し、一般に「現在推定」の方が「1期先予測」よりもデータ平滑化の予測値の精度が良い。また、非特許文献3には、「1期先予測」の1段指数平滑化法において、1期先予測値の誤差の総和を最小とすることにより最適な平滑化パラメータを推定する方法が開示されている。
【0115】
「現在推定」の場合には、平滑化係数を1とすると、Y1
t=S1
tとなり、誤差あるいは平均2乗誤差がゼロとなるため、最急降下法等を用いて最適な平滑化パラメータと推定することができない。しかし、実施例で示したように「現在推定」であっても平均二乗誤差と曲線のなめらかさを考慮した式(66)の評価関数Wを用いることにより最適な平滑化パラメータを導出することができる。
【0116】
本実施例によれば、入力データをデータスムージング処理、データ微分処理するのに最適なパラメータを短時間でデータ処理の知識や経験に頼ることなく、自動で見出すことができる効果がある。これにより、一般ユーザが使い勝手が良く、即ち、ユーザビリティが良い、データ処理装置、データ処理方法および処理室を制御する制御装置とを備える処理装置を提供することができる効果がある。
【0117】
以上、本発明は、特に短時間のエッチングプロセスや短時間での変化を伴うエッチングの終点検出等に有効である。半導体デバイスの高集積化、微細化に伴なって半導体エッチングでは、多層薄膜をエッチングする工程が増加しており、短時間のエッチングプロセス、短時間での変化を伴うエッチングステップでのエッチング終点検出が重要となっている。
【0118】
この短時間プロセス及び短時間変化プロセス対応は、本発明によるS/N比向上と応答性向上の両立した総合性能の向上により、明瞭な1次微分波形、2次微分波形を検出することができるようになる。このことにより、高精度にエッチング終点判定が可能となり、これに基づきプラズマ処理室でのプロセスを制御することによって半導体ウェハを安定した性能で高精度に微細加工できるようになった。
【0119】
以上、上述した実施例では、マイクロ波プラズマエッチング装置におけるエッチングの終点検出に適用して高精度にエッチングを行う場合について詳述したが、他のプラズマ生成方式(誘導結合型、平行平板型等)のエッチング装置および成膜装置、あるいは他の分野の処理装置およびその他の装置等においても装置等から得られる数値データを入力として本発明のデータ処理装置およびデータ処理方法を適用することによって装置の状態を監視し、状態の変化点を高精度に検出することができる。このため、対象とする装置を高精度に制御できるという効果がある。またその他の装置の制御においても、同様の作用効果がある。
【0120】
また、需要供給予測等の経済や金融分野でも本発明のデータ処理装置およびデータ処理方法を適用することにより高精度にデータを分析することができるという効果がある。
【0121】
さらに本発明は、逐次デ−タ処理において、デ−タスム−ジング処理、デ−タ微分処理を高S/N比でデ−タ遅延が小さく、また、データ処理開始初期の期間も信頼性が高いデ−タ処理を行うことができる。
【0122】
また、本発明は、データスムージング値、1次微分値、2次微分値が高いS/N比、短い遅延時間、あるいは、データ処理開始の初期も高い信頼性で逐次、リアルタイムに得られる。さらに、本発明は、このデータスムージング値、1次微分値、2次微分値を用いて対象とする系を高精度に制御することができる。
【0123】
なお、本発明は、上述した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0124】
また、実施例1および実施例2において、「スムージング」と「平滑化」が混在しているが、実施例1および実施例2における、「スムージング」と「平滑化」は、同義語として使用している。