特許第6553471号(P6553471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553471
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】電極付き基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/26 20060101AFI20190722BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190722BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   H05B33/26 Z
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-191962(P2015-191962)
(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-68994(P2017-68994A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢倉 健
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−177615(JP,A)
【文献】 特開2012−227460(JP,A)
【文献】 特開2015−095293(JP,A)
【文献】 特表2009−505358(JP,A)
【文献】 特開2014−116103(JP,A)
【文献】 特開2013−219025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/26
H05B 33/10
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ構造体を含む第1塗布液を、基板上に塗布して透明電極部となるべき第1塗布膜領域を形成すると共に、前記第1塗布液と同じ材料を含む第2塗布液を、塗布して配線部となるべき第2塗布膜領域を形成する塗布工程と、
前記第1塗布膜領域及び前記第2塗布膜領域を乾燥することによって、前記配線部及び前記透明電極部を含む電極を得る乾燥工程と、
を備え、
前記塗布工程では、複数の区画を画成する配線部用パターンで前記基板上に前記第2塗布液を塗布することによって、前記配線部用パターンを有する前記第2塗布膜領域を形成すると共に、前記基板上において各前記区画に対応する領域に前記第1塗布液を塗布して、複数の前記第1塗布膜領域を形成し、
前記配線部の表面抵抗値が、前記透明電極部の表面抵抗値より小さくなるように、前記配線部及び前記透明電極部の厚さを制御する
電極付き基板の製造方法。
【請求項2】
前記複数の区画のうち隣接する区画の中心を含む平面で前記第2塗布膜領域を切断した場合の断面において、前記第2塗布膜領域の幅は0.5mm以上であるように、前記第2塗布液を前記基板上に塗布する、
請求項に記載の電極付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記複数の区画のうち隣接する区画の中心を含む平面で前記第2塗布膜領域を切断した場合の断面において、隣接する前記第2塗布膜領域の距離が5mm以上であるように、前記第2塗布液を前記基板上に塗布する、
請求項1又は2に記載の電極付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記配線部の表面抵抗値をR1とし、前記透明電極部の表面抵抗値をR2としたとき、(R1/R2)が0.5以下となるように、前記配線部及び前記透明電極部の厚さを制御する、
請求項1〜3の何れか一項に記載の電極付き基板の製造方法。
【請求項5】
前記第1塗布膜領域及び前記第2塗布膜領域の厚さと、前記乾燥工程での乾燥時間との少なくとも一方を制御することによって、前記配線部及び前記透明電極部の厚さを制御する、
請求項1〜4の何れか一項に記載の電極付き基板の製造方法。
【請求項6】
前記透明電極部の厚さは、5nm以上1000nm以下であり、
前記配線部の厚さは、前記透明電極部の厚さの2倍以上であって2000nm以下であるように、前記第1塗布膜領域及び前記第2塗布膜領域の厚さと、前記乾燥工程での乾燥時間との少なくとも一方を制御する、
請求項1〜5の何れか一項に記載の電極付き基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1塗布液及び前記第2塗布液をインクジェット印刷法により前記基板上に塗布する、
請求項1〜6の何れか一項に記載に電極付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極付き基板、電極付き基板の製造方法及び有機ELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の技術として特許文献1に記載されている配線付き基板がある。特許文献1に記載の配線付き基板では、基材上に、透明導電性部材が設けられ、透明導電性部材に、金属細線が接続されている。透明導電性部材は、光を透過する一方、金属細線は光を透過しないように構成されていることから、透明導電性部材が透明電極部として機能し、金属細線は、配線付き基板に設けられている配線部材からの電力を透明導電性部材に供給する配線部として機能している。特許文献1において、透明導電性部材及び金属細線の材料は異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/05350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているように、透明電極部として機能する透明電性部材及び配線部として機能する金属細線の材料が異なっていると、それらの密着性が低減する、或いは、電蝕が生じ得る。透明電極部と金属細線とを含む電極に電力を供給した際、電極内で電力損失が大きくなる恐れがある。
【0005】
そこで、本発明は、電極に電力を供給した際に電極内での損失を低減可能な電極付き基板、電極付き基板の製造方法、及び、有機ELデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る電極付き基板は、基板と、基板上に設けられている電極とを備える。上記電極は、複数の区画を画成する所定パターンを有する配線部と、各区画内に配置されていると共に、金属ナノ構造体を含む透明電極部と、を有し、上記透明電極部と上記配線部は接続されており、上記透明電極部及び上記配線部の材料は同じである。
【0007】
この場合、配線部が透明電極部に接続されているため、配線部を介して透明電極部に電力を供給できる。透明電極部と配線部とが同じ材料で構成されていることから、透明電極部と配線部との密着性が向上しているので、透明電極部と配線部との接続部において損失を低減し得る。また、透明電極部及び配線部の材料が同じであることから、配線部を介して透明電極部に電力を供給しても透明電極部と配線部と接続部において電蝕が生じにくい。よって、この観点でも透明電極部と配線部との接続部において損失を低減し得る。したがって、電極付き基板では、透明電極部及び配線部を有する電極に電力を供給しても、電極内での損失を低減し得る。
【0008】
上記複数の区画のうち隣接する区画の中心を含む平面で上記電極を切断した場合の断面において、隣接する上記配線部の距離は5mm以上であり、上記配線部の幅は0.5mm以上であってもよい。
【0009】
上記配線部の表面抵抗値は、上記透明電極部の表面抵抗値より小さくてもよい。これにより、配線部を介して透明電極部に電力損失を抑えながら電力を供給できる。
【0010】
上記配線部の表面抵抗値をR1とし、上記透明電極部の表面抵抗値をR2としたとき、(R1/R2)が0.5以下であってもよい。この場合、電力損失をより一層抑えながら配線部を介して透明電極部に電力を供給できる。
【0011】
上記透明電極部の厚さは、5nm以上1000nm以下であり、上記配線部の厚さは、上記透明電極部の厚さの2倍以上であって2000nm以下であってもよい。
【0012】
透明電極部の厚さが5nm以上1000nm以下であることにより、配線部と同じ材料で構成されていても、光が透明電極部を透過できる。一方、配線部の厚さが、上記透明電極部の厚さの2倍以上であることで、配線部の表面抵抗値を透明電極部の表面抵抗値の1/2以下にできている。よって、透明電極部における光透過性を確保しながら、電力損失をより一層抑えながら電力を配線部を介して透明電極部に供給できる。配線部が2000nm以下であることで、例えば、インクジェット印刷法を利用して配線部及び透明電極部を、電極付き基板の生産性を確保しながら好適に形成できる。
【0013】
金属ナノ構造体を含む第1塗布液を、複数の区画を画成する配線部用パターンで基板上に塗布して第1塗布膜領域を形成すると共に、上記第1塗布液と同じ材料を含む第2塗布液を、上記基板上において各上記区画に対応する領域に塗布して第2塗布膜領域を形成する塗布工程と、上記第1塗布膜領域及び上記第2塗布膜領域を乾燥することによって、上記配線部用パターンを有する配線部及び各上記区画内に配置される透明電極部を含む電極を得る乾燥工程と、を備える。
【0014】
上記製造方法では、同じ材料からなる配線部と透明電極部を基板上に容易に形成できる。透明電極部は、配線部用パターンで画成される区画内に形成される第2塗布膜領域が乾燥したものであるため、配線部と透明電極部は接続されている。よって、配線部と透明電極部は一つの電極を構成している。そして、製造された電極付き基板では、透明電極部と配線部が同じ材料を有するので、それらの密着性が向上しており、また、透明電極部と配線部と接続部において電蝕が生じにくい。したがって、上記製造方法では、配線部と透明電極部とを有する電極に電力を供給しても、配線部と透明電極部の接続部において電力損失が生じにくい。
【0015】
上記配線部用パターンは、上記複数の区画のうち隣接する区画の中心を含む平面で上記電極を切断した場合の断面において、隣接する上記配線部の距離が5mm以上であり、上記配線部の幅が0.5mm以上であるような、パターンであり得る。
【0016】
上記配線部の表面抵抗値が、上記透明電極部の表面抵抗値より小さくなるように、上記配線部及び上記透明電極部の厚さを制御してもよい。
【0017】
透明電極部及び配線部は同じ材料を含んでいることから、表面抵抗値の差は、厚さの差に依存する。よって、上記配線部及び上記透明電極部の厚さを制御することで、配線部の表面抵抗値が、上記透明電極部の表面抵抗値より小さい、電極付き基板を製造できる。
【0018】
上記配線部の表面抵抗値をR1とし、上記透明電極部の表面抵抗値をR2としたとき、(R1/R2)が0.5以下となるように、上記配線部及び上記透明電極部の厚さを制御してもよい。
【0019】
上記第1塗布膜領域及び上記第2塗布膜領域の厚さと、上記乾燥工程での乾燥時間との少なくとも一方を制御することによって、上記配線部及び上記透明電極部の厚さを制御してもよい。
【0020】
上記透明電極部の厚さは、5nm以上1000nm以下であり、上記配線部の厚さは、上記透明電極部の厚さの2倍以上であって2000nm以下であるように、上記第1塗布膜領域及び上記第2塗布膜領域の厚さと、上記乾燥工程での乾燥時間との少なくとも一方を制御してもよい。
【0021】
上記第1塗布液及び上記第2塗布液をインクジェット印刷法により上記基板上に塗布してもよい。インクジェット印刷法を利用することで、所望のパターンで第1塗布液及び上記第2塗布液を基板に塗布し易い。
【0022】
有機ELデバイスであって、本発明の一側面に係る電極付き基板と、上記電極付き基板が備える電極上に設けられる発光層と、上記発光層に対して上記電極と反対側に設けられる対向電極と、を備える。
【0023】
上記有機ELデバイスは、本発明に一側面に係る電極付き基板を備えている。そのため、基板上に設けられた電極に電力を供給しても電力の損失を低減できる。よって、電力を効率的に使用して有機ELデバイスを発光させられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電力を電極に供給した際に電極内での損失を低減可能な電極付き基板、電極付き基板の製造方法、及び、有機ELデバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、一実施形態に係る電極付き基板の平面図である。
図2図2は、図1のII―II線に沿った断面の模式図である。
図3図3は、一実施形態に係る電極付き基板の製造方法における塗布工程の一例を説明するための図面である。
図4図4は、一実施形態に係る有機ELデバイスの一例の概略構成を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。同一の要素には同一符号を付する。重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0027】
本発明の一側面は電極付き基板に関し、他の側面は、電極付き基板の製造方法に関し、更に他の側面は、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)デバイスに関する。まず、第1の実施形態として電極付き基板及びその製造方法について説明し、第2の実施形態として有機ELデバイスについて説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電極付き基板の一例の平面図である。図2は、図1のII―II線に沿った断面の模式図である。図1及び図2に示した電極付き基板10は、基板12と、電極E1とを備え、例えば、有機ELデバイスに適用される。
【0029】
基板12は、可視光(波長400nm〜800nmの光)に対して透光性(以下、「所定の透光性」とも称す)を有する板状の透明部材である。基板12は透明電極部14及び配線部16を支持する支持体である。基板12の厚さの例は、30μm以上1100μm以下である。基板12は、例えばガラス基板及びシリコン基板などのリジッド基板であっても、プラスチック基板及び高分子フィルムなどの可撓性基板であってもよい。可撓性基板を用いることで、電極付き基板10を使用した有機ELデバイスが可撓性を有し得る。
【0030】
電極付き基板10が有機ELデバイスに適用される場合には、基板12には有機ELデバイスが備える有機EL素子を駆動するための回路が予め形成されていてもよい。例えば、基板12には、たとえばTFT(Thin Film Transistor)やキャパシタなどが予め形成されていてもよい。
【0031】
電極E1は、複数の透明電極部14と、配線部16とを有する。図1に示した形態では、電極E1は、基板12上の一部の領域に、平面視形状(電極付き基板10の厚さ方向から見た形状)が矩形であるように形成されているが、例えば、基板12の表面全体に形成されていてもよい。電極E1の平面視形状は矩形に限定されず、正方形を含む四角形若しくは他の多角形でもよいし、又は円形若しくは楕円形でもよい。
【0032】
複数の透明電極部14は、図1に示したように、基板12上の電極E1の形成領域内に離散的に設けられている。透明電極部14の平面視形状は、例えば、図1に示したように六角形であるが、他の多角形(例えば、矩形又は正方形といった四角形)でもよい。透明電極部14の平面視形状は円形又は楕円形でもよい。
【0033】
透明電極部14は、電極E1において上記所定の透光性を有する部分である。図2に示した透明電極部14の厚さd1(電極付き基板10の厚さ方向の長さ)の例は、5nm以上1000nm以下であり、好ましくは、15nm以上200nm以下であり、より好ましくは、20nm以上150nm以下である。
【0034】
透明電極部14の材料は、金属ナノ構造体を含む材料である。金属ナノ構造体としては、金属ナノワイヤ及び金属ナノ粒子が挙げられる。金属ナノワイヤは、例えば、直径がナノメートルスケール(1〜数100ナノメートル)であり、長さが5μm以上100μm以下であるワイヤである。金属ナノ粒子とは、粒子径がナノメートルオーダー(例えば、5nm以上200nm以下)の金属粒子である。金属ナノ構造体を構成する金属の例は、金及び銀である。金属ナノ構造体の具体的な例は、銀ナノワイヤ及び金ナノワイヤである。金属ナノ構造体の他の例としては、金属ナノロット及び金属ナノクラスターが挙げられる。
【0035】
図1及び図2に示すように、配線部16は、基板12上に設けられ複数の透明電極部14に接続されている。具体的には、配線部16は、透明電極部14の縁に一体的に設けられている。換言すれば、配線部16は、複数の区画16aを画成する所定パターンを有しており、各区画16aに透明電極部14が設けられている。所定パターンの例は格子状(或いはネットワーク状)である。区画16aの平面視形状の例は、透明電極部14の平面視形状の例と同じである。図1に示したように、配線部16の所定パターンが格子状である形態では、配線部16が有する網目の領域に透明電極部14が設けられている。配線部16を一つの層とみなした場合、区画16aは、厚さ方向に貫通した開口部(又は窓部)である。この場合、電極E1は、区画16aである開口部の基板12側の端部が透明電極部14で塞がれた構成に対応する。図1では配線部16が有する格子状に設けられているが、配線部16はストライプ状に、すなわち、ライン状の配線部16が互いに平行に配置されているように設けられてもよい。
【0036】
上記のように、配線部16が、複数の区画16aを画成する所定パターンを有する観点から、図2は、隣接する区画16aの中心(電極付き基板10を厚さ方向から見た場合の中心)Cを含む平面で電極E1及び基板12(すなわち、電極付き基板10)を切断した場合の図面に対応している。
【0037】
上記構成では、配線部16は、隣接する透明電極部14を連結しており、これにより、複数の透明電極部14は配線部16を介して電気的に接続されている。換言すれば、隣接する透明電極部14の間には配線部16が配置されている。
【0038】
配線部16は、電極E1において透明電極部14に電力を供給する機能を有する。図2に示した配線部16の厚さd2は透明電極部14の厚さd1より大きく、例えば、透明電極部14の厚さd1の2倍以上であり、2000nm以下である。なお、配線部16の厚さd2は、透明電極部14の厚さd1の20倍以下であることが好ましい。
【0039】
配線部16の幅wの例は0.5mm以上である。幅wの上限は電極E1の大きさ及び電極付き基板10の用途に応じて設定されていればよい。幅wは、例えば、10mm以下であり得る。幅wは、好ましくは、0.8mm〜5mmであり、より好ましくは、1mm〜3mmである。配線部16の幅wは、隣接する区画16aの中心C(図1参照)を含む平面で電極E1を切断した場合の断面に現れる配線部16の幅であり、配線部16の基板12と反対側の面(図2において上面)の幅である。前述したように、配線部16は、透明電極部14の縁部に沿って設けられている。よって、配線部16の幅wは、透明電極部14の縁部に沿って延在する配線部16の延在方向に直交する断面の幅でもあり得る。例えば、透明電極部14の平面視形状が六角形といった多角形である場合、配線部16のうち透明電極部14の一辺に沿った部分において、その延在方向に直交する断面での幅である。以下、配線部16の幅wを規定する方向(隣接する区画16aの中心Cを結ぶ仮想線の延在方向)を配線部16の幅方向とも称する場合もある。
【0040】
また、隣接する区画16aの中心Cを含む平面で電極E1を切断した場合の断面において、隣接する配線部16間の距離Dの例は5mm以上である。距離Dの上限は電極E1の大きさ及び電極付き基板10の用途に応じて設定されていればよい。例えば、距離Dは100mm以下であり得る。距離Dは、好ましくは、10mm〜60mmであり、より好ましくは、30mm〜50mmである。上記電極E1の断面における隣接する配線部16とは、断面において区画16aの両側に現れる配線部16(より具体的には、配線部16の一部)を意味している。距離Dは、図2に示したように、配線部16の幅方向における中心間の距離である。
【0041】
配線部16の材料は、透明電極部14の材料と同じである。配線部16の幅の例は、500μm以上20000μm以下であり、この場合、配線部16は、金属ナノ構造体を含む細線である。
【0042】
電極付き基板10において、配線部16の表面抵抗値をR1(Ω/□)とし、透明電極部14の表面抵抗値をR2(Ω/□)としたとき、(R1/R2)は、
0<(R1/R2)≦0.5・・・(1)
を満たす。配線部16の材料は透明電極部14と同じであることから、上記(R1/R2)の関係は、透明電極部14及び配線部16の厚さd1,d2を調整することで実現され得る。配線部16の厚さd2が、透明電極部14の厚さd1の2倍以上であり、2000nm以下であれば、上記関係を満たし得る。
【0043】
上記構成の電極付き基板10は、金属ナノ構造を含む材料から構成される金属膜を、基板12上に有した構成であって、金属膜が、配線部16のパターンに対応した厚膜部分と、透明電極部14のパターンに対応した薄膜部分とを有する構成に対応する。この場合、上記金属膜全体が電極E1に相当する。或いは、上記構成の電極付き基板10は、金属ナノ構造を含む材料から構成される金属膜を、基板12上に有した構成であって、上記金属膜に複数の凹部が2次元的に配置された構成でもある。この場合、凹部が区画に対応し、凹部の底壁部が透明電極部14に対応し、金属膜のうち凹部以外の領域が配線部16に対応する。
【0044】
次に、電極付き基板10の製造方法の一例を説明する。電極付き基板10は、塗布法により製造され、塗布工程と、乾燥工程とを有する。
【0045】
<塗布工程>
塗布工程では、図3に示したように、透明電極部14(或いは配線部16)の材料を含む塗布液L、すなわち、金属ナノ構造体を含む塗布液Lを、インクジェット印刷法で基板12に塗布し、基板12に塗布膜18を形成する。具体的には、基板12を搬送しながら、インクジェット装置20が有しており基板12の搬送方向に直交する方向に配置された複数のノズル(不図示)から塗布液Lを基板12に塗布して塗布膜18を形成する。図3では、インクジェット装置20を通過前においては、塗布液が塗布されるべきパターンを模式的に示している。
【0046】
インクジェット装置20から塗布する塗布液Lは、金属ナノ構造体を含む固形物が溶媒に溶解されたものである。上記溶媒は、上記固形物が溶解できればよいが、溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコール 1-モノメチルエーテル 2-アセテート、3−メトキシブチルアセテート、3-メトキシ-1-ブタノール、シクロヘキサノンが挙げられる。
【0047】
インクジェット装置20から塗布液Lを塗布する際には、基板12上における透明電極部14の配置パターンである透明電極部用パターンP1及び配線部16の配置パターンである配線部用パターンP2で塗布液Lを塗布する。これは、インクジェット装置20が有する複数のノズルから塗布液Lの吐出状態を制御して実施する。
【0048】
透明電極部用パターンP1は、配線部用パターンP2に接続されている。具体的には、配線部用パターンP2は、透明電極部用パターンP1の縁に沿ったパターン形状を有する。なお、図1に示した電極付き基板10は、複数の透明電極部14を備えるため、インクジェット装置20はそれに応じて複数の透明電極部用パターンP1を形成するように塗布液Lを基板12に塗布する。よって、塗布膜18は、複数の透明電極部用パターンP1で塗布液Lが塗布されてなる複数の第1塗布膜領域18aと、配線部用パターンP2で塗布液Lが塗布されてなる第2塗布膜領域18bとを有する。
【0049】
上記配線部用パターンP2は、配線部16が有する所定パターンに対応するパターンである。したがって、配線部用パターンP2を有する第2塗布膜領域18bは、区画16aに対応する区画18cを画成している。透明電極部14は、上記区画16aに配置されていることから、透明電極部用パターンP1は区画18cに対応するパターンである。よって、区画18cに対応する領域に塗布される塗布液が透明電極部14を形成するための塗布液である。
【0050】
塗布工程では、乾燥工程を経て形成される透明電極部14が可視光(波長400nm〜800nmの光)に対して透光性を有する厚さになるように第1塗布膜領域18aを形成し、第2塗布膜領域18bが第1塗布膜領域18aより厚くなるように第2塗布膜領域18bを形成する。このような厚さの制御の例としては、ノズルからの塗布液Lの吐出量又は吐出回数を制御すること、及び、塗布液Lの粘度を調整することが挙げられる。
【0051】
したがって、塗布工程では、塗布液Lを塗布することで、配線部16に対応した厚膜部分と、透明電極部14に対応した薄膜部分とを有する塗布膜18が形成されることになる。この塗布膜18は、電極E1になるべき塗布膜である。
【0052】
<乾燥工程>
乾燥工程では、塗布工程で形成された塗布膜18を乾燥させ溶媒を除去する。これにより、塗布膜18において、第1塗布膜領域18aから透明電極部14が得られると共に、第2塗布膜領域18bから配線部16が得られ、その結果、電極E1が得られる。乾燥工程における乾燥方法(或いは加熱方法)は限定されないが、例えば、オーブンによる加熱及びホットプレートによる加熱が挙げられる。
【0053】
電極付き基板10の製造方法では、配線部16の表面抵抗値であるR1(Ω/□)及び透明電極部14の表面抵抗値であるR2が上記式(1)を満たすように、製造条件を調整する。透明電極部14及び配線部16は、同じ材料を含む塗布液Lから構成されているため、表面抵抗値は透明電極部14及び配線部16の厚さd1,d2に依存する。よって、R1及びR2が式(1)を満たすためには、透明電極部14及び配線部16の厚さd1,d2(図2参照)を制御すればよい。
【0054】
透明電極部14及び配線部16の厚さd1,d2を所望の厚さにするために、第1塗布膜領域18a及び第2塗布膜領域18bの厚さ及び乾燥工程での乾燥速度の少なくとも一方を制御すればよい。第1塗布膜領域18a及び第2塗布膜領域18bの厚さを制御するための方法としては、塗布液Lのインクジェット装置20からの吐出量(同じ位置での吐出回数も含む)及び塗布液Lの粘度等を調整することが挙げられる。
【0055】
具体的には、透明電極部用パターンP1に塗布液Lを塗布する際に比べて配線部用パターンP2で塗布液Lを塗布する際に吐出量を多くすればよい。また、塗布液Lの粘度が低いと、塗布液Lが基板12に着弾した後に広がり易く、粘度が高いと、塗布液Lが基板12に着弾した後に広がり難い。よって、吐出量に応じた厚さを維持可能な程度に塗布液Lの粘度を調整すればよい。また、基板12に着弾した塗布液Lは時間と共に広がっていくので、例えば、吐出量に応じた厚さを維持可能な乾燥時間で塗布膜18を乾燥させればよい。
【0056】
配線部16の幅wを例示したように0.5mm以上とする場合、幅wに対応する第2塗布膜領域18bの幅w図3参照)が0.5mm以上となるように、塗布液を塗布すればよい。具体的には、複数の区画18cのうち隣接する区画18cの中心Cを含む平面で第2塗布膜領域18bを切断した場合の断面において、第2塗布膜領域18bの幅wが0.5mm以上であるように、塗布液Lを基板12上に塗布すればよい。隣接する配線部16間の距離Dを例示したよう5mm以上とする場合も同様である。すなわち、複数の区画18cのうち隣接する区画18cの中心Cを含む平面で第2塗布膜領域18bを切断した場合の断面において、その断面に現れる隣接する第2塗布膜領域18bの間の距離D図3参照)が5mm以上であるように、塗布液Lを基板12上に塗布すればよい。なお、第2塗布膜領域18bの断面における隣接する第2塗布膜領域18bとは、電極E1の断面における隣接する配線部16の場合と同様に、第2塗布膜領域18bの断面に現れる2つの第2塗布膜領域18bを意味している。
【0057】
上記電極付き基板10では、電極E1が、互いに接続された透明電極部14と配線部16とを有するため、配線部16を介して透明電極部14に電力を供給できる。透明電極部14と配線部16とが同じ材料で構成されていることから、透明電極部14と配線部16との密着性が向上している。よって、透明電極部14と配線部16との接続部において、電力損失が生じにくい。また、透明電極部14及び配線部16の材料が同じであることから、配線部16を介して透明電極部14に電力を供給しても透明電極部14と配線部16と接続部において電蝕が生じにくい。この観点でも、透明電極部14と配線部16との接続部において、電力損失が生じにくい。よって、電極E1に電力を供給しても、電極E1内での電力損失を低減しながら、透明電極部14に電力を供給できる。
【0058】
透明電極部14が、例示したような所定の透光性を有するためには、透明電極部14の厚さは薄い必要があり、透明電極部14の厚さd1の例は、前述したように、5nm〜1000nmである。透明電極部14が上記厚さを有する場合、透明電極部14は透光性は有するが、その表面抵抗値は大きくなる傾向にある。
【0059】
よって、仮に、配線部16を設けずに、電極E1を薄い透明電極部のみから構成した透明電極とした場合、その透明電極に電力を供給すると、電圧降下の影響で透明電極全体に一様に電力を供給できない。
【0060】
これに対して、電極付き基板10の構成では、配線部16を介して複数の透明電極部14のそれぞれに電力を供給する。そして、配線部16の表面抵抗値は、透明電極部14の表面抵抗値より小さいことから、格子状(或いはネットワーク状)に形成された配線部16を介して電力を各透明電極部14に供給することで、前述した電圧降下の影響を低減しながら、配線部16に接続された各透明電極部14に電力を供給できる。更に、複数の透明電極部14は、格子状に形成された配線部16における網目の部分に設けられているので、例えば、電極E1を実質的に透明電極部のみから構成している場合より各透明電極部14の大きさを小さくできる。よって、透明電極部14の厚さd1が薄く表面抵抗値が大きくても、透明電極部14内での電圧降下の影響は小さい。したがって、電極付き基板10では、透光性を確保しながら透明電極部14に電力をより均一に供給可能である。
【0061】
配線部16の表面抵抗値であるR1及び透明電極部14の表面抵抗値であるR2が式(1)の関係を満たせば、配線部16内での電力損失を低減しながら、透明電極部14に電力を供給できる。式(1)の関係は、例えば、配線部16の厚さd2を透明電極部14の2倍以上とすることで実現可能である。
【0062】
配線部16及び透明電極部14が同じ材料で構成されているため、電極付き基板の製造方法で説明したように、塗布法を利用して電極付き基板10を製造できる。この場合、透明電極部14及び配線部16を一体的に形成できる。したがって、電極付き基板10が容易である。また、例えば、配線部16及び透明電極部14が別々の材料からなり、一方を形成した後に、他方を形成するように2段階に分けて製造する場合より、電極付き基板10の製造効率の向上が図れる。
【0063】
電極付き基板10の製造に、図3に示したように、インクジェット印刷法を利用すれば、塗布液Lの種々のパターンに対応し易いと共に、厚さの制御も容易である。よって、電極付き基板10の製造効率の向上が図れる。配線部16の厚さd2が、2000nm以下であれば、インクジェット印刷法が有効である。
【0064】
上記のように、インクジェット印刷法を利用して同一面内に厚さの厚い部分(第2塗布膜領域18b)と薄い部分(第1塗布膜領域18a)を同時に形成すると、塗布液の塗布直後には、厚さの厚い部分から薄い部分に液の流動が生じる場合がある。配線部16の幅wが0.5mm以上となるように、第2塗布膜領域18bを形成すれば、塗布液の塗布直後に第2塗布膜領域18bから第1塗布膜領域18aに塗布液が流動しても、所望の形状を維持した配線部16をより確実に形成し得る。したがって、配線部16の幅wが0.5mm以上である電極付き基板10は、インクジェット印刷法による製造に適している。
【0065】
また、図2に示した距離Dを5mm以上となるように、第2塗布膜領域18bを形成すれば、複数の区画18cのうち隣接する区画18cの中心Ccを含む平面で第2塗布膜領域18bを切断した場合の断面において、隣接する第2塗布膜領域18bが合一することが抑制されるため、第1塗布膜領域18aの厚さを所望の厚さに制御し易い。すなわち、透明電極として機能する厚さ或いは表面抵抗値を有する透明電極部14をより確実に形成できる。したがって、配線部16の幅wが0.5mm以上である電極付き基板10は、インクジェット印刷法による製造に適している。
【0066】
幅w及び距離Dに対してそれぞれ上記作用効果を有することから、幅wが0.5mm以上であり、距離Dが5mm以上である電極付き基板10は、インクジェット印刷法を利用して配線部16及び透明電極部14を形成する場合に、より一層有効な構成と言える。
【0067】
(第2の実施形態)
図4は、一実施形態に係る有機ELデバイスの一例の概略構成を示す図面である。有機ELデバイス22は、電極付き基板10と、発光層24と、対向電極E2とを備える。電極付き基板10が有する電極E1と、発光層24と、対向電極E2とは、有機EL素子26を構成している。有機EL素子26において、断らない限り、電極E1は陽極として機能し、対向電極E2は陰極として機能する。有機ELデバイス22は、基板12側から光を出射するボトムエミッション型のデバイスである。電極付き基板10については、第1の実施形態と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0068】
発光層24は、電極付き基板10上に設けられる。具体的には、電極付き基板10上において、電極E1上に設けられる。発光層24には、所定の波長の光を発光する機能を有する有機薄膜を用いることができる。発光層24は、通常、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、または該有機物とこれを補助するドーパントとから形成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。発光層24に含まれる有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。発光層24を構成する有機発光材料としては、例えば公知の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料を挙げることができる。発光層24の厚さの例は30〜200nmである。
【0069】
対向電極E2は、発光層24上に設けられる。陰極である対向電極E2の材料としては、仕事関数が小さく、発光層24への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料が好ましい。また、有機ELデバイス22は電極付き基板10側から光を取り出すため、発光層24から放射される光を対向電極E2で電極付き基板10側に反射するために、対向電極E2の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。対向電極E2には、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および周期表の13族金属などを用いることができる。対向電極E2としては導電性金属酸化物および導電性有機物などから成る透明導電性電極を用いることができる。対向電極E2の厚さの例は、100nm〜250nmである。
【0070】
次に、有機ELデバイス22は、第1の実施形態で説明した電極付き基板10上に、発光層24及び対向電極E2を順次形成することで製造され得る。発光層24及び対向電極E2は、例えば、塗布法により形成される。この場合、発光層24及び対向電極E2の材料を溶解した塗布液を、電極付き基板10上に塗布して乾燥させることで、発光層24及び対向電極E2を製造できる。
【0071】
塗布液に使用する溶媒は、発光層24及び対向電極E2の材料を溶解可能なものであればよいが、例えば、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコール 1-モノメチルエーテル 2-アセテート、3−メトキシブチルアセテート、3-メトキシ-1-ブタノール、シクロヘキサノンが挙げられる。
【0072】
塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法およびノズルコート法などのコート法、並びにグラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法及びインクジェット印刷法等の印刷法を挙げることができる。発光層24及び対向電極E2の形成方法は、塗布法に限定されない。例えば蒸着法を利用してもよい。
【0073】
有機ELデバイス22は、第1の実施形態で説明した電極付き基板10を備えることから、少なくとも第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。よって、有機ELデバイス22を駆動するために、電極付き基板10が備える電極E1に電力を供給した際、電極E1内での電力損失を低減できる。その結果、電力を有効に利用して有機ELデバイス22を駆動可能である。また、透明電極部14と配線部16との接続部において電蝕が生じないので、有機ELデバイス22を安定して駆動できる。
【0074】
電極付き基板10を利用していることから、複数の透明電極部14に電力を均一に供給できる。その結果、発光層24において各透明電極部14に対応する領域においても電力が均一に供給されるので、輝度の均一性を図れる。
【0075】
また、電極付き基板10では、格子状に張り巡らされた配線部16の間(網目部分)に透明電極部14が設けられていることから、配線部16を設けていても、発光層24で生じた光は、透明電極部14を介して基板12側から取り出し得る。
【0076】
以上、図4に示した有機ELデバイス22について説明したが、有機ELデバイス22(具体的には、有機EL素子)が有する陽極と陰極との間には発光層に加えて他の有機層が設けられてもよい。以下、具体的に説明する。
【0077】
陰極と発光層の間に設けられる層としては、例えば、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層を挙げることができる。陰極と発光層の間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0078】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。電子注入層および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば正孔電流のみを流す有機EL素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することができる。
【0079】
陽極と発光層の間に設けられる層としては、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層を挙げることができる。陽極に接する層を正孔注入層という。
【0080】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。正孔注入層および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば電子電流のみを流す有機EL素子を作製し、測定された電流値の減少で電子の輸送を堰き止める効果を確認することができる。
【0081】
上述した各種の有機層を含む有機EL素子の層構成の例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
f)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
h)陽極/発光層/電子注入層/陰極
i)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0082】
記号「/」は、記号「/」の両側の層同士が接合していることを意味している。上記a)の構成が図4に示した構成に対応する。
【0083】
正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層のそれぞれの材料については、公知の材料を用いることができる。正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層のそれぞれは、例えば、発光層と同様に塗布法で形成し得る。
【0084】
有機EL素子は単層の発光層を有していても、2層以上の発光層を有していてもよい。上記a)〜i)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極との間に配置された積層構造を「構造単位A」とすると、例えば、2層の発光層を有する有機EL素子の構成として、下記j)に示す層構成を挙げることができる。2個ある(構造単位A)の層構成は互いに同じであっても、異なっていてもよい。
j)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
【0085】
ここで電荷発生層とは、電界を印加することにより、正孔と電子とを発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどからなる薄膜を挙げることができる。
【0086】
「(構造単位A)/電荷発生層」を「構造単位B」とすると、例えば、3層以上の発光層を有する有機EL素子の構成として、以下のk)に示す層構成を挙げることができる。
k)陽極/(構造単位B)x/(構造単位A)/陰極
【0087】
第2の実施形態において記号「x」は、2以上の整数を表し、「(構造単位B)x」は、(構造単位B)がx段積層された積層体を表す。また、複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0088】
電荷発生層を設けずに、複数の発光層を直接的に積層させて有機EL素子を構成してもよい。
【0089】
基板(図1に示した基板12に相当する部材)上に形成される層の順序、層の数、および各層の厚さについては、発光効率、寿命を勘案して適宜設定することができる。有機EL素子は、通常、陽極を基板側に配置して基板上に設けられるが、陰極を基板側に配置して基板上に有機EL素子を設けてもよい。例えばa)〜k)の各有機EL素子を基板上に作製する場合、陽極を基板側に配置する形態では陽極側(各構成a〜kの左側)から順に各層を基板上に積層し、陰極を基板側に配置する形態では陰極(各構成a〜kの右側)から順に各層を基板上に積層する。なお、陰極を基板側に配置する構成では、電極付き基板10が有する電極E1は、陰極として機能し、対向電極E2が陽極として機能する。
【0090】
以上、本発明に係る種々の実施形態について説明したが、本発明は例示した種々の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0091】
電極付き基板が備える透明電極部14及び配線部16は、それらが同じ材料から構成されており、透明電極部14が少なくとも例示した波長範囲で透光性を有すればよい。よって、それらの表面抵抗値及び厚さなどは、例示したものに限定されない。
【0092】
図1では、複数の透明電極部14を示していたが、例えば、電極付き基板は、一つの透明電極部14を備えていればよい。
【0093】
上述した実施形態では、電極付き基板を製造する際、第1塗布膜領域18a及び第2塗布膜領域18bの形成に同じ塗布液Lを使用したが、第1塗布膜領域18a及び第2塗布膜領域18bを形成する塗布液Lは同じ材料を含んでいれば、その組成比率及び粘度などは異なっていてもよい。この場合、インクジェット装置は、第1塗布膜領域18aを形成するための第1塗布液及び第2塗布膜領域18bを形成するための第2塗布液をそれぞれ塗布するノズルを備えていればよい。このような形態では、例えば、第1塗布液及び第2塗布液の固形分の組成比率を調整することでも、透明電極部14及び配線部16の厚さ及び表面抵抗値を制御可能である。
【0094】
電極付き基板をインクジェット印刷法で製造する例を示したが、電極付き基板は、塗布法で製造されていればよく、塗布液Lの塗布方法はインクジェット印刷法に限定されない。
【符号の説明】
【0095】
10…電極付き基板、12…基板、14…透明電極部、16…配線部、16a…区画、22…有機ELデバイス、24…発光層、E1…電極、E2…対向電極、w…配線部の幅、D…隣接する配線部の距離。
図1
図2
図3
図4