特許第6553491号(P6553491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6553491最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法
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  • 特許6553491-最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553491
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20190722BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20190722BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
   G01N33/53 S
   G01N33/50 Z
   !C07K16/18
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-230664(P2015-230664)
(22)【出願日】2015年11月26日
(65)【公開番号】特開2017-96837(P2017-96837A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年5月25日
【微生物の受託番号】NITE  P-01898
【微生物の受託番号】NITE  P-01899
【微生物の受託番号】NITE  P-02064
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】保田 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】新里 達也
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−246599(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/081110(WO,A1)
【文献】 特表平07−502534(JP,A)
【文献】 特表2012−528093(JP,A)
【文献】 特表2008−534557(JP,A)
【文献】 特開2013−257328(JP,A)
【文献】 AHMED N、他6名,Methylglyoxal-derived hydroimidazolone advanced glycation end-products of human lens proteins.,Invest Ophthalmol Vis Sci. ,2003年12月,Vol.44,No.12,Page.5287-5292
【文献】 Tina WANG、他2名,Generation and characterization of antibodies against arginine-derived advanced glycation endproducts,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2015年,Vol.25,4881-4886
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法であって、被験者から採取した生体試料中のメチルグリオキサール−ハイドロイミダゾロン(MG-H1)を、これに特異的に結合するモノクローナル抗MG-H1抗体を使用して測定することを含み、当該疾患が、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障、高血圧、胃食道逆流症及び高脂血症から選択される1つ以上の疾患であり、
モノクローナル抗MG-H1抗体が、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成し、それをタンパク質に結合して得られた付加体を抗原として動物に免疫して得られたものであり、既知AGEsである、カルボキシメチルアルギニン及びカルボキシメチルリジンに交叉反応性を有しないことを特徴とする方法。
【請求項2】
測定方法が、ELISA法である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験者から採取した生体試料中のMG−H1の量を、健常者の生体試料中のMG-H1量と比較し、有意に高い又は低い場合に疾患の罹患又はそのリスクがあると予測する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
生体試料が血清又は血漿である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
モノクローナル抗MG-H1抗体が、NITE P−1898(OYC111)、NITE P−1899(OYC112)又はNITE P−2064(OYC113)として寄託されたハイブリドーマが産生する抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
被験者から採取した生体試料中のMG−H1の量を、これに特異的に結合するモノクローナル抗MG-H1抗体を使用して測定し、得られた測定値と、健常者の生体試料中のMG-H1の値と比較し、有意に高い又は低い場合かを判定することを含
モノクローナル抗MG-H1抗体が、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成し、それをタンパク質に結合して得られた付加体を抗原として動物に免疫して得られたものであり、既知AGEsである、カルボキシメチルアルギニン及びカルボキシメチルリジンに交叉反応性を有しないことを特徴とする、
最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測するためにデータを提供する方法。
【請求項7】
MG-H1に特異的に結合する前記モノクローナル抗MG-H1抗体を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法に使用されるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法に関し、より詳細には最終糖化産物(AGEs)の1種であるメチルグリオキサール−ハイドロイミダゾロン(MG-H1)に特異的に結合するモノクローナル抗AGEs抗体を使用し、被験者から採取した生体試料中のMG-H1を測定することを含む最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質中に存在するアミノ基とグルコース等の還元糖のアルデヒド基とが、非酵素的に反応すると糖化産物が形成される。この反応は、非酵素的糖化反応又はメイラード反応と称される。非酵素的糖化反応は、生体内においても起きている。非酵素的糖化反応は、シッフ塩基を経てアマドリ転位生成物が形成される前期反応と、複雑な開裂や縮合等が起こる後期反応との2段階で起こると考えられ、後期反応では、最終糖化産物(=AGEs:Advanced Glycation End Products)と呼ばれる、単一ではない様々な物質が生成する。
【0003】
AGEsについては、糖尿病や老化に伴う各種の症状や疾患等との関連性が報告されている。例えば、AGEsが、糖尿病における腎障害や網膜症にAGEsの蓄積が関係していることや、加齢で認められる種々の組織障害、例えば、皮膚、血管壁、関節等の結合組織の硬化に関連し、皮膚の肥厚、しわの形成、動脈硬化、関節炎等の原因になり得ることや、アルツハイマー病におけるβ−アミロイドペプチドの脳内蓄積にAGEsが関与していること等が報告されている。また、骨粗鬆症等の骨の強度の低下において、骨中のコラーゲンの糖化(AGEs化)が原因の一つであることが報告されている。さらに、AGEsが癌疾患、例えばその増殖や転移に関与していることも示唆されている。
【0004】
AGEsと各種の疾患との関連性の究明やその予防や治療法の開発には、多様なAGEsのなかから着目した特定のAGEsを検出又は定量する技術が必要である。AGEsを検出又は定量する方法としては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC法)やガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)法、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)法、AGEsを特異的に認識する抗AGEs抗体を用いる方法が知られている。これらの中でも、抗AGEs抗体を用いる方法は大型で高価な機器を使用しなくてもよい点で優れている。
抗AGEs抗体を用いる方法としては、例えば、特許文献1には、3,4−ジオキシグルコソン-3-エン(DGE)に由来するAGEsに特異的に反応する抗体及びそれを用いたAGEsの検出方法が記載され、特許文献2には、生体サンプル内におけるグアニジノ基由来のAGEsに特異的なモノクローナル抗体及びそれを用いたAGEsの検出方法が記載されている。また、特許文献3には、フルクトース由来のAGEに対する抗体及びそれを用いたフルクトース由来のAGEの測定方法が記載されている。
【0005】
ところで、AGEsの1種としてMG-H1が知られており、このMG-H1についても糖尿病や老化に伴う症状や疾患との関連性が報告されている。例えば、特許文献4には、糖尿病性の腎症、眼疾患、又は心血管合併症を発症するリスク又は割合の指標として、血漿から生成された2つ以上のバイオマーカーのレベルを使用するに当たり、その一つのバイオマーカーとしてMG-H1を使用することが記載されている。また、非特許文献1は、可溶性ヒト水晶体タンパク質中のメチルグリオキサール−ハイドロイミダゾロンに関し、2種の構造異性体(MG-H1,MG-H2)の濃度を測定し、他のAGEsの濃度と比較することによって、MG-H1又はMG-H2と老化や白内障との間に関連性があることを明らかにしている。
【0006】
しかし、このMG-H1については、抗AGEs抗体を用いて検出や定量等を行うことに言及した文献は少なく、上述した特許文献1〜3にも記載されていない。上述した特許文献4においても、個体から得た生体試料を、液体クロマトグラフィー/四重極質量分析法(LC-MS/MS)を使用した分析によりバイオマーカーのレベルを決定することが記載されている一方、抗AGEs抗体を用いて分析することは記載されていない。また、非特許文献1にも、メチルグリオキサール(MG)イミダゾロン(MG-HI,MG-H2)を、それらを特異的に認識する抗体を用いて分析することは記載されていない。
一方、非特許文献2には、メチルグリオキサール(MG)で修飾したタンパク質をマウスに免疫して得られた抗体に、エピトープがイミダゾロンである抗体が含まれることを開示されている。しかし、非特許文献2には、タンパク質に結合していないイミダゾロンを合成した後、それをタンパク質と結合して免疫原として用いることは記載されておらず、MG-H1に対する特異性や遊離体のMG-H1に対する結合能が高いモノクローナル抗体は記載されていない。
【0007】
なお、特許文献5には、糖尿病で特徴的な高血糖状態により形成される糖化タンパク質が、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患とされる動脈硬化症等の心血管疾患、アルツハイマー、がんの増殖及び転移、炎症反応などの合併症の重要な原因となり得ることが記載されており、また、そのような糖化タンパク質を、ガレクチンと呼ばれるレクチンの糖鎖に対する結合活性を用いて検出することが記載されている。しかし、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患として、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障、高血圧、胃食道逆流症及び高脂血症の罹患又はそのリスクの予測において、最終糖化産物(AGEs)としてMG-H1が有用なバイオマーカーであることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−312621号公報
【特許文献2】特表2002−517224号公報
【特許文献3】特開2004−323515号公報
【特許文献4】特開2013−257328号公報
【特許文献5】特開2012−225762号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Naila Abmed et al., "Methylglyoxal-derived hydroimidazolone advanced glycation end-products of human lens proteins.", Invest Ophthalmol Vis Sci, 2003; Vol.44 ,No.12: P.5287-5292
【非特許文献2】B.K.kilhovd et al., "Increased serum levels of the specific AGE-compound methylglyoxal-derived hydroimidazolone in patients with type 2 diabetes.", Metabolism, 2003; Vol.52 ,No2: P.163-167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクの予測に有用な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、MG-H1に対する特異性や結合能の高いモノクローナル抗体により、被験者から採取した生体試料中のMG-H1を測定することが、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患のうち、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障、高血圧、胃食道逆流症及び高脂血症の罹患又はそのリスクの予測に有用であることを知見した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、下記の(1)〜(6)の最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法、(7)の最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測するためにデータを提供する方法、及び(8)これらの方法に使用されるキットを提供するものである。
(1)最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法であって、被験者から採取した生体試料中のメチルグリオキサール−ハイドロイミダゾロン(MG-H1)を、これに特異的に結合するモノクローナル抗MG-H1抗体を使用して測定することを含み、当該疾患が、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障、高血圧、胃食道逆流症及び高脂血症から選択される1つ以上の疾患であること、及びを特徴とする方法。
(2)測定方法が、ELISA法である(1)に記載の方法。
(3)被験者から採取した生体試料中のMG−H1の量を、健常者の生体試料中のMG-H1量と比較し、有意に高い又は低い場合に疾患の罹患又はそのリスクがあると予測する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)生体試料が血清または血漿である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)モノクローナル抗MG-H1抗体が、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成し、それをタンパク質に結合して得られた付加体を抗原として動物に免疫して得られたものであり、既知AGEsである、カルボキシメチルアルギニン及びカルボキシメチルリジンに交叉反応性を有しないことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)モノクローナル抗MG-H1抗体が、NITE P−1898(OYC111)、NITE P−1899(OYC112)又はNITE P−2064(OYC113)として寄託されたハイブリドーマが産生する抗体である、(5)に記載の方法。
(7)被験者から採取した生体試料中のMG−H1の量を、これに特異的に結合するモノクローナル抗MG-H1抗体を使用して測定し、得られた測定値と、健常者の生体試料中のMG-H1の値と比較し、有意に高い又は低い場合かを判定することを含む、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測するためにデータを提供する方法。
(8)MG-H1に特異的に結合するモノクローナル抗MG-H1抗体を含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法に使用されるキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法は、被験者から採取した血液等の生体試料中のMG-H1を測定することにより、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患のうち、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障、高血圧、胃食道逆流症及び高脂血症の罹患又はそのリスクを簡便、且つ迅速に予測することができるため、非常に有用である。また、当該モノクローナル抗MG-H1抗体を使用して測定し、得られた生体試料中のMG−H1の測定値と、健常者の生体試料中のMG-H1の値と比較し、有意に高い又は低い場合かを判定することで、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測するためにデータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】モノクローナル抗MG-H1抗体を用いた競合ELISA法による健常者と各疾患患者血清中のMG-H1量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態(態様)に基づいて説明する。
本発明の最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法において使用するモノクローナル抗AGEs抗体は、最終糖化産物(AGEs)に対する抗体であって、MG-H1に対して特異的に結合するものである。本発明における「MG-H1」は、AGEsの前駆体であるメチルグリオキサール(MG)が、タンパク質中のアルギニン残基等の非遊離のアルギニン又は遊離のアルギニンと反応して生じた非遊離体又は遊離体のMG-H1であり、「MG-H1に対して特異的に結合する」とは、少なくとも非遊離体のMG-H1を認識して反応する一方、MG-H1以外のAGEであって既知のAGEs構造である、カルボキシメチルアルギニン(CMA:Nω-(carboxymethyl)arginine)、カルボキシメチルリジン(CML:Nε-(Carboxymethyl)lysine)及びカルボキシエチルリジン(CEL:Nε-(carboxyethyl)lysine)のいずれとも反応しないか、それらに対する反応性がいずれも非遊離体のMG-H1に対する反応性に対して有意に低いことを意味する。
【0016】
本発明の方法において使用するモノクローナル抗AGEs抗体は、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1に対する結合能を有する抗体であることが好ましい。遊離体のMG-H1に対する結合能を有する抗体であると、例えば競合ELISAで使用可能となる。競合的阻害アッセイにおいては、例えばマイクロプレートのウェル(穴)に非遊離体のMG-H1が結合した蛋白を固定しておき、そのMG-H1に対する抗体の結合が遊離体のMG-H1を共存させることにより阻害されるか否かを調べ、阻害される場合には遊離体のMG-H1に対する結合能を有し、阻害されない場合にはMG-H1に対する結合能を有しないと判断する。
【0017】
タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1は、ペプチドを含めてタンパク質に結合していないMG-H1を意味し、ペプチド結合を有しないアルギニンのメチルグリオキサール(MG)修飾物である。即ち、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、好ましくは、タンパク質に結合したMG-H1のみならず、ペプチド及び蛋白の何れにも結合していない遊離体のMG-H1に対する反応性も有している。
【0018】
本発明の方法において使用するモノクローナル抗AGEs抗体は、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成した後、その合成したMG-H1をタンパク質に結合して得られる付加体を、免疫原として動物に免疫することにより得られる。本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、斯かる方法で調製することにより、タンパク質をメチルグリオキサールと反応させて得た免疫原で同動物を免疫する場合に比べて、MG-H1に対する特異性及び/又は遊離体のMG-H1に対する結合能が高いものとなる。
【0019】
本発明の方法において使用するモノクローナル抗AGEs抗体としては、下記のハイブリドーマが産生する抗体1〜3が挙げられる。抗体1及び2を産生するハイブリドーマは、2014年7月15日付け、抗体3を産生するハイブリドーマは、2015年6月5日付けで、独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託されており、それぞれの受託番号は下記の通りである。
抗体1を産生するハイブリドーマ(OYC111):受託番号NITE P−1898
抗体2を産生するハイブリドーマ(OYC112):受託番号NITE P−1899
抗体3を産生するハイブリドーマ(OYC113):受託番号NITE P−2064
【0020】
以下、本発明の方法に好適なモノクローナル抗AGEs抗体の製造方法について説明する。
当該モノクローナル抗AGEs抗体の好ましい製造方法は、下記工程(1)〜(3)を具備するとともに、モノクローナル抗体の製法において常法である下記工程(4)を具備する。
(1)タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成する工程
(2)合成したMG-H1を、クロスリンカーを用いてタンパク質に結合する工程
(3)MG-H1が結合したタンパク質を抗原として動物を免疫する工程
(4)免疫した動物の抗体産生細胞を用いて、モノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマを作製する工程
【0021】
以下、工程(1)〜(4)について説明する。
〔工程(1):遊離体のMG-H1の調製工程〕
前記工程(1)は、遊離体のMG-H1の調製工程であり、好ましくは、メチルグリオキサールとアルギニンとを混合し、非酵素的糖化反応により下記式(1)で表される遊離体のMG-H1を生成させる。
【化1】
【0022】
より具体的には、メチルグリオキサールとアルギニンとを混合し、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリでpHを10以上に調整して、37℃の温度で、1時間インキュベートすることにより、上記構成の遊離体のMG-H1を生じさせることができる。
【0023】
メチルグリオキサール(MG)とアルギニンとを反応させて得られる、メチルグリオキサール由来のハイドロイミダゾロンは、以下の3つの構造異性体を有する。MG-H1は、他の構造異性体が混在した状態で用いることもできるが、MG-H1を単独で用いることが、製造効率や遊離体のMG-H1に対する特異性の向上の点から好ましい。MG-H1の構造は、例えば、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)により確認することができる。
MG-H1:Nδ-(5-ヒドロ-5-メチル-4-イミダゾロン-2-イル)-オルニチン
MG-H2:2-アミノ-5-(2-アミノ-5-ヒドロ-5-メチル-4-イミダゾロン-1-イル)ヘ゜ンタン酸
MG-H3:2-アミノ-5-(2-アミノ-4-ヒドロ-4-メチル-5-イミダゾロン-1-イル)ヘ゜ンタン酸
【0024】
合成した遊離体のMG-H1は、適宜の手段により精製する。
合成した遊離体のMG-H1を高純度のものとすることは、得られるモノクローナル抗体のMG-H1に対する特異性及び/又は遊離体のMG-H1に対する結合能を向上させる観点から好ましい。精製の方法は、各種公知の方法を採用することができ、例えば、液体クロマトグラフィーが好ましく用いられる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、分子排斥クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられ、これらは1種を単独で行っても良いし同種又は異種の2種以上を順次行っても良い。
合成した遊離体のMG-H1は、純度が99質量%以上、より好ましくは99.9質量%となるまで精製して次工程に用いることが好ましい。なお、本発明において、MG-H1は、ナトリウム塩、塩酸塩等の塩であっても良いし、塩でなくても良い。
【0025】
〔工程(2):抗原の調製工程〕
前記工程(2)は、免疫原の調製工程であり、単独では免疫原性(免疫誘導能)が低い遊離体のMG-H1をタンパク質に結合して充分な免疫原性を有する抗原とする。MG-H1を結合させるタンパク質としては、キャリアタンパク質として公知の各種のものを特に制限なく用いることができ、例えば血清アルブミン等のアルブミンや、ヘモシアニン、ミオグロビン等が挙げられる。また、タンパク質は、ウシ、ウサギ、ヒト等の哺乳動物、スカシ貝等の貝類、鶏等の鳥類等に由来するもの等を用いることができる。これらの中でも、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)及びウシ血清アルブミン(BSA)が好ましい。これらのタンパク質は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
MG-H1のキャリア蛋白への結合には、クロスリンカーを用いることが好ましい。クロスリンカーとしては、各種公知のものを用いることができ、例えば、グルタルアルデヒド、EDC(1-ethy-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)、SPDP、DST、DSGなどを用いることができる。これらの中でも、グルタルアルデヒド、又はEDCを用いることが好ましい。クロスリンカーは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
〔工程(3):動物の免疫工程〕
前記工程(3)は、動物を免疫する工程であり、上述のようにして調製した、MG-H1が結合したタンパク質(付加体)を抗原としてヒト以外の動物を免疫し、その動物体内に抗体産生細胞を産生させる。本工程(3)は、上述のようにして調製した、MG-H1が結合したタンパク質(付加体)を抗原として用いる以外は、モノクローナル抗体の製法の常法に従って行うことができる。
動物の種類は、特に限定されないが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、例えばマウス、ラット、ウサギ等のげっ歯類が挙げられる。マウスは、BALB/C系統のマウスを用いることが、ハイブリドーマの作製に用いる骨髄腫由来の細胞株が確立している点から好ましい。免疫は、各種公知の方法により行うことができ、例えば、哺乳動物の皮下、皮内、静脈、または腹腔内に注射する。免疫は、初回の免疫後に何度か繰り返し行うことが好ましく、免疫のスケジュールは、免疫する動物の種類や系統に応じて適宜に決定することができる。また、免疫応答を増強させるために、MG-H1が結合したタンパク質は、投与前又は投与時にアジュバントと混合して投与することが好ましい。アジュバントとしては、各種公知のものを用いることができる。また、例えば、初回免疫時には完全フロイントアジュバント(CFA:Complete Freund's adjuvant)を用い、2回目以降は不完全フロイントアジュバント(IFA:Incomplete Freund's adjuvant)を用いる等、2種以上のアジュバントを用いることもできる。
【0027】
〔工程(4):モノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマの作製工程〕
前記工程(4)においては、免疫した動物の抗体産生細胞を用いて、モノクローナル抗AGEs抗体の産生能を有するハイブリドーマを作製する。
上記の免疫後の動物は、適宜の間隔で採血し、MG-H1に対する抗体が産生されていることを確認する。抗体産生の確認には、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、蛍光免疫測定法等の公知の分析方法を用いることができる。抗体産生の確認後、ブースト(免疫原の追加注射)を行うことも好ましい。最終免疫後、免疫した動物から脾臓細胞を摘出し、骨髄腫由来の細胞と細胞融合させる。細胞融合の方法は、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いる方法、電気刺激を与える方法等の公知の方法を用いることができる。融合細胞は、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含むHAT培地等で選択可能である。また、得られた融合細胞から、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、蛍光免疫測定法等の公知の分析方法により、MG-H1に対する結合能を有する抗体の産生能が高い融合細胞を選択する。そして、選択した細胞を用いて、限界希釈法、軟寒天法等の公知の方法によりクローニングを行う。このようにして、MG-H1に対する特異性や遊離体のMG-H1に対する結合能の高いモノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマが得られる。
【0028】
上記のようにして得られたハイブリドーマは、培養して増殖させ、その培養液等からモノクローナル抗AGEs抗体を分離精製することにより、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体が大量に得られる。ハイブリドーマの培養方法としては、哺乳動物の腹腔内に注射し腹水内で増殖させる方法や動物の体外で適切な培地を用いて培養する方法等の各種公知の方法を採用可能である。また、腹水や培養液または培養上清から得た抗体の精製には、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を特に制限なく使用可能である。
【0029】
なお、本発明の方法に使用するモノクローナル抗AGEs抗体には、このようにして得られた抗体のほか、MG-H1の識別部位を含む該抗体の断片も含まれる。また、MG-H1の識別部位を含むように遺伝子組換え技術を用いて製造したキメラ抗体やヒト化抗体であっても良い。
【0030】
このようにして得られたモノクローナル抗AGEs抗体は、MG-H1に対する特異性及び/又は遊離体のMG-H1に対する結合能に優れているため、各種の生体試料中のMG-H1を高感度あるいは高精度に測定及び/又は定量可能である。
【0031】
本発明の最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法は、被験者から採取した生体試料中のMG-H1を、上述したモノクローナル抗MG-H1抗体を使用して測定及び/又は定量する。モノクローナル抗AGEs抗体を用いて被験者から採取した生体試料中のMG-H1を測定及び/又は定量する方法としては、モノクローナル抗体を用いた各種公知の測定及び/又は定量方法を特に制限なく採用でき、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法)、放射免疫アッセイ法(RIA)、発光免疫測定法、沈降法、凝集法、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー等が挙げられるが、ELISA法が好ましい。なお、ELISA法としては、競合阻害ELISA法や競合結合ELISA法のいずれでもよい。ELISA法において用いる二次抗体、標識等は、常法に従って適宜選択すればよい。
【0032】
また、本発明において、被権者から採取した生体試料としては、生体から採取されたあらゆる細胞、組織、及び体液等が挙げられ、例えば、皮膚、筋肉、骨、脂肪組織、脳神経系、心臓及び血管等の循環器系、肺、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、消化器系、胸腺、リンパ、血液、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液、尿、腹水、喀痰等、並びにそれらの培養液物が挙げられるが、採取のし易さ等の理由から、血清または血漿が好ましい。生体試料は、必要に応じて、生理食塩水や水等の液体による希釈、濾過処理、ホモジネート処理、化学処理等の任意の処理を行ったものを用いる。
【0033】
本発明において最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患とは、骨粗鬆症、関節炎、その他の骨関連疾患、貧血症、白内障、高血圧、胃食道逆流症及び高脂血症から選択される1つ以上の疾患である。
骨粗鬆症や関節炎の以外のその他の骨関連疾患としては、例えば骨量減少症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシムム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰化脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルチコルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、及びその他の骨量減少症が挙げられる。
貧血症としては、例えば鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、鉄芽球性貧血、溶血性貧血、巨赤芽球性貧血、腎性貧血、サラセミア等が挙げられる。白内障としては、加齢白内障、アトピー白内障、併発白内障、糖尿病白内障等が挙げられる。高血圧としては、原発性高血圧、二次性高血圧 (例えば大動脈縮窄症、腎血管性高血圧、腎実質性高血圧、原発性アルドステロン症、Cushing 症候群、薬剤誘発性高血圧、脳幹部血管圧迫、甲状腺機能低下症)が挙げられる。
胃食道逆流症としては、非びらん性胃食道逆流症、逆流性食道炎、バレット食道等が挙げあれ、高脂血症としては、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、家族性脂質異常症等が挙げられる。
【0034】
本発明の方法において、上記モノクローナル抗MG-H1抗体及び測定方法により、被験者から採取した生体試料中のMG−H1量を、健常者の生体試料中のMG-H1量と比較し、有意に高い又は低い場合に疾患の罹患又はそのリスクがあると予測する。具体的には、被権者の生体試料中のMG−H1の量が、健常者の生体試料中のMG-H1量と比較して有意に高い場合、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障及び高血圧の少なくとも1つの疾患の罹患又はそのリスクが高いと判断される。一方、被権者の生体試料中のMG−H1の量が、健常者の生体試料中のMG-H1量と比較して有意に低い、胃食道逆流症及び高脂血症少なくとも1つの疾患の罹患又はそのリスクが高いと判断される。
【0035】
また、本発明は、被験者から採取した生体試料中のMG−H1の量を、これに特異的に結合するモノクローナル抗MG-H1抗体を使用して測定し、得られた測定値と、健常者の生体試料中のMG-H1の値と比較し、有意に高い又は低い場合かを判定することを含む、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測するためにデータを提供する方法しても利用可能である。
【0036】
本発明のキットは、上述した最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測する方法及び、最終糖化産物(AGEs)が関連する疾患の罹患又はそのリスクを予測するためにデータを提供する方法に使用するための、MG-H1に特異的に結合するモノクローナル抗MG-H1抗体を含むキットである。本発明のキットは、少なくともモノクローナル抗AGEs抗体と、MG-H1と結合した抗体を検出する試薬を含むことが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0038】
〔遊離体のMG-H1の調製〕
(1)遊離体のMG-H1を下記方法により合成した。
1N NaOH 49mLと40%Methyl glyoxal(5.8M)862μlとを混合し、次いで、それに871mgのL-Arginine(MW=174.2)を混合して、100mM(final)L-Argineと100mM(final)Methylglyoxalの混合液50mLを調製した。その混合液を振盪させながら、37℃で1時間インキュベートした後、HClで中性にした。その後、即エバポレーターで濃縮後、水に再溶解して凍結乾燥した。
(2)合成したMG-H1の精製
合成した遊離体のMG-H1について、下記方法による2段階の精製を行った。
精製1(Dowex50カラムによる精製)
陽イオン交換樹脂を充填したカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーにより、合成したMG-H1サンプルの1回目の精製を行った。カラムは、樹脂を充填したカラム(内径20mm、樹脂充填部の高さ20cm)を、カラムの約5倍量の10%ピリジン(超純水で調製)で洗浄した後、カラム5倍量のイオン交換水で洗浄し、次いでカラム5倍量の10%HClで洗浄した後、カラム5倍量のイオン交換水で洗浄して用いた。
このカラムに、合成したMG-H1サンプルを少量の超純水に溶かしてアプライし、カラムの3倍量の超純水を流した。次いで、10%ピリジンで溶出し、約3mlずつ分取した。ろ紙に各フラクションを10回ずつキャピラリーでスポットし0.5%ニンヒドリン溶液で検出した。ニンヒドリンで発色したフラクションでのMG-H1の存在をTLCで確認した。TLCは、シリカゲルプレートにスポットし純品もスポットして、展開溶媒(クロロホルム:MeOH:水=2:3:1)で展開し、ドライヤーで乾燥後、ニンヒドリン試薬で発色させた。発色した部分を集めエバポレーターでピリジンをとばした後-80℃で凍らせ、凍結乾燥した。
イオン交換樹脂としては、DowexTM50(ダウ・ケミカル社)を用い、超純水としてはmilliQ水を用いた。milliQ水は、ミリポア社の超純水製造装置MilliQで製造した超純水である。
【0039】
精製2(シリカゲルオープンカラムによる精製)
精製1による精製後のMG-H1サンプルについて、シリカゲルカラムを用いた液体クロマトグラフィーにより2回目の精製を行った。
シリカゲルカラムは、内径20mm、長さ50cmのガラス製カラムの底部に脱脂綿をほぐして詰め、次いで、シリカゲル(関東化学社製「シリカゲル60」)を上端からロートを用いて注入し床に軽く数回当てて空気を抜いて調製した。シリカゲル充填部の高さは44cmであった。
このシリカゲルカラムに、凍結乾燥後(1回目の精製後)のMG-H1サンプルを少量(約1mL)の超純水に溶かしてロードし、更に超純水0.5mlで容器を洗浄し、その洗浄水もロードした。そして、クロロホルム:MeOH:水=2:3:1を注入して溶出を開始し、溶出液を分取した。各フラクションの液を、紙にスポットし、0.5%ニンヒドリンで発色させた。ニンヒドリンで発色したフラクションでのMG-H1の存在をTLCで確認した。また、TLCは、シリカゲルプレートにスポットし純品もスポットし、展開溶媒(クロロホルム:MeOH:水=2:3:1)で展開し、ドライヤーで乾燥後、ニンヒドリン試薬で発色させた。MG-H1が確認されたフラクションを集め、エバポレーターで濃縮後に-80℃で凍らせ凍結乾燥した。精製2においても超純水としては、milliQ水を用いた。
【0040】
(3)構造の確認
精製1及び精製2により精製したMG-H1サンプルについて、液体クロマトグラフィー/四重極質量分析(LC-MS/MS)により分析した。条件は下記の通りである。
試料インジェクション量:1μg/mlを10 μl
LC部:Accela Pump + Thermo PAL (Thermo Scientific)
カラム:ZIC(R)-HILIC 150 x 2.1 mm, 5 μm (Merck Millipore)
移動相:0.1%ギ酸水溶液および0.1%ギ酸アセトニトリルによるグラジュエント
流速: 200 μl/min
MS部:高感度定量分析用トリプル四重極質量分析計 TSQ Vantage (Thermo Scientific)
イオン化法 : Positive ESI
スプレー電圧 : 3500 V
ベポライザー温度: 200 ℃
イオントランスファーチューブ温度 : 300 ℃
コリジョンガス、圧力 : Argon、1.2 mTorr
上記分析の結果、単離された化合物は、MG-H1であることが確認された。
【0041】
〔抗原の調製〕
抗原(免疫原)を調製するために、上記のようにして調製した高純度のMG-H1を、キャリアタンパク質として利用するスカシ貝ヘモシアニン(KLH)と結合させて、MG-H1結合KLHを作製した。結合方法としては、クロスリンカーとして前述したEDCを用いたEDC法を用いた。具体的方法は下記の通りである。
(MG-H1結合KLHの調製)
下記成分を下記の量ずつ上の成分から順に混和して合計1000μLの混合液に調製した。
KLH(10mg/mL) 300μL
PBS 445μL
MG-H1(1mg/100μL) 150μL (1.5mg/150μL)
NHS (5.4mg/50μL) 5μL
EDC (100mg/100μL) 100μL
各成分の詳細を以下に示す。
KLH: SIGMA社製KLH
PBS: リン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)
MG-H1:合成した遊離体のMG-H1(純度99%以上)
NHS: N-ヒドロキシコハク酸イミド(縮合剤)
EDC: 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド「PIERCE」
上記のようにして調製した混合液を、1時間、振盪しながらインキュベートした後、3μLの2-Mercaptoethanolを加え未反応のNHSを不活化した。そして、2LのPBSで一晩透析した。
透析後、蛋白濃度をBCA蛋白定量キット(PIERCE(登録商標)サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)で測定した。
【0042】
(MG-H1結合BSAの調製)
KLH(10mg/mL)に代えてウシ血清アルブミン(BSA)(10mg/mL)を用いる以外は、MG-H1結合KLHの調製と同様にして、MG-H1結合BSA(MG-BSA)を調製した。
【0043】
〔皮下免疫法による免疫及びハイブリドーマの作製〕
上述のようにして調製したMG-H1結合KLHを、アジュバントとそれぞれ混合したエマルジョンを用意し6〜8週齢メスのBALB/cマウス(日本チャールス・リバー)の背部皮下に50〜100μg/匹/回で免疫した。免疫間隔は2週間に1回で合計5回実施した。アジュバントとして初回は完全フロイントアジュバント(CFA)、2回目以降は不完全フロイントアジュバント(IFA)を使用した。3回目・4回目免疫の翌週に採血し、タイターチェックを実施した。タイターチェックはMG-H1結合BSAを固相にして行った。最終免疫としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS, Phosphate buffered saline )(-)で希釈した抗原を腹腔内に投与した。
最終免疫3〜4日後にマウスより摘出した脾臓細胞をミエローマと混合してPEG法により
細胞融合を実施した。脾臓細胞数として0.5〜1.0×105 cells/wellで96 well plateに播
種し、RPMI 1640 +10% FBS + hypoxanthine-aminopterin-thymidine (HAT) + hybridoma
cloning supplement (HCS)で培養した。
細胞融合後約2週間HAT培地により選択培養を行った。融合細胞を選択後、各ウェルから一部の培養上清をサンプリングし、MG-H1結合BSAを1μg/wellで固相したELISAによりスクリーニングを行った。二次スクリーニングとしてメチルグリオキサール修飾BSAを固相したELISAを行い、免疫抗原、メチルグリオキサール修飾BSAそれぞれで陽性のウェルを確認した。
ELISAの結果を元に選択された10ウェルの細胞を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。陽性のシングルコロニーを形成した10個のウェルを選択し、増殖能を加味して最終的に3クローンに絞った。樹立過程において使用した各種添加剤含有培養から馴化培地(RPMI1640 + 10% FBS)で増殖するよう馴化培養を行った。
【0044】
〔マウス腹腔法によるモノクローナル抗AGEs抗体の生産〕
クローニング、馴化したハイブリドーマを馴化培地で培養し、生細胞率が上昇するように10cmディッシュで2〜3継代の培養を行った。生細胞の状態を確認しながら培養スケールをあげ、移植当日に対数増殖期のハイブリドーマを必要量(2x107cells)確保した。ハイブリドーマ懸濁液から遠心操作(1000rpm, 5min)によりハイブリドーマを回収した。PBS(-)で細胞を洗浄後、細胞数を測定し、4x106cells/mlにRPMI 1640(FBS free)にて調製した。0.5ml/匹(2x106cells/匹)で10匹のBALB/c雄マウス腹腔内に移植した。腹水の貯留具合を確認し、18Gの注射針を用いて腹水を採取した。採取腹水を遠心分離(3000rpm, 5min)し、腹水上清を回収した。
腹水を平衡化・吸着バッファー(PBS(-), pH 7.4)で3倍希釈した。次にプロテインAカラムを5〜10bed volの平衡化・吸着バッファーで洗浄し、希釈した腹水をアプライした。その後、プロテインAカラムを再度5〜10bed volの平衡化・吸着バッファーで洗浄した。次に3〜5bed volの溶出バッファー(100mM クエン酸バッファー, pH3.0)で吸着蛋白質を溶出させ、A280=0.1以上を集め、中和液(2M Tris-HCl, pH9.0)を1/10〜1/20倍添加し、溶出画分を素早くpH7.0〜7.5にした。中和した溶出画分を最終バッファー(50mM Tris-HCl, pH8.0, 0.15M NaCl)にて透析し、その後0.22μmフィルターで濾過滅菌した。
このようにして、MG-H1に特異的に結合するモノクローナル抗AGEs抗体を得た。
【0045】
〔競合ELISA法による患者血清中MG-H1の測定〕
健常者及び様々な疾患患者の血清中MG-H1量を測定した。
1.使用したヒト血清
今回健常者と8種類の疾患(骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障、胃食道逆流症、高血圧症、緑内障、高脂血症)患者のヒト血清をPROMEDDX社から入手した。健常者と各疾患患者の平均年齢は次の通りである。健常者75.0歳、骨粗鬆症75.5歳、貧血症72.4歳、関節炎76.8歳、白内障84.7歳、胃食道逆流症76.0歳、高血圧症80.5歳、緑内障84.0歳、高脂血症72.0歳。また、健常者及び疾患患者のヒト血清のサンプル数は以下の通り。健常10、骨粗鬆症10、貧血症7、関節炎7、白内障3、胃食道逆流症3、緑内障2、高血圧6、高脂血症2
【0046】
2.方法
[ELISAプレートにコーティングするMG-BSAの調製]
(1) 50 mLチューブを2本取り、Methylglyoxal (MG) とBSAを1×PBSでそれぞれ5.8 Mと 4 mg/mLに調製した。
(2) 1×PBSでMGを2 mM、BSAを2 mg/mLに希釈した。
(3) 15 mLチューブに2 mM MGと2 mg/mL BSAを各5 mLずつ加えて(1 mM (1 mg/mL) MG-BSA)、37℃で12時間インキュベートした。
(4) 1 Lの1 ×PBSにて12時間以上透析した。
(5) 透析後の溶液を回収し、0.45 μmのフィルターに通した。
(6) BCA法にて回収したMG-BSAのタンパク量を測定した。
【0047】
[競合ELISA法による患者血清中MG-H1の測定]
(1) 12時間インキュベートした1mM (1 mg/mL) MG-BSA溶液を1×PBSで
0.5 μg/mL MG-BSAに調製した後、96穴ELISAプレートに100μL/well加え、ラップでふたをして2時間室温で静置した。
(2) ELISAプレート内の液を除去し、洗浄液(PBS+0.5%Tween20)を200μL/well加え、そのまま液を除去する工程を3回実施した。
(3) 0.5%Gelatin(PBSにGelatinを加え0.5%にした溶液)を200μL/well加え、1時間室温に置き、ブロッキングを行った。
(4) 上記(2)の操作を行った。
(5) 検量線作成のため、まず2mM MG-H1を洗浄液にて作製後、1mMに希釈し、その後3倍ずつ順に希釈し、12段階調製した。
(6) 血清を洗浄液で4倍希釈して十分撹拌した後、上記(6)で調製したMG-H1とともに所定のウェルに50μL/wellで加えた。
(7) 洗浄液にて2μg/mLに希釈した抗MG-H1抗体を、ウェルに50μLずつ加えた後、1時間室温で反応させた。
(8) 上記(2)の操作を行った。
(9) 洗浄液にて0.1 μg/mLに調製したGoat anti-Mouse IgG (γ)-HRP抗体を100 μL/well加えた後、1 時間室温で反応させた。
(10) 上記(2)の操作を行った。
(11) TMB試薬をプレート1列ごとに5秒間隔で100 μL/well加え、発色確認後2 Nの硫酸を5 秒間隔で100 μL/well加えて反応を止めた。
(12) マイクロプレートリーダーFLUO star OPTIMA (BMG LABTECH)で450nm、レファレンス595 nmの吸光度で測定した。
【0048】
3.使用した試薬・備品は以下の通り
・Methylglyoxal solution, 40%:Sigma, M0252-25mL
・BSA:Sigma, A-7030
・透析チューブ:エーディアス, UC24-32-100 セルロースチューブ24/32
・0.45 μmフィルター:市販品0.45 μmフィルター
・BCA試薬:Pierce, 23225 BCA Protein Assay Reagent
・96穴ELISAプレート:NUNC MAXISORP(NUNC 439454)
・PBS:市販の試薬にて10×PBS作製後、超純水で希釈した
・Tween 20:和光純薬工業(株), Polyoxyethylene (20) sorbitan Monolaurate
・Gelatin:ナカライテスク(株),Gelatin精製粉末 16631-92
・MG-H1:前述した方法により、合成した後、2段階の精製を行った前記の遊離体のMG-H1
・一次抗体(抗MG-H1抗体):抗体3(5.2 mg/mL)
・二次抗体:KPL, 214-1802 Goat Anti-Mouse IgG (gamma) Antibody, F(ab')2 fragment, Human Serum Adsorbed and Peroxidase labeled
・硫酸:ナカライテスク(株), Cat. 16631-92
【0049】
4.結果
図1に、競合ELISA法による健常者と各疾患患者血清中のMG-H1量(平均値)を示した。
この結果から、抗MG-H1モノクローナル抗体やそれを用いた競合ELISA等の免疫学的測定法によれば、血清中のMG-H1量を測定することができる。そして骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障並びに高血圧症疾患については、健常者よりもMG-H1量が高値を示し、胃食道逆流症及び高脂血症については、健常者よりもMG-H1量が低値を示すことから、これらの疾患の有無がMG-H1量に影響することが確認された。このことは、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体や、それを用いた競合ELISA等の免疫学的測定法によれば、白内障や骨粗鬆症等の疾患や特定の症状と、血清等の生体試料中のMG-H1量との間の相関関係の有無を調べることができることを意味し、また、その相関関係に基づき、疾患や特定の症状の有無、疾患や症状が生じるリスクの判定に利用可能であることを示している。本発明の方法により、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障及び高血圧症もMG-H1を測定することで、各種疾患や症状、又はそれらのリスク等を短時間で判定することが可能となる。
図1