【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0038】
〔遊離体のMG-H1の調製〕
(1)遊離体のMG-H1を下記方法により合成した。
1N NaOH 49mLと40%Methyl glyoxal(5.8M)862μlとを混合し、次いで、それに871mgのL-Arginine(MW=174.2)を混合して、100mM(final)L-Argineと100mM(final)Methylglyoxalの混合液50mLを調製した。その混合液を振盪させながら、37℃で1時間インキュベートした後、HClで中性にした。その後、即エバポレーターで濃縮後、水に再溶解して凍結乾燥した。
(2)合成したMG-H1の精製
合成した遊離体のMG-H1について、下記方法による2段階の精製を行った。
精製1(Dowex50カラムによる精製)
陽イオン交換樹脂を充填したカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーにより、合成したMG-H1サンプルの1回目の精製を行った。カラムは、樹脂を充填したカラム(内径20mm、樹脂充填部の高さ20cm)を、カラムの約5倍量の10%ピリジン(超純水で調製)で洗浄した後、カラム5倍量のイオン交換水で洗浄し、次いでカラム5倍量の10%HClで洗浄した後、カラム5倍量のイオン交換水で洗浄して用いた。
このカラムに、合成したMG-H1サンプルを少量の超純水に溶かしてアプライし、カラムの3倍量の超純水を流した。次いで、10%ピリジンで溶出し、約3mlずつ分取した。ろ紙に各フラクションを10回ずつキャピラリーでスポットし0.5%ニンヒドリン溶液で検出した。ニンヒドリンで発色したフラクションでのMG-H1の存在をTLCで確認した。TLCは、シリカゲルプレートにスポットし純品もスポットして、展開溶媒(クロロホルム:MeOH:水=2:3:1)で展開し、ドライヤーで乾燥後、ニンヒドリン試薬で発色させた。発色した部分を集めエバポレーターでピリジンをとばした後-80℃で凍らせ、凍結乾燥した。
イオン交換樹脂としては、Dowex
TM50(ダウ・ケミカル社)を用い、超純水としてはmilliQ水を用いた。milliQ水は、ミリポア社の超純水製造装置MilliQで製造した超純水である。
【0039】
精製2(シリカゲルオープンカラムによる精製)
精製1による精製後のMG-H1サンプルについて、シリカゲルカラムを用いた液体クロマトグラフィーにより2回目の精製を行った。
シリカゲルカラムは、内径20mm、長さ50cmのガラス製カラムの底部に脱脂綿をほぐして詰め、次いで、シリカゲル(関東化学社製「シリカゲル60」)を上端からロートを用いて注入し床に軽く数回当てて空気を抜いて調製した。シリカゲル充填部の高さは44cmであった。
このシリカゲルカラムに、凍結乾燥後(1回目の精製後)のMG-H1サンプルを少量(約1mL)の超純水に溶かしてロードし、更に超純水0.5mlで容器を洗浄し、その洗浄水もロードした。そして、クロロホルム:MeOH:水=2:3:1を注入して溶出を開始し、溶出液を分取した。各フラクションの液を、紙にスポットし、0.5%ニンヒドリンで発色させた。ニンヒドリンで発色したフラクションでのMG-H1の存在をTLCで確認した。また、TLCは、シリカゲルプレートにスポットし純品もスポットし、展開溶媒(クロロホルム:MeOH:水=2:3:1)で展開し、ドライヤーで乾燥後、ニンヒドリン試薬で発色させた。MG-H1が確認されたフラクションを集め、エバポレーターで濃縮後に-80℃で凍らせ凍結乾燥した。精製2においても超純水としては、milliQ水を用いた。
【0040】
(3)構造の確認
精製1及び精製2により精製したMG-H1サンプルについて、液体クロマトグラフィー/四重極質量分析(LC-MS/MS)により分析した。条件は下記の通りである。
試料インジェクション量:1μg/mlを10 μl
LC部:Accela Pump + Thermo PAL (Thermo Scientific)
カラム:ZIC(R)-HILIC 150 x 2.1 mm, 5 μm (Merck Millipore)
移動相:0.1%ギ酸水溶液および0.1%ギ酸アセトニトリルによるグラジュエント
流速: 200 μl/min
MS部:高感度定量分析用トリプル四重極質量分析計 TSQ Vantage (Thermo Scientific)
イオン化法 : Positive ESI
スプレー電圧 : 3500 V
ベポライザー温度: 200 ℃
イオントランスファーチューブ温度 : 300 ℃
コリジョンガス、圧力 : Argon、1.2 mTorr
上記分析の結果、単離された化合物は、MG-H1であることが確認された。
【0041】
〔抗原の調製〕
抗原(免疫原)を調製するために、上記のようにして調製した高純度のMG-H1を、キャリアタンパク質として利用するスカシ貝ヘモシアニン(KLH)と結合させて、MG-H1結合KLHを作製した。結合方法としては、クロスリンカーとして前述したEDCを用いたEDC法を用いた。具体的方法は下記の通りである。
(MG-H1結合KLHの調製)
下記成分を下記の量ずつ上の成分から順に混和して合計1000μLの混合液に調製した。
KLH(10mg/mL) 300μL
PBS 445μL
MG-H1(1mg/100μL) 150μL (1.5mg/150μL)
NHS (5.4mg/50μL) 5μL
EDC (100mg/100μL) 100μL
各成分の詳細を以下に示す。
KLH: SIGMA社製KLH
PBS: リン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)
MG-H1:合成した遊離体のMG-H1(純度99%以上)
NHS: N-ヒドロキシコハク酸イミド(縮合剤)
EDC: 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド「PIERCE」
上記のようにして調製した混合液を、1時間、振盪しながらインキュベートした後、3μLの2-Mercaptoethanolを加え未反応のNHSを不活化した。そして、2LのPBSで一晩透析した。
透析後、蛋白濃度をBCA蛋白定量キット(PIERCE(登録商標)サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)で測定した。
【0042】
(MG-H1結合BSAの調製)
KLH(10mg/mL)に代えてウシ血清アルブミン(BSA)(10mg/mL)を用いる以外は、MG-H1結合KLHの調製と同様にして、MG-H1結合BSA(MG-BSA)を調製した。
【0043】
〔皮下免疫法による免疫及びハイブリドーマの作製〕
上述のようにして調製したMG-H1結合KLHを、アジュバントとそれぞれ混合したエマルジョンを用意し6〜8週齢メスのBALB/cマウス(日本チャールス・リバー)の背部皮下に50〜100μg/匹/回で免疫した。免疫間隔は2週間に1回で合計5回実施した。アジュバントとして初回は完全フロイントアジュバント(CFA)、2回目以降は不完全フロイントアジュバント(IFA)を使用した。3回目・4回目免疫の翌週に採血し、タイターチェックを実施した。タイターチェックはMG-H1結合BSAを固相にして行った。最終免疫としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS, Phosphate buffered saline )(-)で希釈した抗原を腹腔内に投与した。
最終免疫3〜4日後にマウスより摘出した脾臓細胞をミエローマと混合してPEG法により
細胞融合を実施した。脾臓細胞数として0.5〜1.0×10
5 cells/wellで96 well plateに播
種し、RPMI 1640 +10% FBS + hypoxanthine-aminopterin-thymidine (HAT) + hybridoma
cloning supplement (HCS)で培養した。
細胞融合後約2週間HAT培地により選択培養を行った。融合細胞を選択後、各ウェルから一部の培養上清をサンプリングし、MG-H1結合BSAを1μg/wellで固相したELISAによりスクリーニングを行った。二次スクリーニングとしてメチルグリオキサール修飾BSAを固相したELISAを行い、免疫抗原、メチルグリオキサール修飾BSAそれぞれで陽性のウェルを確認した。
ELISAの結果を元に選択された10ウェルの細胞を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。陽性のシングルコロニーを形成した10個のウェルを選択し、増殖能を加味して最終的に3クローンに絞った。樹立過程において使用した各種添加剤含有培養から馴化培地(RPMI1640 + 10% FBS)で増殖するよう馴化培養を行った。
【0044】
〔マウス腹腔法によるモノクローナル抗AGEs抗体の生産〕
クローニング、馴化したハイブリドーマを馴化培地で培養し、生細胞率が上昇するように10cmディッシュで2〜3継代の培養を行った。生細胞の状態を確認しながら培養スケールをあげ、移植当日に対数増殖期のハイブリドーマを必要量(2x10
7cells)確保した。ハイブリドーマ懸濁液から遠心操作(1000rpm, 5min)によりハイブリドーマを回収した。PBS(-)で細胞を洗浄後、細胞数を測定し、4x10
6cells/mlにRPMI 1640(FBS free)にて調製した。0.5ml/匹(2x10
6cells/匹)で10匹のBALB/c雄マウス腹腔内に移植した。腹水の貯留具合を確認し、18Gの注射針を用いて腹水を採取した。採取腹水を遠心分離(3000rpm, 5min)し、腹水上清を回収した。
腹水を平衡化・吸着バッファー(PBS(-), pH 7.4)で3倍希釈した。次にプロテインAカラムを5〜10bed volの平衡化・吸着バッファーで洗浄し、希釈した腹水をアプライした。その後、プロテインAカラムを再度5〜10bed volの平衡化・吸着バッファーで洗浄した。次に3〜5bed volの溶出バッファー(100mM クエン酸バッファー, pH3.0)で吸着蛋白質を溶出させ、A280=0.1以上を集め、中和液(2M Tris-HCl, pH9.0)を1/10〜1/20倍添加し、溶出画分を素早くpH7.0〜7.5にした。中和した溶出画分を最終バッファー(50mM Tris-HCl, pH8.0, 0.15M NaCl)にて透析し、その後0.22μmフィルターで濾過滅菌した。
このようにして、MG-H1に特異的に結合するモノクローナル抗AGEs抗体を得た。
【0045】
〔競合ELISA法による患者血清中MG-H1の測定〕
健常者及び様々な疾患患者の血清中MG-H1量を測定した。
1.使用したヒト血清
今回健常者と8種類の疾患(骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障、胃食道逆流症、高血圧症、緑内障、高脂血症)患者のヒト血清をPROMEDDX社から入手した。健常者と各疾患患者の平均年齢は次の通りである。健常者75.0歳、骨粗鬆症75.5歳、貧血症72.4歳、関節炎76.8歳、白内障84.7歳、胃食道逆流症76.0歳、高血圧症80.5歳、緑内障84.0歳、高脂血症72.0歳。また、健常者及び疾患患者のヒト血清のサンプル数は以下の通り。健常10、骨粗鬆症10、貧血症7、関節炎7、白内障3、胃食道逆流症3、緑内障2、高血圧6、高脂血症2
【0046】
2.方法
[ELISAプレートにコーティングするMG-BSAの調製]
(1) 50 mLチューブを2本取り、Methylglyoxal (MG) とBSAを1×PBSでそれぞれ5.8 Mと 4 mg/mLに調製した。
(2) 1×PBSでMGを2 mM、BSAを2 mg/mLに希釈した。
(3) 15 mLチューブに2 mM MGと2 mg/mL BSAを各5 mLずつ加えて(1 mM (1 mg/mL) MG-BSA)、37℃で12時間インキュベートした。
(4) 1 Lの1 ×PBSにて12時間以上透析した。
(5) 透析後の溶液を回収し、0.45 μmのフィルターに通した。
(6) BCA法にて回収したMG-BSAのタンパク量を測定した。
【0047】
[競合ELISA法による患者血清中MG-H1の測定]
(1) 12時間インキュベートした1mM (1 mg/mL) MG-BSA溶液を1×PBSで
0.5 μg/mL MG-BSAに調製した後、96穴ELISAプレートに100μL/well加え、ラップでふたをして2時間室温で静置した。
(2) ELISAプレート内の液を除去し、洗浄液(PBS+0.5%Tween20)を200μL/well加え、そのまま液を除去する工程を3回実施した。
(3) 0.5%Gelatin(PBSにGelatinを加え0.5%にした溶液)を200μL/well加え、1時間室温に置き、ブロッキングを行った。
(4) 上記(2)の操作を行った。
(5) 検量線作成のため、まず2mM MG-H1を洗浄液にて作製後、1mMに希釈し、その後3倍ずつ順に希釈し、12段階調製した。
(6) 血清を洗浄液で4倍希釈して十分撹拌した後、上記(6)で調製したMG-H1とともに所定のウェルに50μL/wellで加えた。
(7) 洗浄液にて2μg/mLに希釈した抗MG-H1抗体を、ウェルに50μLずつ加えた後、1時間室温で反応させた。
(8) 上記(2)の操作を行った。
(9) 洗浄液にて0.1 μg/mLに調製したGoat anti-Mouse IgG (γ)-HRP抗体を100 μL/well加えた後、1 時間室温で反応させた。
(10) 上記(2)の操作を行った。
(11) TMB試薬をプレート1列ごとに5秒間隔で100 μL/well加え、発色確認後2 Nの硫酸を5 秒間隔で100 μL/well加えて反応を止めた。
(12) マイクロプレートリーダーFLUO star OPTIMA (BMG LABTECH)で450nm、レファレンス595 nmの吸光度で測定した。
【0048】
3.使用した試薬・備品は以下の通り
・Methylglyoxal solution, 40%:Sigma, M0252-25mL
・BSA:Sigma, A-7030
・透析チューブ:エーディアス, UC24-32-100 セルロースチューブ24/32
・0.45 μmフィルター:市販品0.45 μmフィルター
・BCA試薬:Pierce, 23225 BCA Protein Assay Reagent
・96穴ELISAプレート:NUNC MAXISORP(NUNC 439454)
・PBS:市販の試薬にて10×PBS作製後、超純水で希釈した
・Tween 20:和光純薬工業(株), Polyoxyethylene (20) sorbitan Monolaurate
・Gelatin:ナカライテスク(株),Gelatin精製粉末 16631-92
・MG-H1:前述した方法により、合成した後、2段階の精製を行った前記の遊離体のMG-H1
・一次抗体(抗MG-H1抗体):抗体3(5.2 mg/mL)
・二次抗体:KPL, 214-1802 Goat Anti-Mouse IgG (gamma) Antibody, F(ab')2 fragment, Human Serum Adsorbed and Peroxidase labeled
・硫酸:ナカライテスク(株), Cat. 16631-92
【0049】
4.結果
図1に、競合ELISA法による健常者と各疾患患者血清中のMG-H1量(平均値)を示した。
この結果から、抗MG-H1モノクローナル抗体やそれを用いた競合ELISA等の免疫学的測定法によれば、血清中のMG-H1量を測定することができる。そして骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障並びに高血圧症疾患については、健常者よりもMG-H1量が高値を示し、胃食道逆流症及び高脂血症については、健常者よりもMG-H1量が低値を示すことから、これらの疾患の有無がMG-H1量に影響することが確認された。このことは、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体や、それを用いた競合ELISA等の免疫学的測定法によれば、白内障や骨粗鬆症等の疾患や特定の症状と、血清等の生体試料中のMG-H1量との間の相関関係の有無を調べることができることを意味し、また、その相関関係に基づき、疾患や特定の症状の有無、疾患や症状が生じるリスクの判定に利用可能であることを示している。本発明の方法により、骨粗鬆症、貧血症、関節炎、白内障及び高血圧症もMG-H1を測定することで、各種疾患や症状、又はそれらのリスク等を短時間で判定することが可能となる。