【文献】
Lin Pan B et al,A study on repair of porcine articular cartilage defects with tissue-engineered cartilage constructe,Annals of plastic surgery,2010年10月,Vol. 65, No. 4,pp. 430-6
【文献】
Bannasch, H et al,Wound healing in a pig animal model after transplantation of autologous keratinocytes suspended in f,Chirurgisches Forum fuer Experimentelle und Klinische Forschung,2002年,p485-487
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及び0.8〜125U/mLの濃度のトロンビンを含み、心臓由来細胞又は神経前駆細胞とともに用いられ、又は心筋梗塞又は皮膚凍傷に対して適用される、ハイブリッドゲル。
脱細胞化される生体組織が、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄からなる群より選択される1以上の生体組織である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のハイブリッドゲル。
脱細胞化生体組織を粉砕する工程が、脱細胞化生体組織を細断する工程、細断された脱細胞化生体組織を凍結乾燥又は凍結する工程、及び凍結乾燥又は凍結された脱細胞化生体組織を粉砕する工程を含む、請求項10から請求項15のいずれか一項に記載の作製方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように粒子状脱細胞化組織は、移植片の拒絶反応もなく、疾患部位の再生・治癒に有用であることが示されているが、より完全なものにするには以下の点が望まれる。すなわち、再生・治癒に関わる患者由来または導入した細胞が、標的部位に集まり、または標的部位の成熟細胞が脱分化し、これらの細胞が増殖し、分化・再分化する行程が速やかに遂行される足場であること;または粒子状脱細胞化組織で再構築された組織・器官が速やかに宿主に適合し機能すること;標的部位へ容易に適用され、その部位で迅速にゲル化し、確実に留置すること;加えて集積した細胞への栄養供給を行うための微細血管を早期に誘導し、前述の効果を促進させてより効果的な組織再生を促すこと。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った結果、脱細胞化生体組織に由来する粒子とフィブリン糊を組み合わせて細胞や疾患モデル動物へ適用した場合、(1)心臓由来細胞では心筋細胞への分化及び拍動等の機能獲得が見出され、(2)心筋梗塞モデルでは心臓の壁厚が薄くなることを抑制する効果や血管新生効果が確認され、(3)神経前駆細胞では樹状突起の形成誘導/神経突起の伸長作用が見出され、(4)皮膚凍傷モデルでは凍傷部位の拘縮発生を抑制しつつ組織再生を促進する効果が確認され、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明には以下の発明が含まれる。
【0013】
・動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及びトロンビンを含むハイブリッドゲル;
・当該ハイブリッドゲルを含むことを特徴とする、疾患治療剤、細胞移植補助剤、又は細胞培養基材;
・動物由来の生体組織を脱細胞化して脱細胞化生体組織を得る工程、該脱細胞化生体組織を粉砕して粒子状脱細胞化組織を得る工程、及び該粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及びトロンビンを混合する工程、を含むハイブリッドゲルの作製方法;
・当該粒子状脱細胞化組織、及びフィブリン糊を動物組織へ適用することを含む、組織再生療法;
・当該ハイブリッドゲルを動物組織へ適用することを含む、組織再生療法;
・当該粒子状脱細胞化組織、フィブリン糊、及び細胞を動物組織へ適用することを含む、細胞移植方法;
・当該ハイブリッドゲルと共に細胞を動物組織へ適用することを含む、細胞移植方法;
・当該ハイブリッドゲルと共に細胞を培養することを含む、細胞培養方法;
・動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、及びフィブリン糊を含むキット。
【0014】
さらに具体的には、本発明には以下の発明が含まれる。
[1]動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及びトロンビンを含むハイブリッドゲル。
[2]動物が、ヒト以外の動物である、[1]に記載のハイブリッドゲル。
[3]脱細胞化される生体組織が、マトリックス構造を有する生体組織である、[1]又は[2]に記載のハイブリッドゲル。
[4]脱細胞化される生体組織が、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄からなる群より選択される1以上の生体組織である、[1]から[3]のいずれか一項に記載のハイブリッドゲル。
[5]脱細胞化生体組織が、生体組織へ高静水圧処理を行って得られた脱細胞化生体組織である、[1]から[4]のいずれか一項に記載のハイブリッドゲル。
[6]トロンビンが、0.8U/mL以上の濃度である、[1]から[5]のいずれか一項に記載のハイブリッドゲル。
[7][1]から[6]のいずれか一項に記載のハイブリッドゲルを含む疾患治療剤。
[8]疾患治療剤が、心筋梗塞治療剤、神経損傷疾患治療剤、及び皮膚凍傷治療剤からなる群より選択される治療剤である、[7]に記載の治療剤。
[9][1]から[6]のいずれか一項に記載のハイブリッドゲルを含む細胞移植補助剤。
[10]細胞が、心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来である、[9]に記載の細胞移植補助剤。
[11][1]から[6]のいずれか一項に記載のハイブリッドゲルを含む細胞培養基材。
[12]細胞が、心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来である、[11]に記載の細胞培養基材。
[13]動物由来の生体組織を脱細胞化して脱細胞化生体組織を得る工程、該脱細胞化生体組織を粉砕して粒子状脱細胞化組織を得る工程、及び該粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及びトロンビンを混合する工程、を含むハイブリッドゲルの作製方法。
[14]動物がヒト以外の動物である、[13]に記載の作製方法。
[15]脱細胞化される生体組織が、マトリックス構造を有する生体組織である、[13]又は[14]に記載の作製方法。
[16]脱細胞化される生体組織が、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄からなる群より選択される1以上の生体組織である、[13]から[15]のいずれか一項に記載の作製方法。
[17]脱細胞化生体組織を得る工程が、動物由来の生体組織を脱細胞化する工程、及びマイクロ波照射して洗浄する工程を含む、[13]から[16]のいずれか一項に記載の作製方法。
[18]脱細胞化が、生体組織へ高静水圧処理して行われる、[13]から[17]のいずれか一項に記載の作製方法。
[19]脱細胞化生体組織を粉砕する工程が、脱細胞化生体組織を細断する工程、細断された脱細胞化生体組織を凍結乾燥又は凍結する工程、及び凍結乾燥又は凍結された脱細胞化生体組織を粉砕する工程を含む、[13]から[18]のいずれか一項に記載の作製方法。
[20]粉砕された脱細胞化生体組織を粒子サイズで篩いにかける工程をさらに含む、[19]に記載の作製方法。
[21]トロンビンが、0.8U/mL以上の濃度である、[13]から[20]のいずれか一項に記載の作製方法。
[22]動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、及びフィブリン糊を動物組織へ適用することを含む、組織再生療法。
[23]脱細胞化生体組織の由来となる動物が、ヒト以外の動物である、[22]に記載の組織再生療法。
[24]脱細胞化される生体組織が、マトリックス構造を有する生体組織である、[22]又は[23]に記載の組織再生療法。
[25]脱細胞化される生体組織が、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄からなる群より選択される1以上の生体組織である、[22]から[24]のいずれか一項に記載の組織再生療法。
[26]脱細胞化生体組織が、生体組織へ高静水圧処理を行って得られた脱細胞化生体組織である、[22]から[25]のいずれか一項に記載の組織再生療法。
[27]適用する動物が、ヒト以外の動物である、[22]から[26]のいずれか一項に記載の組織再生療法。
[28]適用する組織が、心臓、神経、又は皮膚である、[22]から[27]のいずれか一項に記載の組織再生療法。
[29][1]から[6]に記載のハイブリッドゲルを動物組織へ適用することを含む、組織再生療法。
[30]適用する動物が、ヒト以外の動物である、[29]に記載の組織再生療法。
[31]適用する組織が、心臓、神経、又は皮膚である、[29]又は[30]に記載の組織再生療法。
[32]動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、フィブリン糊、及び細胞を動物組織へ適用することを含む、細胞移植方法。
[33][1]から[6]に記載のハイブリッドゲルと共に細胞を動物組織へ適用することを含む、細胞移植方法。
[34]細胞が、心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来のものである、[32]又は[33]に記載の細胞移植方法。
[35]適用する動物が、ヒト以外の動物である、[32]から[34]のいずれか一項に記載の細胞移植方法。
[36]適用する組織が、心臓、神経、又は皮膚である、[32]から[35]のいずれか一項に記載の細胞移植方法。
[37][1]から[6]に記載のハイブリッドゲルと共に細胞を培養することを含む、細胞培養方法。
[38]細胞が、心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来のものである、[37]に記載の細胞培養方法。
[39]動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、及びフィブリン糊を含むキット。
[40]脱細胞化生体組織の由来となる動物が、ヒト以外の動物である、[39]に記載のキット。
[41]脱細胞化される生体組織が、マトリックス構造を有する生体組織である、[39]又は[40]に記載のキット。
[42]脱細胞化される生体組織が、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄からなる群より選択される1以上の生体組織である、[39]から[41]のいずれか一項に記載のキット。
[43]脱細胞化生体組織が、生体組織へ高静水圧処理を行って得られた脱細胞化生体組織である、[39]から[42]のいずれか一項に記載のキット。
[44]キットが、疾患治療キットである、[39]から[43]のいずれか一項に記載のキット。
[45]疾患治療キットが、心筋梗塞治療キット、神経損傷疾患治療キット、及び皮膚凍傷治療キットからなる群より選択されるキットである、[44]に記載のキット。
[46]キットが、細胞移植用キットである、[39]から[43]のいずれか一項に記載のキット。
[47]細胞が、心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来のものである、[46]に記載のキット。
[48]キットが、細胞培養用キットである、[39]から[43]のいずれか一項に記載のキット。
[49]細胞が、心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来のものである、[48]に記載のキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイブリッドゲルは、幹細胞の分化や機能獲得を促進する効果、各種疾患に対する治療効果を有する。より具体的には、(1)心臓由来細胞が心筋細胞への分化及び拍動等の機能を獲得する効果、(2)心筋梗塞後に心臓壁が薄くなることを抑制する効果や血管新生効果、(3)神経前駆細胞が樹状突起の形成能または神経突起の伸長能を獲得する効果、(4)皮膚凍傷後に凍傷部位の拘縮発生を抑制し組織再生を促進する効果が例示される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.ハイブリッドゲルの作製方法
本発明には、動物由来の生体組織を脱細胞化して脱細胞化生体組織を得る工程、該脱細胞化生体組織を粉砕して粒子状脱細胞化組織を得る工程、及び該粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及びトロンビンを混合する工程、を含むハイブリッドゲルの作製方法が含まれる。
【0018】
本発明の作製方法では、初めに動物から生体組織を回収する。生体組織は脱細胞化処理が行われることによって、動物由来細胞やウイルス並びにバクテリアが除去される。そのため、生体組織は、その由来とする動物と異なる種類の動物へ移植した場合であっても、異種免疫反応が抑制される。したがって、生体組織を回収する動物の種類は特に限定されない。一方、生体組織は容易に入手できることが好ましいため、ヒト以外の動物であることが好ましく、特に哺乳類の家畜、鳥類の家畜が好ましい。哺乳類の家畜としては、ウシ、ウマ、ラクダ、リャマ、ロバ、ヤク、ヒツジ、ブタ、ヤギ、シカ、アルパカ、イヌ、タヌキ、イタチ、キツネ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、リス、アライグマ等が挙げられる。また、鳥類の家畜としては、インコ、オウム、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ガチョウ、ホロホロ鳥、キジ、ダチョウ、ウズラ等が挙げられる。この中でも入手の安定性からブタ、又はウサギが好ましい。
【0019】
生体組織は細胞外にマトリックス構造を持った脱細胞化処理が可能な組織が例示される。そうした組織は、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、尿道、舌、扁桃、食道、胃、小腸、大腸、肛門、膵臓、心臓、血管、脾臓、肺、脳、骨、脊髄、軟骨、精巣、子宮、卵管、卵巣、胎盤、角膜、骨格筋、腱、神経、皮膚等からなる群から選択される組織である。特に好ましくは心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、脊髄、精巣、脾臓、膀胱、血管、及び皮膚等からなる群から選択される組織である。生体組織として特に好ましくは、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄である。動物から生体組織を回収する方法は当業者にとって公知である。
【0020】
次に、本発明の作製方法では動物由来の生体組織に対して脱細胞化処理を行う。脱細胞化処理は、動物由来の細胞やウイルス並びにバクテリアを除去する方法であれば特に限定されない。そうした方法としては、界面活性剤処理(非特許文献5、非特許文献7、非特許文献8)、酵素処理、浸透圧処理、凍結融解処理、高静水圧処理(非特許文献1、2、3、4、特許文献3:特許第4092397号公報、特許文献4:再公表2008−111530号公報、特許文献5:特開2009−50297号公報)が例示され、動物や生体組織の種類に応じて適宜選択して構わない。高静水圧処理は、界面活性剤等の人体に悪影響を及ぼす可能性のある薬剤が使用されないため、特に好ましい。静水圧処理で印加する圧力は、2から1500MPa、好ましくは10から1000MPa、さらに好ましくは80から500MPaである。
【0021】
脱細胞化処理の条件は、動物や生体組織の種類に応じて適宜選択して構わない。脱細胞化処理の条件は当業者にとって公知であり、心臓は非特許文献10(Ott H.C.,et al.,Nature Medicine,2008,14,213−221)、肝臓は非特許文献11(Barakat O.,et al.,J.Surg.Res.,2012,173,e11−e25)、胃・腸・脾臓・腎臓は非特許文献12(Park K.M.,et al.,Transplant.Proc.,2012,44,1151−1154)、肺は非特許文献13(Ott H.C.,et al.,Nature Medicine,2010,16,927−933)、膀胱は非特許文献14(Yang B.,et al.,Tissue Eng.Part C Methods,2010,16,1201−1211)、血管は非特許文献3や非特許文献4、脳は非特許文献15(DeQuach J.A.,et al.,Tissue Eng.Part A,2011,17,2583−2592)、皮膚は非特許文献9に開示されている。
【0022】
脱細胞化処理は脱細胞化生体組織を洗浄する工程を含んでいても構わない。脱細胞化生体組織を洗浄する方法は、脱細胞化処理の種類に応じて適宜選択しても構わない。洗浄方法としては、洗浄液に浸漬させる方法(特許文献6:特開2010−227246号公報)、マイクロ波を照射する方法(特許文献7:特許第4189484号公報)が例示される。
【0023】
次に、本発明の作製方法では、脱細胞化処理された生体組織に対して粉砕処理を行う。粉砕工程は、脱細胞化生体組織を細断する工程、細断された脱細胞化生体組織を凍結乾燥又は凍結する工程、及び凍結乾燥又は凍結された脱細胞化生体組織を粉砕する工程を含んでいても構わない。粒子状脱細胞化組織を作製する方法は、非特許文献5、6、7、8、及び特許文献2に開示されている。
【0024】
組織を粉砕する方法としては特に限定されないが、生体組織を常温で粉砕する方法、生体組織を冷凍し、凍結状態で粉砕する方法等が例示される。常温での粉砕が困難な生体組織、例えば、腎臓等の場合には、凍結状態で粉砕することが好ましい。凍結状態で粉砕する場合、0℃付近の温度では氷の結晶の成長により組織にダメージが残る場合がある。そのことから、凍結状態で粉砕する場合の粉砕の条件は、−80℃から−5℃、好ましくは−50℃から−10℃、さらに好ましくは−40℃から−15℃である。
【0025】
粉砕方法としては、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、カッティングミル、ローラーミル、ジェットミルなどが例示される。カッティングミルが好ましい。
【0026】
また、粉砕された脱細胞化生体組織を粒子サイズで篩いにかける工程をさらに含んでいても構わない。
【0027】
粒子状脱細胞化組織の粒径は特に限定されないが、あまりにも小さい場合には、組織再生の効果が低く、またあまりにも大きい場合には、移植や治療の基材として使用しにくいことから、0.1から1000μm、好ましくは0.5から500μm、さらに好ましくは1から100μmである。
【0028】
本発明における粒子状脱細胞化組織の作製方法では、生体組織を採取し、生体組織に脱細胞化処理を行い、破壊された細胞を洗浄除去し、粒子状の脱細胞化組織を得るまでの間の、どの段階で脱細胞化組織(または生体組織)を粉砕して粒子状にしてもよい。すなわち、粉砕工程が脱細胞化処理の前後いずれであっても、得られる粒子状脱細胞化組織に差は認められず、次のハイブリッドゲルの作製に同等に用いられる。
【0029】
本発明のハイブリッドゲルの作製方法では、粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及びトロンビンを混合して、ハイブリッドゲルを作製する。混合する方法は、フィブリノゲン溶液と粒子状脱細胞化組織を混合したものに対してトロンビン溶液(又はトロンビン粉末)を混合する方法、トロンビン溶液と粒子状脱細胞化組織を混合したものに対してフィブリノゲン溶液(又はフィブリノゲン粉末)を混合する方法が例示される。
【0030】
ハイブリッドゲルに含まれるフィブリノゲン濃度は、ゲルを形成する濃度であれば特に限定されず、ハイブリッドゲルの適用部位や用途に応じて適宜変更しても構わない。30mg/mLから40mg/mLが例示される。
【0031】
ハイブリッドゲルに含まれるトロンビン濃度は、ゲルを形成する濃度であれば特に限定されず、ハイブリッドゲルの適用部位や用途に応じて適宜変更しても構わない。トロンビン濃度が0.8U/mL以上である場合、ハイブリッドゲルが容易に形成される。そのため、トロンビン濃度としては0.8U/mLから250U/mLが例示される。また、ゲル中のトロンビン濃度が低い場合、細胞の接着性が優れていた。そのため、好ましいトロンビン濃度としては、0.8U/mLから125U/mL、さらに好ましくは0.8U/mLから12.5U/mLが例示される。しかしながら、0.8U/mL未満のトロンビン濃度であっても、ゲルを凝固させる時間や温度を調整することでハイブリッドゲルを作製することが可能であると考えられるため、0.8U/mL未満の濃度も使用可能である。
【0032】
ハイブリッドゲルに含まれる粒子状脱細胞化組織の濃度は、粒子の種類やハイブリッドゲルの適用部位や用途に応じて適宜変更しても構わない。16μg/mLから64μg/mLが例示される。
【0033】
2.ハイブリッドゲル
本発明には、動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、フィブリノゲン、及びトロンビンを含むハイブリッドゲルが含まれる。
【0034】
上記の通り、本発明のハイブリッドゲルにおいて、生体組織を回収する動物の種類は特に限定されない。好ましくはヒト以外の動物であって、哺乳類の家畜、鳥類の家畜が好ましい。哺乳類の家畜としては、ウシ、ウマ、ラクダ、リャマ、ロバ、ヤク、ヒツジ、ブタ、ヤギ、シカ、アルパカ、イヌ、タヌキ、イタチ、キツネ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、リス、アライグマ等が挙げられる。また、鳥類の家畜としては、インコ、オウム、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ガチョウ、ホロホロ鳥、キジ、ダチョウ、ウズラ等が挙げられる。この中でも入手の安定性からブタ、又はウサギが好ましい。
【0035】
生体組織は細胞外にマトリックス構造を持った脱細胞化処理が可能な組織が例示される。そうした組織は、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、尿道、舌、扁桃、食道、胃、小腸、大腸、肛門、膵臓、心臓、血管、脾臓、肺、脳、骨、脊髄、軟骨、精巣、子宮、卵管、卵巣、胎盤、角膜、骨格筋、腱、神経、皮膚等からなる群から選択される組織である。特に好ましくは心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、脊髄、精巣、脾臓、膀胱、血管、及び皮膚等からなる群から選択される組織である。生体組織として特に好ましくは、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄である。
【0036】
上記の通り、本発明のハイブリッドゲルにおいて、脱細胞化処理する方法は特に限定されない。好ましくは高静水圧処理である。
【0037】
上記の通り、ハイブリッドゲル中のフィブリノゲン濃度はゲルを形成する濃度であれば特に限定されない。30mg/mLから40mg/mLが例示される。
【0038】
上記の通り、ハイブリッドゲル中のトロンビン濃度はゲルを形成する濃度であれば特に限定されない。0.8U/mLから250U/mLが例示される。好ましい濃度としては、0.8U/mLから125U/mL、さらに好ましくは0.8U/mLから12.5U/mLが例示される。一方では、0.8U/mL未満の濃度も使用可能である。
【0039】
上記の通り、ハイブリッドゲル中の粒子濃度は特に限定されないが、16μg/mLから64μg/mLが例示される。粒子状脱細胞化組織の粒径は特に限定されないが、0.1から1000μm、好ましくは0.5から500μm、さらに好ましくは1から100μmである。
【0040】
3.疾患治療剤
本発明では、上記ハイブリッドゲルに、心臓由来細胞を分化誘導する効果、心筋梗塞の予後を改善する効果、神経前駆細胞を分化誘導する効果、及び皮膚凍傷部位において拘縮の発生を抑制して患部を治癒する効果が確認されている。そのため、本発明には、上記ハイブリッドゲルを含む疾患治療剤が含まれる。ハイブリッドゲルは、ゲル状態、凍結状態、凍結乾燥状態のいずれであってもよい。凍結状態の場合には適用前に融解してよく、凍結乾燥状態の場合には適用前に水和してよい。また、ハイブリッドゲルは直接患部へ適用することができる。本発明の疾患治療剤としては、心筋梗塞治療剤、神経損傷疾患治療剤、及び皮膚凍傷治療剤が例示される。
【0041】
4.細胞移植補助剤・細胞培養基材
本発明のハイブリッドゲルは、心臓由来細胞に対する分化誘導効果や拍動機能を獲得させる効果、及び神経前駆細胞に対する分化誘導効果が確認されている。そのため、本発明には、上記ハイブリッドゲルを含む細胞移植補助剤や細胞培養基材が含まれる。細胞移植補助剤は、主にハイブリッドゲルと移植細胞から構成される場合と、主にハイブリッドゲルから構成される場合とが例示される。前者の場合、ハイブリッドゲル内または表面上に移植細胞を存在させた状態で動物組織へ適用してよい。後者の場合、ハイブリッドゲルを動物組織へ適用する前後に移植細胞を組み合わせて適用してよい。
【0042】
細胞培養基材は主にハイブリッドゲルから構成されており、培地中で細胞と共存させて使用する。細胞と共存させる場合には、ハイブリッドゲル上に直接細胞を播種して使用してよく、ハイブリッドゲルと細胞の間にセルカルチャーインサートを設けて使用してもよい。
【0043】
細胞移植補助剤や細胞培養基材で使用される細胞は特に制限されない。好ましくは、心臓由来細胞、神経前駆細胞又は組織幹細胞由来のものである。
【0044】
5.組織再生療法
本発明には、動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粉砕した粒子状脱細胞化組織、及びフィブリン糊を動物組織へ適用することを含む、組織再生療法が含まれる。上記の組織再生療法では、粒子状脱細胞化組織、フィブリン糊を動物組織へ適用することによって、動物組織上でハイブリッドゲルを形成させる。その際に粒子状脱細胞化組織やフィブリン糊を適用する順番は特に限定されない。また、本発明には、上記のハイブリッドゲルを動物組織へ適用することを含む、組織再生療法が含まれる。
【0045】
上記の通り、本発明の組織再生療法において、生体組織を回収する動物の種類は特に限定されない。好ましくはヒト以外の動物であって、哺乳類の家畜、鳥類の家畜が好ましい。哺乳類の家畜としては、ウシ、ウマ、ラクダ、リャマ、ロバ、ヤク、ヒツジ、ブタ、ヤギ、シカ、アルパカ、イヌ、タヌキ、イタチ、キツネ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、リス、アライグマ等が挙げられる。また、鳥類の家畜としては、インコ、オウム、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ガチョウ、ホロホロ鳥、キジ、ダチョウ、ウズラ等が挙げられる。この中でも入手の安定性からブタ、又はウサギが好ましい。
【0046】
生体組織は細胞外にマトリックス構造を持った脱細胞化処理が可能な組織が例示される。そうした組織は、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、尿道、舌、扁桃、食道、胃、小腸、大腸、肛門、膵臓、心臓、血管、脾臓、肺、脳、骨、脊髄、軟骨、精巣、子宮、卵管、卵巣、胎盤、角膜、骨格筋、腱、神経、皮膚等からなる群から選択される組織である。特に好ましくは心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、脊髄、精巣、脾臓、膀胱、血管、及び皮膚等からなる群から選択される組織である。生体組織として特に好ましくは、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄である。
【0047】
上記の通り、本発明の組織再生療法において、脱細胞化処理する方法は特に限定されない。好ましくは高静水圧処理する方法である。
【0048】
本発明の組織再生療法を適用する組織は特に限定されない。好ましくは心臓、神経、又は皮膚である。
【0049】
本発明のフィブリン糊の種類は特に限定されない。好ましくはボルヒール(一般財団法人化学及血清療法研究所製)が例示される。
【0050】
上記の通り、ハイブリッドゲル中のフィブリノゲン濃度はゲルを形成する濃度であれば特に限定されない。30mg/mLから40mg/mLが例示される。
【0051】
上記の通り、ハイブリッドゲル中のトロンビン濃度はゲルを形成する濃度であれば特に限定されない。0.8U/mLから250U/mLが例示される。好ましい濃度としては、0.8U/mLから125U/mL、さらに好ましくは0.8U/mLから12.5U/mLが例示される。一方では、0.8U/mL未満の濃度も使用可能である。
【0052】
上記の通り、ハイブリッドゲル中の粒子濃度は特に限定されないが、16μg/mLから64μg/mLが例示される。粒子状脱細胞化組織の粒径は特に限定されないが、0.1から1000μm、好ましくは0.5から500μm、さらに好ましくは1から100μmである。
【0053】
6.細胞移植方法
本発明には、当該粒子状脱細胞化組織、フィブリン糊、及び細胞を動物組織へ適用することを含む、細胞移植方法が含まれる。上記の移植方法では、粒子状脱細胞化組織とフィブリン糊によってハイブリッドゲルが形成され、細胞はハイブリッドゲル内や表面上に存在させる。粒子状脱細胞化組織、フィブリン糊、及び細胞を動物組織へ適用する順番は特に限定されない。また、各成分は別々に適用しても構わず、同時に適用しても構わない。
【0054】
また、本発明には、上記のハイブリッドゲルと共に細胞を動物組織へ適用することを含む、細胞移植方法が含まれる。細胞はハイブリッドゲル内又は表面上に存在させてよい。ハイブリッドゲル内又は表面上に細胞を存在させた状態で動物組織へ適用してもよいし、ハイブリッドゲル又は細胞を動物組織へ適用後にもう片方を適用してもよい。後者の場合にハイブリッドゲルと細胞を適用する順番は特に限定されない。
【0055】
細胞移植に使用する細胞の種類は特に限定されない。心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来のものが例示される。細胞移植方法を適用する組織としては特に限定されない。心臓、神経、又は皮膚が例示される。
【0056】
7.細胞培養方法
本発明には、上記ハイブリッドゲルと共に細胞を培養する細胞培養方法が含まれる。本発明の細胞培養方法では培地中にハイブリッドゲルと細胞を共存させる場合において、ハイブリッドゲル上に直接細胞を播種して培養してもよいし、ハイブリッドゲルと細胞の間にセルカルチャーインサートを設けて培養してもよい。培養する細胞は特に限定されない。心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来のものが例示される。
【0057】
8.キット
本発明には、動物由来の生体組織を脱細胞化させた組織(脱細胞化生体組織)を粒子化した粒子状脱細胞化組織、及びフィブリン糊を含むキットが含まれる。当該キットは、粒子状脱細胞化組織およびフィブリン糊を動物組織へ適用した場合に、適用部位においてハイブリッドゲルが形成される。
【0058】
上記の通り、本発明のキットにおいて、生体組織を回収する動物の種類は特に限定されない。好ましくはヒト以外の動物であって、哺乳類の家畜、鳥類の家畜が好ましい。哺乳類の家畜としては、ウシ、ウマ、ラクダ、リャマ、ロバ、ヤク、ヒツジ、ブタ、ヤギ、シカ、アルパカ、イヌ、タヌキ、イタチ、キツネ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、リス、アライグマ等が挙げられる。また、鳥類の家畜としては、インコ、オウム、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ガチョウ、ホロホロ鳥、キジ、ダチョウ、ウズラ等が挙げられる。この中でも入手の安定性からブタ、又はウサギが好ましい。
【0059】
生体組織は細胞外にマトリックス構造を持った脱細胞化処理が可能な組織が例示される。そうした組織は、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、尿道、舌、扁桃、食道、胃、小腸、大腸、肛門、膵臓、心臓、血管、脾臓、肺、脳、骨、脊髄、軟骨、精巣、子宮、卵管、卵巣、胎盤、角膜、骨格筋、腱、神経、皮膚等からなる群から選択される組織である。特に好ましくは心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、脊髄、精巣、脾臓、膀胱、血管、及び皮膚等からなる群から選択される組織である。生体組織として特に好ましくは、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳、及び脊髄である。
【0060】
上記の通り、本発明のハイブリッドゲルにおいて、脱細胞化処理する方法は特に限定されない。好ましくは高静水圧処理である。脱細胞化粒子の粒径は特に限定されないが、0.1から1000μm、好ましくは0.5から500μm、さらに好ましくは1から100μmである。
【0061】
本発明では上記ハイブリッドゲルが疾患モデル(心筋梗塞モデルや皮膚凍傷モデル)や細胞(心臓由来細胞や神経前駆細胞)に対して優れた効果を発揮していたため、本発明のキットには疾患治療キットが含まれる。そうした疾患治療キットとしては、心筋梗塞治療キット、神経損傷治療キット、皮膚凍傷治療キットが例示される。また、本発明のキットとしては、細胞移植用キットや細胞培養キットといったものが例示される。細胞の種類は特に限定されないが、心臓由来細胞、神経前駆細胞、又は組織幹細胞由来のものが例示される。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に従い、本願発明を更に詳細に説明するが、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1
【0063】
成体ウサギ心臓由来の粒子状脱細胞化組織がウサギ胎児心臓由来細胞の培養に及ぼす効果の検討
1.ウサギ胎児心臓由来細胞の調製
約6カ月齢の日本白色種雌ウサギ(オリエンタル酵母)にFSH(前葉性卵胞刺激ホルモン:アントリンR・10、共立製薬)を0.5U/個体で皮下に12時間間隔で6回投与し、最終FSH投与約5時間後にhCG(胎盤性性腺刺激ホルモン:プベローゲン、ノバルティス)を50U/個体で静脈内に投与し、雄ウサギと交配させ妊娠ウサギを作製した。交配後16.5〜18.5日目に妊娠ウサギの静脈内にペントバルビタール注射液(ソムノペンチル、共立製薬)を約200mg投与して安楽死させ、開腹後子宮より胎児を採取し、生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬)中に浮遊させた。胎児より心臓を採取し、約1.25%のトリプシン液(ディフコ)に分散することで細胞を調製した。
【0064】
2.粒子状脱細胞化組織の調製
約6〜12カ月齢の日本白色種ウサギ(オリエンタル酵母)より心臓を採取し、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉砕した。粒子状脱細胞化組織をふるいにより処理を行い、直径500μm以下の粒子状脱細胞化組織を作製した。粒子状脱細胞化組織は供試時まで4℃に保存し、生理食塩水で2mg/mLに調製して用いた。
【0065】
3.培養
0.1%ゼラチン液(シグマ)でコートしたテラサキプレート(スミロン)の1穴あたり約10万個のウサギ胎児心臓由来細胞と成体ウサギ心臓由来の粒子状脱細胞化組織を添加したボルヒールA液(添付書に従い調製し、G−CSF(ダイアクローン)を最終濃度(ボルヒール中)100ng/mL、bFGF(プロジェン)10ng/mLおよびセレノプロテインPフラグメント(自家調製)7μg/mL含有)10μLを添加し、続けてボルヒールB液(添付書に従い調製し、生理食塩液で1/10濃度にした)10μL添加し凝固(フィブリン化)させた。凝固後、培地(10%FBS(フナコシ)DMEM(シグマ))を重層し、炭酸ガス(5%、37℃)恒温器内で培養した。
【0066】
4.群構成および観察
成体ウサギ心臓16(成体ウサギ心臓由来の粒子状脱細胞化組織を最終濃度16μg/mLで添加)、成体ウサギ心臓64(成体ウサギ心臓由来の粒子状脱細胞化組織を最終濃度64μg/mLで添加)および無添加(粒子状脱細胞化組織を無添加(0μg/mL))の3群について培養6日目に増殖[死滅または無増殖:−、1〜2倍程度増殖:±、2〜5倍程度:+、5倍以上:++を目安とし定性的に判断]、分化[播種時の形状(球形)から形状の変化を指標に評価(細胞の変化は分化する細胞への成熟または成熟行程である)、なし:−、少なくとも球形から形状変化が見られる:±、明らかな形状変化(棒状化、扁平化、細胞突起形成など)が見られる:+、明らかな分化(心筋化、線維芽細胞化、細胞突起の複雑化など特定の細胞種への分化が推測されるレベル)が見られる:++]および拍動[心拍、観察されない:−、少なくとも1例は観察できる:±、3例以上は観察できる:+、多数(6例〜)観察できる:++]について評価を実施した。
【0067】
5.結果
結果を表1に示す。粒子状脱細胞化組織無添加群で培養したウサギ胎児心臓由来細胞の増殖は観察されたものの分化はあまり観察されず、同様に拍動する細胞はほとんど見られなかった。粒子状脱細胞化組織を添加した場合は増殖および分化が認められ、また細胞の拍動が認められた。また粒子状脱細胞化組織を64μg/mLの濃度で添加した場合が分化、拍動共に顕著であった。以上の結果から成体ウサギ心臓由来の粒子状脱細胞化組織はウサギ胎児心臓由来細胞の心筋細胞への分化及び拍動等の機能獲得に寄与していることが明らかとなった。
【0068】
【表1】
実施例2
【0069】
各種粒子状脱細胞化組織の培養ウサギ胎児心臓由来細胞に及ぼす効果の検討
1.ウサギ胎児心臓由来細胞の調製
実施例1と同様の手法で得た。
【0070】
2.粒子状脱細胞化組織の調製
実施例1と同様の手法で採取したウサギ胎児心臓及び約6〜12カ月齢の日本白色種ウサギ(オリエンタル酵母)より採取した心臓、腎臓、肺、肝臓および成体ブタより採取した肝臓に対して、組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉砕した。粒子状脱細胞化組織をふるいにより処理を行い、直径500μm以下の粒子状脱細胞化組織を作製した。粒子状脱細胞化組織は供試時まで4℃に保存し、生理食塩水で2mg/mLに調製して用いた。
【0071】
3.培養
0.1%ゼラチン液(シグマ)でコートしたマルチディッシュ4ウェルス(ヌンク)の1穴あたり約40万個のウサギ胎児心臓由来細胞と上記の粒子状脱細胞化組織をそれぞれ添加したボルヒールA液(添付書に従い調製し、生理食塩液で1/2濃度にした)10μLを添加し、続けてボルヒールB液(添付書に従い調製し、生理食塩液で1/10濃度にした)10μL添加し凝固(フィブリン化)させた。凝固後、培地(10%FBS(フナコシ)DMEM(シグマ))を重層し、炭酸ガス(5%、37℃)恒温器内で培養した。
【0072】
4.群構成および観察
ウサギ胎児心臓、成体ウサギ心臓、成体ウサギ腎臓、成体ウサギ肺、成体ウサギ肝臓、成体ブタ肝臓由来の粒子状脱細胞化組織をそれぞれ500μg/mLの濃度で添加した試験群、無添加(粒子状脱細胞化組織を無添加(0μg/mL))、及びコントロール(粒子状脱細胞化組織を無添加(0μg/mL)/ボルヒール(含有物を含む)を無添加)の試験群について検討した。それぞれ培養7日目に実施例1と同様に増殖、分化および拍動について評価を実施した。
【0073】
5.結果
結果を表2に示す。コントロールでは増殖はあまり認められず、膨化した細胞への分化傾向が認められた。拍動する細胞は認められなかった。無添加群は増殖/分化は認められたものの拍動する細胞はあまり認められなかった。これらに対して粒子状脱細胞化組織を添加した群は動物種、臓器の由来に区別なく増殖/分化が認められ、また拍動する細胞が認められた。以上の結果から、粒子状脱細胞化組織はその由来に関係なくウサギ胎児心臓由来細胞の心筋細胞への分化及び拍動等の機能獲得に寄与していることが明らかとなった。
【0074】
【表2】
実施例3
【0075】
粒子状脱細胞化組織のハイブリッドゲルのラット心筋梗塞モデルでの効果の検討
1.粒子状脱細胞化組織の調製
Wistarラットの肝臓の組織を採取し、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、各組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉砕した。粒子状脱細胞化組織をふるいにより処理を行い、直径500μm以下のものを粒子状脱細胞化組織として使用した。
【0076】
2.移植実験
Wistarラット(雌、10−12週齢)を、0.1mLソムノペンチル筋肉注射を用いて麻酔処理した。側胸部を剃毛し、イソジンで消毒した。麻酔下のラット気管に挿管し、ベンチレーターに接続した。ラットを横臥位にし、側胸部から切開し、筋層、心膜を除去して心臓にアプローチした。左冠動脈を縫合糸で結紮して、梗塞部を作製した。作製した梗塞部に肝臓由来の粒子状脱細胞化組織を10%含有するフィブリノゲン溶液(x1;80mg/mL)100μLを滴下し、その後トロンビン溶液(x1;250U/mL、x1/150;1.6U/mL)を100μL滴下した。コントロールとして、ボルヒールのみ滴下群、未処置群を使用した。梗塞作製、各処置を行ったラットの切開部を縫合し、自発呼吸が安定してから抜管をおこなった。
【0077】
3.群構成および観察
ハイブリッドゲル中のフィブリノゲン濃度は40mg/mLとし、ハイブリッドゲル中のトロンビン濃度は0.8U/mLおよび125U/mLとし、それぞれの濃度に対してゲルの10%濃度となるように粒子状脱細胞化組織を添加した。比較対象として粒子状脱細胞化組織を添加しない群も設定し、4週間後にラットを安楽死させ、心臓梗塞部位を観察し、サンプルを採取した。採取したサンプルは、HE染色により組織学的に評価し、それぞれの試験群について検討した。
【0078】
4.結果
結果を
図1から
図5に示す。粒子状脱細胞化組織を添加していないフィブリンゲルにも肉眼的には新生血管の浸潤を認めた。また、トロンビン濃度が125U/mLであると、血管新生は少ない傾向にあった。一方、粒子状脱細胞化組織を添加したハイブリッドゲルは肉眼的所見で、周囲に豊富な血管新生を認め、梗塞心筋内へ多くの血管新生を認めた。加えてその程度についてはトロンビン濃度で差があり、トロンビン濃度が0.8U/mLのほうが血管新生をより強く認めた。
実施例4
【0079】
各種粒子状脱細胞化組織の培養ウサギ胎児心臓由来細胞に及ぼす効果の検討
1.ウサギ胎児心臓由来細胞の調製
実施例1と同様の手法で得た。
【0080】
2.粒子状脱細胞化組織の調製
食用ブタの心臓、脾臓、脳、脊髄、腎臓および膀胱の組織を採取し、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、各組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉末状にした。脱細胞化粉末をふるいにより処理を行い、直径500μm以下のものを粒子状脱細胞化組織として使用した。粒子状脱細胞化組織は供試時まで4℃に保存し、生理食塩水で2mg/mLに調製して用いた。
【0081】
3.培養
実施例1と同様の手法で実施した。
【0082】
4.群構成および観察
各種粒子状脱細胞化組織をそれぞれ100μg/mLの濃度で添加した試験群、無添加群(粒子状脱細胞化組織を無添加(0μg/mL))、陽性コントロール群(ウサギ成体心臓由来粒子状脱細胞化組織添加(100μg/mL))、及びコントロール(粒子状脱細胞化組織を無添加(0μg/mL)/ボルヒールを無添加(含有物を含む))の試験群について検討した。それぞれ培養7日目に実施例1と同様に拍動について評価を実施した。
【0083】
5.結果
結果を表3に示す。コントロールでは拍動は認められなかった。無添加群は拍動する細胞はあまり認められなかった。またウサギ心臓由来粒子状脱細胞化組織を添加した群は多くの細胞で拍動が認められた。これらに対してブタ由来各種粒子状脱細胞化組織を添加した群は、特に臓器の由来に区別なく拍動する細胞が認められた。以上の結果から、粒子状脱細胞化組織はその異種由来であっても胎児心臓由来細胞の心筋細胞への分化及び拍動等の機能獲得に寄与していることが明らかとなった。
【0084】
【表3】
実施例5
【0085】
粒子状脱細胞化組織のハイブリッドゲルのウサギ心筋梗塞モデルでの効果の検討
1.粒子状脱細胞化組織の調製
実施例2と同様の手法で得た。
【0086】
2.移植実験
日本白色種ウサギ(雄、入荷時14−15週齢、バイオテック)を人工呼吸管理にてケタミン及びイソフルランの全身麻酔下で開胸し、左冠動脈前下行枝を縫合糸で結紮して、梗塞部を作製した。ハイブリッドゲル群では、作製した梗塞部にフィブリノゲン液を約40μL擦り込み、ウサギ胎児心臓由来の粒子状脱細胞化組織粉体0.01mgを生理食塩液に懸濁した液5μLとフィブリノゲン液5μLを混合した液を滴下後、トロンビン液(×1/10:25U/mL)を10μL滴下し、1分放置後にフィブリノゲン液100μLとトロンビン液100μLの混合スプレー噴霧を行い、さらに1分間静置した。コントロールとして、梗塞作製のみを実施した非移植群を設定した。すべての移植操作を行った後、閉胸した。
【0087】
3.結果
結果を
図6に示す。術後2ヶ月での病理組織評価(ヘマトキシリンエオジン染色標本)において、本発明の粒子状脱細胞化組織のハイブリッドゲル群では、非移植群と比較して梗塞部の血管新生が多く認められた。
実施例6
【0088】
各種粒子状脱細胞化組織のハイブリッドゲルの神経前駆細胞への効果の検討
1.各種粒子状脱細胞化組織の調製
Wistarラットの脳、脊髄、肝臓の組織を採取し、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、各組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉末状にした。脱細胞化粉末をふるいにより処理を行い、直径500μm以下のものを粒子状脱細胞化組織として使用した。
【0089】
2.培養と群構成
脳、脊髄、肝臓由来のそれぞれの粒子状脱細胞化組織において、粒子状脱細胞化組織含有ボルヒール上培養群(on)および粒子状脱細胞化組織含有ボルヒールインサート群(insert;cell culture insert上に粒子状脱細胞化組織含有ボルヒールゲルを添加)でそれぞれの群の比較検討を行った。
【0090】
粒子状脱細胞化組織含有ボルヒール上培養群(on)においては、24well platedishに10%粒子状脱細胞化組織含有フィブリノゲン溶液150μl滴下、各希釈倍率(x1;250U/mL、x1/10;25U/mL、x1/100;2.5U/mL)のトロンビン溶液150μlを滴下混合した。PC12細胞(ラット副腎褐色腫由来細胞)をゲル上に播種し(1.0x10
4cells/well、0.1%horse serum in RPMI)、24時間培養した。
【0091】
粒子状脱細胞化組織含有ボルヒールインサート群(insert)においては、コラーゲンコート24well plate dishに、PC12細胞(1.0x10
4cells/well、10%horse serum・5%FBS in RPMI)を播種し、24時間培養した。cell culture insert(孔径8μm)に、10%粒子状脱細胞化組織含有フィブリノゲン溶液150μl滴下、各希釈倍率(x1;250U/mL、x1/10;25U/mL、x1/100;2.5U/mL)のトロンビン溶液を150μl滴下混合し、粒子状脱細胞化組織含有ゲルを調製した。培養液を0.1%horse serum in RPMIに交換し、ゲルが調製されたcell culture insertを各wellにセットし、24時間培養した。
【0092】
いずれの検討においても、粒子状脱細胞化組織を添加しない陰性コントロール群と粒子状脱細胞化組織の代わりにNGFを50ng添加した陽性コントロール群を設け、評価系が機能していることを確認した。
【0093】
3.結果
結果を
図7に示す。肝臓由来の粒子状脱細胞化組織添加群に比べて、脳由来の粒子状脱細胞化組織添加群や脊髄由来の粒子状脱細胞化組織添加群の方が樹状突起の形成を誘導する作用が優れており、その効果はNGFに匹敵するものだった。加えて低濃度のトロンビンのほうが樹状突起の形成作用をより強く認めた。
実施例7
【0094】
異種粒子状脱細胞化組織のハイブリッドゲルの神経前駆細胞への効果の検討
1.粒子状脱細胞化組織の調製
食用ブタの脳の組織を採取し、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、各組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉末状にした。脱細胞化粉末をふるいにより処理を行い、直径500μm以下のものを粒子状脱細胞化組織として使用した。
【0095】
2.培養と群構成
ブタ脳粒子状脱細胞化組織において、ボルヒールゲル内粉末封入体添加群およびボルヒールゲル添加群でそれぞれの群の比較検討を行った。PC12細胞をコラーゲンIVでコートした96wellプレートに1×10
4個/100μL(10%horse serum−5%FBS−RPMI1640)/wellで播種し、24時間後に培地を0.1%horse serum−RPMI1640(100μL/well)に交換し、群構成に従い粒子状脱細胞化組織、ボルヒール、試薬の添加を行った。ボルヒールゲル内粉末封入体添加群はTERASAKI plate(スミロン)を用いて2.5U/mLトロンビン溶液10μLにブタ脳粒子状脱細胞化組織0.3mg/5μLを添加、さらに5μLのフィブリノゲン溶液を添加し、ピペッティングにより混合後ゲル化(37℃2時間以上)し、wellに加えた。ボルヒールゲル添加群はTERASAKI plateを用いて2.5U/mLトロンビン溶液10μL、生理食塩液(大塚)5μL、フィブリノゲン溶液5μLを順次添加し、ピペッティングにより混合後ゲル化(37℃2時間以上)し、wellに加えた。さらに陽性コントロールとしてNGFを50ng/mLになるように添加した群および陰性コントロールとして無処理群を加えた。処理後2〜3日目に神経細胞化誘導の有無について神経突起の伸張及び神経細胞特異抗原の検出を指標に解析を行った。神経細胞特異抗原の検出は免疫組織化学的染色を行うことで実施した。免疫組織化学的染色には抗原検出用の抗体としてAnti−βIII Tubulin(プロメガ)、視覚化の抗体としてAlexa Fluor 594 anti−mouse(インビトロジェン)を用い、核染色にはHoechst 33342(ドウジンド)を用いた。前記の染色条件により、細胞核は青に、βIII Tubulinは赤に染色された。
【0096】
3.結果
培養2日目の神経突起伸張の観察結果を表4に示す。ボルヒールゲル内粉末封入体添加群および陽性コントロール(NGF添加)で神経突起の伸張が認められた。培養3日目の各群の免疫組織学観察結果を
図8及び表5に示す。免疫組織化学的染色においてもボルヒールゲル内粉末封入体添加群と陽性コントロール(NGF添加)でβIII Tubulin抗原が認められた。以上の結果からボルヒールゲル内粉末封入体添加群で神経への分化が確認され、異種動物の粒子状脱細胞化組織を用いたハイブリッドゲルにおいても神経細胞誘導能があることが示された。
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
実施例8
【0099】
粒子状脱細胞化組織のハイブリッドゲルのラット背部皮下での効果の検討
1.粒子状脱細胞化組織の調製
Wistarラットの肝臓を採取し、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、各組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉体状にした。脱細胞化粉体をふるいにより処理を行い、直径500μm以下のものを粒子状脱細胞化組織として使用した。
【0100】
2.移植実験
Wistarラット(雄、8−12週齢)を、0.1mLソムノペンチル筋肉注射を用いて麻酔処理した。背部を剃毛し、イソジンで消毒した。消毒した背部に、1cmの切開を作製し、切開層から皮膚と筋層の間にハイブリッドゲルを挿入するポケットを作製した。作製したポケットにフィブリンゲルからなるハイブリッドゲルを移植し、切開層を5−0縫合糸にて縫合した。所定期間経過後、ラットを安楽死させ、創傷部を観察し、サンプルを回収した。回収したサンプルは、HE染色により組織学的に評価した。
【0101】
3.群構成および観察
ハイブリッドゲル中のフィブリノゲン濃度は40mg/mLとし、ハイブリッドゲル中のトロンビン濃度は0.8U/mLおよび125U/mLとし、それぞれの濃度に対してゲルの5%濃度となるように粒子状脱細胞化組織を添加した。比較対象として粒子状脱細胞化組織を添加しない群も設定し、それぞれの試験群について検討した。
【0102】
4.結果
結果を
図9に示す。粒子状脱細胞化組織を添加していないフィブリンゲルにも肉眼的には新生血管の浸潤を認めた。また、トロンビン濃度にかかわらず、細胞浸潤はほとんど認めなかった。移植3日目と7日目でも大きな差は認めなかった。一方、粒子状脱細胞化組織を添加したハイブリッドゲルは肉眼的所見で周囲に豊富な血管新生を認め、ゲル内部への細胞浸潤や血管新生を認めた。加えてその程度についてはトロンビン濃度で差があり、トロンビン濃度が0.8U/mLのほうが細胞浸潤や血管新生をより強く認めた。
実施例9
【0103】
粒子状脱細胞化組織のハイブリッドゲルのラット皮膚凍傷モデルでの効果の検討
1.粒子状脱細胞化組織の調製
Wistarラットの肝臓の組織を採取し、生理食塩水にて洗浄した。洗浄後、各組織を生理食塩水とともに、ポリエチレンバッグに入れ密閉した。Dr.Chef(神戸製鋼社製)を用いて、3,000〜10,000atmにて高静水圧処理を行った。高静水圧処理後の組織を、核酸分解酵素含有洗浄液、アルコール含有洗浄液により洗浄した。洗浄終了後、各脱細胞化組織を凍結乾燥機(アイラ)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥した脱細胞化組織を、ミル、フードプロセッサー、メノウ粉砕機(アズワン)等を用いて粉体状にした。脱細胞化粉体をふるいにより処理を行い、直径500μm以下のものを粒子状脱細胞化組織として使用した。
【0104】
2.移植実験
Wistarラット(雄、8−12週齢)を、0.1mLソムノペンチル筋肉注射を用いて麻酔処理した。背部を剃毛し、イソジンで消毒した。消毒した背部に、真皮中層までの欠損(直径15mm)を作製した。凍傷作製のため、液体窒素で冷却した金属体を創傷部に60秒押し付けた。凍結した創傷に、粒子状脱細胞化組織(肝臓)を添加しフィブリノゲン溶液80mg/mLを滴下し、トロンビン溶液250U/mLを滴下した。コントロールとして、ボルヒールのみ滴下群、未処置群を設定した。その後、創傷部を絆創膏で被覆、さらにラット胴体全周をガーゼを用いて被覆した。
【0105】
3.群構成および観察
ハイブリッドゲル中のフィブリノゲン濃度は40mg/mLとし、ハイブリッドゲル中のトロンビン濃度は125U/mLとし、それぞれの濃度に対してゲルの10%濃度となるように粒子状脱細胞化組織を添加した。比較対象として粒子状脱細胞化組織を添加しない群も設定し、所定期間経過後の損傷部位を観察した。
【0106】
4.結果
結果を
図10に示す。未処置群では、凍傷部位に皮膚組織治癒過程特有の皮膚の拘縮が見られた。これに対して、粒子状脱細胞化組織未添加ゲル群では皮膚の拘縮は見られなかった。しかし、凍傷による皮膚欠損の補填までには至らず、脆弱な組織に覆われている状態であった。粒子状脱細胞化組織添加ゲル群では、皮膚拘縮も見られず、加えて肉眼的には皮膚欠損部位の組織再生が早期に行われている所見が見られた。このことより、脱細胞化粉体は、皮膚再生を促す細胞の集積および足場の補填を促す材料であると考えられた。