特許第6554418号(P6554418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6554418タングステン膜の成膜方法および成膜装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554418
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】タングステン膜の成膜方法および成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/14 20060101AFI20190722BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20190722BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C23C16/14
   H01L21/285 C
   H01L21/28 301R
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-550908(P2015-550908)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2014080941
(87)【国際公開番号】WO2015080058
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-244835(P2013-244835)
(32)【優先日】2013年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】堀田 隼史
(72)【発明者】
【氏名】饗場 康
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−294530(JP,A)
【文献】 特開2011−157571(JP,A)
【文献】 特表2001−525491(JP,A)
【文献】 特開2007−046134(JP,A)
【文献】 特開2009−024252(JP,A)
【文献】 J.A.M. AMMERLAAN,et al.,Chemical vapour deposition of tungsten by H2 reduction of WC16,Applied Surface Science,1991年,Volume 53,Pages 24-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
H01L 21/205,21/28,21/31,21/365,
21/469
CA(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
SCOPUS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する被処理基板を配置することと、
前記処理容器内の前記被処理基板に、タングステン原料としての塩化タングステンガスおよびHガスを交互に供給することと、
前記塩化タングステンガスおよび前記Hガスを反応させて前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を有し、
前記被処理基板の温度が500℃以上、前記処理容器内の圧力が5Torr以上である、タングステン膜の成膜方法。
【請求項2】
処理容器内に、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する被処理基板を配置することと、
前記処理容器内の前記被処理基板に、タングステン原料としての塩化タングステンガスおよびHガスを交互に供給することと、
前記塩化タングステンガスおよび前記Hガスを反応させて前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を有し、
前記被処理基板の温度が400℃以上、前記処理容器内の圧力が10Torr以上である、タングステン膜の成膜方法。
【請求項3】
処理容器内に、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する被処理基板を配置することと、
前記メタル膜の表面に塩化タングステンガスを吸着させるステップと、前記メタル膜の表面に吸着した前記塩化タングステンガスとHガスを反応させるステップと、を繰り返し、前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を有し、
前記被処理基板の温度が500℃以上、前記処理容器内の圧力が5Torr以上である、タングステン膜の成膜方法。
【請求項4】
処理容器内に、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する被処理基板を配置することと、
前記メタル膜の表面に塩化タングステンガスを吸着させるステップと、前記メタル膜の表面に吸着した前記塩化タングステンガスとHガスを反応させるステップと、を繰り返し、前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を有し、
前記被処理基板の温度が400℃以上、前記処理容器内の圧力が10Torr以上である、タングステン膜の成膜方法。
【請求項5】
余剰の前記塩化タングステンガスのパージおよび余剰の前記Hガスのパージを行う、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のタングステン膜の成膜方法。
【請求項6】
前記塩化タングステンがWClまたはWClである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のタングステン膜の成膜方法。
【請求項7】
前記メタル膜は、TiN膜またはTiSiN膜である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のタングステン膜の成膜方法。
【請求項8】
前記塩化タングステンガスの供給時間は、1回あたり0.05〜10secである、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のタングステン膜の成膜方法。
【請求項9】
前記Hガスの供給時間は、1回あたり0.1〜10secである、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のタングステン膜の成膜方法。
【請求項10】
前記タングステン膜は、膜中のCl濃度が0.1〜0.2原子%である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のタングステン膜の成膜方法。
【請求項11】
被処理基板を収容する処理容器と、
前記被処理基板を加熱するヒーターと、
前記処理容器内を減圧状態にする排気装置と、
前記処理容器に塩化タングステンガスを供給する塩化タングステンガス供給機構と、
前記処理容器にHガスを供給するHガス供給機構と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、
タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する前記被処理基板の温度を500℃以上に加熱し、前記処理容器内の圧力を5Torr以上にすることと、
前記処理容器内の前記被処理基板に、タングステン原料としての塩化タングステンガスおよびHガスを交互に供給することと、
前記塩化タングステンガスおよび前記Hガスを反応させて前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、
を実行させるように、前記ヒーター、前記排気装置、前記塩化タングステンガス供給機構、および前記Hガス供給機構を制御する、成膜装置。
【請求項12】
被処理基板を収容する処理容器と、
前記被処理基板を加熱するヒーターと、
前記処理容器内を減圧状態にする排気装置と、
前記処理容器に塩化タングステンガスを供給する塩化タングステンガス供給機構と、
前記処理容器にHガスを供給するHガス供給機構と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、
タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する前記被処理基板の温度を400℃以上に加熱し、前記処理容器内の圧力を10Torr以上にすることと、
前記処理容器内の前記被処理基板に、タングステン原料としての塩化タングステンガスおよびHガスを交互に供給することと、
前記塩化タングステンガスおよび前記Hガスを反応させて前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、
を実行させるように、前記ヒーター、前記排気装置、前記塩化タングステンガス供給機構、および前記Hガス供給機構を制御する、成膜装置。
【請求項13】
被処理基板を収容する処理容器と、
前記被処理基板を加熱するヒーターと、
前記処理容器内を減圧状態にする排気装置と、
前記処理容器に塩化タングステンガスを供給する塩化タングステンガス供給機構と、
前記処理容器にHガスを供給するHガス供給機構と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、
タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する前記被処理基板の温度を500℃以上に加熱し、前記処理容器内の圧力を5Torr以上にすることと、
前記メタル膜の表面に前記塩化タングステンガスを吸着させるステップと、前記メタル膜の表面に吸着した前記塩化タングステンガスと前記Hガスを反応させるステップと、を繰り返し、前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、
を実行させるように、前記ヒーター、前記排気装置、前記塩化タングステンガス供給機構、および前記Hガス供給機構を制御する、成膜装置。
【請求項14】
被処理基板を収容する処理容器と、
前記被処理基板を加熱するヒーターと、
前記処理容器内を減圧状態にする排気装置と、
前記処理容器に塩化タングステンガスを供給する塩化タングステンガス供給機構と、
前記処理容器にHガスを供給するHガス供給機構と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、
タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する前記被処理基板の温度を400℃以上に加熱し、前記処理容器内の圧力を10Torr以上にすることと、
前記メタル膜の表面に前記塩化タングステンガスを吸着させるステップと、前記メタル膜の表面に吸着した前記塩化タングステンガスと前記Hガスを反応させるステップと、を繰り返し、前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、
を実行させるように、前記ヒーター、前記排気装置、前記塩化タングステンガス供給機構、および前記Hガス供給機構を制御する、成膜装置。
【請求項15】
前記成膜装置は、パージガス供給機構をさらに含み、
前記制御部は、余剰の前記塩化タングステンガスのパージおよび余剰の前記Hガスのパージを行うように、前記パージガス供給機構を制御する、
請求項11から請求項14のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記塩化タングステンがWClまたはWClである、請求項11から請求項15のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項17】
前記メタル膜は、TiN膜またはTiSiN膜である、請求項11から請求項16のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項18】
前記制御部は、前記塩化タングステンガスの供給時間が1回あたり0.05〜10secになるように前記塩化タングステンガス供給機構を制御する、請求項11から請求項17のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項19】
前記制御部は、前記Hガスの供給時間が1回あたり0.1〜10secになるように前記Hガス供給機構を制御する、請求項11から請求項18のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項20】
前記タングステン膜は、膜中のCl濃度が0.1〜0.2原子%である、請求項11から請求項19のいずれか1項に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン膜の成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程においては、被処理体である半導体ウエハ(以下、単にウエハと記す)上に形成されるコンタクトホールや配線間のビアホールを埋め込むための材料としておよびその相互拡散バリアの材料等としてタングステンが用いられている。
【0003】
タングステンの成膜処理として、以前には物理的蒸着(PVD)法が用いられていたが、タングステンは高融点金属であること、およびPVD法では近年のデバイスの微細化に要求される高いステップカバレッジに対応することが困難であること等の理由で、高融点のWを溶融する必要がなく、かつデバイスの微細化に十分対応可能な化学的蒸着(CVD)法で成膜することが行われている。
【0004】
このようなCVD法によるタングステン膜(CVD−タングステン膜)の成膜方法としては、原料ガスとして例えば六フッ化タングステン(WF)および還元ガスであるHガスを用い、ウエハ上でWF+3H→W+6HFの反応を生じさせる方法が一般的に用いられている(例えば、特許文献1,2)。また、近年、さらに高いステップカバレッジが得られる技術としてWFガスと還元ガスとを交互に供給する原子層堆積(ALD)法も注目されている。
【0005】
しかし、近年、デザインルールの微細化が益々進んでおり、このようなフッ素を含有する原料を用いた場合には、フッ素がデバイスに悪影響を与えることが懸念されるようになってきた。
【0006】
フッ素を含有しないCVD−W成膜の際の処理ガスとしては、タングステンカルボニ(W(CO))が知られている(特許文献3、4、5)。また、特許文献6には、Fを含有しないW系の成膜原料として、W(CO)の他、六塩化タングステン(WCl)、オキシハロゲンタングステン等が開示されている。
【0007】
しかし、これらのフッ素を含有しない成膜原料を用いたW膜の成膜については、量産化された例はなく、現状、種々の工夫によりWFがタングステン膜用の成膜原料として使い続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−193233号公報
【特許文献2】特開2004−273764号公報
【特許文献3】特開平2−225670号公報
【特許文献4】特開平4−173976号公報
【特許文献5】特開平4−27136号公報
【特許文献6】特開2006−28572号公報
【発明の概要】
【0009】
ところで、タングステン膜は、層間絶縁膜等の所定の膜上にバリアメタル膜を介して成膜されるが、最近の半導体デバイスのさらなる微細化にともないバリアメタルの薄膜化が進み、バリアメタル膜の下に設けられる膜の材料によってはフッ素による膜のダメージが回避できないレベルになっており、種々の工夫によってもフッ素を含有するWFガスを使い続けることが困難となりつつある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、フッ素を含有しないタングステン原料を用いて実用的なタングステン膜を成膜することができるタングステン膜の成膜方法および成膜装置を提供することにある。
【0011】
すなわち、本発明の一つの観点によれば、処理容器内に、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する被処理基板を配置することと、前記処理容器内の前記被処理基板に、タングステン原料としての塩化タングステンガスおよびHガスを交互に供給することと、前記塩化タングステンガスおよび前記Hガスを反応させて前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を有し、前記被処理基板の温度が500℃以上、前記処理容器内の圧力が5Torr以上である、タングステン膜の成膜方法が提供される。
【0012】
本発明の他の観点によれば、処理容器内に、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する被処理基板を配置することと、前記メタル膜の表面に塩化タングステンガスを吸着させるステップと、前記メタル膜の表面に吸着した前記塩化タングステンガスとHガスを反応させるステップと、を繰り返し、前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を有し、前記被処理基板の温度が500℃以上、前記処理容器内の圧力が5Torr以上である、タングステン膜の成膜方法が提供される
【0013】
本発明のさらに他の観点によれば、被処理基板を収容する処理容器と、前記被処理基板を加熱するヒーターと、前記処理容器内を減圧状態にする排気装置と、前記処理容器に塩化タングステンガスを供給する塩化タングステンガス供給機構と、前記処理容器にHガスを供給するHガス供給機構と、制御部と、を有し、前記制御部は、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する前記被処理基板の温度を500℃以上に加熱し、前記処理容器内の圧力を5Torr以上にすることと、前記処理容器内の前記被処理基板に、タングステン原料としての塩化タングステンガスおよびHガスを交互に供給することと、前記塩化タングステンガスおよび前記Hガスを反応させて前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を実行させるように、前記ヒーター、前記排気装置、前記塩化タングステンガス供給機構、および前記Hガス供給機構を制御する、成膜装置が提供される。
【0014】
本発明のさらにまた他の観点によれば、被処理基板を収容する処理容器と、前記被処理基板を加熱するヒーターと、前記処理容器内を減圧状態にする排気装置と、前記処理容器に塩化タングステンガスを供給する塩化タングステンガス供給機構と、前記処理容器にHガスを供給するHガス供給機構と、制御部と、を有し、前記制御部は、タングステン膜の下地としてメタル膜が形成された凹部を有する前記被処理基板の温度を500℃以上に加熱し、前記処理容器内の圧力を5Torr以上にすることと、前記メタル膜の表面に前記塩化タングステンガスを吸着させるステップと、前記メタル膜の表面に吸着した前記塩化タングステンガスと前記Hガスを反応させるステップと、を繰り返し、前記メタル膜の表面にタングステン膜を成膜することと、を実行させるように、前記ヒーター、前記排気装置、前記塩化タングステンガス供給機構、および前記Hガス供給機構を制御する、成膜装置が提供される。
【0017】
本発明によれば、良好な特性を有する実用的なタングステン膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るタングステン膜の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す断面図である。
図2】CVD法による成膜の際の処理レシピを示す図である。
図3】ALD法による成膜の際の処理レシピを示す図である。
図4A】実験例1において、下地膜としてTiN膜を用いてタングステン膜をCVD法で成膜した場合の、ウエハ温度およびチャンバー内圧力と、成膜レートとの関係を示す図である。
図4B】実験例1において、下地膜としてH還元W膜を用いてタングステン膜をCVD法で成膜した場合の、ウエハ温度およびチャンバー内圧力と、成膜レートとの関係を示す図である。
図5A】実験例2において、下地膜としてTiN膜を用いてタングステン膜をCVD法で成膜した場合の、チャンバー内圧力およびキャリアNガスの流量と、成膜レートとの関係を示す図である。
図5B】実験例2において、下地膜としてH還元W膜を用いてタングステン膜をCVD法で成膜した場合の、チャンバー内圧力およびキャリアNガスの流量と、成膜レートとの関係を示す図である。
図6】実験例3において、キャリアNガスの流量を変化させた場合の、WClガス供給時間とTiN膜のエッチング深さとの関係を示す図である。
図7】実験例4において、下地膜としてTiN膜を用いてタングステン膜をALD法で成膜した場合の、ウエハ温度およびチャンバー内圧力と、1サイクルあたりの成膜レートとの関係を示す図である。
図8】実験例5において、下地膜としてTiN膜を用いてタングステン膜をALD法で成膜した場合の、ウエハ温度およびチャンバー内圧力と、1サイクルあたりの成膜レートとの関係を示す図である。
図9】実験例5における、ウエハ温度が500℃のときのチャンバー内圧力と1サイクルあたりの成膜レートとの関係を示す図である。
図10A】実験例6において、下地膜としてTiN膜、H還元W膜を用いてタングステン膜をCVD法により成膜した場合の、タングステン膜の膜厚と比抵抗との関係を示す図である。
図10B】実験例6において、下地膜としてSiH還元W膜、B還元W膜を用いてタングステン膜をCVD法により成膜した場合の、タングステン膜の膜厚と比抵抗との関係を示す図である。
図11】実験例6における、各下地膜上に成膜したタングステン膜の断面SEM写真である。
図12】実験例7において、下地膜としてTiN膜、TiSiN膜、SiO膜を用いてタングステン膜をALD法により成膜した場合の、1サイクルあたりの成膜レートを示す図である。
図13】実験例8において、アスペクト比60のホールにタングステン膜を成膜した際の断面のSEM写真である。
図14A】実験例9において成膜したタングステン膜について、二次イオン質量分析(SIMS)により深さ方向の不純物の分析を行った結果を1cm当たりの原子数で示した図である。
図14B】実験例9において成膜したタングステン膜について、二次イオン質量分析(SIMS)により深さ方向の不純物の分析を行った結果を原子%(atomic%)に換算して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<本発明に至った経緯>
本発明を実施するための形態の説明に先立って、本発明に至った経緯について説明する。
本発明者らは、フッ素を含まないタングステンの成膜原料としてWFと同様のハロゲン化タングステンであるWClに着目した。
【0020】
WClはWFと同じハロゲン化タングステンであり、WFと同様の成膜挙動を示すと考えられているが、実際にはWClを用いてCVD法やALD法により量産レベルで実用的なタングステン膜を成膜することは未だ成功していない。
【0021】
上記特許文献6には、タングステン原料として塩化タングステンであるWClを用い得ることが記載されているが、ここに記載されているのは、CAT法(触媒法)とALD法を組み合わせたCAT−ALD法という特殊な方法であり、しかも成膜するのは窒化タングステン薄膜であって、単純なCVD法やALD法によるタングステン膜の成膜方法については開示されていないばかりか、WClを用いた実施例については一切記載されていない。
【0022】
この状況で本発明者らが検討を重ねた結果、WClを用いた場合の成膜挙動はWFを用いた場合の成膜挙動とは大きく異なっていること、およびタングステン原料として塩化タングステンであるWClを用いた場合に、その成膜挙動に適合した条件により、CVD法またはALD法によって良好な特性を有する実用的なタングステン膜を成膜できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
また、本発明者らはさらに検討した結果、タングステン原料としてWClを用いた場合に、WFを用いて成膜可能な条件であっても、成膜しようとするタングステン膜の下地をエッチングすることがある温度および圧力の条件が存在し、温度・圧力条件が、そのようなエッチング反応が生じる条件以外であることが好ましいことを見出した。
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
<成膜装置>
図1は本発明に係るタングステン膜の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、成膜装置100は、気密に構成された略円筒状のチャンバー1を有しており、その中には被処理基板であるウエハWを水平に支持するためのサセプタ2が、後述する排気室の底部からその中央下部に達する円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。このサセプタ2は例えばAlN等のセラミックスからなっている。また、サセプタ2にはヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5にはヒーター電源6が接続されている。一方、サセプタ2の上面近傍には熱電対7が設けられており、熱電対7の信号はヒーターコントローラ8に伝送されるようになっている。そして、ヒーターコントローラ8は熱電対7の信号に応じてヒーター電源6に指令を送信し、ヒーター5の加熱を制御してウエハWを所定の温度に制御するようになっている。なお、サセプタ2には3本のウエハ昇降ピン(図示せず)がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられており、ウエハWを搬送する際に、サセプタ2の表面から突出した状態にされる。また、サセプタ2は昇降機構(図示せず)により昇降可能となっている。
【0026】
チャンバー1の天壁1aには、円形の孔1bが形成されており、そこからチャンバー1内へ突出するようにシャワーヘッド10が嵌め込まれている。シャワーヘッド10は、後述するガス供給機構30から供給された成膜原料ガスであるWClガスをチャンバー1内に吐出するためのものであり、その上部には、WClガスおよびパージガスとしてNガスを導入する第1の導入路11と、還元ガスとしてのHガスおよびパージガスとしてNガスを導入する第2の導入路12とを有している。
【0027】
シャワーヘッド10の内部には上下2段に空間13、14が設けられている。上側の空間13には第1の導入路11が繋がっており、この空間13から第1のガス吐出路15がシャワーヘッド10の底面まで延びている。下側の空間14には第2の導入路12が繋がっており、この空間14から第2のガス吐出路16がシャワーヘッド10の底面まで延びている。すなわち、シャワーヘッド10は、成膜原料ガスとしてのWClガスと還元ガスであるHガスとがそれぞれ独立して吐出路15および16から吐出するようになっている。
【0028】
チャンバー1の底壁には、下方に向けて突出する排気室21が設けられている。排気室21の側面には排気管22が接続されており、この排気管22には真空ポンプや圧力制御バルブ等を有する排気装置23が接続されている。そしてこの排気装置23を作動させることによりチャンバー1内を所定の減圧状態とすることが可能となっている。
【0029】
チャンバー1の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口24と、この搬入出口24を開閉するゲートバルブ25とが設けられている。また、チャンバー1の壁部には、ヒーター26が設けられており、成膜処理の際にチャンバー1の内壁の温度を制御可能となっている。
【0030】
ガス供給機構30は、成膜原料であるWClを収容する成膜原料タンク31を有している。WClは常温では個体であり、成膜原料タンク31内にはタングステン原料としての塩化タングステンであるWClが固体として収容されている。成膜原料タンク31の周囲にはヒーター31aが設けられており、タンク31内の成膜原料を適宜の温度に加熱して、WClを昇華させるようになっている。なお、塩化タングステンとしてはWClを用いることもできる。WClを用いてもWClとほぼ同じ挙動を示す。
【0031】
成膜原料タンク31には、上方からキャリアガスであるNガスを供給するためのキャリアガス配管32が挿入されている。キャリアガス配管32にはNガス供給源33が接続されている。また、キャリアガス配管32には、流量制御器としてのマスフローコントローラ34およびその前後のバルブ35が介装されている。また、成膜原料タンク31内には原料ガスラインとなる原料ガス送出配管36が上方から挿入されており、この原料ガス送出配管36の他端はシャワーヘッド10の第1の導入路11に接続されている。原料ガス送出配管36にはバルブ37が介装されている。原料ガス送出配管36には成膜原料ガスであるWClガスの凝縮防止のためのヒーター38が設けられている。そして、成膜原料タンク31内で昇華したWClガスがキャリアガスとしてのNガス(キャリアN)により搬送されて、原料ガス送出配管36および第1の導入路11を介してシャワーヘッド10内に供給される。また、原料ガス送出配管36には、配管74を介してパージガスとしてのNガス(パージN)を供給するNガス供給源71が接続されている。配管74には流量制御器としてのマスフローコントローラ72およびその前後のバルブ73が介装されている。Nガス供給源71からのNガスは原料ガスライン側のパージガスとして用いられる。
【0032】
なお、キャリアガス配管32と原料ガス送出配管36との間は、バイパス配管48により接続されており、このバイパス配管48にはバルブ49が介装されている。キャリアガス配管32および原料ガス送出配管36における配管48接続部分の下流側にはそれぞれバルブ35a,37aが介装されている。そして、バルブ35a,37aを閉じてバルブ49を開くことにより、Nガス供給源33からのNガスを、キャリアガス配管32、バイパス配管48を経て、原料ガス送出配管36をパージすることが可能となっている。なお、キャリアガスおよびパージガスとしては、Nガスに限らず、Arガス等の他の不活性ガスであってもよい。
【0033】
シャワーヘッド10の第2の導入路12には、Hガスラインとなる配管40が接続されており、配管40には、還元ガスであるHガスを供給するHガス供給源42と、配管64を介してパージガスとしてのNガス(パージN)を供給するNガス供給源61が接続されている。また、配管40には流量制御器としてのマスフローコントローラ44およびその前後のバルブ45が介装され、配管64には流量制御器としてのマスフローコントローラ62およびその前後のバルブ63が介装されている。Nガス供給源61からのNガスはHガスライン側のパージガスとして用いられる。還元ガスとしては、Hガスに限らず、SiHガス、Bガス、NHガスを用いることもできる。Hガス、SiHガス、Bガス、およびNHガスのうち2つ以上を供給できるようにしてもよい。また、これら以外の他の還元ガス、例えばPHガス、SiHClガスを用いてもよい。
【0034】
この成膜装置100は、各構成部、具体的にはバルブ、電源、ヒーター、ポンプ等を制御する制御部50を有している。この制御部50は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたプロセスコントローラ51と、ユーザーインターフェース52と、記憶部53とを有している。プロセスコントローラ51には成膜装置100の各構成部が電気的に接続されて制御される構成となっている。ユーザーインターフェース52は、プロセスコントローラ51に接続されており、オペレータが成膜装置100の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作などを行うキーボードや、成膜装置の各構成部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。記憶部53もプロセスコントローラ51に接続されており、この記憶部53には、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムすなわち処理レシピや、各種データベース等が格納されている。処理レシピは記憶部53の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられているものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0035】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて所定の処理レシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0036】
<成膜方法の実施形態>
次に、以上のように構成された成膜装置100を用いて行われる成膜方法の実施形態について説明する。
【0037】
まず、ゲートバルブ25を開け、搬送装置(図示せず)によりウエハWを搬入出口24を介してチャンバー1内に搬入し、ヒーター5により所定温度に加熱されたサセプタ2上に載置し、所定の真空度まで減圧した後、以下のようにしてCVD法またはALD法によりタングステン膜の成膜を行う。ウエハWとしては、例えば熱酸化膜の表面、またはトレンチやホール等の凹部を有する層間絶縁膜の表面に下地膜としてバリアメタル膜(例えばTiN膜、TiSiN膜)が形成されたものを用いることができる。タングステン膜は、熱酸化膜や層間絶縁膜に対する密着力が悪く、かつインキュベーション時間も長くなるため、熱酸化膜や層間絶縁膜上に成膜することは困難であるが、TiN膜やTiSiN膜を下地膜として用いることにより、成膜が容易となる。ただし、下地膜はこれに限るものではない。
【0038】
(CVD法による成膜)
まず、CVD法による成膜について説明する。
図2は、CVD法による成膜の際の処理レシピを示す図である。最初に、バルブ37,37aおよび45を閉じてバルブ63および73を開き、Nガス供給源61,71から配管64,74を介してパージガスとしてのNガス(パージN)をチャンバー1内に供給して圧力を上昇させ、サセプタ2上のウエハWの温度を安定させる。
【0039】
チャンバー1内が所定圧力に到達した後、Nガス供給源61,71からのパージNを流したまま、バルブ37,37aを開くことにより、キャリアガスとしてのNガス(キャリアN)を成膜原料タンク31内に供給し、成膜原料タンク31内でWClを昇華させ、生成されたWClガスをチャンバー1内に供給するとともに、バルブ45を開いてHガス供給源42からHガスをチャンバー1内に供給する。これにより、ウエハWの表面の下地膜上で、タングステン原料ガスであるWClガスと、還元ガスであるHガスとの反応が生じ、タングステン膜が成膜される。タングステン原料ガスとしてWClガスを用いた場合も同様である。
【0040】
タングステン膜の膜厚が所定の値となるまで成膜を続けた後、バルブ45を閉じてHガスの供給を停止し、さらにバルブ37,37aを閉じてWClガスを停止して、パージNのみをチャンバー1内に供給するようにし、チャンバー1内のパージを行う。以上でCVD法による成膜が終了する。このときのタングステン膜の膜厚は、成膜時間により制御することができる。
【0041】
(ALD法による成膜)
次に、ALD法により成膜について説明する。
図3は、ALD法による成膜の際の処理レシピを示す図である。最初にCVD法のときと同様、バルブ37,37aおよび45を閉じてバルブ63および73を開き、Nガス供給源61,71から配管64,74を介してパージガスとしてのNガス(パージN)をチャンバー1内に供給して圧力を上昇させ、サセプタ2上のウエハWの温度を安定させる。
【0042】
チャンバー1内が所定圧力に到達した後、Nガス供給源61から配管64を介してパージNを流したまま、バルブ73を閉じて配管74側のパージNを停止し、バルブ37,37aを開くことにより、Nガス供給源33からキャリアNを成膜原料タンク31内に供給し、成膜原料タンク31内で昇華したWClガスを短時間チャンバー1内に供給してウエハW表面に形成された下地膜上にWClを吸着させ(WClガス供給ステップ)、次いで、バルブ37,37aを閉じ、バルブ73を開いて、WClガスを停止するとともに配管64のパージNに加えて配管74側からのパージNもチャンバー1内に供給し、チャンバー1内の余剰のWClガスをパージする(パージステップ)。
【0043】
次いで、Nガス供給源71から配管74を介してパージNガスを流したまま、バルブ63を閉じて配管64側のパージNを停止し、バルブ45を開いてHガス供給源42からHガスを短時間チャンバー1内に供給し、ウエハW上に吸着したWClと反応させ(Hガス供給ステップ)、次いでバルブ45を閉じてバルブ63を開き、Hガスの供給を停止するとともに配管74のパージNに加えて配管64側からのパージNもチャンバー1内に供給し、チャンバー1内の余剰のHガスをパージする(パージステップ)。
【0044】
以上のWClガス供給ステップ、パージステップ、Hガス供給ステップ、パージステップの1サイクルにより、薄いタングステン単位膜が形成される。そして、これらのステップを複数サイクル繰り返すことにより所望の膜厚のタングステン膜を成膜する。このときのタングステン膜の膜厚は、上記サイクルの繰り返し数により制御することができる。タングステン原料ガスとしてWClガスを用いた場合も同様である。
【0045】
(成膜条件)
タングステン原料としてWClを用いた場合には、WClガス自体がエッチング作用も有するため、温度および圧力の条件によっては、タングステン膜の下地がWClガスによりエッチングされてタングステン膜が成膜され難いことがある。したがって、温度・圧力条件が、そのようなエッチング反応が生じる条件以外であることが好ましい。より詳細には、温度が低い領域では成膜反応もエッチング反応も生じないため、成膜反応を生じさせるためには高温が好ましいが、成膜反応が生じる高温では、圧力が低いとエッチング反応が生じる傾向がある。したがって、高温・高圧条件が好ましい。
【0046】
具体的には、下地膜の種類にもよるが、上記CVD法およびALD法ともに、ウエハ温度(サセプタ表面温度):400℃以上、チャンバー内圧力:5Torr(667Pa)以上とすることが好ましい。これは、ウエハ温度が400℃より低い温度であると成膜反応が生じ難く、また、圧力が5Torrより低いと400℃以上においてエッチング反応が生じやすくなるからである。また、ウエハ温度が400℃では、5Torrにおいて成膜量が少なくなる傾向にあるが、10Torr(1333Pa)になると十分な成膜量が得られることから、ウエハ温度が400℃以上において、チャンバー内圧力:10Torr以上とすることがより好ましい。また、ウエハ温度が500℃でより成膜量が増加し、5Torrでも十分な成膜量が得られることから、ウエハ温度:500℃以上、チャンバー内圧力:5Torr以上とすることがより好ましい。十分な成膜量を得る観点からは、温度に上限は存在しないが、装置の制約や反応性の点から、事実上の上限は800℃程度である。より好ましくは400〜700℃、さらに好ましくは400〜650℃である。また、圧力に関しても上記点からは上限は存在しないが、同様に装置の制約や反応性の点から、事実上の上限は100Torr(13333Pa)である。より好ましくは、10〜40Torr(1333〜5333Pa)である。なお、温度や圧力条件の好ましい範囲は実装置の構造や他の条件によって多少変動する。
【0047】
他の条件の好ましい範囲は以下の通りである。
・CVD法
キャリアNガス流量:20〜1000sccm(mL/min)
(WClガス供給量として、0.25〜30sccm(mL/min))
ガス流量:500〜5000sccm(mL/min)
成膜原料タンクの加温温度:130〜190℃
・ALD法
キャリアNガス流量:20〜500sccm(mL/min)
(WClガス供給量として、0.25〜15sccm(mL/min))
WClガス供給時間(1回あたり):0.05〜10sec
ガス流量:500〜5000sccm(mL/min)
ガス供給時間:(1回あたり):0.1〜10sec
成膜原料タンクの加温温度:130〜190℃
【0048】
なお、CVD法およびALD法のいずれにおいても、還元ガスとして、Hガスの他、SiHガス、Bガス、NHガスを用いることができ、これらを用いた場合にも同様の条件で好ましい成膜を行うことができる。膜中の不純物をより低減する観点からは、Hガスを用いることが好ましい。また、NHガスを用いることにより良好な反応性を得ることができ、成膜レートを高くすることができる。また、上述したように、他の還元ガス、例えばPHガス、SiHClガスを用いることもできる。
【0049】
(実施形態の効果等)
以上のような成膜方法により、良好な特性の実用的なタングステン膜を成膜することができる。具体的には、Cl、C、N、O等の不純物濃度が少なく、タングステン原料としてWFを用いた従来のタングステン膜と遜色のない比抵抗を有するタングステン膜が得られる。また、ステップカバレッジが良好なタングステン膜を得ることができる。
【0050】
<成膜方法の他の実施形態>
次に、成膜方法の他の実施形態について説明する。
本実施形態では、熱酸化膜や層間絶縁膜上に下地膜として形成されたバリアメタル膜(TiN膜またはTiSiN膜)の上に、CVD法またはALD法により初期タングステン膜を成膜した後、同様にCVD法またはALD法により主タングステン膜を成膜する。このように、主タングステン膜を初期タングステン膜上に成膜することにより、主タングステン膜の成膜可能な条件を広げることができる。初期タングステン膜の膜厚は3〜10nmが好ましい。
【0051】
この場合に、初期タングステン膜の成膜時に、還元ガスとしてSiHガスまたはBガスを用い、主タングステン膜の成膜の際に還元ガスとしてHガスを用いることが好ましい。このようすることにより、不純物をほとんど増加させることなく、下地膜上にH還元によるタングステン膜を直接形成するよりも低抵抗のタングステン膜を得ることができる。これは、還元ガスとしてSiHガスまたはBガスを用いて成膜された初期タングステン膜上に主タングステン膜を成膜することにより、タングステンの結晶粒子のサイズが大きくなるためと考えられる。
【0052】
<実験例>
次に、実験例について説明する。
(実験例1)
ここでは、CVD法による成膜領域を確認した。下地膜としてTiN膜、および原料ガスとしてWClガス、還元ガスとしてHガスを用いて成膜したタングステン膜(H還元W膜)を用い、ウエハ温度を300〜500℃の範囲およびチャンバー内圧力を5〜30Torrの範囲で変化させて、図1の成膜装置を用いてCVD法によりタングステン膜の成膜を行った。他の条件としては、WClガスを供給するためのキャリアNガスの流量を50sccm、Hガスの流量を1500sccmとした。なお、WClガスの流量は、キャリアNガスの約1.1%であることをあらかじめ確認しておいた。
【0053】
この際のウエハ温度およびチャンバー内圧力と、成膜レートとの関係を図4A図4Bに示す。図4Aは下地膜がTiN膜の場合を示し、図4Bは下地膜がH還元W膜の場合を示す。
【0054】
図4A図4Bに示すように、下地膜がTiN膜の場合には、ウエハ温度450℃以上、チャンバー内圧力20Torr以上で成膜が確認され、下地膜がH還元W膜の場合には、ウエハ温度400℃以上、チャンバー内圧力10Torr以上で成膜が確認され、高温・高圧になるに従って成膜レートが上昇することが確認された。
【0055】
(実験例2)
ここでは、実験例1と同様、下地膜としてTiN膜、および原料ガスとしてWClガス、還元ガスとしてHガスを用いて成膜したH還元W膜を用い、ウエハ温度を500℃、Hガス流量を1500sccmに固定して、チャンバー内圧力を5〜30Torrの範囲およびキャリアNガスの流量を20〜500sccm(WClガスの流量0.23〜5.75sccmに対応)の範囲で変化させて、図1の成膜装置を用いてCVD法によりタングステン膜の成膜を行った。実験例1と同様、WClガスの流量は、キャリアNガスの約1.1%である。
【0056】
この際のチャンバー内圧力およびキャリアNガスの流量と、成膜レートとの関係を図5A図5Bに示す。図5Aは下地膜がTiN膜の場合を示し、図5Bは下地膜がH還元W膜の場合を示す。
【0057】
図5Aに示すように、下地膜がTiN膜の場合には、キャリアガス流量が50sccm以下では成膜が確認されたが、50sccmを超えると成膜されない結果となった。また、高圧になるほど成膜可能なキャリアガス流量が増加することが確認された。これは、WCl流量が増加することにより、TiN膜がエッチングされるためであることを強く示唆している。
【0058】
一方、図5Bに示すように、下地膜がH還元W膜の場合には、キャリアNガス流量、すなわちWCl流量が増加することにより、成膜レートが増加しており、高圧・高流量で成膜レートが上昇することが確認された。これは、H還元W膜がWClガスによりエッチングされないためである。
【0059】
(実験例3)
次に、下地膜として用いるTiN膜のWClガスによるエッチング性について確認した。ここでは、ウエハ温度300℃、チャンバー内圧力を30Torrにして、キャリアNガスの流量を20〜500sccm(WClガスの流量0.23〜5.75sccmに対応)の範囲で変化させた場合の、WClガス供給時間とTiN膜のエッチング深さとの関係を把握した。その結果を図6に示す。この図に示すように、WClガスによりTiN膜がエッチングされること、およびWClガス流量が多いほどエッチング深さが増加することが確認された。ただし、この温度・圧力条件では、エッチングのインキュベーションタイムが長く、240sec以下ではエッチングが確認されなかった。
【0060】
(実験例4)
ここでは、ALD法による成膜領域を確認した。下地膜としてTiN膜を用い、ウエハ温度を300℃、400℃、500℃の3水準で変化させ、チャンバー内圧力を1Torr、10Torr、20Torr、30Torrの4水準で変化させて、図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜の成膜を行った。他の条件としてはキャリアNガス流量:50sccm、Hガス流量:1500sccm、WCl供給ステップ1回の時間:5sec、Hガス供給ステップ1回の時間:5sec、パージステップ1回の時間:10secとした。
【0061】
この際のウエハ温度およびチャンバー内圧力と、1サイクルあたりの成膜レートとの関係を図7に示す。図7に示すように、ウエハ温度400℃においては、チャンバー内圧力10Torr以上で成膜が確認され、高温・高圧になるに従って成膜レートが上昇する傾向が見られた。本実験の範囲で最も高温・高圧である500℃、30Torrにおいて、最も高成膜レートである0.042nm/cycleが得られた。
【0062】
(実験例5)
ここでは、ALD法による成膜領域についてさらに詳細に実験を行った。下地膜としてTiN膜を用い、ウエハ温度を300℃、400℃、500℃の3水準で変化させ、チャンバー内圧力を5Torr、10Torr、20Torr、30Torr、40Torrの5水準で変化させて、図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜の成膜を行った。他の条件は実験例4と同様とした。
【0063】
この際のウエハ温度およびチャンバー内圧力と、1サイクルあたりの成膜レートとの関係を図8に示す。図8に示すように、ウエハ温度が300℃ではいずれの圧力でも成膜されなかったが、400℃では10Torr以上、500℃では5Torr以上で成膜が確認された。また、高温・高圧になるに従って成膜レートが上昇する傾向が見られ、ウエハ温度500℃においては、チャンバー内圧力が5Torrで成膜が確認され、ウエハ温度400℃においては、チャンバー内圧力が10Torrで成膜が確認された。本実験の範囲で最も高温・高圧である500℃、40Torrにおいて、最も高成膜レートである0.12nm/cycleが得られた。ウエハ温度が500℃のときのチャンバー内圧力と1サイクルあたりの成膜レートとの関係を別途図9に示す。
【0064】
(実験例6)
ここでは、CVD法により成膜したタングステン膜の膜厚と膜の比抵抗との関係を求めた。下地膜としてTiN膜、還元ガスとしてHガスを用いて成膜したタングステン膜(H還元W膜)、還元ガスとしてSiHガスを用いて成膜したタングステン膜(SiH還元W膜)、還元ガスとしてBガスを用いて成膜したタングステン膜(B還元W膜)を用い、その上に、ウエハ温度500℃、チャンバー内圧力30Torr、WClガスを供給するためのキャリアNガスの流量50sccm、Hガスの流量1500sccmの条件で、図1の成膜装置を用いてCVD法により種々の膜厚のタングステン膜を成膜し、各膜の比抵抗を測定した。
【0065】
その結果を図10A図10Bに示す。図10Aは下地膜としてTiN膜、H還元W膜を用いた場合の膜厚と比抵抗の関係を示し、図10Bは下地膜としてSiH還元W膜、B還元W膜を用いた場合のタングステン膜の膜厚と比抵抗の関係を示す。
【0066】
図10Aに示すように、TiN膜上に形成されたタングステン膜の比抵抗は膜厚40nm付近で40μΩ・cmと実用可能なレベルであることが確認された。また、図10Aおよび図10Bに示すように、TiN膜上に成膜したタングステン膜よりも、SiH還元W膜上やB還元W膜上に成膜したタングステン膜のほうが低い比抵抗が得られ、膜厚40nm付近でみると、TiN膜上に成膜した場合が40μΩ・cmであったのが、SiH還元W膜上では30μΩ・cm、B還元W膜上では20μΩ・cmと低い値となった。このことから、下地膜としてSiH還元W膜上やB還元W膜を用いることにより低抵抗化が可能であることが確認された。
【0067】
図11は、これらの下地膜上に成膜したタングステン膜の断面SEM写真である。この図に示すように、TiN膜上に形成されたタングステン膜よりも、SiH還元W膜上やB還元W膜上に成膜したタングステン膜のほうが結晶粒径が大きく、結晶粒径が大きいことが低抵抗化をもたらしたことが確認された。
【0068】
(実験例7)
ここでは、下地の影響を調査した。下地膜としてTiN膜、TiSiN膜、SiO膜を用い、ウエハ温度を500℃、チャンバー内圧力を20Torr、30Torrの2水準とし、WClガスとHガスとを用いたALD法によりタングステン膜の成膜を行った。
【0069】
この際の各下地膜を用いた際の1サイクルあたりの成膜レートを図12に示す。図12に示すように、下地膜により成膜レートが大きく異なり、SiO2膜では、いずれの圧力も成膜されなかったが、TiN膜およびTiSiN膜の場合は成膜可能であり、ほぼ同程度の成膜レートとなることが確認された。また、このとき成膜レートは20Torrの場合よりも30Torrの場合のほうが2倍程度高くなった。
【0070】
(実験例8)
ここでは、タングステン膜のステップカバレッジを確認した。トップの径が0.18μm、アスペクト比が60のホールに下地膜としてTiN膜を形成し、図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜を成膜した。このときの条件は、ウエハ温度:500℃、チャンバー内圧力:30Torr、キャリアNガス流量:50sccm、Hガス流量:1500sccm、WCl供給ステップ1回の時間:5sec、H2ガス供給ステップ1回の時間:5sec、パージステップ1回の時間:10sec、サイクル数:600回とした。
【0071】
この際の断面のSEM写真を図13に示す。図13に示すように、トップの径が0.18μm、アスペクト比が60のホールの底までタングステン膜が形成されており、良好なステップカバレッジが得られることが確認された。
【0072】
(実験例9)
ここでは、タングステン膜の不純物を確認した。下地膜としてTiN膜を用い、その上に図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜を成膜した。成膜条件は、サイクル数を750回とした以外は実験例8と同様とした。
【0073】
このようにして成膜したタングステン膜について、二次イオン質量分析(SIMS)により深さ方向の不純物の分析を行った。その結果を図14Aおよび14Bに示す。図14Aは1cm当たりの原子数で示したもの、図14Bは原子%(atomic%)に換算したものである。
【0074】
図14Aおよび図14Bに示すように、膜中のCl濃度は0.1〜0.2原子%であり、TiN膜中のCl濃度である1.0原子%よりも低いことが確認された。また、OやCも低いことが確認された。Nが1.5〜2%程度検出されたが、これは下地のTiN膜の影響またはキャリアガスとして用いたNガスの影響が考えられる。
【0075】
<他の適用>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、被処理基板として半導体ウエハを例にとって説明したが、半導体ウエハはシリコンであっても、GaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体でもよく、さらに、半導体ウエハに限定されず、液晶表示装置等のFPD(フラットパネルディスプレイ)に用いるガラス基板や、セラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1;チャンバー、2;サセプタ、5;ヒーター、10;シャワーヘッド、30;ガス供給機構、31;成膜原料タンク、42;Hガス供給源、50;制御部、51;プロセスコントローラ、53;記憶部、61,71;Nガス供給源、W;半導体ウエハ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B