【文献】
J.A.M. AMMERLAAN,et al.,Chemical vapour deposition of tungsten by H2 reduction of WC16,Applied Surface Science,1991年,Volume 53,Pages 24-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
<本発明に至った経緯>
本発明を実施するための形態の説明に先立って、本発明に至った経緯について説明する。
本発明者らは、フッ素を含まないタングステンの成膜原料としてWF
6と同様のハロゲン化タングステンであるWCl
6に着目した。
【0020】
WCl
6はWF
6と同じハロゲン化タングステンであり、WF
6と同様の成膜挙動を示すと考えられているが、実際にはWCl
6を用いてCVD法やALD法により量産レベルで実用的なタングステン膜を成膜することは未だ成功していない。
【0021】
上記特許文献6には、タングステン原料として塩化タングステンであるWCl
6を用い得ることが記載されているが、ここに記載されているのは、CAT法(触媒法)とALD法を組み合わせたCAT−ALD法という特殊な方法であり、しかも成膜するのは窒化タングステン薄膜であって、単純なCVD法やALD法によるタングステン膜の成膜方法については開示されていないばかりか、WCl
6を用いた実施例については一切記載されていない。
【0022】
この状況で本発明者らが検討を重ねた結果、WCl
6を用いた場合の成膜挙動はWF
6を用いた場合の成膜挙動とは大きく異なっていること、およびタングステン原料として塩化タングステンであるWCl
6を用いた場合に、その成膜挙動に適合した条件により、CVD法またはALD法によって良好な特性を有する実用的なタングステン膜を成膜できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
また、本発明者らはさらに検討した結果、タングステン原料としてWCl
6を用いた場合に、WF
6を用いて成膜可能な条件であっても、成膜しようとするタングステン膜の下地をエッチングすることがある温度および圧力の条件が存在し、温度・圧力条件が、そのようなエッチング反応が生じる条件以外であることが好ましいことを見出した。
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
<成膜装置>
図1は本発明に係るタングステン膜の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、成膜装置100は、気密に構成された略円筒状のチャンバー1を有しており、その中には被処理基板であるウエハWを水平に支持するためのサセプタ2が、後述する排気室の底部からその中央下部に達する円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。このサセプタ2は例えばAlN等のセラミックスからなっている。また、サセプタ2にはヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5にはヒーター電源6が接続されている。一方、サセプタ2の上面近傍には熱電対7が設けられており、熱電対7の信号はヒーターコントローラ8に伝送されるようになっている。そして、ヒーターコントローラ8は熱電対7の信号に応じてヒーター電源6に指令を送信し、ヒーター5の加熱を制御してウエハWを所定の温度に制御するようになっている。なお、サセプタ2には3本のウエハ昇降ピン(図示せず)がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられており、ウエハWを搬送する際に、サセプタ2の表面から突出した状態にされる。また、サセプタ2は昇降機構(図示せず)により昇降可能となっている。
【0026】
チャンバー1の天壁1aには、円形の孔1bが形成されており、そこからチャンバー1内へ突出するようにシャワーヘッド10が嵌め込まれている。シャワーヘッド10は、後述するガス供給機構30から供給された成膜原料ガスであるWCl
6ガスをチャンバー1内に吐出するためのものであり、その上部には、WCl
6ガスおよびパージガスとしてN
2ガスを導入する第1の導入路11と、還元ガスとしてのH
2ガスおよびパージガスとしてN
2ガスを導入する第2の導入路12とを有している。
【0027】
シャワーヘッド10の内部には上下2段に空間13、14が設けられている。上側の空間13には第1の導入路11が繋がっており、この空間13から第1のガス吐出路15がシャワーヘッド10の底面まで延びている。下側の空間14には第2の導入路12が繋がっており、この空間14から第2のガス吐出路16がシャワーヘッド10の底面まで延びている。すなわち、シャワーヘッド10は、成膜原料ガスとしてのWCl
6ガスと還元ガスであるH
2ガスとがそれぞれ独立して吐出路15および16から吐出するようになっている。
【0028】
チャンバー1の底壁には、下方に向けて突出する排気室21が設けられている。排気室21の側面には排気管22が接続されており、この排気管22には真空ポンプや圧力制御バルブ等を有する排気装置23が接続されている。そしてこの排気装置23を作動させることによりチャンバー1内を所定の減圧状態とすることが可能となっている。
【0029】
チャンバー1の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口24と、この搬入出口24を開閉するゲートバルブ25とが設けられている。また、チャンバー1の壁部には、ヒーター26が設けられており、成膜処理の際にチャンバー1の内壁の温度を制御可能となっている。
【0030】
ガス供給機構30は、成膜原料であるWCl
6を収容する成膜原料タンク31を有している。WCl
6は常温では個体であり、成膜原料タンク31内にはタングステン原料としての塩化タングステンであるWCl
6が固体として収容されている。成膜原料タンク31の周囲にはヒーター31aが設けられており、タンク31内の成膜原料を適宜の温度に加熱して、WCl
6を昇華させるようになっている。なお、塩化タングステンとしてはWCl
5を用いることもできる。WCl
5を用いてもWCl
6とほぼ同じ挙動を示す。
【0031】
成膜原料タンク31には、上方からキャリアガスであるN
2ガスを供給するためのキャリアガス配管32が挿入されている。キャリアガス配管32にはN
2ガス供給源33が接続されている。また、キャリアガス配管32には、流量制御器としてのマスフローコントローラ34およびその前後のバルブ35が介装されている。また、成膜原料タンク31内には原料ガスラインとなる原料ガス送出配管36が上方から挿入されており、この原料ガス送出配管36の他端はシャワーヘッド10の第1の導入路11に接続されている。原料ガス送出配管36にはバルブ37が介装されている。原料ガス送出配管36には成膜原料ガスであるWCl
6ガスの凝縮防止のためのヒーター38が設けられている。そして、成膜原料タンク31内で昇華したWCl
6ガスがキャリアガスとしてのN
2ガス(キャリアN
2)により搬送されて、原料ガス送出配管36および第1の導入路11を介してシャワーヘッド10内に供給される。また、原料ガス送出配管36には、配管74を介してパージガスとしてのN
2ガス(パージN
2)を供給するN
2ガス供給源71が接続されている。配管74には流量制御器としてのマスフローコントローラ72およびその前後のバルブ73が介装されている。N
2ガス供給源71からのN
2ガスは原料ガスライン側のパージガスとして用いられる。
【0032】
なお、キャリアガス配管32と原料ガス送出配管36との間は、バイパス配管48により接続されており、このバイパス配管48にはバルブ49が介装されている。キャリアガス配管32および原料ガス送出配管36における配管48接続部分の下流側にはそれぞれバルブ35a,37aが介装されている。そして、バルブ35a,37aを閉じてバルブ49を開くことにより、N
2ガス供給源33からのN
2ガスを、キャリアガス配管32、バイパス配管48を経て、原料ガス送出配管36をパージすることが可能となっている。なお、キャリアガスおよびパージガスとしては、N
2ガスに限らず、Arガス等の他の不活性ガスであってもよい。
【0033】
シャワーヘッド10の第2の導入路12には、H
2ガスラインとなる配管40が接続されており、配管40には、還元ガスであるH
2ガスを供給するH
2ガス供給源42と、配管64を介してパージガスとしてのN
2ガス(パージN
2)を供給するN
2ガス供給源61が接続されている。また、配管40には流量制御器としてのマスフローコントローラ44およびその前後のバルブ45が介装され、配管64には流量制御器としてのマスフローコントローラ62およびその前後のバルブ63が介装されている。N
2ガス供給源61からのN
2ガスはH
2ガスライン側のパージガスとして用いられる。還元ガスとしては、H
2ガスに限らず、SiH
4ガス、B
2H
6ガス、NH
3ガスを用いることもできる。H
2ガス、SiH
4ガス、B
2H
6ガス、およびNH
3ガスのうち2つ以上を供給できるようにしてもよい。また、これら以外の他の還元ガス、例えばPH
3ガス、SiH
2Cl
2ガスを用いてもよい。
【0034】
この成膜装置100は、各構成部、具体的にはバルブ、電源、ヒーター、ポンプ等を制御する制御部50を有している。この制御部50は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたプロセスコントローラ51と、ユーザーインターフェース52と、記憶部53とを有している。プロセスコントローラ51には成膜装置100の各構成部が電気的に接続されて制御される構成となっている。ユーザーインターフェース52は、プロセスコントローラ51に接続されており、オペレータが成膜装置100の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作などを行うキーボードや、成膜装置の各構成部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。記憶部53もプロセスコントローラ51に接続されており、この記憶部53には、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムすなわち処理レシピや、各種データベース等が格納されている。処理レシピは記憶部53の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられているものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0035】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて所定の処理レシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0036】
<成膜方法の実施形態>
次に、以上のように構成された成膜装置100を用いて行われる成膜方法の実施形態について説明する。
【0037】
まず、ゲートバルブ25を開け、搬送装置(図示せず)によりウエハWを搬入出口24を介してチャンバー1内に搬入し、ヒーター5により所定温度に加熱されたサセプタ2上に載置し、所定の真空度まで減圧した後、以下のようにしてCVD法またはALD法によりタングステン膜の成膜を行う。ウエハWとしては、例えば熱酸化膜の表面、またはトレンチやホール等の凹部を有する層間絶縁膜の表面に下地膜としてバリアメタル膜(例えばTiN膜、TiSiN膜)が形成されたものを用いることができる。タングステン膜は、熱酸化膜や層間絶縁膜に対する密着力が悪く、かつインキュベーション時間も長くなるため、熱酸化膜や層間絶縁膜上に成膜することは困難であるが、TiN膜やTiSiN膜を下地膜として用いることにより、成膜が容易となる。ただし、下地膜はこれに限るものではない。
【0038】
(CVD法による成膜)
まず、CVD法による成膜について説明する。
図2は、CVD法による成膜の際の処理レシピを示す図である。最初に、バルブ37,37aおよび45を閉じてバルブ63および73を開き、N
2ガス供給源61,71から配管64,74を介してパージガスとしてのN
2ガス(パージN
2)をチャンバー1内に供給して圧力を上昇させ、サセプタ2上のウエハWの温度を安定させる。
【0039】
チャンバー1内が所定圧力に到達した後、N
2ガス供給源61,71からのパージN
2を流したまま、バルブ37,37aを開くことにより、キャリアガスとしてのN
2ガス(キャリアN
2)を成膜原料タンク31内に供給し、成膜原料タンク31内でWCl
6を昇華させ、生成されたWCl
6ガスをチャンバー1内に供給するとともに、バルブ45を開いてH
2ガス供給源42からH
2ガスをチャンバー1内に供給する。これにより、ウエハWの表面の下地膜上で、タングステン原料ガスであるWCl
6ガスと、還元ガスであるH
2ガスとの反応が生じ、タングステン膜が成膜される。タングステン原料ガスとしてWCl
5ガスを用いた場合も同様である。
【0040】
タングステン膜の膜厚が所定の値となるまで成膜を続けた後、バルブ45を閉じてH
2ガスの供給を停止し、さらにバルブ37,37aを閉じてWCl
6ガスを停止して、パージN
2のみをチャンバー1内に供給するようにし、チャンバー1内のパージを行う。以上でCVD法による成膜が終了する。このときのタングステン膜の膜厚は、成膜時間により制御することができる。
【0041】
(ALD法による成膜)
次に、ALD法により成膜について説明する。
図3は、ALD法による成膜の際の処理レシピを示す図である。最初にCVD法のときと同様、バルブ37,37aおよび45を閉じてバルブ63および73を開き、N
2ガス供給源61,71から配管64,74を介してパージガスとしてのN
2ガス(パージN
2)をチャンバー1内に供給して圧力を上昇させ、サセプタ2上のウエハWの温度を安定させる。
【0042】
チャンバー1内が所定圧力に到達した後、N
2ガス供給源61から配管64を介してパージN
2を流したまま、バルブ73を閉じて配管74側のパージN
2を停止し、バルブ37,37aを開くことにより、N
2ガス供給源33からキャリアN
2を成膜原料タンク31内に供給し、成膜原料タンク31内で昇華したWCl
6ガスを短時間チャンバー1内に供給してウエハW表面に形成された下地膜上にWCl
6を吸着させ(WCl
6ガス供給ステップ)、次いで、バルブ37,37aを閉じ、バルブ73を開いて、WCl
6ガスを停止するとともに配管64のパージN
2に加えて配管74側からのパージN
2もチャンバー1内に供給し、チャンバー1内の余剰のWCl
6ガスをパージする(パージステップ)。
【0043】
次いで、N
2ガス供給源71から配管74を介してパージN
2ガスを流したまま、バルブ63を閉じて配管64側のパージN
2を停止し、バルブ45を開いてH
2ガス供給源42からH
2ガスを短時間チャンバー1内に供給し、ウエハW上に吸着したWCl
6と反応させ(H
2ガス供給ステップ)、次いでバルブ45を閉じてバルブ63を開き、H
2ガスの供給を停止するとともに配管74のパージN
2に加えて配管64側からのパージN
2もチャンバー1内に供給し、チャンバー1内の余剰のH
2ガスをパージする(パージステップ)。
【0044】
以上のWCl
6ガス供給ステップ、パージステップ、H
2ガス供給ステップ、パージステップの1サイクルにより、薄いタングステン単位膜が形成される。そして、これらのステップを複数サイクル繰り返すことにより所望の膜厚のタングステン膜を成膜する。このときのタングステン膜の膜厚は、上記サイクルの繰り返し数により制御することができる。タングステン原料ガスとしてWCl
5ガスを用いた場合も同様である。
【0045】
(成膜条件)
タングステン原料としてWCl
6を用いた場合には、WCl
6ガス自体がエッチング作用も有するため、温度および圧力の条件によっては、タングステン膜の下地がWCl
6ガスによりエッチングされてタングステン膜が成膜され難いことがある。したがって、温度・圧力条件が、そのようなエッチング反応が生じる条件以外であることが好ましい。より詳細には、温度が低い領域では成膜反応もエッチング反応も生じないため、成膜反応を生じさせるためには高温が好ましいが、成膜反応が生じる高温では、圧力が低いとエッチング反応が生じる傾向がある。したがって、高温・高圧条件が好ましい。
【0046】
具体的には、下地膜の種類にもよるが、上記CVD法およびALD法ともに、ウエハ温度(サセプタ表面温度):400℃以上、チャンバー内圧力:5Torr(667Pa)以上とすることが好ましい。これは、ウエハ温度が400℃より低い温度であると成膜反応が生じ難く、また、圧力が5Torrより低いと400℃以上においてエッチング反応が生じやすくなるからである。また、ウエハ温度が400℃では、5Torrにおいて成膜量が少なくなる傾向にあるが、10Torr(1333Pa)になると十分な成膜量が得られることから、ウエハ温度が400℃以上において、チャンバー内圧力:10Torr以上とすることがより好ましい。また、ウエハ温度が500℃でより成膜量が増加し、5Torrでも十分な成膜量が得られることから、ウエハ温度:500℃以上、チャンバー内圧力:5Torr以上とすることがより好ましい。十分な成膜量を得る観点からは、温度に上限は存在しないが、装置の制約や反応性の点から、事実上の上限は800℃程度である。より好ましくは400〜700℃、さらに好ましくは400〜650℃である。また、圧力に関しても上記点からは上限は存在しないが、同様に装置の制約や反応性の点から、事実上の上限は100Torr(13333Pa)である。より好ましくは、10〜40Torr(1333〜5333Pa)である。なお、温度や圧力条件の好ましい範囲は実装置の構造や他の条件によって多少変動する。
【0047】
他の条件の好ましい範囲は以下の通りである。
・CVD法
キャリアN
2ガス流量:20〜1000sccm(mL/min)
(WCl
6ガス供給量として、0.25〜30sccm(mL/min))
H
2ガス流量:500〜5000sccm(mL/min)
成膜原料タンクの加温温度:130〜190℃
・ALD法
キャリアN
2ガス流量:20〜500sccm(mL/min)
(WCl
6ガス供給量として、0.25〜15sccm(mL/min))
WCl
6ガス供給時間(1回あたり):0.05〜10sec
H
2ガス流量:500〜5000sccm(mL/min)
H
2ガス供給時間:(1回あたり):0.1〜10sec
成膜原料タンクの加温温度:130〜190℃
【0048】
なお、CVD法およびALD法のいずれにおいても、還元ガスとして、H
2ガスの他、SiH
4ガス、B
2H
6ガス、NH
3ガスを用いることができ、これらを用いた場合にも同様の条件で好ましい成膜を行うことができる。膜中の不純物をより低減する観点からは、H
2ガスを用いることが好ましい。また、NH
3ガスを用いることにより良好な反応性を得ることができ、成膜レートを高くすることができる。また、上述したように、他の還元ガス、例えばPH
3ガス、SiH
2Cl
2ガスを用いることもできる。
【0049】
(実施形態の効果等)
以上のような成膜方法により、良好な特性の実用的なタングステン膜を成膜することができる。具体的には、Cl、C、N、O等の不純物濃度が少なく、タングステン原料としてWF
6を用いた従来のタングステン膜と遜色のない比抵抗を有するタングステン膜が得られる。また、ステップカバレッジが良好なタングステン膜を得ることができる。
【0050】
<成膜方法の他の実施形態>
次に、成膜方法の他の実施形態について説明する。
本実施形態では、熱酸化膜や層間絶縁膜上に下地膜として形成されたバリアメタル膜(TiN膜またはTiSiN膜)の上に、CVD法またはALD法により初期タングステン膜を成膜した後、同様にCVD法またはALD法により主タングステン膜を成膜する。このように、主タングステン膜を初期タングステン膜上に成膜することにより、主タングステン膜の成膜可能な条件を広げることができる。初期タングステン膜の膜厚は3〜10nmが好ましい。
【0051】
この場合に、初期タングステン膜の成膜時に、還元ガスとしてSiH
4ガスまたはB
2H
6ガスを用い、主タングステン膜の成膜の際に還元ガスとしてH
2ガスを用いることが好ましい。このようすることにより、不純物をほとんど増加させることなく、下地膜上にH
2還元によるタングステン膜を直接形成するよりも低抵抗のタングステン膜を得ることができる。これは、還元ガスとしてSiH
4ガスまたはB
2H
6ガスを用いて成膜された初期タングステン膜上に主タングステン膜を成膜することにより、タングステンの結晶粒子のサイズが大きくなるためと考えられる。
【0052】
<実験例>
次に、実験例について説明する。
(実験例1)
ここでは、CVD法による成膜領域を確認した。下地膜としてTiN膜、および原料ガスとしてWCl
6ガス、還元ガスとしてH
2ガスを用いて成膜したタングステン膜(H
2還元W膜)を用い、ウエハ温度を300〜500℃の範囲およびチャンバー内圧力を5〜30Torrの範囲で変化させて、
図1の成膜装置を用いてCVD法によりタングステン膜の成膜を行った。他の条件としては、WCl
6ガスを供給するためのキャリアN
2ガスの流量を50sccm、H
2ガスの流量を1500sccmとした。なお、WCl
6ガスの流量は、キャリアN
2ガスの約1.1%であることをあらかじめ確認しておいた。
【0053】
この際のウエハ温度およびチャンバー内圧力と、成膜レートとの関係を
図4A、
図4Bに示す。
図4Aは下地膜がTiN膜の場合を示し、
図4Bは下地膜がH
2還元W膜の場合を示す。
【0054】
図4A、
図4Bに示すように、下地膜がTiN膜の場合には、ウエハ温度450℃以上、チャンバー内圧力20Torr以上で成膜が確認され、下地膜がH
2還元W膜の場合には、ウエハ温度400℃以上、チャンバー内圧力10Torr以上で成膜が確認され、高温・高圧になるに従って成膜レートが上昇することが確認された。
【0055】
(実験例2)
ここでは、実験例1と同様、下地膜としてTiN膜、および原料ガスとしてWCl
6ガス、還元ガスとしてH
2ガスを用いて成膜したH
2還元W膜を用い、ウエハ温度を500℃、H
2ガス流量を1500sccmに固定して、チャンバー内圧力を5〜30Torrの範囲およびキャリアN
2ガスの流量を20〜500sccm(WCl
6ガスの流量0.23〜5.75sccmに対応)の範囲で変化させて、
図1の成膜装置を用いてCVD法によりタングステン膜の成膜を行った。実験例1と同様、WCl
6ガスの流量は、キャリアN
2ガスの約1.1%である。
【0056】
この際のチャンバー内圧力およびキャリアN
2ガスの流量と、成膜レートとの関係を
図5A、
図5Bに示す。
図5Aは下地膜がTiN膜の場合を示し、
図5Bは下地膜がH
2還元W膜の場合を示す。
【0057】
図5Aに示すように、下地膜がTiN膜の場合には、キャリアガス流量が50sccm以下では成膜が確認されたが、50sccmを超えると成膜されない結果となった。また、高圧になるほど成膜可能なキャリアガス流量が増加することが確認された。これは、WCl
6流量が増加することにより、TiN膜がエッチングされるためであることを強く示唆している。
【0058】
一方、
図5Bに示すように、下地膜がH
2還元W膜の場合には、キャリアN
2ガス流量、すなわちWCl
6流量が増加することにより、成膜レートが増加しており、高圧・高流量で成膜レートが上昇することが確認された。これは、H
2還元W膜がWCl
6ガスによりエッチングされないためである。
【0059】
(実験例3)
次に、下地膜として用いるTiN膜のWCl
6ガスによるエッチング性について確認した。ここでは、ウエハ温度300℃、チャンバー内圧力を30Torrにして、キャリアN
2ガスの流量を20〜500sccm(WCl
6ガスの流量0.23〜5.75sccmに対応)の範囲で変化させた場合の、WCl
6ガス供給時間とTiN膜のエッチング深さとの関係を把握した。その結果を
図6に示す。この図に示すように、WCl
6ガスによりTiN膜がエッチングされること、およびWCl
6ガス流量が多いほどエッチング深さが増加することが確認された。ただし、この温度・圧力条件では、エッチングのインキュベーションタイムが長く、240sec以下ではエッチングが確認されなかった。
【0060】
(実験例4)
ここでは、ALD法による成膜領域を確認した。下地膜としてTiN膜を用い、ウエハ温度を300℃、400℃、500℃の3水準で変化させ、チャンバー内圧力を1Torr、10Torr、20Torr、30Torrの4水準で変化させて、
図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜の成膜を行った。他の条件としてはキャリアN
2ガス流量:50sccm、H
2ガス流量:1500sccm、WCl
6供給ステップ1回の時間:5sec、H
2ガス供給ステップ1回の時間:5sec、パージステップ1回の時間:10secとした。
【0061】
この際のウエハ温度およびチャンバー内圧力と、1サイクルあたりの成膜レートとの関係を
図7に示す。
図7に示すように、ウエハ温度400℃においては、チャンバー内圧力10Torr以上で成膜が確認され、高温・高圧になるに従って成膜レートが上昇する傾向が見られた。本実験の範囲で最も高温・高圧である500℃、30Torrにおいて、最も高成膜レートである0.042nm/cycleが得られた。
【0062】
(実験例5)
ここでは、ALD法による成膜領域についてさらに詳細に実験を行った。下地膜としてTiN膜を用い、ウエハ温度を300℃、400℃、500℃の3水準で変化させ、チャンバー内圧力を5Torr、10Torr、20Torr、30Torr、40Torrの5水準で変化させて、
図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜の成膜を行った。他の条件は実験例4と同様とした。
【0063】
この際のウエハ温度およびチャンバー内圧力と、1サイクルあたりの成膜レートとの関係を
図8に示す。
図8に示すように、ウエハ温度が300℃ではいずれの圧力でも成膜されなかったが、400℃では10Torr以上、500℃では5Torr以上で成膜が確認された。また、高温・高圧になるに従って成膜レートが上昇する傾向が見られ、ウエハ温度500℃においては、チャンバー内圧力が5Torrで成膜が確認され、ウエハ温度400℃においては、チャンバー内圧力が10Torrで成膜が確認された。本実験の範囲で最も高温・高圧である500℃、40Torrにおいて、最も高成膜レートである0.12nm/cycleが得られた。ウエハ温度が500℃のときのチャンバー内圧力と1サイクルあたりの成膜レートとの関係を別途
図9に示す。
【0064】
(実験例6)
ここでは、CVD法により成膜したタングステン膜の膜厚と膜の比抵抗との関係を求めた。下地膜としてTiN膜、還元ガスとしてH
2ガスを用いて成膜したタングステン膜(H
2還元W膜)、還元ガスとしてSiH
4ガスを用いて成膜したタングステン膜(SiH
4還元W膜)、還元ガスとしてB
2H
6ガスを用いて成膜したタングステン膜(B
2H
6還元W膜)を用い、その上に、ウエハ温度500℃、チャンバー内圧力30Torr、WCl
6ガスを供給するためのキャリアN
2ガスの流量50sccm、H
2ガスの流量1500sccmの条件で、
図1の成膜装置を用いてCVD法により種々の膜厚のタングステン膜を成膜し、各膜の比抵抗を測定した。
【0065】
その結果を
図10A、
図10Bに示す。
図10Aは下地膜としてTiN膜、H
2還元W膜を用いた場合の膜厚と比抵抗の関係を示し、
図10Bは下地膜としてSiH
4還元W膜、B
2H
6還元W膜を用いた場合のタングステン膜の膜厚と比抵抗の関係を示す。
【0066】
図10Aに示すように、TiN膜上に形成されたタングステン膜の比抵抗は膜厚40nm付近で40μΩ・cmと実用可能なレベルであることが確認された。また、
図10Aおよび
図10Bに示すように、TiN膜上に成膜したタングステン膜よりも、SiH
4還元W膜上やB
2H
6還元W膜上に成膜したタングステン膜のほうが低い比抵抗が得られ、膜厚40nm付近でみると、TiN膜上に成膜した場合が40μΩ・cmであったのが、SiH
4還元W膜上では30μΩ・cm、B
2H
6還元W膜上では20μΩ・cmと低い値となった。このことから、下地膜としてSiH
4還元W膜上やB
2H
6還元W膜を用いることにより低抵抗化が可能であることが確認された。
【0067】
図11は、これらの下地膜上に成膜したタングステン膜の断面SEM写真である。この図に示すように、TiN膜上に形成されたタングステン膜よりも、SiH
4還元W膜上やB
2H
6還元W膜上に成膜したタングステン膜のほうが結晶粒径が大きく、結晶粒径が大きいことが低抵抗化をもたらしたことが確認された。
【0068】
(実験例7)
ここでは、下地の影響を調査した。下地膜としてTiN膜、TiSiN膜、SiO
2膜を用い、ウエハ温度を500℃、チャンバー内圧力を20Torr、30Torrの2水準とし、WCl
6ガスとH
2ガスとを用いたALD法によりタングステン膜の成膜を行った。
【0069】
この際の各下地膜を用いた際の1サイクルあたりの成膜レートを
図12に示す。
図12に示すように、下地膜により成膜レートが大きく異なり、SiO2膜では、いずれの圧力も成膜されなかったが、TiN膜およびTiSiN膜の場合は成膜可能であり、ほぼ同程度の成膜レートとなることが確認された。また、このとき成膜レートは20Torrの場合よりも30Torrの場合のほうが2倍程度高くなった。
【0070】
(実験例8)
ここでは、タングステン膜のステップカバレッジを確認した。トップの径が0.18μm、アスペクト比が60のホールに下地膜としてTiN膜を形成し、
図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜を成膜した。このときの条件は、ウエハ温度:500℃、チャンバー内圧力:30Torr、キャリアN
2ガス流量:50sccm、H
2ガス流量:1500sccm、WCl
6供給ステップ1回の時間:5sec、H2ガス供給ステップ1回の時間:5sec、パージステップ1回の時間:10sec、サイクル数:600回とした。
【0071】
この際の断面のSEM写真を
図13に示す。
図13に示すように、トップの径が0.18μm、アスペクト比が60のホールの底までタングステン膜が形成されており、良好なステップカバレッジが得られることが確認された。
【0072】
(実験例9)
ここでは、タングステン膜の不純物を確認した。下地膜としてTiN膜を用い、その上に
図1の成膜装置を用いてALD法によりタングステン膜を成膜した。成膜条件は、サイクル数を750回とした以外は実験例8と同様とした。
【0073】
このようにして成膜したタングステン膜について、二次イオン質量分析(SIMS)により深さ方向の不純物の分析を行った。その結果を
図14Aおよび14Bに示す。
図14Aは1cm
3当たりの原子数で示したもの、
図14Bは原子%(atomic%)に換算したものである。
【0074】
図14Aおよび
図14Bに示すように、膜中のCl濃度は0.1〜0.2原子%であり、TiN膜中のCl濃度である1.0原子%よりも低いことが確認された。また、OやCも低いことが確認された。Nが1.5〜2%程度検出されたが、これは下地のTiN膜の影響またはキャリアガスとして用いたN
2ガスの影響が考えられる。
【0075】
<他の適用>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、被処理基板として半導体ウエハを例にとって説明したが、半導体ウエハはシリコンであっても、GaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体でもよく、さらに、半導体ウエハに限定されず、液晶表示装置等のFPD(フラットパネルディスプレイ)に用いるガラス基板や、セラミック基板等にも本発明を適用することができる。