(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一次コイルと二次コイルA、二次コイルBを有する差動トランス検出器と、前記差動トランス検出器によって検出された信号と、に基づいて被測定物の変位を測定するLVDTセンサにおいて、
前記一次コイルへ供給される交流の励磁信号と、
前記二次コイルA及びBから出力されたアナログ信号をそれぞれ増幅する増幅器と、
前記増幅器で増幅された前記アナログ信号をそれぞれデジタルデータへ変換するA/Dコンバータと、
デジタルデータに変換された前記二次コイルA及びBの出力をそれぞれ周波数毎の電圧振幅値としてFFT処理するFFT処理部と、
前記励磁信号の周波数成分の前記電圧振幅値を加算する加算部と、
加算された値から機械的変位量を算出する変位演算部と、
を備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項1に記載のLVDTセンサにおいて、前記励磁信号の周期、前記A/Dコンバータのデータサンプリング周期、前記FFT処理部のためのデータサンプリングの周期と、を同期させる基準クロックを備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項1から3のいずれか1項に記載のLVDTセンサにおいて、前記FFT処理部におけるFFT処理のため、スタート点をずらして繰り返しサンプリングする等価時間サンプリングを行うデータサンプリングを備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項4に記載のLVDTセンサにおいて、前記データサンプリングにて収集されたデータの最大値及び最小値がそれぞれの前記A/Dコンバータの入力範囲に入っているかを判断するAMPゲイン閾値判定を備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項1から5のいずれか1項に記載のLVDTセンサにおいて、前記FFT処理部の演算結果により得られる電圧振幅値が0となる場合、前記二次コイルの断線として判断する断線検出を備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項1から6のいずれか1項に記載のLVDTセンサにおいて、フルレンジを16bitに割り当てた前記A/Dコンバータと、フルレンジを32bitとして割り当てた前記FFT処理部と、を備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項1から7のいずれか1項に記載のLVDTセンサにおいて、前記加算部で加算された値からノイズ成分を除去するソフトウェアにて構成したデジタルローパスフィルタを備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項8に記載のLVDTセンサにおいて、前記デジタルローパスフィルタを通した後に、機械的変位量に変換するための補正を実施するキャリブレーションを備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
請求項1から6のいずれか1項に記載のLVDTセンサにおいて、前記FFT処理部と、前記加算部と、前記変位演算部と、を行うCPUを備えたことを特徴とするLVDTセンサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術は、コアの移動に伴ってLVDTの二つの二次側コイルに起電力が発生し、その差の電圧信号を増幅して整流することによって、直流電圧に変換する。この信号をA/DコンバータでAD変換して移動する接触子の直線変位を検出する。したがって、交流電圧を直流電圧へ変換するための、複雑なアナログ回路デバイスが必要となる。また、温度変化による各デバイスの誤差、電気特性における各デバイスの誤差など累積誤差成分も大きくなる。
【0006】
さらに、測定基準点をLVDTセンサの機械的基準点(ゼロ点)より大きく離れた位置に設定する場合、A/Dコンバータの入力ダイナミックレンジを最大限に使用するためには、測定基準点の戻り値(直流電圧値)をA/Dコンバータの入力のゼロ点に合わせねばならず、調整用のアナログ回路が必要となる。
【0007】
さらに、LVDTセンサの機械的基準点(ゼロ点)付近の測定においては、二つの二次側コイルの差分がほとんどなくなるため、機械的基準点(ゼロ点)付近の測定誤差が大きい。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、アナログ回路部をデジタル(ソフトウェア演算)に置き換えることにより、回路の単純化、及びハードウェアに起因する測定誤差成分を削減すると共に、測定分解能の向上、LVDTセンサの機械的基準点(ゼロ点)付近の精度の向上を図り、より一層の利便性と信頼性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、一次コイルと二次コイルA、二次コイルBを有する差動トランス検出器と、前記差動トランス検出器によって検出された信号とに基づいて被測定物の変位を測定するLVDTセンサにおいて、前記一次コイルへ供給される交流の励磁信号と、前記二次コイルA及びBから出力されたアナログ信号をそれぞれ増幅する増幅器と、増幅された前記アナログ信号をそれぞれデジタルデータへ変換するA/Dコンバータと、デジタルデータに変換された前記二次コイルA及びBの出力をそれぞれ周波数毎の電圧振幅値として演算するFFT処理部と、前記励磁信号の周波数成分の前記電圧振幅値を加算する加算部と、加算された値から機械的変位量を算出する変位演算部と、を備えたものである。
【0010】
これにより、単に、従来のアナログ回路部をデジタルに置き換えただけでなく、測定分解能の向上、LVDTセンサの機械的基準点(ゼロ点)付近の精度の向上を図ることができる。
【0011】
また、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記励磁信号の周期、前記A/Dコンバータのデータサンプリング周期、前記FFT処理部のためのデータサンプリングの周期と、を同期させる基準クロック、を備えたことが望ましい。
【0012】
これにより、励磁信号、A/Dコンバータによりデジタルに変換されたデータ、FFT処理されたデータの間で位相がずれることがないので、最終的な測定値の精度に影響を及ぼさない。
【0013】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記増幅器の倍率を設定するデジタルポテンションメータを備えたことが望ましい。
【0014】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記FFT処理部のため、スタート点を少しずつずらして繰り返しサンプリングする等価時間サンプリングを行うデータサンプリングを備えたことが望ましい。
【0015】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記データサンプリングにて収集されたデータの最大値及び最小値がそれぞれの前記A/Dコンバータの入力範囲に入っているかを判断するAMPゲイン閾値判定を備えたことが望ましい。
【0016】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記FFT処理部の演算結果により得られる電圧振幅値が0となる場合、前記二次コイルの断線として判断する断線検出を備えたことが望ましい。
【0017】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、フルレンジを16bitに割り当てた前記A/Dコンバータと、フルレンジを32bitとして割り当てた前記FFT処理部と、を備えたことが望ましい。
【0018】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記加算部で加算された値からノイズ成分を除去するソフトウェアにて構成したデジタルローパスフィルタを備えたことが望ましい。
【0019】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記デジタルローパスフィルタを通した後に、機械的変位量に変換するための補正を実施するキャリブレーションを備えたことが望ましい。
【0020】
さらに、上記に記載のLVDTセンサにおいて、前記FFT処理部と、前記加算部と、前記変位演算部と、を行うCPUを備えたことが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、二次コイルA及びBから出力されたアナログ信号をA/Dコンバータでそれぞれデジタルデータへ変換し、変換された二次コイルA及びBの出力をそれぞれFFT処理して励磁信号の周波数成分の電圧振幅値より、機械的変位量を算出する。したがって、単に、従来のアナログ回路部をデジタル(ソフトウェア演算)に置き換え、回路の単純化、及びハードウェアに起因する測定誤差成分を削減するばかりでなく、測定分解能の向上、LVDTセンサの機械的基準点(ゼロ点)付近の精度の向上を図ることができ、より一層の利便性と信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
接触式変位センサとしてコイルを用いたトランス方式は、コイルに電流を通すことで生じる磁界でのコイルの動きを、検出可能な電気信号に変換するものであり、LVDTセンサとHBT(ハーフブリッジトランスデューサ)センサとが広く使用されている。
【0025】
LVDTセンサは、一次側と二次側コイル内を接触子に設けられた磁気コアが移動することにより相互インダクタンス変化を電圧として出力する。磁気コアは、円筒状のコイルの空洞内部を移動する構造となり、一次コイルが交流の励磁電源に接続され、二次コイルに電圧を発生し、磁気コアの位置によって電圧差が起こることを利用する。
【0026】
通常、二次コイルのAとBとを一次コイルをはさんで反対側に位置させ、二次コイルAの電圧VAと二次コイルBの電圧VBとは逆位相となる。磁気コアが中央部に位置するとき、両二次コイルの電圧は等しい。磁気コアがどちらかの方向に移動すると、移動した側にある二次コイルの出力電圧が変位の変化量に比例して高くなり、反対側の二次コイルの出力電圧は同じだけ低くなる。
【0027】
HBTセンサは、二つのコイルA、Bを設け、磁気コアがコイルの空洞内部の位置により、二つのコイルのインダクタンスのアンバランスを通常、ホイートストン・ブリッジ回路で検出する。二つのコイルは、ホイートストン・ブリッジ回路の片側を形成し、ブリッジのもう片方は増幅器に組み込む。磁気コアがコイルの中央部にあるとき、コイルAの電圧VAとコイルBの電圧VBの両電気信号は等しくなり、磁気コアが移動すると、ホイートストン・ブリッジ回路で検出された電圧が変化する。
【0028】
従来のLVDTセンサは、アナログ技術に基づいているので、そのデバイスの劣化、ドリフトなどの点において限界がある。その影響を受けないために極力デジタル処理することが望ましい。
【0029】
また、LVDTセンサの二つの二次側コイルに発生した差の電圧信号を増幅して整流し、直流電圧に変換するが、二つの二次側コイルは、巻き数、内部静電容量、漏れ抵抗などがアンバランスとなる。そして、機械的基準点(ゼロ点)付近で、その影響で誤差を生じ易く、二つの二次側コイルに発生した差の電圧信号をアナログ増幅することでは、ゼロ点付近での非線形性となり、解決が困難である。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係るハードウェア構成を示す概略ブロック図、
図2は演算処理を示す概略ブロック図、2はトランスセンサの差動トランス検出器であり、2-1が一次コイル、2-2が二次コイルA、2-3が二次コイルB、2-4が磁気コアである。一次コイル2-1には、交流の励磁信号1が差動トランス検出器2を駆動するための信号として接続されている。
【0031】
二次コイルA2-2、二次コイルB2-3は、増幅器3-1、3-2にそれぞれ接続され、磁気コア2-4の位置によって発生する電圧は、差動トランス検出器2からの出力信号として増幅される。それぞれの出力信号幅は、次のA/Dコンバータ4の入力範囲に合わせる。
【0032】
A/Dコンバータ4は、増幅器3-1、3-2のアナログ信号をサンプリングして離散的な信号に変換、つまり、連続信号を時間的に離散的な値、デジタルデータへ変換する。これは、デジタル信号処理を行うために必要となる。デジタルデータへ変換された二次コイルA2-2、二次コイルB2-3の信号は、CPU(マイクロプロセッサ)5に伝達され、磁気コア2-4の機械的変位量を演算する。CPU5による演算の概略が
図2である。なお、二次コイルA2-2、二次コイルB2-3の信号のサンプリングレート、つまり、単位時間当たりのサンプル頻度は同じとされる。
【0033】
図2を参照して、既にデジタルデータに変換された二次コイルA2-2による+側出力6-1、二次コイルB2-3による−側出力6-2は、差動トランス検出器2の出力信号としてそれぞれFFT(高速フーリエ変換)処理7-1、7-2を行う。つまり、連続時間信号である差動トランス検出器2の出力信号をサンプリングして、離散化された所定時間の観測周期の信号をFFT処理7-1、7-2によって周波数毎の出力信号の電圧振幅値として求める。ここでFFT処理7-1、7-2は、本実施例では、CPU5によって成されるように説明されているが、FFT処理専用の回路等(IC、LSI、装置)でこの処理が成されても良い。よって、このFFT処理7-1、7-2は、CPU5とFFT処理のためのソフト(プログラム)も含んだこれらFFT処理用の回路等であるFFT処理部で成されるということができる。
【0034】
二次コイルA2-2による+側出力6-1、二次コイルB2-3による−側出力6-2における励磁信号1の周波数成分の電圧振幅値を加算部8で加算する。加算された値をキャリブレーション9で補正して変位演算部10で機械的変位量を算出する。算出された値は、デジタルに変換された測定値として次の処理を行うCPU5やネットワークへインターフェイスを介して伝送される。そして、演算されて要求される測定値として処理される。また、必要であれば統計処理や加工機への補正信号とされる。
【0035】
図3は
図1の詳細ブロック図であり、差動トランス検出器2への励磁信号1の出力回路は、デジタルアナログ変換回路であるDAC11、バンドパスフィルタ(BPF)12、バッファ13を有している。
【0036】
励磁信号1は、プログラマブルロジックデバイスの一種で、プログラム可能なFPGA(field-programmable gate array)18の基準クロックを基に生成され、DAC11で交流信号に変換され、バンドパスフィルタ12でノイズを除去され、バッファ13で整合されて一次コイル2-1へ励磁信号1として入力される。そして、差動トランス検出器2の一次コイル2-1を一定周波数(8kHz)で励磁し、二次コイルA2-2、二次コイルB2-3に誘起電圧を発生させる。
【0037】
二次コイルA2-2、二次コイルB2-3に誘起した電圧である差動トランス検出器2の出力信号はアナログ信号であり、それぞれバッファ14-1、14-2で受けられ、増幅器3-1、3-2で増幅された後、A/Dコンバータ4-1、4-2でデジタルデータへ変換される。
【0038】
増幅器3-1、3-2の倍率はデジタルポテンションメータ15-1、15-2にて設定する。デジタルポテンションメータ15-1、15-2は、CPU5に倍率である増幅率が制御され、差動トランス検出器2の最大出力振幅の仕様に合わせて設定される。増幅率、つまり増幅器3-1、3-2の倍率は、差動トランス検出器2からの出力信号の最大値が、A/Dコンバータ4-1、4-2のそれぞれの最大入力範囲に入るようにCPU5によって調整される。
【0039】
これによって、A/Dコンバータ4-1、4-2の分解能を最大限に利用できる。また、増幅器3-1、3-2は、デジタルローパスフィルタ(LPF)としても機能し、差動トランス検出器2からの出力である交流信号の高周波ノイズ成分を除去する。
【0040】
A/Dコンバータ4-1、4-2による出力データは、FPGA18を介してCPU5へ引き渡される。FPGA18にてDAC11及びA/Dコンバータ4-1、4-2を制御する。つまり、DAC11で生成される励磁信号1の周期と同期してA/Dコンバータ4-1、4-2のデータサンプリング周期、タイミングを決定する。また、FFT処理7-1、7-2のためのデータサンプリングの周期とも同期させる。
【0041】
また、A/Dコンバータ4-1、4-2は、二次コイルA2-2による+側出力6-1、二次コイルB2-3による−側出力6-2に対して、A/Dコンバータ4-1、4-2のように、それぞれ一つずつ使用し、並列的に処理する。これにより、同じタイミングにてデータをサンプリングすることができる。したがって、サンプリングタイミングのずれが、測定誤差になることがない。
【0042】
図4は
図2の詳細ブロック図であり、具体的な処理内容を示している。
図4を参照して、データサンプリング20-1、20-2は、差動トランス検出器2の出力信号の1周期分のデータを取得する。サンプリングは、スタート点を少しずつずらして繰り返しサンプリングすることにより、結果的に多くのサンプル点を波形上に打つ等価時間サンプリングにて実施する。これにより、数回の取り込みだけ、あるいはサンプルレートが低くてもデータポイントを多くとり、FFT処理7-1、7-2の高精度化を図ることができる。
【0043】
データサンプリング20-1、20-2にて収集されたデータの最大値及び最小値から増幅器3-1、3-2の倍率を決めるが、最適であるか、つまり、差動トランス検出器2からの出力信号の最大値から最小値が、A/Dコンバータ4-1、4-2のそれぞれの入力範囲に入っているかをAMPゲイン閾値判定21-1、21-2で判断している。
【0044】
差動トランス検出器2の出力信号の最大値から最小値までが、A/Dコンバータ4-1、4-2のそれぞれの入力範囲に入っていなければ、入るようにCPU5によってデジタルポテンショメータ15-1、15-2にて設定されている増幅率が調整される。これによって、A/Dコンバータ4-1、4-2の全ビットがフルレンジで割り当てられ、分解能を損なうことがない。
【0045】
データサンプリングされたデータはFFT処理7-1、7-2が行われ、差動トランス検出器2の出力信号は、周波数毎の電圧振幅値として求められる。このFFT処理7-1、7-2は、差動トランス検出器2の出力信号、励磁信号1の周波数成分以外の成分を除去するノイズフィルタともなる。
【0046】
FFT処理7-1、7-2を行い、その結果から差動トランス検出器2が繋がっているか否かの判断である断線検出23-1、23-2を行う。差動トランス検出器2が未接続、あるいは二次コイルA2-2、二次コイルB2-3が断線している場合、演算結果により得られる電圧振幅値はほぼ0となるため、この結果からLVDTゲージが繋がっているか否かを判断できる。
【0047】
A/Dコンバータ4-1、4-2(
図3参照)は、それぞれフルレンジを16bitに割り当て、データをサンプリングしているが、FFT処理7-1、7-2(
図4参照)は、励磁信号1の周波数成分の電圧振幅値を抽出するので、差動トランス検出器2の出力信号に比べ、FFT処理7-1、7-2後のノイズ成分は減少している。したがって、FFT処理7-1、7-2の出力は、フルレンジを32bitとして割り当て、測定値の分解能をA/Dコンバータ4-1、4-2のハードウェア性能以上に上げることができる。
【0048】
二次コイルA2-2による+側出力6-1(
図2も参照)、二次コイルB2-3による−側出力6-2(
図2も参照)をFFT処理7-1、7-2した後の結果を加算器8で加算し、ノイズ成分除去のためソフトウェアにて構成したデジタルローパスフィルタ25を通し、その値を機械的変位量に変換するための補正をキャリブレーション9で実施することで、変位演算部10で機械的変位量を算出する。
【0049】
キャリブレーション9によって、それまでの処理に対する補正テーブルをメモリに記憶するなどにより、補正処理を行えば、より正確な機械的変位量を算出することができる。これにより、二つの二次側コイルの巻き数、内部静電容量、漏れ抵抗のアンバランスの影響、データサンプリングにおける位相ずれの影響などを最小限とすることができる。
【0050】
図5は、差動トランス検出器2の出力信号が測定値となるまでの演算をグラフで示している。まず、上左図は差動トランス検出器2の出力信号を示し、例えば、二次コイルA2-2(
図1参照)による+側出力が二次コイルB2-3による−側出力よりも大きく出力している。上中図は、増幅器3-1、3-2(
図1参照)で増幅した様子を示し、それぞれ振幅が大きくなっている。上右図は、A/Dコンバータ4(
図1参照)で増幅器3-1、3-2のアナログ信号をそれぞれサンプリングしてデジタルデータへ変換することを示す。二次コイルA2-2、二次コイルB2-3の出力が同じタイミングでサンプリングされている。
【0051】
下図は、FFT処理7-1、7-2した後、励磁信号1の周波数成分8kHzの電圧振幅値を抽出したことを示す。二次コイルA2-2による+側出力の振幅値GP、二次コイルB2-3による−側出力の振幅値をGNとし、GP−GNを測定値としてCPU5内でデジタル演算する。
【0052】
従来は、差動トランス検出器2の出力信号である二次コイルA2-2による+側出力と、二次コイルB2-3による−側出力と、を波形合成し、増幅、ローパスフィルタによるノイズ除去、ゼロ点調整までがアナログ量で行われ、変位量を表示するために最後にA/Dコンバータでデジタル化されていた。
【0053】
それに対して、本実施例では、差動トランス検出器2の出力信号をデジタル化し、CPU5内で高速に数値演算するので、交流電圧を直流電圧へ変換するための、複雑なアナログ回路によるデバイスが必要ない。また、アナログ回路では避けることができない温度変化による各デバイスの誤差、電気特性における各デバイスの誤差など累積誤差成分も無くすことができる。
【0054】
さらに、LVDTセンサの二つの二次側コイルに発生した差の電圧信号を増幅して整流し、直流電圧に変換し、ゼロ点を調整して測定値とするが、二つの二次側コイルは、巻き数、内部静電容量、漏れ抵抗などがアンバランスとなる。そのため、機械的基準点(ゼロ点)付近で、その影響で誤差を生じ易く、調整後においても、ゼロ点付近での非線形性となり、アナログ回路では解決が困難である。
【0055】
図6は、FFT処理7-1、7-2を示すグラフであり、デジタルデータに変換された二次コイルA2-2による+側出力6-1、二次コイルB2-3による−側出力6-2の、時間を横軸にした正弦波状の連続時間信号であるサンプリングデータである。これに対して、所定時間の観測周期でFFT処理7-1、7-2した後は、周波数を横軸にした周波数毎の電圧振幅値が求められる。そして、差動トランス検出器2の一次コイル2-1は一定周波数(8kHz)の励磁信号1で励磁されるので、励磁信号1の周波数成分のみの電圧振幅値を算出する。
【0056】
これにより、二次コイルA2-2、二次コイルB2-3の誘起電圧は、励磁信号1の周波数となるので、他の周波数はノイズ成分であり、温度変化、電気特性における各デバイスのノイズを除去でき、高精度化を図ることができる。
【0057】
図7は、A/Dコンバータ4-1、4-2によるサンプリングから測定値とするまでの演算を示すグラフで
図5のデジタル演算の詳細である。なお、本発明においてFFT処理をFFT演算と称する場合もある。左図はA/Dコンバータ4-1、4-2(
図3参照)により処理された二次コイルA2-2による+側出力、二次コイルB2-3による−側出力である。中図はFFT処理7-1、7-2(
図4参照)し、算出された励磁信号1の周波数成分のみの電圧振幅値である。測定値は、右図のように、二次コイルA2-2による+側出力の振幅値から二次コイルB2-3による−側出力の振幅値を引き算して振幅差を算出することで得られる。
【0058】
以上のように、アナログ回路部をデジタル(ソフトウェア演算)に置き換えたことにより、回路の単純化、及びハードウェアに起因する測定誤差成分を削減できる。また、A/Dコンバータの入力ダイナミックレンジを最大限に利用し、測定分解能を向上し、LVDTセンサの機械的基準点(ゼロ点)付近の測定における精度を向上できる。
【0059】
さらに、励磁信号の周期、A/Dコンバータのデータサンプリング周期、FFT処理のためのデータサンプリングの周期と、を同期させているので、一次巻線から二次巻線への位相シフトがシステムの精度に影響を及ぼさない。そして、温度に対する安定度が改善され、トランスデューサとしての差動トランス検出器の互換性を向上できる。
【0060】
さらに、ソフトウェア演算によれば、例えば、周囲温度、コイル温度をCPU5に取り込んで機械的変位量を算出するときに補償するなど、環境条件による測定値の変化を修正することもできる。