【文献】
GHEMES, A. et al.,Fabrication and mechanical properties of carbon nanotube yarns spun from ultra-long multi-walled carbon nanotube arrays,Carbon,英国,Elsevier Ltd. ,2012年 5月26日,Vol. 50,pp. 4579-4587
【文献】
INOUE, Y. et al. ,One-step grown aligned bulk carbon nanotubes by chloride mediated chemical vapor deposition,Appl. Phys. Lett. ,米国,American Institue of Physics,2008年 5月29日,Vol. 92,213113-1-213113-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カーボンナノチューブ糸の撚り掛けのみが行われた状態で、前記破断荷重インデックスF(単位:nN)が前記カーボンナノチューブの平均直径d(単位:nm)との間で下記式(2)を満たす、請求項1に記載のカーボンナノチューブ撚糸。
F ≧ 12nN(nm)−1×d (2)
前記カーボンナノチューブ撚糸に含有される前記カーボンナノチューブは、長軸方向の長さが0.6mm以上であるものを含む、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ撚糸。
前記撚り掛け工程後に、撚り掛け以外の方法により前記カーボンナノチューブ撚糸を構成する複数のカーボンナノチューブを集束化させる集束工程を備える、請求項4に記載の製造方法。
前記カーボンナノチューブ撚糸を構成するカーボンナノチューブの平均直径を調整することにより、引張強度、ヤング率および抵抗率が制御された前記カーボンナノチューブ撚糸を得る、請求項4または5に記載の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.カーボンナノチューブ撚糸(CNT撚糸)
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態において、下記式(1)で示される破断荷重インデックスFが150nN以上であってもよい。破断荷重インデックスFは、CNT撚糸を構成するCNTの1本当たりの引張強度を評価する尺度の一つとして位置付けられる。
F = Tφ
2/(φ/d)
2 (1)
【0031】
ここで、CNT撚糸の平均引張強度T(単位:MPa)は、同一条件で製造されたCNT撚糸の3本以上を測定対象として測定された引張強度の測定値の算術平均値である。CNT撚糸の平均直径φ(単位:μm)は、引張強度の測定に供された上記の3本以上のCNT撚糸またはそれらのCNT撚糸と同一の条件で製造されたCNT撚糸の3本以上の平均直径の算術平均値である。CNTの平均直径d(単位:nm)は、引張強度の測定に供された上記の3本以上のCNT撚糸またはそれらのCNT撚糸と同一の条件で製造されたCNT撚糸を構成する3本以上のCNTの平均直径の算術平均値である。
【0032】
破断荷重インデックスFが150nN以上である本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、アセトンなどの易揮発性有機材料の凝集力を用いたCNTの集束工程などを行わなくとも、撚り掛け工程のみで、優れた機械特性を有することができる。優れた機械特性を有するCNT撚糸は、優れた二次加工性を有すると期待される。ここでいう二次加工とは、織加工、編加工など、複数の糸状のCNT含有構造体を集積化させて構造体を得る加工を意味する。
【0033】
CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態であっても機械特性に優れるCNT撚糸をより安定的に得る観点から、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態におけるCNT撚糸の破断荷重インデックスFは200nN以上であることが好ましく、250nN以上であることがよりに好ましく、300nN以上であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の平均引張強度の具体的な測定方法は次のとおりとする。測定対象とするCNT撚糸を、標点距離が10mmとなるように保持する。保持されたCNT撚糸を、23℃、相対湿度50%の環境で、引張速度1mm/分で引っ張る引張試験を実施し、引張荷重を測定しつつ、非接触で(すなわち、画像観察により)伸び量を測定する。CNT撚糸が破断したときの引張荷重である破断荷重を、次に説明するCNT撚糸の直径の測定値から算出したCNT撚糸の断面積で除して、引張強度を求める。この引張強度の測定を、同一条件で製造されたCNT撚糸の3本以上について実施し、得られた測定値の算術平均をCNT撚糸の平均引張強度とする。
【0035】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の平均直径の具体的な測定方法は次のとおりとする。
上記の引張試験に供されるCNT撚糸またはそのCNT撚糸と同一の条件で製造されたCNT撚糸を、電子顕微鏡内に張った状態で固定し、この固定されたCNT撚糸を、長軸方向(引張方向)に直交する方向から観察する。観察画像から、長軸方向に平行な線分であってCNT撚糸のそれぞれの端部に最も多く接する線分を2本定義し、これらの線分間の離間距離を、観察したCNT撚糸の直径とする。同一のCNT撚糸について複数の位置を観察視野として直径を測定し、それらの測定結果の算術平均値を、観察したCNT撚糸の直径としてもよい。以上のCNT撚糸の直径の測定を、上記の引張試験に供される3本以上のCNT撚糸について、またはそのCNT撚糸と同一の条件で製造されたCNT撚糸の3本以上について実施し、得られた測定値の算術平均をCNT撚糸の平均直径とする。
【0036】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸を構成するCNTの平均直径の具体的な測定方法は次のとおりとする。
評価対象となるCNT撚糸を与える複数のCNTについて、または当該CNTと同一の製造条件で製造された複数のCNTを別途用意してそれらのCNTについて、長軸方向に直交する方向から観察する。観察画像から、CNTの直径を3点以上測定し、測定結果の算術平均値をその複数のCNTの平均直径とする。1本のCNTについて複数点測定してもよい。
【0037】
引張強度の測定に供されたCNT撚糸の本数は、3本以上であれば特に制限はない。3本以上であれば、バラつきの影響を受けずにCNTの機械的特性の測定値の評価ができる。さらに、引張強度の測定に供されたCNT撚糸の本数は4本以上であることが好ましく、5本以上であることがより好ましい。引張強度の測定に供されたCNT撚糸の本数の上限は特に限定されない。
【0038】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態において、破断荷重インデックスF(単位:nN)がCNTの平均直径d(単位:nm)との間で下記式(2)を満たしてもよい。本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、F≧150nNおよび下記式(2)の少なくとも一方を満たす。
F ≧ 12×d (2)
F(単位:nN)およびd(単位:nm)は上記の定義のとおりである。
【0039】
上記式(2)を満たすことにより、CNTの直径が小さい場合であっても、優れた機械特性を有するCNT撚糸を得ることがより安定的に可能となる。
【0040】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態において、下記式(3)を満たすことが好ましい。
E ≧ 400/φ (3)
φ(単位:μm)は上記の定義のとおりである。
【0041】
ここで、CNT撚糸の平均ヤング率E(単位:GPa)は、CNT撚糸の平均引張強度を求めるために実施した引張試験の測定結果から得られた応力ひずみ線の初期傾きとして求められるヤング率の算術平均値である。
【0042】
上記式(3)を満たすことにより、破断に至る前の段階において、長軸方向に伸長させる外力が付与された場合に変形しにくい、機械特性に優れるCNT撚糸を得ることが可能となる。
【0043】
優れた機械特性を有するCNT撚糸を得ることをより安定的に可能とする観点から、本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態で、下記式(3−1)を満たすことが好ましく、下記式(3−2)を満たすことがより好ましく、下記式(3−3)を満たすことがさらに好ましく、下記式(3−4)を満たすことが特に好ましい。
E ≧ 450/φ (3−1)
E ≧ 500/φ (3−2)
E ≧ 550/φ (3−3)
E ≧ 600/φ (3−4)
【0044】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態において、下記式(4)を満たすことが好ましい。
E ≧ 400/d (4)
E(単位:GPa)およびd(単位:nm)は上記の定義のとおりである。
【0045】
優れた機械特性を有するCNT撚糸を得ることをより安定的に可能とする観点から、本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態で、下記式(4−1)を満たすことが好ましく、下記式(4−2)を満たすことがより好ましく、下記式(4−3)を満たすことがさらに好ましく、下記式(4−4)を満たすことが特に好ましい。
E ≧ 450/d (4−1)
E ≧ 500/d (4−2)
E ≧ 550/d (4−3)
E ≧ 600/d (4−4)
【0046】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態で、下記式(5)を満たすことが好ましい。
T≧−10×φ+800 (5)
T(単位:MPa)およびφ(単位:μm)は上記の定義のとおりである。
【0047】
優れた機械特性を有するCNT撚糸を得ることをより安定的に可能とする観点から、本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態で、下記式(5−1)を満たすことが好ましく、下記式(5−2)を満たすことがより好ましく、下記式(5−3)を満たすことが特に好ましい。
T≧−10×φ+850 (5−1)
T≧−10×φ+900 (5−2)
T≧−10×φ+950 (5−3)
【0048】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態で、下記式(6)を満たすことが好ましい。
T≧−25×d+1000 (6)
T(単位:MPa)およびd(単位:nm)は上記の定義のとおりである。
【0049】
上記式(6)を満たすCNT撚糸は、CNT撚糸を構成するCNTのそれぞれが優れた機械特性を有している。それゆえ、上記式(6)を満たすことにより、優れた機械特性を有するCNT撚糸が得られやすい。
【0050】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT糸の撚り掛けのみが行われた状態での重量密度が0.6g/cm
3以上であることが好ましい。かかる重量密度が高い場合には、CNT撚糸の長軸方向の破断荷重が大きくなりやすく、機械特性に優れたCNT撚糸が得られやすい。機械特性に優れたCNT撚糸をより安定的に得る観点から、上記の重量密度は、0.8g/cm
3以上であることがより好ましく、1.0g/cm
3以上であることが特に好ましい。上記の重量密度の上限は特に限定されない。原理的にはグラファイトの密度(2.2260g/cm
3)が上限となる。上記の重量密度を高めるためには、撚り掛け工程における張力を高めたり、撚りの程度を高めたりすることが必要となることから、上記の重量密度を過度に高めることは、生産性の低下をもたらすおそれがある。したがって、CNT撚糸の生産性を高める観点から、上記の重量密度は、通常、1.8g/cm
3以下であり、1.5g/cm
3以下とすることが好ましく、1.3g/cm
3以下とすることがより好ましい。
【0051】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の撚り角度は特に限定されない。撚り角度が過度に小さい場合や大きい場合には、撚り掛けによる隣接CNT糸の離間距離を小さくしてCNT間のファンデルワールス力を高めることが困難となり、CNT撚糸の機械的強度が高まりにくくなるおそれがある。CNT撚糸の機械特性をより安定的に高める観点から、撚り角度は5°以上60°以下であることが好ましく、20°から45°であることがより好ましく、15°から30°であることが特に好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸に含有されるCNTは、長軸方向の長さ(本明細書において「CNT長さ」ともいう。)が0.6mm以上であるものを含むことが好ましい。CNT長さが長いほど、CNT撚糸の最も外側に位置するCNTの、CNT撚糸の長軸周りの回転数が多くなり、CNT撚糸の機械特性が高まりやすい。CNT撚糸の機械特性をより安定的に高める観点から、CNT長さは、0.8mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。CNT長さの上限は特に限定されない。CNT長さが過度に長い場合には、CNT糸の製造方法によっては、CNT糸を形成することが困難となる場合もある。例えば、後述するCNTアレイからなる紡績源からCNT糸を製造する場合には、CNTアレイの成長高さが3mm以上となるとCNT糸を紡ぎだすことが困難となりやすい。
【0053】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸を構成するCNTのアスペクト比(長軸方向の長さ/直径)は、機械特性に優れるCNT撚糸を得やすくする観点から、1,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、30,000以上であることが特に好ましい。上記のアスペクト比の上限は、機械特性に優れるCNT撚糸を得やすくする観点からは特に限定されない。上記のアスペクト比が過度に大きい場合には、結果的に、CNT撚糸を構成するCNTの長さが過度に長かったり、その直径が過度に細かったりすることから、生産性が低下したり、紡績性が低下したりすることが懸念される。実用的な範囲として、CNT撚糸を構成するCNTのアスペクト比は、1,000,000以下が例示され、100,000以下が好ましい例として挙げられ、70,000以下がより好ましい例として挙げられる。
【0054】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、CNT撚糸としての直径がほぼ同一であっても、CNT撚糸に含有されるCNTの一次構造を変化させることにより、その機械特性を変化させることができる。すなわち、CNT長さを長くすることにより、CNT撚糸の機械特性を改善させることが可能となる。また、CNTの直径を小さくしたりアスペクト比を大きくしたりすることによっても、CNT撚糸の機械特性を改善させることが可能となる。なお、こうしたCNTの一次構造によってCNT撚糸の物性を制御する際には、CNTが適切に製造されていることが好ましく、この観点で、後述する気相触媒法により製造されたCNTアレイからなる紡績源を用いて製造されたCNT撚糸であることが好ましい。
【0055】
ここで、本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の電気的特性について説明する。
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、基本的傾向として、抵抗率(単位:Ωcm)が、CNT撚糸の直径に対してほぼ無相関(すなわち、相関係数は0に近い。)であり、CNT撚糸に含有されるCNTの平均直径に対して正の相関を有する。すなわち、CNT撚糸の直径が変動してもその抵抗率は変動しにくい傾向を有するとともに、CNT撚糸に含有されるCNTの平均直径を変化させると、その直径が細くなるにつれてCNT撚糸の抵抗率が低下する傾向を有する。したがって、CNT撚糸に含有されるCNTの直径を小さくすることにより、機械特性および電気特性に優れたCNT撚糸を、CNT糸の撚り掛け工程のみによっても得ることが可能となる。
【0056】
2.CNT撚糸の製造方法
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、上記の機械特性を備えている限り、その製造方法は特に限定されない。しかしながら、次の製造方法にて製造することにより、本発明の一実施形態に係るCNT撚糸を効率的に製造することができる。
【0057】
(1)紡績工程
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の製造方法は、CNTアレイを含む紡績源を構成するCNTの複数からそのCNTの長軸方向の長さ以上の長さを有するCNT糸を形成する紡績工程を備える。
【0058】
紡績工程の具体的な一例は次のとおりである。紡績源を構成するCNTアレイのCNTの成長方向に垂直な方向に、CNTアレイを構成するCNTを引き出すと、複数のCNTが端部において他のCNTとファンデルワールス力によってつながって(交絡して)、CNT糸が形成される。
【0059】
図1は、CNTアレイ(図中左側)を紡績してCNT糸(図中右側)を製造している状態を示す画像である。
図2は、幅が5mm程度のCNTアレイを紡績することによりCNT糸が製造された状態を示す画像である。
図2に示されるようなCNT糸を拡大すると、
図3に示されるように、複数のCNTが、それぞれの長軸がCNT糸の長軸方向に平行な方向に並ぶように配置されている。ただし、
図3に示されるCNT糸では、CNT糸に付与された張力が低いため、観察視野に位置するCNTの全てについてそれらの長軸方向が揃っているとはいえない状態で配置されている。
【0060】
(2)撚り掛け工程
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の製造方法は、上記の紡績工程を経たCNT糸の複数を撚ってCNT撚糸を得る撚り掛け工程を備える。撚り掛け工程では、複数のCNT糸をそれぞれの長軸方向がほぼ平行になるように配置し、それらのCNTをその長軸方向が回転中心になるように撚り掛けすることにより行われる。通常、上記の複数のCNT糸の配置を行うために、それぞれのCNT糸に対してその長軸方向に張力が付与される。この張力が高いほど重量密度の高いCNT撚糸が得られやすい。CNT糸に対して付与しうる張力の最大値は、CNT糸を構成するCNT同士の相互作用の大きさ(ファンデルワールス力の大きさ)、CNT糸を構成するCNTの欠陥密度などに依存する。
【0061】
撚り掛け工程では、撚り掛け作業が複数回行われてもよい。この場合には、最初の撚り掛け作業ではCNT糸に付与する張力を低めに設定し、2回目の撚り掛け作業ではCNT撚糸に付与する張力を最初の作業における張力よりも高めに設定することにより、CNT撚糸の特性を向上させることができる。すなわち、最初の撚り掛け作業では、複数のCNT糸を互いに近位となるように配置させることを主目的とする。その結果、最初の撚り掛け作業では、CNT糸同士の相互作用の程度は低く、重量密度が低いCNT撚糸が得られる。続いて、CNT撚糸に付与する張力を、最初の撚り掛け作業において付与した張力よりも高めて、撚り掛け作業を行う。その結果、CNT撚糸内のCNTの離間距離を小さくすることが容易となり、優れた特性を有するCNT撚糸を得ることが可能となる。
図4は、撚り掛け作業を2度行って得られたCNT撚糸の観察結果を示す図である。
図5は、CNT撚糸を巻き取って得られる巻取体の外観の観察結果を示す図である。
【0062】
(3)集束工程
本発明の一実施形態に係る製造方法は、撚り掛け以外の方法によりCNT撚糸内で近位に配置されるCNTの離間距離を小さくする集束化を行う集束工程を備えていてもよい。集束工程を構成する具体的な作業は限定されない。かかる作業の一例として、アセトンなどの易揮発性有機化合物をCNT撚糸内のCNTに付着させ、この易揮発性有機化合物が揮発する際の凝集力により、NT撚糸内で近接配置されるCNTの離間距離を小さくする作業が挙げられる。本明細書において、かかる集束化方法を凝集集束作業ともいう。凝集集束作業からなる集束工程を備える場合において、集束工程と撚り掛け工程との時間的な関係は限定されない。凝集集束方法による集束工程は、撚り掛け工程の前に行われてもよいし、撚り掛け工程中に行われてもよいし、撚り掛け工程後に行われてもよい。なお、凝集集束作業を実施するためには、易揮発性有機化合物を安全に取り扱うための設備(除害設備も含む。)が必要となる。
【0063】
集束工程を構成する作業の別の一例として、撚り掛け工程の対象となる複数のCNT糸に付与する張力を経時的に増大させて、CNT糸内のCNTの長軸方向とCNT糸の長軸方向とを揃える揃え作業を行ってもよい。この揃え作業を行うことにより、撚り掛け工程でCNT糸同士の相互作用が生じやすくなることが期待される。なお、このように撚り掛け工程前に揃え作業を行う場合には、この揃え作業においてCNTに付与しうる張力には当然上限が存在し、この上限値は、複数回撚り掛け作業を行う場合の2回目以降に付与しうる張力の最大値よりも低い。
【0064】
(4)その他の工程
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の製造方法は、熱可塑性材料や硬化性材料を用いてCNT撚糸を被覆するコーティング工程を備えていてもよい。コーティング工程を備える場合において、コーティング工程と撚り掛け工程との時間的な関係は限定されない。コーティング工程は、撚り掛け工程の前に行われてもよいし、撚り掛け工程中に行われてもよいし、撚り掛け工程後に行われてもよい。コーティング工程において使用された材料は、CNT撚糸を構成するCNTと化学的な結合を形成してもよいし、そのような結合を形成していなくてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸の製造方法は、上記の撚り掛け工程を経て得られたCNT撚糸の複数に対してさらに撚り掛けを行ってもよい。そのような撚り掛けにより、CNT撚糸の機械特性をさらに向上させることが可能である。機械特性を効率的に高める観点から、この撚り掛けに用いるCNT撚糸は2本であることが好ましい。
【0066】
(5)構成CNTの設定によるCNT撚糸の物性の制御
前述のように、CNT撚糸を構成するCNTの一次構造を変化させることにより、CNT撚糸の機械特性や電気特性を制御することが可能である。したがって、本発明の一実施形態に係る製造方法の一具体例では、CNT撚糸を構成するCNTの平均直径を調整することにより、CNT撚糸の直径が同一でありながら引張強度および/または抵抗率が異なるCNT撚糸を得ることができる。
【0067】
3.紡績源
本発明の一実施形態に係るCNT撚糸は、具体的な一例において、CNTアレイからなる紡績源から製造されたものである。
【0068】
CNTアレイを製造する方法は特に限定されない。次に説明する気相触媒法により製造されたCNTアレイは、優れた紡績性を有するため、成長高さが0.6mm以上のCNTアレイを容易に製造することができる。成長高さが高いCNTアレイからなる紡績源からは、構成CNTのCNT長さの長いCNT糸を容易に製造することができる。CNT長さが長いCNTを構成要素とするCNT糸からは、機械特性および電気特性に優れるCNT撚糸が得られやすい。CNTアレイの成長高さは0.6mm以上であることが好ましく、0.8mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることが特に好ましい。CNTアレイの成長高さの上限は特に限定されないが、CNTアレイの成長高さが過度に高い場合には、紡績性が低下する傾向がみられることもあり、製造方法によっては生産効率が低下するおそれもあることから、CNTアレイの成長高さは3mm程度を上限とすることが好ましく、2.5mm程度を上限とすることがより好ましく、2.0mm程度を上限とすることが特に好ましい。
【0069】
気相触媒法により製造されたCNTアレイを構成するCNTは、従来技術に係る製造方法(具体例として固相触媒法が挙げられる。)により製造されたCNTアレイを構成するCNTよりも、アスペクト比を高めることが容易である。前述のように、アスペクト比が高いCNTは、最終的に得られるCNT撚糸の機械特性をはじめ、電気特性などに対して良い影響を及ぼすことから、気相触媒法により製造されたCNTアレイからなる紡績源を製造原料とするCNT撚糸は機械特性や電気特性に優れる傾向を有する。
図1に示されるCNTアレイは、気相触媒法により製造されたものである。また、気相触媒法によれば、CNTアレイの成長速度を容易に高めることが可能である。
【0070】
気相触媒法によるCNTアレイの製造方法は、気相触媒を含む雰囲気内に基板を存在させる第1ステップと、前記気相触媒を含む雰囲気に少なくとも原料ガスを存在させることにより、前記基板上に複数のCNTからなるCNTアレイを得る第2ステップとを備える製造方法である。
【0071】
(1)製造装置
図6は、気相触媒法によりCNTアレイを製造する製造装置の一例の構成を概略的に示す図である。
【0072】
図6に示されるように、CNTアレイの製造装置10は、電気炉12を備えている。この電気炉12は、所定方向A(原料ガスが流れる方向)に沿って延在する略円筒形状を呈している。電気炉12の内側には、CNTが形成される領域である成長領域を有する第1のチャンバーである反応容器管14が通されている。反応容器管14は、例えば石英といった耐熱材からなる略円筒形の部材であり、電気炉12よりも細い外径を有し、所定方向Aに沿って延在している。
図6では、反応容器管14の成長領域内にCNTアレイが成長する面を備える基板28が配置されている。すなわち、CNTアレイの製造装置10における成長領域は、反応容器管14内における基板28が配置された領域を含む。
【0073】
電気炉12は、ヒータ16および熱電対18を備える。CNTアレイの製造装置10において、第1の温度調整装置はヒータ16および熱電対18により構成される。ヒータ16は、反応容器管14の所定方向Aのある一定の領域(換言すれば、略円筒形状の反応容器管14の軸方向の一定の領域であり、以下「加熱領域」ともいう。)を囲むように配設され、反応容器管14の加熱領域における管内雰囲気の温度を上昇させるための熱を発生する。熱電対18は、電気炉12の内側において反応容器管14の加熱領域の近傍に配置され、反応容器管14の加熱領域における管内雰囲気の温度に関連する温度を表わす電気信号を出力可能である。ヒータ16および熱電対18は、制御装置20と電気的に接続されている。
【0074】
所定方向Aにおける反応容器管14の上流側(
図6では左側の一端)には、供給装置22が接続されている。供給装置22は、原料ガス供給装置30、気相触媒供給装置31、気相助触媒供給装置32および補助ガス供給装置33を備える。供給装置22は制御装置20と電気的に接続され、供給装置22が備える各供給装置とも電気的に接続されている。
【0075】
原料ガス供給装置30(第1の供給装置)は、CNTアレイを構成するCNTの原料となる炭素化合物(例えばアセチレンなどの炭化水素)、すなわち炭素源を含む原料ガスを反応容器管14の内部(特に成長領域)へ供給することができる。原料ガス供給装置30からの原料ガスの供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0076】
気相触媒供給装置31は、気相触媒を反応容器管14の内部(特に成長領域)へ供給することができる。本明細書において「気相触媒」とは、ハロゲンを含有する触媒前駆体であって反応容器管14の成長領域において気相の状態をとり得る物質およびそのハロゲンを含有する触媒前駆体に基づき形成された浮遊物質の総称として用いる。気相触媒を構成する物質のうち、少なくとも一部は基板28上に付着し、その付着した物質に基づいて、CNTアレイ形成に資する触媒の少なくとも一部が形成される。
【0077】
気相触媒の具体例として、鉄族元素のハロゲン化物(本明細書において「鉄族元素ハロゲン化物」ともいう。)が挙げられる。かかる鉄族元素ハロゲン化物をさらに具体的に例示すれば、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化ニッケル、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、臭化鉄、臭化コバルト、臭化ニッケル、ヨウ化鉄、ヨウ化コバルト、ヨウ化ニッケルなどが挙げられる。鉄族元素ハロゲン化物は、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)のように、鉄族元素のイオンの価数に応じて異なる化合物が存在する場合もある。気相触媒は1種類の物質から構成されていてもよいし、複数種類の物質から構成されていてもよい。
【0078】
気相助触媒供給装置32は、気相助触媒を反応容器管14の内部(特に成長領域)へ供給することができる。気相助触媒供給装置32からの気相助触媒の供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。本明細書において、「気相助触媒」とは、気相触媒法により製造されるCNTアレイの成長速度を変化させる機能(以下、「成長速度調整機能」ともいう。)、製造されたCNTアレイの紡績性を変化させる機能(以下、「紡績性調整機能」ともいう。)およびCNTアレイからなる紡績源から得たCNTから製造されたCNT撚糸の特性を変化させる機能(以下、「撚糸特性調整機能」ともいう。)の少なくとも一つを有する成分を意味する。成長速度調整機能の詳細は特に限定されない。一例として、CNTアレイの成長に係る反応の活性化エネルギーを変動させることが挙げられる。紡績性調整機能の詳細も特に限定されない。一例として、CNTアレイから得られるCNT糸の紡績長さを変動させることが挙げられる。撚糸特性調整機能の詳細は特に限定されない。具体例として、CNT撚糸の引張強度や抵抗率を変動させることが挙げられる。気相助触媒となる材料は特に限定されない。気相触媒の種類、気相助触媒に求められる機能などに基づき、適宜設定されるべきものである。気相助触媒の具体例として、アセトン等の有機化合物;塩素分子、塩化水素等のハロゲン化合物などが挙げられる。
【0079】
補助ガス供給装置33は、上記の原料ガス、気相触媒および気相助触媒以外のガス、たとえばアルゴンなどの不活性ガス(本明細書においてかかるガスを「補助ガス」と総称する。)を反応容器管14の内部(特に成長領域)へ供給することができる。補助ガス供給装置33からの補助ガスの供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0080】
所定方向Aにおける反応容器管14の下流側(
図6では右側)の他端には、圧力調整バルブ23(圧力調整装置の一部)および排気装置24(同前)が接続されている。圧力調整バルブ23は、バルブの開閉の程度を変動させることにより、反応容器管14内の圧力を調整することができる。排気装置24は、反応容器管14の内部を真空排気する。排気装置24の具体的種類は特に限定されず、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、メカニカルブースター、ターボ分子ポンプ、クライオポンプなどを単独でまたはこれらを組み合わせて用いることができる。圧力調整バルブ23および排気装置24は、制御装置20に電気的に接続される。また、反応容器管14の内部には、その内部圧力を計測するための圧力計13が設けられている。圧力計13は、制御装置20に電気的に接続され、反応容器管14の内部の圧力を表わす電気信号を制御装置20に出力することができる。
【0081】
制御装置20は、上記のように、ヒータ16、熱電対18、供給装置22、圧力計13、圧力調整バルブ23および排気装置24と電気的接続され、これらの装置等から出力された電気信号を入力したり、その入力した電気信号に基づいてこれらの装置等の動作を制御したりする。以下、制御装置20の具体的な動作について例示する。
【0082】
制御装置20は、熱電対18から出力された反応容器管14の内部温度に関する電気信号を入力し、その電気信号に基づいて決定されたヒータ16の動作に係る制御信号をヒータ16に対して出力することができる。制御装置からの制御信号を入力したヒータ16は、その制御信号に基づいて、発生熱量を増減させる動作を行い、反応容器管14の加熱領域の内部温度を変化させる。
【0083】
制御装置20は、圧力計13から出力された反応容器管14の加熱領域の内部圧力に関する電気信号を入力し、その電気信号に基づいて決定された圧力調整バルブ23および排気装置24の動作に係る制御信号を圧力調整バルブ23および排気装置24に対して出力することができる。制御装置20からの制御信号を入力した圧力調整バルブ23および排気装置24は、その制御信号に基づいて、圧力調整バルブ23の開き具合を変更したり、排気装置24の排気能力を変更させたりするなどの動作を行う。
【0084】
制御装置20は、あらかじめ設定されたタイムテーブルに従って、各装置等の動作を制御するための制御信号を各装置に対して出力することができる。たとえば、供給装置22が備える原料ガス供給装置30、気相触媒供給装置31、気相助触媒供給装置32および補助ガス供給装置33のそれぞれからの物質供給の開始および停止ならびに供給流量を決定する制御信号を供給装置22に出力することができる。その制御信号を入力した供給装置22は、その制御信号に従って、各供給装置を動作させて、原料ガスなどの各物質を反応容器管14内への供給を開始したり停止したりする。
【0085】
以下、第1ステップおよび第2ステップの詳細について説明する。
(2)第1ステップ
第1ステップでは、気相触媒を含む雰囲気内に基板28を存在させる。基板28は、その表面の少なくとも一部上にCNTアレイを成長させることができる限り、具体的な構造(組成、形状)は限定されない。基板28の具体例として、石英基板や熱酸化膜を有するシリコン基板が挙げられる。
【0086】
気相触媒の反応容器管14の内部への供給方法は限定されない。前述の製造装置10のように、供給装置22から供給してもよいし、反応容器管14の加熱領域の内部に気相触媒を与える気相以外の物理状態(典型的には固相状態)にある材料(本明細書において「触媒源」ともいう。)を設置し、反応容器管14の加熱領域の内部を加熱することおよび/または負圧することにより触媒源から気相触媒を生成して、気相触媒を反応容器管14の加熱領域の内部に存在させてもよい。触媒源を用いて気相触媒を生成する場合の具体例を示せば、反応容器管14の加熱領域の内部に触媒源として塩化鉄(II)の無水物を配置し、反応容器管14の加熱領域の内部を加熱するとともに負圧して塩化鉄(II)の無水物を昇華させると、塩化鉄(II)の蒸気からなる気相触媒を反応容器管14内に存在させることができる。
【0087】
第1ステップにおける反応容器管14内の雰囲気、具体的には基板28が配置されている成長領域の圧力は特に限定されない。大気圧(1.0×10
5Pa程度)であってもよいし、負圧であってもよいし、陽圧であってもよい。第2ステップにおいて反応容器管14内を負圧雰囲気とする場合には、第1ステップにおいても雰囲気を負圧としておいて、ステップ間の遷移時間を短縮することが好ましい。第1ステップにおいて反応容器管14内を負圧雰囲気とする場合において、雰囲気の具体的な全圧は特に限定されない。一例を挙げれば、10
−2Pa以上10
4Pa以下とすることが挙げられる。
【0088】
気相触媒供給装置31を用いて気相触媒を供給する場合には、第1ステップにおける反応容器管14内雰囲気の温度は特に限定されない。常温(約25℃)であってもよいし、加熱されていてもよいし、冷却されていてもよい。
【0089】
後述するように第2ステップにおいて反応容器管14の成長領域は加熱されていることが好ましいことから、第1ステップにおいてもその成長領域を加熱しておいて、ステップ間の遷移時間を短縮することが好ましい場合もある。
【0090】
なお、気相触媒の供給源として塩化鉄(II)の無水物を用い、この塩化鉄(II)の無水物を加熱して塩化鉄(II)を昇華させ、発生した塩化鉄(II)の蒸気を、基板28が配置された反応容器管14内に存在させる場合において、塩化鉄(II)の昇華温度は大気圧(1.0×10
5Pa程度)において950K程度であるが、反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気を負圧とすることにより、昇華温度を低下させることができる。
【0091】
(3)第2ステップ
第2ステップでは、気相触媒を含む雰囲気に少なくとも原料ガスを存在させることにより、基板上に複数のCNTからなるCNTアレイを得る。
【0092】
原料ガスの種類は特に限定されないが、通常、炭化水素系材料が用いられ、アセチレンが具体例として挙げられる。原料ガスを反応容器管14内(特に成長領域)に存在させる方法は特に限定されない。
図6に示される製造装置10のように、原料ガス供給装置30から原料ガスを供給することにより存在させてもよいし、原料ガスを生成させることが可能な材料を反応容器管14の内部にあらかじめ存在させ、その材料から原料ガスを生成して反応容器管14の内部に拡散させることによって第2ステップを開始してもよい。原料ガス供給装置30から原料ガスを供給する場合には、流量調整機器を用いて、反応容器管14の内部への原料ガスの供給流量を制御することが好ましい。通常、供給流量はsccm単位で表され、1sccmとは、273K、1.01×10
5Paの環境下に換算した気体についての毎分1mlの流量を意味する。反応容器管14内に供給される気体の流量は、
図6に示される製造装置10のような構成の製造装置の場合には、反応容器管14の内径、圧力計13において測定される圧力などに基づいて設定される。圧力計13の圧力が1×10
2Pa以上1×10
3Pa以内の場合における、アセチレンを含有する原料ガスの好ましい供給流量として10sccm以上1000sccm以下が例示され、この場合には20sccm以上500sccm以下とすることがより好ましく、50sccm以上300sccm以下とすることが特に好ましい。
【0093】
第2ステップでは、気相触媒を含む雰囲気に気相助触媒をさらに存在させてもよい。気相助触媒を反応容器管14内(特に成長領域)に存在させる場合において、その方法は特に限定されない。前述の製造装置10のように、気相助触媒供給装置32から気相助触媒を供給することにより存在させてもよい。気相助触媒供給装置32から気相助触媒を供給する場合には、流量調整機器を用いて、反応容器管14の内部への気相助触媒の供給流量を制御することが好ましい。あるいは、気相助触媒を生成させることが可能な材料を反応容器管14内にあらかじめ存在させ、その材料から加熱、減圧などの手段によって気相助触媒を生成して、気相助触媒を反応容器管14内に拡散させてもよい。気相助触媒は、その具体的な作用に応じて、第1ステップにおいて反応容器管14内に供給されてもよい。
【0094】
第2ステップにおける反応容器管14内雰囲気の全圧は特に限定されない。大気圧(1.0×10
5Pa程度)であってもよいし、負圧であってもよいし、陽圧であってもよい。反応容器管14内に存在する物質の組成(分圧比)などを考慮して適宜設定すればよい。反応容器管14内の加熱領域の内部の雰囲気を負圧とする場合の圧力範囲の具体例を示せば、1×10
1Pa以上1×10
4Pa以下であり、2×10
1Pa以上5×10
3Pa以下とすることが好ましく、5×10
1Pa以上2×10
3Pa以下とすることがより好ましく、1×10
2Pa以上1×10
3Pa以下とすることが特に好ましい。
【0095】
第2ステップにおける反応容器管14の成長領域の温度は、気相触媒および必要に応じて用いられる気相助触媒が成長領域に適切な量存在する条件において、原料ガスを用いて基板28上にCNTアレイを形成することができる限り、特に限定されない。前述のように、第1ステップ中の基板28上の温度は低めに設定することが基板28上の触媒形成に資する場合もあり、この場合には、第2ステップにおける反応容器管14の成長領域の温度は、第1ステップ中の成長領域の温度から高まるように変更されることもある。
【0096】
第2ステップ中の基板28の温度は、反応容器管14の成長領域の温度を調整することにより制御してもよい。第2ステップ中の基板28の温度は8×10
2K以上に加熱されていることが好ましい。基板28の温度が8×10
2K以上である場合には、気相触媒および必要に応じて用いられる気相助触媒と原料ガスとの相互作用が基板28上で生じやすく、基板28上にCNTアレイが成長しやすい。この相互作用をより生じやすくさせる観点から、第2ステップ中のベース面の温度は9×10
2K以上に加熱されていることが好ましく、1.0×10
3K以上に加熱されていることがより好ましく、1.1×10
3K以上に加熱されていることが特に好ましい。第2ステップ中の基板28の温度の上限は特に限定されないが、過度に高い場合には、基板28を構成する材料や基板を構成する材料(これらは同一である場合もある。)が固体としての安定性を欠く場合もあるため、これらの材料の融点や昇華温度を考慮して上限を設定することが好ましい。反応容器管の負荷を考慮すれば、基板28の上限温度は1.5×10
3K程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0097】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
(実施例1)
図6に示される構造を有する製造装置を用い、第1ステップおよび第2ステップからなる製造方法によってCNTアレイを製造した。
【0098】
具体的には、まず、次のようにして、第1ステップを実施した。
図5に示される構造を有する製造装置の反応容器管内に、石英からなるボート上に、基板としての石英板(20mm×5mm×厚さ1mm)を載置した。また、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物を反応容器管内のボート以外の部分上に載置した。
排気装置を用いて反応容器管内を1×10
−1Pa以下に排気したのち、ヒータを用いて反応容器管内(基板を含む)を1.1×10
3Kまで加熱した。その結果、反応容器管内で塩化鉄(II)の無水物は昇華して、反応容器管の加熱領域の内部は、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物から形成された気相触媒を含む雰囲気となった。
【0099】
こうして第1ステップを実施したのち、圧力調整バルブを用いて雰囲気圧力を5×10
2Paに維持するとともに、反応容器管内(基板を含む)の温度を、ヒータを用いて1.1×10
3Kに維持しながら、原料ガス供給部から原料ガスとしてのアセチレンを反応容器管内に供給するとともに、気相助触媒供給部から気相助触媒としてアセトンなどを反応容器管内に供給することにより、第2ステップを実施した。
第2ステップを開始することにより、ベース面上にCNTアレイが成長した。アセチレン供給開始から10分後にアセチレンおよび気相助触媒の供給を停止して、第2ステップを終了した。こうして、成長高さが0.8mmから1.0mmであって、直径が異なるCNTアレイを得た。
【0100】
得られたCNTアレイの側面に位置するCNTをつまんで引き出すことにより、CNTの紡績を行って、CNT糸を得た。このCNT糸を二軸の巻取装置に取り付けて、荷重5gで引っ張りながら第一次の撚り掛け作業を行いつつ、撚り掛けられたCNT糸の巻き取りを行って、CNT撚糸の巻取体を得た。このCNT撚糸の巻取体からCNT撚糸を繰り出して、その先端を再度二軸の巻取装置に取り付けて、荷重10gで引っ張りながら第二次の撚り掛け作業を行いつつ、さらに撚り掛けられたCNT撚糸の巻き取りを行った。こうして、重量密度が0.7g/cm
3から1.0g/cm
3であって、撚糸直径が異なるCNT撚糸の巻取体を得た。なお、撚り角度は、いずれのCNT撚糸についても、15°から50°の範囲であった。
【0101】
(試験例1)形状測定
実施例により作成したCNTアレイを、成長方向と垂直な方向から観察して、CNTアレイを構成するCNTの直径を測定した。10本以上のCNTを測定対象とし、測定箇所は50か所以上とした。得られた測定結果の算術平均値をそのCNTアレイを構成するCNTの平均直径とした。
【0102】
CNT撚糸の平均直径は、次のようにして求めた。同一条件で製造された4〜5本のCNT撚糸のそれぞれについて、張った状態として電子顕微鏡内に固定した。これらの固定されたCNT撚糸を、長軸方向(引張方向)に直交する方向から観察した。観察画像から、長軸方向に平行な線分であってCNT撚糸のそれぞれの端部に最も多く接する線分を2本定義した。そして、これらの線分間の離間距離を、観察したCNT撚糸の直径とした。こうして求めた4〜5本のCNT撚糸の算術平均をCNT撚糸の平均直径とした。
測定に供した、異なる平均直径を有するCNT撚糸の観察結果の例を、
図7から12に示した。
【0103】
(試験例2)応力ひずみ線の測定
実施例1により製造したCNT撚糸について、次の方法により応力ひずみ線を測定した。測定対象とするCNT撚糸を、標点距離が10mmとなるように保持した。保持されたCNT撚糸を、23℃、相対湿度50%の環境で、引張速度1mm/分で引っ張る引張試験を実施し、引張荷重を測定しつつ、非接触で(すなわち、画像観察により)伸び量を測定した。これらの測定結果から応力ひずみ線を求めた。得られた応力ひずみ線の例を
図13から18に示した。
得られた応力ひずみ線の初期の傾きからCNT撚糸のヤング率を求め、CNT撚糸が破断したときの引張荷重である破断荷重をCNT撚糸の直径の測定値から算出したCNT撚糸の断面積で除して引張強度を求めた。この引張試験による応力ひずみ線の測定を、同一条件で製造されたCNT撚糸の4〜5本について実施し、得られたヤング率および引張強度測定値の算術平均を、それぞれ、CNT撚糸の平均ヤング率および平均引張強度とした。CNT撚糸の平均引張強度、CNT撚糸の平均直径およびCNTの平均直径から、CNT撚糸の破断荷重インデックスを求めた。
図19には破断荷重インデックスのCNT撚糸の平均直径依存性を表すグラフを示し、
図20には破断荷重インデックスのCNTの平均直径依存性を表すグラフを示した。
図21には、平均ヤング率のCNT撚糸の平均直径依存性を表すグラフを示し、
図22には、平均ヤング率のCNT撚糸のCNTの平均直径依存性を表すグラフを示した。
図23には、平均引張強度のCNT撚糸の平均直径依存性を表すグラフを示し、
図24には、平均引張強度のCNTの平均直径依存性を表すグラフを示した。
表1に、実施例により製造したCNT撚糸の各種測定結果をまとめて示した。
【0104】
(試験例3)
実施例1により製造したCNT撚糸について、DC電源(アジレント社製 E3634A)およびマルチメーター(アジレント社製 34410A)を用いて、4端子法により、CNT撚糸の平均抵抗率(同一条件により製造されたCNT撚糸の6本についての平均値)を求めた。
測定された各CNT撚糸の平均抵抗率の、CNT撚糸の平均直径に対する依存性を
図25に示し、CNTの平均直径に対する依存性を
図26に示した。表1に、実施例により製造したCNT撚糸の平均抵抗率の測定結果を示した。
【0105】
【表1】
【0106】
本発明に係るCNT撚糸は機械特性に優れるため、織加工や編加工などの二次加工性に優れることが期待される。これらの二次加工により製造される布状体は、例えば電気配線、発熱体、歪センサ、透明電極シートなどとして好適に用いられる。