特許第6554781号(P6554781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6554781逆浸透膜装置の運転方法、及び逆浸透膜装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554781
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】逆浸透膜装置の運転方法、及び逆浸透膜装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20190729BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20190729BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20190729BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20190729BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C02F1/44 C
   C02F1/44 D
   B01D61/58
   B01D65/06
   B01D71/56
   B01D61/02 500
【請求項の数】17
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-227224(P2014-227224)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2015-142903(P2015-142903A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2017年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-269287(P2013-269287)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】早川 邦洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 昭宏
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−052349(JP,A)
【文献】 特開2007−245084(JP,A)
【文献】 特開2012−213675(JP,A)
【文献】 特開昭59−092098(JP,A)
【文献】 特開2008−246386(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146784(WO,A1)
【文献】 特表2009−524521(JP,A)
【文献】 特開2014−159015(JP,A)
【文献】 特開2015−104710(JP,A)
【文献】 特開2001−062255(JP,A)
【文献】 特開2012−192374(JP,A)
【文献】 中村 厚三,蛋白質の膜による分離,化学と生物,1979年,vol.17 No.11,704-710
【文献】 鍋谷 浩志,膜分離システムの最適化に関する研究,日本食品科学工学会誌,日本,2012年 6月,第59巻、第6号,249−261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/02
B01D 61/58
B01D 65/06
B01D 71/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物代謝物系有機物を含有する生物処理水、表層水又は地下水を原水として処理する逆浸透膜装置の運転方法において、
該生物代謝物系有機物は腐食物質又は分子量10,000以上の高分子有機物であり、
該逆浸透膜装置は、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、
該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出し、
該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように下記(I)の操作を行う、及び/又は、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値Xを超える場合に下記(II)の操作を行う逆浸透膜装置の運転方法であって、該所定値Xが下記(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
(I):該逆浸透膜装置における逆浸透膜処理に用いる逆浸透膜エレメントの本数、バンクの構成、透過水量、濃縮水量、及び前記原水の前処理による該逆浸透膜装置供給水の生物代謝物系有機物濃度のうちのいずれか1以上を調整する。
(II):該原水又は該逆浸透膜装置供給水に分散剤を添加する。
(i) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mである。
(ii) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mである。
【請求項2】
請求項1において、前記前処理が、凝集処理及び/又は限外濾過膜処理であることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記逆浸透膜装置が、前記バンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、すべてのバンクにおいて前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が所定値Y以下となるように前記(I)の操作を行う、及び/又は、1以上のバンクにおいて前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が所定値Yを超える場合に前記(II)の操作を行う逆浸透膜装置の運転方法であって、該所定値Yが下記(iii)又は(iv)を満たす、ことを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
(iii) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記所定値Yが1kg/mである。
(iv) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記所定値Yが0.6×10−3kg/mである。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記逆浸透膜装置を、2回/年以下の頻度で薬液洗浄することを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記逆浸透膜が芳香族ポリアミド系逆浸透膜であることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記分散剤が生物代謝物系有機物分散剤及び/又はスケール分散剤であることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項7】
生物代謝物系有機物を含有する生物処理水、表層水又は地下水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、
該生物代謝物系有機物は腐食物質又は分子量10,000以上の高分子有機物であり、
逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、
該逆浸透膜装置の透過水量及び/又は濃縮水量を調整する流量調整手段と、
該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、
該演算手段の算出値に基づいて、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように、前記流量調整手段を制御する流量制御手段とを備え、該所定値Xが下記(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
(i) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mである。
(ii) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mである。
【請求項8】
生物代謝物系有機物を含有する生物処理水、表層水又は地下水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、
該生物代謝物系有機物は腐食物質又は分子量10,000以上の高分子有機物であり、
逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、
該原水を凝集処理及び/又は限外濾過膜処理により前処理して該原水中の生物代謝物系有機物の一部を除去することにより該逆浸透膜装置への供給水の生物代謝物系有機物濃度を低減する前処理手段と、
該原水を、直接供給水として該逆浸透膜装置に供給する流路と、該前処理手段を経て該逆浸透膜装置に供給する流路とを切り換える原水流路切り換え手段と、
該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、
該演算手段の算出値に基づいて、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように、前記原水流路切り換え手段による流路切り換えを行うか、或いは前記前処理手段における処理条件を調整する原水調整手段とを備え、該所定値Xが下記(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
(i) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mである。
(ii) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mである。
【請求項9】
生物代謝物系有機物を含有する生物処理水、表層水又は地下水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、
該生物代謝物系有機物は腐食物質又は分子量10,000以上の高分子有機物であり、
逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセルを複数機並列配置してなるバンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、
前段のバンクの濃縮水を系外に排出する流路と後段のバンクに送給する流路とを切り換えて逆浸透膜処理に使用するバンク数を調整する流路切り換え手段と、
該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、
該演算手段の算出値に基づいて、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように、前記流路切り換え手段を制御する流路制御手段とを備え、該所定値Xが下記(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
(i) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mである。
(ii) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mである。
【請求項10】
生物代謝物系有機物を含有する生物処理水、表層水又は地下水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、
該生物代謝物系有機物は腐食物質又は分子量10,000以上の高分子有機物であり、
逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセルを複数機並列配置してなるバンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、
同一バンク内における逆浸透膜処理に使用するベッセル数を調整する流路切り換え手段と、
該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、
該演算手段の算出値に基づいて、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように、前記流路切り換え手段を制御する流路制御手段とを備え、該所定値Xが下記(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
(i) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mである。
(ii) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mである。
【請求項11】
生物代謝物系有機物を含有する生物処理水、表層水又は地下水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、
該生物代謝物系有機物は腐食物質又は分子量10,000以上の高分子有機物であり、
逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、
該原水又は該逆浸透膜装置供給水に分散剤を添加する分散剤添加手段と、
該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、
該演算手段の算出値に基づいて、前記分散剤添加手段を制御する分散剤添加量制御手段とを備えることを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
【請求項12】
請求項11において、前記分散剤が生物代謝物系有機物分散剤及び/又はスケール分散剤であることを特徴とする逆浸透膜装置。
【請求項13】
請求項11又は12において、前記分散剤添加量制御手段は、前記演算手段で算出された前記逆浸透膜装置における前記算出値の平均値が所定値Xを超える場合に、前記分散剤添加手段の分散剤添加量を増加させるか、あるいは分散剤の添加を開始させるものであり、該所定値Xが下記(i)又は(ii)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置。
(i) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mである。
(ii) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mである。
【請求項14】
請求項13において、前記バンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、前記分散剤添加量制御手段は、前記演算手段で算出された前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が、1以上のバンクにおいて所定値Yを超える場合に、前記分散剤添加手段の分散剤添加量を増加させるか、あるいは分散剤の添加を開始させるものであり、該所定値Yが下記(iii)又は(iv)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置。
(iii) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記所定値Yが1kg/mである。
(iv) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記所定値Yが0.6×10−3kg/mである。
【請求項15】
請求項ないし10のいずれか1項において、前記バンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、すべてのバンクにおいて、前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が所定値Y以下となるように制御される逆浸透膜装置であって、該所定値Yが下記(iii)又は(iv)を満たすことを特徴とする逆浸透膜装置。
(iii) 前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記所定値Yが1kg/mである。
(iv) 前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記所定値Yが0.6×10−3kg/mである。
【請求項16】
請求項ないし15のいずれか1項において、前記逆浸透膜を2回/年以下の頻度で薬液洗浄する薬液洗浄手段を備えることを特徴とする逆浸透膜装置。
【請求項17】
請求項ないし16のいずれか1項において、前記逆浸透膜が芳香族ポリアミド系逆浸透膜であることを特徴とする逆浸透膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水淡水化、超純水製造、工業用水処理、排水回収処理等に適用される逆浸透膜処理において、MBR処理水、湖水、河川水、地下水等の、膜に吸着して膜汚染を進行させる生物代謝物系有機物を多く含む水を処理する場合に、膜のファウリング、透過流束(以下、フラックス)の低下を抑制し、薬液洗浄頻度を低減して、長期に亘り安定な逆浸透膜装置の運転を行う方法、及びそのための逆浸透膜装置に関する。
本発明はまた、この逆浸透膜装置を用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜は、従来、海水淡水化、超純水製造、工業用水処理、排水回収処理などにおいて、原水中のイオン類や有機物などを除去するために用いられている。逆浸透膜は膜表面での微生物の繁殖や有機物の吸着によりフラックスが低下したり、濁質による閉塞でモジュール差圧が上昇したりすることがあり、定期的に薬液洗浄し、フラックスや、エレメントの原水側と濃縮水側の差圧(以下、エレメント差圧)を回復させる必要がある。
【0003】
原水に含まれる膜汚染成分のうち、特に、多糖やタンパク質などの高分子有機物は、逆浸透膜を著しく汚染させることが知られており、従来、逆浸透膜処理の前処理として、凝集処理や限外濾過膜などによる膜処理で原水中の高分子有機物を除去することが一般的に行われている。
【0004】
一方、逆浸透膜が汚染した場合の薬液洗浄の時期や洗浄頻度に関しては、薬液洗浄はフラックスが初期に比べて10%程度低下したときを目安に実施し、洗浄頻度としては年2回程度以下とすることが適切であるとされている(非特許文献1)。また、Dow社のホームページにも、逆浸透膜のフラックスが10%低下した時点を薬液洗浄のタイミングとし、それよりも遅れると洗浄によるフラックスの回復効果が十分に得られないと記載されている(非特許文献2)。
【0005】
ところで、膜モジュールの物質移動を解析して、濃度分極式を用いて、溶質の膜面濃度を計算するとともに、膜輸送パラメータを予測することが行われている(非特許文献3、特許文献1)。しかし、ここで対象としている溶質は、溶質透過係数を求めることが必要とされるNaClなどのイオン成分であったため、有機物を多く含む原水の処理に適用しても安定運転が困難であった。
【0006】
なお、本発明者らは、この濃度分極現象における有機物の挙動に着目し、膜汚染物質である有機物の膜面濃度が膜汚染に及ぼす影響について検討を行った結果、先に原水中の有機物の中でも特に高分子有機物の膜面濃度とフラックスの低下速度に相関があり、フラックスの低下は、膜面で濃縮された高分子有機物の吸着によって引き起こされることを明らかにした。また、本発明者らは、逆浸透膜の供給水を限外濾過膜で処理すると膜汚染が起こらなくなることを別途確認しており、その時の分画分子量は1万前後であることから、分子量10,000以上の高分子有機物が膜汚染に関与していることを見出した(特許文献2,3)。
【0007】
また、膜面での濃度分極は、溶質の拡散係数に依存し、拡散係数は分子量が大きくなるほど小さくなる。限外濾過法においては、デキストランやポリエチレングリコールについて、下記式(3)に示す分子量と拡散係数の関係が求められており(非特許文献3)、本発明者らは、膜汚染物質である多糖類やタンパク質といった高分子有機物も、この関係に従って、逆浸透膜面で同様に濃縮されることも見出した。
D=8.76×10−9(Mw)−0.48 式(3)
D[m/s]:拡散係数
Mw[g/mole]:高分子有機物の分子量
【0008】
下水などの有機性汚水を生物処理槽において活性汚泥処理し、生物処理槽内に浸漬設置した浸漬型膜分離装置で活性汚泥混合液を固液分離する膜分離活性汚泥法(MBR:メンブレンバイオリアクター)は、安定した水質の処理水を得ることができ、また、活性汚泥濃度を高めて高負荷処理を行えることから、広く普及しつつある。また、このMBR処理水(浸漬型膜分離装置の膜濾過水)を直接逆浸透膜装置に給水して逆浸透膜処理する有機性排水の処理方法も提案されている(例えば、非特許文献4)。
しかし、MBR処理水は、膜汚染物質となる分子量10,000以上の高分子有機物を多く含み、MBR処理水を処理する逆浸透膜装置では、経時によるフラックスの低下あるいは膜間差圧の増加が大きいという問題がある。
【0009】
地球上の有機物の大部分は、陸上では植物、海洋や湖では植物プランクトンが光合成によって合成する。腐植物質は、生物の死後、有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊して生じた化学構造が特定されない有機物であり、海水、湖水、河川水といった表層水や、地下水に存在している。
【0010】
水中の腐植物質の量は、溶存有機炭素(TOC)の量として、海水では、0.3〜15mg/Lであるが、湖水では、1〜50mg/L、河川水では、1〜60mg/L、地下水では、0.3〜500mg/Lとなり、場所によっては非常に高濃度の腐植物質が含まれる場合がある。海水中に存在する腐植物質の濃度は低い(非特許文献5)。
このような腐植物質を含有する湖水、河川水や地下水を逆浸透膜装置で処理する場合においても、経時によるフラックスの低下あるいは膜間差圧の増加が大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3520906号公報
【特許文献2】特開2014−159015号公報
【特許文献3】特願2013−92657
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「膜の劣化とファウリング対策 膜汚染防止・洗浄法からトラブルシューティングまで」(NTS発行)p323(2008)
【非特許文献2】「Cleaning Procedures for DOW FILMTEC FT30 Elements」(Dow)p1 Form No. 609-23010-0211 (on the Web)
【非特許文献3】「膜分離プロセスの設計法」(日本膜学会編)p37-49 (1985)
【非特許文献4】「水処理膜の製膜技術と材料評価」(2012年1月30日第1版第1刷発行、サイエンス&テクノロジー株式会社)p.11
【非特許文献5】「環境中の腐植物質−その特徴と研究法」(日本腐植物質学会監修)石渡良志、米林甲陽、宮島徹編著、p2−9、30−32(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、膜汚染物質として分子量10,000以上の高分子有機物や腐植物質などの生物代謝物系有機物を多く含む原水を、フラックスの低下を防止して安定に処理することができる逆浸透膜装置及びその運転方法と、この逆浸透膜装置を用いた生物処理水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、逆浸透膜装置に装填された逆浸透膜エレメントについてそれぞれ生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出し、この値の平均値が所定値以下となるように運転条件の制御や、原水の前処理、分散剤の添加、ないしは装置構成の設計を行うことにより、上記課題を解決することができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0015】
[1] 生物代謝物系有機物を含有する水を原水として処理する逆浸透膜装置の運転方法]において、該逆浸透膜装置は、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出し、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように下記(I)の操作を行う、及び/又は、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値Xを超える場合に下記(II)の操作を行う、ことを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
(I):該逆浸透膜装置における逆浸透膜処理に用いる逆浸透膜エレメントの本数、バンクの構成、透過水量、濃縮水量、及び前記原水の前処理による該逆浸透膜装置供給水の生物代謝物系有機物濃度のうちのいずれか1以上を調整する。
(II):該原水又は該逆浸透膜装置供給水に分散剤を添加する。
【0016】
[2][1]において、前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0017】
[3][1]において、前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0018】
[4][1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記前処理が、凝集処理及び/又は限外濾過膜処理であることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0019】
[5][1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜装置が、前記バンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、すべてのバンクにおいて前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が所定値Y以下となるように前記(I)の操作を行う、及び/又は、1以上のバンクにおいて前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が所定値Yを超える場合に前記(II)の操作を行う、ことを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0020】
[6][5]において、前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記所定値Yが1kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0021】
[7][5]において、前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記所定値Yが0.6×10−3kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0022】
[8][1]ないし[7]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜装置を、2回/年以下の頻度で薬液洗浄することを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0023】
[9][1]ないし[8]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜が芳香族ポリアミド系逆浸透膜であることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0024】
[10][1]ないし[9]のいずれかにおいて、前記分散剤が生物代謝物系有機物分散剤及び/又はスケール分散剤であることを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【0025】
[11] 生物代謝物系有機物を含有する水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、該逆浸透膜装置の透過水量及び/又は濃縮水量を調整する流量調整手段と、該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、該演算手段の算出値に基づいて、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように、前記流量調整手段を制御する流量制御手段とを備えることを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
【0026】
[12] 生物代謝物系有機物を含有する水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、該原水を凝集処理及び/又は限外濾過膜処理により前処理して該原水中の生物代謝物系有機物の一部を除去することにより該逆浸透膜装置への供給水の生物代謝物系有機物濃度を低減する前処理手段と、該原水を、直接供給水として該逆浸透膜装置に供給する流路と、該前処理手段を経て該逆浸透膜装置に供給する流路とを切り換える原水流路切り換え手段と、該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、該演算手段の算出値に基づいて、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように、前記原水流路切り換え手段による流路切り換えを行うか、或いは前記前処理手段における処理条件を調整する原水調整手段とを備えることを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
【0027】
[13] 生物代謝物系有機物を含有する水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、該逆浸透膜装置の供給水を1段目のバンクに供給する流路及び/又は前段のバンクの濃縮水を後段のバンクに供給する流路を切り換えることにより、逆浸透膜処理に使用するベッセル数を調整する供給水流路切り換え手段と、該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、該演算手段の算出値に基づいて、該逆浸透膜装置における該算出値の平均値が所定値X以下となるように、前記供給水流路切り換え手段を制御する流路制御手段とを備えることを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
【0028】
[14] 生物代謝物系有機物を含有する水を原水として処理する逆浸透膜装置であって、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル又は該ベッセルを複数機並列配置してなるバンクを、1段又は2段以上の複数段直列に連結してなり、該原水又は該逆浸透膜装置供給水に分散剤を添加する分散剤添加手段と、該逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出する演算手段と、該演算手段の算出値に基づいて、前記分散剤添加手段を制御する分散剤添加量制御手段とを備えることを特徴とする逆浸透膜装置。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
【0029】
[15][14]において、前記分散剤が生物代謝物系有機物分散剤及び/又はスケール分散剤であることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0030】
[16][14]又は[15]において、前記分散剤添加量制御手段は、前記演算手段で算出された前記逆浸透膜装置における前記算出値の平均値が所定値Xを超える場合に、前記分散剤添加手段の分散剤添加量を増加させるか、あるいは分散剤の添加を開始させるものであることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0031】
[17][16]において、前記バンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、前記分散剤添加量制御手段は、前記演算手段で算出された前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が、1以上のバンクにおいて所定値Yを超える場合に、前記分散剤添加手段の分散剤添加量を増加させるか、あるいは分散剤の添加を開始させるものであることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0032】
[18][11]ないし[13]及び[16]のいずれかにおいて、前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記原水は、該分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.7kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0033】
[19][11]ないし[13]及び[16]のいずれかにおいて、前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記原水は、該腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有するものであり、前記所定値Xが0.4×10−3kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0034】
[20][11]ないし[13]のいずれかにおいて、前記バンクを2段以上の複数段直列に連結してなり、すべてのバンクにおいて、前記生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の算出値が所定値Y以下となるように制御されることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0035】
[21][17]又は[20]において、前記生物代謝物系有機物が分子量10,000以上の高分子有機物であり、前記所定値Yが1kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0036】
[22][17]又は[20]において、前記生物代謝物系有機物が腐植物質であり、前記所定値Yが0.6×10−3kg/mであることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0037】
[23][11]ないし[22]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜を2回/年以下の頻度で薬液洗浄する薬液洗浄手段を備えることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0038】
[24][11]ないし[23]のいずれかにおいて、前記逆浸透膜が芳香族ポリアミド系逆浸透膜であることを特徴とする逆浸透膜装置。
【0039】
[25][11]ないし[24]のいずれかに記載の逆浸透膜装置で、生物処理水、表層水又は地下水を逆浸透膜処理することを特徴とする水処理方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、海水淡水化、超純水製造、工業用水処理、排水回収処理等に適用される逆浸透膜処理において、MBR処理水や、湖水、河川水などの表層水、あるいは地下水等の、膜に吸着して膜汚染を進行させる生物代謝物系有機物を多く含む水を処理する場合に、膜のファウリング、フラックスの低下を抑制し、薬液洗浄頻度を低減して、長期に亘り安定な逆浸透膜装置の運転を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の逆浸透膜装置のバンク構成の一例を示す系統図である。
図2】本発明の逆浸透膜装置のバンク構成の他の例を示す系統図である。
図3】本発明の生物処理水の処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0043】
なお、本発明において、「原水」とは、必要に応じて前処理されることにより逆浸透膜装置で逆浸透膜処理される水をさし、この原水を必要に応じて前処理した後逆浸透膜装置に供給する水を「供給水」と称し、各々の逆浸透膜エレメントで逆浸透膜処理する水を「被処理水」と称す。
【0044】
[逆浸透膜エレメント]
本発明における逆浸透膜装置に装填する逆浸透膜エレメントとしては、逆浸透膜の平膜の一次側に被処理水を通水するための原水スペーサを配置し、二次側に処理水を通水するための透過水スペーサを配置し、これを積層させ、巻き回してスパイラル状にしたスパイラル型逆浸透膜エレメントを好適に用いることができるが、何らこれに限定されない。
スパイラル型逆浸透膜エレメントの膜の直径としては特に制限がなく、4インチ、8インチ、16インチといったものが通常用いられる。スパイラル型逆浸透膜エレメントの長さは通常1m程度である。
【0045】
本発明における逆浸透膜の材質としては、生物代謝物系有機物である多糖類やタンパク質などの高分子有機物や、腐植物質の吸着性の観点から、フェニレンジアミンと酸クロライドを用いて合成される芳香族ポリアミド系逆浸透膜が好ましい。
【0046】
[バンク構成]
通常、逆浸透膜装置は、供給水に対する水回収率を高める目的から、例えば、図1,2に示すようなクリスマスツリーと呼ばれる配置をとる。
【0047】
図1において、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル(RO手段本体)1A〜1Jが10機並列配置されてなる第1ベッセル群(以下「バンク」と称す。)1と、ベッセル2A〜2Eが5機並列配置されてなる第2バンク2とでクリスマスツリー型の多段逆浸透膜装置が構成されている。
逆浸透膜装置の供給水はまず第1バンク1に流入し、透過水と濃縮水とに分離される。続いて第1バンク1の濃縮水は第2バンク2に流入し、ここでも透過水と濃縮水とに分離される。第1バンク1の透過水と第2バンク2の透過水は合流して後段処理工程に移送され、第2バンクの濃縮水は系外に放流されるか排出処理設備等に移送される。
【0048】
図2の多段逆浸透膜装置は、逆浸透膜エレメントを内蔵したベッセル1A〜1Hが8機並列配置されてなる第1バンク1と、ベッセル2A〜2Dが4機並列配置されてなる第2バンク2と、ベッセル3A,3Bが2機並列配置されてなる第3バンク3とで構成されている。
逆浸透膜装置の供給水はまず第1バンク1に流入し、透過水と濃縮水とに分離される。続いて第1バンク1の濃縮水は第2バンク2に流入し、ここでも透過水と濃縮水とに分離される。第2バンク2の濃縮水は第3バンク3に流入し、更に透過水と濃縮水とに分離される。第1バンク1の透過水と第2バンク2の透過水と第3バンク3の透過水は合流して後段処理工程に移送される。一方、第3バンクの濃縮水は系外に放流されるか排出処理設備等に移送される。
【0049】
このように、通常、逆浸透膜装置におけるクリスマスツリー構造は、要求される水回収率にもよるが、2又は3バンクで構成されることが多いが、後段のバンクは前段のバンクの濃縮水を被処理水とするため、後段のバンクほど逆浸透膜処理に供される水の溶質濃度は高くなる。
【0050】
ただし、本発明の逆浸透膜装置は、このようなバンクを多段に配置したクリスマスツリー構造のものに何ら限定されず、1段のバンクのみで構成されるものであってもよく、また、1個のベッセルのみで構成されるものであってもよい。また、1個のベッセルが多段に直列に連結されたものであってもよい。また、4段以上の多段のバンクで構成されていてもよい。
通常、1つのベッセルには逆浸透膜エレメントが1〜6本程度内蔵されている。
【0051】
[原水]
本発明において、逆浸透膜装置で逆浸透膜処理する原水は、生物代謝物系有機物を含有するものであり、具体的には以下の原水(i)又は原水(ii)が挙げられる。なお、原水(i)と原水(ii)とが混合された水を原水としてもよい。
原水(i):分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の
濃度で含有する水
原水(ii):腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有する水
【0052】
<原水(i)>
原水(i)は、分子量10,000以上の高分子有機物を0.01mg/L以上の濃度で含有する水である。分子量10,000以上の高分子有機物、特に多糖類、たんぱく質のような生物代謝物は、膜を汚染し易く、フラックスの低下の原因となり易い。本発明においては、このような高分子有機物を0.01mg/L以上、例えば0.05〜0.5mg/L含み、通水により逆浸透膜のフラックスを大きく低下させる水を原水として効果的に逆浸透膜処理することができる。
【0053】
このような高分子有機物含有水としては、各種排水の回収水や生物処理水が挙げられ、本発明は特にMBR処理水などの生物処理水の処理に好適に適用される。
【0054】
なお、本発明における高分子有機物の分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより、デキストランを標準物質として、ピークトップの位置から求めることができる。特に、分子量10,000以上の高分子有機物の濃度の決定には、TOCを検出器とする高速液体クロマトグラフィーが有効であり、溶出時間が分子量10,000の有機物よりも早い成分を分子量10,000以上の高分子有機物とする。これまでの測定により、多糖類の分子量は、100万以上のものが存在し、1000万を超えるものも存在する可能性が認められている。高速液体クロマトグラフィーの代替として、分画分子量10000の限外濾過膜を用いて、透過成分と非透過成分の濃度を測定する方法も用いることができる。
【0055】
<原水(ii)>
原水(ii)は、腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上の濃度で含有する水である。腐植物質はカルシウムやマグネシウムなどの多価のカチオンと共存すると、膜を汚染し易く、フラックスの低下の原因となり易い。本発明においては、このような腐植物質をTOCとして0.05mg/L以上、好ましくは0.1mg/L以上、例えば0.5〜5mg/L含み、通水により逆浸透膜のフラックスを大きく低下させる水を原水として効果的に逆浸透膜処理することができる。
【0056】
特に、フルボ酸やフミン酸といった腐植物質は、Ca、Mg、Fe、Al、Ba、Sr等の多価金属イオンが共存する場合、フラックスを大きく低下させる要因となることから、本発明は特に、腐植物質と共に、これらの多価金属イオンを、Caイオンであれば10mg/L以上、例えば10〜50mg/L程度含み、全多価金属イオン濃度が0.1mg/L以上、例えば1〜100mg/L程度の原水に有効である。
【0057】
このような腐植物質含有水としては、表層水、地下水、生物処理水などが挙げられ、本発明は特に湖水、河川水などの表層水あるいは地下水の処理に好適に適用される。
【0058】
なお、本発明における腐植物質の分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより、デキストランを標準物質として、ピークトップの位置から求めることができる。テキストランにはTOCもしくは示差屈折率検出器、腐植物質にはUV検出器を用いるのが適切である。腐植物質の濃度の決定には、UVとTOCを検出器とする高速液体クロマトグラフィーが有効である。高速液体クロマトグラフィーの代替として、原水のE260などのUV吸収測定値から、簡易的に腐植物質の濃度を測定する方法も用いることができる。
【0059】
[前処理]
本発明で処理する原水中の生物代謝物系有機物濃度が過度に高いと、逆浸透膜がファウリングを起こし、また、他の条件制御では生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の平均値を所定値X以下とすることができない場合がある。
このため、原水中の生物代謝物系有機物濃度が過度に高い場合、或いは、逆浸透膜装置の透過水や濃縮水量等の他の条件を変更せずに生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の平均値を所定値X以下とするために、原水を凝集処理や限外濾過膜処理等によって前処理し、原水中の生物代謝物系有機物の一部を除去して、逆浸透膜装置供給水の生物代謝物系有機物濃度を低減するようにすることも好ましい方法である。
【0060】
本発明では、原水(i)を処理する場合、逆浸透膜装置の供給水の分子量10,000以上の高分子有機物の濃度が0.2mg/L以下となるように原水を必要に応じて前処理することが好ましい。
また、原水(ii)を処理する場合、逆浸透膜装置の供給水の腐植物質濃度がTOCとして0.1mg/L以下となるように原水を必要に応じて前処理することが好ましい。
【0061】
[式(1)について]
本発明においては、逆浸透膜装置内の逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に基づいて、下記式(1)に従って算出される各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の逆浸透膜装置における平均値が所定値X以下となるように制御を行う、あるいはこの平均値に応じて原水又は逆浸透膜装置の供給水に分散剤を添加して生物代謝物系有機物の膜付着を防止することで、フラックスの低下を防止する。
Cm=Cb exp{Fp/(S・k)} 式(1)
k[m/s]:逆浸透膜エレメントの物質移動係数
Fp[m/s]:逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量
S[m]:逆浸透膜エレメント1本当たりの膜面積
Cb[kg/m]:逆浸透膜エレメントの被処理水の生物代謝物系有機物濃度
Cm[kg/m]:生物代謝物系有機物の膜面濃度
【0062】
逆浸透膜は、通水により、膜表面で濃度分極と呼ばれる現象が発生し、濃度分極が大きくなると、膜面の溶質濃度が高くなる。
従来、特許文献1のように、NaClなどの低分子の溶質の膜面濃度を求め、浸透圧がフラックスに及ぼす影響を検討した報告はなされているが、生物代謝物系有機物の膜面濃度とフラックス低下速度の関係を膜汚染に基づいて解明することは行われていない。
本発明では、以下の手順で逆浸透膜装置におけるフラックスの低下を予測する。
【0063】
1) 逆浸透膜エレメントの物質移動係数(k)に及ぼす、逆浸透膜エレメントの構造、被処理水水質、及び運転条件の影響を把握し、物質移動係数(k)を算出する。
2) 生物代謝物系有機物の膜面濃度とフラックス低下速度の関係を調べ、定式化する。
3) 被処理水の生物代謝物系有機物濃度を測定する。
4) 3)で得られた生物代謝物系有機物濃度と、1)の物質移動係数(k)を用いて、生物代謝物系有機物の膜面濃度を求め、2)よりフラックス低下速度を求める。
【0064】
物質移動係数(k)を算出するにあたっては、非特許文献3、特許文献1の第[0023]段落〜第[0029]段落のシャーウッド数、レイノルズ数、シュミット数の物質移動相関式を援用できる。本発明において、この物質移動相関式からの物質移動係数(k)の算出にあたり、溶質拡散係数(D)として、前掲の非特許文献3の式(3)により、原水中の生物代謝物系有機物の分子量(Mw)から算出した値を用いる。
なお、非特許文献3、特許文献1では、シャーウッド数を求めることによって物質移動係数(k)を決定することができ、シャーウッド数が、レイノルズ数とシュミット数によって表されている。この時、膜面に平行な流れについては、レイノルズ数として考慮しているが、膜の透過方向の流れは考慮していない。
【0065】
本発明では、溶質拡散係数(D)として前掲の非特許文献3の式(3)の算出値を用いることにより、被処理水中の生物代謝物系有機物に対する物質移動係数(k)を求めることができる。
式(3)より算出した溶質拡散係数(D)を用いて、物質移動係数(k)は下記の通り算出されるが、拡散係数(D)のシャーウッド数の算出方法は種々知られており、どのような式を用いても膜面濃度を制御できれば良い。
Sh=k・d/D
Re=u・d/ν
Sc=ν/D
Sh[−]:シャーウッド数
Re[−]:レイノルズ数
Sc[−]:シュミット数
d[m]:代表径(スパイラルエレメントの場合は流路スペーサ厚み×2)
u[m/s]:膜面に平行な流れの速度
ν[m/s]:被処理水の動粘度
物質移動係数(k)は以下の式で表される。
k=(D/d)・Sh
逆浸透膜エレメント1本あたりの濃縮水量(Fc)を用いると、膜面に平行な流れの速度(u)は以下の式で表すことができる。
u=(Fc+Fp/2)/((d/2)・S/(2L))
Fc[m/s]:逆浸透膜エレメント1本あたりの濃縮水量
L[m]:有効膜長
【0066】
非特許文献3、特許文献1では、ShはReとScにより以下の式で表されている。
Sh=A・Re・Sc
A,b,c[−]:定数
【0067】
また、一般的に定数Aは膜の形状を考慮して以下の式で表される。
A=a・(d/L)
a,e[−]:定数
L[m]:有効膜長
【0068】
非特許文献6(An analytical model for spiral wound reverse osmosis membrance modules:Part II-Experimental validation,S.Sundaramoorthy et al.,Desalination,277,p.257-264(2011))では、ShはRe、Sc、Cbにより以下の式で表されている。
Sh=A・Re・Sc・(Cb/ρ)
ρ[kg/m]:被処理水の密度
A,b,c,f[−]:定数
【0069】
非特許文献7(「物質移動係数に及ぼす膜透過流束の影響」(穴澤孝夫ら、化学工学会第25回秋季大会研究発表講演要旨集)F313(1992))では、Shは膜の透過方向の流れ(Jv)を考慮した式が用いられている。
Sh=a・(Re+gRey)・Sc・(d/L)
Rey=Jv・d/ν
Rey[−]:膜の透過方向の流れにおけるレイノルズ数
Jv[m/s]:膜の透過方向の流れ(Fp/S)
a,b,c,e,g,h[−]:定数
Reyの狭い範囲においては、以下の式も成り立つと考えられる。
Sh=a・Re・Rey・Sc・(d/L)
a,b,c,e,h[−]:定数
【0070】
以上のようにシャーウッド数(Sh)を表す式は、様々なものが提案されており、適切なものを選択して、得られたシャーウッド数から物質移動係数(k)を求める必要がある。考慮する因子が増えると、より正確なシャーウッド数が得られることが期待されるが、定数を求めるための検討や式の取り扱いが煩雑になるという問題がある。本発明の本質は、物質移動係数(k)を求めるためのシャーウッド数の表現形式にあるのではなく、物質移動係数(k)を用いて、生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を求め、その膜面濃度を制御するか、この膜面濃度(Cm)に応じて分散剤の添加を制御することにある。
【0071】
以上より、物質移動係数(k)に影響を及ぼす因子として、生物代謝物系有機物の拡散係数、逆浸透膜エレメント1本あたりの濃縮水量、透過水量、膜面積、スパイラル型逆浸透膜エレメントの流路スペーサ厚み、有効膜長、被処理水の動粘度等が挙げられる。
【0072】
そして、後述の実験例1,2のように、高分子有機物又は腐植物質の膜面濃度とフラックス低下速度との関係を調べると、後掲の表1,2に示す結果が得られる。ここで、フラックス低下速度とは、初期のフラックスを100%とした時のフラックスが低下する速度を表す。
前掲の非特許文献1、2に記載されているように、フラックスが10%低下するまでを連続運転の許容値とし、年2回を限度に薬液洗浄を行うのが好ましい。年2回以下の薬液洗浄頻度でフラックスの低下を10%以内に抑えるためには、フラックスの低下速度としては、20%/年以下である必要がある。
【0073】
<原水(i)を逆浸透膜処理する場合>
後述の表1の関係から、高分子有機物に着目し、該高分子有機物の膜面濃度を0.7kg/m以下にすることによって、フラックス低下速度を20%/年以下とすることができ、年2回以下の薬液洗浄頻度でフラックスを回復でき、安定に運転することができることが分かる。即ち、原水(i)の逆浸透膜処理において、前記所定値Xは0.7kg/mである。
【0074】
従って、原水(i)を逆浸透膜処理する場合、式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)の平均値が0.7kg/m以下となるように後述の操作(I)を行うか、あるいはこの平均値が0.7kg/mを超える場合に後述の操作(II)を行う。なお、操作(I)と操作(II)を共に行っても良い。
式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)の平均値が0.7kg/mを超えるとフラックスの低下速度が20%/年を超え、年2回の薬液洗浄では安定運転を維持できず、年に3回以上の薬液洗浄を必要とし、好ましくない。各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)の平均値は、0.7kg/m以下であればよいが、好ましくは0.5kg/m以下、より好ましくは0.2kg/m以下である。
【0075】
また、逆浸透膜装置が、前述のようにバンクを多段に設けて構成される場合、逆浸透膜装置全体でのフラックスの低下速度が20%/年以下となる条件としては、いずれのバンクにおいても各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)が所定値Yとして1kg/m以下とすることが望ましい。これは、後段のバンクほど溶質の濃縮が進み高分子有機物の膜面濃度(Cm)が高くなり易いが、通常、後段のバンクの逆浸透膜エレメント数は、前段のバンクの逆浸透膜エレメント数の1/2程度であるので、後段のバンクにおいても各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)を1kg/m以下に抑えることによって、逆浸透膜装置全体でのフラックスの低下速度を20%/年以下に抑えることができると考えられる。
【0076】
<原水(ii)を逆浸透膜処理する場合>
後述の表2の関係から、腐植物質に着目し、該腐植物質の膜面濃度を0.4×10−3kg/m以下にすることによって、フラックス低下速度を20%/年以下とすることができ、年2回以下の薬液洗浄頻度でフラックスを回復でき、安定に運転することができることが分かる。即ち、原水(ii)の逆浸透膜処理において、前記所定値Xは0.4kg/mである。
【0077】
従って、原水(ii)を逆浸透膜処理する場合、式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質のTOCとしての膜面濃度(Cm)の平均値が0.4×10−3kg/m以下となるように後述の操作(I)を行うか、あるいはこの平均値が0.4×10−3kg/mを超える場合に後述の操作(II)を行う。なお、操作(I)と操作(II)を共に行っても良い。
式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)の平均値が0.4×10−3kg/mを超えるとフラックスの低下速度が20%/年を超え、年2回の薬液洗浄では安定運転を維持できず、年に3回以上の薬液洗浄を必要とし、好ましくない。各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)の平均値は、0.4×10−3kg/m以下であればよいが、好ましくは0.2×10−3kg/m以下である。
【0078】
また、逆浸透膜装置が、前述のようにバンクを多段に設けて構成される場合、逆浸透膜装置全体でのフラックスの低下速度が20%/年以下となる条件としては、いずれのバンクにおいても各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質のTOCとしての膜面濃度(Cm)が所定値Yとして0.6×10−3kg/m以下とすることが望ましい。これは、後段のバンクほど溶質の濃縮が進み腐植物質の膜面濃度(Cm)が高くなり易いが、通常、後段のバンクの逆浸透膜エレメント数は、前段のバンクの逆浸透膜エレメント数の1/2程度であるので、後段のバンクにおいても各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)を0.6×10−3kg/m以下に抑えることによって、逆浸透膜装置全体でのフラックスの低下速度を20%/年以下に抑えることができると考えられる。
【0079】
[生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の制御・分散剤の添加制御]
本発明においては、演算手段で、前記式(1)に従って各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を算出し、逆浸透膜装置内の各逆浸透膜エレメント毎の生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の平均値(以下「平均Cm値」と称す。)が上記所定値X以下となるように下記(I)の操作を行う、及び/又は、平均Cm値が所定値Xを超える場合に下記(II)の操作を行う。
(I):該逆浸透膜装置における逆浸透膜処理に用いる逆浸透膜エレメントの本数、バンクの構成、透過水量、濃縮水量、及び前記原水の前処理による該逆浸透膜装置供給水の生物代謝物系有機物濃度のうちのいずれか1以上を調整する。
(II):該原水又は該逆浸透膜装置供給水に分散剤を添加する。
この生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)の調整、制御及び分散剤の添加制御について以下に説明する。
【0080】
(1) 逆浸透膜装置の透過水量及び濃縮水量の調整
平均Cm値が前記所定値Xを超える場合、逆浸透膜装置全体の透過水量を低減することにより、式(1)の逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量(Fp)を低減して生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を低くして平均Cm値を低くすることができる。
また、逆に逆浸透膜装置全体の濃縮水量(Fc)を増加することで、生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を低くして平均Cm値を低くすることができる。
【0081】
この透過水量、濃縮水量の調整は、逆浸透膜装置への供給水量を変更することなく透過水量を低減し、濃縮水量を増加させる運転条件変更であってもよく、濃縮水量を変更せずに逆浸透膜装置への供給水量を低減することにより、透過水量のみを低減する運転条件変更であってもよい。
上記の透過水量及び/又は濃縮水量の調整は、逆浸透膜装置の透過水量及び/又は濃縮水量を調整する流量調整バルブ等の流量調整手段を設け、演算手段からの計算結果が入力される制御手段により、この流量調整手段を制御することにより行うことができる。
【0082】
(2) 逆浸透膜装置供給水の生物代謝物系有機物濃度の調整
平均Cm値が前記所定値Xを超える場合、凝集処理及び/又は限外濾過膜処理等の前処理手段により、原水を処理して原水中の生物代謝物系有機物の一部を除去し、逆浸透膜装置への供給水の生物代謝物系有機物濃度を低減することにより、被処理水の生物代謝物系有機物濃度(Cb)を低減して、生物代謝物系有機物の膜面濃度(Cm)を低くして平均Cm値を低くすることができる。
【0083】
この場合、原水を、直接供給水として逆浸透膜装置に供給する流路と、前処理手段を経て逆浸透膜装置に供給する流路とを切り換える原水流路切り換え手段を設け、この原水流路切り換え手段を、演算手段からの計算結果が入力される制御手段により作動させ、平均Cm値が前記所定値Xを超える場合には原水を前処理手段で処理した後逆浸透膜装置に供給し、平均Cm値が前記所定値X以下の場合は、前処理手段をバイパスして逆浸透膜装置に供給するようにしたり、或いは、平均Cm値の値に応じて、前処理手段の処理条件を制御し、生物代謝物系有機物の除去率を調整する制御を行うことができる。
【0084】
(3) バンク構成の調整
逆浸透膜装置がバンクを2段以上の複数段直列に連結して構成される場合、逆浸透膜装置の供給水を1段目のバンクに供給する流路及び/又は前段のバンクの濃縮水を後段のバンクに供給する流路を切り換えることにより、逆浸透膜処理に使用するベッセル数を調整する被処理水流路切り換え手段を設け、演算手段からの計算結果が入力される制御手段により、被処理水の流路を切り換えることにより平均Cm値を前記所定値X以下とすることができる。
【0085】
例えば、3段のバンクで構成される逆浸透膜装置において、前2段のバンクのみを用いる逆浸透膜処理では、平均Cm値が前記所定値Xを超える場合、2段目のバンクの濃縮水を系外へ排出する流路から、3段目のバンクへ送給して逆浸透膜処理する流路を選択することにより、逆浸透膜処理に使用するバンク数、即ち逆浸透膜エレメント数を増加させて平均Cm値を低減することができる。この流路切り換えは、前段のバンクと後段のバンクとの間の配管に設けた開閉バルブ等により行うことができる。
同様に、同一バンク内においても、流路切り換えにより、逆浸透膜処理に使用するベッセル数を増減することで、平均Cm値を制御することもできる。
【0086】
(4) 分散剤の添加
平均Cm値が前記所定値Xを超える場合、分散剤添加手段により原水或いは原水を前処理した供給水に分散剤を添加して、逆浸透膜装置供給水中の生物代謝物系有機物を分散させて、膜への付着を防止し、安定運転を行うことができる。
【0087】
この場合、原水又は供給水に分散剤を添加する分散剤添加手段と、演算手段からの計算結果が入力され、その入力値に基づいて、分散剤添加手段による分散剤添加の有無又は分散剤添加量を制御する分散剤添加量制御手段を設け、平均Cm値が前記所定値Xを超える場合は分散剤を添加するようにしたり、或いは分散剤添加量を増量させ、平均Cm値が前記所定値Xを下回るようになったら、分散剤の添加量を減量したり、分散剤の添加を停止するといった薬注制御を行う方法を採用することができる。
更に、逆浸透膜装置が、前述のようにバンクを多段に設けて構成される場合、少なくとも1つのバンクにおいて各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)が前記所定値Yを超える場合は分散剤を添加するようにしたり、或いは分散剤添加量を増量させ、すべてのバンクにおいて、各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)が前記所定値Yを下回るようになったら、分散剤の添加量を減量したり、分散剤の添加を停止するといった薬注制御を行う方法を採用することができる。
【0088】
分散剤としては、生物代謝物系有機物分散剤及び/又はスケール分散剤を用いることができ、例えば生物代謝物系有機物分散剤としては、特願2014−055253に列挙された剤を使用することができ、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(2−アルキル−2−オキサゾリン)等が挙げられる。また、スケール分散剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)などのキレート系スケール防止剤、その他、(メタ)アクリル酸重合体及びその塩、マレイン酸重合体及びその塩などの低分子量ポリマー、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸及びその塩、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸及びその塩、ニトリロトリメチレンホスホン酸及びその塩、ホスホノブタントリカルボン酸及びその塩などのホスホン酸及びホスホン酸塩、ヘキサメタリン酸及びその塩、トリポリリン酸及びその塩などの無機重合リン酸及び無機重合リン酸塩などを使用することができる。
これらの分散剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
[水処理]
本発明は、海水淡水化、超純水製造、工業用水処理、排水回収処理等に使用される各種の逆浸透膜装置に適用することができるが、特に、湖水、河川水、あるいは地下水を原水として処理する逆浸透膜装置に好適に適用される。
また、本発明の逆浸透膜装置は、特に生物処理水の逆浸透膜分処理に好適に用いられる。
【0090】
図3は、本発明の逆浸透膜装置を用いて生物処理水を逆浸透膜処理する本発明の水処理方法の実施の形態を示す系統図である。
本発明による生物処理水の処理方法の処理手順としては、例えば、図3(a)に示すように、好気及び/又は嫌気性生物処理手段11、凝集処理手段12、加圧浮上等の固液分離手段13、濾過手段14で処理した生物処理水を保安フィルタ15を通して逆浸透膜装置16に導入して逆浸透膜処理する方法、図3(b)に示すように、生物処理手段11の処理水を直接膜濾過装置等の濾過手段14で固液分離した水を逆浸透膜装置16に導入して逆浸透膜処理する方法、或いは、図3(c)に示すように、MBR(浸漬型膜分離装置)17の処理水を直接逆浸透膜装置16に導入して処理する方法などが挙げられるが、何らこれらの方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
以下に実験例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0092】
[実験例1]
高分子有機物濃度0.2mg/Lの生物処理水を原水として逆浸透膜処理した。
この原水中の高分子有機物について、高速液体クロマトグラフィーにより測定した分子量Mwは1,300,000であり、前記式(3)より算出した拡散係数Dは1.0×10−11/sである。
【0093】
用いた逆浸透膜装置は、日東電工製8インチ芳香族ポリアミド系逆浸透膜「ES20」エレメント(1本当たりの膜面積37m)4本を装填したベッセル15個(逆浸透膜エレメント60本)で構成され、図1に示すように、第1バンクはベッセル10個を並列配置し、第2バンクはベッセル5個を並列配置したものである。
このように構成された逆浸透膜装置により、逆浸透膜装置全体の透過水量を60m/h、濃縮水量を20m/hの条件で一年間運転を行ったところ、第2バンクにおいて、79%/年のフラックス低下が起き、年5回の薬液洗浄が必要となった。
【0094】
原水中の高分子有機物の拡散係数Dの値から、特許文献1記載の方法に従って、膜エレメントの物質移動係数(k)を以下の通り算出した。
物質移動係数を求める式として、以下の式を用いた。
Sh=0.080・Re0.875・Sc0.25
k=(D/d)・0.080・Re0.875・Sc0.25
その結果、第1バンク、第2バンクともに物質移動係数(k)は以下の値となった。
k=9.6×10−7[m/s]
【0095】
逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量(Fp)は2.8×10−4/sであり、膜エレメント1本当たりの膜面積(S)は37m、被処理水の高分子有機物濃度(Cb)は第1バンクでは0.2×10−3kg/m(0.2mg/L)、第2バンクでは0.4×10−3kg/m(0.4mg/L)であることから、前記式(1)より各逆浸透膜エレメントの高分子有機物の膜面濃度(Cm)を算出すると、第1バンクの逆浸透膜エレメントでは1.5kg/m、第2バンクの逆浸透膜エレメントは3.0kg/mで、逆浸透膜装置全体の平均値は、(1.5×40+3.0×20)/60=2.0kg/mであり、0.7kg/mを超えていた。
【0096】
上記の逆浸透膜処理において、透過水量と濃縮水量を種々変えた運転条件で実験を行い、高分子有機物の膜面濃度(Cm)とフラックス低下速度との関係を調べたところ、下記表1に示す結果が得られた。
【0097】
【表1】
【0098】
上記表1の結果は、以下の近似式(2A)で表された。
Z=0.016・{log(Cm)+3}6.8 式(2A)
Z[%/年]:フラックス低下速度
【0099】
この式の値は膜の材質に依存することが、異なる逆浸透膜を用いて同様の実験を行うことにより確認されたが、「ES20」等の一般的な芳香族ポリアミド製逆浸透膜であれば、上記近似式(2A)を満たすものであった。
【0100】
[実施例1]
実験例1において、逆浸透膜装置全体の透過水量56m/h、濃縮水量24m/hの運転条件を設定すると、前記式(1)で算出される高分子有機物の膜面濃度(Cm)は、第1バンク0.68kg/m、第2バンク0.68kg/mとなる(従って、平均Cm値は0.68kg/m(=0.68×40+0.68×20)/60))。
この高分子有機物の膜面濃度(Cm)から前記近似式(2A)で算出されるフラックス低下速度(Z)は、第1バンクが19.2%/年、第2バンクが19.5%/年であり、逆浸透膜装置全体では19.3%/年である。
そこで、実際に、運転条件を、逆浸透膜装置全体の透過水量56m/h、濃縮水量24m/hに設定して運転を行ったところ、年2回の薬液洗浄で安定運転を維持することができた。
この実施例1より、前記式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)の平均値が0.7kg/m以下となるように、逆浸透膜装置の透過水量と濃縮水量を制御することにより、安定運転を行えることが分かる。
【0101】
[実施例2]
実験例1において、原水を凝集処理することにより高分子有機物濃度を0.065mg/Lとした水を供給水とし、逆浸透膜装置全体の透過水量が60m/h、濃縮水量20m/hで逆浸透膜処理を行った。
この運転条件から、前記式(1)で算出される高分子有機物の膜面濃度(Cm)は、第1バンクで0.49kg/m、第2バンクで0.99kg/mであり(従って、平均Cm値は0.66kg/m(=(0.49×40+0.99×20)/60))、前記近似式(2A)で算出されるフラックス低下速度は、第1バンクが13.7%/年、第2バンクが28.3%/年であり、逆浸透膜装置全体では18.6%/年となった。
この運転条件で膜処理を行ったところ、年2回の薬液洗浄で安定運転を維持することができた。
この実施例2より、前記式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)の平均値が0.7kg/m以下となるように、原水を前処理して原水の高分子有機物濃度を低減した水を供給水とすることにより、透過水量、濃縮水量はそのままでも安定運転を行えることが分かる。
【0102】
[実施例3]
実施例2において、原水の前処理で更に高分子有機物濃度を低減し、高分子有機物濃度0.035mg/Lとした水を供給水として逆浸透膜処理したところ、逆浸透膜装置全体のフラックス低下速度は9.4%/年にまで低下する計算結果が得られるが、実際に、この前処理条件で膜処理を行ったところ、年1回の薬液洗浄で安定運転を維持することができた。
【0103】
[実施例4]
実験例1において用いたものと同一の逆浸透膜装置エレメントを4本装填したベッセルを14個用い、逆浸透膜装置のバンク構成を、図2に示すように、第1バンクはベッセル8個の並列配置、第2バンクはベッセル4個の並列配置、第3バンクはベッセル2個の並列配置とし、同じ原水(高分子有機物濃度0.2mg/L)を同様の運転条件(逆浸透膜装置全体の透過水量60m/h、濃縮水量20m/h)で逆浸透膜処理を行った。
この運転条件においては、後段ほど線流速が速くなり、前記式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)は、第1バンクで0.34kg/m、第2バンクで0.20kg/m、第3バンクで0.08kg/mとなり(従って、平均Cm値は0.26kg/m(=(0.34×32+0.20×16+0.08×8)/56))、この高分子有機物の膜面濃度(Cm)から前記近似式(2A)で算出されるフラックス低下速度は第1バンクが9.1%/年、第2バンクが4.8%/年、第3バンクが1.3%/年であり、逆浸透膜装置全体では6.8%/年である。
そこで、実際にこの第1〜3バンクの構成の逆浸透膜装置で逆浸透膜処理を行ったところ、年2回以下の薬液洗浄で運転を維持することができた。
この実施例4より、バンク構成を変更することで、同一の高分子有機物濃度の供給水であっても、逆浸透膜装置全体の透過水量と濃縮水量を変えることなく、各逆浸透膜エレメント毎の高分子有機物の膜面濃度(Cm)を調整することができ、平均Cm値を下げて安定運転を行えることが分かる。
【0104】
[実験例2]
腐植物質濃度がTOCとして0.08mg/Lの地下水(多価イオンとしてCaイオンを20mg/L含む。)を原水として逆浸透膜処理した。腐植物質の濃度は、高速液体クロマトグラフィーにより、UVを検出器として測定した。標準物質として、カナディアンフルボ(ピィアイシィ・バイオ製)を用いた。腐植物質の分子量Mwは7,000であり、前記式(3)より算出した拡散係数Dは1.25×10−10/sである。
【0105】
用いた逆浸透膜装置は、日東電工製8インチ芳香族ポリアミド系逆浸透膜「ES20」エレメント(1本当たりの膜面積37m)4本を装填したベッセル15個(逆浸透膜エレメント60本)で構成され、図1に示すように、第1バンクはベッセル10個を並列配置し、第2バンクはベッセル5個を並列配置したものである。
このように構成された逆浸透膜装置により、逆浸透膜装置全体の透過水量を60m/h、濃縮水量を20m/hの条件で一年間運転を行ったところ、第2バンクにおいて、37%/年のフラックス低下が起き、年4回の薬液洗浄が必要となった。
【0106】
原水中の腐植物質の拡散係数Dの値から、特許文献1記載の方法に従って、膜エレメントの物質移動係数(k)を以下の通り算出した。
物質移動係数を求める式として、以下の式を用いた。
Sh=0.080・Re0.875・Sc0.25
k=(D/d)・0.080・Re0.875・Sc0.25
その結果、第1バンク、第2バンクともに物質移動係数(k)は以下の値となった。
k=5.7×10−6[m/s]
【0107】
逆浸透膜エレメント1本当たりの透過水量(Fp)は2.8×10−4m/sであり、膜エレメント1本当たりの膜面積(S)は37m、被処理水の腐植物質濃度(Cb)は第1バンクでは0.11×10−3kg/m(0.11mg/L)、第2バンクでは0.22×10−3kg/m(0.22mg/L)であることから、前記式(1)より各逆浸透膜エレメントの腐植物質の膜面濃度(Cm)を算出すると、第1バンクの逆浸透膜エレメントでは0.41×10−3kg/m(0.41mg/L)、第2バンクの逆浸透膜エレメントは0.82×10−3kg/m(0.82mg/L)で、逆浸透膜装置全体の平均値は、(0.41×10−3×40+0.82×10−3×20)/60=0.54×10−3kg/m(0.54mg/L)であり、0.4×10−3kg/mを超えていた。
【0108】
上記の逆浸透膜処理において、透過水量と濃縮水量を種々変えた運転条件で実験を行い、腐植物質の膜面濃度(Cm)とフラックス低下速度との関係を調べたところ、下記表2に示す結果が得られた。
【0109】
【表2】
【0110】
上記表2の結果は、以下の近似式(2B)で表された。
Z=43.8×Cm0.859 式(2B)
Z[%/年]:フラックス低下速度
【0111】
この式の値は膜の材質に依存することが、異なる逆浸透膜を用いて同様の実験を行うことにより確認されたが、「ES20」等の一般的な芳香族ポリアミド製逆浸透膜であれば、上記近似式(2B)を満たすものであった。
【0112】
[実施例5]
実験例2において、逆浸透膜装置全体の透過水量54m/h、濃縮水量26m/hの運転条件を設定すると、前記式(1)で算出される腐植物質の膜面濃度(Cm)は、第1バンク0.33×10−3kg/m、第2バンク0.52×10−3kg/mとなる(従って、平均Cm値は0.39×10−3kg/m(=0.33×10−3×40+0.52×10−3×20)/60))。
この腐植物質の膜面濃度(Cm)から前記近似式(2B)で算出されるフラックス低下速度(Z)は、第1バンクが17.0%/年、第2バンクが24.8%/年であり、逆浸透膜装置全体では19.6%/年である。
そこで、実際に、運転条件を、逆浸透膜装置全体の透過水量50m/h、濃縮水量31m/hに設定して運転を行ったところ、年2回の薬液洗浄で安定運転を維持することができた。
この実施例5より、前記式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)の平均値が0.4×10−3kg/m以下となるように、逆浸透膜装置の透過水量と濃縮水量を制御することにより、安定運転を行えることが分かる。
【0113】
[実施例6]
実験例2において、原水を凝集処理することにより腐植物質濃度を0.055mg/L(Caイオン濃度20mg/L)とした水を供給水とし、逆浸透膜装置全体の透過水量が60m/h、濃縮水量20m/hで逆浸透膜処理を行った。
この運転条件から、前記式(1)で算出される腐植物質の膜面濃度(Cm)は、第1バンクで0.28×10−3kg/m、第2バンクで0.57×10−3kg/mであり(従って、平均Cm値は0.38×10−3kg/m(=(0.28×10−3×40+0.57×10−3×20)/60)、第二バンクのCm≦0.6×10−3kg/m)、前記近似式(2B)で算出されるフラックス低下速度は、第1バンクが14.8%/年、第2バンクが26.9%/年であり、逆浸透膜装置全体では18.9%/年となった。
この運転条件で膜処理を行ったところ、年2回の薬液洗浄で安定運転を維持することができた。
この実施例6より、前記式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)の平均値が0.4×10−3kg/m以下となるように、原水を前処理して原水の腐植物質濃度を低減した水を供給水とすることにより、透過水量、濃縮水量はそのままでも安定運転を行えることが分かる。
【0114】
[実施例7]
実施例6において、原水の前処理で更に腐植物質濃度を低減し、腐植物質濃度0.025mg/L(Caイオン濃度20mg/L)とした水を供給水として逆浸透膜処理したところ、逆浸透膜装置全体のフラックス低下速度は9.6%/年にまで低下する計算結果が得られるが、実際に、この前処理条件で膜処理を行ったところ、年1回の薬液洗浄で安定運転を維持することができた。
【0115】
[実施例8]
実験例2において用いたものと同一の逆浸透膜装置エレメントを4本装填したベッセルを14個用い、逆浸透膜装置のバンク構成を、図2に示すように、第1バンクはベッセル8個の並列配置、第2バンクはベッセル4個の並列配置、第3バンクはベッセル2個の並
列配置とし、同じ原水(腐植物質濃度0.08mg/L)を同様の運転条件(逆浸透膜装置全体の透過水量60m/h、濃縮水量20m/h)で逆浸透膜処理を行った。
この運転条件においては、前記式(1)で算出される各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)は、第1バンクで0.31×10−3kg/m、第2バンクで0.45×10−3kg/m、第3バンクで0.55×10−3kg/mとなり(従って、平均Cm値は0.38×10−3kg/m(=(0.31×10−3×32+0.45×10−3×16+0.55×10−3×8)/56))、この腐植物質の膜面濃度(Cm)から前記近似式(2B)で算出されるフラックス低下速度は第1バンクが16.1%/年、第2バンクが22.0%/年、第3バンクが26.4%/年であり、逆浸透膜装置全体では19.3%/年である。
そこで、実際にこの第1〜3バンクの構成の逆浸透膜装置で逆浸透膜処理を行ったところ、年2回以下の薬液洗浄で運転を維持することができた。
この実施例8より、バンク構成を変更することで、同一の腐植物質濃度の供給水であっても、逆浸透膜装置全体の透過水量と濃縮水量を変えることなく、各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)を調整することができ、平均Cm値を下げて安定運転を行えることが分かる。
【0116】
[実施例9]
実験例2において、同じ原水(腐植物質濃度0.08mg/L)に多価カチオンの分散剤として「クリバーター−N500」(栗田工業(株)製)を10mg/L、腐植物質の分散剤としてポリビニルピロリドンを3mg/L添加した水を供給水とし、逆浸透膜装置全体の透過水量が60m/h、濃縮水量20m/hで逆浸透膜処理を行った。逆浸透膜装置全体のフラックスは安定化し、年1回の薬液洗浄で安定運転を維持することができた。
この実施例9より、分散剤を添加することで、各逆浸透膜エレメント毎の腐植物質の膜面濃度(Cm)が高くなっても、膜への付着が抑制されて、安定運転を行えることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、海水淡水化、超純水製造、工業用水処理、排水回収処理等に使用される各種の逆浸透膜装置に適用することができるが、特に生物処理水、とりわけMBR処理水を処理する逆浸透膜装置、或いは、湖水、河川水、又は地下水を処理する逆浸透膜装置に好適に適用される。
【符号の説明】
【0118】
1 第1バンク
2 第2バンク
3 第3バンク
11 生物処理手段
12 凝集処理手段
13 固液分離手段
14 濾過手段
15 保安フィルタ
16 逆浸透膜装置
17 MBR(浸漬型膜分離装置)
図1
図2
図3