特許第6554799号(P6554799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6554799非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および非水系電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554799
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20190729BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-15026(P2015-15026)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-139569(P2016-139569A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 哲
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/165654(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mを、Ni:Co:Mn:M=x:y:z:t(ただし、x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)となる原子数比で含み、平均粒径が2.0μm〜7.0μmであり、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる前駆体とリチウム化合物を、リチウム以外の金属元素の原子数Meに対するリチウムの原子数Liの比Li/Meが1.16〜1.84となるように混合し、酸化性雰囲気中で焼成する焼成工程により、一般式(A):bLi2MnO3・(1−b)Li1+uNixCoyMnzt2(ただし、0.2≦b≦0.8、−0.05≦u≦0.2、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、六方晶系の層状構造を有するリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記焼成工程が、
(a)前記前駆体に、前記リチウム化合物の30%〜80%を混合し、第1リチウム混合物を得る、第1混合工程と、
(b)第1リチウム混合物を、800℃〜1000℃の焼成温度で2時間以上、焼成し、焼結粒子を得る、第1焼成工程と、
(c)前記焼結粒子に、前記リチウム化合物の残りを混合し、第2リチウム混合物を得る、第2混合工程と、
(d)第2リチウム混合物を、800℃〜1000℃の焼成温度で2時間以上、焼成し、前記リチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子を得る、第2焼成工程と、
を備える、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記酸化性雰囲気を、酸素濃度が18容量%以上の雰囲気とする、請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム化合物として、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムの群から選択される1種以上を用いる、請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
第1焼成工程後および/または第2焼成工程後に、解砕工程をさらに備える、請求項1〜のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体として、一般式(B):NixCoyMnzt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される遷移金属複合水酸化物粒子を用いる、請求項1〜のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
一般式(A):bLi2MnO3・(1−b)Li1+uNixCoyMnzt2(0.2≦b≦0.8、−0.05≦u≦0.2、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、六方晶系の層状構造を有するリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質であって、
前記リチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子は、単分散性の一次粒子からなり、平均粒径が2.0μm〜6.0μmであり、かつ、比表面積が1.0m2/g〜4.0m2/gである、
非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
タップ密度が1.8g/cm3〜2.5g/cm3である、請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項6または7に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられている、非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、およびこの非水系電解質二次電池を用いた非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に輸送機器の電源として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成されており、その負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられる。
【0004】
リチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われている。その中でも、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物粒子を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)粒子、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)粒子、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)粒子、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)粒子、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.52)粒子、リチウムを過剰に含有するリチウム過剰遷移金属複合水酸化物(Li2MnO3・LiNixMnyCoz2)粒子などが提案されている。
【0006】
これらの中でも、リチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子は、リチウムコバルト複合酸化物粒子やリチウムニッケル複合酸化物粒子などと同様に、六方晶系の層状構造を備え、これを用いたリチウムイオン二次電池は高容量で、熱安定性に優れることから、実用化に向けた研究が進められている(佐藤裕一、「リチウムイオン電池の高性能化:固溶体正極材料について」、FBテクニカルニュース,No66号(2011.1)、第3頁〜第10頁)。
【0007】
たとえば、特開2013−229339号公報には、一般式:bLi2MnM1t13・(1−b)Li1+vNixCoyMnz2t22(0.2≦b≦0.7、−0.05≦v≦0.20、t1+t2=t、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、M1及びM2は添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質が開示されている。この正極活物質は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、二次粒子の表面近傍および内部に電解液が浸透可能な空隙を有しており、平均粒径が3μm〜12μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下に調整されたものである。この正極活物質は、比較的小粒径で粒度分布が狭いため、これを正極材料として用いることにより、二次電池の高容量化や高出力化が可能であると考えられる。
【0008】
ところで、このような二次粒子からなる正極活物質は、一般的に、電解液との接触面積(比表面積)が大きく、バルク抵抗を小さくすることができるが、充放電の繰り返しにより粒子表面が劣化しやすく、十分なサイクル特性を確保することが困難となる可能性がある。また、一次粒子同士の焼結による粒界が非常に多いため、内部抵抗が上昇し、放電容量が低下してしまう可能性もある。さらに、粒子強度が低く、正極作製時にロールプレスなどで加圧した際に、二次粒子が破壊され、微粉が発生してしまう可能性もある。
【0009】
一方、近年、正極活物質を、単分散性の一次粒子から構成することが検討されている。単分散性の一次粒子からなる正極活物質は、比表面積が小さく、高いサイクル特性を容易に確保することができる。また、バルク抵抗自体は高いものの、粒子内に粒界が少なく、内部抵抗の低減や放電容量の向上が可能である。さらに、粒子強度が高く、正極作製時に微粉が生じにくいという特徴がある。
【0010】
単分散性の一次粒子からなる正極活物質として、たとえば、特開2004−355824号公報には、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種の元素とリチウムとを主成分とする単分散性の一次粒子の粉体状のリチウム複合酸化物であって、平均粒子径(D50)が3μm〜12μm、比表面積が0.2m2/g〜1.0m2/g、かさ密度が2.1g/cm3以上であり、かつ、クーパープロット法による体積減少率の変曲点が3ton/cm2まで現れないことを特徴とする非水系二次電池用正極活物質が提案されている。
【0011】
この文献の実施例では、この正極活物質を、一次粒子からなる酸化ニッケル、水酸化リチウム一水和物、バインダおよび純水を混合することで混合粉末とした後、この混合粉末を酸素雰囲気中、500℃で3時間仮焼し、さらに、730℃で20時間焼成することにより得ている。この正極活物質は、粒子内に粒界が存在せず、かつ、正極作製時のプレスや充放電時の膨張収縮による粒子の割れを防止することができるとされている。しかしながら、この正極活物質は、前駆体として一次粒子を用いているため、混合条件または焼成条件によっては、焼成時における水酸化リチウムの固相拡散反応が十分に進行せず、未反応の前駆体や水酸化リチウムが残存する場合がある。
【0012】
これに対して、単分散性の一次粒子から構成された正極活物質を得るに際して、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる複合水酸化物粒子や複合炭酸塩粒子を前駆体として用いる方法も検討されている。具体的には、これらの前駆体を焼成し、二次粒子からなる正極活物質を合成した後、これを粉砕することにより、単分散性の一次粒子を得ている。しかしながら、この方法では、二次粒子を粉砕する際に微粉が発生し、これによって得られる二次電池の特性が低下することが問題となる。このため、前駆体として二次粒子を用いる場合には、一次粒子化に際して、微粉の発生を防止することが重要となる。
【0013】
たとえば、特開2004−192846号公報には、層状構造またはスピネル構造のリチウム複合酸化物から構成され、平均粒径が0.5μm〜3μmの一次粒子が凝集して形成された、平均凝集径が10μm〜100μmの二次粒子からなる正極活物質であって、二次粒子が、正極作製時に自然に一次粒子に解砕され、かつ、解砕後は、一次粒子に単分散することを特徴とする正極活物質が提案されている。
【0014】
この正極活物質は、粉砕せずとも、正極作製時のプレス圧力により一次粒子化することができるため、微粉の発生を大幅に抑制できると考えられる。また、一次粒子化後においては、高い充填性を備えるばかりでなく、導電材との混合性にも優れ、導電材をすべての一次粒子に容易に行き届かせることができるため、接触面積の増加による放電容量やレート特性の向上も可能である。さらに、充放電に伴う体積変化による割れが生じにくく、サイクル特性の向上も可能であると考えられる。
【0015】
しかしながら、このような正極活物質であっても、すべての二次粒子を一様に解砕し、一次粒子化するためには、正極作製時のプレス圧力を相当なものとすることが必要であり、微粉の発生を完全に防止することはきわめて困難である。また、このような微粒子の存在は、初期段階の電池性能には好影響を与えるものの、長期的な充放電の繰り返しにより、次第に電池性能を低下させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2013−229339号公報
【特許文献2】特開2004−355824号公報
【特許文献3】特開2004−192846号公報
【非特許文献1】佐藤裕一、「リチウムイオン電池の高性能化:固溶体正極材料について」、FBテクニカルニュース,No66号(2011.1)、第3頁〜第10頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、低比表面積であり、かつ、内部抵抗が小さい単分散性の一次粒子から構成されるリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質を提供することを目的とする。また、本発明は、このような正極活物質を、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる複合水酸化物粒子や複合炭酸塩粒子を前駆体として用いながらも、微粉を生じさせずに製造可能な方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、この正極活物質を正極材料として用いることで、高容量かつ高出力で、サイクル特性にも優れる非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mを、Ni:Co:Mn:M=x:y:z:t(ただし、x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)となる原子数比で含み、平均粒径が2.0μm〜7.0μmであり、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる前駆体とリチウム化合物を、リチウム以外の金属元素の原子数Meに対するリチウムの原子数Liの比Li/Meが1.16〜1.84となるように混合し、酸化性雰囲気中で焼成する焼成工程により、一般式(A):bLi2MnO3・(1−b)Li1+uNixCoyMnzt2(ただし、0.2≦b≦0.8、−0.05≦u≦0.2、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、六方晶系の層状構造を有するリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0019】
特に、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、前記焼成工程が、
(a)前記前駆体に、前記リチウム化合物の30%〜80%を混合し、第1リチウム混合物を得る、第1混合工程と、
(b)第1リチウム混合物を焼成し、焼結粒子を得る、第1焼成工程と、
(c)前記焼結粒子に、前記リチウム化合物の残りを混合し、第2リチウム混合物を得る、第2混合工程と、
(d)第2リチウム混合物を焼成し、前記リチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子を得る、第2焼成工程と、
を備えることを特徴とする。
【0020】
第1焼成工程および第2焼成工程における焼成温度を800℃〜1000℃とすることが好ましい。
【0021】
前記酸化性雰囲気を、酸素濃度が18容量%以上の雰囲気とすることが好ましい。
【0022】
前記リチウム化合物として、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムの群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0023】
第1焼成工程後および/または第2焼成工程後に、解砕工程をさらに備えてもよい。
【0024】
前記前駆体として、一般式(B):NixCoyMnzt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される遷移金属複合水酸化物粒子を用いることが好ましい。
【0025】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式(A):bLi2MnO3・(1−b)Li1+uNixCoyMnzt2(0.2≦b≦0.8、−0.05≦u≦0.2、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、六方晶系の層状構造を有するリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質であって、前記正極活物質は、単分散性の一次粒子からなり、平均粒径が2.0μm〜6.0μmであることを特徴とする。
【0026】
前記正極活物質は、比表面積が1.0m2/g〜4.0m2/gであることが好ましい。また、タップ密度が1.8g/cm3〜2.5g/cm3であることが好ましい。
【0027】
本発明の非水系電解質二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、前記非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低比表面積であり、かつ、内部抵抗が小さい単分散性の一次粒子から構成されるリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質を、製造工程において二次粒子からなる前駆体を用いても微粉を生じさせることなく、提供することができる。このような微粉を含まない単分散性の一次粒子からなる本発明の正極活物質を正極材料として用いることで、高容量かつ高出力で、サイクル特性にも優れる非水系電解質二次電池を提供することができるため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の正極活物質であるリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子のSEM写真(観察倍率3000倍)である。
図2図2は、本発明の正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物粒子のSEM写真(観察倍率:3000倍)である。
図3図3は、電池評価に使用した2032型コイン型電池の概略断面図である。
図4図4は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者は、上述した問題に鑑みて、低比表面積であり、かつ、内部抵抗が小さい単分散性の一次粒子から構成されるリチウム過剰遷移金属複合酸化物粒子(以下、「リチウム過剰複合酸化物粒子」という)およびその製造方法について鋭意研究を重ねた。この結果、前駆体として複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる遷移金属複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)や遷移金属複合炭酸塩粒子(以下、「複合炭酸塩粒子」という)などを用いた場合であっても、これらの前駆体にリチウム化合物を混合し、焼成する工程を2段階に分けて行うこと、および、各段階におけるリチウム化合物の混合量を制御することにより、別途、粉砕工程を行わずとも、単分散性の一次粒子からなる正極活物質を得ることができるとの知見を得た。
【0031】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。以下、本発明について、「1.非水系電解質二次電池用正極活物質」、「2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法」および「3.非水系電解質二次電池」に分けて、詳細に説明する。
【0032】
1.非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、一般式(A):bLi2MnO3・(1−b)Li1+uNixCoyMnzt2(0.2≦b≦0.8、−0.05≦u≦0.2、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、六方晶系の層状構造を有するリチウム過剰複合酸化物粒子からなる正極活物質である。特に、本発明の正極活物質は、単分散性の一次粒子からなり、平均粒径が2.0μm〜6.0μmであることを特徴とする。
【0033】
(1)組成
本発明の正極活物質の組成は、一般式(A)によって表されるように調整される。このような正極活物質では、リチウム以外の金属元素(ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素M)の原子数の総和(Me)に対する、リチウムの原子数の総和(Li)の比率(Li/Me)が、二次電池の充放電容量に与える影響が大きく、組成を一般式(A)によって表されるように調整することで、二次電池の高容量化に寄与するLi2MnO3が合成される割合を増加させることができる。
【0034】
このような二次電池の高容量化が達成できる理由は、以下のように考えられる。一般式(A)によって表される組成を有する正極活物質は、六方晶系の層状構造を有し、通常はリチウムの挿入反応および脱離反応が起こりにくいLi2MnO3の周囲に、リチウムの挿入反応および脱離反応が起こりやすいLi1+uNixCoyMnzt2が配置された2相構造を採る。この結果、Li2MnO3のリチウムの挿入反応および脱離反応が促進されて、充放電容量が増加することとなる。
【0035】
以上の点を考慮すると、本発明の正極活物質におけるLi2MnO3の含有量を示すbの値は、0.2〜0.8、好ましくは0.3〜0.7、より好ましくは0.4〜0.6とすることが必要となる。bの値が0.2未満では、この正極活物質を用いた二次電池を十分に高容量化することができない。一方、bの値が0.8を超えると、Li2MnO3の周囲に存在するLi1+uNixCoyMnzt2の割合が少なくなり、リチウムの挿入・脱離反応の促進効果が低下するため、二次電池を高容量化することができなくなる。
【0036】
この正極活物質において、Li1+uNixCoyMnzt2のリチウムの過剰量を示すuの値は、−0.05〜0.2とすることが必要となる。uの値が−0.05未満では、この正極活物質を用いた二次電池の正極抵抗が大きくなり、出力特性が低下する。一方、uの値が0.2を超えると、それに伴ってLi2MnO3の割合が増加し、出力特性および初期放電容量が低下する。なお、二次電池の出力特性をより向上させる観点から、uの値は、0.05以上とすることが好ましく、0.15以上とすることがより好ましい。
【0037】
また、Li1+uNixCoyMnzt2におけるニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mの含有量は、以下のように調整することが必要となる。
【0038】
ニッケルは、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、その含有量を示すxの値を、0.1〜0.4、好ましくは0.2〜0.4、より好ましくは0.3〜0.4の範囲に調整することが必要となる。xの値が0.1未満では、スピネル相が生成し、充放電容量が低下する。一方、xの値が0.4を超えると、サイクル特性が低下する。
【0039】
コバルトは、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値を、0.2〜0.8、好ましくは0.2〜0.6、より好ましくは0.3〜0.5の範囲に調整することが必要となる。yの値が0.2未満では、Li1+uNixCoyMnzt2の割合が減少するため、充放電容量が低下する。一方、yの値が0.8を超えると、上述した2相構造を保てなくなり、充放電容量が低下する。
【0040】
マンガンは、熱安定性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すzの値を、0.1〜0.4、好ましくは0.15〜0.35、より好ましくは0.20〜0.35の範囲に調整することが必要となる。zの値が0.1未満では、熱安定性が確保できなくなる。一方、zの値が0.4を超えると、マンガンの溶出量が増加し、サイクル特性が低下する。
【0041】
なお、正極活物質は、これを用いた二次電池の耐久性や出力特性などをさらに改善するため、上述した金属元素に加えて、添加元素Mを含有してもよい。このような添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選択される1種以上を用いることができる。
【0042】
添加元素Mの含有量を示すtの値は、0.1以下に調整することが必要となる。tの値が0.1を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、充放電容量が低下してしまう。
【0043】
(2)粒子構造
本発明の正極活物質は、図1に示すように単分散性の一次粒子からなり、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含まないことを特徴とする。ここで、「単分散性」とは、粒子同士が焼結を生じていない状態であることを意味する。
【0044】
本発明において、単分散性の一次粒子の形状は任意である。たとえば、正極活物質の形状は、高い充填性を確保する観点からは、多面体ないしは略球状であることが好ましく、複雑な形状を有する場合でも、これらの形状に近似していることが好ましい。なお、略球状とは、球状のほか、楕円球状など、実質的に球状と判断され得る形状を意味する。
【0045】
(3)平均粒径
本発明の正極活物質の平均粒径は、2.0μm〜6.0μm、好ましくは2.0μm〜5.0μm、より好ましくは3.0μm〜5.0μmの範囲に調整される。これにより、この正極活物質を用いた二次電池の単位容積当たりの充放電容量の増加とともに、安全性や出力特性の改善が可能となる。これに対して、平均粒径が2.0μm未満では、正極活物質の充填密度が減少し、単位容積当たりの充放電容量を増加させることができないばかりでなく、Mnが溶出しやすくなり、サイクル特性の低下を招く。一方、平均粒径が6.0μmを超えると、正極活物質の比表面積が著しく小さくなり、二次電池を構成した場合に、電解液との反応面積が減少するため、出力特性を改善することができない。
【0046】
なお、平均粒径とは、体積基準平均粒径(D50)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0047】
(4)比表面積
本発明の正極活物質は、比表面積が、好ましくは1.0m2/g〜4.0m2/g、より好ましくは1.0m2/g〜3.0m2/g、さらに好ましくは1.5m2/g〜2.5m2/gの範囲に調整される。これにより、この正極活物質を用いた二次電池の出力特性を十分に確保しつつ、サイクル特性を改善することが可能となる。これに対して、正極活物質の比表面積が1.0m2/g未満では、粗大粒子の割合が増加するため、二次電池を構成した場合に、電解液との反応面積を確保することができず、出力特性が大幅に低下するおそれがある。一方、正極活物質の比表面積が4.0m2/gを超えると、微細粒子の割合が増加するため、正極合材ペーストが高粘度となり、これを均一に混練することが困難となる。また、電解液との接触面積が著しく大きくなるため、マンガンの溶出を招き、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0048】
なお、正極活物質の比表面積は、たとえば、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0049】
(5)タップ密度
本発明の正極活物質は、充填性の指標であるタップ密度が、1.8g/cm3以上であることが好ましく、2.0g/cm3以上であることがより好ましい。タップ密度が1.8g/cm3未満では、充填性が低く、二次電池全体の容量特性を十分に改善することができない場合がある。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されるものではないが、通常の製造条件での上限は、2.5g/cm3程度となる。
【0050】
なお、タップ密度とは、JIS Z−2504に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を意味し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
【0051】
2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質は、上述した組成、粒子構造、平均粒径及び比表面積を具備する正極活物質を製造できる限り、特に制限されることはないが、工業規模の製造を前提とした場合には、以下の製造方法により製造することが好ましい。
【0052】
すなわち、本発明の正極活物質の製造方法は、ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mを、Ni:Co:Mn:M=x:y:z:t(ただし、x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)となる原子数比で含み、平均粒径が2.0μm〜7.0μmであり、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる前駆体とリチウム化合物を、リチウム以外の金属元素の原子数Meに対するリチウムの原子数Liの比Li/Meが1.16〜1.84となるように混合し、酸化性雰囲気中で焼成する焼成工程により、一般式(A):bLi2MnO3・(1−b)Li1+uNixCoyMnzt2(ただし、0.2≦b≦0.8、−0.05≦u≦0.2、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.4、0.2≦y≦0.8、0.1≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、六方晶系の層状構造を有するリチウム過剰複合酸化物粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0053】
特に、本発明のリチウム過剰複合酸化物粒子の製造方法は、焼成工程が、
(a)前駆体に、上述したリチウム化合物の30%〜80%を混合し、第1リチウム混合物を得る、第1混合工程と、
(b)第1リチウム混合物を焼成し、焼結粒子を得る、第1焼成工程と、
(c)焼結粒子に、リチウム化合物の残りを混合し、第2リチウム混合物を得る、第2混合工程と、
(d)第2リチウム混合物を焼成し、リチウム過剰複合酸化物粒子を得る、第2焼成工程と、
を備えることを特徴とする。
【0054】
(1)前駆体
本発明の正極活物質の前駆体としては、ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mを、Ni:Co:Mn:M=x:y:z:t(ただし、x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)となる原子数比で含み、平均粒径が2.0μm〜7.0μmであり、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子である限り、特に制限されることはない。たとえば、晶析反応によって得られる複合水酸化物粒子や複合炭酸塩粒子もしくはこれらを熱処理することにより得られる遷移金属複合酸化物粒子、または、これらの混合物を好適に用いることができる。また、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩および添加元素Mの塩の混合粉末を噴霧熱分解法やスプレードライ法などで造粒した、造粒粉末も、好適に用いることができる。
【0055】
これらの中でも、工業規模の製造において、分子レベルで均一な組成を有し、かつ、目的とする正極活物質を容易に得ることができる、一般式(B):NixCoyMnzt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される複合水酸化物粒子を、前駆体として用いることが特に好ましい。
【0056】
[組成]
前駆体としては、ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mを、上述した組成で含むことが必要となる。これにより、一般式(A)で表される正極活物質を容易に得ることができる。
【0057】
すなわち、ニッケルの含有量を示すxの値は、0.05〜0.3、好ましくは0.10〜0.25、より好ましくは0.10〜0.20に調整することが必要となる。
【0058】
コバルトの含有量を示すyの値は、0.1〜0.4、好ましくは0.1〜0.3、より好ましくは0.1〜0.2に調整することが必要となる。
【0059】
マンガン(Mn)の含有量を示すzの値は、0.6〜0.8、好ましくは0.60〜0.75、より好ましくは0.60〜0.70に調整することが必要となる。
【0060】
添加元素Mの含有量を示すtの値は、0.1以下に調整することが必要となる。
【0061】
[粒子構造]
前駆体は、リチウムと混合し、焼成する際に、粒子内部にまでリチウムを均一に拡散可能な粒子構造を備えていることが必要となる。すなわち、前駆体としては、図2に示すように、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成されることが必要となる。
【0062】
[平均粒径]
前駆体の平均粒径は、2.0μm〜7.0μm、好ましくは2.0μm〜6.0μmに調整される。これにより、この前駆体より得られる正極活物質の平均粒径を所定の範囲(2.0μm〜6.0μm)に容易に調整することができる。これに対して、平均粒径が2.0μm未満では、得られる正極活物質の平均粒径も小さくなり、正極の充填密度の減少による充放電容量の低下や、比表面積の増大によるサイクル特性の低下などの問題が生じる。一方、平均粒径が7.0μmを超えると、正極活物質の比表面積が著しく小さくなり、出力特性の低下を招くこととなる。
【0063】
なお、平均粒径とは、正極活物質の場合と同様に、体積基準平均粒径(D50)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0064】
(2)リチウム化合物
前駆体と混合するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、たとえば、入手の容易性から、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムの群から選択される1種以上を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0065】
また、第1混合工程および第2混合工程において、上述した前駆体と混合するリチウム化合物の総量は、リチウム以外の金属元素の原子数Meに対する、リチウムの原子数Liの比Li/Meが1.16〜1.84、好ましくは1.20〜1.80、より好ましくは1.30〜1.70、さらに好ましくは1.40〜1.60となるように調整されることが必要となる。なお、第1混合工程および第2混合工程において、前駆体と混合するリチウム化合物は、Li/Meを上記範囲に調整することができる限り、必ずしも同一種類のものを用いる必要はない。
【0066】
(3)焼成工程
(3−a)第1混合工程
第1混合工程では、前駆体に、上述したリチウム化合物の30%〜80%を混合し、第1リチウム混合物を得る工程である。すなわち、第1混合工程で混合するリチウム化合物に含まれるリチウムの原子数をLi1、第2混合工程で混合するリチウム化合物に含まれるリチウムの原子数をLi2(ただし、Li1+Li2=Li)とした場合に、第1混合工程におけるリチウム化合物の混合量を、Li1/Liが30%〜80%、好ましくは40%〜70%、より好ましくは50%〜70%となるように調整することが必要となる。これにより、次述する第1焼成工程において、リチウムを均一に拡散させつつ、化学量論組成に対してリチウムが不足した欠陥部を意図的に導入することができる。この結果、リチウムが焼結粒子内を自由に移動することが可能となる。また、それぞれの二次粒子を構成する一次粒子同士が焼結により一体化し、かつ、一体化した粒子の焼結による粒成長が促進され、得られる焼結粒子を単分散性の一次粒子とすることができる。
【0067】
これに対して、Li1/Liが30%未満では、焼結粒子内に欠陥部を導入することができるものの、リチウムの量が少なすぎるため、組成が不均一となり、焼結粒子内にリチウムが全く存在しない領域が生じる。一方、Li1/Liが80%を超えると、欠陥部を十分に導入することができないため、リチウムが焼結粒子内を自由に移動することができなくなる。したがって、いずれの場合も、前駆体の二次粒子の焼結による一次粒子化およびその粒成長が促進されず、得られる焼結粒子を単分散性の一次粒子とすることができない。
【0068】
なお、第1リチウム混合物は、第1焼成工程前に、微粉が生じない程度に十分に混合しておくことが好ましい。混合が十分でないと、個々の粒子間でLi1/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性が得られない場合がある。混合には、一般的な混合機、たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0069】
(3−b)第1焼成工程
第1焼成工程は、第1混合工程で得られた第1リチウム混合物を所定条件で焼成することにより、上述した比率でリチウムを含有するリチウム遷移金属複合酸化物粒子からなる焼結粒子を形成するとともに、この焼結粒子を単分散性の一次粒子化する工程である。
【0070】
なお、第1焼成工程で用いる炉は、大気ないしは酸素気流中で第1リチウム混合物を焼成することができる限り、特に制限されることはなく、バッチ式または連続式の炉のいずれも用いることができる。この点は、後述する第2焼成工程も同様である。
【0071】
[第1焼成温度]
第1焼成工程における焼成温度(第1焼成温度)は、好ましくは800℃〜1000℃、より好ましくは900℃〜1000℃とする。第1焼成温度が800℃未満では、前駆体中へのリチウムの拡散が不十分となり、余剰のリチウムや未反応の前駆体が残存し、または、結晶構造が不均一となるため、焼結が十分に進行せず、一次粒子化が阻害されるおそれがある。一方、第1焼成温度が1000℃を超えると、焼結粒子間でも強い焼結が生じ、これらの粒子間の焼結ネッキングによって、粗大化焼結粒子が生成されるおそれがある。この粗大化焼結粒子は、後述する解砕工程ではほぐして焼結粒子とすることができないため、より強い力で粉砕することが必要となり、電池特性に悪影響を及ぼす微粉の発生を招く。
【0072】
なお、前駆体とリチウム化合物との反応を均一に進行させる観点から、少なくとも室温から第1焼成温度までの昇温速度を3℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。また、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、より好ましくは3時間〜5時間保持することで、前駆体とリチウム化合物との反応をより均一に進行させることができる。
【0073】
[第1焼成時間]
第1焼成工程において、第1焼成温度で保持する時間(第1焼成時間)は、2時間以上とすることが好ましく、4時間〜10時間とすることがより好ましい。第1焼成時間が2時間未満では、前駆体中へのリチウムの拡散が不十分となり、余剰のリチウムや未反応の前駆体が残存し、または、結晶構造が不均一なものとなるため、焼結が十分に進行せず、一次粒子化が阻害されるおそれがある。
【0074】
なお、第1焼成時間の経過後、第1焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度を2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。これにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することを防止することができる。
【0075】
[焼成雰囲気]
第1焼成工程における雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましく、電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことがより好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、焼結粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0076】
(3−c)第2混合工程
第2混合工程は、第1焼成工程で得られた焼結粒子に、上述したリチウム化合物の残りの20%〜70%を混合し、第2リチウム混合物を得る工程である。リチウム化合物の混合量の臨界的意義や混合方法については、第1混合工程と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0077】
(3−d)第2焼成工程
第2焼成工程は、第2混合工程で得られた第2リチウム混合物を所定条件で焼成することにより、焼結粒子中にリチウムを拡散させ、本発明のリチウム過剰複合酸化物粒子からなる正極活物質を合成する工程である。
【0078】
[第2焼成温度]
第2焼成工程における焼成温度(第2焼成温度)は、好ましくは800℃〜1000℃、より好ましくは900℃〜1000℃とする。第2焼成温度が800℃未満では、焼結粒子中へのリチウムの拡散が不十分となり、余剰のリチウムやリチウム過剰複合酸化物粒子内にリチウムが不足した領域が生じたり、結晶構造が不均一なものとなったりする。一方、第2焼成温度が1000℃を超えると、リチウム過剰複合酸化物粒子間で激しい焼結が生じ、これらの粒子間の焼結ネッキングによって、リチウム過剰複合酸化物粒子が粗大化するおそれがある。粗大化した粒子は、後述する解砕工程ではほぐしてリチウム過剰複合酸化物とすることができないため、より強い力で粉砕することが必要となり、電池特性に悪影響を及ぼす微粉の発生を招く。
【0079】
なお、焼結粒子とリチウム化合物との反応を均一に進行させる観点から、少なくとも500℃から第2焼成温度までの昇温速度を3℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜8℃/分とすることがより好ましい。また、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、より好ましくは3時間〜5時間保持することで、焼結粒子とリチウム化合物との反応をより均一に進行させることができる。
【0080】
[第2焼成時間]
第2焼成工程において、第2焼成温度で保持する時間(第2焼成時間)は、2時間以上とすることが好ましく、4時間〜10時間とすることがより好ましい。第2焼成時間が2時間未満では、焼結粒子中へのリチウムの拡散が不十分となり、余剰のリチウムや未反応の前駆体が残存したり、結晶構造が不均一なものとなったりすることおそれがある。
【0081】
なお、第2焼成時間の経過後、第2焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度を2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。これにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
【0082】
[焼成雰囲気]
第2焼成工程における雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましく、電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことがより好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、正極活物質の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0083】
(4)解砕工程
第1焼成工程によって得られる焼結粒子や第2焼成工程によって得られるリチウム過剰複合酸化物粒子は、部分的に粒子同士が軽度に焼結し、前記焼結粒子または前記リチウム過剰複合酸化物が凝集体を形成している場合がある。このような場合には、これらの凝集体をわずかな力で解砕することが好ましい。第1焼成工程後に焼結粒子の凝集体を解砕する操作により、第2混合工程において、リチウム化合物との混合を均一化することができる。あるいは、第2焼成工程後にリチウム過剰複合酸化物粒子の凝集体を解砕する操作により、得られる正極活物質の平均粒径を所望の範囲に調整することができる。ここで、解砕とは、焼成時に粒子間の軽度の焼結ネッキングなどにより生じた凝集体に、機械的エネルギを投入して、粒子自体を破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0084】
なお、このような凝集体を構成する一次粒子はいずれの場合でも、粒子強度が高く、かつ、粒子のエッジ部が丸みを帯びているため、凝集体をほぐす程度の力(解砕力)では、微粉が発生することはない。
【0085】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを用いることができる。
【0086】
3.非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水系電解液などの、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0087】
(1)構成部材
(1−a)正極
本発明により得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0088】
まず、本発明により得られた粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
【0089】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧してもよい。このようにして、シート状の正極を作製することができる。この正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断して、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることはなく、他の方法によってもよい。
【0090】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0091】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0092】
このほか、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0093】
(1−b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0094】
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0095】
(1−c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に制限されることはない。
【0096】
(1−d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0097】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0098】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびこれらの複合塩などを用いることができる。
【0099】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0100】
(2)非水系電解質二次電池
以上の正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0101】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層することにより電極体とし、これを非水系電解液に含浸し、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続した後、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0102】
(3)非水系電解質二次電池の特性
本発明の非水系電解質二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、高い初期放電容量および低い正極抵抗が得られ、高容量で高出力となる。しかも、従来のリチウムニッケル系複合酸化物粒子からなる正極活物質との比較においても、熱安定性が高く、安全性やサイクル特性においても優れているといえる。
【0103】
たとえば、本発明の正極活物質を用いて、図3に示すような2032型コイン電池を構成した場合、充放電容量、出力特性およびサイクル特性を同時に向上させることができる。具体的には、初期放電容量を250mAh/g以上、好ましくは260mAh/g以上、より好ましくは265mAh/g以上とすることができる。また、正極抵抗を50Ω以下、好ましくは45Ω以下、より好ましくは40Ω以下とすることができる。さらに、200サイクル容量維持率を70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上とすることができる。
【0104】
(4)用途
本発明の非水系電解質二次電池は、上述のように、高容量かつ高出力であり、安全性にも優れるため、小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。また、このような本発明の非水系電解質二次電池は、小型化が可能であり、高価な保護回路を簡略化することもできるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。なお、すべての実施例および比較例を通じて、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池の作製には、特段の断りがない限り、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0106】
(実施例1)
[複合水酸化物粒子の製造]
吐出口の付いた反応槽(34L)内に、水を半分の量まで入れて攪拌しながら、槽内温度を50℃に調整した。この際、反応槽内に窒素を導入し、反応槽内を酸素濃度が1容量%以下の窒素雰囲気とした。
【0107】
同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、各金属元素のモル数が、Ni:Co:Mn=0.167:0.167:0.666となるように溶解し、1.8mol/Lの混合水溶液を調製した。
【0108】
次に、反応槽内の水に、混合水溶液と25質量%のアンモニア水溶液を所定の流量で連続的に供給しながら、反応槽内の水溶液の液温25℃基準におけるpH値が11.0の一定値に維持されるように、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適時供給することにより、複合水酸化物粒子を晶析させた。なお、本実施例の晶析反応では、複合水酸化物粒子の平均滞留時間を9時間とし、反応槽内が平衡状態となった後、この複合水酸化物粒子を含むスラリーを吐出口よりオーバーフローさせて、連続的に回収した。
【0109】
このようにして得られたスラリーを固液分離した後、乾燥することにより、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。
【0110】
[複合水酸化物の分析]
得られた複合水酸化物粒子の一部を無機酸で溶解し、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE−9000)により分析したところ、その組成は、一般式:Ni0.169Co0.164Mn0.667(OH)2+a(0≦a≦0.5)で表されることが確認された。
【0111】
続いて、この複合水酸化物粒子の平均粒径(D50)をレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定したところ、4.1μmであることが確認された。
【0112】
次に、この複合水酸化物粒子を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工により断面観察が可能な状態とした上で、その粒子構造をSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、S−4700)を用いて観察(倍率:3000倍)した。この結果、この複合水酸化物粒子は、複数の板状一次粒子がランダム方向に凝集して形成された略球状の二次粒子であること、および、二次粒子の粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。以上の結果を表1および図2に示す。
【0113】
[正極活物質の製造]
はじめに、得られた複合水酸化物粒子に含まれるリチウム以外の金属元素の原子数Meに対するリチウムの原子数Liの比Li/Meが1.50となるように炭酸リチウムを秤量した。この炭酸リチウムの50%(Li1/Li=0.50)を、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて、上述した複合水酸化物粒子と混合し、第1リチウム混合物を得た(第1混合工程)。
【0114】
次に、第1リチウム混合物を大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)中、昇温速度5℃/分で950℃まで昇温し、この温度で6時間保持することにより、焼結粒子を得た。保持終了後、焼結粒子を冷却速度5℃/分で室温まで冷却したところ、一部の粒子同士が軽度に焼結し、凝集体を形成していることが確認された。このため、焼結粒子を、ハンマーミルを用いて、微粉が発生しないように低速かつ低トルクで処理することにより解砕した(第1焼成工程、解砕工程)。
【0115】
解砕後、焼結粒子に、上述した炭酸リチウムの残り(Li2/Li=0.50)を同様にして混合し、第2リチウム混合物を得た(第2混合工程)。
【0116】
続いて、第2リチウム混合物を大気雰囲気中、昇温速度5℃/分で950℃まで昇温し、この温度で10時間保持することにより、リチウム過剰複合酸化物粒子を得た。保持終了後、リチウム過剰複合酸化物粒子を冷却速度5℃/分で室温まで冷却したところ、粒子同士が軽度に焼結し、凝集体を形成していることが確認された。このため、このリチウム過剰複合酸化物粒子を同様にして解砕し、正極活物質を得た(第2焼成工程、解砕工程)。
【0117】
[正極活物質の分析]
ICP発光分光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、一般式:Li1.50Ni0.167Co0.167Mn0.6662.5(0.5Li2MnO3・0.5Li1.00Ni0.334Co0.334Mn0.3322)で表されるものであることが確認された。
【0118】
続いて、この正極活物質の平均粒径(D50)を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、3.8μmであることが確認された。
【0119】
次に、この正極活物質の粒子構造SEMを用いて観察(倍率:3000倍)した。この結果、この正極活物質は、単分散性の一次粒子により構成されることが確認された。
【0120】
さらに、この正極活物質の比表面積を流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、マルチソーブ)により、タップ密度をタッピングマシン(株式会社蔵持科学器械製作所、KRS−406)により測定した。この結果、比表面積は2.1m2/gであり、タップ密度は2.2g/cm3であることが確認された。以上の結果を表2、3および図1に示す。
【0121】
[二次電池の作成]
この正極活物質を用いて、図3に示すような2032型コイン電池1を作製した。この2032型コイン電池1は、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。
【0122】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0123】
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0124】
なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密かつ液密に遮断する機能も有している。
【0125】
この2032型コイン電池1を、以下のようにして作製した。はじめに、上述の正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、コイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0126】
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ3cには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0127】
[電池評価]
得られた2032型コイン電池1について、以下のa)〜c)について評価を行った。
【0128】
a)初期放電容量
2032型コイン電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2として、カットオフ電圧が4.8Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が2.5Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行い、初期放電容量を求めた。この際、充放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0129】
b)サイクル特性
正極に対する電流密度を2.0mA/cm2として、4.8Vまで充電して2.0Vまで放電を行うサイクルを200回繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して容量維持率(200サイクル容量維持率)を求めた。
【0130】
c)正極抵抗
充電電位4.1Vで充電した2032型コイン電池1を用いて、交流インピーダンス法により抵抗値を測定し、図4に示すナイキストプロットを得た。なお、測定には、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用した。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表れているため、等価回路を用いてフィッティング計算し、正極抵抗の値を算出した。
【0131】
以上の評価の結果、本実施例の2032型コイン電池1は、初期放電容量が265mAh/g、正極抵抗が41Ω、200サイクル容量維持率が76%であることが確認された。これらの結果を表4に示す。
【0132】
(実施例2)
前駆体として、平均粒径が3.2μmの複合水酸化物粒子を用いたこと(晶析反応における平均滞留時間を5時間としたこと)、および、Li1/Liを73%としたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0133】
(実施例3)
前駆体として、平均粒径が6.5μmの複合水酸化物粒子を用いたこと(晶析反応における平均滞留時間を12時間としたこと)、および、Li1/Liを38%としたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0134】
(実施例4)
はじめに、水酸化ニッケル粉末、水酸化コバルト粉末および水酸化マンガン粉末を、Ni:Co:Mn=0.167:0.167:0.666となる原子数比で含む混合粉末に、スラリー濃度が200g/Lとなるように純水を加え、ビーズミル粉砕機で4時間微粉砕した。次に、このスラリーを、スプレードライ装置を用いて造粒し、平均粒径(D50)が4.6μmで、球状の造粒粉末を作製した。
【0135】
続いて、前駆体として、この造粒粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0136】
(実施例5)
Li1/Liを80%としたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0137】
(実施例6)
Li1/Liを30%としたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0138】
(実施例7)
前駆体として、一般式:Ni0.160Co0.165Mn0.6550.02(OH)2+a(0≦a≦0.5)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、平均粒径が4.1μmである複合水酸化物粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0139】
(比較例1)
前駆体として、平均粒径が1.8μmの複合水酸化物粒子を用いたこと(晶析反応における平均滞留時間を3時間としたこと)、および、Li1/Liを80%としたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0140】
(比較例2)
前駆体として、平均粒径が8.2μmの複合水酸化物粒子を用いたこと(晶析反応における平均滞留時間を17時間としたこと)、および、Li1/Liを30%としたこと以外は、実施例1と同様にして、単分散性の一次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0141】
(比較例3)
Li1/Liを10%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0142】
(比較例4)
Li1/Liを90%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0143】
(比較例5)
第1混合工程および第1焼成工程を行わなかったこと、および、Li2/Liを100%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0144】
(比較例6)
Li1/Liを100%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される正極活物質および二次電池を得るとともに、その評価を行った。この結果を表1〜3に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
[評価]
表1〜3より、本発明の製造方法にしたがって製造された実施例1〜7の正極活物質は、平均粒径が2.0μm〜6.0μmの範囲にある、単分散性の一次粒子により構成されることが確認される。また、実施例1〜7の正極活物質を用いた二次電池は、250mAh/g以上の初期放電容量と、50Ω以下の正極抵抗と、70%以上の200サイクル容量維持率を同時に達成可能であることが確認される。
【0149】
これに対して、比較例1の正極活物質は、単分散性の一次粒子により構成されるものの、平均粒径が小さすぎたため、比表面積が増大し、200サイクル容量維持率が劣ったものとなっていることが確認される。また、比較例2の正極活物質は、同様に、単分散性の一次粒子により構成されるものの、平均粒径が大きすぎたため、比表面積が著しく小さくなり、正極抵抗が上昇していることが確認される。
【0150】
比較例3〜6はいずれも、Li1/Liが30%〜80%の範囲から外れる例である。これらの比較の正極活物質は、二次粒子から構成されており、粒子内に粒界が非常に多く存在していることに起因して、正極抵抗が大きな値を示していることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0151】
以上より、本発明の非水系電解質二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適に用いることができる。また、この非水系電解質二次電池は、安全性にも優れ、小型化や高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0152】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ
図1
図2
図3
図4