(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。また、本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に単独で取り付けて、放熱シートとして使用することもできる。即ち、本発明の熱伝導シートは、単独で、或いは、放熱体と組み合わせて、放熱装置を構成することができる。
そして、本発明の熱伝導シートは、例えば本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。
【0026】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、樹脂と、炭素材料とを含有する。また、本発明の熱伝導シートは、少なくとも一方の主面(熱伝導シートの厚さ方向に直交する面の少なくとも一方)の十点平均表面粗さが40μm以下である。そして、本発明の熱伝導シートは、少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下であるので、熱放射性に優れている。従って、本発明の熱伝導シートを単独で発熱体に取り付けた場合には、放熱体を使用することなく、熱伝導シート自体を放熱シートとして有効に利用することができる。また、本発明の熱伝導シートをヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と組み合わせて使用した場合には、発熱体と放熱体との間に挟みこまれた熱伝導シートの前記主面のうち、放熱体や発熱体と接触していない部分からも効果的に熱を放散することができる。その結果、発熱体で生じた熱を省スペースで効率的に放散させることができる。また、本発明の熱伝導シートは、樹脂と、炭素材料との双方を含有しているので、熱伝導性を十分に高いレベルで維持させることもできる。
【0027】
なお、本発明の熱伝導シートでは、前記少なくとも一方の主面(十点平均表面粗さが40μm以下の主面)からの熱放射が促進されることにより熱放射性が向上する。従って、本発明の熱伝導シートは、通常、十点平均表面粗さが40μm以下の主面の少なくとも一部が熱を放散させる空間と接触する(換言すれば、十点平均表面粗さが40μm以下の主面が、発熱体または放熱体などと接触しない非取付部を有する)形態で使用される。従って、取り付け方向に関係なく両方の主面から熱放射を促進し得るようにする観点からは、本発明の熱伝導シートは、両方の主面(表面および裏面)の十点平均表面粗さが40μm以下であることが好ましい。
【0028】
<樹脂>
ここで、樹脂としては、特に限定されることなく、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の樹脂を用いることができる。具体的には、樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂とは併用してもよい。
【0029】
[熱可塑性樹脂]
なお、熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル酸とアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体、ポリ(アクリル酸2−エチルヘキシル)、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン−プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン−アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン−ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン−イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
[熱硬化性樹脂]
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上述した中でも、熱伝導シートの樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、アクリル樹脂を用いることがより好ましく、アクリル酸とアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体を用いることが更に好ましい。アクリル樹脂をはじめとする熱可塑性樹脂を用いれば、熱伝導シートの柔軟性を更に向上させ、熱伝導シートを介した発熱体と放熱体との密着性、または発熱体と熱伝導シート自体との密着性を良好なものにすることができるからである。
【0032】
<炭素材料>
炭素材料としては、特に限定されることなく、既知の炭素材料を用いることができる。具体的には、炭素材料としては、粒子状炭素材料や繊維状炭素材料などを用いることができる。なお、粒子状炭素材料と繊維状炭素材料とは、何れか一方を単独で使用してもよいし、両方を併用してもよい。
【0033】
[粒子状炭素材料]
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性および熱放射性を更に向上させることができるからである。
【0034】
[[膨張化黒鉛]]
ここで、粒子状炭素材料として好適に使用し得る膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも製品名)等が挙げられる。
【0035】
[[粒子状炭素材料の性状]]
ここで、熱伝導シートの形成に用いられる粒子状炭素材料の粒子径としては、個数基準のモード径で、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料の個数基準のモード径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性および熱放射性を更に向上させることができるからである。
また、粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0036】
なお、本発明において「個数基準のモード径」は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて測定することができる。具体的には、熱伝導シートの形成に用いられる粒子状炭素材料を、メチルエチルケトンに分散させた懸濁液を用い、前記懸濁液に含まれる粒子状炭素材料の粒子径を測定する。得られた粒子径を横軸とし、粒子状炭素材料の個数を縦軸とした粒子径分布曲線の極大値における粒子径を、粒子状炭素材料の個数基準のモード径として求めることができる。
また、本発明において、「アスペクト比」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて求めることができる。具体的には、熱伝導シートの形成に用いられる粒子状炭素材料を観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径との比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0037】
[[粒子状炭素材料の含有割合]]
そして、熱伝導シート中の粒子状炭素材料の含有割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましく、70質量%以下であることが一層好ましい。熱伝導シート中の粒子状炭素材料の含有割合が30質量%以上90質量%以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性および強度をバランス良く高めることができるからである。
【0038】
[繊維状炭素材料]
繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、及びそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)を含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性および熱放射性を更に向上させることができるからである。
【0039】
[[CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体]]
繊維状炭素材料として好適に使用し得る、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTのみから構成されていてもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
【0040】
例えば、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、非円筒形状の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、例えば、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
【0041】
ここで、GNTは、その合成時から内壁同士が近接または接着したテープ状部分が全長に亘って形成されており、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成された物質であると推定される。そして、GNTの形状が扁平筒状であり、かつ、GNT中に内壁同士が近接または接着したテープ状部分が存在していることは、例えば、GNTとフラーレン(C60)とを石英管に密封し、減圧下で加熱処理(フラーレン挿入処理)して得られるフラーレン挿入GNTを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、GNT中にフラーレンが挿入されない部分(テープ状部分)が存在していることから確認することができる。
【0042】
なお、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、熱伝導シートの熱伝導性、熱放射性および強度を更に向上させることができるからである。
【0043】
−CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の性状−
CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても熱伝導シートの熱伝導性、熱放射性、および強度を十分に高めることができるので、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導性、熱放射性、柔軟性および強度を十分に高いレベルで並立させた熱伝導シートを得ることができる。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0044】
そして、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0045】
CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性、熱放射性、および強度を十分に高めることができる。
ここで、平均直径(Av)は、上述した方法により透過型電子顕微鏡を用いて求めることができる。
【0046】
更に、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることが更に好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることが更に好ましい。更に、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m
2/g以上であることが好ましい。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m
2/g以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性、熱放射性、および強度を十分に高めることができる。また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m
2/g以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して熱伝導シート中のCNTの分散性を高めることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0047】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0048】
なお、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体には、上述したグラフェンナノテープ(GNT)が含まれていてもよい。
【0049】
[[繊維状炭素材料の性状]]
繊維状炭素材料の平均繊維径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性、熱放射性、柔軟性および強度を十分に高いレベルで並立させることができるからである。ここで、繊維状炭素材料のアスペクト比は、10を超えることが好ましい。
【0050】
なお、本発明において、「平均繊維径」は、熱伝導シートの形成に用いられる繊維状炭素材料をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均値を算出することにより求めることができる。
【0051】
[繊維状炭素材料の含有割合]
熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が0.05質量%以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性、熱放射性および強度を十分に向上させることができるからである。更に、熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が5質量%以下であれば、繊維状炭素材料の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導性、熱放射性、柔軟性および強度を十分に高いレベルで並立させた熱伝導シートを得ることができるからである。
【0052】
<添加剤>
熱伝導シートには、必要に応じて、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の添加剤を配合することができる。そして、熱伝導シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、セバシン酸などの可塑剤;赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤などの難燃剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。
【0053】
<熱伝導シートの性状>
そして、本発明の熱伝導シートは、特に限定されることなく、以下の性状を有していることが好ましい。
【0054】
[表面粗さ]
熱伝導シートは、少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さRzが40μm以下であることが必要である。熱伝導シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下であれば、熱伝導シートの熱放射性を高めることができる。従って、例えば熱伝導シートを発熱体上に接着して使用した場合、または発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、熱伝導シートを介して発熱体から熱を効率的に放散することができる。なお、熱伝導シートの熱放射性を更に高める観点からは、少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さは35μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。さらに、熱伝導シートの熱放射性をより一層高める観点、および熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用する際に、シートの方向を考慮することなく取り付けることができる実用上の利点の観点からは、両主面の十点平均表面粗さが、それぞれ上記の範囲内であることが更に好ましい。また、熱伝導シートの前記主面の十点平均表面粗さは、通常、20μm以上である。
【0055】
[熱伝導率]
熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、20W/m・K以上であることが好ましく、30W/m・K以上であることがより好ましく、40W/m・K以上であることが更に好ましい。熱伝導率が20W/m・K以上であれば、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えることができる。
【0056】
[厚み]
なお、熱伝導シートの厚みは、好ましくは0.1mm以上10mm以下である。
【0057】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂と、炭素材料とを含むシートを準備する工程(A)と、前記シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下にする工程(B)とを含む。このように、シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下に調整すれば、熱放射性に優れた熱伝導シートが得られる。また、樹脂と、炭素材料とを含むシートを使用すれば、熱伝導性に優れる熱伝導シートが得られる。
【0058】
<工程(A)>
工程(A)では、樹脂と、炭素材料とを含むシートを準備する。ここで、樹脂と、炭素材料とを含むシートは、特に限定されることなく、例えば、樹脂と、炭素材料とを含む組成物を使用し、既知の方法を用いて形成することができる。中でも、シートは、シート形成時に既知の手法を用いて炭素材料をシートの厚み方向に配向させる工程を経て製造することが好ましく、樹脂と炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形してプレ熱伝導シートを得る工程(プレ熱伝導シート形成工程)と、得られたプレ熱伝導シートを用いて積層体を形成する工程(積層体形成工程)と、積層体をスライスする工程(スライス工程)とを経て製造することがより好ましい。なお、工程(A)で調製されるシートは、通常、主面の十点平均表面粗さが40μm超である。
以下、工程(A)の一例として、プレ熱伝導シート形成工程、積層体形成工程、およびスライス工程を順次実施してシートを得る場合について説明する。
【0059】
[プレ熱伝導シート形成工程]
プレ熱伝導シート形成工程では、樹脂と、炭素材料とを含み、任意に添加剤を更に含有する組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0060】
[[組成物]]
ここで、組成物は、樹脂および炭素材料と、任意の添加剤とを混合して調製することができる。そして、樹脂、炭素材料および添加剤としては、本発明の熱伝導シートに含まれ得る樹脂、炭素材料および添加剤として上述したものを用いることができる。因みに、熱伝導シートの樹脂を架橋型の樹脂とする場合には、架橋型の樹脂を含む組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成してもよいし、架橋可能な樹脂と硬化剤とを含有する組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成し、プレ熱伝導シート成形工程後に架橋可能な樹脂を架橋させることにより、熱伝導シートに架橋型の樹脂を含有させてもよい。
【0061】
なお、混合は、特に限定されることなく、ニーダー、ホバートミキサーやハイスピードミキサーなどのミキサー、二軸混練機、ロール等の既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。そして、混合時間は、例えば5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
【0062】
なお、炭素材料として繊維状炭素ナノ構造体を含む炭素材料を使用する場合、繊維状炭素ナノ構造体は、凝集し易く、分散性が低いため、そのままの状態で樹脂などの他の成分と混合すると、組成物中で良好に分散し難い。一方、繊維状炭素ナノ構造体は、溶媒(分散媒)に分散させた分散液の状態で樹脂などの他の成分と混合すれば凝集の発生を抑制することはできるものの、分散液の状態で混合した場合には混合後に固形分を凝固させて組成物を得る際などに多量の溶媒を使用するため、組成物の調製に使用する溶媒の量が多くなる虞が生じる。そのため、プレ熱伝導シートの形成に用いる組成物に繊維状炭素ナノ構造体を配合する場合には、繊維状炭素ナノ構造体は、溶媒(分散媒)に繊維状炭素ナノ構造体を分散させて得た分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素ナノ構造体の集合体(易分散性集合体)の状態で他の成分と混合することが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素ナノ構造体の集合体は、一度溶媒に分散させた繊維状炭素ナノ構造体で構成されており、溶媒に分散させる前の繊維状炭素ナノ構造体の集合体よりも分散性に優れているので、分散性の高い易分散性集合体となる。従って、易分散性集合体と、樹脂などの他の成分とを混合すれば、多量の溶媒を使用することなく効率的に、組成物中で繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させることができる。
【0063】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の分散液は、例えば、溶媒に対して繊維状炭素ナノ構造体を添加してなる粗分散液を、キャビテーション効果が得られる分散処理または解砕効果が得られる分散処理に供して得ることができる。なお、キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。そして、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波ホモジナイザーによる分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌装置による分散処理が挙げられる。また、解砕効果が得られる分散処理は、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷することで、気泡の発生を抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中に均一に分散させる分散方法である。そして、解砕効果が得られる分散処理は、市販の分散システム(例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)など)を用いて行うことができる。
【0064】
また、分散液からの溶媒の除去は、乾燥やろ過などの既知の溶媒除去方法を用いて行うことができるが、迅速かつ効率的に溶媒を除去する観点からは、減圧ろ過などのろ過を用いて行うことが好ましい。
【0065】
[[組成物の成形]]
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形してなるシートを、プレ熱伝導シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0066】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば特に限定されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形によりシート状に形成することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に限定されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下、ロール間隙は50μm以上2500μm以下、ロール線圧は1kg/cm以上3000kg/cm以下、ロール速度は0.1m/分以上20m/分以下とすることができる。
【0067】
そして、上述のようにして形成したプレ熱伝導シートでは、炭素材料が主として面内方向に配列し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
なお、プレ熱伝導シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、炭素材料が粒子状炭素材料を含む場合、熱伝導シートの熱伝導性および熱放射性を更に向上させる観点からは、プレ熱伝導シートの厚みは、熱伝導シートの形成に用いられる粒子状炭素材料の個数基準のモード径の4倍超5000倍以下であることが好ましい。
【0068】
[積層体形成工程]
積層体形成工程では、プレ熱伝導シート成形工程で得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートの折畳による積層体の形成は、特に限定されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの捲回による積層体の形成は、特に限定されることなく、プレ熱伝導シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導シートを捲き回すことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの積層による積層体の形成は、特に限定されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0069】
なお、層間剥離を抑制する観点からは、得られた積層体は、積層方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力で押し付けながら、120℃以上170℃以下で2〜8時間加熱することが好ましい。ここで、層間剥離の防止は、積層体を形成する際に接着剤または溶剤をプレ熱伝導シートに塗布し、プレ熱伝導シート同士を接着させることにより行ってもよいが、シートを効率的に製造する観点からは、接着剤または溶剤は使用しないことが好ましい。
【0070】
そして、プレ熱伝導シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、炭素材料が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。
【0071】
[スライス工程]
スライス工程では、積層体形成工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、ワイヤーソー法、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカッター、カンナ、スライサー)を用いることができる。
【0072】
なお、熱伝導シートの熱伝導性および熱放射性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが更に好ましい。
【0073】
そして、スライス工程を経て得られたシートを用いて形成した熱伝導シートは、通常、樹脂と炭素材料とを含む条片(積層体を構成していたプレ熱伝導シートのスライス片)が並列接合されてなる構成を有する。
【0074】
<工程(B)>
また、工程(B)では、工程(A)で調製したシートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下に平滑化する。ここで、前記シートの前記主面の平滑化は、特に限定されることなく、例えば、前記主面(平滑化する主面)に有機溶剤を接触させる方法(溶剤接触法)や、前記主面を研磨する方法(研磨法)により行うことができる。なお、溶剤接触法と研磨法とは併用してもよく、併用する場合の実施順序は特に限定されない。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0075】
[溶剤接触法]
溶剤接触法では、工程(A)により得られたシートの少なくとも一方の主面に対して、有機溶剤を接触させて前記主面を平滑化する。ここで、シートの主面の十点平均表面粗さを容易に調整する観点からは、溶剤接触法では、前記主面に対して有機溶剤を接触させる溶剤接触工程を行った後、有機溶剤を接触させた主面に圧力を負荷する圧力負荷工程を実施することが好ましい。
なお、前述した、樹脂と炭素材料とを含む条片が並列接合されてなる構成を有するシートに対して溶剤接触法による平滑化を行った場合には、有機溶剤の接触により主面を構成する樹脂が溶解することで、シート形成時に接着剤を使用しなくても、条片間の接合を更に強化することができる。
【0076】
[[溶剤接触工程]]
溶剤接触工程において、有機溶剤は、特に限定されることなく、シートに対する有機溶剤の塗工または有機溶剤中へのシートの浸漬などによって前記シートの前記主面に接触させることができる。
【0077】
主面に接触させる有機溶剤としては、熱伝導シートの主面を構成する樹脂を溶解させ得る有機溶剤であれば特に限定なく、例えば無極性有機溶剤であるヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、塩化メチレン、テトラヒドロフランや、極性有機溶剤であるアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンアセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、エタノール、メタノール、ギ酸などを使用することができる。中でも、メチルエチルケトンが好ましい。
【0078】
シートの主面に有機溶剤を塗工する場合、塗工する有機溶剤の量は、2g/m
2以上40g/m
2以下が好ましい。また、有機溶剤にシートを浸漬する場合、浸漬時間は1秒以上20秒以下が好ましい。なお、有機溶剤の塗工は、特に限定なく、例えば刷毛、ローラー、または指などを用いて行うことができる。
【0079】
[[圧力負荷工程]]
圧力負荷工程では、溶剤接触工程を経た主面(有機溶剤を接触させた主面)を加圧することで、有機溶剤との接触により樹脂が溶解したシートの主面を均し、主面の十点平均表面粗さを更に低下させる。加圧作業は、特に限定されることなく、例えばロールを用いてシートの主面を加圧することで行える。なお、主面に負荷する圧力は、特に限定されることなく、例えば、1kN以上100kN以下とすることができる。また、圧力の負荷は、特に限定されることなく、主面に有機溶剤を接触させた後、10秒以上5分以下の間に行うことができ、1分以下の間に行うことが好ましい。
【0080】
[研磨法]
研磨法では、工程(A)により得られたシートを、少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さRzが40μm以下となるまで研磨する。
ここで、研磨は、特に限定されることなく、例えば前記主面を物理的に研削できる工具を用いて行うことができる。具体的には、研磨は紙やすりを用いて手で、または研磨装置(ムサシノ電子社製、型番「MA−150」)を用いて行うことができる。また研磨時間は、特に限定されることなく、10秒以上5分以下とすることができる。紙やすりの番手は、特に限定されることはないが、#800から#2000が望ましい。
【0081】
なお、溶剤接触法と研磨法とを併用する場合、シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを効率的に低下させる観点からは、研磨は、上述の溶剤接触工程を経た熱伝導シートの前記主面に対し、圧力負荷工程を実施することなく行うことが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、熱伝導シートの表面粗さ、熱伝導率、熱放射性、生産性は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0083】
<表面粗さ>
熱伝導シートについて、以下のとおり十点平均表面粗さRz(μm)を測定し、各主面の表面粗さとした。
具体的には、熱伝導シートについて、各主面(表面および裏面)の十点平均表面粗さRz(μm)を、表面粗さ測定機(ミツトヨ社製、製品名「SJ−201」)を使用して測定した。
ここで、十点平均表面粗さRzとは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp1からYp5)の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv1からYv5)の絶対値の平均値との和であり、式(II):
Rz=(|Yp1+Yp2+Yp3+Yp4+Yp5|
+|Yv1+Yv2+Yv3+Yv4+Yv5|)/5 ・・・(II)
によって算出される値である。
【0084】
<熱伝導率>
熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m
2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m
3)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して、温度25℃における熱拡散率を測定した。
[定圧比熱]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、温度25℃における比熱を測定した。
[比重]
自動比重計(東洋精機社製、製品名「DENSIMETER−H」)を用いて、温度25℃における比重を測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
より25℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0085】
<熱放射性>
熱伝導シートについて、熱放射性は、熱伝搬検査装置(べテル社製、製品名「サーマルイメージングスコープTSI」)を用いて測定した。
具体的には、熱伝導シートを載せたアルミ板を台座の上に置き、熱伝導シートとアルミ板との間に目視で確認できる空間が生じない程度に熱伝導シートを上から指で押した。そして、熱伝導シートの裏面温度を70℃に昇温し、維持した。裏面温度が70℃に達してから5分後に、熱伝導シートの主面(表面)の輝度を上記熱伝搬検査装置で測定し、下記の基準に基づいて熱放射性を評価した。輝度の大きさが大きいほど、熱放射性に優れていることを示す。
○:比較例1との輝度の差が100以上
×:比較例1との輝度の差が100未満
【0086】
<生産性>
以下の実施例に記載された積層体形成工程を始めとし、スライス工程、その後のシートの平滑化の完了までに要した時間を測定し、以下の基準で評価した。製造に要する時間が短いほど、生産性に優れていることを示す。
○:15分以下
×:15分超
【0087】
(実施例1)
<熱伝導シートの準備>
[アクリル樹脂の調製]
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94%とアクリル酸6%とからなる単量体混合物100部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.03部および酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換した後、80℃で6時間重合反応を行った。なお、重合転化率は97%であった。そして、得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、アクリル樹脂として、粘性のある固体状の共重合体を得た。
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は270000であり、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は3.1であった。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0088】
[繊維状炭素ナノ構造体の準備]
繊維状炭素ナノ構造体として、スーパーグロース法により調製したSGCNTを準備した。なお、SGCNTの平均直径は3.3nm、(3σ/Av)は0.58、BET比表面積は800m
2/gであった。
【0089】
[易分散性集合体の作製]
約400mgのSGCNTを、2Lのメチルエチルケトンと混合し、ホモジナイザーにより2分間撹拌することにより、SGCNT/メチルエチルケトン分散溶液を作製した。
この分散溶液を、流路0.5mmの湿式ジェットミル((株)常光製、型式「JN20」)に、圧力100MPaの条件下にて2サイクル通過させて、SGCNTの集合体をメチルエチルケトンに分散させることにより、カーボンナノチューブマイクロ分散液を得た。
このカーボンナノチューブマイクロ分散液の濃度は0.20%、中心粒子径は24.1μmであった。なお、中心粒子径はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて測定した。
そして、得られたカーボンナノチューブマイクロ分散液をろ紙(桐山社製、No.5A)を用いて減圧ろ過し、SGCNTの易分散性集合体(不織布シート)を得た。
【0090】
[シートの形成]
粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC50」、個数基準のモード径(測定値):110μm)を200部と、上記アクリル樹脂を100部と、上記SGCNTの易分散性集合体(不織布シート)を1部とを、溶媒としての酢酸エチル20部の存在下においてホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用いて1時間攪拌混合した。
そして、得られた混合物を1時間真空脱泡し、脱泡と同時に酢酸エチルの除去を行って、膨張化黒鉛と、アクリル樹脂と、SGCNTとを含有する組成物を得た。そして、得られた組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
次いで、解砕した組成物5gを、サンドブラスト処理を施した厚さ50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙330μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚さ0.5mmのプレ熱伝導シートを得た(プレ熱伝導シート形成工程)。
【0091】
次に、得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に120枚積層し、厚さ6cmの積層体を得た後に、得られた積層体を手押しにて圧縮し、密着させた(積層体形成工程)。
【0092】
その後、プレ熱伝導シートの積層体をドライアイスで−10℃に冷却した後、積層断面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、カッター(オルファ社製、刃幅サイズは9mm、18mm、折れ線の角度は59度)を用いて、2mm/分の速度で、積層方向に対して0度の角度でスライス(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線方向にスライス)し、縦6cm×横5cm×厚さ0.50mmのシートを得た(スライス工程)。
【0093】
[シートの平滑化]
上述の方法により得られたシート(樹脂と炭素材料とを含むシート)の一方の主面(表面)に対し、温度25℃にて10g/m
2相当のメチルエチルケトン(有機溶剤)を塗工した。そして、有機溶剤の塗工から30秒後に、テープ圧着ロール手動型(テスター産業社製、型式SA−1003−B)を使用して、有機溶剤を塗工した主面を均一化させた。また、裏面に関しても同様の作業を行い、熱伝導シートを得た。
そして、得られた熱伝導シートについて、表面粗さ、熱伝導率、熱放射性および生産性を測定または評価した。結果を表1に示す。
【0094】
<実施例2>
シートの平滑化を以下のようにして行った以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを調製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[シートの平滑化]
上述の方法により得られたシートの両主面を、紙やすり(トラス中山社製、製品名「耐水ペーパー#2000」)を用いて表面が均一になるまで3分間研磨し、熱伝導シートを得た。
【0095】
<実施例3>
シートの平滑化を以下のようにして行った以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを調製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[シートの平滑化]
上述の方法により得られたシートの一方の主面(表面)に対し、温度25℃にて10g/m
2相当のメチルエチルケトン(有機溶剤)を塗工した。そして、有機溶剤の塗工から30秒後に、有機溶剤を塗工した主面を、紙やすり(トラス中山社製、製品名「耐水ペーパー#2000」)を用いて表面が均一になるまで3分間研磨した。また、裏面に関しても同様の作業を行い、熱伝導シートを得た。
【0096】
<比較例1>
シートの平滑化を行うことなく、スライス工程で得られたシートをそのまま熱伝導シートとしたこと以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを調製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
<比較例2>
シートの形成時に、積層体形成工程において、プレ熱伝導シートを一層積層するごとにメチルエチルケトンを塗工し、各プレ熱伝導シート同士を接着させながら積層し、且つ、シートの平滑化を行うことなく、スライス工程で得られたシートをそのまま熱伝導シートとしたこと以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを調製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1より、少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さRzが40μm以下である実施例1〜3の熱伝導シートでは、両方の主面の十点平均表面粗さRzが40μmよりも大きい比較例1〜2の熱伝導シートと比較し、熱放射性が向上していることが分かる。
また、プレ熱伝導シートを1層ごとに接着した比較例2では、生産効率が低下していることが分かる。