特許第6555257号(P6555257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6555257液晶配向剤、液晶配向膜、及び液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555257
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20190729BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
【請求項の数】8
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-523586(P2016-523586)
(86)(22)【出願日】2015年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2015065634
(87)【国際公開番号】WO2015182762
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2018年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-113191(P2014-113191)
(32)【優先日】2014年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 謙治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 加名子
(72)【発明者】
【氏名】巴 幸司
【審査官】 岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−155311(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/039168(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、及び(B)成分を含有する液晶配向剤。
(A)成分:下記式[1]の構造を有するジアミンを含むジアミン成分と、下記式[2]の構造を有するテトラカルボン酸ジエステル成分とを反応させて得られるポリアミド酸エステル。
(B)成分:下記式[3]で表されるジアミンを含むジアミン成分と、芳香族系テトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させて得られるポリアミド酸。
【化1】

(A及びAは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素数1〜5のアルキレン基であり、A及びAは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、B及びBは、それぞれ独立して、単結合、−O−、 −NH−、 −NMe−、 −C(=O)−、−C(=O)O−、 −C(=O)NH−、 −C(=O)NMe−、 −OC(=O)−、 −NHC(=O)−、 又は−N(Me)C(=O)−であり、Dはtert−ブトキシカルボニル基、又は9−フルオレニルメトキシカルボニル基であり、aは0又は1である。)
【化2】
(R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、又はフェニル基である。)
【化3】
(Rは水素原子、又は1価の有機基を表す。Q1は、炭素数1〜5のアルキレン基を表し、Cyはアゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、又はヘキサメチレンイミン骨格を有する脂肪族へテロ環である2価の基であり、これらの環部分には置換基が結合されていてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、1価の有機基であり、q及びrは、それぞれ独立して、0〜4の整数である。但し、qとrの合計が2以上の場合、複数のR及びRは、それぞれ独立して、上記定義を有する。)
【請求項2】
(A)成分及び(B)成分を得るためのジアミン成分が、下記式[4]の構造を有するジアミンをさらに含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化4】
(nは、1〜3の整数である。)
【請求項3】
上記式[1]の構造を有するジアミンが、(A)成分を得るために用いられる全ジアミン成分中、1〜60モル%含有される、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
上記式[3]で表されるジアミンが、(B)成分を得るための用いられる全ジアミン成分中、1〜60モル%含有される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
(A)成分と(B)成分とを、10:90〜90:10の質量比で含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
上記式[4]の構造を有するジアミンが、(A)成分又は(B)成分を得るために用いられる全ジアミン成分中、1〜90モル%含有される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向膜を作製するための液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、及び該液晶配向膜を具備する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビ、液晶ディスプレイなどに用いられる液晶表示素子は、通常、液晶の配列状態を制御するための液晶配向膜が素子内に設けられている。液晶配向膜としては、ポリアミド酸(ポリアミック酸ともいう。)などのポリイミド前駆体や可溶性ポリイミドの溶液を主成分とする液晶配向剤をガラス基板等に塗布し、焼成したポリイミド系の液晶配向膜が主として用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本特開平9−316200号公報
【特許文献2】日本特開平10−104633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、IPS(In Plane Switching)駆動方式やFFS(fringe field switching)駆動方式の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜には、優れた液晶配向性や電気特性などの基本特性に加えて、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子において発生する長期交流駆動による残像の抑制等の様々な特性を同時に満たすことが必要とされている。
本発明の目的は、優れた液晶配向性や電気特性を有し、長期交流駆動による残像の抑制等が可能な液晶表示素子に用いられる液晶配向膜の形成が可能な液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、及び該液晶配向膜を具備する液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は鋭意研究を進めたところ、特定のジアミンを用いて得られた重合体を混合して含有する液晶配向剤を用いた場合、上記の種々の課題を、同時かつ高い水準で満たすことを見出し、本発明に到達した。本発明は、以下の特徴を有するものである。
【0006】
1.下記の(A)成分、及び(B)成分を含有する液晶配向剤。
(A)成分:下記式[1]の構造を有するジアミンを含むジアミン成分と、下記式[2]の構造を有するテトラカルボン酸ジエステル成分とを反応させて得られるポリアミド酸エステル。
(B)成分:下記式[3]で表されるジアミンを含むジアミン成分と、芳香族系テトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させて得られるポリアミド酸。
【化1】
(A及びAは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素数1〜5のアルキレン基であり、A及びAは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、B及びBは、それぞれ独立して、単結合、−O−、 −NH−、 −NMe−、 −C(=O)−、−C(=O)O−、 −C(=O)NH−、 −C(=O)NMe−、 −OC(=O)−、 −NHC(=O)−、又は−N(Me)C(=O)−であり、Dはtert−ブトキシカルボニル基、又は9−フルオレニルメトキシカルボニル基であり、aは0又は1である。)
【化2】
(R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、又はフェニル基である。)
【化3】
(Rは水素原子、又は1価の有機基を表す。Q1は、炭素数1〜5のアルキレン基を表し、Cyはアゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、又はヘキサメチレンイミン骨格を有する脂肪族へテロ環である2価の基であり、これらの環部分には置換基が結合されていてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、1価の有機基であり、q及びrは、それぞれ独立して、0〜4の整数である。但し、qとrの合計が2以上の場合、複数のR及びRは、それぞれ独立して、上記定義を有する。)
【0007】
2.(A)成分及び(B)成分が、下記式[4]の構造を有するジアミンを、ジアミン成分中にさらに含有する、上記1に記載の液晶配向剤。
【化4】
nは、1〜3の整数である。
3.上記式[1]の構造を有するジアミンが、(A)成分で用いられる全ジアミン成分の1〜60モル%である、上記1又は2に記載の液晶配向剤。
4.上記式[3]で表されるジアミンが、(B)成分で用いられる全ジアミン成分の1〜60モル%である、上記1〜3のいずれかに記載の液晶配向剤。
5.(A)成分と(B)成分とを、10:90〜90:10の質量比で含有する、上記1〜4のいずれかに記載の液晶配向剤。
6.上記1〜5のいずれかに記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
7.上記6に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液晶配向剤によれば、優れた液晶配向性や電気特性などの基本特性に加えて、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子において用いられ、長期交流駆動による残像の抑制等の様々な特性を満たす液晶配向膜の形成が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液晶配向剤は、下記の(A)成分、及び(B)成分を含有する液晶配向剤である。
<(A)成分>
(A)成分は、下記式[1]の構造を有するジアミンを含むジアミン成分と、下記式[2]の構造を有するテトラカルボン酸ジエステル成分とを反応させて得られるポリアミド酸エステル(ポリアミック酸エステル)である。
【化5】
【0010】
及びAは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素数1〜5のアルキレン基であり、シール剤中の官能基との反応性の点から、単結合又はメチレン基が好ましい。
及びAは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキレン基であり、好ましくは、メチレン基又はエチレン基である。
は炭素数1〜6のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、シール剤中の官能基との反応性の点から、メチレン基又はエチレン基が好ましい。
【0011】
及びBは、それぞれ独立して、単結合、−O−、 −NH−、 −NMe−、 −C(=O)−、−C(=O)O−、 −C(=O)NH−、 −C(=O)NMe−、 −OC(=O)−、 −NHC(=O)−、 又は−N(Me)C(=O)−であり、得られる液晶配向膜の液晶配向性の点から、単結合又は−O−が好ましい。
は、tert−ブトキシカルボニル基、又は9−フルオレニルメトキシカルボニル基であり、脱保護する温度の点から、tert−ブトキシカルボニル基が好ましい。
aは0又は1である。
上記式[1]で表されるジアミンの具体例としては、下記の式(1−1)〜式(1−21)が挙げられる。
【化6】
【化7】
【0012】
式(1−1)〜(1−21)において、Meはメチル基を表し、Dはtert−ブトキシカルボニル基を表す。
中でも、式(1−1)〜(1−4)がより好ましく、式(1−2)が特に好ましい。
【0013】
【化8】
、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、又はフェニル基である。その中でも、ラビング耐性の観点から、水素原子であることが好ましい。
上記式[1]の構造を有するジアミンは、(A)成分の重合に用いる全ジアミン成分の1〜60モル%であることが好ましく、5〜40モル%がさらに好ましい。
【0014】
(A)成分に用いられる第2のジアミンとして、下記式[4]の構造を有するジアミンを用いると、液晶配向性の観点から好ましい。
【化9】
nは、1〜3の整数である。
式[4]の構造を有するジアミンは、(A)成分の重合に用いる全ジアミン成分の1〜90モル%であることが好ましく、20〜90モル%がさらに好ましい。
【0015】
(A)成分に用いられるその他のジアミンは、下記式[5]で表される。
【化10】
Yとしては、以下の構造が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0016】
【化11】
【0017】
【化12】
【0018】
【化13】
【0019】
【化14】
【0020】
【化15】
【0021】
【化16】
【0022】
【化17】
【0023】
【化18】
【0024】
【化19】
【0025】
【化20】
【0026】
【化21】
【0027】
【化22】
なかでも、液晶配向性とラビング耐性の観点から、YがY−4、Y−65、Y−66、Y−67又はY−83の構造を有するジアミンがより好ましい。
【0028】
テトラカルボン酸ジエステルの一般式は、下記式(18)で表され、Xの構造が上記式[2]の構造のテトラカルボン酸ジエステルが、本発明の液晶配向剤の(A)成分に用いられる。
【化23】
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜2のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0029】
<(B)成分>
(B)成分は、下記式[3]で表されるジアミンを含むジアミン成分と、芳香族系テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させて得られるポリアミド酸である。
【化24】
【0030】
は、水素原子又は1価の有機基を表し、好ましくは、水素原子、炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、より好ましくは水素原子、又はメチル基である。また、Rは、熱による脱離反応により水素原子に置き換わる保護基であってもよく、液晶配向剤の保存安定性の点から、室温において脱離せず、好ましくは、80℃以上の熱で脱離する保護基であり、より好ましくは、100℃以上の熱で脱離する保護基である。例えば、1,1−ジメチル−2−クロロエトキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−シアノエトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等が挙げられ、好ましくはtert−ブトキシカルボニル基である。
【0031】
は、炭素数1〜5のアルキレン基を表し、合成の簡便さから、好ましくは炭素数1〜5の直鎖アルキレン基である。
Cyは、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、又はヘキサメチレンイミン骨格を有する脂肪族へテロ環である2価の基であり、合成の簡便さから、アゼチジン、ピロリジン又はピペリジンが好ましい。また、これらの環部分には、置換基が結合されていてもよい。
【0032】
及びRは、それぞれ独立して、1価の有機基である。
q及びrは、それぞれ独立して、0〜4の整数である。但し、qとrの合計が2以上の場合、複数のR及びRは、それぞれ独立して、上記定義を有する。
及びRは、合成の簡便さから、好ましくはメチル基である。
また、上記ジアミンを構成するベンゼン環におけるアミノ基の結合位置は限定されないが、アミノ基がそれぞれ、Cy上の窒素原子に対して、3位又は4位、QとRが結合する窒素原子に対して、3位又は4位の位置にあることが好ましく、Cy上の窒素原子に対して4位、QとRが結合する窒素原子に対して4位の位置にあることがより好ましい。
【0033】
本発明の上記式[3]で表されるジアミンは、下記式(6)であることが好ましい。
【化25】
は、水素原子、メチル基、又はtert−ブトキシカルボニル基である。Rは、水素原子又はメチル基である。Qは、炭素数1〜5の直鎖アルキレン基である。
【0034】
上記式(6)で表されるジアミンの具体例としては、下記式(6−1)〜(6−10)を挙げることができる。下記式において、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表す。
【化26】
式(3)で表されるジアミンを製造する方法は特に限定されないが、好ましい方法としては、日本特願2014−025438に記載の通りである。
上記式[3]の構造を有するジアミンは、(B)成分の重合に用いる全ジアミン成分の1〜60モル%であることが好ましく、5〜40モル%がさらに好ましい。
【0035】
(B)成分に用いられるその他のジアミンは、上記式[5]で表され、Yの具体的な構造も上記に例示する通りであるが、これに限定されるものではない。
なかでも、直流電圧により液晶表示素子内に蓄積した残留電荷の緩和がより早い液晶配向膜を得るためには、YがY−68、Y−69、Y−70、Y−71、Y−72、Y−73、Y−74、Y−75、Y−76、Y−77、Y−78、Y−79、Y−80、Y−81、Y−82、又は上記式[4]の構造を有するジアミンが好ましい。
上記式[4]、又は[5]式の構造を有するジアミンは、(B)成分の重合に用いる全ジアミン成分の1〜90モル%であることが好ましく、5〜70モル%がさらに好ましい。
【0036】
(B)成分に用いられるテトラカルボン酸二無水物成分は、芳香族系テトラカルボン酸二無水物を含有する。芳香族系テトラカルボン酸二無水物とは、酸無水物構造と芳香族環が直接結合しているテトラカルボン酸二無水物を指す。
テトラカルボン酸二無水物の一般式は、下記式(17)のように表される。
【化27】
【0037】
Xの構造としては、以下の構造が例示されるが、これに限定されるものではない。
【化28】
【0038】
【化29】
【0039】
【化30】
【0040】
【化31】
上記に例示した構造のうち、芳香族系酸二無水物は、Xの構造が、X−26〜X−41のものを指す。
直流電圧により液晶表示素子内に蓄積した残留電荷の緩和がより早い液晶配向膜を得るためには、(B)成分に用いられるテトラカルボン酸二無水物成分中、芳香族系テトラカルボン酸二無水物は20〜100モル%が好ましく、50〜100モル%がより好ましい。
【0041】
<ポリアミド酸の製造>
本発明の液晶配向剤中に含まれるポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分とを、有機溶媒の存在下で、−20〜150℃、好ましくは0〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜12時間重縮合反応させることによって製造される。
【0042】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分との反応は、通常、有機溶媒中で行う。その際に用いる有機溶媒としては、生成したポリアミド酸が溶解するものであれば特に限定されない。反応に用いる有機溶媒の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。
例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノンが挙げられる。また、ポリアミド酸の溶媒溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン又は下記の式[D−1]〜式[D−3]で示される有機溶媒を用いることができる。
【0043】
【化32】
式[D−1]中、Dは炭素数1〜3のアルキル基を示し、式[D−2]中、Dは炭素数1〜3のアルキル基を示し、式[D−3]中、Dは炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0044】
有機溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、前記有機溶媒に混合して使用してもよい。
また、有機溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、有機溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
反応系中におけるポリアミド酸ポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0045】
上記のようにして得られたポリアミド酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマー(ポリアミド酸)を析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで、精製されたポリアミド酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0046】
<ポリアミド酸エステルの製造>
本発明の液晶配向剤に含まれるポリアミド酸エステルは、以下に示す(A)、(B)又は(C)の製法で製造することができる。
(A)ポリアミド酸から製造する場合
ポリアミド酸エステルは、前記のように製造されたポリアミド酸をエステル化することによって製造できる。具体的には、ポリアミド酸とエステル化剤を、有機溶媒の存在下、−20〜150℃、好ましくは0〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜4時間反応させることによって製造することができる。
【0047】
エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジ−t−ブチルアセタール、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン、1−エチル−3−p−トリルトリアゼン、1−プロピル−3−p−トリルトリアゼン、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の添加量は、ポリアミド酸の繰り返し単位1モルに対して、2〜6モル当量が好ましく、2〜4モル当量がより好ましい。
【0048】
上記の反応に用いる有機溶媒は、ポリマー(ポリアミド酸エステル)の溶解性から、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0049】
(B)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミド酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンから製造することができる。
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを、塩基と有機溶媒の存在下、−20〜150℃、好ましくは0〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜4時間反応させることによって製造することができる。
【0050】
前記塩基は、ピリジン、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行することから、ピリジンが好ましい。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して、2〜4倍モルであることが好ましく、2〜3倍モルがより好ましい。
上記の反応に用いる有機溶媒は、モノマー及びポリマー(ポリアミド酸エステル)の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種を混合して用いてもよい。製造時のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、用いる有機溶媒は、できるだけ脱水されていることが好ましく、反応は窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0051】
(C)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンから製造する場合
ポリアミド酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することにより製造することができる。
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを、縮合剤、塩基、及び有機溶媒の存在下で、0〜150℃、好ましくは0〜100℃において、30分〜24時間、好ましくは3〜15時間反応させることによって製造することができる。
前記縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ−1,3,5−トリアジニルメチルモルホリニウム、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2〜3倍モルが好ましく、2〜2.5倍モルがより好ましい。
【0052】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、ジアミンに対して2〜4倍モルが好ましく、2〜3倍モルがより好ましい。
また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミンに対して0〜1.0倍モルが好ましく、2.0〜3.0倍モルがより好ましい。
【0053】
上記3つのポリアミド酸エステルの製造方法の中でも、高分子量のポリアミド酸エステルが得られるため、上記(A)又は上記(B)の製造法が特に好ましい。
上記のようにして得られるポリアミド酸エステルの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマー(ポリアミド酸エステル)を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して、精製されたポリアミド酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0054】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、(A)成分であるポリアミド酸エステルと、(B)成分であるポリアミド酸とが有機溶媒中に溶解された溶液の形態を有する。
特定構造重合体の分子量は、重量平均分子量で2,000〜500,000が好ましく、より好ましくは5,000〜300,000であり、さらに好ましくは、10,000〜100,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、1,000〜250,000であり、より好ましくは、2,500〜150,000であり、さらに好ましくは、5,000〜50,000である。
なお、本発明の特定構造重合体とは、(A)成分であるポリアミド酸エステルと(B)成分であるポリアミド酸等の重合体を意味する。
液晶配向剤における特定重合体(B)の割合は、特定重合体(A)100質量部に対して、10〜900質量部が好ましい。なかでも、25〜700質量部が好ましく、より好ましいのは、50〜500質量部である。最も好ましいのは、100〜400質量部である。
【0055】
本発明に用いられる液晶配向剤に含有される有機溶媒(以下、良溶媒ともいう)は、特定構造重合体が均一に溶解するものであれば特に限定されない。
例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンなどを挙げることができる。
なかでも、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンを用いることが好ましい。
さらに、本発明の特定構造重合体の溶媒への溶解性が高い場合は、前記式[D−1]〜式[D−3]で示される溶媒を用いることが好ましい。
本発明の液晶配向剤における良溶媒は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の20〜99質量%であることが好まく、20〜90質量%であることがより好ましく、30〜80質量%であることが特に好ましい。
【0056】
本発明の液晶配向剤は、本発明の効果を損なわない限り、液晶配向剤を塗布した際の液晶配向膜の塗膜性や表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒ともいう)を用いることができる。かかる貧溶媒の具体例としては、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテルなど、特許文献PCT/JP2015/059476に記載が挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0057】
これら貧溶媒は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の1〜80質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましく、20〜70質量%であることが特に好ましい。
【0058】
本発明の液晶配向剤には、上記の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、上記特定構造重合体以外の重合体、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的の誘電体若しくは導電物質、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的のシランカップリング剤、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物、さらには塗膜を焼成する際にポリイミド前駆体の加熱によるイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等を添加しても良い。
【0059】
<液晶配向膜の製造方法>
本発明の液晶配向膜は、液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥、焼成する工程、得られた膜に偏光された紫外線を照射する工程、紫外線を照射した膜を、水、又は水と有機溶媒との混合溶媒で接触処理する工程、を含む製造方法によって製造されることが好ましい。
水と有機溶媒との混合溶媒において、水と有機溶媒との混合比は、質量比で、20/80〜80/20、好ましくは40/60〜60/40、特に好ましくは50/50である。
有機溶媒の具体例としては、2−プロパノール、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、乳酸エチル、ジアセトンアルコール、3−メトキシプロピオン酸メチル、又は3−エトキシプロピオン酸エチルが挙がられる。なかでも、紫外線照射によって生じる分解生成物の溶解性の点から、有機溶媒としては、2−プロパノール、メタノール又はエタノールが好ましく、2−プロパノールが特に好ましい。
【0060】
液晶配向剤を基板に塗布し、焼成する工程では、本発明の液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥し、焼成することにより、ポリイミド膜、又はポリイミド前駆体がイミド化した膜が得られる。
液晶配向剤を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができる。特に、液晶駆動のためのITO(Indium Tin Oxide)電極等が形成された基板を用いることが、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならば、シリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極は、アルミ等の光を反射する材料も使用できる。本発明に用いられる液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられる。
本発明の液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される有機溶媒を十分に除去するために、50〜120℃で、1〜10分焼成し、その後、150〜300℃で5〜120分間焼成する条件が挙げられる。
焼成後の塗膜の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5〜300nm、好ましくは10〜200nmである。
【0061】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、前記液晶配向膜の製造方法によって得られた液晶配向膜を具備することを特徴とする。本発明の液晶表示素子は、前記液晶配向膜の製造方法によって液晶配向膜付きの基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作製し、該液晶セルを使用して液晶表示素子としたものである。
液晶セルの作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。なお、本作製方法は、画像表示を構成する各画素部分に、TFT(thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子への適用も可能である。
【0062】
まず、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えば、ITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされる。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル−ゲル法によって形成されたSiO−TiOからなる膜とすることができる。
次に、各基板の上に、本発明の液晶配向膜を形成する。次に、一方の基板に他方の基板を互いの配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール剤で接着する。シール剤には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入しておく。また、シール剤を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。シール剤の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。
【0063】
次に、シール剤に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール剤で包囲された空間内に液晶材料を注入する。その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に、一対の偏光板を貼り付ける。以上の工程を経ることにより、本発明の液晶表示素子が得られる。
本発明において、シール剤としては、例えば、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、ヒドロキシル基、アリル基、アセチル基などの反応性基を有する紫外線照射や加熱によって硬化する樹脂が用いられる。特に、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基の両方の反応性基を有する硬化樹脂系を用いるのが好ましい。
【0064】
本発明のシール剤には、接着性、耐湿性等の向上を目的として、無機充填剤を配合してもよい。使用しうる無機充填剤としては特に限定されないが、具体的には、球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられる。好ましくは、球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム等である。無機充填剤は、2種以上を混合して用いても良い。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下における略号は以下のとおりである。
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
テトラカルボン酸誘導体A〜C:それぞれ、下記式(A)〜(C)で表される化合物
【0066】
DA−1〜DA−6:それぞれ、下記式(DA−1)〜式(DA−6)で表される化合物
DBOP:ジフェニル(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホナート
【0067】
【化33】
【0068】
(DA−5の合成)
第1ステップ:N−2−(4−ニトロフェニル)エチル−N−(4−ニトロベンジル)アミン(DA−5−1)の合成
【化34】
2−(4−ニトロフェニル)エチルアミン塩酸塩(50.0g,247mmol)を水(300g)及びDMF(50.0g)に溶解し、炭酸ナトリウム(78.4g,740mmol)を加え、4−ニトロベンジルブロミド(53.3g,247mmol)のDMF溶液(200g)を、25℃で1時間かけて滴下した。滴下中、DMF/水=1/1(w/w、100g)を追加し、析出物による撹拌不良を解消した。そのまま室温で20時間撹拌し、さらに、40℃で4時間撹拌した後、HPLCで原料の消失を確認した。その後、反応液を室温に放冷し、析出物をろ取した。次いで、析出物を水(150g)で2回、2−プロパノール(50.0g)で2回洗浄し、50℃で減圧乾燥して、N−2−(4−ニトロフェニル)エチル−N−(4−ニトロベンジル)アミン(DA−5−1)を得た(白色固体、収量:73g、収率:99%)。
【0069】
以下、得られた化合物の確認は、H−NMR分析及び13C{H}−NMR分析により、以下のスペクトルデータを得て行なった。
なお、H−NMRは、Varian社製のフーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT−NMR)INOVA−400(400MHz)を用いて測定し、テトラメチルシランを内部標準としたシグナルの化学シフトδ(単位:ppm)(分裂パターン、積分値)を表す。「s」はシングレット、「d」はダブレット、「t」はトリプレット、「q」はカルテット、「m」はマルチプレット、「br」はブロード、「J」はカップリング定数、「DMSO-d6」は重ジメチルスルホキシドを意味する。
また、13C{H}−NMRは、Varian社製のフーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT−NMR)INOVA−400(400MHz)を用いて測定し、テトラメチルシランを内部標準としたシグナルの化学シフトδ(単位:ppm)を表す。
【0070】
1H NMR (DMSO-d6):δ 8.18 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 8.15 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 7.59, (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 7.52 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 3.87 (s, 2H, CH2), 2.91 (t, J = 7.0 Hz, 2H, CH2), 2.80 (t, J = 7.0 Hz, 2H, CH2), 2.46 (s, 1H, NH).
13C{1H} NMR (DMSO-d6):δ 149.8, 149.5, 146.6, 146.3, 130.3, 129.2, 123.7, 123.6, 52.4, 50.0, 36.0 (each s).
融点(DSC):123℃
【0071】
第2ステップ:N−tert−ブトキシカルボニル−N−(2−(4−ニトロフェニル)エチル)−N−(4−ニトロベンジル)アミン(DA−5−2)の合成
【化35】
N−2−(4−ニトロフェニル)エチル−N−4−ニトロベンジルアミン(73g,0.24mol)をDMF(371g)に溶解し、二炭酸ジtert−ブチル(54g,0.24mol)を2〜8℃で10分かけて滴下した。その後、20℃で4時間撹拌し、原料の消失をHPLCで確認した。続いて、DMFを減圧留去し、反応液に酢酸エチル(371g)を加え、水(371g)で3回洗浄した。その後、有機相を濃縮し、オレンジ色オイルを得た(粗収量:96g,粗収率:97%)。この粗物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=7/3(v/v,Rf値=0.3)で精製して黄色オイルを得た。(粗収量:82.0g、粗収率:82.8%(2ステップ))。この黄色オイルにメタノール(118g)を加え、50℃で溶解させた後、撹拌しながら冷却し、0〜5℃で30分撹拌した。その後、析出した固体をろ取し、乾燥することで、N−tert−ブトキシカルボニル−N−2−(4−ニトロフェニル)エチル−N−4−ニトロベンジルアミン(DA−5−2)を得た(白色粉末, 収量:74.5 g, 収率:78%(2ステップ))。
【0072】
1H NMR (DMSO-d6):δ 8.22 (d, J = 8.4 Hz, 2H, C6H4), 8.18-8.16 (br, 2H, C6H4), 7.51 (d, J = 8.4 Hz, 2H, C6H4), 7.48 (br, 2H, C6H4), 4.57-4.54 (br, 2H, CH2), 3.55-3.49 (br, 2H, CH2), 2.97 (br, 2H, CH2), 1.36-1.32 (br, 9H, tert-Bu).
13C{1H} NMR (DMSO-d6):δ 155.2, 154.8, 147.9, 147.5, 147.1, 147.0, 146.5, 130.6, 128.7, 128.4, 124.0, 123.8, 79.7, 50.3, 49.2, 48.4, 34.3, 34.0, 28.2 (each s).
融点(DSC):77℃
【0073】
第3ステップ:N−tert−ブトキシカルボニル−N−(2−(4−アミノフェニル)エチル)−N−(4−アミノベンジル)アミン(DA−5)の合成
【化36】
N−tert−ブトキシカルボニル−N−2−(4−ニトロフェニル)エチル−N−4−ニトロベンジルアミン(74g,0.18mol)をテトラヒドロフラン(370g)に溶解し、3質量%白金−炭素(7.4g)を加え、水素雰囲気下、室温で72時間撹拌した。原料の消失をHPLCで確認し、ろ過により触媒を除去した。その後、ろ液を濃縮し、乾燥することで、DA−5の粗物を薄黄色オイルとして得た(粗収量:66g、粗収率:105%)。得られた粗物をトルエン(198g)に80℃で溶解した後、2℃で1時間撹拌して結晶を析出させた。析出した固体をろ取し、乾燥することでDA−5を得た(白色粉末、収量:56g、収率:90%)。
【0074】
1H NMR (DMSO-d6):δ 6.92 (d, J = 8.0 Hz, 2H, C6H4), 6.84-6.76 (br, 2H, C6H4), 6.54 (d, J = 8.0 Hz, 2H, C6H4), 6.50 (d, J = 8.0 Hz, 2H, C6H4), 4.98 (s, 2H, NH2), 4.84 (s, 2H, NH2), 4.16 (br, 2H, CH2), 3.13 (br, 2H, CH2), 2.51 (br, 2H, CH2), 1.41 (s, 9H, tert-Bu).
13C{1H} NMR (DMSO-d6):δ 155.4, 154.9, 148.2, 147.2, 129.5, 129.3, 129.1, 128.9, 126.6, 125.7, 114.5, 114.3, 78.9, 78.8, 50.2, 49.2, 48.4, 33.9, 33.3, 28.5 (each s).
融点(DSC):103℃
【0075】
(DA−6の合成)
第1ステップ:DA−6−1の合成
【化37】
窒素雰囲気下、4口フラスコに、ジメチルホルムアミド(390g)、4−フルオロニトロベンゼン(65.01g、0.4607mol)、4―アミノメチルピペリジン(25.00g、0.2189mol)、及び炭酸カリウム(90.89g、0.6576mol)を加え、60℃で撹拌反応させた。22時間加熱攪拌した後に、中間体の消失をHPLCで確認した。その後、室温まで冷却して、ろ過により炭酸カリウムを除去し、さらに、炭酸カリウムをジメチルホルムアミド250gで2回洗浄した。集めた溶液を、内容物が295gになるまで減圧留去し、次いで、水1500gを加えて、黄色固体を析出させた。その後、析出物をろ過により回収し、乾燥して、DA−6−1の粗物を得た。得られた粗物をテトラヒドロフランにて再結晶して精製し、黄色固体のDA−6−1を得た(58.75g、0.1649mol、収率75.3%)。
【0076】
H−NMR(DMSO-d6):δ=8.05-7.98(m,4H), 7.41(t,1H J=6.8), 7.02(d,2H, J=9.6), 6.68(d,2H, J=9.2), 4.09(d,2H, J=13.6), 3.10(t,2H, J=6.0), 2.98(t,2H, J=12.0), 1.91−1.89(m,1H), 1.89−1.83(m,2H), 1.29−1.19(m,2H).
【0077】
第2ステップ:DA−6−2の合成
【化38】

窒素雰囲気下、4口フラスコに、テトラヒドロフラン(400g)、DA−6−1(19.99g、0.0561mol)、及びN、N―ジメチル−4−アミノピリジン(77.44mg、0.634mmol)を加え、50℃に加熱した。その溶液へ、二炭酸ジ-tert−ブチル(15.26g、0.0699mol)とテトラヒドロフラン15gの混合液を滴下し、24時間反応させた後、HPLCにて原料が消失したことを確認した。内容物を減圧留去した後、トルエンで再結晶を行い、析出した結晶をろ取し、乾燥させて、黄色固体の化合物DA−6−2を収率87.3%で得た(22.34g、0.0489mol)。
【0078】
H−NMR(DMSO-d6):δ=8.21(d,2H, J=8.8), 8.01(d,2H J=9.2), 7.61(d,2H, J=9.2), 6.98(d,2H, J=9.6), 4.02(d,2H, J=13.6), 3.69(d,2H,J=7.2), 2.91(t,2H, J=11.6),1.86−1.70(m,1H), 1.66(d,2H, J=11.2), 1.42(s,9H), 1.22−1.10(m,2H).
【0079】
ステップ3:DA−6の合成
【化39】
窒素雰囲気下、4口フラスコに、テトラヒドロフラン(447g)、DA−6−2(22.34g、0.0489mol)、及びパラジウムカーボン粉末(1.156g)を入れた後、系内を水素雰囲気に置換し、室温で23時間攪拌した。HPLCにて原料が消失したことを確認した後、パラジウムカーボンをろ過し、得られた溶液を減圧留去して粗物を得た。得られた粗物にクロロホルム(206g)を加え、60℃に加温した後、60℃の水(100g)で2回分液操作を繰り返した。次いで、得られた有機層に活性炭(0.754g)を加え、攪拌した後、ろ過により活性炭を除去した。内容物を減圧濃縮し、得られた固体をトルエンで再結晶を行った。その後、得られた結晶を乾燥させて、薄クリーム色固体の目的物、(DA−6)を収率71.3%で得た(13.83g、0.0349mol)。
【0080】
H−NMR(DMSO-d6):δ=6.83(d,2H, J=8.0), 6.65(d,2H J=8.4), 6.50(d,2H, J=8.4), 6.45(d,2H, J=8.4), 5.05(br, 2H), 4.54(br,2H), 3.41(d,2H, J=6.8), 3.29(d,2H,J=12.4), 2.36(t,2H, J=10.8), 1.64(d,2H, J=11.6), 1.42−1.19(br,12H).
【0081】
以下に、粘度、固形分濃度、及び分子量の測定方法を示す。
[粘度]
ポリアミド酸溶液又はポリアミド酸エステル溶液の粘度は、E型粘度計TVE−22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE−1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0082】
[分子量]
ポリアミド酸及びポリアミド酸エステルの分子量は、GPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として、数平均分子量(以下、Mnとも言う。)と重量平均分子量(以下、Mwとも言う。)を算出した。
GPC装置:Shodex社製(GPC−101)
カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)
カラム温度:50℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム−水和物(LiBr・H2O)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o−リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)
流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製TSK(標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw)が、約900,000、150,000、100,000、及び30,000))、及び、ポリマーラボラトリー社製ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)が、約12,000、4,000、及び1,000)。測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、及び1,000の4種類を混合したサンプルと、150,000、30,000、及び4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々にして行った。
【0083】
(合成例1)
撹拌子を入れた四つ口フラスコに、(A)を11.22g(43.1mmol)投入した後、NMP265gを加えて撹拌して溶解させた。次いで、トリエチルアミンを13.36g(132mmol)、DA−1を5.57g(24.2mmol)、DA−3を1.97g(6.6mmol)、及びDA−5を9.02g(26.4mmol)加えて、撹拌して溶解させた。
この溶液を撹拌しながら、DBOPを33.9g(88.4mmol)添加し、更にNMPを36.4g加え、室温で12時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は42.6mPa・sであった。
【0084】
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール2260g中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後、温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステルの粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=12,601、Mw=29,033であった。
得られたポリアミド酸エステルの粉末にNMPを加えて、50℃にて30hr攪拌して溶解させた後、NMP及びBCSを加え、ポリアミド酸エステルが6質量%、NMPが69質量%、BCSが25質量%になるよう、ポリアミド酸エステル溶液(A)を調製した。
【0085】
(合成例2)
撹拌子を入れた四つ口フラスコに、(A)を2.55g(9.80mmol)投入した後、NMP45.0gを加えて撹拌して溶解させた。次いで、トリエチルアミンを2.13g(21.0mmol)、DA−1を1.96g(8.50mmol)、及びDA−3を0.45g(1.50mmol)加えて、撹拌して溶解させた。
この溶液を撹拌しながら、DBOPを8.05g(21.0mmol)添加し、更にNMPを7.94g加え、室温で12時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は50.0mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール408g中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後、温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステルの粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=12,542、Mw=35,098であった。
得られたポリアミド酸エステルの粉末にNMPを加えて、50℃にて30hr攪拌して溶解させた後、NMP及びBCSを加え、ポリアミド酸エステルが6質量%、NMPが69質量%、BCSが25質量%になるよう、ポリアミド酸エステル溶液(B)を調製した。
【0086】
(合成例3)
撹拌子を入れた四つ口フラスコに、DA−2を3.52g(12.0mmol)、DA−4を0.96g(5.00mmol)、及びDA−6を1.90g(4.8mmol)投入した後、NMP67.8gを加えて、撹拌し溶解させた。次いで、(C)を1.13g(5.30mmol)添加し、2時間室温で攪拌した。その後、(B)を3.66g(16.8mmol)添加し、次いで、NMPを22.60g加えて、50℃で15時間反応させ、ポリアミド酸の溶液を得た。このポリアミド酸の溶液の温度25℃における粘度は152mPa・sであった。このポリアミド酸の分子量はMn=13,100、Mw=34,500であった。
得られたポリアミド酸の溶液に、ポリアミド酸が6質量%、NMPが69質量%、BCSが25質量%になるよう、NMP及びBCSを加え、ポリアミド酸溶液(A)を調製した。
【0087】
(合成例4)
撹拌子を入れた四つ口フラスコに、DA−2を2.05g(8.4mmol)、DA−4を0.84g(4.20mmol)、及びDA−6を0.55g(1.4mmol)投入した後、NMP33.87gを加えて、撹拌し溶解させた。次いで、(C)を0.66g(3.40mmol)添加し、2時間室温で攪拌した。その後、(B)を2.13g(9.8mmol)添加し、次いで、NMPを11.29g加えて、50℃で15時間反応させ、ポリアミド酸の溶液を得た。このポリアミド酸の溶液の温度25℃における粘度は172mPa・sであった。このポリアミド酸の分子量はMn=13,800、Mw=35,800であった。
得られたポリアミド酸の溶液に、ポリアミド酸が6質量%、NMPが69質量%、BCSが25質量%になるよう、NMP及びBCSを加え、ポリアミド酸溶液(B)を調製した。
【0088】
(合成例5)
撹拌子を入れた四つ口フラスコに、DA−2を3.66g(15.0mmol)、及びDA−4を1.99g(10.0mmol)投入した後、NMP69.24gを加えて、撹拌し溶解させた。次いで、(C)を1.18g(6.0mmol)添加し、2時間室温で攪拌した。その後、(B)を3.82g(17.5mmol)添加し、次いで、NMPを23.08g加えて、50℃で15時間反応させ、ポリアミド酸の溶液を得た。このポリアミド酸の溶液の温度25℃における粘度は105mPa・sであった。このポリアミド酸の分子量はMn=11,300、Mw=28,600であった。
得られたポリアミド酸の溶液に、ポリアミド酸が6質量%、NMPが69質量%、BCSが25質量%になるよう、NMP及びBCSを加え、ポリアミド酸溶液(C)を調製した。
【0089】
(実施例1)
攪拌子の入った三角フラスコに、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(A)8.10gと、合成例3で得られたポリアミド酸溶液(A)12.1gとを入れて、室温で3時間攪拌し、液晶配向剤(A−1)を得た。
【0090】
(実施例2)
攪拌子の入った三角フラスコに、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(A)8.00gと、合成例4で得られたポリアミド酸溶液(B)12.1gとを入れて、室温で3時間攪拌し、液晶配向剤(A−2)を得た。
【0091】
(比較例1)
攪拌子の入った三角フラスコに、合成例2で得られたポリアミド酸エステル溶液(B)7.99gと、合成例5で得られたポリアミド酸溶液(C)12.1gとを入れて、室温で3時間攪拌し、液晶配向剤(B−1)を得た。
【0092】
(比較例2)
攪拌子の入った三角フラスコに、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(A)8.01gと、合成例5で得られたポリアミド酸溶液(C)12.0gとを入れて、室温で3時間攪拌し、液晶配向剤(B−2)を得た。
【0093】
<液晶セルの作製>
FFS方式の液晶表示素子の構成を備えた液晶セルの作製は、以下のように行った。
初めに、電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×35mmの大きさで、厚さが0.7mmのガラス基板である。基板上には第1層目として対向電極を構成する、ベタ状のパターンを備えたIZO(Indium Zinc Oxide)電極が形成されている。第1層目の対向電極の上には、第2層目として、CVD(化学気相蒸着)法により成膜されたSiN(窒化珪素)膜が形成されている。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目としてIZO膜をパターニングして形成された、櫛歯状の画素電極が配置され、第1画素及び第2画素の2つの画素を形成している。各画素のサイズは、縦10mmで横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により電気的に絶縁されている。
【0094】
第3層目の画素電極は、中央部分が屈曲したくの字形状の電極要素を、複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極が、中央部分の屈曲したくの字形状の電極要素を、複数配列して構成されているため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字のくの字に似た形状を備える。さらに、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する液晶配向膜のラビング方向を基準とした場合、画素の第1領域では、画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成され、画素の第2領域では、画素電極の電極要素が−10°の角度(時計回り)をなすように形成されている。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される、液晶の基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が、互いに逆方向となるように構成されている。
【0095】
次に、得られた液晶配向剤を、1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板に、スピンコート塗布にて塗布した。80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、230℃の熱風循環式オーブンで30分間焼成を行い、膜厚60nmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜を、レーヨン布でラビング(ローラー直径:120mm、ローラー回転数:500rpm、移動速度:30mm/sec、押し込み長:0.3mm、ラビング方向:3層目IZO櫛歯電極に対して10°傾いた方向)した後、純水中にて1分間超音波照射をして洗浄を行い、エアブローにて水滴を除去した。その後、80℃で15分間乾燥して、液晶配向膜付き基板を得た。また、対向基板として、裏面にITO電極が形成されている、高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板にも、上記と同様にして、ポリイミド膜を形成し、上記と同様の手順で、配向処理が施された液晶配向膜付き基板を得た。
【0096】
これら2枚の液晶配向膜付き基板を1組とし、基板上に液晶注入口を残した形でシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合い、ラビング方向が逆平行になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて、セルギャップが4μmの空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC−2041(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、FFS方式の液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを、110℃で1時間加熱し、23℃で一晩放置してから各評価に使用した。
以下に、蓄積電荷の緩和特性、交流駆動時の正負電圧の非対称化による蓄積電荷量、電圧保持率(VHR)バックライトエージング耐性、及びラビング耐性の評価法を示す。
【0097】
<蓄積電荷の緩和特性の評価>
上記液晶セルを、偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、画素電極と対向電極とを短絡して同電位にした状態で、2枚の偏光板の下からLEDバックライトを照射しておき、2枚の偏光板の上で測定するLEDバックライト透過光の輝度が最小となるように、液晶セルの角度を調節した。
次に、この液晶セルに周波数30Hzの矩形波を印加しながら、23℃の温度下でのV−T特性(電圧−透過率特性)を測定し、相対透過率が23%となる交流電圧を算出した。
次に、相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波を5分間印加した後、+1.0Vの直流電圧を重畳し、30分間駆動させた。その後、直流電圧を切り、再び相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波のみを20分間印加した。
蓄積した電荷の緩和が速いほど、直流電圧を重畳したときの液晶セルへの電荷蓄積も速いことから、蓄積電荷の緩和特性は、直流電圧を重畳した直後の相対透過率が30%以上の状態から30分が経過するまでに、相対透過率が28%未満に低下した場合は、「良好」と定義して評価した。直流電圧を重畳してから30分が経過しても、相対透過率が28%未満に低下しなかった場合は、「不良」と定義して評価した。
【0098】
<交流駆動時の正負電圧の非対称化による蓄積電荷量の評価>
上記液晶セルを、偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、画素電極と対向電極とを短絡して同電位にした状態で、2枚の偏光板の下からLEDバックライトを照射しておき、2枚の偏光板の上で測定するLEDバックライト透過光の輝度が最小となるように、液晶セルの角度を調節した。
次に、この液晶セルに周波数30Hzの矩形波を印加しながら、60℃の温度下でのV−T特性(電圧−透過率特性)を測定し、相対透過率が23%及び100%となる交流電圧を算出した。その後、画素電極と対向電極とを短絡して同電位にした状態で60分間以上放置し、液晶セルに蓄積した電荷を放出した。
次に、相対透過率が100%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波を30分間印加した。但し、その30分間のうち、3分間おきに20秒間のみ相対透過率が23%となる交流電圧に切り替えた。相対透過率が23%となる交流電圧に切り替えている20秒間の間に、V−F特性(直流電圧−フリッカ特性)を測定し、相対透過率が100%となる交流電圧で駆動した際の、正負電圧の非対称化による蓄積電荷を打ち消す直流電圧値を記録した。この蓄積電荷を打ち消す直流電圧値の絶対値が小さければ小さいほど、交流電圧駆動による電荷が蓄積しづらいことを示すため、残像特性が良好であると考えられる。
【0099】
<電圧保持率(VHR)バックライトエージング耐性の評価>
VHRのバックライトエージング耐性(電圧保持率1)は以下のようにして評価した。
初めに、電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×40mmの大きさで、厚さが1.1mmのガラス基板である。基板上には膜厚35nmのITO電極が形成されており、電極は縦40mm、横10mmのストライプパターンである。次に、液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板に、スピンコート塗布にて塗布した。50℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、230℃のIR式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させて液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜を、レーヨン布でラビング(ローラー直径:120mm、ローラー回転数:1000rpm、移動速度:20mm/sec、押し込み長:0.4mm)した後、純水中にて1分間超音波照射をして洗浄を行い、エアブローにて水滴を除去した。その後、80℃で15分間乾燥して、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜付き基板を2枚用意し、その1枚の液晶配向膜面上に4μmのスペーサーを散布した後、その上からシール剤を印刷し、もう1枚の基板をラビング方向が逆方向、かつ膜面が向き合うようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。
【0100】
この空セルに減圧注入法によって、液晶ZLI−4792(メルク社製)を注入し、注入口を封止して液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で1時間加熱し、23℃で一晩放置し、VHR測定用の液晶セルを得た。次いで、本セルを、70℃オーブン中、LED光源(1000cd)下で、72時間エージングを行った。
72時間のバックライトエージング後、本セルに、60℃の温度下で1Vの電圧を60μsec印加し、100msec後の電圧を測定して、電圧がどのくらい保持できているかをVHRとし、その値の大小で、VHRバックライトエージング耐性を評価した。即ち、このVHRの値が大きければ、VHRバックライトエージング耐性は良好である。
【0101】
<ラビング耐性>
液晶配向剤を、全面にITO電極が付いたガラス基板のITO面にスピンコートし、50℃のホットプレート上で5分間乾燥させた。その後、230℃のIR式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させて、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜を、レーヨン布でラビング(ローラー直径:120mm、ローラー回転数:1000rpm、移動速度:20mm/sec、押し込み長:0.4mm)した。本基板を顕微鏡にて観察を行ない、膜面にラビングによるスジがみられなかったものを「良好」、スジがみられたものを「不良」として評価した。
【0102】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜を有する液晶表示素子は、長期交流駆動による残像の抑制等に優れ、IPSやFFS駆動方式の液晶表示素子として有用である。
なお、2014年5月30日に出願された日本特許出願2014−113191号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。