特許第6555636号(P6555636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6555636非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555636
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20190729BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190729BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190729BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 A
   H01M4/36 C
   C01G53/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-167280(P2015-167280)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-167439(P2016-167439A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-41681(P2015-41681)
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】古市 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−125732(JP,A)
【文献】 特開2013−152866(JP,A)
【文献】 特開2013−171785(JP,A)
【文献】 特開2012−238581(JP,A)
【文献】 特開2013−229339(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/105048(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/015069(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
H01M 4/36
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦c≦1.25、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末を水洗する際に、25℃でpH12.5の水中で20分間撹拌した際の溶解度Aが2.0g/L以下のタングステン化合物の粉末を加えて撹拌した後、固液分離することにより、前記リチウム金属複合酸化物粉末中にタングステン化合物を分散させたタングステン混合物を得る混合工程と、
前記混合工程により得られたタングステン混合物を、熱処理することにより、前記リチウム金属複合酸化物粉末の一次粒子の表面にタングステンを均一に分散させた後、前記一次粒子表面に均一に分散しているタングステンと前記タングステン混合物中のリチウムとから、タングステンおよびリチウムを含む化合物を、前記リチウム金属複合酸化物粉末の一次粒子の表面に形成する熱処理工程を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程の際に加えるタングステン化合物が、タングステン酸リチウムであることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程における熱処理が、酸素雰囲気中、あるいは真空雰囲気中において、100〜600℃の温度で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記タングステン混合物に含まれるタングステン量が、混合するリチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.05〜3.0原子%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程の際に加えるタングステン化合物が、(LiWO(HO)を80%以上含むものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記タングステン酸リチウムが、水酸化リチウムとタングステン化合物を反応させて得られたものであることを特徴とする請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程における水洗する際の温度が、40℃以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
一般式(1):LiNi1―x―yCo2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0005≦z≦0.030、0.97≦a≦1.25、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面にリチウムとタングステンを含む化合物が形成され、前記二次粒子の断面の透過型電子顕微鏡観察において、任意の20箇所以上の前記一次粒子間の空隙をEDX分析した際に分析した空隙数の50%以上でタングステンが検出されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記リチウムとタングステンを含む化合物が、膜厚1〜100nmの薄膜の被覆として前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に存在することを特徴とする請求項8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項10】
前記リチウムとタングステンを含む化合物が、膜厚1〜100nmの薄膜及び粒子径1〜200nmの微粒子の両形態として前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に存在することを特徴とする請求項8又は9に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項11】
前記リチウムとタングステンを含む化合物に含有されるタングステン量に関しリチウム金属複合酸化物に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.08〜3.0原子%であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項12】
前記リチウム金属複合酸化物が、一般式(2):LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦b≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
このリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0003】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)などを挙げることができる。
このうちリチウムニッケル複合酸化物およびリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されており、近年では高出力化に必要な低抵抗化が重要視されている。
【0004】
上記低抵抗化を実現する方法としては、異元素を添加することが行われており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
例えば、特許文献1には、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる1種以上の元素が、Mn、Ni及びCoの合計モル量に対して0.1〜5モル%含有されているリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案され、一次粒子の表面部分のLi並びにMo、W、Nb、Ta及びRe以外の金属元素の合計に対するMo、W、Nb、Ta及びReの合計の原子比が、一次粒子全体の該原子比の5倍以上であることが好ましいとされている。
【0005】
この提案によれば、リチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の低コスト化及び高安全性化と高負荷特性、粉体取り扱い性向上の両立を図ることができる。
しかし、上記リチウム遷移金属系化合物粉体は、原料を液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを噴霧乾燥し、得られた噴霧乾燥体を焼成することで得ている。そのため、Mo、W、Nb、Ta及びReなどの異元素の一部が層状に配置されているNiと置換してしまい、電池の容量やサイクル特性などの電池特性が低下してしまう問題があった。
【0006】
また、特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、その粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を備える化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0007】
これにより、より一層厳しい使用環境下においても優れた電池特性を有する非水電解質二次電池用正極活物質が得られるとされ、特に、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、熱安定性、負荷特性および出力特性の向上を損なうことなく、初期特性が向上するとしている。
しかしながら、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素による効果は、初期特性、すなわち初期放電容量および初期効率の向上にあるとされ、出力特性に言及したものではない。また、開示されている製造方法によれば、添加元素をリチウム化合物と同時に熱処理した水酸化物と混合して焼成するため、添加元素の一部が層状に配置されているニッケルと置換してしまい電池特性の低下を招く問題があった。
【0008】
さらに、特許文献3には、正極活物質の周りにTi、Al、Sn、Bi、Cu、Si、Ga、W、Zr、B、Moから選ばれた少なくとも一種を含む金属及びまたはこれら複数個の組み合わせにより得られる金属間化合物、及びまたは酸化物を被覆した正極活物質が提案されている。
このような被覆により、酸素ガスを吸収させ安全性を確保できるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。さらに、開示されている製造方法は、遊星ボールミルを用いて被覆するものであり、このような被覆方法では、正極活物質に物理的なダメージを与えてしまい、電池特性が低下してしまう。
【0009】
また、特許文献4には、ニッケル酸リチウムを主体とする複合酸化物粒子にタングステン酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下である正極活物質が提案されている。
【0010】
この提案によれば、正極活物質の表面にタングステン酸化合物またはタングステン酸化合物の分解物が存在し、充電状態における複合酸化物粒子表面の酸化活性を抑制するため、非水電解液等の分解によるガス発生を抑制することができるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。
【0011】
さらに、開示されている製造方法は、好ましくは被着成分を溶解した溶液の沸点以上に加熱した複合酸化物粒子に、タングステン酸化合物とともに硫酸化合物、硝酸化合物、ホウ酸化合物またはリン酸化合物を被着成分として溶媒に溶解した溶液を被着させるものであり、溶媒を短時間で除去するため、複合酸化物粒子表面にタングステン化合物が十分に分散されず、均一に被着されないという問題点がある。
【0012】
また、リチウムニッケル複合酸化物の高出力化に関する改善も行われている。
例えば、特許文献5には、一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、前記リチウム金属複合酸化物の表面に、LiWO、LiWO、Liのいずれかで表されるタングステン酸リチウムを含む微粒子を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が提案され、高容量とともに高出力が得られるとされている。
【0013】
しかしながら、高出力化や高容量化に対する要求は、さらに高いものとなっており、更なる改善が望まれている。また、タングステン酸リチウムを含む微粒子を形成させるため、リチウム金属複合酸化物にタングステンを分散させる工程、及び熱処理する工程が必要であり、生産性が低下するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−289726号公報
【特許文献2】特開2005−251716号公報
【特許文献3】特開平11−16566号公報
【特許文献4】特開2010−40383号公報
【特許文献5】特開2013−125732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は係る問題点に鑑み、電池の正極に用いられた場合により一層改善された電池容量とともに出力特性が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を高い生産性で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられているリチウム金属複合酸化物の粉体特性、および電池の正極抵抗に対する影響について鋭意研究したところ、リチウム金属複合酸化物の粉末を水洗する際に難溶性のタングステン化合物を加えて撹拌した後に固液分離し、熱処理することで、電解液と接触可能な一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成させることが可能であるとの知見を得た。さらに、前記一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成させることにより、電池の正極抵抗を低減して出力特性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0017】
すなわち、本発明の第1の発明は、一般式LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦c≦1.25、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および、その一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末を、水洗する際に、25℃でpH12.5の水中で20分間撹拌した際の溶解度Aを2.0g/L以下に調整したタングステン化合物の粉末を加えて撹拌した後、固液分離することにより、リチウム金属複合酸化物粉末中にタングステン化合物を分散させたタングステン混合物を得る混合工程と、その混合工程により得られたタングステン混合物を、熱処理することにより、リチウム金属複合酸化物粉末の一次粒子の表面にタングステンを均一に分散させた後、その一次粒子表面に均一に分散しているタングステンとタングステン混合物中のリチウムとから、タングステンおよびリチウムを含む化合物を、そのリチウム金属複合酸化物粉末の一次粒子の表面に形成する熱処理工程を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0018】
本発明の第2の発明は、第1の発明における混合工程の際に加えるタングステン化合物が、タングステン酸リチウムであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0019】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明における熱処理工程における熱処理が、酸素雰囲気中、あるいは真空雰囲気中において、100〜600℃の温度で行うことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0020】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明におけるタングステン化合物に含まれるタングステン量が、混合するリチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.05〜3.0原子%であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0021】
本発明の第5の発明は、第1〜第4の発明における混合工程の際に加えるタングステン化合物が、(LiWO(HO)を80%以上含むものであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0022】
本発明の第6の発明は、第2の発明におけるタングステン酸リチウムが、水酸化リチウムとタングステン化合物を反応させて得られたものであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0023】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明における混合工程における水洗する際の温度が、40℃以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0024】
本発明の第8の発明は、一般式(1):LiNi1―x―yCo2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0005≦z≦0.030、0.97≦a≦1.25、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面にリチウムとタングステンを含む化合物が形成され、二次粒子の断面の透過型電子顕微鏡観察において、任意の20箇所以上の一次粒子間の空隙をEDX分析した際に分析した空隙数の50%以上でタングステンが検出されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0025】
本発明の第9の発明は、第8の発明におけるリチウムとタングステンを含む化合物が、膜厚1〜100nmの薄膜の被覆として、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に存在することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0026】
本発明の第10の発明は、第8及び第9の発明におけるリチウムとタングステンを含む化合物が、膜厚1〜100nmの薄膜及び粒子径1〜200nmの微粒子の両形態として、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に存在することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0027】
本発明の第11の発明は、第8〜第10の発明におけるリチウムとタングステンを含む化合物に含有されるタングステン量に関しリチウム金属複合酸化物に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.08〜3.0原子%であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0028】
本発明の第12の発明は、第8〜第11の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、一般式(2):LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦b≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電池の正極に用いた場合に、より一層改善された高容量とともに高出力が実現可能な非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
さらに、その製造方法は、容易で高い生産性により工業的規模での生産が可能なものであり、その工業的価値は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
図2】本発明の正極活物質の断面透過型電子顕微鏡観察による観察倍率25000倍の写真である。
図3図2の視野においてタングステンを付属のEDXで分析した結果のマッピング表示した図である。
図4】電池評価に使用した2032型コイン電池1の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について説明するが、まず本発明に係る正極活物質について説明した後、その製造方法について説明する。
(1)正極活物質
本発明によって得られる非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式(1):LiNi1−x−yCo2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0005≦z≦0.030、0.97≦a≦1.25、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物で構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に、リチウムとタングステンを含む化合物が形成され、二次粒子の断面の透過型電子顕微鏡観察において、任意の20箇所以上の二次粒子を形成する一次粒子間の空隙をEDX分析した際に、その分析した空隙数の50%以上でタングステンが検出されることを特徴とする。
【0032】
本発明においては、母材として一般式(2):LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦b≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物を用いることにより、高い充放電容量を得るものである。
さらに、その母材が一次粒子と一次粒子が凝集して構成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物(以下、二次粒子と単独で存在する一次粒子を合わせて「リチウム金属複合酸化物粒子」ということがある。)の形態を採り、その一次粒子の表面(一次粒子表面)に形成されたリチウムとタングステンを含む化合物により、電池容量、出力特性においてより高い電池性能を実現するものである。
【0033】
ここで、一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまう。
対して、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」という。)においては、リチウム金属複合酸化物粒子の表面にリチウム(Li)とタングステン(W)を含む化合物(以下、単に「化合物」ということがある。)を形成させているが、この化合物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物粒子の表面に上記化合物を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、正極活物質の反応抵抗(以下、「正極抵抗」ということがある。)を低減して出力特性を向上させるものである。
【0034】
すなわち、正極抵抗が低減されることで、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量も向上するものである。さらに、反応抵抗の低減により、充放電時における活物質の負荷も低減することから、サイクル特性も向上させることができる。
【0035】
そこで、この化合物は、LiおよびWを含むことで、Liイオン伝導率が高く、Liイオンの移動を促す効果を有するが、この化合物中に含有されるWの50%以上が、LiWOの形態で存在することが好ましい。
すなわち、LiWOは、LiおよびWを含む化合物の中でもLiイオンの導電パスが多く、Liイオンの移動を促す効果が高いため、Wの50%以上がLiWOの形態で存在することで、さらに高い反応抵抗の低減効果が得られる。
【0036】
ここで、電解液との接触は、一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面に、この化合物が形成されていることが重要である。
本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と、二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば、本発明における一次粒子表面に含まれるものである。
【0037】
即ち、この化合物と電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、その二次粒子の表面近傍、および内部の空隙、さらには二次粒子を構成する一次粒子間における不完全な粒界でも生じるため、そのような一次粒子表面にも化合物を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが必要である。
したがって、電解液との接触が可能な一次粒子表面の多くに化合物を形成させることで、リチウム金属複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0038】
本発明の正極活物質は、二次粒子の断面の透過型電子顕微鏡観察において、二次粒子内に存在する任意の20箇所以上の一次粒子間の空隙、即ち、それらの空隙に面している一次粒子の表面をEDX分析した際に、分析した空隙数の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上でタングステンが検出されることを特徴としている。
一次粒子表面上のタングステンはLiと化合物を形成しやすいため、タングステンが検出されることにより、LiとWを含む化合物が形成されていると言える。これにより、電解液との接触が可能な一次粒子表面の十分な個所に前記化合物が形成され、より高い電池性能を実現することが可能となる。タングステンが検出される空隙数が、分析した空隙数の50%未満になると、前記化合物が形成されていない一次粒子表面が増加するため、電池性能の向上が十分に得られない。
【0039】
さらに、この化合物の一次粒子表面上における形態は、一次粒子表面を層状物で被覆した場合には、電解液との接触面積が小さくなってしまう、また、層状物を形成すると、化合物の形成が特定の一次粒子表面に集中するという結果になり易い。したがって、被覆物としての層状物が高いリチウムイオン伝導度を持っていることにより、充放電容量の向上、反応抵抗の低減という効果が得られるものの、十分ではなく改善の余地がある。
【0040】
そこで、一次粒子表面を薄膜で被覆することにより、比表面積の低下を抑制しながら、電解液との界面でLiの伝導パスを形成させることができ、より高い充放電容量の向上、反応抵抗の低減という効果が得られる。
このような薄膜状の化合物により一次粒子表面を被覆する場合には、膜厚1〜100nmの薄膜としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在することが好ましい。
その膜厚が1nm未満では、被膜が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合がある。また、膜厚が100nmを超えると、前記層状物の状態になり、電解液との接触面積が小さくなり、反応抵抗低減効果より高い効果が得られない場合があり、さらに一次粒子表面における薄膜の形成が不均一になることがある。
【0041】
さらに、薄膜の被膜形態と微粒子形態が混在して一次粒子表面に化合物が形成されている場合にも、電池特性に対する高い効果が得られる。
電池特性改善のより高い効果を得るため、微粒子形態としての化合物は、粒子径1〜200nmの微粒子としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に存在することが好ましい。
このような形態を採ることにより、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量を向上させるとともに反応抵抗をより効果的に低減させることができる。その粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合がある。
しかし、粒子径が200nmを超えると、一次粒子表面における微粒子の形成が不均一になり、反応抵抗低減のより高い効果が得られない場合があるためである。
【0042】
しかしながら、微粒子形態として存在する全てが粒子径1〜200nmの微粒子として存在する必要がなく、好ましくは一次粒子表面に形成された微粒子の個数で50%以上が、1〜200nmの粒子径範囲で形成されていれば、薄膜の被膜形態との相互作用により、電池特性改善のより高い効果が得られる。
【0043】
一方、リチウム金属複合酸化物の二次粒子間で不均一に薄膜や微粒子が形成された場合は、二次粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定の二次粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。
したがって、二次粒子間においても均一に薄膜および微粒子が形成されていることが好ましい。
【0044】
その化合物の形成量は、化合物中に含有されるタングステン量により制御することが可能であり、化合物中に含有されるタングステン量を、リチウム金属複合酸化物に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.05〜3.0原子%、好ましくは0.08〜3.0原子%、より好ましくは0.1〜1.50原子%、さらに好ましくは0.15〜1.00原子%とする。
【0045】
これにより、電解液との接触が可能な一次粒子表面を確保しながら十分な量の化合物を形成させ、正極活物質の反応抵抗を低減させることができる。また、二次粒子内部まで充放電に効率よく寄与することが可能であることから、電池容量も向上させることができる。
この化合物中に含有されるタングステン量を、リチウム金属複合酸化物に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.05原子%未満となるようにすると、化合物の形成量が少なく、正極活物質の反応抵抗を十分に低減させることができないことがある。一方、そのタングステン量を3.00原子%を超えて含有すると、電解液との接触が可能な一次粒子表面が減少するため、二次粒子内部の充放電の効率が低下するため、電池容量を向上させる効果が低下することがある。
【0046】
次に、本発明の正極活物質における二次粒子の断面観察において計測される空隙率は、0.15〜3%であることが好ましく、0.15〜1.5%であることがより好ましく、0.15〜0.5%であることがさらに好ましい。このような空隙率で空隙を有することにより、二次粒子内部まで電解液を浸透させ、電解液との接触が可能な一次粒子表面を十分に確保することができる。
【0047】
また、電解液との接触が可能な一次粒子表面は、比表面積により制御することも可能であり、正極活物のBET法によって測定される比表面積が、0.9〜1.5m/gであることが好ましい。これにより、電解液との接触が可能な一次粒子表面を適切な面積に制御して、正極活物質の安全性を確保しながら、高い電池特性を得ることができる。
【0048】
ここで、空隙率は、二次粒子の任意断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、画像解析することによって測定できる。
例えば、複数の二次粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより粒子の断面観察が可能な状態とした後、画像解析ソフト:WinRoof 6.1.1等を用いて、任意の20個以上の二次粒子を母数として、それらの二次粒子中の空隙部を黒部分、二次粒子輪郭内の緻密部を白部分として、その合計を測定二次粒子全数の合計面積を算出し、[黒部分/(黒部分+白部分)]の面積比を空隙率と規定し、計算により空隙率を求めることができる。
【0049】
本発明の正極活物質は、母材であるリチウム金属複合酸化物を構成する一次粒子表面にWおよびLiを含む化合物を形成させて反応抵抗を低減させ電池特性を改善したものであり、正極活物質としての粒径、タップ密度などの粉体特性は、通常に用いられる正極活物質の範囲内であればよい。
【0050】
さらに、正極活物質全体では、上記LiおよびWを含む化合物中のLi分が、リチウム金属複合酸化物に含有されるリチウム分より増加する。
したがって、正極活物質全体のリチウム量としては、正極活物質中のNi、Co及びMの原子数の和(Me)とLiの原子数との比「Li/Me」が、0.97〜1.25であり、0.97〜1.20であることが好ましい。Li/Meが0.97未満であると、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。また、Li/Meが1.25を超えると、正極活物質の放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。反応抵抗を小さくし、かつ放電容量を高くして電池特性をさらに改善するためには、「Li/Me」が、0.97〜1.20であることがより好ましい。
【0051】
また、リチウム金属複合酸化物中のNi、Co及びMの原子数の和(Me)とLiの原子数との比「Li/Me」は0.95〜1.20であることが好ましく、より好ましくは0.97〜1.15である。
「Li/Me」を0.95〜1.20とすることで、「Li/Me」を容易に0.97〜1.25の範囲に制御することができる。また、リチウム金属複合酸化物が優れた電池容量や出力特性などの電池特性を有するものとなる。
【0052】
リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に、WおよびLiを含む化合物を付着させることによる効果は、たとえば、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物などの粉末、さらに本発明で掲げた正極活物質だけでなく一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質にも適用できる。
【0053】
(2)正極活物質の製造方法
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「製造方法」という)を工程ごとに詳細に説明する。
【0054】
[混合工程]
この混合工程は、一般式:LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦c≦1.25、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、その一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物を母材に用い、そのリチウム金属複合酸化物の粉末を、水洗する際に、25℃でpH12.5の水中で20分間撹拌した際の溶解度が2.0g/L以下のタングステン化合物粉末を加えて撹拌した後、固液分離することにより、リチウム金属複合酸化物粉末中にタングステン化合物を分散させたタングステン混合物(以下、単に「混合物」という。)を得る工程である。水洗時においてスラリー状態になっているリチウム金属複合酸化物粉末(以下、単に「スラリー」ということがある)とタングステン化合物粉末を撹拌することで、リチウム金属複合酸化物粉末中にWを均一に分散させることができる。
【0055】
一方、タングステン化合物の固体や溶液を粉末状態のリチウム金属複合酸化物粉末に混合する場合は、スラリー状態と比べて粉末状態ではリチウム金属複合酸化物粉末の流動が少なくWを均一に分散させることが困難である。また、均一に分散させるために長時間の混合を行うと、生産性が大きく低下してしまう。さらに、水分の少ない固体状態(粉末状)のもの同士を混合する場合は、タングステン化合物をリチウム金属複合酸化物の二次粒子内へ浸透させることが不十分となり、二次粒子内の一次粒子表面にまで化合物を形成することによる高出力化の効果が低下する。
【0056】
また、タングステン化合物の溶液にリチウム金属複合酸化物粉末を浸漬させて固液分離する方法でも均一に分散させることはできるが、固液分離した際に溶解しているタングステンが廃液としてロスになってしまうか、あるいは回収して再利用する場合は、大掛かりな液循環のための設備が必要となり製造コストが高くなってしまう。
【0057】
この混合工程では、リチウム金属複合酸化物粉末を水洗する際に、スラリー状のリチウム金属複合酸化物粉末とタングステン化合物粉末が撹拌によって混合されればよい。したがって、水とリチウム金属複合酸化物粉末を混合してスラリーとした後、タングステン化合物粉末をスラリー中に加えて撹拌してもよく、予めタングステン化合物粉末を加えておいた水にリチウム金属複合酸化物粉末を加えた後、撹拌してスラリー状として混合してもよい。撹拌方法は通常の撹拌方法でよく、粉末同士が均一に分散するよう粉末が沈殿しない程度の速度で全体が撹拌されていることが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法においては、水洗する際に、水温25℃でpH12.5の水中で20分間撹拌することによって求めた溶解度Aが2.0g/L以下であるタングステン化合物粉末を用いる。これにより、水洗時の撹拌によって、リチウム金属複合酸化物粉末とタングステン化合物粉末が均一に混合される。溶解度Aが2.0g/Lを超えると、スラリーの液成分中に溶出するタングステンが多くなり、上述のタングステン化合物の溶液にリチウム金属複合酸化物粉末を浸漬させて固液分離する方法と同様の問題が生じる。
したがって、リチウム金属複合酸化物粉末の一次粒子表面に化合物を形成させて反応抵抗を低減する効果を得るためには、多量のタングステン化合物粉末を加える必要があり、コストが大幅に上昇する。
【0059】
この溶解度Aは、水温25℃でpH12.5の水中で20分間撹拌した際の溶解度として定義されるものである。例えば、25℃でpH12.5の水100mlにタングステン化合物粉末1gを加えた後、20分間撹拌する。撹拌後、水中のタングステン含有量の分析値から溶解したタングステン化合物粉末の量を算出し、溶解度を求めることができる。
この時の水温およびpH値は、溶解度測定にばらつきが生じないように、水温は25℃を中心値として上下の変動幅0.5℃、pH値は12.5を中心値として上下の変動幅0.2に制御することが好ましい。なおpH値の制御は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムや水酸化リチウムなどで調整することが好ましい。混合工程におけるスラリーは、リチウム金属複合酸化物粉末からのリチウムの溶出によってpH値が高くなることから、溶解度AのpH値の制御においても水酸化リチウムを用いることがより好ましい。
【0060】
タングステン化合物粉末は、この溶解度Aが、2.0g/L以下であればよいが、タングステン化合物としては、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムなどが好ましく、不純物混入の可能性が低い酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムがより好ましく、酸化タングステン、タングステン酸リチウムがさらに好ましい。特に、化合物中のリチウム量を確保して、化合物のリチウムイオン伝導率を高くするため、タングステン酸リチウムが好ましく、溶解度の観点から、(LiWO(HO)を80%以上含むタングステン化合物の粉末を用いることがより好ましい。
【0061】
このタングステン酸リチウムの製造方法は、特に限定されないが、水酸化リチウムとタングステン化合物を反応させて得る方法が容易であり、好ましい。
また溶解度Aは、タングステン化合物粉末の粒径にも影響を受ける。すなわち、粒径の小さいものは、溶解度Aが上昇する傾向にあり、粒径の大きいものは、溶解度Aが減少する傾向にある。
したがって、その溶解度Aが2.0g/L以下となるように粒径を調整することが好ましく、1.5g/L以下となるように粒径を調整することがより好ましい。
タングステン化合物粉末が、一次粒子が凝集した二次粒子、さらに二次粒子が凝集した凝集粒子から構成されている場合、一次粒子の粒径が溶解度に大きく影響することから、一次粒子の粒径を調整することが、より好ましい。
すなわち、二次粒子や凝集体は、水洗中における部分的な溶解により、一次粒子に近い状態に分散する。
【0062】
溶解度Aの下限は、0g/Lでもよく、すなわち全く溶解しないものでも後述するように熱処理中に溶解するため用いることもできるが、二次粒子の内部にタングステンを分散させるため、溶解度Aは0.1g/L以上であることが好ましく、0.5g/L以上であることがより好ましい。
【0063】
また、熱処理中の温度上昇によってタングステン化合物を十分に溶解させ、二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透させる観点から、水温を25℃から50℃に高めた場合の水洗の溶解度Bが2.0g/Lを超えることが好ましく、3.0g/Lを超えることがより好ましい。
この温度上昇に伴い溶解度が増加するタングステン化合物を用いることで、タングステンをリチウム金属複合酸化物粉末に均一に分散させることができる。
【0064】
そのタングステン化合物粉末における一次粒子の粒径としては、平均粒径が0.2〜5μmであることが好ましく、0.3〜3μmであることが好ましい。
平均粒径が0.2μm未満になると、その溶解度Aが2.0g/Lを超えることがある。一方、平均粒径が5μmを超えると、水洗後の固液分離によって得られた混合物中で、タングステン化合物粉末がマクロ的には均一に分散していても、リチウム金属複合酸化物の構成粒子間レベルのミクロ的な視点では分散が不均一になることがある。また、平均粒径が5μmを超えると、水洗中における部分的な溶解も少なくなる。
【0065】
その混合物中に含まれるタングステン量は、正極活物質のタングステン量となるため、混合するリチウム金属複合酸化物に含まれるニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計(Me)に対して、0.05〜3.0原子%となるように調整することが好ましい。
【0066】
さらに本発明の製造方法では、水洗後に固液分離を行うため、スラリー中に溶解したタングステンは、混合物中に含まれる液成分以外は排出される。スラリー中に溶解したタングステンの量は、スラリー温度、撹拌条件や用いるタングステン化合物粉末によって安定した量となるため、予備試験等により、溶解するタングステンの量、固液分離後の水分量を求めておけば、混合物中のタングステン量を上記範囲に容易に調整することができる。
【0067】
その水洗する際の温度、すなわちスラリー温度を40℃以下とすることが好ましく、35℃以下とすることがより好ましい。
タングステン化合物粉末は、スラリー温度の上昇とともに溶解度も上昇することから、スラリー温度を40℃以下とすることで、スラリーへの過剰なタングステン化合物粉末の溶解を抑制することができる。
スラリー温度の下限は特に限定されないが、洗浄によってリチウム金属複合酸化物粉末の表面に存在する余剰リチウムを除去する効果が得られる温度であればよく、スラリー温度を10℃以上とすることが好ましく、15℃以上とすることがより好ましい。
【0068】
また、水洗する際のスラリー濃度は、固液比、すなわち水1Lに対するリチウム金属複合酸化物粉末量は、200〜5000gとすることが好ましく、500〜1500gとすることがより好ましい。
固液比を上記範囲とすることで、リチウム金属複合酸化物粉末からのリチウムの過剰な溶出を防ぐとともに、スラリーのpH値を適正なものとし、タングステン化合物粉末の過剰な溶解を抑制することができる。さらにスラリーのpH値は、11.5〜13.5とすることが好ましい。
【0069】
本発明の製造方法においては、母材となるリチウム金属複合酸化物粉末を水洗するため、リチウムが水洗時のスラリー中に溶出する。したがって、予め予備試験によって水洗前のLi/Meからの減少量を確認し、水洗後のLi/Me(一般式(2)におけるbに相当)を求めておき、水洗前の材料としてLi/Meを調整したリチウム金属複合酸化物粉末を用いればよい。
一般的な水洗条件によるLi/Meの減少量は0.03〜0.08程度である。
したがって、水洗前のリチウム金属複合酸化物は、高容量と低反応抵抗の観点より、公知である一般式LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦c≦1.25、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物を用いる。
【0070】
また、電解液との接触面積を多くすることが、出力特性の向上に有利であることから、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末を用い、二次粒子に電解液の浸透可能な空隙および粒界を有することが好ましい。
【0071】
[熱処理工程]
熱処理工程は、混合工程により得られた混合物を、熱処理することにより、リチウム金属複合酸化物粉末の一次粒子の表面にタングステン(W)を均一に分散させ、さらに該タングステンと混合物中のリチウム(Li)から、タングステンおよびリチウムを含む化合物を、前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に形成する工程である。
これにより、混合物中のタングステン化合物より供給されたWと、混合物中のLi、さらにLiを含有するタングステン化合物を用いた場合にはタングステン化合物中のLiから、WおよびLiを含む化合物を形成し、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に、WおよびLiを含む化合物を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0072】
リチウム金属複合酸化物粉末は、水洗することで余剰リチウムが溶出する。そのため混合物中に含有される水には、水洗時に溶出したリチウムが含まれる。
また、WおよびLiを含む化合物を形成する際には、溶出しなかった余剰リチウムや一部のリチウム金属複合酸化物の結晶中のLiとも反応し、前記化合物が形成される。
したがって、混合物中のLiは、水洗時に溶出して混合物中の水分に含まれるリチウム、溶出しなかった余剰リチウム、リチウム金属複合酸化物の結晶中のLiを含むものである。
【0073】
この熱処理条件は、混合物を乾燥させ、さらにWおよびLiを含む化合物を形成させる条件であればよいが、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いたときの電気特性の劣化を防止するため、酸素雰囲気あるいは真空雰囲気中で100〜600℃の温度で熱処理することが好ましい。さらに、熱処理の加熱によって、混合物中のタングステン化合物粉末が、混合物に含まれる水に溶解するため、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面、すなわち、二次粒子の表面のみならず、二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには不完全な粒界まで、Wを均一に分散させることができる。
【0074】
その熱処理温度が100℃未満では、水分の蒸発が十分ではなく、化合物が十分に形成されない場合がある。また、タングステン化合物粉末の溶解が不足して二次粒子内部へのWの浸透が減少することもある。
一方、熱処理温度が600℃を超えると、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が焼結を起こすとともに一部のWがリチウム金属複合酸化物の層状構造に固溶してしまうために、電池の充放電容量が低下することがある。
【0075】
さらに、混合物に含まれるタングステン化合物の溶解が十分に行われる間、例えば90℃を超えるまでは昇温速度を0.8〜1.2℃/分とすることが好ましい。
このような昇温速度とすることで、昇温中にタングステン化合物を十分に溶解させ、二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透させることができる。
【0076】
熱処理時の雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸との反応を避けるため、脱炭処理された雰囲気であることが好ましく、酸素雰囲気などのような酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気とすることが好ましい。
また熱処理時間は、特に限定されないが、混合物中の二次粒子内部にWを浸透させながら水分を十分に蒸発させ、化合物を形成するために5〜15時間とすることが好ましい。
【0077】
(3)非水系電解質二次電池
本発明により提供される非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0078】
(a)正極
先に述べた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
その正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが望ましい。
【0079】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。
シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0080】
この正極の作製にあたって、導電としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
また結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0081】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0082】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。
この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0083】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0084】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
用いる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
さらに支持塩には、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0085】
(e)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0086】
(f)特性
本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、高容量で高出力となる。
特に、より好ましい形態で得られた本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、例えば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、165mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られ、さらに高容量で高出力である。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0087】
なお、本発明における正極抵抗の測定方法を例示すれば、次のようになる。
電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキスト線図が図1のように得られる。
電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。
この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。
正極抵抗は、得られるナイキスト線図の低周波数側の半円の直径と等しい。
以上のことから、作製される正極について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【実施例】
【0088】
本発明により得られた正極活物質を用いた正極を有する二次電池を作製し、その性能(初期放電容量、正極抵抗)を測定することにより本発明に係る正極活物質の評価も併せて行った。
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0089】
(電池の製造および評価)
正極活物質の評価には、図4に示す2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
図4に示すように、コイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0090】
図4に示すコイン型電池1を、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0091】
この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、上述したコイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
セパレータ3cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0092】
製造したコイン型電池1の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように測定を行い評価した。
初期放電容量は、コイン型電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0093】
また、正極抵抗は、コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、図1に示すナイキストプロットが得られる。
このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0094】
なお、本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【実施例1】
【0095】
Niを主成分とする酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.03Ni0.82Co0.15Al0.03で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を原料とした。
すなわち、硫酸ニッケルと硫酸コバルトとアルミン酸ナトリウムとを水中に溶解し、さらに十分に撹拌させながら水酸化ナトリウム溶液を加えて、NiとCoとAlとのモル比がNi:Co:Al=82:15:3となるようにして生成したニッケル−コバルト−アルミニウム複合共沈水酸化物の共沈物を水洗、乾燥させた後、水酸化リチウム−水和塩を加え、モル比がLi:(Ni+Co+Al)=103:100となるように調整して前駆体を作製した。
【0096】
次に、それらの前駆体を酸素気流中、700℃で10時間焼成し、室温まで冷却した後に粉砕して組成式Li1.03Ni0.82Co0.15Al0.03で表されるニッケル酸リチウムからなるリチウム金属複合酸化物粉末を得た。
このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は12.4μmであり、比表面積は0.3m/gであった。なお、平均粒径はレーザー回折散乱法における体積積算平均値を用い、比表面積は窒素ガス吸着によるBET法を用いて評価した。
【0097】
次に、リチウム金属複合酸化物粉末と混合するタングステン酸リチウム粉末を作製した。
水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)と酸化タングステン(WO)をモル比で2:1となるように混合し反応させた。反応完了後、大気雰囲気中において80℃で乾燥させ、タングステン酸リチウム粉末を得た。
得られたタングステン酸リチウム1gを、25℃でpH12.5の水100mlに加えた後、20分間撹拌した。撹拌後、ろ過により固液分離して残渣を除去し、ICP発光分光法により分析し、ろ液のタングステン含有量を求めた。この分析値から溶解したタングステン酸リチウムの量を算出し、溶解度Aを求めたところ、1.2g/Lであった。
【0098】
固液分離後のろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価したところ、タングステン酸リチウムは90mol%以上がLiWOであることを確認した。
また、得られたタングステン酸リチウム粉末をX線回折法(XRD)により結晶構造を分析したところ、得られたタングステン酸リチウム粉末は、(LiWO(HO)であると結論付けた。
【0099】
原料とするリチウム金属複合酸化物粉末75gを純水100mlに浸漬し、作製したタングステン酸リチウム粉末0.29gを加えて撹拌することで十分に混合すると同時にリチウム金属複合酸化物粉末を水洗した。W添加時の固液比に相当する水洗スラリーの濃度は、750g/Lとなる。水洗後に、ヌッチェを用いてろ過による固液分離を行い、タングステン化合物粉末とリチウム金属複合酸化物粉末の混合物を得た。
【0100】
得られた混合物を、SUS製焼成容器に入れ、真空雰囲気中において、昇温速度2.8℃/分で210℃まで昇温し、210℃で13時間熱処理した後、室温まで炉冷した。
炉冷後、最後に目開き38μmの篩にかけて解砕することにより、一次粒子表面にWおよびLiを含む化合物を有する正極活物質を得た。
【0101】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計(Me)に対して0.5原子%の組成であることが確認され、そのLi/Meは0.994であった。
【0102】
[リチウムとタングステンを含む化合物の形態分析]
得られた正極活物質を、樹脂に埋め込み、断面観察が可能なように加工を行ったものについて、倍率を5000倍としたSEMによる断面観察を行ったところ、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、その一次粒子表面にリチウムとタングステンを含む化合物の微粒子が形成されていることが確認され、微粒子の粒子径は20〜150nmであった。また、この観察から求めた、上記画像解析による二次粒子の空隙率は、0.51%であった。
【0103】
さらに、得られた正極活物質を樹脂に埋め込み、透過型電子顕微鏡(TEM)による二次粒子の断面観察が可能な状態とした後、前記二次粒子の断面をTEM観察し、二次粒子内に存在する25箇所の一次粒子間の空隙をEDX分析した結果、分析した空隙数の84%からWが検出された。
また、一次粒子の表面付近をTEMにより観察したところ、一次粒子の表面に膜厚2〜85nmのリチウムとタングステンを含む化合物の薄膜による被覆が形成され、その化合物はタングステン酸リチウムであることを確認した。
【0104】
また、正極活物質中のタングステン酸リチウムの存在状態について、正極活物質から溶出してくるLiを滴定することにより評価した。
得られた正極活物質に純水を加えて一定時間撹拌後、ろ過により得られたろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価したところ、タングステン酸リチウム中にはLiWOとLiWOの存在が確認され、含まれるLiWOの存在比率を算出したところ、83mol%であった。
【0105】
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有する図4に示すコイン型電池1の電池特性を評価した。なお、正極抵抗は実施例1を100とした相対値を評価値とした。
初期放電容量は204.6mAh/gであった。
以下、実施例2〜3および比較例1〜2については、上記実施例1と変更した物質、条件のみを示す。また、実施例1〜3および比較例1〜2の初期放電容量および正極抵抗の評価値を表1に示す。
【実施例2】
【0106】
加えたタングステン酸リチウムを0.12gとした以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行い、その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0107】
加えたタングステン酸リチウムを0.35gとした以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0108】
(比較例1)
純水5mlに0.6gのLiOHを溶解した水溶液中に、1.4gのWOを添加して撹拌することにより、タングステンを含有したアルカリ溶液(W)を得た。
水洗時にはタングステン酸リチウムを添加せず、固液分離した後に、アルカリ溶液(W)を添加して混合した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行い、その結果を表1に示す。W添加(アルカリ溶液添加)時の液量を固液分離後の残留水分とアルカリ溶液の合計として、固液比を算出した。
【0109】
(比較例2)
水洗時にはタングステン酸リチウムを添加せず、純水で水洗を実施した以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0110】
(従来例)
実施例1で用いたリチウム金属複合酸化物粉末100重量部に、パラタングステン酸アンモニウム((NH101241・5HO)を1.632重量部を加え、乳鉢で十分混合した混合物を、酸素気流中、700℃で4時間焼成して室温まで冷却した後、取り出して粉砕し、従来例の正極活物質を作製した。
得られた正極活物質を用いて実施例1と同様にして、評価を行い、その結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
[評価]
表1から明らかなように、実施例1〜3の複合水酸化物粒子および正極活物質は、本発明に従って製造されたため、従来例に比べて初期放電容量が高く、正極抵抗も低いものとなっており、優れた特性を有した電池となっている。
また、図2図3に本発明の実施例で得られた正極活物質のTEM断面観察結果の一例を示すが、得られた正極活物質は一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成されていることを確認した。
【0113】
一方比較例1は、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数に対するタングステンの量が実施例1と同程度であるが、水洗後にタングステンを含有したアルカリ溶液を添加して混合する方法で得られており、実施例より分散の均一性が低下して、タングステンおよびリチウムを含む化合物の形成に偏りが生じることで、正極抵抗が実施例1より増加している。
比較例2では、一次粒子表面に本発明に係るWとLiを含む化合物が形成されていないため、正極抵抗が大幅に高く、高出力化の要求に対応することは困難である。
従来例は、固体のタングステン化合物と混合したため、Wの分散が十分でないことと化合物中へのLiの供給がないため、正極抵抗が大幅に高い結果となった。
【0114】
以上の結果より、本発明によりえられた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、初期放電容量が高く、正極抵抗も低いものとなり、優れた特性を有した電池となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の非水系電解質二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電池にも好適である。
また、本発明の非水系電解質二次電池は、優れた安全性を有し、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本発明は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【符号の説明】
【0116】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ
図1
図2
図3
図4