特許第6555700号(P6555700)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6555700-不連続炭素繊維の表面処理方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555700
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】不連続炭素繊維の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/50 20060101AFI20190729BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20190729BHJP
【FI】
   D06M11/50
   D06M101:40
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-509380(P2018-509380)
(86)(22)【出願日】2017年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2017013060
(87)【国際公開番号】WO2017170770
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年7月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-68821(P2016-68821)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 浩章
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−535349(JP,A)
【文献】 特開2010−222739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 − 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 − 23/18
C01B 32/00 − 32/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過硫酸アンモニウムが実質的に唯一の有効成分である処理液で不連続な炭素繊維を処理することを特徴とする不連続炭素繊維の表面処理方法。
【請求項2】
前記処理液が過硫酸アンモニウム水溶液である請求項1に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
【請求項3】
不連続な炭素繊維を前記処理液中に浸漬する請求項1又は2に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
【請求項4】
不連続な炭素繊維が炭素繊維強化複合物品から回収されたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
【請求項5】
不連続な炭素繊維が短繊維である請求項1〜4のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
【請求項6】
過硫酸アンモニウム水溶液の濃度が0.1〜5mol/Lである請求項1〜5のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面処理方法で処理された不連続炭素繊維を用いて炭素繊維複合物品を製造する炭素繊維複合物品の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素短繊維やリサイクル炭素繊維等の不連続炭素繊維について、引張強度や樹脂等との接着強度を向上する表面処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は引張強度等の強度が顕著に高くてしかも軽いことから、樹脂等の補強材として従来から幅広く使用され、航空機機体や自動車車体をはじめとした各種物品の必要強度を保持したままでの軽量化とそれに基づく省エネルギーやCO2削減に大きく寄与してきている。
【0003】
炭素繊維は、工業的に製造されたままの状態では樹脂等のマトリックスとの接着性に劣るため、連続炭素繊維については、移送用ローラ等を介して酸化電位が付加された炭素繊維を電解液中で電解酸化法により表面処理して、接着に寄与する官能基を増やして樹脂等の補強材として使用することが一般的になっている。
【0004】
しかしながら、炭素短繊維等の不連続炭素繊維については、上記のような電解酸化法を有効に利用することができないので、簡易で有効な表面処理法が望まれている。
また、炭素繊維強化複合物品(CFRP)からリサイクルされた炭素繊維は、樹脂等のマトリックスを除去する過程で前述のような接着性の官能基が減少するため、再利用する前に表面処理することが望まれている(非特許文献1参照)。しかしながら、リサイクルの過程で複合物品中の連続繊維は切断されて不連続繊維になっており、 繊維長が長いものから短いものまで幅広い分布を有するため、リサイクルされた炭素繊維についても、上述の不連続炭素繊維と同様に、電解酸化法を有効に利用することができないでいる。
【0005】
電解酸化以外の炭素繊維の表面処理方法としては、硝酸や硫酸等の水溶液中に浸漬して処理する方法(非特許文献2参照)、気体中で空気やオゾン等を用いて気相酸化処理する方法(特許文献1参照)、様々な薬液を組み合わせた処理液での処理方法や複数の処理工程を組み合わせた処理方法などが知られている(特許文献2、3参照)。
また、リサイクル炭素繊維の表面再生処理の過去事例では、硝酸による薬液処理が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-77239号公報
【特許文献2】中国特許103044680号明細書
【特許文献3】米国特許第5472742号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G. Jiangほか,Characterisation of carbon fibres recycled from carbon fibre/epoxy resincomposites using supercritical n-propanol, Composites Science and Technology, Volume 69, Issue 2, Pages 192-198, 2009.2
【非特許文献2】Nan Feng ほか. Surface modification of recycled carbon fiber and its reinforcement effect on nylon 6 composites: Mechanical properties, morphology and crystallization behaviors. Current Applied Physics. Volume 13, Issue 9, Pages2038-2050, 2013.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、不連続炭素繊維の活用について研究する過程で、上述のような従来技術も検討したが、次の(1)〜(5)のような問題点が認識された。
(1)硝酸や硫酸等の強酸を用いた表面処理は、廃液処理や安全対策が必要で、工業的な利用として好ましくない。
(2)硝酸や硫酸等の強酸を用いた表面処理では、比較的高価な炭素繊維が細くなり、全体の体積減少乃至重量減少(歩留まりの低下)が比較的大きい。
(3)気相酸化処理のうち空気酸化は、長時間の加熱処理を要する上、炭素繊維の機械的強度が低下しやすい。
(4)気相酸化処理のうちオゾン酸化は、オゾンの使用効率が悪いし、オゾンに対する安全対策が必要である。
(5)様々な薬液を組み合わせた処理液での表面処理や複数の処理工程を組み合わせた表面処理は、処理操作や工程が煩雑であり、コスト面からも実用性に欠ける。
【0009】
本発明は、従来技術に関し認識された上記のような問題点を解決すべくなされたものであり、処理対象の炭素繊維の細径化(体積減少乃至重量減少)の程度が比較的小さく、簡易な操作で実施可能で、しかも、環境負荷が小さい不連続炭素繊維の効果的な表面処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の下、各種の試験研究を進める過程で、本発明者は次の(A)〜(C)のような知見を得た。
(A)過硫酸アンモニウムを唯一の有効成分として用いる炭素繊維の表面処理は、硝酸を用いる場合と同様に、酸化反応により酸素官能基を付加するとともに、繊維を細径化する(酸化により繊維表面を削り取る)作用を持つものであるが、硝酸を用いる場合よりも、炭素繊維の細径化(体積減少乃至重量減少)の程度が小さく、製品歩留まりが良いという処理条件下で、硝酸を用いる場合よりも、酸素官能基の付加をより効率的に行うことができる(多量の酸素官能基を導入することができる)。
(B)過硫酸アンモニウムを唯一の有効成分として用いる炭素繊維の表面処理は、炭素繊維の浸漬等により簡易に実施をすることができるし、また、硝酸を用いる場合のような高度の廃液処理を必要としない。
(C)リサイクル炭素繊維は、リサイクル処理工程において、破壊を起こりやすくする欠陥が生じ、強度低下がもたらされるが、過硫酸アンモニウムによる表面酸化処理過程において表面欠陥の除去による炭素繊維の強度向上(強度再生)効果が得られる。
【0011】
なお、特許文献2には、炭素繊維の処理用薬液の複数成分のうちの1成分として過硫酸アンモニウムを用いる旨が記載されているが、過硫酸アンモニウムを唯一の有効成分として用いるものではない。また、特許文献2には、硝酸等のCOO形成用薬剤を用いる本処理前の予備処理用薬液の複数の選択成分の1つとして過硫酸アンモニウムを用いる旨が記載されているが、硝酸等のCOO形成用薬剤を用いる本処理と無関係に過硫酸アンモニウムを唯一の有効成分として用いるものではない。しかも、これらの特許文献2、3には、上述のような知見について全く開示されていないから、それらの特許文献から本発明が導き出せるものではない。
【0012】
本発明は、上述のような知見に基づいて完成に至ったものであり、本件では、以下の発明が提供される。
<1>過硫酸アンモニウムが実質的に唯一の有効成分である処理液で不連続な炭素繊維を処理することを特徴とする不連続炭素繊維の表面処理方法。
<2>前記処理液が過硫酸アンモニウム水溶液である<1>に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<3> 不連続な炭素繊維を前記処理液中に浸漬する<1>又は<2>に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<4>不連続な炭素繊維が炭素繊維強化複合物品から回収されたものである<1>〜<3>のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<5> 不連続な炭素繊維が短繊維である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<6>過硫酸アンモニウム水溶液の濃度が0.1〜5mol/Lである<1>〜<5>のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<7> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の表面処理方法で処理された不連続炭素繊維を用いて炭素繊維複合物品を製造する炭素繊維複合物品の製造方法。
【0013】
本発明は、次のような実施態様を含むことができる。
<8>前記処理液は、実質的に過硫酸アンモニウムだけを含む水溶液である<1>〜<6>のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<9>前記処理液での処理とは別のCOO形成用薬剤を用いる処理を含まないものである<1>〜<6>、<8>のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<10>前記処理液の温度が10〜95℃である<1>〜<6>、<8>、<9>のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<11>処理時間が1分〜10日間である<1>〜<6>、<8>〜<10>のいずれか1項に記載の不連続炭素繊維の表面処理方法。
<12><8>〜<11>のいずれか1項に記載の表面処理方法で処理された不連続炭素繊維を用いて炭素繊維複合物品を製造する炭素繊維複合物品の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非連続炭素繊維の表面処理方法は、処理用薬液の唯一の有効成分として過硫酸アンモニウムを使用するだけであるので、硝酸を用いる場合のような高度の廃液処理を必要としない環境負荷が小さいものであり、しかも、炭素繊維の浸漬等により簡易に実施をすることができる。
本発明の非連続炭素繊維の表面処理方法は、硝酸を用いる場合と同様に、酸化反応により酸素官能基を付加するとともに、繊維を細径化する(酸化により繊維表面を削り取る)作用を持つものであるが、硝酸を用いる場合よりも、炭素繊維の細径化(体積減少乃至重量減少)の程度が小さく、製品歩留まりが良いという処理条件下で、硝酸を用いる場合よりも、酸素官能基の付加をより効率的に行うことができる。
本発明の表面処理方法により処理された炭素繊維は、樹脂等との接着性が向上するだけでなく、引張強度も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例の1日酸化と5日酸化の表面処理をした炭素繊維と、比較例の市販炭素繊維(STS40、サイジング剤除去後のもの)、未表面処理炭素繊維の単繊維の樹脂との界面剪断強度(接着強度)を示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の不連続炭素繊維の表面処理方法は、不連続炭素繊維を過硫酸アンモニウムで処理することに特徴がある。本発明の表面処理方法によれば、処理された炭素繊維は樹脂等との接着性が向上するとともに、引張強度も向上する。
本発明が対象とする不連続炭素繊維は、移送ロール等を用いた連続的な処理が不可能なものであり、各種の短繊維や、炭素繊維強化複合物品(CFRP)の廃棄物から回収したリサイクル炭素繊維等が含まれる。
【0017】
本発明の表面処理では、不連続炭素繊維の表面に過硫酸アンモニウムを接触させることにより行う。過硫酸アンモニウムを含む処理液は、酸化剤としての過硫酸アンモニウムだけを含む水溶液であること、すなわち、唯一の酸化剤有効成分としての過硫酸アンモニウムだけを含む水溶液であることが望ましいが、不可避的に含まれる不純物の含有は許容されるし、また、過硫酸アンモニウムの作用を大幅に低下させない範囲で他の成分を含有することも許容される。そして、本発明の表面処理方法は、過硫酸アンモニウムが実質的に唯一の有効成分である処理液での処理とは別工程の硝酸等のCOO形成用薬剤を用いる処理〔特許文献3に記載の硝酸等のCOO処理剤(CO2 former)を用いる処理〕を含まないものである。
【0018】
処理液における過硫酸アンモニウムの濃度は限定するものではないが、通常0.1〜5mol/L、経済性や処理効率から好ましくは0.2〜3mol/L、より好ましくは0.3〜2mol/Lとすることができる。
不連続炭素繊維の表面に対する過硫酸アンモニウムの接触は、過硫酸アンモニウムを含む処理液中に不連続炭素繊維を浸漬することにより行うことが望ましいが、それに限定されず、噴霧や塗布等により行っても良い。
【0019】
処理液の温度は、高い方が処理が迅速化する点で好ましいが、経済性を考慮すると、常温や常温よりやや高い温度が望ましい。それ故、通常は、10〜95℃、好ましくは15〜60℃、より好ましくは20〜50℃程度である。
処理時間は、過硫酸アンモニウムの濃度や処理液温度等を考慮して適宜決定されるが、通常は1分〜10日間、好ましくは3分〜5日間、より好ましくは5分〜2日間である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0021】
<表面処理対象の炭素繊維の準備>
市販の炭素繊維(東邦テナックス社製STS40)は、既に表面処理がなされサイジング剤が付着していたため、サイジング除去を目的としたアセトン洗浄と、官能基除去を目的とした窒素雰囲気下800℃の熱処理とを行って、表面処理対象の不連続炭素繊維(未表面処理不連続炭素繊維)とした。
【0022】
<炭素繊維の表面処理>
上述のように準備された表面処理対象の不連続炭素繊維を、濃度1mol/Lの過硫酸アンモニウム〔(NH4)2S2O8〕水溶液(20℃)に1日間又は5日間浸漬による酸化処理を行った。
比較のため、上述のように準備された表面処理対象の不連続炭素繊維を、濃度60質量%の濃硝酸(20℃)に1日間又は5日間浸漬による酸化処理を行った。
【0023】
<XPSによる表面官能基分析>
上述のように表面処理された炭素繊維について、その処理効果を確認するために、表面に導入される可能性のある元素として、酸素、窒素、硫黄のX線光電子分光(XPS)分析を実施した。その分析結果を未表面処理不連続炭素繊維の分析結果とともに表1に示す。O/C、N/C、S/Cは、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)のそれぞれの原子数を炭素(C)原子数に対する比で示したものである。
表1の分析結果から明らかなように、実施例の過硫酸アンモニウムで処理した炭素繊維は、未表面処理のものよりも酸素濃度が大幅に増加した。しかも、1日酸化に比べ処理時間を長くした5日酸化の場合には、酸素増加の割合もより大幅となった。比較例の硝酸で処理した場合にも同様の傾向は見られたものの、実施例の過硫酸アンモニウムで処理した場合の方が1日酸化、5日酸化のどちらも大きく上回り、酸素官能基の付加が比較例の硝酸で処理した場合よりもより効率的であったと言える。一方、窒素濃度は1日酸化したもので一度増加するが、さらに酸化が進むと減少した。窒素濃度の推移は酸素濃度の推移に比べ僅かであった。また、硫黄元素は微量しか検出されないことから、処理剤の過硫酸アンモニウムは炭素表面にほとんど残存していないことが分かった。
【0024】
【表1】
【0025】
<表面処理炭素繊維の引張強度試験及び細径化(歩留まり)調査>
上述のように表面処理された炭素繊維束から不作為に採取した単繊維100本について、光学顕微鏡を用いた直径測定と、島津製作所製オートグラフAG-Xplusを使用し、JISR760に従って引張試験を行った。比較のため、未表面処理炭素繊維から採取した単繊維100本についても同様の直径測定と引張試験を行った。各単繊維は試験用台紙に固定し、それを試験機の荷重軸に沿うように取り付け、直径測定と引張試験を行った。直径測定は単繊維の長さ方向3箇所測定し、その平均を当該単繊維の直径とし、短繊維100本の直径を平均した直径(平均)を算出した。また、該直径(平均)に基づいて、未表面処理単繊維に対する体積比V/V0(%)も算出した。引張速度は1mm/minとした。その結果の引張強度の平均値、変動係数(C.V.)、直径の平均値、及び、体積比V/V0(%)を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2から明らかなように、未表面処理品に比べて、実施例の過硫酸アンモニウムや比較例の硝酸を用いた表面処理により平均の引張強度は大きく増加した。また、強度のばらつきを表す変動係数CVの値も、表面処理により小さくなっている。これは、表面処理により単繊維表面にあった欠陥が除去され、破断しにくくなったためであると考えられる。
一方、実施例の過硫酸アンモニウムや比較例の硝酸を用いた表面処理により、炭素繊維は細径化(体積減少乃至重量減少)しているが、その細径化(体積減少乃至重量減少)の程度は、実施例の過硫酸アンモニウムを用いた場合の方が比較例の硝酸を用いた場合よりも大幅に小さくなっている。そして、上記表1の結果をも併せ考慮すると、実施例の過硫酸アンモニウムを用いる炭素繊維の表面処理は、比較例の硝酸を用いる場合と同様に、酸素官能基を付加するとともに、繊維を細径化する(酸化により表面をエッチング的に除去する)作用を持つものであるが、比較例の硝酸を用いた場合よりも細径化乃至体積減少(重量減少)の程度が小さく、製品歩留まりが良いという処理条件でありながら、硝酸を用いる場合よりも多くの酸素官能基の付加が実現できていると言える。
【0028】
<表面処理炭素繊維の界面接着強度試験>
上述のように表面処理された炭素繊維束から不作為に採取した1日酸化単繊維10本、5日酸化単繊維10本について、界面接着強度を調べるためピンホール引抜試験を行った。比較のため、市販の炭素繊維(東邦テナックス社製STS40)からサイジング剤を除去した後に採取した単繊維10本、及び、未表面処理炭素繊維から採取した単繊維10本についても同様のピンホール引抜試験を行った。ピンホール引抜試験は、金属薄板に空けたピンホールに樹脂を溶かし込み、そのピンホールに単繊維を貫通させ、単繊維と樹脂を接着させた後、その単繊維を引き抜く際の界面剪断強度(接着強度)を測定することによって行った。その結果を図1に示す。
図1から明らかなように、表面処理を行った炭素繊維は、未表面処理のものに比べ界面剪断強度が向上しており、市販の表面処理済みの炭素繊維と比べても同等かそれ以上の界面剪断強度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の炭素繊維の表面処理方法によれば、従来の連続炭素繊維の表面処理方法では処理できなかった短繊維等の不連続繊維を製品歩留まり良くしかも容易に処理して引張強度や樹脂との接着強度を向上することができる。そのため、今後大量に廃棄処理される炭素繊維強化複合材料からリサイクルされる炭素繊維の再生利用において必要不可欠な表面処理技術を提供するものであり、社会的ニーズは極めて大きい。

図1