特許第6555989号(P6555989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555989
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】燃料電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20190729BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20190729BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190729BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01M4/90 X
   H01M4/96 B
   H01M8/10 101
   H01M4/88 K
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-172805(P2015-172805)
(22)【出願日】2015年9月2日
(65)【公開番号】特開2017-50150(P2017-50150A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】馬 廷麗
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】馬 雲峰
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0287346(US,A1)
【文献】 特開2010−201416(JP,A)
【文献】 特開2007−50319(JP,A)
【文献】 特開2008−181763(JP,A)
【文献】 特開2010−267568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/88
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池であって、
前記カソードは、炭素粒子の粒界にW1849粒子層が存在する複合炭素粒子A、又は多孔質炭素粒子の孔内にW1849粒子が入り込んだ複合炭素粒子Bにより形成された多孔性炭素電極を有していることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記多孔性炭素電極は前記複合炭素粒子Aにより形成され、前記炭素粒子はグラフェン粒子であることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池において、前記多孔性炭素電極は前記複合炭素粒子Bにより形成され、前記多孔質炭素粒子はメソポーラスカーボン粒子であることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池において、前記電解質層は固体高分子層であることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池の製造方法であって、
前記カソードは、炭素粒子とW1849粒子前駆体との混合物を密閉容器内で加熱して得られ、炭素粒子の粒界にW1849粒子層が存在する複合炭素粒子Aで形成された多孔性炭素電極を用いて作製することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の燃料電池の製造方法において、前記炭素粒子はグラフェン、前記W1849粒子前駆体は六塩化タングステンであることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項7】
電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池の製造方法であって、
前記カソードは、多孔質炭素粒子の孔内に、W1849粒子前駆体から合成したW1849粒子を含浸して得られる複合炭素粒子Bで形成された多孔性炭素電極を用いて作製することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項8】
電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池の製造方法であって、
前記カソードは、多孔質炭素粒子の孔内に、W1849粒子前駆体を含浸した処理物を密閉容器内で加熱して得られ、前記孔内にW1849粒子が入り込んだ複合炭素粒子Bで形成された多孔性炭素電極を用いて作製することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の燃料電池の製造方法において、前記多孔質炭素粒子はメソポーラスカーボン粒子、前記W1849粒子前駆体は六塩化タングステンであることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は発電機構(動作原理)に基づいて、例えば、リン酸塩形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、及び固体高分子形に大別される。これらの中で、固体高分子形の燃料電池は、低温での発電が可能なこと、単位体積及び単位重さ当たりの出力が大きいこと等の長所を有しているため、自動車等の運輸交通関連や家庭用等での利用が考えられている。しかしながら、固体高分子形の燃料電池では、正極(カソード)においては酸素還元反応を促進するため、負極(アノード)においては水素酸化反応を促進するため、白金系触媒が使用されており、原料コストが高くなること、白金の生産量(推定埋蔵量)が少なく需要に十分対応できない可能性が高いこと等から、実用化及び普及にとって大きな問題となっている。
【0003】
このため、固体高分子形の燃料電池においては、白金の使用量低減に関する種々の技術開発が進められており、負極で使用する白金系触媒は、例えば、ルテニウムとの合金化や、合金化されたものを更に微粒子化して表面積を拡大させること等により、使用量を減少させることが可能になっている。一方、正極で使用する白金系触媒は、正極における酸素の還元反応速度が負極における水素の酸化反応速度に比較して遅いため、正極の還元反応と負極の酸化反応をバランスさせる必要性から、使用量を低減させることは困難となっている。このため、正極で使用する白金系触媒の代替えとなる非白金系触媒の開発が必要不可欠となり、種々の非白金系触媒が提案されている。例えば、特許文献1には、酸素欠損を有する遷移金属酸化物を主触媒とし金を助触媒とする金属酸化物電極触媒が記載されている。また、非特許文献1には、窒素と鉄をドープしたグラフェンを使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006/019128号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.Zhang,K.Fugane,T.Mori,L.Niu andJ.Ye,J.Mater.Chem.,2012,22,p.6575−6580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の金属酸化物電極触媒では、遷移金属酸化物と金との間で電子の授受を可能にしなければならず、遷移金属酸化物と金を微細化すると共に、遷移金属酸化物と金を電気的に接触した状態で担体に担持させる必要がある。このため、特許文献1に記載の金属酸化物電極触媒では、製造プロセスが複雑化して製造コストが高くなるという虞がある。
非特許文献1のグラフェンでは、酸素の還元反応で生成する過酸化水素と鉄が反応してフェントン試薬が形成され、グラフェンの触媒活性が徐々に低下するという問題がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、製造プロセスが簡単で長期間に亘って安定して動作することが可能な燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係る燃料電池は、電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池であって、
前記カソードは、炭素粒子の粒界にW1849粒子層が存在する複合炭素粒子A、又は多孔質炭素粒子の孔内にW1849粒子が入り込んだ複合炭素粒子Bにより形成された多孔性炭素電極を有している。
【0009】
前記目的に沿う第2の発明に係る燃料電池の製造方法は、電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池の製造方法であって、
前記カソードは、炭素粒子とW1849粒子前駆体との混合物を密閉容器内で加熱して得られ、炭素粒子の粒界にW1849粒子層が存在する複合炭素粒子Aで形成された多孔性炭素電極を用いて作製する。
【0010】
前記目的に沿う第3の発明に係る燃料電池の製造方法は、電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池の製造方法であって、
前記カソードは、多孔質炭素粒子の孔内に、W1849粒子前駆体から合成したW1849粒子を含浸して得られる複合炭素粒子Bで形成された多孔性炭素電極を用いて作製する。
【0011】
前記目的に沿う第4の発明に係る燃料電池の製造方法は、電解質層の両側にアノードとカソードが配置された燃料電池の製造方法であって、
前記カソードは、多孔質炭素粒子の孔内にW1849粒子前駆体を含浸した処理物を密閉容器内で加熱して得られ、前記孔内にW1849粒子が入り込んだ複合炭素粒子Bで形成された多孔性炭素電極を用いて作製する。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明に係る燃料電池においては、カソードに用いる多孔性炭素電極を、炭素とW1849との複合炭素粒子を用いて形成するため、多孔性炭素電極(カソード)ではW1849粒子がナノサイズで分散することになって、W1849粒子の有効表面積を増大させることが可能になる。ここで、W1849にはプラスに分極した酸素欠陥が多く存在するので、W1849はカソードにおける酸素の還元反応を促進することができる。また、W1849ではタングステンの酸化数が高いため、W1849は酸素の還元反応下においても安定して存在することができ、W1849粒子の有効表面積の減少を防止することができる。これにより、燃料電池を長期間に亘って高い電池出力を維持して動作させることが可能となる。
【0013】
第2、第3、第4の発明に係る燃料電池の製造方法においては、カソードに用いる多孔性炭素電極を、炭素とW1849との複合炭素粒子を用いて形成するため、W1849粒子がナノサイズで分散する多孔性炭素電極(カソード)を容易に作製することが可能になる。ここで、W1849にはプラスに分極した酸素欠陥が多く存在するので、W1849はカソードにおける酸素の還元反応を促進することができる。また、W1849ではタングステンの酸化数が高いため、W1849は酸素の還元反応下においても安定して存在することができ、W1849粒子の有効表面積の減少を防止することができる。これにより、長期間に亘って高い電池出力を維持して動作する燃料電池を安価に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1、第2の実施の形態に係る燃料電池の説明図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池のカソードに使用される多孔性炭素電極を形成する複合炭素粒子の説明図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池のカソードに使用される多孔性炭素電極を形成する複合炭素粒子の説明図である。
図4】実施例1の多孔性炭素電極についてサイクリックボルタメトリ測定を行った結果を示すグラフである。
図5】実施例2の多孔性炭素電極についてサイクリックボルタメトリ測定を行った結果を示すグラフある。
図6】実施例2で作製した多孔性炭素電極についてサイクリックボルタメトリ測定を148回行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池10では、固体高分子層(プロトン交換樹脂膜)を用いて形成された電解質層11の両側にアノード12とカソード13がそれぞれ配置されており、電解質層11中をアノード12からカソード13に向けて移動する水素イオン(H)、アノード12及びカソード13を接続する外部負荷14を備えた外部回路15中をアノード12からカソード13に向けて移動する電子(e)とを仲立ちとして、アノード12では水素(還元剤の一例)の酸化反応が、カソード13では酸素(酸化剤の一例)の還元反応が個別に行われている。
【0016】
アノード12は、電解質層11のアノード側の表面と密着し、水素の酸化反応を促進する触媒(例えば、白金)が担持された多孔性炭素電極16と、多孔性炭素電極16へ水素を供給する炭素質の拡散層17と、拡散層17に水素を供給する溝部18を備えた導電性のアノード側セパレータ19と、多孔性炭素電極16及び拡散層17からの水素の漏れを防止するシール部材20とを有している。また、カソード13は、電解質層11のカソード側の表面と密着し、酸素の還元反応を促進する触媒が担持された多孔性炭素電極21と、多孔性炭素電極21へ酸素を供給する炭素質の拡散層22と、拡散層22に酸素を供給する溝部23を備えた導電性のカソード側セパレータ24と、多孔性炭素電極21及び拡散層22からの酸素の漏れを防止するシール部材25とを有している。
【0017】
図2に示すように、カソード13の多孔性炭素電極21は、グラフェン粒子26(炭素粒子の一例)の粒界にW1849粒子層27が存在する複合炭素粒子(複合炭素粒子A)28により形成されている。複合炭素粒子28では、ナノサイズのグラフェン粒子26の粒界に(間に)ナノサイズのW1849粒子層27が存在しているので、複合炭素粒子28を用いて作製した多孔性炭素電極21においては、W1849粒子層27がナノサイズで分散することになって、W1849粒子層27の有効表面積(複合炭素粒子28の表面に現れているW1849粒子層27の露出面の面積総和)が増大する。
【0018】
図1に示すように、カソード13の多孔性炭素電極21内では、電解質層11を通過して多孔性炭素電極21内に進入したHは、多孔性炭素電極21の孔内を移動し、拡散層22から多孔性炭素電極21内に進入した酸素は、多孔性炭素電極21の孔内を移動し、外部回路15を介してアノード12からカソード13側に移動したeは、多孔性炭素電極21を形成している複合炭素粒子28のグラフェン粒子26内を移動する。その結果、Hと酸素とeが、複合炭素粒子28の表面に現れているW1849粒子層27の露出面上で出会うと、W1849にはプラスに分極した酸素欠陥が多く存在するので、酸素欠陥部分を介して酸素の還元反応に必要な局所的電子伝導が生じることになって、カソード13(多孔性炭素電極21)における酸素の還元反応が促進する。
なお、W1849ではタングステンの酸化数が高いため、W1849は酸素の還元反応下においても安定して存在することができ、W1849粒子層27の有効表面積が減少するのが防止される。その結果、燃料電池10は長期間に亘って高い電池出力を維持して動作することになる。
【0019】
本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池10の製造方法では、カソード13に使用される多孔性炭素電極21の製造方法に特徴があるので、多孔性炭素電極21の製造方法について詳細に説明する。
多孔性炭素電極21の製造方法は、グラフェン(炭素粒子の一例)と、六塩化タングステン(W1849粒子前駆体の一例)との混合物を作製する第1工程と、混合物を密閉容器内で加熱し反応させて複合炭素粒子28を生成させる第2工程と、複合炭素粒子28を用いて多孔性炭素電極21を成形する第3工程とを有している。
【0020】
第1工程では、プロピオン酸にグラフェンと六塩化タングステンを加えて混合しグラフェンと六塩化タングステンとの混合物を作製する。第2工程では、グラフェンと六塩化タングステンとの混合物をテフロン(登録商標)ライニングされたステンレス鋼製オートクレーブ(密閉容器の一例)に入れて加熱することにより加圧下で反応させ、グラフェン粒子26の粒界にW1849粒子層27が存在する複合炭素粒子28を形成させる。そして、得られた複合炭素粒子28を水とエタノールを用いて繰り返し洗浄した後、複合炭素粒子28を加温しながら真空下で乾燥する。第3工程では、複合炭素粒子28にプロトン交換樹脂溶液(電解質層11を形成しているのと同種のプロトン交換樹脂を有機溶剤中に溶解させたもの)を加えてスラリーを調製し、スラリーを用いて多孔性炭素電極21を形成する。
複合炭素粒子28を用いることにより、W1849粒子層27がナノサイズで分散している、即ち、W1849粒子層27の有効表面積が大きな多孔性炭素電極21の作製が容易になって、燃料電池10を安価に製造することが可能になる。
【0021】
本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池10a(図1参照)は、第1の実施の形態に係る燃料電池10と比較して、図3に示すように、燃料電池10aのカソード13に使用される多孔性炭素電極29を形成する複合炭素粒子(複合炭素粒子B)30が、メソポーラスカーボン粒子31(多孔質炭素粒子の一例)と、メソポーラスカーボン粒子31内に存在するナノサイズの孔32内に入り込んだナノサイズのW1849粒子33により形成されていることが特徴となっている。このため、複合炭素粒子30及び複合炭素粒子30を用いた多孔性炭素電極29の製造方法について説明する。
【0022】
図3に示すように、メソポーラスカーボン粒子31内に存在するナノサイズの孔32内にW1849粒子33が入り込んでいるので、複合炭素粒子30ではW1849粒子33がナノサイズの大きさで分散した状態となっている。このため、複合炭素粒子30を用いて作製した多孔性炭素電極29においては、W1849粒子33がナノサイズで分散することになって、W1849粒子33の有効表面積(複合炭素粒子30の表面に現れているW1849粒子33の露出面の面積総和)が増大する。
【0023】
図1に示すように、カソード13の多孔性炭素電極29内では、電解質層11を通過して多孔性炭素電極29内に進入したHは、多孔性炭素電極29の孔内を移動し、拡散層22から多孔性炭素電極29内に進入した酸素は、多孔性炭素電極29の孔内を移動し、外部回路15を介してアノード12からカソード13側に移動したeは、多孔性炭素電極29を形成している複合炭素粒子30のメソポーラスカーボン粒子31内を移動する。その結果、Hと酸素とeが、複合炭素粒子30の表面に現れているW1849粒子33の露出面上で出会うと、W1849にはプラスに分極した酸素欠陥が多く存在するので、酸素欠陥部分を介して酸素の還元反応に必要な局所的電子伝導が生じることになって、カソード13(多孔性炭素電極29)における酸素の還元反応が促進する。
なお、W1849ではタングステンの酸化数が高いため、W1849は酸素の還元反応下においても安定して存在することができ、W1849粒子33の有効表面積が減少するのが防止される。その結果、燃料電池10aは長期間に亘って高い電池出力を維持して動作することになる。
【0024】
多孔性炭素電極29の製造方法は、六塩化タングステン(W1849粒子前駆体の一例)からW1849粒子を合成する第1工程と、メソポーラスカーボン粒子31の孔32内に合成したW1849粒子を含浸して複合炭素粒子30を生成させる第2工程と、複合炭素粒子30を用いて多孔性炭素電極29を形成する第3工程とを有している。
【0025】
第1工程では、例えば、プロビオン酸に六塩化タングステン(W1849粒子前駆体の一例)を加え室温で撹拌して六塩化タングステンプロビオン酸溶液を作製し、作製した六塩化タングステンプロビオン酸溶液を、テフロン(登録商標)ライニングされたステンレス鋼製オートクレーブ(密閉容器の一例)に入れて加熱することにより加圧下で反応させて、ナノサイズのW1849粒子を合成する。第2の工程では、合成したW1849粉末とメソポーラスカーボン粒子31(多孔質炭素粒子の一例)を溶媒中で混合することにより、メソポーラスカーボン粒子31の孔32内にW1849粉末を含浸する。これによって、複合炭素粒子30が形成される。第3工程では、複合炭素粒子30にプロトン交換樹脂溶液(電解質層11を形成しているのと同種のプロトン交換樹脂を有機溶剤中に溶解させたもの)を加えてスラリーを調製し、スラリーを用いて多孔性炭素電極29を形成する。
【0026】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池10aの製造方法の変形例について説明する。
製造方法の変形例は、メソポーラスカーボン粒子31の孔32内に六塩化タングステン(W1849粒子前駆体の一例)を含浸した処理物を作製する第1工程と、処理物を密閉容器内で加熱し反応させて複合炭素粒子(複合炭素粒子B)30を生成させる第2工程と、複合炭素粒子30を用いて多孔性炭素電極29を形成する第3工程とを有している。
【0027】
第1工程では、メソポーラスカーボン粒子31を密閉容器内に入れて脱気し(孔32内の空気を除去し)、脱気された密閉容器内に六塩化タングステンのエタノール溶液を供給して、メソポーラスカーボン粒子31の孔32内に六塩化タングステンのエタノール溶液を含浸する。第2工程では、孔32内に六塩化タングステンのエタノール溶液が含浸された処理物をテフロン(登録商標)ライニングされたステンレス鋼製オートクレーブ(密閉容器の一例)に入れて加熱することにより加圧下で反応させ、孔32内にW1849粒子33を生成させて複合炭素粒子30を形成させる。第3工程では、第2工程で得られた複合炭素粒子30にプロトン交換樹脂溶液(電解質層11を形成しているのと同種のプロトン交換樹脂を有機溶剤中に溶解させたもの)を加えてスラリーを調製し、スラリーを用いて多孔性炭素電極29を形成する。複合炭素粒子30を用いることにより、W1849粒子がナノサイズで分散している、即ち、W1849粒子の有効表面積が大きな多孔性炭素電極29の作製が容易になって、燃料電池10aを安価に製造することが可能になる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
プロビオン酸にWClが0.005モル/リットル含まれるようにプロビオン酸とWClを室温で30分間撹拌して、黄色の六塩化タングステンプロビオン酸溶液を作製した。次いで、ステンレス鋼製オートクレーブを用いて、六塩化タングステンプロビオン酸溶液を200℃で24時間を加熱して青色の粉末を得た。青色の粉末のX線回折データから粉末はW1849であること、青色の粉末の走査型電子顕微鏡観察から粉末のサイズはナノオーダーレベルであることをそれぞれ確認した。
【0029】
合成したW1849粉末とメソポーラスカーボン粒子を、水と2-プロパノールとの混合溶媒中で30分間混合した後、メソポーラスカーボン粒子を回収した。そして、回収した粉末の走査型電子顕微鏡観察を行った結果、粉末は、メソポーラスカーボン粒子の孔内にW1849粒子が入り込んだ複合炭素粒子Bであることが確認された。得られた複合炭素粒子Bに、5%Nafion分散液(プロトン交換樹脂の一例であるNafionを有機溶剤の一例である2−プロパノールに溶解させた)を加えてスラリーを作製し、グラッシーカーボン基板(作用電極を支持する基板)の表面上に塗布して(垂らして)、薄膜状の多孔性炭素電極を作製した。
【0030】
作製した薄膜状の多孔性炭素電極の触媒活性は、サイクリックボルタメトリ(CV)測定図から電気化学活性表面積を求めることにより評価した、なお、CV測定は以下の方法で行った。多孔性炭素電極を作用電極として、50mV/sの走査速度で+1.30Vから−0.3Vまで電位を走査した際の電流応答を測定した。対極にはPtワイアを、参照電極にはAg/AgClをそれぞれ使用し、三極セルを組み立てた。電解液には0.1モル/リットルの過塩素酸(HClO)溶液を用いた。測定は室温(298K)で行った。測定結果を図4に示す。なお、測定前に30分間窒素ガスを吹込み、各電極周囲の雰囲気を窒素ガスで置換した。
図4には、合成したW1849粉末に5%Nafion分散液を加えて作製したスラリーをグラッシーカーボン基板の表面上に塗布して作製した薄膜状のW1849電極のCV測定図(比較例1)と、メソポーラスカーボン粒子に5%Nafion分散液を加えて作製したスラリーをグラッシーカーボン基板の表面上に塗布して作製した薄膜状のメソポーラスカーボン電極のCV測定図(比較例2)を合わせて記載している。
【0031】
図4から、縦軸の電流密度を比較すると、比較例2(メソポーラスカーボン電極)、比較例1(W1849電極)、実施例1(多孔性炭素電極)の順で電流密度が高くなっている。比較例2より比較例1の方が電流密度が高くなったのは、比較例1のW1849電極を構成しているW1849には酸素欠陥が多く存在するため、活性サイトが多くなり、触媒活性が高くなった影響と考えられる。
また、比較例1より実施例1の方が電流密度が高くなったのは、実施例1の多孔性炭素電極を構成している複合炭素粒子では、W1849が担持体であるメソポーラスカーボン粒子の孔内に存在しているため比表面積が高くなると共に、W1849をメソポーラスカーボン粒子に担持させることで電極としての導電性も改善されて酸素の還元反応が促進されたためと考えられる。
【0032】
触媒成分が白金でない場合は、触媒の単位活性面積当たり吸着電荷量の見積が困難であるため、図4のCV測定図から各電極毎に電気化学活性表面積を求めて、触媒活性を定量的に評価することができない。そこで、電気化学活性表面積を表す吸着電荷量として、水素吸着波の面積から求まる水素吸着電荷量を算出して評価した。求めた水素吸着電荷量は、メソポーラスカーボン電極の場合が1.72μC、W1849電極の場合が12.95μC,多孔性炭素電極の場合が27.74μCであった。
【0033】
(実施例2)
50ミリリットルのプロビオン酸に60ミリグラムのWClを溶解させたプロビオン酸溶液と12ミリリットルのエタノールに12ミリグラムのグラフェンを分散させたエタノール溶液とを、室温で30分間撹拌して混合溶液を作製した。次いで、ステンレス鋼製オートクレーブを用いて、混合溶液を200℃で24時間を加熱して、ゾルゲル反応によりW1849を形成させると同時にグラフェンと複合化させて(In−Situ合成法によって)粉末を作製した。得られた粉末のX線回折データから粉末はグラフェンとW1849から構成されていること、粉末の走査型電子顕微鏡観察から、粉末はナノサイズのグラフェン粒子の粒界に(間に)ナノサイズのW1849粒子層が存在する均一な複合体組織を有する複合炭素粒子Aであることが確認された。
【0034】
複合炭素粒子Aを、水と2-プロパノールとの混合溶媒中で15分間混合し、5%Nafion分散液を加えてスラリーを作製し、グラッシーカーボン基板の表面上に塗布して(垂らして)、薄膜状の多孔性炭素電極を作製した。作製した薄膜状の多孔性炭素電極の触媒活性は、サイクリックボルタメトリ(CV)測定図から電気化学活性表面積を求めることにより評価した、なお、CV測定は以下の方法で行った。多孔性炭素電極を作用電極として、50mV/sの走査速度で+1.30Vから−0.3Vまで電位を走査した際の電流応答を測定した。対極にはPtワイアを、参照電極にはAg/AgClをそれぞれ使用し、三極セルを組み立てた。電解液には0.1モル/リットルの過塩素酸溶液を用いた。測定は室温(298K)で行った。測定結果を図5に示す。なお、測定前に30分間アルゴンガスを吹込み、各電極周囲の雰囲気をアルゴンガスで置換した。
【0035】
図5から、縦軸の電流密度を比較すると、図4に示す比較例1(W1849電極)に比較して実施例2(多孔性炭素電極)の電流密度が非常に高くなっている。比較例1より実施例2の方が電流密度が高くなったのは、実施例2の多孔性炭素電極を構成している複合炭素粒子では、W1849が担持体であるがグラフェンの層間に存在しているため比表面積が高くなると共に、W1849をグラフェンに担持させることで電極としての導電性も改善されて酸素の還元反応が促進されたためと考えられる。
また、実施例2で作製した多孔性炭素電極の触媒活性を定量的に評価するため、実施例1と同様に水素吸着波の面積から求まる水素吸着電荷量を算出した。得られた水素吸着電荷量は218μCと非常に高い値を示した。
【0036】
実施例2で作製した多孔性炭素電極についてサイクリックボルタメトリ測定を148回行った結果を図6に示す。図6に示すように、過塩素酸溶液(酸性溶液)中で148回サイクリックボルタメトリ測定を行っても、電流密度と酸化還元電位は変化はなく、多孔性炭素電極は非常に安定であることが判明した。これは、W1849ではタングステンの酸化数が高いため、W1849は酸素の還元反応下においても安定して存在することができ、複合炭素粒子内でのW1849粒子層の有効表面積が減少するのが防止されたと考えられる。以上の結果から、複合炭素粒子Aは、長期間に渡って高い電池出力を維持して動作する燃料電池の電極材料として非常に有望であることが明らかになった。
【0037】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
10、10a:燃料電池、11:電解質槽、12:アノード、13:カソード、14:外部負荷、15:外部回路、16:多孔性炭素電極、17:拡散層、18:溝部、19:アノード側セパレータ、20:シール部材、21:多孔性炭素電極、22:拡散層、23:溝部、24:カソード側セパレータ、25:シール部材、26:グラフェン粒子、27:W1849粒子層、28:複合炭素粒子、29:多孔性炭素電極、30:複合炭素粒子、31:メソポーラスカーボン粒子、32:孔、33:W1849粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6