特許第6556685号(P6556685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6556685白金抽出剤、白金の抽出方法、及び白金の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556685
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】白金抽出剤、白金の抽出方法、及び白金の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20190729BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20190729BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20190729BHJP
   C22B 3/36 20060101ALI20190729BHJP
   C22B 3/32 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C22B11/00 101
   B01D11/04 B
   C22B3/26
   C22B3/36
   C22B3/32
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-225239(P2016-225239)
(22)【出願日】2016年11月18日
(65)【公開番号】特開2018-80376(P2018-80376A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2018年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大渡 啓介
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】近江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 光晴
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04726841(US,A)
【文献】 国際公開第2015/193656(WO,A1)
【文献】 特開2013−166996(JP,A)
【文献】 特開2010−059533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00
B01D 11/04
C22B 3/26
C22B 3/32
C22B 3/36
C22B 11/00
B01D 11/04
C22B 3/26
C22B 3/32
C22B 3/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記一般式(II)で表されるウレア誘導体からなる、白金抽出剤。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1−18アルキル、C2−18アルケニル若しくはC2−18アルキニルを示す。)
【請求項2】
記式(II)のRが置換若しくは非置換の分岐鎖状C6−10アルキル、及びRが置換若しくは非置換の直鎖状C2−6アルキルである、請求項1に記載の白金抽出剤。
【請求項3】
記式(II)で表されるウレア誘導体が、1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレアである、請求項1又は2に記載の白金抽出剤。
【請求項4】
白金を含む貴金属を含有する酸性溶液を、有機溶媒に溶解した請求項1〜3のいずれか1項に記載の白金抽出剤により溶媒抽出に付し、前記酸性溶液から前記白金を抽出する、白金抽出方法。
【請求項5】
前記酸性溶液が白金と、ロジウム、イリジウム、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1の貴金属とを含有し、前記貴金属から白金を抽出する、請求項4に記載の白金抽出方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、塩素系溶媒、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エーテル類、ケトン類、及びエステル類から選ばれる少なくとも1の有機溶媒である、請求項4又は5に記載の白金の抽出方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、ドデカンと2−エチルヘキサノールを体積比で10:0〜4:6で含有する混合溶媒である、請求項6に記載の白金の抽出方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の白金抽出方法により白金を抽出した後、前記酸性溶液から前記白金を抽出した前記抽出剤に対して、逆抽出試薬を混合することで逆抽出を行い、白金を回収する、白金の回収方法。
【請求項9】
前記逆抽出試薬が水である、請求項8に記載の白金の回収方法。
【請求項10】
前記酸性溶液が白金と、ロジウム、イリジウム、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1の貴金属とを含有し、前記酸性溶液から白金を回収する、請求項8又は9に記載の白金の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金抽出剤、白金の抽出方法、及び白金の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金は、電子材料、磁気記録材料、自動車排ガス浄化用触媒、及び燃料電池電極触媒など幅広い分野で使用されており、今後の需要がさらに増加すると見込まれている極めて有用な資源である。一方、白金は資源的に希少で高価な金属であり、また、主要産出国が特定の国に偏っていることから、白金を安定的に供給するためには、回収精製によるリサイクルが必須である。
【0003】
従来、白金をはじめとする貴金属の回収精製法には種々のものが知られている。水溶液からの貴金属イオンの分離・回収法としては、イオン交換樹脂や活性炭などを用いて固−液接触させる吸着法及び、油溶性の抽出剤を溶解した有機溶媒と液−液接触させる溶媒抽出法がある。
【0004】
前者の固−液接触させる吸着法は、特に希薄溶液の処理に適しているが、反応に長時間を要し、大容量を取り扱うことが難しい。
【0005】
一方、後者の液−液接触させる溶媒抽出法は、比較的高濃度の原料液を大量に処理することができ、操作が比較的容易で連続生産が可能であるという利点を有している。ここで溶媒抽出法とは、油水の2相間での化学的な親和性の違いを利用して金属イオンなどの目的物質を油水間に分配し、こうした分配過程を重畳して目的物質を抽出・分離する方法である。まず金属イオンを含む溶液から、有機溶媒に金属イオンを移動させる(抽出工程)。次に有機溶媒から、水溶性の錯形成剤や強酸性溶液などの逆抽出剤(剥離剤)を用いて、金属イオンを回収する(逆抽出工程)。上記抽出過程では「抽出剤」、逆抽出過程では「逆抽出剤(剥離剤)」などの化学試薬を大量に使用する。
【0006】
この手法による目的物質の分離性能は、上記抽出剤が大きな影響を及ぼすため、これまで抽出剤の開発に関する研究が幅広く行われてきた。例えば、非特許文献1には、アルキル側鎖の異なるN,N’,ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミドの抽出剤を用いた白金の溶媒抽出法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ana Paula Paiva,Goncalo Ivo Carvalho,Maria Clara Costa,Ana M.Rosa da Costa & Carlos Nogueir,“The Solvent Extraction Performance of N,N’−Dimethyl−N,N’−Dibutylmalonamide Towards Platinum and Palladium in Chloride Media,Separation Science and Technology,49,966−973(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の抽出剤はパラジウムに対する白金への選択性には優れるが、剥離には1M(M=mol dm−3)のチオ硫酸ナトリウム水溶液を必要とし、その剥離率も抽出と剥離を繰り返す段階でかなり低下する問題がある。また、抽出剤の有機溶媒に対する溶解度が低く、1,2−ジクロロエタン、トルエン、p−キシレンのような含ハロゲン系や芳香族系の有機溶媒が必要となる。また、本発明者らのさらなる実験により、極性の低いVarsol 80とトルエンの混合溶媒で上記抽出剤を溶解し、白金の抽出を行った結果、白金の抽出率が顕著に低下してしまうという問題が生じることがわかった。
また、トリオクチルアミン等のアミン類を抽出剤として使用した場合は、剥離時に沈殿が発生するため、工業的に使用できないことが、本発明者らの実験によりわかっている。
【0009】
そこで、本発明は、白金に対する選択性、抽出率、及び剥離率が高い白金抽出剤、それを用いた白金の抽出方法、及び白金の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の構造を有するアミド化合物またはウレア誘導体からなる白金抽出剤が、白金に対する選択性、抽出率、及び剥離率が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(I)で表されるアミド化合物、または下記一般式(II)で表されるウレア誘導体からなる、白金抽出剤。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1−18アルキル、C2−18アルケニル若しくはC2−18アルキニルを示す。)
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1−18アルキル、C2−18アルケニル若しくはC2−18アルキニルを示す。)
2.前記式(I)のRが置換若しくは非置換の分岐鎖状C6−10アルキル、及びRが置換若しくは非置換の直鎖状C1−9アルキルであり、前記式(II)のRが置換若しくは非置換の分岐鎖状C6−10アルキル、及びRが置換若しくは非置換の直鎖状C2−6アルキルである、前記1に記載の白金抽出剤。
3.前記式(I)で表されるアミド化合物が、N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミドまたはN−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミドであり、前記式(II)で表されるウレア誘導体が、1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレアである、前記1又は2に記載の白金抽出剤。
4.白金を含む貴金属を含有する酸性溶液を、有機溶媒に溶解した前記1〜3のいずれか1項に記載の白金抽出剤により溶媒抽出に付し、前記酸性溶液から前記白金を抽出する、白金抽出方法。
5.前記酸性溶液が白金と、ロジウム、イリジウム、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1の貴金属とを含有し、前記貴金属から白金を抽出する、前記4に記載の白金抽出方法。
6.前記有機溶媒が、塩素系溶媒、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エーテル類、ケトン類、及びエステル類から選ばれる少なくとも1の有機溶媒である、前記4又は5に記載の白金の抽出方法。
7.前記有機溶媒が、ドデカンと2−エチルヘキサノールを体積比で10:0〜4:6で含有する混合溶媒である、前記6に記載の白金の抽出方法。
8.前記4〜7のいずれか1に記載の白金抽出方法により白金を抽出した後、前記酸性溶液から前記白金を抽出した前記抽出剤に対して、逆抽出試薬を混合することで逆抽出を行い、白金を回収する、白金の回収方法。
9.前記逆抽出試薬が水である、前記8に記載の白金の回収方法。
10.前記酸性溶液が白金と、ロジウム、イリジウム、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1の貴金属とを含有し、前記酸性溶液から白金を回収する、前記8又は9に記載の白金の回収方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の白金抽出剤は、特定の構造を有するアミド化合物、またはウレア誘導体から構成されているため、白金に対する選択性、抽出率、及び剥離率が優れた白金抽出剤を提供できる。そして、上記白金抽出剤を有機溶媒に溶解させて使用することにより、白金を含む貴金属を含有する酸性溶液中から、白金を、選択的かつ高効率に有機溶媒中に抽出することができる。さらに、逆抽出試薬を用いることにより、有機溶媒中に抽出された白金の剥離(逆抽出)も可能であるため、酸性溶液中から白金を高効率に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例12において水相中に抽出された各金属の濃度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
<白金抽出剤>
本発明の白金抽出剤は、下記一般式(I)で表されるアミド化合物、または下記一般式(II)で表されるウレア誘導体からなる、白金抽出剤である。
【0020】
【化3】
【0021】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1−18アルキル、C2−18アルケニル若しくはC2−18アルキニルを示す。
【0022】
【化4】
【0023】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1−18アルキル、C2−18アルケニル若しくはC2−18アルキニルを示す。
【0024】
[アミド化合物]
上記アミド化合物においては、好ましくは、上記式(I)のRが置換若しくは非置換の分岐鎖状C1−18アルキル、又はC2−18アルケニルであり、Rが置換若しくは非置換の直鎖状C1−18アルキル、又はC2−18アルケニルである。
【0025】
より好ましくは、上記アミド化合物が、RがC6−10アルキルであり、RがC1−9アルキルである。さらに好ましくはRがCアルキルであり、RがCまたはCアルキルであり、具体的には、例えば、下記式(III)で表わされる、N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド、及び下記式(IV)で表わされるN−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミドが該当する。
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
上記種々のアミド化合物は、従来公知の方法により適宜製造することができ、その製造方法は特に制限されない。以下に、上記式(III)で表わされる、N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド、および上記式(IV)で表わされるN−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミドの製造方法について例示的に説明するが、その他アミド化合物についても、当業者であれば原料等の条件を必要に応じて適宜変更することによって、所望のアミド化合物を製造することができる。
【0029】
まず、氷浴中にて、2−エチルヘキシルアミンおよびトリエチルアミンを加え、クロロホルム等の有機溶媒に溶解させる。有機溶媒としては、他にもジクロロメタン、ジクロロエタン、トルエン及びジエチルエーテル等も使用することができる。
次に、冷却下、アセチルクロリドまたはオクタノイルクロリドをゆっくりと加え、加熱し、1晩撹拌する。
さらに、得られた溶液を飽和炭酸水素ナトリウム溶液等の弱塩基性水溶液および蒸留水により洗浄し、脱水乾燥後、有機溶媒を除去することにより上記アミド化合物を製造する。
【0030】
[ウレア誘導体]
上記種々のウレア誘導体は、好ましくは、上記式(II)のRが置換若しくは非置換の分岐鎖状C1−18アルキル、又はC2−18アルケニルであり、Rが置換若しくは非置換の直鎖状C1−18アルキル、又はC2−18アルケニルである。
より好ましくは、上記アミド化合物において、RがC6−10アルキルであり、RがC2−6アルキルである。さらに好ましくは、上記ウレア誘導体において、RがCアルキルであり、RがCアルキルであり、具体的には、例えば、下記式(V)で表わされる1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレアが該当する。
【0031】
【化7】
【0032】
上記ウレア誘導体は、従来公知の方法により適宜製造することができ、その製造方法は特に制限されない。以下に、上記式(V)で表わされる、1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレアの製造方法について例示的に説明するが、その他ウレア誘導体についても、当業者であれば原料等の条件を必要に応じて適宜変更することによって、所望のウレア誘導体を製造することができる。
【0033】
まず、室温にて、2−エチルヘキシルアミンをブチルイソシアネートに加え、THF(テトラヒドロフラン)等の有機溶媒に溶解させ、撹拌する。
次に、3時間後、有機溶媒を除去することにより上記ウレア誘導体を製造する。
【0034】
上記特定のアミド化合物又はウレア誘導体からなる抽出剤を使用することにより、白金に対する選択性、抽出率、及び剥離率が高くなる理由として、次のようなメカニズムによるものと推測される。
すなわち、白金の選択性が高いのは、白金アニオンと、上記アミド化合物における2級アミド水素、または上記ウレア誘導体におけるウレア水素との弱い相互作用に基づいて抽出が起こり、他の金属カチオンとの相互作用が弱いためであると考えられる。
また、白金の抽出率が高いのは、抽出試薬の濃度を適宜調整することで、白金との弱い相互作用を十分に補うことができるためであると考えられる。
また、白金の剥離率が高いのは、白金アニオンと、上記アミド化合物における2級アミド水素、または上記ウレア誘導体におけるウレア水素との弱い相互作用に基づいて抽出が起こっていることで逆抽出が容易になるためであると考えられる。
また、抽出剤の抽出試薬や選択性の効果は官能基によるものが大きく、例えば官能基の脂溶性も関わっていると考えられる。官能基のアルキル鎖は長くなる(Cの数が多くなる)と有機溶媒に対する溶解度が高くなる。さらに、官能基が不飽和結合を含むと脂溶性が向上するため、抽出能力が高くなると考えられる。
【0035】
<白金の抽出方法、回収方法>
上記抽出剤を用いて白金を抽出するには、白金を含む貴金属を含有する酸性溶液(水相)を、上記抽出剤を溶解した有機溶液(有機相)に加えて混合することにより、溶媒抽出を行う(正抽出工程)。これによって、有機相に白金を選択的に抽出することができる。なお、後述する第三相に白金が抽出される場合もある。
【0036】
また、白金を抽出した後の有機溶媒及び/又は第三相を分取し、これに逆抽出試薬を含んだ剥離溶液を加えて撹拌することにより、白金を水溶液中に逆抽出して分離することができる(逆抽出工程)。
【0037】
上記有機溶媒は、上記抽出剤及び金属抽出種が溶解する溶媒であれば特に制限されない。例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、及びクロロベンゼン等の塩素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ドデカン、ケロシン、及びシクロアルカン類等の脂肪族炭化水素、エーテル類、ケトン類、エステル類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でも複数混合してもよく、2−エチルヘキサノールや1−オクタノール等のようなアルコール類を混合してもよい。
【0038】
中でも、環境負荷の低減や溶解度の観点から、有機溶媒は好ましくは、脂肪族炭化水素と水に分配しにくいアルコールとの混合溶媒、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、あるいはその混合物であることが好ましい。特に環境負荷の低減、危険物取り扱いの法規制、溶解度、及び高抽出率の観点から、ドデカンと2−エチルヘキサノールの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0039】
さらに、脂肪族炭化水素とアルコールの混合溶媒の場合は、抽出剤と処理対象である酸性溶液を混合させた際に、水相と有機相以外の第三相(濃縮され有機相に分配されない白金錯体固体、もしくはエマルション)が形成されることを抑制することができるという観点から、それぞれの混合比(体積比)を10:0〜4:6とすることが好ましく、8:2〜4:6とすることがより好ましい。特に、抽出剤を上記ウレア誘導体とする場合は、混合比(体積比)を5:5〜4:6とすることが好ましい。第三相が形成されると、有機溶媒だけでなく、第三相中にも白金が抽出されることとなるため、相対的に有機溶媒への白金の抽出率が小さくなってしまう。第三相が形成された場合は、第三相にも白金が含まれることになるため、第三相からの白金の逆抽出を行うことが好ましい。
【0040】
また、脂肪族炭化水素とアルコールの混合溶媒の場合に、白金の抽出率を増加することができるという観点からは、それぞれの混合比(体積比)を10:0〜4:6とすることが好ましい。特に、抽出剤を上記アミド化合物とする場合は、それぞれの混合比(体積比)を9.5:0.5〜9:1とすることが好ましい。また抽出剤を上記ウレア誘導体とする場合は、それぞれの混合比(体積比)を8:2〜4:6とすることが好ましく、6:4〜5:5とすることがより好ましい。
【0041】
抽出剤として上記ウレア誘導体を使用する場合も、高抽出率の観点から、有機溶媒は好ましくは、脂肪族炭化水素とアルコールの混合溶媒を用いることが特に好ましい。
【0042】
抽出剤が上記アミド化合物である場合は、有機溶液(有機相)における抽出剤の濃度は、0.15M〜1.2Mとなるようにするのが好ましく、0.4M〜1.2Mとなるようにするのがより好ましく、0.6M〜1.0Mとなるようにするのがさらに好ましい。
【0043】
抽出剤が上記ウレア誘導体である場合は、有機溶液(有機相)における抽出剤の濃度は、0.1M〜1.2Mとなるようにするのが好ましく、0.2M〜1.2Mとなるようにするのがより好ましく、0.4M〜1.0Mとなるようにするのがさらに好ましい。
【0044】
抽出剤の濃度を上記範囲とすることによって、白金に対する高い選択性、白金の高い抽出率が得られる。
【0045】
処理対象の酸性溶液は、白金を含む貴金属を含有する酸性溶液である。上記酸性溶液としては、例えば、塩酸、硝酸、及び王水等が挙げられる。この酸性溶液が含有する白金以外の貴金属としては、特に限定されない。例えば、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、銅、鉄、ニッケル、コバルト、鉛、亜鉛、及びスズ等である。
例えば、上記酸性溶液が白金と、ロジウム、イリジウム、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1の貴金属とを含有する場合、本発明の白金抽出剤によれば、白金を除く上記貴金属から白金を抽出することが可能となる。
【0046】
上記酸性溶液が含有する白金の濃度は、好ましくは0.01g/L〜100g/L、より好ましくは20g/L〜80g/L、さらに好ましくは40g/L〜60g/Lである。上記範囲とすることにより液の体積を減らし、処理設備の小型化ができる。上記範囲よりも高い濃度では、濃縮する必要が生じるため、経済性が劣る。酸性溶液が含有する白金の濃度を上記範囲とするには、例えば上記酸性溶液を純水等で希釈すればよい。
【0047】
抽出剤と処理対象の酸性溶液との混合比は、抽出剤が上記アミド化合物である場合も上記ウレア誘導体である場合も、5:1〜1:5(水相:有機相の容積比)であることが好ましく、3:1〜1:3であることがより好ましく、さらに好ましくは1:1である。混合比を上記範囲とすることによって、白金に対する高い選択性、白金の高い抽出率が得られる。
【0048】
抽出剤と処理対象の酸性溶液の撹拌条件としては、撹拌時間は、通常30分〜300分であり、60分〜180分とするのが好ましい。また、撹拌(抽出)温度は、通常、室温ないしは30℃とする。また、撹拌速度は、通常50rpm〜1000rpmであり、100rpm〜300rpmとするのが好ましい。
【0049】
白金抽出の際の酸濃度については、5M程度の強酸性領域から0.01M以上の弱酸性領域にわたる広い範囲とすることができる。もし、白金を含有する酸性溶液中に不純物を含有する場合、不純物をほとんど抽出しない酸濃度に調整しながら抽出剤の有機溶液を加えることが好ましい。
【0050】
特に、上記酸濃度は0.5M〜3.0Mであることが好ましい。上記範囲であれば、白金に対する高選択性が達成できるからである。
【0051】
逆抽出試薬としては、例えば、水や、硝酸、アンモニア、及び水酸化ナトリウムの各水溶液等が用いられる。特に、本発明では、特定の構造を有する化合物からなる抽出剤を用いて、白金の抽出を行うことにより、水を用いて簡易に白金の逆抽出することができる観点から、逆抽出試薬としては水を用いることが好ましい。水を逆抽出試薬として用いることができれば、その他逆抽出試薬を別途用意する必要性がなく、簡易に白金の逆抽出を行うことができる。
【0052】
pHの下限値は特に制限されるものではないが、高濃度の硝酸を混合すると白金の逆抽出が進行することと、一般的に、有機物である抽出剤は、高濃度の酸やアルカリによって劣化が促進されると考えられていることとを踏まえると、抽出に際してのpHを概ね2以上とすることが好ましく、3以上とすることがより好ましい。
【0053】
[抽出率]
抽出剤を含有する有機相と、酸性溶液である水相とを混合することにより、有機相に白金が抽出(正抽出)される。この白金を含む金属の抽出率は、下記式により表される。
抽出率(%E)=(Ci−Ce)/Ci ×100
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
【0054】
金属イオン濃度の測定方法は特に制限されないが、例えば、ICP−AES(SHIMADZU社製、ICPS−8100)等を用いて測定することができる。
【0055】
抽出率(%E)は、20〜100%であることが好ましく、50〜100%であることがより好ましく、90〜100%であることがさらに好ましい。
【0056】
[逆抽出率]
上記正抽出後の有機相と、逆抽出試薬(水相)とを混合することにより、水相に白金が逆抽出される。この白金を含む金属の逆抽出率(剥離率)は、下記式により表される。
逆抽出率(%S)=Cs/(Ci−Ce) ×100
Cs:(水相における)逆抽出後金属イオン濃度
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
【0057】
逆抽出率は、70〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、95〜100%であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0059】
[抽出剤]
<製造例1>
・抽出剤A:N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド
氷浴中にて、2−エチルヘキシルアミンおよびトリエチルアミンを加え、クロロホルムに溶解させた。次に、冷却下、アセチルクロリドをゆっくりと加え、加熱し、1晩撹拌した。さらに、得られた溶液を弱塩基性水溶液である飽和炭酸水素ナトリウム溶液および蒸留水により洗浄し、脱水乾燥後、有機溶媒を除去することにより、N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミドを製造した。
【0060】
<製造例2>
・抽出剤B:N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド
アセチルクロリドをオクタノイルクロリドに変更させた点を除いては、製造例1と同様にしてN−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミドを製造した。
【0061】
<製造例3>
・抽出剤C:1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア
室温にて、2−エチルヘキシルアミンをブチルイソシアネートに加え、有機溶媒のTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させ、撹拌した。3時間後、有機溶媒を除去することによりC:1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレアを製造した。
【0062】
<製造例4>
・抽出剤D:N,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミド
氷浴中にて、N−メチルブチルアミンおよびトリエチルアミンを加え、クロロホルムに溶解させた。次に、冷却下、マロニルクロリドをゆっくりと加え、加熱し、1晩撹拌した。さらに、得られた溶液を弱塩基性水溶液である飽和炭酸水素ナトリウム溶液および蒸留水により洗浄し、脱水乾燥後、有機溶媒を除去することにより、下記式(VI)で表されるN,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミドを得た。
【0063】
【化8】
【0064】
<製造例5>
・抽出剤E:N−2−エチルヘキシルウレア
尿素水溶液、2−エチルヘキシルアミンのエタノール/水溶液、および塩酸を混合した。反応溶液の溶媒を留去し、その残渣をクロロホルムに加え1.0M塩酸溶液により洗浄し未反応の尿素および2−エチルヘキシルアミンを除去した。無水硫酸ナトリウムにより水分を除去し、その後クロロホルムを除去した。ヘキサンを用い再結晶することにより、下記式(VII)で表されるN−2−エチルヘキシルウレアを得た。
【0065】
【化9】
【0066】
<製造例6>
・抽出剤F:N−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミド
0℃にてアクリロイルクロライドの乾燥ジクロロメタン溶液中に2−エチルヘキシルアミンを滴下し攪拌した。室温にて30分攪拌後、その反応を飽和炭酸水素ナトリウム溶液により失活させ、有機相を水により洗浄し、その後無水硫酸ナトリウムを加え脱水乾燥した。有機相を留去し、N−(2−エチルヘキシル)−2−プロパンアミドを得た。窒素気流下、70℃にて、N−(2−エチルヘキシル)−2−プロパンアミド、N−メチルアニリン、および四塩化ケイ素を混合し16時間攪拌した。その混合物をジクロロメタンに溶解させ、水により洗浄し、その後無水硫酸マグネシウムにより脱水乾燥させた。溶媒を留去し粘性液体生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、下記式(VIII)で表されるN−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミドを得た。溶離液は10%のメタノールを含んだジクロロメタンを使用した。
【0067】
【化10】
【0068】
[有機溶媒]
・溶媒A:ドデカン/2−エチルヘキサノール(80vol%/20vol%)
・溶媒B:ドデカン
・溶媒C:クロロホルム
・溶媒D:シェルゾールTK(第二石油類、直鎖のパラフィンベース、芳香族成分含む)
・溶媒E:シェルゾールD70(第三石油類、直鎖のパラフィン系のみ)
・溶媒F:トルエン
【0069】
[酸性溶液]
・酸性溶液A:Pt(IV)0.300M(58.5g/L)、Rh(III)0.100M(10.3g/L)、Ir(III)0.010M(1.92g/L)、Cu(II)0.300M(19.1g/L)を含有する、塩酸濃度2.0Mの塩酸溶液(実施例1〜11において使用)
・酸性溶液B:Pt(IV)、Ir(III)、Rh(III)、Fe(III)、Cu(II)、Ni(II)、Co(II)、Zn(II)、Pb(II)をそれぞれ0.1mMずつ含有する塩酸濃度0.01M〜10Mの塩酸溶液(実施例12において使用)
・酸性溶液C:Pt(IV)(0.10g/L)を含有する塩酸濃度7.0Mの塩酸溶液(比較例1において使用)
・酸性溶液D:Pt(IV)、Cu(II)、Ni(II)、Zn(II)、Co(II)、Fe(III)をそれぞれ1.0mMずつ含有する塩酸濃度1.0Mの塩酸溶液(比較例2において使用)
・酸性溶液E:Pt(IV)を0.01M含有する塩酸濃度6.0Mの塩酸溶液(比較例3において使用)
【0070】
[抽出率]
金属の抽出率は、下記式により表される。
%E(抽出率)=(Ci−Ce)/Ci ×100
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
金属イオン濃度の測定方法はICP−AES(SHIMADZU社製、ICPS−8100)等を用いて測定した。
【0071】
[逆抽出率]
金属の逆抽出率は、下記式により表される。
%S(逆抽出率)=Cs/(Ci−Ce) ×100
Cs:(水相における)逆抽出後金属イオン濃度
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
金属イオン濃度の測定方法はICP−AES(SHIMADZU社製、ICPS−8100)等を用いて測定した。
【0072】
<試験例1>
[実施例1]
抽出剤A(N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド)を溶媒A(ドデカン/2−エチルヘキサノール(80vol%/20vol%))で希釈した。抽出剤濃度は1.0Mとした。酸性溶液Aを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、3時間マグネチックスターラーを用いて、温度30度、速度150rpmで振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は33.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。さらに、Pt抽出後、有機相に、逆抽出試薬として同体積の水を加え混合した。その結果、3時間撹拌時点で平衡に到達し、Pt逆抽出率は95.5%となった。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
実施例1で用いた酸性溶液Aを純水で2倍希釈したものを抽出原液としたことを除いては、実施例1を繰り返した。その結果、Pt抽出率は50.0%で、他の元素の抽出率は0%であった。また、Pt逆抽出率は91.2%となった。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
抽出剤を抽出剤B(N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド)に変更したことを除いて、実施例1を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は15.8%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は74.8%であった。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
溶媒Aを溶媒B(ドデカン)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は24.7%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は100.0%であった。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例5]
溶媒Aを溶媒C(クロロホルム)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は22.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は92.3%であった。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
溶媒Aを溶媒D(シェルゾールTK)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は19.1%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は96.2%であった。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例7]
溶媒Aを溶媒E(シェルゾールD70)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は12.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は98.2%であった。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例8]
抽出剤を抽出剤C(1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア)に変更したことを除いて、実施例1を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は53.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は70.3%であった。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例9]
溶媒Aを溶媒C(クロロホルム)に変更したことを除いて、実施例8を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は57.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は51.2%であった。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例10]
溶媒Aを溶媒D(シェルゾールTK)に変更したことを除いて、実施例8を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は27.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は100.0%であった。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例11]
溶媒Aを溶媒E(シェルゾールD70)に変更したことを除いて、実施例8を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は25.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は97.8%であった。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例12]
抽出剤B(N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド)を溶媒A(ドデカン/2−エチルヘキサノール(80vol%/20vol%))で希釈した。抽出剤濃度は1.0Mとした。酸性溶液B(塩酸濃度0.01〜10M)を抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度、速度150rpmで3時間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定した。結果を図1に示す。図1を見ると、例えば、塩酸濃度0.01MにおいてPtが選択性高く抽出されていることがわかる。
【0084】
[比較例1]
抽出剤D(N,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミド)を溶媒F(トルエン)で希釈した。抽出剤濃度は0.05Mとした。酸性溶液Cを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度、速度1000rpmで30分間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は90.0%であった。さらに、Pt抽出後、有機相に、逆抽出試薬として同体積の0.1Mチオシアン酸カリウムの1.0M塩酸溶液を加え混合した。その結果、3時間撹拌時点で平衡に到達し、Pt逆抽出率は35.0%となった。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
抽出剤E(N−2−エチルヘキシルウレア)を溶媒C(クロロホルム)で希釈した。抽出剤濃度は0.05Mとした。酸性溶液Dを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度で24時間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は40.0%であった。その一方、Cu抽出率は5%であった。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
抽出剤F(N−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミド)を溶媒F(トルエン)で希釈した。抽出剤濃度は0.05Mとした。酸性溶液Eを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度で24時間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は90.0%であった。しかしながら、ここで示されている抽出率は第三相への輸送された抽出率である。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
以上の結果から、本発明である特定のアミド化合物またはウレア誘導体からなる抽出剤を用いることによって、白金を選択的に抽出でき、かつその抽出率および逆抽出率も高くすることができることが分かった。また、Ptの逆抽出は水で簡易に行うことができた。
【0089】
比較例1では、抽出剤として、N,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミドを用いたことにより、逆抽出の際に、水ではなくチオシアン酸カリウムを使用する必要があった。
比較例2では、抽出剤として、N−2−エチルヘキシルウレアを用いており、この場合、Pt(IV)とCu(II)共存条件下においてCu(II)が5.0%抽出されており、Pt選択性が劣る結果となった。
比較例3では、抽出剤として、N−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミドを用いており、この場合、Pt(IV)の抽出率が90%と高いが、有機相中へ抽出された白金の割合ではなく、水相から取り除かれた白金濃度、つまり、第三相の形成を伴っており、実際のプロセスで使用できるような抽出剤ではないと考えられた。
【0090】
<試験例2:抽出率に及ぼす有機希釈剤組成の影響>
下記表2に示す組成で希釈剤を有する有機相希釈剤について、希釈剤(溶媒)のドデカン/2−エチルヘキサノールの含有比率(D:2EH)を下記表2に示す比率で変化させた場合における、白金の抽出率への影響について調べた。実験は下記条件に従って行った。まず、抽出剤を有機希釈剤(有機溶媒)で溶解した有機相と酸性溶液を等量混合後、振とうし、相分離を行った。得られた水相に対してICP測定を行い、白金の抽出率(%E)を求めた。その結果を下記表2に示す。
【0091】
[実験条件]
・抽出剤
・・抽出剤A:1.0M N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド
・・抽出剤B:1.0M N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド
・・抽出剤C:1.0M 1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア
・有機希釈剤(有機溶媒):ドデカン/2−エチルヘキサノール
・酸性溶液:Pt(IV)=295mM(57.5g/L)、Ir(III)=10.0mM(1.92g/L)、Rh(III)=115mM(11.8g/L)、Cu(II)=262mM(16.6g/L)
・相比:Vorg.:Vaq.=3cm:3cm
(Vorg.:有機相の体積、Vaq.水相の体積)
・正抽出時間:3.0時間
・温度:30℃
・振とう速度:150rpm
・測定:ICP−AES(Shimadzu,ICPS−8100)
・%E(抽出率)=(Ci−Ce)/Ci ×100
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
【0092】
【表2】
【0093】
以上の結果より、抽出剤A(N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド)の場合、ドデカンと2−エチルヘキサノール混合比を、10:0〜8:2とすることにより、白金の抽出率が特に高くなることが分かった。また、抽出剤B(N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド)の場合、ドデカンと2−エチルヘキサノール混合比を、9.5:0.5〜9:1とすることにより、白金の抽出率が特に高くなることが分かった。また、抽出剤C(1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア)の場合、ドデカンと2−エチルヘキサノール混合比を、6:4〜5:5とすることにより、白金の抽出率が特に高くなることが分かった。
図1