【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0059】
[抽出剤]
<製造例1>
・抽出剤A:N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド
氷浴中にて、2−エチルヘキシルアミンおよびトリエチルアミンを加え、クロロホルムに溶解させた。次に、冷却下、アセチルクロリドをゆっくりと加え、加熱し、1晩撹拌した。さらに、得られた溶液を弱塩基性水溶液である飽和炭酸水素ナトリウム溶液および蒸留水により洗浄し、脱水乾燥後、有機溶媒を除去することにより、N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミドを製造した。
【0060】
<製造例2>
・抽出剤B:N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド
アセチルクロリドをオクタノイルクロリドに変更させた点を除いては、製造例1と同様にしてN−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミドを製造した。
【0061】
<製造例3>
・抽出剤C:1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア
室温にて、2−エチルヘキシルアミンをブチルイソシアネートに加え、有機溶媒のTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させ、撹拌した。3時間後、有機溶媒を除去することによりC:1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレアを製造した。
【0062】
<製造例4>
・抽出剤D:N,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミド
氷浴中にて、N−メチルブチルアミンおよびトリエチルアミンを加え、クロロホルムに溶解させた。次に、冷却下、マロニルクロリドをゆっくりと加え、加熱し、1晩撹拌した。さらに、得られた溶液を弱塩基性水溶液である飽和炭酸水素ナトリウム溶液および蒸留水により洗浄し、脱水乾燥後、有機溶媒を除去することにより、下記式(VI)で表されるN,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミドを得た。
【0063】
【化8】
【0064】
<製造例5>
・抽出剤E:N−2−エチルヘキシルウレア
尿素水溶液、2−エチルヘキシルアミンのエタノール/水溶液、および塩酸を混合した。反応溶液の溶媒を留去し、その残渣をクロロホルムに加え1.0M塩酸溶液により洗浄し未反応の尿素および2−エチルヘキシルアミンを除去した。無水硫酸ナトリウムにより水分を除去し、その後クロロホルムを除去した。ヘキサンを用い再結晶することにより、下記式(VII)で表されるN−2−エチルヘキシルウレアを得た。
【0065】
【化9】
【0066】
<製造例6>
・抽出剤F:N−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミド
0℃にてアクリロイルクロライドの乾燥ジクロロメタン溶液中に2−エチルヘキシルアミンを滴下し攪拌した。室温にて30分攪拌後、その反応を飽和炭酸水素ナトリウム溶液により失活させ、有機相を水により洗浄し、その後無水硫酸ナトリウムを加え脱水乾燥した。有機相を留去し、N−(2−エチルヘキシル)−2−プロパンアミドを得た。窒素気流下、70℃にて、N−(2−エチルヘキシル)−2−プロパンアミド、N−メチルアニリン、および四塩化ケイ素を混合し16時間攪拌した。その混合物をジクロロメタンに溶解させ、水により洗浄し、その後無水硫酸マグネシウムにより脱水乾燥させた。溶媒を留去し粘性液体生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、下記式(VIII)で表されるN−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミドを得た。溶離液は10%のメタノールを含んだジクロロメタンを使用した。
【0067】
【化10】
【0068】
[有機溶媒]
・溶媒A:ドデカン/2−エチルヘキサノール(80vol%/20vol%)
・溶媒B:ドデカン
・溶媒C:クロロホルム
・溶媒D:シェルゾールTK(第二石油類、直鎖のパラフィンベース、芳香族成分含む)
・溶媒E:シェルゾールD70(第三石油類、直鎖のパラフィン系のみ)
・溶媒F:トルエン
【0069】
[酸性溶液]
・酸性溶液A:Pt(IV)0.300M(58.5g/L)、Rh(III)0.100M(10.3g/L)、Ir(III)0.010M(1.92g/L)、Cu(II)0.300M(19.1g/L)を含有する、塩酸濃度2.0Mの塩酸溶液(実施例1〜11において使用)
・酸性溶液B:Pt(IV)、Ir(III)、Rh(III)、Fe(III)、Cu(II)、Ni(II)、Co(II)、Zn(II)、Pb(II)をそれぞれ0.1mMずつ含有する塩酸濃度0.01M〜10Mの塩酸溶液(実施例12において使用)
・酸性溶液C:Pt(IV)(0.10g/L)を含有する塩酸濃度7.0Mの塩酸溶液(比較例1において使用)
・酸性溶液D:Pt(IV)、Cu(II)、Ni(II)、Zn(II)、Co(II)、Fe(III)をそれぞれ1.0mMずつ含有する塩酸濃度1.0Mの塩酸溶液(比較例2において使用)
・酸性溶液E:Pt(IV)を0.01M含有する塩酸濃度6.0Mの塩酸溶液(比較例3において使用)
【0070】
[抽出率]
金属の抽出率は、下記式により表される。
%E(抽出率)=(Ci−Ce)/Ci ×100
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
金属イオン濃度の測定方法はICP−AES(SHIMADZU社製、ICPS−8100)等を用いて測定した。
【0071】
[逆抽出率]
金属の逆抽出率は、下記式により表される。
%S(逆抽出率)=Cs/(Ci−Ce) ×100
Cs:(水相における)逆抽出後金属イオン濃度
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
金属イオン濃度の測定方法はICP−AES(SHIMADZU社製、ICPS−8100)等を用いて測定した。
【0072】
<試験例1>
[実施例1]
抽出剤A(N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド)を溶媒A(ドデカン/2−エチルヘキサノール(80vol%/20vol%))で希釈した。抽出剤濃度は1.0Mとした。酸性溶液Aを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、3時間マグネチックスターラーを用いて、温度30度、速度150rpmで振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は33.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。さらに、Pt抽出後、有機相に、逆抽出試薬として同体積の水を加え混合した。その結果、3時間撹拌時点で平衡に到達し、Pt逆抽出率は95.5%となった。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
実施例1で用いた酸性溶液Aを純水で2倍希釈したものを抽出原液としたことを除いては、実施例1を繰り返した。その結果、Pt抽出率は50.0%で、他の元素の抽出率は0%であった。また、Pt逆抽出率は91.2%となった。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
抽出剤を抽出剤B(N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド)に変更したことを除いて、実施例1を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は15.8%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は74.8%であった。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
溶媒Aを溶媒B(ドデカン)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は24.7%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は100.0%であった。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例5]
溶媒Aを溶媒C(クロロホルム)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は22.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は92.3%であった。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
溶媒Aを溶媒D(シェルゾールTK)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は19.1%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は96.2%であった。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例7]
溶媒Aを溶媒E(シェルゾールD70)に変更したことを除いて、実施例3を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は12.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は98.2%であった。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例8]
抽出剤を抽出剤C(1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア)に変更したことを除いて、実施例1を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は53.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は70.3%であった。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例9]
溶媒Aを溶媒C(クロロホルム)に変更したことを除いて、実施例8を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は57.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は51.2%であった。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例10]
溶媒Aを溶媒D(シェルゾールTK)に変更したことを除いて、実施例8を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は27.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は100.0%であった。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例11]
溶媒Aを溶媒E(シェルゾールD70)に変更したことを除いて、実施例8を繰り返した。その結果、有機相へのPt抽出率は25.0%となり、他の元素の抽出率は0%であった。またPt逆抽出率は97.8%であった。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例12]
抽出剤B(N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド)を溶媒A(ドデカン/2−エチルヘキサノール(80vol%/20vol%))で希釈した。抽出剤濃度は1.0Mとした。酸性溶液B(塩酸濃度0.01〜10M)を抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度、速度150rpmで3時間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定した。結果を
図1に示す。
図1を見ると、例えば、塩酸濃度0.01MにおいてPtが選択性高く抽出されていることがわかる。
【0084】
[比較例1]
抽出剤D(N,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミド)を溶媒F(トルエン)で希釈した。抽出剤濃度は0.05Mとした。酸性溶液Cを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度、速度1000rpmで30分間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は90.0%であった。さらに、Pt抽出後、有機相に、逆抽出試薬として同体積の0.1Mチオシアン酸カリウムの1.0M塩酸溶液を加え混合した。その結果、3時間撹拌時点で平衡に到達し、Pt逆抽出率は35.0%となった。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
抽出剤E(N−2−エチルヘキシルウレア)を溶媒C(クロロホルム)で希釈した。抽出剤濃度は0.05Mとした。酸性溶液Dを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度で24時間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は40.0%であった。その一方、Cu抽出率は5%であった。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
抽出剤F(N−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミド)を溶媒F(トルエン)で希釈した。抽出剤濃度は0.05Mとした。酸性溶液Eを抽出原液とし、体積比1:1で混合したものを、温度30度で24時間振とう、撹拌した。攪拌後、水相中の各金属の濃度を測定したところ、有機相へのPt抽出率は90.0%であった。しかしながら、ここで示されている抽出率は第三相への輸送された抽出率である。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
以上の結果から、本発明である特定のアミド化合物またはウレア誘導体からなる抽出剤を用いることによって、白金を選択的に抽出でき、かつその抽出率および逆抽出率も高くすることができることが分かった。また、Ptの逆抽出は水で簡易に行うことができた。
【0089】
比較例1では、抽出剤として、N,N’−ジメチル−N,N’−ジブチルマロンアミドを用いたことにより、逆抽出の際に、水ではなくチオシアン酸カリウムを使用する必要があった。
比較例2では、抽出剤として、N−2−エチルヘキシルウレアを用いており、この場合、Pt(IV)とCu(II)共存条件下においてCu(II)が5.0%抽出されており、Pt選択性が劣る結果となった。
比較例3では、抽出剤として、N−(2−エチルヘキシル)−3−(メチルフェニルアミノ)−プロパンアミドを用いており、この場合、Pt(IV)の抽出率が90%と高いが、有機相中へ抽出された白金の割合ではなく、水相から取り除かれた白金濃度、つまり、第三相の形成を伴っており、実際のプロセスで使用できるような抽出剤ではないと考えられた。
【0090】
<試験例2:抽出率に及ぼす有機希釈剤組成の影響>
下記表2に示す組成で希釈剤を有する有機相希釈剤について、希釈剤(溶媒)のドデカン/2−エチルヘキサノールの含有比率(D:2EH)を下記表2に示す比率で変化させた場合における、白金の抽出率への影響について調べた。実験は下記条件に従って行った。まず、抽出剤を有機希釈剤(有機溶媒)で溶解した有機相と酸性溶液を等量混合後、振とうし、相分離を行った。得られた水相に対してICP測定を行い、白金の抽出率(%E)を求めた。その結果を下記表2に示す。
【0091】
[実験条件]
・抽出剤
・・抽出剤A:1.0M N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド
・・抽出剤B:1.0M N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド
・・抽出剤C:1.0M 1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア
・有機希釈剤(有機溶媒):ドデカン/2−エチルヘキサノール
・酸性溶液:Pt(IV)=295mM(57.5g/L)、Ir(III)=10.0mM(1.92g/L)、Rh(III)=115mM(11.8g/L)、Cu(II)=262mM(16.6g/L)
・相比:V
org.:V
aq.=3cm
3:3cm
3
(V
org.:有機相の体積、V
aq.水相の体積)
・正抽出時間:3.0時間
・温度:30℃
・振とう速度:150rpm
・測定:ICP−AES(Shimadzu,ICPS−8100)
・%E(抽出率)=(Ci−Ce)/Ci ×100
Ci:(水相における)初期金属イオン濃度
Ce:(水相における)平衡後金属イオン濃度
【0092】
【表2】
【0093】
以上の結果より、抽出剤A(N−(2−エチルヘキシル)−アセトアミド)の場合、ドデカンと2−エチルヘキサノール混合比を、10:0〜8:2とすることにより、白金の抽出率が特に高くなることが分かった。また、抽出剤B(N−(2−エチルヘキシル)−オクタンアミド)の場合、ドデカンと2−エチルヘキサノール混合比を、9.5:0.5〜9:1とすることにより、白金の抽出率が特に高くなることが分かった。また、抽出剤C(1−ブチル−3−(2−エチルヘキシル)ウレア)の場合、ドデカンと2−エチルヘキサノール混合比を、6:4〜5:5とすることにより、白金の抽出率が特に高くなることが分かった。