特許第6556693号(P6556693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6556693ポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556693
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20190729BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20190729BHJP
   B29C 41/24 20060101ALI20190729BHJP
   B29K 29/00 20060101ALN20190729BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20190729BHJP
【FI】
   C08J5/18CEX
   G02B5/30
   B29C41/24
   B29K29:00
   B29L7:00
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-505162(P2016-505162)
(86)(22)【出願日】2015年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2015054560
(87)【国際公開番号】WO2015129538
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2017年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-36316(P2014-36316)
(32)【優先日】2014年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】藤井 絵美
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−342236(JP,A)
【文献】 特開2005−324355(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146146(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146147(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/132984(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/137056(WO,A1)
【文献】 特開2001−315144(JP,A)
【文献】 特開2006−027263(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050696(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 41/00−52
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの面内における配向軸角度をフィルムの幅方向に0.8mmピッチで測定して求めた配向軸角度の分布において、隣接するピーク間の距離の最大値が6cm以下であり、隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値が10°以下であることを特徴とするポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
幅が2m以上である、請求項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコールを含む製膜原液を吐出装置の吐出口から支持体上に膜状に吐出し、乾燥してポリビニルアルコールフィルムを製造する方法であって、吐出後10秒以内に風速0.3〜5m/秒の風を吐出した膜に吹き付ける工程を有することを特徴とする、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した光学フィルム。
【請求項5】
偏光フィルムである請求項に記載の光学フィルム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法、並びに当該フィルムから製造した偏光フィルムなどの光学フィルムに関する。より詳細には、本発明は、光透過率が高い場合やバックライトの光強度が高い場合であっても、色斑の幅が細くて斑として目立ちにくい偏光フィルムなどの光学フィルムを与えるポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法、並びに当該フィルムから製造した偏光フィルムなどの光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光の偏光状態を変化させる液晶と共に液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。多くの偏光板は、偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護膜が貼り合わされた構造を有しており、偏光板を構成する偏光フィルムとしてはポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸して配向させた延伸フィルムにヨウ素系色素(I3-やI5-など)や二色性有機染料などの二色性色素を吸着させたものが主流となっている。このような偏光フィルムは、二色性色素を予め含有させたポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸したり、ポリビニルアルコールフィルムの一軸延伸と同時に二色性色素を吸着させたり、ポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸した後に二色性色素を吸着させたりするなどして製造される。
【0003】
LCDは、電卓および腕時計などの小型機器、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器など、広範囲において用いられるようになっている。近年、特に消費電力の低減がより強く求められていることから、LCDにおいて、バックライトの光強度が低い場合であっても高い画面輝度を維持できることが重要になってきた。それを達成するための手段としては、偏光フィルムの厚みをより薄くしたり染色の程度を弱めたりするなどして偏光フィルムひいては偏光板における光透過率を向上させることが考えられるが、光透過率の高い偏光板は、光透過率の低い偏光板に比べて色斑が目立ちやすい。
【0004】
偏光フィルムの色斑を低減させるためのポリビニルアルコールフィルムとしては、従来、複屈折率斑や厚み斑を低減させたポリビニルアルコールフィルム(特許文献1参照)、フィルムの幅方向に1cm離れた2点間のレタデーション差が特定の範囲にあるポリビニルアルコールフィルム(特許文献2参照)、フィルムの幅方向の1mm当たりの厚み変動が特定の範囲にあるポリビニルアルコールフィルム(特許文献3参照)などが知られている。
【0005】
また、ポリビニルアルコールフィルムの膨潤時における皺の発生や偏光フィルムの長手方向に存在するスジ状の染色斑を低減できるものとして、フィルムの膜幅方向全体にわたる光学軸の傾きがフィルムの長手方向に対して45〜135°であるポリビニルアルコールフィルムが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−138319号公報
【特許文献2】特開2002−28938号公報
【特許文献3】特開2002−31720号公報
【特許文献4】国際公開第2009/028141号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来のポリビニルアルコールフィルムは、偏光フィルムにして偏光板の製造に用いた場合などにおいて、たとえ色斑の濃淡差を小さくすることができたとしても、色斑の幅が比較的太く、斑として目立ちやすいという問題のあることがわかってきた。
【0008】
本発明の目的は、色斑の幅が細くて斑として目立ちにくい偏光フィルムなどの光学フィルムを容易に製造することのできるポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法を提供することである。
さらに、本発明は、当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した偏光フィルムなどの光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、フィルムの面内における配向軸角度をフィルムの幅方向に0.8mmピッチで測定して求めた配向軸角度の分布において、隣接するピーク間の距離が特定数値以下にある新規なポリビニルアルコールフィルムを得ることができた。そして、当該ポリビニルアルコールフィルムを原反として用いたところ、光透過率が高い場合や光強度のより高いバックライトを使用した場合であっても、色斑の幅が細くて斑として目立ちにくい偏光フィルムなどの光学フィルムが得られることが判明した。
さらに、本発明者らは、当該ポリビニルアルコールフィルムは、ポリビニルアルコールを含む製膜原液を用いてフィルムを製造する際に、製膜原液をロールやベルトなどの支持体上に吐出装置の吐出口から膜状に吐出後、特定の時間内に、吐出した膜に特定の風速の風を吹き付けることにより円滑に製造できることを見出した。
本発明らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1] フィルムの面内における配向軸角度をフィルムの幅方向に0.8mmピッチで測定して求めた配向軸角度の分布において、隣接するピーク間の距離の最大値が6cm以下であることを特徴とするポリビニルアルコールフィルムである。
そして、本発明は、
[2] フィルムの面内における配向軸角度をフィルムの幅方向に0.8mmピッチで測定して求めた配向軸角度の分布において、隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値が10°以下である前記[1]のポリビニルアルコールフィルム;および、
[3] 幅が2m以上である前記[1]または[2]のポリビニルアルコールフィルム;
である。
【0011】
さらに、本発明は、
[4] ポリビニルアルコールを含む製膜原液を吐出装置の吐出口から支持体上に膜状に吐出し、乾燥してポリビニルアルコールフィルムを製造する方法であって、吐出後10秒以内に風速0.3〜5m/秒の風を吐出した膜に吹き付ける工程を有することを特徴とするポリビニルアルコールフィルムの製造方法である。
【0012】
また、本発明は、
[5] 前記[1]〜[3]のいずれかのポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した光学フィルム;および、
[6] 偏光フィルムである前記[5]の光学フィルム;
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリビニルアルコールフィルムを原反として用いることによって、光透過率が高い場合やより光強度の高いバックライトを用いた場合であっても、色斑の幅が細くて斑として目立ちにくい偏光フィルムなどの光学フィルムを得ることができる。
本発明の製造方法を採用することによって、前記した優れた特性を有する本発明のポリビニルアルコールフィルムを円滑に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ポリビニルアルコールフィルムのフィルム面内における配向軸角度を模式的に示した図である。
図2図2は、ポリビニルアルコールフィルムのフィルム面内における配向軸角度を測定する際の測定箇所の例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリビニルアルコールフィルム(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」ということがある)は、フィルムの面内における配向軸角度をフィルムの幅方向に0.8mmピッチで測定して求めた配向軸角度の分布において、隣接するピーク間の距離の最大値が6cm以下である。
従来のPVAフィルムにおいては、上記距離が大きいため、それを用いて製造した偏光フィルムひいては偏光板では、色斑の幅が太く、斑として目立ちやすいという問題があった。これに対して、本発明のPVAフィルムは上記距離の最大値が6cm以下であり、従来のPVAフィルムと異なっている。このような本発明のPVAフィルムを原反として用いれば、光透過率が高い場合やより光強度の高いバックライトを用いた場合であっても、色斑の幅が細くて斑として目立ちにくい偏光フィルムなどの光学フィルムを製造することができる。
【0016】
本発明におけるフィルムの面内における配向軸角度とは、図1に示すように、フィルムの面内における長さ方向(MD)と配向軸(遅相軸)のなす角度θをいい、配向軸角度の測定位置におけるPVA分子の配向の状態などによって定まる。当該配向軸角度は複屈折測定装置やセルギャップ測定装置などを用いてフィルム面に対して垂直な方向(フィルムの厚み方向)に進行する光(例えば、波長543nmの光)に基づき測定することができ、具体的には、実施例において後述する方法により測定することができる。
【0017】
以下に、本発明でいう「フィルムの面内における配向軸角度」の測定方法および「隣接するピーク間の距離」の求め方について説明する。
図2に示すように、PVAフィルムの長さ方向(MD)の任意の位置で、PVAフィルムの長さ方向に対して直交する幅方向の仮想直線A1−A2を定め、仮想直線A1―A2上を、当該仮想直線A1−A2の全幅(フィルムの全幅)にわたって、0.8mmのピッチで、フィルム面に対して垂直な方向(フィルムの厚み方向)に進行する光によって配向軸角度を測定する。
配向軸角度の測定に当たっての測定位置は特に制限されず、例えば、A1とA2を結ぶ仮想直線上の任意の1点(例えば中央)をA3とし、当該A3からA1に向かって0.8mmのピッチで配向軸角度を測定し、さらにA3からA2に向かって0.8mmのピッチで配向軸角度を測定する方法などを採用することができる。
ここでフィルムの幅方向とは、フィルムの長さ方向(MD)と直交するフィルムの面内における方向(TD)である。長尺のPVAフィルムを原反として用いて偏光フィルムなどの光学フィルムを製造する場合には、通常、長尺のPVAフィルムの長さ方向(機械流れ方向;MD)に一軸延伸される。そのため、通常、フィルムの長さ方向(MD)は偏光フィルムなどの光学フィルムを製造する際にPVAフィルムが一軸延伸されるべき方向と一致し、この長さ方向と直交するフィルムの面内における方向が幅方向(TD)となる。なお長尺でないPVAフィルムの場合には、偏光フィルムなどの光学フィルムを製造する際に一軸延伸されるべき方向をフィルムの長さ方向(MD)とし、これと直交するフィルムの面内における方向を幅方向(TD)とすればよい。
【0018】
PVAフィルムの長さ方向に対して直交する幅方向の仮想直線A1−A2上をPVAフィルムの全幅にわたって0.8mmのピッチで配向軸角度を測定して得られた幅方向の配向軸角度の分布を示すデータは、長周期のノイズなどの影響により、特に電子的に解析を行う場合などにおいて、そのままでは解析が困難であることが多い。そこで、隣接するピーク間の距離を求める前に長周期のノイズを排除することが好ましい。当該長周期のノイズの排除は次のようにして行うことができる。
すなわち、各測定点について、その測定点からフィルムの幅方向(TD)の一方の側に連続する250点(250ピッチ分)および他方の側に連続する250点(250ピッチ分)の合計500点の配向軸角度の平均値を求め、対象となる測定点における配向軸角度の値からこの平均値を差し引く。各測定点について同様の計算を行うことにより、長周期のノイズが排除された配向軸角度の変動を示すデータが得られる。この長周期のノイズが排除された配向軸角度の変動を示すデータを下記の方法で解析することにより、「隣接するピーク間の距離」が得られる。なお、上記長周期のノイズの排除を行う場合には、フィルムの幅方向(TD)の一方の側に連続する250点分の配向軸角度のデータのないフィルムの幅方向(TD)の両端部(それぞれ幅約20cmの部分)は、通常、光学フィルムの製造過程においてスリットされるなどして製品化されないことが多いため、「隣接するピーク間の距離」の解析から除外することができる。
【0019】
次に、解析ソフトOrigin Pro 8.6J(OriginLab Corporation社製)を用いて、上記の長周期のノイズが排除された配向軸角度の変動を示すデータに基づいて配向軸角度の分布のピーク検出を行う。配向軸角度の分布のピーク検出に当たっては、基線モードとして「定数(平均)」を設定し、ピークフィットのフィルタリング方式として「高さに基づく(しきい値高さ30%)」を設定し、しきい値よりも小さいピークは除外する。次いで、各ピークにおける幅方向の位置を求め、互いに隣接するピーク間の幅方向の距離を算出し、それを「隣接するピーク間の距離」とする。なお、本発明において、「隣接するピーク間の距離」におけるピークには正のピークおよび負のピークが含まれる。
【0020】
本発明のPVAフィルムでは、上記のようにして得られた隣接するピーク間の距離の最大値が6cm以下であって、隣接するピーク間の距離は全て6cm以下になっている。隣接するピーク間の距離の最大値が6cmよりも大きいと、偏光フィルムおよび偏光板にしたときに、色斑の幅が太くなり、斑として目立ち易くなる。この観点から、PVAフィルムにおける隣接するピーク間の距離の最大値は、5.5cm以下であることが好ましく、5cm以下であることがより好ましく、場合によっては4cm以下、2cm以下、さらには1cm以下であってもよい。
隣接するピーク間の距離の最大値の下限は特に限定されないが、隣接するピーク間の距離の最大値があまりに小さいPVAフィルムは、生産性よく製造できにくいことから、隣接するピーク間の距離の最大値は0.1cm以上であることが好ましく、0.2cm以上であることがより好ましく、0.3cm以上であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のPVAフィルムでは、上記の配向軸角度の分布において、隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値が10°以下であることが好ましい。隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値が10°以下であることにより、偏光フィルムおよび偏光板にしたときの色斑の濃淡差を小さくすることができる。PVAフィルムの生産性の点からは、隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値は0.01°以上であることが好ましく、かかる点から、本発明のPVAフィルムでは、隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値は0.01〜10°であることがより好ましく、0.02〜8°であることがさらに好ましく、0.05〜5°であることが特に好ましい。
隣接するピークにおける配向軸角度の差は、上記の「隣接するピーク間の距離」において検出されたピークにおける配向軸角度の値から求めることができる。
【0022】
本発明のPVAフィルムの厚みは特に制限されないが、あまりに厚すぎると偏光フィルムなどの光学フィルムを製造する際の乾燥が速やかに行われにくくなり、一方、あまりに薄すぎると光学フィルムを製造する際の一軸延伸時にフィルムの破断が生じやすくなることから、PVAフィルムの厚みは、5〜150μmの範囲内であることが好ましく、8〜120μmの範囲内であることがより好ましく、10〜80μmの範囲内であることがさらに好ましく、12〜50μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0023】
本発明のPVAフィルムの幅は特に制限されないが、近年、液晶テレビやモニターが大画面化しているので、それらに有効に用い得るようにするために、2m以上であることが好ましく、4m以上であることがより好ましい。また、現実的な生産機で偏光フィルムなどの光学フィルムを製造する場合に、フィルムの幅があまりに広すぎると均一な一軸延伸が困難になることがあるため、PVAフィルムの幅は8m以下であることが好ましい。
【0024】
本発明のPVAフィルムの長さは特に制限されないが、より均一なPVAフィルムを連続して円滑に製造することができると共に、それを用いて光学フィルムを製造する場合などにおいても連続して使用することができることから、5〜50,000mの範囲内であることが好ましく、100〜20,000mの範囲内であることがより好ましい。
【0025】
本発明のPVAフィルムを構成するPVAとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニルなどのビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVAの製造の容易性、入手の容易性、コストなどの点から、分子中にビニルオキシカルボニル基(H2C=CH−O−CO−)を有する化合物が好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
【0026】
上記のポリビニルエステルは、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0027】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどの炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体などの(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸またはその塩などを挙げることができる。上記のポリビニルエステルは、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0028】
上記のポリビニルエステルに占める上記他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
上記のPVAとしてはグラフト共重合がされていないものを好ましく使用することができるが、本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、PVAは1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合は、ポリビニルエステルおよびそれをけん化することにより得られるPVAのうちの少なくとも一方に対して行うことができる。上記グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルエステルまたはPVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルまたはPVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0030】
上記のPVAはその水酸基の一部が架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。また上記のPVAはその水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒドなどのアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0031】
上記のPVAの重合度は特に制限されないが、1,000以上であることが好ましい。PVAの重合度が1,000以上であることにより、PVAフィルムから得られる偏光フィルムの偏光性能をより一層向上させることができる。PVAの重合度があまりに高すぎるとPVAの製造コストの上昇や製膜時における工程通過性の不良につながる傾向があるので、PVAの重合度は1,000〜10,000の範囲内であることがより好ましく、1,500〜8,000の範囲内であることがさらに好ましく、2,000〜5,000の範囲内であることが特に好ましい。なお本明細書でいうPVAの重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0032】
PVAのけん化度は、PVAフィルムから得られる偏光フィルムなどの光学フィルムの耐湿熱性が良好になることから、98モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましく、99.8モル%以上であることがさらに好ましく、99.9モル%以上であることが特に好ましい。
なお、本明細書におけるPVAのけん化度とはPVAが有するけん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0033】
PVAフィルムは、上記したPVAと共に可塑剤を含んでいてもよい。PVAフィルムが可塑剤を含むことにより、PVAフィルムの取り扱い性や延伸性の向上などを図ることができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、PVAフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらのうちでもPVAフィルムの延伸性がより良好になることからグリセリンが好ましい。
【0034】
PVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、PVA100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましく、5〜17質量部であることがより好ましく、7〜14質量部であることがさらに好ましい。PVAフィルムにおける可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して3質量部以上であることによりPVAフィルムの延伸性が向上する。一方、PVAフィルムにおける可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して20質量部以下であることにより、PVAフィルムの表面に可塑剤がブリードアウトしてPVAフィルムの取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0035】
また、後述する製膜原液を用いてPVAフィルムを製造する場合には、製膜性が向上してフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜時に金属ロールやベルトを使用したときに金属ロールやベルトからのPVAフィルムの剥離が容易になることから、当該製膜原液中に界面活性剤を配合することが好ましい。界面活性剤が配合された製膜原液からPVAフィルムを製造した場合には、PVAフィルムは界面活性剤を含有する。PVAフィルムを製造するための製膜原液に配合される界面活性剤、ひいてはPVAフィルム中に含有される界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点から、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0036】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型;オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型などが好適である。
また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などが好適である。
これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
界面活性剤を含有する製膜原液を用いる場合は、界面活性剤の含有量は、製膜原液に含まれるPVA100質量部に対して0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましい。界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.01質量部以上であることにより製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、PVAフィルムの表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0038】
PVAフィルムはPVAのみからなっていても、あるいはPVAと上記した可塑剤および/または界面活性剤のみからなっていてもよいが、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤などの他の成分の1種または2種以上をさらに含有していてもよい。
【0039】
PVAフィルムにおけるPVAの含有率は、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、85〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明のPVAフィルムの製造方法は特に制限されず、本発明のPVAフィルムを製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよい。そのうちでも、PVAを含む製膜原液を吐出装置の吐出口から支持体上に膜状に吐出し、乾燥してPVAフィルムを製造する方法であって、吐出口から製膜原液を吐出後10秒以内に、吐出した膜に風速0.3〜5m/秒の風を吹き付ける工程を有する製造方法が、本発明のPVAフィルムを円滑に製造することができる点から、好ましく採用される。
以下に本発明において好適に採用し得る当該PVAフィルムの製造方法(以下「本発明の製造方法」ということがある)について説明する。
【0041】
上記の製膜原液としては、例えば、PVAおよび必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤、他の成分が液体媒体中に溶解した製膜原液や、PVAおよび必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤、他の成分、液体媒体を含み、PVAが溶融している製膜原液が挙げられる。当該製膜原液が可塑剤、界面活性剤および他の成分の少なくとも1種を含有する場合には、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0042】
製膜原液の調製に使用される上記液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
【0043】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによって異なり得るが、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、60〜85質量%の範囲内であることがさらに好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVAフィルムの製造が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVAフィルムの製造が容易になる。
また、製膜原液の温度は、90〜110℃とすることが好ましい。
【0044】
製膜原液を膜状に吐出するための吐出装置としては、例えば、T型スリットダイ、I−ダイ、リップコーターダイなどが挙げられる。
【0045】
本発明の製造方法においては、製膜原液を吐出口から膜状に吐出後10秒以内の時点に、風速0.3〜5m/秒の風を吹き付ける工程を有する。本発明のPVAフィルムをより効率的に得ることができることから、当該風を吹き付ける時点(吐出された膜に最初に風を吹き付ける時点)は、吐出後、5秒以内であることが好ましく、3秒以内であることがより好ましく、吐出直後〜1秒の時点であることがさらに好ましい。その際に、風を吹き付ける時間の長さは、0.1〜10秒間であることが好ましく、0.5〜5秒間であることがより好ましく、0.8〜2秒間であることがさらに好ましい。
【0046】
吹き付ける風の風速は0.3〜5m/秒であり、本発明のPVAフィルムをより効率的に得ることができることから、当該風速は0.4m/秒以上であることが好ましく、0.5m/秒以上であることがより好ましく、0.7m/秒以上であることがさらに好ましく、0.77m/秒以上であることが特に好ましく、また当該風速は3m/秒未満であることが好ましく、1m/秒未満であることがより好ましく、0.9m/秒未満であることがさらに好ましい。
【0047】
吹き付ける風の温度は、20〜100℃が好ましく、30〜90℃がより好ましく、40〜80℃がさらに好ましい。吹き付ける風の温度が低すぎると、吐出したPVA膜の乾燥が不十分になり易く、一方、吹き付ける風の温度が高すぎると、発泡が生じやすくなる。
【0048】
前記の風を吹き付ける方法については特に制限はないが、吹き付ける風の風速斑を少なくする構造が好ましく、ノズル方式や整流板方式、またはそれらの組み合わせなどが一般的に使用される。PVA膜に吹き付ける風の方向に特に制限はないが、PVA膜が最初に接触する第1ロールやベルトなどの支持体への非接触面(最初に接触する面と反対の面)に正対する方向であってもよいし、当該非接触面にほぼ沿った方向であってもよいし、またはそれ以外の方法であってもよい。
【0049】
使用される製膜装置は、製膜原液を吐出する支持体を有していればよく、例えば、ドラム型製膜装置やベルト型製膜装置を使用することができる。そのうちでも、本発明のPVAフィルムをより効率的に製造できることから、ドラム型製膜装置が好ましく、特に回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備えるドラム型製膜装置がより好ましく用いられる。回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備えるドラム型製膜装置を使用することによって、第1ロール上に吐出されたPVA膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いて吐出されたPVA膜の他方の面を回転する加熱した第2ロールの周面上を通過させて乾燥させることができる。
【0050】
PVA膜を第1ロールから剥離する際の揮発分率は、10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることがさらに好ましい。第1ロールから剥離する際の揮発分率が小さすぎると、偏光フィルムへの加工の際に延伸性が悪くなる傾向がある。一方、第1ロールから剥離する際の揮発分率が大きすぎると、第1ロールからの剥離が困難になる傾向がある。
【0051】
製膜原液を第1ロールで乾燥後、下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置に巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
PVAフィルムを製造するための装置には、PVAフィルムを適切な状態に調整するために、熱処理装置;調湿装置;各ロールを駆動するためのモータ;変速機などの速度調整機構などが付設されることが好ましい。
【0052】
PVAフィルムの製造工程での乾燥処理時の乾燥温度は50〜150℃の範囲内であることが好ましく、60〜120℃の範囲内であることがより好ましい。
かかる点から、回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備えるドラム型製膜装置を用いてPVAフィルムを製造する場合は、第1ロールおよびそれに続くロールの表面温度を50〜150℃、特に60〜120℃とすることが好ましい。
また、乾燥ロールの下流に熱風乾燥装置をさらに配置する場合は、熱風乾燥装置内の雰囲気温度を50〜150℃、特に60〜120℃にすることが好ましい。
【0053】
乾燥処理は、PVAフィルムの揮発分率が10質量%以下、さらには5質量%以下、特に2〜4質量%になるまで行うことが、偏光フィルムなどの光学フィルムの製造時の取り扱い性などの点から好ましい。
【0054】
本発明のPVAフィルムの用途に特に制限はないが、光透過率が高い場合やより光強度の高いバックライトを用いた場合であっても、色斑の幅が細くて斑として目立ちにくい偏光フィルムなどの光学フィルムを容易に製造できることから、本発明のPVAフィルムは、光学フィルムを製造する際の原反として用いることが好ましい。光学フィルムとしては、偏光フィルムの他、位相差フィルムなどが挙げられる。これらの光学フィルムは、本発明のPVAフィルムを用いて一軸延伸する工程を有する製造方法により製造することができる。
【0055】
本発明のPVAフィルムを原反として用いて偏光フィルムを製造するには、例えば、本発明のPVAフィルムを用いて染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理、さらに必要に応じて熱処理を行えばよい。染色と一軸延伸の順序は特に限定されず、一軸延伸の前に染色を行ってもよいし、一軸延伸と同時に染色を行ってもよいし、または一軸延伸の後に染色を行ってもよい。また、一軸延伸、染色などの工程は複数回繰り返してもよい。
【0056】
PVAフィルムの染色に当たっては、ヨウ素や二色性有機染料(例えば、DirectBlack 17、19、154;DirectBrown 44、106、195、210、223;DirectRed 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;DirectBlue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;DirectViolet 9、12、51、98;DirectGreen 1、85;DirectYellow 8、12、44、86、87;DirectOrange 26、39、106、107などの二色性染料)などの二色性色素が使用できる。これらの二色性色素は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。染色は、通常、PVAフィルムを上記した二色性色素を含有する溶液中に浸漬させることにより行うことができるが、その処理条件や処理方法は特に制限されない。
【0057】
PVAフィルムの一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法により一軸延伸する場合は、ホウ酸を含む温水中で一軸延伸してもよいし、前記した二色性色素を含有する溶液中や後記固定処理浴中で一軸延伸してもよいし、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で一軸延伸してもよいし、その他の方法で一軸延伸してもよい。一軸延伸処理の際の延伸温度は特に限定されないが、PVAフィルムを温水中で延伸(湿式延伸)する場合は好ましくは30〜90℃、より好ましくは40〜70℃、さらに好ましくは45〜65℃の温度が採用され、乾熱延伸する場合は50〜180℃の温度が好ましく採用される。また、一軸延伸の延伸倍率(多段で一軸延伸を行う場合は合計の延伸倍率)は、偏光性能の点からフィルムが切断する直前までできるだけ延伸することが好ましく、具体的には4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、5.5倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率の上限はフィルムが破断しない限り特に制限はないが、均一な延伸を行うためには8.0倍以下であることが好ましい。なお、本明細書における延伸倍率は延伸前のフィルムの長さに基づくものであり、延伸をしていない状態が延伸倍率1倍に相当する。
延伸後のフィルム(偏光フィルム)の厚みは、3〜35μm、特に5〜30μmであることが好ましい。
【0058】
長尺のPVAフィルムを一軸延伸する際の一軸延伸の延伸方向に特に制限はなく、長さ方向への一軸延伸や横方向への一軸延伸を採用することができるが、偏光性能により優れる偏光フィルムが得られることから長さ方向への一軸延伸が好ましい。長さ方向への一軸延伸は、互いに平行な複数のロールを備える延伸装置を使用して、各ロール間の周速を変えることにより行うことができる。一方、横方向への一軸延伸はテンター型延伸機を用いて行うことができる。
【0059】
偏光フィルムの製造に当っては、一軸延伸されたフィルムへの二色性色素の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが好ましい。固定処理としては、ホウ酸、硼砂などのホウ素化合物を添加した固定処理浴中にフィルムを浸漬する方法が挙げられる。その際に、必要に応じて固定処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0060】
一軸延伸、または一軸延伸と固定処理を行ったフィルムを次いで乾燥処理(熱処理)するのが好ましい。乾燥処理(熱処理)の温度は30〜150℃の範囲内、特に50〜140℃の範囲内であることが好ましい。乾燥処理(熱処理)の温度が低すぎると、得られる偏光フィルムの寸法安定性が低下しやすくなり、一方、高すぎると二色性色素の分解などに伴う偏光性能の低下が発生しやすくなる。
【0061】
以上のようにして得られた偏光フィルムの両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にすることができる。その場合の保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムなどが使用される。また、保護膜を貼り合わせるための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などが挙げられ、そのうちでもPVA系接着剤が好ましい。
以上のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤を被覆した後、ガラス基板に貼り合わせて液晶表示装置の部品として使用することができる。偏光板をガラス基板に貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどを貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0062】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、配向軸角度の分布における隣接するピーク間の距離および隣接するピークにおける配向軸角度の差、および、偏光フィルムの色斑は以下の方法により求めた。
【0063】
(1)配向軸角度の分布における隣接するピーク間の距離および隣接するピークにおける配向軸角度の差:
(i) 上記で説明した方法で行った。
すなわち、以下の各実施例または比較例で得られた長尺のPVAフィルムの長さ方向(MD)の任意の位置から、PVAフィルムの長さ方向(MD)に40mmの長さを有する全幅長(3m)のテープ状のサンプル(テープ形状からいうと幅40mm、長さ3mのテープ)を採取した。すなわち、図2を参照して説明すると、A1とA2を結ぶ仮想直線が配向軸角度の測定部位となるように、A1とA2を結ぶ仮想直線を中央線とし、当該仮想直線の上流側に20mmおよび下流側に20mmで合計40mmとなるようにしてPVAフィルムの全幅にわたるテープ状のサンプルを採取した。
(ii) 上記(i)で採取したテープ状のサンプルについて、フィルムの幅方向中央部に測定位置を1つ定め(図2におけるA1とA2を結ぶ仮想直線の中間点A3)、この測定位置から幅方向両端部に向かって(A3→A1およびA3→A2)、それぞれ0.8mmピッチで測定位置を定めて、各測定位置でフィルム面内における配向軸角度の測定を行って、配向軸角度のデータを得た。
ここで、各測定位置での配向軸角度の測定は、フォトニックラティス社製「WPA−100−L」を用いて、フィルム面に対して垂直な方向に進行する波長543nmの光によって行った。
(iii) 各測定点について、その測定点からフィルムの幅方向(TD)の一方の側に連続する250点(250ピッチ分)および他方の側に連続する250点(250ピッチ分)の合計500点の配向軸角度の平均値を求め、対象となる測定点における配向軸角度の値からこの平均値を差し引いた。各測定点について同様の計算を行うことにより、長周期のノイズが排除された配向軸角度の変動を示すデータを得た。
次に、解析ソフトOrigin Pro 8.6J(OriginLab Corporation社製)を用いて、上記の長周期のノイズが排除された配向軸角度の変動を示すデータに基づいて配向軸角度の分布のピーク検出を行った。配向軸角度の分布のピーク検出に当たっては、基線モードとして「定数(平均)」を設定し、ピークフィットのフィルタリング方式として「高さに基づく(しきい値高さ30%)」を設定し、しきい値よりも小さいピークは除外した。
(iv) 次いで、各ピークにおける幅方向の位置を求め、互いに隣接するピーク間(互いに隣り合うピーク間)の幅方向の距離を算出し、それを「隣接するピーク間の距離」とし、そのうちの最大値を求めた。
(v) さらに、検出されたピークにおける配向軸角度の値に基づいて、互いに隣接するピーク間(互いに隣り合うピーク間)での配向軸角度の差を、それぞれのピーク間において算出し、そのうちの最大値を求めた。
【0064】
(2)偏光フィルムの色斑:
暗室内で観察用偏光板(透過率が43%程度の偏光フィルムを用いたもの)を面光源(バックライト)上に載置し、その上に以下の実施例または比較例で作製した偏光フィルムを観察用偏光板に対してクロスニコルとなるように載置した後、バックライトから観察用偏光板を介して偏光フィルムに光を照射し(光度15,000cd)、偏光フィルム真上より1mの位置から偏光フィルムを目視によって観察して、以下の判定基準に基づく官能評価によって偏光フィルムの色斑の評価を行った。
◎:色斑が視認されない。
○:色斑が視認されるが、目立ちにくく実用上問題ないレベルである。
×:実用上問題となるレベルの色斑が視認された。
【0065】
[実施例1]
(1) PVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物、重合度2,400、けん化度99.9モル%)100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部および水からなる揮発分率66質量%および温度100℃の製膜原液を用い、これを回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備えるドラム型製膜装置の第1ロール(支持体)上にT型スリットダイを用いて膜状に吐出し、吐出後0.1秒の時点で風速0.81m/秒の風の吹き付けを開始し(風の吹き付け方向:PVA膜の第1ロールの非接触面に対してほぼ垂直の角度)、風の吹き付けを吐出後0.1〜1秒の間行い、第1ロールから剥離する際のPVA膜の揮発分率を22質量%にし、さらにPVA膜の第1ロールの非接触面・接触面を後続する第2ロール以降の乾燥ロールに交互に接触させることにより、長尺のPVAフィルム(厚み60μm、幅3m、揮発分率4質量%)を連続的に製造した。
これにより得られたPVAフィルムについて、上記した方法により、配向軸角度の分布における隣接するピーク間の距離の最大値および隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値を求めた。結果を表1に示す。
【0066】
(2) 上記(1)で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、長さ方向12cm×幅方向20cmの長方形の試験片を採取し、当該試験片の長さ方向の両端を、延伸部分のサイズが長さ方向10cm×幅方向20cmとなるように延伸治具に固定し、温度30℃の水中に38秒間浸漬している間に24cm/分の延伸速度で元の長さの2.2倍に長さ方向に一軸延伸(1段目延伸)した後、ヨウ素を0.03質量%およびヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中に60秒間浸漬している間に24cm/分の延伸速度で元の長さの3.3倍まで長さ方向に一軸延伸(2段目延伸)し、次いでホウ酸を3質量%およびヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に約20秒間浸漬している間に24cm/分の延伸速度で元の長さの3.6倍まで長さ方向に一軸延伸(3段目延伸)し、続いてホウ酸を4質量%およびヨウ化カリウムを約5質量%の濃度で含有する温度60℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬しながら24cm/分の延伸速度で元の長さの6.5倍まで長さ方向に一軸延伸(4段目延伸)した後、ヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有するヨウ化カリウム水溶液中に10秒間浸漬して固定処理を行い、その後60℃の乾燥機で4分間乾燥して、偏光フィルム(厚み23μm)を得た。
これにより得られた偏光フィルムについて、上記した方法により色斑を評価した。その結果を表1に示す。
【0067】
[実施例2〜5および比較例1〜6]
風の吹き付け開始時点、風の吹き付け時間、風速および第1ロールから剥離する際のPVA膜の揮発分率を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPVAフィルムおよび偏光フィルムを製造して、得られたPVAフィルムの配向軸角度の分布における隣接するピーク間の距離の最大値および隣接するピークにおける配向軸角度の差の最大値の算出、並びに得られた偏光フィルムの色斑の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記の表1にみるように、実施例1〜5のPVAフィルムは、配向軸角度の分布において隣接するピーク間の距離の最大値が6cm以下であることにより、偏光フィルムを製造したときに、色斑が視認されないか、または色斑が視認されても目立ちにくく実用上問題ないレベルの高品質の偏光フィルムを与えた。
一方、比較例1〜6のPVAフィルムは、配向軸角度の分布において隣接するピーク間の距離の最大値が6cmを超えていることにより、偏光フィルムを製造したときに、実用上問題となる色斑が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のPVAフィルムを用いれば、光透過率が高い場合やより光強度の高いバックライトを用いた場合であっても、色斑の幅が細くて斑として目立ちにくい偏光フィルムなどの光学フィルムが得られるので、本発明のPVAフィルムは偏光フィルムなどの光学フィルム用の原反フィルムとして極めて有用であり、そして本発明の製造方法は、当該本発明のPVAフィルムを高い生産性で円滑に連続して製造するための方法として有用である。
図1
図2