特許第6556822号(P6556822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6556822基板処理方法、基板処理装置、及び、成膜装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556822
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】基板処理方法、基板処理装置、及び、成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20190729BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20190729BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20190729BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01L21/304 645C
   H01L21/302 102
   H01L21/302 201B
   C23C14/02 A
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-249861(P2017-249861)
(22)【出願日】2017年12月26日
(65)【公開番号】特開2019-117831(P2019-117831A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2018年8月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 可子
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/001848(WO,A1)
【文献】 特開2005−187321(JP,A)
【文献】 特開平08−225936(JP,A)
【文献】 特開2016−027615(JP,A)
【文献】 特開2016−027592(JP,A)
【文献】 特開平06−260481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302−308
H01L 21/02
H01L 21/3205
H01L 21/768
C23C 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性樹脂基板の洗浄方法であって、
第1のガスと第2のガスの少なくとも一方を含む雰囲気下で絶縁性樹脂基板の表面を洗浄する洗浄工程を含み、
前記第1のガスは、物理的な洗浄作用を発生させるガスであり、
前記第2のガスは、化学的な洗浄作用を発生させ、かつ、前記絶縁性樹脂基板の絶縁性を回復させる作用を有するガスであり、
前記洗浄工程は、
前記第2のガスよりも前記第1のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第1工程と、
前記第1工程より後に、前記第1のガスよりも前記第2のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第2工程と、を含む
ことを特徴とする絶縁性樹脂基板の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄工程の開始時から終了時にかけて、前記第1のガスの比率を段階的に下げ、前記第2のガスの比率を段階的に上げる
ことを特徴とする請求項に記載の絶縁性樹脂基板の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄工程の開始時の前記第2のガスの比率は0であり、終了時の前記第1のガスの比率は0である
ことを特徴とする請求項又はに記載の絶縁性樹脂基板の洗浄方法。
【請求項4】
前記第1のガスは、希ガスである
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁性樹脂基板の洗浄方法。
【請求項5】
前記第1のガスは、アルゴンガスである
ことを特徴とする請求項に記載の絶縁性樹脂基板の洗浄方法。
【請求項6】
前記第2のガスは、酸素ガスである
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁性樹脂基板の洗浄方法。
【請求項7】
前記絶縁性樹脂基板は、ポリイミド系の絶縁性樹脂基板である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁性樹脂基板の洗浄方法。
【請求項8】
絶縁性樹脂基板の洗浄を行う基板処理装置であって、
絶縁性樹脂基板が配置されるチャンバと、
前記チャンバ内に第1のガスを導入するための第1のガス導入手段と、
前記チャンバ内に第2のガスを導入するための第2のガス導入手段と、
前記絶縁性樹脂基板の表面にイオンビームを照射することにより前記絶縁性樹脂基板の表面を洗浄する洗浄手段と、
制御手段と、を有し、
前記第1のガスは、物理的な洗浄作用を発生させるガスであり、
前記第2のガスは、化学的な洗浄作用を発生させ、かつ、前記絶縁性樹脂基板の絶縁性を回復させる作用を有するガスであり、
前記制御手段は、
前記第1のガスと前記第2のガスの少なくとも一方を含む雰囲気下で前記絶縁性樹脂基板の表面を洗浄する際に
記第2のガスよりも前記第1のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第1工程を行い、
前記第1工程より後に、前記第1のガスよりも前記第2のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第2工程を行うように、
前記第1及び第2のガス導入手段と前記洗浄手段とを制御する
ことを特徴とする基板処理装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記洗浄の開始時から終了時にかけて、前記第1のガスの比率が段階的に下がり、前記第2のガスの比率が段階的に上がるように、前記第1及び第2のガス導入手段を制御する
ことを特徴とする請求項に記載の基板処理装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記洗浄の開始時の前記第2のガスの比率が0となり、終了時の前記第1のガスの比率が0となるように、前記第1及び第2のガス導入手段を制御する
ことを特徴とする請求項又はに記載の基板処理装置。
【請求項11】
前記第1のガスは、希ガスである
ことを特徴とする請求項10のいずれか1項に記載の基板処理装置。
【請求項12】
前記第1のガスは、アルゴンガスである
ことを特徴とする請求項11に記載の基板処理装置。
【請求項13】
前記第2のガスは、酸素ガスである
ことを特徴とする請求項12のいずれか1項に記載の基板処理装置。
【請求項14】
前記絶縁性樹脂基板は、ポリイミド系の絶縁性樹脂基板である
ことを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の基板処理装置。
【請求項15】
請求項〜14のいずれか1項に記載の基板処理装置と、
前記基板処理装置によって洗浄された絶縁性樹脂基板の表面に成膜処理を行う成膜処理部と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理方法、基板処理装置、及び、成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの成膜装置においては、成膜処理に先立ち、イオンビームやプラズマによる基板表面の洗浄処理が行われることがある。このような洗浄処理では、その目的に応じて雰囲気ガスが選択される。たとえば特許文献1には、有機系材料膜の除去処理のためにアルゴンと酸素の混合ガス(Ar+O)を用いること、また、高いアッシングレートを得るためにアルゴンと酸素の比率を97%:3%に設定すると良いこと、が開示されている。特許文献2には、高分子デブリの洗浄処理のための雰囲気ガスとして、酸素と窒素の混合ガス(O+N)、水素とアルゴンの混合ガス(H+Ar)、アルゴンと窒素の混合ガス(Ar+N)、酸素とアルゴンの混合ガス(O+Ar)が開示されている。また特許文献3には、電極膜/ペロブスカイト層/電極膜からなる積層体のドライエッチング処理において、アルゴンと酸素と塩素の混合ガス(Ar+O+Cl)、アルゴンと酸素の混合ガス(Ar+O)を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−278748号公報
【特許文献2】特開2003−059902号公報
【特許文献3】特開2006−019729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルゴンガスなどの希ガスの雰囲気下での洗浄処理は、物理的な洗浄作用(エッチング)による高い洗浄効果が得られるという利点がある。しかしながら、希ガスの雰囲気下での洗浄処理は、ポリイミドなどの絶縁性樹脂材料からなる基板には適さない。高エネルギのイオンの衝突により、基板表面の絶縁性が失われる場合があるからである。一方、酸素ガスなどの雰囲気下での洗浄処理は、基板の有機物と反応し化学的な洗浄を行うものであり、基板表面の絶縁性を損なわないという利点があるものの、洗浄効果が低いというデメリットがある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、絶縁性樹脂基板の絶縁性を損なうことなく、高い洗浄効果を得ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第二態様は、絶縁性樹脂基板の洗浄方法であって、第1のガスと第2のガスの少なくとも一方を含む雰囲気下で絶縁性樹脂基板の表面を洗浄する洗浄工程を含み、前記第1のガスは、物理的な洗浄作用を発生させるガスであり、前記第2のガスは、化学的な洗浄作用を発生させ、かつ、前記絶縁性樹脂基板の絶縁性を回復させる作用を有するガスであり、前記洗浄工程は、前記第2のガスよりも前記第1のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第1工程と、前記第1工程より後に、前記第1のガスよりも前記第2のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第2工程と、を含むことを特徴とする絶縁性樹脂基板の洗浄方法を提供する。
【0009】
この方法によれば、第1工程では物理的な洗浄作用による高い洗浄効果を得ることができる。このとき、絶縁性樹脂基板の表面の絶縁性が失われる場合があるが、第2工程では第2のガスによる化学的な作用によって基板表面の絶縁性を回復させることができる。したがって、絶縁性樹脂基板の絶縁性を損なわずに、高い洗浄効果を得ることが可能となる。
【0012】
本発明の第四態様は、絶縁性樹脂基板の洗浄を行う基板処理装置であって、絶縁性樹脂基板が配置されるチャンバと、前記チャンバ内に第1のガスを導入するための第1のガス導入手段と、前記チャンバ内に第2のガスを導入するための第2のガス導入手段と、前記絶縁性樹脂基板の表面にイオンビームを照射することにより前記絶縁性樹脂基板の表面を洗浄する洗浄手段と、制御手段と、を有し、前記第1のガスは、物理的な洗浄作用を発生させるガスであり、前記第2のガスは、化学的な洗浄作用を発生させ、かつ、前記絶縁性樹脂基板の絶縁性を回復させる作用を有するガスであり、前記制御手段は、前記第1のガスと前記第2のガスの少なくとも一方を含む雰囲気下で前記絶縁性樹脂基板の表面を洗浄する際に、前記第2のガスよりも前記第1のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第1工程を行い、前記第1工程より後に、前記第1のガスよりも前記第2のガスの比率が高い雰囲気下で、前記第1のガスと前記第2のガスの比率を維持しながら、前記絶縁性樹脂基板の前記表面をイオンビームで走査する第2工程を行うように、前記第1及び第2のガス導入手段と前記洗浄手段とを制御することを特徴とする基板処理装置を提供する。
【0013】
この構成によれば、第1工程では物理的な洗浄作用による高い洗浄効果を得ることができる。このとき、絶縁性樹脂基板の表面の絶縁性が失われる場合があるが、第2工程では第2のガスによる化学的な作用によって基板表面の絶縁性を回復させることができる。したがって、絶縁性樹脂基板の絶縁性を損なわずに、高い洗浄効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁性樹脂基板の絶縁性を損なうことなく、高い洗浄効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1はインライン型の成膜装置の内部構成を模式的に示した上視図である。
図2図2は第1実施形態の成膜装置の動作を示すフローチャートである。
図3図3は第1実施形態の基板処理装置の構成を示す模式図である。
図4図4は基板処理装置の内部構成を基板の搬送方向にみた模式図である。
図5図5は第1実施形態における基板の搬送及びビーム照射の制御を示す図である。
図6図6は第1実施形態におけるガスの流量の制御を示す図である。
図7図7は第2実施形態における基板の搬送及びビーム照射の制御を示す図である。
図8図8は第2実施形態におけるガスの流量の制御を示す図である。
図9図9は第3実施形態の基板処理装置の構成を示す模式図である。
図10図10は第4実施形態の基板処理装置の構成を示す模式図である。
図11図11は第4実施形態におけるガスの流量の制御と電圧印加の制御を示す図である。
図12図12は第5実施形態の成膜装置及び基板処理装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
<第1実施形態>
(成膜装置の全体構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る成膜装置1の全体的な内部構成を模式的に示した上視図である。成膜装置1は、成膜処理される基板2が収容されるストッカ室11と、基板2の加熱処理を行う加熱室12と、基板2の被処理面に前処理や成膜処理を行う処理室13と、を備える。処理室13は、前処理エリア13Aと成膜エリア13Bを含んでおり、前処理エリア13Aには、成膜処理に先立って基板2の被処理面の洗浄等の前処理を行うための基板処理装置14が設けられ、成膜エリア13Bには、基板2の被処理面に成膜処理を行う成膜処理部としてのスパッタ装置15が設けられている。本実施形態の成膜装置1は、基板2を搬送しつつ加熱〜前処理〜成膜といった一連の処理を施す、いわゆるインライン型の構成を有している。
【0018】
図2は、成膜装置1の動作を示すフローチャートである。ストッカ室11には複数枚の基板2が収容されている。そのうち処理対象となる基板2が、ストッカ室11から加熱室12へ搬送され(ステップS101)、ヒータ121により加熱される(ステップS102)。本実施形態では、約十分ほどの加熱処理により、100℃から180℃程度まで基板2を加熱する。その後、基板2が加熱室12から処理室13の前処理エリア13Aへ搬送される(ステップS103)。前処理エリア13Aでは、基板処理装置14により基板2の被処理面に対して洗浄処理が施される(ステップS104)。次に、基板2が成膜エリア13Bへ搬送され(ステップS105)、スパッタ装置15により基板2の被処理面に対しスパッタリング処理が施される(ステップS106)。スパッタリング処理で用いられるターゲット151、152は同種の材料でもよいし異なる材料でもよい。以上で、
基板2に対する成膜処理が終了する。処理終了後の基板2はストッカ室11へと排出される。
【0019】
本実施形態に係る成膜装置1は、例えば、前処理を伴う種々の電極形成に適用可能である。具体例としては、例えば、FC−BGA(Flip−Chip Ball Grid
Array)実装基板向けのメッキシード膜や、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス向けのメタル積層膜の成膜が挙げられる。また、LEDのボンディング部における導電性硬質膜、MLCC(Multi−Layered Ceramic Capacitor)の端子部膜の成膜なども挙げられる。その他、電子部品パッケージにおける電磁シールド膜やチップ抵抗器の端子部膜の成膜にも適用可能である。基板2のサイズは、50mm×50mm〜600mm×600mm程度の範囲のものが例示できる。基板2としては、ポリイミド系の樹脂からなる絶縁性樹脂基板が用いられる。また、異なる材料からなる基板に対して、ポリイミド系の樹脂コーティングされている基板を使用しても良い。
【0020】
(基板処理装置)
図3及び図4は、本実施形態に係る基板処理装置14の構成を示す模式図である。図3は、基板処理装置14の内部構成を上方からみた模式図であり、図4は、基板処理装置14の内部構成を基板2の搬送方向にみた模式図である。
【0021】
本実施形態の基板処理装置14は、絶縁性樹脂基板の表面(被処理面)の洗浄処理を行うための装置であって、概略、チャンバ41、基板支持部42、第1のガス導入部43、第2のガス導入部44、制御部45、及び、ビーム照射部46を有する。
【0022】
チャンバ41は、処理室13を構成する気密容器である。不図示の排気ポンプによりチャンバ41内は減圧状態に維持される。基板支持部42は、基板2を垂直な状態で支持しつつ、チャンバ41の底面に敷設されたレール410上を移動可能な基板搬送手段である。第1のガス導入部43は、チャンバ41内に第1のガスを導入するための装置であり、第1のガスの供給源(不図示)とチャンバ41の間を接続するガス導入管430、MFC(マスフローコントローラ)などの流量制御装置431、開閉バルブ432などから構成される。また、第2のガス導入部44は、チャンバ41内に第2のガスを導入するための装置であり、第2のガスの供給源(不図示)とチャンバ41の間を接続するガス導入管440、流量制御装置441、開閉バルブ442などから構成される。ビーム照射部46は、基板2の表面に高エネルギのイオンビームを照射することによって、基板2の表面を洗浄する洗浄手段である。制御部45は、基板処理装置14の各部の動作を制御するための装置である。具体的には、制御部45は、基板支持部42の移動、第1のガス導入部43及び第2のガス導入部44の流量の制御、ビーム照射部46から照射するイオンビームの制御などを行う。
【0023】
本実施形態の基板処理装置14は、第1のガスの雰囲気下で基板2の表面を洗浄する第1の洗浄を行った後、第2のガスの雰囲気下で基板2の表面を洗浄する第2の洗浄を行う点に特徴がある。ここで、第1のガスとしては、物理的な洗浄作用を発生させるガス、すなわち、第1のガスの雰囲気下で基板2にイオンビームを照射したときに基板2の表面に物理的な洗浄作用が働く(あるいは物理的な洗浄作用が支配的となる)ガス、が用いられる。例えば、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)などの希ガスを好ましく用いることができる。本実施形態では、良好なエッチング作用が得られるという利点からアルゴンガスを用いる。一方、第2のガスとしては、化学的な洗浄作用を発生させるガス、すなわち、第2のガスの雰囲気下で基板2にイオンビームを照射したときに基板2の表面に化学的な洗浄作用が働く(あるいは化学的な洗浄作用が支配的となる)ガス、が用いられる。例えば、酸素(O)、窒素(N)などを好ましく用いることができる。ただし、窒素ガスを
用いた場合は、生成されるシアン化物を除去するための除害設備が必要になるため、本実施形態では、除害設備が不要な酸素ガスを用いる。
【0024】
(洗浄処理の制御)
図5図6を参照して、本実施形態の洗浄処理の制御を説明する。図5は基板2の搬送及びビーム照射の制御を示しており、図6はチャンバ内に導入するガスの流量の制御を示している。図5図6におけるt1,t2,…は時刻を表している。
【0025】
まず、制御部45は、基板2をスタート位置(ホームポジション)に移動させ、第1のガス導入部43の流量制御装置431と第2のガス導入部44の流量制御装置441にそれぞれ流量指示信号を送り、第1のガスの流量F1と第2のガスの流量F2の流量比率をF1:F2=100%:0%に設定する(t1)。そして、制御部45は、第1のガスの雰囲気下で、基板2を図中右方向に一定速度で移動させながら、ビーム照射部46から照射されるイオンビームで基板2の表面を走査する(t2)。基板2がエンド位置まで到達したら(つまり、基板2の表面の走査が完了したら)、制御部45は、ビーム照射及び基板2の移動を停止する(t3)。また、第1のガスの導入も停止する。ここまでのt1〜t3のプロセスが第1の洗浄工程である。
【0026】
その後、制御部45は、基板2を再びスタート位置に戻すとともに、流量制御装置431、441を制御して第1のガスと第2のガスの流量比率をF1:F2=0%:100%に設定する(t4)。そして、制御部45は、第2のガスの雰囲気下で、基板2を図中右方向に一定速度で移動させながら、イオンビームで基板2の表面を走査する(t5)。基板2がエンド位置まで到達したら、制御部45は、ビーム照射を停止する(t6)。このt4〜t6のプロセスが第2の洗浄工程である。
【0027】
上記のような洗浄処理によれば、まず第1の洗浄工程を実施することで、第1のガスの雰囲気下で物理的な洗浄作用(エッチング作用)による高い洗浄効果を得ることができる。ここで、第1の洗浄工程により樹脂基板表面の絶縁性が失われる場合があるが、第1の洗浄工程の後に第2の洗浄工程を実施することにより、その化学的な作用によって基板表面の絶縁性を回復させることができる。したがって、樹脂基板の絶縁性を損なわずに、高い洗浄効果を得ることが可能となる。しかも、雰囲気ガスの種類を変えて2回のビーム走査を行うという簡単な制御で実現できる。なお、本実施形態では、第1の洗浄工程と第2の洗浄工程でそれぞれ1回ずつのビーム走査を実施したが、各洗浄工程のなかで複数回のビーム走査を行ってもよい。ビームの走査方向に関しても、本実施形態では、スタート位置から基板を移動させる走査方向のみを開示しているが、第1の洗浄工程が終了後、第2の洗浄工程では、スタート位置に戻る方向に基板を移動させてビームを走査させても良い。基板移動の構成だけでなく、基板を固定し、ビーム照射部46を移動させるかビームの照射方向を変化させることにより、ビームを走査させても良い。また、基板全体を洗浄してもよいが、必要な範囲のみにビームを照射することで基板表面の一部だけを洗浄することも可能である。
【0028】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の基板処理装置14は、洗浄処理の開始時は第2のガスよりも第1のガスの比率が高く、洗浄処理の終了時は第1のガスよりも第2のガスの比率が高くなるように、雰囲気ガスにおける第1のガスと第2のガスの比率を変化させる点に特徴がある。それ以外の構成は第1実施形態のものと同一でよいので、説明を省略する。
【0029】
(洗浄処理の制御)
図7図8を参照して、本実施形態の洗浄処理の制御を説明する。図7は基板2の搬送
及びビーム照射の制御を示しており、図8はチャンバ内に導入するガスの流量の制御を示している。図7図8におけるt1,t2,…は時刻を表している。
【0030】
まず、制御部45は、基板2をスタート位置(ホームポジション)に移動させ、第1のガスと第2のガスの流量比率をF1:F2=100%:0%に設定する(t1)。そして、制御部45は、基板2を図中右方向に一定速度で移動させながら、ビーム照射部46から照射されるイオンビームで基板2の表面を走査する(t2)。次に、制御部45は、第1のガスと第2のガスの流量比率をF1:F2=66.7%:33.3%に変更した後(t3)、基板2を図中左方向に一定速度で移動させながら、2回目のビーム走査を行う(t4)。その後、流量比率F1:F2=33.3%:66.7%の雰囲気下で3回目のビーム走査を行い(t5〜t6)、流量比率F1:F2=0%:100%の雰囲気下で4回目のビーム走査を行う(t7〜t8)。本実施形態では、図8に示すように、基板2の表面にビームを照射している期間(ビーム走査中)は流量比率を一定に維持する。表面処理の結果にムラを生じさせないためである。
【0031】
上記のような制御によれば、洗浄処理の開始時には、第1のガスが支配的な雰囲気下で洗浄処理が行われ、物理的な洗浄作用(エッチング作用)による高い洗浄効果を得ることができる。このとき、樹脂基板表面の絶縁性が失われる場合があるが、洗浄処理の終了時には第2のガスが支配的な雰囲気下で処理が行われるので、その化学的な作用によって基板表面の絶縁性を回復させることができる。したがって、樹脂基板の絶縁性を損なわずに、高い洗浄効果を得ることが可能となる。しかも、雰囲気ガスの流量比率を変えながらビーム走査を行うという簡単な制御で実現できる。
【0032】
なお、本実施形態では、図8に示すように洗浄処理の開始時の第2のガスの流量F2を0、終了時の第1のガスの流量F1を0に設定し、各々のガスの流量をリニアに変化させたが、このような制御は一例である。例えば、洗浄処理の開始時において、第2のガスの流量をF2>0に設定してもよいし、洗浄処理の終了時において、第1のガスの流量をF1>0に設定してもよい。また、各々のガスの流量についても、非線形に変化させたり、段階的に変化させたりしてもよい。すなわち、洗浄処理の開始時の流量がF1>F2、終了時の流量がF1<F2となっていれば(言い換えると、洗浄処理の開始時には第1のガスの洗浄作用が支配的となり、洗浄処理の終了時には第2のガスの洗浄作用が支配的となりさえすれば)、各々のガスの流量をどのように制御しても構わない。
【0033】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態に係る基板処理装置14の構成を示している。本実施形態の基板処理装置14は、基板2を挟んだ両側にビーム照射部46A,46Bを設けている。この構成によると、1回の走査で、基板2の両面を同時に洗浄することができる。あるいは、基板支持部に2枚の基板2を平行に支持させることで、2枚の基板2を同時に洗浄することができる。したがって、第1及び第2実施形態よりも高い生産性をもつ基板処理装置を提供することができる。なお、洗浄処理の具体的な制御については、第1及び第2実施形態のものと同じでよい。
【0034】
<第4実施形態>
図10は、第4実施形態に係る基板処理装置14の構成を示している。第1〜第3実施形態は、イオンビームによる洗浄処理を行う構成であったのに対し、本実施形態は、逆スパッタ法によるプラズマ洗浄処理を行う構成である。
【0035】
本実施形態の基板処理装置14は、概略、チャンバ41、基板支持部42、第1のガス導入部43、第2のガス導入部44、制御部45、電圧印加部材47、及び、高周波電源48を有する。前述の実施形態との違いは、ビーム照射部の代わりに、電圧印加部材47
及び高周波電源48が設けられている点である。それ以外の構成は基本的に前述の実施形態と同じでよいので、説明を割愛する。
【0036】
(洗浄処理の制御)
図11を参照して、本実施形態の洗浄処理の制御を説明する。図11はチャンバ内に導入するガスの流量の制御と、電圧印加部材47の制御を示している。
【0037】
まず、制御部45は、基板2を基板処理装置14内の所定の処理位置に移動させる(t1)。このとき、電圧印加部材47と基板支持部42の電極421とが密着し、両者の電気的な接続が図られる。続いて、制御部45は、第1のガス導入部43の流量制御装置431と第2のガス導入部44の流量制御装置441にそれぞれ流量指示信号を送り、第1のガスの流量F1と第2のガスの流量F2の流量比率をF1:F2=100%:0%に設定する(t2)。そして、制御部45は、電圧印加部材47を制御し、電極421を介して基板支持部42に対し所定の高周波電圧を印加する(t3)。この電圧印加により、基板2の表面近傍に第1のガスのプラズマPが形成される(図10参照)。プラズマP中のイオンの衝突により基板2の表面の洗浄処理が行われる。
【0038】
その後、制御部45は、電圧印加を維持したまま、第1のガスと第2のガスの流量比率を徐々に変化させていき、最終的にF1:F2=0%:100%とする(t4)。したがって、最終的には第2のガスのプラズマPによる化学的な洗浄処理が行われることとなる。
【0039】
上記のような制御によれば、洗浄処理の開始時には、第1のガスが支配的な雰囲気下で洗浄処理が行われ、物理的な洗浄作用(エッチング作用)による高い洗浄効果を得ることができる。このとき、樹脂基板表面の絶縁性が失われる場合があるが、洗浄処理の終了時には第2のガスが支配的な雰囲気下で処理が行われるので、その化学的な作用によって基板表面の絶縁性を回復させることができる。したがって、樹脂基板の絶縁性を損なわずに、高い洗浄効果を得ることが可能となる。しかも、電圧を印加した状態のまま、雰囲気ガスの流量比率を変えるという簡単な制御で実現できる。
【0040】
なお、本実施形態では、洗浄処理の開始時の第2のガスの流量F2を0、終了時の第1のガスの流量F1を0に設定し、各々のガスの流量をリニアに変化させたが、このような制御は一例である。例えば、洗浄処理の開始時において、第2のガスの流量をF2>0に設定してもよいし、洗浄処理の終了時において、第1のガスの流量をF1>0に設定してもよい。また、各々のガスの流量についても、非線形に変化させたり、段階的に変化させたりしてもよい。また、第1実施形態のように、洗浄処理の前半はF1:F2=100%:0%、後半はF1:F2=0%:100%のように2段階に切り替えてもよい。すなわち、洗浄処理の開始時の流量がF1>F2、終了時の流量がF1<F2となっていれば(言い換えると、洗浄処理の開始時には第1のガスの洗浄作用が支配的となり、洗浄処理の終了時には第2のガスの洗浄作用が支配的となりさえすれば)、各々のガスの流量をどのように制御しても構わない。
【0041】
<第5実施形態>
図12は、第5実施形態に係る成膜装置及び基板処理装置の全体的な内部構成を模式的に示した上視図である。この成膜装置1は、概略、チャンバ41、複数の基板2を支持する基板支持部42、第1のガス導入部43、第2のガス導入部44、制御部45、ビーム照射部46、及び、複数のターゲット151、152を有している。なお、前述の実施形態と同一ないし対応する構成部分については、理解の補助のため、同一の符号を付している。
【0042】
本実施形態の基板支持部42は、時計回りに回転可能な円盤状のテーブルであり、その上面に12枚の基板2を垂直な状態(起立した状態)で支持することができる構造である。各基板2は、被処理面を外側に向けて配置される。本実施形態の成膜装置1は、基板支持部42を回転させつつ、加熱〜前処理〜成膜といった一連の処理を施す、いわゆるカルーセル型の構成を有している。この成膜装置1は、たとえば、一辺が約100mm程度の比較的小サイズの基板2の処理に適している。
【0043】
(洗浄処理の制御)
まず、制御部45は、基板支持部42を一定の回転速度(たとえば20rpm)で時計回りに回転させる。回転が安定した段階で、制御部45は、ビーム照射部46からイオンビームを照射し、各基板2の表面を順に走査する。このビーム照射を約3分間行うことで(すなわち、各基板2は約60回ずつビーム走査される)、基板2の表面の洗浄処理が行われる。
【0044】
本実施形態においても、前述の第1実施形態(図6)と同じように前半の洗浄処理を第1のガスの雰囲気下で行い、後半の洗浄処理を第2のガスの雰囲気下で行うか、第2実施形態(図8)と同じように洗浄処理の実施中に第1のガスと第2のガスの流量比率を変化させるとよい。これにより、前述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0045】
<その他>
第1から第5実施形態を例示して本発明の好ましい具体例を説明したが、本発明の範囲はこれらの具体例に限定されることはなく、その技術思想の範囲内で適宜変形することができる。例えば、第1から第5実施形態で述べた構成や制御内容については、技術的な矛盾がない限り、互いに組み合わせてもよい。また、第1のガス、第2のガス、基板の材質などは、第1から第5実施形態で例示したもの以外を用いてもよい。また、上記実施形態ではインライン型とカルーセル型の装置構成を例示したが、基板処理装置や成膜装置の構成はこれらに限らず、どのようなものでも構わない。
【符号の説明】
【0046】
1:成膜装置、2:基板、11:ストッカ室、12:加熱室、13:処理室、13A:前処理エリア、13B:成膜エリア、14:基板処理装置、15:スパッタ装置、41:チャンバ、42:基板支持部、43:第1のガス導入部、44:第2のガス導入部、45:制御部、46,46A,46B:ビーム照射部、47:電圧印加部材、48:高周波電源、121:ヒータ、151,152:ターゲット、410:レール、421:電極、430:第1のガス導入管、431:流量制御装置、432:開閉バルブ、440:第2のガス導入管、441:流量制御装置、442:開閉バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12