特許第6557538号(P6557538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557538化合物半導体基板、半導体装置及び化合物半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557538
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】化合物半導体基板、半導体装置及び化合物半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20190729BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20190729BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20190729BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20190729BHJP
   C30B 29/40 20060101ALI20190729BHJP
   H01L 43/06 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H01L21/66 L
   C23C16/30
   C23C16/455
   C30B29/40 A
   C30B29/40 502E
   H01L43/06 S
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-150899(P2015-150899)
(22)【出願日】2015年7月30日
(65)【公開番号】特開2017-34032(P2017-34032A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】吉川 陽
(72)【発明者】
【氏名】森下 朋浩
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/156123(WO,A1)
【文献】 特開昭63−017293(JP,A)
【文献】 特開平07−249577(JP,A)
【文献】 特開2013−183132(JP,A)
【文献】 特開2010−219314(JP,A)
【文献】 特開2013−168567(JP,A)
【文献】 R.M. Biefeld, J.D. Phillips,Growth of InSb on GaAs using InAlSb buffer layers,Journal of Crystal Growth,2000年,Vol. 209,pp. 567-571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/66
H01L 43/06
C23C 16/30
C23C 16/455
C30B 29/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つで構成される基板と、
前記基板上に形成されたInSb層と、を備え、
前記InSb層は、
第1のInSb層と、
前記第1のInSb層上に形成された第2のInSb層と、を有し、
前記第2のInSb層は、前記第2のInSb層の厚さ方向に向かってIn単原子層とSb単原子層とが交互に繰り返し配置された構造を有し、
前記InSb層の膜厚は49[nm]以上、580[nm]以下であり、
前記InSb層のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMは、下記式(1)で算出される範囲であり、
前記InSb層のVan der Pauw法によるホール測定で算出される電気抵抗の面内異方性は1以上、1.3以下である化合物半導体基板。
370[arcsec]≦FWHM[arcsec]≦−300×ln(t)+1660[arcsec]・・・(1)
(t=InSb層の膜厚[nm])
【請求項2】
前記InSb層のAFM測定から算出される表面二乗粗さが、0.2nm以上、1.5nm以下である請求項1に記載の化合物半導体基板。
【請求項3】
前記基板と前記InSb層との間に、前記基板と前記InSb層との格子不整合を緩和するバッファ層をさらに備える請求項1または請求項に記載の化合物半導体基板。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の化合物半導体基板と、
前記化合物半導体基板に形成された素子と、を備え、
前記InSb層は、前記素子の少なくとも一部として機能する活性層である半導体装置。
【請求項5】
GaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つで構成され、電気抵抗率が1×10Ωcm以上の基板を用意する工程と、
前記基板の温度を260℃以上、360℃以下に保持した状態で、有機金属気相成長法を用いて前記基板上にIn原料とSb原料とを供給して第1のInSb層を成長させる工程と、
前記基板の温度を260℃以上、360℃以下に保持した状態で、有機金属気相成長法を用いて前記第1のInSb層上にIn原料とSb原料とを交互に供給して、厚さ方向に向かってIn単原子層とSb単原子層とが交互に繰り返し配置された構造を有する第2のInSb層を成長させる工程と、を備える化合物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記第2のInSb層を成長させる工程では、
In原料の供給量を3×10−7mol/回以上、1.5×10−5mol/回以下とし、
Sb原料の供給量を3×10−7mol/回以上、6×10−6mol/回以下とする請求項に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記第2のInSb層を成長させる工程では、
In原料の供給時間を1秒/回以上、12秒/回以下とし、
Sb原料の供給時間を1秒/回以上、1.5秒/回以下とする請求項または請求項に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板、半導体装置及び化合物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
InSb薄膜は電子移動度が大きく、ホール素子や磁気センサの材料として適していることが知られている。磁気センサへの応用では高感度、低消費電力かつ低ノイズが必要とされる。言い換えれば、高電子移動度、膜厚が薄いこと、かつ結晶性が良いことが必須となる。これらの電子デバイスにおけるInSb薄膜は電流リークを防ぐために半絶縁基板であるGaAsやInP基板上に形成されていた(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Oh et.al.著、「Journal of Applied Physics」、Volume 66、1989年10月、p.3618−3621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のようにGaAsやInP基板上にInSb薄膜を形成すると、基板とInSb薄膜との間には大きな格子ミスマッチが存在するため、形成したInSb薄膜中にミスフィット転移や結晶欠陥が大量に生成される。これらの転移や欠陥は余剰電子を生成し、電子移動度を著しく低下させる。またこれらの転移や欠陥は結晶配列を乱すため、結晶性を低下させる。
【0005】
一般に、基板と薄膜との格子ミスマッチによる欠陥生成は、基板と薄膜との界面近傍で著しい。InSb薄膜の成長に伴い欠陥密度は減少していくが、欠陥密度が高く電子移動度の低い薄膜下部のInSb層も電気特性に寄与するため、全体としての電子移動度が低下してしまう。InSb薄膜として数ミクロンオーダーの薄膜を形成すれば界面付近の欠陥による影響は微小になるが、デバイス作製においては現実的でないばかりでなく、膜厚増加による抵抗減少、消費電力増加等の問題も生じる。
【0006】
また、InSb薄膜をホール素子や磁気センサなどのデバイスに用いる場合、InSb薄膜の面内の電気的な異方性が大きいと、検知する磁場の方向によってホール電流の大きさが異なってしまう。この問題を解決するためには、ホール素子の形状を変えて面内の異方性を小さくする必要があり、デバイス設計が複雑になる。
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、InSb層の厚さが薄くて移動度が高く、デバイス設計を容易にすることが可能な化合物半導体基板と、この化合物半導体基板を用いた半導体装置、及び、化合物半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の化合物半導体基板及び半導体装置及び化合物半導体基板の製造方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の一態様に係る化合物半導体基板は、基板と、前記基板上に形成されたInSb層と、を備え、前記InSb層の膜厚は10[nm]以上、600[nm]以下であり、前記InSb層のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMは、下記式(1)で算出される範囲であり、前記InSb層のVan der Pauw法によるホール測定で算出される電気抵抗の面内異方性は1以上、1.3以下であることを特徴とする。
【0008】
370[arcsec]≦FWHM[arcsec]≦−300×ln(t)+1660[arcsec]・・・(1)
(t=InSb層の膜厚[nm])
本発明の一態様に係る半導体装置は、上記の化合物半導体基板と、前記化合物半導体基板に形成された素子と、を備え、前記InSb層は、前記素子の少なくとも一部として機能する活性層であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る化合物半導体基板の製造方法は、電気抵抗率が1×10Ωcm以上の基板を用意する工程と、前記基板の温度を260℃以上、360℃以下に保持した状態で、有機金属気相成長法を用いて前記基板上にIn原料とSb原料とを供給して第1のInSb層を成長させる工程と、前記基板の温度を260℃以上、360℃以下に保持した状態で、有機金属気相成長法を用いて前記第1のInSb層上にIn原料とSb原料とを交互に供給して第2のInSb層を成長させる工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、InSb層の厚さが薄くて移動度が高く、デバイス設計を容易にすることが可能な化合物半導体基板と、この化合物半導体基板を用いた半導体装置とを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る化合物半導体基板100の第1の構成例を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る化合物半導体基板100の第2の構成例を示す断面図である。
図3】第2のInSb層12の構成例を示す断面図である。
図4】本実施形態に係る半導体装置200の構成例を示す断面図である。
図5】実施例1〜13及び比較例1〜16における、InSb層の膜厚と結晶性(FWHM)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態と称する)について詳細に説明する。
<化合物半導体基板>
本実施形態に係る化合物半導体基板は、基板と、基板上に形成されたInSb層とを備える。InSb層の膜厚は10[nm]以上、600[nm]以下である。InSb層のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMは、下記式(1)で算出される範囲である。また、InSb層のVan der Pauw法によるホール測定で算出される電気抵抗の面内異方性は1以上1.3以下である。
370[arcsec]≦FWHM[arcsec]≦−300×ln(t)+1660[arcsec]・・・(1)
(t=InSb層の膜厚[nm])
これにより、結晶性が良好で、かつ薄く、面内の電気的な異方性が小さく、高移動度な化合物半導体基板が実現される。
【0013】
また 本実施形態に係る化合物半導体基板は、基板とInSb層の間に、基板とInSb層との格子不整合を緩和するバッファ層をさらに備えてもよい。これにより、基板とInSb層との格子不整合が緩和され、InSb層の結晶性が向上する。
また、本実施形態に係る化合物半導体基板において、InSb層は、第1のInSb層と、第1のInSb層上に形成された第2のInSb層と、を有してもよい。第2のInSb層は、第2のInSb層の厚さ方向に向かってIn単原子層とSb単原子層とが交互に繰り返し配置された構造を有してもよい。これにより、InSb結晶が一層から複数層ずつ成長し、膜厚が薄い場合にも結晶性の優れた第2のInSb層を実現することができる。なお、単原子層とは、原子1個の厚さで形成された層のことを意味する。
【0014】
[基板]
本実施形態に係る化合物半導体基板において、基板としては、InSb層を形成可能なものであれば特に制限されない。InSb層を各種電子デバイスに応用する際の絶縁性を確保する観点から、電気抵抗率が1×10Ωcm以上の基板であることが好ましい。基板は、結晶性が良好なInSb層を形成する観点から、InSbと同じ結晶対称性を有する基板であることが好ましく、さらに安価かつ大型の基板が入手しやすいことからGaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つで構成される基板であることが好ましい。
【0015】
[InSb層]
本実施形態に係る化合物半導体基板において、InSb層は、膜厚が10nm以上、600nm以下である。このInSb層のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMは、下記式(1)で算出される範囲である。また、このInSb層のVan der Pauw法によるホール測定で算出される電気抵抗の面内異方性は、1以上1.3以下である。
370≦FWHM[arcsec]≦−300×ln(t)+1660[arcsec]・・・(1)
(t=InSb層の膜厚[nm])
【0016】
(半値幅FWHMの定義)
ここでいう半値幅FWHMとは、化合物半導体基板上のInSb層の主面に対し、X線回折によるωスキャンロッキングカーブを測定したとき、ピークトップ(すなわち、測定された回折強度のピーク値)から回折強度が半分になる角度幅のことである。
【0017】
(面内異方性の定義)
ここでいう面内異方性とは、Van der Pauw法によってInSbを電気測定したときに得られる値である。ある一定の電流を基板に対して基板平面上のある方向(X方向)と基板平面内でそれに垂直な方向(Y方向)とにそれぞれ印加し、それぞれの方向で電圧を測定する。そのようにして得られた電圧のうち、絶対値の大きい方の電圧を分子、絶対値の小さな方の電圧を分母としたときに、その両者の比を面内異方性と定義している。つまり面内異方性は、ここでは1以上の値として定義されている。
【0018】
すなわち、V1は、X方向に一定電流を印加したときにX方向で得られる電圧値、また、V2は、Y方向に一定電流を印加したときにY方向で得られる電圧値としたときに、V1とV2の比が面内異方性となる。V1、V2の絶対値の大きい方を分子とするため、面内異方性は1以上の値となる。
また本実施形態に係る化合物半導体基板において、InSb層は、原子間力顕微鏡(AFM)による測定(以下、AMF測定)から算出される表面二乗粗さが、0.2nm以上、1.5nm以下であってもよい。InSb層の表面二乗粗さが上述した範囲にあることで、光デバイスへの応用適合性が高まる。
【0019】
(表面二乗粗さの定義)
ここでいう表面二乗粗さとは、原子間力顕微鏡(AFM)測定における表面観察から算出される値である。表面二乗粗さは、二乗平均粗さ(Rms)と同じ意味である。ここでAFM測定は、基板内の5μm×5μmのエリアで測定を行う。
また本実施形態の化合物半導体基板において、InSb層は、当該化合物半導体基板に形成される素子の少なくとも一部として機能する活性層であってもよい。結晶性の優れたInSb層を活性層として用いることで、高特性の半導体装置を得ることが可能となる。
【0020】
ここで、後述のバッファ層としてInSbを用いる場合は、バッファ層のInSbも含め、InSb層として定義する。またバッファ層としてInSb以外の材料を用いる場合には、その上に形成されるInSbのみをInSb層として定義する。InSb層の膜厚としては、10nm以上、600nm以下であれば本実施形態の効果を奏するが、膜厚の下限としては、InSb層の表面二乗粗さを改善する観点から、58nm以上の範囲が好ましく、111nm以上の範囲がより好ましく、116nm以上の範囲がさらに好ましい。
【0021】
InSb層の表面二乗粗さが小さい程、InSb層上にさらに化合物半導体層を形成する際に、優れた膜特性の化合物半導体層を形成することができるため好ましい。膜厚の上限としては、同じ膜厚で比較した際に、従来技術によって形成されるInSb層と比べて結晶性及び異方性がより改善するという観点から、580nm以下の範囲が好ましく、380nm以下の範囲がより好ましく、290nm以下の範囲がさらに好ましい。
【0022】
[バッファ層]
本実施形態に係る化合物半導体基板において、バッファ層は、格子不整合を緩和する観点から、InSbであることが好ましい。バッファ層の膜厚に特に制限はないが、全体の膜厚を薄く保つという観点からは、5nm以上、30nm以下であることが好ましい。
[応用]
InSb化合物半導体層上にさらに複数の化合物半導体、保護膜または電極を形成することも可能である。この場合、化合物半導体として物質は特に制限されない。またドーピングに関しても特に制限はされない。
【0023】
[断面構造の具体例]
次に、本実施形態に係る化合物半導体基板の断面構造の具体例を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、各図は模式的なものであり、各層の厚さは現実のものとは異なり、各層の厚さの比率も現実のものとは異なる場合がある。具体的な厚さと寸法は、本実施形態や実施例の説明を参酌して判断すべきものである。
【0024】
図1は、本実施形態に係る化合物半導体基板100の第1の構成例を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る化合物半導体基板は、基板1と、基板1上に形成されたInSb層10とを備える。また、InSb層10は、第1のInSb層11と、第1のInSb層11上に形成された第2のInSb層12とを備える。InSb層10の膜厚は10[nm]以上、600[nm]以下である。InSb層10のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMは、上述の式(1)で算出される範囲である。また、InSb層10のVan der Pauw法によるホール測定で算出される電気抵抗の面内異方性は1以上1.3以下である。
【0025】
図2は、本実施形態に係る化合物半導体基板100の第2の構成例を示す断面図である。図2に示すように、本実施形態に係る化合物半導体基板は、基板1とInSb層10との間に、基板1とInSb層10との格子不整合を緩和するバッファ層5を備えている。
図3は、第2のInSb層12の構成例を示す断面図である。図3に示すように、第2のInSb層12は、例えば、In単原子層12aとSb単原子層12bとが交互に繰り返し成長した構造を有する。
【0026】
<化合物半導体基板の製造方法>
次に、本実施形態の化合物半導体層の製造方法について説明する。
本実施形態に係る化合物半導体基板の製造方法は、電気抵抗率が1×10Ωcm以上の基板を用意する工程と、基板の温度を260℃以上、360℃以下に保持した状態で、有機金属気相成長法を用いて基板上にIn原料とSb原料とを供給して第1のInSb層を成長させる工程と、基板の温度を260℃以上、360℃以下に保持した状態で、有機金属気相成長法を用いて第1のInSb層上にIn原料とSb原料とを交互に供給して第2のInSb層を成長させる工程と、を備える。
【0027】
また、第2のInSb層を成長させる工程では、In原料の供給量を3×10−7mol/回以上、1.5×10−5mol/回以下とし、Sb原料の供給量を3×10−7mol/回以上、6×10−6mol/回以下としてもよい。
また、第2のInSb層を成長させる工程では、In原料の供給時間を1秒/回以上、12秒/回以下とし、Sb原料の供給時間を1秒/回以上、1.5秒/回以下としてもよい。
【0028】
また、基板はGaAs、Si、InAsまたはGaSbのいずれか一つであってもよい。以下でより詳細に説明する。
有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いて、電気抵抗率が1×10Ωcm以上の基板の温度(以下、基板温度)を260℃以上、360℃以下に保持した状態で、この基板上にIn原料とSb原料とを供給して第1のInSb層を成長させる。ここで基板温度とは、パイロメーターによって測定した化合物半導体基板表面の温度である。
【0029】
第1のInSb層の成膜に用いる原料は特に制限されないが、InSbの原料として、トリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)などを用いることが可能である。トリメチルインジウム(TMIn)はIn原料の一例であり、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)はSb原料の一例である。原料キャリアガスに特に制限はないが、不純物を含まない観点から純度が保障された水素または窒素を用いることが好ましい。
【0030】
次に、第1のInSb層が形成された基板をMOCVD装置内にそのまま保持し、かつ、基板温度を260℃以上360℃以下に保持した状態で、第1のInSb層上にIn原料とSb原料を交互に供給し、第2のInSb層を成長させる。第2のInSb層を成長させる際に、In原料とSb原料とを交互に供給することで、第1のInSb層上にIn原子とSb原子とを交互に、単原子層ずつ成長させることが可能となる。すなわち、In単原子層とSb単原子層とを一層ずつ交互に、厚さ方向に成長させることができる。この交互の成長を繰り返すことにより、InSb結晶を一層ずつ成長させることができ、膜厚が薄い場合にも結晶性の優れたInSb層の化合物半導体層を得ることができる。
【0031】
第1のInSb層と同様、第2のInSb層の成膜に用いる原料は特に制限されないが、InSbの原料として、トリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)などを用いることが可能である。トリメチルインジウム(TMIn)はIn原料の一例であり、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)はSb原料の一例である。原料キャリアガスに特に制限はないが、不純物を含まない観点から純度が保障された水素または窒素を用いることが好ましい。
【0032】
また、第2のInSb層を成長させる際に、In原料の供給量は3×10−7mol/回以上、1.5×10−5mol/回以下であり、Sb原料の供給量は3×10−7mol/回以上、6×10−6mol/回以下であってもよい。また、In原料とSb原料とを交互に供給する際に、その切り替え時には数秒間〜数十秒間程度のインターバルをとってもよい。インターバルの期間を設けることで、配管中の原料ガスが完全にパージされ、InおよびSbの独立供給が可能となる。それにより高品質なInSbの成膜が可能となる。
【0033】
(供給量の限定による効果)
In原料およびSb原料の各供給量を3×10−7mol/回より小さくすると、マスフローコントローラー(MFC)による供給量の制御が困難になる。また、In原料及びSb原料の各供給量をそれぞれ1.5×10−5mol/回および6×10−6mol/回より大きくすると、InおよびSbのドロップレットが発生し、白濁膜となり、結晶性および表面粗さが悪化する。第2のInSb層を成長させる際に、In原料の供給時間は1秒/回以上、12秒/回以下、Sb原料の供給時間は1秒/回以上、1.5秒/回以下であってもよい。
【0034】
(供給時間の限定による効果)
In原料およびSb原料の供給時間を1秒より小さくすると、エアバルブの開閉制御が困難になる。またInまたはSbの供給時間をそれぞれ12秒または1.5秒より大きくするとInおよびSbのドロップレットが発生し、白濁膜となり、結晶性および表面粗さが悪化する。
【0035】
<半導体装置>
また、本実施形態に係る化合物半導体基板を用いて半導体装置を作製してもよく、その場合は、化合物半導体基板のInSb層を活性層としてもよい。InSb層を活性層とする半導体装置の具体例としては、磁気センサやホール素子や赤外線センサ素子等が挙げられる。いずれも公知の方法を用いて作製することが可能である。結晶性が良好で、かつ薄く、面内の電気的な異方性が小さく、高移動度な化合物半導体基板を用いているため、高特性の半導体装置を得ることが可能である。
【0036】
[断面構造の具体例]
図4は、本実施形態に係る半導体装置200の構成例を示す断面図である。
図4に示すように、この半導体装置200は、化合物半導体基板100と、この化合物半導体基板100に形成された素子150とを備える。素子150は、例えばホール素子であり、その上面側に複数の電極151を有する。化合物半導体基板100が有するInSb層10は、この素子150の少なくとも一部として機能する活性層(例えば、感磁層)である。
【0037】
<実施形態の効果>
本実施形態によれば、InSb層10は厚さが薄いため、InSb層10の電気抵抗を低くすることができ、低消費電力化が可能である。また、InSb層10は、結晶性が良好であるため移動度が高い。さらに、InSb層10は電気的な異方性が小さいため、InSb層10の少なくとも一部が活性層として機能する素子の形状を変えて、面内の異方性を小さくする必要がない。このため、デバイス設計が容易である。
【0038】
このように、本実施形態によれば、InSb層の厚さが薄くて移動度が高く、デバイス設計を容易にすることが可能な化合物半導体基板100と、この化合物半導体基板100を用いた半導体装置200とを実現することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例と、比較例とについてそれぞれ説明する。
[実施例1]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を340℃に保ちながらInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、第1のInSb層を形成した。TMInはIn原料であり、TDMASbはSb原料である。この第1のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。この第1のInSb層の膜厚は、蛍光X線分析装置(XRF)による測定(以下、XRF測定)によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から20nmであった。
【0040】
この第1のInSb層上に、表面温度を360℃に保ちながら、InSbの原料としてTMIn、TDMASbを用いて、InとSbとを交互に供給し、第2のInSb層を形成した。この第2のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。TMInの供給量は2.43×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は3秒とした、またTDMASbの供給量は2.95×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。TMInとTDMASbとをそれぞれ1回ずつ供給することを、交互供給の1サイクルとしたとき、実施例1ではこの交互供給を180サイクル行った。TMInの供給とTDMASbの供給との切り替え時には、1秒間のインターバルをとった。このようにして形成された化合物半導体層のXRF測定を行い、FP法から算出したInSb層全体の膜厚は55nmであった。
【0041】
[実施例2]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、交互供給回数を215回にした以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は49nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、2350cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.3の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、520arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.8nmであった。
【0042】
[実施例3]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、TMInの供給量は0.40×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は10秒とした、またTDMASbの供給量は0.40×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を1160サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は58nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、2100cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.3の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、570arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.8nmであった。
【0043】
[実施例4]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、TMInの供給量は4.05×10−6mol/回、供給時間は5秒とした、またTDMASbの供給量は2.95×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を445サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は138nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、6300cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.2の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、495arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.6nmであった。
【0044】
[実施例5]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、TMInの供給量は11.60×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は10秒とした、またTDMASbの供給量は5.68×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を392サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は290nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、17000cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.2の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、530arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.5nmであった。
【0045】
[実施例6]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、交互供給回数を500回にした以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は116nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、5100cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.3の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、510arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.6nmであった。
【0046】
[実施例7]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、交互供給回数を1650回にした以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は380nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、26500cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.1の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、490arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.4nmであった。
【0047】
[実施例8]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、交互供給回数を2520回にした以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は580nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、36000cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.0の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、420arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.4nmであった。
【0048】
[実施例9]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を300℃にし、交互供給回数を490回にした以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は98nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、3700cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.2の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、530arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.8nmであった。
【0049】
[実施例10]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を300℃にし、TMInの供給量は0.81×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした、またTDMASbの供給量は0.82×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を930サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は56nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、2200cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.2の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、570arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが1.0nmであった。
【0050】
[実施例11]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を300℃にし、TMInの供給量は11.60×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は10秒とした、またTDMASbの供給量は5.68×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を220サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は77nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、2400cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.2の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、495arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.8nmであった。
【0051】
[実施例12]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を300℃にし、TMInの供給量は8.10×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は10秒とした、またTDMASbの供給量は4.16×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を382サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は111nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、3700cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.1の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、550arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.7nmであった。
【0052】
[実施例13]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を260℃にし、交互供給回数を1080回にした以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定から、InSb層全体の膜厚は54nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、2400cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.1の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、500arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.8nmであった。
【0053】
[比較例1]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を340℃に保ちながらInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が20nmであった。
【0054】
この第1のInSb層上に、表面温度を400℃に保ちながら、InSbの原料としてTMIn、TDMASbを用いて、InとSbとを交互に供給し、第2のInSb層を形成した。この第2のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。TMInの供給量は2.43×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は3秒とした、またTDMASbの供給量は2.95×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を166サイクル行った。InとSbの切り替え時には1秒間のインターバルをとった。このようにして形成された化合物半導体層のXRF測定を行い、FP法から算出したInSb層全体の膜厚は70nmであった。
試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、1330cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.3の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、850arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが3.4nmであった。
【0055】
[比較例2]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を240℃にし、交互供給回数を1200回にした以外は比較例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。XRF測定を実施したが、InSbの膜厚は測定できず、膜が成長しなかった。
[比較例3]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、TMInの供給量は7.41×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は40秒とした、またTDMASbの供給量は2.95×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を150サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。このようにして形成された試料は完全に白濁しており、各種測定の実施が困難であった。AFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが20.5nmであった。
【0056】
[比較例4]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、TMInの供給量は11.6×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は10秒とした、またTDMASbの供給量は2.95×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は2秒とした。この交互供給を180サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。このようにして形成された試料は完全に白濁しており、各種測定の実施が困難であった。AFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが50.4nmであった。
【0057】
[比較例5]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、TMInの供給量は13.00×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は3秒とした、またTDMASbの供給量は2.95×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を230サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。このようにして形成された試料は完全に白濁しており、各種測定の実施が困難であった。AFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが34.3nmであった。
【0058】
[比較例6]
第2のInSb層を形成する際に表面温度を340℃にし、TMInの供給量は2.43×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は10秒とした、またTDMASbの供給量は9.00×10−6mol/回、1回あたりの供給時間は1秒とした。この交互供給を215サイクル行った以外は実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を作製した。このようにして形成された試料は完全に白濁しており、各種測定の実施が困難であった。AFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが44.1nmであった。
【0059】
[比較例7]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を340℃に保ちながらInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が125nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、8400cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.2の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、940arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが8.5nmであった。
【0060】
[比較例8]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を340℃に保ちながらInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が232nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、11600cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.3の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、730arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが6.9nmであった。
【0061】
[比較例9]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を340℃に保ちながらInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が318nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、18500cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.3の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ640arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが6.5nmであった。
【0062】
[比較例10]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を340℃に保ちながらInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が20nmであった。
【0063】
この第1のInSb層上に、表面温度を500℃に保ちながら、InSbの原料として、TMIn、TDMASbを用いて第2のInSb層を形成した。この第2のInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。このようにして形成された化合物半導体層のXRF測定を行い、FP法から算出したInSb層全体の膜厚は121nmであった。試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、5000cm/Vsの電子移動度、V1/V2=2.0の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ、410arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.4nmであった。
【0064】
[比較例11]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を350℃に保ちながら第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MBE装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が34nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、1200cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.2の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ1500arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.6nmであった。
【0065】
[比較例12]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を350℃に保ちながら第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MBE装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が58nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、2100cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.1の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ1300arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.5nmであった。
【0066】
[比較例13]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を350℃に保ちながら第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MBE装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が115nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、4700cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.1の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ1040arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.6nmであった。
【0067】
[比較例14]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を350℃に保ちながら第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MBE装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が234nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、12350cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.0の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ840arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.6nmであった。
【0068】
[比較例15]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を350℃に保ちながら第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MBE装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が466nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、29600cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.0の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ590arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.6nmであった。
【0069】
[比較例16]
4インチの半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、表面温度を350℃に保ちながら第1のInSb層を形成した。この第1のInSb層の形成には、MBE装置を用いた。この第1のInSb層は、XRF測定によるファンダメンタルパラメーター法(FP法)から膜厚が702nmであった。このようにして形成された試料に対してVan der Pauw法によるホール測定を行った結果、41150cm/Vsの電子移動度、V1/V2=1.0の面内異方性が得られた。同様にX線回折測定を行い、結晶性を算出したところ440arcsecが得られた。またAFMによる表面測定を行った結果、表面二乗粗さが0.6nmであった。
【0070】
[結果]
表1に、実施例1〜13におけるInSb膜の成膜条件と、測定された物性値を示す。
【表1】
【0071】
表2に、比較例1〜16におけるInSb膜の成膜条件と、測定された物性値を示す。なお、表2の比較例7〜16における空欄は、InSb層の成膜条件が比較例1と異なることにより、該当する数値がないことを意味する。
【表2】
【0072】
図5は、実施例1〜13及び比較例1〜16における、InSb層の膜厚と結晶性(FWHM)との関係を示す図である。図5の横軸は、InSb層の膜厚を示し、縦軸は結晶性(FWHM)を示す。ここで、InSb層の膜厚とは、InSb層として第1のInSb層と第2のInSb層とを形成した場合はその総厚を意味し、InSb層として第1のInSb層を形成しかつ第2のInSb層を形成しなかった場合(すなわち、単膜の場合)は、第1のInSb層の厚さを意味する。
図5からわかるように、実施例1〜13におけるInSb層の膜厚と結晶性(FWHM)との関係は、上述の式(1)を満たしている。
【0073】
<その他の実施形態>
本発明は、以上に記載した実施形態と実施例に限定されるものではない。当業者の知識に基づいて実施形態と実施例に設計の変更等を加えることが可能であり、そのような変更等を加えた態様も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 基板
5 バッファ層
10 InSb層
11 第1のInSb層
12 第2のInSb層
12a In単原子層
12b Sb単原子層
100 化合物半導体基板
150 素子
151 電極
200 半導体装置
図1
図2
図3
図4
図5