特許第6557575号(P6557575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557575
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】エッチング液組成物及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20190729BHJP
   C23F 1/18 20060101ALI20190729BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01L21/308 F
   C23F1/18
   H01L21/306 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-209028(P2015-209028)
(22)【出願日】2015年10月23日
(65)【公開番号】特開2017-84873(P2017-84873A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】正元 祐次
(72)【発明者】
【氏名】齋尾 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】青木 珠美
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−079284(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/136624(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/030714(WO,A1)
【文献】 特開2013−089731(JP,A)
【文献】 特表2010−537231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00−4/04
H01L 21/304−21/3063
H01L 21/308
H01L 21/465−21/467
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅系層を含む被膜のエッチングに用いられるエッチング液組成物であって、
(A)第二鉄イオン及び第二銅イオンから選ばれる少なくとも1種の酸化剤0.1〜30質量%;
(B)塩化水素0.1〜20質量%;及び
(C)1,3−ジヒドロキシベンゼン0.01〜25質量%
を含む水溶液からなることを特徴とするエッチング液組成物。
【請求項2】
前記被膜が、少なくとも1種の酸化インジウム系層と少なくとも1種の銅系層とを含む積層被膜であることを特徴とする請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記エッチングが一括エッチングであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
(A)第二鉄イオン及び第二銅イオンから選ばれる少なくとも1種の酸化剤0.1〜30質量%;
(B)塩化水素0.1〜20質量%;及び
(C)1,3−ジヒドロキシベンゼン0.01〜25質量%
を含む水溶液からなるエッチング液組成物を用いて、基体上に形成された銅系層を含む被膜をエッチングすることを特徴とするエッチング方法。
【請求項5】
前記被膜が、少なくとも1種の酸化インジウム系層と少なくとも1種の銅系層とを含む積層被膜であることを特徴とする請求項4に記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記エッチングが一括エッチングであることを特徴とする請求項4又は5に記載のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液組成物及びエッチング方法に関する。詳細には、本発明は、銅系層を含む被膜のエッチングに用いられるエッチング液組成物及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅配線パターンなどを形成する際に銅系層を含む被膜をウエットエッチングする技術や、透明電極パターンなどを形成する際に酸化インジウム系層を含む被膜をウエットエッチングする技術が種々知られている。これらの技術において、安価でエッチング速度が良好であることから、塩酸を含む水溶液がエッチング液組成物として多く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、銅配線パターンの形成に用いられるエッチング液組成物として、第二銅イオン源と、塩酸(塩化水素)と、環内にある異原子として窒素原子のみを有するアゾールと、フェノール類及び芳香族アミン類から選択される少なくとも1種の芳香族化合物とを含む水溶液からなるエッチング液組成物が開示されている。また、特許文献2には、インジウム−スズ酸化物(以下、「ITO」と略す場合もある)などからなる透明電極パターンの形成に用いられるエッチング液組成物として、塩化第二鉄と塩酸とを含む水溶液からなるエッチング液組成物が開示されている。
【0004】
他方、塩酸を使用しないエッチング液組成物として、例えば、特許文献3には、第二銅イオンと、有機酸と、ハロゲンイオンと、アゾールと、ポリアルキレングリコールとを含む水溶液からなるエッチング液組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−79284号公報
【特許文献2】特開2009−231427号公報
【特許文献3】特開2006−111953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記に開示されたエッチング液組成物は、安定性が低く、短時間放置しておくだけで沈殿物が発生してしまうため、エッチングに使用することができないことがある。また、上記に開示されたエッチング液組成物は、エッチングの対象となる被膜(以下、「被エッチング被膜」と略す場合がある。)の種類によっては、所望の寸法精度を有する配線パターンが得られないことがある。例えば、銅系層を含む被膜をエッチングする場合、被膜に形成したレジストパターンの幅と、エッチングによって得られる配線パターンの幅とに大きな差が生じてしまい、所望の幅を有する配線パターンを形成することができないという問題があった。この問題は、特に、酸化インジウム系層と銅系層とを含む積層被膜をエッチングする場合に顕著に現れる。なお、本明細書において「配線パターンの幅」とは、配線パターンのトップ部の幅のことを意味する。
【0007】
したがって、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、安定性が高く、沈殿物が発生し難いと共に、所望の寸法精度を有する配線パターンを形成することが可能なエッチング液組成物及びエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、(A)第二鉄イオン及び第二銅イオンから選ばれる少なくとも1種の酸化剤と、(B)塩化水素と、(C)1,3−ジヒドロキシベンゼンとを所定の割合で含む水溶液が、銅系層を含む被膜のエッチングに用いられるエッチング液組成物として適した特性を有しており、上記の問題を全て解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、銅系層を含む被膜のエッチングに用いられるエッチング液組成物であって、(A)第二鉄イオン及び第二銅イオンから選ばれる少なくとも1種の酸化剤0.1〜30質量%;(B)塩化水素0.1〜20質量%;及び(C)1,3−ジヒドロキシベンゼン0.01〜25質量%を含む水溶液からなることを特徴とするエッチング液組成物である。
また、本発明は、(A)第二鉄イオン及び第二銅イオンから選ばれる少なくとも1種の酸化剤0.1〜30質量%;(B)塩化水素0.1〜20質量%;及び(C)1,3−ジヒドロキシベンゼン0.01〜25質量%を含む水溶液からなるエッチング液組成物を用いて、基体上に形成された銅系層を含む被膜をエッチングすることを特徴とするエッチング方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定性が高く、沈殿物が発生し難いと共に、所望の寸法精度を有する配線パターンを形成することが可能なエッチング液組成物及びエッチング方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のエッチング液組成物及びエッチング方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明のエッチング液組成物は、(A)第二鉄イオン及び第二銅イオンから選ばれる少なくとも1種の酸化剤と、(B)塩化水素と、(C)1,3−ジヒドロキシベンゼンとを含む水溶液からなる。
【0012】
本発明のエッチング液組成物に用いられる(A)第二鉄イオン及び第二銅イオンから選ばれる少なくとも1種の酸化剤(以下、(A)成分と略す場合がある。)は、銅系層を含む被膜を酸化してエッチングを行う機能を与える成分である。(A)成分は、第二鉄イオン及び第二銅イオンをそれぞれ単独で、又はそれらを混合して使用することができる。
第二鉄イオン及び第二銅イオンは、鉄(III)化合物及び銅(II)化合物をそれぞれ供給源として配合することにより、エッチング液組成物に含有させることができる。
鉄(III)化合物としては、特に限定されないが、例えば、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、及び酢酸鉄(III)などを用いることができる。また、銅(II)化合物としては、特に限定されないが、例えば、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、及び水酸化銅(II)などを用いることができる。これらの化合物は、単独又は二種以上を混合して使用することができる。また、上記の例示した化合物の中でも、コスト、エッチング液組成物の安定性、及びエッチング速度の制御性の観点から、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、塩化銅(II)及び硫酸銅(II)が好ましく、塩化鉄(III)及び塩化銅(II)がより好ましい。
【0013】
本発明のエッチング液組成物における(A)成分の濃度は、被エッチング被膜の厚さや幅などによって適宜調節されるが、イオン換算で0.1質量%〜30質量%、好ましくは0.3質量%〜28質量%、より好ましくは0.5質量%〜25質量%である。ここで、本明細書において「イオン換算」とは、第二鉄イオン又は第二銅イオンを単独で使用する場合には、第二鉄イオン換算又は第二銅イオン換算を意味し、第二鉄イオン及び第二銅イオンを混合して使用する場合には、第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方のイオン換算を意味する。(A)成分の濃度が0.1質量%よりも少ないと、充分なエッチング速度が得られない。一方、(A)成分の濃度が30質量%より多い場合には、エッチング液組成物において(C)1,3−ジヒドロキシベンゼンが不溶化する場合がある。
【0014】
本発明のエッチング液組成物に用いられる(B)塩化水素(以下、(B)成分と略す場合がある。)は、酸化された被膜を溶解する機能、エッチング液組成物中で酸化剤(例えば、(A)成分)を安定化させる機能、エッチング速度を向上させる機能などを与える成分である。
本発明のエッチング液組成物における(B)成分の濃度は、被エッチング被膜の厚さや幅などによって適宜調節されるが、0.1質量%〜20質量%、好ましくは0.3質量%〜18質量%、より好ましくは0.5質量%〜15質量%である。(B)成分の濃度が0.1質量%よりも少ないと、充分なエッチング速度が得られない。一方、(B)成分の濃度を20質量%より多くしても、エッチング速度の向上は図られず、却って装置部材が腐食するなどの不具合を生じる場合がある。
【0015】
本発明のエッチング液組成物に用いられる(C)1,3−ジヒドロキシベンゼン(以下、(C)成分と略す場合がある。)は、エッチング液組成物の安定性を高め、沈殿物の発生を防止する機能、エッチング性能を向上させる機能などを与える成分である。
本発明のエッチング液組成物における(C)成分の濃度は、被エッチング被膜の厚さや幅などによって適宜調節されるが、0.01質量%〜25質量%、好ましくは0.01質量%〜23質量%、より好ましくは0.01質量%〜20質量%である。(C)成分の濃度が0.01質量%よりも少ないと、上記の機能が十分に発現しない。一方、(C)成分の濃度を25質量%より多くしても、上記の機能が向上するわけではなく、(C)成分の使用量の増加に伴ってコストアップにつながる。
【0016】
本発明のエッチング液組成物は、上記の(A)〜(C)成分を含む水溶液である。したがって、本発明のエッチング液組成物は、上記の(A)〜(C)成分に加えて水を含む。
本発明のエッチング液組成物に用いられる水としては、特に限定されないが、イオン交換水、純水及び超純水などのイオン性物質や不純物を除去した水が好ましい。
【0017】
本発明のエッチング液組成物は、(A)〜(C)成分から成る水溶液であってもよいが、(A)〜(C)成分から本質的に成る水溶液であってもよい。すなわち、本発明のエッチング液組成物には、本発明の効果を阻害することのない範囲で、上記の成分以外に当該技術分野で使用される周知の添加剤を配合してもよい。
本発明のエッチング液組成物に用いられる添加剤としては、特に限定されないが、例えば、エッチング液組成物の安定化剤、各成分の可溶化剤、消泡剤、pH調整剤、比重調整剤、粘度調整剤、濡れ性改善剤、キレート剤、酸化剤、還元剤、界面活性剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの添加剤を使用する場合、本発明のエッチング液組成物における添加剤の濃度は、一般的に0.001質量%〜50質量%の範囲である。
【0018】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、テトラエチレンペンタミン七酢酸、ペンタエチレンヘキサミン八酢酸、ニトリロ三酢酸及びそれらのアルカリ金属(好ましくはナトリウム)塩に代表されるアミノカルボン酸系キレート剤;ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸及びそれらのアルカリ金属(好ましくはナトリウム)塩に代表されるホスホン酸系キレート剤;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸及びそれらの無水物やアルカリ金属(好ましくはナトリウム)塩に代表される2価以上のカルボン酸化合物若しくは2価以上のカルボン酸化合物が脱水してなる一無水物又は二無水物などが挙げられる。キレート剤を使用する場合、本発明のエッチング液組成物におけるキレート剤の濃度は、一般的に0.01質量%〜40質量%の範囲である。
【0019】
還元剤は、本発明のエッチング液組成物のエッチング速度が速い場合に用いられる。還元剤としては、例えば、塩化銅、塩化第一鉄、銅粉、銀粉などが挙げられる。還元剤を使用する場合、本発明のエッチング液組成物における還元剤の濃度は、一般的に0.01質量%〜10質量%の範囲である。
【0020】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性活性剤及び両性界面活性剤を用いることができる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい。)、ポリエチレングリコールプロピレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、アルキレンジアミンのエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム又はブロック付加物、グリセリン脂肪酸エステル又はそのエチレンオキサイド付加物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸モノエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸−N−メチルモノエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸ジエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキル(ポリ)グリセリンエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、N−長鎖アルキルジメチルアミンオキサイドなどが挙げられる。これらの中でも、アルキレンジアミンのエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム又はブロック付加物は、得られる配線パターンの直線性が良好であり、且つ本発明のエッチング液組成物の保存安定性が良好であることから好ましい。特に、アルキレンジアミンのエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム又はブロック付加物の中でもリバース型であるものは、低起泡性であることからさらに好ましい。
【0021】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル(アルケニル)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(アルケニル)ジメチルアンモニウム塩、アルキル(アルケニル)四級アンモニウム塩、エーテル基、エステル基又はアミド基を含有するモノ又はジアルキル(アルケニル)四級アンモニウム塩、アルキル(アルケニル)ピリジニウム塩、アルキル(アルケニル)ジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキル(アルケニル)イソキノリニウム塩、ジアルキル(アルケニル)モルホニウム塩、ポリオキシエチレンアルキル(アルケニル)アミン、アルキル(アルケニル)アミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン、アミドアミノ酸、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤などが挙げられる。
上記の界面活性剤を使用する場合、本発明のエッチング液組成物における界面活性剤の濃度は、一般的に0.001質量%〜10質量%の範囲である。
【0022】
本発明のエッチング液組成物は、上記の各成分を混合することにより調製することができる。混合方法は特に限定されず、周知の混合装置を用いて混合すればよい。
上記のような成分を含む本発明のエッチング液組成物は、安定性が高く、沈殿物が発生し難いため、エッチングを継続的に安定して行うことができる。
【0023】
本発明のエッチング液組成物は、銅系層を含む被膜のエッチングに用いられる。銅系層を含む被膜のエッチングでは、従来のエッチング液組成物を用いた場合、被膜に形成したレジストパターンの幅と、エッチングによって得られる配線パターンの幅とに大きな差が生じてしまい、所望の幅を有する配線パターンを形成することが難しいという問題があったのに対し、本発明のエッチング液組成物を用いることにより、この問題を解決することができる。すなわち、本発明のエッチング液組成物は、所望の寸法精度を有する配線パターンを形成することができる。このような本発明のエッチング液組成物による効果は、エッチングの対象が、少なくとも1種の酸化インジウム系層と少なくとも1種の銅系層とを含む積層被膜である場合に特に大きい。
【0024】
ここで、本明細書において「銅系層」とは、銅を含む層のことを意味する。例えば、銅を10質量%〜100質量%含む層を銅系層として用いることができる。銅系層の例としては、金属銅(Cu)や、銅ニッケルチタン合金(CuNiTi)、銅ニッケル合金(CuNi)などの銅合金から選ばれる少なくとも1種からなる層が挙げられる。
また、本明細書において「酸化インジウム系層」とは、酸化インジウムを含む層のことを意味する。例えば、酸化インジウムを10質量%〜100質量%含む層を酸化インジウム系層として用いることができる。酸化インジウム系層の例としては、酸化インジウム(In)、インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)などから選ばれる少なくとも1種からなる層が挙げられる。
【0025】
積層被膜において、酸化インジウム系層及び銅系層の数は、特に限定されず、それぞれ1層であっても2層以上であってもよい。また、酸化インジウム系層及び銅系層の積層順序も特に限定されず、酸化インジウム系層(上層)/銅系層(下層)であっても銅系層(上層)/酸化インジウム系層(下層)であってもよい。さらに、酸化インジウム系層と銅系層とが交互に積層されたもの(例えば、酸化インジウム系層/銅系層/酸化インジウム系層、銅系層/酸化インジウム系層/銅系層、酸化インジウム系層/銅系層/酸化インジウム系層/銅系層、銅系層/酸化インジウム系層/銅系層/酸化インジウム系層など)であってもよい。
なお、積層被膜は、本発明の効果を阻害しない限り、酸化インジウム系層及び銅系層以外の層も含み得るが、少なくとも1種の酸化インジウム系層と少なくとも1種の銅系層とからのみ構成されることが好ましい。
【0026】
エッチングの対象である被膜は、一般に基体上に形成されている。基体としては、特に限定されず、当該技術分野で一般に用いられている材料から形成されたものを用いることができる。基体の材質の例としては、ガラス、シリコン、PP、PE、PETなどが挙げられる。
【0027】
本発明のエッチング液組成物は、基体上に形成された被膜をエッチングすることにより、様々な細線からなる配線パターンを形成することができる。特に、本発明のエッチング液組成物は、積層被膜をエッチングする場合に一括エッチングが可能である。そのため、積層被膜を構成する層ごとにエッチング液組成物の種類を変えてエッチングを行う選択エッチングを行う必要がなく、エッチング処理の工程を簡素化することができる。
【0028】
エッチングを行う際、配線パターンに対応するレジストパターンを被膜上に形成し、エッチング後にレジストパターンを剥離させることにより、配線パターンを形成することができる。レジストの種類は、特に限定されず、ドライフィルムレジストなどのフォトレジストを用いることができる。
【0029】
本発明のエッチング液組成物を用いたエッチング処理は、周知一般の方法により行うことができる。また、エッチング方法としては、特に限定されず、ディップ式、スプレー式、スピン式などの方法を用いることができる。
例えば、ディップ式のエッチング方法によって、PET基体上に形成されたCuNi層/Cu層/ITO層の積層被膜をエッチングする場合、積層被膜が形成された基材を本発明のエッチング液組成物に所定の時間浸漬することにより、PET基板上のCuNi層/Cu層/ITO層を一括エッチングすることができる。
【0030】
エッチング条件については、特に限定されず、エッチングの対象である被膜の種類、形状及び厚さなどに応じて適宜設定すればよい。
例えば、エッチング温度は、10℃〜60℃が好ましく、30℃〜50℃が特に好ましい。エッチング液組成物の温度は、反応熱により上昇することがあるので、必要なら上記温度範囲内に維持することができるように公知の手段によって温度制御を行ってもよい。
また、エッチング時間は、被膜のエッチング対象部分を完全にエッチングするのに十分な時間であれば特に限定されない。例えば、電子回路基板において配線パターンを形成するときのように厚さが500Å〜2000Å程度の被膜をエッチングする場合、上記温度範囲であれば0.2分〜5分程度エッチングすればよい。
【0031】
本発明のエッチング液組成物及びエッチング方法は、安定性が高く、沈殿物が発生し難いと共に、所望の寸法精度を有する配線パターンを形成することができるため、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネル、有機EL、太陽電池、照明器具などの電極、配線などを形成する際に好適に使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1〜24)
表1に示す成分及び配合割合を用い、各成分を混合することによってエッチング液組成物を得た。なお、表1に示す成分以外のエッチング液組成物の成分は水である。また、表1において各成分の配合割合の単位は質量%であり、塩化第二鉄については第二鉄イオン換算の濃度、塩化第二銅については第二銅イオン換算の濃度である。
【0033】
【表1】
【0034】
(比較例1〜20)
表2に示す成分及び配合割合を用い、各成分を混合することによってエッチング液組成物を得た。なお、表1に示す成分以外のエッチング液組成物の成分は水である。また、表1において配合割合の単位は質量%であり、塩化第二鉄については第二鉄イオン換算の濃度、塩化第二銅については第二銅イオン換算の濃度である。
【0035】
【表2】
【0036】
上記の実施例及び比較例で得られたエッチング液組成物について、下記の方法に従って安定性及びエッチング性能の評価を行った。
(安定性評価)
安定性評価は、密閉したガラス瓶に各エッチング液組成物を入れ、大気圧下、35℃の温度にて60分間静置した後、沈殿物の発生の有無を目視にて観察した。
【0037】
(エッチング性能評価)
厚さ200μmのPET基体上に、ITO層(50nm)、Cu層(200nm)及びCuNiTi層(30nm)を順に積層することにより、積層被膜を形成した。次に、積層被膜にドライフィルムレジストを用いて幅40μm、開口部20μmのレジストパターンを形成した後、縦20mm×横20mmの大きさに切断することにより、テストピースを得た。このテストピースに対し、各エッチング液組成物を用いてディップ式によるエッチング処理を行った。エッチング処理は、エッチング温度を35℃とし、エッチング液組成物を攪拌しながら行った。エッチング時間は表3に示す。エッチング処理後、剥離液を用いてレジストパターンを除去することにより、配線パターンを得た。
得られた配線パターン(トップ部)の幅をレーザー顕微鏡によって測定し、レジストパターンの幅と配線パターンの幅との差を求めた。レジストパターンの幅と配線パターンの幅との差は、絶対値(L)として算出して比較を行った。絶対値(L)が0に近いほど、レジストパターンの幅と配線パターンの幅との差が小さく、寸法精度が高い配線パターンが得られたことを意味する。逆に、絶対値(L)が大きくなるほど、レジストパターンの幅と配線パターンの幅との差が大きく、寸法精度が低い配線パターンが得られたことを意味する。なお、比較例13〜16、18及び20のエッチング液組成物については、安定性評価で沈殿物が発生したため、エッチング性能評価は行わなかった。
上記の各評価結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示されているように、実施例1〜24、並びに比較例1〜12、17及び19のエッチング液組成物は、沈殿物が発生しなかったため、安定性が高いことがわかった。これに対して比較例13〜16、18及び19のエッチング液組成物は、沈殿物が発生したため、安定性が低いことがわかった。
また、エッチング条件(特に、エッチング時間)が同じものを比較した場合、実施例1〜24のエッチング液組成物は、比較例1〜12、17及び19のエッチング液組成物に比べて、小さな絶対値(L)を与えた。特に、実施例1〜4及び14のエッチング液組成物は、絶対値(L)が2μm未満であり、寸法精度が高い配線パターンを形成し得ることがわかった。
【0040】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、安定性が高く、沈殿物が発生し難いと共に、所望の寸法精度を有する配線パターンを形成することが可能なエッチング液組成物及びエッチング方法を提供することができる。