【実施例1】
【0030】
本実施例1によるプラズマ処理装置について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施例1によるプラズマエッチング装置の概略図である。
【0031】
プラズマエッチング装置1に、プラズマ15を生成して被処理基板となるウェハ4に処理を行う処理室7が備わっており、処理室7内に、ウェハ4を載置するための試料台であるステージ6が配置されている。ステージ6には、プラズマ処理中にウェハ4に高周波電圧を印加するためのインピーダンス整合器13および高周波電源14が接続されている。
【0032】
処理室7内の真空を保持するため、処理室7の上部にセラミックプレート3が備えられており、セラミックプレート3の下方に間隙8を介して、複数の貫通穴9が設けられたセラミックプレート2が備えられている。処理ガスは、ガス流量制御手段10で流量制御され、間隙8を介して貫通穴9から処理室7内に均一に供給される。処理室7内の圧力を制御するため、処理室7には、圧力検出手段11と、圧力調整手段16と、排気手段12とが備えられている。
【0033】
ウェハ4は搬送装置(図示は省略)によって処理室7内に搬送され、ステージ6上に載置される。ステージ6の内部には、チタン(Ti)またはタングステン(W)などの導電体で形成された静電吸着用の双極型の電極38が設けられており、双極型の電極38は、直流電源55に接続されている。ステージ6上に載置されたウェハ4は、直流電源55から極性の異なる電圧が双極型の電極38に印加されることによって、保持される。なお、静電吸着用の双極型の電極38は、プラズマ15を介さずに2つの電極により閉回路を形成することができ、2つの電極に異なる極性の電圧を印加することによって静電吸着させる静電吸着用電極のことである。
【0034】
処理室7の周囲には、マイクロ波を出力するマグネトロン発振器20と、マイクロ波を処理室7まで伝搬させるための導波管21とが備えられている。また、処理室7の上方および側方に磁場発生手段であるソレノイドコイル22および23がそれぞれ備えられている。マグネトロン発振器20から発振されたマイクロ波は、導波管21内を伝搬し、セラミックプレート2および3を介して処理室7内に放射される。マイクロ波によって生じる電界とソレノイドコイル22および23により生成された磁界との相互作用によって、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR)を生じさせることによりプラズマ15が生成される。
【0035】
処理室7内にプラズマ15を生成し、ステージ6上に載置されたウェハ4に高周波電圧を印加することによって、ウェハ4に形成されたマスクパターンに沿ってエッチング処理が行われる。ヒータまたはランプなどの加熱機構(温度加熱手段)45によって処理室7の構成部材をあらかじめ所定の温度に加熱することにより、エッチング処理に伴う構成部材の温度変化の抑制およびエッチング処理によって生じる反応生成物の付着を抑制している。
【0036】
次に、本実施例1によるプラズマ処理方法について
図2を用いて説明する。
図2は、本実施例1によるプラズマエッチング処理を用いてウェハに形成されるパターンの一例を示す要部断面図である。ここでは、STI(Shallow Trench Isolation)を構成する溝パターンをウェハに形成する工程に、本実施例1によるプラズマエッチング処理を適用した場合を例示する。なお、以下のエッチング処理の説明では、前述の
図1を適宜参照する。
【0037】
エッチングの対象は単結晶シリコン(Si)からなる基板62(この段階では平面略円形状の半導体の薄板であるウェハ4)であり、所望の溝パターン61を基板62に形成するため、マスク60が基板62の主面上に形成されている。マスク60は、レジストマスク、酸化シリコン(SiO
2)または窒化シリコン(Si
3N
4)などからなるハードマスク、あるいはこれらマスクの積層構造から構成される。
【0038】
エッチングでは、CHF
3、CF
4、SF
6、NF
3、HBrまたはCl
2などの処理ガスを複数組み合わせた混合ガスが用いられる。また場合によっては、Ar、N
2またはO
2などのガスも添加される。これら処理ガスをプラズマエッチング装置1に備わる処理室7内に供給し、プラズマ15を生成することにより、プラズマ15中のラジカルとエッチング対象となるシリコン(Si)とを反応させる(SiFx、SiBrxまたはSiClxなど)。また、基板62(ウェハ4)に高周波電圧を印加することにより、プラズマ15中のイオンを基板62(ウェハ4)に引き込む。これにより、基板62(ウェハ4)のエッチングが進行する。
【0039】
STIは素子分離として機能するものであるため、STIを構成する溝パターン61を基板62に形成するエッチングでは、基板62(ウェハ4)の金属汚染量は、例えば1×10
9atoms/cm
2以下と厳しく管理される。これを実現するには、エッチング中に処理室7の構成部材および構成部材に付着した反応生成物に起因した金属物質の放出を抑制することが重要である。
【0040】
プラズマ15の照射による処理室7の構成部材の消耗に起因した金属物質の放出を抑制する方法としては、例えば前記特許文献2に記載されたコーティング膜を構成部材の表面に形成する技術がある。この技術は、有効ではあるが、今後ますます厳しくなる金属汚染量および異物サイズに対する要求に対しては、不十分であると考えられる。
【0041】
特に、STIを構成する溝パターン61を基板62(ウェハ4)に形成するエッチングのように、金属汚染量が厳しく管理されている工程では、処理室7の構成部材からコーティング膜の膜中および膜表面に拡散した金属物質の処理室7への放出を抑制することが、金属汚染を低減する上で重要である。
【0042】
本発明者らは、コーティング膜の膜中および膜表面への金属物質の拡散を抑制することのできる技術について検討した。その結果、コーティング膜の膜密度を制御することにより、コーティング膜の膜中および膜表面への金属物質の拡散を抑制することができるという知見を得た。
【0043】
表1に、コーティング膜の成膜条件および膜密度について検討した結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
本実験では、シリコン(Si)を含有するガスとして四塩化シリコン(SiCl
4)ガス、酸素(O
2)を含有するガスとして酸素(O
2)ガス、添加ガスとしてアルゴン(Ar)ガスの混合ガスを用いて生成したプラズマによって、SiO系の組成からなるコーティング膜を形成している。
【0046】
SiO系の組成からなるコーティング膜の膜密度を制御するには、O
2/(SiCL
4+O
2)流量比、処理圧およびマイクロ波パワーの値を変更すれば良いことが分かる。また、O
2/(SiCL
4+O
2)流量比が0.5以下、つまりコーティング膜中のシリコン(Si)含有量が多くなるガス流量比が、コーティング膜の膜密度を高くできる成膜条件であることが分かる。
【0047】
図3は、コーティング膜の膜表面の汚染濃度と膜密度との関係を示すグラフ図である。汚染濃度は、膜密度が1.95g/cm
3での値において規格化している。本実験では、処理室の構成部材に使用されている金属元素の一例としてチタン(Ti)とタングステン(W)を用いている。
【0048】
図3に示すように、膜密度が低減するに従って汚染濃度は増加している。この結果から、膜密度が低いほど処理室の構成部材に起因した金属物質がコーティング膜の膜中に拡散し、コーティング膜の膜表面に到達していることが分かる。
【0049】
また、金属元素によって、コーティング膜の膜表面の汚染濃度が異なる、すなわち、コーティング膜の膜中への拡散の度合いが異なることが分かる。例えば膜密度が1.95g/cm
3から1.80g/cm
3に低くなると、タングステン(W)におけるコーティング膜の膜表面の汚染濃度は約1.8倍に増加するが、チタン(Ti)におけるコーティング膜の膜表面の汚染濃度は約4.6倍に増加する。つまり、金属元素によって、コーティング膜の膜中に拡散し、コーティング膜の膜表面に到達する金属汚染量は大きく異なるといえる。
【0050】
また、タングステン(W)の汚染濃度は、膜密度が1.93g/cm
3以上でほぼ一定となり、十分に低減している。これに対し、チタン(Ti)の汚染濃度は、膜密度が1.93g/cm
3の時点では十分に低減しておらず、チタン(Ti)の汚染濃度を十分に低減するには、膜密度を1.94g/cm
3以上にすれば良いことが分かる。つまり、処理室の構成部材に含まれる金属元素に対応して、コーティング膜の膜密度を制御することにより、コーティング膜の膜表面に到達する金属物質の拡散を抑制することができる。
【0051】
本実施例1において、コーティング膜の膜中および膜表面への金属物質の拡散を十分に抑制するには、処理室の構成部材がタングステン(W)の場合は、コーティング膜の膜密度を1.93g/cm
3以上にすればよい。また、処理室の構成部材がチタン(Ti)の場合は、コーティング膜の膜密度を1.94g/cm
3以上にすればよい。また、処理室の構成部材がタングステン(W)およびチタン(Ti)の両方の金属元素を含む場合は、1.94g/cm
3以上にすればよい。これにより、処理室の構成部材からコーティング膜の膜中および膜表面への金属物質の拡散を抑制できるので、プラズマ15の照射によるコーティング膜の消耗に起因した金属汚染を低減することが可能となる。
【0052】
本実施例1では、処理室の構成部材に使用されている金属元素の一例としてチタン(Ti)およびタングステン(W)を用いたが、チタン(Ti)およびタングステン(W)はウェハ上に形成される積層膜の構成材料としても用いられるものであり、エッチング対象となる材料である。ウェハ上に形成されたチタン(Ti)またはタングステン(W)がエッチングされると、これによって生じるチタン(Ti)またはタングステン(W)を含有する反応生成物は処理室の内壁などに付着する。このような構成部材の表面に付着したチタン(Ti)またはタングステン(W)などを含有した反応生成物も汚染の原因となる。しかし、このような場合でも本実施例1を適用することができる。
【0053】
次に、STIを構成する溝パターンを形成するエッチングに適用した処理シーケンスについて
図4および
図5を用いて説明する。
図4は、本実施例1によるエッチング処理の処理シーケンスの一例を示すフロー図である。
図5は、本実施例1によるコーティング膜を処理室の内壁に形成した模式図である。なお、以下の処理シーケンスの説明では、前述の
図1および表1を適宜参照する。
【0054】
処理室7の構成部材は、加熱機構45によってあらかじめ所定の温度に加熱されているが、エッチングを連続して行うと、プラズマ15からの入熱によって構成部材の温度は次第に上昇していく。処理室7の構成部材の温度変化はCDが変動する原因となる。これを抑制するため、処理室7内にウェハ4を搬入する前に、処理室7内にプラズマ15を生成し、処理室7の構成部材を昇温するロット前エージングを行う(工程100)。
【0055】
次に、処理室7の構成部材の表面(内壁)をSiO系のコーティング膜で被覆するコーティング処理を行う(工程101)。このコーティング処理は、処理室7の内壁の表面状態を一定に維持し、プラズマ中のラジカル状態の変動を抑制すること、および構成部材に起因した金属物質の処理室7内への放出を抑制することが目的である。
【0056】
構成部材からのコーティング膜の膜中および膜表面への金属物質の拡散を抑制するため、処理室7の構成部材に含まれる金属元素に対応して、膜密度を制御したコーティング膜を処理室7の内壁に形成する。例えば表1に示した成膜条件のうち、O
2/(SiCL
4+O
2)流量比が0.5以下になる成膜条件1、2、4のいずれかを適用する。
【0057】
図5に示すように、このような成膜条件で処理室7の構成部材41の表面に、コーティング膜70を形成することができる。表1に示した成膜条件1、2、4は、シリコン(Si)リッチのガス条件となるため、コーティング膜70中のシリコン(Si)含有量が多い状態となり、コーティング膜70の膜密度は1.90g/cm
3以上となる。
【0058】
コーティング膜70の厚さは、ウェハ4のエッチング処理(工程103)が終了する時に、コーティング膜70が消失する厚さとする。このようなコーティング膜70の厚さの算出は、量産に着手する前段階であるエッチング形状の条件を決定する際に行われるものであり、量産工程のスループットおよび製造歩留まりに影響を与えるものではない。なお、ウェハ4のエッチング処理の終了とコーティング膜70の消失とは同時であることが理想であるが、実際には、両者間には僅かな時間のずれが生じる。しかし、上記時間のずれは、所望する一定の範囲内であればよい。
【0059】
コーティング処理(工程101)が終了した後、ウェハ4を処理室7内に搬入し、ステージ6上に搭載する(工程102)。
【0060】
次に、所定の処理ガスを処理室7内に供給した後、プラズマ15を生成し、エッチング処理を開始する(工程103)。STIを構成する溝パターンを形成するエッチングの開始とともに、コーティング処理(工程101)で形成したコーティング膜70のエッチング(消耗)も開始される。
【0061】
エッチング処理(工程103)が終了した後に、ウェハ4が処理室7内から搬出される(工程104)。
【0062】
本実施例1では、ウェハ4のエッチング処理(工程103)が終了する時に、コーティング膜70が消失しているため、コーティング膜70を除去するためのクリーニング工程を省略することができる。これによって、量産工程におけるスループットの向上を図ることができる。
【0063】
ウェハ4を搬出した後、次のウェハ4が待機しているか否かが判断される(工程105)。次のウェハ4が待機している場合は、再びコーティング処理(工程101)が行われる。次のウェハ4が待機していない場合は、処理終了となる(工程106)。
【0064】
その後、エッチング処理を再開する場合は、ロット前エージング(工程100)から実施する。
【0065】
このように、本実施例1では、O
2/(SiCL
4+O
2)流量比が0.5以下となる成膜条件でプラズマ15を生成し、処理室7の構成部材41の表面に、膜密度が1.90g/cm
3以上となるコーティング膜70を形成する。これにより、処理室7の構成部材41からコーティング膜70の膜中および膜表面への金属物質の拡散を抑制できるので、処理室7内における金属汚染の発生を低減することができ、さらに、デバイス性能および製造歩留りを向上させることができる。また、コーティング膜70のクリーニング工程を省略することができるので、量産工程におけるスループットの向上を図ることができる。
【実施例2】
【0066】
本実施例2によるコーティング膜の形成方法について
図6を用いて説明する。
図6は、本実施例2によるコーティング膜を処理室の内壁に形成した模式図である。
【0067】
前述の実施例1と相違する点は、コーティング膜70の構成である。STIを構成する溝パターンを形成するエッチングでは、単結晶シリコン(Si)からなる基板(ウェハ)がエッチング対象となるため、前述の実施例1で示したコーティング膜70中にシリコン(Si)含有量が多い場合、エッチング条件によってはエッチング処理(
図4の工程103)が終了する前に、コーティング膜70が消失する可能性がある。
【0068】
このような場合、まず、構成部材41の表面からコーティング膜70の膜中および膜表面への金属物質の拡散を抑制するため、O
2/(SiCL
4+O
2)流量比が0.5以下となる成膜条件でプラズマを生成し、シリコン(Si)含有量が多いコーティング膜71を形成する。次に、プラズマを消失させた後に、O
2/(SiCL
4+O
2)流量比が0.5より大きい成膜条件でプラズマを生成し、シリコン(Si)含有量が少ないコーティング膜72を形成する。
【0069】
シリコン(Si)含有量を少なくする成膜条件として、表1に示すように、ガス流量比以外に処理圧またはマイクロ波パワーを変更してもよい。シリコン(Si)含有量を少なくすることにより、酸化シリコン(SiO
2)膜のようなコーティング膜72が形成される。酸化シリコン(SiO
2)膜は、シリコン(Si)含有量が多いコーティング膜71に比べて、STIを構成する溝パターンを形成するエッチング処理に対する消耗量が少ない。
【0070】
このように、本実施例2では、コーティング膜70をシリコン(Si)含有量が多いコーティング膜71とシリコン(Si)含有量が少ないコーティング膜72とからなる2層構造にする。これにより、1層目のコーティング膜71で構成部材41からの金属物質の拡散を抑制することができ、2層目のコーティング膜72でエッチング処理(
図4の工程103)におけるコーティング膜70の消耗量を少なくして、エッチング処理(
図4の工程103)が終了する前に、コーティング膜70が消失することを抑制することができる。本実施例2では、2層の積層膜からなるコーティング膜70の例を示したが、2層以上の積層膜からなるコーティング膜70を形成してもよい。