(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構成脂肪酸としてパルミチン酸を含有する原料油脂と不飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸低級アルキルエステルとを含有する混合物を、1,3位選択性を有するリパーゼを用いてエステル交換することにより、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位に結合するパルミチン酸の含有量が50質量%以上である油脂を得る、当該油脂の製造方法であって、以下の工程(a1)及び工程(b1)、
(a1)15〜35質量部の、パルミチン酸の含有量が75〜85質量%であり、ヨウ素価が9〜19であるパームステアリンと、85〜65質量部の、不飽和脂肪酸の含有量が80〜95質量%である脂肪酸と、を含む、混合物を得る工程、
(b1)混合物を、1,3位選択性リパーゼを使用してエステル交換反応し、反応率が80%以上であるエステル交換反応物を得る工程であって、前記エステル交換反応物は、反応物に含まれる遊離脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が15〜30質量%であり、反応物に含まれるトリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全含有量が35〜45質量%であり、当該パルミチン酸全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が57.7〜65質量%である、前記工程、
を含む、前記油脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量(以下、β−パルミトイル率ともいう)が50質量%以上である油脂を、製造する方法に関する。そして、本発明は、以下の工程(a)及び(b)を含む。
(a)トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が30〜100質量%である原料油脂と、炭素数18以上の不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上である、脂肪酸または脂肪酸低級アルキルエステルとを、
前記原料油脂のトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、1,3位選択的エステル交換後に、エステル交換前の0.15〜0.65倍となる割合で含有する、混合物を得る工程
(b)混合物を、1,3位選択性リパーゼを使用してエステル交換反応し、反応率が70%以上であるエステル交換反応物を得る工程
以下、各工程に沿って具体的に説明する。
【0013】
工程(a)
工程(a)は、トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が30〜100質量%である原料油脂(以下、P2FTとも表す)と、炭素数18以上の不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上である、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルとを、特定割合で含む混合物を調製する工程である。P2FTの、トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。P2FTの、トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が上記範囲にあると、構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が50質量%以上である油脂(以下、P2OLとも表す)を効率よく製造できる。また、P2FTは、は、油脂の構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、好ましくは20〜100質量%であり、より好ましくは25〜90質量%であり、さらに好ましくは30〜85質量%である。
【0014】
上記P2FTの好ましい態様の1つとして、パーム油及び/又はパーム分別油を含有する油脂が挙げられる。パーム分別油は、パーム油から分別により派生する油脂である。パーム分別油として、例えば、パームオレイン、パームステアリン、パームスーパーオレイン、パーム中融点部、パームハードステアリン、およびソフトパームなどが挙げられる。P2FTは、パーム油およびパーム分別油から選ばれる1種または2種以上を含んでもよい。P2FTは、特に、パームステアリンをさらに分別した固体部であるパームハードステアリンを含んでもよい。この場合、P2FTの構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量は、好ましくは65〜95質量%であり、より好ましくは70〜90質量%であり、さらに好ましくは75〜85質量%である。また、この場合、P2FTのヨウ素価は、好ましくは8〜20であり、より好ましくは11〜17であり、さら好ましくは13〜15である。P2FTに含まれるパーム油及び/又はパーム分別油を含有する油脂は、ランダムエステル交換された油脂であってもよい。
【0015】
上記P2FTのまた別の好ましい態様の1つとして、後述する、工程(a)、(b)及び(c)を含む一群の工程を少なくとも1回以上経由した、トリグリセリドの2位に結合するパルミチン酸の割合が高められたP2OLを、P2FTとして使用する態様が挙げられる。この場合、P2FTの構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量は、好ましくは20〜50質量%であり、より好ましくは25〜45質量%であり、さらに好ましくは27〜40質量%である。また、この場合、P2FTの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位に結合したパルミチン酸の含有量は、好ましくは50〜80質量%であり、より好ましくは55〜75質量%であり、さらに好ましくは60〜70質量%である。すなわち、工程(a)、(b)及び(c)を含む一群の工程を経て得られたP2OLは、構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量がより高いP2OLを得るために、P2FTとして工程(a)で使用され得る。
【0016】
上記の、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルは、炭素数18以上の、不飽和脂肪酸及び/または不飽和脂肪酸の低級アルキルエステルを、70質量%以上含む。脂肪酸または脂肪酸低級アルキルエステルに占める、炭素数18以上の、不飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸低級アルキルエステルの含有量は、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上であり、ことさらに好ましくは90〜100質量%である。不飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは18〜22であり、より好ましくは18である。不飽和脂肪酸としては、具体的には、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。また、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに占めるオレイン酸及び/又はオレイン酸低級アルキルエステルの含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70〜100質量%であり、さらに好ましくは75〜95質量%である。ここで、脂肪酸及び/又は脂肪酸の低級アルキルエステルは、好ましくは、実質的に脂肪酸のみ、あるいは、脂肪酸低級アルキルエステルのみ、で使用される。ここで実質的にとは、脂肪酸に混入する脂肪酸低級アルキルエステル、あるいは、脂肪酸低級アルキルエステルに混入する(遊離)脂肪酸、の含有量が、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは0〜1質量%であることを意味する。本発明においては、好ましくは脂肪酸が使用される。
なお、脂肪酸低級アルキルエステルは、好ましくは、脂肪酸と炭素数1〜6のアルコールとのエステルである。アルコールは、好ましくはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールであり、より好ましくはエタノールである。
【0017】
工程(a)における、P2FTと、炭素数18以上の不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上である、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルと、を含む混合物は、P2FTに含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、1,3位選択的エステル交換後に、エステル交換前の0.15〜0.65倍となるように調製される。
例えば、
混合物に占めるP2FTの割合を、Z(%)
混合物に占める脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルの割合を、100−Z(%)
1,3位選択的エステル交換前の、P2FTに含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量を、BP
13(%)
1,3位選択的エステル交換後に想定される、反応後のP2FT(P2OL)に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量を、AP
13(%)
とし、
脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルには、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルが含まれない、
とすると、
1,3位選択的エステル交換反応に寄与する、P2FTの部分は2/3×Zであるので、反応系全体で1,3位選択的エステル交換反応に寄与する部分は、2/3×Z+100−Z、である。そして、
1,3位選択的エステル交換反応に寄与する、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの部分は、2/3×Z×BP
13/100、なので、
1,3位選択的エステル交換反応のAP
13は、
2/3×Z×BP
13/100
AP
13=
×100
2/3×Z+100−Z
で表される。
すなわち、
100×AP
13
Z=
2/3×BP
13+1/3×AP
13
であり、ここで、
AP
13=0.15×BP
13〜0.65×BP
13
であるから、
0.15×BP
13〜0.65×BP
13の間で任意のAP
13を設定することにより、Z(%)を決定することができる。
決定されたZ(%)にしたがって、P2FTと脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルとを混合することにより、混合物は調製されればよい。
なお、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルが少量含まれる場合には、上記と同様の考え方で、反応系全体で1,3位選択的エステル交換反応に寄与する、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの部分を補正すればよい。
上記の計算は、質量に基づいて行われる。質量に基づく計算で実用上問題はない。
1,3位選択的エステル交換前のBP
13(%)に対する、1,3位選択的エステル交換後のAP
13の割合(AP
13/BP
13)は、好ましくは0.20〜0.60であり、より好ましくは0.25〜0.55である。
【0018】
工程(b)
工程(b)は、混合物を、1,3位選択性リパーゼを使用してエステル交換反応し、反応率が70%以上であるエステル交換反応物を得る工程である。
1,3位選択性リパーゼは、グリセリドの1,3位に選択性を有し、油脂と脂肪酸または脂肪酸低級アルキルエステルとをエステル交換する活性を有するリパーゼであれば特に制限されない。市販の固定化リパーゼ、例えば、Lipozyme RM IM(ノボザイムズ社製、Rhizomucor miehei由来)などが使用されてもよい。また、1,3位選択性リパーゼとしては、リゾプス属のリゾプス デレマー(Rhizopus delemar)またはリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)由来が好ましい。これらのリパーゼとしては、ロビン社の商品:ピカンターゼR8000や、天野エンザイム社の商品:リパーゼF−AP15などが挙げられる。これらのリパーゼは、大豆粉末を用いて造粒され、粉末化された、造粒粉末リパーゼとして用いてもよい。
【0019】
上記エステル交換反応は、エステル交換反応の反応率が70%以上となるように制御される。エステル交換反応率は、好ましくは、1,3位選択的エステル交換反応前後の、P2FTに含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量の変化量に基づいて決定される(方法1)。すなわち、
1,3位選択的エステル交換前の、P2FTに含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量を、BP
13(%)
1,3位選択的エステル交換後に想定される、反応後のP2FT(P2OL)に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量を、AP
13(%)
(上記のとおり、設定されたAP
13(%)に基づいて、反応前混合物は調製される。AP
13(%)は完全に反応が行われたとき(反応率100%)の値となる)
とし、
エステル交換反応終了時のP2FTに含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量がEP
13(%)
であったとすると、反応率X(%)は、
BP
13−EP
13
X=
×100
BP
13−AP
13
となる。
なお、油脂に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量(P
13(%))は、
油脂に含まれるトリグリセリドの構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量をP
all(%)、
油脂に含まれるトリグリセリドの2位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量をP
2(%)、
とすると、
3×P
all−P
2
P
13=
2
で計算される。
なお、油脂に含まれるトリグリセリドの全ての脂肪酸の構成(全脂肪酸組成)は、好ましくは、公益社団法人日本油化学会発行の基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013に準拠して測定する。AOCS法であれば、AOCS法Ce1h-05、Ce1h-07に準拠して測定してもよい。油脂に含まれるトリグリセリドの2位に結合する脂肪酸の構成(2位脂肪酸組成)は、好ましくは、公益社団法人日本油化学会発行の基準油脂分析試験法2.4.5-2016 トリアシルグリセリンの 2 位置脂肪酸組成(酵素エステル交換法)に準拠して測定する。AOCS法であれば、AOCS法Ch3-91に準拠して測定してもよい。
【0020】
上記エステル交換反応率は、P2FTに含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量の変化量に基づいて、上記のように決定しても良いし、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに含まれる、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの含有量の変化量に基づいて決定してもよい(方法2)。
すなわち、
1,3位選択的エステル交換前の、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに含まれる、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの含有量を、BP(%)
1,3位選択的エステル交換後の、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに含まれる、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの含有量を、AP(%)
(上記のとおり、設定されたAP
13(%)に基づいて、反応前混合物は調製されるので、これらの情報に基づいてAP(%)は計算される。AP(%)は完全に反応が行われたとき(反応率100%)の値となる)
とし、
エステル交換反応終了時の、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに含まれる、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの含有量がEP(%)
であったとすると、反応率X(%)は、
BP−EP
X=
×100
BP−AP
となる。
なお、上記脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに占めるパルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの含有量は、公知のガスクロマトグラフィー法により測定できる。
【0021】
上記エステル交換反応率は、従来報告があるように、特定のトリグリセリドの含有量の変化量に基づいて決定することもできる(方法3)。例えば、P2FTに含まれる、構成脂肪酸の総炭素数が52であるトリグリセリド(以下、C52とも表す)や構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリド(以下、C48とも表す)を指標としてもよい。C52を例にとると、1,3位選択的エステル交換前の、P2FTに含まれるC52の含有量を、BC52(%)
1,3位選択的エステル交換後に想定される、反応後のP2FT(P2OL)に含まれるC52の含有量を、AC52(%)
(上記のとおり、設定されたAP
13(%)に基づいて、反応前混合物は調製されるので、これらの情報を使用して、従来の計算手法(例えば、R.J.VANDER WALの総説(Jarnal of American Oil Chemists' Society 40,242−247(1963))等を参照)に基づいて、AC52(%)は計算される。AC52(%)は、完全に反応が行われたとき(反応率100%)の値である)
とし、
エステル交換反応終了時の、
P2FT(P2OL)に含まれる、
構成脂肪酸の総炭素数が52であるトリグリセリドの含有量がEC52(%)
であったとすると、反応率X(%)は、
BC52−EC52
X=
×100
BC52−AC52
となる。
しかしながら、特定の総炭素数を有するトリグリセリドを指標とした場合、リパーゼによる1,3位選択的エステル交換反応で生じる位置選択のエラーは反映されない。例えば、C52には、UPUだけではなく、PUU及びUUPも含まれるので、仮に、反応の途中で、UPUがUUPに異性化しても反応率に反映されない。また、2サイクル以上の反応では、エステル交換反応前後における指標とするトリグリセリドの含有量の変化幅が小さいので、誤差が大きい。したがって、エステル交換反応率は、好ましくは、方法1または方法2に基づいて決定される。
なお、油脂に含まれるトリグリセリドの含有量は、ガスクロマトグラフィー法(例えば、JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)により測定できる。
上記の、U、P、UPU、PUU及びUUPは、以下を意味する。
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
P:パルミチン酸
UPU:グリセロールの、1位及び3位にUが結合し、2位にPが結合した、トリグリセリド
PUU:グリセロールの、1位にPが結合し、2位及び3位にUが結合した、トリグリセリド
UUP:グリセロールの、1位及び2位にUが結合し、3位にPが結合した、トリグリセリド
【0022】
工程(b)において、1,3位選択的エステル交換反応を、反応率が70%以上となるように制御することにより、効率的に、構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が50質量%以上である油脂が製造できる。エステル交換反応率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85〜98%の範囲で制御される。
エステル交換反応の様式は、従来公知の、タンクを使用したバッチ式、カラムを使用した連続式など、いずれの様式でも適用できる。エステル交換の反応速度は、反応様式にあわせて、基質あたりのリパーゼの量、反応温度、及び反応時間などを、適宜調整すればよい。バッチ式反応の場合、例えば、100質量部の原料混合物あたり、0.01〜10質量部(好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部)のリパーゼ製剤(上記造粒粉末リパーゼなど)を添加し、30〜100℃の温度(好ましくは35〜80℃、より好ましくは40〜60℃)で、0.1〜50時間(好ましくは0.5〜30時間、より好ましくは1〜20時間)攪拌することにより、エステル交換反応を行ってもよい。連続式で行うエステル交換反応は、過反応を防止しやすいので、好ましい。連続式反応の場合、例えば、1質量部のリパーゼ製剤(上記造粒粉末リパーゼなど)に対して、1時間あたり0.5〜50質量部(好ましくは3〜30質量部、より好ましくは5〜25質量部)の原料混合物を、30〜100℃の温度(好ましくは35〜80℃、より好ましくは40〜60℃)で通液することにより、エステル交換反応を行ってもよい。
【0023】
工程(c)
工程(c)は、エステル交換反応物から、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルを除去する工程である。
エステル交換反応物から、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルを除去する方法は、特に制限されない。しかし、脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルは、好ましくは蒸留により除去される。蒸留の方法は特に制限はなく、従来公知の、薄膜蒸留、分子蒸留、および短工程蒸留などが適宜適用できる。蒸留は、好ましくは160〜260℃、より好ましくは180〜240℃、さらに好ましくは190〜220℃の温度、及び、好ましくは10〜2000Pa、より好ましくは50〜1000Pa、さらに好ましくは100〜500Paの圧力、の条件下で行われてもよい。
エステル交換反応物から脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルを除去することにより、油脂に含まれる、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が50質量%以上である、油脂が得られる。
【0024】
上記の、油脂に含まれる、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位に結合するパルミチン酸の含有量(β−パルミトイル率)は、
であり、
で計算できる。
【0025】
上記の工程(a)、(b)および(c)を含む一群の工程を経て得られた油脂は、分別(特に溶剤分別)により、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が、さらに高められた油脂を、液状部に回収できる。しかし、副産物として固体部が発生する。
一方で、上記の工程(a)、(b)及び(c)を含む一群の工程を経て得られた油脂は、再度、工程(a)、(b)及び(c)を含む一群の工程が適用されてもよい。工程(a)、(b)及び(c)を含む一群の工程を1サイクルとして、得られた油脂を原料油脂として複数サイクル適用することで、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が、さらに高められた油脂を、溶剤分別を適用することなく、製造できる。溶剤分別をする必要がないので、価値のない固体部が発生することがない。そして、原料として供給したP2FTが全て、価値のある、トリグリセリドの2位にパルミチン酸を豊富に有する油脂、として回収できる。本発明の典型的な製造例においては、第1サイクルでβ−パルミトイル率が50〜65(質量%)である油脂が得られ、第2サイクルでβ−パルミトイル率が70〜85(質量%)である油脂が得られる。
上記の工程(a)、(b)及び(c)を含む一群の工程を経て得られた油脂は、食用に供するために、通常の食用油脂の精製に用いられる、脱酸、脱色、および脱臭などの精製処理を適用してもよい。
【0026】
本発明の製造方法は、また、工程(a)、(b)及び(c)を含む一群の工程を複数回適用する場合、工程(c)に替え、以下の工程(c)’を適用してもよい。
工程(c)’
工程(c)’は、エステル交換反応物より、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸の低級アルキルエステルを、蒸留により、選択的に除去する工程である。
蒸留残渣に含まれる脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルに占める、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸低級アルキルエステルの含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0〜3質量%である。当該蒸留残渣は、工程(a)を繰り返す際に、混合物の全部又は一部として使用できる。
【0027】
本発明の好ましい態様の1つは、以下の工程(a1)、(b1)及び(c1)を含む製造方法である。
(a1)15〜35質量部の、パルミチン酸の含有量が75〜85質量%であり、ヨウ素価が9〜19であるパームステアリンと、85〜65質量部の、不飽和脂肪酸の含有量が80〜95質量%(オレイン酸の含有量は60〜85質量%)であり、パルミチン酸の含有量が0〜5質量%である脂肪酸と、を混合し、混合物を得る工程
(b1)混合物を、1,3位選択性リパーゼを使用してエステル交換反応し、(遊離)脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が15〜30質量%であるエステル交換反応物を得る工程
(c1)エステル交換反応物より、脂肪酸を除去し、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全含有量が35〜45質量%であり、当該パルミチン酸全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が50〜65質量%である油脂を得る工程
【0028】
本発明のまた別の好ましい態様の1つは、以下の工程(a2)、(b2)および(c2)を含む。
(a2)15〜35質量部の、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全含有量が25〜40質量%であり、当該パルミチン酸全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が60〜75質量%である油脂と、85〜65質量部の、不飽和脂肪酸の含有量が80〜95質量%(オレイン酸の含有量は60〜85質量%)であり、パルミチン酸の含有量が0〜5質量%である脂肪酸と、を混合し、混合物を得る工程
(b2)混合物を、1,3位選択性リパーゼを使用してエステル交換反応し、(遊離)脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が5〜15質量%であるエステル交換反応物を得る工程
(c2)エステル交換反応物より、脂肪酸を除去し、構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全含有量が20〜35質量%であり、当該パルミチン酸全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が70〜85質量%である油脂を得る工程
【0029】
本発明の製造方法は、また、以下の工程(d)を付帯してもよい。
工程(d)
工程(d)は、工程(c)により除去された脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルから、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸の低級アルキルエステルを除去する工程である。
工程(c)により除去された脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルキルエステルから、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸の低級アルキルエステルを除去する方法は特に限定されない。しかし、除去は、好ましくは、蒸留による留去または分別による固体部としての分離、であり、より好ましくは、蒸留による留去である。パルミチン酸及び/又はパルミチン酸の低級アルキルエステルが留去された蒸留残渣である脂肪酸または脂肪酸低級アルキルエステル、もしくは、パルミチン酸及び/又はパルミチン酸の低級アルキルエステルが固体部として分離された液体部である脂肪酸または脂肪酸低級アルキルエステルは、工程(a)で再利用されてもよい。
【0030】
本発明の製造方法により得られる、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が50質量%以上である油脂は、炭素数が16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド(以下、HHHとも表す)の含有量が低い。本発明の製造方法により得られる油脂のHHH含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、最も好ましくは0〜3質量%である。また、本発明の製造方法により得られる油脂のトリパルミチン(以下、PPPとも表す)の含有量は、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下であり、最も好ましくは0〜2質量%である。
本発明の製造方法により得られる油脂は、β−パルミトイル率が高く、HHH含有量が低いので、例えば、育児粉乳などの原料として好適に使用できる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。しかし、これにより本発明は限定されない。
【0032】
リパーゼ製剤の調製
・リパーゼ製剤1
大豆粉を10質量%含む水溶液を調製した。当該大豆粉水溶液を、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)し、その後、室温程度に冷却した。1質量部のリパーゼ溶液(天野エンザイム社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K、Rhizopus oryzae由来、150000U/ml)に対して、3質量部の大豆粉水溶液を、攪拌しながら加え、混合液を得た。当該混合液を、0.5NのNaOH溶液を用いて、pH7.8に調整した。その後、混合液を噴霧乾燥して、粉末のリパーゼ製剤1を得た。
【0033】
エステル交換反応原料
エステル交換反応の原料として以下の原料を準備した。
・P2FT−1
ヨウ素価14のパームステアリン(トリグリセリドの構成脂肪酸の全量に占めるパルミチン酸の含有量82.6質量%、トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸に占めるパルミチン酸の含有量72.8質量%、β−パルミトイル率29.4%)をP2FT−1として使用した。
・脂肪酸−1
2.4質量%のラウリン酸、4.6質量%のパルミチン酸、1.7質量%のステアリン酸、78.6質量%のオレイン酸、11.4質量%のリノール酸、を含有する混合脂肪酸を脂肪酸−1として使用した。
【0034】
2位にパルミチン酸を有するトリグリセリドを豊富に含有する油脂の製造(1)
〔参考例1〕
10質量部のP2FT−1と90質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、P2FT−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の87.5質量%から、反応率100%の反応後に、0.12倍の10.2質量%となるように設定されている。
容器の中で50℃に維持された100質量部の基質に対して、0.6質量部のリパーゼ製剤1を添加した。その後、攪拌により、エステル交換反応を20時間継続した。20時間後、ろ過により、反応基質からリパーゼ製剤1を取り除くことにより、エステル交換反応を完了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−1)を得た。分析結果を表1に示す。
〔実施例1〕
(第1サイクル)
20質量部のP2FT−1と80質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、P2FT−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の87.5質量%から、反応率100%の反応後に、0.19倍の16.4質量%となるように設定されている。
容器の中で50℃に維持された100質量部の基質に対して、0.6質量部のリパーゼ製剤1を添加した。その後、攪拌により、エステル交換反応を21時間継続した。21時間後、ろ過により、反応基質からリパーゼ製剤1を取り除くことにより、エステル交換反応を完了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−1)を得た。分析結果を表1に示す。
(第2サイクル)
20質量部の第1サイクルで得られた反応油脂−1と80質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、反応油脂−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の19.7質量%から、反応率100%の反応後に、0.35倍の6.8質量%となるように設定されている。
容器の中で50℃に維持された100質量部の基質に対して、0.3質量部のリパーゼ製剤1を添加した。その後、攪拌により、エステル交換反応を22時間継続した。22時間後、ろ過により、反応基質からリパーゼ製剤1を取り除くことにより、エステル交換反応を完了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−2)を得た。分析結果を表1に示す。
【0035】
なお、以下の表中に記載の、*1、*2、*3、*4、*5、*6及び*7は、それぞれ次を意味する。
*1;1,3位選択的エステル交換反応前後の、トリグリセリドの1,3位に結合する構
成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量の変化量に基づいて決定されるエステ
ル交換反応率(方法1)。
*2;1,3位選択的エステル交換反応前後の、遊離脂肪酸の全量に占めるパルミチン酸
の含有量の変化量に基づいて決定されるエステル交換反応率(方法2)
*3;構成脂肪酸の総炭素数が52であるトリグリセリド(以下、C52とも表す)の含有
量の変化量に基づいて決定されるエステル交換反応率(方法3)
*4;トリグリセリドの構成脂肪酸の全量に占めるパルミチン酸の含有量
*5;トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸に占めるパルミチン酸の含有量
*6;トリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸に占めるパルミチン酸の含有量
*7:1,3位選択的エステル交換反応前の基質混合物又は1,3位選択的エステル交換
反応後の反応混合物の、遊離脂肪酸の全量に占めるパルミチン酸の含有量
【0036】
【表1】
表1の結果から明らかなように、P2FT−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の0.12倍に設定された参考例1の反応を2回行うより、0.19倍に設定された実施例1の繰り返し反応の方が、同じ収率で、β−パルミトイル率のより高い油脂が得られる。
【0037】
2位にパルミチン酸を有するトリグリセリドを豊富に含有する油脂の製造(2)
〔実施例2〕
(第1サイクル)
30質量部のP2FT−1と70質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、P2FT−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の87.5質量%から、反応率100%の反応後に、0.26倍の23.0質量%となるように設定されている。
容器の中で55℃に維持された100質量部の基質に対して、0.6質量部のリパーゼ製剤1を添加した。その後、攪拌により、エステル交換反応を20時間継続した。20時間後、ろ過により、反応基質からリパーゼ製剤1を取り除くことにより、エステル交換反応を完了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−1)を得た。分析結果を表2に示す。
(第2サイクル)
30質量部の第1サイクルで得られた反応油脂−1と70質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、反応油脂−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の24.5質量%から、反応率100%の反応後に、0.37倍の9.0質量%となるように設定されている。
容器の中で50℃に維持された100質量部の基質に対して、0.3質量部のリパーゼ製剤1を添加した。その後、攪拌により、エステル交換反応を28時間継続した。28時間後、ろ過により、反応基質からリパーゼ製剤1を取り除くことにより、エステル交換反応を完了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−2)を得た。分析結果を表2に示す。
(第3サイクル)
30質量部の第2サイクルで得られた反応後の油脂(反応油脂−2)と70質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、反応油脂−2に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の12.8質量%から、反応率100%の反応後に、0.50倍の6.4質量%となるように設定されている。
容器の中で50℃に維持された100質量部の基質に対して、0.3質量部のリパーゼ製剤1を添加した。その後、攪拌により、エステル交換反応を20時間継続した。20時間後、ろ過により、反応基質からリパーゼ製剤1を取り除くことにより、エステル交換反応を完了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−3)を得た。分析結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
2位にパルミチン酸を有するトリグリセリドを豊富に含有する油脂の製造−3
〔実施例3〕
(第1サイクル)
30質量部のP2FT−1と70質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、P2FT−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の87.5質量%から、反応率100%の反応後に、0.26倍の23.0質量%となるように設定されている。
0.6グラムのリパーゼ製剤1をカラムに充填し、55℃に保持した。前記カラムに、上記基質を、5グラム/時間の流速で通液することにより、エステル交換反応を行った。200時間通液後、反応を終了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−1)を得た。分析結果を表3に示す。
(第2サイクル)
30質量部の第1サイクルで得られた反応油脂−1と70質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、反応油脂−1に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の25.1質量%から、反応率100%の反応後に、0.37倍の9.2質量%となるように設定されている。
0.6グラムのリパーゼ製剤1をカラムに充填し、50℃に保持した。前記カラムに、上記基質を、5グラム/時間の流速で通液することにより、エステル交換反応を行った。100時間通液後、反応を終了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−2)を得た。分析結果を表3に示す。
(第3サイクル)
30質量部の第2サイクルで得られた反応後の油脂(反応油脂−2)と70質量部の脂肪酸−1とを混合し、エステル交換反応の基質とした。当該基質は、1,3位選択的エステル交換により、反応油脂−2に含まれるトリグリセリドの1,3位に結合する構成脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、反応前の11.6質量%から、反応率100%の反応後に、0.54倍の6.2質量%となるように設定されている。
0.6グラムのリパーゼ製剤1をカラムに充填し、50℃に保持した。前記カラムに、上記基質を、10グラム/時間の流速で通液することにより、エステル交換反応を行った。40時間通液後、反応を終了した。
エステル交換反応後の基質から、200℃、133Paの条件で、脂肪酸を完全に留去し、反応後の油脂(反応油脂−3)を得た。分析結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
表2、表3に記載の結果から明らかなように、1,3位のP基準での反応率が高い、連続式反応である実施例3は、得られる油脂のβ−パルミトイル率が高い(品質がよい)。
本発明の課題は、トリグリセリドの構成脂肪酸に含まれるパルミチン酸の全量に占めるトリグリセリドの2位置に結合するパルミチン酸の含有量が50質量%以上である油脂を、効率よく製造する方法を提供することである。
(a)トリグリセリドの2位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が30〜100質量%である原料油脂と、炭素数18以上の不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上である、脂肪酸または脂肪酸低級アルキルエステルとを、
前記原料油脂のトリグリセリドの1,3位に結合する脂肪酸全量に占めるパルミチン酸の含有量が、1,3位選択的エステル交換後に、エステル交換前の0.15〜0.65倍となる割合で含有する、混合物を得る工程、