特許第6558030号(P6558030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6558030ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびそれよりなる二次電池封口板用シール部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558030
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびそれよりなる二次電池封口板用シール部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20190805BHJP
   C08K 5/24 20060101ALI20190805BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20190805BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20190805BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20190805BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20190805BHJP
   H01M 2/04 20060101ALI20190805BHJP
   H01M 2/06 20060101ALI20190805BHJP
   H01M 2/30 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08K5/24
   C08K5/20
   C08K5/524
   C09K3/10 F
   C09K3/10 Z
   C09K3/10 N
   H01M2/08 A
   H01M2/04 A
   H01M2/06 A
   H01M2/30 D
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-75961(P2015-75961)
(22)【出願日】2015年4月2日
(65)【公開番号】特開2016-44303(P2016-44303A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2018年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-167891(P2014-167891)
(32)【優先日】2014年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 保巳
(72)【発明者】
【氏名】春成 武
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博之
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−131896(JP,A)
【文献】 特開平07−283427(JP,A)
【文献】 特開2009−176647(JP,A)
【文献】 特開平06−047762(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/059009(WO,A1)
【文献】 特開2009−152354(JP,A)
【文献】 特開2006−005304(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/142441(WO,A1)
【文献】 特開2013−035950(JP,A)
【文献】 特開2008−027823(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007687(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
H01M 2/02
H01M 10/36
H01M 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズのポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともエチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体(B)10〜50重量部、金属不活性化剤(C)0.05〜2重量部、繊維状充填剤(D)10〜80重量部を含み、金属不活性化剤(C)が、2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イルベンズアミド、N’1,N’12−ビス(2−ヒドロキシベンゾイル)ドデカンジヒドラジド、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、トリス(2―tert−ブチル−5−メチル−4−チオ−5’−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フェニルフォスファイト、1,2−ビス(3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、N,N’−ビス(2−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ)エチル)オキサミドからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属不活性化剤、繊維状充填剤(D)がガラス繊維であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、金属不活性化剤(C)0.2〜2重量部を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
金属接合用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
物理的処理及び/又は化学処理による表面処理を施した金属製電極端子及び金属製蓋板を一体化するための二次電池封口板用シール部材であって、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物よりなることを特徴とする二次電池封口板用シール部材。
【請求項5】
物理的粗化及び/又は陽極酸化処理による表面処理を施した金属製電極端子及び金属製蓋板を一体化するための二次電池封口板用シール部材であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池封口板用シール部材。
【請求項6】
リチウムイオン電池封口板用シール部材であることを特徴とする請求項4又は5に記載の二次電池封口板用シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものであり、詳細には、常温常湿、長期の高温高湿環境下において金属との優れた接合性を有することから特に二次電池封口板用シール部材に適したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車載用あるいは民生用において、高電圧、高エネルギー密度の二次電池として、リチウムイオン電池が注目されている。
【0003】
リチウムイオン電池は、電池の劣化を防ぐため、電池容器内部と外部とのシール性を保持する必要がある。リチウムイオン電池封口板の蓋板と電極端子との間のシールには、O−リングによるシール、表面処理金属で樹脂とを一体化したシールが使用されてきた。
【0004】
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPSと略記することもある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記することもある。)は、優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性を有し、自動車機器部材、電気・電子機器部材及びOA機器部材等に幅広く使用されており、リチウムイオン電池のシール部材としても検討されており、特定の弾性率を有するエラストマ樹脂を含有したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いた封口板(例えば特許文献1参照。)、高結晶化度の非強化型ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いた封口板(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【0005】
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物として、PPSに特定のアルミナを配合したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびそれよりなる二次電池封口板用シール部材(例えば、特許文献3参照。)等が提案されている。
【0006】
さらに、グリシジルエステルを含有するオレフィン系重合体、酸性化されたポリフェニレン・サルファイド、弾性体、場合によっては金属不活性化材を含有する組成物(例えば特許文献4参照。)、希土類元素と遷移金属とを含有する希土類遷移金属合金粉末、ポリフェニレンサルファイド樹脂、及び重金属不活性化剤を含有する射出成形用組成物(例えば特許文献5参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−27823号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開2008−27849号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特開2012−131896号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献4】特表2007−502894号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献5】特許第4821768号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に提案された封口板においては、該封口板を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の収縮率が大きく、寸法精度に劣ることから、封口板としての信頼性に課題を有するものであった。また、特許文献2に開示された封口板においては、該封口板を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂は成形条件幅が狭く良品を得るための安定生産性に劣るという課題を有していた。さらに、特許文献3に提案されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、耐薬品性、耐冷熱性、良成形性に優れるといった特長を有するものの、長期の高温高湿環境下における金属との接合強度に課題が残った。
【0009】
また、特許文献4に提案された組成物および特許文献5に提案された射出成型用組成物については、金属との接合によるシールやリチウムイオン二次電池の封口板への応用等について何ら提案されていないものである。
【0010】
そこで、二次電池封口板用シール部材としての適用も可能となる金属との接合性に優れる樹脂の出現が望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、特定のポリアリーレンスルフィド樹脂、特定のエチレン系共重合体、金属不活性化剤及び繊維状充填剤を含んでなる樹脂組成物が、常温常湿、長期の高温高湿環境下において金属との優れた接合性を有することから特に二次電池封口板用シール部材に適することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズのポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともエチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体(B)10〜50重量部、金属不活性化剤(C)0.05〜2重量部、繊維状充填剤(D)10〜80重量部を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するポリアリーレンスルフィド(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズであるポリアリーレンスルフィドである。該ポリアリーレンスルフィド(A)としては、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該PASの具体的例示としては、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れることから、ポリ(p−フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0015】
そして、該PAS(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズのPASであり、特に機械的強度と薄肉流動性に優れるPAS樹脂組成物となることから200〜600ポイズのPASであることが好ましい。ここで、溶融粘度が100ポイズ未満の場合、樹脂組成物の機械的強度の低下が認められる。一方、溶融粘度が1000ポイズを超える場合、樹脂組成物の薄肉流動性に劣り、二次電池封口板用シール部材とした際の常温常湿、長期の高温高湿環境下における金属との接合性に劣るものとなる。
【0016】
該PAS(A)の製造方法として、PASの製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロビフェニル等を挙げる事ができる。
【0017】
また、PAS(A)としては、直鎖状のものであっても、重合時にトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したものであっても、PASの分子鎖の一部及び/又は末端を、例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性されたものであっても、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。また、該PASは、加熱硬化前又は後に脱イオン処理(酸洗浄や熱水洗浄など)、あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってイオン、オリゴマーなどの不純物を低減させたものであってもよい。さらに、重合反応終了後に不活性ガス又は酸化性ガス中で加熱処理を行い硬化を行ったものであってもよい。
【0018】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するエチレン系共重合体(B)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の金属との接合性を向上させるものであり、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)からなる群より選択される少なくとも1種以上のものである。
【0019】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が金属との接合性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50〜98:40〜1:10〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)の具体的例示としては、(商品名)ボンダインLX4110(アルケマ社製)、(商品名)ボンダインTX8030(アルケマ社製)、(商品名)ボンダインAX8390(アルケマ社製)等が挙げられる。
【0020】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が金属との接合性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位(重量比)=85〜99:15〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2C(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファーストE(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0021】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が金属との接合性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:酢酸ビニル残基単位(重量比)=50〜98:15〜1:35〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2B(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7B(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0022】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=50〜98:10〜1:40〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト7L(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7M(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0023】
そして、エチレン系共重合体(B)を構成するα−オレフィンとは、炭素数が3以上のα−オレフィンを言い、例えばプロピレン、ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を例示できる。また、α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のアルキルエステルが挙げられ、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステルが挙げられる。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する該エチレン系共重合体(B)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、10〜50重量部である。該エチレン系共重合体(B)の配合量が10重量部未満である場合、得られる組成物は金属との接合性に劣るものとなる。一方、該エチレン系共重合体の配合量が50重量部を超える場合、得られる組成物は金型汚染性、成形品外観に劣り、成形時の発生ガス量が多いものとなる。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する金属不活性化剤(C)としては、金属不活性化剤と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、例えばN,N’−ジフェニルオキザミド、2,4−ジカプロイルレゾルシフェノン、2−チオバルビツール酸、N,N’−ビス(o−メルカプトフェニル)チオ尿素、N−サリチリデン−N’−サリチルヒドラジド、m−ニトロベンズヒドラジド、ジアセチルジサリチルヒドラゾン、3−アミノフタルヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、メルカプトアセチルアミノトリアゾール、アジピン酸ヒドラジド、N−(2,5−ジヒドロキシベンゾイル)フェニルヒドラジン、N’−ベンゾイルピロリドンカルボン酸ヒドラジド、2−ヒドロキシアセトフェノンヒドラゾン、サリチルアルデヒドオキザリルジヒドラゾン、8−オキシキノリン、N−アセチル−N’−サリチロイルヒドラジン、酒石酸ジ−o−ヒドロキシアニリド、ルベアン水素酸、オキザロビス(2−ヒドロキシ−5−オクチルベンジリデンヒドラジド)、リンゴ酸、アズイミドベンゼン、チオジプロピオニルアミノトリアゾール、2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イルベンズアミド、N’1,N’12−ビス(2−ヒドロキシベンゾイル)ドデカンジヒドラジド、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン等、が挙げられ、さらに、トリス(2―tert−ブチル−5−メチル−4−チオ−5’−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フェニルフォスファイト、1,2−ビス(3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、N,N’−ビス(2−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ)エチル)オキサミド等、が挙げられ、特に金属との接合性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イルベンズアミド、N’1,N’12−ビス(2−ヒドロキシベンゾイル)ドデカンジヒドラジド、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属不活性化剤であることが好ましく、また、トリス(2―tert−ブチル−5−メチル−4−チオ−5’−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フェニルフォスファイト、1,2−ビス(3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、N,N’−ビス(2−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ)エチル)オキサミドからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属不活性化剤であることが好ましい。
【0026】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する該金属不活性化剤(C)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、0.05〜2重量部である。該金属不活性化剤(C)の配合量が0.05重量部未満である場合、得られる組成物は金属との接合性に劣るものとなる。一方、該金属不活性化剤(C)の配合量が2重量部を超える場合、配合量に見合った接合性の向上効果が得られず、また、成形時の発生ガス量が多いものとなる。そして、特に得られる組成物が金属との接合性に優れるものとなることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、0.2〜2重量部であることが好ましい。
【0027】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する繊維状充填剤(D)は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械的強度及び寸法安定性を向上させるために配合されるものであり、この目的を達成できる繊維状充填剤であれば、如何なるものを用いることも可能である。繊維状充填剤(D)としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等が例示でき、その中でも、ガラス繊維が好ましい。該繊維状充填剤(D)は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械的強度が高いものとなることから、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであることが好ましい。
【0028】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する該繊維状充填剤(D)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、10〜80重量部である。該繊維状充填剤(D)の配合量が10重量部未満である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。一方、該繊維状充填剤(D)の配合量が80重量部を越える場合、得られる組成物は靭性、溶融流動性、成形品外観に劣るものとなる。
【0029】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、非繊維状充填剤を配合していてもよく、非繊維状充填剤としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化珪素、窒化硼素、窒化アルミニウム等の窒化物;ガラスビーズ;水酸化マグネシウム等を例示でき、その中でも、クレー水酸化マグネシウム、ガラスビーズが好ましい。また、該非繊維状充填剤は、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであってもよい。
【0030】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の1種以上を混合して使用することができる。
【0031】
本発明のPAS樹脂組成物を製造する際の製造方法としては特に制限はなく、一般的な混合・混練方法として知られている方法を用いる事が可能であり、例えば、全ての原材料を配合し溶融混練する方法;原材料の一部を配合した後で溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法;あるいは原材料の一部を配合後単軸又は二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法、など、いずれの方法を用いてもよい。また、小量の添加成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加することで使用してもよい。そして、溶融混練を行う方法としては、従来から使用されている加熱溶融混練方法を用いることができ、例えば単軸又は二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダーなどによる加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常270〜350℃の中から任意に選ぶことができる。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、金属との接合性に優れることから、各種用途に適応することが可能であり、そのなかでも、二次電池封口板用シール部材、特に電解液から容易にフッ化水素酸を発生しやすいリチウムイオン電池封口板の物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等により表面を粗面化した電極端子と蓋板との間に配置されるシール部材、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子と蓋板との間に配置されるシール部材として好適に用いることが可能である。
【0033】
ここで、二次電池封口板とは、電極端子、蓋板、絶縁のシール部材から構成される二次電池容器の一部材であり、図1に概略図を示す。ここで、1,2は物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましく物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子を示し、電極端子は正極用と負極用の一対の金属からなり、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金から選択される少なくとも1種以上の金属であることが好ましい。3は、シール部材を示し、シール部材は本発明のPAS樹脂組成物よりなることが好ましい。4は物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した蓋板を示し、蓋板の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属を挙げることができる。
【0034】
そして、該電極端子、該蓋板は、とりわけ電極端子及び蓋板とシール部材、特に本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなるシール部材、との間のシール性に優れるものとなることから、物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子、蓋板である。
【0035】
そして、化学的粗化処理としては、例えば陽極酸化処理法、酸又はアルカリの水溶液で化学処理する方法、等を挙げることができる。
【0036】
酸又はアルカリの水溶液で化学処理する方法としては、例えば電極端子、蓋板等の金属製部材を酸又はアルカリの水溶液に浸せきし金属製部材表面を化学処理する方法であってもよく、その際の酸又はアルカリの水溶液としては、例えばリン酸等のリン酸系化合物;クロム酸等のクロム酸系化合物;フッ化水素酸等のフッ化水素酸系化合物;硝酸等の硝酸系化合物;塩酸等の塩酸系化合物;硫酸等の硫酸系化合物;水酸化ナトリウム、アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液;トリアジンチオール水溶液、トリアジンチオール誘導体水溶液により化学処理する方法等を挙げることができ、より具体的例示としては、特開平10−096088号公報、特開平10−056263号公報、特開平04−032585号公報、特開平04−032583号公報、特開平02−298284号公報、WO2009/151099号公報、WO2011/104944号公報等に提案の方法、等を挙げることができる。
【0037】
陽極酸化法としては、電極端子、蓋板等の金属製部材を陽極として電解液中で電化反応を行い、その表面に酸化被膜を形成する方法であり、メッキ等の分野において陽極酸化法として一般的に用いられている方法を用いることができ、例えば1)一定の直流電圧をかけて電解を行う直流電解法、2)直流成分に交流成分を重畳した電圧をかけることにより電解を行うバイポーラ電解法、等を挙げることができる。さらに、物理的表面粗化法としては、金属表面に微小固体粒子を接触或いは衝突させたり、高エネルギー電磁線を照射するなどの物理的な手段により表面粗化を行う方法があり、例えばサンドブラスト処理、液体ホーニング処理等として知られている方法を挙げることができる。また、サンドブラスト処理、液体ホーニング処理の際の研磨剤としては、例えばサンド、スチールグリッド、スチールショット、カットワイヤー、アルミナ、炭化ケイ素、金属スラグ、ガラスビーズ、プラスチックビーズ等を挙げることができる。
【0038】
物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した該電極端子と該蓋板を本発明のPAS樹脂組成物をシール部材として固定化することにより、該電極端子、該蓋板、および該PAS樹脂組成物の常温常湿、長期の高温高湿環境下における接合性が優れたものとなる。そして、シール部材として固定化する際には、該シール部材により該電極端子と該蓋板をかしめる方法、該電極と該蓋板を固定化する一体成形を行う方法、等を挙げることができ、その中でも特に生産性に優れた方法となることから、例えば射出成形機、押出し成形機、圧縮成形機などを用いた金属インサート成形により、該電極端子及び/又は該蓋板に対し、本発明のPAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、常温常湿、長期の高温高湿環境下において金属との優れた接合性を有することから、特に二次電池封口板用シール部材、リチウムイオン電池封口板用シール部材として優れた特性を有するものである。
【実施例】
【0040】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの例によりなんら制限されるものではない。
【0041】
実施例及び比較例において用いた、ポリアリーレンスルフィド(A)、エチレン系共重合体(B)、金属不活性化剤(C)、繊維状充填材(D)を以下に示す。
【0042】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、単にPPS(a1−2)と記す。):溶融粘度400ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、単にPPS(a1−3)と記す。):溶融粘度1600ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、単にPPS(a2−1)と記す。):溶融粘度450ポイズ。
【0043】
<エチレン系共重合体(B)>
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b1−1)と記す。):アルケマ(株)製、(商品名)ボンダインAX8390。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸−グリシジルエステル共重合体(b2−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b2−1)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファーストE。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b3−1)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7B。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−アルキルエステル共重合体(b4−1)(以下、単にエチレン系共重合体(b4−1)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7M。
【0044】
<金属不活性化剤(C)>
2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イルベンズアミド(c−1)(以下、単に金属不活性化剤(c−1)と記す。):(株)ADEKA製、(商品名)アデカスタブCDA−1。
N’1,N’12−ビス(2−ヒドロキシベンゾイル)ドデカンジヒドラジド(c−2)(以下、単に金属不活性化剤(c−2)と記す。):(株)ADEKA製、(商品名)アデカスタブCDA−6。
N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン(c−3)(以下、単に金属不活性化剤(c−3)と記す。):(株)ADEKA製、(商品名)アデカスタブCDA−10。
トリス(2―tert−ブチル−5−メチル−4−チオ−5’−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フェニルフォスファイト(c−4)(以下、単に金属不活性剤(c−4)と記す。):クラリアント社製、(商品名)ホスタノックスOSP1。
1,2−ビス(3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオニル)ヒドラジン(c−5)(以下、単に金属不活性剤(c−5)と記す。):BASF社製、(商品名)イルガノックスMD1024。
N,N’−ビス(2−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ)エチル)オキサミド(c−6)(以下、単に金属不活性剤(c−6)と記す。):アディバント社製、(商品名)ナウガードXL−1。
【0045】
<繊維状充填材(D)>
ガラス繊維(d−1);日本電気硝子(株)製、(商品名)T−760H。
【0046】
<合成例1(PPS(a1−2)の合成)>
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、硫化ナトリウム2.9水和物6214g及びN−メチル−2−ピロリドン17000gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン7150g、3,5−ジクロロアニリン47g(p−ジクロロベンゼンと3,5−ジクロロアニリンの総量に対して約0.6モル%)、N−メチル−2−ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を温水でポリマーを繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、溶融粘度が250ポイズのアミノ基置換ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(a1−1)と記す。)を得た。このPPS(a1−1)を、さらに窒素雰囲気下250℃で4時間硬化を行いアミノ基置換ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(a1−2)と記す。)を得た。
【0047】
得られたPPS(a1−2)の溶融粘度は400ポイズであった。
【0048】
さらに、得られたPPS(a1−2)を、酸素雰囲気下230℃で4時間硬化を行い溶融粘度が1600ポイズのアミノ基置換ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(a1−3)と記す。)を得た。
【0049】
<合成例2(PPS(a2−1)の合成)>
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、47%硫化水素ナトリウム水溶液5607g、48%水酸化ナトリウム水溶液3807g及びN−メチル−2−ピロリドン10773gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、4533gの水を留去した。この系を170℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン7060gとN−メチル−2−ピロリドン5943gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて1時間重合し、さらに250℃まで昇温し、250℃にて2時間重合した。更に、250℃で水1503gを圧入し、再度255℃まで昇温し、225℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、遠心分離器により固形分を単離した。該固形分を130℃のN−メチル−2−ピロリドンで洗浄し、続いて温水で繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、溶融粘度が450ポイズの直鎖状ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(a2−1)と記す。))を得た。
【0050】
合成例により得られたポリアリーレンスルフィド及び実施例により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の評価・測定方法を以下に示す。
【0051】
〜PASの溶融粘度測定〜
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT−500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0052】
〜PAS樹脂組成物と銅板の23℃での接合性〜
長さ45mm、幅18mm、厚み1.5mmの銅(C1100)製平板をアセトンによる脱脂処理後、#600のアルミナ、次いで#2000のアルミナにて液体ホーニング処理を行い、表面を粗面化した銅製平板を得た。そして、該銅製平板を射出成形金型にはめ込み、PAS樹脂組成物を射出成形機を用いてインサート成形した。シリンダー温度310℃、冷却時間40秒、金型温度135℃の条件でインサート成形を行うことで該PAS樹脂組成物と銅板を一体化させた、せん断引張試験片を作製した。なお、該PAS樹脂組成物と銅板の接合面は、銅板の幅方向に10mm、長さ方向に5mmであった。次いで、該せん断引張試験片を用い、破断時の引張強度、すなわち、接合面の接合強度を測定した。測定装置(島津製作所製、(商品名)AG−5000B)を用い、23℃、50%Rhの環境下、チャック間距離55mm、引張速度10mm/分の条件でせん断引張試験を行った。接合強度として40MPa以上のものを常温での接合性に優れると判断した。
【0053】
〜PAS樹脂組成物と銅板の高温高湿環境下での接合性〜
恒温恒湿槽内を85℃、85%Rhの条件に保持した状態にて、該せん断引張試験片を該恒温恒湿槽内に1000時間静置した。次いで、該恒温恒湿槽内より取り出した該せん断引張試験片を23℃、50%Rhの環境下に24時間静置した後、接合面の接合強度を測定した。測定装置(島津製作所製、(商品名)AG−5000B)を用い、23℃、50%Rhの環境下、チャック間距離55mm、測定速度10mm/分の条件でせん断引張試験を行った。常温での接合強度に対し、該恒温恒湿槽内に1000時間静置した後の接合強度の保持率が80%以上のものを、高温高湿環境下での接合性に優れると判断した。
【0054】
〜発生ガス〜
該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を射出成形機を用い、インサート成形する際に、成形機のノズル先端から発生するガスが殆んど認められないものを○、ガスが多く認められるものを×として判定した。発生ガスが○であるものを発生ガス量が少なく優れると判断した。
【0055】
〜金型汚染性〜
該せん断引張試験片を、射出成形により連続して100個成形し、その後の金型キャビティー内に付着する汚染物の有無を観察した。汚染物が認められないものを○、僅かでも汚染物が認められるものを×として判定した。金型汚染性は、○である状態を金型汚染が無く優れると判断した。
【0056】
〜二次電池封口板の作製〜
図2に示す形状のアルミニウム(A1050)製蓋板及び図3に示す形状のアルミニウム(A1050)製平板をアセトンによる脱脂処理後、1%水酸化ナトリウム水溶液、次いで10%硫酸水溶液に浸漬し、さらに15%硫酸水溶液中で電流密度0.5A/cmで陽極酸化処理することにより、表面を粗面化したアルミニウム蓋板及びアルミニウム製電極端子を得た。
【0057】
また、図3に示す形状の銅(C1100)製平板を用意し、アセトンによる脱脂処理後、#600のアルミナ、次いで#2000のアルミナにて液体ホーニング処理を行い、表面を粗面化した銅電極を得た。
【0058】
表面を粗面化したアルミニウム製蓋板、アルミニウム製電極及び銅製電極のそれぞれに対し、図1に示す形状となるよう、該PAS樹脂組成物を射出成形機を用いてインサート成形し、二次電池封口板を作製した。
【0059】
〜二次電池封口板用シール部材の高温高湿環境下での接合性〜
恒温恒湿槽内を85℃、85%Rhの条件に保持した状態にて、該二次電池封口板を該恒温恒湿槽内に1000時間静置した。次いで、該恒温恒湿槽内より取り出した該二次電池封口板を23℃、50%Rhの環境下に24時間静置した後、該電極端子と該蓋板を該PAS樹脂組成物でシールした部位にレッドインクを塗付した。次に、該二次電池封口板を密閉可能なデシケーター内に静置し、デシケーター内の大気圧が0.1kPaになるまでデシケーター内の空気を吸引し、1時間経過後、デシケーター内を大気圧に開放した。その後、デシケーター内より取り出した該二次電池封口板のレッドインクを洗浄し、さらに検査用の現像液を塗付することで、シール性を目視により観察した。シール部からのレッドインクのしみ出しが認められないものを○、僅かでもしみ出しが認められるものを×と判定した。二次電池封口板用シール部材の高温高湿環境下での接合性は、○であるものを接合性が優れると判断した。
【0060】
実施例1
PPS(a1−2)62.9重量%、エチレン系共重合体(b1−1)15.1重量%、金属不活性化剤(c−1)1.9重量%の割合で配合して、シリンダー温度310℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(d−1)を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製した。その際のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の構成割合は,PPS(a1−2)100重量部に対し、エチレン系共重合体(b1−1)23重量部、金属不活性化剤(c−1)0.8重量部、ガラス繊維(d−1)31重量部であった。
【0061】
該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用い、該PAS樹脂組成物と銅板の23℃での接合性、該PAS樹脂組成物と銅板の高温高湿環境下での接合性、発生ガス、金型汚染性の評価を行った。さらに、該PAS樹脂組成物を用いた二次電池封口板を作製し、該二次電池封口板用シール部材の高温高湿環境下での接合性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0062】
得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、23℃および高温高湿環境下での接合性に優れ、成形時の金型汚染性、発生ガスは、ほとんど認められず優れていた。また、得られた二次電池封口板用シール部材は、高温高湿環境下での接合性に優れるものであった。
【0063】
実施例2〜10
PPS(a1−2、a2−1)、エチレン系共重合体(b1−1、b2−1、b3−1、b4−1)、金属不活性化剤(c−1、c−2、c−3)及びガラス繊維(d−1)を表1、表2に示す配合割合となるようにした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物および二次電池封口板を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1、表2に示す。
【0064】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、23℃および高温高湿環境下での接合性に優れ、成形時の金型汚染性、発生ガスは、ほとんど認められず優れていた。また、得られた全ての二次電池封口板用シール部材は、高温高湿環境下での接合性に優れるものであった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
実施例11〜15
PPS(a1−2)、エチレン系共重合体(b1−1、b4−1)、金属不活性化剤(c−4、c−5、c−6)及びガラス繊維(d−1)を表3に示す配合割合となるようにした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物および二次電池封口板を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表3に示す。
【0067】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、23℃および高温高湿環境下での接合性に優れ、成形時の金型汚染性、発生ガスは、ほとんど認められず優れていた。また、得られた全ての二次電池封口板用シール部材は、高温高湿環境下での接合性に優れるものであった。
【0068】
【表3】
比較例1〜7
PPS(a1−2、a1−3)、エチレン系共重合体(b1−1、b4−1)、金属不活性化剤(c−1、c−3)及びガラス繊維(d−1)を表3に示す配合割合となるようにした以外は、実施例1と同様の方法により組成物及び二次電池封口板を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表4に示した。
【0069】
比較例1、2、3、6より得られた組成物は、23℃での接合強度が劣るものであった。比較例1、2、4、6により得られた組成物は、高温高湿下での接合性が劣るものであった。比較例2、5、7より得られた組成物は、得られた組成物を用いインサート成形する際の発生ガスが多く、金型汚染性が劣るものであった。また、比較例1、2、3、4、5、6、7より得られた組成物を用いて作製した二次電池封口板用シール部材は、高温高湿下での接合性が劣るものであった。
【0070】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、常温常湿、長期の高温高湿環境下において金属との接合性に優れ、成形時の発生ガス量が少なく、金型汚染性に優れるものであり、特に二次電池封口板用シール部材、リチウムイオン電池封口板用シール部材として優れた特性を有するものであり、その産業用利用可能性は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】;二次電池封口板の概略図。
図2】;実施例及び比較例で用いた蓋板を示した概略図(単位:mm)
図3】;実施例及び比較例で用いた電極を示した概略図(単位:mm)
【符号の説明】
【0073】
1;アルミニウム製電極端子
2;銅製電極端子
3;シール部材
4;蓋板
図1
図2
図3