(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558355
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】SOIウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20190805BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
H01L27/12 B
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-245620(P2016-245620)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2018-101663(P2018-101663A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2018年11月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】横川 功
【審査官】
宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−080314(JP,A)
【文献】
特開2002−313689(JP,A)
【文献】
特開平09−331049(JP,A)
【文献】
特開2009−272619(JP,A)
【文献】
特開2012−238873(JP,A)
【文献】
特開2007−194349(JP,A)
【文献】
特開2007−194347(JP,A)
【文献】
特開2013−055184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハからなるボンドウェーハと、シリコンウェーハからなるベースウェーハとを、前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハの少なくともいずれか一方の表面に形成されたシリコン酸化膜を介して室温で貼り合わせる貼り合わせ工程と、
該貼り合わせ工程の後に前記ボンドウェーハを薄膜化する薄膜化工程と
を有し、SOIウェーハを製造するSOIウェーハの製造方法において、
前記貼り合わせ工程よりも前に、さらに、
前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハを親水性の洗浄液で洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄を行った後のボンドウェーハとベースウェーハとを、吸引乾燥及びスピン乾燥のうち少なくともいずれか一つの乾燥方法により乾燥する乾燥工程と
を有し、
前記乾燥工程の終了後、前記貼り合わせ工程を開始するまでの間に、前記貼り合わせ工程を行う際の貼り合わせ速度が20mm/秒以下になるまで前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを保管し、
前記貼り合わせ速度を20mm/秒以下として前記貼り合わせを行うことを特徴とするSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記保管する時間を70分以上とすることを特徴とする請求項1に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程を行う前に、前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハのうち少なくとも一方に対してプラズマ処理を行う工程を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記親水性の洗浄液をSC1溶液又はSC2溶液とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記保管する時間を5時間以下とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記保管中は、前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを、温度25±5℃、湿度40±20%の雰囲気に接触するようにして保管することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記貼り合わせ工程後、最初の熱処理を行うまでの間に、前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた状態で、24時間以上放置することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOIウェーハの製造方法に関し、特に、2枚のウェーハの貼り合わせによるSOIウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚のシリコンウェーハを室温で貼り合わせる際、ウェーハ外周端の一方から反対側の外周端に向かって結合が進行する中の最後で、結合の回り込みによる、空気残りが発生し、外周部に微小なサイズのボイド(以下、外周微小ボイドと呼ぶ)が出来てしまう場合がある。
【0003】
外周微小ボイドは、ウェーハ外周部の端から3〜5mmの範囲に、直径0.1〜1mm程度のサイズで形成され、貼り合わせ時の結合速度が速いほど増加する傾向がある。
【0004】
2枚のウェーハを重ね合わせた状態で部分的に押圧すると、粗さの小さい高精度の面同士間に作用する吸引力によりウェーハ同士の結合が全面に広がるので、その結合波の進行を赤外線カメラ等で観察することにより、貼り合わせ速度を測定することができる。
【0005】
ウェーハを貼り合わせた際の結合強度を高めるため、貼り合せる面にプラズマ処理(プラズマにさらして貼り合せる面を活性化する処理)を行うと、貼り合わせ速度が速くなるため、外周微小ボイドが発生しやすくなる。
【0006】
特許文献1の[0061]段落には、貼り合わせウェーハの外周部に現れるボイドである「エッジボイド」は、結合速度が1.7cm/s未満で抑制できることが記載されている。また、特許文献2の[0005][0006]には、コンタクトウエーブ速度を50mm/秒以下にすることでウェーハ外周部の微小なボイドを抑制できることが記載されている。特許文献1には、加熱することによりウェーハ表面に吸着させる水の層厚を減少させること、特許文献2には、貼り合わせ環境の雰囲気の圧力、種類、粘性を制御することで貼り合わせの進行速度を制御することが記載されているが、これらは簡便な方法とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−238873号公報
【特許文献2】特開2007−194347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の問題点に鑑み、本発明は、簡便な方法で外周微小ボイドの発生を抑制してSOIウェーハを製造することができるSOIウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコンウェーハからなるボンドウェーハと、シリコンウェーハからなるベースウェーハとを、前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハの少なくともいずれか一方の表面に形成されたシリコン酸化膜を介して室温で貼り合わせる貼り合わせ工程と、該貼り合わせ工程の後に前記ボンドウェーハを薄膜化する薄膜化工程とを有し、SOIウェーハを製造するSOIウェーハの製造方法において、前記貼り合わせ工程よりも前に、さらに、前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハを親水性の洗浄液で洗浄する洗浄工程と、前記洗浄を行った後のボンドウェーハとベースウェーハとを、吸引乾燥及びスピン乾燥のうち少なくともいずれか一つの乾燥方法により乾燥する乾燥工程とを有し、前記乾燥工程の終了後、前記貼り合わせ工程を開始するまでの間に、前記貼り合わせ工程を行う際の貼り合わせ速度が20mm/秒以下になるまで前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを保管し、前記貼り合わせ速度を20mm/秒以下として前記貼り合わせを行うことを特徴とするSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0010】
このような方法により、貼り合わせ法でSOIウェーハを製造する際に、乾燥工程の終了後、貼り合わせ工程を開始するまでの保管時間を調整するだけの簡便な方法で外周微小ボイドの発生を抑制してSOIウェーハを製造することができる。そのため、新たな設備を導入したり、従来の設備を改造したりすることによる設備投資を伴わないため、安価な方法となる。
【0011】
このとき、前記保管する時間を70分以上とすることが好ましい。
【0012】
このような保管時間とすることにより、貼り合わせの際の貼り合わせ速度を20mm/秒以下により制御しやすくなる。その結果、より確実に外周微小ボイドの発生を抑制してSOIウェーハを製造することができる。
【0013】
また、前記洗浄工程を行う前に、前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハのうち少なくとも一方に対してプラズマ処理を行う工程を有することができる。
【0014】
このように、洗浄工程の前にプラズマ処理を行うことにより、貼り合わせの際のウェーハ同士の結合強度を高くすることができる。また、プラズマ処理を行うと、プラズマ処理を行わない場合よりも貼り合わせの際の貼り合わせ速度が速くなる傾向があり、外周微小ボイドが発生しやすくなるが、本発明のように乾燥工程後の保管時間を調整して貼り合わせ速度を遅くすることにより、外周微小ボイドの発生を抑制することができる。すなわち、外周微小ボイドが発生しやすいプラズマ処理を行う場合に、本発明は特に有効である。
【0015】
また、前記親水性の洗浄液をSC1溶液又はSC2溶液とすることが好ましい。
【0016】
貼り合わせ前のウェーハの洗浄に用いる親水性の洗浄液としては、SC1溶液又はSC2溶液を好適に用いることができる。
【0017】
また、前記保管する時間を5時間以下とすることが好ましい。
【0018】
これにより、生産性の低下を抑制することができる。
【0019】
また、前記保管中は、前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを、温度25±5℃、湿度40±20%の雰囲気に接触するようにして保管することが好ましい。
【0020】
このような雰囲気は通常のクリーンルーム内の雰囲気と同程度である。このような雰囲気に接触するようにしてウェーハを保管することにより、ウェーハ表面の水分を適切な範囲に減少させることができる。
【0021】
また、本発明のSOIウェーハの製造方法では、前記貼り合わせ工程後、最初の熱処理を行うまでの間に、前記ボンドウェーハと前記ベースウェーハとを貼り合わせた状態で、24時間以上放置することが好ましい。
【0022】
これにより、貼り合わせ後のSOIウェーハの外周微小ボイドをさらに減らすことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のSOIウェーハの製造方法により、貼り合わせ法でSOIウェーハを製造する際に、乾燥工程の終了後、貼り合わせ工程を開始するまでの保管時間を調整するだけの簡便な方法で外周微小ボイドの発生を抑制してSOIウェーハを製造することができる。そのため、新たな設備を導入したり、従来の設備を改造したりすることによる設備投資を伴わないため、安価な方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の工程の概略を示すフローチャートである。
【
図2】実験例において得られた、乾燥後保管時間と貼り合わせ速度の関係を示すグラフである。
【
図3】実験例において得られた、貼り合わせ速度とウェーハ1枚当たりの外周微小ボイド個数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
本発明のSOIウェーハの製造方法は、シリコンウェーハからなるボンドウェーハと、シリコンウェーハからなるベースウェーハとを、ボンドウェーハ及びベースウェーハの少なくともいずれか一方の表面に形成されたシリコン酸化膜を介して室温で貼り合わせる貼り合わせ工程を有する。また、該貼り合わせ工程の後にボンドウェーハを薄膜化する薄膜化工程を有する。本発明では、上記の貼り合わせ工程よりも前に、さらに、ボンドウェーハとベースウェーハを親水性の洗浄液で洗浄する洗浄工程と、該洗浄を行った後のボンドウェーハとベースウェーハとを、吸引乾燥及びスピン乾燥のうち少なくともいずれか一つの乾燥方法により乾燥する乾燥工程とを有する。本発明では、乾燥工程の終了後、貼り合わせ工程を開始するまでの間に、貼り合わせ工程を行う際の貼り合わせ速度が20mm/秒以下になるまでボンドウェーハとベースウェーハとを保管する。そのようにして保管した後、貼り合わせ速度を20mm/秒以下として貼り合わせを行う。
【0027】
吸引乾燥法及びスピン乾燥法は、自然乾燥に近いので、乾燥工程終了後もシリコンウェーハ表面の水分が多い。SOIウェーハ製造において、室温貼り合わせでは、水の水素結合で結合が進むため、ウェーハ表面の水分量が多いと、貼り合わせ速度が上がってしまう。しかし、乾燥終了後、しばらくウェーハをそのままの表面状態で保管しておけば、ウェーハ表面の水分は、環境の湿度に合った量に減少する。これにより、貼り合わせ速度が下がり、外周微小ボイドの発生個数を減少させることができ、或いは、ゼロにすることもできる。
【0028】
上記のように、外周微小ボイドを抑制するために貼り合わせ速度を下げること自体は公知である(特許文献1、特許文献2)。ただし、その具体的方法として、上記のように、特許文献1には、加熱することにより表面に吸着させる水の層厚を減少させること、特許文献2には、貼り合わせ環境(雰囲気、気圧など)を制御することがそれぞれ記載されているが、本発明のように、洗浄・乾燥後から貼り合わせまでの経過時間(保管時間)を制御することは記載されていない。
【0029】
以下、本発明のSOIウェーハの製造方法について、
図1を参照して、より詳細に説明する。
図1は本発明の工程(a〜g)の概略を示すフローチャートである。
【0030】
まず、シリコンウェーハからなるボンドウェーハと、シリコンウェーハからなるベースウェーハとを準備する(工程a)。このとき、ボンドウェーハ及びベースウェーハの少なくともいずれか一方は、表面にシリコン酸化膜が形成されたものを準備する。表面のシリコン酸化膜は熱酸化膜とすることが好ましい。
【0031】
上記のようにして準備したボンドウェーハ及びベースウェーハを洗浄する(工程c)のであるが、その前に、ボンドウェーハ及びベースウェーハのうち少なくとも一方に対してプラズマ処理を行うことが好ましい(工程b)。この工程は必須ではない。このプラズマ処理は、ウェーハをプラズマにさらして貼り合せる面を活性化する処理である。このプラズマ処理により、ウェーハを貼り合わせた後の貼り合わせウェーハの結合強度を高めることができる。ただし、このプラズマ処理は、プラズマ処理を行わない場合よりも貼り合わせの際の貼り合わせ速度が速くなる傾向があり、外周微小ボイドが発生しやすくなる。しかしながら、後述の工程eの保管時間を制御することにより、乾燥工程後の保管時間を調整して貼り合わせ速度を遅くすることにより、外周微小ボイドの発生を抑制することができる。
【0032】
次に、ボンドウェーハとベースウェーハを親水性の洗浄液で洗浄する(工程c)。この洗浄は、SC1溶液又はSC2溶液で行うことが好ましい。SC1溶液は、アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液であり、SC2溶液は塩化水素及び過酸化水素を含む水溶液であり、いずれもシリコンウェーハの洗浄において通常用いられている組成のものを用いることができる。また、その他の洗浄条件もシリコンウェーハの洗浄において通常用いられている条件を適用することができる。
【0033】
次に、洗浄を行った後のボンドウェーハとベースウェーハとを、吸引乾燥及びスピン乾燥のうち少なくともいずれか一つの乾燥方法により乾燥する(工程d)。吸引乾燥又はスピン乾燥については、例えば、特開2002−313689号公報を参照することができる。吸引乾燥とは、ウェーハ表面の水分を吸引して除去する乾燥方法である。吸引乾燥は、例えば、真空吸引ラインが設置された乾燥台座にシリコンウェーハをほぼ垂直に載せ、ウェーハ下部より水分を吸引することで、ウェーハ表面上の水分を除去することができる。乾燥台座に複数枚数の基板を載せるようにすることで、同時に複数枚数の基板を乾燥できるため、高い生産性が得られる。スピン乾燥は、シリコンウェーハ上の水分を、ウェーハを高速回転することにより得られる遠心力を用いて除去するもので、通常のスピン乾燥機により行うことができる。なお、乾燥法の典型例の一つであるIPA乾燥(水置換法)は、本発明において用いる乾燥法には含めない。
【0034】
次に、乾燥工程(工程d)の終了後、貼り合わせ工程(工程f)を開始するまでの前に、本発明では、保管工程(工程e)を有する。この保管工程では、貼り合わせ工程を行う際の貼り合わせ速度が20mm/秒以下になるまでボンドウェーハとベースウェーハとを保管する。ある特定の条件において、どの程度の時間保管すれば貼り合わせ速度が20mm/秒以下とすることができるかは、実験的に容易に求めることができる。また、貼り合わせ速度は、赤外線カメラ等で観察することにより、測定することができる。吸引乾燥及びスピン乾燥のいずれもウェーハ表面に水分を残して貼り合わせの際の水分量を調節することができるが、上記のように、従来、吸引乾燥又はスピン乾燥の直後に貼り合わせを行うと、貼り合わせ速度が速くなりすぎ、外周微小ボイドを抑制することができなかった。
【0035】
保管工程の保管する時間の長さは、貼り合わせ時の貼り合わせ速度が20mm/秒以下とできれば特に限定されないが、50分以上とすることが好ましく、70分以上とすることが特に好ましい。保管中は、ボンドウェーハとベースウェーハとを、温度25±5℃、湿度40±20%の雰囲気に接触するようにして保管することが好ましい。このような雰囲気は通常のクリーンルーム内の雰囲気と同程度である。このような雰囲気に接触するようにしてウェーハを保管することにより、ウェーハ表面の水分を適切な範囲に減少させることができる。生産性を考慮すると、保管する時間を5時間以下とすることが好ましい。
【0036】
吸引乾燥のように、ウェーハキャリアに収納された多数枚のウェーハを一度に乾燥するバッチ式の乾燥の場合には、乾燥装置内でそのまま保管することも可能であるが、ウェーハキャリアごとクリーンルーム内のクリーンベンチに移して保管したり、他の保管用容器に移して保管することもできる。
【0037】
次に、ボンドウェーハとベースウェーハとを、ボンドウェーハ及びベースウェーハの少なくともいずれか一方の表面に形成されたシリコン酸化膜を介して室温で貼り合わせる(工程f)。このとき、本発明では、上記保管工程が行われているので、貼り合わせ速度は20mm/秒以下となり、外周微小ボイドの発生が抑制される。
【0038】
貼り合わせ工程(工程f)の後にボンドウェーハを薄膜化する薄膜化工程を行う(工程g)。これによりSOIウェーハを製造する。この薄膜化は、イオン注入剥離によってもよく、研削、研磨、エッチング等の手法によってもよい。イオン注入剥離によって薄膜化を行う場合は、予め、少なくとも洗浄工程(工程c)より前に、ボンドウェーハに水素イオン等のイオン注入層を設けておく。貼り合わせ後に熱処理(剥離熱処理)することにより、該イオン注入層で剥離を行って、ボンドウェーハを薄膜化することができる。イオン注入剥離法による場合は、剥離熱処理後、または剥離熱処理と兼ねて結合熱処理を行うことができる。これにより貼り合わせウェーハの結合強度を高めることができる。薄膜化を研削、研磨、エッチング等により行う場合は、研削等を行う前に結合熱処理を行って貼り合わせウェーハの結合強度を高めることが好ましい。
【0039】
以上のようにしてSOIウェーハを製造するが、上記以外の工程を具備していてもよい。例えば、以下のように、貼り合わせ後、最初の熱処理までの保管を24時間以上とする貼り合わせ後保管工程を有していても良い。
【0040】
(貼り合わせ後のウェーハの保管について)
発明者の調査によると、室温で貼り合わされたウェーハに発生している外周微小ボイドは、そのままの状態で1日〜数日間放置しておくことによって消滅するものがあることが判明した。この理由は必ずしも明らかではないが、おそらく、気泡がウェーハの外部に抜けていくためと考えられる。
【0041】
従って、室温で貼り合わせが完了した直後の状態で外周微小ボイドが全く発生していなければ、そのまま熱処理(イオン注入剥離法の場合は剥離熱処理、薄膜化を研削・研磨で行う場合には結合熱処理)を行えばよいが、外周微小ボイドが多少発生しているような場合には、貼り合わせ工程後、最初の熱処理を行うまでの間に、ボンドウェーハとベースウェーハとを貼り合わせた状態で、室温で長時間(24時間以上)放置してから熱処理を行うことが好ましい。ただし、生産性を考慮して、このような貼り合わせ後の放置(1日〜数日)は行わなくてもよい。また、この放置時間はより短時間(例えば、6時間以上)であってもよい。
【0042】
(実験例)
以下のようにして、貼り合わせによりSOIウェーハを製造する際の、乾燥工程終了後の保管時間(経過時間)と貼り合わせ速度との関係を調査した。また、貼り合わせ速度と外周微小ボイド発生との関係を調査した。
【0043】
ボンドウェーハとして、直径300mm、主面の結晶方位<100
>のシリコン単結晶ウェーハを準備した。また、熱酸化膜を190nmの厚さで形成した。このボンドウェーハには、剥離用の水素イオン注入を行い、水素イオン注入層を形成した。
【0044】
ベースウェーハとして、直径300mm、主面の結晶方位<100
>のシリコン単結晶ウェーハを準備した。このベースウェーハには、熱酸化膜を形成せず、水素イオン注入層も形成しなかった。
【0045】
次に、上記のボンドウェーハ及びベースウェーハの両方に対し、プラズマ処理を行った。プラズマ処理は、酸素プラズマで行った。
【0046】
次に、貼り合わせ前の洗浄を行った。具体的には、上記のプラズマ処理を行った両ウェーハに対し、SC1洗浄を行った。洗浄終了後、両ウェーハに対し、吸引乾燥を行った。
【0047】
次に、貼り合わせまで保管を行った。保管はウェーハ容器であるFOUP(Front−Opening Unified Pod)内にて保管した。保管環境は温度22℃、湿度40%であった。これはクリーンルーム内の雰囲気と同等の雰囲気であった。この保管工程における保管時間を18分〜130分の範囲で変化させた。
【0048】
上記条件で保管を行った後、室温で貼り合わせを行った。貼り合わせの後、剥離熱処理を500℃、30分の条件で行い、水素イオン注入層で剥離した。
【0049】
剥離完了後、ボイド観察を行った。具体的には、剥離終了後の貼り合わせウェーハを、蛍光灯下、或いは、集光灯下で目視観察して行った。
【0050】
乾燥工程終了後の保管時間と貼り合わせ速度との関係を
図2に示した。
図2より、貼り合わせ速度は、保管時間が約50分を超えると20mm/秒より遅くなり、保管時間が70分以上で、約19.5mm/秒でほぼ飽和することがわかった。
【0051】
貼り合わせ前のSC−1洗浄条件(薬液温度、薬液濃度、洗浄時間)を調整することで、洗浄後の表面粗さを変化させることにより貼り合わせ速度を変化させ、貼り合わせ速度とウェーハ1枚当たりの外周微小ボイド発生数との関係を調査し、その結果を
図3に示した。貼り合わせ速度が約20mm/秒以下になれば、外周微小ボイドはほとんど発生しないことがわかった。尚、貼り合わせ速度は、赤外カメラで結合波を観察し、結合波がウェーハの一方の端から反対側の端まで進行する時間を計測し、その時間とウェーハ直径から算出した。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
乾燥工程の終了後、室温での貼り合わせを行うまでの経過時間(保管時間)を70分とした以外は実験例と同一条件で1バッチ(25枚)の貼り合わせSOIウェーハを作製した。このとき、25枚を連続で貼り合せたため、1枚目の保管時間は70分だが、25枚目の保管時間は、120分となった。すなわち、保管時間は70分〜120分の範囲で変動させたことになる。その際、貼り合わせ速度は19.0〜19.5mm/秒の範囲であった。その結果、外周微小ボイドは、平均0.8個/枚であった。
【0054】
(実施例2)
乾燥工程の終了後、室温での貼り合わせを行うまでの保管時間を50分とした以外は実験例と同一条件で1バッチ(25枚)の貼り合わせSOIウェーハを作製した。このとき、実施例1と同様に、25枚連続で貼り合せた。従って、1枚目の保管時間は50分だが、25枚目の経過時間は、100分となった。すなわち、保管時間は50分〜100分の範囲で変動させたことになる。その際、貼り合わせ速度は19.5〜20.0mm/秒の範囲であった。その結果、外周微小ボイドは、平均4.8個/枚であった。
【0055】
(実施例3)
室温で貼り合わせた直後のウェーハを、そのまま1日(24時間)室温で放置した後に剥離熱処理を行ったこと以外は実施例1と同一条件で1バッチ(25枚)の貼り合わせSOIウェーハを作製した。その結果、外周微小ボイドは、平均0.08個/枚であった。
【0056】
(実施例4)
室温で貼り合わせた直後のウェーハを、そのまま4日室温で放置した後に剥離熱処理を行ったこと以外は実施例2と同一条件で1バッチ(25枚)の貼り合わせSOIウェーハを作製した。その結果、外周微小ボイドは、平均0.2個/枚であった。
【0057】
(比較例1)
乾燥工程の終了後、室温での貼り合わせを行うまでの経過時間(保管時間)を調整しなかったこと以外は実験例と同一条件で5枚の貼り合わせSOIウェーハを作製した。乾燥工程の終了後、室温での貼り合わせを行うまでの時間は、5分以下であった。その際、貼り合わせ速度は22〜25mm/秒の範囲であった。その結果、外周微小ボイドは、平均310個/枚であった。
【0058】
実施例1〜4の結果より、乾燥工程の終了後、室温での貼り合わせを行うまでの時間を調整して貼り合わせの際の貼り合わせ速度を20mm/秒以下とすることにより、外周微小ボイドの発生を抑制することができることがわかった。また、実施例3、4の結果より、貼り合わせ後のウェーハを最初の熱処理まで24時間以上保管することにより、さらに外周微小ボイドの発生を抑制することができることがわかった。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。