(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
貸し出し中の水処理設備から通知された運転状況に基づいて、この水処理設備に使用されている水処理ユニットのメンテナンス時期を予測すると共に、メンテナンスに必要な部材の在庫状況を判断する予測部をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理設備の管理装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の実施形態に係る管理システムは、顧客に貸し出す水処理設備の管理を行うものである。
図1に示すように、水処理設備を構築するための水処理ユニットは複数の在庫拠点Sに保管されており、顧客の要求に応じて工場F等へ配送され、水処理設備が構築・設置される。管理センタ内の管理装置1は、在庫拠点Sに保管されている水処理設備(水処理ユニット)の在庫や、顧客に貸し出し中の水処理設備を管理している。
【0015】
管理装置1は、水処理設備の貸し出し要求を受け付けると、要求された仕様を満たす水処理設備の在庫があるか否かを判定し、判定結果を提示する。管理装置1は、在庫のある水処理設備の前回の貸し出し先における水量・水質情報と、新たな(今回の)貸し出し先から要求されている水量・水質情報との類似度を算出し、提示する。
【0016】
類似度の高い水処理設備の各種制御項目の現在の設定値は、新たな貸し出し先での設定値と同じ(近似する)ものが多い。そのため、類似度の高い水処理設備を新たな貸し出し先に搬入した後、制御項目の設定に要する作業量が少なくなり、水処理設備を用いて水処理を早期に開始できる。
【0017】
また、管理装置1は、貸し出す水処理設備を構築する複数の水処理ユニットの各々について、次回メンテナンスの時期を予測し、交換品等の在庫状況と共に提示する。これにより、貸し出し後に必要となる交換品等を事前に準備し、メンテナンスをスムーズに行うことができる。
【0018】
水処理設備は、例えば、用水処理設備、排水処理設備(水回収を含む)、水処理設備周辺設備といった種別に大別できる。
【0019】
用水処理設備としては、例えば、超純水製造設備、医療用純水製造設備などの純水製造設備、精製水製造設備、飲用水製造設備、軟水製造設備などの高度用水処理設備、海水淡水化設備、機能水製造設備といった特殊用水処理設備、などが挙げられる。
【0020】
排水処理設備としては、例えば、クロム排水処理設備、シアン処理設備、フッ素処理設備、セレン処理設備、重金属処理設備などの無機排水処理設備、好気性生物処理設備、嫌気性生物処理設備、凝集分離設備などの有機排水処理設備、クーラント排水処理設備、メッキ排水処理設備、雨水処理設備、ヤード排水処理設備などの特定排水処理設備、などが挙げられる。
【0021】
水処理設備周辺設備としては、例えば、ボイラ設備、冷却設備、薬注設備、脱水処理設備などの付帯設備、油回収設備、リン回収設備、フッ素回収設備などの有価物回収設備、などが挙げられる。
【0022】
図2は、管理システムのブロック図である。顧客の工場F等に設置される水処理設備2は、制御部20、監視部21、通信部22、及び複数の水処理ユニット23を有する。水処理ユニット23は、水処理設備に用いられる装置、機器であり、純水製造設備としては、例えば、活性炭フィルタ、逆浸透膜モジュール、電気式脱イオン装置、非再生型イオン交換器、膜式濾過器、脱気膜、水槽、ポンプ、バルブ等である。また、排水処理設備としては、例えば、散気装置、ブロワ、DO計やpH計などの計器、浸漬膜、スクラバー、脱水機、放散装置、水槽、ポンプ、バルブ等である。各水処理ユニット23には固有のID(識別情報)が割り当てられている。
【0023】
監視部21は、水処理設備2に設けられた各種センサ(図示略)を用いて、処理水量や処理水の水質、電流、電圧、振動、温度、圧力等を検出し、各水処理ユニット23の運転状況を監視する。制御部20は、各水処理ユニット23の運転状況をその識別情報と対応付け、通信部22により、インターネット等のネットワークを介して管理装置1に定期的に通知する。
【0024】
管理装置1は、管理装置1の動作を統括的に制御する制御部としてのCPU(Central Processing Unit)10を有している。CPU10は、OS(Operating System)プログラムをベースとし、その上で、ミドルウェアやアプリケーションプログラムなどを実行する。CPU10には、バスを介して、記憶部11、通信部12、表示部13、入力部14等が接続されている。
【0025】
記憶部11は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク装置等を含む。ROMには、各種のプログラムが格納されており、これらのプログラムに従ってCPU10が各種処理を実行することで管理装置1の各機能が実現される。RAMは、CPU10がプログラムに基づいて処理を実行する際にデータを一時的に格納するワークメモリとして使用される。
【0026】
ハードディスク装置は、保有している水処理設備(水処理ユニット)の在庫情報や、水処理設備の運転状況を示す運転状況データ、水処理設備の使用履歴、メンテナンス履歴を示す使用履歴データ等を格納する。水処理設備の使用履歴には、処理水の種別、水量、水質、原水の種別等を示す水量・水質情報が含まれる。
【0027】
なお、処理水の種別とは、処理水の用途であり、食品・飲用、医薬製造、冷却塔補給水、ボイラ補給水、雑用水(一般用水)、半導体製造などが例示される。一方、原水の種別とは用水系では例えば上水、井水、工水、海水、河川水など、排水系・排水回収系では、有機排水、無機排水、電子プロセス排水などが例示される。
【0028】
通信部12は、インターネット等を介して、水処理設備2の通信部22と通信を行う。
【0029】
表示部13は、例えば液晶ディスプレイであり、各種画面を表示する。入力部14は、管理者から各種の操作を受け付けるものであり、キーボードやマウス等である。
【0030】
CPU10が記憶部11に格納されている管理プログラムを実行することで、
図3に示すように、貸出候補抽出部15、類似度算出部16、貸出設備決定部17、在庫情報更新部18、及び処方時期予測部19が実現され、水処理設備の在庫管理、貸し出し予約、メンテナンス予測等を行うことができる。
【0031】
なお、図示しないが、顧客工場内や在庫拠点などに据置した端末又はモバイル端末といった外部端末からインターネット等を介して管理装置1にアクセスすることにより、各種操作を行うこともできる。
【0032】
次に、
図4に示すフローチャートを用いて水処理設備の予約方法を説明する。
【0033】
まず、ユーザは、入力部14を用いて、顧客が要求する水処理仕様を入力する。例えば、処理水の種別、水量、水質、原水の種別等の水量・水質情報が入力される(ステップS1)。
【0034】
ユーザは、水処理設備を貸し出す予定日を入力する(ステップS2)。さらに、ユーザは、水処理設備を検索する際の絞り込み条件を設定する(ステップS3)。絞り込み条件の設定方法を、
図5に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。まず、ユーザは、抽出対象とする水処理設備のステータスを選択する(ステップS31)。ステータスは、「貸出可」「貸出不可」からなり、「貸出可」は「予約可」「予約済」にさらに分類され、「貸出不可」は「修理中」「貸出中」に分類される。保有する全ての水処理設備の現在のステータスが、記憶部11内の在庫情報に記録されている。
【0035】
「予約可」は、現在、在庫拠点Sに保管されており、すぐに貸し出すことができる状態にあることを意味する。「予約済」は、現在、在庫拠点Sに保管されているが、既に予約されていることを意味する。この「予約済」は、先に予約したユーザと交渉し、他の水処理設備へ替えてもらうことが可能なため、「貸出可」に含まれる。
【0036】
「修理中」は、現在、構成する水処理ユニット等を修理していて使用できない状態にあることを意味する。「貸出中」は、現在貸し出されており、在庫拠点Sに無いことを意味する。
【0037】
ステータスが「貸出不可」となっている水処理設備を抽出対象とし(ステップS32_Yes)、さらに、ステップS2で入力した貸出予定日よりも後に貸し出し可能になる水処理設備を抽出対象とする場合(ステップS33_Yes)、貸出予定日から貸し出し可能になるまでの期間を入力する(ステップS34)。
【0038】
貸出予定日よりも後に貸し出し可能になる水処理設備とは、例えば、貸出予定日よりも後に返却される水処理設備や、貸出予定日よりも後に修理が完了する水処理設備である。貸出予定日からの期間を「1ヶ月」と入力した場合、貸出予定日から1ヶ月以内に返却又は修理が完了する水処理設備が抽出対象に含まれる。
【0039】
このようにして絞り込み条件を設定した後、貸出候補抽出部15が、貸し出しする水処理設備の候補を抽出する(
図4、ステップS4)。貸出候補抽出部15は、ステップS1で入力された仕様を満たし、かつ、設定された絞り込み条件を満たす水処理設備を貸し出し候補として抽出する。
【0040】
例えば、貸出候補抽出部15は、在庫拠点Sに保管されている水処理設備、及び貸し出し予定日よりも前に返却される現在貸し出し中の水処理設備の中から、ステップS1で入力された顧客からの要求を満たす水処理設備を抽出する。
【0041】
類似度算出部16は、抽出した貸し出し候補の各々について、前回の貸し出し先での水量・水質情報(貸し出し中の場合は現在の貸し出し先での水量・水質情報)と、ステップS1で入力された今回の(新たな)貸し出し先における水量・水質情報との類似度を、所定の計算式を用いて算出する(ステップS5)。
【0042】
類似度の算出については、2つの集合の要素がどの程度似ているか(一致度)を数量化した類似性の指標の算出方法として一般に知られた手法を用いることができ、例えば、コサイン類似度、ジャッカード係数、ダイス係数、シンプソン係数などを用いることができる。ここでは、重み付き特性ベクトルを用いたコサイン類似度を例に挙げて説明する。
【0043】
まず、水処理設備の管理項目(電流、電圧、振動、温度、圧力など)や、水の管理項目(水量、水温、物質濃度、ORP、pHなど)から、類似度の算出に使用するn個の項目を選定する。
【0044】
直前の貸出先bの各項目x
b1〜x
bn、次回の貸出先aの各項目x
a1〜x
anの数値を入力し、以下のように、それぞれの特徴ベクトルx
b、x
aを算出する。入力する数値は、そのものの数値(生データ)でもよいし、当該数値から基準値を引いた値でもよい。
【0046】
選定した各項目について、対応する重みk
1〜k
nの数値を入力し、以下のような重みベクトルkを算出する。
【0048】
以下のように、水処理設備全体の観点について類似度を算出する。
【0050】
続いて、管理項目毎に類似度を算出する。
【0051】
水処理設備の貸し出し候補のリストが、算出された類似度と共に、表示部13に表示される。リストでは、水処理設備全体の観点の類似度が高い(総合的に類似性の高い)順に候補を表示してもよい。また、設定項目毎の類似度を併記し、設定項目の数値をそのまま使用、または変更する際の目安としてもよい。ユーザがリストから候補を選択すると、選択された水処理設備の詳細情報を示す画面が表示部13に表示される。
【0052】
図6に示すように、詳細情報画面には、ステータス、所在地、使用期間、構成する水処理ユニットの情報等が表示される。所在地は、この水処理設備が現在どこにあるかを示すものであり、在庫拠点Sや貸し出し先の位置が表示される。履歴ボタン61を押すと、過去の使用履歴が表示される。
【0053】
構成ユニット毎に、使用期間、最終メンテナンス日、次回メンテナンス予定月などが表示される。
【0054】
貸し出す水処理設備を決定して予約ボタン60を押すと(ステップS6)、貸出設備決定部17が予約を受け付け、この水処理設備の貸し出し先、貸し出し期間の入力画面に切り替える。ユーザは、入力部14を用いて、貸し出し先や貸し出し期間(顧客の使用期間)を入力する(ステップS7)。
【0055】
在庫情報更新部18は、予約された水処理設備について、ステータスを「予約済」にして、在庫情報を更新する(ステップS8)。このようにして、水処理設備の予約が行われる。また、ステップS1で入力した水量・水質情報が、この水処理設備に対応付けて使用履歴データに登録される。
【0056】
在庫情報更新部18は、水処理設備が在庫拠点Sから発送されたり、貸出先から返却されたり、修理が完了したりして状況が変化する都度、在庫情報のステータスを更新する。
【0057】
処方時期予測部19は、記憶部11内の運転状況データ及び使用履歴データに基づいて、貸し出し中の水処理設備2を構成する水処理ユニット毎に、メンテナンスや部品交換を行う時期を予測する。処方時期予測部19は、在庫情報を参照し、メンテナンスに必要となる水処理ユニットや部品・部材の在庫状況を検出し、在庫状況とメンテナンス予測時期とを表示部13に表示する。ユーザは表示された在庫状況をみて、メンテナンスの準備をすることができる。
【0058】
このように、本実施形態によれば、貸し出し候補の水処理設備を、前回の貸し出し先での水量・水質情報と、今回の貸し出し先における水量・水質情報との類似度と共に提示できる。在庫の水処理設備の制御項目の設定は、前回の貸し出し先での設定のままとなっており、類似度が高い場合は、設定を変える必要のない制御項目や、僅かな変更で済む制御項目が多い。
【0059】
例えば、水処理設備全体としての類似度が高いものを抽出した状態で、各管理項目の類似度を確認し、類似度が所定値以上であれば「似ている」と判定する。例えば、水量、水温、Ca、Mg、シリカ、アルミニウム、鉄、Mアルカリ度又はCO
3濃度の重みを高めにして各管理項目の類似度を確認し、類似度が所定値以上である場合、RO装置に送水する加圧ポンプのインバータ設定(周波数やPID設定値)をそのままにする。
【0060】
また、例えば、比抵抗、シリカ濃度、水量、原水の電気伝導率の重みを高めにして各管理項目の類似度を確認し、類似度が所定値以上である場合、CDI(脱イオン装置)の電流値をそのままにする。
【0061】
類似度の高い水処理設備を貸し出すことで、貸し出し先での制御項目の設定に要する作業量を抑え、水処理を開始するまでに要する時間を短縮できる。
【0062】
上記実施形態において、管理装置1は、ステップS1で入力された仕様を満たす水処理設備の設計を行ってもよい。例えば、管理装置1は、水処理の仕様別に構築された水処理設備の標準モデルを参照し、入力された仕様を満たすために必要な水処理ユニットの種別や数を決定する。貸出候補抽出部15は、在庫情報を参照し、決定した水処理ユニットの在庫状況や貸し出し可否を表示部13に表示する。
【0063】
本発明におけるステータス情報として少なくとも予約可、予約済、修理中及び貸出中が例示されるが、他にも必要に応じて、例えば輸出手続中、廃棄中、発送中、在庫確認中など項目を追加してもよい。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【解決手段】水処理設備の管理装置は、水処理設備の貸し出し可否を示すステータス情報を含む在庫情報と、前記水処理設備の前回の貸し出し先での水量・水質情報を含む使用履歴データとを格納する記憶部11と、前記在庫情報を参照し、要求される水処理仕様及び所定の絞り込み条件を満たす水処理設備を貸し出し候補として抽出する抽出部15と、前記貸し出し候補について、前回の貸し出し先での水量・水質情報と、新たな貸し出し先での水量・水質情報との類似度を算出する類似度算出部16と、抽出された貸し出し候補を前記類似度と共に提示し、水処理設備の貸し出し予約を受け付ける貸出設備決定部17と、貸し出し予約された水処理設備のステータス情報を更新する在庫情報更新部18と、を備える。