特許第6558465号(P6558465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許6558465ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558465
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   C09K3/14 520L
   C09K3/14 520F
   C09K3/14 520C
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-76090(P2018-76090)
(22)【出願日】2018年4月11日
(62)【分割の表示】特願2016-228289(P2016-228289)の分割
【原出願日】2011年11月7日
(65)【公開番号】特開2018-127639(P2018-127639A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2018年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-259499(P2010-259499)
(32)【優先日】2010年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】馬場 一也
(72)【発明者】
【氏名】菊留 高史
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−179806(JP,A)
【文献】 特開2005−036157(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/106880(WO,A2)
【文献】 国際公開第2003/037797(WO,A1)
【文献】 特開2000−219873(JP,A)
【文献】 特開2000−230168(JP,A)
【文献】 特開2007−186591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
C01G 23/00
C01B 32/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含まないノンアスベスト摩擦材組成物であって、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、前記摩擦材組成物中に、チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛を含有し、前記チタン酸リチウムカリウムの形状が柱状、板状、鱗片状であることを特徴とするノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項2】
銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しない、請求項1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項3】
前記チタン酸リチウムカリウムの平均粒径が1〜10μmである、請求項1又は2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項4】
前記チタン酸リチウムカリウムの含有量が、1〜30質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項5】
前記黒鉛の平均粒径が、0.1〜100μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項6】
前記黒鉛の含有量が、1〜20質量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。詳しくは、自動車などの制動に用いられるディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材に適しており、銅の含有量が少ないため、環境汚染を防止でき、かつ摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れたノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などには、その制動のためにディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材が使用されている。摩擦材は、ディスクローターやブレーキドラムなどの対面材と摩擦することにより、制動の役割を果たしている。そのため、摩擦材には、高い摩擦係数と摩擦係数の安定性が求められるだけでなく、対面材であるディスクローターを削り難いこと(耐ローター摩耗性)、鳴きが発生しにくいこと(鳴き特性)、パッド寿命が長いこと(耐摩耗性)などが要求される。また、高負荷の制動時に剪断破壊を起こさないこと(剪断強度)や、高温の制動履歴によって摩擦材に亀裂を生じないこと(耐クラック性)などの耐久性能も要求される。
【0003】
摩擦材には、結合材、繊維基材、無機充填材及び有機充填材などが含まれ、前記特性を発現させるために、一般的に、それぞれ1種もしくは2種以上を組み合わせたものが含まれる。繊維基材としては、有機繊維、金属繊維、無機繊維などが用いられ、耐クラック性、耐摩耗性を向上させるために、金属繊維として銅や銅合金の繊維が一般的に用いられる。さらに、耐摩耗性を向上させるために銅や銅合金のチップや粉末が用いられることもある。また、摩擦材として、ノンアスベスト摩擦材が主流となっており、このノンアスベスト摩擦材には銅や銅合金などが多量に使用されている。
しかし、銅や銅合金を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖や海洋汚染などの原因となる可能性が示唆されている。
そこで、銅や銅合金などの金属を含まずに、摩擦係数、耐摩耗性、ローター摩耗が良好な摩擦材を提供する目的で、繊維基材、結合材及び摩擦調整成分を含むブレーキ用摩擦材として、重金属や重金属化合物を含有せず、酸化マグネシウムと黒鉛を摩擦材中に45〜80体積%含有し、酸化マグネシウムと黒鉛の比を1/1〜4/1とする方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−138273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のブレーキ用摩擦材では、摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性の全てに優れた摩擦材を得ることは困難である。
一方、摩擦材に含まれる銅以外の金属繊維として、スチール繊維や鋳鉄繊維などの鉄系繊維が耐クラック性改善の目的で用いられるが、鉄系繊維は対面材の攻撃性が高いという欠点があり、また亜鉛繊維やアルミニウム繊維などの銅以外で一般的に摩擦材に用いられる非鉄金属繊維は、銅や鉄系繊維と比較して耐熱温度が低いものが多く、摩擦材の耐摩耗性を悪化させるという問題がある。また、摩擦材の耐クラック性を向上するための方法として無機繊維が用いられる。しかし十分な耐クラック性を得るためには、多量の無機繊維を添加する必要があり、多量の無機繊維を用いれば耐クラック性は改善できるものの、耐摩耗性が悪化してしまうという問題が生じる。
【0006】
また、黒鉛を用いると、摩擦材の耐摩耗性を向上できることが知られている。しかし十分な耐摩耗性を得るためには、多量に黒鉛を添加する必要があり、多量の黒鉛を用いれば耐摩耗性は改善できるものの、摩擦係数が大きく低下してしまうという問題が生じる。
前述したように、銅の含有量を少なくした摩擦材は、耐摩耗性や耐クラック性が悪く、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性の全てを満足させる優れた摩擦材を得ることは困難であった。
【0007】
このような背景を鑑み、本発明の課題は、河川、湖や海洋汚染などの原因となる可能性のある銅や銅合金の含有量が少なくても、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れた摩擦材を与えることができるノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ノンアスベスト摩擦材組成物において、銅及び金属繊維の含有量を一定以下とし、チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛を含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0009】
1. 結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛を含有することを特徴とするノンアスベスト摩擦材組成物。
2. 前記摩擦材組成物中の前記チタン酸リチウムカリウムの含有量が1〜30質量%である、上記1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
3. 前記摩擦材組成物中の前記黒鉛の含有量が1〜20質量%である、上記1又は2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
4. 上記1〜3のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
5. 上記1〜3のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材に用いた際に、制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境汚染が少なく、かつ優れた摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性を発現することができる。また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を用いることにより、上記特性を有する摩擦材及び摩擦部材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。
[ノンアスベスト摩擦材組成物]
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛を含有することを特徴とする。
上記構成により、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境汚染が少なく、かつ優れた摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性を発現することができる。
【0012】
(結合材)
結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材などを一体化し、強度を与えるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる結合材としては特に制限はなく、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂及びシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂などの各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂などの各種変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0013】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化を抑制できる。
【0014】
(有機充填材)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる有機充填材としては、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常、有機充填材として用いられる、カシューダストやゴム成分などを用いることができる。
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
上記ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。また、カシューダストとゴム成分とを併用してもよく、カシューダストをゴム成分で被覆したものを用いてもよい。音振性能の観点から、カシューダストとゴム成分とを併用することが好ましい。
【0015】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることが特に好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなること、鳴きなどの音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。また、カシューダストとゴム成分とを併用する場合、カシューダストとゴム成分とは、質量比で2:1〜10:1の割合であることが好ましく、2:1〜8:1であることがより好ましく、3:1〜8:1であることが特に好ましい。
【0016】
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるための摩擦調整剤として含まれるものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、無機充填剤としてチタン酸リチウムカリウム及び黒鉛を含有する。
上記チタン酸リチウムカリウムとしては、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はない。例えば、チタン源とリチウム源とカリウム源とを混合して製造したK0.5-0.7Li0.27Ti1.733.85-3.95で表される組成のものなどが挙げられる。
また、摩擦係数向上の観点から平均粒径が1〜10μmのものが好ましく、1〜8μmのものがより好ましく、1〜7μmのものが特に好ましい。環境物質低減の観点から形状が柱状、板状、鱗片状などのものが好ましい。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、チタン酸リチウムカリウムの含有量は、1〜30質量%であることが好ましく、1〜28質量%であることがより好ましく、1〜20質量%であることが特に好ましい。チタン酸リチウムカリウムの含有量を1質量%以上とすることで、良好な摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性が発現し、30質量%以下とすることで、耐摩耗性の悪化を避けることができる。
【0017】
上記黒鉛としては、天然黒鉛又は各種の人造黒鉛のいずれも用いることができ、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はない。天然黒鉛としては、土状黒鉛、鱗状黒鉛及び鱗片状黒鉛などが挙げられ、人造黒鉛としては通常石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として黒鉛化処理により製造されたもので、キッシュ黒鉛、分解黒鉛及び熱分解黒鉛などが挙げられる。また、摩擦係数向上の観点から平均粒径が0.1〜100μmのものが好ましく、1.0〜80μmのものがより好ましく、1.0〜50μmのものが特に好ましい。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、黒鉛の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜18質量%であることがより好ましく、1〜15質量%であることが特に好ましい。黒鉛の含有量を1質量%以上とすることで、良好な摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性が発現し、20質量%以下とすることで、摩擦係数の低下を避けることができる。
【0018】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、上記チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛以外の無機充填材をさらに含有することができ、通常、摩擦材に用いられる無機充填剤であれば特に制限はない。
上記無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、粒状チタン酸カリウム、板状チタン酸カリウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ−アルミナなどの活性アルミナなどを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛以外の無機充填材の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、40〜75質量%であることが特に好ましい。無機充填材の含有量を30〜80質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができ、摩擦材のその他成分の含有量バランスの点でも好ましい。
【0020】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる繊維基材としては、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常、繊維基材として用いられる、金属繊維、無機繊維、有機繊維、炭素系繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
上記金属繊維としては、耐クラック性や耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。ただし、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、耐環境汚染の観点から、該摩擦材組成物中における、銅全体の含有量が、銅元素として5質量%以下であることを要し、0.5質量%以下であることが好ましい。
銅又は銅合金の繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
また、上記金属繊維として、摩擦係数の向上、耐クラック性の観点から、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよいが、耐摩耗性の悪化を避ける観点から、含有量は0.5質量%以下であることを要する。一方で、銅及び銅合金以外の金属繊維は摩擦係数を向上させる割には耐摩耗性が悪化しやすいため、好ましくは銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)である。
銅及び銅合金以外の金属繊維としては、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコンなどの金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維などの金属を主成分とする繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
上記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、シリケート繊維、ウォラストナイトなどを用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、環境物質低減の観点で、肺などに吸引されるような吸引性のチタン酸カリウム繊維やセラミック繊維を含有しないことが好ましい。
【0024】
本発明において用いることのできる鉱物繊維とは、スラグウールなどの高炉スラグ、バサルトファイバーなどの玄武岩、その他の天然岩石などを主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2Oなどが含まれるもの、又はこれら化合物が1種又は2種以上含有されるものを用いることができ、より好ましくはこれらのうちAl元素を含むものが、鉱物繊維として用いることができる。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましく、より好ましくは100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、摩擦材組成物原料として用いる鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
【0025】
また、本発明で用いることのできる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、かつ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO2−Al23−CaO−MgO−FeO−Na2O系繊維などが挙げられ、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2Oなどを任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V製のRoxulシリーズなどが挙げられる。「Roxul」は、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2Oなどが含まれる。
【0026】
上記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における、繊維基材の含有量は、銅又は銅合金の金属繊維を含め、摩擦材組成物において5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることが特に好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材として適正な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性をよくすることができる。
【0028】
(その他の材料)
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、前記の結合材、有機充填材、無機充填材、繊維基材、チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛の材料以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
例えば、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、銅全体の含有量が、銅元素として5質量%を超えない範囲で、銅粉、黄銅粉、青銅粉などの金属粉末などを配合することができる。また、耐摩耗性の観点から、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系ポリマーなどの有機添加剤などを配合することができる。
【0029】
[摩擦材及び摩擦部材]
また、本発明は、上述のノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供する。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、これを成形することにより、自動車などのディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材として使用することができる。本発明の摩擦材は良好な摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性を示すため、制動時に負荷の大きいディスクブレーキパッドの摩擦材に好適である。
さらに、上記摩擦材を用いることにより、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材を得ることができる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、下記の構成などが挙げられる。
【0030】
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属または繊維強化プラスチックなどを用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチックなどが挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシューなどの摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0031】
本発明の摩擦材は、一般に使用されている方法を用いて製造することができ、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を成形して、好ましくは加熱加圧成形して製造される。
具体的には、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を、レディーゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサーなどの混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130℃〜160℃、成形圧力20〜50MPaの条件で2〜10分間で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理する。必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことによって摩擦材を製造することができる。
【0032】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性などに優れるため、ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦部材の「上張り材」として有用であり、さらに摩擦材として高い耐クラック性を有するため、摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例及び比較例に示す評価は次のように行った。
【0034】
(1)摩擦係数の評価
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
(2)耐クラック性の評価
耐クラック性は、JASO C427に示されるブレーキ温度400℃の制動(初速度50km/h、終速度0km/h、減速度0.3G、制動前ブレーキ温度100℃)を摩擦材が半分の厚みとなるまで繰り返し、摩擦材側面及び摩擦面のクラックの生成を測定した。クラックの生成は、下記に従い、3段階評点にて評価した。
水準1:クラックの発生無し
水準2:摩擦材の摩擦面又は側面に0.1mmのシックネスゲージが入らない程度のクラックが生成
水準3:摩擦材の摩擦面又は側面に0.1mmのシックネスゲージが入る程度のクラックが生成
なお、摩擦材の摩擦面及び側面の一方にシックネスゲージが入らない程度のクラックが生成し、他方にシックネスゲージが入る程度のクラックが生成した場合、水準3とする。
(3)耐摩耗性の評価
耐摩耗性は、自動車技術会規格JASO C427に基づき測定し、ブレーキ温度100℃及び300℃の制動1000回相当の摩擦材の摩耗量を評価した。
【0035】
なお、上記JASO C406,JASO C427準拠による摩擦係数、耐摩耗性、耐クラック性の評価は、ダイナモメータを用い、イナーシャ7kgf・m・s2で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ((株)キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
【0036】
[実施例1〜6及び比較例1〜6]
ディスクブレーキパッドの作製
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例及び比較例の摩擦材組成物を得た。この摩擦材組成物をレディーゲミキサー((株)マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業(株)製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工(株)製)を用いて日立オートモティブシステムズ(株)製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm2)を得た。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
【0037】
なお、実施例及び比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業(株)製(商品名 HP491UP)
(有機充填剤)
・カシューダスト:東北化工(株)製(商品名 FF−1090)
・SBR粉
(無機充填剤)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名 KS75、人造黒鉛、球体、平均粒径約15μm)
・チタン酸リチウムカリウム:大塚化学(株)製(商品名 テラセスL−SS、鱗片状、平均粒径3μm)
・硫酸バリウム:堺化学工業(株)製(商品名 硫酸バリウムBA)
・マイカ
・コークス:TIMCAL社製(商品名 FC250−1500)
・硫化錫:Chemetall社製(商品名 Stannolube)
・水酸化カルシウム
・酸化ジルコニウム
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン(株)製(商品名 1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名 #0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名 SCA−1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名 RB240、平均繊維長300μm)
【0038】
【表1】
【0039】
実施例1〜6は、銅を多量に含有する比較例1と同水準の摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性を示した。また、実施例1〜6は、チタン酸リチウムカリウム及び黒鉛を含有しない比較例2,3、黒鉛を含有しない比較例4、チタン酸リチウムカリウムを含有しない比較例5と比較して、耐クラック性、耐摩耗性が優れ、さらに銅及び銅合金以外の金属繊維を0.5質量%を超えて含有する比較例6と比較して耐摩耗性に優れることは明らかである。
また、チタン酸リチウムカリウムを1〜20質量%及び黒鉛を1〜15質量%の範囲で含有することにより、耐摩耗性がさらに向上することが、実施例1〜4と実施例5との比較により分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境汚染が少なく、かつ優れた摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性を発現できるため、自動車のディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材及び摩擦部材に有用である。