(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態によるフレキシブル基板用の投影型露光装置EXの全体構成を示す図である。露光装置EXは、前工程のプロセス装置から搬送されてくる可撓性のシート状の基板Pの光感応層に対して、ディスプレー用の回路パターンや配線パターンに対応した紫外線のパターニング光を照射する。
紫外線は、例えば水銀放電等の輝線であるg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)、或いはKrF,XeCl、ArF等のエキシマレーザ(各々、波長248nm,308nm,193nm)、または、半導体レーザ光源、LED光源、高調波レーザ光源等からの波長400nm以下の光、を含む。
【0014】
図1の露光装置EXは、温調チャンバーEVC内に設けられる。露光装置EXは、パッシブ又はアクティブな防振ユニットSU1,SU2を介して製造工場の床面に設置される。露光装置EX内には、前工程から送られてくる基板Pを後工程に所定の速度で送る為の搬送機構が設ける。
搬送機構は、基板PのY方向(長尺方向と直交した幅方向)の中心を一定位置に制御するエッジポジションコントローラEPC、ニップされた駆動ローラDR4、基板P上でパターン露光される部分を円筒面状に支持しつつ、回転中心線AX2の回りに回転して基板Pを搬送する回転ドラムDR、回転ドラムDRに巻き付く基板Pに所定のテンションを与えるテンション調整ローラRT1、RT2、及び、基板Pに所定のたるみ(あそび)DLを与える為の2組の駆動ローラDR6、DR7等で構成される。
【0015】
さらに、露光装置EX内には、回転中心線AX1の回りに回転する円筒状の円筒マスクDMと、円筒マスクDMの外周面に形成された透過型のマスクパターンの一部分の像を、回転ドラムDRによって支持される基板Pの一部分に投影する複数の投影光学系PL1、PL2、・・・と、マスクパターンの一部分の投影像と基板Pとを相対的に位置合わせ(アライメント)する為のアライメント系AMが設けられている。
アライメント系AMは、基板Pに予め形成されたアライメントマーク等を検出するアライメント顕微鏡を含む。
【0016】
以上の構成において、
図1中に定めた直交座標系XYZのXY平面は工場の床面と平行に設定され、基板Pの表面の幅方向(TD方向とも呼ぶ)はY方向に一致するように設定される。この場合、円筒マスクDMの回転中心線AX1と回転ドラムDRの回転中心線AX2とは、共にY軸と平行に設定され、且つZ軸方向に離間して配置される。
また、本実施形態の投影光学系PL1、PL2、・・・は、詳しくは後述するが、複数の投影視野(投影像)が千鳥配置になるようなマルチレンズ方式として構成され、その投影倍率は等倍(×1)に設定される。
【0017】
円筒マスクDMの外周面(パターン面)の直径(中心AX1からの半径)と、回転ドラムDRの外周面(支持面)の直径(中心AX2からの半径)とは、実質的に等しくすることができる。例えば、円筒マスクDMの直径を30cmに、回転ドラムDRの直径を30cmにすることができる。
なお、円筒マスクDMの外周面(パターン面)の直径(中心AX1からの半径)と、回転ドラムDRの外周面(支持面)の直径(中心AX2からの半径)は、必ずしも同じにしておく必要はなく、大きく異なっていても良い。例えば、円筒マスクDMの直径を30cmに、回転ドラムDRの直径を40〜50cm程度にしても良い。
なお、上記数値は一例であって本発明はこれに限定されない。
尚、回転ドラムDRの直径を円筒マスクDM(パターン面)の直径と等しくする場合、厳密には、回転ドラムDRの外周面に巻き付けられる基板Pの厚みを考慮したものとなる。例えば、基板Pの厚みを100μm(0.1mm)とすると、回転ドラムDRの外周面の半径は、円筒マスクDM(パターン面)の半径に対して、0.1mmだけ小さなものとする。
さらに、回転ドラムDRの外周面の周方向の全長(周長)を、ちょうど良い長さ、例えば100.0cmにする場合は、回転ドラムDRの外周面の直径は円周率πによって100/πcmとなる為、直径を数μm〜サブミクロンの精度で加工しておく必要がある。
【0018】
本実施態様では、透過型の円筒マスクDMを用いるので、円筒マスクDMの内部空間には投影光学系PL1、PL2、・・・の各々の視野領域に対応した露光用の照明光(紫外線)を、円筒マスクDMのパターン面(外周面)に向けて照射する照明系IUが設けられている。
尚、円筒マスクDMが反射型の場合は、露光用の照明光を投影光学系PL1、PL2、・・・の一部の光学素子を介して円筒マスクDMの外周面(反射型のパターン面)に向けて照射する落斜照明光学系が設けられる。
【0019】
以上の構成において、円筒マスクDMと回転ドラムDRを所定の回転速度比で同期回転させることによって、円筒マスクDMの外周面に形成されたマスクパターンの像が、回転ドラムDRの外周面の一部に巻き付けられた基板Pの表面(円筒面に沿って湾曲した面)に連続的に繰り返し走査露光される。
【0020】
本実施形態で使用される基板Pは、例えば、樹脂フィルム、ステンレス鋼等の金属又は合金からなる箔(フォイル)等である。
樹脂フィルムの材質は、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂のうち1又は2以上を含む。
【0021】
基板Pは、各種の処理工程において受ける熱による変形量が実質的に無視できるように、熱膨張係数が顕著に大きくないものを選定することができる。熱膨張係数は、例えば、無機フィラーを樹脂フィルムに混合することによって小さくすることができる。無機フィラーとしては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化ケイ素等が使われる。
また、基板Pは、フロート法等で製造された厚さが例えば100μm程度の極薄ガラスの単層体であってもよいし、この極薄ガラスに上記の樹脂フィルム、箔等を貼り合わせた積層体であってもよい。
なお、上記数値は一例であって本発明はこれに限定されない。
【0022】
図2は、
図1に示した露光装置EXのうち、円筒マスクDM、複数の投影光学系PL1、PL2、・・・、回転ドラムDRの配置関係を斜視図で示したものである。
図2において、円筒マスクDMと回転ドラムDRとの間に設けられる投影光学系PL1、PL2、PL3、PL4、・・・(ここでは4つの投影光学系を図示)の各々は、例えば、特開平7−57986号公報に開示されているように、円形投影視野の半分(ハーフフィールド)を使う反射屈折型の等倍結像レンズの2つをZ方向にタンデムにつなげて、マスクパターンを正立の非反転像として基板側に等倍で投影する。
投影光学系PL1、PL2、PL3、PL4・・・は、何れも同じ構成であり、詳細については後述する。
【0023】
尚、投影光学系PL1、PL2、PL3、PL4、・・・は、それぞれ強固な保持コラムPLMに取り付けられ、一体化されている。保持コラムPLMは、温度変化に対する熱膨張係数が小さいインバー等の金属で構成され、温度変化による各投影光学系PL1、PL2、PL3、PL4、・・・間の位置的な変動を小さく抑えることができる。
【0024】
図2に示すように、回転ドラムDRの外周面で、回転中心線AX2が延びる方向(Y方向)の両端部には、回転ドラムDRの回転角度位置(又は周長方向の位置)を計測するエンコーダシステムの為のスケール部GPa、GPbが、周方向の全体に亘って環状にそれぞれ設けられている。
スケール部GPa、GPbは、回転ドラムDRの外周面の周方向に一定のピッチ(例えば20μm)で凹状又は凸状の格子線を刻設した回折格子であり、インクリメンタル型スケールとして構成される。
なお、上記数値は一例であって本発明はこれに限定されない。
【0025】
基板Pは、回転ドラムDRの両端のスケール部GPa、GPbを避けた内側に巻き付けられるように構成される。厳密な配置関係を必要とする場合、スケール部GPa、GPbの外周面と、回転ドラムDRに巻き付いた基板Pの部分の外周面とが同一面(中心線AX2から同一半径)になるように設定する。その為には、スケール部GPa、GPbの外周面を、回転ドラムDRの基板巻付け用の外周面に対して、径方向に基板Pの厚み分だけ高くしておけば良い。
回転ドラムDRを回転中心線AX2の回りに回転させる為に、回転ドラムDRの両側には中心線AX2と同軸のシャフト部Sf2が設けられる。このシャフト部Sf2には、不図示の駆動源(モータや減速ギャ機構等)からの回転トルクが与えられる。
【0026】
さらに、本実施形態では、回転ドラムDRの両端部のスケール部GPa、GPbの各々と対向すると共に、各投影光学系PL1、PL2、PL3、PL4、・・・を固定するコラムPLMに固設されたエンコーダヘッドEN1、EN2が設けられる。
図2では、スケール部GPaに対向した2つのエンコーダヘッドEN1、EN2だけが示されているが、スケール部GPbにも同様のエンコーダヘッドEN1、EN2が対向して配置される。
このように、エンコーダヘッドEN1、EN2をコラムPLMに取り付けることにより、温度変化の影響等によって生じる各投影光学系と各エンコーダヘッドEN1、EN2との相対的な位置変動を小さく抑えることができる。
【0027】
各エンコーダヘッドEN1、EN2は、スケール部GPa、GPbに向けて計測用の光ビームを投射し、その反射光束(回折光)を光電検出することにより、スケール部GPa、GPbの周方向の位置変化に応じた検出信号(例えば、90度の位相差を持った2相信号)を発生する。
その検出信号を不図示のカウンター回路で内挿補間してデジタル処理することにより、回転ドラムDRの角度変化、即ち、その外周面の周方向の位置変化をサブミクロンの分解能で計測することができる。
【0028】
また、
図2に示すように、各エンコーダヘッドEN1、EN2は設置方位線Le1、Le2上に配置される。設置方位線Le1、Le2は、スケール部GPa(GPb)上の計測用光ビームの投射領域を通り、
図2中のXZ面と平行な面内に設定され、その延長線が回転ドラムDRの回転中心線AX2と交差するように定められた仮想的な線である。
詳しくは後述するが、XZ面内で見ると、設置方位線Le1は、奇数番の投影光学系PL1、PL3から基板Pに投射される結像光束の主光線と平行になるように定められる。また、XZ面内で見ると、設置方位線Le2は、偶数番の投影光学系PL2、PL4から基板Pに投射される結像光束の主光線と平行になるように定められる。
【0029】
一方、円筒マスクDMの両端側にも、回転中心線AX1と同軸にシャフト部Sf1が設けられ、このシャフト部Sf1を介して、不図示の駆動源(モータ等)からの回転トルクが円筒マスクDMに与えられる。円筒マスクDMの回転中心線AX1方向の両端部縁には、回転ドラムDRと同様に、エンコーダ計測のスケール部GPMが回転中心線AX1を中心とする周方向の全体に亘って、それぞれ環状に設けられている。
円筒マスクDMの外周面に形成される透過型のマスクパターンは、両端部のスケール部GPMを避けた内側に配置される。厳密な配置関係を必要とする場合、スケール部GPMの外周面と、円筒マスクDMのパターン面(円筒面)の外周面とが同一面(中心線AX1から同一半径)になるように設定される。
【0030】
さらに、円筒マスクDMのスケール部GPMの各々と対向する位置であって、回転中心線AX1からみて、奇数番の投影光学系PL1、PL3、・・・の各視野の方向には、エンコーダヘッドEN11が配置され、回転中心線AX1からみて、偶数番の投影光学系PL2、PL4、・・・の各視野の方向には、エンコーダヘッドEN12が配置される。
これらのエンコーダヘッドEN11、EN12も、投影光学系PL1、PL2、PL3、PL4、・・・を固定する保持コラムPLMに取り付けられる。
【0031】
さらに、エンコーダヘッドEN11、EN12は、回転ドラムDR側のエンコーダヘッドEN1、EN2の配置状態と同様に、設置方位線Le11、Le12上に配置される。
設置方位線Le11、Le12は、円筒マスクDMのスケール部GPM上でエンコーダヘッドの計測用光ビームが投射される領域を通り、
図2中のXZ面と平行な面内に設定され、その延長線が円筒マスクDMの回転中心線AX1と交差するように定められる。
【0032】
円筒マスクDMの場合、スケール部GPMに刻設する目盛や格子パターンを、デバイス(表示パネルの回路等)のマスクパターンと一緒に、円筒マスクDMの外周面に描画、形成することが可能なので、マスクパターンとスケール部GPMとの相対位置関係を厳密に設定することができる。
【0033】
本実施形態では、円筒マスクDMを透過型で例示したが、反射型の円筒マスクにおいても同様に、スケール部GPM(目盛、格子、原点パターン等)をデバイスのマスクパターンと一緒に形成することが可能である。
一般に、反射型の円筒マスクを作製する場合は、シャフト部Sf1を有する金属円柱材を、高精度な旋盤と研磨機により加工するので、その外周面の真円度や軸ブレ(偏心)を極めて小さく抑えることができる。そのため、外周面にマスクパターンの形成と同じ工程によって、スケール部GPMも一緒に形成しておけば、高精度なエンコーダ計測が可能となる。
【0034】
以上のように、本実施形態では、円筒マスクDMに形成されるスケール部GPMの外周面をマスクパターン面とほぼ同一の半径に設定し、回転ドラムDRに形成されるスケール部GPa、GPbの外周面を、基板Pの外周面とほぼ同一の半径に設定した。
そのため、エンコーダヘッドEN11,EN12は、円筒マスクDM上のマスクパターン面(照明系IUによる照明領域)と同じ径方向位置でスケール部GPMを検出し、エンコーダヘッドEN1、EN2は、回転ドラムDRに巻き付いた基板P上の投影領域(投影像の結像面)と同じ径方向位置でスケール部GPa、GPbを検出することができる。
したがって、計測位置と処理位置とが回転系の径方向に異なることで生ずるアッベ誤差を小さくすることができる。
【0035】
次に、
図3を参照して、本実施形態の投影光学系PL1〜PL4、・・・の具体的な構成を説明する。各投影光学系はいずれも同じ構成であるので、代表して投影光学系PL1の構成のみを説明する。
図3に示す投影光学系PL1は、反射屈折タイプのテレセントリックな第1の結像光学系51と第2の結像光学系58とを備える。
【0036】
第1の結像光学系51は、複数のレンズ素子、フォーカス補正光学部材44、像シフト補正光学部材45、第1の偏向部材50、瞳面に配置される第1の凹面鏡52等で構成される。
第1の結像光学系51は、照明系IUからの照明光D1(その主光線はEL1)によって円筒マスクDMのパターン面(外周面)上に形成される照明領域IR1内に現れるマスクパターンの像を、視野絞り43が配置される中間像面に結像する。
【0037】
第2の結像光学系58は、複数のレンズ素子、第2の偏向部材57、瞳面に配置される第2の凹面鏡59、倍率補正用光学部材47等で構成される。
第2の結像光学系58は、第1の結像光学系51によって作られた中間像のうち、視野絞り43の開口形状(例えば台形)で制限された像を、基板Pの投影領域PA1内に再結像する。
【0038】
以上の投影光学系PL1の構成において、フォーカス補正光学部材44は基板P上に形成されるマスクのパターン像(以下、投影像という)のフォーカス状態を微調整し、像シフト補正光学部材45は投影像を像面内で微少に横シフトさせ、倍率補正用光学部材47は投影像の倍率を±数十ppm程度の範囲で微少補正する。
さらに、投影光学系PL1には、第1の偏向部材50を
図3中のZ軸と平行な軸の回りに微少回転させて、基板P上に結像する投影像を像面内で微少回転させるローテーション補正機構46が設けられている。
【0039】
円筒マスクDM上の照明領域IR1内のパターンからの結像光束EL2は、照明領域IR1から法線方向に出射し、フォーカス補正光学部材44、像シフト補正光学部材45を通って、第1の偏向部材50の第1反射面(平面鏡)p4で反射され、複数のレンズ素子を通って第1の凹面鏡52で反射され、再び複数のレンズ素子を通って第1の偏向部材50の第2反射面(平面鏡)p5で反射されて、視野絞り43に達する。
【0040】
本実施形態において、
図2(又は
図1)中に示した円筒マスクDMの回転中心線AX1と回転ドラムDRの回転中心線AX2を共に含む平面を中心面p3(YZ面と平行)とする。この場合、第1の結像光学系51の光軸AX3と第2の結像光学系58の光軸AX4は、何れも中心面p3と直交するように配置される。
【0041】
本実施形態では、XZ面内でみたとき、照明領域IR1を中心面p3に対して−X方向に所定量だけ偏らせる為、照明領域IR1内の中心を通る照明光D1の主光線EL1の延長線を、円筒マスクDMの回転中心線AX1と交差するように設定する。
それにより、照明領域IR1内の中心点に位置するパターンからの結像光束EL2の主光線EL3も、中心面p3に対してXZ面内で傾斜した状態で進み、第1の偏向部材50の第1反射面p4に達する。
【0042】
第1の偏向部材50は、Y軸方向に延びる三角プリズムである。本実施形態において、第1反射面p4と第2反射面p5のそれぞれは、三角プリズムの表面に形成された鏡面(反射膜の表面)を含む。
第1の偏向部材50は、照明領域IR1から第1反射面p4までの主光線EL3がXZ面内で中心面p3に対して傾くように、かつ第2反射面p5から視野絞り43までの主光線EL3が中心面p3に平行となるように、結像光束EL2を偏向する。
【0043】
そのような光路を形成する為に、本実施形態では、第1の偏向部材50の第1反射面p4と第2反射面p5とが交わる稜線を光軸AX3上に配置する。その稜線と光軸AX3とを含んでXY面と平行な平面をp6としたとき、この平面p6に対して第1反射面p4と第2反射面p5は非対称な角度で配置される。
具体的には、第1反射面p4の平面p6に対する角度をθ1、第2反射面p5の平面p6に対する角度をθ2とすると、本実施形態において、角度(θ1+θ2)は90°未満に設定され、角度θ1は45°未満、角度θ2は実質的に45°に設定される。
【0044】
第1反射面p4で反射して複数のレンズ素子に入射する主光線EL3を光軸AX3と平行に設定することにより、その主光線EL3は第1の凹面鏡52の中心、すなわち瞳面の光軸AX3との交点に通すことができ、テレセントリックな結像状態を確保できる。
その為には、
図3において、照明領域IR1と第1反射面p4の間の主光線EL3の中心面p3に対するXZ面内での傾き角をθdとして、第1反射面p4の角度θ1を以下の式(1)のように設定すれば良い。
θ1=45°−(θd/2)・・・(1)
【0045】
第1の結像光学系51を通り、視野絞り43を通った結像光束EL2は、第2の結像光学系58の要素である第2の偏向部材57の第3反射面(平面鏡)p8で反射され、複数のレンズ素子を通って、瞳面に配置された第2の凹面鏡59に達する。
第2の凹面鏡59で反射された結像光束EL2は、再び複数のレンズ素子を通って第2の偏向部材57の第4反射面(平面鏡)p9で反射されて、倍率補正用光学部材47を通って、基板P上の投影領域PA1に達する。
これによって、照明領域IR1内に現れるパターンの像が投影領域PA1内に等倍(×1)で投影される。
【0046】
第2の偏向部材57も、Y軸方向に延びる三角プリズムである。本実施形態において、第3反射面p8と第4反射面p9のそれぞれは、三角プリズムの表面に形成された鏡面(反射膜の表面)を含む。
第2の偏向部材57は、視野絞り43と第3反射面p8の間の主光線EL3がXZ面内で中心面p3と平行となるように、かつ第4反射面p9と投影領域PA1の間の主光線EL3が中心面p3に対してXZ面内で傾くように、結像光束EL2を偏向する。
【0047】
本実施形態では、XZ面内でみたとき、投影領域PA1も中心面p3に対して−X方向に所定量だけずれている為、投影領域PA1内に達する結像光束の主光線EL3の延長線を、回転ドラムDRの回転中心線AX2と交差するように設定する。それにより、投影領域PA1に形成される像平面は、回転ドラムDRの外周面に支持される基板Pの表面(湾曲面)の接平面となり、分解能を保った忠実な投影露光が可能となる。
そのような光路を形成する為に、本実施形態では、第2の偏向部材57の第3反射面p8と第2反射面p9とが交わる稜線を光軸AX4上に配置し、その稜線と光軸AX4とを含んでXY面と平行な平面をp7としたとき、この平面p7に対して第3反射面p8と第4反射面p9を非対称な角度で配置する。
具体的には、第3反射面p8の平面p7に対する角度をθ3、第4反射面p9の平面p7に対する角度をθ4とすると、角度(θ3+θ4)は90°未満に設定され、角度θ4は45°未満、角度θ3は実質的に45°に設定される。
【0048】
第2の凹面鏡59で反射して複数のレンズ素子から射出して第4反射面p9に達する主光線EL3を、光軸AX4と平行に設定することにより、テレセントリックな結像状態を確保できる。
その為には、
図3において、第4反射面p9と投影領域PA1の間の主光線EL3の中心面p3に対するXZ面内での傾き角をθsとすると、第4反射面p9の角度θ4を以下の式(2)のように設定すれば良い。
θ4=45°−(θs/2)・・・(2)
【0049】
以上、投影光学系PL1の構成を説明したが、奇数番の投影光学系PL3、・・・は、
図3と同様に構成され、偶数番の投影光学系PL2、PL4・・・は、
図3の配置を中心面p3に関して対称的に折り返したような構成となっている。
また、奇数番、偶数番の何れの投影光学系PL1〜PL4・・・にも、フォーカス補正光学部材44、像シフト補正光学部材45、ローテーション補正機構46及び倍率補正用光学部材47が、結像特性調整機構として設けられている。
【0050】
これによって、基板P上での投影像の投影条件を投影光学系ごとに調整することができる。ここでいう投影条件は、基板P上での投影領域の併進位置や回転位置、倍率、フォーカスのうちの1つ以上の項目を含む。投影条件は、同期走査時の基板Pに対する投影領域の位置ごとに定めることができる。投影像の投影条件を調整することによって、マスクパターンと比較したときの投影像の歪を補正することが可能である。
【0051】
フォーカス補正光学部材44は、2枚のクサビ状のプリズムを逆向き(
図3中ではX方向について逆向き)にして、全体として透明な平行平板になるように重ね合わせたものである。この1対のプリズムを互いに対向する面間の間隔を変えずに斜面方向にスライドさせて、平行平板としての厚みを変えることで、実効的な光路長を微調整し、投影領域PA1に形成されるパターン像のピント状態が微調整される。
【0052】
像シフト補正光学部材45は、
図3中のXZ面内で傾斜可能な透明な平行平板ガラスと、それと直交する方向に傾斜可能な透明な平行平板ガラスとで構成される。その2枚の平行平板ガラスの各傾斜量を調整することで、投影領域PA1に形成されるパターン像をX方向やY方向に微少シフトさせることができる。
【0053】
倍率補正用光学部材47は、凹レンズ、凸レンズ、凹レンズの3枚を所定間隔で同軸に配置し、前後の凹レンズは固定して、間の凸レンズを光軸(主光線EL3)方向に移動させるように構成したものである。これによって、投影領域PA1に形成されるパターン像は、テレセントリックな結像状態を維持しつつ、等方的に微少量だけ拡大または縮小される。
【0054】
ローテーション補正機構46は、アクチュエータ(図示略)によって、第1の偏向部材50をZ軸と平行な軸周りに微少回転させる。ローテーション補正機構46によって、投影領域PA1に形成されるパターン像を、その像面内で微少回転させることができる。
【0055】
図4は、本実施形態における照明領域IR及び投影領域PAの配置を示す図である。なお、
図4では、投影光学系PLとして、奇数番の3つの投影光学系PL1、PL3、PL5と、偶数番の3つの投影光学系PL2、PL4、PL6が、Y方向に並んでいるものとする。
図4中の左図は、その6つの投影光学系PL1〜PL6ごとに、円筒マスクDM上に設定される6つの照明領域IR1〜IR6を−Z側から見た平面図である。
図4中の右図は、6つの投影光学系PL1〜PL6ごとに、回転ドラムDRで支持される基板P上の6つの投影領域PA1〜PA6を+Z側から見た平面図である。
図4中の符号Xsは、円筒マスクDM、又は回転ドラムDRの移動方向(回転方向)を示す。
【0056】
照明系IUは、円筒マスクDM上の6つの照明領域IR1〜IR6を個別に照明する。
図4において、各照明領域IR1〜IR6は、Y方向に細長い台形状の領域として説明する。なお、
図3で説明したように、視野絞り43の開口形状が台形である場合は、各照明領域IR1〜IR6は、台形領域を包含する長方形の領域としても良い。
奇数番の照明領域IR1、IR3、IR5は、同様の形状(台形若しくは長方形)であり、Y軸方向に一定間隔を空けて配置される。偶数番の照明領域IR2、IR4、IR6もY軸方向に一定間隔を空けて配置される。偶数番の照明領域IR2、IR4、IR6は、中心面p3に関して奇数番の照明領域IR1、IR3、IR5と対称的な台形(又は長方形)の形状を有する。
また、
図4に示すように、6つの照明領域IR1〜IR6のそれぞれは、Y方向に関して、隣り合う照明領域の周辺部が一部重なるように配置されている。
【0057】
本実施形態において、円筒マスクDMの外周面は、パターンが形成されているパターン形成領域A3と、パターンが形成されていないパターン非形成領域A4とを有する。
パターン非形成領域A4は、パターン形成領域A3を枠状に囲むように配置されており、特に、各照明領域IR1〜IR6を照射する照明光束を遮光する特性を有する。
パターン形成領域A3は、円筒マスクDMの回転に伴って方向Xsに移動し、パターン形成領域A3のうちのY軸方向の各部分領域が、6つの照明領域IR1〜IR6のいずれかを通過する。換言すると、6つの照明領域IR1〜IR6は、パターン形成領域A3のY軸方向の全幅をカバーするように配置される。
【0058】
図4では、6つの照明領域IR1〜IR6のそれぞれに対応して、6つの投影光学系PL1〜PL6が設けられる。その為、各投影光学系PL1〜PL6は、対応する照明領域IR1〜IR6内に現れるマスクパターンの部分的なパターン像を、
図4中の右図に示すように、基板P上の6つの投影領域PA1〜PA6内に投影する。
【0059】
図4中の右図に示すように、奇数番の照明領域IR1、IR3、IR5におけるパターンの像は、それぞれ、Y軸方向に一列に並ぶ奇数番の投影領域PA1、PA3、PA5に投影される。偶数番の照明領域IR2、IR4、IR6におけるパターンの像も、それぞれ、Y軸方向に一列に並ぶ偶数番の投影領域PA2、PA4、PA6に投影される。
奇数番の投影領域PA1、PA3、PA5と偶数番の投影領域PA2、PA4、PA6は、中心面p3に関して対称的に配置される。
【0060】
6つの投影領域PA1〜PA6のそれぞれは、回転中心線AX2に平行な方向(Y方向)において、隣り合う投影領域の端部(台形の三角部分)同士が互いに重なるように配置される。このことから、回転ドラムDRの回転に伴って6つの投影領域PA1〜PA6で露光される基板Pの露光領域A7は、どこでも実質的に同じ露光量となる。
【0061】
ところで、先の
図1に示したように、本実施形態の露光装置EXには、基板P上に形成されたアライメントマーク、或いは回転ドラムDR上に形成された基準マークや基準パターンを検出して、基板Pとマスクパターンとを位置合わせしたり、ベースラインや投影光学系をキャリブレーションしたりする為のアライメント系AMが設けられている。そのアライメント系AMについて、以下、
図5と
図6を参照して説明する。
【0062】
図5は、回転ドラムDR、エンコーダヘッドEN1、EN2、及びアライメント系AM1の配置を、XZ面内で見た図である。
図6は、回転ドラムDR、基板P上に設定される6つの投影領域PA1〜PA6、及び5つのアライメント系AM1〜AM5の配置を、XY面内で見た図である。
【0063】
図5において、先に説明したように、エンコーダヘッドEN1、EN2が配置される設置方位線Le1、Le2は、回転中心線AX2を含みYZ面と平行な中心面p3に対して、対称的に傾いて設定される。
設置方位線Le1、Le2の中心面p3に対する傾き角は、
図3で説明した投影領域PA1(又は
図4で示した奇数番の投影領域PA1、PA3、PA5と偶数番の投影領域PA2、PA4、PA6)の中心に達する主光線EL3の中心面p3からの傾き角θsと等しくなるように設定される。
【0064】
図5において、アライメント系AM1は、基板P又は回転ドラムDR上のマークやパターンにアライメント用の照明光を照射する為の照明ユニットGC1、その照明光を基板P又は回転ドラムDRに導くビームスプリッタGB1、照明光を基板P又は回転ドラムDRに投射すると共に、マークやパターンで発生した光を入射する対物レンズ系GA1、対物レンズ系GA1とビームスプリッタGB1とを介して受光したマークやパターンの像(明視野像、暗視野像、蛍光像等)を2次元CCD、CMOS等で撮像する撮像系GD1、等で構成される。
尚、照明ユニットGC1からのアライメント用の照明光は、基板P上の光感応層に対してほとんど感度を持たない波長域の光、例えば波長500〜800nm程度の光である。
【0065】
アライメント系AM1によるマークやパターンの観察領域(撮像領域)は、基板Pや回転ドラムDR上で、例えば、200μm角程度の範囲に設定される。
アライメント系AM1の光軸、即ち、対物レンズ系GA1の光軸は、回転中心線AX1から回転ドラムDRの径方向に延びる設置方位線La1と同じ方向に設定される。この設置方位線La1は、中心面p3から角度θjだけ傾いており、奇数番の投影光学系PL1、PL3、PL5の主光線EL3の傾き角θsに対して、θj>θsとなるように設定される。
【0066】
さらに、本実施形態では、設置方位線La1の上で、回転ドラムDRのスケール部GPa、GPbの各々と対向する位置に、エンコーダヘッドEN1、EN2と同様のエンコーダヘッドEN3が設けられている。これによって、アライメント系AM1が観察領域(撮像領域)内で、マークやパターンの像をサンプリングした瞬間の回転ドラムDRの回転角度位置(又は周方向位置)を精密に計測することができる。
尚、XZ面内で見たとき、中心面p3と直交するX軸の方向にも、回転ドラムDRのスケール部GPa、GPbの各々と対向するエンコーダヘッドEN4が設けられる。
【0067】
アライメント系AMは、
図5のアライメント系AM1と同様の構成のものが、
図6に示すように、5つ設けられている。
図6では、判り易くするため、5つのアライメント系AM1〜AM5の各対物レンズ系GA1〜GA5のみの配置を示す。
各対物レンズ系GA1〜GA5による基板P(又は回転ドラムDRの外周面)上の観察領域(撮像領域)Vwは、
図6のように、Y軸(回転中心線AX2)と平行な方向に、所定の間隔で配置される。各観察領域(撮像領域)Vwの中心を通る各対物レンズ系GA1〜GA5の光軸は、何れもXZ面と平行に配置される。
【0068】
先の
図2で示したように、回転ドラムDRの両端側には、スケール部GPa、GPbが設けられ、それらの内側には、凹状の溝、若しくは凸状のリムによる狭い幅の規制帯CLa、CLbが全周に渡って刻設される。
基板PのY方向の幅は、その2本の規制帯CLa、CLbのY方向の間隔よりも小さく設定される。基板Pは回転ドラムDRの外周面のうち、規制帯CLa、CLbで挟まれた内側の領域に密着して支持される。
【0069】
基板P上には、先の
図4中の右図に示したように、6つの投影領域PA1〜PA6の各々によって露光される露光領域A7が、X方向に所定の間隔を空けて配置される。
基板Pの各露光領域A7に、既にパターンが形成されていて、その上に新たなパターンを重ね合わせ露光することがある。この場合、基板P上の露光領域A7の周囲に、位置合わせの為の複数のマーク(アライメントマーク)Ks1〜Ks5が、例えば十字の形状に形成される。
【0070】
図6において、マークKs1は、露光領域A7の−Y側の周辺領域に、X方向に一定の間隔で設けられ、マークKs5は、露光領域A7の+Y側の周辺領域に、X方向に一定の間隔で設けられる。マークKs2、Ks3、Ks4は、X方向に隣り合う2つの露光領域A7の間の余白領域に、Y方向に間隔を空けて一列に設けられる。
【0071】
これらのアライメントマークのうち、マークKs1は、対物レンズ系GA1(アライメント系AM1)の撮像領域Vw内で、基板Pが送られている間、順次捕捉されるように設定される。マークKs5は、対物レンズ系GA5(アライメント系AM5)の撮像領域Vw内で、基板Pが送られている間、順次捕捉されるように設定される。
マークKs2、Ks3、Ks4は、それぞれ、対物レンズ系GA2(アライメント系AM2)、対物レンズ系GA3(アライメント系AM3)、対物レンズ系GA4(アライメント系AM4)の各撮像領域Vw内で捕捉されるように、Y方向の位置が決められている。
【0072】
以上のような構成において、基板P上の露光領域A7と円筒マスクDM上のマスクパターンとを相対的に位置合わせして露光する際は、各アライメント系AM1〜AM5の撮像領域Vw内に、対応するマークKs1〜Ks5が入るタイミングで、撮像データをサンプリングすると共に、その時の回転ドラムDRの角度位置(周方向位置)を、エンコーダヘッドEN3から読み取って記憶する。
各撮像データを画像解析することによって、各撮像領域Vwを基準とした各マークKs1〜Ks5のXY方向のずれ量が求まる。
【0073】
各アライメント系AM1〜AM5の撮像領域Vwと、各投影領域PA1〜PA6との相対的な位置関係、いわゆるベースラインが、予めキャリブレーション等によって正確に求められている場合、求められた各マークKs1〜Ks5のXY方向のずれ量と、エンコーダヘッドEN3で読み取って記憶された回転ドラムDRの角度位置(周方向位置)とに基づいて、基板P上の露光領域A7と各投影領域PA1〜PA6との位置関係(動的に変化する位置関係)を、露光位置に配置された2つのエンコーダヘッドEN1、EN2の各計測値から正確に推定することができる。
そこで、2つのエンコーダヘッドEN1、EN2の各計測値と、円筒マスクDM側のエンコーダヘッドEN11、EN12による計測値とを逐次比較して、同期制御を行うことにより、マスクパターンを基板Pの露光領域A7上に精密に重ね合わせ露光することができる。
【0074】
以上のような露光において、基板Pが100μm程度と薄く、下地層としてITO等の透明膜が形成されていることがある。
このような基板Pを用いる場合、それを支持する回転ドラムDRの外周面の反射率が比較的に高かったり、その表面に数ミクロン幅程度の細かな傷が多数あったりすると、露光用照明光が回転ドラムDRの外周面で反射したり、散乱、回折したりして、基板Pの裏面側から表側に戻り、光感応層に、本来のマスクパターンにはないノイズとなる露光を与えてしまう。
その為、回転ドラムDRの外周面のうち、少なくとも基板P上の露光領域A7と接触する部分は、その表面が局所的にサブミクロン程度の平坦性を有し、反射率が一様に低くなるようにすることができる。反射率は、例えば、露光用照明光に対して50、45、40、35、30、25、20、15、10、又は5%以下にでき、好ましくは20%以下とすることができる。
なお、上記数値は一例であって本発明はこれに限定されない。
【0075】
以下、
図7、
図8を用いて、回転ドラムDRの外周面の構造について説明する。
図7は、回転ドラムDRの外周面に密着して支持される基板Pの構成と、露光用の結像光束EL2(照明光IE0)と、アライメント用の照明光ILaの各々に対する反射の様子とを示す図である。
図8は、回転ドラムDRの外周面の断面構造を示す図である。
【0076】
図7において、主光線EL3に沿って進む結像光束EL2(照明光IE0)は、厚さTpの基板Pの表面に形成された光感応層Pb3に投射される。光感応層Pb3の下地層Pb2がITO等の光透過性の高い材質であると、下地層Pb2を透過した照明光IE1は、元の照明光IE0に対して、ほとんど減衰せずに、その下の基板Pの母材Pb1に向かう。
【0077】
基板Pの母材Pb1がPET、PEN等の透明樹脂フィルムであって、かつ、厚さが100μm以下と薄いため、照明光IE0(IE1)の波長域が350nm以上である場合、母材Pb1はその照明光IE1に対して比較的に大きな透過率(80%以上)を有する。
その為、母材Pb1を透過した照明光IE1は、回転ドラムDRの外周表面DRsまで達する。外周表面DRsの反射率がゼロでないとすると、母材Pb1を透過した照明光IE1によって、外周表面DRsからは反射光(散乱光、回折光も含む)IE2が発生し、母材Pb1、下地層Pb2の順番で、光感応層Pb3の方に戻ってくる。反射光IE2は、本来のパターニング用の結像光束EL2ではない為、ノイズとなって光感応層Pb3に不要な露光を与える。
【0078】
そのノイズのひとつは、例えば、結像光束EL2によって作られるパターン像のデフォーカス像である。
先の
図3のような投影光学系PL1(〜PL6)の場合、露光用照明光の波長λと開口数NAとによって、解像度(R)と焦点深度(DOF)とが概ね決まってくる。例えば、波長365nm(i線)の照明光を使い、解像度(R)として線幅3μmを結像可能な投影光学系では、kファクターを0.35程度にした場合、その焦点深度(DOF)は70μm程度になる。
【0079】
基板Pの母材Pb1の厚さが100μmであるとすると、回転ドラムDRの外周表面DRsには、結像光束EL2が僅かにデフォーカス状態で投射され、外周表面DRsで反射した反射光IE2は、光感応層Pb3の面では、さらにデフォーカスした像光束となる。
したがって、光感応層Pb3には、フォーカスが合った結像光束EL2によるパターン像と共に、そのパターン像自体のボケた像も一緒に重ねて投射されることになる。即ち、望ましくない不要なパターン像(ボケた像等)が、光感応層Pb3に写り込むと言った問題が生じ得る。
【0080】
一方、アライメント系AM1〜AM5によるマーク検出については、例えば、基板Pの母材Pb1上に形成されるアライメント用のマークKs1〜Ks5の材質として、高反射率の物質、例えばアルミニウム(Al)等が使える場合は、それらのマークKs1〜Ks5に照射される照明光ILaによる反射光ILbの強度が比較的に大きい為、良好なマーク観察、検出が可能である。
【0081】
しかしながら、マークKs1〜Ks5の反射率が余り高くない場合、マークKs1〜Ks5の周囲の透明領域を通った照明光ILaが回転ドラムDRの外周表面DRsに達し、ここで反射した光が、マークKs1〜Ks5からの反射光ILbと共に撮像素子で撮像されることから、マークKs1〜Ks5の像コントラストが低下することがある。
【0082】
以上のことから、本実施形態における回転ドラムDRの外周表面DRsは、露光用の照明光IE0に対して約50、45、40、35、30、25、20、15、10、又は5%以下の反射率を有するように形成される。
その為に、本実施形態の回転ドラムDRでは、鉄製(SUS)、又はアルミニウム製(Al)の円筒状の基材DR1の表面に、クロム(Cr)か銅(Cu)による下地層DR2(厚さTd2)をメッキする。その下地層DR2の表面を光学研磨して、局所的な表面粗さを充分に小さくした後、その上に酸化クロム(Cr2O3)又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)によるトップ層DR3(厚さTd3)を形成する。
【0083】
下地層DR2の厚さTd2は、数百nm〜数μm程度の範囲で任意に設定できるが、トップ層DR3の厚さTd3は、外周表面DRsの反射率を調整する為に、ある条件範囲が存在する。
そこで、下地層DR2をクロム(Cr)とし、トップ層DR3を酸化クロム(Cr2O3)とした場合、トップ層DR3の厚さTd3をパラメータとした外周表面DRsの反射率の波長特性(分光反射率)を、
図9を参照して説明する。
【0084】
図9は、酸化クロムの屈折率nを2.2、吸収計数kを0とした場合のシミュレーション結果のグラフであり、縦軸は外周表面DRsの反射率(%)、横軸は波長(nm)を表す。
図9には、酸化クロムによるトップ層DR3の厚さTd3を、0〜150nmの間で、30nmずつ変えた6つの分光反射率の特性が示されている。
【0085】
例えば、酸化クロムのトップ層DR3の厚みTd3を30nm程度にすると、350nm〜500nmの波長帯域の全体に渡って、反射率を20%以下(シミュレーション上では15%以下)にすることができる。この場合、波長436nm(g線露光光)に対して約7%の反射率で、アライメント用の照明光ILaの波長を500nm程度とすると、それに対しても約12%の反射率となる。
また、露光光(照明光IE0)の波長を405nm(h線近傍のブルーレイ用の半導体レーザー等)とすると、酸化クロムのトップ層DR3の厚みTd3を120nm程度にすることにより、露光光の波長で極小値を持ちながら500nm付近のアライメント用の照明光ILaに対しては、40%程度の反射率にすることができる。
【0086】
逆に、酸化クロムのトップ層DR3の厚みTd3を、60nm、又は150nm程度にすると、波長帯が350〜436nmの露光光(照明光IE0)に対する反射率は50%程度に高くなり、波長500nmのアライメント用照明光ILaに対する反射率は40%以下になる。
また、酸化クロムのトップ層DR3の厚みTd3を90nm程度にすると、波長350nmよりも短い波長帯域の紫外光に対しては、外周表面DRsの反射率を30%以下に減少できると共に、波長500nmのアライメント用照明光ILaに対する外周表面DRsの反射率は60%程度に増加できる。
【0087】
図9のシミュレーション結果から判るように、酸化クロムによるトップ層DR3の厚さTd3をコントロールすることによって、アライメント用照明光と露光用照明光に対する外周表面DRsの反射率を数%〜50%程度の間で、任意に設定可能であり、酸化クロムによるトップ層DR3を設けずに(Td3=0nm)、純粋なクロムによる下地層DR2のみの場合の反射率よりも低く設定することが可能である。
先の
図7で説明したように、露光用照明光(IE0)やアライメント用照明光(ILa)に対する外周表面DRsの反射率を、総じて極力低く抑えたい場合は、例えば、酸化クロムによるトップ層DR3の厚さTd3を30nmにすることで、波長350nm〜500nmの全域において、ほぼ15%以下の反射率を得ることができる。
【0088】
図9のシミュレーションは、回転ドラムDRの基材DR1上にクロム層を形成し、その上に制御された厚みで酸化クロム層を形成して反射率を調整する例であったが、この組み合わせに限られるものではない。
例えば、下地層DR2の材質は、クロム(Cr)のほかに、アルミニウム(Al)や銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等であってもよい。
下地層DR2上のトップ層DR3の材質としては、先の酸化クロム、比較的反射率をコントロールできるような高屈折率の誘電体、酸化チタン(TiO)、ジルコン、酸化ハフニウム、ダイアモンドライクカーボン(DLC)、等の酸化物や窒化物等の金属系化合物が同様に利用できる。
【0089】
また、通常、露光用の照明光(IE0)は、波長436nm(g線)以下の紫外線であり、アライメント用の照明光(ILa)には、光感応層(Pb3)を感光させないような可視域〜赤外域の波長帯の光を使う。
このため、銅(Cu)のように、紫外域の光に対して反射率が低く、赤の波長域の光に対して反射率が高くなるような金属材料で下地層DR2を形成することで、アライメント用の照明光(ILa)と露光用の照明光(IE0)の各々に対する反射率に差をつけることも可能である。
【0090】
下地層DR2として、銅(Cu)をメッキにより厚く堆積させた後に、トップ層DR3としてダイアモンドライクカーボン(DLC)を、0.5μm厚と2μm厚で形成して、波長355nmの紫外線(露光光)に対する反射率Reと、波長450nm〜650nmの可視域の光(アライメント光)に対する反射率Rvを測定した。その結果は、表1の通りであった。
【0092】
このように、少なくとも、回転ドラムDRの外周表面DRsの露光用照明光(IE0)に対する反射率を抑制することで、露光時に不要なパターン像(ボケた像)が写り込むと言った問題を無くすことが可能になる。
【0093】
[第2実施形態]
先の第1実施形態の露光装置は、いわゆるマルチレンズ方式である為、複数の投影光学系PL1〜PL6の各投影領域PA1〜PA6に形成されるマスクパターン像が、結果的にY方向(又はX方向)に良好に継ぎ合わされていると共に、基板P上の下地のパターンと良好に位置合わせ(重ね合わせ)されている必要がある。
その為に、複数の投影光学系PL1〜PL6による継ぎ精度を許容範囲内に抑える為のキャリブレーションが必要となる。また、各投影光学系PL1〜PL6の投影領域PA1〜PA6に対するアライメント系AM1〜AM5の観察(撮像)領域Vwとの相対的な位置関係は、ベースライン管理によって精密に求められている必要がある。そのベースライン管理の為にも、キャリブレーションが必要となる。
【0094】
複数の投影光学系PL1〜PL6による継ぎ精度を確認する為のキャリブレーション、アライメント系AM1〜AM5のベースライン管理の為のキャリブレーションでは、基板Pを支持する回転ドラムDRの外周面の少なくとも一部に、基準マークや基準パターンを設ける必要がある。
【0095】
平面のガラスプレートを平坦な基板ホルダに載置し、その基板ホルダを2次元的に移動させて、投影露光を行なう従来の露光装置では、基板ホルダの外周部でガラスプレートによって覆われない部分に、キャリブレーション用の基準マークや基準パターンを設け、キャリブレーション時には、その基準マークや基準パターンを投影光学系やアライメント系の対物レンズの下に移動させている。
【0096】
しかしながら、先の第1実施形態の露光装置のように、ほとんどの稼動時間中、回転ドラムDRの外周面の一部(投影領域PA1〜PA6の位置)に基板Pが巻き付いた状態では、そのような基準マークや基準パターンを、回転ドラムDRの外周面で基板Pと接触する部分に設けざるを得ない。
そこで本実施形態では、
図10に示すように、外周面に基準マークや基準パターンを設けた回転ドラムDRを用いる場合について説明する。
【0097】
図10は、回転中心線AX2と同軸のシャフト部Sf2と一体に旋盤加工された回転ドラムDRの斜視図であり、先の
図2、
図6で示した構成と同様に、エンコーダ計測用のスケール部GPa、GPbと、規制帯CLa、CLbが設けられている。
さらに本実施形態では、回転ドラムDRの外周面の規制帯CLa、CLbで挟まれた全周に、Y軸に対して+45度で傾いた複数の線パターンRL1と、Y軸に対して−45度で傾いた複数の線パターンRL2とを、一定のピッチ(周期)Pf1,Pf2で繰り返し刻設したメッシュ状の基準パターン(基準マークとしても利用可能)RMPが設けられる。
【0098】
回転ドラムDRの回転によって、その外周面、即ち規制帯CLa、CLbで挟まれた全周は、必ず基板Pと接触することになるので、基準パターンRMPは、基板Pと回転ドラムDRの外周面とが接触した場所による摩擦力や基板Pの張力等の変化を生じないように、全面均一な、斜めパターン(斜格子状パターン)とした。
基板Pの搬送方向(X方向)と基板Pの幅方向(Y方向)の各々に対して、線パターンRL1、RL2を斜めにすることで、摩擦力や張力等の方向性を緩和している。
しかしながら、線パターンRL1、RL2は、必ずしも斜め45度である必要はなく、線パターンRL1をY軸と平行にし、線パターンRL2をX軸と平行にした縦横のメッシュ状パターンとしても良い。
さらに、線パターンRL1、RL2を90度で交差させる必要はなく、隣接する2本の線パターンRL1と、隣接する2本の線パターンRL2とで囲まれた矩形領域が、正方形(又は長方形)以外の菱形になるような角度で、線パターンRL1、RL2を交差させても良い。
【0099】
また、
図10で示した線パターンRL1、RL2のピッチPf1,Pf2は、アライメント系のベースライン(投影光学系PLの投影領域PAと撮像領域Vwとの相対位置関係)の予想される変動量、或いは、マルチレンズ方式の複数の投影光学系PL1〜PL6間の予想される変動量を考慮し、その予想される変動量の最低2倍以上あれば良い。
例えば、予想される変動量の最大値が10μmである場合、ピッチPf1、Pf2は、線パターンRL1、RL2の線幅LW(5〜20μm)に応じて異なるが、30〜50μm程度であれば、正確なキャリブレーションが可能となる。
【0100】
各線パターンRL1、RL2の線幅LWは、各線パターンRL1、RL2を刻設する描画装置の精度(分解能)や、エッチング条件等によって細くできる限界が決まるが、アライメント系AM1〜AM5によって安定して画像解析できる範囲で、なるべく細くしておくのが良い。
尚、各アライメント系AM1〜AM5の撮像(観察)領域Vwで、基準パターンRMPを検出して、ベースライン計測等を行なう場合、線パターンRL1、RL2のピッチPf1、Pf2を50μm程度にしておく。すると、線パターンRL1、RL2の交点部分は、Y方向、X方向に、70μm程度のピッチで現れ、撮像(観察)領域Vwが200μm角の範囲であれば、特定の1つの交点部分を良好に捕捉して、位置ずれの画像解析を行なうことができる。
【0101】
図11は、
図10中の円内に示したX軸に沿って、線パターンRL1、RL2による基準パターンRMPの一部を破断した断面図である。
本実施形態でも、先の第1実施形態の
図8と同様に、鉄又はアルミニウムの円筒状の基材DR1の表面に、クロムまたは銅の下地層DR2がメッキにより厚めに堆積される。その後、下地層DR2の表面を光学研磨して平坦性を高めてから、下地層DR2の全周にフォトレジストを塗布して、描画装置により、下地層DR2に線パターンRL1、RL2による基準パターンRMPを露光する。
このとき、スケール部GPa、GPbの格子線も一緒に描画することにより、基準パターンRMPとスケール部GPa、GPbとの相対的な位置関係(特に周方向の位置関係)を一定にすることができる。
【0102】
その後、フォトレジストの現像により、線パターンRL1、RL2に対応した部分のレジストを除去し、露出した下地層DR2(クロム又は銅)を所定の深さまでエッチングしてから、その表面に、トップ層DR3(酸化クロム、又はDLC)を所定の厚みで堆積する。
トップ層DR3の厚みは、酸化クロムの場合であれば、先の
図9の特性に基づいて設定される。最終的に形成されたトップ層DR3による線パターンRL1、RL2(凹部)の段差量ΔDPは、計測により設計値と比較され、所定の許容範囲内であることが確認される。
【0103】
このような線パターンRL1、RL2による基準パターンRMPは、その表面の露光用照明光に対する反射率を、先の第1実施形態と同様に、20%以下に抑えることも可能である。このことから、基準パターンRMPで露光用照明光が反射しても、光感応層Pb3に不要なパターンとして露光される程のエネルギーではないことから、実質的に問題にならない。
尚、線パターンRL1、RL2は、
図11のように、エッチングによって凹部として形成したが、ネガ型フォトレジストを使って、線パターンRL1、RL2を凸部として形成しても良い。
【0104】
ところで、線パターンRL1、RL2による基準パターンRMPは、回転ドラムDRの外周表面DRsに凹凸として形成される為、その凹凸の段差量を特定の条件にしておくと、基準パターンRMP全体が、露光用の照明光とアライメント用の照明光に双方に対して、反射強度を抑える位相パターンとすることが可能である。
その為には、
図11に示した段差量ΔDPを、以下のような条件で設定すると良い。
【0105】
ここで、露光用照明光IE0の中心波長をλ1、アライメント用の照明光ILaの中心波長をλ2とし、mをゼロを含む任意の整数(m=0,1,2,・・・)とすると、露光用の照明光IE0の中心波長λ1に関しては、
λ1・(m+1/8)/2 ≦ ΔDP ≦ λ1・(m+7/8)/2・・・(3)
の範囲で、段差量ΔDPを設定すると良い。さらに、
λ1・(m+1/4)/2 ≦ ΔDP ≦ λ1・(m+3/4)/2・・・(4)
の範囲で、段差量ΔDPを設定することができる。
【0106】
一方、アライメント用の照明光ILaの中心波長λ2に関しても、上記の式(3)、(4)における波長λ1をλ2に置き換えて、段差量ΔDPの範囲を決めることができる。
その際、露光用照明光の波長λ1に関して求められる段差量ΔDPの範囲と、アライメント用照明光の波長λ2に関して求められる段差量ΔDPの範囲とを比較し、双方の範囲が重なるところ、或いは近接しているところを、最適な段差量ΔDPと設定すれば、露光用の照明光とアライメント用の照明光に双方に対して、基準パターンRMPから生じる反射光の強度を低減できる。
即ち、露光用照明光の中心波長λ1とアライメント用照明光の中心波長λ2の双方に対して、上記の式(3)、式(4)を満たす、或いは近似するような段差量ΔDPを設定すれば良い。
【0107】
以上、第1実施形態や第2実施形態では、回転ドラムDRとなる円筒状の基材DR1の外周面に、比較的に厚い下地層DR2とトップ層DR3とを積層して、反射率を調整したが、それ以上の層数の積層構造としても良い。
例えば、回転ドラムDRの軽量化の為に、基材DR1をAl(アルミニウム)ブロックから削り出し、その基材DR1の外周面に、平面度(真円度や表面粗さ)加工の為の比較的に硬いクロム(Cr)を厚めにメッキした後、さらに、その上に、先の
図8や
図11で示した下地層DR2としての銅(Cu)のメッキを施し、その上にトップ層DR3として、DLCを所定の厚さで積層させても良い。
その場合、基準パターンRMP(線パターンRL1、RL2)やスケール部GPa、GPbの格子線は、硬いクロム層、又はその上の銅の下地層DR2に対して刻設される。
【0108】
[第3実施形態]
先の実施形態の露光装置は、円筒マスクDMを使って基板Pにマスクパターンを走査露光するものであったが、マスクを用いない露光装置、いわゆるパターンジェネレータのような露光装置であっても、回転ドラムDRを使って基板Pを支持しつつ、パターン露光することができる。そのような露光装置の例を
図12、
図13を参照して説明する。
【0109】
図12は、本実施形態による露光装置(パターン描画装置)の主要部を、XZ面内で見た正面図であり、
図13は、
図12の構成をXY面内で見た上面図である。
本実施形態では、
図13に示すように、回転ドラムDRの外周面に密着、支持される基板P上の露光領域A7を、Y方向(回転中心線AX2が伸びる方向)に高速にスキャンするレーザスポット光(例えば、4μm径)の直線的な走査線LL1、LL2、LL3、LL4によって、パターン描画を行なう。走査線LL1〜LL4の各々は、Y方向の走査長が比較的に短い為、中心面p3に対して対称的に千鳥配置される。
【0110】
各走査線LL1〜LL4のうち、奇数番の走査線LL1、LL3は、中心面p3に対して、−X側に配置され、偶数番の走査線LL2、LL4は、中心面p3に対して、+X側に配置される。
これは、
図12に示すように、各走査線LL1〜LL4に沿ってスポット光を走査する奇数番の描画モジュールUW1、UW3と、偶数番の描画モジュールUW2、UW4を、空間的な干渉をさけて、中心面p3に対して対称的に配置するからである。
【0111】
本実施形態では、回転ドラムDRのシャフト部Sf2に、エンコーダ計測用のスケール円盤SDを個別に取り付ける。スケール円盤SDの外周面に刻設されるスケール部GPa(及びGPb)は、設置方位線Le1上に配置されるエンコーダヘッドEN1と、設置方位線Le2上に配置されるエンコーダヘッドEN2とによって計測される。
また、先の
図5、
図6のようなアライメント系AM1〜AM5が配置される設置方位線La1の位置にも、スケール部GPa(及びGPb)を読み取るエンコーダヘッドEN3が配置される。
【0112】
図12に示すように、4つの描画モジュールUW1〜UW4は、何れも同じ構成であるので、代表して描画モジュールUW1について、詳細な構成を説明する。
描画モジュールUW1は、外部の紫外レーザ光源(連続又はパルス)からのビームLBを入射して、ビームLBの基板Pへの投射/非投射を高速にスイッチングするAOM(Acousto−Optic Modulator)80、AOM80からのビームLBを基板P上の走査線LL1に沿ってスキャンする為の回転ポリゴンミラー82、折り曲げミラー84、f−θレンズ系86、及び、光電素子88等を備える。
【0113】
f−θレンズ系86を介して基板Pに投射されるビームBS1は、Y方向のスキャン中、描画すべきパターンのCAD情報に基づいてOn/OffされるAOM80によって変調され、基板Pの光感応層上にパターンを描画していく。走査線LL1に沿ったビームBS1のY方向走査と、回転ドラムDRの回転による基板PのX方向の移動とを同期させることで、露光領域A7中の走査線LL1に対応した部分にパターンが露光される。
このような描画方式である為、
図12のように、XZ面内でみたとき、基板Pに達するビームBS1の軸線は、設置方位線Le1と一致した方向になっている。このことは、偶数番の描画モジュールUW2から投射されるビームBS2に関しても同様で、基板Pに達するビームBS2の軸線は、設置方位線Le2と一致した方向になっている。
【0114】
このように、4つの走査線LL1〜LL4によって、露光領域A7にパターンを描画する場合、各走査線LL1〜LL4の間の継ぎ部の精度が重要となる。
図13の場合、露光領域A7は、まず始めに、奇数番の走査線LL1、LL3に対応した領域の露光が開始され、その位置から基板Pが周長方向に距離ΔXuだけ進んだ位置から、偶数番の走査線LL2、LL4に対応した領域の露光が開始される。
従って、各走査線LL1〜LL4のスポット光による描画開始点と描画終了点を正確に設定することにより、露光領域A7内の全体に形成されるパターンを良好につぐことができる。
【0115】
以上のような、パターン描画装置においても、先の第1実施形態の
図8で示した構造の回転ドラムDR、或いは、第2実施形態の
図10、
図11で示した構造の回転ドラムDRを用いることにより、ノイズとなる不要なパターンの写り込みを低減して、高精度なパターニングが達成される。
【0116】
以上、各実施形態を説明したが、基板Pの支持装置としては、円筒状の回転ドラムDR以外にも、平坦な支持面を持つもの、基板Pの搬送方向に大きな曲率で円筒状に湾曲した支持面を持つものであっても良い。あるいは、それらの支持装置の支持面にエアベアリングによる気体層が形成され、その気体層によって基板を微少量浮上させて支持するような支持装置であっても、発明を同様に適用することができる。
【0117】
また、先の各実施形態では、下地層DR2、トップ層DR3の金属系薄膜として、Cu(銅)、Cr(クロム)、Cr
2O
3(三価の酸化クロム)を挙げたが、これに限られず、CrO(二価の酸化クロム)であっても良い。例えば、基材DR1(SUS、Al等)の上に成膜する下地層DR2をCuとし、下地層DR2の上に堆積させるトップ層DR3として、CrOをメッキ、蒸着、スパッタで成膜しても良い。
また、先の各実施形態のトップ層DR3として成膜されるダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、炭素原子で構成され、非晶質構造、及びまたは結晶質を含むアモルファス構造であって、炭素原子間の結合として、グラファイトのsp2結合とダイヤモンドのsp3結合の混在した構造である。
DLCは硬質膜として成膜されるが、水素含有量の多少と、含まれる結晶質の電子軌道がダイヤモンド寄りかグラファイト寄りかによって、その性質が区別される。
【0118】
[第4実施形態]
ところで、先の
図10で示した回転ドラムDRの外周表面DRsに形成される基準パターンRMPの形態は、基板Pを透過した露光光の照射によって、その基準パターンRMPから強い迷光(不要な反射光)が発生しないようなものであれば、どのような形状であっても良い。
図14は、回転ドラムDRの外周表面DRsに形成される基準パターンRMPの変形例を第4実施形態として示す斜視図であり、
図10中の回転ドラムDRの部材と同じ部材には、同じ符号を付けてある。
【0119】
図14において、回転ドラムDRのシャフト部Sf2が延びる方向(Y軸方向)の両端面には、先の
図12、
図13と同様に、エンコーダ計測用のスケール円盤SDが複数のネジFBによって締結されている。本実施形態では、スケール円盤SDの外周面に形成されるスケール部GPa,GPbの直径(又は中心線AX2からの半径)は、回転ドラムDRの外周表面DRsの直径(又は中心線AX2からの半径)と同じになるように設定される。
【0120】
回転ドラムDRの外周表面DRsには、回転中心線AX2と平行な方向(Y軸方向)に沿って直線的に延びる線パターンRLaと、周方向に沿って直線的に延びる(XZ面と平行な面内で周回する)2本の線パターンRLb、RLcとが、基準パターンRMPとして形成される。
線パターンRLaは、
図14の場合は、周方向に45°間隔で配置される。2本の線パターンRLb、RLcは、回転中心線AX2と平行な方向(Y軸方向)に、一定の間隔を空けて配置される。線パターンRLaの周方向の角度間隔ηは45°に限られず、何度であっても良い。
【0121】
その一定の間隔は、先の
図6に示したアライメント系AM1〜AM5の各撮像領域VwのY軸方向の間隔に対応している。すなわち、線パターンRLaと2本の線パターンRLb、RLcとの交差部ALAが、回転ドラムDRの回転に伴って、アライメント系AM1〜AM5の各撮像領域Vw内に次々に現れるように、各線パターンRLa、RLb、RLcが配置され、交差部ALAの線パターン部が基準パターンRMPとして検出される。
【0122】
先の
図6で示すように、基板P上にはマークKs1〜Ks5が形成されるので、2本の線パターンRLb、RLcの少なくとも一方は、マークKs1〜Ks5のY軸方向の位置と重ならないようにずらして配置される。
一例として、2本の線パターンRLb、RLcの各線幅LWを15μm、Y軸方向の間隔距離を150μmに設定して、マークKs1〜Ks5の各々が、その2本の線パターンRLb、RLcの間に位置するように設定すると、各アライメント系AM1〜AM5は、その撮像領域Vw内で、マークKs1〜Ks5と共に線パターンRLb、RLcを検出することが可能となる。
【0123】
さらに、
図6で示した基板P上の送り方向に隣り合って配置される2つの露光領域A7の間の余白部(マークKs2〜Ks4が配置される透明領域)を所定の寸法以上にしておくと、その余白部の下に、回転ドラムDRの外周表面DRsに形成された線パターンRLa、RLb、RLcによる交差部ALAを確実に配置させることもできる。
【0124】
例えば、回転ドラムDRの外周表面DRsの直径をRddとすると、外周表面DRsに沿った線パターンRLaの周方向の間隔距離LKは、先に説明した線パターンRLaの周方向の角度間隔ηを用いると、
LK=π・Rdd・(η/360)・・・(5)
で表される。
2つの露光領域A7間の余白部の基板Pの長手方向(送り方向)に関する寸法をLUとすると、LU>LKの条件を満たすように設定すると、基板Pの余白部内に、少なくとも1本の線パターンRLaを配置させることができる。
【0125】
以上、本実施形態では、基準パターンRMPを、基板Pの長手方向(送り方向)と短手方向(Y軸方向)の各々の方向に直線的に延びる線パターンRLa、RLb、RLcで構成するので、アライメント系AM1〜AM5の各撮像領域Vw内に現れる交差部ALAの二次元的な位置を、撮像素子の水平走査線や垂直走査線に沿った方向で直接計測でき、画像処理の演算時間が短縮される利点がある。
【0126】
[第5実施形態]
ところで、
図14のような線パターンRLa、RLb、RLcを回転ドラムDRの外周表面DRsに形成すると、基板P上の露光領域A7に形成される配線パターンや画素パターンの配列方向と揃っている。
このことから、例えば外周表面DRsの露光光に対する反射率を下地層DR2、トップ層DR3(先の
図8参照)によって小さくしても、線パターンRLa、RLb、RLcの段差エッジ部で生じた僅かな散乱光等が線パターンRLa、RLb、RLcの方向に分布し、基板P上の露光領域A7に形成される配線パターンや画素パターンの配列方向と揃って、問題となる可能性もある。
【0127】
そこで、本実施形態では、
図15に示すように、線パターンRLa、RLb、RLcの段差エッジ部で生じ得る僅かな散乱光等を低減する為に、回転ドラムDRの外周表面DRsに形成される線パターンRLa、RLb、RLcを線幅LWの凹部とし、その凹部内に紫外線(露光光)を吸収する材料PIを充填する。
【0128】
材料PIは、紫外線吸収剤を含有した塗料(乾燥後は硬化するもの)であり、段差エッジで発生する散乱光や回折光を吸収し、基板Pの表側に達する散乱光や回折光の量を低下させる。紫外線吸収剤は、一例として、BASF−SE社から商品名Uvinul(登録商標)、又はTINUVIN(登録商標)として市販されており、紫外波長域の露光光は吸収するが、可視波長域のアライメント用照明光はほとんど吸収しない特性を有する。
【0129】
以上のように、本実施形態では、基準パターンRMPを構成する線パターンを凹部で形成し、その凹部に紫外線吸収物質を充填するようにしたので、露光光の照射によって回転ドラムDRの外周表面DRsから反射する迷光を、さらに低減させることができる。
なお、外周表面DRsの凹部に紫外線吸収物質を充填する手法は、先の
図10、
図11に示した線パターンRL1、RL2に対しても同様に適用可能である。また、そのような紫外線吸収剤を含有した塗料は、基板Pと接触する外周表面DRsに付いた傷や凹み等の不整部分の補修にも利用できる。
【0130】
[第6実施形態]
次に、マスクレス方式のパターン露光装置に、先の
図2、
図7、
図10、
図14で説明した基板支持装置を適用する場合の構成を、
図16に基づいて説明する。
図16において、基板支持装置は先の各実施形態と同様に、テンション調整ローラTR1、TR2、シャフト部Sf2で軸支されると共に基板Pを巻き付ける回転ドラムDR、スケール円盤SD、エンコーダヘッドEN1、EN3等で構成される。アライメント系AM1(及びAM2〜AM5)も、同様に対物レンズ系GA1、ビームスプリッタGB1、照明ユニットGC1、及び撮像系GD1で構成される。
【0131】
露光ユニットは、露光用照明光(露光光)を発生する光源100、多数の可動マイクロミラーが2次元に配列したDMD(Digital Micromirror Device、登録商標)104を均一な照度で一様に照明する照明系101、ミラー103、DMD104の各マイクロミラーで反射した露光光を集光するレンズ系105、多数のマイクロレンズを2次元に配列したMLA(Micro−Lens Array)106、回転ドラムDRに巻かれた基板Pの面と共役な視野絞り107、MLA106の各マイクロレンズによって視野絞り107の開口内に形成される光スポットを基板P上に投影する為のレンズ系108、109で構成される投影光学系PL、とを備える。
【0132】
また、本実施形態の投影光学系PL内の瞳面には、
図16の紙面と直交した方向(Y軸方向)に挿脱可能なビームスプリッタ110が設けられる。
このビームスプリッタ110が挿入されると、MLA106からの露光光が、投影光学系PLのレンズ系108、ビームスプリッタ110、レンズ系109を介して、基板Pの表面、又は回転ドラムDRの外周表面DRs上に投射されたときに、基板Pの表面又は外周表面DRsで反射して戻ってくる反射光の一部を、集光レンズや光電素子等を含むモニター系112に導くことができる。
【0133】
このモニター系112は、基板Pの表面又は外周表面DRsからの反射光(露光光)の光量を計測して、基板Pに対して適正な露光量(照度)が与えられているか否かを判断する為の光量モニター、或いは、反射光(露光光)に基づいて、基板P上のマークKs1〜Ks5や外周表面DRs上の基準パターンRMPに関する光情報(光学像、回折光等)を収集するアライメントモニターとして構成される。
【0134】
図16のようなマスクレス型のパターン露光装置では、パターン描画データ(CADデータ)、エンコーダヘッドEN1(又はEN3)からの計測信号に基づく基板Pの送り位置の情報、或いはアライメント系AM1(AM2〜AM5)で計測される基板PのマークKs1〜Ks5の位置情報とに基づいて、DMD104の各マイクロミラーの角度が高速に切り替えられる。
これによって、各マイクロミラーで反射した露光光がMLA106の対応したマイクロレンズに入射する状態と、入射しない状態とに切り替えられるので、基板P上には描画データに従ったパターンが露光(描画)される。
【0135】
図16に示した本実施形態のパターン露光装置も、先の
図2、
図4に示したような条件で、回転中心線AX2と平行な方向(Y軸方向)に、複数の露光ユニットを設けることで、Y軸方向の幅が大きな基板Pの露光処理に対応できる。その場合、
図16中の視野絞り107の開口形状は、
図4中の各露光領域PA1〜PA6の形状と同様の台形状とし、その台形状の開口内に、MLA106で作られる多数の光スポットが一定ピッチで並ぶようにするのが良い。
【0136】
また、MLA107の射出側に形成される多数の光スポットの集光点によって規定されるフォーカス面が、回転ドラムDRの外周表面DRsと同様に円筒状に湾曲するように、例えば
図16中のMLA106の場合は、その各マイクロレンズのうち、X方向に並ぶマイクロレンズ間で焦点距離を僅かずつ異ならせても良い。