(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態の説明に先立ち、本発明者が得た知見について説明をする。上述したように、酢酸ビニルを10質量%以上40質量%以下含有するEVAを含む半導電性樹脂組成物で形成される外部半導電層を、エチレンプロピレンゴムで形成される絶縁層の外周に設ける場合、外部半導電層と絶縁層との密着性が高いため、外部半導電層を絶縁層から容易に剥離させることが困難である。つまり、絶縁層から外部半導電層を剥離させるときの剥離強度が高い。
【0013】
外部半導電層の剥離強度を低減させる方法について本発明者らが検討を行ったところ、外部半導電層を形成する半導電性樹脂組成物に、パラフィンワックスなどの粘度調整剤を多量に含有させるとよいとの知見が見出された。
【0014】
一般に、粘度調整剤は、半導電性樹脂組成物を低粘度化させて、半導電性樹脂組成物を押し出すときの押出成形性を向上させるものである。従来、粘度調整剤の添加量は、ブリードを抑制する観点から、少量がよいと考えられていた。ブリードとは、樹脂組成物に含有させた粘度調整剤が、樹脂組成物で形成された樹脂成形体の表面に溶出することであり、樹脂成形体をべたつかせて取り扱い性などを低下させる要因となる。
【0015】
半導電性樹脂組成物に多量の粘度調整剤を含有させると、絶縁層の外周に外部半導電層を形成したときに、絶縁層と外部半導電層との界面に粘度調整剤をブリードさせることができる。つまり、粘度調整剤を絶縁層と外部半導電層との界面に介在させることができる。これにより、絶縁層と外部半導電層との過度な密着を抑制し、絶縁層から外部半導電層を剥離させるときの剥離強度を低減させることができる。
【0016】
本発明は、上述の知見に基づいて成されたものである。
【0017】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0018】
(1)送電ケーブルの構成
本発明の一実施形態に係る送電ケーブルについて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る送電ケーブルの断面図である。
【0019】
(導体)
図1に示すように、本実施形態の送電ケーブル1は、導体10を備えている。導体10としては、例えば、低酸素銅や無酸素銅等からなる銅線、銅合金線、銀等からなる他の金属線等、又はこれらを撚り合わせた撚り線を用いることができる。導体10の外径は、送電ケーブル1の用途に応じて適宜変更することができる。
【0020】
(内部半導電層)
導体10の外周を囲うように、内部半導電層11が設けられている。例えば、内部半導電層11は、導体10の外周を被覆するように設けられている。内部半導電層11は、後述する絶縁層12に密着して設けられ、絶縁層12の表面の凹凸を埋めて部分放電を抑制するためのものである。内部半導電層11の厚さは、例えば、0.3mm以上3mm以下である。
【0021】
内部半導電層11は、従来公知の半導電性樹脂組成物で形成されている。内部半導電層11を形成する半導電性樹脂組成物は、例えば、ベース樹脂と導電性付与剤とを含有している。内部半導電層11を形成するベース樹脂としては、後述する絶縁層12との密着性を確保する観点から、例えば、エチレンプロピレンゴムやブチルゴムなどの熱可塑性樹脂を用いるとよい。なお、内部半導電層11を形成する半導電性樹脂組成物には、必要に応じて架橋剤、架橋助剤および老化防止剤などのその他添加剤が含有されていてもよい。また、内部半導電層11は、半導電性樹脂組成物で形成される以外に、例えばスフ製の基布に導電性ブチルゴムを塗布した半導電性布テープを巻き付けることで形成されてもよい。
【0022】
(絶縁層)
内部半導電層11を囲うように、絶縁層12が設けられている。例えば、絶縁層12は、内部半導電層11の外周を被覆するように設けられている。絶縁層12の厚さは、例えば、3mm以上30mm以下である。
【0023】
絶縁層12は、熱可塑性樹脂を含有する絶縁性樹脂組成物で形成されている。絶縁層12を形成する熱可塑性樹脂としては、外部半導電層13に用いる熱可塑性樹脂との溶解度パラメータSP値の差が少なくとも1.1(cal/cm
3)
1/2となるような樹脂を選択
し、エチレンプロピレンゴム
を用いる。なお、絶縁層12には、架橋剤、架橋助剤、老化防止剤などのその他の添加剤が含有されていてもよい。
【0024】
(外部半導電層)
絶縁層12を囲うように、外部半導電層13が設けられている。例えば、外部半導電層13は、絶縁層12の外周を被覆するように設けられている。外部半導電層13は、内部半導電層11と同様に絶縁層12の表面の凹凸を埋めて部分放電を抑制するためのものである。外部半導電層13の厚さは、例えば、0.3mm以上3mm以下である。
【0025】
外部半導電層13は、詳細を後述するように、熱可塑性樹脂100質量部に対して粘度調整剤を10質量部以上30質量部以下と、導電性付与剤を40質量部以上80質量部以下と、を含有する半導電性樹脂組成物で形成されている。つまり、外部半導電層13は、ブリードが生じるような量の粘度調整剤を含有する半導電性樹脂組成物で形成されている。そのため、粘度調整剤は、外部半導電層13からブリードして外部半導電層13と絶縁層12との界面20に介在している。ブリードした粘度調整剤は、界面20の全体または一部に存在することで、外部半導電層13の絶縁層12への過度な密着を抑制している。これにより、外部半導電層13は、絶縁層12から剥離させるときの剥離強度が低くなるように構成されている。
【0026】
外部半導電層13の剥離強度は、絶縁層12がエチレンプロピレンゴムで形成される場合、好ましくは10N/12.7mm以上50N/12.7mm、より好ましくは15N/12.7mm以上25N/12.7mm以下である。剥離強度が10N/12.7mm未満となると、外部半導電層13が振動や加工時の曲げなどの外部応力で剥離してしまい、外部半導電層13の部分放電を抑制する効果を得られないおそれがある。剥離強度が50N/12.7mmを超えると、外部半導電層13を剥離させるときに外部半導電層13自体が破壊されたり、絶縁層12が破壊されたりするおそれがある。
【0027】
外部半導電層13は、導電性付与剤の分散性に優れる半導電性樹脂組成物から形成されており、体積抵抗率が10
2Ω・cm以上10
5Ω・cm以下となる。
【0028】
(外部半導電層を形成する半導電性樹脂組成物)
外部半導電層13を形成する半導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対して粘度調整剤を10質量部以上30質量部以下と、導電性付与剤を40質量部以上80質量部以下と、を含有している。以下、各成分について説明する。
【0029】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂は、半導電性樹脂組成物のベース樹脂である。この熱可塑性樹脂としては、ハロゲンを含まないものであれば、特に限定されない。外部半導電層13の絶縁層12との密着性をさらに抑制する観点からは、溶解度パラメータSP値が、9.3(cal/cm
3)
1/2以上10.1(cal/cm
3)
1/2以下である熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0030】
溶解度パラメータSP値は、Fedors法により分子構造から算出され、物質(樹脂)の蒸発エネルギーおよびモル体積から算出される値であり、樹脂の極性の指標となる。一般に、樹脂と樹脂との極性の差(溶解度パラメータSP値の差)が大きくなるほど、2つの樹脂同士の密着性が小さくなる。本実施形態では、熱可塑性樹脂の溶解度パラメータSP値を9.3(cal/cm
3)
1/2以上とすることで、例えばエチレンプロピレンゴム(溶解度パラメータSP値8.2(cal/cm
3)
1/2)で形成される絶縁層12との溶解度パラメータSP値の差を1.1(cal/cm
3)
1/2以上とすることができ、外部半導電層13の絶縁層12との密着をさらに抑制できる。また、界面20での密着を抑制することで、界面20への粘度調整剤のブリードを促進させることができる。こられの作用が相まって、外部半導電層13の剥離強度をさらに低減することができる。一方、熱可塑性樹脂の溶解度パラメータSP値を10.1(cal/cm
3)
1/2以下とすることで、外部半導電層13と絶縁層12とを、部分放電を抑制できる程度に適度に密着させることができる。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、例えば、VA量44.0質量%以上83.4質量%以下のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(溶解度パラメータSP値9.3(cal/cm
3)
1/2以上10.1(cal/cm
3)
1/2以下)、あるいはアクリロニトリル量12.8質量%以上28.6質量%以下のニトリルゴム(NBR)(溶解度パラメータSP値9.3(cal/cm
3)
1/2以上10.1(cal/cm
3)
1/2以下)を用いることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この中でもEVAが好ましい。EVAは、エチレンユニットと酢酸ビニルユニットからなり、酢酸ビニルユニットの比率(いわゆるVA量)により溶解度パラメータSP値を変更できる。具体的には、EVAのVA量を44.0質量%以上とすることにより、EVAの溶解度パラメータSP値を9.3(cal/cm
3)
1/2以上とすることができる。一方、EVAのVA量を83.4質量%以下とすることにより、EVAの溶解度パラメータSP値を10.1(cal/cm
3)
1/2以下とすると共に、EVAのガラス転移温度が高くなることでEVAの耐寒性が低下してしまうことを抑制することができる。
【0032】
ニトリルゴム(NBR)は、ブタジエンユニットとアクリロニトリルユニットからなり、アクリロニトリルユニットの比率(いわゆるAN量)により溶解度パラメータSP値を変更できる。具体的には、NBRのAN量を12.8質量%以上とすることにより、NBRの溶解度パラメータSP値を9.3(cal/cm
3)
1/2以上とすることができ、NBRのAN量を28.6質量%以下とすることにより、NBRの溶解度パラメータSP値を10.1(cal/cm
3)
1/2以下とすることができる。
【0033】
なお、溶解度パラメータSP値の高い熱可塑性樹脂は、硬質であり、粘度が高いため、半導電性樹脂組成物を押し出すときの押出成形性を低下させるおそれがある。押出成形性が低くなると、半導電性樹脂組成物を均一な被覆厚で押し出せず、均一な厚さの外部半導電層13を形成することが困難となる。また別の問題として、溶解度パラメータSP値の高い熱可塑性樹脂は、硬質であるため、導電性付与剤を分散させにくい。導電性付与剤の分散性が低くなると、熱可塑性樹脂に添加して分散させる際に導電性付与剤が凝集する場合があり、半導電性樹脂組成物の導電性の調整が困難となる。この点、本実施形態では、後述する粘度調整剤を半導電性樹脂組成物に多量に含有させることで、溶解度パラメータSP値が高い熱可塑性樹脂を用いることによる押出成形性の低下や導電性付与剤の分散性の低下を抑制することができる。
【0034】
[粘度調整剤]
粘度調整剤は、半導電性樹脂組成物を低粘度化させることによって、半導電性樹脂組成物の押出成形性や、導電性付与剤の半導電性樹脂組成物への分散性を向上させるものである。また、粘度調整剤は、外部半導電層13から界面20にブリードし、外部半導電層13の絶縁層12との密着を抑制する。
【0035】
粘度調整剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、10質量部以上30質量部以下、好ましくは10質量部以上25質量部以下、より好ましくは10質量部以上20質量部以下である。粘度調整剤の含有量が10質量部未満であると、粘度調整剤が界面20へブリードしにくくなり、外部半導電層13の剥離強度を低減させることができない。粘度調整剤が30質量部を超えると、外部半導電層13の剥離強度が低くなりすぎるため、外部半導電層13が外部応力で剥離してしまう。
【0036】
粘度調整剤としては、例えば半導電性樹脂組成物の成形温度(80℃以上110℃以下)付近に融点を有し、100℃での粘度が好ましくは20mm
2/sec以下、より好ましくは5mm
2/sec以上15mm
2/sec以下であるものを用いることができる。粘度が20mm
2/secを超えると、半導電性樹脂組成物の粘度を十分に低減できず、押出成形性を向上できないおそれがある。この結果、半導電性樹脂組成物を均一な被覆厚で押し出して均一な厚さの外部半導電層を形成することが困難となる。なお、粘度調整剤の粘度は、JIS K2283に準拠して測定されたものである。
【0037】
粘度調整剤としては、例えば、分岐状炭化水素、飽和環状炭化水素または直鎖状炭化水素を用いることができる。これらの中から1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。具体的には、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックスなどを用いることができる。パラフィンワックスは、炭素数18以上30以下の直鎖状炭化水素であり、融点が40℃以上70℃以下のものである。マイクロクリスタリンワックスは、炭素数36以上70以下の分岐状炭化水素または飽和環状炭化水素であり、融点が60℃以上90℃以下のものである。
【0038】
[導電性付与剤]
導電性付与剤は、熱可塑性樹脂に分散されて導電性を付与するものである。導電性付与剤としては、例えば導電性カーボンを用いることができる。この導電性カーボンは、粒子径が小さい、比表面積が大きい、ストラクチャー(粒子の形)が大きい、表面化合物が少ない、といった特徴を有している。導電性カーボンは、少量の添加により導電性を付与できるため、多量に添加する必要がなく、半導電性樹脂組成物の粘度を過度に向上させるおそれがない。導電性カーボンとしては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラック等がある。具体的には、東海カーボン株式会社製のシーストG116(登録商標)、ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製のケッチェンブラックEC(登録商標)、電気化学工業株式会社製のアセチレンブラック(登録商標)等が挙げられる。なお、導電性カーボンは1種を用いてもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0039】
導電性付与剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、40質量部以上80質量部以下である。導電性付与剤の含有量が40質量部未満となると、導電性付与剤の含有量が少なく、外部半導電層に要求される導電性(例えば、体積抵抗率で10
2Ω・cm以上10
5Ω・cm以下)を満たすことが困難となる。一方、80質量部を超えると、半導電性樹脂組成物の粘度が過度に高くなるため、押出成形性が低下することになる。
【0040】
[その他の添加剤]
本実施形態の半導電性樹脂組成物には、必要に応じて架橋剤、架橋助剤、老化防止剤、滑剤、操作油、耐オゾン防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、充填剤、帯電防止剤、粘着防止剤などのその他の添加剤が含有されていてもよい。外部半導電層の耐変形性を向上させる観点からは、架橋剤が含有されていることが好ましい。耐変形性を向上させることにより、外部半導電層を剥離する際の破壊を抑制することができる。架橋剤としては、例えば、α,α'−ジ(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日本油脂株式会社製のパーブチルP)、ジクミルパーオキシド(日本油脂株式会社製のパークミルD)などの有機過酸化物を用いることができる。
【0041】
なお、上述の半導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、粘度調整剤、導電性付与剤、必要に応じてその他添加剤を混合し、加熱しながら混練することにより形成される。各成分の添加順序は、特に限定されない。なお、混練は、ミキシングロール、バンバリミキサ、ブラベンダープラストグラフ、加圧型ニーダーなどのバッチ式混練機や単軸または2軸押出機を用いて、同時的あるいは逐次的に行うことができる。混練の際の加熱温度は、熱可塑性樹脂の融点以上(例えば80℃以上110℃以下)とする。
【0042】
(遮蔽層)
遮蔽層14(以下、シールド層14ともいう)は、外部半導電層13の外周に設けられ、電流が導体10を流れる際に発生するノイズを遮蔽するものである。シールド層14は、可撓性を得るため、例えば軟銅線などの素線を複数編み込むことにより形成される。
【0043】
(シース)
シース15は、シールド層14の外周に設けられ、導体10や絶縁層12などを被覆保護するものである。シース15は、従来公知の樹脂組成物から形成され、例えば塩化ビニル樹脂から構成される。
【0044】
(2)送電ケーブルの製造方法
送電ケーブル1は、例えば以下のように製造することができる。まず、導体10を準備して、導体10の外周上に内部半導電層11用の半導電性樹脂組成物を押し出して内部半導電層11を形成する。そして、内部半導電層11を架橋させる。例えば有機過酸化物を用いて架橋させる場合、内部半導電層11を高温(140℃以上190℃以下)で高圧(1.3MPa)の水蒸気内に15分間、曝すことにより行う。続いて、内部半導電層11の外周に絶縁層12用の樹脂組成物を押し出して絶縁層12を形成し、絶縁層12を架橋させる。続いて、絶縁層12の外周に外部半導電層13用の半導電性樹脂組成物を押し出して外部半導電層13を形成し、外部半導電層13を架橋させる。その後、外部半導電層13の外周にシールド層14およびシース15を設けることで本実施形態の送電ケーブル1を得る。
【0045】
上述したように、内部半導電層11、絶縁層12および外部半導電層13は、順次押出被覆して形成してもよいが、3層を同時に押し出して形成してもよい。
【0046】
<本発明の実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0047】
(a)本実施形態の送電ケーブル1によれば、外部半導電層13が、熱可塑性樹脂100質量部に対して粘度調整剤を10質量部以上30質量部以下と、導電性付与剤を40質量部以上80質量部以下と、を含有する半導電性樹脂組成物で形成されている。外部半導電層13に粘度調整剤を含有させることによって、外部半導電層13と絶縁層12との界面20には粘度調整剤がブリードしている。ブリードした粘度調整剤は界面20の全体または一部に存在することで、外部半導電層13と絶縁層12との過度な密着を抑制できる。これにより、外部半導電層13を絶縁層12から剥離させるときの剥離強度を低減させることができる。したがって、本実施形態の送電ケーブル1は、外部半導電層13を容易に剥離させることができるので、端末加工性に優れている。
【0048】
(b)本実施形態によれば、熱可塑性樹脂は、溶解度パラメータSP値が9.3(cal/cm
3)
1/2以上10.1(cal/cm
3)
1/2以下である。
【0049】
このような熱可塑性樹脂は、外部半導電層13と絶縁層12との溶解度パラメータSP値の差を大きくさせることができるので、外部半導電層13の絶縁層12との密着をさらに抑制し、外部半導電層13の剥離強度をさらに低減させることができる。しかも、界面20での密着を抑制することにより、界面20への粘度調整剤のブリードを促進できる。こられの作用が相まって、外部半導電層13の剥離強度をさらに低減させることができる。
【0050】
(c)本実施形態によれば、熱可塑性樹脂は、エチレン酢酸ビニル共重合体
である。特に酢酸ビニルを44.0質量%以上83.4質量%以下含有するエチレン酢酸ビニル共重合体であ
る。このような熱可塑性樹脂は、絶縁層12との極性の差が大きく、外部半導電層13の剥離強度をさらに低減させることができる。
【0051】
(d)本実施形態によれば、粘度調整剤は、飽和環状炭化水素または直鎖状炭化水素の少なくとも1つであり、温度100℃における粘度が20mm
2/sec以下であることが好ましい。このような粘度調整剤は、半導電性樹脂組成物の粘度を低減させることで、半導電性樹脂組成物の押出成形性、および導電性付与剤の分散性を向上させることができる。
【0052】
(e)本実施形態によれば、外部半導電層13は、多量の粘度調整剤を含有して押出成形性に優れる半導電性樹脂組成物で形成されるため、外部半導電層13は均一な被覆厚を有する。また、外部半導電層13は、多量の粘度調整剤を含有して導電性付与剤の分散性に優れる半導電性樹脂組成物から形成されるため、所定量の導電性付与剤により体積抵抗率が10
2Ω・cm以上10
5Ω・cm以下となる。
【0053】
(f)本実施形態によれば、外部半導電層13の剥離強度は低減されている。具体的には、絶縁層12がエチレンプロピレンゴムで形成される場合、外部半導電層13を絶縁層12から幅12.7mmで剥離するときの剥離強度が5N/12.7mm以上30N/12.7mm以下となる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0055】
(1)内部半導電層用の半導電性樹脂組成物の調製
まず、内部半導電層用の半導電性樹脂組成物を調製した。具体的には、エチレンプロピレンゴム100質量部に対して、導電性付与剤を40質量部以上80質量部以下と、有機過酸化物や酸化防止剤などの添加剤とを加え、バンバリミキサで混練することで、内部半導電層用の半導電性樹脂組成物を調整した。
【0056】
(2)絶縁層用の樹脂組成物の調製
続いて、絶縁層用の絶縁性樹脂組成物を調製した。具体的には、溶解度パラメータSP値が8.2(cal/cm
3)
1/2であるエチレンプロピレンゴム100質量部に対して、クレーを30質量部以上70質量部以下と、有機過酸化物や酸化防止剤などの添加剤とを加え、バンバリミキサで混練することで、絶縁層用の樹脂組成物を調整した。
【0057】
(3)外部半導電層用の半導電性樹脂組成物の調製
続いて、外部半導電層用の半導電性樹脂組成物を調製した。実施例および比較例において用いた材料は次の通りである。
【0058】
(A)熱可塑性樹脂として、酢酸ビニル含量(VA量)が異なり、溶解度パラメータSP値が異なるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた。
・(a1)VA量80質量%のEVA(溶解度パラメータSP値10.1(cal/cm
3)
1/2):「レバプレン800HV」(ランクセス株式会社製)
・(a2)VA量70質量%のEVA(溶解度パラメータSP値9.8(cal/cm
3)
1/2):「レバプレン700HV」(ランクセス株式会社製)
・(a3)VA量60質量%のEVA(溶解度パラメータSP値9.6(cal/cm
3)
1/2):「レバプレン600HV」(ランクセス株式会社製)
・(a4)VA量50質量%のEVA(溶解度パラメータSP値9.4(cal/cm
3)
1/2):「レバプレン500HV」(ランクセス株式会社製)
・(a5)VA量46質量%のEVA(溶解度パラメータSP値9.3(cal/cm
3)
1/2):「EV45LX」(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)
・(a6)VA量33質量%のEVA(溶解度パラメータSP値9.1(cal/cm
3)
1/2):「EV150」(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)
【0059】
(B)粘度調整剤として次のものを用いた。
・(b1)パラフィンワックス(融点58℃、粘度3.9mm
2/sec(100℃)):「パラフィンワックス135」(JX日航日石株式会社製)
・(b2)マイクロクリスタリンワックス(融点88℃、粘度14.3mm
2/sec(100℃)):「マイクロクリスタリンワックスHi−Mic1090」(JX日航日石株式会社製)
【0060】
(C)導電性付与剤として次のものを用いた。
・(c1)カーボンブラック(平均粒径38nm):「デンカブラック」(デンカ株式会社製)
・(c2)カーボンブラック(平均粒径38nm):「シーストG116」(東海カーボン株式会社製)
【0061】
架橋剤(D)として次のものを用いた。
・有機過酸化物:「パーブチルP」(日油株式会社製)
【0062】
上記材料を用いて、実施例1〜7の半導電性樹脂組成物を調製した。調製条件を以下の表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1では、表1に示すように、(A)熱可塑性樹脂として(a1)VA量80質量%のEVA(溶解度パラメータSP値10.1(cal/cm
3)
1/2)100質量部に対して、(B)粘度調整剤の(b1)パラフィンワックスを18質量部と、(C)導電性付与剤の(c1)カーボンブラックを60質量部と、(D)架橋剤の有機過酸化物を2質量部と、を添加し、バンバリミキサで混練することによって、実施例1の半導電性樹脂組成物を調製した。実施例2〜9では、表1に示すように調製条件を適宜変更した以外は、実施例1と同様に半導電性樹脂組成物を調製した。
【0065】
また、上記材料を用いて、比較例1〜9の半導電性樹脂組成物を調製した。調製条件を以下の表2に示す。比較例1〜9では、表2に示すように調製条件を適宜変更した以外は、実施例1と同様に半導電性樹脂組成物を調製した。
【0066】
【表2】
【0067】
(4)評価用送電ケーブルの製造
本実施例では、送電ケーブルを模擬した評価用送電ケーブルを製造した。
上記で調製した内部半導電層用の半導電性樹脂組成物、絶縁層用の樹脂組成物および外部半導電層用の半導電性樹脂組成物の各成分をそれぞれ押出機に供給した。これらの各成分について、内部半導電層用の半導電性樹脂組成物を85℃、絶縁層用の樹脂組成物を60℃、外部半導電層用の半導電性樹脂組成物を80℃でそれぞれ加熱し混練した後、導体としての銅線(断面積95mm
2)の外周に、内部半導電層の厚さが1mm、絶縁層の厚さが9mm、外部半導電層の厚さが1mmとなるように3層同時押出した。続いて、押し出した各成分を架橋することにより、導体の外周に内部半導電層、絶縁層および外部半導電層をこの順に積層させた評価用送電ケーブルを製造した。
【0068】
(5)評価方法
製造した評価用送電ケーブルについて、外部半導電層の密着性、および外部半導電層の電気特性を評価した。
【0069】
(外部半導電層の密着性)
外部半導電層の密着性については、絶縁層から外部半導電層を剥離するときの剥離強度により評価した。具体的には、評価用送電ケーブルをカッターで縦割りし、幅12.7mm、長さ約15cm程度の試験片を3つ作製した。この各試験片に対して、ショッパー型引張試験機により剥離試験を実施し、500mm/minの引張速度で銅線から外部半導電層を剥離するときの剥離強度を測定した。なお、本実施例では、測定した剥離強度が10N/12.7mm以上50N/12.7mm以下であれば、外部半導電層を容易に剥離できることを示す。
また、剥離したときの外部半導電層の剥離状態を観察した。外部半導電層について、絶縁層に適度に密着すると共に良好に剥離する場合を「A」、密着性が大きすぎて絶縁層が破壊する場合を「B」、密着性が大きすぎて外部半導電層が破壊する場合を「C」、密着性が小さすぎる場合を「D」とした。
【0070】
(外部半導電層の電気特性)
外部半導電層の電気特性については、外部半導電層の体積抵抗率により評価した。具体的には、長さ80mm、幅50mm、厚さ1mmの試験片を作製し、JIS K7194に従い、9点測定で23℃±2℃の室内で評価した。外部半導電層においては、体積抵抗率が10
2Ω・cm以上10
5Ω・cm以下であればよい。
【0071】
(6)評価結果
表1に示すように、実施例1〜9では、剥離強度、剥離状態、体積抵抗率が良好であることが確認された。実施例1〜5によれば、(A)熱可塑性樹脂として溶解度パラメータSP値の高い熱可塑性樹脂を用いるほど、剥離強度を低減できることが分かる。また、実施例6,7によれば、(C)導電性付与剤の含有量を45質量部、75質量部に適宜変更しても、剥離強度を10N/12.7mm以上50N/12.7mm以下の範囲にできることが分かる。また、実施例8によれば、(B)粘度調整剤の種類を(b1)パラフィンワックスから(b2)マイクロクリスタリンワックスに変更しても、実施例3と同様の結果が得られることが分かる。また、実施例7によれば、(C)導電性付与剤の種類を変更しても、実施例3と同様の結果が得られることが分かる。なお、実施例1〜9のいずれにおいても、半導電性樹脂組成物の押出成形性が良いため、外部半導電層の被覆厚が均一であることが確認された。
【0072】
比較例1,3では、(B)粘度調整剤の含有量を5質量部と少なくしたため、剥離強度が55N/12.7mmと高く、外部半導電層を良好に剥離できないことが確認された。一方、比較例2,4では、(B)粘度調整剤の含有量を35質量部と多くしたため、剥離強度が5N/12.7mmと低く、外部半導電層と絶縁層とを適度に密着できないことが確認された。
【0073】
比較例5,7では、(C)導電性付与剤の含有量を30質量部と少なくしたため、外部半導電層の体積抵抗率が10
5Ω・cmよりも大きくなってしまうことが確認された。一方、比較例6,8では、(C)導電性付与剤の含有量を90質量部と多くしたため、外部半導電層の体積抵抗率が10
2Ω・cm未満となってしまうことが確認された。
【0074】
比較例9では、(A)熱可塑性樹脂として溶解度パラメータSP値の低いものを用いたため、剥離強度が55N/12.7mm又は60N/12.7mmと高く、外部半導電層を良好に剥離できないことが確認された。
【0075】
以上により、本発明によれば、多量の粘度調整剤を含有する半導電性樹脂組成物で外部半導電層を形成することにより、外部半導電層と絶縁層との界面に粘度調整剤をブリードさせて、外部半導電層の剥離強度を低減させることができる。
【0076】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0077】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を囲うように設けられ
、熱可塑性樹脂を含有する絶縁性樹脂組成物からなる絶縁層と、
前記絶縁層の外周を囲うように設けられる半導電層と、を備え、
前記半導電層は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、粘度調整剤を10質量部以上30質量部以下、導電性付与剤を40質量部以上80質量部以下、含有する半導電性樹脂組成物で形成されており、前記絶縁層と前記半導電層との界面には前記粘度調整剤がブリードしてい
る送電ケーブル
であって、
前記絶縁層がエチレンプロピレンゴムからなり、
前記半導電層を形成する熱可塑性樹脂は、酢酸ビニルを44.0質量%以上83.4質量%以下含有するエチレン酢酸ビニル共重合体からなり、
前記半導電層を形成する熱可塑性樹脂の溶解度パラメータSP値と、前記絶縁層を形成する熱可塑性樹脂の溶解度パラメータSP値との差が1.1(cal/cm3)1/2以上である送電ケーブルが提供される。
【0078】
[付記2]
付記1の送電ケーブルにおいて、好ましくは、
前記
半導電層を形成する熱可塑性樹脂の溶解度パラメータSP値が9.3(cal/cm
3)
1/2以上10.1(cal/cm
3)
1/2以下である。
【0081】
[付記
3]
付記
1又は2の送電ケーブルにおいて、好ましくは、
前記粘度調整剤は、分岐状炭化水素、飽和環状炭化水素または直鎖状炭化水素の少なくとも1つであり、温度100℃における粘度が20mm
2/sec以下である。
【0083】
[付記
4]
付記1〜
3のいずれかの送電ケーブルにおいて、好ましくは、
前記半導電層は、前記半導電層を前記絶縁層から剥離するときの剥離強度が10N/12.7mm以上50N/12.7mm以下となるように構成されている。
【0084】
[付記
5]
付記1〜
4のいずれかの送電ケーブルにおいて、好ましくは、
前記半導電層は、体積抵抗率が10
2Ω・cm以上10
5Ω・cm以下となるように構成されている。