特許第6558565号(P6558565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558565
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】熱間鍛造用金型装置
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20190805BHJP
   B21J 13/03 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   B21J13/02 A
   B21J13/02 H
   B21J13/03
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-54304(P2015-54304)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-172277(P2016-172277A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 英樹
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−028938(JP,U)
【文献】 実開昭59−089636(JP,U)
【文献】 特開2001−038445(JP,A)
【文献】 特開2014−079801(JP,A)
【文献】 特開2002−86236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
B21J 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上金型ダイホルダと上金型とを備える上金型セットと、下金型ダイホルダと下金型とを備える下金型セットと、前記上金型セット及び下金型セットをそれぞれ保持する上金型セット保持部及び下金型セット保持部とを備える熱間鍛造用金型装置であって、
前記上金型は、成形面、前記上金型セット保持部に対向する底面、及び前記上金型ダイホルダに接触する押さえ部を備え、前記押さえ部と前記上金型ダイホルダとが接触して、前記上金型が前記上金型ダイホルダを介して前記上金型セット保持部に固定され、且つ、前記押さえ部と前記上金型ダイホルダとが接触する部分には前記上金型からの伝熱を抑制する空隙部を備え、
前記下金型は、成形面、前記下金型セット保持部に対向する底面、及び前記下金型ダイホルダに接触する押さえ部を備え、前記押さえ部と前記下金型ダイホルダとが接触して、前記下金型が前記下金型ダイホルダを介して前記下金型セット保持部に固定され、且つ、前記押さえ部と前記下金型ダイホルダとが接触する部分には前記下金型からの伝熱を抑制する空隙部を備え
前記上金型の外周面と前記上金型ダイホルダの内周面との間、及び、前記下金型の外周面と前記下金型ダイホルダの内周面との間に、1〜40mmの隙間部を備え、
前記上金型の表面が、前記下金型ダイホルダに対向する面側の前記上金型ダイホルダの表面よりも前記下金型側に突出し、
前記上金型ダイホルダは前記上型セット保持部に非接触であり、
前記下金型の表面が、前記上金型ダイホルダに対向する面側の前記下金型ダイホルダの表面よりも前記上金型側に突出し、
前記下金型ダイホルダは前記下型セット保持部に非接触であることを特徴とする熱間鍛造用金型装置。
【請求項2】
前記上金型は複数個の金型片の組合わせによる組立て体であり、前記下金型は複数個の金型片の組合わせによる組立て体であることを特徴とする請求項1に記載の熱間鍛造用金型装置。
【請求項3】
前記上金型の前記上金型セット保持部側に上金型敷板を備え、前記下金型の前記下金型セット保持部側に下金型敷板を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間鍛造用金型装置。
【請求項4】
前記上金型の高さ、或いは、前記上金型と前記上金型敷板の総高さよりも前記上金型ダイホルダの高さが低く
前記下金型の高さ、或いは、前記下金型と前記下金型敷板の総高さよりも前記下金型ダイホルダの高さが低ことを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の熱間鍛造用金型装置。
【請求項5】
前記空隙部は溝状であり、該空隙部の断面形状が、半円形状、曲面形状を備えたV字形状、曲面形状を備えたコの字形状の何れかであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の熱間鍛造用金型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造用金型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、中・大型航空機用熱間型打鍛造製品の需要が大きく伸びている。これらの中・大型航空機用熱間型打鍛造製品のうち、例えば、航空ジェットエンジンのタービンディスクは、ニッケル基超耐熱合金やチタン合金製であり、同心円状で直径1メートルを超える大きさがある。これらの大型鍛造品を製造するには、熱間型打鍛造中の変形荷重は150MNを超える非常に大きな加圧力を必要とする。例えば、最近では、5万トンクラスの大型熱間鍛造装置も稼働を開始し、それに用いられる熱間鍛造用金型も大型化している。
前記の大型熱間鍛造装置に最適な熱間鍛造用金型として、例えば、本願出願人の提案による国際公開第WO2013/147154パンフレット(特許文献1参照)には、被鍛造材を熱間型打鍛造するための熱間鍛造用金型として、前記熱間鍛造用金型は複数個のリング状金型片が互いに同心円状に組み合わされて固定されており、前記リング状金型片の軸方向が被鍛造材を鍛造する際の押圧方向となり、前記熱間鍛造用金型の被鍛造材と接する部分には型彫面が形成されるとともにニッケル基超耐熱合金の肉盛層が形成されている熱間鍛造用金型の発明がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2013/147154パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1の発明によれば、歩留りの高い金型製造が可能となり、従来製作が困難であった大型の航空ジェットエンジンディスクや、発電用ガスタービンディスクの熱間型打鍛造金型に適用することが可能となり、高い金型寿命と合わせて、安価で高品質の大型型打鍛造製品の製造が可能となるものである。
ところで、5万トンクラスの大型熱間鍛造装置に用いる熱間鍛造用金型は、その総重量は30トンを超える場合もある。例えば、このような重量の熱間鍛造用金型を用いて恒温鍛造やホットダイ鍛造を含む熱間鍛造を行う場合、熱間鍛造用金型とそれに組合わせて使用される中間台も大型化して、熱間鍛造用金型の成形面(作業面)の温度低下(抜熱)が激しいという課題が生じた。熱間鍛造用金型はある程度の温度を維持しておく方が熱間鍛造用金型の寿命を向上させる他、鍛造荷重を低くできて有利である。
本発明の目的は、大型の熱間鍛造用金型装置において、熱間鍛造用金型の温度低下を抑制することが可能な熱間鍛造用金型装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、上金型ダイホルダと上金型とを備える上金型セットと、下金型ダイホルダと下金型とを備える下金型セットと、前記上金型セット及び下金型セットをそれぞれ保持する上金型セット保持部及び下金型セット保持部とを備える熱間鍛造用金型装置であって、
前記上金型は、成形面、前記上金型セット保持部に対向する底面、及び前記上金型ダイホルダに接触して上金型を拘束する押さえ部を備え、前記押さえ部と前記上金型ダイホルダとが接触して、前記上金型が前記上金型ダイホルダを介して前記上金型セット保持部に固定され、且つ、前記押さえ部と前記上金型ダイホルダとが接触する部分には前記上金型からの伝熱を抑制する空隙部を備え、
前記下金型は、成形面、前記下金型セット保持部に対向する底面、及び前記下金型ダイホルダに接触して下金型を拘束する押さえ部を備え、前記押さえ部と前記下金型ダイホルダとが接触して、前記下金型が前記下金型ダイホルダを介して前記下金型セット保持部に固定され、且つ、前記押さえ部と前記下金型ダイホルダとが接触する部分には前記下金型からの伝熱を抑制する空隙部を備える熱間鍛造用金型装置である。
好ましくは、前記熱間鍛造用金型装置の前記上金型の外周面と前記上金型ダイホルダの内周面との間、及び、前記下金型の外周面と前記下金型ダイホルダの内周面との間に隙間部を備える熱間鍛造用金型装置である。
更に好ましくは、前記熱間鍛造用金型装置の前記上金型は複数個の金型片の組合わせによる組立て体であり、前記下金型は複数個の金型片の組合わせによる組立て体である熱間鍛造用金型装置である。
更に好ましくは、前記熱間鍛造用金型装置の前記上金型の前記上金型セット保持部側に上金型敷板を備え、前記下金型の前記下金型セット保持部側に下金型敷板を備える熱間鍛造用金型装置である。
更に好ましくは、前記熱間鍛造用金型装置の前記上金型の高さ、或いは、前記上金型と前記上金型敷板の総高さよりも前記上金型ダイホルダの高さが低く、且つ、
前記上金型の表面が、前記下金型ダイホルダに対向する面側の前記上金型ダイホルダの表面よりも前記下金型側に突出し、
前記上金型ダイホルダは前記上型セット保持部に非接触であり、
前記下金型の高さ、或いは、前記下金型と前記下金型敷板の総高さよりも前記下金型ダイホルダの高さが低く、且つ、
前記下金型の表面が、前記上金型ダイホルダに対向する面側の前記下金型ダイホルダの表面よりも前記上金型側に突出し、
前記下金型ダイホルダは前記下型セット保持部に非接触である熱間鍛造用金型装置である。
更に好ましくは、前記熱間鍛造用金型装置の前記空隙部は溝状であり、該空隙部の断面形状が、半円形状、曲面形状を備えたV字形状、曲面形状を備えたコの字形状の何れかである熱間鍛造用金型装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、大型の熱間鍛造用金型装置において、熱間鍛造用金型の温度低下を抑制することが可能である。そのため、本発明の熱間鍛造用金型装置を用いて熱間鍛造を行った場合、金型の温度低下が抑制できることから、鍛造荷重を低くでき、均質な熱間鍛造品を効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の熱間鍛造用金型装置の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明の熱間鍛造用金型装置に設けた金型からの伝熱を抑制する空隙部の温度測定位置を示す断面模式図である。
図3】伝熱解析結果を示す図である。
図4】本発明の熱間鍛造用金型の凹凸部のうち、凹部の断面形状の一例を示す模式図である。
図5】空隙部の形成場所の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を図面を用いて説明する。
図1は本発明の熱間鍛造用金型装置の一例を示す断面模式図である。図1は、上金型ダイホルダ1と上金型2とを備える上金型セット3と、下金型ダイホルダ21と下金型4とを備える下金型セット5を備える熱間鍛造用金型装置を示している。
上金型2は、鍛造時に鍛造用素材を押圧する面に所望の形状が形成されている成形面を有し、上金型セット保持部6と対向する面として底面を有し、上金型ダイホルダ1と接触する押さえ部19を有する。また、下金型4は、鍛造時に鍛造用素材を押圧する面に所望の形状が形成されている成形面を有し、下金型セット保持部7と対向する面として底面を有し、下金型ダイホルダ21と接触する押さえ部19を有する。
上金型ダイホルダ1は上金型2に形成された押さえ部19と上金型ダイホルダ1とを接触させることで上金型2を側面側から保持し、下金型ダイホルダ21は下金型4に形成された押さえ部19と下金型ダイホルダ21とを接触させることでを側面側から保持するものである。なお、上金型ダイホルダ1及びは下金型ダイホルダ21は、熱間鍛造時の鍛造荷重は加わらないようにしたものである。この上金型ダイホルダ1及びは下金型ダイホルダ21を介して、下記の通り、上金型2は上金型セット保持部6に固定され、下金型4は下金型セット保持部7に固定される。
上金型セット3及び下金型セット5はそれぞれ上金型セット保持部6及び下金型セット保持部7に保持される。図1では、上金型セット保持部6と下金型セット保持部7は中間台として示され、クランプ8と位置決め締結部品(図示せず)により、上金型セット3及び下金型セット5がそれぞれ中間台(上金型セット保持部6,下金型セット保持部7)に保持される。具体的には、上金型ダイホルダ1及びは下金型ダイホルダ21の外周側にクランプが係止され、そのクランプと位置決め締結部品によって、上金型セット3が上金型セット保持部6に、下金型セット5が下金型セット保持部7に固定される。中間台(上金型セット保持部6,下金型セット保持部7)を設けない場合は、熱間鍛造装置本体に直接保持され、熱間鍛造装置本体が上金型セット保持部6と下金型セット保持部7となる。
なお、本発明で言う「上金型セット、下金型セット」とは、上金型2または下金型4とダイホルダ(1または21)との組立て体を言い、「熱間鍛造用金型装置」とは、前述の一対の上金型セット及び下金型セットを備えた金型装置を言う。
【0009】
また、本発明で言う、「上金型」「下金型」は一体物であっても良いし、複数個の金型片の組合わせによる組立て体であっても良い。何れの構造としても鍛造用素材を所定の形状とする作業面には、所定の形状が型彫された成形面を有している。
なお、図1では、上金型セット保持部6及び下金型セット保持部7側から鍛造素材を加工する作業面側に向かって、上下の金型敷板(11,22)、母型12及び成形型13の3つの金型片を少なくとも有する構造体として示している。この場合、上下の金型敷板(11,22)は、上金型セット保持部6と下金型セット保持部7に熱間鍛造時に均等に荷重を加えるため、上下の金型敷板(11,22)が母型12の底面に接触する面の接触面積は母型12の底面の面積以上を有するものとすと良い。また、上下の金型敷板(11,22)の材質を母型よりも安価な材質とすることで、上金型及び下金型の製作費用を低減することができる。また、母型12と成形型13とを分割するのは、一つには分割することで製造が容易になることと、もう一つには母型と成形型とを分割することで、熱間鍛造前にそれぞれの金型を予熱しやすくなるためである。
例えば、母型と成形型とが一体化している場合、大型熱間鍛造装置に用いようとするとその重量も大きくなり、予熱時間が大幅に長くなる。そこで、分割することにより所定の予熱温度に金型の温度を高める時間を短くすることもできる。また、例えば、母型と成形型とを別な材質とした場合、予熱温度を個別に設定することも可能である。更に、分割型(複数個の金型片)の組立て体とすると、鍛造荷重が大きく加わる成形型を高強度材とし、その他の母型や上下の金型敷板は成形型と比較してやや強度を落として安価な材質で構成することも可能となる。これにより、金型製作費用の低減をはかることができるため、好ましい。
なお、上金型と下金型の断面形状は、成形型を備える成形面(作業面)から上金型セット保持部6や下金型セット保持部7に向かって漸減するような形状は避けるべきである。これは、本発明が対象とする熱間鍛造用金型装置は、数万トン規模の大型熱間鍛造装置に使用するものであるため、成形型を備える成形面(作業面)から上金型セット保持部6や下金型セット保持部7に向かって漸減するような形状とすると、上下敷板や上下金型セット保持部に局所的な応力が発生することとなり、熱間鍛造用金型装置が破壊しやすくなるからである。
【0010】
そして、本発明においては、上金型2及び下金型4に形成された押さえ部19と上下の金型ダイホルダ1、21とを接触させることで上金型及び下金型をダイホルダを介して(具体的には、更にクランプ8と位置決め締結部品(図示せず)を介する)上金型セット保持部及び下金型セット保持部に固定させ、且つ、押さえ部とダイホルダとが接触する部分には金型からの伝熱を抑制する空隙部9を備えている。空隙部9は、上金型及び下金型からの伝熱を抑制(抜熱を抑制)し、上金型及び下金型の温度低下を抑制するものである。なお、この空隙部9が設けられる押さえ部は、熱間鍛造時に鍛造荷重が直接加わらない場所であり、空隙部9を設ける場所として好ましい。
また、本発明においては、上金型2及び下金型4の外周面と上下の金型ダイホルダ1、21の内周面との間に隙間部10を備えることが好ましい。この理由の一つには、大型熱間鍛造装置に用いるダイホルダはその寸法、重量も大きなものとなる。そこで、隙間部10を設けて上金型及び下金型からの抜熱量を少なくしてダイホルダの温度上昇を抑制することで、上金型及び下金型の温度低下を抑制することができる。また、熱間鍛造中や熱間鍛造前の保熱中において、上金型及び下金型が熱による膨張を起こしたときに、隙間部10が緩衝部として機能して上下の金型ダイホルダ1、21の内側にかかる応力を低減することができる。また、熱間鍛造中には、大きな鍛造応力によって上金型及び下金型が変形するが、隙間部10があることでダイホルダの変形が防止でき、上下の金型ダイホルダの寿命低下を抑制することができる。また、ダイホルダを高強度材で作製する必要もなくなり、ダイホルダの作製費用も低減することができる。
そのため、隙間部10としては、熱間鍛造中においても隙間部が維持できるだけの空間を備えておくのが好ましく、温度上昇を抑制すると共に、上金型と下金型と上下の金型ダイホルダとの熱膨張、上金型及び下上金型の変形量も勘案して、上金型2及び下金型4の外周面と前記上下の金型ダイホルダ1、21の内周面との間に1〜40mm程度の隙間部10を設けることが好ましい。この空隙の広さは上金型の寸法によって変化させるのが好ましく、例えば、上金型の直径が1000〜2000mm程度であれば1〜20mm程度とし、上金型の直径が2000mmを超えると5〜40mm程度とすると良い。上金型2の外周面と前記上下の金型ダイホルダ1、21の内周面との空隙を均等に保つために、本発明では位置決め締結部品(図示せず)により、所定の位置に上金型を固定すると良い。
【0011】
ここで、本発明の押さえ部19に備えた空隙部9及び隙間部10による抜熱抑制効果を示す。
図2で示す2つの金型は、金型Aが上金型2か下金型4に相当するものである。金型Bはダイホルダ(1または21)に相当するものである。図2は空隙部9の他、上金型2または下金型4の外周面と前記ダイホルダ(1または21)の内周面との間に隙間部10を設けたものである。押さえ部19に設けられた空隙部9の断面形状は半径5mmの半円状であり、金型Aの押さえ部19に沿って3本の空隙部を切削加工により形成した。また、金型Aの外周面と金型Bの内周面に設けた隙間部は10mmとした。ここでは、金型Aに空隙部を形成したが、金型Bに空隙部を形成しても良いし、金型Aと金型Bの両方に空隙部を形成しても良い。
そして、金型Aを450℃に加熱した。金型Bは加熱は行わず、金型Bの試験前温度は20℃である。そして、金型Aを金型Bに嵌め合わせ、金型Bの温度変化を10000秒間測定した。温度変化測定箇所は図2に示す4ヶ所である。試験中は、金型Aは金型Bと押さえ部で接触しており、この部分で熱交換がなされている。なお、比較例として、空隙部及び隙間部を設けないものも同じ条件で試験を行った。その結果を図3図3(A)が本発明、図3(B)が比較例)に示す。
測定点P2は直接金型Aと金型Bが接触している点である。P2の測定結果は、比較例は200℃まで一気に昇温し、測定終了の10000秒後(2.7Hr後)にも50℃の温度があった。一方、空隙部を設けた本発明のP2では、190℃まで一気に昇温し、その後、速やかに温度が低下した。例えば、60℃までの温度低下時間は、本発明が6350秒(1.76Hr)に対し、比較例では7620秒(2.12Hr)であった。また、空隙部を備えた効果は、他の測定位置でも本発明の方が何れも温度上昇は少ないことでも分かる。本発明の図3(A)の温度変化と比較例の図3(B)の温度変化を比較すると、明らかに空隙部と隙間部を有しない比較例のほうが金型Bの温度が上昇していることがわかる。これにより、空隙部と隙間部を設けることにより、金型Aから金型Bへの伝熱が抑制できることがよく分かる。なお、P2は前述のように、金型Aと金型Bが接触している場所の測定結果である。本発明と比較例共に隙間部を設けており、隙間部が存在すると、飛躍的に金型Bの温度上昇が抑制できるていることが分かる。
【0012】
ところで、空隙部を形成する場所は、2通りの思想をもって形成することが好ましい。その1つ目は、共通する部品に空隙部を形成することである。例えば、上下の金型ダイホルダ1、21や上下の金型敷板11、22は、対象の熱間鍛造製品が変わっても同じものを兼用することができる部材であり、この兼用可能な部材に空隙部9を形成しておくことである。換言すると、上金型2及び下金型4の例えば母型12が接触する部品側に空隙部を形成することである。上下の金型ダイホルダ(1,21)側に空隙部9を設けた模式図を図5に示す。これにより、最終形状の異なる製品を鍛造する場合において、成形面に形成された型彫形状の異なる金型(例えば母型12)のみを変更しても、伝熱を抑制する機能を維持することができる。
その2つ目は、強度の高い材質側に空隙部9を形成することである。空隙部を形成した部分が占める割合が大きくなると、特に数万トン規模の熱間鍛造時には、金型に大きな荷重が加わる。空隙部を形成しても強度低下が低く抑えられるように強度の高い側の部品に空隙部を形成しておくことである。この場合、強度が高いのは、上下の金型ダイホルダに対しては金型である場合が多く、また上下の金型敷板に対しては母型である場合が多い。そのため、金型側(母型側)に空隙部を形成することも可能である。勿論、金型よりも高強度の材料で上下の金型ダイホルダ1、21や上下の金型敷板11、22を作製すると、上下の金型ダイホルダ1、21や上下の金型敷板11、22に空隙部を形成して良い。なお、例えば、金型の強度が最も高い場合であったとしても、大きな鍛造荷重が直接加わる位置への空隙部の形成は避け、また、金型製作費用の面でも金型側に空隙部を製作する場合は金型毎に加工を行う必要があるため費用が嵩む。よって、できるだけ上下の金型ダイホルダ側に空隙部を設けるのが好ましい。
どちらの方法を選択するかは鍛造荷重、製品形状などを勘案して選択すると良い。
【0013】
なお、本発明においては、形成した空隙部の割合は、例えば、鍛造荷重が直接加わるような上金型や下金型の底面側の場合では、金型と中間台の接触面積や上下の金型敷板と母型の接触面積の5〜50%とすると良い。これは、空隙部を形成する凹部の割合が多くなればなるほど伝熱抑制効果が向上するものの、金型の底面側(図1では上下の金型敷板接触面側)では熱間鍛造時に受ける鍛造荷重が大きく、熱間鍛造用金型の強度が低下するおそれがあるためである。また、金型の側面側となる押さえ部(図1ではダイホルダ接触面側)では、熱間鍛造時の鍛造荷重は金型底面側よりも低いため、金型との接触面積のうち、空隙部が占める割合を50%を超える範囲としても良い。
また、空隙部の形態としては、例えば、上金型2及び下金型4の底面側(図1では上下の金型敷板接触面側)では、例えば、上金型2及び下金型4の底面を見たときに、直線状、円状、格子状、矩形状等、種々の形状を選択できる。どのような形状とするかは、加工のしやすさ、強度などを考慮して決定すると良い。また、空隙部の加工は、対向する部材のどちらか片方の部材に加工することや、両方の部材に加工することができる。
【0014】
本発明で形成する空隙部9の断面形状は、図4に示すように、溝状の半円形状(図4A)、曲面形状を備えたコの字形状(図4B)、曲面形状を備えたV字形状(図4C)の何れかであることが好ましい。この形状に共通するのは尖った部分の無いアールが付与された形状である。尖った部分があると、応力が集中しやすく破壊の起点になるおそれがある。そのため、応力集中部を軽減するために、曲面形状か曲面形状と平坦状の組合わせの形状とするのが好ましい。なお、いずれの形状とするかは、加工のしやすさを考慮して決定すると良い。
また、空隙部の深さは0.5〜5mm程度で十分である。伝熱防止効果は、空隙部の深さよりも空隙部を形成する割合の方が影響が大きいので、空隙部の深さを過度に深くする必要はない。
【0015】
また、図1図2に示すように、前記上金型2の高さ(上金型敷板11が無い場合)、或いは、前記上金型2と前記上金型敷板11の総高さよりも前記上金型ダイホルダ1の高さが低く、且つ、前記上金型2の表面が前記下金型ダイホルダ21に対向する面側の前記上金型ダイホルダ1表面よりも下金型側に突出し、更に、前記上金型ダイホルダは前記上型セット保持部(中間台)6に非接触(図示しない)とするのが好ましい。この非接触とは、上金型ダイホルダは上金型を保持した上で、クランプと位置決め締結部材とにより中間台(上金型セット保持部)に固定されるが、このとき上金型ダイホルダが中間台に接触はしない状態で固定されることをいう。また、下金型側も同様に、前記下金型4の高さ(下金型敷板22が無い場合)、或いは、前記下金型4と前記下金型敷板22の総高さよりも前記下金型ダイホルダ21の高さが低く、且つ、前記下金型4の表面が、前記上金型ダイホルダ1に対向する面側の下金型ダイホルダ21の表面よりも前記上金型に突出(図2で示す破線は金型表面の位置を示すもので、ダイホルダ表面よりも突出している)し、更に、前記下金型ダイホルダ21は前記下型セット保持部7に非接触(図示しない)であることが好ましい。
これは、上下の金型ダイホルダ1、21は熱間鍛造時の鍛造荷重は加わらないようにしたものである。例えば、ダイホルダの高さが上金型2や下金型4(上下の金型敷板11、22を有する場合には、上金型と下金型の高さに加えて上下の金型敷板の高さ)以上であると、熱間鍛造時にダイホルダが熱間鍛造荷重を受けるおそれがある。そうなると、ダイホルダが破壊するおそれがあり、ダイホルダの高さは上金型や下金型(上下の金型敷板11、22を有する場合には、上金型と下金型の高さに加えて上下の金型敷板の高さ)よりも2〜10mm程度低くしておき、更に、上下の金型ダイホルダは前記上型セット保持部6や下型セット保持部7に非接触としておき、完全に熱間鍛造時の荷重を受けないような構造としておくことが好ましい。
これにより、熱間鍛造時の鍛造荷重をダイホルダが受けるのを確実に防止することができる。
以上、説明する本発明の大型の熱間鍛造用金型装置によれば、熱間鍛造用金型の温度低下を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0016】
1 上金型ダイホルダ
2 上金型
3 上金型セット
4 下金型
5 下金型セット
6 上金型セット保持部(中間台)
7 下金型セット保持部(中間台)
8 クランプ
9 空隙部
10 隙間部
11 上金型敷板
12 母型
13 成形型
19 押さえ部
21 下金型ダイホルダ
22 下金型敷板

図1
図2
図3
図4
図5