【0013】
被覆層2は、芯材1上の外周を被覆する銅−亜鉛系合金のγ相を含む内層2Aと、内層2Aの外周を被覆する銅−亜鉛系合金のε相を含む外層2Bとを有する。γ相とは、一般的に、Cu
5Zn
8で表され、Cu濃度が45〜35質量%程度、Zn濃度が55〜65質量%程度のCu−Zn合金である。また、ε相とは、一般的に、CuZn
5で表され、Cu濃度が24〜12質量%程度、Zn濃度が76〜88質量%程度のCu−Zn合金である。ε相を含む外層2Bは、最外層であることが好ましい。β相からなる層やη相からなる層は、有していないことが好ましいが、本発明の効果を奏する限りにおいて存在していてもよい。なお、γ相を含む内層2Aは、γ相を内層中に85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、100質量%含むことが最も好ましい。また、ε相を含む外層2Bは、ε相を外層中に85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、100質量%含むことが最も好ましい。
【0020】
〔本発明の実施形態の効果〕
本発明の実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)芯材の外周に亜鉛被覆を有する放電加工用電極線において真直性が改善されたことにより放電加工の際の自動結線性に優れる放電加工用電極線及びその製造方法を提供できる。例えば、黄銅線のみからなる放電加工用電極線に匹敵する自動結線のし易さを持つ放電加工用電極線を得ることができる。また、亜鉛濃度の高いε相を含む外層2Bを最外層に設けることにより、放電加工特性が更に優れる放電加工用電極線を得ることができる。(2)被加工物の他の加工部位へ加工作業を切り替える段取り工程において、被加工物のごく僅かな大きさの孔へ自動で素早く放電加工用電極線を挿通させることができるため、加工作業の切り替えが行いやすい。
(3)1回のめっき工程で製造できるため生産性に優れる。
(4)コイル状に巻いた状態で熱処理(焼鈍)しても巻き癖の少ない放電加工用電極線が得られるため、自動結線性が改善されるのみならず、生産性にも優れる。
【実施例】
【0022】
〔X線回折強度の測定〕
下記の方法により放電加工用電極線を製造し、X線回折強度の測定を行なった。
図2A〜Cは、X線回折強度の測定結果を示しており、
図2Aは各焼鈍温度におけるε相(CuZn
5)の(0001)強度の測定結果であり、
図2Bは各焼鈍温度におけるγ相(Cu
5Zn
8)の(332)強度の測定結果であり、
図2Cは各焼鈍温度におけるη相(Zn)の(100)強度の測定結果である。なお、
図2A〜Cにおける25℃のプロットは、焼鈍しなかった放電加工用電極線の測定結果である。
【0023】
芯材1としての黄銅線(線径:1.2mm)上に電解亜鉛めっき法により厚さ約10μmの亜鉛めっき層を形成した。亜鉛めっきを施した芯材1を線径が0.20mm(めっき層1.7μm)になるまで伸線した後、ボビン(F10:胴径100mm)に巻き取り、この状態で焼鈍を行ない、各10kgの放電加工用電極線を製造した。焼鈍条件は、40〜160℃(40、60、80、100、120、160℃)、3時間及び8時間である。
【0024】
図2A及び2Bより、焼鈍温度120℃以下において、焼鈍時間3時間及び8時間のいずれも、ε相の(0001)X線回折強度が、γ相の(332)X線回折強度の2倍よりも大きいことが分かる。なお、8時間焼鈍品は、焼鈍温度100℃でη相(Zn)の(100)X線回折強度が0となり、3時間焼鈍品は、焼鈍温度120℃でη相(Zn)の(100)X線回折強度が0となった(
図2C)。η相は純Zn相であり、軟らかいため摩耗粉が出やすく、放電加工機のパスライン上でカスとして溜まる。そのため、η相は熱処理で無くした方が良く、そのためには100℃以上の熱処理が必要であることが分かる。
上記より100℃〜120℃の熱処理が最適である。
【0025】
〔真直性の評価〕
下記の方法により放電加工用電極線を製造し、真直性の評価を行なった。
図3は、実施例及び比較例の真直性の評価結果を示すグラフである。また、
図4は、真直性の測定方法を示す図である。
【0026】
芯材1としての黄銅線(線径:1.2mm)上に電解亜鉛めっき法により厚さ約10μmの亜鉛めっき層を形成した。亜鉛めっきを施した芯材1を線径が0.20mm(めっき層1.7μm)になるまで伸線した後、ボビン(F350:胴径340mm)に巻き取り、この状態で焼鈍を行ない、各300kgの放電加工用電極線を製造した。焼鈍条件は、100℃、8時間(実施例1)、160℃、3時間(比較例1)である。
【0027】
真直性は、
図4に示すように、放電加工用電極線を鉛直に垂らしたときの鉛直方向に沿った軸に対する1mあたりの反り量(
図4において「D」(幅)として示される)を測定することで評価した。ボビン外側の放電加工用電極線から順におよそ10〜15kgおきに反り量を測定した。ボビン内側ほど径が小さくなるため、反り量が大きくなる。
【0028】
図3より、実施例1では、反り量が全長に亘って、80mm/m以下(40〜70mm/mの範囲内)であったことが分かる。反り量の最大値と最小値の差が30mm/m以下であった。一方、比較例1では、反り量が60〜100mm/mの範囲内であり、ボビン外側から75kgあたりの電極線から反り量が80mm/m以上となった。
【0029】
〔真直性と自動結線性の関係性の評価〕
下記の方法により放電加工用電極線を製造し、真直性(反り量=幅)が自動結線率に及ぼす影響について評価を行なった。
図5は、真直性と自動結線性の関係性の評価を行うための装置の概略を示す図である。
【0030】
(実施例)
芯材1としての黄銅線(線径:1.2mm)上に電解亜鉛めっき法により厚さ約10μmの亜鉛めっき層を形成した。亜鉛めっきを施した芯材1を線径が0.25mm(めっき層2.1μm)になるまで伸線した後、ボビン(F−350:胴径340mm)に巻き取り、この状態で焼鈍を行ない、その後、ボビン(P−5RT:胴径100mm)に巻き替え、各5kgの放電加工用電極線を製造した。焼鈍条件は、100℃、8時間で設定し、真直性(反り量)が40〜80mmの放電加工用電極線を製造した。
【0031】
(比較例)
芯材1としての黄銅線(線径:1.2mm)上に電解亜鉛めっき法により厚さ約10μmの亜鉛めっき層を形成した。亜鉛めっきを施した芯材1を線径が0.25mm(めっき層2.1μm)になるまで伸線した後、ボビン(F−350:胴径340mm)に巻き取り、この状態で焼鈍を行ない、その後、ボビン(P−5RT:胴径100mm)に巻き替え、各5kgの放電加工用電極線を製造した。焼鈍条件は、160℃、3時間で設定し、真直性(反り量)が90〜110mmの放電加工用電極線を製造した。
【0032】
製造した実施例又は比較例の電極線10を
図5に示すように装置にセットし、加工物20の加工を行なった。具体的には、電極線10を上部ガイドダイス22A及び下部ガイドダイス22Bに通し、加工物20に孔20aをあける加工を行なった。上部ノズル21A及び下部ノズル21Bは、電極線10を孔20aに自動挿入することを助長するジェット水流を噴射する(約2kgf/cm
2の水圧とΦ2mmの水柱によって電極線を覆い、下穴への挿入を助ける役目をする)ものである。上部ノズル21Aの下端から下部ノズル21Bの上端までの距離が
図5に示すZ軸高さHであり、加工機の大きさによって0.1mm〜1500mmに設定可能である。本実施例では、加工機は三菱電機社製の商品名:FK−Kを用い、下穴をΦ3mmに固定し、Z軸高さHを50、100、150mmに設定してそれぞれ試験を行った。Z軸高さが大であるほど、自動結線が困難となる。断線した電極線10は、ローラー23及び回収ローラー24を介して、スクラップワイヤ25として回収した。
【0033】
測定回数は、連続50回とし、Z軸高さ50、100、150mmのいずれにおいても自動結線率80%以上が実用上問題の無いレベルであると定義した。なお、結線は1回失敗すると自動的にリトライされるが、1回で成功した場合のみを成功としてカウントした。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より、真直性(反り量)80mm以下の電極線において、Z軸高さ50、100、150mmのいずれにおいても自動結線率80%以上であったことが分かる。すなわち、本発明の放電加工用電極線では、自動で挿通する距離が長くなった場合でも、高い自動結線率を維持することができる。
【0036】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず種々に変形実施が可能である。