(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁気刺激用コイル(18)が治療患者の頭表面又はその近傍に置かれ、電磁誘導によって脳内に電流を発生させてニューロンを刺激する、経頭蓋磁気刺激治療システムであって、
前記磁気刺激用コイル(18)を、高さ及び傾きについて重力とバランスさせた所望の状態で空中に静止させる手段(11)を備えており、
前記磁気刺激用コイル(18)を所望の状態で空中に静止させる手段が、
固定部(12)と、一端と他端を有し、前記一端が前記固定部(12)に連結されて前記固定部(12)から懸下された懸下部材(13)と、前記懸下部材(13)の他端が連結される第1の連結部(17)と前記磁気刺激用コイル(18)が連結される第2の連結部(20)を備えた姿勢調整部材(14)を有し、
前記姿勢調整部材(14)は、前記第1の連結部(17)において、前記懸下部材(13)に対して回転可能であり、
前記姿勢調整部材(14)は、前記姿勢調整部材(14)における前記第2の連結部(20)の固定位置を変えることで前記第1の連結部(17)と前記第2の連結部(20)の相対位置及び前記姿勢調整部材の傾きを変えることによって、前記磁気刺激コイル(18)の姿勢及び位置を変えるよう構成された、磁気刺激用コイルの姿勢及び位置調整装置である、ことを特徴とする経頭蓋磁気刺激治療システム。
一端が前記固定部側に接続され、他端が前記経頭蓋磁気刺激治療用コイル(18)側に接続された、前記コイルを免負荷懸垂する手段(45)を有する、請求項6または7に記載の経頭蓋磁気刺激治療システム。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物治療が必ずしも有効でない数多くの神経疾患(難治性神経障害性疼痛、パーキンソン病、パーキンソン症候群、うつ病、PDSD等の精神疾患、脳卒中後のリハビリテーション応用等)に対する治療法として、経頭蓋磁気刺激療法への関心が高まっている。
【0003】
この経頭蓋磁気刺激療法は、患者の頭皮表面に配置した磁場発生源により脳の特定部位(例えば、脳内神経)に磁気刺激を加えることによって、治療及び/又は症状の緩和を図ることができる比較的新しい治療法であり、開頭手術が必要で患者の抵抗感が非常に強い留置電極を用いる従来の電気刺激法とは違って、非侵襲的であり、また薬剤と比較して副作用も少なく、患者への負担が少なくて済む治療法として普及が期待されている。
【0004】
また、特許文献1においては、上述の経頭蓋磁気刺激治療を行うと、神経障害性疼痛軽減効果は、数時間程度は持続するが、数日間あるいはそれ以上持続するまでには至らないことが明らかにされている。従って、あまり時間間隔を空けずに、できれば毎日、継続的に上記療法を行うことが疼痛軽減の観点からは望ましいとされている。このような継続的な治療を、医療関係者、患者に過度の身体的、時間的等の様々な負担を強いること無く行えるようにするには、在宅、或いは近所のかかりつけの医院等での治療を可能とすることが理想的である。
【0005】
経頭蓋磁気刺激治療は、磁場の変化によって大脳皮質の一次運動野に電流を誘起し、脳内のニューロンを興奮させる非侵襲的な治療法である。ここで、一次運動野に関して、中心前回の皮質のどの部分が身体のどの部分の運動を司るかは概ね決まっている(「運動野のホムンクルス」参照。)。したがって、経頭蓋磁気刺激法が適正に行われるためには、各患者の治療部位に対応した脳組織を刺激する必要がある。
【0006】
経頭蓋磁気刺激療法の具体的な手法としては、患者の頭皮表面近傍に位置した治療コイルに電流を流して、局所的に微小なパルス磁場を生じさせ、電磁誘導の原理を利用して頭蓋内に渦電流を起こすことにより、治療コイル直下の脳内神経に刺激を与える方法が用いられる。
【0007】
公知の特許文献である特許文献1においては、かかる方法で施した経頭蓋磁気刺激治療により難治性の神経障害性疼痛が有効に軽減され、更に、より正確な局所刺激がより高い疼痛軽減効果を実現することが確認されている。また、最適刺激部位は個々の患者によって微妙に異なることも明らかにされている。
【0008】
経頭蓋磁気刺激療法によるより高い効果を得るためには、個々の患者毎に、患者頭部の最適刺激部位を如何にして特定するか、すなわち患者頭部に対する磁気コイルの正確な3次元の位置決めを如何にして行うかが重要である。なお、磁気コイルの位置が同じでも、その方位(姿勢)によって得られる効果に差が生じることも知られている。医薬品の処方とは異なり、経頭蓋磁気刺激装置の処方は実際に装置を操作して処方するため、医師の操作性向上の要望も高い。
【0009】
〔従来の磁気刺激コイル位置決め技術〕
在宅で、医療関係者が傍にいない状態で、先に医療関係者が決定した処方値に従って患者や患者家族が磁気刺激コイルを移動操作して行う治療は現時点でまだ実現していない。
【0010】
現在行われている磁気刺激治療は、医療関係者が治療の度ごとにコイルを移動操作して行っている。すなわち、先に説明したように、コイルの位置・角度が適切に照射ターゲットを捉えた場合に、コイルによる磁気刺激に応じて患者上肢の筋肉が反射運動(twitchと呼ぶ)を示すので、医療関係者はコイルの位置・角度が適切であることがわかる。次に、医療関係者は刺激に用いるコイル電流値を、twitchが見られる閾値電流値を基準に、治療に適切なコイル電流値に調整、設定する。
【0011】
医療関係者がコイルを移動操作してtwitchを検出して、適切な磁気刺激位置(最適照射位置)を決定しているものの、治療の度ごとに毎回、何も目印が無いところから最適照射位置を探すのでは効率が悪く、治療時間が長引く恐れがあるので、前回磁気刺激した位置を目印として残して磁界のtwitch発現を早くできるようにする、あるいは最適刺激位置を決定後、治療時間の間に刺激コイルを同じ位置に維持する、などの目的で、磁気刺激コイルの位置決め技術(コイルや頭部の位置を維持する技術を含む)がいくつか提案されている。
【0012】
しかしながらこれらはもともと在宅で患者が一人で操作して治療を行う目的で開発された技術ではないため、在宅での経頭蓋磁気刺激治療に用いることは困難であった。
【0013】
例えば、特許文献2には、ヘルメット状の治療フレーム部材30を患者の頭部に被せ、この治療フレーム部材30は患者頭部の解剖学的な形状特徴点である鼻梁などに当たって頭部に対して位置決めされる。また治療フレーム部材30には窓部31と呼ぶ凹部が設けられていてそこにrTMS治療装置(磁気刺激コイル)100を嵌め込めば、患者ごとにカスタム形状の治療フレーム部材30を用意することで磁気刺激コイルの位置決めが実現できる、としていた。
【0014】
しかし治療フレーム部材30は磁気刺激コイルが同じ位置で保持される剛体構造であり、磁気刺激コイルと合わせると全体のユニットは大きな重量物となるので、鼻梁など人体の特徴的形状は容易に弾性変形し、磁気刺激治療が必要とする位置決めの精度が確保できない恐れがある。
【0015】
また、特許文献3には、治療患者が上体を後ろに倒した状態で、ヘッドレスト(枕)113に後頭部を乗せ、一方、治療器具(磁気刺激コイル)101はガントリークレーン状の第1のアーム106から下方に懸垂されてアーム106の他端には釣り合い錘109が設けられていて、アーム106の傾きを変えれば磁気刺激コイルの高さを変えることができるし、アーム106のコイル側に設けられた湾曲部103の位置を変えれば磁気刺激コイルの傾きを変えることができる構成である。すなわち、ヘッドレスト113とアーム106とを用いて、磁気刺激コイルを一定位置に保つためのシステムである。しかしながら、頭部の最適照射位置に磁気刺激コイルを再現性良く位置決めする機能はこのシステムは有しておらず、基準マーカーとビデオカメラによる光学的位置測定システムを利用することとなっていて、このような高価で複雑な光学的測距システムは在宅で患者が自ら操作するには不向きである。
【0016】
更に、特許文献4には、患者が上体を倒して寄り掛かりいす12に横臥し、使い捨てヘッドセットアセンブリ32を患者頭部に装着する。使い捨てヘッドセットアセンブリ32に付属する紐46、48および50を鼻中央など頭部の解剖学的特徴点に合わせる、アライメントガイド64を患者の目の中心に合わせる、といった複数の位置合わせ操作を行って、結果的に患者頭部が寄り掛かりいす12、及び、いす12と一体となったシステム全体に位置合わせされ、磁気刺激コイルの位置座標系と、患者頭部の位置座標系とを同じ相対位置にする構成が開示されている。当開示技術構成はいす12を含めた全体が剛体構造である必要があるので大型化し、患者宅での保管、運用が困難であるとともに、多数の位置合わせ操作が医療関係者など専門スタッフによって行われるよう設計されているため、患者や患者家族が操作を行うことが困難である。
【0017】
また、地域病院、クリニックでの処方、及び治療、一般家庭で治療する為に設置するスペースを確保する点で容易ではない上に、近年、大規模な病院においてもこのような大掛かりな装置を設置して処方、治療する為のスペースを確保することが困難となっている。
よって、医療関係者だけでなく、自宅で装置を操作する患者、もしくは介助者等が容易に操作できること、及び大きなスペースを取らずに小さいスペースであっても十分に処方、治療が行える経頭蓋磁気刺激システム、対象物の姿勢及び位置調整装置が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
在宅で、医療関係者が傍にいない状態で、先に医療関係者が決定した処方値に従って患者や患者家族が磁気刺激コイルを移動操作して行う治療は現時点でまだ実現していない。まず、従来の医療者が行う磁気刺激治療の原理を要約すれば次の様に要約することができる。
【0032】
磁気刺激治療を受ける患者は、治療に際して自らは能動的な動作、操作、体位の移動は行わないので、多くの場合椅子に座り安静な姿勢で治療時間の間静止している。医療者は試行磁気パルスに対する患者の四肢などのtwitch反応を見たり、患者の脳のMRI画像と治療コイルの相対的な位置関係のモニタ画面グラフィック表示を見たり、あるいは上記の特許文献4に記載された構成のように、前回の磁気刺激治療における治療コイルの位置についての目盛情報を参考として利用したりするなどして、治療コイルの位置及び角度を、治療の度ごとに決定する(第1の作業:治療コイルの位置決め)。
【0033】
次に医療者は、第1の作業で位置決めされた、治療コイルの位置及び角度を治療時間中維持ができるよう、治療コイルを支えるアームなどを操作して位置及び角度を固定して維持する。この時、治療を受ける患者は前述のように椅子に座り安静な状態で静止しているので、結果として治療患者の磁気照射部位と、治療コイルとの相対的な位置及び角度が固定され、且つその状態で維持される。(第2の作業:相対的な位置及び角度の維持)。
【0034】
そしてその後、固定維持されている治療コイルに通電して磁気刺激治療を実行する。
この様な医療者が行う磁気刺激治療を患者などが自ら一人で行おうとした場合、まず、第1の作業(位置決め)は、患者は医療者ではないのでtwitchを確認することができず、また患者の家庭にはMRI装置、ステレオカメラによる3次元測定システムは存在しないのであるから、医療者が過去に行った磁気刺激治療を患者が単独で再実行するためには、治療コイルの位置や角度を読みだせる目盛機構付きの治療コイル位置及び角度の変位機構を利用するなどして、過去に医療者が行った治療時と同じ位置及び角度の数値に合わせて位置決めを行うものと考えられる。
【0035】
また、第2の作業(相対的な位置及び角度の維持)を行うためには、医療機関向け装置に準じた治療コイルの位置及び角度を固定維持する機構が利用されるであろうし、更に、椅子で静止している患者もまた、過去に医療者が行った磁気刺激治療と同じ位置で静止していることが求められるため、椅子あるいは治療コイルの固定機構に対して毎回同じ位置が実現するようなガイド機構が利用されると予想される。
【0036】
この様な在宅治療用磁気刺激装置は、医療者が行う磁気刺激治療の忠実な再現が可能となる一方、コイルを支持するアーム構造など機構部品の調整及び固定操作によって正確な位置及び角度の再現が行えるようにするために各機構に高い剛性が必要となり、更にコイルと患部(照射位置)の相対的な位置再現には、患者体位の微調整を要する。つまり、上記に説明した従来の在宅用治療装置の原理は「固定した患者に対して、治療コイルを支持するアーム構造など機構部品の調整及び固定操作によって、治療コイルを毎回正確に位置決め(角度決めを含む)して、処方された照射位置への磁気刺激治療の実行を担保する」と要約することができる。
【0037】
本願発明者らは、上記の原理とは異なる観点である、「位置及び角度が固定されて空中に静止している治療コイルに対して頭部表面の刺激部位が予め処方された位置となるように、治療コイルに頭部を当接または近接させて固定することによって、処方された照射位置への磁気刺激治療の実行を担保する」という原理によっても、在宅用磁気刺激治療装置が実現しうる点を見出した。
【0038】
このような着想に基づく治療装置は、治療コイルの位置及び角度を毎回再現させる機構が簡略化でき、また治療を受ける患者は照射部位以外の体位が治療に際して毎回異なる位置であっても構わないので、患者の体位が治療中も比較的自由とすることが可能となる。その他、種々の効果を含めて、以下に本願発明の具体的な実施形態を各実施例として説明する。
【0039】
〔経頭蓋磁気刺激治療の手順〕
経頭蓋磁気刺激治療の具体的な手順例について、特に在宅で行う場合の経頭蓋磁気刺激治療に留意して以下に説明する。
【0040】
以下の説明は、医療機関で行う初期診療時と、次回以降の治療において患者やその家族等が自宅で行う在宅治療時とに分けて行うこととする。なお、2回目以降の治療は、在宅に限らず、病院等の医療機関で行う場合もある。
【0041】
まず、経頭蓋磁気刺激療法に用いる磁気刺激用コイルをその最適位置(および姿勢)へ移動させる操作である位置決めを行う装置外部の専用の装置として、従来より知られた、光学マーカーとステレオカメラなどより構成される光学式トラッキング装置および医用画像表示装置を含む光学式トラッキングシステムがある。医療機関において、医療関係者が光学式トラッキングシステムを用いることで、医用画像表示装置に表示された患者の脳の医用画像(例えば検査用に取得されたMRI(magnetic resonance imaging:磁気共鳴映像法)画像)に基づいて、磁気刺激すべきターゲットを確認しつつ、コイルの位置や脳表に対する方向及び角度をリアルタイムにモニタしながら、例えば脳内神経を磁気刺激することができる。
【0042】
患者上肢の疼痛治療を行う目的で磁気刺激を行う場合は、コイルの位置及び角度が適切に照射ターゲットを捉えた場合に、コイルによる磁気刺激に応じて患者上肢の筋肉が反射運動(twitchと呼ぶ)を示すので、医療関係者はコイルの位置及び角度が適切であることがわかる。次に、医療関係者は刺激に用いるコイル電流値を、twitchが見られる閾値電流値を基準に、治療に適切なコイル電流値に調整、設定する。
【0043】
なお、ここでコイルの角度という語は、コイルの回転対称軸を中心とした回転角度(ローテーション)と、鉛直線に対するコイルの回転対称軸のなす角度(チルト)のいずれか一方あるいは双方を指している。
【0044】
以上により、医療機関で行う初期診療時である処方時においては、磁気刺激治療の処方値として、コイルの位置及び角度、並びに電流値を得る。なお、上記に説明した光学トラッキングシステムやMRI画像データ表示を用いずに、twitchの反応を見ながら処方を決定する場合もある。
【0045】
2回目以降の治療時を在宅で行う場合、在宅で患者が自ら実行する経頭蓋磁気刺激治療のための処方値は、上記のように処方時に医療関係者が既に決定した値を用いる。そして近所のかかりつけ医院等の医療関係者、又は在宅で操作を行う者は、専門医が決定した処方値に応じた、すなわち処方値を実現するように磁気刺激コイルの位置や角度を移動操作すれば、処方どおりの磁気刺激治療を繰り返し行うことが可能となる。すなわち、治療手順として、患者はまず病院で医師から最適な刺激位置等の条件を処方される。その処方された位置等の条件に従って経頭蓋磁気刺激治療法を行う。処方された磁気刺激コイルの位置にコイルが設置されれば、治療効果があると言われている。
【0046】
〔経頭蓋磁気刺激治療システムの全体構成〕
本発明にかかる経頭蓋磁気刺激治療システムは、図示しないシステムの筐体(ハウジング)内に、治療コイルに電力を供給する交流電源と、交流電源を制御して治療コイルに加える電流を制御するコントローラ等が収容されたコイル駆動電源を有していて、このコイル駆動電源は公知技術を利用することができる。
【0047】
また、磁気刺激コイルとして、よく知られた8字型コイル(60)(
図6)あるいは他の形態や仕様のコイルを用いてもよい。
【0048】
なお、これらの構成は、本発明にかかる他の実施形態にも共通な構成である。本発明に係る経頭蓋磁気刺激治療システムに特徴的な構成である、磁気刺激用コイルを高さ及び傾きについて重力とバランスさせて所望の状態で空中に静止させる構成、空中に静止した磁気刺激用コイルに対し当該頭表面の刺激部位を当接または近接させて固定する構成について、順次説明する。
【0049】
〔磁気刺激コイルの位置決め技術(在宅における経頭蓋磁気刺激治療での必要性)〕
在宅での経頭蓋磁気刺激治療を行う際に、患者は医師から処方された刺激位置にコイルを再現よく位置決めして治療することが必要となることを先に説明した。神経障害性疼痛の有効性には、医師に処方された位置に再現よくコイルを繰り返し設置して治療する必要があると言われている。
【0050】
経頭蓋磁気刺激治療、特に在宅での治療に必要な位置決め再現技術とは、「人体座標系上の最適刺激位置」と「システム座標系上の最適刺激位置」を「相対位置 測定技術」で合致させることと定義することができる。ここで、位置決め再現技術は、(A)人体定位技術(治療の度ごとに毎回、患者人体がシステムに対して同じ位置となるようにする)と(B)相対位置測定技術(システムに対して所定の位置にある患者人体から、磁気刺激コイルが相対的に度の位置にあるかを測定する)に大きく分類することができる。
【0051】
(A)人体定位技術は、更に(1)人体定位技術(位置指定・保持技術)、(2)コイル定位技術(操作技術)に分類することができる。なお、(2)コイル定位技術(操作技術)は、医師が操作性向上の技術とも共通している。
【0052】
(B)相対位置測定技術は、(1)頭部目標位置(最適刺激位置)、(2)測定技術に分類することができる。なお、今回は図示しないが、「相対位置 測定技術」として、特願2011−519757号公報、特願2013−512472号公報、に記載された磁気センサ技術、特願2013−674に記載された光学センサ、画像認識技術、特願2013−540815に記載されたマーキング技術、等といった公知技術を利用することができる。
【0053】
本発明にかかる経頭蓋磁気刺激治療システムは、上述の従来の磁気刺激コイル位置決め技術の構成とは異なり、磁気刺激用コイルを高さ及び傾きについて重力とバランスさせて所望の状態で空中に静止させる構成、空中に静止した磁気刺激用コイルに対し当該頭表面の刺激部位を当接または近接させて固定する構成により、磁気刺激コイルの最適照射位置への位置決め、位置決めされた位置でのコイルの保持を行うようにしたので、システム全体が小型でシンプルとなり、コストが低減され、在宅で患者や患者家族が医療関係者の支援無しに操作が行えるだけでなく、医療関係者の処方、治療の為の操作性向上が可能となる。
【0054】
〔磁気刺激用コイルを高さ及び傾きについて重力とバランスさせて所望の状態で空中に静止させる構成の基本形態〕
図1に示すように、基本形態の経頭蓋磁気刺激治療システム11に含まれるコイル高さと傾きを維持する機構は、建物の一部(例えば、天井、梁)又は移動可能に設置された支持装置(図示せず)に設けられた固定部12と、一端と他端(図示する基本形態では一端が上端と他端が下端に相当する。)を有し、一端(上端)が固定部12に連結されて該固定部12から吊り下げられた懸下部材(サスペンション部材)13を有する。懸下部材13は、紐、ロープ、鋼線、ワイヤ、チェーンのいずれであってもよい。
【0055】
懸下部材13の他端(下端)には、姿勢調整部材14が連結されている。基本形態の説明図では、姿勢調整部材14は、発明の理解を容易にするためにL字状の部材として表されており、第1の直線部分15と、第2の直線部分16を有し、これら第1の直線部分15の一端と第2の直線部分16の一端が連結されている。そして、第1の直線部分15の他端(第1の連結部17)が、懸下部材13の他端に連結されている。
【0056】
第2の直線部分16は治療コイル18(以後、「コイル18」ともいう。)を支持している。コイル18は、経頭蓋磁気刺激治療用コイルで、典型的には、当業界で良く知られている「8の字型コイル」である。図示しないが、コイル18は、該コイル18と図示しない交流電源との間を電気的に接続する電線(図示せず)が接続され、上記のコイル駆動電源に接続されている。
【0057】
図示する基本形態では、コイル18は、第2の直線部分16と直交する斜め下方向に向けて磁力線を発生するように、連結部材(第2の連結部)20を介して姿勢調整部材14に取り付けられている。また、コイル18は、第2の直線部分16に沿って、第2の直線部分16の第1の点21(
図1(a)参照)と第2の点22(
図1(b)参照)の間を移動可能に且つそれら第1の点21と第2の点22の間の任意の点(例えば、
図1(c)に示す第3の点23)に固定可能に連結されるか、又は、第1の点21、第2の点22、及びこれらの点の間の一つ又は複数の点(例えば、第3の点23)に固定可能である。
【0058】
このように構成されたシステム11の動作を説明する。なお、以下の説明では、発明の理解を容易にするために、姿勢調整部材14の質量がゼロと仮定する。そうすると、
図1(a)に示すように、コイル18の連結部材20が第1の点21に連結されている場合、コイル18及び連結部材20の重量により、姿勢調整部材14は、第1の連結部17と第1の点21が同一鉛直線上に位置する状態をとり、コイル18から発生する磁力線は鉛直軸24に対してθ1の角度をなす方向(線25で示す方向)に向けられる。
【0059】
また、
図1(b)に示すように、コイル18の連結部材20が第2の点22に連結されている場合、コイル18及び連結部材20の重量により、姿勢調整部材14は、第1の連結部17と第2の点22が同一鉛直線上に位置する状態をとり、コイル18から発生する磁力線は鉛直軸19に対してθ2(θ1<θ2)の角度をなす方向(線27で示す方向)に向けられる。
【0060】
さらに、
図1(c)に示すように、コイル18の連結部材20が第3の点23に連結されている場合、コイル18及び連結部材20の重量により、姿勢調整部材14は、第1の連結部17と第3の点23が同一鉛直線上に位置する状態をとり、コイル18から発生する磁力線は鉛直軸24に対してθ3(θ1<θ3<θ2)の角度をなす方向(線26で示す方向)に向けられる。
【0061】
このように、本発明によれば、姿勢調整部材14に対するコイル18の位置が変化すると、姿勢調整部材14とそれに連結されたコイル18の向き及びコイルから生じる磁力線の向きが変化する。したがって、
図1(a)〜(c)に示す円28を患者頭部の中心前回77(
図6参照)に沿った断面と仮定した場合、姿勢調整部材14に対するコイル18の位置を変えることによって、中心前回の異なる部位29、30、31に磁力線を向けてそこに磁界の変化を効率良く与えることができる。
【0062】
なお、上述の説明では、発明基本の理解を容易にするために、姿勢調整部材の一例としてL型部材を示したが、
図2(a)〜(d)に示すように、姿勢調整部材は任意の形状141〜144を取り得る。また、コイル18は、第1の点21と第2の点22の間を自由に移動できるとともに任意の位置で連結部材20を介して姿勢調整部材14に固定できるようにしてもよいし、第1の点21と第2の点22の間の予め決められた一つ又は複数の第3の点23にのみ着脱自在に固定できるようにしてもよい。さらに、連結部材20はコイル18の中心を通る軸に沿って伸びるシャフトを含むように構成し、このシャフトを中心に姿勢調整部材14に対してコイル18が回転するようにしてもよい。
【0063】
〔実施形態1〕
上述のとおり、本発明のシステムは、懸下部材を介して固定部に懸下された姿勢調整部材に対するコイルの位置を変えることによってコイルの方向及び該コイルから発生する磁力線の方向を目的の方向に向けることができるものである。以下、この基本形態を組み入れた本発明に係る経頭蓋磁気刺激システムの実施形態を説明する。
【0064】
図3は、実施形態1に係る経頭蓋磁気刺激システムを示す。図において、経頭蓋磁気刺激システム(以下、「システム」という。)41は、病院又は患者の自宅等の建物の床42に固定された支柱43を有する。支柱43の上部は水平方向に伸びており、その先端44が上述したコイル位置決め装置の固定部を構成している。図示する実施形態では支柱水平部分の先端を固定部としているが、固定部は建物の天井又は梁であってもよい。
【0065】
支柱先端44には、そこから吊り下げられた懸下部材45の一端(上端)が連結されて
いる。懸下部材
45は、紐、ロープ、鋼線、ワイヤ、チェーンのいずれであってもよい。
実施形態では、懸下部材45は、上部分46と下部分47からなり、これら上部分46と
下部分47の間に免荷重部48を備えている。免荷重部48は、例えば、市販の免荷重装
置が好適に利用できる。
【0066】
懸下部材45は、その下端にヘッドウエア(姿勢調整部材)50を支持している。ヘッドウエア50は、
図4に詳細に示すように、患者51の頭部52の外形に似せた外側シェル(帽体、外殻)53と、シェル53の内側に配置されたライナ54と、シェル53を患者頭部52に固定するための顎紐55を有する。好ましくは、シェル53は樹脂で形成され、ライナ54は発泡スチロールで形成される。
【0067】
ヘッドウエア50はまた、患者51の中心前回77(
図6参照)に沿って横方向に伸びるスロット(貫通溝)56が形成されている。スロット56の内側には、ライナが存在しない領域(以下、「コイル移動空間」という。)57が形成されている。図示するように、コイル移動空間57にライナが存在しなくても、コイル移動空間57の前後にはライナ54が存在しており、これらのライナ54が患者の前頭部58と後頭部59にそれぞれ接触するため、ヘッドウエア50は患者頭部52に安定して支持される。
【0068】
コイル移動空間57には、経頭蓋磁気刺激治療用のコイル60が配置される。コイル60は、例えば、8の字型コイルである。コイル60は、連結具61(第2の連結部)を介してヘッドウエア50に取り付けられる。連結具61は、コイル60の中心軸78(
図6参照)に沿って伸びるねじ軸62を有する。ねじ軸62はスロット56を貫通して外側に突出しており、そこに形成された外ねじ部にナット63が装着されている。したがって、ナット63を締めることにより、ナット63とコイル60によってシェル53の一部(スロットに隣接する部分)が挟まれ、シェル53に対してコイル60が固定されるとともに、ナット63を緩めることにより、コイル60をスロット56に沿って移動させることができる。図示するように、ナット63とシェル53の間、及びコイル60とシェル53の間には、適宜ワッシャ64、65を配置することが好ましい。
【0069】
コイル60は、ナット63を緩めた状態でねじ軸62を中心に回転させることができることが好ましい。この場合、コイル移動空間58の幅(前後方向の幅)は、コイル60がねじ軸62を中心に360度又は所望角度回転できる大きさと形状とする。
【0070】
ヘッドウエア50はまた、スロット56の中央部上に配置された連結板66と、この連結板66をシェル53に固定するための複数の脚部67を有する。実施形態では、連結板66は円形の板である。連結板66は、シェル53の外形にほぼ平行に広がる曲板であってもよい。図示するように、連結板66の中央には、スロット56と平行に伸びるスロット68が形成されている。スロット68には、該スロット68に沿って移動可能で且つ任意の位置で固定できるように構成された連結具(第1の連結部)70が取り付けてある。実施形態では、連結具70は、スロット68を貫通するねじ軸71と、連結板66の下面から突出したねじ軸71の下端部分に固定されたフランジ72と、連結板66の上面から突出したねじ軸71の上部に装着されたナット73と、ねじ軸71の上端に一体に形成されており、上述した懸下部材45の下端が連結される連結リング74を有する。したがって、連結具70は、ナット73を締めることによって連結板66に固定されるとともに、ナット73を緩めることによってスロット68に沿って移動させることができる。
【0071】
このように構成されたシステム41によれば、
図3、4に示すように、ヘッドウエア50が患者の頭部52に装着される。また、顎紐55を締めることによって、ヘッドウエア50が頭部52に固定される。コイル60と連結具70の位置は以下に説明する方法にしたがって決定される。
【0072】
具体的に
図7を参照して、その方法を説明する。理解を容易にするために、ヘッドウエア50の重量(W1)はコイル60の重量(W2)の2倍と仮定する(W1=2W2)。そうすると、例えば、
図7(a)に示すように、コイル60をスロット56の中央(第1の位置)に固定した場合、ヘッドウエア50の重心G1とコイル60の重心G2は同一鉛直線75上に位置する。したがって、連結具70は、スロット68の中央に固定すれば、ヘッドウエア50は正面から見て左右に傾くことなく懸下部材45に支持される。
【0073】
次に、
図7(b)に示すように、コイル60をスロット56の端部(第2の位置)に位置させた場合、ヘッドウエア50の重心G1からコイル60の重心G2までの距離をLとすると、ヘッドウエア重心G1からコイル重心G2に向かって水平方向にL/3だけ移動した位置に連結具70を固定する。これにより、連結具70を支点として、ヘッドウエア重量W1とコイル重量W2が釣り合い、ヘッドウエア50は、正面から見て左右に傾くことなく、懸下部材45に支持される。
【0074】
次に、
図7(c)に示すように、第1の位置と第2の位置の間の任意の位置(第3の位置)にコイル60を位置させた場合、ヘッドウエア重心G1からコイル重心G2までの距離をL‘とすると、ヘッドウエア重心G1からコイル重心G2に向かって水平方向にL’/3だけ移動した位置に連結具70を固定する。これにより、連結具70を支点として、ヘッドウエア重量G1とコイル重量G2が釣り合い、ヘッドウエア50は、正面から見て左右に傾くことなく、懸下部材45に支持される。
【0075】
このように、本実施形態のシステム41によれば、治療部位に応じてコイル60の位置を中心前回77に沿って移動させることができるとともに、その移動量(又は、移動後のコイル60の位置)に応じて連結具70を移動させることによって、ヘッドウエア50を正面から見て左右に傾くことなく維持できる。
【0076】
実施形態のシステム41によれば、懸下部材45に支持されたヘッドウエア50及びコイル60の重量は免荷重部48に吸収されるため、その重量が患者51の頭部にまったく又は殆ど作用しない。したがって、ヘッドウエア50を装着した患者にかかる負荷がなく、長時間に亘る治療も患者にとって負担の無いものになる。
【0077】
連結具70の固定位置を容易に決めることができるように、スロット56とスロット68の近くにそれぞれ目盛を設け、両目盛を上述の方法によって関連づけることによって、コイル60の位置に対応して連結具70を適正位置に容易に決めることができる。
【0078】
以上のように構成された経頭蓋磁気刺激治療システムの使用方法について、特に在宅で行う経頭蓋磁気刺激治療を例として、医療機関で行う初期診療時と、次回以降の治療において、患者やその家族等が自宅で行う在宅治療時とに分けて説明する。なお、2回目以降は、在宅に限らず、病院等の医療機関で行う場合もある。
【0079】
まず、経頭蓋磁気刺激療法に用いる磁気刺激用コイルの最適位置(および姿勢)への位置決めを行う装置外部の専用の装置として、従来公知の光学式トラッキング装置および医用画像表示装置(共に不図示)を含む光学式トラッキングシステムがある。医療機関において、医療関係者が光学式トラッキングシステムを用いることで、医用画像表示装置に表示された患者の脳の医用画像(例えばMRI(magnetic resonance imaging:磁気共鳴映像法)画像)に基づいて、磁気刺激すべきターゲットを確認しつつ、コイルの位置や脳表に対する方向・角度をリアルタイムにモニタしながら、例えば脳内神経を磁気刺激することができる。
【0080】
患者上肢の疼痛治療を行う目的で磁気刺激を行う場合は、コイルの位置・角度が適切に照射ターゲットを捉えた場合に、コイルによる磁気刺激に応じて患者上肢の筋肉が反射運動(twitch)を示すので、医療関係者はコイルの位置・角度が適切であることがわかる。次に、医療関係者は刺激に用いるコイル電流値を、twitchが見られる閾値電流値を基準に、治療に適切なコイル電流値に調整、設定する。
【0081】
なお、「コイルの角度」という語は、コイルの回転対称軸を中心とした回転角度(ローテーション)と、鉛直線に対するコイルの回転対称軸のなす角度(チルト)のいずれか一方あるいは双方を意味する。
【0082】
以上により、処方時においては、磁気刺激治療の処方値として、コイルの位置及び角度、電流値を得る。なお、上記に説明した光学トラッキングシステムやMRI画像データ表示を用いずに、twitchの反応を見ながら処方を決定する場合もある。
【0083】
次に、2回目以降の治療時が在宅における場合、在宅で患者が自ら実行する経頭蓋磁気刺激治療のための処方値は、上記のように処方時に既に決定している。そこで、処方値の内のコイルの位置及び角度を実現する、ヘッドウエア50内のスロット56、68の目盛値を予め把握しておく。
【0084】
そして在宅で操作を行う者は、専門医が決定した処方値に応じた、すなわち処方値を実現するようにヘッドウエア50の所定操作部である連結具70、及びスロット56、68を操作固定し、更に処方されたコイル電流値となるよう電流値操作部(図示しない)を操作すれば、処方どおりの磁気刺激治療を繰り返し行うことが可能となる。
【0085】
〔実施形態2〕
図8〜
図10は、経頭蓋磁気刺激システムの他の形態を示す。このシステム81において、姿勢調整部材82は、直線部83と曲線部84を有し、直線部83の一端と他端が曲線部の一端と他端にそれぞれ連結して構成されている。曲線部84の外面には、連結部(第1の連結部)85が設けられている。連結部85は、懸下部材86(例えば、鋼線)を介して、建物等の固定部(図示せず)に連結されている。図示しないが、懸下部材45は免荷重部を備えている。
【0086】
実施形態2では、懸下部材86は、曲線部84の中央から一端側又は他端側に移動した箇所に設けてあるが、曲線部84の中央に設けてもよい。
【0087】
直線部83は、その長さ方向に所定の間隔をあけて配置された複数のコイル取付用貫通孔(コイル取付部)87が形成されている。
【0088】
コイル88は、8の字型コイルである。コイル88は、その中心軸89に沿って伸びるねじ軸90を有する。ねじ軸90は外ねじを有し、直線部83の貫通孔87に挿通した状態でねじ軸90にナット91を外装することで、直線部83に対して、ねじ軸90を中心として任意の方向に向けて固定することができる。
【0089】
または、本実施形態に含まれる他の態様として、複数のコイル取付用貫通孔(コイル取付部)87に代えてスリット(図示しない)を設け、このスリットの無段階の任意位置において、ねじ軸90にナット91を外装することで、直線部83に対して、ねじ軸90を中心として任意の方向に向けて固定するようにしてもよい。
【0090】
図10に示すように、コイル88の内面(患者に対向する面)には、十字状の面ファスナ部材(フック部)91が固定されている。
【0091】
実施形態2において、ヘッドウエア92は、患者の頭部に着脱自在に装着できる帽子で、特に、その外面はコイル88の面ファスナ部材(フック部)91と協働して面ファスナ94を構成する面ファスナ部材(ループ部)93が形成されている。また、ヘッドウエア50の外表面には頭頂部を中心とする放射方向に伸びる複数の模様(目盛)95と円周方向に伸びる複数の模様(目盛)96が形成されており、目的の位置に又目的の方向に向けてコイル88を固定できる。
【0092】
なお、ある患者が磁気刺激治療を継続的に受けるにあたり、コイル88の照射位置、傾き、及び回転角は毎回同じ値で治療されることが多い。そこでヘッドウエア92外表面に目盛を設ける態様の他、個々の患者で決められた処方に応じたコイルの位置、回転角に応じた目印や形状をヘッドウエア92の外表面に設けてもよい。
【0093】
すなわち本実施形態のヘッドウエア92の面ファスナ部材93と、コイル88の面ファスナ部材91とは、共働して、コイル88の頭皮上の位置、コイル88の傾き、及びコイル88の回転角が繰り返し再現可能な状態で、患者頭部とコイル88との固定と離脱を実現している。
【0094】
このように構成された実施形態2のシステム81によれば、治療部位に対応するコイル貫通孔87にコイル88が固定され、治療部位に対して最も効率良く磁界を与えることができる方向に向けられる。また、中心軸89を中心とする任意の方向にコイル88を向けることができる。このようにして姿勢が決められたコイル88は、その姿勢を維持したまま、面ファスナ94によってヘッドウエア50に固定され、コイル88の中心軸89が治療部位に向けられる。この状態で、姿勢調整部材82とコイル88の重量は図示しない免荷重部(図示せず)に負担される。したがって、姿勢調整部材82とコイル88の重量が患者に負担されることがない。そのため、長時間に亘る治療も患者にとって負担の無いものとなる。
【0095】
すなわち本実施形態は、処方された、治療用コイルの頭部照射位置、傾き及び回転角を正確に再現して経頭蓋磁気刺激治療を行うための経頭蓋磁気刺激治療システムである。
【0096】
実施形態1と同様に、専門の医師等が病院で行う初期診療時に処方値が決定され、処方値の内のコイルの位置及び角度を実現する、ヘッドウエア50外表面の目盛95、96の値を予め把握しておくか、あるいはマークや形状をヘッドウエア50外表面に設けておく。
【0097】
そして2回目以降の治療時において、在宅等で操作を行う者は、専門医が決定した処方値に応じた、すなわち処方値を実現するようにヘッドウエア50の所定位置にコイル88を移動操作して固定し、更に処方されたコイル電流値となるよう電流値操作部(図示しない)を操作すれば、専門医のいない在宅等で、処方どおりの磁気刺激治療を繰り返し行うことが可能となる。
【0098】
なお、以上の実施形態1では、第1の連結部と第2の連結部を案内するスロットは中心前回に沿ってコイルを移動できるように左右方向に形成されているが、
図3、5に点線97、98で示すように前後方向に形成してもよい。
上記の各実施例では、姿勢及び位置を調整する対象物として経頭蓋磁気刺激用コイル(18)を例示として説明を行ったが、対象物としてはこれに限られるものではなく、姿勢及び位置を調整したい対象全般に対して、本発明を対象物の姿勢及び位置調整装置として適用することができる。
例えば、工場や作業現場で用いられる工具や治具に好適であり、指向性を有する照明器具(スポットライト)や指向性マイクロフォン、行先の案内板など、姿勢及び位置を調整したい対象物全般に適用することができる。
さらに、医療用途の分野において、温熱療法や超音波治療法などの物理療法に用いるアクチュエータ類、各種診断器、輸液管の固定や吸入用ガス供給管の固定など、本発明の姿勢及び位置を調整する技術を適用することが可能であり、それらもまた本発明が包含するものである。
【0099】
以上説明したように、本発明に係る各実施例である経頭蓋磁気刺激システムは、磁気刺激コイルを、高さ及び傾きについて重力とバランスさせて所望の状態で空中に静止させ、この静止した磁気刺激コイルに対して患者頭部の磁気刺激部位を当接固定させるように構成としたので、従来の構成と比較して、磁気刺激治療患部と磁気刺激コイルの支持機構とを近接して配置することができるのでシステムが小型化でき、座位や横臥など患者の体位と関係なく位置決めと、磁気刺激治療を行うことができる。コイルを当接固定する構成に位置や角度の再現性を持たせることで、磁気刺激コイルの位置や角度の再現性も高くなり、またコイルの当接固定後に患者自身に微調整を強いる必要性が低くなり、システム全体が小型でシンプルとなる。例えば、従来の医療者が行う位置決めの延長による在宅治療の位置決めでは、構造が決められた椅子やベッドの使用が必要となるが、本願発明では、そのような制約が無くなるので、居室が狭く大がかりな設備を搬入できない場合であっても在宅での磁気刺激治療が可能となる。
【0100】
さらに、構造や構成物がシンプルとなるのでコストが低減され、在宅で患者や患者家族が医療関係者の支援無しに操作が行えるだけでなく、医療関係者の処方、治療の為の操作性向上が可能となる経頭蓋磁気刺激システムを提供することができる。
【0101】
なお、本発明は、難治性の神経障害性疼痛に限定されるものではなく、パーキンソン病、パーキンソン症候群、脳卒中後のリハビリテーションへの応用、アルツハイマー病、依存症、うつ病、PDSD等の精神疾患等といった神経疾患への処方、治療、臨床研究にも適用できる。