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特許6558694二次電池用難燃性電解液、及び当該電解液を含む二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558694
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】二次電池用難燃性電解液、及び当該電解液を含む二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20190805BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20190805BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20190805BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20190805BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALN20190805BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M10/054
   H01M4/587
   !H01M10/0525
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-172725(P2015-172725)
(22)【出願日】2015年9月2日
(65)【公開番号】特開2017-50148(P2017-50148A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年2月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 文部科学省 科学技術試験研究委託事業「実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ジェンフイ
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101882696(CN,A)
【文献】 特開2005−243620(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/030008(WO,A1)
【文献】 Xianming Wang et al.,High-Concentration Trimethyl Phosphate-Based Nonflammable Electrolytes with Improved Charge-Discharge Performance of a Graphite Anode for Lithium-Ion Cells,Journal of The Electrochemical Society,2006年,Vol.153/Issue 1,A135-A139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び、電解液を備えるナトリウムイオン二次電池であって、
前記電解液が、主溶媒としての難燃性有機溶媒と、ナトリウム塩とを含
前記電解液の組成が前記ナトリウム塩1molに対して難燃性有機溶媒量mol以下であり、
全溶媒中における前記難燃性有機溶媒の割合が、50〜100mol%であり、
前記難燃性有機溶媒が、リン酸トリエステルであり、
前記ナトリウム塩を構成するアニオンが、ビス(フルオロスルホニル)アミド([N(FSO)であり、
前記負極が活物質としてハードカーボンを含むこと
を特徴とする、該ナトリウムイオン二次電池
【請求項2】
前記難燃性有機溶媒が、リン酸トリメチル又はリン酸トリエチルである、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池
【請求項3】
前記正極が、遷移金属酸化物である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の難燃性電解液、特にリン酸トリエステルを主溶媒とする電解液、及び当該電解液を含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギー密度を有するリチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコンなどの小型携帯機器用途に加えて、電気自動車や電力蓄電用途などの大型蓄電池としての大規模な普及が期待されているが、近年はより低コストで製造できる二次電池が求められるようになっている。
【0003】
そのため、リチウムイオン二次電池を上回る高いエネルギー密度を有する次世代二次電池の研究が盛んになされ、さまざまな試みが行われている。なかでも、ナトリウムイオン電池は、レアメタルに分類されるリチウムと比較して安価で資源が豊富なナトリウムを用いることから、リチウムイオン二次電池よりも大幅に低コスト化の可能性が期待されるため、次世代蓄電池の有力な候補とされている。しかし、かかるナトリウムイオン電池では、充放電サイクル安定性(可逆性)が低く、及び安全性も十分ではないという課題があった。
【0004】
より具体的には、ナトリウムイオン電池では、一般に負極材料としてハードカーボン(難黒鉛化炭素等)が用いられているが(例えば、特許文献1)、その反応可逆性が低いことが知られており、充放電サイクル安定性が低い要因は主に負極にあると考えられている。また、ナトリウムイオン電池では、過充電等によってナトリウム金属が生成し得るが、かかるナトリウム金属は、極めて反応性が高く発火等の危険性が懸念されており、高安全のナトリウムイオン電池の実現のためには、難燃性の電解液を用いる必要がある。リチウムイオン電池においても、電解液の漏液等が生じた場合には引火の危険性がある。しかしながら、そのような難溶性の二次電池用電解液系であって、かつ優れた電池特性を両立し得る電解液は、これまでに実現されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−266821
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、ナトリウムイオン電池等の二次電池用における電解液として、難燃性の溶媒を主溶媒とする安全性の高い電解液系であって、かつ優れた電池特性を提供可能な電解液を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、難燃性有機溶媒中に高濃度のアルカリ金属塩を含む電解液を用いることで優れた電池特性を得ることができ、より具体的には、負極にハードカーボンを用いたナトリウムイオン電池においても可逆的な電池反応が得られることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一態様において
(1)主溶媒としての難燃性有機溶媒と、アルカリ金属塩とを含む二次電池用電解液であって、前記電解液の組成が前記アルカリ金属塩1molに対して溶媒量が4mol以下であることを特徴とする、該電解液;
(2)前記難燃性有機溶媒が、リン酸トリエステルである、上記(1)に記載の二次電池用電解液;
(3)前記難燃性有機溶媒が、リン酸トリメチル又はリン酸トリエチルである、上記(1)に記載の二次電池用電解液;
(4)前記アルカリ金属塩を構成するアニオンが、フルオロスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、及びパーフルオロエタンスルホニル基よりなる群から選択される1以上の基を含むアニオンである、上記(1)に記載の二次電池用電解液;
(5)前記アニオンが、ビス(フルオロスルホニル)アミド([N(FSO)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)アミド([N(CFSO)(FSO)])、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([N(CFSO)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)アミド([N(CSO)又は(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)アミド([N(CSO)(CFSO)])である、上記(4)に記載の二次電池用電解液;
(6)前記アルカリ金属塩が、リチウム塩又はナトリウム塩である、上記(1)〜(5)のいずれか1に記載の二次電池用電解液;
(7)全溶媒中における前記難燃性有機溶媒の割合が、30〜100mol%である、上記(1)〜(6)のいずれか1に記載の二次電池用電解液;及び
(8)前記二次電池が、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池である、上記(1)〜(7)のいずれか1に記載の二次電池用電解液
を提供するものである。
【0009】
別の態様において、本発明は、
(9)正極、負極、及び、上記(1)〜(8)のいずれか1に記載の二次電池用電解液を備える二次電池;
(10)ナトリウムイオン二次電池である、上記(9)に記載の二次電池;
(11)前記正極が、遷移金属酸化物である、上記(10)に記載の二次電池;
(12)前記負極が、ハードカーボンである、上記(10)又は(11)に記載の二次電池;
(13)リチウムイオン二次電池である、上記(9)に記載の二次電池;
(14)前記正極が、リチウム元素を有する金属酸化物、ポリアニオン系化合物、又は硫黄系化合物より選択される活物質を含む、上記(13)に記載の二次電池;及び
(15)前記負極が、炭素材料、金属リチウム、リチウム合金、又はリチウム金属酸化物より選択される活物質を含む、上記(13)又は(14)に記載の二次電池
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来、充放電反応の可逆性に対して悪影響を与えるとされてきた難燃性有機溶媒を主溶媒(さらには、単一溶媒)として用いた場合でも、極めて可逆的な電池反応が得られるという効果を奏する。これにより、例えば、ナトリウムイオン電池の過充電などが行われた場合でも、発火の危険性を回避することができ、安全性が高くかつ長寿命化等の優れた電池特性を有する二次電池を構築可能である。
【0011】
特に、上述のように本発明の電解液はハードカーボン負極においても改善された反応可逆性を提供し得ることから、これまでのナトリウムイオン電池の最大の課題であった充放電可逆性をリチウムイオン電池と同程度のレベル以上に引き上げるものであり、ナトリウムイオン電池の実用化に大きく貢献するものであって、産業上の利用価値は極めて高いものといえる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、NaFSA/TMP電解液(1:2)を用いた場合のハードカーボン電極における充放電曲線を示すグラフである。
図2図2は、NaFSA/TMP電解液(1:3)を用いた場合のハードカーボン電極における充放電曲線を示すグラフである。
図3図3は、NaFSA/TMP電解液(1:8)を用いた場合のハードカーボン電極における充放電曲線を示すグラフである。
図4図4は、NaFSA/TMP電解液を用いた場合及び1mol/L NaPF/EC:DMC電解液を用いた場合の充放電サイクル特性の比較を示すグラフである。
図5図5は、NaFSA/TMP電解液を用いた場合のクーロン効率のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0014】
1.電解液
(1)難燃性有機溶媒
本発明の二次電池用電解液は、主溶媒として難燃性有機溶媒を用いることを特徴とする。ここで、「難燃性有機溶媒」とは、当該技術分野において通常用いられる意味で理解され、引火点及び発火点が高く、容易に引火や発火をしない有機溶媒を意味する。
【0015】
当該難燃性有機溶媒は、全溶媒中において最も多い割合で存在し、好ましくは30〜100mol%、より好ましくは50〜100mol%の割合で存在する。特に好ましくは、難燃性有機溶媒が単一溶媒(すなわち、100重量%)として用いられる。
【0016】
かかる難燃性有機溶媒は、好ましくは、リン酸トリエステルであり、例えば、リン酸トリメチルやリン酸トリエチルを挙げることができる。ここで、リン酸トリメチルは、一般に難燃剤として用いられており、一般に、10〜30mol%以上を含む場合、難燃性を示すことが知られている(Wangら、J.Electorochem.Soc.、148、A1058、2001年)。
【0017】
本発明の二次電池用電解液は、場合により、上記難燃性有機溶媒以外の他の溶媒を含む混合溶媒とすることも可能である。かかる他の溶媒としては、好ましくは非水溶媒、例えば、エチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類;メトキシプロピオニトリルのニトリル類;酢酸メチル等のエステル類;トリエチルアミン等のアミン類;メタノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;含フッ素アルカン等を用いることができる。例えば、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、及びスルホラン等の非プロトン性有機溶媒を用いることもできる。かかる他の溶媒を用いる場合でも、上述のとおり、難溶性溶媒が主溶媒として用いられる。
【0018】
(2)アルカリ金属塩
また、本発明の二次電池用電解液は、高濃度のアルカリ金属塩を含むことを特徴とするものである。これによって、従来は、難溶性溶媒系の電解液では可逆的に作動し得なかった電極構成においても、優れた可逆性を示す二次電池を実現することができる。上記電解液中におけるアルカリ金属塩と溶媒の混合比は、アルカリ金属塩1molに対して溶媒量が4mol以下であり、好ましくは、3mol以下であり、より好ましくは2mol以下である。溶媒量の下限については、当該アルカリ金属塩の析出等が発生せず、正極・負極における電気化学的反応が進行する限り特に制限はされないが、例えば、アルカリ金属塩1molに対して溶媒1mol以上であり、好ましくはアルカリ金属塩1molに対して溶媒2mol以上であることができる。
【0019】
本発明の二次電池用電解液において用いられるアルカリ金属塩は、好ましくは、リチウム塩、ナトリウム塩である。本発明の電解液を用いる二次電池の種類に応じて、例えば、二次電池がリチウムイオン電池の場合にはリチウム塩が好ましく、二次電池がナトリウムイオン電池の場合にはナトリウム塩が好ましい。また、2種類以上のアルカリ金属塩を組み合わせた混合物を用いることもできる。
【0020】
当該アルカリ金属塩を構成するアニオンは、好ましくはフルオロスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、及びパーフルオロエタンスルホニル基よりなる群から選択される1以上の基を含むアニオンである。例えば、ビス(フルオロスルホニル)アミド([N(FSO)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)アミド([N(CFSO)(FSO)])、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([N(CFSO)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)アミド([N(CSO)又は(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)アミド([N(CSO)(CFSO)])が好適である。
【0021】
したがって、当該アルカリ金属塩の具体例としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)アミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)アミド)(LiBETA)又はリチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)アミド;或いは、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(NaFSA)、ナトリウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロスルホニル)アミド、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(NaTFSA)、ナトリウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)アミド)(NaBETA)又はナトリウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロエタンメタンスルホニル)アミドが挙げられる。
【0022】
これらアルカリ金属塩に加えて、当該技術分野において公知の支持電解質を含むことができる。そのような支持電解質は、例えば、二次電池がリチウムイオン電池である場合には、LiPF、LiBF、LiClO、LiNO、LiCl、LiSO及びLiS等及びこれらの任意の組み合わせから選択されるものが挙げられる。
【0023】
(3)その他の成分
また、本発明の二次電池用電解液は、その機能の向上等の目的で、必要に応じて他の成分を含むこともできる。他の成分としては、例えば、従来公知の過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤、高温保存後の容量維持特性およびサイクル特性を改善するための特性改善助剤が挙げられる。
【0024】
過充電防止剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソールおよび2,6−ジフルオロアニオール等の含フッ素アニソール化合物が挙げられる。過充電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
当該電解液が過充電防止剤を含有する場合、電解液中の過充電防止剤の含有量は、0.01〜5質量%であることが好ましい。電解液に過充電防止剤を0.1質量%以上含有させることにより、過充電による二次電池の破裂・発火を抑制することがさらに容易になり、二次電池をより安定に使用できる。
【0026】
脱水剤としては、例えば、モレキュラーシーブス、芒硝、硫酸マグネシウム、水素化カルシウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウムアルミニウム等が挙げられる。本発明の電解液に用いる溶媒は、前記脱水剤で脱水を行った後に精留を行ったものを使用することもできる。また、精留を行わずに前記脱水剤による脱水のみを行った溶媒を使用してもよい。
【0027】
高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための特性改善助剤としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン、ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシイミド等の含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物;フルオロ炭酸エチレン(FEC)、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物が挙げられる。これら特性改善助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。電解液が特性改善助剤を含有する場合、電解液中の特性改善助剤の含有量は、0.01〜5質量%であることが好ましい。
【0028】
2.二次電池
本発明の二次電池は、正極及び負極と、本発明の電解液を備えるものである。
【0029】
(1)負極
本発明の二次電池における負極としては、当該技術分野において公知の電極構成を用いることができる。例えば、二次電池がリチウムイオン電池の場合には、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含む電極が挙げられる。このような負極活物質としては、公知のリチウムイオン二次電池用負極活物質を用いることができ、例えば、天然グラファイト(黒鉛)、高配向性グラファイト(Highly Oriented Pyrolytic Graphite;HOPG)、非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。さらに他の例として、リチウム金属、又はリチウム元素を含む合金や金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物が挙げられる。例えば、リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばチタン酸リチウム(LiTi12等)等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、負極活物質としては、チタン酸リチウムが好ましい。
【0030】
二次電池がナトリウムイオン電池の場合には、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含む電極を用いることができる。このような負極活物質としては、公知のナトリウムイオン二次電池用負極活物質を用いることができ、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。また、ナトリウムイオン金属、又はナトリウムイオン元素を含む合金、金属酸化物、金属窒化物等を用いることもできる。なかでも、負極活物質としては、乱れた構造を持つハードカーボン等の炭素質材料が好ましい。
【0031】
上記負極は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料および結着材(バインダ)の少なくとも一方を含有し、負極合材として負極集電体に付着させた形態であるものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質および結着材(バインダ)を有する負極とすることができる。粉末状の負極活物質を用いて負極を形成する方法としては、ドクターブレード法や圧着プレスによる成型方法等を用いることができる。
【0032】
導電性材料としては、例えば、炭素材料、金属繊維等の導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料を使用することができる。炭素材料として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等を使用することができる。また、芳香環を含む合成樹脂、石油ピッチ等を焼成して得られたメソポーラスカーボンを使用することもできる。
【0033】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂、或いは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを好ましく用いることができる。負極集電体としては、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。
【0034】
(2)正極
本発明の二次電池の正極としては、当該技術分野において公知の電極構成を用いることができる。例えば、二次電池がリチウムイオン電池の場合には、正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等の1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO)やピロリン酸鉄リチウム(LiFeP)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(LiS)などが挙げられる。当該正極には、導電性材料や結着剤を含有してもよく、酸素の酸化還元反応を促進する触媒を含有してもよい。好ましくは、マンガン酸リチウムである。二次電池がナトリウムイオン電池の場合にも、同様に公知の正極活物質を用いることができる。
【0035】
導電性材料及び結着剤(バインダ)としては、上記負極と同様のものを用いることができる。
【0036】
触媒として、MnO2、Fe23、NiO、CuO、Pt、Co等を用いることができる。また、結着剤(バインダ)としては、上記負極と同様のバインダを用いることができる。
【0037】
正極集電体としては、酸素の拡散を高めるため、メッシュ(グリッド)状金属、スポンジ状(発泡)金属、パンチドメタル、エクスパンディドメタル等の多孔体が使用される。金属は、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等である。
【0038】
(3)セパレータ
本発明の二次電池において用いられるセパレータとしては、正極層と負極層とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シートや、不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等の多孔質絶縁材料等を挙げることができる。
【0039】
(4)形状等
本発明の二次電池の形状は、正極、負極、及び電解液を収納することができれば特に限定されるものではないが、例えば、円筒型、コイン型、平板型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0040】
また、電池を収納するケースは、大気開放型の電池ケースであっても良く、密閉型の電池ケースであっても良い。なお、大気開放型の電池ケースである場合は、大気が出入りできる通風口を有し、大気が上記空気極と接触可能な電池ケースである。一方、電池ケースが密閉型電池ケースとしては、密閉型電池ケースに、気体(空気)の供給管および排出管を設けることが好ましい。この場合、供給・排出する気体は、乾燥気体であることが好ましく、なかでも、酸素濃度が高いことが好ましく、純酸素(99.99%)であることがより好ましい。また、放電時には酸素濃度を高くし、充電時には酸素濃度を低くすることが好ましい。
【0041】
なお、本発明の電解液及び二次電池は、二次電池としての用途に好適ではあるが、一次電池として用いることを除外するものではない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0043】
本発明の電解液の有用性を実証するため、電解質としてナトリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(NaFSA)とリン酸トリメチル(TMP)を1:2(モル比)で混合した溶液を用いて、ハードカーボン電極の定電流充放電測定を行った。測定は、ハードカーボン電極と金属ナトリウム電極からなる2極式コインセルを用いて行った。温度は25℃、電圧範囲は2.5V〜0.01V、サイクル数は5、最大容量は500mAh/g、電流値はハードカーボン電極の重量を基準として25mA/gとした。得られた電圧・容量曲線を図1に示す。
【0044】
図1に示すように、ハードカーボン電極へのナトリウムイオンの挿入脱離に由来する容量が1V以下の領域で確認された。1サイクル目においては、部分的な電解液の還元分解によるハードカーボン電極表面への保護被膜の形成に由来する不可逆容量が約87mAh/g確認された。一方、2サイクル目以降は、不可逆容量が消滅し、ハードカーボンへの可逆的なナトリウムイオンの挿入・脱離反応が進行していることが分かる。この結果は、従来ナトリウム系電解液中で可逆性が低いとされていたハードカーボン電極は、当該電解液中では可逆的に進行することを実証するものである。
【0045】
比較例として、NaFSAとTMPの混合モル比を1:3とした電解液を用いた以外は同様の条件において、定電流充放電測定を行った結果を図2に示す。図2に示すように、ハードカーボン電極へのナトリウムイオンの挿入脱離に由来する容量が1V以下の領域で確認された一方で、モル比NaFSA:TMP=1:2の電解液においては観察されなかった1V付近の領域における電圧平坦部が1サイクル目に現れるとともに、1サイクル目の不可逆容量は約249mAh/gと大きく増加した。これは、電解液の還元分解などの副反応が大量に起こっていることを示すものであり、ナトリウム塩濃度を低下させると、反応可逆性が大きく低下することを実証するものである。
【0046】
比較例として、NaFSAとTMPの混合モル比を1:8とした電解液を用いた以外は同様の条件において、定電流充放電測定を行った結果を図3に示す。図3に示すように、1サイクル目においては、1V付近の領域において大きな電圧平坦部が観察され、最大容量として設定した500mAh/gの電気量を流した後も1V以下には下がらず、ハードカーボン電極へのナトリウムイオンの挿入はできなった。これは、電解液の還元分解などの副反応が継続的に起こっていることを示すものであり、ナトリウム塩濃度を更に低下させることで、副反応の量が大幅に増加することを示している。この結果より、NaFSA/TMP(モル比1:2)電解液を用いた場合に見られたハードカーボン電極の高い反応可逆性は、高濃度のナトリウム塩の存在に起因することが実証された。
【0047】
電解液組成が、ハードカーボン電極の反応可逆性に与える影響を調査するため、ハードカーボン電極と金属ナトリウム電極からなる2極式コインセルを構築し、100サイクルの定電流充放電サイクル試験を行った。電解質として、NaFSA/TMP電解液(モル比1:2、1:3、及び1:8)及び一般にナトリウム電池用電解液として用いられている1mol/L NaPF/エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)(溶媒混合比1:1(体積比))を用いた。温度は25℃、電圧範囲は2.5V〜0.01V,電流値はハードカーボン電極重量を基準として50mA/gとした。得られたサイクル数vs容量プロットを図4に示す。
【0048】
図4に示すように、ナトリウム電池用電解液として一般に用いられている1mol/L NaPF/EC:DMC(溶媒混合比1:1(体積比))を用いた場合、充放電サイクルを重ねるにつれて、容量が低下していく傾向が見られ、100サイクルに達する前に容量は0mAh/gとなった。次に、低濃度のNaFSA/TMP(モル比1:8)電解液を用いた場合、充放電サイクルを重ねるにつれて、容量が低下していく傾向が見られた。一方で、NaFSA/TMP(モル比1:3及び1:2)電解液を用いた場合は、充放電を100サイクル繰り返しても容量の減少は一切観察されなかった。したがって、本発明の電解液を使用することで、ナトリウム電池の長サイクル寿命化が可能となる。
【0049】
100サイクルまで容量劣化の見られなかったNaFSA/TMP(モル比1:3及び1:2)電解液を用いたハードカーボン/金属ナトリウムセルについて、反応可逆性を確認するため、クーロン効率を計算した。ここで、クーロン効率は、放電容量(ナトリウムイオン脱離容量)/充電容量(ナトリウムイオン挿入容量)で定義され、反応可逆性の指標となる。得られたサイクル数vsクーロン効率プロットを図5に示す。
【0050】
図5に示すように、電解液の還元分解などの副反応に由来する不可逆容量が含まれる初回数サイクル以降は、100サイクルまで99%以上のクーロン効率を維持していることが分かる。これは、本発明の電解液を用いることで、ナトリウム電池の充放電効率の向上が可能となることを示している。
【0051】
当該結果は、従来、充放電反応の可逆性に対して悪影響を与えるとされてきた難燃性有機溶媒であるTMPを単一溶媒として用いた場合でも、高濃度のNaFSA/TMP組成とすることによって、ハードカーボン負極を用いた電極構成の場合に反応可逆性を劇的に向上させることができることを示すものである。これにより、本発明の難溶性溶媒系の電解液が、安全性が高くかつ長寿命化等の優れた電池特性を有する二次電池を達成できることを実証するものである。
【0052】
以上、本発明の具体的態様を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。また、特許請求の範囲に記載の発明には、以上の例示した具体的態様を種々変更したものが含まれ得る。
図1
図2
図3
図4
図5