特許第6558742号(P6558742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許6558742アルデヒド化合物の製造方法およびアセタール化合物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558742
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】アルデヒド化合物の製造方法およびアセタール化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/59 20060101AFI20190805BHJP
   C07C 47/12 20060101ALI20190805BHJP
   C07D 317/12 20060101ALI20190805BHJP
   C07D 317/26 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C07C45/59
   C07C47/12
   C07D317/12CSP
   C07D317/26
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-566176(P2016-566176)
(86)(22)【出願日】2015年12月17日
(86)【国際出願番号】JP2015085384
(87)【国際公開番号】WO2016104332
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-261082(P2014-261082)
(32)【優先日】2014年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼田 拓大
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】細野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】源 直也
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−049373(JP,A)
【文献】 特開昭61−194043(JP,A)
【文献】 特開昭60−188341(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/085294(WO,A1)
【文献】 CUNY G. D. et al.,Practical, High-Yield, Regioselective, Rhodium-Catalyzed Hydroformylation of Functionalized α-Olefi,J. AM. CHEM. SOC.,1993年,Vol.115,pp.2066-2068
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/59
C07C 47/12
C07D 317/12
C07D 317/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すか、互いに連結して炭素数2〜6のアルキレン基を表す。)
で表される化合物を加水分解する工程を含む、3−メチルグルタルアルデヒドの製造方法。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】

(R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すか、互いに連結して炭素数2〜6のアルキレン基を表す)
で表される化合物をヒドロホルミル化して下記一般式(1)
【化3】

(R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すか、互いに連結して炭素数2〜6のアルキレン基を表す。)
で表される化合物を得る工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
3−メチル−3−ブテン−1−アールをアセタール化して下記一般式(2)
【化4】

(R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すか、互いに連結して炭素数2〜6のアルキレン基を表す)
で表される化合物を得る工程をさらに含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(3)で表される化合物。
【化5】

(Rは炭素数2、4から6の直鎖アルキレン基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−メチルグルタルアルデヒドの製造方法および新規アセタール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
3−メチルグルタルアルデヒド(3−メチル−1,5−ペンタンジアール、以下MGLと略する)は、感光材料用の硬化剤や皮革用なめし剤、合成中間体として有用な化合物である(例えば特許文献1から3参照)。MGLの製造方法としては、クロトンアルデヒドとメチルビニルエーテルのディールスアルダー反応により得られたピラニルエーテルを加水分解する方法が知られている(非特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−281342号公報
【特許文献2】ドイツ特許2137603号公報
【特許文献3】特開2009−102244号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Organic Syntheses,Vol.34,p.29(1954)
【非特許文献2】Organic Syntheses,Vol.34,p.71(1954)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来法ではクロトンアルデヒドとメチルビニルエーテルのディールスアルダー反応の反応性が低く、高温高圧の過酷な条件が必要であるとともに、MGLの収率が低いことから改善の余地があった。しかして、本発明の目的は、温和な条件で収率良くMGLを製造する方法、および当該方法の実施に有用な新規アセタール化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記した目的は、下記[1]〜[3]により達成される。
[1]下記一般式(1)
【0007】
【化1】
【0008】
(R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すか、互いに連結して炭素数2〜6のアルキレン基を表す。)
で表される化合物(以下、アセタール化合物(1)と称する。)を加水分解する工程を含む、3−メチルグルタルアルデヒドの製造方法。
[2]下記一般式(2)
【0009】
【化2】
【0010】
(R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表すか、互いに連結して炭素数2〜6のアルキレン基を表す。)
で表される化合物(以下、アセタール化合物(2)と称する。)をヒドロホルミル化してアセタール化合物(1)を得る工程をさらに含む、[1]の製造方法。
[3]下記一般式(3)で表される化合物(以下、アセタール化合物(3)と称する。)。
【0011】
【化3】
【0012】
(Rは炭素数2から6の直鎖アルキレン基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温和な条件で収率良くMGLを製造する方法、および当該方法の実施に有用な新規アセタール化合物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、アセタール化合物(1)の加水分解によりMGLを製造する。
アセタール化合物(1)は、好適にはアセタール化合物(2)のヒドロホルミル化反応により製造できる。
【0015】
アセタール化合物(1)およびアセタール化合物(2)において、R〜Rが表す炭素数1〜6のアルキル基は直鎖状でも分岐状でも環状でもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
また、RとR、RとRが互いに連結して形成するアルキレン基としては、例えばエチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−へキシレン基、2−メチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、2−メチル−n−プロピレン基、2,2−ジメチル−n−プロピレン基、3−メチル−n−ペンチレン基などが挙げられる。中でもエチレン基、n−プロピレン基、2−メチル−n−プロピレン基、2,2−ジメチル−n−プロピレン基、2−メチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基が好ましく、エチレン基、n−プロピレン基、2−メチル−n−プロピレン基、2,2−ジメチル−n−プロピレン基がより好ましく、エチレン基、n−プロピレン基が特に好ましい。
【0016】
(アセタール化合物(2)の製造)
アセタール化合物(2)の製造方法に制限はなく、例えば3−メチル−3−ブテン−1−アールを、上記したR〜Rに対応するアルコールの存在下でアセタール化する方法が挙げられる。ここで、用いる3−メチル−3−ブテン−1−アールは、例えば特表2007−525522号や国際特許公開08/037693号記載の方法に従い、イソプレノールから合成できる。
【0017】
アセタール化反応は無触媒でも進行するが、必要に応じて酸触媒を用いてもよい。用いる酸としては特に限定されず、例えば、硫酸、燐酸、硝酸、塩酸、ホウ酸などの無機酸およびその塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムなどの有機酸およびその塩;陽イオン交換樹脂、シリカアルミナ、ゼオライト、活性白土などの固体酸などが挙げられる。
上記した触媒の使用量は、使用する酸の種類や水の量により異なるが、塩酸を使用する場合の例を挙げれば、塩化水素分子換算で反応溶液の0.00001質量%〜10質量%の範囲で使用するのが好ましく、0.0001質量%〜5質量%の範囲がさらに好ましい。0.00001質量%未満では十分な反応速度が得られないことが多く、10質量%を超えて使用した場合は、中和する際の塩基の使用量が増えて後処理工程の負荷が増大する。
【0018】
アセタール化反応は、回分式、連続式いずれの方法でも実施可能である。また、3−メチル−3−ブテン−1−アールがアセタール化合物(2)に転化する際に生成する水を反応と同時に系外に抜き取る方式も採用することも出来る。反応後は、必要に応じて酸触媒を除去して次の反応に用いることもできるし、蒸留などの通常の精製方法で精製してもよい。
アセタール化合物(2)の中でも、製造が容易であることなどから、下記アセタール化合物(3)
【0019】
【化4】
【0020】
(Rは炭素数2から6の直鎖アルキレン基を表す。)
が特に好ましい。なお、かかるアセタール化合物(3)は新規化合物である。
【0021】
(アセタール化合物(1)の製造)
アセタール化合物(1)は、好適にはアセタール化合物(2)をヒドロホルミル化する方法により得られる。
ヒドロホルミル化反応は、アセタール化合物(2)を、第8〜10族金属化合物および必要に応じて配位子の存在下に、一酸化炭素および水素と反応させることによって行なう。
【0022】
上記第8〜10族金属化合物としては、例えばロジウム化合物、コバルト化合物、ルテニウム化合物、鉄化合物などが挙げられる。ロジウム化合物としては、例えばRh(acac)(CO)、Rh(acac)、RhCl(CO)(PPh、RhCl(PPh、RhBr(CO)(PPh、Rh(CO)12、Rh(CO)16などが挙げられる。コバルト化合物としては、例えばHCo(CO)、HCo(CO)、Co(CO)、HCo(CO)などが挙げられる。ルテニウム化合物としては、例えばRu(CO)(PPh、RuCl(PPh、RuCl(PPh、Ru(CO)12などが挙げられる。また、鉄化合物としては、例えばFe(CO)、Fe(CO)PPh、Fe(CO)(PPhなどが挙げられる。これらの中でも、比較的温和な反応条件を選択し易いロジウム化合物を使用するのが好ましく、入手容易性の観点からRh(acac)(CO)、Rh(acac)を使用するのが特に好ましい。
第8〜10族金属化合物の使用量は、反応混合液1リットルあたり、金属原子換算で0.0001〜100ミリモルの範囲であるのが好ましく、0.005〜10ミリモルの範囲であるのがより好ましい。第8〜10族金属化合物の使用量が、金属原子換算で反応混合液1リットルあたり0.0001ミリモル未満であると、反応速度が極めて遅くなる傾向にあり、また100ミリモルを超えてもそれに見合う効果が得られず、触媒コストが増大するのみである。
【0023】
用いる配位子としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。このような配位子の例としては、例えば、下記一般式(4)〜(6)で表される化合物や、ホスホロアミダイト(国際公開第03/018192号、国際公開第02/083695号、国際公開第04/026803号、国際公開第06/045597号、国際公開第03/06642号、国際公開第00/005641号、国際公開第99/65606号、国際公開第99/46044号)、特定の架橋構造を有するホスファイト(国際公開第95/00525号、国際公開第01/58589号)、特定の置換基を有するホスフィン(国際公開第03/053571号、国際公開第03/053572号、国際公開第09/059963号、国際公開第00/69801号)、ホスファベンゼン(国際公開第97/46507号、国際公開第00/55164号)、特定の架橋構造を有するホスフィン(国際公開第01/85661号)などを用いることができる。
具体的には、例えば特表2007−506691号の9〜40頁に記載の化合物を用いることができる。
配位子はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
【化5】
【0025】
(R〜Rはそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜24の炭化水素基を表し、互いに連結していてもよい。)
【0026】
【化6】
【0027】
(R〜R11はそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜24の炭化水素基を表し、互いに連結していてもよい。)
【0028】
【化7】
【0029】
(R12、R13、R15、R16はそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜40の炭化水素基を表し、R12とR13、R15とR16は互いに連結していてもよい。R14は炭素数1〜40の置換基を有してもよい炭化水素架橋基を表す。)
【0030】
上記一般式(4)および一般式(5)において、R〜R11がそれぞれ独立して表す置換基を有してもよい炭素数1から24の炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でも環状でもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロヘキシル基などのアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などのアリール基などが挙げられる。中でもフェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0031】
上記炭化水素基はヒドロホルミル化反応を阻害しない限りいかなる置換基を有していてもよく、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シリル基、アミノ基、アシル基、カルボキシ基、アシルオキシ基、アミド基、−SOM(ここでMは無機または有機カチオンを示す)などのイオン性基、スルホニル基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、フルオロアルキル基、ヒドロキシ基などが挙げられる。
【0032】
本発明で配位子として使用される一般式(4)で表される化合物としては、例えば、トリス(2−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−イソプロピルフェニル)ホスファイト、トリス(2−フェニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジ(2−メチルフェニル)(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジ(2−t−ブチルフェニル)(2−メチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられるが、これらに限定されない。中でもトリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが本発明を工業的に実施する上で好ましい。
【0033】
また、一般式(4)において、R〜Rが互いに連結している化合物の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
【0034】
【化8】
【0035】
本発明で配位子として使用される一般式(5)で表される化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン、トリ(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(p−フルオロフェニル)ホスフィン、トリ(p−クロルフェニル)ホスフィン、トリ(ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、プロピルジフェニルホスフィン、t−ブチルジフェニルホスフィン、n−ブチルジフェニルホスフィン、n−ヘキシルジフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリベンジルホスフィン、スルホン化トリフェニルホスフィン、(トリ−m−スルホニル)ホスフィン及び(m−スルホニル)ジフェニルホスフィンなどのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
一般式(4)、(5)で表される化合物のうち、エレクトロニックパラメーター(ElectronicParameter:ν−Values)が2080〜2090cm−1であり、かつステリックパラメーター(StericParameter:θ−Values)が135〜190°の範囲に含まれるものが好ましい。上記2種のパラメーターは、文献〔C.A.Tolman,Chem.Rev.,177,313(1977)〕の記載に従って定義された値であり、エレクトロニックパラメーターとはジクロロメタン中で測定されたNi(CO)L(Lはリン配位子)のCOのA1赤外吸収スペクトルの振動数で定義されるものであり、またステリックパラメーターとはリン原子の中心から2.28オングストロームの位置でリンに結合している基の最も外側にある原子のファンデルワールス半径を囲むように描いた円錐の頂角で定義されるものである。
【0037】
上記一般式(6)において、R12、R13、R15、R16がそれぞれ独立して表す置換基を有してもよい炭素数1〜40の炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でも環状でもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロヘキシル基などのアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などのアリール基が挙げられる。中でもフェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0038】
上記炭化水素基はヒドロホルミル化反応を阻害しない限りいかなる置換基を有していてもよく、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シリル基、アミノ基、アシル基、カルボキシ基、アシルオキシ基、アミド基、−SOM(ここでMは無機または有機カチオンを示す)などのイオン性基、スルホニル基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、フルオロアルキル基、ヒドロキシ基などが挙げられる。
【0039】
互いに連結したR12とR13、R15とR16、およびR14としては、例えばアルキレン基、シクロアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、下記一般式(7)で表される2価の架橋基などが挙げられる。
【0040】
【化9】
【0041】
(R17、R18はそれぞれ独立して置換基を有しても良い炭素数1〜6のアルキレン基を表し、Ar、Arはそれぞれ独立して置換基を有しても良いアリーレン基を表し、m、n、p、x、yはそれぞれ0または1を表し、Qは−CR1920−、−O−、−S−、−NR21−、−SiR2223−および−CO−から選択される二価の架橋基を示す。R19〜R23はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜12の置換基を有しても良いアルキル基、フェニル基、トリル基、アニシル基のいずれかを表す。)
【0042】
上記アルキレン基としては、例えばエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、下記式で示される基などが挙げられる。
【0043】
【化10】
【0044】
(式中、波線は連結部位を表す。)
【0045】
上記シクロアルキレン基としては、例えばシクロプロピレン基、1,2−シクロペンチレン基、1,3−シクロペンチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロへキシレン基、1,4−シクロへキシレン基などが挙げられる。
上記フェニレン基としては、例えば1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基などが挙げられる。
上記ナフチレン基としては、例えば1,2−ナフチレン基、1,8−ナフチレン基などが挙げられる。
【0046】
互いに連結したR12とR13、R15とR16、およびR14はいずれも置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などの好ましくは炭素数1〜5のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの好ましくは炭素数1〜4のアルコキシル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基などが挙げられる。
【0047】
一般式(7)において、R17、R18が表す置換基を有しても良い炭素数1〜6のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−へキシレン基、2−メチル−エチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、2−メチル−n−プロピレン基、2,2−ジメチル−n−プロピレン基、3−メチル−n−ペンチレン基などが挙げられる。Ar、Arが表すアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基などが挙げられる。R19〜R23が表す炭素数1〜12の置換基を有しても良いアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0048】
上記したR17〜R23およびAr、Arはヒドロホルミル化反応を阻害しない限りいかなる置換基を有していてもよく、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シリル基、アミノ基、アシル基、カルボキシ基、アシルオキシ基、アミド基、−SOM(ここでMは無機または有機カチオンを示す)などのイオン性基、スルホニル基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、フルオロアルキル基、ヒドロキシ基などが挙げられる。
【0049】
一般式(6)で表される化合物としては、例えば以下に示す化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0050】
【化11】
【0051】
【化12】
【0052】
【化13】
【0053】
【化14】
【0054】
【化15】
【0055】
【化16】
【0056】
【化17】
【0057】
【化18】
【0058】
上記した配位子の中でも、反応速度の観点から式(4)で表される化合物が特に好ましい。
【0059】
配位子の使用量に特に制限は無いが、第8〜10族金属化合物中の金属1モルに対して、配位子中の配位性原子換算で1〜1000モルの範囲であるのが好ましく、2〜500モルの範囲であるのがより好ましく、反応速度の観点からは3〜200モルの範囲であるのがさらに好ましい。配位子の使用量が第8〜10族金属化合物中の金属1モルに対して配位子中の配位性原子換算で2モル未満の場合、触媒の安定性が損なわれ、また1000モルを超える場合、反応速度が小さくなる傾向にある。
【0060】
ヒドロホルミル化反応は、溶媒の存在下または不存在下に行なうことができる。かかる溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサンなどの飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、キシレン、エチルトルエンなどの芳香族炭化水素;イソプロパノール、イソブタノール、イソペンタノール、ネオペンチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル;アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトンなどのケトンなどが挙げられる。これらの溶媒は1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、溶媒の使用量に特に制限はないが、反応混合液全体に対して、通常、1〜90質量%の範囲であるのが好ましい。
【0061】
ヒドロホルミル化反応における反応温度は40〜170℃の範囲であるのが好ましく、触媒失活を抑制する観点からは50〜150℃の範囲であるのがより好ましい。また反応圧力は、0.01〜15MPa(ゲージ圧)の範囲であるのが好ましく、0.5〜10MPa(ゲージ圧)の範囲であるのがより好ましい。反応時間は、通常、0.5〜20時間の範囲であり、0.5〜10時間の範囲であるのが好ましい。
【0062】
ヒドロホルミル化反応の実施方法に特に制限はなく、例えば一酸化炭素:水素=1:1(モル比)の混合ガスの存在下、アセタール化合物(2)を仕込み、攪拌しながら配位子、第8〜10族金属化合物および溶媒の混合溶液を供給し、所定温度、所定圧力で所定時間反応させる。
反応は、攪拌型反応槽、循環型反応槽、気泡塔型反応槽などを用いて、バッチ方式または連続方式で行うことができる。必要ならば、未反応のアセタール化合物(2)を反応後の反応液から回収し、反応器へ再循環しながら実施してもよい。連続方式は、単一反応器または直列もしくは並列の複数の反応器で実施することができる。
【0063】
上記方法により得られた反応混合液からのアセタール化合物(1)の分離・精製方法に特に制限はなく、通常の有機化合物の分離・精製に用いられる方法を適用できる。例えば、反応混合液から溶媒や塩基性物質などを減圧下で留去した後、残留物を減圧下に蒸留することで、高純度のアセタール化合物(1)を取得できる。また、かかる蒸留に先立ち、蒸発、抽出、吸着などの方法に付すことによって配位子および第8〜10族金属化合物を分離してもよい。分離した配位子および第8〜10族金属化合物は、再度ヒドロホルミル化反応に使用することができる。
【0064】
(MGLの製造)
次に、アセタール化合物(1)を加水分解することによりMGLを得る方法について説明する。MGLはアセタール化合物(1)と水を反応させることにより得ることができる。水との反応は無触媒でもよく、必要に応じて酸を触媒として用いてもよい。用いる酸としては特に限定されず、例えば、硫酸、燐酸、硝酸、塩酸、ホウ酸などの無機酸およびその塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムなどの有機酸およびその塩;陽イオン交換樹脂、シリカアルミナ、ゼオライト、活性白土などの固体酸などが挙げられる。
上記した酸の使用量は、使用する酸の種類や水の量により異なるが、塩酸を使用する場合の例を挙げれば、反応液の0.0001質量%〜10質量%の範囲で使用するのが好ましく、0.001質量%〜5質量%の範囲がさらに好ましい。0.0001質量%未満では十分な反応速度が得られないことが多く、10質量%を超えて使用した場合は、中和する際の塩基の使用量が増えて後処理工程の負荷が増大する。
【0065】
用いる水の量に特に制限は無いが、通常、アセタール化合物(1)に対して0.1〜10000質量倍であり、0.2〜5000質量倍であることが好ましく、0.3〜1000質量倍であることがより好ましい。0.1質量倍未満の場合は十分な収率が得られないことが多く、10000質量倍を超えて使用した場合は目的物の回収に必要なエネルギーが増大する傾向となる。
【0066】
反応は、溶媒の存在下または非存在下に行なうことができる。使用する溶媒に特に制限は無いが、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルテトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの脂肪族または芳香族炭化水素;アセトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトンなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。溶媒の使用量に特に制限は無い。
【0067】
反応時間に特に制限は無いが、通常5秒以上であり、1分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましい。反応温度について特に制限は無いが、通常−20℃から350℃であり、0℃から250℃であることが好ましく、10℃から100℃であることがより好ましい。
【0068】
上記方法により得られた反応混合液中のMGLは、必要に応じて分離・精製することができる。分離・精製方法に特に制限はなく、通常の有機化合物の分離・精製に用いられる方法を適用できる。例えば、反応混合液から溶媒や加水分解によって生成したアルコールなどを減圧下で留去した後、残留物を減圧下に蒸留することで高純度のMGLを取得できる。また、かかる蒸留に先立ち、中和、吸着、洗浄などの方法に付すことによって酸を除去してもよい。得られたMGLは、多量体化を避けるために必要に応じて水などの溶媒で希釈して保管することもできる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。
【0070】
(実施例1 化合物Aの合成)
【0071】
【化19】
【0072】
反応容器にシクロヘキサン1390g、エチレングリコール618.0g(9.96mol)、硫酸0.3g(3.1mmol)をとり、90℃に加熱した。生成する水を共沸脱水により系外に除去しながら3−メチル−3−ブテン−1−アール686.0g(8.16mol)を4時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃で1時間撹拌した後に、反応混合液を室温まで冷却し、ナトリウムメトキシドで中和した。得られた反応液から溶媒を減圧下に留去した後、蒸留精製することにより、目的とする化合物Aを969.0g得た(7.56mmol、収率92.6%)。
H−NMR(400MHz、CDCl、TMS)δ:1.805(s,3H)、2.382 (d,2H)、3.843−4.008(m,4H)、4.828(q,1H)、4.868(t,1H)、4.982(t,1H)
【0073】
(実施例2 化合物Bの合成)
【0074】
【化20】
【0075】
【化21】
【0076】
ビスホスファイトA1.08gおよびRh(acac)(CO)14.2mgをトルエン100mlに溶解させた溶液を調製した[ロジウム原子:リン原子=1:20(モル比)]。ガス導入口およびサンプリング口を備えた電磁攪拌式オートクレーブに、窒素雰囲気下、化合物A45mlおよび上記調製した触媒液10ml(反応系内のロジウム化合物濃度; 0.1mmol/L)を加え、オートクレーブ内を一酸化炭素:水素=1:1(モル比)の混合ガスで8MPa(ゲージ圧)とした後、攪拌しながらオートクレーブ内の温度を130℃に昇温し、4時間反応させた。なお、反応中は、一酸化炭素:水素=1:1(モル比)の混合ガスを常時供給し、反応系内の圧力を一定に保った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、化合物Aの転化率は90.0%、化合物Bの選択率は97.0%であった。
【0077】
(実施例3 化合物Bの合成)
ビスホスファイトAに代えてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト3.56gを用いてロジウム原子:リン原子=1:100(モル比)にし、反応時間を2時間とした以外は、実施例2と同様にして反応を実施した。化合物Aの転化率は99.2%、化合物Bの選択率は94.3%であった。
【0078】
(実施例4 化合物Bの合成)
ビスホスファイトAに代えてトリフェニルホスフィン1.44gを用いてロジウム原子:リン原子=1:100(モル比)にし、反応時間を3.5時間とした以外は、実施例2と同様にして反応を実施した。化合物Aの転化率は80.0%、化合物Bの選択率は94.1%であった。
【0079】
(実施例5 MGLの合成)
3つ口フラスコに1mol/Lの塩酸636.4mg(塩酸0.64mmol、23.3mg)、蒸留水600mlおよび化合物B100.8g(636.9mmol)を仕込み、窒素雰囲気下、60℃で3.5時間攪拌した。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、化合物Bの転化率は97.2%、MGLの選択率は99.8%であった。反応液を室温まで冷却した後、炭酸水素ナトリウムで中和し、酢酸エチル600mlで3回抽出した。得られた有機層を合わせて溶媒を減圧留去した後、蒸留精製することでMGL65.8g(576.4mmol、収率90.5%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明により得られる3−メチルグルタルアルデヒド(MGL)は、感光材料用の硬化剤や皮革用なめし剤、合成中間体として有用な化合物である。