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特許6558767ハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558767
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/40 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   C12P7/40
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-88736(P2015-88736)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-202093(P2016-202093A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年2月14日
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10995
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】松下 功
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓
(72)【発明者】
【氏名】河田 悦和
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−254863(JP,A)
【文献】 特開2004−283050(JP,A)
【文献】 特開平09−252790(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146920(WO,A1)
【文献】 特開2003−024048(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051499(WO,A1)
【文献】 FEMS Microbiol. Lett.,2007年,Vol.276, No.1 ,pp.26-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)および(2)を含むピルビン酸またはその塩の製造方法であって、
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、OD600値を30未満に維持する、培養液中の菌体濃度の制御を実施しながら培養する工程(1)及び
(2)工程(1)によって得られる培養液中から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程(2)であり、
前記培養液中の硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度を合計g/L以上に調整することによって前記の菌体濃度の制御を実施することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
以下の工程(1)および(2)を含むピルビン酸またはその塩の製造方法であって、
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、OD600値を30未満に維持する、培養液中の菌体濃度の制御を実施しながら培養する工程(1)及び
(2)工程(1)によって得られる培養液中から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程(2)であり、
前記培養液中のkLaを100〜500hr−1の範囲内に調整することによって前記の菌体濃度の制御を実施することを特徴とする、製造方法。
【請求項3】
培養温度を38〜45℃の範囲内に調整することによって前記の菌体濃度制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーのみならず、ケミカル・リファイナリーのバイオベース化、工業用原料の石油からバイオマスへの転換などが課題となっている。
【0003】
ピルビン酸は多くの生物の代謝における重要な化合物であり、いわゆる解糖系におけるグルコースの嫌気性代謝による生産物である。斯かる嫌気的代謝の過程でグルコース1分子がピルビン酸2分子へと分解され、これに続く好気的代謝の過程において、ピルビン酸はクレブス回路(TCA回路、クエン酸回路)として知られる一連の反応の主要な材料であるアセチル補酵素Aへと変換される。また、ピルビン酸は補充的反応によってオキサロ酢酸にも変換される。そしてオキサロ酢酸はクレブス回路中の中間体を補充し、糖新生にも使用される。
【0004】
ピルビン酸は、その反応性が高いことから医薬、農薬などの合成の基質といったファインケミカルにおける重要な中間体として用いられる。また、ピルビン酸は輸液、サプリメントなどへの応用も期待されている。
【0005】
従来、種々の発酵法を採用したピルビン酸の大量生産方法が開発されている。例えば、非特許文献1には、酵母(Torulopsis(Candida) glabrata)のビタミンB1、ビオチン、ビタミンB6、ナイアシン、および塩化ナトリウムの耐性変異株を用いた約82時間の培養により、対糖収率が0.635g/g程度で、94.3g/L程度の量のピルビン酸が製造できることが開示されている。これを生産速度に換算すると、約1.15g/L/hrとなる。
【0006】
例えば、非特許文献2には、aceEF、pfl、poxB、idhA::Kan、arcA726::FRT、およびatpFH::Camの変異が施された大腸菌ALS1059株を用いた約44時間の培養により、対糖収率が0.68g/g程度で、90g/L程度の量のピルビン酸が製造できることが開示されている。これを生産速度に換算すると、約2.05g/L/hrとなる。
【0007】
例えば、非特許文献3には、pflB、frdBC、ldhA、atpFH、adhE、sucA、ackA、およびpoxBの変異が施された大腸菌TC44株を用いた約43時間の培養により、対糖収率が0.76g/g程度で、52g/L程度の量のピルビン酸が製造できることが開示されている。これを生産速度に換算すると、約1.21g/L/hrとなる。
【0008】
例えば、非特許文献4には、lipA2およびAtpA401の変異が施されたリポ酸要求性株である大腸菌TBLA−1株を用いた約24時間の培養により、対糖収率が0.60g/g程度で、30g/L程度の量のピルビン酸が製造できることが開示されている。これを生産速度に換算すると、約1.25g/L/hrとなる。
【0009】
例えば、非特許文献5には、PDC陰性株である酵母(Saccharomyces serevisiae)を用いた約100時間の培養により、対糖収率が0.54g/g程度で、135g/L程度の量のピルビン酸が製造できることが開示されている。これを生産速度に換算すると、約1.35g/L/hrとなる。
【0010】
また、特許文献1には、ハロモナス属に属する好塩菌を用いた3−ヒドロキシブチレート(3ーHB)の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際特許公報2013/051499
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Crit Rev Biotechnol.(2013)Early online 1−10.
【非特許文献2】Appl Environ Microbiol.(2008)74,6649−55.
【非特許文献3】Proc Natl Acad Sci USA.(2004)101,2235−40.
【非特許文献4】Biosci Biotechnol Biochem.(1994)58,2164−7.
【非特許文献5】Appl Environ Microbiol.(2004)70,159−66.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述した通り、非特許文献1〜5には大腸菌または酵母などの微生物を用いた発酵法によるピルビン酸の製造方法が開示されている。しかしながら、これらの文献に記載される方法にて用いる菌株には種々の変異などによる形質の付与が施されているので、斯かる菌株の形質を維持またはその確認を行うのに多大な労力がかかる面で問題がある。
【0014】
また、大腸菌、または酵母などの微生物を発酵に用いるには、これらに遺伝子改変が施されているかどうかに関わらず、他の菌の混入を防ぐための抗生物質の投入やオートクレーブ処理などといった対策を取る必要があり、取り扱いには手間もコストもかかる。
【0015】
これらの問題点を考慮すると、培養時間当たりの収率に換算して約2.0g/L/hrをわずかに超える程度でピルビン酸が生産されているに過ぎない生産効率では、これらの製造方法が実際にピルビン酸の工業的大量生産に応用できる可能性があると判断するには至らない。
【0016】
一方、特許文献1には野生型のハロモナス属に属する好塩菌を用い、オートクレーブ処理などといった、コンタミネーションの発生に対する防止策を取ることなく、簡便な発酵法により3−HBを製造する方法が開示されている。しかしながら、ピルビン酸またはその塩については何ら言及されておらず、これらを製造する方法についての示唆も教示もない。
【0017】
従って、簡便且つ効率的であり、従って工業的大量生産に応用し得るピルビン酸またはその塩の製造方法の開発が望まれている。
【0018】
これらの従来技術に鑑み、本発明はピルビン酸またはその塩の簡便且つ効率的な製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ハロモナス属に属する好塩菌を培養液中の菌体濃度(OD600値)を特定の範囲に制御しながら培養することにより、優れた効率にてピルビン酸またはその塩を産生できることを見出した。
【0020】
また、培養液中の溶存酸素濃度を特定の範囲に制御することによっても、優れた効率にてピルビン酸またはその塩を産生できることを見出した。
【0021】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す広い態様の発明を包含するものである。
【0022】
〔項1〕以下の工程(1)および(2)を含むピルビン酸またはその塩の製造方法。
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、OD600値を30未満に維持する、培養液中の菌体濃度の制御を実施しながら培養する工程(1)。
(2)工程(1)によって得られる培養液中から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程(2)。
【0023】
〔項2〕前記培養液中の硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度を合計2g/L以上に調整することによって前記の菌体濃度の制御を実施する、上記項1に記載の製造方法。
【0024】
〔項3〕前記培養液中の酸素移動容量係数(kLa)を100〜500hr−1の範囲内に調整することによって前記の菌体濃度の制御を実施する、上記項1または項2に記載の製造方法。
【0025】
〔項4〕培養温度を38〜45℃の範囲内に調整することによって前記の菌体濃度の制御を実施する、上記項1〜項3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0026】
〔項5〕前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、上記項1〜項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0027】
〔項6〕以下の工程(A)および(B)を含むピルビン酸またはその塩の製造方法。
(A)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、酸素移動容量係数(kLa)を100〜500hr−1の範囲内に維持する、培養液中の溶存酸素濃度の制御を実施しながら培養する工程(A)。
(B)工程(A)によって得られる培養液中から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程(B)。
【0028】
〔項7〕前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、上記項6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ピルビン酸またはその塩の簡便且つ効率的な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】試験例1の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸は培養液中のOD600値およびグルコース濃度(g/L)を示し、横軸は培養開始からの時間(hr)を示す。
図2】試験例1の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸は培養液中のピルビン酸の濃度(g/L)を示し、横軸は培養開始からの時間(hr)を示す。
図3】試験例1の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸は培養液中の硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの濃度(g/L)を示し、横軸は培養開始からの時間(hr)を示す。
図4】試験例2の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸は培養液中のOD600値およびグルコース濃度(g/L)を示し、横軸は培養開始からの時間(hr)を示す。
図5】試験例2の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸は培養液中のピルビン酸の濃度(g/L)を示し、横軸は培養開始からの時間(hr)を示す。
図6】試験例2の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸はkLa(hr−1)を示し、横軸は攪拌回転数を示す。
図7】試験例3の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸は培養液中のOD600値およびグルコース濃度(g/L)を示し、横軸は培養開始からの時間(hr)を示す。
図8】試験例3の実験結果を示すグラフ。図中のグラフの縦軸は培養液中のピルビン酸の濃度(g/L)を示し、横軸は培養開始からの時間(hr)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のピルビン酸またはその塩の製造方法は、以下の工程(1)および(2)を含む。
【0032】
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、OD600値を30未満に維持する、培養液中の菌体濃度の制御を実施しながら培養する工程(1)。
(2)工程(1)によって得られる培養液中から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程(2)。
【0033】
工程1について
本発明の製造方法の工程1は、ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、OD600値を30未満に維持する、培養液中の菌体濃度の制御を実施しながら培養する工程である。
【0034】
<A:好塩菌>
工程1にて用いる好塩菌はハロモナス属に属する好塩菌である。当該好塩菌としては、下記の(i)または(ii)のいずれかに示す好塩菌を用いることができる。
【0035】
(i)無機塩と単一若しくは複数の有機炭素源を含む固体培地にて増殖し、ピルビン酸またはその塩を菌体外の培地中に生産させることを特徴とする好塩菌。
(ii)無機塩と単一若しくは複数の有機炭素源を含む液体培地にて増殖した後、ピルビン酸またはその塩を菌体外の培養液に分泌産生することを特徴とする好塩菌。
【0036】
なお、「無機塩」および「有機炭素源」については、<B:培地>の欄にて後述する。このようなハロモナス属に属する好塩菌は、酸化的代謝も嫌気的代謝も使い分けることができ、培地中の遊離酸素の存在の有無にかかわらず生存が可能で、且つ、遊離酸素の存在下のほうが生育し易い傾向となる、いわゆる、通性嫌気性菌の性質を有する菌体である。
【0037】
上述のハロモナス属に属する好塩菌は、0.1〜1.0M程度の範囲内の塩濃度を適とする好塩性を有し、時には塩を含まない培地においても生育する細菌である。そして、上述のハロモナス属に属する好塩菌は、通常はpH5〜12程度の範囲内の培地中にて生育する。
【0038】
このようなハロモナス属に属する好塩菌として、例えば、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株が挙げられる。ハロモナス・エスピーKM−1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に受託番号FERM P−21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP−10995である。当該ハロモナス・エスピーKM−1株の16S rRNA遺伝子は、DDBJにAccession Number AB477015として登録されている。
【0039】
また、上述のハロモナス属に属する好塩菌の生育特性などに鑑みて、工程1にて用いる好塩菌として、ハロモナス・エスピーKM−1株以外に、ハロモナス・パンテラリエンシス(Halomonas pantelleriensis:ATCC 700273)、ハロモナス・カンピサリス(Halomonas campisalis:ATCC 700597)、ハロモナス・メリディアナ(Halomonas meridiana:NBRC15608)なども挙げることができる。
【0040】
さらに、16SリボゾームRNA配列による分析から、上述のハロモナス属に属する好塩菌に限らず、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリア、ハロモナス・メリディアナなども、工程1にて用いるハロモナス属に属する好塩菌として採用してもよい。
【0041】
なお、上記ハロモナス属に属する好塩菌は、人為的および偶発的を問わず、遺伝子導入、変異導入などが施されていない野生型株であることが好ましいが、適宜これらの導入が施されていてもよい。導入される遺伝子および/または変異は、本発明の製造方法において、ピルビン酸またはその塩の生産効率などを向上させる機能を発現させるものであれば特に限定されない。例えば、ピルビン酸を産生する触媒活性を有する酵素をコードする遺伝子、ピルビン酸の該菌体外への分泌を上昇させる機能を発揮するタンパク質をコードする遺伝子;これらの遺伝子の発現を増大させる遺伝子などが挙げられる。これらの遺伝子の当該菌体への導入方法は、一般的な方法を採用することができる。
【0042】
<B:培地>
上記工程1にて用いる培地は、無機塩とおよび有機炭素源を含有する液体培地である。このような培地のpHは特に限定されない。例えば、上記好塩菌の生育条件を満たすpHであることが好ましく、具体的にはpH5〜12程度の範囲内にすることができる。より好ましくはpH8.8〜12程度である。アルカリ性の培地を用いれば、ハロモナス属に属する好塩菌以外の、他の菌の混入をより効果的に防止することがでる。また、ハロモナス属に属する好塩菌から分泌されたピルビン酸またはその塩によって生じるpHの大幅な低下を抑制するのでアルカリ性の培地を用いることは好ましい。
【0043】
工程1にて用いる培地に配合する無機塩は特に限定されない。例えばリン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩;ナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルトなどの金属塩などを採用することができる。
【0044】
例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩を無機塩として採用する場合であれば、NaCl、KNO、KNO、NaNO、NaNO、NaHCO、NaCO、NaHPO、NaHPO、KHPO、KHPOなどを用いることができる。
【0045】
これらの無機塩は、上記ハロモナス属に属する好塩菌にとって窒素源、リン源などとなるような化合物であることが好ましい。
【0046】
窒素源は、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、尿素などを用いればよく、特に限定はされない。例えばNaNO、NaNO、NHCl、尿素などの化合物を用いることができる。好ましくは、硝酸塩、亜硝酸塩などである。
【0047】
窒素源の使用量は、ピルビン酸またはその塩の生産目的が達成される範囲において適宜設定することができる。具体的には、培養初期の培地100ml当たり通常であれば硝酸塩として500mg程度以上とすればよく、より好ましくは1000mg程度以上、更に好ましくは1250mg程度以上である。
【0048】
リン源は、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩などを用いればよく、特に限定はされないが、例えばNaPO、NaHPO、NaHPO、KPO、KHPO、KHPOなどの化合物を用いることができる。
【0049】
リン源の使用量も、上記の窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよく、具体的には、リン酸二水素塩として培地100ml当たり通常は50〜400mg程度の範囲内とすればよく、より好ましくは100〜200mg程度である。
【0050】
これらの無機塩は単一で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
その他の化合物なども含めた無機塩は、総量で通常は0.1〜2.5M程度の範囲内となる濃度で用いればよく、好ましくは0.2〜1.0M程度、より好ましくは0.2〜0.5M程度である。
【0052】
工程1にて用いる培地に配合する有機炭素源は、特に限定はされない。例えばトリプトン、イーストエキストラクト、可溶性デンプン、エタノール、n−プロパノール、酢酸、酢酸ナトリウム、プロピオン酸、廃グリセロール、廃蜜糖、木材糖化液、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロースなどの六炭糖;リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボースなどの五炭糖;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオースなどの二糖;エリスリトール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコールなどが挙げられる。
【0053】
本発明の製造方法では、塩濃度が比較的高い条件の培地で、ハロモナス属に属する好塩菌を好適に培養できるので、他の菌体の混入、増殖の恐れなどをほとんど排除できる。したがって、上述の培地に対して滅菌処理などを行わずに、簡便な設備で培養することが可能である。
【0054】
<C:培養方法>
上記工程1における上記ハロモナス属に属する好塩菌の培養方法は、OD600値を30未満に維持するように、菌体濃度を制御しながら培養する方法である。このようなOD600値となるように、好気培養、微好気培養、または嫌気培養を適宜選択することができる。好ましくは好気培養である。なお、OD600値の測定方法は、市販の分光光度計を用いて測定することができる。
【0055】
具体的な培養方法の一例を以下に示す。先ず、5ml程度の適当な培地に上記好塩菌を植菌し、通常は30〜37℃程度、攪拌速度は120〜180rpm程度で1晩振盪しながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンターなどに入った上記<B:培地>にて詳述する培地中に100倍程度に希釈し本培養(本明細書での培養に相当する。)する。
【0056】
本培養では、培養液中のOD600値を30未満に維持することに鑑みて、培養液中の硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度の合計を2g/L程度以上に調節する手段を採用することが好ましい。より好ましくは5g/L程度以上である。このような調節方法は、例えば培養液中に窒素源を添加すれば実施できる。窒素源は、上記<B:培地>にて説明したものを適宜採用することができるが、硝酸塩を採用することが好ましい。
【0057】
なお、培養液中の硝酸イオンおよび/または亜硝酸イオンの濃度の測定は、下記の実施例に示す方法を採用して測定する。
【0058】
培養液中のOD600値を30未満に維持する他の手段として、培養液の酸素移動容量係数(kLa)を100〜500hr−1程度の範囲内に制御する手段が挙げられる。OD600値を30未満に維持することに鑑みると、100〜250hr−1程度の範囲内に制御することが好ましい。
【0059】
kLaの測定方法は、下記の実施例に示す方法を採用して、各種攪拌回転数をサンプルにして測定する。
【0060】
上記の本培養は、通常は20〜45℃程度の範囲内で設定することができる。OD600値を30未満に維持することに鑑みて、38℃〜45℃程度の範囲内とすることが好ましい。更に好ましくは38℃〜44℃程度、38℃〜43℃程度、38℃〜42℃程度、38℃〜41℃程度であり、38℃〜40℃程度が最も好ましい。
【0061】
工程1での培養の方法としては、回分培養、半回分培養、流加培養、連続培養などの培養方法が挙げられ、特に限定はされないが、本発明の方法では他の菌が混入、及び増殖の危険性が極めて低いので、長期の連続培養も採用可能である。これはピルビン酸またはその塩を効率よく製造できる点で好ましい。
【0062】
具体的には、培養液中のOD600値を30未満に維持しながら、例えばグルコースなどといった上記有機炭素源の量をモニターし、必要に応じて有機炭素源の培養液中への追加、下記工程2に示す培養液中からのピルビン酸またはその塩の回収を行うことによって長期の連続培養を行うことが可能である。また、培養液中には、上記有機炭素源のみならず、無機塩、ハロモナス属に属する好塩菌;水、緩衝液などの液体を適宜追加してもよい。
【0063】
工程2について
本発明の製造方法の工程2は、上記工程1によって得られた培養液から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程である。
【0064】
当該回収は、慣用の方法で実施すればよい。具体的には、例えば、回分培養等の場合、上記工程1によって得られる培養液中にピルビン酸またはその塩が存在している時に工程1の培養を停止し、ピルビン酸またはその塩を含む培養液と、上記好塩菌体を固液分離手段に供して、培養液を得ることによって実施できる。
【0065】
なお、分離した菌体内からは、特許文献1などに記載の手法に従い、バイオポリマーPHB、3−ヒドロキシ酪酸などを回収することも可能である。
【0066】
具体的な分離の手法は、遠心操作、濾過、膜分離などの公知の固液分離の操作を採用することができる。また、培養の停止方法も特に限定はされず、例えば、上記工程1によって得られるハロモナス属に属する好塩菌を加熱、酸処理などの方法によって殺菌する方法、遠心操作、濾過、膜分離などの公知の固液分離の手段を適宜組み合わせながら、培養液と前記好塩菌体を分離する方法を採用することができる。
【0067】
培養液中のピルビン酸またはその塩の存在を確認する方法は、菌種、培地成分、培養条件などにより変わり得るものであり、これらの要素を考慮して適宜決定する。例えば、継時的に培養液を採取し、これをHPLC、分析キットなどによる分析方法を供して、培養を停止するのに好ましい時期を決定することもできる。
【0068】
また、ピルビン酸は酸性を示す化合物であることから、培養液のpHを継時的にモニタリングしながら、培養の際の培地のpHの低下を指標にして、ピルビン酸の存在を確認してもよい。
【0069】
なお、回収されるピルビン酸の塩は、培養液中に含まれる無機塩に基づくナトリウム、カルシウムなどのアルカリ金属;アルカリ土類金属などの陽イオンと反応したアルカリ金属塩として回収されることがある。したがって、ピルビン酸を製造するためには、回収した培養液を塩析などの常法に供してもよい。
【0070】
また、回収した培養液を適切なカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによって精製工程に供してもよい。これら以外の他の方法として、回収した培養液のpHを適宜変更して、所望のピルビン酸またはその塩のいずれかを精製工程に供してもよい。
【0071】
本発明のピルビン酸またはその塩の製造方法は、以下の工程(A)および(B)を含む他の態様も包含する。
【0072】
(A)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、酸素移動容量係数(kLa)を100〜500hr−1の範囲内に維持する、培養液中の溶存酸素濃度の制御を実施しながら培養する工程(A)。
(B)工程(A)によって得られる培養液中から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程(B)。
【0073】
工程(A)について
工程Aはハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、kLaを100〜500hr−1程度の範囲内に維持する、培養液中の溶存酸素濃度の制御を実施しながら培養する工程である。より効率的なピルビン酸の製造方法を提供することに鑑みると、kLaを300〜500hr−1程度の範囲内に維持することが好ましい。
【0074】
このような範囲のkLaとなるように、好気培養、微好気培養、または嫌気培養を適宜選択することができる。好ましくは好気培養である。なお、kLaの測定方法は、上記<C:培養方法>にて詳述したとおりとする。すなわち、具体的なkLaの調整方法として、培養スケールを考慮しながら攪拌回転数の調整を挙げることができる。
【0075】
具体的な培養方法は、上記<C:培養方法>にて詳述したように、前培養にて得られた好塩菌を本培養に供することができる。
【0076】
なお、好塩菌および培地は、それぞれ上記工程1にて詳述した<A:好塩菌>および<B:培地>に記載の通りとすることができる。
【0077】
工程(B)について
本発明の工程Bは、上記工程Aによって得られる培養液中から、ピルビン酸またはその塩を回収する工程である。工程Bは上記工程2と同様にすることができる。
【0078】
本発明の製造方法によれば、培養液中の菌体濃度および/または溶存酸素濃度を制御するだけで、高効率にピルビン酸またはその塩を得ることができる。
【0079】
本発明の製造方法によれば、培養液中からピルビン酸またはその塩を回収することができるので、簡便な精製方法に供して純度の高いピルビン酸またはその塩を得ることができる。
【0080】
本発明の製造方法では、コンタミネーションへの配慮も、培養環境を滅菌状態に保つための配慮もほとんど必要ないため、安価で簡便にピルビン酸またはその塩を得ることができる。
【実施例】
【0081】
以下に、本発明をより詳細に説明するための実施例を示す。なお、本発明が下記に示す実施例に限定されないのは言うまでもない。
【0082】
<培地>
下記の試験例にて用いるSOT改5培地は、特許文献1に記載されたものである。具体的には表1に示す組成である。なお、窒素源である硝酸ナトリウムの濃度、種類は適宜変更した。
【0083】
【表1】
【0084】
<試験例1>過剰量の窒素源添加によってOD600値を制御する方法
プレ培養した60mlのハロモナス属に属する好塩菌KM−1株を、3L容のジャーファーメンターに入れたグルコース150gおよび18.8g硝酸ナトリウムを含むSOT改5培地1.5Lに混合して植菌した。
【0085】
これを37℃、pH8.5で撹拌速度を800rpmとなる条件にて培養を開始し、開始1時間後から通常量の34%硝酸ナトリウム74mL(1×N)、通常の2倍量となる34%硝酸ナトリウム148mL(2×N)、あるいは通常の4倍量となる45%硝酸ナトリウム222mL(4×N)を24時間一定の速度で連続的に添加する3種類の流加条件にて流加培養を行った。
【0086】
培養開始5時間後から60%グルコース300mLを10時間一定の速度で連続的に添加した。
【0087】
おおよそ1.5時間おきに培養液を5mlずつ回収して、培養液のOD600値、培養上清中のグルコース、ピルビン酸、およびピルビン酸塩の量を測定した。上記3条件におけるOD600値およびグルコース濃度を図1に、そして培養液中のピルビン酸濃度を図2に示した。
【0088】
通常量の硝酸ナトリウム流加条件(1×N)では、培養開始から約30時間経過するとOD600値が180程度まで上昇したのに対し、通常の2倍量(2×N)および4倍量(4×N)の硝酸ナトリウム流加条件では、OD600値はともに培養開始から約10時間を超えると20程度まで達したが、それ以降はほぼ頭打ちとなり約45時間まで大きな変化は観察されなかった。
【0089】
ピルビン酸濃度について、1×Nの条件では培養開始から約30時間経過しても10g/L程度以下に抑制されたのに対して、2×Nの条件では、培養開始から約24時間経過後で41g/L程度、約45時間経過後で65g/L程度であり、4×Nの条件では、培養開始から約24時間経過後で54g/L程度、約36時間経過後で66g/L程度の濃度に達した。
【0090】
これらの2×Nおよび4×Nの条件では生産速度に換算して約1.44〜2.25g/L/hrでピルビン酸が産生することが明らかとなった。
【0091】
以上の結果から、培養液中のOD600値を30未満に維持しながら培養することによって、高効率にピルビン酸又はその塩を培養液中に産生させることができることが明らかとなった。
【0092】
なお、上記3条件における培養液中の硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度を測定した結果を図3に示す。両イオン濃度はShim-pack IC-SA2カラム(島津製作所製)および吸光度検出器(210 nm)を装備したHPLC(島津製作所製)を用いて測定した。
【0093】
ここで、2×Nおよび4×Nの条件では、共に培養開始から約5時間以降で硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度の合算値が5g/L程度以上を維持していることが明らかとなった。一方で、1×Nの条件では、培養開始から約5時間以降で硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度の合算値が減少しはじめ、約9時間経過後には約5g/Lを割り、そのまま約10時間以降では両イオンとも培養液中では検出されなかった。
【0094】
したがって、効率よくピルビン酸を製造するために、培養液中の菌体濃度をOD600値を30未満に維持しながら培養するには、培養液中の硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度を合計2g/L程度以上に調整とすればよいことが明らかとなった。
【0095】
<試験例2>攪拌回転数を制限することによってOD600値を制御する方法
プレ培養した60mlのハロモナス属に属する好塩菌KM−1株を、3L容のジャーファーメンターに入れたグルコース150gおよび18.8g硝酸ナトリウムを含むSOT改5培地1.5Lに混合して植菌した。
【0096】
これを37℃およびpH8.5で、それぞれ500rpm、650rpm、または800rpmとなる3種類の異なる攪拌回転数の条件にて培養を開始し、いずれの3条件の培養液に対しても開始1時間後から34%硝酸ナトリウム74mLを24時間一定の速度で連続的に添加しながら流加培養を行った。
【0097】
培養開始5時間後から60%グルコース300mLを10時間一定の速度で連続的に添加した。
【0098】
おおよそ1.5時間おきに培養液を5mlずつ回収して、培養液のOD600値、培養上清中のグルコース、ピルビン酸、およびピルビン酸塩の量を測定した。上記3条件におけるOD600値、グルコース濃度を図4に、そしてピルビン酸濃度を図5に示した。
【0099】
攪拌回転数500rpmの培養条件では培養開始から、約40時間が経過してもOD600値が30以下に抑制されたのに対し、650rpmの培養条件では培養開始から約40時間後にはOD600値が110程度に、そして800rpmの培養条件では培養開始から約30時間後にはOD600値が180程度まで上昇した。なお、650rpmの培養条件では培養開始から約21時間まではOD600値が30未満で維持されていることが確認できる。
【0100】
ピルビン酸濃度について、攪拌回転数が800rpmの培養条件では培養時間が約30時間以上経過しても10g/L程度以下に抑制されたのに対し、500rpmの培養条件では培養開始から約33時間後には30g/L程度、そして650rpmの培養条件では培養開始から約33時間後には60g/L程度の濃度に達した。
【0101】
以上の結果から、培養液中のOD600値を30未満に維持しながら培養することによって、ピルビン酸又はその塩を高効率に培養液中に産生させることができることが明らかとなった。
【0102】
<酸素移動容量係数>
上記の撹拌回転数によって、培養液内の溶存酸素濃度がどのように制御されているのか、または培養液中のOD600値との関係が存在するのかを調べるために、別途、各撹拌回転数に相当する酸素移動容量係数(kLa)を算出するための実験を行った。
【0103】
Biotechnology and Bioengineering Vol.XXIX,p.982−93(1987)に記載の方法にしたがってkLaを求めた。
【0104】
具体的には、溶存酸素(DO)電極(ABLE社製)を装着した通気攪拌式の培養装置(ABLE社製、3L容量;本実験例で使用するジャーファメンターと同じスケールに相当する。)に、1.5Lの水を入れ、これに対して0.275mg/Lの濃度となるように触媒として硫酸コバルトを添加した。槽内圧力を大気圧になるように開放した状態にしておき、通気量は1vvmで固定し、25.2%(200mol/m)亜硫酸ナトリウム水溶液を添加ポンプにより一定流速で槽内に連続的に添加し500rpm、650rpm、800rpm、および1000rpmの各攪拌回転数において、DO値(%)を測定した。DO値(%)が安定するように添加流量(mL/min)の調整を行った。安定したDO値(%)、およびその時点の添加流量(mL/min)を記録し、以下の式に代入してkLa(1/hr)を算出した。
【0105】
【数1】
【0106】
Q:亜硫酸ナトリウム水溶液添加流量(mL/min)
VL:仕込み量(L)
CAs:溶存酸素濃度(mol/m
CBF:亜硫酸ナトリウム水溶液濃度(mol/m
CAi:溶存酸素平衡濃度(mol/m;0.238)
kLa:酸素移動容量係数(1/hr)。
【0107】
縦軸にkLaおよび横軸に撹拌回転数をプロットした結果を図6に示す。
【0108】
図6に示すように、kLaと撹拌回転数との間には一次相関が存在することが明らかとなり(kLa〔hr−1〕=1.4668×〔回転数:rpm〕−529.43)、R値は0.9972であった。
【0109】
上述のように500rpmおよび650rpmの攪拌回転数とすれば、培養液中の菌体濃度をOD600値として30未満に制御できることから、効率よくピルビン酸を製造するには、kLaを100〜500hr−1程度の範囲内、特に100〜250hr−1程度の範囲内に調整すればよいことが明らかとなった。
【0110】
また、60g/L程度の濃度でのピルビン酸の産生が確認できている、650rpmの攪拌回転数条件は、300〜500hr−1程度の範囲のkLaに相当することから、培養液中の菌体濃度の制御に関わらず、特に300〜500hr−1程度の範囲内のkLaに溶存酸素濃度を調整することによっても、効率よくピルビン酸を製造することができることも明らかとなった。
【0111】
<試験例3>培養温度でOD600値を制御する方法
プレ培養した各種ハロモナス属に属する好塩性菌体60mlを、3L容のジャーファーメンターに入れたグルコース225gおよび18.8g硝酸ナトリウムを含む1.5LのSOT改5培地に混合して植菌した。
【0112】
これを37℃または40℃の温度条件で、ともにpH8.5で撹拌速度1000rpmの条件にて培養を開始し、開始1時間後から45%硝酸ナトリウム222mLを24時間一定の速度で連続的に添加しながら流加培養を行った。
【0113】
1.5時間おきに培養液を5mlずつ回収して、培養液のOD、上清中のグルコース、ピルビン酸、またはピルビン酸塩の量を測定した。上記2条件におけるOD値およびグルコース濃度を図7に、そしてピルビン酸濃度を図8に示した。
【0114】
培養温度40℃では培養開始後29時間が経過してもOD600値は20程度に抑制されたのに対し、37℃では培養開始後24時間でOD600値が約140まで上昇した。ピルビン酸濃度については、37℃では培養開始後25時間以上経過してもピルビン酸はまったく検出されなかったのに対し、40℃では培養開始後23時間で約24g/Lの濃度に達した。
【0115】
以上の結果から、培養液中のOD600値を30未満に維持しながら培養することによって、ピルビン酸又はその塩を高効率に培養液中に産生させることができることが明らかとなった。
【0116】
また、培養液中のOD600値を30未満に維持するには、培養温度を40℃付近に設定すればよいことも明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8