特許第6559715号(P6559715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559715
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/35 20180101AFI20190805BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20190805BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20190805BHJP
   C09J 129/14 20060101ALI20190805BHJP
   C09J 123/14 20060101ALI20190805BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20190805BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190805BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20190805BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20190805BHJP
   B29C 51/12 20060101ALI20190805BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20190805BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20190805BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20190805BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20190805BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20190805BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C09J7/35
   C09J7/24
   C09J153/02
   C09J129/14
   C09J123/14
   B32B25/08
   B32B27/00 E
   B32B27/00 M
   B32B27/00 104
   B32B27/20 A
   B32B27/30 A
   B29C51/12
   B29C51/14
   C08L33/12
   C08L53/00
   C08L53/02
   C08L29/14
   C08L23/26
【請求項の数】16
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2016-572144(P2016-572144)
(86)(22)【出願日】2016年1月28日
(86)【国際出願番号】JP2016052489
(87)【国際公開番号】WO2016121868
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2018年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-14313(P2015-14313)
(32)【優先日】2015年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川北 展史
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴理博
(72)【発明者】
【氏名】武田 英明
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/105392(WO,A1)
【文献】 特開2005−111765(JP,A)
【文献】 特開2000−185333(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/167868(WO,A1)
【文献】 特開2009−113385(JP,A)
【文献】 特開2012−77177(JP,A)
【文献】 特開2012−139826(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/095081(WO,A1)
【文献】 特開2014−168940(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026501(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2677013(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00−7/50
C09J 123/10
C09J 129/14
C09J 153/02
B32B 1/00−43/00
B29C 51/10
B29K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110〜160℃の任意の温度における弾性率が2〜600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上である多層フィルム。
【請求項2】
前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2−結合量および3,4−結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、
熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10〜100質量部を含有する、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記基材層における非晶性樹脂は、メタクリル系樹脂(F)および弾性体(R)を含むアクリル系樹脂からなり、
メタクリル系樹脂(F)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を80質量%以上有し、
メタクリル系樹脂(F)と弾性体(R)との合計100質量部に対して、メタクリル系樹脂(F)が10〜99質量部であり、弾性体(R)が90〜1質量部である、請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記弾性体(R)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含むメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステルに由来する構造単位を含むアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を其々独立に、一分子中に1又は複数有し、かつ、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を10〜80質量%、アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を90〜20質量%の割合で含み、
メタクリル系樹脂(F)の重量平均分子量Mw(F)、ブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量Mw(g1−total)、およびブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量Mw(g2−total)としたときに、
(1) 0.3≦Mw(F)/Mw(g1−total)≦4.0
(2) 30,000≦Mw(g2−total)≦140,000
である、請求項3に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)が、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位50〜90質量%および(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位50〜10質量%を含む、請求項4に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記弾性体(R)が、メタクリル酸メチル80質量%以上を含む外層(e1)ならびにアクリル酸アルキルエステル70〜99.8質量および架橋性単量体0.2〜30質量%を含む内層(e2)を少なくとも有する多層構造体(E)である、請求項3に記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記熱可塑性重合体組成物がさらに、極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)(但し、前記極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)とは異なる)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項8】
加飾フィルムである、請求項1〜7のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項9】
前記基材層が、非晶性樹脂100質量部に対して着色剤1〜10質量部を混合してなる、請求項1〜8のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項10】
前記接着層の厚さに対する前記基材層の厚さの比が0.2〜5の範囲である、請求項1〜9のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項11】
全厚さが1000μm未満である、請求項1〜10のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項12】
前記基材層側の鉛筆硬度がHB以上である、請求項1〜11に記載の多層フィルム。
【請求項13】
芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物ならびに110〜160℃の任意の温度における弾性率が2〜600MPaである非晶性樹脂を共押出しする、請求項1に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の多層フィルムおよび被着体を有する成形体。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の多層フィルムおよび被着体をチャンバーボックスに収容する工程;
前記チャンバーボックス内を減圧する工程;
前記多層フィルムにより前記チャンバーボックス内を二分する工程;および
前記被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力を前記被着体を有する方のチャンバーボックス内の圧力よりも高くして前記被着体を前記多層フィルムで被覆する工程;
を有する成形体の製造方法。
【請求項16】
前記多層フィルムを110〜160℃の範囲まで加熱して軟化させる工程をさらに有する、請求項15に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着層を有する多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、電子部品、機械部品、自動車部品などの様々な用途で耐久性、耐熱性、機械強度に優れたセラミックス、金属、合成樹脂などの部材が幅広く使用されている。これらの部材は家電製品の外装・壁紙、自動車の内装などの用途において、木目調などの絵柄による加飾、メタリック調やピアノブラック調などの意匠性付与および耐傷つき性や耐候性などの機能性付与を目的として、加飾フィルムを接着されて用いられることが多い。
【0003】
三次元形状を有する被着体に加飾フィルムを接着する方法として、例えば加飾フィルムを金型内に設置して射出成形するフィルムインサート成形法が用いられる。この方法では金型形状に合うよう加飾フィルムを事前にプレス賦形する必要があり、また金属や熱硬化性樹脂などからなる被着体への適用が困難である。係る問題を解決する他の加飾方法として三次元表面加飾成形などの真空成形が挙げられるものの、この方法では接着剤を塗布する必要があり、生産性に課題がある。
【0004】
係る課題を解決する為、例えば特許文献1では熱可塑性重合体組成物からなり、接着性を有するフィルムおよび該フィルムをインサート成形に用いる成形体の製造方法が提案されている。しかしながら、係るフィルムを有する成形体は真空成形において三次元形状への追従性が非常に悪く、破断や皺などを生じる問題があった。
【0005】
そこで、例えば特許文献2ではブロック共重合体およびメタクリル系樹脂を含有するメタクリル系樹脂組成物からなるフィルムならびにアクリル系ブロック共重合体からなるフィルムを有する複層フィルムが提案され、ブロック共重合体の含有によるアクリルフィルムの靭性向上が報告されている。しかしながら、係る複層フィルムは非極性樹脂に対する接着性が低いという課題があった。
【0006】
また、特許文献3には、アクリル酸アルキルエステル重合体の架橋粒子の存在下でメタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルを共重合してなるコア−シェル型粒子を、メタクリル系樹脂に配合してなるアクリル系樹脂フィルムが提案されている。
【0007】
しかしながら、更なる透明性、表面硬度、表面平滑性、延伸性に優れかつ加熱による白化が小さいアクリル系樹脂フィルムが求められている。とくに、三次元曲面の表面を有する物品に対して被覆成形性がよく成形加工が行いやすいフィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−168940号公報
【特許文献2】特開2012−213911号公報
【特許文献3】特公昭56−27378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、接着層を有し、広い温度範囲で破断や皺がなく簡便に被着体に接着でき、三次元被覆成形性および三次元被覆成形後の接着性に優れる真空成形に好適な多層フィルム、該多層フィルムの製造方法および該多層フィルムを用いる成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、前記の目的は、
[1] 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110〜160℃の任意の温度における弾性率が2〜600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上である多層フィルム、
[2] 前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2−結合量および3,4−結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、
熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10〜100質量部を含有する、[1]の多層フィルム、
[3] 前記基材層における非晶性樹脂は、メタクリル系樹脂(F)および弾性体(R)を含むアクリル系樹脂からなり、
メタクリル系樹脂(F)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を80質量%以上有し、
メタクリル系樹脂(F)と弾性体(R)との合計100質量部に対して、メタクリル系樹脂(F)が10〜99質量部であり、弾性体(R)が90〜1質量部である、[1]または[2]の多層フィルム、
[4] 前記弾性体(R)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含むメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステルに由来する構造単位を含むアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を其々独立に、一分子中に1又は複数有し、かつ、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を10〜80質量%、アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を90〜20質量%の割合で含み、
メタクリル系樹脂(F)の重量平均分子量Mw(F)、ブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量Mw(g1−total)、およびブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量Mw(g2−total)としたときに、
(1) 0.3≦Mw(F)/Mw(g1−total)≦4.0
(2) 30,000≦Mw(g2−total)≦140,000
である、[3]の多層フィルム、
[5] 前記アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)が、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位50〜90質量%および(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位50〜10質量%を含む、[4]の多層フィルム、
[6] 前記弾性体(R)が、メタクリル酸メチル80質量%以上を含む外層(e1)ならびにアクリル酸アルキルエステル70〜99.8質量および架橋性単量体0.2〜30質量%を含む内層(e2)を少なくとも有する多層構造体(E)である、[3]の多層フィルム、
[7] 前記熱可塑性重合体組成物がさらに、極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)(但し、前記極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)とは異なる)を含む、[1]〜[6]のいずれかの多層フィルム、
[8] 加飾フィルムである、[1]〜[7]のいずれかの多層フィルム、
[9] 前記基材層が、非晶性樹脂100質量部に対して着色剤1〜10質量部を混合してなる、[1]〜[8]のいずれかの多層フィルム、
[10] 前記接着層の厚さに対する前記基材層の厚さの比が0.2〜5の範囲である、[1]〜[9]のいずれかの多層フィルム、
[11] 全厚さが1000μm未満である、[1]〜[10]のいずれかの多層フィルム、
[12] 前記基材層側の鉛筆硬度がHB以上である、[1]〜[11]の多層フィルム、
[13] 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物ならびに110〜160℃の任意の温度における弾性率が2〜600MPaである非晶性樹脂を共押出しする、[1]の多層フィルムの製造方法、
[14] [1]〜[12]のいずれかの多層フィルムおよび被着体を有する成形体、
[15] [1]〜[12]のいずれかの多層フィルムおよび被着体をチャンバーボックスに収容する工程;
前記チャンバーボックス内を減圧する工程;
前記多層フィルムにより前記チャンバーボックス内を二分する工程;および
前記被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力を前記被着体を有する方のチャンバーボックス内の圧力よりも高くして前記被着体を前記多層フィルムで被覆する工程;
を有する成形体の製造方法、
[16] 前記多層フィルムを110〜160℃の範囲まで加熱して軟化させる工程をさらに有する、[15]の成形体の製造方法、
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層フィルムは三次元被覆成形性および三次元被覆成形後の接着性に優れ、広い温度範囲で破断や皺がなく簡便に被着体に接着できるため、意匠性を要求される製品の加飾に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多層フィルムは接着層および基材層を有する。接着層を構成する熱可塑性重合体組成物は熱可塑性エラストマー(A)を含有する。熱可塑性エラストマー(A)は芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる。
【0013】
芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上からなっていてもよい。中でも流動性の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンが好ましい。
【0014】
芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)は、芳香族ビニル化合物単位を好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含有する。芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)は芳香族ビニル化合物単位と共に他の共重合性単量体単位を有していてもよい。係る他の共重合性単量体としては、例えば1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、ブタジエン、イソプレン、メチルビニルエーテルなどが挙げられる。芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)が他の共重合性単量体単位を有する場合、その割合は芳香族ビニル化合物単位および他の共重合性単量体単位の合計量に対して好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0015】
共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を構成する共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上からなっていてもよい。中でもブタジエンおよび/またはイソプレンに由来する構造単位が好ましく、ブタジエンおよびイソプレンに由来する構造単位からなることが好ましい。
【0016】
共役ジエン化合物単位の結合形態は特に制限されず、例えばブタジエンの場合には1,2−結合および1,4−結合を、イソプレンの場合には1,2−結合、3,4−結合および1,4−結合をとることができる。共役ジエン化合物単位からなる重合体ブロック(a2)において、1,2−結合、3,4−結合および1,4−結合の量の和に対する1,2−結合および3,4−結合の量の和の割合は、好ましくは1〜99mol%の範囲であり、より好ましくは35〜98mol%の範囲であり、さらに好ましくは40〜90mol%の範囲であり、特に好ましくは50〜80mol%の範囲である。なお、1,2−結合、3,4−結合および1,4−結合の量の比は、H−NMRスペクトルにおいて1,2−結合および3,4−結合に由来する4.2〜5.0ppmの範囲に存在するピークの積分値ならびに1,4−結合に由来する5.0〜5.45ppmの範囲に存在するピークの積分値の比から算出できる。
【0017】
共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)は、共役ジエン化合物単位を好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上(いずれも原料の仕込み量換算の値である。)を含有する。共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックは共役ジエン化合物単位と共に他の共重合性単量体単位を有していてもよい。係る他の共重合性単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンなどが挙げられる。他の共重合性単量体単位を有する場合、その割合は、共役ジエン化合物単位および他の共重合性単量体単位の合計量に対して好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0018】
熱可塑性エラストマー(A)において芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)と共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)の結合形態は特に制限されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはこれらの2つ以上が組み合わさった結合形態のいずれであってもよい。これらの中でも製造が容易であることから直鎖状の結合形態が好ましい。直鎖状の結合形態の例としては、a1−a2で表されるジブロック共重合体、a1−a2−a1またはa2−а1−a2で表されるトリブロック共重合体、a1−a2−a1−a2で表されるテトラブロック共重合体、a1−a2−a1−a2−a1またはa2−a1−a2−a1−a2で表されるペンタブロック共重合体、(а1−a2)nX型共重合体(Xはカップリング残基を表し、nは2以上の整数を表す。)、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも製造が容易であり且つ延伸性、接着性に優れるためトリブロック共重合体が好ましく、a1−a2−a1で表されるトリブロック共重合体がより好ましい。
【0019】
熱可塑性エラストマー(A)は、耐熱性および耐候性の観点から、共役ジエン化合物を含有する重合体ブロック(a2)の一部または全部が水素添加(以下、「水添」と称する)されていることが好ましい。共役ジエン化合物を含有する重合体ブロック(a2)の水添率は好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。水添率は水素添加反応前後のブロック共重合体のヨウ素価を測定して得られる値である。
【0020】
熱可塑性エラストマー(A)において、芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)の含有量は、柔軟性、延伸性、接着性の観点から、熱可塑性エラストマー(A)全体に対して好ましくは5〜75質量%の範囲であり、より好ましくは5〜60質量%の範囲であり、さらに好ましくは10〜40質量%の範囲である。また、熱可塑性エラストマー(A)の重量平均分子量は、延伸性、接着性、成形加工性の観点から好ましくは30,000〜500,000の範囲であり、より好ましくは60,000〜200,000の範囲であり、さらに好ましくは80,000〜180,000の範囲である。ここで、重量平均分子量とはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。また、熱可塑性エラストマー(A)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、重量平均分子量50,000〜150,000の中分子量品と150,000〜300,000の高分子量品を組み合わせると延伸性、接着性、成形加工性のバランスを取り易くなるため好ましい。係る中分子量品/高分子量品(質量比)の値は好ましくは10/90〜90/10の範囲であり、より好ましくは20/80〜75/25の範囲であり、さらに好ましくは20/80〜55/45の範囲である。
【0021】
熱可塑性エラストマー(A)の製造方法は特に限定されないが、例えばアニオン重合法により製造することができる。具体的には、(i)アルキルリチウム化合物を開始剤として用い、前記芳香族ビニル化合物および前記共役ジエン化合物を逐次重合させる方法;(ii)アルキルリチウム化合物を開始剤として用いて前記芳香族ビニル化合物および前記共役ジエン化合物を逐次重合させ、次いでカップリング剤を加えてカップリングする方法;(iii)ジリチウム化合物を開始剤として用いて前記共役ジエン化合物、前記芳香族ビニル化合物を逐次重合させる方法などが挙げられる。
【0022】
前記(i)および(ii)中のアルキルリチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。前記(ii)中のカップリング剤としては、例えばジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼンなどが挙げられる。また、前記(iii)中のジリチウム化合物としては、例えばナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼンなどが挙げられる。
【0023】
これらのアルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物などの開始剤やカップリング剤の使用量は目標とする熱可塑性エラストマー(A)の重量平均分子量により決定されるが、芳香族ビニル化合物および共役ジエン化合物の合計100質量部に対して、開始剤は通常0.01〜0.2質量部の範囲で、カップリング剤は通常0.001〜0.8質量部の範囲で用いられる。なお、上記のアニオン重合は溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては開始剤に対して不活性で重合に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はなく、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。また、重合は0〜80℃の温度範囲で0.5〜50時間行うことが好ましい。
【0024】
上記アニオン重合の際、有機ルイス塩基の添加により、熱可塑性エラストマー(A)の1,2−結合および3,4−結合の割合を高めることができ、該有機ルイス塩基の添加量によって1,2−結合および3,4−結合の割合を容易に制御することができる。有機ルイス塩基としては、例えば酢酸エチルなどのエステル;トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N−メチルモルホリンなどのアミン;ピリジンなどの含窒素複素環式芳香族化合物;ジメチルアセトアミドなどのアミド;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンなどが挙げられる。
【0025】
上記方法により重合を行なった後、反応液をブロック共重合体の貧溶媒に注いで反応液に含まれるブロック共重合体を凝固させるか、または反応液をスチームと共に熱水に注いで溶媒を共沸により除去(スチームストリッピング)した後乾燥させることで、水添されていない熱可塑性エラストマー(A)を単離することができる。さらに、係る水添されていない熱可塑性エラストマー(A)を水素添加反応に付すことで水添された熱可塑性エラストマー(A)を得られる。水素添加反応は、反応および水素添加触媒に対して不活性な溶媒および水添されていない熱可塑性エラストマー(A)を含む溶液または前記の反応液から単離せず水添されていない熱可塑性エラストマー(A)を、水素添加触媒の存在下で水素と反応させて行える。水素添加触媒としては、例えばラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Niなどの金属をカーボン、アルミナ、珪藻土などの担体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物などの組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒などが挙げられる。水素添加反応は、通常、水素圧力0.1〜20MPa、反応温度20〜250℃、反応時間0.1〜100時間の条件で行うことができる。さらに水素添加反応液をメタノールなどの貧溶媒に注いで凝固させるか、または水素添加反応液をスチームと共に熱水に注いで溶媒を共沸により除去(スチームストリッピング)した後乾燥させることで、水添された熱可塑性エラストマー(A)を単離することができる。
【0026】
熱可塑性重合体組成物は接着付与成分(B)を含有してもよい。接着付与成分(B)はポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)であることが好ましく、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又はカルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂であることがより好ましい。
【0027】
接着付与成分(B)の含有量は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して好ましくは10〜100質量部の範囲である。より好ましくは12質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上であり、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。これらより、接着付与成分(B)の含有量は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して好ましくは10〜70質量部、より好ましくは12〜70質量部、より好ましくは15〜70質量部、さらに好ましくは15〜50質量部、特に好ましくは15〜45質量部である。接着付与成分(B)が10質量部未満だと接着性が低下する傾向となり、100質量部より多くなると熱可塑性重合体組成物の柔軟性および接着性が低下する傾向となる。
【0028】
ポリビニルアセタール樹脂(B1)は、通常、下記式(1)に表される繰り返し単位を有する。
【0029】
【化1】
【0030】
上記式(1)中、nはアセタール化反応に用いたアルデヒドの種類の数を表す。R1、R2、・・・、Rnはアセタール化反応に用いたアルデヒドのアルキル残基または水素原子を表し、k(1)、k(2)、・・・、k(n)はそれぞれ[]で表す構成単位の割合(物質量比)を表す。また、lはビニルアルコール単位の割合(物質量比)、mはビニルアセテート単位の割合(物質量比)を表す。ただし、k(1)+k(2)+・・・+k(n)+l+m=1であり、k(1)、k(2)、・・・、k(n)、lおよびmはいずれかがゼロであってもよい。各繰返し単位は上記配列順序によって特に制限されず、ランダムに配列されてもよいし、ブロック状に配列されてもよいし、テーパー状に配列されてもよい。
【0031】
ポリビニルアセタール樹脂(B1)は、例えばポリビニルアルコールとアルデヒドを反応させることで得られる。ポリビニルアセタール樹脂(B1)の製造に用いられるポリビニルアルコールは、平均重合度が好ましくは100〜4,000の範囲であり、より好ましくは100〜3,000の範囲であり、さらに好ましくは100〜2,000の範囲であり、特に好ましくは250〜2,000の範囲である。ポリビニルアルコールの平均重合度が100以上だとポリビニルアセタール樹脂(B1)が生産性および取扱性に優れ、4,000以下だと溶融混練する際の溶融粘度が過度に高くならず熱可塑性重合体組成物の製造が容易となる。ここでポリビニルアルコールの平均重合度はJIS K 6726に準じて測定した値であり、ポリビニルアルコールを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度から求めた値である。
【0032】
ポリビニルアルコールの製法は特に限定されず、例えばポリ酢酸ビニルなどをアルカリ、酸、アンモニア水などによりけん化したものを使用できる。また、市販品を用いてもよい。市販品としては株式会社クラレ製の「クラレポバール」シリーズなどが挙げられる。ポリビニルアルコールは完全けん化されたものであってもよいが、部分的にけん化されたものであってもよい。相溶性、安定性の観点からけん化度は好ましくは80mol%以上、より好ましくは90mol%以上、さらに好ましくは95mol%以上である。
【0033】
ポリビニルアルコールとしては、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体や部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール;該ビニルアルコールと共重合可能なモノマーの共重合体や一部にカルボン酸などが導入された変性ポリビニルアルコールなどを使用できる。これらのポリビニルアルコールは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリビニルアセタール樹脂(B1)の製造に用いられるアルデヒドは特に制限されない。例えばホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、n−オクタナール、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキサンカルバルデヒド、フルフラール、グリオキサール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒドなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのアルデヒドのうち、製造容易性の観点から、ブチルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0035】
ポリビニルアセタール樹脂(B1)は、ポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂(B1)であることが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂(B1)中に存在するアセタール単位のうち、ブチラール単位の割合は好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.95以上である。
【0036】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B1)のアセタール化度は好ましくは55〜88mol%の範囲であり、より好ましくは60〜88mol%の範囲であり、さらに好ましくは70〜88mol%の範囲であり、特に好ましくは75〜85mol%の範囲である。アセタール化度が55mol%以上のポリビニルアセタール樹脂(B1)は製造コストが低く、入手が容易であり、また溶融加工性が良好である。一方、アセタール化度が88mol%以下のポリビニルアセタール樹脂(B1)は製造が非常に容易であり、アセタール化反応に長い時間を要しないため経済的である。ポリビニルアセタール樹脂(B1)のアセタール化度が88mol%以下だと接着性に優れ、55mol%以上だと熱可塑性エラストマー(A)との親和性や相溶性が良好となり熱可塑性重合体組成物が延伸性に優れるとともに、接着強度が高くなる。
【0037】
なおポリビニルアセタール樹脂(B1)のアセタール化度(mol%)は以下の式で定義される。
アセタール化度(mol%)={k(1)+k(2)+・・・+k(n)}×2/{{k(1)+k(2)+・・・+k(n)}×2+l+m}×100
なお、ポリビニルアセタール樹脂(B1)のアセタール化度はJIS K 6728(1977年)に記載の方法で求められる。
【0038】
ポリビニルアセタール樹脂(B1)におけるビニルアルコール単位の含有量lは、熱可塑性エラストマー(A)との親和性の観点から好ましくは12〜45mol%の範囲であり、より好ましくは12〜40mol%の範囲であり、ビニルアセテート単位を好ましくは0〜5mol%の範囲であり、より好ましくは0〜3mol%の範囲である。
【0039】
ポリビニルアルコールとアルデヒドの反応(アセタール化反応)は公知の方法で行うことができる。例えばポリビニルアルコールの水溶液とアルデヒドを酸触媒の存在下でアセタール化反応させてポリビニルアセタール樹脂(B1)の粒子を析出させる水媒法;ポリビニルアルコールを有機溶媒中に分散させで酸触媒の存在下でアルデヒドとアセタール化反応させ、得られた反応混合液にポリビニルアセタール樹脂(B1)の貧溶媒である水などを混合してポリビニルアセタール樹脂(B1)を析出させる溶媒法などが挙げられる。上記酸触媒は特に限定されず、例えば酢酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸;硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸;二酸化炭素などの水溶液にした際に酸性を示す気体;陽イオン交換樹脂や金属酸化物などの固体酸触媒などが挙げられる。
【0040】
前記水媒法や溶媒法などで作製したポリビニルアルコールとアルデヒドの反応混合物からなるスラリーは通常酸性だが、続いて行う反応での影響を低減するため該スラリーのpHは5〜9の範囲に調整することが好ましく、6〜8の範囲に調整することがより好ましい。pHを調整する方法として、スラリーの水洗を繰り返す方法;スラリーに中和剤を添加する方法;スラリーにアルキレンオキサイド類などを添加する方法などが挙げられる。pHを調整するために用いる化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア、アンモニア水溶液などが挙げられる。またアルキレンオキサイド類としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド;エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0041】
前記pHの調整により生じた塩やアルデヒドの反応残渣などを除去する方法は特に制限されない。ポリビニルアセタール樹脂(B1)はパウダー状、顆粒状またはペレット状に加工される際に減圧状態で脱気され、反応残渣や水分などが低減されたものが好ましい。
【0042】
極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)は、接着性の観点から、極性基としてカルボキシル基を含有するポリプロピレン、つまりカルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂が好ましく、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)が有する極性基としては、例えば(メタ)アクリロイルオキシ基;水酸基;アミド基;塩素原子などのハロゲン原子;カルボキシル基;酸無水物基などが挙げられる。
【0043】
極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)の製造方法は特に制限されず、プロピレンおよび極性基含有共重合性単量体を公知の方法でランダム共重合、ブロック共重合またはグラフト共重合させたり、ポリプロピレン系樹脂を公知の方法で酸化または塩素化することで得られる。これらの中でも、分子量分布を精密に制御できる点から、ランダム共重合、グラフト共重合が好ましく、グラフト共重合がより好ましい。
【0044】
極性基含有共重合性単量体としては、例えば酢酸ビニル、塩化ビニル、酸化エチレン、酸化プロピレン、アクリルアミド、不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくはその無水物が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくはその無水物が好ましい。不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくはその無水物としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ハイミック酸、無水ハイミック酸などが挙げられる。中でも、接着性の観点から、マレイン酸、無水マレイン酸がより好ましい。これらの極性基含有共重合性単量体は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0045】
前記極性基含有共重合性単量体として例示した(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)は、プロピレンと共にプロピレン以外のα−オレフィンを極性基含有共重合性単量体と共重合させたものであってもよい。係るα−オレフィンとしては、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、シクロヘキセンなどが挙げられる。係るα−オレフィンは公知の方法で極性基含有共重合性単量体と共重合させることができ、例えばランダム共重合、ブロック共重合またはグラフト共重合などの方法が挙げられる。極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)が有する全構造単位においてプロピレン以外の前記α−オレフィンに由来する構造単位が占める割合は、熱可塑性エラストマー(A)との親和性の観点から、好ましくは0〜45mol%の範囲であり、より好ましくは0〜35mol%の範囲であり、さらに好ましくは0〜25mol%の範囲である。
【0047】
極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)が有する極性基は重合後に後処理されてもよい。例えば(メタ)アクリル酸基やカルボキシル基の金属イオンで中和をしてアイオノマーとしてもよいし、メタノールやエタノールなどでエステル化してもよい。また、酢酸ビニルの加水分解などを行ってもよい。
【0048】
極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)のメルトフローレート(MFR)は、230℃、荷重2.16kg(21.18N)の条件において、好ましくは0.1〜300g/10分の範囲であり、より好ましくは0.1〜100g/10分の範囲であり、さらに好ましくは1〜15g/10分の範囲である。極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)の前記条件におけるMFRが0.1g/10分以上であれば熱可塑性重合体組成物が成形加工性に優れ、300g/10分以下であれば熱可塑性重合体組成物が延伸性に優れる。極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)の融点は、耐熱性および接着性の観点から、好ましくは100〜180℃の範囲であり、より好ましくは110〜170℃の範囲であり、さらに好ましくは120〜145℃の範囲である。
【0049】
極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)が有する全構造単位における前記極性基含有構造単位の割合は好ましくは0.01〜10質量%の範囲であり、より好ましくは0.01〜5質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.2〜1質量%の範囲である。極性基含有構造単位の割合が0.01質量%以上であれば被着体に対する接着性が高くなり、10質量%以下であれば熱可塑性エラストマー(A)との親和性が向上し延伸性および接着性が良好となり、ゲルの生成が抑えられる。極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)は、極性基含有構造単位の割合が最適になるよう、高濃度で極性基含有構造単位の割合が大きい極性基含有ポリプロピレン系樹脂を極性基含有構造単位を有しないポリプロピレン系樹脂で希釈したものを用いてもよい。
【0050】
熱可塑性重合体組成物は、成形加工性、延伸性、接着性の観点から、前記極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)以外にさらに極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)を含有することが好ましい。
【0051】
熱可塑性重合体組成物は熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)を好ましくは5〜100質量部の範囲で含有し、より好ましくは20〜70質量部の範囲で含有し、さらに好ましくは35〜60質量部の範囲で含有する。極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)を5質量部以上含有すると190℃以下での接着性に優れる傾向となり、100質量部以下含有すると柔軟性および延伸性に優れる傾向となる。
【0052】
極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)はオレフィン系共重合性単量体と極性基含有共重合性単量体からなるポリオレフィン系共重合体であることが好ましい。係るオレフィン系共重合性単量体としては、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、シクロヘキセンなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。中でも接着性の観点からエチレンがより好ましい。
【0053】
極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)の極性基としては、例えばエステル基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミド基や、塩素原子などのハロゲン原子などが挙げられ、極性基含有共重合性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、アクリルアミドなどが挙げられる。これらの極性基含有共重合性単量体は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。中でも、接着性の観点から(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0054】
前記極性基含有共重合性単量体として好ましい(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸アルキルエステルが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、190℃以下での加熱処理でも高い接着性を得られる点から、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルがより好ましく、アクリル酸メチルがさらに好ましい。
【0055】
極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)の重合形態は特に制限されない。また、極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)が有する極性基は重合後に後処理されていてもよい。
【0056】
極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)の、190℃、荷重2.16kg(21.18N)の条件におけるMFRは、好ましくは0.1〜100g/10分の範囲であり、より好ましくは0.1〜70g/10分の範囲であり、より好ましくは1〜30g/10分の範囲であり、さらに好ましくは1〜20g/10分の範囲である。極性基含有オレフィン系共重合体(C1)のMFRが0.1g/10分以上だと190℃以下での加熱処理でも接着性が十分に得られ、100g/10分以下だと製造が容易であり、かつ延伸性、接着性に優れる。
【0057】
極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)のビカット軟化点は好ましくは40〜100℃の範囲であり、より好ましくは45〜55℃の範囲である。極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)のビカット軟化点が40℃以上だと熱可塑性重合体組成物の延伸性および接着性が良好となり、100℃以下だと190℃以下の温度で加熱処理した場合でも優れた接着性が得られる。
【0058】
極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)が有する全構造単位における前記極性基含有構造単位の割合は、好ましくは1〜99質量%の範囲であり、より好ましくは1〜50質量%の範囲であり、さらに好ましくは5〜30質量%の範囲である。極性基含有構造単位の割合がこの範囲であれば熱可塑性エラストマー(A)との親和性や相溶性と共に接着付与成分(B)との親和性や相溶性が良好であり、熱可塑性重合体組成物の延伸性および接着性が良好となり、被着体に対する接着性が高くなる。なお、極性基含有構造単位の割合が少なくなると熱可塑性重合体組成物の延伸性が低下する傾向となり、極性基含有構造単位の割合が多くなると熱可塑性エラストマー(A)との親和性や相溶性が低くなる傾向となる。
【0059】
熱可塑性重合体組成物は粘着付与樹脂(D)をさらに含有してもよい。粘着付与樹脂(D)を含有させることで、接着性を維持しつつ成形加工性がさらに向上する。係る粘着付与樹脂(D)としては、例えば脂肪族不飽和炭化水素樹脂、脂肪族飽和炭化水素樹脂、脂環式不飽和炭化水素樹脂、脂環式飽和炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、水添芳香族炭化水素樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂などが挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも脂肪族飽和炭化水素樹脂、脂環式飽和炭化水素樹脂、水添芳香族炭化水素樹脂、水添テルペン樹脂が好ましく、水添芳香族炭化水素樹脂、水添テルペン樹脂がより好ましい。
【0060】
粘着付与樹脂(D)の軟化点は好ましくは50〜200℃の範囲であり、より好ましくは65〜180℃の範囲であり、さらに好ましくは80〜160℃の範囲である。軟化点が50℃以上だと本発明の成形体が使用される温度で多層フィルムが接着性を維持でき、200℃以下だと接着時の加熱処理温度で接着性を維持できる。ここで、軟化点はASTM28−67に準拠して測定した値である。
【0061】
粘着付与樹脂(D)を熱可塑性重合体組成物に含有させる場合、柔軟性および延伸性の観点から、その含有量は熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して好ましくは1〜100質量部の範囲であり、より好ましくは5〜70質量部の範囲であり、さらに好ましくは10〜45質量部の範囲である。
【0062】
熱可塑性重合体組成物は軟化剤(S)をさらに含有してもよい。係る軟化剤(S)としては、一般にゴム、プラスチックスに用いられる軟化剤が挙げられ、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル;ジオクチルフタレート、ジブチルフタレートなどのフタル酸誘導体;ホワイトオイル、ミネラルオイル、エチレンとα−オレフィンのオリゴマー、パラフィンワックス、流動パラフィン、ポリブテン、低分子量ポリブタジエン、低分子量ポリイソプレンなどが挙げられる。これらの中でもプロセスオイルが好ましく、パラフィン系プロセスオイルがより好ましい。また、一般的にポリビニルアセタール樹脂と併用される公知の軟化剤、例えば一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステルなどの有機酸エステル系可塑剤;有機リン酸エステル、有機亜リン酸エステルなどのリン酸系可塑剤なども使用できる。
【0063】
塩基性有機酸エステルとしては、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの多塩基性有機酸とアルコールとのエステル;トリエチレングリコール−ジ−カプロン酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチル酪酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−n−オクチル酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキシル酸エステルなどに代表されるトリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールなどのグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸などの一塩基性有機酸との反応によって得られるグリコール系エステルが挙げられる。多塩基酸有機エステルとしては、例えばセバシン酸ジブチルエステル、アゼライン酸ジオクチルエステル、アジピン酸ジブチルカルビトールエステルなどが挙げられる。有機リン酸エステルとしては、例えばトリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェートなどが挙げられる。軟化剤(S)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
熱可塑性重合体組成物は、成形加工性および接着性の観点から、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して軟化剤(S)を好ましくは0.1〜300質量部の範囲で含有し、より好ましくは1〜200質量部の範囲で含有し、さらに好ましくは10〜200質量部の範囲で含有し、特に好ましくは50〜150質量部の範囲で含有する。
【0065】
熱可塑性重合体組成物は、オレフィン系重合体、スチレン系重合体、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレングリコールなど他の熱可塑性重合体を含有してもよい。オレフィン系重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、プロピレンとエチレンや1−ブテンなどの他のα−オレフィンとのブロック共重合体やランダム共重合体などが挙げられる。他の熱可塑性重合体を含有させる場合、その含有量は熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して好ましくは100質量部以下であり、より好ましくは50質量部以下であり、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0066】
熱可塑性重合体組成物は、耐熱性、耐候性、硬度調整の観点から無機充填材を含有してもよい。無機充填材としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、マイカ、クレー、天然ケイ酸、合成ケイ酸、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、ガラスバルーン、ガラス繊維などが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機充填材を含有させる場合、その含有量は熱可塑性重合体組成物の柔軟性が損なわれない範囲であることが好ましく、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下であり、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0067】
熱可塑性重合体組成物は酸化防止剤、滑剤、光安定剤、加工助剤、顔料や色素などの着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、香料などを含有してもよい。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系、リン系、ラクトン系、ヒドロキシル系の酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は得られる熱可塑性重合体組成物を溶融混練する際に着色しない範囲であることが好ましく、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して好ましくは0.1〜5質量部の範囲である。
【0068】
熱可塑性重合体組成物の調製方法は、含有する成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されず、通常は溶融混練法が用いられる。溶融混練は、例えば単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、バッチミキサー、ローラー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができ、好ましくは170〜270℃の範囲で溶融混練して熱可塑性重合体組成物を得る。
【0069】
熱可塑性重合体組成物は、JIS K 6253のJIS−A法により測定される硬度が好ましくは90以下であり、より好ましくは30〜90の範囲であり、さらに好ましくは35〜85の範囲である。係る硬度が90より高いと柔軟性、弾性率が低下する傾向となる。
【0070】
熱可塑性重合体組性物のMFRは、JIS K 7210に準じた方法で、230℃、荷重2.16kg(21.18N)の条件で測定したときに好ましくは1〜50g/10分の範囲であり、より好ましくは1〜40g/10分の範囲であり、さらに好ましくは2〜30g/10分の範囲である。MFRがこの範囲であると成形加工性が良好となり、接着層の作製が容易となる。
【0071】
接着層の厚さは好ましくは10〜500μmの範囲であり、より好ましくは30〜190μmの範囲であり、さらに好ましくは50〜150μmの範囲である。接着層の厚さが10μm未満だと接着性が低下し、500μmより厚いと取扱性、表面硬度、賦形性が悪化する傾向となる。
【0072】
熱可塑性重合体組成物の接着力は好ましくは20N/25mm以上であり、より好ましくは30N/25mm以上であり、さらに好ましくは60N/25mm以上である。ここで、接着力は実施例に記載の方法でJIS K 6854−2に準じて測定した値である。
【0073】
基材層を構成する非晶性樹脂は110〜160℃の範囲における任意の温度で弾性率が2〜600MPaである必要がある。弾性率が2MPa未満だと真空成形時の伸びが不均一になる傾向となり、弾性率が600MPaより大きいと真空成形時に割れや破断が発生する傾向となる。なお、弾性率は[MPa]単位で表したときの少数点第一位を四捨五入した値である。また、本明細書で「非晶性樹脂」とは、示差走査熱量測定(DSC)曲線において明確な融点を持たない樹脂を意味する。
【0074】
非晶性樹脂としては、例えばポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、メタクリル系樹脂などが挙げられる。中でも透明性、耐候性、表面光沢性、耐擦傷性の観点からメタクリル系樹脂が好ましく、メタクリル樹脂(F)および弾性体(R)を含むメタクリル系樹脂がより好ましい。
【0075】
メタクリル系樹脂は好ましくはメタクリル樹脂(F)10〜99質量部および弾性体(R)90〜1質量部を含み、より好ましくはメタクリル樹脂(F)55〜90質量部および弾性体(R)45〜10質量部を含み、さらに好ましくはメタクリル樹脂(F)70〜90質量部および弾性体(R)30〜10質量部を含む。メタクリル樹脂(F)の含有量が10質量部未満だと、得られる基材層の表面硬度が低下する傾向となる。
【0076】
メタクリル系樹脂(F)はメタクリル酸メチルに由来する構造単位を好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有する。換言すると、メタクリル系樹脂(F)はメタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位を好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下有し、メタクリル酸メチルのみを単量体とする重合体であってもよい。
【0077】
係るメタクリル酸メチル以外の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニル、アクリル酸イソボニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−へキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニル、メタクリル酸イソボニルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0078】
メタクリル樹脂(F)の立体規則性は特に制限されず、例えばイソタクチック、ヘテロタクチック、シンジオタクチックなどの立体規則性を有するものを用いてもよい。
【0079】
メタクリル樹脂(F)の重量平均分子量Mw(F)は好ましくは30,000〜180,000の範囲であり、より好ましくは40,000〜150,000の範囲であり、さらに好ましくは50,000〜130,000の範囲である。Mw(F)が30,000未満だと得られる基材層の耐衝撃性や靭性が低下する傾向となり、18,000より大きいとメタクリル樹脂(F)の流動性が低下し成形加工性が低下する傾向となる。
【0080】
メタクリル樹脂(F)の製造方法は特に限定されず、メタクリル酸メチルを80質量%以上含む単量体(混合物)を重合するか、メタクリル酸メチル以外の単量体と共重合して得られる。また、メタクリル樹脂(F)として市販品を用いてもよい。係る市販品としては、例えば「パラペットH1000B」(MFR:22g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットGF」(MFR:15g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットEH」(MFR:1.3g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットHRL」(MFR:2.0g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットHRS」(MFR:2.4g/10分(230℃、37.3N))および「パラペットG」(MFR:8.0g/10分(230℃、37.3N))[いずれも商品名、株式会社クラレ製]などが挙げられる。
【0081】
弾性体としてはブタジエン系ゴム、クロロプレン系ゴム、ブロック共重合体、多層構造体などが挙げられ、これらを単独でまたは組み合わせて用いてもよい。これらの中でも透明性、耐衝撃性、分散性の観点からブロック共重合体または多層構造体が好ましく、ブロック共重合体(G)または多層構造体(E)がより好ましい。
【0082】
ブロック共重合体(G)はメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を有する。ブロック共重合体(G)はメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)をそれぞれ1つのみ有していてもよいし、複数有していてもよい。
【0083】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)はメタクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)におけるメタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、延伸性、表面硬度の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0084】
係るメタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどが挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合できる。これらの中でも、透明性、耐熱性の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0085】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)はメタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよく、延伸性および表面硬度の観点から、その割合は好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0086】
前記メタクリル酸エステル以外の単量体としては、例えばアクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0087】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量は好ましくは5,000〜150,000の範囲であり、より好ましくは8,000〜120,000の範囲であり、さらに好ましくは12,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量が5,000未満だと弾性率が低く高温で延伸成形する場合に皺が生じる傾向となり、150,000より大きいと三次元被覆成形性が悪化し、かつ延伸成形時に破断しやすくなる傾向となる。
【0088】
ブロック共重合体(G)がメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を複数有する場合、それぞれのメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を構成する構造単位の組成比や分子量は相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0089】
ブロック共重合体(G)一分子におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量の総和Mw(g1−total)は、好ましくは12,000〜150,000であり、より好ましくは15,000〜120,000の範囲であり、さらに好ましくは20,000〜100,000の範囲である。ブロック共重合体(G)が一分子中にメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を1つのみ有する場合、該メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量がMw(g1−total)と等しくなる。また、ブロック共重合体(G)が一分子中にメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を複数有する場合、各メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量の合計がMw(g1−total)となる。
また、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量が異なる複数のブロック共重合体(G)を混合して用いる場合は、各々のブロック共重合体(G)の混合比率を各々が有するメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量に乗じて、これらを合計することでMw(g1−total)を求められる。
【0090】
メタクリル樹脂(F)の重量平均分子量Mw(F)のMw(g1−total)に対する比、即ちMw(F)/Mw(g1−total)は好ましくは0.3〜4.0の範囲であり、より好ましくは1.0〜3.5の範囲であり、さらに好ましくは1.5〜3.0の範囲である。Mw(F)/Mw(g1−total)が0.3未満だと得られる基材層の耐衝撃性および表面平滑性が低下する傾向となり、4.0より大きいと得られる基材層の表面平滑性およびヘイズの温度依存性が悪化する傾向となる。
【0091】
ブロック共重合体(G)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の割合は、透明性、柔軟性、成形加工性および表面平滑性の観点から、好ましくは10質量%〜70質量%の範囲であり、より好ましくは25質量%〜60質量%の範囲である。ブロック共重合体(G)にメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)が複数含まれる場合、前記の割合はすべてのメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の合計質量に基づいて算出する。
【0092】
アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)はアクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)におけるアクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、三次元被覆成形性および延伸性の観点から好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0093】
係るアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合できる。
【0094】
アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)は、延伸性、透明性の観点から、アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸芳香族エステルからなることが好ましい。アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシルなどが挙げられる。これらのうち、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0095】
(メタ)アクリル酸芳香族エステルはアクリル酸芳香族エステルまたはメタクリル酸芳香族エステルを意味し、芳香環を含む化合物が(メタ)アクリル酸にエステル結合してなる。係る(メタ)アクリル酸芳香族エステルとしては、例えばアクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸スチリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸スチリルなどが挙げられる。中でも透明性の観点から、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ベンジルが好ましい。
【0096】
アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)がアクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸芳香族エステルからなる場合、透明性の観点から該アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)はアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位50〜90質量%および(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位50〜10質量%を含むことが好ましく、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位60〜80質量%および(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位40〜20質量%を含むことがより好ましい。
【0097】
アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)はアクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよく、アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)においてその含有量は好ましくは55質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以下である。
【0098】
アクリル酸エステル以外の単量体としては、例えばメタクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0099】
アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量は、三次元被覆成形性および延伸性の観点から、好ましくは5,000〜120,000の範囲であり、より好ましくは15,000〜110,000の範囲であり、さらに好ましくは30,000〜100,000の範囲である。
【0100】
ブロック共重合体(G)がアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を複数有する場合、それぞれのアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を構成する構造単位の組成比や分子量は相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0101】
ブロック共重合体一分子におけるアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量の総和Mw(g2−total)は、好ましくは30,000〜140,000の範囲であり、より好ましくは40,000〜110,000の範囲であり、さらに好ましくは50,000〜100,000の範囲である。Mw(g2−total)が30,000未満だと得られる基材層の耐衝撃性が低下する傾向となり、140,000より大きいと得られる基材層の表面平滑性が低下する傾向となる。ブロック共重合体(G)が一分子中にアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を1つのみ有する場合、該アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量がMw(g2−total)と等しくなる。また、ブロック共重合体(G)がアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を一分子中に複数有する場合、各アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量の合計がMw(g2−total)となる。
また、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量が異なる複数のブロック共重合体(G)を混合して用いる場合は、各々のブロック共重合体(G)の混合比率を各々が有するメタクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量に乗じて、これらを合計することでMw(g2−total)を求められる。
【0102】
なお、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量およびアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量は、ブロック共重合体(G)を製造する過程において、重合中および重合後にサンプリングを行なって測定した中間生成物および最終生成物(ブロック共重合体(G))の重量平均分子量から算出される値である。各重量平均分子量はGPCで測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0103】
ブロック共重合体(G)におけるアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の割合は、透明性、柔軟性、成形加工性、表面平滑性の観点から、好ましくは30〜90質量%の範囲であり、より好ましくは40〜75質量%の範囲である。ブロック共重合体(G)にアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)が複数含まれる場合、係る割合はすべてのアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の合計質量に基づいて算出する。
【0104】
ブロック共重合体(G)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の結合形態は特に限定されず、例えばメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の一末端にアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の一末端が繋がった構造((g1)−(g2)構造);メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の両末端にアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の一末端が繋がった構造((g2)−(g1)−(g2)構造);アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の両末端にメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の一末端が繋がった構造((g1)−(g2)−(g1)構造)など、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)が直列に繋がった構造が挙げられる。また、複数の(g1)−(g2)構造のブロック共重合体の一末端が繋がった放射状構造([(g1)−(g2)−]nX構造および[(g2)−(g1)−]nX構造);複数の(g1)−(g2)−(g1)構造のブロック共重合体の一末端が繋がった放射状構造([(g1)−(g2)−(g1)−]nX構造);複数の(g2)−(g1)−(g2)構造のブロック共重合体の一末端が繋がった放射状構造([(g2)−(g1)−(g2)−]nX構造)などを有する星型ブロック共重合体や、分岐構造を有するブロック共重合体などが挙げられる。なお、ここでXはカップリング剤残基を表す。これらのうち、表面平滑性および耐衝撃性の観点から、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、星型ブロック共重合体が好ましく、(g1)−(g2)構造のジブロック共重合体、(g1)−(g2)−(g1)構造のトリブロック共重合体、[(g1)−(g2)−]nX構造の星形ブロック共重合体、[(g1)−(g2)−(g1)−]nX構造の星形ブロック共重合体がより好ましく、(g1)−(g2)−(g1)構造のトリブロック共重合体がさらに好ましい。
【0105】
ブロック共重合体(G)はメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)以外の重合体ブロック(g3)を有してもよい。重合体ブロック(g3)を構成する主たる構造単位はメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位であり、係る単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p-メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド、ε−カプロラクトン、バレロラクトンなどが挙げられる。
【0106】
ブロック共重合体(G)が重合体ブロック(g3)を有する場合、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)、アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)および重合体ブロック(g3)の結合形態は特に限定されず、(g1)−(g2)−(g1)−(g3)構造や(g3)−(g1)−(g2)−(g1)−(g3)構造のブロック共重合体などが挙げられる。ブロック共重合体(G)が重合体ブロック(g3)を複数有する場合、それぞれの重合体ブロック(g3)を構成する構造単位の組成比や分子量は相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0107】
ブロック共重合体(G)は、分子鎖中または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物、アミノ基などの官能基を有してもよい。
【0108】
ブロック共重合体(G)の重量平均分子量Mw(G)は好ましくは60,000〜400,000の範囲であり、より好ましくは100,000〜200,000の範囲である。ブロック共重合体(G)の重量平均分子量が60,000未満だと溶融押出成形において十分な溶融張力を保持できず良好な板状成形体が得られにくく、また得られた板状成形体の破断強度などの力学物性が低下する傾向となり、400,000より大きいと溶融樹脂の粘度が高くなり、溶融押出成形で得られる板状成形体の表面に微細なシボ調の凹凸や未溶融物(高分子量体)に起因するブツが生じ、良好な板状成形体が得られにくい傾向となる。
【0109】
ブロック共重合体(G)の分子量分布は好ましくは1.0〜2.0の範囲であり、より好ましくは1.0〜1.6の範囲である。このような範囲内に分子量分布があることで、基材層においてブツの発生原因となる未溶融物の含有量を低減できる。なお、重量平均分子量および数平均分子量はGPCで測定した標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0110】
ブロック共重合体(G)の屈折率は好ましくは1.485〜1.495の範囲であり、より好ましくは1.487〜1.493の範囲である。屈折率がこの範囲内であると、得られる基材層の透明性が高くなる。なお、屈折率は波長587.6nm(d線)で測定した値である。
【0111】
ブロック共重合体(G)の製造方法は特に限定されず、公知の手法に準じた方法を採用でき、例えば各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が一般に使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法;有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法;有機希土類金属錯体を重合開始剤として用い重合する方法;α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として用い銅化合物の存在下でラジカル重合する方法などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて各ブロックを構成するモノマーを重合させ、ブロック共重合体(G)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。これらの方法のうち、ブロック共重合体(G)を高純度で得られ、また分子量や組成比の制御が容易であり、かつ経済的であることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が好ましい。
【0112】
多層構造体(E)は内層(e2)および外層(e1)の少なくとも2層を含有し、内層(e2)および外層(e1)が中心層から最外層方向へこの順に配されている層構造を少なくとも一つ有している。多層構造体(e)は内層(e2)の内側または外層(e1)の外側にさらに架橋性樹脂層(e3)を有してもよい。
【0113】
内層(e2)は、アクリル酸アルキルエステルおよび架橋性単量体を有する単量体混合物を共重合してなる架橋弾性体から構成される層である。
【0114】
係るアクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が2〜8の範囲であるアクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられ、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。内層(e2)の共重合体を形成させるために使用される全単量体混合物におけるアクリル酸アルキルエステルの割合は、耐衝撃性の点から、好ましくは70〜99.8質量%の範囲であり、より好ましくは80〜90質量%である。
【0115】
内層(e2)に用いられる架橋性単量体は一分子内に重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有するものであればよく、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレートなどグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルなど不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなど多塩基酸のポリアルケニルエステル、トリメチロールプロパントリアクリレートなど多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや多塩基酸のポリアルケニルエステルが好ましい。全単量体混合物における架橋性単量体の量は、基材層の耐衝撃性、耐熱性および表面硬度を向上させる観点から、0.2〜30質量%の範囲が好ましく、0.2〜10質量%の範囲がより好ましい。
【0116】
内層(e2)を形成する単量体混合物は他の単官能性単量体をさらに有してもよい。係る単官能性単量体は、例えばメタクリル酸メチル、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート;フェニルメタクリレートなどのメタクリル酸とフェノール類のエステル、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸と芳香族アルコールとのエステルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレンなどの芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン系単量体などが挙げられる。全単量体混合物における他の単官能性単量体の量は、基材層の耐衝撃性を向上させる観点から、好ましくは24.5質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0117】
外層(e1)は基材層の耐熱性の点からメタクリル酸メチルを80質量%以上、好ましくは90質量%以上含有する単量体混合物を重合してなる硬質熱可塑性樹脂から構成される。また、硬質熱可塑性樹脂は他の単官能性単量体を20質量%以下、好ましくは10質量%以下含む。
【0118】
他の単官能性単量体としては、例えばメチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸;メタクリル酸などが挙げられる。
【0119】
多層構造体(E)における内層(e2)および外層(e1)の含有率は、得られる基材層の耐衝撃性、耐熱性、表面硬度、取扱性およびメタクリル樹脂(F)との溶融混練の容易さなどの観点から、多層構造体(E)の質量(例えば2層からなる場合は内層(e2)および外層(e1)の総量)を基準として、内層(e2)の含有率が40〜80質量%の範囲から選ばれ、外層(e1)の含有率が20〜60質量%の範囲から選ばれることが好ましい。
【0120】
多層構造体(E)を製造するための方法は特に限定されないが、多層構造体(E)の層構造の制御の観点から乳化重合により製造されることが好ましい。
【0121】
非晶性樹脂は各種の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、酸化防止剤、着色剤、耐衝撃助剤などを含有してもよい。
【0122】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものであり、例えばリン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも着色による光学特性の低下が少ない点からリン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤の併用がより好ましい。リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤を併用する場合、その割合は特に制限されないが、リン系酸化防止剤/ヒンダードフェノール系酸化防止剤の質量比は好ましくは1/5〜2/1の範囲であり、より好ましくは1/2〜1/1の範囲である。
【0123】
リン系酸化防止剤としては、例えば2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(旭電化社製;アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRUGAFOS168)などが挙げられる。
【0124】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGANOX1010)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGANOX1076)、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;アデカスタブPEP−36)などが挙げられる。
【0125】
熱劣化防止剤は非晶性樹脂が実質上無酸素の状態で高温になったときに生じるポリマーラジカルを捕捉することで樹脂の熱劣化を低減できるものであり、例えば2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;スミライザーGM)、2,4−ジ−tert−アミル−6−(3’,5’−ジ−tert−アミル−2’−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;スミライザーGS)などが挙げられる。
【0126】
紫外線吸収剤は紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、例えばベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、ブリードアウトを抑制する観点からベンゾトリアゾール類、アニリド類が好ましい。
【0127】
ベンゾトリアゾール類としては、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−イル)フェノール](旭電化工業社製;アデカスタブLA−31)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;TINUVIN234)などが挙げられる。アニリド類としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;サンデュボアVSU)などが挙げられる。これらのうち、紫外線による樹脂劣化の抑制効果が高いという点からベンゾトリアゾール類が好ましい。
【0128】
光安定剤は主に光による酸化で生じるラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物であり、例えば2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類が挙げられる。
【0129】
高分子加工助剤は非晶性樹脂を成形する際に厚さ精度の向上および薄膜化に効果的な化合物であり、通常、乳化重合法によって製造される0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子である。係る重合体粒子は単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。これらの中でも、内層に極限粘度が低い重合体層を有し、外層に極限粘度が5dl/g以上である重合体層を有する2層構造の粒子が好ましい。また、高分子加工助剤は極限粘度が3〜6dl/gの範囲であることが好ましい。極限粘度が3dl/g未満だと成形性の改善効果が低く、6dl/gより大きいと非晶性樹脂の溶融流動性が低下する傾向となる。
【0130】
非晶性樹脂は他の重合体と混合して使用できる。係る他の重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン/ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体などのスチレン系熱可塑性エラストマー;イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。
【0131】
非晶性樹脂を調製する方法は特に制限されないが、該非晶性樹脂を構成する各成分の分散性を高めるため、溶融混練して混合する方法が好ましい。混合操作は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合または混練装置を使用でき、混練性、相溶性を向上させる観点から、二軸押出機を使用することが好ましい。混合・混練時の温度は使用する非晶性樹脂の溶融温度などに応じて適宜調節すればよく、通常110〜300℃の範囲である。二軸押出機を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し、減圧下でおよび/または窒素雰囲気下で溶融混練することが好ましい。このようにして、非晶性樹脂をペレットまたは粉末などの任意の形態で得られる。ペレットまたは粉末などの形態の非晶性樹脂は成形材料として使用するのに好適である。
【0132】
基材層はTダイ法、インフレーション法、溶融流延法、カレンダー法などの公知の方法で製造できる。良好な表面平滑性、低ヘイズの基材層が得られるという観点から、前記溶融混練物をTダイから溶融状態で押し出し、その両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形する工程を含む方法が好ましく、両面を鏡面ロールまたは鏡面ベルトで加圧し挟んで成形する工程を含む方法がより好ましい。また、この際に用いるロールまたはベルトはいずれも金属製であることが好ましい。鏡面ロールまたは鏡面ベルトによる挟み込み圧力は、表面平滑性の観点から、線圧として好ましくは10N/mm以上であり、より好ましくは30N/mm以上である。
【0133】
基材層をTダイ法で製造する場合、例えば単軸あるいは二軸押出スクリューを有するエクストルーダ型溶融押出装置などを使用できる。基材層を製造するための成形温度は、成形加工性および品質の観点から、好ましくは200〜300℃の範囲であり、より好ましくは220〜270℃の範囲である。また、溶融押出装置を使用する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し、減圧下または窒素雰囲気下で溶融押出しすることが好ましい。
【0134】
溶融状態の非晶性樹脂の両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面で加圧し挟んで成形する工程において、非晶性樹脂を挟み込む鏡面ロールまたは鏡面ベルトの少なくとも一方の表面温度を60℃以上とし、且つ両方の表面温度を130℃以下とすることが好ましい。非晶性樹脂を挟み込む鏡面ロールまたは鏡面ベルトの両方の表面温度が60℃未満の場合、基材層の表面平滑性およびヘイズが低下する傾向となり、少なくとも一方の表面温度が130℃を超える場合、得られる基材層の表面平滑性が低くなるまたはヘイズが高くなる傾向となる。
【0135】
基材層は着色されていてもよい。着色法は特に限定されず、非晶性樹脂自体に顔料又は染料を含有させる方法や、染料が分散した液中に基材層を浸漬する方法などが挙げられる。
【0136】
基材層の粗度は好ましくは1.5nm以下であり、より好ましくは0.1〜1.0nmの範囲である。この範囲にすることで本発明の多層フィルムが表面平滑性、表面光沢、印刷の鮮明さに優れる。また、光学用途に用いられる場合は光線透過率などの光学特性や表面賦形を行う際の賦形精度に優れる。
【0137】
基材層のヘイズは厚さ75μmにおいて好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。これにより、意匠性を要求される用途に用いられる場合は印刷の鮮明さに優れ、液晶保護フィルムや導光フィルムなどの光学用途に用いられる場合は光源の利用効率が高まるため好ましい。
【0138】
基材層の厚さは好ましくは10〜500μmの範囲であり、より好ましくは40〜300μmの範囲であり、さらに好ましくは50〜200μmの範囲である。基材層の厚さが10μm未満だと多層フィルムの強度が小さく、延伸成形および接着時にたわみやすくなり、500μmより厚くなるとラミネート性、ハンドリング性、切断性、打抜き加工性などが低下し、フィルムとしての使用が困難になるとともに、真空成形時に破断しやすくなる傾向となるため好ましくない。
【0139】
基材層は延伸処理が施されたものであってもよい。延伸処理によって、機械的強度が高まり、ひび割れし難い基材層を得ることができる。延伸方法は特に限定されず、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法、圧延法などが挙げられる。延伸時の温度は、均一に延伸でき高い強度の基材層が得られるという観点から、非晶性樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」と称する)に対して好ましくは(Tg+10)〜(Tg+40)℃である。延伸温度が(Tg+10)℃未満だと延伸中に成形体が破断しやすくなり、(Tg+40)℃よりも高いと延伸処理の効果が十分に発揮されず基材層の強度が高くなりにくい。延伸速度は通常100〜5,000%/分である。延伸速度が小さいと強度が高くなりにくく、また生産性も低下する。また延伸速度が大きいと基材層が破断したり、均一な延伸が困難になる。延伸の後、熱固定を行うことが好ましい。熱固定によって熱収縮の少ない基材層を得ることができる。延伸して得られる基材層の厚さは10〜500μmの範囲であることが好ましい。なお、非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により求められる。
【0140】
本発明の多層フィルムは基材層および接着層を有する。接着層の積層は、基材層に熱可塑性重合体組成物の溶液を塗布する方法;基材層に熱可塑性重合体組成物よりなるフィルムをラミネートする方法;非晶性樹脂および熱可塑性重合体組成物をTダイで共押出しする方法などが挙げられる。係る熱可塑性重合体組成物よりなるフィルムは基材層と同様の方法で得られる。特に、経済性および生産性の点から、マルチマニホールドダイを用いた共押出し成形法が好ましい。
【0141】
本発明の多層フィルムは非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)より5℃低い温度で測定した破断伸度が160%以上であり、より好ましくは200%以上であり、さらに好ましくは250%以上である。破断伸度が160%未満だと多層フィルムを正確に賦形できず、三次元被覆成形性が低下し破断や皺が生じる傾向となる。
【0142】
本発明の多層フィルムは基材層および/または接着層に絵柄、文字、図形などの模様または色彩が印刷されていてもよい。模様は有彩色のものであっても無彩色のものであってもよい。印刷の方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、インキジェット印刷など公知の印刷法が挙げられる。印刷においては、係る印刷方法で一般的に使用される、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂などの樹脂をバインダーとして、顔料または染料を着色剤として含有する樹脂組成物を使用することが好ましい。
【0143】
本発明の多層フィルムは基材層に金属または金属酸化物が蒸着されてもよい。係る金属または金属酸化物としてはスパッタや真空蒸着などに使用される金属または金属酸化物を特に制限なく使用でき、例えば金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、インジウムやこれらの酸化物などが挙げられる。また、これらの金属または金属酸化物は単独で使用してもよく、2以上の混合物として使用してもよい。基材層に金属または金属酸化物を蒸着する方法としては、蒸着やスパッタなどの真空成膜法や、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられる。
【0144】
多層フィルムの基材層側の表面は鉛筆硬度でHBまたはそれよりも硬いことが好ましく、Hまたはそれよりも硬いことがより好ましい。鉛筆硬度がHBよりも硬いと多層フィルムが傷つき難く、保護フィルムとして好適に用いられる。
【0145】
多層フィルムの厚さは好ましくは20〜1,000μmの範囲であり、より好ましくは50〜500μmの範囲であり、さらに好ましくは100〜250μmの範囲である。多層フィルムの厚さが20μm以上であれば多層フィルムの製造が容易となり、耐衝撃性および加熱時の反り低減に優れ、着色時に隠蔽性を有する。フィルムの厚さが1,000μm以下であれば、三次元被覆成形性がよくなる傾向となる。
【0146】
接着層の厚さに対する基材層の厚さの比は、好ましくは0.2〜5の範囲であり、より好ましくは0.5〜4の範囲であり、さらに好ましくは0.8〜3の範囲である。接着層の厚さに対する基材層の厚さの比の値が0.2未満だと表面硬度が低くなる傾向となり、5よりも大きいと複層フィルムが破断しやすくなる傾向となり、4よりも大きいとより延伸性が低くなる傾向となり、3よりも大きいとさらに延伸性が低くなる傾向となる。
【0147】
本発明の成形体は、本発明の多層フィルムを被着体の表面に有し、表面平滑性、表面硬度、表面光沢などに優れる。係る被着体としては他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、木製基材または非木質繊維基材などが挙げられる。
【0148】
被着体として用いられる他の熱可塑性樹脂としては、例えばポリカーボネート樹脂、PET樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。非木質繊維基材としては例えばケナフ基材などが挙げられる。
【0149】
成形体の製法は特に制限されず、インサート成形法、真空成形法、圧空成形法、圧縮成形法、三次元表面加飾成形(Three dimension Overlay Method:TOM成形)などが挙げられるが、多様な被着体に精度よく賦形および接着できる点から真空成形法またはTOM成形が好ましく、TOM成形がより好ましい。
【0150】
好ましい形態としてTOM成形で成形体を製造する方法を例示する。多層フィルムをTOM成形するための真空成形装置は、例えば特開2002−067137号公報に記載の真空成形装置または特開2005−262502号公報に記載の被覆装置を好適に用いることができ、該真空成形装置または該被覆装置は多層フィルムおよび被着体を設置して閉塞し減圧することが可能なチャンバーボックスを備える。
【0151】
TOM成形により成形体を製造する方法は、多層フィルムおよび被着体をチャンバーボックスに収容する工程;前記チャンバーボックス内を減圧する工程;前記多層フィルムで前記チャンバーボックス内を二分する工程;および前記被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力を前記被着体を有する方のチャンバーボックス内の圧力よりも高くして前記被着体を前記多層フィルムで被覆する工程;を有する。なお、多層フィルムおよび被着体をチャンバーボックスに収容する工程において、多層フィルムでチャンバーボックス内を二分する工程を同時に実施してもよい。
【0152】
チャンバーボックス内を減圧する工程において、チャンバーボックス内の圧力は0.1〜20kPaの範囲であることが好ましく、0.1〜10kPaの範囲であることがより好ましい。圧力が20kPaよりも高いと被着体を多層フィルムで被覆する工程において正確に多層フィルムを賦形することが困難となり、圧力が0.1kPaよりも低いと成形に要する時間が増加し生産性が低下する傾向となる。
【0153】
前記TOM成形による成形体の製造方法は、前記多層フィルムを加熱して軟化させる工程をさらに有することが好ましい。この工程において、多層フィルムを110〜160℃の範囲まで加熱することが好ましく、110〜140℃の範囲まで加熱することがより好ましい。多層フィルムの温度が110℃未満の場合、十分に多層フィルムが軟化せず成形不良となったり、成形体における多層フィルムの接着力が低下する傾向となる。一方160℃を超える場合、多層フィルムの過剰軟化や変質が生じ、成形体の品位が低下する傾向となる。なお、チャンバーボックス内を減圧する工程および多層フィルムを加熱して軟化させる工程は同時に実施してもよい。
【0154】
被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力を被着体を有する方のチャンバーボックス内の圧力よりも高くして被着体を多層フィルムで被覆する工程において、被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力は50〜500kPaの範囲にすることが好ましく、100〜400kPaの範囲にすることがさらに好ましい。被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力が50kPaよりも低い場合、被着体を多層フィルムで被覆する工程において多層フィルムを正確に賦形することが困難となる。被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力が500kPaよりも高い場合、成形体をチャンバーボックスから取り出す際に大気圧(約100kPa)とする時間が掛かり、生産性が低下する傾向となる。
被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力を被着体を有する方のチャンバーボックス内の圧力よりも高くする方法としては、例えば被着体を有しない方のチャンバーボックスを大気圧に開放したり、被着体を有しない方のチャンバーボックスに圧縮空気を供給する方法などが挙げられる。圧縮空気を供給することにより、多層フィルムを被着体により密接させて成形することができ、被着体の形をさらに正確に多層フィルムへ転写することができる。
【0155】
本発明の多層フィルムは良好な三次元被覆成形性、表面硬度、延伸性、成形加工性、接着性および隠蔽性を活かして、意匠性が要求される物品に好適に使用できる。例えば広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;家具、ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品、自動車内外装部材、バンパーなどの自動車外装部材などの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、自動販売機、携帯電話、パソコンなどの電子機器部品;保育器、定規、文字盤、温室、大型水槽、箱水槽、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、楽器、壁紙;マーキングフィルム、各種家電製品の加飾用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0156】
次に、本発明を実施例などによってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、実施例および比較例における各物性の評価は以下の方法で行った。
【0157】
[弾性率]
非晶性樹脂のペレットをプレス成形によりフィルム(縦30mm×横5mm×厚さ45μm)とし、動的粘弾性測定装置(レオロジー社製;DVE−V4FTレオスペクトラー)を用いて温度依存性モード、温度110〜160℃、周波数1Hzで貯蔵弾性率を測定した。
【0158】
[破断伸度]
多層フィルムについて、JIS K 7161に準拠した方法で、引張試験機(インストロン社製万能試験機5566型)を用い、非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも5℃低い温度で破断伸度の値を測定した。
【0159】
[表面硬度]
多層フィルムの基材層側の表面硬度を、JIS K 5600−5−4に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機社製;手動式鉛筆硬度試験機)を用いて、ピッチ2mm、荷重10Nの条件で測定した。
【0160】
[隠蔽性]
多層フィルムを蛍光灯にかざして光透過性を目視で評価した。
A+:光の透過が殆ど無い。
A:少し光が透過する。
B:完全に光が透過する。
【0161】
[三次元被覆成形性]
真空圧空成形機(布施真空社製;NGF0406成形機)内に、接着層が前記金型に面するように多層フィルム(縦210mm×横297mm)および凹型の金型(縦250mm×横160mm×深さ25mm)を挿入した後、多層フィルムを110℃まで加熱し、実施例1にて後述する方法と同様に三次元表面加飾成形(Three dimension Overlay Method:TOM成形)を行って、箱型形状に延伸された多層フィルムを賦形し、多層フィルムの成形性を目視により評価した。また、成形温度を10℃ずつ160℃まで変更し、同様の方法で多層フィルムを賦形して成形性を評価した。
A:110〜160℃のいずれの成形温度で成形した場合も多層フィルムが破断せず正確に賦形された。
B:110〜160℃のいずれかの成形温度で成形した場合に多層フィルムに破断または皺が生じた。
【0162】
[接着強度]
多層フィルムを130℃まで加熱し、後述の方法で作製した成形体の基材層側をステンレス鋼材(SUS)板に強粘着テープ(日東電工社製;ハイパージョイントH9004)で固定して、卓上精密万能試験機(島津製作所社製AGS−X)を使用し、JIS K 6854−2に準じて剥離角度180°、引張速度300mm/分、環境温度23℃の条件で基材層と被着体の間の剥離強度を測定し、成形体における多層フィルムの接着強度を評価した。
【0163】
<合成例1>〔熱可塑性エラストマー(A−1)〕
窒素置換し乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン64Lを、開始剤としてsec−ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)0.20Lを、有機ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.3Lを仕込んだ。50℃に昇温した後、スチレン2.3Lを加えて3時間重合させ、引き続いてイソプレン23Lを加えて4時間重合を行い、さらにスチレン2.3Lを加えて3時間重合を行った。得られた反応液をメタノール80Lに注ぎ、析出した固体を濾別して50℃で20時間乾燥し、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンからなるトリブロック共重合体を得た。続いて、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンからなるトリブロック共重合体10kgをシクロヘキサン200Lに溶解し、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を該共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥して、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンからなるトリブロック共重合体の水添物(以下、「熱可塑性エラストマー(A−1)」と称する)を得た。得られた熱可塑性エラストマー(A−1)の重量平均分子量は107,000、スチレン含有量は21質量%、水素添加率は85%、分子量分布は1.04、ポリイソプレンブロックに含まれる1,2−結合および3,4−結合の量の合計は60mol%であった。
【0164】
<合成例2>〔ポリビニルアセタール樹脂(B−1)〕
平均重合度500、けん化度99mol%のポリビニルアルコール樹脂100kgを溶解した水溶液にn−ブチルアルデヒド75kgおよび35〜37%塩酸110kgを添加し、攪拌してアセタール化し、樹脂を析出させた。公知の方法に従いpHが6になるまで洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液中に懸濁させて攪拌しながら後処理をし、pHが7になるまで洗浄し、揮発分が0.3%になるまで乾燥させて、アセタール化度が80mol%のポリビニルアセタール樹脂(B−1)を得た。
【0165】
<合成例3>〔極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B−2)〕
ポリプロピレン(プライムポリマー社製;プライムポリプロF327)42kg、無水マレイン酸160gおよび2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン42gを、バッチミキサーを用いて180℃およびスクリュー回転数40rpmの条件で溶融混練し、極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B−2)を得た。極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B−2)の230℃、荷重2.16kg(21.18N)におけるMFRは6g/10分であり、無水マレイン酸濃度は0.3%であり、融点は138℃だった。なお、無水マレイン酸濃度は、水酸化カリウムのメタノール溶液を用いて滴定して得られる値である。また、融点は10℃/minで昇温した際の示差走査熱量測定曲線の吸熱ピークから求めた値である。
【0166】
<合成例4>[メタクリル樹脂(F−1)]
メタクリル酸メチル95質量部およびアクリル酸メチル5質量部からなる単量体混合物に重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.1質量部および連鎖移動剤(n−オクチルメルカプタン)0.28質量部を加え溶解させて原料液を得た。また、別の容器にイオン交換水100質量部、硫酸ナトリウム0.03質量部および懸濁分散剤0.45質量部を混ぜ合わせて混合液を得た。耐圧重合槽に前記混合液420質量部と前記原料液210質量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後3時間経過時に温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状共重合体が分散した液を得た。得られた共重合体分散液を適量のイオン交換水で洗浄し、バケット式遠心分離機によりビーズ状共重合体を取り出し、80℃の熱風乾燥機で12時間乾燥させ、重量平均分子量Mw(F)が30,000、Tgが128℃であるビーズ状のメタクリル樹脂(F−1)を得た。
【0167】
<合成例5>[ブロック共重合体(G−1)]
内部を脱気し窒素置換した反応器に室温にて乾燥トルエン735kg、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン0.4kgおよびイソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム20molを含有するトルエン溶液39.4kg、sec−ブチルリチウム1.17mol、メタクリル酸メチル35.0kgをこの順に加え、室温で1時間反応させた。反応液の一部をサンプリングして反応液に含まれる重合体の重量平均分子量を測定したところ40,000であり、これはメタクリル酸メチル重合体ブロック(g1−1)の重量平均分子量Mw(g1−1)に相当する。
次いで反応液を−25℃にし、アクリル酸n−ブチル24.5kgおよびアクリル酸ベンジル10.5kgの混合液を0.5時間かけて滴下した。反応液の一部をサンプリングして反応液に含まれる重合体の重量平均分子量を測定したところ80,000だった。メタクリル酸メチル重合体ブロック(g1−1)の重量平均分子量Mw(g1−1)が40,000だったので、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルの共重合体からなるアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量Mw(g2)を40,000と決定した。
続いてメタクリル酸メチル35.0kgを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌して、2つめのメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1−2)を形成した。その後、反応液にメタノール4kgを加えて重合を停止させた後、反応液を大量のメタノールに注ぎ、濾物を80℃かつ1torr(約133Pa)の条件で12時間乾燥させてブロック共重合体(G−1)を単離した。得られたブロック共重合体(G−1)の重量平均分子量Mw(G)は120,000だったので、メタクリル酸メチル重合体ブロック(g1−2)の重量平均分子量Mw(g1−2)を40,000と決定した。メタクリル酸メチル重合体ブロック(g1−1)の重量平均分子量Mw(g1−1)およびメタクリル酸メチル重合体ブロック(g1−2)の重量平均分子量Mw(g1−2)が共に40,000なので、Mw(g1−total)は80,000である。
【0168】
<合成例6>[ブロック共重合体(G−2)]
内部を脱気した容器に室温にて乾燥トルエン1,040g、1,2−ジメトキシエタン10g、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム30mmolを含有するトルエン溶液45g、sec−ブチルリチウム7.3mmol、メタクリル酸メチル64gをこの順に加え、室温で1時間反応させた。反応液に含まれる重合体の重量平均分子量Mw(g1−1)は9,700だった。
次いで反応液を−25℃にし、アクリル酸n−ブチル184gを2時間かけて滴下した。反応液に含まれる重合体の重量平均分子量は37,600だった。メタクリル酸メチル重合体ブロックの重量平均分子量Mw(g1−1)は9,700だったので、アクリル酸n−ブチルからなるアクリル酸エステル重合体ブロックの重量平均分子量Mw(g2)を27,900と決定した。
続いてメタクリル酸メチル161gを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌して、2つめのメタクリル酸エステル重合体ブロックを形成した。その後、反応液にメタノール4gを加えて重合を停止させた後、反応液を大量のメタノールに注ぎ、濾物を80℃かつ1torrの条件で12時間乾燥させてブロック共重合体(G−2)を単離した。得られたブロック共重合体(G−2)の重量平均分子量は62,000だったので、メタクリル酸メチル重合体ブロックの重量平均分子量Mw(g1−2)を24,400と決定した。また、ブロック共重合体(G−2)の数平均分子量に対する重量平均分子量の比Mw/Mnは1.11だった。
【0169】
<合成例7>[ブロック共重合体(G−3)]
内部を脱気した容器に室温にて乾燥トルエン1,040g、1,2−ジメトキシエタン10g、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム30mmolを含有するトルエン溶液48g、sec−ブチルリチウム8.1mmol、メタクリル酸メチル72gをこの順に加え、室温で1時間反応させた。反応液に含まれる重合体の重量平均分子量Mw(g1−1)は9,900だった。
次いで反応液を−25℃にし、アクリル酸n−ブチル307gを2時間かけて滴下した。反応液に含まれる重合体の重量平均分子量は32,300だった。メタクリル酸メチル重合体ブロックの重量平均分子量Mw(g1−1)は9,900だったので、アクリル酸n−ブチルからなるアクリル酸エステル重合体ブロックの重量平均分子量Mw(g2)を42,200と決定した。 続いてメタクリル酸メチル72gを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌して、2つめのメタクリル酸エステル重合体ブロックを形成した。その後、反応液にメタノール4gを加えて重合を停止させた後、反応液を大量のメタノールに注ぎ、濾物を80℃かつ1torrの条件で12時間乾燥させてブロック共重合体(G−3)を単離した。得られたブロック共重合体(G−3)の重量平均分子量は62,000だったので、メタクリル酸メチル重合体ブロックの重量平均分子量Mw(g1−2)を9,900と決定した。また、ブロック共重合体(G−3)の数平均分子量に対する重量平均分子量の比Mw/Mnは1.19だった。
【0170】
<合成例8>[多層構造体(E−1)]
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器に、イオン交換水1050質量部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.5質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換した後、内温を80℃に設定した。そこに過硫酸カリウム0.25質量部を投入して5分間攪拌した後、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル:メタクリル酸アリル=94:5.8:0.2(質量比)からなる単量体混合物245質量部を50分かけて連続的に滴下し、滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
次いで同反応器にペルオキソ2硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間攪拌した後、アクリル酸ブチル80.6質量%、スチレン17.4質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下し、滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
続いて同反応器にペルオキソ2硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間攪拌した後、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル=94:6(質量比)からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下供給し、滴下終了後、さらに60分間重合反応を行って、多層構造体(E−1)を得た。
【0171】
<製造例1>[熱可塑性重合体組成物(X−1)]
合成例1で得た熱可塑性エラストマー(A−1)100質量部、合成例2で得たポリビニルアセタール樹脂(B−1)19質量部および合成例3で得た極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B−2)25質量部を二軸押出機(東芝機械社製;TEM−28、以下の製造例において全て同様)を用いて230℃で溶融混練した後、ストランド状に押出して切断し、熱可塑性重合体組成物(X−1)のペレットを製造した。
【0172】
<製造例2>[非晶性樹脂(Y−1)]
合成例4で得たメタクリル樹脂(F−1)80質量部および合成例5で得たブロック共重合体(G−1)20質量部を二軸押出機を用いて230℃で溶融混練した後、ストランド状に押出して切断し、非晶性樹脂(Y’−1)のペレットを得た。
次いで前記非晶性樹脂(Y’−1)100質量部およびカーボンブラック(三菱化学社製;#980)2質量部を二軸押出機を用いて200℃で溶融混練した後、ストランド状に押出して切断し、Tgが126℃である非晶性樹脂(Y−1)のペレットを得た。
【0173】
<製造例3>[非晶性樹脂(Y−2)]
製造例2において、カーボンブラックの量を2質量部から0.5質量部に変更した以外は製造例2と同様にして、Tgが126℃である非晶性樹脂(Y−2)のペレットを得た。
【0174】
<製造例4>[非晶性樹脂(Y−3)]
製造例2において、カーボンブラックの量を2質量部から12質量部に変更した以外は製造例2と同様にして、Tgが126℃である非晶性樹脂(Y−3)のペレットを得た。
【0175】
<製造例5>[非晶性樹脂(Y−4)]
メタクリル樹脂(クラレ社製;パラペットH1000B、230℃かつ荷重37.3NにおけるMFRが22g/10分)30質量部、合成例6で得たブロック共重合体(G−2)50質量部、合成例7で得たブロック共重合体(G−3)20質量部およびカーボンブラック(三菱化学社製;#980)2質量部を二軸押出機を用いて230℃で溶融混練した後、ストランド状に押出して切断し、Tgが125℃である非晶性樹脂(Y−4)のペレットを得た。
【0176】
<製造例6>[非晶性樹脂(Y−5)]
メタクリル樹脂(F−1)88質量部、多層構造体(E−1)12質量部およびカーボンブラック(三菱化学社製;#980)2質量部を二軸押出機を用いて230℃で溶融混練した後、ストランド状に押出して切断し、Tgが129℃である非晶性樹脂(Y−5)のペレットを得た。
【0177】
<製造例7>[非晶性樹脂(Y−6)]
製造例6において、メタクリル樹脂(F−1)を88質量部から80質量部に、多層構造体(E−1)を12質量部から20質量部に変更した以外は製造例6と同様にして、Tgが129℃である非晶性樹脂(Y−6)のペレットを得た。
【0178】
<製造例8>[非晶性樹脂(Y−7)]
製造例6において、メタクリル樹脂(F−1)を88質量部から72質量部に、多層構造体(E−1)を12質量部から28質量部に変更した以外は製造例6と同様にして、Tgが129℃である非晶性樹脂(Y−7)のペレットを得た。
【0179】
<製造例9>[非晶性樹脂(Y−8)]
ポリエチレンテレフタレート樹脂(クラレ社製;クラペットKS760K )100質量部およびカーボンブラック(三菱化学社製;#980)2質量部を二軸押出機を用いて230℃で溶融混練した後、ストランド状に押出して切断し、Tgが75℃である非晶性樹脂(Y−8)のペレットを得た。
【0180】
<実施例1>
製造例1で得た熱可塑性重合体組成物(X−1)のペレットおよび製造例2で得た非晶性樹脂(Y−1)のペレットをそれぞれ単軸押出機(G.M.ENGINEERING社製;VGM25−28EX)のホッパーに投入し、マルチマニホールドダイを用いて共押出しし、幅30cmかつ厚さ250μmの多層フィルムを得た。各層の厚さは押出流量により制御し、接着層の厚さを100μm、基材層の厚さを150μmとした。得られた多層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0181】
続いて、得られた多層フィルムを用いて成形体を製造した。すなわち、チャンバーボックス(C1)とチャンバーボックス(C2)を閉めることでチャンバーボックス(C)を形成する成形機(布施真空株式会社製;NGF−0406−T)を使用してTOM成形を行った。係る成形機のチャンバーボックス(C2)に、多層フィルムの接着層が被着体に面するようにポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製;MA03)からなるシート状の被着体(長さ150mm×幅25mm×厚さ0.3mm)および得られた多層フィルムを入れ、該多層フィルムがチャンバーボックス(C)を二分するようにチャンバーボックス(C1)およびチャンバーボックス(C2)で該多層フィルムを挟み、チャンバーボックス(C1)およびチャンバーボックス(C2)を閉めてチャンバーボックス(C)を形成した。その後、90秒間でチャンバーボックス(C)内を0.5kPaに減圧した。このとき減圧度の非平衡および多層フィルムの自重によって多層フィルムがたわむため、チャンバーボックス(C1)およびチャンバーボックス(C2)内の圧力を適宜調整して多層フィルムを平行に保った。減圧と並行して赤外線加熱装置により多層フィルムを120秒間加熱し、多層フィルムの温度が130℃に到達したとき速やかにチャンバーボックス(C1)内を大気圧に戻すことで被着体を多層フィルムで被覆し、多層フィルムが無延伸で被着体に接着された成形体を成形した。なお、多層フィルムの温度は放射温度計で測定した。その後、チャンバーボックス(C)を開放し、成形体をチャンバーボックス(C2)から取り出した。得られた成形体の評価結果を表1に示す。
また、前記成形体の製造方法において、被着体と一緒に凹型の金型(縦250mm×横160mm×深さ25mm)をチャンバーボックス(C2)に入れ、該金型の底部に被着体を設置した以外は前記成形体の製造方法と同様にして、多層フィルムが延伸されて被着体に接着された成形体を成形した。得られた成形体の評価結果を表1に示す。
【0182】
<実施例2〜6>
実施例1において、接着層および多層フィルムの厚さを表1に示した通り変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムおよび成形体を得た。
【0183】
<実施例7〜8>
実施例1において、基材層および多層フィルムの厚さを表1に示した通り変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムおよび成形体を得た。
【0184】
<実施例9〜12>
実施例1において、非晶性樹脂(Y−1)を表1に示した通り変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムおよび成形体を得た。
【0185】
<比較例1>
実施例1において、基材層の厚さを150μmから600μmに変更し、多層フィルムの厚さを250μmから700μmに変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムを実施例1と同様にTOM成形したところ、多層フィルムが無延伸で被着体に接着された成形体は得られたが、被着体と一緒に凹型の金型をチャンバーボックス(C2)に入れて該金型の底部に被着体を設置する、多層フィルムが延伸される条件では、110〜160℃のいずれの温度でも多層フィルムが破断してしまい成形体を得られなかった。
【0186】
<比較例2>
実施例1において、非晶性樹脂(Y−1)を製造例4で得た非晶性樹脂(Y−3)に変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムを実施例1と同様にTOM成形したところ、多層フィルムが無延伸で被着体に接着された成形体は得られたが、被着体と一緒に凹型の金型をチャンバーボックス(C2)に入れて該金型の底部に被着体を設置する、多層フィルムが延伸される条件では、110〜160℃のいずれの温度でも多層フィルムが破断してしまい成形体を得られなかった。
【0187】
<比較例3>
実施例1において、非晶性樹脂(Y−1)を製造例5で得た非晶性樹脂(Y−4)に変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムを実施例1と同様にTOM成形したところ、多層フィルムが無延伸で被着体に接着された成形体は110〜160℃のいずれの温度でも得られた。多層フィルムが延伸されて被着体に接着された成形体は、110〜140℃では問題なく得られたものの、150℃および160℃では多層フィルムが垂れて成形体に多数の皺が発生した。
【0188】
<比較例4>
実施例1において、非晶性樹脂(Y−1)を製造例9で得た非晶性樹脂(Y−8)に変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムを実施例1と同様にTOM成形したところ、多層フィルムが無延伸で被着体に接着された成形体は得られたが、被着体と一緒に凹型の金型をチャンバーボックス(C2)に入れて該金型の底部に被着体を設置する、多層フィルムが延伸される条件では、110〜160℃のいずれの温度でも多層フィルムが破断してしまい成形体を得られなかった。
【0189】
【表1】

【0190】
表1の結果から、実施例1〜12で得られた多層フィルムは延伸性、隠蔽性、三次元被覆成形性、接着性に優れる。実施例1〜3、5〜12は接着層である熱可塑性重合組成物が厚いため接着強度が高い。比較例1、2、4では延伸性が低くTOM成形においてフィルム破断が起こり成形性が悪い。比較例3では高温での弾性率が低いため、150℃以上でのTOM成形ではフィルムが垂れて皺となった。
【0191】
<参考例1>
製造例2で得られた基材の170℃における弾性率は1MPaだった。実施例1において、多層フィルムの加熱温度を130℃から170℃に変更した以外は実施例1と同様にTOM成形したところ、多層フィルムが垂れて成形体に多数の皺が発生した。
【0192】
<参考例2>
製造例2で得られた基材の100℃における弾性率は1010MPaだった。実施例1において、多層フィルムの加熱温度を130℃から100℃に変更した以外は実施例1と同様にTOM成形したところ、多層フィルムが無延伸で被着体に接着された成形体は得られたが、被着体と一緒に凹型の金型をチャンバーボックス(C2)に入れて該金型の底部に被着体を設置する、多層フィルムが延伸される条件では、多層フィルムが破断してしまい成形体を得られなかった。