(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。各実施例で述べるナノポアとは、薄膜に設けられた表裏を貫通するナノサイズの孔である。薄膜は主に無機材料によって形成される。薄膜材料の例としてはSiN,SiO
2,Graphene,Graphite,Siなどがあるが、他に有機物質、高分子材料などを含むこともできる。ナノポアを有するナノポア薄膜は、ナノポアデバイス上の一部に形成されており、上下に支持膜を持たず縁部がナノポアデバイスに支持されて宙に浮いた構造を有する。本明細書で云う生体分子には、核酸、タンパク質、アミノ酸、長鎖高分子等が含まれる。
【0016】
<実施例1>
本発明の搬送制御機構を有する生体分子測定装置、及びその装置を用いた生体分子の配列読取の例について説明する。
図1は、生体分子測定装置の構成例を説明する断面模式図である。
【0017】
本実施例の生体分子測定装置100は、ナノポアデバイス101により隔てられた上下2つの液槽を有し、各液槽には電解質溶液102が満たされている。電解質溶液としてはKCl,NaCl,LiCl,MgCl
2などが用いられる。またこれらの溶液に対して、生体分子のフォールディング抑制のために4M以上のUreaを混在することも可能である。また、生体分子の安定化のため、緩衝剤を混在させることも可能である。緩衝剤としては、TEやPBSなどが用いられる。ナノポアデバイス101には薄膜113が形成されており、薄膜113中のいずれかの位置にナノポア112が形成されている。上下2つの液槽は、ナノポアデバイス101に支持された薄膜113のナノポア112を介して連通している。2つの液槽には各々Ag/AgCl電極103a,103bが電解質溶液102に接触するようにして配置されており、電極103a,103b間には電源104及び電流計109が接続されている。電流計109は、ADC、PC110に接続され、取得された電流値を記録できる。一方で、上部の液槽には、駆動機構105が設置され、駆動機構制御ユニット106に接続されている。駆動機構105には接続部材111により生体分子固定部材(以下、単に固定部材という)107が連結している。固定部材107は薄膜113より大きなサイズを有し、固定部材107の平坦な下面には生体分子108が固定される。
【0018】
ナノポア112が形成された薄膜113に固定部材107が接触すると、薄膜113が破壊される恐れがある。そのため、駆動機構105によって駆動された固定部材107がナノポアデバイス101に向かって降下するときに、固定部材107と薄膜113との接触を防止するためにストップ手段が設けられている。本実施例のストップ手段は、ナノポアデバイス101の薄膜113より外側の周囲を土手のように囲み、固定部材107と薄膜113の間に空間を形成する空間形成部材114である。空間形成部材114の中心に形成された円形空間の中にナノポア112を有する薄膜113が配置され、薄膜113の寸法は固定部材107の寸法より小さい。従って、ナノポアデバイス101に向けて移動してきた固定部材107は、薄膜113に接触する前に空間形成部材114に突き当って停止し、薄膜113に接触して破壊することがない。薄膜の寸法は、薄膜強度及び電圧印加による穴形成の際に二個以上の穴が形成されにくい面積である必要があるため直径で100〜500nm程度、DNA一塩基分解能を達成するためには、一塩基相当の実効膜厚を有するナノポアを形成可能な膜厚1nm程度が適当であり、空間形成部材の膜厚は薄膜の強度を保つことや、生体分子固定部材表面の生体分子の固定高さ揺らぎ考慮すると200〜500nm程度が適当である。本実施例では、薄膜113の寸法は直径500nm、空間形成部材114の膜厚は250nmである。
【0019】
ナノポアデバイスの作成法及びナノポアの形成法は既知であり、例えばItaru Yanagi et al., Sci. Rep. 4, 5000 (2014) に記載されている。本実施例では、ナノポアを形成する薄膜を以下の手順で作製した。まず、725μm厚の8インチSiウエハの表面に、Si
3N
4/SiO
2/Si
3N
4を12nm/250nm/100nm、裏面にSi
3N
4を112nm成膜した。次に、表面最上部のSi
3N
4を500nm四方、及び裏面のSi
3N
4を1038μm四方、それぞれ反応性イオンエッチングした。さらに裏面のエッチングにより露出したSi基板をTMAH(Tetramethylammonium hydroxide)にてエッチングした。Siエッチングの間は、表面側SiOのエッチングを防ぐためウエハ表面を保護膜(ProTEK
TMB3primer and ProTEK
TMB3, Brewer Science, Inc.)で覆った。保護膜を取り除いた後、500nm四方で露出しているSiO層をBHF溶液(HF/NH
4F=1/60、8min)にて取り除いた。これにより、膜厚12nmの薄膜Si
3N
4が露出したナノポアデバイスが得られる。この段階では、薄膜にナノポアは設けられていない。
【0020】
ナノポアデバイスに露出した薄膜へのナノポア形成は、パルス電圧により以下の手順で行った。上記のようにして作成したナノポアデバイスを生体分子測定装置にセットする前に、Ar/O
2 plasma(SAMCO Inc., Japan)によって10W、20sccm、20Pa、45secの条件でSi
3N
4薄膜を親水化した。次に、ナノポアデバイスを介して上下2槽に分離する構成の生体分子測定装置にナノポアデバイスをセットした後、1M KCl、1mM Tris−10mM EDTA、pH7.5溶液を満たし、各槽にAg/AgCl電極を導入した。
【0021】
ナノポアを形成するための電圧印加及びナノポアが形成された後にナノポアを介して流れるイオン電流計測はこのAg/AgCl電極間で行われる。下槽をcis槽、上槽をtrans槽と呼び、cis槽電極側の電圧V
cisを0Vに設定し、trans槽電極側の電圧V
transを選択した。選択された電圧は、パルス発生器(41501B SMU AND Pulse Generator Expander, Agilent Technologies, Inc.)で印加した。各パルス印加後の電流値は電流アンプ(4156B PRECISION SEMICONDUCTOR ANALYZER, Agilent Technologies, Inc.)で読み取った。ナノポア形成のための電圧印加及びイオン電流読取のプロセスは自作プログラム(Excel VBA, Visual Basic
(登録商標) for Applications)で制御した。パルス電圧印加条件は、パルス電圧印加前に薄膜に形成されているポア径に応じて取得される電流値条件(閾値電流)を選択することで、順次ポア径を大きくし、目的のポア径を得た。ポア径はイオン電流値から見積もった。条件選択の基準は表1の通りである。ここでn番目のパルス電圧印加時間は
t
n=10
-3+(1/6)(n-1)−10
-3+(1/6)(n-2) for n>2
で決定される。
【0023】
ナノポアの形成はパルス電圧印加による以外に、TEMによる電子線照射によっても可能である(A. J. Storm et al., Nat. Mat. 2 (2003))。
【0024】
図1に戻り、Ag/AgCl電極103a,103bを介して電源104から上下2槽の液槽に電圧が印加されると、ナノポア112の近傍に電場が生じ、液中で負に帯電した生体分子108はナノポア112内を通過する。一方で、生体分子108の末端は固定部材107に固定されているため、電場により生体分子108を介して固定部材107や駆動機構105が下槽の方向に引っ張られる。
【0025】
ここで、例えばDNAの塩基配列を精度よく読み取るためには、駆動機構の出力揺らぎ、及び外乱由来の振動が起きた際に、生体分子108の変位が1塩基分の長さ、すなわち0.34nm以上変化しない構成である必要がある。
【0026】
次に、この要件を満たすための条件について検討する。ヤング率Eとすると、Eは次のように表される。
【0028】
ここで、Fは系に印加される力、Sは材料の面積、Lは材料の長さ、ΔLは印加されたちからを受けた際の変位量である。ナノポアを介して、上下に1mV印加した際に、DNAにかかる力は0.24pNであることが分かっている(Ulrich F. Keyser et al., Nat. Phys. 2, 473-477 (2006))。解析中の印加電圧の揺らぎが0.1mV程度起こりうることから、その際0.34nm以上変位しないことが必要である。従って、固定部材107と駆動機構105及びその接続部材111のヤング率は、0.07(L/S)[μN/mm
2]以上を有する必要がある。
【0029】
また、計測システムが熱的に安定であることも重要である。熱源がない場合でも、空間は0.1度の揺らぎを持つことが知られている。したがって、系に用いた材料全体から算出される、ナノポアデバイス−生体分子固定基板間の距離の温度変化が0.1℃あたり0.34nm以下である必要がある。
【0030】
そのため、接続部材111にはステンレス製もしくはインバーなどを用いて作製されたネジ等を用いるのが良い。あるいは、固定部材107を駆動機構105に真空吸着あるいは圧着して固定することも可能である。駆動機構105はピエゾ素子に代表される圧電材料で形成されており、0.1nm/s以上の駆動が可能である。圧電材料としては、チタン酸バリウム(BaTiO
3)や、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、酸化亜鉛(ZnO)などが用いられる。
【0031】
生体分子108の末端と固定部材107の表面は互いに共有結合、イオン結合、静電相互作用、磁気力などで結合することができる。例えば、共有結合でDNAを固定する際には、APTES、グルタルアルデヒドを介してDNA末端修飾されたDNAを固定することができる。固定部材107は上記結合を利用するために、APTESの足場となるSi,SiOが利用される。他の共有結合法としては、金チオール結合が利用できる。DNAの5’末端をチオール修飾し、固定部材107の表面は金蒸着する。固定部材107に蒸着する金属種は他にも、チオールが結合可能なAg,Pt,Tiを利用できる。
【0032】
イオン結合を利用する方法は、固定部材を表面修飾により溶液中で正に帯電する処理を施すことにより、正に帯電した固定部材表面に負に帯電した生体分子を固定する方法である。カチオン性のポリマとしては、ポリアニリンやポリリシンが用いられる。静電相互作用を利用する場合には、APTES修飾した固定部材107の表面に直接アミノ末端修飾されたDNAを固定することができる。また、基板表面として、ニトロセルロース膜、ポリフッ化ビニリデン膜、ナイロン膜、ポリスチレン基板が広く利用される。特にニトロセルロース膜は、マイクロアレイ技術に利用されている。磁気力を利用する際には、例えば磁気ビーズ表面に上記のような結合を利用して、DNAを予め固定化しておく。さらに固定部材107として磁石材料を用いることで、DNAを固定化した磁気ビーズと固定部材107を相互作用させ、磁力によるDNA固定化磁気ビーズの吸引を実現する。磁性材料としては、鉄、ケイ素鋼、アモルファス磁性合金、ナノクリスタル磁性合金などが用いられる。
【0033】
生体分子としてタンパク質やアミノ酸を測定する場合においても同様に、特異結合部位への修飾を施し、同様の手法にて固定基板に結合させることが出来る。これによってタンパク質中の結合部位の特定、及びアミノ酸の配列情報を得ることが出来る。
【0034】
固定部材107上の生体分子108の固定密度は、ナノポア112周辺に形成される電場の広がり量で決める。
図2は、ナノポア周辺に生成される電場とナノポアへの生体分子の導入例を示す模式図である。
図2に示すように、ナノポア112の周辺に広がる電位勾配201は、ナノポア112からの距離L、ナノポア径d、薄膜の厚みt、印加した電圧ΔVの間に、
【0036】
の関係があり、例えば、膜厚2.5nmの薄膜に形成された直径1.4nmのナノポアを挟んで100mVの電圧を印加した場合、ナノポアから100nmの領域で、0.1[V/μm]の電場が伝播している。
【0037】
ここで、生体分子の電気的移動度μや拡散係数Dから、生体分子がこの電場に閉じ込められてナノポアに導入される範囲が求まる。その範囲をL
diffとすると次式で表される。
【0039】
固定部材107が薄膜113に最も近づいた際の距離をlとする。また、生体分子の溶液中での実効長さをbとすると、以上から、生体分子固定ピッチaは次のようになる。
【0041】
上記を実現するため、例えば固定部材107上にDNAを修飾する際、目的のDNA以外に、末端修飾された短鎖長ポリマ206を混在させたDNA溶液を用いると、
図3に示すように、生体分子(DNA)108が末端修飾された短鎖長ポリマ206と混在して固定され、目的のDNA固定密度が実効的に低いDNA固定部材を作製できる。例えば、20mer poly(dA)を75%含むDNA溶液を用いて固定部材を用意すると、2.5〜3nmのポア径を有するナノポアを用いて、一つのポアに複数本のDNAが入る現象を排除できることを確認している。つまり約100nmピッチで固定できていると考えられる。混合する短鎖ポリマの長さは、2nm程度とは限らない。
【0042】
図4は、固定部材への生体分子の結合手順及び固定部材の生体分子測定装置への設置手順の例を説明する模式図である。電極は図示を省略している。
図4に示した測定前の準備工程は3つの工程からなる。
図4(a)に示す第1の工程では、固定部材107上に生体分子108を固定する。
図4(b)に示す第2の工程では、固定部材107と駆動機構105を接続し、生体分子測定装置の上槽に挿入する。
図4(c)に示す第3の工程では、ナノポアデバイス101の上下の空間に電解質溶液102を導入する。
【0043】
図5は、固定部材への生体分子の結合手順の他の例を示す模式図である。電極は図示を省略している。
図5に示した測定前の準備工程は2つの工程からなる。
図5(a)に示す第1の工程では、固定部材107を駆動機構105に接続し、生体分子測定装置の上槽に挿入する。
図5(b)に示す第2の工程では、固定部材107に結合しうる状態の生体分子108が溶解している生体分子混合電解質溶液403を生体分子測定装置の上槽と下槽に流し込む。
【0044】
ここで生体分子を固定部材の表面に結合するための結合材料は、非特異的な吸着を極力少なくし、固定部材の表面上で目的の結合が行われる密度を高めるために、予め固定部材の表面に修飾しておくことが必要である。結合材料とは、例えば、APTESグルタルアルデヒドを介した共有結合を利用して生体分子を固定する場合、APTES及びグルタルアルデヒドのことを指す。イオン結合を利用して生体分子を固定する場合、基板表面の有機材料のことを指す。
【0045】
生体分子が長鎖DNAである場合、特に複数のグアニンが続けて並んでいるような配列においては、DNAの強固なフォールディングが問題になる。DNAがフォールディングを起こしていると、ナノポア近傍で詰まり、ナノポアを通過しないなどの現象が起きうる。そのため、高温、特に60℃から98℃で10分から120分、DNAを固定した固定部材を水中で加熱し、4℃まで急冷する処理を施すのが良い。その後、4℃又は室温のKCl溶液中で測定する。
【0046】
図6は、固定部材の駆動手順を示す模式図である。電極は図示を省略している。固定部材の駆動法は
図6に示す三つの工程からなる。
図6(a)は、
図4あるいは
図5に示した手順により、測定すべき生体分子108が下面に固定された固定部材107が生体分子測定装置の上部の液槽に挿入され、上下の液槽に電解質溶液が導入されて測定準備ができた状態を示している。
【0047】
図6(b)に示す固定部材駆動の第1の工程では、駆動機構制御ユニット106により駆動機構105を駆動制御し、固定部材107をz軸下方に駆動し、固定部材107に固定された生体分子108を、薄膜113のナノポア112の近傍に生成した電位勾配201内に入れる。このとき、生体分子108が負に帯電していれば、もしくは負に帯電する修飾をした場合、電場からの力を受け、生体分子108は固定されていない自由末端からナノポア112を通り下部の液槽に移動しようとする。生体分子108は、ナノポア112を通過して電位勾配201内に位置する部分と固定部材107上に固定されている末端の間で引き伸ばされた状態となる。ナノポア112内に生体分子が導入されたことはイオン電流からモニタできる。
【0048】
図6(c)に示す第2の工程では、駆動機構105により更に固定部材107をz軸方向下方に駆動し、ナノポアデバイス101上に形成された空間形成部材114に接触させ、ここで駆動機構105による固定部材107の移動を止める。薄膜113の上方に空間形成部材114が存在することにより、固定部材107と薄膜113の接触が避けられ、薄膜113が破壊されるのを防ぐことができる。第2の工程を完了した時点で、薄膜113のナノポア112内に生体分子108が入っていない場合には、一定時間、駆動機構105の駆動を停止することで導入確率を上げることができる。
図6(c)には、駆動機構105の側面模式図と固定部材107の下面模式図も合わせて示した。固定部材107の下面には図示するようにスリット507が設けてあり、固定部材107が空間形成部材114に接触した状態においても、上下の槽に配置された電極の間に電流路が確保されるようになっている。
【0049】
図6(d)に示す第3の工程では、駆動機構制御ユニット106により駆動機構105をナノポアデバイス101から離れる方向に駆動する。このとき生体分子108は電場で引き伸ばされながら、固定部材107に引っ張られてナノポア112内を上方向に移動することになり、この間に生体分子の配列が、イオン電流の変化量から読み取られる。電流計109で読み取られた信号値は必要に応じて増幅され、PC110に記録される。
【0050】
第2の工程で固定部材107が空間形成部材114に接触した時点が、第3の工程で行う生体分子特性解析の解析開始点となる。従って、生体分子の全長のうち、固定点から空間形成部材114の高さ分の領域は、ナノポア112内を通過せず解析できないことになる。ここで
図7に示すように、固定部材107に生体分子108を固定する際に、空間形成部材114の高さ分のリンカー901を介して固定部材107と結合させることで、生体分子108中の全ての配列を読み取ることが可能となる。
【0051】
図8は、イオン電流信号の検出例を示す模式図である。ナノポアデバイスに対する固定部材の位置関係の模式図を上段に、イオン電流信号変化のグラフを中段に、駆動機構変位のグラフを下段に示した。下段の駆動機構変位zは、ナノポアデバイスと固定部材の間の距離に対応する。また、イオン電流信号中の特徴点に対応する固定部材とナノポアデバイスの位置関係を矢印で示した。
【0052】
図8を参照すると、固定部材107がナノポアデバイスに近接する前は、ナノポア径に応じたイオン電流信号I
0が得られている。生体分子108がナノポア112に入った際に、生体分子の平均直径に応じたイオン電流量の減少が起きる。このとき生体分子がナノポアを通過する速度は、固定部材の駆動速度ではなく、生体分子の自由電気泳動のスピードである。これは、生体分子が電場外から電場内に入る際、生体分子はフォールディングし撓んでいるため、端部が固定部材に固定されていることによる影響を受けないからである。この際、測定分解能を得られず、取得されるイオン電流値は、生体分子平均直径に依存した平均的な電流値I
bを示すことになる。
【0053】
固定部材107がナノポアデバイスの空間形成部材114と接触した後に、駆動機構105によって生体分子を引き上げる際の生体分子の運搬速度は、固定部材105の移動速度に等しくなるため、特性分解能に必要な速度で運搬できる。例えばDNA鎖に含まれる個々の塩基種の違いを封鎖電流量で計測するには、計測時の電流ノイズ及びDNA分子の揺らぎの時定数から、DNAのナノポア通過速度を1塩基あたり100μs以上にする必要があると考えられる。従って駆動機構105を制御して固定部材107を1塩基あたり100μs以上より遅い速度で上方に移動させることにより、生体分子の塩基配列を反映した信号が得られる。一方で、解析スループットは高く維持されている必要があるため、一塩基あたり10ms以上かからないことが望まれる。すなわち、駆動機構は生体分子固定部材を34nm/sec〜34μm/secの間の速度で駆動するのが好ましい。
【0054】
ここで生体分子の配列を示すデータの取得方法は、イオン電流の変化量に限られない。ナノポアデバイス上にトンネル電流用電極が形成され、その近傍にナノポアが形成された場合には、トンネル電流量変化により生体分子の配列を解析することができる(Makusu Tsutsui et at, Nat. Nanotechnol. 5, 286-290 (2010))。また、FETデバイスにナノポアが形成された場合は、電荷量変化から配列を解析することができる。あるいは、光を用いた解析も可能であり、この場合、吸収量、反射量、発光波長等から生体分子の配列を解析することができる(Ping Xie et al., Nat. Nanotechnol. 7, 119-125 (2012))。本発明では、イオン電流に代えて、これらの既知の方法を用いてナノポア112内を移動する生体分子を解析してもよい。
【0055】
図9は、固定部材と薄膜との接触を防止するストップ手段の他の例を示す模式図である。
図9には駆動機構105を含む固定部材107の側面模式図、及びスリット603を有する下面図も合わせて示した。この例では、ナノポアデバイス101の上にではなく、固定部材107の下面から下方に突出するように空間形成部材601を加工した。空間形成部材601は、薄膜113より外側の位置でナノポアデバイス101と接触するように、固定部材107の下面外周、あるいは下面四隅又は対向する二辺に形成されている。すなわち、空間形成部材601は固定部材107の下面の薄膜113に対向する領域より外側の少なくとも一部に設けられている。固定部材107がナノポアデバイス101の方向に移動するとき、空間形成部材601により固定部材107と薄膜113の間に空間が形成され、薄膜113が固定部材107との接触により破壊されるのを防止する。
【0056】
図10は、固定部材と薄膜との接触を防止するストップ手段の他の例を示す模式図である。
図10(a)は、固定部材がナノポアデバイスに接触する前の状態を示し、
図10(b)は固定部材がナノポアデバイスに接触した後の状態を示している。ストップ手段は、固定部材107と薄膜113の間に両者の接触を避けるための空間を作ることができればよい。本例のストップ手段は、ナノポアデバイス101の上面と、固定部材107の下面の薄膜に対応する領域の外側の少なくとも一部にそれぞれ電極702aと電極702bを配置し、電極702a,702b間の静電容量変化から固定部材107とナノポアデバイス101間の相対距離を検出し、両者が接触したことをモニタする。電極702a,702b間に印加する電圧は、想定電流量及び計測電流に応じて選択する。また、電極の腐食や酸化を防ぐため、パルス電圧印加により計測することも可能である。固定部材107をナノポアデバイス101の方向に駆動させ、ナノポアデバイス101と固定部材107が近接した際に電極702a,702bから取得される信号変化を元に両者間の距離を検出し、駆動機構105の駆動を停止する。静電容量変化の信号を取得する代わりに、短絡から接触をモニタすることも可能である。ストップ手段を構成する電極702a,702b間に電圧を印加している間は、計測用電極103a,103bには電圧を印加しない。
【0057】
図11は、固定部材と薄膜との接触を防止するストップ手段の他の例を示す模式図である。
図11(a)に示した例では、電極801,802をナノポアデバイス101上にのみ配置して電極間を配線し、固定部材107がナノポアデバイス101に近接した際の電流量変化から固定部材107とナノポアデバイス101間の相対距離を検出する。電極801,802は、ナノポアデバイス101の上面の薄膜113の外側の領域の外周、四隅又は対向する二辺に配置する。
図11(b)に示した例では、固定部材107の下面に電極803,804を配置して電極間を配線し、同様のメカニズムで固定部材107とナノポアデバイス101間の相対距離を検出する。電極803,804は、固定部材107の下面のうち薄膜113に対応する領域の外側の四隅又は対向する二辺に配置すればよい。
【0058】
電極を四隅に4個配置した場合、固定部材107の平衡出しに利用することも可能である。その場合、駆動機構105に傾き調整機能を持たせ、4箇所から取得される電流値がほぼ一致するように、駆動機構105の傾きを調整する。例えば、4隅に独立のゴニオメータが設けられ、それを4箇所から取得した電流値に基づいて手動又は自動で調整する。
【0059】
図12は、
図11(a)に示したナノポアデバイス101上への電極配置例を示す上面模式図である。
図12(a)は、ナノポアデバイス101上の薄膜113、センサ配線806、及び電極取り出し配線807の配置図である。
図12(b)、
図12(c)はセンサ配線拡大図であり、
図12(b)は対向電極一種の例を示し、
図12(c)は薄膜113の周辺部の4箇所にリング状に対向電極808を配置した例を示している。ここで、
図12(b)に示す電極長さLが10μm、電極間隔sが0.4μm〜2μmとして設計された電極間に、1Vの電圧を印加した上で、ナノポアデバイス101に固定部材107を近接させた際の電極間電流変化をモニタした。
【0060】
図13は、固定部材−ナノポアデバイス間距離hが10μmの時に流れる電流量で規格化して示した距離hと電流量の関係を示すグラフである。
図13に示すように、固定部材とナノポアデバイス間距離が7μm以上離れると、電流量の距離h依存性は殆どないが、それ以下では距離と電流減少量に相関があることが分かった。従って、このような距離hと電流量の相関関係を取得することによって、固定部材の高さ調整が可能となる。
【0061】
固定部材の駆動法の他の例として、固定部材107上の生体分子108を事前に引き伸ばしつつ、ナノポア近傍にアプローチする方法もある。
図14、
図15は、生体分子の事前引き伸ばし機構を有する生体分子測定装置による固定部材の駆動法の例を示す断面模式図である。
【0062】
図14(a)に示すように、本例の生体分子測定装置は、固定部材107と、ナノポアデバイス101にそれぞれ電極1202a,1202bを備える。最初に、回路変換コントローラ1206により、電極1202a,1202bに接続された回路1207に電源を接続し、固定部材107とナノポアデバイス101の間に電位勾配1203を作る。すると、電位勾配1203によって、負に帯電した生体分子108は、固定部材107とナノポアデバイス101の間で引き伸ばされる。
【0063】
次に、
図14(b)に示すように、駆動機構105を駆動して固定部材107がナノポアデバイス101の空間形成部材114に接触するまで下方に駆動する。このとき、
図14(c)の拡大図に示すように、電源が電極103a,103bにつながる回路1208に接続された際にナノポア周辺に生成するはずの想定電場1209の範囲内に生体分子108を入れる。
【0064】
次に、
図15(a)に示すように、固定部材107がナノポアデバイス101の空間形成部材114に接触した際に、電極1202a,1202bに接続された回路1207から、ナノポア周辺に電場を形成する回路1208へと電源の接続を切り替える。
図15(b)に示すように、ナノポア周辺に電位勾配201を形成することにより、生体分子の先端はナノポアに挿入される。
【0065】
図14(b)に示した工程を経た後、生体分子の先端がナノポア内に入らない場合と、確率は小さいながら
図14(d)の拡大図に示すように、先端がナノポアに入る場合が存在する。先端がナノポア内に入らず電場領域内に入った場合のみ、生体分子の先端から塩基の読取が可能となる。
【0066】
図16は、生体分子の先端から読み取られた信号の例を示す模式図である。イオン電流信号変化のグラフを中段に、駆動機構変位のグラフを下段に示した。下段の駆動機構変位zは、ナノポアデバイスと固定部材の間の距離に対応する。また、イオン電流信号中の特徴点に関して、上段に示した固定部材とナノポアデバイスとの対応を矢印で示した。
【0067】
固定部材がナノポアデバイスに近接する前は、ナノポア径に応じたイオン電流信号I
0が得られている。電源を電極103a,103bに接続してナノポアの周囲に電位勾配201を形成したとき生体分子108の先端が電位勾配201内に入っているため、駆動機構105をz軸下方に駆動させると、生体分子108は自由末端から順次ナノポア112内に導入される。このとき生体分子108には撓みが存在しないため、駆動機構制御ユニット106にて設定した速度で生体分子が駆動され、生体分子の各配列に応じた特性解析が可能となる。従って、生体分子108がナノポア112に導入されてから固定部材107とナノポアデバイス101が接触するまでの時間に読み取られた信号と、駆動機構105をz軸上方向に駆動し始めてから生体分子末端がナノポア112から抜け出るまでの時間に読み取られた信号は、
図16のように、接触した時間を中心に対称な信号となる。
【0068】
固定部材107に固定された生体分子のうち、最初に測定した生体分子とは異なる生体分子の読み取りは、xy方向に駆動機構105を駆動させることによって実現できる。
図17は、生体分子測定装置の一部の断面模式図及び駆動機構105の上面模式図である。上面模式図に示すように、駆動機構105をxy方向、すなわち薄膜113の面に
平行な方向へ駆動することにより、ナノポア112に別の生体分子を通過させることができ、固定部材107上の複数の生体分子の解析が実現される。
【0069】
複数の生体分子の解析を実現するための条件を、
図18に示すナノポア近傍の拡大図を用いて説明する。
図18(a)は、第1の生体分子1405の特性解析を行った際のナノポア112を有する薄膜113と、固定部材107の位置関係を示す断面模式図である。ここで第2の生体分子1406を解析する場合、駆動機構105により固定部材107を電位勾配201の直径と同じ距離だけナノポア薄膜113の面に平行に移動させる。
図18(b)は、移動後のナノポア112を有する薄膜113と固定部材107の位置関係を示す断面模式図である。この移動により、電位勾配201の範囲内には、第1の生体分子1405は必ず入らない状態を作り出すことができる。その後、駆動機構105により固定部材107を薄膜113に向けて駆動することによって、第2の生体分子1406をナノポア112に導入して解析することが可能になる。
【0070】
<実施例2>
本発明の生体分子測定装置を用いて生体分子を測定する手順の実施例を以下に述べる。以下の全ての工程において、ナノポアを介して流れるイオン電流Iは増幅器を通して計測されている。また、上下2槽の液槽に各々挿入された一対のAg/AgCl電極間には一定の電圧が印加されており、ナノポアのサイズに応じたイオン電流量I
0が取得されている。
【0071】
図19は、生体分子としてのDNAの塩基配列を読み取る方法の例を示す説明図である。
図19の上段には、DNA塩基配列解析中の固定部材及びナノポアデバイスの代表的な2つの位置関係を示す。
図19の中段にはイオン電流変化を、下段には固定部材107の変位を示す。下段の変位zは、固定部材107とナノポアデバイス101の間の距離に対応する。また、駆動機構105による固定部材107の駆動方向を変えた時点、及びその際の固定部材107とナノポアデバイス101の位置関係を図中に示す。中段の黒矢印は上段左側に図示した第1の位置関係を取ることを示し、白矢印は上段右側に図示した第2の位置関係を取ることを示している。
【0072】
駆動機構105によりz軸下方に固定部材107を駆動すると、生体分子108の自由な末端がナノポアの中に入り、生体分子は固定部材に固定された末端とナノポアの間で引き伸ばされる。このとき、イオン電流は生体分子108の平均直径サイズに応じて減少しI
bとなる。生体分子が外から電位勾配201内に入る際、生体分子はフォールディングしているため、固定部材の移動速度ではなく、生体分子の自由電気泳動のスピードでナノポア内を通過することになり、その際のイオン電流値は、各塩基由来の電流値ではなく、生体分子平均直径に依存した平均的な電流値I
bを示すことになる。
【0073】
その後、固定部材107は駆動機構105により更にz軸下方に駆動されるが、空間形成部材114によってz軸下方への移動が妨げられて移動が停止する。このときの固定部材107、生体分子108、ナノポアデバイス101の位置関係を第1の位置関係として
図19上段左に示す。
【0074】
その後に生体分子を引き上げる際の生体分子の運搬速度は、固定部材107の駆動速度に等しくなるため、一塩基分解に必要な速度(<3.4nm/ms)で生体分子を運搬できる。従って生体分子の塩基配列を反映した信号が得られることになる。こうして駆動機構105により固定部材107をz軸上方に駆動する過程では、ナノポア112中を移動する生体分子108の配列情報を読み取ることができる。生体分子108のうち固定されていない自由末端がナノポア112から抜け、かつナノポア周辺の電位勾配201中に入っている間は、生体分子108は固定部材107とナノポア周辺の電位勾配201の双方から逆方向の力を受け、引き伸ばされている。このときの固定部材107、生体分子108、ナノポアデバイス101の関係を
図19上段右に示す。また、生体分子108はナノポア112から抜けるため、イオン電流量はI
0に戻る。この電流値の変化を検知し、駆動機構105による固定部材107の駆動を止める。
【0075】
再び駆動機構105により固定部材107をz軸下方に駆動して生体分子108を自由端からナノポアに通し、その間に生体分子108の塩基配列を読む。このとき、末端が固定部材107に固定された状態で、生体分子108の他方の自由末端が電位勾配201内に入っているため、生体分子108は全体として引き伸ばされている。従って、読み取られる信号は、ナノポア中を自由末端から駆動機構105による駆動速度で通過するため高精度な読み取りが可能となる。また、z軸上方に駆動していた間に読み取られた配列を逆方向から読み取ることになり、それを反映して対称に変化するイオン電流が計測される。再び固定部材107が空間形成部材114に接触した際に、固定部材107の駆動が止まる。
【0076】
以降は上昇下降の繰り返しにより、必要な配列読取精度が出るまで反復して読み続ける。固定部材107とナノポアデバイス101が接触した位置からイオン電流値がI
0になる位置までの変位1505は、生体分子の長さを反映している。
【0077】
<実施例3>
次に、生体分子測定装置を並列化した実施例について説明する。本発明の生体分子測定装置は、並列化したナノポアデバイスとの親和性が良い。並列化により同種の生体分子を同時に測定可能となるため、スループットの向上を測ることが可能となる。ここでは、並列化に対する3種類の例を示す。
【0078】
図20(a)は、並列化したナノポアデバイスを有する生体分子測定装置の第1例を示す断面模式図である。この例では、複数のナノポアデバイス1604が横方向に隣接して配置され、複数のナノポアデバイス1604の上部に、共通の1つの駆動機構105と固定部材107が配置されている。固定部材107は複数のナノポアデバイスの全体を覆うだけの面積を有する。並列化された複数のナノポアデバイス1604はそれぞれ独立した液槽を備え、各ナノポアデバイスの液槽にはアレイ電極1608の一つが配置され、アレイ電極1608はそれぞれ増幅器に接続されている。並列化された複数のナノポアデバイス1604の上部には1つの液槽が共通に設けられ、その液槽にはアレイ電極1608に対して共通の対向電極(共通電極)1609が配置されている。並列化されたナノポアデバイスの側方には、複数のナノポアデバイスに共通の空間形成部材1610が設けられている。個々のナノポアデバイス1604が備える液槽は、そのナノポアデバイス1604に設けられたそれぞれのナノポアを介して上部の液槽に連通している。
【0079】
固定部材107の下面には複数の生体分子108が結合している。駆動機構105をz軸下方に降下させると、固定部材107上の生体分子108が各ナノポアデバイスに設けられたナノポア中を通過する。本形態により複数のナノポアを用いて複数の生体分子の計測が同時並行にて可能となるため、計測スループットが上がる。
【0080】
図20(b)は、並列化したナノポアデバイスを有する生体分子測定装置の第2例を示す断面模式図である。この例では、複数並べられたナノポアデバイス1604の上部に、一つの駆動機構105が配置されている。ナノポアデバイス1604にはアレイ電極1608が接続している。複数のナノポアデバイス1604の上部には1つの液槽が共通に設けられ、各アレイ電極に対して共通の対向電極1609が配置されている。並列化されたナノポアデバイス1604の側方には、複数のナノポアデバイスに共通の空間形成部材1610が設けられている。駆動機構105には、複数の固定部材が接続されており、各々別種の生体分子が固定されている。これにより、同時に異なる生体分子の特性解析が実現可能となる。
【0081】
図示した例では、駆動機構105に第1の固定部材107と第2の固定部材
1605の2つの生体分子固定部材が接続されており、第1の固定部材には第1の生体分子108が結合され、第2の固定部材1605には第2の生体分子1606が結合されている。本形態により、一種類のサンプルにつき複数のナノポアを用いることが可能のみならず、複数種類のサンプルを同時に計測することが可能となり、計測スループットが上がる。
【0082】
図20(c)は、並列化したナノポアデバイスを有する生体分子測定装置の第3例を示す断面模式図である。この例では、複数並べられたナノポアデバイス1604の上部に、複数の駆動機構が配置されている。各々の駆動機構にはそれぞれ固定部材が接続しており、各々別種の生体分子が固定されている。空間形成部材も固定部材ごとに設けることが可能である。
【0083】
図示した例では第1の駆動機構105及び第2の駆動機構1607が配置されており、第1の固定部材107に第1の生体分子108が結合され、第2の固定部材1605に第2の生体分子1606が結合されている。第1の固定部材107に対して第1の空間形成部材1611が設けられ、第2の固定部材1605に対して第2の空間形成部材1612が設けられている。第1の空間形成部材1611と第2の空間形成部材1612とは膜厚が異なる。これにより長さの異なる生体分子であっても、独立の高さ調整が可能となる。ナノポアデバイスに形成された空間形成部材中にはスリット等が形成されており、固定部材が下降し、空間形成部材に接触した際に、ナノポア上部を満たしている溶液がサンプル毎に独立にならないような構成となっている。これによりナノポア上部に配置する電極は共通電極1609のみでよい。
【0084】
いずれの例においても、ナノポアの個数aと固定部材上の生体分子の数bの大小関係はa<bとなっており、生体分子を密に固定部材上に結合することによって、固定部材をナノポアデバイスに向かって垂直に降下させた際に、必ずナノポア内に生体分子が導入される。
【0085】
<実施例4>
生体分子を固定部材に固定するための他の手段として磁気ビーズを用いた実施例を示す。ここでは、生体分子測定装置として
図20(a)に示した装置を用いる例によって説明する。ただし、固定部材は磁石材料によって構成する。
【0086】
図21は、磁気ビーズを用いて生体分子を固定部材に固定し、測定する手順を説明する断面模式図である。生体分子は予め磁気ビーズに固定化したものを用意する。
【0087】
第1の工程では、
図21(a)に示すように、並列化したナノポアデバイス1604に配置されたAg/AgCl電極1608と共通電極1609間に電圧を印加して各ナノポアの周囲の電解質溶液中に電場を生成し、磁気ビーズに固定された生体分子1704を電気泳動により泳動させ、並列化されたナノポアデバイス1604のナノポアに生体分子を導入する。ここで、各ナノポア由来のイオン電流をモニタし、イオン電流の変化率から、ナノポアに生体分子が入り込んでいる有効なナノポアデバイスを確認できる。
【0088】
第2の工程では、
図21(b)に示すように、第1の工程におけるナノポアを介した電圧印加を継続しつつ、駆動機構105によって固定部材107を矢印で示すようにナノポアデバイス1604に向けて駆動し、磁力によって磁気ビーズを固定部材107に引き付けて固定させる。
【0089】
第3の工程では、
図21(c)に示すように、駆動機構105によって固定部材107を矢印で示すようにナノポアデバイス1604から離れる方向に制御された速度で駆動し、ナノポアの中を移動する生体分子に起因して変化するイオン電流を電流計で検出し、PCに記録する。圧電素子からなる駆動機構105は任意の速度で固定部材107を駆動することができ、特にDNAの配列を読む場合には、磁気ビーズに固定化されたDNAを3.4nm/ms以下の速度でナノポア内を移動させることにより高精度な読み取りが可能となる。
【0090】
本実施例によると、ナノポアと生体分子の初期の位置合わせが不要である。また、ナノポア近傍に生成した電場内に拡散させてナノポア内に生体分子を導入することが可能であるため、並列化したナノポア内のうち生体分子が通過しないナノポアが存在する確率を低減することができる。
【0091】
<実施例5>
図22は、駆動機構による固定部材の駆動に伴う封鎖電流解消の様子を示す図である。
図1に示した生体分子測定装置を用い、APTES/グルタルアルデヒド修飾した表面に鎖長5kのss−poly(dA)を固定した固定部材をナノポアデバイスのナノポア近傍まで近づけた。その結果、
図22(a)に示すように、封鎖信号が確認され、固定部材をナノポアデバイスから離すと、封鎖信号が解消した。
図22(b)に、
図22(a)と同一時間での固定部材の軌跡を示す。カウンタ変位が増えるにつれ、ナノポアデバイスと固定部材は近接する。イオン電流の減少を確認してから約1秒後に、駆動機構による固定部材の駆動を停止した。約10秒後に、ナノポアデバイスと固定
部材の距離を離し始め、再び、イオン電流が増大した時点で(30秒経過後に)再び駆動機構による駆動を停止させた。これは、DNAを固定した固定部材をナノポアに近づけるとイオン電流が減少し、ナノポアから遠ざけることで元の電流値に戻ったことから、駆動機構による固定部材の駆動により、DNAのナノポアへの導入、引き抜きが生じたことを示している。
【0092】
固定部材をナノポアデバイスから離すために駆動機構を駆動し始めた時間から、封鎖信号が解消された時間まで(DNA駆動時間)を、
図22(b)に示すようにt
outと定義する。一方、駆動機構の設定速度に応じたカウンタ速度との関係から固定部材の移動速度を求めた。各固定部材の移動速度に対して取得されたDNA駆動時間(t
out)の関係を
図23に示す。図中のプロットは実験値である。ここで、各計測における、DNA駆動距離すなわちDNAのナノポア内に導入される最大長は、DNAによりナノポアが封鎖されてから固定部材の駆動が止まった位置で決まる。駆動機構による固定部材の駆動は、ナノポアにDNAに入った事を示す封鎖信号を目視で確認し、手動で止めているため、実際にDNAがナノポアに入ってから固定部材の駆動が止まるまで、最短約一秒程度かかっていると考えられる。従って、最短でも60−100nm程度のDNAが必ずナノポアに入ることになる。
【0093】
図23において、実線は固定したDNAの長さから求められる最大DNA駆動時間の計算値である。また、破線は60nmのDNAが入った際にかかる最小DNA駆動時間の計算値である。実験的に計測されたDNA駆動時間は、実線から破線までの範囲内に入っていることから、取得された封鎖信号は固定部材上のDNA由来のものであることを示し、実測値は妥当であると考えられる。また実測されたDNA駆動時間は固定部材の移動速度が遅くなるほど、DNA駆動時間が長くなる方向に分布している。これは固定部材上のDNAが駆動機構の駆動速度に依存してナノポア内を搬送されていることを示す結果と考えられる。
【0094】
図24は、dA50dC50のポリマが繰り返し伸張した分子((dA50dC50)m)を同様に固定部材に結合し計測した結果を示す図である。固定部材をナノポアデバイスに近接させると、
図22で取得したような封鎖信号を確認した。封鎖後の電流を解析すると、二準位の信号を得た。このように、生体分子を固定部材に結合させ、分子通過速度を下げることによって、分子種に応じた封鎖信号強度が異なる様子を計測することが可能となった。
【0095】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。