特許第6560061号(P6560061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6560061熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび熱電変換材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560061
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20190805BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20190805BHJP
   H01L 35/26 20060101ALI20190805BHJP
   C01B 33/06 20060101ALN20190805BHJP
【FI】
   H01L35/14
   H01L35/34
   H01L35/26
   !C01B33/06
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-166849(P2015-166849)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-45841(P2017-45841A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年4月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】菊地 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田所 准
(72)【発明者】
【氏名】江口 立彦
【審査官】 加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−050265(JP,A)
【文献】 特開2014−157875(JP,A)
【文献】 特開2015−002181(JP,A)
【文献】 特開2014−157876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
H01L 35/26
H01L 35/34
C01B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si系クラスレート化合物を主体とし、
前記Si系クラスレート化合物の母相中に、第二相としてNb−Si化合物が分散しており、
短径10nm以上の前記Nb−Si化合物の粒子が前記母相中で10000μmあたり1個以上存在し、前記母相に占める前記粒子の割合が面積分率にて50%以下であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
請求項1に記載の熱電変換材料において、
前記Nb−Si化合物がNbSi化合物であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱電変換材料において、
前記Si系クラスレート化合物がBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の熱電変換材料から構成された熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部に隣接する電極層と、
を備えることを特徴とする熱電変換素子。
【請求項5】
n型熱電変換素子とp型熱電変換素子とが配線を介して直列に配列され、
前記n型熱電変換素子が請求項に記載の熱電変換素子であることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の熱電変換材料を製造する製造方法であって、
Si系クラスレート化合物を形成する原料に、Nb−Si化合物を形成する元素を添加し、混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を備えることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスレート化合物を主体とした熱電変換材料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。熱電変換モジュールは、一般的には複数のp型およびn型熱電変換材料を交互に電気的に直列に接続する構造をとる。熱電変換モジュールの性質を利用し、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を有効な電力に変換することができるため、熱電変換は、環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0003】
ゼーベック効果を利用した熱電変換素子の無次元性能指数ZTは、下記の式[1]で表すことができる。
ZT=ST/ρκ … [1]
式[1]中、S、ρ、κおよびTは、それぞれ、ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導度および測定温度を表す。
【0004】
式[1]から明らかなように、熱電変換素子の性能を向上させるためには、素子のゼーベック係数を大きくすること、電気抵抗率を小さくすること、熱伝導度を小さくすることが重要である。高い性能指数を示す熱電変換材料として、ビスマス・テルル系材料、シリコン・ゲルマニウム系材料、鉛・テルル系材料などを用いた熱電変換素子が知られている。
【0005】
前述の熱電変換素子は、それぞれ解決すべき課題を有する。ビスマス・テルル系材料は100℃を越えれば急激にそのZT値が小さくなり、廃熱発電のような200〜800℃程度では、熱電変換材料として利用できなくなる。また、ビスマス・テルル系、鉛・テルル系は環境負荷物質の鉛とテルルを含んでいる。
【0006】
そこで、熱電性能が良好で環境負荷が少なく、さらに軽量な新しい熱電変換材料が求められている。そのような新しい熱電変換材料の1つとして、Si系のクラスレート化合物が注目されている。
【0007】
Si系クラスレート化合物の組成や合成法については既にいくつか開示されている。例えば特許文献1には、組成式BaGaSi46−x(14≦x≦24)で表されるクラスレート化合物とその熱電特性が開示されている。
【0008】
特許文献2には、P型のBa−Al−Siクラスレート化合物の700KでのZTが1.01と開示されている。また、特許文献3には、Ba−Ga−Al−Siクラスレート化合物の800℃でのZTが0.4以上と開示されている。
【0009】
特許文献4には、組成式BaGaAlSiPd(7≦H≦8、9≦I≦12、0≦J≦2、33≦K≦35、0<L≦2、H+I+J+K+L=54)を有するクラスレート化合物およびこれを用いた熱電変換材料は、室温〜600℃という温度領域において、Pdを含まない同系の材料よりも高いZTを有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−67425号公報
【特許文献2】特許第4413323号公報(段落0048など)
【特許文献3】特開2012−033867号公報
【特許文献4】特開2012−256759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらのクラスレート化合物には以下の課題がある。特許文献1に記載の技術では、ZTが明らかではなく、性能が低いことが懸念される。特許文献2に記載の技術では、p型については開示されているが、n型についてのZTは明らかではなく、性能が低いことが懸念される。特許文献3に記載の技術では、600℃でのZTが明らかではなく、たとえば廃熱発電にも利用可能とするなど、さらなる性能向上が望まれる。特許文献4に記載の技術では、希少元素であるPdが使用されており、高価なことが懸念される。
【0012】
かかるZTによる性能の他にも、クラスレート化合物は格子熱伝導率が低いという特性を有するため、熱電特性向上のためには、パワーファクターを向上させることも重要となる。パワーファクター(PF)は、上記のゼーベック係数と電気抵抗率を用いて、下記の式[2]で表される。
PF=S/ρ … [2]
【0013】
したがって、本発明の主な目的は、Si系クラスレート化合物を主体とする熱電変換材料であって、発熱発電にも利用可能な600℃という温度領域でのゼーベック係数(絶対値)を増大させ、パワーファクターを向上させることができる熱電変換材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、Si系クラスレート化合物にNb−Si化合物を形成する元素を添加することによって、上記課題を解決するに至った。
【0015】
すなわち本発明の一形態によれば、
Si系クラスレート化合物を主体とし、
前記Si系クラスレート化合物の母相中に、第二相としてNb−Si化合物が分散しており、
短径10nm以上の前記Nb−Si化合物の粒子が前記母相中で10000μmあたり1個以上存在し、前記母相に占める前記粒子の割合が面積分率にて50%以下であることを特徴とする熱電変換材料が提供される。
【0016】
好ましくは、Nb−Si化合物がNbSi化合物である
好ましくは、Si系クラスレート化合物がBa−Ga−Al−Si系である。
さらに好ましくは、粉末X線回折において、前記Nb−Si化合物の最大回折ピーク強度の、前記Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物相の最大回折ピーク強度に対する、回折ピーク強度比α(%)が、0<α<22である。
【0017】
本発明の他の形態によれば、
Si系クラスレート化合物を形成する原料に、Nb−Si化合物を形成する元素を添加し、混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を備えることを特徴とする熱電変換材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ゼーベック係数が増大し、パワーファクターを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)実施例1および(b)比較例1のサンプルにおけるBEI像を示す図である。
図2】(a)熱電変換モジュールの概略的な構成を示す斜視図であり、(b)(a)のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)熱電変換材料
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換材料は、Si系クラスレート化合物を主体とし、このSi系クラスレート化合物の母相中に、第二相としてNb−Si化合物を分散させたものである。
【0021】
(1.1)Si系クラスレート化合物
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物は、好ましくはBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物であり、より好ましくは、組成式BaGaAlSiNb(7.77≦a≦8.16,7.47≦b≦15.21,0.28≦c≦6.92,30.35≦d≦32,e=0)で表されるクラスレート化合物である。
【0022】
本実施形態にかかるBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物は、主に、基本的な格子がSiのクラスレート格子から構成され、Ba元素がその内部に内包され、クラスレート格子を構成する原子の一部がGa、Alで置換された構造を有している。BaGaAlSiNbの組成比のうち、Ga、Al、Siの各組成比b、c、dは概ね、次のような関係を有する。
b+c+d=46
このような関係を満たせば、当該Si系クラスレート化合物はSi系クラスレート化合物相を主体とするものとして実現され、理想的な結晶構造をとりうる。なお、本実施形態にかかる「熱電変換材料」は、Si系クラスレート化合物を主体(主成分)とし、少量の他の添加物が含まれてもよい。
【0023】
(1.2)Nb−Si化合物
Nb−Si化合物は、Si系クラスレート化合物の母相中に第二相として分散している。
Nb−Si化合物は好ましくはNbSi化合物である。
Nb−Si化合物の母相に対する分散に関し、好ましくは短径10nm以上のNb−Si化合物の粒子が母相中で10000μmあたり1個以上存在し、母相に占める前記粒子の割合が面積分率にて50%以下である。
【0024】
(2)製造方法
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換材料の製造方法は、主に、
(2.1)Si系クラスレート化合物を形成する原料に、Si系クラスレート化合物の母相中に分散させるNb−Si化合物を形成する元素を添加し、混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
(2.2)前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
(2.3)前記微粒子を焼結する焼結工程と、を備えている。
【0025】
(2.1)調製工程
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のクラスレート化合物のインゴットを製造する。まず、所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料(Ba、Ga、Al、Si、Nb)を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。
【0026】
溶融時間としては、すべての原料が液体状態で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、製造に要するエネルギーを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。そのため、溶融時間は、好ましくは1〜100分であり、さらに好ましくは1〜10分であり、特に好ましくは1〜5分である。
【0027】
原料混合物からなる粉末を溶融する方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。溶融方法としては、たとえば、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に対応して適宜用いられる。溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下でおこなわれるのが好ましい。短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合されるのがよい。ただし、Baとしては、酸化を防ぐために、好ましくは塊状を呈するものを使用する。また、溶融時に機械的な攪拌または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
【0028】
溶融後、インゴットにするためには、鋳型を用いて鋳造してもよいし、ルツボ中で凝固させてもよい。できあがったインゴットの均質化のためには、溶融後にアニール処理をおこなってもよい。アニール処理の処理時間は、製造時の省エネルギーを考慮すると、なるべく短時間とされることが望まれるが、アニール効果を考慮すると、長い時間が必要とされる。アニール処理の処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
【0029】
アニール処理の処理温度は、好ましくは700〜950℃であり、さらに好ましくは850〜930℃である。処理温度が700℃未満であると、均質化が不十分になるという問題が生じ、処理温度が950℃を超えると、再溶融による濃度偏析が生じるという問題が生じる。
【0030】
(2.2)粉砕工程
粉砕工程では、調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子としては、焼結性を向上するために粒度が細かいことが望まれる。本実施形態では、微粒子の粒径は、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
【0031】
所望の粒径の微粒子とするためには、ボールミルなどによってインゴットを粉砕した後、粒度を調製する。粒度の調製方法は、ISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いたふるい分けによりおこなえばよい。なお、この粉砕工程に代えて、ガスアトマイズ法などの各種アトマイズ法やフローイングガスエバポレーション法などを用いて微粉末を製造することもできる。
【0032】
(2.3)焼結工程
焼結工程では、前記粉砕工程で得られた微粉末状のクラスレート化合物を焼結して、均質で空隙の少ない、所定の形状の固体を得ることができる。焼結方法としては、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などを用いることができる。
【0033】
放電プラズマ焼結法を用いる場合、その焼結の1条件となる焼結温度は、好ましくは600〜1000℃であり、より好ましくは900〜1000℃である。焼結時間は好ましくは1〜10分であり、より好ましくは3〜7分である。圧力は好ましくは40〜80MPaであり、より好ましくは50〜70MPaである。
【0034】
焼結温度が600℃未満では焼結せず、焼結温度が1100℃以上では溶解する。焼結時間が1分未満では密度が低く、焼結時間が10分を超えると焼結が完了・飽和し、それ以上時間をかける意義がないと考えられる。特に、焼結工程では、微粉末状のクラスレート化合物を上記焼結温度まで加熱してその温度で上記焼結時間保持し、その後に当該クラスレート化合物を加熱前の温度まで冷却する。この場合、微粉末状のクラスレート化合物を焼結温度まで加熱する工程とその温度で保持している工程とでは加圧状態とし、その後当該クラスレート化合物を冷却する工程では加圧状態を解除する。かかる圧力操作によれば、微粉末状のクラスレート化合物の焼結工程での割れを抑制することができる。
【0035】
(3)Si系クラスレート化合物およびNb−Si化合物の生成の確認
前記の製造方法によって、Si系クラスレート化合物およびNb−Si化合物が生成されたかどうかは、組成分析および粉末X線回折(XRD)により確認することができる。
具体的には、焼結後のサンプルを再度粉砕して、JIS K 0131に準ずる方法により回折X線を測定し、得られるピークがタイプ1クラスレート相(Pm−3n、No.223)およびNb−Si化合物相を示すものであれば、それぞれタイプ1クラスレート化合物、Nb−Si化合物が合成されたことを確認できる。
【0036】
前記の製造方法によって、生成された合金では、Nb−Si化合物のSi系クラスレート化合物に対する体積割合が大きすぎても性能劣化の原因となってしまう。そのため、粉末X線回折ピークにおける前記Nb−Si化合物の構造に由来する最大回折ピーク強度は、同熱電変換材料中のSi系クラスレート化合物の構造に由来する最大回折ピーク強度に対する、回折ピーク強度比α(%)が0<α<22である。
【0037】
また、実際にはタイプ1クラスレート相とNb−Si化合物相のみからなるものと、不純物相を含むものとがあるため、不純物のピークも観察される。
本実施形態にかかる不純物相の割合が多くなると性能劣化の原因となるため、不純物相の最大回折ピーク強度の、Si系クラスレート化合物の最大回折ピーク強度に対する、回折ピーク強度比は50%以下であり、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
本実施形態にかかる熱電変換材料において「Si系クラスレート化合物を主体とする」とは、不純物相の最大回折ピーク強度の、Si系クラスレート化合物の最大回折ピーク強度に対する、回折ピーク強度比が50%以下である、という意味である。
「不純物相」とは、Si系クラスレート化合物相およびNb−Si化合物相以外の化合物相である。
【0038】
なお、「回折ピーク強度」とは、粉末X線回折測定において測定された各化合物相のピーク高さとそのピークにおける半値幅の積で定義する。
「最大回折ピーク強度」とは、前記回折ピーク強度が最大のものとする。
「回折ピーク強度比」とは、各化合物相の最大回折ピーク強度の割合で定義する。たとえば、Nb−Si化合物相の最大回折ピーク強度(IP)の、Si系クラスレート化合物相の最大回折ピーク強度(IHS)に対する、回折ピーク強度比αは、それぞれの最大回折ピーク強度を用いて、下記の式[3]で定義される。
回折ピーク強度比α(%)=(IP)/(IHS)×100 … [3]
【0039】
最大回折ピーク強度は、例えば次の通りである。
Si系クラスレート化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群Pm−3n(No.223)を有するBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物の(123)面由来の回折ピーク強度である。
NbSi化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群P622(No.180)を有するNbSi化合物の(111)面由来の回折ピーク強度である。
これらの面の最大回折ピーク強度を用い、上記の式[3]から回折ピーク強度比αを計算することができる。
【0040】
(4)特性評価試験
次に、上記の方法で製造される熱電変換材料の無次元性能指数ZTを算出するための特性評価について説明する。
特性評価項目は、ゼーベック係数S、電気抵抗率ρである。特性評価試験では、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)による組成分析とミクロ組織観察、焼結密度測定をおこなう。各種特性評価用サンプルは、20mmφ(直径20mm)×5〜20mm(高さ5〜20mm)の円柱状焼結体から、切り出し、整形する。
【0041】
「ゼーベック係数S」および「電気抵抗率ρ」は、四端子法によりアルバック理工(株)製の熱電特性評価装置 ZEM−3を用いて測定する。
【0042】
以上の測定結果から、パワーファクターも算出される。クラスレート化合物は算出されたパワーファクターから、その熱電変換材料の特性を評価することができる。本実施形態にかかる熱電変換材料では、600℃におけるパワーファクターが0.7mW/mK以上である。
【0043】
(5)熱電変換モジュール
熱電変換モジュールは、熱電変換素子にかかる熱エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を持つことができるモジュールである。
図2(a)に示すとおり、熱電変換モジュール60は主に、n型熱電変換素子11、p型熱電変換素子12、高温側配線41、低温側配線42、高温側絶縁基板51および低温側絶縁基板52によって構成されている。
図2(b)に示すとおり、熱電変換モジュール60では、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12と高温側配線41および低温側配線42とが交互に接合され、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12が高温側配線41および低温側配線42を介して電気的に直列に配列された構成を有している。
【0044】
n型熱電変換素子11は熱電変換材料部11aとこれに隣接する電極層11b、11cとを備えている。熱電変換材料部11aは上記(A)の熱電変換材料から構成されている。電極層11b、11cは熱電変換材料部11aと高温側配線41および低温側配線42との接合性を高める層である。
p型熱電変換素子12も熱電変換材料部12aとこれに隣接する電極層12b、12cとを備えている。熱電変換材料部12aは一定の熱電変換材料から構成されている。電極層12b、12cは熱電変換材料部12aと高温側配線41および低温側配線42との接合性を高める層である。
高温側配線41および低温側配線42は、n型熱電変換素子11とp型熱電変換素子12とを電気的に直列に接続する機能を備える。
高温側絶縁基板51および低温側絶縁基板52は、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12と、高温側配線41および低温側配線42とを、固定する機能を備え、さらに熱電変換モジュール60が均一に受熱する機能を備える。
以上の熱電変換モジュール60によれば、高温側配線41と低温側配線42との間に温度差を形成すると、n型熱電変換素子11またはp型熱電変換素子12において励起された電子または正孔が低温側配線42に移動し、電流が流れるようになっている。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
【0046】
(1)サンプルの作製
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のGa、Alと、純度3N以上の高純度のSiと、純度2N以上の高純度のNbとを、表1の配合比率で秤量し、原料混合物を調製した。
【0047】
【表1】
【0048】
この原料混合物を、Ar(アルゴン)雰囲気中において、水冷銅ハース上で300Aの電流で1分間アーク溶解した後、原料の不均一を解消するためにインゴットを反転して、再度アーク溶解を行う工程を5回繰り返し、そのまま水冷銅ハース上で常温まで冷却することによりクラスレート化合物を有するインゴットを得た。
【0049】
その後、インゴットの均一性を高めるために、アルゴン雰囲気で、900℃で6時間のアニール処理をおこなった。得られたインゴットを、メノウ製遊星ボールミルを用いて粉砕し、微粒子を得た。このとき、得られた粒子の粒径の平均が75μm以下となるようにISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いて粒度を調製した。
【0050】
得られた焼結用粒子を、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて、圧力50MPaまで加圧した後に1000℃まで加熱を行い、その後1000℃で5分間焼結した。焼結が終了してから、加圧状態を解除し、1000℃から室温まで冷却を行った。
【0051】
なお、焼結用粒子の焼結が終了してから、加圧状態を保持し続けて冷却を行うと、割れが生じてしまったが、上記のとおりに焼結後に加圧状態を解除して1000℃から室温まで冷却を行うと、そのような割れを抑制することができた。得られるサンプルやダイスの劣化を考慮すると、冷却温度が500℃以上では真空雰囲気で保持することが好ましいが、500℃未満では大気雰囲気で保持してもかまわない。
【0052】
このようにして得られたサンプルの焼結体を、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)で組成分析するとともに、前記の「(3)Si系クラスレート化合物およびNb−Si化合物の生成の確認」のX線回折と、前記の「(4)特性評価試験」とに供した。
【0053】
(2)サンプルの評価
(2.1)組成分析および組織観察
図1に、(a)実施例1および(b)比較例1のサンプルにおけるBEI像を示す。
図1(a)では黒のコントラストの化合物が確認され、EPMAによる元素マッピングから実施例1のサンプルにはSiおよびNbが含有されていることを確認できた。 なお、実施例1、2ではともに、EPMAのマッピングから、短径10nm以上のNb−Si化合物の粒子が母相中で10000μmあたり1個以上存在し、母相に占めるその粒子の割合も面積分率にて50%以下であることも確認できた。
【0054】
得られたサンプルの組成分析の結果を表2に示す。
表2から、実施例1〜2および比較例1〜2のサンプルにおいて、所望の組成BaGaAlSiNb(7.77≦a≦8.16,7.47≦b≦15.21,0.28≦c≦6.92,30.35≦d≦32,e=0)の化合物が得られたことがわかる。
【0055】
【表2】
【0056】
(2.2)X線回折分析
得られたサンプルを、粉末X線回折で分析した。
得られた結果から、不純物相のSi系クラスレート化合物相に対する回折ピーク強度比を算出したところ、すべてのサンプルで50%以下であることを確認できた。また、NbSi化合物に由来する回折ピークも確認できた。
【0057】
得られたサンプルにおける、強度と2θの関係から、実施例1〜2のサンプルでは、Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物を主体とし、NbSi化合物が分散していることを確認することができた。
【0058】
(2.3)特性評価
得られたサンプルについて、上記「(4)特性評価試験」の記載のとおりに、特性評価を行い、ゼーベック係数および電気抵抗率を測定した。ゼーベック係数の測定結果から、すべてのサンプルでゼーベック係数が負となり、各サンプルがn型であることがわかった。
さらにゼーベック係数および電気抵抗率の測定結果から、式[2]に基づき、パワーファクターも算出した。
【0059】
表3に、実施例1〜2および比較例1〜2のサンプルにおける、パワーファクター、NbSi化合物(分散物)の有無を示す。
表3に示すとおり、実施例1〜2のサンプルにおいて、パワーファクターが0.7mW/mK以上であることがわかる。
【0060】
【表3】
【0061】
以上から、Si系クラスレート化合物のパワーファクターを向上させるためには、Si系クラスレート化合物中に、Nb−Si化合物を分散させることが必要である。本実施例によれば、Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物中にNb−Si化合物が分散することで、パワーファクターを向上させることに有用であることがわかる。
【0062】
(3)まとめ
Si系クラスレート化合物を主体とし、かつ、Nb−Si化合物が分散している熱電変換材料が、パワーファクターが0.7mW/mK以上という高い特性を得るのに、有用であることがわかる。
【符号の説明】
【0063】
11 n型熱電変換素子
11a 熱電変換材料部
11b、11c 電極層
12 p型熱電変換素子
12a 熱電変換材料部
12b、12c 電極層
41 高温側配線
42 低温側配線
51 高温側絶縁基板
52 低温側絶縁基板
60 熱電変換モジュール
図1
図2