(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
3'側に一本鎖領域を含む少なくとも一つのヘアピンプライマーと、対をなすプライマーとを、標的配列を含む鋳型DNA及びその相補鎖からなる対象核酸にそれぞれアニールさせて伸長反応を行い、
伸長した第1の二本鎖の増幅産物を変性条件下で解離させたのちに該ヘアピンプライマー及び該対をなすプライマーに再度アニールさせて伸長反応を行い、該ヘアピンプライマーのループ部の配列を含む第2の二本鎖の増幅産物を得、
該第2の二本鎖の増幅産物を変性条件で解離させたのちに、3'末端にヘアピン構造を有する一本鎖核酸を形成させ、
該一本鎖核酸が自己を鋳型に伸長反応を行うようにして、標的配列及びその相補鎖の双方を配列中に含む一本鎖核酸分子を構築し、
該一本鎖核酸分子の塩基配列をシーケンサによって解析する
ことを含む、核酸塩基配列決定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、二本鎖核酸の片末端をヘアピンループで繋いだ分子か、もしくは両末端をヘアピンループで繋いだ環状分子である。片末端で繋いだ分子は、相補鎖(センス鎖及びアンチセンス鎖)各々の配列を一度ずつ読取った二つの結果を用いて塩基の判定精度を向上させる。しかしながら、この手法は、一方の核酸鎖にミスマッチ塩基対の様な変異が存在する場合や、シーケンスエラーが起きた場合、相補鎖配列を各一回読み取っただけでは、相補鎖の配列間の結果に差異が生じてしまう。
【0007】
このような差異が発生した場合、その箇所に変異が存在するのか、あるいはシーケンスエラーが起きたのかを判断することができず、相補鎖の塩基を各々1回調べるだけでは、高い確実性のある解析が出来ないという課題がある。また、両末端をヘアピンループで繋いだ環状分子においては、先行技術文献の様に何度も繰返しシーケンスすることによってシーケンシングエラーの問題を解決することは可能であり得るが、一本鎖核酸を解析するナノポアシーケンシング方法では環状分子を解析することが出来ないという課題がある。
【0008】
特許文献2においても同様に、二本鎖核酸の片末端をヘアピンループで繋いだ分子なので、同様に相補鎖各々を1回調べるだけでは、変異が存在するのかシーケンスエラーが起きたのか判断することが出来ないという課題がある。さらに、ヘアピンループ形成のためにライゲーション反応等を行うので、正しくヘアピンループが結合した核酸分子の構築効率が低い。効率を上げるために一晩(例えば8時間以上)の反応を行うことも可能だが、前処理に時間を要するという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者等は、一本鎖核酸(単分子)内で標的とする片方の塩基配列のみが繰り返されている配列構造の核酸分子を構築する方法を検討し、本発明を完成するに到った。一本鎖構造とすることでナノポアシーケンシングによる解析が可能であり、また相補鎖の情報を含まない標的核酸のみの配列を繰り返し解析することとなるため、シーケンスエラーの問題に対処すると共により精度の高い解析を行うことができる。分子内で配列を繰り返す回数は多いほど判定精度が向上する。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]ナノポアシーケンサによる核酸配列決定の為の一本鎖核酸分子の構築方法であって、
3'側に一本鎖領域を含む少なくとも一つのヘアピンプライマーと、該ヘアピンプライマーと対をなすプライマーとを用いて標的配列を含む鋳型DNAの相補鎖を合成する工程と、
合成された相補鎖が分子内にヘアピン構造を形成して自己を鋳型に伸長反応を行うようにする工程と
を含み、得られた核酸分子が標的配列及びその相補鎖の双方を配列中に含むものである、上記方法。
[2]前記ヘアピンプライマーのステム部が、前記一本鎖部のTm値より高いTm値を有する、[1]に記載の方法。
[3]反応の進行によるヘアピンプライマーの減少と共に、合成された相補鎖配列が自己を鋳型に伸長反応を行う、[1]に記載の方法。
[4]ヘアピンプライマーの5'末端を使用前にリン酸化し、目的の核酸分子の構築後に5'末端がリン酸化したDNA鎖を分解する工程を更に含む、[1]に記載の方法。
[5]λエキソヌクレアーゼを使用して前記分解を行う、[4]に記載の方法。
[6]5'末端がリン酸化したDNA鎖の分解後、その相補鎖の3'末端からヘアピン構造を介して自己アニールする伸長反応を行う、[4]に記載の方法。
[7]ヘアピンループ構造をもつアダプタを前記生成物と連結し、鎖置換反応を行って核酸分子を伸長させる工程を更に含む、[1]に記載の方法。
[8]ヘアピンループ構造をもつアダプタを前記生成物と連結し、鎖置換反応を行って核酸分子を伸長させる、[6]に記載の方法。
[9]前記対をなすプライマーから形成された末端を固定化し、相補鎖DNAを解離させた後に伸長反応を行う、[1]に記載の方法。
[10]前記アダプタのループ構造部が、伸長反応阻害分子を含む、[7]又は[8]に記載の方法。
[11]前記対をなすプライマーがDNAとRNAのキメラ構造を有し、伸長反応後にRNAを分解する工程を更に含む、[1]に記載の方法。
[12][1]に記載の方法によって得られた核酸分子の塩基配列をナノポアシーケンサによって解析することを含む、核酸塩基配列決定方法。
[13]配列決定工程において、核酸分子中に含まれる既知の塩基配列から得られる信号を元に検出器の校正を行う、[12]に記載の方法。
[14]配列決定工程において、核酸分子中に含まれる既知の塩基配列から得られる信号を元に解析を行う、[12]に記載の方法。
[15]二本鎖形成した反応物を用い、ナノポアを通過する反応物の速度を制御する、[12]に記載の方法。
[16]前記ヘアピンプライマーがランダム配列を有する、[1]に記載の方法。
[17]前記ヘアピンプライマーが前記標的配列の変異の数以上のランダム配列種を有する、[16]に記載の方法。
【0011】
本明細書は本願の優先権の基礎である国際出願PCT/JP2015/055529号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の核酸分子構築方法は、下記に示す効果を有する。
【0013】
本発明の方法によって構築された核酸分子が配列決定される際、標的配列は、ただ1回だけ調べられるのではなく、標的配列と、その配列自身を鋳型に合成した相補鎖配列が連なった一本鎖核酸(単分子)によって複数回調べられる。このことは、核酸の標的配列を調べる上での高精度な分析を可能とする。より詳しくは、単分子内でゲノム構造上の相補鎖配列情報無しに片鎖の配列のみを鋳型に合成したものを繰返し調べることで、変異による塩基相違なのかシーケンスエラーによる塩基相違なのかを認識することが可能であり、高精度な核酸配列分析が可能となる。
【0014】
単分子の塩基配列の判定精度が高い事は、多量にある正常細胞由来のゲノムDNAの中に僅かに含まれる異常細胞由来の変異の検出を可能とする。例えば、血中に僅かに含まれるガン細胞由来の変異をもつDNAを検出したい場合、ある一定量の血液からDNAを抽出し、検出したい塩基配列箇所を含む核酸分子をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法等を用いて増幅し、その核酸分子の塩基配列を決定することにより、変異が含まれるか否かを解析する(Couraud S.Clin Cancer Res. 2014 Sep 1;20(17):4613-24.)。
【0015】
ナノポアシーケンサを用いて単分子DNAの塩基配列を解析する場合、一回の読取による塩基配列の判定精度が90%の時、例えば正常細胞中に1%程度の僅かに含まれるガン細胞由来の変異をもつDNAを検出するのは難しい。1%程度の変異を検出するのにPCR法によって標的配列のみ増幅された1,000個の単分子DNAを検出(塩基配列を解読)する場合、塩基配列のなかで変異の無い箇所は1塩基辺り1,000回各単分子が検出される。この1,000回の内、塩基配列判定精度が90%である為に「およそ100回」は間違った塩基情報を検出する(但し間違う頻度はある一定程度ばらつく)。塩基配列の中で変異の有る箇所は、10%の間違った判定と1%の変異も含む為に1,000回中主たる判定される塩基と「およそ110回」異なる塩基が判定される。主たる判定と異なるこの「100回」と「110回」の差の出現頻度はバラつき(分布)を持つ為、この回数を持って変異有無の検出と判断するのは困難である。
【0016】
しかしながら、本発明の方法では、1回の検出による単分子DNAの塩基配列判定精度が90%だとしても、片鎖配列のみを鋳型に単分子内で繰返し調べることによって、例えば単分子の最終判定精度が99.9%になることにより、僅かに含まれる変異DNAの検出が可能となる。例えば最終判定精度が99.9%のとき、1,000個の単分子DNAを検出すると、変異の無い箇所と有る箇所での主たる判定と異なる塩基の出現頻度は1回と11回となり、この出現頻度差が大きく異なる為、出現頻度の差をもって変異有無の検出が容易になる。このように僅かに含まれる変異を検出するということは、疾患の早期発見につながるということでもある。
【0017】
また、本発明の方法は、ヘアピンプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応を行っているため、例えばライゲーションによってヘアピン構造を連結する場合と比較してより高い効率でヘアピン構造を有する核酸分子を構築することができる。尚、増幅を繰り返す工程におけるエラーの確率は、シーケンスエラーと比較してはるかに低く、従って本発明の方法を用いた解析方法の精度は従来の方法と比較して非常に高いということができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の方法を、図面を用いてより詳細に説明する。
【0020】
本発明は、ナノポアシーケンサによる核酸配列決定の為の核酸分子の構築方法に関する。より具体的には、本発明は、ナノポアシーケンサによる核酸配列決定の為の一本鎖核酸分子の構築方法であって、3'側に一本鎖領域を含む少なくとも一つのヘアピンプライマーと、該ヘアピンプライマーと対をなすプライマーとを用いて標的配列を含む鋳型DNAの相補鎖を合成する工程と、合成された相補鎖が分子内にヘアピン構造を形成して自己を鋳型に伸長反応を行うようにする工程と、を含み、得られた核酸分子が標的配列及びその相補鎖の双方を配列中に含むものである、上記方法に関するものである。
【0021】
尚、本発明の方法について記載する場合、「標的配列」とは、本明細書の記載を通じて、二本鎖核酸分子の場合には片方の鎖の配列のみを意味し、対象の核酸分子が二本鎖を形成している場合に「標的配列」の相補鎖については「標的配列」とは記載しないこととする。本発明の構築方法において「標的配列」に基づいて相補鎖が形成された場合、その相補鎖については「標的配列」あるいは「標的配列情報」と表現する場合がある。
【0022】
ナノポアシーケンサは、公知の技術であり、例えばWO2013/021815 A1に記載された装置を好適に使用することができる。
【0023】
図1では、内径約2nmのナノポアに核酸を進入させ、ナノポアに照射する励起光と、ナノポア近傍に存在する導電性薄膜によってナノポアを通過する生体ポリマー(例えばDNA)のラマン散乱光が増大した後、ラマンスペクトルを検出する装置100の例を用いた方法を説明する。
【0024】
ここではラマンスペクトルを検出するナノポアシーケンサを例に示すが、一本鎖の単分子を解析する手法全般に適応可能である。例えば、ナノポアを通過するときの封鎖電流またはトンネル電流を検知するDNAシーケンサや蛍光を検知するナノポアDNAシーケンサにも適応可能な核酸分子構築方法である。
【0025】
図1では、正立型顕微鏡を基本構成としたラマン光の観察に適用した場合を示す一例として、装置の構成と動作を説明する。装置構成は、特に正立型顕微鏡の基本構成に限定されるものではなく、倒立型顕微鏡を基本構成とした顕微鏡等、照射光による試料の信号検出を可能とする構成で有れば良い。
【0026】
光源は、蛍光もしくはラマン散乱光を発生させることができる波長の外部光(励起光)を照射する。当技術分野で公知の光源101を使用することができる。例えば、限定されるものではないが、半導体レーザ、クリプトン(Kr)イオンレーザ、ネオジム(Nd)レーザ、アルゴン(Ar)イオンレーザ、YAGレーザ、窒素レーザ、サファイアレーザ等を使用することができる。
【0027】
この光源からの外部光を複数のナノポアに照射する場合は、多重照射機構113を用いる。多重照射機構113は、限定されるものではないが、マイクロレンズアレイ、回折格子型ビームスプリッターまたはLCOS(Liquid crystal on silicon)等を用いてもよい。これらを用いて複数の外部光をナノポアに照射する。
【0028】
光源から外部光を顕微鏡観察容器に照射し収束させるために、光源と組み合わせて、共焦点レンズ及び対物レンズ102を使用することが好ましい。顕微鏡観察容器103は、XYステージ104上に架設し、XYステージによって水平面上の位置を調整する。垂直方向位置に関してはZ軸調整機構105により対物レンズで集光した領域に測定対象の試料が位置するように調整する。場合によってZ軸調整機構は、XYステージに持たせてもよい。位置決め手段としてこれらのステージ以外に、θ軸ステージ、ゴニオステージを利用し、精密に調整してもよい。これらの位置決め手段は、駆動制御部115によって制御され、コンピュータ116によって使用者が操作する。
【0029】
また、装置構成として、測定波長領域等の測定標的に応じたノッチフィルタ、ショートパスフィルター、ロングパスフィルター等のフィルタ106、ビームスプリッター107、回折格子108、等を組みあわせてもよい。他、光学部品配置の必要に応じてミラー112やピンホール、レンズ114、NIR(近赤外)ミラー117を使用してもよい。このような蛍光もしくは、ラマン散乱光を検出するための装置構成は、当技術分野において公知であり、当業者であれば適宜好ましい構成要素を選択することができる。 検出器は、蛍光もしくはラマン散乱光を検出することができる検出器109であれば任意の分光検出器を使用することができる。また使用する顕微鏡観察容器における試料の数及び配置に応じて、1又は複数の1次元又は2次元検出器を使用することができる。そのような分光検出器としては、CCD(電荷結合素子)またはElectron Multiplying CCDイメージセンサ、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサ、他の高感度素子(アバランシェフォトダイオード等)のイメージセンサ等が挙げられる。検出器は、検出の高速化に伴う感度低下を防ぐために、光電子増倍機構、例えばイメージインテンシファイアを有することが好ましい。また、検出器は、ラマン散乱光等の画像情報を直接記録することができる大容量メモリを備えることが好ましく、それによりケーブル、ボード、コンピュータ等を介することなく高速に解析を行うことができる。例えば、本発明の解析装置は、検出器からの計測値を記録するフレームバッファメモリをさらに備えてもよい。また、本発明の解析装置は、前記検出器からの計測値をデジタル化や演算処理、出力するためのコンピュータ116と接続してもよい。
【0030】
また、ラマン散乱光や蛍光検出だけでなく、明視野像の観察が可能な機能を持たせてもよい。そのためには
図1に示すように、明視野の照射光源としてLED110、明視野撮像素子として2次元検出器111を使用する。2次元検出器としては、CCDまたはEMCCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等が挙げられる。
【0031】
図2にナノポア基板、及びナノポア基板を配置した観察容器の断面構成を示す。観察容器201は、ナノポア202を有する基板203(ナノポア基板)を隔てて2つの閉じられた空間、すなわち試料導入区画204と試料流出区画205で構成されている。但し、試料導入区画204と試料流出区画205はナノポア202で連通している。観察容器201には、後述する本発明の方法によって構築された、標的配列を繰り返して含む核酸分子の構築後に分子を入れる。または、観察容器内で核酸分子を直接構築してもよい。
【0032】
観察容器は、チャンバ部とその内部に配置されている基板203を有する。基板203は、基材と、基材に面して形成された薄膜と、薄膜に設けられた、試料(核酸分子)導入区画204と試料流出区画205とを連通するナノポア202を有し、チャンバの試料導入区画204と試料流出区画205の間に配置される。基板203は、絶縁層を有してもよい。基板203は、固体基板であることが好ましい。
【0033】
基板203は、電気的絶縁体の材料、例えば無機材料及び有機材料(高分子材料を含む)から形成することができる。基板203を構成する電気的絶縁体材料の例としては、シリコン(ケイ素)、ケイ素化合物、ガラス、石英、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ケイ素化合物としては、窒化ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素等、酸窒化ケイ素が挙げられる。特に基板203の支持部を構成するベース(基材)は、これらの任意の材料から作製することができるが、例えばケイ素又はケイ素化合物であってよい。
【0034】
基板203のサイズ及び厚さは、ナノポア202を設けることができるものであれば特に限定されるものではない。基板203は、当技術分野で公知の方法により作製することが可能で、あるいは市販品として入手することも可能である。例えば、基板203は、フォトリソグラフィ又は電子線リソグラフィ、及びエッチング、レーザブレーション、射出成形、鋳造、分子線エピタキシー、化学蒸着(CVD)、誘電破壊、電子線若しくは収束イオンビーム等の技術を用いて作製することができる。基板203は、表面への標的外の分子の吸着を避けるために、コーティングしてもよい。
【0035】
基板203は、少なくとも1つのナノポア202を有する。ナノポア202は、具体的には薄膜に設けられるが、場合により、ベース(基材)、絶縁体に同時に設けてもよい。本発明において「ナノポア」及び「ポア」とは、ナノメートル(nm)サイズ(すなわち、1nm以上、1μm未満の直径)の孔であり、基板203を貫通して試料導入区画204と試料流出区画205とを連通する孔である。
【0036】
基板203は、ナノポア202を設けるための薄膜を有することが好ましい。すなわち、ナノサイズの孔を形成するのに適した材料及び厚さの薄膜を基板上に形成することによって、ナノポア202を簡便かつ効率的に基板203に設けることができる。ナノポア形成の面から、薄膜の材料は、例えば酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(SiN)、酸窒化ケイ素(SiON)、金属酸化物、金属ケイ酸塩等が好ましい。また薄膜(及び場合によっては基板全体)は、実質的に透明であってもよい。ここで「実質的に透明」とは、外部光をおよそ50%以上、好ましくは80%以上透過できることを意味する。また薄膜は、単層であっても複層であってもよい。薄膜の厚みは、1nm〜200nm、好ましくは1nm〜50nm、より好ましくは1nm〜20nmである。薄膜は、当技術分野で公知の技術により、例えば減圧化学気相成長(LPCVD)により、基板203上に形成することができる。
【0037】
薄膜上には、絶縁層を設けることも好ましい。絶縁層の厚みは好ましくは5nm〜50nmである。絶縁層には任意の絶縁体材料を使用できるが、例えばケイ素又はケイ素化合物(窒化ケイ素、酸化ケイ素等)を使用することが好ましい。本発明においてナノポア又はポアの「開口部」とは、ナノポア又はポアが試料溶液と接する部分のナノポア又はポアの開口円を指す。生体高分子の分析の際には、試料溶液中の生体高分子やイオン等は一方の開口部からナノポアに進入し、同じ又は反対側の開口部からナノポア外に出る。
【0038】
ナノポア202のサイズは、分析対象の生体高分子の種類によって適切なサイズを選択することができる。ナノポアは、均一な直径を有していてもよいが、部位により異なる直径を有してもよい。ナノポアは、1μm以上の直径を有するポアと連結していてもよい。基板203の薄膜に設けるナノポアは、最小直径部、すなわち当該ナノポアの有する最も小さい直径が、直径100nm以下、例えば1nm〜100nm、好ましくは1nm〜50nm、例えば1nm〜10nmであり、具体的には1nm以上5nm以下、3nm以上5nm以下等であることが好ましい。
【0039】
ssDNA(1本鎖DNA)の直径は約1.5nmであり、ssDNAを分析するためのナノポア直径の適切な範囲は1.5nm〜10nm程度、好ましくは1.5nm〜2.5nm程度である。dsDNA(二本鎖DNA)の直径は約2.6nmであり、dsDNAを分析するためのナノポア直径の適切な範囲は3nm〜10nm程度、好ましくは3nm〜5nm程度である。他の生体高分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、糖鎖等を分析対象とする場合も同様に、生体高分子の外径寸法に応じたナノポア直径を選択することができる。
【0040】
ナノポア202の深さ(長さ)は、基板203又は基板203の薄膜の厚さを調整することにより調整することができる。ナノポア202の深さは、分析対象の生体高分子を構成するモノマー単位とすることが好ましい。例えば生体高分子として核酸を選択する場合には、ナノポア202の深さは、塩基1個以下の大きさ、例えば約0.3nm以下とすることが好ましい。ナノポア202の形状は、基本的には円形であるが、楕円形や多角形とすることも可能である。
【0041】
ナノポア202は、基板203に少なくとも1つ設けることができ、複数のナノポア202を設ける場合に、規則的に配列してもよい。ナノポア202は、当技術分野で公知の方法により、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)の電子ビームを照射することにより、ナノリソグラフィー技術又はイオンビームリソグラフィ技術等を使用することにより形成することができる。
【0042】
チャンバ部は、試料導入区画204及び試料流出区画205、基板203、電圧印加手段、並びに試料212をナノポア202に通過させるための電極213、214等を有する。好適な例では、チャンバ部は、試料導入区画204及び試料流出区画205、試料導入区画204に設けた第1の電極213、試料流出区画205に設けた第2の電極214、第1、第2の電極に対する電圧印加手段等を有する。試料導入区画204に設けた第1の電極213、試料流出区画205に設けた第2の電極214の間には、電流計が配置されていてもよい。第1の電極213と第2の電極214の間の電流は、試料212のナノポア通過速度を決定する点で適宜定めればよく、例えば、試料212を含まないイオン液体を用いた場合、DNAであれば100mV〜300mV程度が好ましいが、これに限定されない。
【0043】
電極213、214は、金属、例えば白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の白金族、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル等;グラファイト、例えばグラフェン(単層又は複層のいずれでもよい)、タングステン、タンタル等から作製することができる。
【0044】
電圧印加によってナノポア202を通過する核酸分子は、励起光によってラマン光を発するが、ナノポア近傍に導電性薄膜215を用意し近接場を発生させ増強してもよい。ナノポア近傍に設置する導電性薄膜215は、薄膜の定義から明らかな通り、平面状に形成する。導電性薄膜215の厚さは、採用する材料に応じて、0.1nm〜10nm、好ましくは0.1nm〜7nmとする。導電性薄膜215の厚さが小さいほど、発生する近接場を限定することができ、高分解能かつ高感度での解析が可能となる。また導電性薄膜215の大きさは特に限定されるものではなく、使用する固体基板203及びナノポア202の大きさ、使用する励起光の波長等に応じて適宜選択することができる。なお導電性薄膜215が平面状でなく、屈曲等が存在すると、その屈曲部において近接場が誘起され光エネルギーが漏出し、標的外の場所においてラマン散乱光を発生させる。すなわち背景光が増大し、S/Nが低下する。そのため、導電性薄膜215は平面状であることが好ましく、換言すると断面形状は屈曲のない直線状であることが好ましい。導電性薄膜215を平面状に形成することは、背景光の低減、S/N比の増大に効果があるだけではなく、薄膜の均一性や作製における再現性等の観点からも好ましい。
【0045】
試料導入区画204及び試料流出区画205は、両区画にそれぞれ連結された流入路206、207を介して導入される液体210、211で満たされる。液体210、211は、試料導入区画204及び試料流出区画205に連結された流出路208、209から流出する。流入路206と207は基板を挟んで対向する位置に設けられてもよいが、これに限定されない。流出路208と209は基板を挟んで対向する位置に設けられてもよいが、これに限定されない。
【0046】
液体210は分析対象となる試料212を含む試料溶液であることが好ましい。液体210は、電荷の担い手となるイオンを好ましくは大量に含む(以下、イオン液体)。液体210は、試料以外には、イオン液体のみを含むことが好ましい。イオン液体としては、電離度の高い電解質を溶解した水溶液が好ましく、塩類溶液、例えば塩化カリウム水溶液等を好適に使用できる。試料212は、イオン液体中で電荷を有するものであることが好ましい。試料212は、典型的には核酸分子である。
【0047】
試料導入区画204と試料流出区画205には、ナノポア202を挟んで対向するように配置された電極213、214が設けられる。本実施形態において、チャンバ部は、電極213、214に対する電圧印加手段をも備える。電圧印加により、電荷をもつ試料212が試料導入区画204からナノポア202を通過し、試料流出区画205へと移る。試料212が励起光によって照射されたナノポア202を通過するとき、導電性薄膜215によって増強されたラマン散乱スペクトルを液浸媒体216によって効果的にラマン光を集光し、対物レンズ217を通して検出器109に達し解析される。
【0048】
図2では、上部を試料導入区画、下部を試料流出区画としたが、下部を試料導入区画、上部を試料流出区画とし、ナノポアを抜けてくる試料を検出してもよい。
【0049】
以下に、本発明の方法を実施例として具体的に説明するが、本発明の方法が以下の実施例に限定されることを意図するものではない。
【実施例1】
【0050】
本発明の方法の一実施形態を
図3に示す。本発明の核酸分子の構築方法は、対象とする核酸の標的配列を増幅し、標的配列が繰り返され一本鎖(単分子)で構築されることを特徴の一つとする。
【0051】
図3(1)に示すように、用意するプライマー対のうち少なくとも一方はヘアピン構造を持ったプライマー300とする。プライマー300の3'末端側は標的配列を含む鋳型DNAの配列に相補的な配列を持つ一本鎖領域のプライマー配列構造であり、ステム部から突出した構造となっている。この場合、標的配列の増幅のためのプライマー300はヘアピンプライマーであり、標的配列の相補鎖の増幅のためのプライマー303はヘアピンプライマーであっても良く、ヘアピン構造を持たないプライマーであっても良い。あるいはまた、標的配列の増幅のためにプライマー303を使用し、標的配列の相補鎖の増幅のためにヘアピンプライマー300を使用することもできる。二本鎖核酸のいずれか一方の配列を標的配列として解析する本発明の方法は、実施形態に応じて、上記のいずれの態様を用いることもできる。いずれの場合においても、ヘアピンプライマー300との対比において、プライマー303を本明細書において「対をなすプライマー」と記載するものとする。
【0052】
鋳型DNAは、それ自体が標的配列を含む試料由来のDNAをそのまま使用することもできるが、本発明の方法により好適に使用できるように、ヘアピンプライマーと完全に相補鎖形成可能な配列を含むように合成された配列に標的配列を連結することもできる。
【0053】
ループ部とステム部を有するヘアピン構造を持ったプライマーは知られており、その配列例として、例えばI.A.Nazarenko .et al. 2516-2521 Nucleic Acids Research, 1997, Vol. 25, No. 12より下記の表1に示すヘアピン構造を持つ配列例を示す。当業者であれば、標的配列を含む、増幅対象となる鋳型DNAが特定されれば、その増幅のために好適なヘアピンプライマーを適宜設計し、作製することができる。
【0054】
【表1】
【0055】
図3に示すように、ヘアピン構造を持ったプライマー300を変性させ、対象核酸(例えばヒトゲノム)の標的配列にアニールさせる。
【0056】
一例として、
図3のステップ(1)では反応溶液の混合物として対象核酸を含んだ溶液、標的配列を挟んだプライマーセット(片側または両側が上述したヘアピンプライマー300となっているもの)、及びポリメラーゼとポリメラーゼに応じた塩組成溶液を用意する。用いるDNAポリメラーゼは限定されず、例えば、Taq DNAポリメラーゼに代表される好熱細菌から分離されたポリメラーゼであり、family A(PolI型)に分類されるものや、KOD DNAポリメラーゼに代表される超好熱古細菌から分離されたポリメラーゼであり、family B(α型)に分類されるものが使用可能である。また、鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼとして、Bst DNA ポリメラーゼ、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエキソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVentDNAポリメラーゼ、DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNA ポリメラーゼからエキソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、MS-2ファージDNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)、等が一般的に知られており、好適に使用することができる。
【0057】
また、上記のDNAポリメラーゼの必要とする触媒活性を持ちながら、構造等一部機能のみを取り出したものや、アミノ酸の変異等によって触媒活性、安定性、あるいは耐熱性を改変した各種変異体を用いても良い。各種DNAポリメラーゼ変異体が配列依存型の相補鎖合成活性や鎖置換活性等を有する限り、本発明に利用することが可能であり、上記の例に限定されるものではない。
【0058】
本発明の方法は、合成によって作られた配列を複数回読み取ることでシーケンサの読取精度を高める手法である為、合成精度が高いポリメラーゼが好ましい。例えば、合成の精度が高い酵素PrimeSTAR(登録商標)MaxやPrimeSTAR(登録商標)HS等(タカラバイオ社製)の合成精度は99.995%以上であることが知られている。これらは、1〜0.1%の変異を検出するには増幅段階での合成ミスが変異検出に影響を与えない程度の十分な精度を有している。
【0059】
図3のステップ(2)では、これら(1)の混合物を適切な変性温度まで加熱し、各プライマーを対象核酸にアニールさせ、伸長反応を行う(ステップ(3))。伸長した二本鎖の増幅産物は、変性条件下で解離させたのち、各プライマーに再びアニールさせ、伸長させる。この工程を繰り返し行う。ここで、ヘアピンプライマーのループ部も全て伸長した二本鎖の増幅産物中で塩基対を形成して含まれる(ステップ(4))。
【0060】
(5b)に示すように、この時点で、伸長した一本鎖核酸は分子内にヘアピンプライマーの配列を含むため、その分子内アニールによってヘアピン構造を持つ一本鎖核酸を形成することができる。この反応と、未反応のヘアピンプライマー300との分子間アニールによって新たな相補鎖形成を行う反応とが競合する。ここで、(5b)に示すような標的配列を繰り返して含み、かつヘアピン構造を持つ一本鎖核酸を優先的に得るには、3’末端にヘアピン構造を形成させる相補鎖配列部301(ステム部)のアニールが、未反応のヘアピンプライマー300とのアニールよりも優先的に生じる事が好ましい。そのためには、例えば、アニールが競合するヘアピンプライマー300のヘアピンプライマーにおける相補鎖配列部302(一本鎖部)がアニールするのに必要な温度(Tm値)をヘアピン構造を形成させる相補鎖配列部301(ステム部)のTm値より低くなるように設計し、かつ変性工程からアニール及び伸長工程へと温度を下げるように温度勾配を与えることにより、相補鎖配列部301(ステム部)が優先的にアニールし、標的配列を繰り返したヘアピン構造を持つ一本鎖核酸を優先的に得ることが可能となる。すなわち、この場合、ヘアピンプライマーのステム部は、一本鎖部のTm値より高いTm値を有する。この文脈において、Tm(melting temperature)値は、プライマー内の部分配列に対する値として記載する。
【0061】
例えば、ヘアピンプライマーの一本鎖部のTm値を60℃とする配列設計を行う場合、ステム部のTm値を70℃とすると、相補鎖配列部301が優先的にアニールし、標的配列を繰り返したヘアピン構造を持つ一本鎖核酸を優先的に得ることが可能となる。
【0062】
一般的に、Tm値の±5℃で二本鎖DNAの様態は変化する。裕度を持ってTm値の差を設けるのであれば、一本鎖部とステム部のTm値の差を15℃以上に設定してもよい。但し、極端な差を有するようなTm値の設定は増幅の反応効率にも影響を与える為、15℃以下、より好ましくは約10℃の温度差としてもよい。従って、本発明の方法の一実施形態として、ヘアピンプライマー300のステム部が、ヘアピンプライマー300の一本鎖部のTm値よりも5℃以上、10℃以上、または15℃以上高いTm値を有するように設定する。あるいは、ヘアピンプライマー300のステム部が、ヘアピンプライマー300の一本鎖部のTm値よりも約5℃、約6℃、約7℃、約8℃、約9℃、約10℃、約11℃、約12℃、約13℃、約14℃、約15℃高いTm値を有するように設定する。
【0063】
また、DNAの融解温度を調整するベタイン(N,N,N-トリメチルグリシン)を使用すると、二本鎖DNAの様態をより狭い温度範囲で変化させることが可能である為(William A. Reesら,Biochemistry 1993, 32,137-144)、反応溶液に添加してもよい。
【0064】
Tm値または各温度における二本鎖DNAの様態は、pH及び塩濃度等の条件によって変動し、また塩基配列や長さにも依存する値であるが、一定条件下でのTm値は、塩基配列の長さ及びGC含有率等に基づいて計算することができる。当業者であれば、プライマーの設計において各部のTm値を適宜設定し、最適なプライマーを設計・作製することができ、また反応温度の設計も適宜行うことができる。
【0065】
もしくは、上述した工程を行わなくとも、ヘアピンプライマー300の濃度は反応サイクルが進むにつれて減少するため、プライマー300が枯渇することによって、相補鎖配列部301が優先的にアニールされるように、プライマー300の濃度を適宜調整してもよい。この場合、反応の進行によるヘアピンプライマーの減少と共に、合成された相補鎖配列が自己を鋳型に伸長反応を行う。
【0066】
より具体的に上記反応を行うには、表1に示すような配列構造をもつヘアピンプライマーとポリメラーゼおよび塩組成溶液100μlとした時の組成を、例えば、
20mM Tris-HCl (pH8.5)
50mM KCl
2mM MgCl
2
200μM 各dNTP
5U Pfu
exo-DNAポリメラーゼ (3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないポリメラーゼ)
と調製し、以下の温度条件で合成反応を行う。
【0067】
94℃で5分の加熱でヘアピンと対象核酸(例えばヒトゲノム)の高次構造をほぐす。その後95℃で30秒、60℃で45秒、72℃で90秒の温度サイクルを、例えば20から40回繰り返した後、72℃で5分の伸長反応を行う。温度サイクルにおける、時間や温度はここで示した反応条件に限定されない。標的とする配列、プライマーの配列、得たい産物量等により温度、時間、サイクル等は変えてもよい。
【0068】
これらのステップを繰り返す
図3の工程によって、(5b)に示すような標的配列を繰り返したヘアピン構造を持つ一本鎖核酸を得ることが可能であり、迅速に塩基配列決定前の試料の構築が可能となる。
【0069】
尚、
図3では、対をなすプライマーの内、一つをヘアピンプライマー300としたが、対をなすプライマーの双方がヘアピン構造をもったプライマーを用いて同様の反応工程を行ってもよい。核酸分子の構築のための時間は、合成反応における温度、反応時間、サイクル、温調器(thermal-cycler)性能に依存するが、概ね30分から90分以内に
図3で示した反応が終了する。反応溶液には、未反応のプライマー等が含まれるが、ゲル濾過樹脂充填スピンカラムCHROMA SPIN Column(タカラバイオ社製)を利用し、10分程度で未反応のプライマーを除き、合成された標的配列を繰り返す核酸分子のみを取り出し、塩基配列決定の工程に進めることが可能である。
【0070】
本発明の方法によって得られる生成物は相補鎖配列を持つ為、二本鎖を形成したもの(5a)がヘアピン構造を有する一本鎖核酸分子(5b)と共に混在する。一本鎖DNAを通過させ、一塩基毎に検出するナノポア(例えば直径2nm以下)を用いたシーケンサによる配列解析のためには、配列解析時点での二本鎖核酸分子の存在は好ましくない。従って、例えば
図3に示す合成工程において、二本使用するプライマーのうち一本をヘアピン構造を持たないプライマー303とし、プライマー303の配列を相補鎖配列が解離しやすいATリッチな配列にしてもよい。または、生成物がナノポアを通過する時に熱やアルカリ等による相補鎖配列の解離を行い、ナノポアを一本鎖DNAとして通過しやすい構造としてもよい。
【0071】
または、プライマー303を、DNA-RNAで構成されるハイブリッドキメラプライマーを用い、RNA配列を5’末端に用意した上で、
図3に示す反応を行うこともできる。その場合、DNA-RNAハイブリッド二本鎖を形成しているRNAを、RNaseH酵素等を使用して切断し、反応生成物の末端が一本鎖DNAとなる箇所を作り、容易にナノポアに一本鎖DNAの箇所から通過させてもよい。一本鎖DNAとなる箇所の配列から二本鎖DNAの配列の箇所をナノポアへ通過させる時、マイナスに電荷を帯びたDNAはナノポアを経由し、電気的に陽極側へ引き込まれる。二本鎖DNAは水素結合をもって形成されており、その水素結合を解離させながら引き込んでもよい。この場合、ナノポアを通過する速度は遅くなり、十分な検出場となる箇所を十分な時間をかけて通過する事も可能である。つまり、二本鎖形成する水素結合の力を熱やアルカリまたは引き込む力各々を調整し、DNAがナノポアを通過する速度を制御することもできる。
【0072】
本発明の方法は、標的配列(二本鎖の片側一本のDNA鎖)のみを元に相補鎖配列を合成し、その合成した配列の相補鎖配列も続けて合成して一本鎖の核酸分子を構築し、これを用いてナノポアシーケンサで検出する。これは、標的配列の片鎖のみの解析では塩基配列の解読が難しい場合、例えば塩基間で類似する信号を持つ場合等により、得られる信号が不確かな場合でも、異なる配列を持つ相補鎖配列からの信号を得られることが可能になる。つまり、ミスマッチの可能性を含む本来の二本鎖分子の双方を読取るのではなく、同じ標的配列の片鎖のみの配列情報を2回読取るため、読取った2回の情報を持って高精度な核酸配列分析が可能なことを示す。検出する装置(例えば、検出器やレンズ等)が高価で高精度な物でなくとも、複数回読取ることで十分な精度が得られる程度の装置にすること、つまり装置の負担(例えば機能的な)を軽減することも可能であり、本発明の方法は、シーケンシングのための装置を安価または小型化された装置にすることも可能にする方法でもある。
【0073】
ナノポアシーケンサによる解析は、一本鎖核酸分子の場合、5'側からでも3'側からでも解析可能である。上記の工程で生成される反応産物を用いてナノポアシーケンスを行う場合、
図3(5b)に示すヘアピン増幅産物は、5'側から読み取られるとすると、初めにプライマーの配列情報から分析され、その後標的配列、ヘアピンプライマー配列、標的配列(相補配列)、プライマー配列(相補配列)の順に解析される。
【0074】
ここで、各プライマー配列由来の塩基配列情報および塩基配列の信号情報(例えばラマン散乱光や封鎖電流値)は既知である為、事前にどの信号(波長や波数または電流値)でピークが得られ、各塩基に該当する信号がどの順番でピークが得られるのか既知なので、検出の校正をリアルタイムに行うことができる。例えば、ラマン散乱光を検出する場合、既知のラマン散乱光によるスペクトル情報を順次得られるので、スペクトルピークから得る情報が本来得られる素子の位置で得られない場合、例えば検出素子の位置を校正してもよい。光軸がずれてしまうと、本来と異なる検出画像素子の位置でスペクトルピークを得るため、正しい解析が出来ない。そこで、塩基配列読取の始めと終わり及び標的配列の合間で既知の複数のラマンスペクトルピークが得られることを利用し、解析初期に得られた複数のラマンスペクトルピークの検出画像素子位置と励起光の検出画像素子位置(ラマン光では無く励起光の反射光)からなる複数の既知の位置情報と、本来検出され得る素子位置情報等を用いて、波数と素子の位置情報を補正し、解析することができる。
【0075】
既知の配列部から得られる複数のラマンスペクトルピークは、上記の素子の位置校正だけでなく、コンタミネーションやキャリーオーバーの検出のために使うこともできる。例えば、複数のサンプルの標的配列を解析する場合に、サンプルごとに解析に用いるヘアピンプライマー300のヘアピン部分の配列を変える。または対となるプライマー303の5’末端に標的配列と相補的な配列を持たない配列を設け、サンプルごとに配列を変えることにより、読み取った配列情報からサンプル間のコンタミネーションや解析時における前の解析サンプルのキャリーオーバーを認識して解析することができる。
【0076】
電流検知を行う場合は、既知の各プライマー配列の各塩基から得られる電流値とバックグランド信号値を用いて校正してもよい。例えば、測定中にバックグランド信号値が変動する場合は、特に効果的である。核酸が通過する直前の信号値をバックグランド信号値とし、核酸分子が取り込まれた時に電流値は大きく変化する為、核酸分子が取り込まれる前のバックグランド信号値を差し引いて電流値を計測する。ACGTと並んだ既知の塩基配列が順に計測される場合、各塩基の信号強度からバックグランド信号値を差し引いた後に、既知配列による信号強度比や信号の変化を参照値とし、標的配列部において得られた信号値を参照値と対比させて塩基を判定してもよい。校正の方法は、これらに限定されるわけではない。既知の配列から得られる既知の信号値または信号情報、または既知の配列から得られる既知の配列による実測の信号を元に、校正または解析する方法である。当業者であれば、上記の記載に基づいて、本発明の方法を適宜改変することができる。
【0077】
上記では、ラマン散乱光を検出して核酸塩基配列を決定する例を中心に示したが、本発明の方法はこれに限定されず、例えば、ナノポアを通過させるときの封鎖電流を検出する核酸塩基配列決定法(US2011/0229877やUS2011/0177498等)やナノポアを通過する時に発生するトンネル電流を検知する核酸塩基配列決定法(特開2014-20837)、液滴を用いた一分子核酸塩基配列決定法(WO2014111723A, WO2014053854A)、ポリメラーゼ伸長産物が作製される場合に、ヌクレオチド三リン酸[NTP]から放出される蛍光標識ピロリン酸[PPi]部分の単一分子の検出を行う核酸塩基配列決定法(特許第4638043号)等に本発明の方法で得られた核酸分子を用いることができる。標的配列の読取精度が低くても、分子中に複数の標的配列情報を含むため、一分子を解析することで高精度な解析結果を示すことができ、検出する装置側の負担(例えば機能的な)を軽減することも可能である。
【実施例2】
【0078】
実施例1において、1方のみにヘアピンプライマーを用いた場合に構築される核酸分子は、
図3の(4)に示す分子と(5b)に示す分子がおよそ半分ずつの割合で構築される。本実施例では、
図3の(5b)に示す標的配列を2回検出することが可能な分子が半分程度構築されるのではなく、構築される分子全数が標的配列を2回検出ことが可能な分子となるように構築する方法を説明する。
図4にその手順を示す。
【0079】
本実施例では、
図4に示す工程の前に
図3と類似の工程を行う。
図3に示した工程と異なる点は、ヘアピンプライマー300と対をなすプライマー303をビオチン化して
図3に示す増幅工程を行う点である。プライマーのビオチン化に伴い、ビオチンの立体構造によって生じるポリメラーゼを用いた合成における増幅障害を減らす為、炭素5原子分程度のスペーサー(例えば塩基等)を含むようにしてもよい。
【0080】
ビオチン化したプライマー300を用いて、例えば
図3に示す工程で増幅した反応産物40μlにストレプトアビジンが付与された磁性ビーズ(例えばDynabeads(登録商標)M-280 Streptavidin)と混合し、懸濁させながら室温で15分間インキュベーションし、増幅産物と磁性ビーズを結合させる。
【0081】
その後、反応容器の外側に磁石を架設し、反応容器を跨いで磁性ビーズを磁石側に引き寄せ固定した状態で上清のみを取り除き、洗浄溶液の添加及び懸濁、磁石による引き寄せ及び上清を取り除く洗浄操作を行う。この洗浄操作の時、洗浄溶液を60℃以上または95℃以上にして行う事により、磁性ビーズに結合したDNA鎖の相補鎖で存在するDNA鎖は、二本鎖DNAの解離と共に洗い流され、磁性ビーズに結合したDNA鎖、すなわちビオチン化プライマーから伸長した分子のみに単離することが可能である。または、アルカリ溶液で二本鎖DNAの解離を行いながら洗浄することによっても同様の効果が得られる。
【0082】
磁性ビーズに結合したDNA鎖のみを単離する方法として、高温下での洗浄及びアルカリ溶液での洗浄で処理する方法を記載したが、これに限定されない。DNA鎖の相補鎖配列が結合している状態を解離させ、ビオチン化したプライマーより伸長した分子のみを単離する方法で有ればよい。
【0083】
この単離されたDNA鎖を用い、分子全数が標的配列を2回検出することが可能な分子を構築する。例えば、単離したDNA鎖に反応溶液100μlとした時の下記の組成の溶液を加え、
20mM Tris-HCl (pH8.5)
50mM KCl
2mM MgCl
2
200μM 各dNTP
5U Pfu
exo-DNAポリメラーゼ(3’-5’エキソヌクレアーゼ活性のないポリメラーゼ)
以下の温度条件で反応を行う。
【0084】
94℃で5分の加熱で高次構造をほぐす。その後95℃で30秒、60℃で45秒により3’末端の相補鎖をもつ配列箇所がアニールすることによりヘアピン構造を構築し、72℃で90秒以上の加熱により伸長反応を行う。
【0085】
その結果、
図4に示すように、標的配列情報を繰り返して含むヘアピン構造を持つ一本鎖核酸のみを得ることが可能となる。尚、反応条件は、上記の反応条件に限定されず、標的とする配列やプライマーの配列により温度、時間、サイクル等は変えてもよい。また、各工程の反応間に関して塩や酵素を取り除く精製工程を記載しなかったが、場合によって必要であれば実施してもよい。
【0086】
ナノポアシーケンシングを行う際に、結合した磁性ビーズによってシーケンシング効率が低下する場合は、核酸分子から磁性ビーズを切り離してもよい。例えば、プライマーとビオチンの間に設けたスペーサー領域を切断してもよい。切断方法として、例えばスペーサー領域の塩基配列に予め制限酵素切断配列を含めておき、シーケンシング前に切断することができる。これにより、DNA鎖と磁性ビーズを切り離した物を試料としてナノポアシーケンシングすることができる。
【実施例3】
【0087】
本実施例では、λエキソヌクレアーゼを用いて分子全数が標的配列情報を2回含む分子として構築する方法の例を説明する。
図5にその手順を示す。
【0088】
本実施形態は、ヘアピンプライマーの5'末端を使用前にリン酸化しておき、目的の核酸分子の構築後に5'末端がリン酸化したDNA鎖を分解することを特徴とする。分解は、特に限定するものではないが、例えばλエキソヌクレアーゼを使用する。
【0089】
図5に示す工程の前に
図3と類似の工程を行う。
図3に示した工程と異なる点は、ヘアピンプライマー300の5’末端をリン酸化させ、対をなすプライマー303はリン酸化せずに
図3に示す増幅工程を行う点である。反応後、必要であれば、増幅反応液中の塩、プライマーを除く。取り除く方法は問わないが、例えばシリカメンブレンに増幅産物を固定化し、遠心することにより精製する市販キットであるNucleoSpin(登録商標) Gel and PCR Clean-up(タカラバイオ社製)を用いてもよい。
【0090】
λエキソヌクレアーゼは二本鎖DNAのリン酸化された5'末端側から消化し、モノヌクレオチドを放出する特徴を持った酵素である。5'末端がリン酸化された二本鎖DNAが良い基質となる。この性質を利用し、増幅産物にλエキソヌクレアーゼ(NEB社製)を加え、67 mM グリシン-KOH (pH 9.4)、2.5 mM MgCl
2、50μg/ml BSAのバッファー組成で反応溶液を調整し、37℃で30分インキュベーションする。この反応により、
図3の工程を経て生成された増幅産物の内、ヘアピン構造を形成せず、従って一分子中で標的配列情報を2回読むことが可能ではない二本鎖DNAのリン酸基を有する鎖が消化されて一本鎖となる。λエキソヌクレアーゼ反応を行った後、このDNA鎖を伸長する反応を再度実施する。
【0091】
この場合、λエキソヌクレアーゼ反応を行った溶液を、例えば下記の組成の溶液に調整する。
20mM Tris-HCl (pH8.5)
50mM KCl
2mM MgCl
2
200μM 各dNTP
5U Pfu
exo-DNAポリメラーゼ(3’-5’エキソヌクレアーゼ活性のないポリメラーゼ)
上記の組成で以下の温度条件で反応を行う。94℃で5分の加熱で高次構造をほぐす。その後95℃で30秒、60℃で45秒により3’末端の相補鎖をもつ配列箇所がアニールすることによりヘアピン構造を構築し、72℃で90秒以上の加熱により伸長反応を行う。この反応は、上記に示した反応条件に限定されない。標的とする配列やヘアピン構造の配列により温度、時間、サイクル等は変えてもよい。
【0092】
その結果、
図5に示すように、得られるDNA鎖として、標的配列を繰り返したヘアピン構造を持つ一本鎖核酸のみを得ることが可能となる。各工程の反応間に関して塩や酵素を取り除く精製工程を記載しなかったが、必要であれば実施してもよい。
【0093】
本実施例で作成した核酸分子も同様に、シーケンシング時に標的配列を2回検出することが可能となり、高精度な塩基配列が可能となる。
【実施例4】
【0094】
本実施例では、標的配列を2回以上検出するだけでなく、4回検出することも行える構築方法を説明する。
図6にその手順を示す。
【0095】
図6に示す工程の前に
図3と類似の工程を行う。
図3に示した工程と異なる点は、伸長反応における「72℃で90秒」としたステップを十分に長い時間(例えば5分以上)行う事により、反応生成物の3’末端がアデニン1塩基分突出した構造を意図的に形成させることができる。この為には、ターミナルトランスフェラーゼ活性を持つDNAポリメラーゼ(例えばTaqDNAポリメラーゼ)を使用して伸長反応を実施するのが好ましい。
【0096】
ここで形成された反応産物に対して、3’末端にチミン1塩基が突出した末端構造とヘアピン構造とを持つアダプタ601とを連結するTAクローニングを行う。このアダプタ601は、
図6に示すように、前工程での反応産物と結合(ライゲーション)する部分(二本鎖DNA)とヘアピンループを形成する部分(例えば表1に示すような配列)の間に、一本鎖のみでつながる構造を持つ。これは、ヘアピンループから反応産物と結合する部分へと向かう3’末端が途切れた構造となっている。
【0097】
アダプタの連結例として、TAクローニングによるアダプタ601との結合を示したが、連結方法はこれに限定されない。例えば、トポイソメラーゼを利用したクローニングシステムとして、例えば、DNA トポイソメラーゼ I およびバクテリオファージ P1由来のCre リコンビナーゼを用いたStrataClone PCR クローニング システム(アジレント社)やTOPO(登録商標) Cloning(ライフテクノロジーズ)、等の他のクローニング技術を用いて連結してもよい。
【0098】
連結後のステップとして、連結した反応産物に対して鎖置換型ポリメラーゼを用いて伸長反応を行う。この反応は、アダプタ601の3'末端から相補的な塩基配列に対して塩基対結合を形成することができ、かつ鎖置換反応が起きる酵素活性を維持しうる温度(例えば60℃)でインキュベートする。インキュベートする時間は、伸長反応する塩基長により調整してもよい。ここで各所の塩基対結合をもたらす条件は、たとえば融解温度以下に設定することが一般的であり、PCR法やLAMP法で用いられる条件と同様である。
【0099】
この鎖置換反応による伸長は、酵素に適したpH を与える緩衝剤や酵素の触媒活性の維持やアニールのために用いる塩成分、酵素の保護剤、更には必要に応じて融解温度の調整剤等を共存させた条件下で実施してもよい。pH緩衝剤の一例として、Tris-HCl 等の中性から弱アルカリ性に緩衝作用を持つものを用いても良い。pH は用いる酵素(DNA ポリメラーゼ)の特性に応じて調整する。塩成分としては、酵素の活性維持と核酸の融解温度調整のためにKCl、NaCl、あるいは(NH
4)
2SO
4等を適宜添加しても良い。酵素の保護としては、糖類やウシ血清アルブミンを用いても良い。
【0100】
融解温度の調整には、ジメチルスルホキシド(DMSO)やホルムアミドが一般に利用される。これらを融解温度の調整剤を利用することによって、3'末端からのアニールを限られた温度条件の下で調整することが可能になる。更に、ベタイン(N,N,N-トリメチルグリシン)は天然の浸透性保護剤であり、そのG+Cの塩基配列を多く含んだ領域の溶融温度を、A+Tの塩基配列を多く含んだ領域と同じ溶融温度に下げ得る性質を利用しても良い。その他、融解温度調整剤として、プロリン、トリメチルアミンN-オキシド等が知られる。二本鎖DNAの不安定化をもたらすことによって、鎖置換効率を向上させることができる。ベタインの添加量は、反応液中 0.2〜3.0M、好ましくは 0.5〜1.5 M 程度が好ましく、本発明の核酸増幅反応の促進作用を期待できる。これらの融解温度の調整剤は、融解温度を下げる方向に作用するため、塩濃度や反応温度等のその他の反応条件を考慮して、適切な反応を与える条件を経験的に設定し実施する。
【0101】
鎖置換反応の特性により、反応する限り伸長反応が進むことも有り得る。例えば、伸長反応を先導する3’末端構造が自己アニールする場合や、近傍の自身の塩基配列に飛び移り、反応が進む場合である。
【0102】
塩基配列の立体構造上、そのように反応が進む場合は、DNAポリメラーゼの基質となるdNTP(デオキシヌクレオシド三リン酸)の他にddNTP(ジデオキシヌクレオシド三リン酸)をある一定の濃度で含めても良い。含有するddNTPの濃度によって、増幅される鋳型の長さを制限することができる。例えば、ループ構造を経由して伸長反応が続くようであれば、高濃度のddNTPを含有することにより、鎖置換反応時にddNTPを取り込ませて伸長反応を停止させることが可能である。ddNTPの濃度が薄い場合は、dNTPが優先してポリメラーゼに取り込まれるが、ある程度鎖置換反応が進んでddNTPの濃度比が高くなると、ddNTPの方が優先して取り込まれ、鎖置換反応が停止する。必要な伸長産物長に応じて、ddNTPの濃度を調整してもよい。ddNTPの濃度調整によっては、4回以上の標的配列情報の繰り返しも可能であるが、過度な繰返し構造は結果的に高次構造を形成する為、ナノポアの通過にも影響を与え得る為、シーケンシングの構成によって繰返し回数を使い分けてもよい。
【0103】
制限無く鎖置換反応が進行することによる伸長は、上記の通りddNTPを用いて制御することも可能であるが、制御方法はこれに限定されるものではない。別の例として、アダプタ601が持つヘアピンループ構造の一部を脱塩基した構成にすると、鎖置換型ポリメラーゼの反応は脱塩基化された箇所で停止する。従って、脱塩基によって生成される核酸分子の長さを制御することができる。
【0104】
また、アダプタ601が持つヘアピンループ構造部分に、ポリメラーゼによる伸長反応を阻害する分子を含ませることもできる。阻害分子を用意することにより、伸長反応の過程でポリメラーゼによる伸長反応を阻害し、制限なく伸長することを防ぐことができる。阻害分子の構造は、ポリメラーゼによる伸長反応を阻害することができれば特に限定されないが、例えば核酸誘導体や非核酸誘導体を含むことが好ましい。
【0105】
核酸誘導体として、上記の脱塩基の他、鎖置換型酵素でも解離されない強固な高次構造やシュードノット構造のようにポリメラーゼの進行を立体的に阻害する構造を有する核酸、L型核酸、3-デオキシ-2-ヒドロキシ-dN、修飾塩基核酸、損傷塩基核酸、リン酸結合部位修飾核酸、RNA、2'-OMe-N、BNA(LNA)、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0106】
本実施例に示す反応の結果、
図6に示すように、標的配列を4回繰り返したヘアピン構造を持つ一本鎖核酸を得ることが可能となる。各工程の反応間に関して塩や酵素を取り除く精製工程を記載しなかったが、必要であれば実施してもよい。
【0107】
本実施例で作成した核酸分子は、シーケンシング時に標的配列を4回検出することが可能となり、より高精度な塩基配列決定が可能となる。
【実施例5】
【0108】
実施例4で構築した核酸分子は、
図6に示すように、標的配列を2回または4回繰り返す核酸分子が混在し得るものである。本実施例では、分子全数が標的配列を4回繰り返す核酸分子を構築する方法を説明する。
図7にその手順を示す。
【0109】
図7の工程は、
図5に示す反応工程によって生成した反応物を使用する。この生成した反応物は分子全数が標的配列を2回繰り返されして含む核酸分子であり、これを用いて標的配列を4回繰り返す核酸分子を構築する。
【0110】
実施例4で説明した例と同様に、
図5の反応において、伸長反応を十分に行う事により、反応生成物の3’末端がアデニン1塩基分突出した構造を意図的に形成することができる。従って、
図5で生成した反応物に実施例4で使用したものと同様の構造を有するアダプタ601を付与するTAクローニングまたはTOPO(登録商標)クローニング(ライフテクノロジーズ)等を行う。しかしながらアダプタとの連結方法は、特に限定されない。
【0111】
図5の反応産物とアダプタ601が結合したのち、鎖置換型ポリメラーゼを用いた伸長反応を行う。ここでの反応は、3'末端から相補的な塩基配列に対して塩基対結合を形成することができ、かつ鎖置換反応が起きる酵素活性を維持しうる温度でインキュベートする。ここで各所の塩基対結合をもたらす条件は、たとえば融解温度以下に設定することが一般的であり、PCR法やLAMP法で用いられる条件と同様である。ここに示す鎖置換反応に関しても、実施例4に示した鎖置換反応と同様の点を考慮し、反応を行う。
【0112】
上記に示す反応の結果、
図7に示すように、得られるDNA鎖を全て、標的配列を4回繰り返したヘアピン構造を持つ一本鎖核酸とすることが可能となる。各工程の反応間に関して塩や酵素を取り除く精製工程を記載しなかったが、必要であれば実施してもよい。
【0113】
本実施例で作成した核酸分子は、シーケンシング時に標的配列を4回検出することが可能となり、より高精度な塩基配列決定が可能となる。
【実施例6】
【0114】
上記実施例1〜5において、主に核酸分子を構築する工程を主眼に記載した。実施例6では、実施例1〜5において構築した核酸分子を効率的にナノポアに導入する事も考慮した構築方法を説明する。実施例1〜5までの方法で構築される核酸分子の末端構造は二本鎖DNAの形状を成しており、一本鎖DNAの塩基配列を決定する場合には二本鎖を一本鎖に解離させることにより、一本鎖DNAの直径サイズとしたナノポアへの導入効率も向上する。一般に、二本鎖DNAを一本鎖DNAに変性する場合は、溶媒と共に高温にさらす、pHの調整、融解温度調整剤の使用等が公知の技術である。これらの効果を補足する方法を、本実施例で示す。
【0115】
実施例1〜5で示した核酸分子の構築方法で生成される分子の末端は、例えば
図3に示した反応において、ヘアピンプライマー300と対をなすプライマー303の配列を持った二本鎖DNAの構造となっており、そのままでは容易には一本鎖DNAの直径サイズであるナノポアへは進入しない。そこで、このプライマー303の配列を変性時に一本鎖DNAになりやすいAT(アデニンとチミン)の配列に富んだ配列701(
図7)にすることにより、塩基配列決定時に簡便に一本鎖DNAをナノポア構造に導入しやすくなる。
【0116】
または、ヘアピンプライマー300の5’末端にRNAを有するDNAとRNAのキメラのプライマーとして
図3に示す反応を行い、各実施例に示した反応を行う。その後、リボヌクレアーゼのRNaseHを用い、DNAとRNAでキメラ構造末端のRNAを分解することにより、一本鎖DNAが突出した核酸分子が生成され、一本鎖DNAの箇所からナノポアに導入することが容易になる。
【実施例7】
【0117】
本実施例では、ヘアピンプライマー300にランダム配列801を持たせることにより、増幅時の由来となった核酸分子をこのランダム配列801によって認識し、由来となった核酸分子の配列の判定精度を高める方法を説明する。
【0118】
実施例1〜6に示す反応において、ヘアピンプライマー300にランダム配列801を持たせる。例えば、
図8Aに示すように、このランダム配列801をヘアピンプライマー300の二本鎖形成配列の箇所とする。標的配列に対して相補的となる配列以外の箇所において、二本鎖形成配列中(ステム部)に10塩基対のランダム配列を形成した場合、4種類の塩基で4の10乗(1,048,576)種類のランダム配列を持つヘアピンプライマーを用意することができる。その結果、
図8A(1)〜
図8C(5)の工程において、ある一つのランダム配列801を持って複製された核酸分子を鋳型として増幅される核酸分子は、
図8C(5)に示すように同じランダム配列801及びその相補配列802を持つ分子として増幅される。増幅サイクルが繰り返されることにより、増幅の由来となった配列およびランダム配列を維持したまま、指数関数的に増幅した核酸分子が得られる。異なるランダム配列を有するヘアピンプライマー803〜805から増幅される核酸分子は、ランダム配列が異なる核酸分子群を構成する(
図8C)。
【0119】
配列解析時には、標的配列と併せてこのヘアピンプライマー300の二本鎖形成配列該当箇所(ランダム配列801及びその相補配列802)を認識することにより、増幅時の由来となった核酸分子の配列の解析結果が増幅された核酸分子の数だけ得られ、データベースなどにある参照配列に対して塩基配列読取エラーなのか変異なのかを判定する精度を高めることが可能になる。
【0120】
図9に、同じランダム配列901を持つ複数の核酸分子(01〜05)の配列解析結果をまとめ、標的配列を比較した結果の例を示す。個々の核酸分子の解析結果を参照配列と共に比較することにより、分子間で異なった結果が検出され得る。その場合、配列解析時の読取エラーであれば、一部の核酸分子のランダムな位置に参照配列と異なる塩基の存在が示される(図中に四角で囲んで示す塩基)。例えば、増幅された核酸分子01で「G」として解析され、他の核酸分子02〜05で「C」として解析される場合、これは読取エラーと判定される(参照配列においても「C」)。一方、増幅の由来となった核酸分子の塩基配列に変異(位置902における「T」→「C」)が生じている場合、同じランダム配列901を持つ核酸分子01〜05の位置902(核酸分子01〜05で共通して異なる塩基)にて参照配列と異なる塩基を示す。つまり、増幅の由来となった核酸分子を認識し、その分子から増幅された核酸分子を、増幅の由来が異なる核酸分子と識別して数多く読取ることにより、より高精度な解析が可能になる。
【0121】
本手法は、前述した、多量にある正常細胞由来のゲノムDNAの中に僅かに含まれる異常細胞由来の変異を検出する場合に特に有効である。
【0122】
ここで、ランダム配列801の塩基長を10塩基としたが、これに限定されない。検出対象が含まれる割合が少ない場合、ランダム配列の塩基長を長くすることにより、より多くの種類をもつヘアピンプライマーを反応に用いることが出来、検出対象(例えば異常細胞由来核酸)とそれ以外(正常細胞由来の核酸)で同じランダム配列を持つヘアピンプライマーを使用することなく、増幅することが可能になる。つまり、ヘアピンプライマーが前記標的配列の変異の数以上のランダム配列種を有することが好ましい。
【0123】
尚、
図8ではランダム配列801の位置を二本鎖形成配列の箇所としたが、ヘアピンのループ部分を含めてランダム配列を形成してもよい。また、特に限定するものではないが、ヘアピンプライマーのステム部の塩基長は、8〜20塩基、例えば16〜18塩基の範囲とすることができる。
【0124】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。