特許第6561334号(P6561334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561334
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】水素分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20190808BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20190808BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20190808BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20190808BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20190808BHJP
   C22F 1/14 20060101ALI20190808BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   B01D53/22
   B01D69/00
   C01B3/56 Z
   C22C5/04
   C22F1/14
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 691B
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-57197(P2015-57197)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-175016(P2016-175016A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】松村 安行
(72)【発明者】
【氏名】小川 稔
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−012495(JP,A)
【文献】 特開2012−152701(JP,A)
【文献】 特開2007−069207(JP,A)
【文献】 特開2014−097443(JP,A)
【文献】 特開2012−201974(JP,A)
【文献】 特開2006−239526(JP,A)
【文献】 特許第4883364(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0240566(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
C01B 3/56
C22F 1/00
C22F 1/14
C22C 5/04
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムと銅と金とを有する合金薄膜からなる水素分離膜を製造する方法であって、
パラジウム含有薄膜、金含有薄膜及び銅含有薄膜の積層体を生成するステップと、
前記積層体を300℃〜600℃で加熱処理して、結晶構造に体心立方構造が含まれるパラジウムと銅と金との合金薄膜を生成するステップとを備える水素分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムまたはパラジウム合金の薄膜は、水素の選択的透過性を有するものであり、この特性を利用して水素分離膜として用いられている。パラジウム合金薄膜として代表的なものとしてはパラジウム・銀合金薄膜及びパラジウム・銅合金薄膜が挙げられる。
【0003】
パラジウム薄膜やパラジウム・銀合金薄膜はその結晶構造が面心立方構造を有しており、その特徴として水素を吸収すると膨張することが知られている。そのため水素分圧や温度の変動により膜が膨張収縮して膜が損傷・破壊される、所謂、水素脆化という現象が生じる。パラジウムまたはパラジウム合金は水素分離膜として用いる場合には、一般に膜厚が薄いほど水素の透過速度が向上し、しかも高価なパラジウム等の貴金属使用量が減少する。しかし、面心立方構造を有するパラジウム系膜の過度の薄膜化は水素脆化によって膜が破壊されるため、膜寿命の低下をもたらす。
【0004】
一方、銅を40〜50重量%程度含有するパラジウム・銅合金はその結晶構造が300℃において体心立方構造であることが知られている(非特許文献1及び2)。このような体心立方構造を有するパラジウム・銅合金では水素の吸収が上記の面心立方構造の合金に比べて著しく少ないことが知られており(非特許文献3)、そのため水素脆化の危険が小さいことが予想され、実際に高い耐久性を示すことがわかっている。しかしながら、パラジウム・銅の2元系合金の状態図によればパラジウム・銅合金で最も高い水素透過性能を有する銅が40重量%含まれる合金では340〜550℃で面心立方構造と体心立方構造の混合された結晶構造となり、550℃以上で完全に面心立方構造に結晶転位が生じる(非特許文献1及び2)。実際に銅が40重量%含まれる合金を水素分離膜とした場合には、400℃と450℃における水素透過性能はほぼ同じで、450℃を超えると水素透過性能が著しく劣化する(非特許文献4)。これは450℃では面心立方構造から体心立方構造への転移が一部進行し、450℃を超えると面心立方構造を主とした結晶構造となるために生じたと考えられる。よって高温において高い水素透過能を維持すると共に水素脆化に対する高い耐久性を維持するためには体心立方構造が明確に含まれることが重要である。銅含有量が45〜48重量%のパラジウム・銅合金ではこの体心立方構造から面心立方構造への転位温度は600℃程度となり、600℃を超えると完全に面心立方構造をとることが知られている(非特許文献1及び2)。よって、このような組成を有するパラジウム系水素分離膜は600℃以上の温度領域では著しく水素透過速度が低下する(非特許文献5)。
【0005】
水素分離膜の利用法として水素製造反応と水素分離を同一の反応器で行うメンブレンリアクター技術がある。炭化水素からの水素製造では通常水蒸気改質反応が行われるが、水素分離なしに反応を行う場合は化学平衡の制約から逃れるため、実用上、800℃以上の反応温度が選択される。それに対して、メンブレンリアクターを用いて水素分離を行いながら反応を行うとルシャトリエの法則によって化学平衡が生成物側に有利となるため、反応の低温化が図れる。しかし、反応を低温化すると触媒活性が低下するので大量の触媒を使用せざるを得ず、そのような事態を避けるには反応温度を少なくとも500℃以上、好ましくは550℃以上にする必要がある。ここで、従来から知られているパラジウム・銅合金からなる水素分離膜を炭化水素の水蒸気改質用メンブレンリアクターに採用することを考えると、例え、銅含有量が45〜48重量%のパラジウム・銅合金を使用したとしても600℃を超えると完全な面心立方構造への転移が生じ使用不可能となって好ましくない。
【0006】
パラジウム・銅合金に銀を添加すると体心立方構造の安定化が生じることが知られている(特許文献1)。しかし、薄膜化するために、めっき法により製膜する場合、銀のパラジウム中への拡散性が悪いので単純にそれぞれの金属膜を積層して加熱により合金化する工程に高温が必要となり膜の劣化をもたらす。それを防ぐためパラジウム・銀の合金膜を積層することが可能であるが、組成制御が難しく実用とするには困難があった。
【0007】
尚、水素分離膜として多くの特許文献にパラジウム、銅、金の組み合わせの合金を使用できるとの記載がある(例えば特許文献2)。しかし、本発明者の知る限りにおいて、その結晶構造について言及は無く、また、パラジウム、銅、金の組み合わせの合金に特定した先行例も無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Binary Alloy Phase Diagrams Second Edition volume 2, 1454-1456 ASM International (1990)
【非特許文献2】Mei Li, Zhenmin Du, Cuiping Guo and Changrong Li, “A thermodynamic modeling of the Cu-Pd system”, Computer Coupling of Phase Diagrams and Thermochemistry 32, 439-446 (2008)
【非特許文献3】Preeti Kamakoti, Bryan D. Morreale, Michael V. Ciocco, Bret H. Howard, Richard P. Killmeyer, Anthony V. Cugine and David S. Sholl, “Prediction of Hydrogen Flux Through Sulfer-Tolerant Binary Alloy Membranes, Science, 307, 569-573 (2005)
【非特許文献4】常木達也、白崎義則、安田勇、Pd−Cu合金の水素透過性能、日本金属学会誌、70巻658−661頁(2006)
【非特許文献5】B.H. Howard, R.P. Killmeyer, K.S. Rothenberger, A.V. Cugini, B.D. Morreale, R.M. Enick and F. Bustamante, “Hydrogen permeance of palladium-copper alloy membranes over a wide range of temperatures and pressures”, J. Membrane Science, 241, 207-218 (2004).
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−152701
【特許文献2】特開2007−69207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、炭化水素の水蒸気改質用メンブレンリアクターにも利用可能な、高温においても脆性を示さず耐久性があると共に優れた水素透過性能を有する水素分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
また、本発明の目的は、パラジウムと銅と金とを有する合金薄膜からなる水素分離膜を製造する方法であって、パラジウム含有薄膜、金含有薄膜及び銅含有薄膜の積層体を生成するステップと、前記積層体を300℃〜600℃で加熱処理して、結晶構造に体心立方構造が含まれるパラジウムと銅と金との合金薄膜を生成するステップとを備える水素分離膜の製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭化水素の水蒸気改質用メンブレンリアクターにも利用可能な、高温においても脆性を示さず耐久性があると共に優れた水素透過性能を有する水素分離膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1におけるパラジウム・銅・金合金薄膜のX線回折パターンの測定結果を示すグラフである。
図2】実施例2におけるパラジウム・銅・金合金薄膜のX線回折パターンの測定結果を示すグラフである。
図3】実施例3におけるパラジウム・銅合金薄膜のX線回折パターンの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の水素分離膜について具体的に説明する。
水素分離膜及びその製造方法
本発明の水素分離膜は、パラジウムと銅と金とを主体とする合金であって、金の含有量が1〜15重量%、更に好ましくは3〜13重量%であり、銅の含有量が銅とパラジウムの含有量の和に対して好ましくは35〜49重量%、更に好ましくは38〜46重量%であり、その結晶構造中に明確に体心立方構造が含まれることを特徴とするパラジウム・銅・金合金薄膜からなるものである。ここで、結晶構造の特定はX線回折パターンの測定によれば良く、本発明の結晶構造中に体心立方構造が含まれる水素分離膜を加熱後、室温でX線回折パターンを測定すると合金の体心立方構造に起因する明瞭なピークが検出される。
【0019】
この薄膜の好ましい膜厚は0.4〜30μmであり、更に好ましくは1〜20μmである。膜厚が小さすぎると欠陥が増加し水素の選択分離性能が悪化するし、膜厚が大きすぎると水素の透過性能が悪化する。
【0020】
本発明の水素分離膜は多孔性セラミックスや多孔性焼結金属のようなガス拡散が可能な支持体上に形成して差し支えない。多孔性セラミックスとしてはアルミナ多孔体、ジルコニア多孔体、セリア多孔体、ジルコニア−セリア多孔体、シリカ多孔体、チタニア多孔体、イットリア安定化ジルコニア多孔体、ムライト多孔体等が例示できる。多孔性焼結金属の材質については特に限定はなく、例えば、ステンレス、ハステロイ合金、インコネル合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金等を用いることができる。多孔性焼結金属からのパラジウム・銅・合金膜への金属拡散を防止するために、多孔性焼結金属の表面酸化処理や、銀、金等の拡散阻止層の形成処理を行っても良い。また、多孔性焼結金属上にアルミナ多孔体、ジルコニア多孔体、セリア多孔体、ジルコニア−セリア多孔体、シリカ多孔体、チタニア多孔体、イットリア安定化ジルコニア多孔体、ムライト多孔体等の多孔性セラミックスを被覆した支持体を使用しても良い。多孔性セラミックス支持体の表面には往々にして、ひび割れ、膜の部分的剥離といった欠陥が存在することがある。そこで、無電解めっきを用いて欠陥上に選択的に金属を析出させ、セラミックス表面の一方面に開口する欠陥を金属で閉塞及び/または被覆した支持体を用いても良い。なお、支持体の形状について特に限定はなく、例えば、板状、中空の管状、有底筒状等の形状を採用することができる。
【0021】
本発明の水素分離膜は金の含有量が1〜15重量%、更に好ましくは3〜13重量%であり、銅の含有量が銅とパラジウムの含有量の和に対して好ましくは35〜49重量%、更に好ましくは38〜46重量%含有したパラジウム・銅・金合金を圧延によって薄膜化することにより製造できる。
【0022】
しかし、圧延による薄膜化手法の場合、薄膜化するのに限界があるので、何らかの多孔性支持体上にパラジウム・銅・金合金薄膜を製膜するのがより好ましい。製膜手法としては、例えばマグネトロンスパッタリングのようなスパッタリングによる方法や化学蒸着、めっき、といった方法を用いて差し支えないが、中でも、めっきによる方法が最も簡便で安価にパラジウム・銅・金合金薄膜を製膜することができる。
【0023】
めっき法による場合、支持体表面が多孔性セラミックスのような導電性のない物質である場合、無電解めっき法によってパラジウム・銅・金合金薄膜を構成する金属をめっきすれば良い。無電解めっきによって複数の金属元素を同時にめっきする合金めっきを行うことは可能であるが、組成制御が難しく、段階的にめっきを行うのが好ましい。また、支持体表面が導電性のある物質の場合、無電解めっき、電気めっきの何れの方法を用いても差し支えない。第1段階のめっきとしてはパラジウムあるいは金をめっきするのが組成制御の観点から好ましい。銅を第1段階でめっきした場合でも後段でのパラジウム・銅・金合金薄膜を構成する金属のめっきと、引き続く加熱による合金化処理によって目的を達することができるが、銅はパラジウムや金に比べて電気的に卑なので銅を先にめっきすると後段のパラジウムあるいは金のめっきの時に置換めっきが生じてしまい組成制御が難しくなる。
【0024】
第1段階のめっきにより支持体表面は導電性となるので、第2段階以降は無電解めっき、電気めっきの何れの方法を行うことも可能である。また、場合によっては置換めっきを行うこともできる。第2段階以降、パラジウム・銅・金合金薄膜を構成する金属を順次第1段階で製膜した層の上にめっきし、その後、加熱による合金化を行えば良い。銅は合金組成中で電気的に最も卑であるので、最終段階で銅を含む金属のめっきを行うのが組成制御の観点からは好ましい。
【0025】
ここで、めっきされた金属層の組成中の金の含有量が1〜15重量%、更に好ましくは3〜13重量%であり、銅の含有量が銅とパラジウムの含有量の和に対して好ましくは35〜49重量%、更に好ましくは38〜46重量%であるようにした後、加熱処理により金属層の合金化を行う。一般に加熱処理によるパラジウム中への銅や金の拡散は容易であり製膜した水素分離膜の前駆体を好ましくは300〜600℃で、より好ましくは350〜500℃で加熱すれば体心立方構造が明確に含まれるパラジウム・銅・金合金薄膜が形成できる。この加熱処理は非酸化性雰囲気中で行えばよく、通常、還元ガス雰囲気下、あるいは不活性ガス雰囲気下で加熱することによって行うことができる。還元ガスとしては、例えば水素、メタノール等の還元性を有する気体を用いることができる。不活性ガスとしてはヘリウム、窒素、アルゴン、水蒸気、等が例示できる。あるいは、真空下で行ってもよい。この処理時間は、通常、5〜100時間程度とすればよい。処理中に水素分離膜表面に付着した有機物を取り除くため、酸素あるいは酸素を含んだ気体と接触させても差し支えない。ここで、パラジウム・銅・金合金薄膜における結晶構造中の体心立方構造の含有割合は、50〜100%の数値範囲であることが好ましく、更に好ましくは、70〜100%の範囲となるように構成することがよい。尚、ここにおける体心立方構造の含有割合はパラジウム・銅・金合金薄膜の室温におけるX線回折パターンを測定し、測定される体心立方構造の110面に由来するピークの強度、及び面心立方構造の111面に由来するピークの強度の和に対する体心立方構造の110面に由来するピークの強度の割合である。
【0026】
水素分離方法
本発明の水素分離膜は、常法に従って、水素を含有する混合気体から水素のみを分離するために使用できる。例えば、該水素分離膜によって隔離された一方の側に水素含有混合気体を位置させて該水素分離膜の一方の面を水素含有気体と接触させ、他方の面側の水素分圧を水素含有混合気体側の水素分圧以下とすればよい。これにより水素分離膜中を水素が選択的に透過して、水素含有混合気体側にある水素のみを反対側に移動させて分離することができる。この場合の水素分離膜の温度は、パラジウム・銅・金合金の体心立方構造が保持される範囲内であれば良く、通常、50〜800℃程度、好ましくは300〜750℃程度とすれば良い。温度が低すぎると水素透過速度が低下し、温度が高すぎると膜の体心立方構造から面心立方構造への構造変化が生じて劣化が進行するので好ましくない。
【0027】
本発明によれば、比較的簡単な方法によって、高温での耐久性に優れた水素分離膜が得られる。得られる水素分離膜は、特に炭化水素の水蒸気改質等の比較的高温を必要とする反応を対象とするメンブレンリアクター用として有効に利用できる。また、本発明に係る水素分離膜(パラジウム・銅・金合金薄膜)は、比較的低い加熱温度で合金化されるため、製造過程の熱処理段階で合金薄膜が劣化する危険性が低く、その結果、水素分離膜の使用中に新たな欠陥が発生することが抑制され、良好な水素選択性能を維持することが可能となる。
【0028】
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
ステンレス製多孔性金属に支持された、外表面に開口する欠陥を金属で閉塞及び/または被覆したセラミックス多孔体薄膜を支持体として本発明に係る水素分離膜を製造した。この支持体は内部と外部が隔離された有底筒状のステンレス製焼結金属フィルター(フィルター長:5cm、フィルター直径:1cm)外表面に層厚30μm、平均細孔径0.1μmのセラミックス多孔体薄膜が製膜されたものである。上記の支持体は市販のアルカリ触媒液(奥野製薬工業株式会社、OPC−50インデューサー)中に50℃で浸漬して、その外表面にパラジウムイオンを付着させ、引き続き、市販のジメチルアミノボランを含有する還元液(奥野製薬工業株式会社、OPC−150クリスターMU)に浸漬してパラジウムイオンを還元することにより、その外表面にパラジウムを付与した後、市販の無電解パラジウムめっき液(奥野製薬工業株式会社、パラトップ)を支持体の内部に満たし、支持体の外表面をグルコース濃度4mol/Lの水溶液中に50℃で浸漬し、浸透圧によって無電解パラジウムめっき液を支持体の内側から外側にセラミックス多孔体薄膜の欠陥部位を通じて流出させることにより、セラミックス多孔体薄膜の欠陥部にパラジウム金属を析出させ外表面に開口する欠陥を金属で閉塞及び/または被覆したものである。この支持体を水洗後、市販のアルカリ触媒液中に50℃で浸漬して、外表面にパラジウムイオンを付着させ、引き続き、市販の還元液中で還元し、引き続き50℃の市販の無電解パラジウムめっき液中に支持体の外表面を浸漬し、多孔性フィルター外表面にパラジウムを析出させた。支持体表面がパラジウム薄膜前駆体に覆われた後、無電解パラジウムめっき液をパラジウム薄膜前駆体に残存する貫通欠陥に導くためフィルター内部(有底筒状の焼結金属フィルターの内部)をポンプによって0.1気圧まで減圧して無電解パラジウムめっきを行った。得られたパラジウム含有薄膜の平均膜厚は1.2μmであった。そして、この多孔性フィルター上に形成されたパラジウム含有薄膜を市販の金めっき液(小島化学薬品株式会社、CF−01)に浸漬しパラジウム含有薄膜上に金の電気めっきを行い、パラジウム含有薄膜上に平均膜厚0.08μmの金含有薄膜を形成し、その後、銅のエチレンジアミン錯体からなる電気めっき液に浸漬して銅の電気めっきを行い、金含有薄膜上に銅含有薄膜を形成した。
【0030】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で50時間、加熱処理して多孔性フィルターを支持体とするパラジウム・銅・金合金膜からなる水素分離膜を得た。得られた合金の平均金含有量は5重量%、銅とパラジウムの含有量の和に対する平均銅含有量は44重量%、合金の平均膜厚は3μmであった。なお、パラジウム・銅・金合金薄膜の平均組成は、リガク製の蛍光X線分析装置(型番:ZSX PrimusIII+)を用いて測定した。
【0031】
パラジウムを主成分とする水素分離膜の水素透過速度(k)は一般にシーベルト則に従う。即ち、
k=J/(p10.5−p20.5
となる。ここでJは水素透過流速(mmol/s/m)、p1は入口側水素分圧(Pa)、p2は出口側水素分圧(Pa)である。ところで、水素分離膜の水素透過速度は一般に膜厚(l)に反比例する。そこで、膜厚に依らない水素分離膜に使用される金属自体の水素透過能(Q)を求めることができる。即ち、
Q=k・l
となる。
【0032】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため、水素差圧0〜2気圧の範囲でガス透過試験を行った結果、700℃において0.51mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度(水素透過能:1.5nmol/s/m/Pa0.5)を得た。
【0033】
700℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・金合金薄膜を室温まで冷却後、薄膜のX線回折パターン(図1)を測定した。めっき法による製膜のため薄膜組成が不均一となるので、測定は管の円周に沿った4カ所について行った。その結果、それぞれのパターンで体心立方構造のみ、あるいは体心立方構造および面心立方構造に由来する合金のピークが観測された。合金薄膜における体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合を求めるため、体心立方構造の110面に由来する43°付近のピークの強度と面心立方構造の111面に由来する42°付近のピークの強度の和に対する体心立方構造の110面に由来する43°付近のピークの強度の割合をそれぞれのパターンについて算出し、その平均値を合金薄膜における体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合とした。ここで得られた値は78%であった。なお、X線回析パターンは、リガク製のX線回折装置(型番:UltimaIV)を用いて測定した。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で欠陥上にパラジウム金属を析出させた多孔性セラミックス支持体上に平均膜厚0.8μmのパラジウム含有薄膜、平均膜厚0.05μmの金含有薄膜を順次製膜した後、銅含有薄膜をめっきした。
【0035】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で50時間、加熱処理して多孔性フィルターを支持体とするパラジウム・銅・金合金膜からなる水素分離膜を得た。得られた合金の平均金含有量は5重量%、銅とパラジウムの含有量の和に対する平均銅含有量は43重量%、合金の平均膜厚は2μmであった。
【0036】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法でガス透過試験を行った結果、750℃において1.1mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度(水素透過能:2.2nmol/s/m/Pa0.5)を得た。
【0037】
750℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・金合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(図2)では、それぞれ体心立方構造のみ、あるいは体心立方構造および面心立方構造に由来する合金のピークが観測された。それぞれのパターンより得られた体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合は99%であった。
【0038】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で欠陥上にパラジウム金属を析出させた多孔性セラミックス支持体上に平均膜厚1.2μmのパラジウム含有薄膜、平均膜厚0.2μmの金含有薄膜を順次製膜した後、銅含有薄膜をめっきした。
【0039】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で50時間、加熱処理して多孔性フィルターを支持体とするパラジウム・銅・金合金膜からなる水素分離膜を得た。得られた合金の平均金含有量は11重量%、銅とパラジウムの含有量の和に対する平均銅含有量は40重量%、合金の平均膜厚は3μmであった。
【0040】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法でガス透過試験を行った結果、700℃において0.42mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度(水素透過能:1.3nmol/s/m/Pa0.5)を得た。
【0041】
700℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・金合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(図3)では、それぞれ体心立方構造のみ、あるいは体心立方構造および面心立方構造に由来する合金のピークが観測された。それぞれのパターンより得られた体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合は83%であった。
【0042】
[比較例1]
膜厚が20μm、銅含有量が46重量%であって面心立方構造を有するパラジウム・銅合金圧延膜をパラジウム・銅合金薄膜前駆体として、水素中で400℃において8時間の加熱を行い、体心立方構造を有するパラジウム・銅合金の薄膜とした。
【0043】
この体心立方構造を有するパラジウム・銅合金薄膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法で水素透過試験を行った結果、625℃において0.03mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度(水素透過能:0.6nmol/s/m/Pa0.5)を得た。
【0044】
パラジウム・銅合金においては600℃を超えると面心立方構造への相転移のため著しく水素透過能が低下することが知られており、比較例1の結果は実施例1〜3における水素透過能と比較して明らかに低く、本発明の分離膜は600℃を超える高温領域においても優れた水素透過性を有していることがわかる。
図1
図2
図3