【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
ステンレス製多孔性金属に支持された、外表面に開口する欠陥を金属で閉塞及び/または被覆したセラミックス多孔体薄膜を支持体として本発明に係る水素分離膜を製造した。この支持体は内部と外部が隔離された有底筒状のステンレス製焼結金属フィルター(フィルター長:5cm、フィルター直径:1cm)外表面に層厚30μm、平均細孔径0.1μmのセラミックス多孔体薄膜が製膜されたものである。上記の支持体は市販のアルカリ触媒液(奥野製薬工業株式会社、OPC−50インデューサー)中に50℃で浸漬して、その外表面にパラジウムイオンを付着させ、引き続き、市販のジメチルアミノボランを含有する還元液(奥野製薬工業株式会社、OPC−150クリスターMU)に浸漬してパラジウムイオンを還元することにより、その外表面にパラジウムを付与した後、市販の無電解パラジウムめっき液(奥野製薬工業株式会社、パラトップ)を支持体の内部に満たし、支持体の外表面をグルコース濃度4mol/Lの水溶液中に50℃で浸漬し、浸透圧によって無電解パラジウムめっき液を支持体の内側から外側にセラミックス多孔体薄膜の欠陥部位を通じて流出させることにより、セラミックス多孔体薄膜の欠陥部にパラジウム金属を析出させ外表面に開口する欠陥を金属で閉塞及び/または被覆したものである。この支持体を水洗後、市販のアルカリ触媒液中に50℃で浸漬して、外表面にパラジウムイオンを付着させ、引き続き、市販の還元液中で還元し、引き続き50℃の市販の無電解パラジウムめっき液中に支持体の外表面を浸漬し、多孔性フィルター外表面にパラジウムを析出させた。支持体表面がパラジウム薄膜前駆体に覆われた後、無電解パラジウムめっき液をパラジウム薄膜前駆体に残存する貫通欠陥に導くためフィルター内部(有底筒状の焼結金属フィルターの内部)をポンプによって0.1気圧まで減圧して無電解パラジウムめっきを行った。得られたパラジウム含有薄膜の平均膜厚は1.2μmであった。そして、この多孔性フィルター上に形成されたパラジウム含有薄膜を市販の金めっき液(小島化学薬品株式会社、CF−01)に浸漬しパラジウム含有薄膜上に金の電気めっきを行い、パラジウム含有薄膜上に平均膜厚0.08μmの金含有薄膜を形成し、その後、銅のエチレンジアミン錯体からなる電気めっき液に浸漬して銅の電気めっきを行い、金含有薄膜上に銅含有薄膜を形成した。
【0030】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で50時間、加熱処理して多孔性フィルターを支持体とするパラジウム・銅・金合金膜からなる水素分離膜を得た。得られた合金の平均金含有量は5重量%、銅とパラジウムの含有量の和に対する平均銅含有量は44重量%、合金の平均膜厚は3μmであった。なお、パラジウム・銅・金合金薄膜の平均組成は、リガク製の蛍光X線分析装置(型番:ZSX PrimusIII+)を用いて測定した。
【0031】
パラジウムを主成分とする水素分離膜の水素透過速度(k)は一般にシーベルト則に従う。即ち、
k=J/(p1
0.5−p2
0.5)
となる。ここでJは水素透過流速(mmol/s/m
2)、p1は入口側水素分圧(Pa)、p2は出口側水素分圧(Pa)である。ところで、水素分離膜の水素透過速度は一般に膜厚(l)に反比例する。そこで、膜厚に依らない水素分離膜に使用される金属自体の水素透過能(Q)を求めることができる。即ち、
Q=k・l
となる。
【0032】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため、水素差圧0〜2気圧の範囲でガス透過試験を行った結果、700℃において0.51mmol/s/m
2/Pa
0.5の水素透過速度(水素透過能:1.5nmol/s/m/Pa
0.5)を得た。
【0033】
700℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・金合金薄膜を室温まで冷却後、薄膜のX線回折パターン(
図1)を測定した。めっき法による製膜のため薄膜組成が不均一となるので、測定は管の円周に沿った4カ所について行った。その結果、それぞれのパターンで体心立方構造のみ、あるいは体心立方構造および面心立方構造に由来する合金のピークが観測された。合金薄膜における体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合を求めるため、体心立方構造の110面に由来する43°付近のピークの強度と面心立方構造の111面に由来する42°付近のピークの強度の和に対する体心立方構造の110面に由来する43°付近のピークの強度の割合をそれぞれのパターンについて算出し、その平均値を合金薄膜における体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合とした。ここで得られた値は78%であった。なお、X線回析パターンは、リガク製のX線回折装置(型番:UltimaIV)を用いて測定した。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で欠陥上にパラジウム金属を析出させた多孔性セラミックス支持体上に平均膜厚0.8μmのパラジウム含有薄膜、平均膜厚0.05μmの金含有薄膜を順次製膜した後、銅含有薄膜をめっきした。
【0035】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で50時間、加熱処理して多孔性フィルターを支持体とするパラジウム・銅・金合金膜からなる水素分離膜を得た。得られた合金の平均金含有量は5重量%、銅とパラジウムの含有量の和に対する平均銅含有量は43重量%、合金の平均膜厚は2μmであった。
【0036】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法でガス透過試験を行った結果、750℃において1.1mmol/s/m
2/Pa
0.5の水素透過速度(水素透過能:2.2nmol/s/m/Pa
0.5)を得た。
【0037】
750℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・金合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(
図2)では、それぞれ体心立方構造のみ、あるいは体心立方構造および面心立方構造に由来する合金のピークが観測された。それぞれのパターンより得られた体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合は99%であった。
【0038】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で欠陥上にパラジウム金属を析出させた多孔性セラミックス支持体上に平均膜厚1.2μmのパラジウム含有薄膜、平均膜厚0.2μmの金含有薄膜を順次製膜した後、銅含有薄膜をめっきした。
【0039】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素気流下400℃で50時間、加熱処理して多孔性フィルターを支持体とするパラジウム・銅・金合金膜からなる水素分離膜を得た。得られた合金の平均金含有量は11重量%、銅とパラジウムの含有量の和に対する平均銅含有量は40重量%、合金の平均膜厚は3μmであった。
【0040】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法でガス透過試験を行った結果、700℃において0.42mmol/s/m
2/Pa
0.5の水素透過速度(水素透過能:1.3nmol/s/m/Pa
0.5)を得た。
【0041】
700℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・金合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(
図3)では、それぞれ体心立方構造のみ、あるいは体心立方構造および面心立方構造に由来する合金のピークが観測された。それぞれのパターンより得られた体心立方構造が合金の結晶構造中に占める割合は83%であった。
【0042】
[比較例1]
膜厚が20μm、銅含有量が46重量%であって面心立方構造を有するパラジウム・銅合金圧延膜をパラジウム・銅合金薄膜前駆体として、水素中で400℃において8時間の加熱を行い、体心立方構造を有するパラジウム・銅合金の薄膜とした。
【0043】
この体心立方構造を有するパラジウム・銅合金薄膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法で水素透過試験を行った結果、625℃において0.03mmol/s/m
2/Pa
0.5の水素透過速度(水素透過能:0.6nmol/s/m/Pa
0.5)を得た。
【0044】
パラジウム・銅合金においては600℃を超えると面心立方構造への相転移のため著しく水素透過能が低下することが知られており、比較例1の結果は実施例1〜3における水素透過能と比較して明らかに低く、本発明の分離膜は600℃を超える高温領域においても優れた水素透過性を有していることがわかる。