特許第6561476号(P6561476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6561476アクリルゴム、アクリルゴム組成物および押出成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561476
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】アクリルゴム、アクリルゴム組成物および押出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20190808BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C08F265/06
   C08L51/00
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-9203(P2015-9203)
(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公開番号】特開2016-132741(P2016-132741A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】江尻 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奨
【審査官】 楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−012427(JP,A)
【文献】 特開昭58−152078(JP,A)
【文献】 特開平07−199546(JP,A)
【文献】 特開平11−035776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/06
C08L 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル単量体及び二重結合を2個以上有する多官能性単量体を共重合してシードラテックスを得て、さらに前記シードラテックスの存在下で前記(メタ)アクリル酸エステル単量体を共重合することにより得られる、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)を0.1〜2重量%、およびフェノール性水酸基含有単量体単位を0.1〜10重量%含有してなるアクリルゴムであって、
前記アクリルゴムに含まれる前記二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)のうちの50重量%以上が前記シードラテックスを得る際に重合してなるアクリルゴム。
【請求項2】
ポリマームーニー粘度が20〜30である請求項1記載のアクリルゴム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアクリルゴムに配合剤が含有されてなるアクリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のアクリルゴム組成物を押出成形してなる押出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴムに関し、さらに詳しくは押出し加工性に優れたアクリルゴム組成物を与えることができるアクリルゴムおよび、このアクリルゴムを用いたアクリルゴム組成物および押出成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐油性、耐候性などに優れたゴム材料である。このため、ガスケット、ホース、O−リング、シールなどの自動車用ゴム部品として自動車関連の分野で広範に用いられている。しかし、最近では自動車の高級化、高性能化に伴い、耐熱性、耐油性、長寿命性等の性能にさらに優れたゴム材料が要望され、このようなゴム材料を与えることができるアクリルゴム組成物またはアクリルゴムが求められている。
【0003】
その中で、より高度な耐熱性が求められる場合に、シリカを補強剤として用いることにより耐熱性がより向上することが知られている。しかし、シリカ配合のアクリルゴム組成物は押出成形において、カーボン配合と比較して表面肌の平滑性に劣ることから、ホースやチューブなどに用いることができる押出成形品を成形することが困難な状況であった。
【0004】
一方、押出成形性を改良する手法として、流動パラフィン、シリコーンオイルまたはフッ素オイルを添加することにより表面肌の平滑性を改良する手法が特許文献1に報告されている。しかし、この手法は、添加剤により押成形性を改良するものであるため、ホースやチューブなどに用いる場合に、オイルや溶剤などによって添加剤が溶出することで成形品の耐熱性が低下してしまう場合があったり、また、添加剤も必要量使用するためにコストを増大させるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−40922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、押出し加工性に優れるアクリルゴム組成物を与えることができるアクリルゴムを提供すること、このアクリルゴムを用いたアクリルゴム組成物および押出成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、二重結合を2個以上有する多官能性単量体をアクリルゴム重合体の成分として用い、それを重合の初期に偏らせて重合することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、
(1) (メタ)アクリル酸エステル単量体及び二重結合を2個以上有する多官能性単量体を共重合してシードラテックスを得て、さらに前記シードラテックスの存在下で前記(メタ)アクリル酸エステル単量体を共重合することにより得られる、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)を0.1〜2重量%含有してなるアクリルゴムであって、前記アクリルゴムに含まれる前記二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)のうちの50重量%以上が前記シードラテックスを得る際に重合してなるアクリルゴム、
(2) ポリマームーニー粘度が20〜30である(1)記載のアクリルゴム、
(3) (1)または(2)に記載のアクリルゴムに配合剤が含有されてなるアクリルゴム組成物、
(4) (3)に記載のアクリルゴム組成物を押出成形してなる押出成形品
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアクリルゴムによれば、押出し加工性に優れるアクリルゴム組成物を与えることができる。また、本発明によれば、このアクリルゴムを用いたアクリルゴム組成物および押出成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のアクリルゴムについて説明する。本発明のアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び二重結合を2個以上有する多官能性単量体を共重合してシードラテックスを得て、さらに前記シードラテックスの存在下で前記(メタ)アクリル酸エステル単量体を共重合することにより得られる、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)を0.1〜2重量%含有してなるアクリルゴムであって、前記アクリルゴムに含まれる前記二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)のうちの50重量%以上が前記シードラテックスを得る際に重合してなる。
【0011】
(アクリルゴム)
本発明のアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有し、(メタ)アクリル酸エステル単量体を主成分として含有するものが好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の両方を意味する。
【0012】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、耐油性を向上する観点から、例えば、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、好ましくは炭素数2〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が挙げられる。
【0013】
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルおよび(メタ)アクリル酸オクチルなどが挙げられる。これらのうち、耐熱性、耐油性および耐寒性のバランスが良好である観点から、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0014】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、耐油性を向上する観点から、例えば、炭素数1〜4のアルコキシ基および炭素数1〜4のアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが挙げられる。炭素数1〜4のアルコキシ基および炭素数1〜4のアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシプロピルなどが挙げられる。これらのうち、耐熱性、耐油性および耐寒性のバランスが良好である観点から、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0015】
アクリルゴムを構成する単量体単位中における(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、得られるアクリルゴムのゴム弾性が良好となり、十分な架橋密度が得られる観点から、好ましくは60〜99.9重量%、より好ましくは92〜99.7重量%、さらに好ましくは92〜99.5重量%である。
【0016】
また、本発明のアクリルゴムは、必要に応じてフェノール性水酸基含有単量体単位を含有してもよい。アクリルゴム中のフェノール性水酸基は、架橋性基として機能し、液状ふっ素ゴムと架橋する。従って、液状ふっ素ゴムは、後述するアクリルゴム組成物に用いる場合に架橋剤としての機能を有する。
【0017】
フェノール性水酸基含有単量体としては、フェノール性水酸基を含有し、(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な単量体であれば、特に限定されない。フェノール性水酸基含有単量体としては、o,m,p−ヒドロキシスチレン、α−メチル−o−ヒドロキシスチレン、o−カビコール、p,m−ヒドロキシ安息香酸ビニル、4−ヒドロキシベンジル(メタ)アクリレート、サリチル酸ビニル、p−ヒドロキシベンゾイロキシ酢酸ビニル、オイゲノール、イソオイゲノール、p−イソプロペニルフェノール、o,m,p−アリルフェノール、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、2,2−(o,m,p−ヒドロキシフェニル−4−ビニルアセチル)プロパンなどが挙げられる。これらのフェノール性水酸基含有単量体は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0018】
アクリルゴムを構成する全単量体単位中におけるフェノール性水酸基含有単量体の含有量は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.3〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。フェノール性水酸基含有単量体の含有量が少なすぎると、ゴム架橋物の架橋密度が十分でなく、良好な機械的特性が得られない。一方、フェノール性水酸基含有単量体の含有量が多すぎると、架橋物の伸びが低下する。
【0019】
また、本発明のアクリルゴムは、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)を含有する。二重結合を2個以上有する多官能性単量体は、多官能、即ち、重合性不飽和結合を複数有し、その中で二重結合を2個以上有するものであればよく、特に限定されないが、二重結合を含む重合性不飽和結合として、炭素−炭素二重結合を複数有するものが好ましい。その具体例としては、たとえば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート;ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の不飽和エステル化合物;ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリイソプロペニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの多価ビニル化合物;2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−p−メトキシスチレン−5−トリアジンなどの置換トリアジン;4−アクリルオキシベンゾフェノンのようなモノエチレン系不飽和芳香族ケトンなどが挙げられる。これらのなかでも、多官能性(メタ)アクリレート、および多価ビニル化合物が好ましく、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、およびジビニルベンゼンが特に好ましい。これらは一種単独で、または二種以上を併せて使用することができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタアクリレート」を意味する。
二重結合を2個以上有する多官能性単量体は、重合中に架橋構造を生じる、内部架橋性単量体として作用する。
【0020】
アクリルゴム中における、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)の含有割合は、全単量体単位中、0.1〜2重量%であり、好ましくは0.1〜1.6重量%である。二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)の含有割合を上記範囲とすることにより、架橋性ゴム組成物の加工性が向上する。二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)の含有割合が低すぎると、架橋性ゴム組成物の加工性の向上効果が得難くなる。一方、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)の含有割合が高すぎると、伸びの低下などゴム架橋物の物性が悪化するおそれがある。
【0021】
本発明のアクリルゴムは、本発明の効果を本質的に損なわない範囲で、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、フェノール性水酸基含有単量体単位および二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)以外の単量体単位を含有していてもよい。このような単量体単位を形成する単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、フェノール性水酸基含有単量体単位および二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)と共重合可能な他の単量体を用いることができる。
【0022】
具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などの不飽和多価カルボン酸と低級アルコールとの完全又は部分エステル化物;スチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、エチレンプロピレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、2−クロロエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロライド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。これらの他の単量体は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、フェノール性水酸基含有単量体単位および二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)以外の単量体単位の含有割合は、アクリルゴムを構成する全単量体単位中、好ましくは30重量%以下、より好ましくは7.7重量%以下、さらに好ましくは4.5重量%以下である。
【0024】
(アクリルゴムの製造方法)
本発明のアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)および必要に応じて用いられるフェノール性水酸基含有単量体および他の単量体を共重合してシードラテックスを得て、前記シードラテックスの存在下、さらに(メタ)アクリル酸エステル単量体等を共重合して得られる。
【0025】
これらの単量体の共重合は、例えば、乳化重合法により行うことができる。上記乳化重合法によりアクリルゴム(組成物)を製造するうえで、シード重合法を用いることができる。好ましいシード重合法としては、乳化重合を複数の段階に分けて連続的に行う方法(多段重合法)が挙げられる。すなわち、第1段目として(メタ)アクリル酸エステル単量体、二重結合を2個以上有する多官能性単量体、必要に応じて用いられるフェノール性水酸基含有単量体および他の単量体等の単量体、重合開始剤、分子量調整剤、乳化剤等のその他の成分を添加して、重合反応を開始させ、シードラテックスを得る。
【0026】
そして、単量体成分の重合度(重合転化率)が所定の割合に達したのち、第2段目として(メタ)アクリル酸エステル単量体、必要に応じて用いられるフェノール性水酸基含有単量体、他の単量体等の単量体、重合開始剤、分子量調整剤、乳化剤等のその他の成分を添加し、重合を連続的に行うことで、アクリルゴムを製造することができる。ここで、第2段目においては二重結合を2個以上有する多官能性単量体を添加しないことが好ましい。
【0027】
第2段目の重合において、単量体成分の重合度(重合転化率)が所定の割合に達したのち、重合反応を停止させる。得られた重合体ラテックスと塩析剤としての食塩とを混合することにより、重合体分を凝析させ、ゴムクラムが得られる。その後、得られたゴムクラムを水洗、乾燥することによりアクリルゴムが得られる。なお、第1段目および/または第2段目において、単量体を複数回に分けて添加することも可能である。
【0028】
なお、第1段目の重合における重合転化率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%である。また、第2段目の重合における重合転化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは100%である。
【0029】
本発明のアクリルゴムに含まれる二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)のうちの50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは全量がシードラテックスを得る際に(即ち、第1段目において)重合してなる。
【0030】
重合開始剤、分子量調整剤、乳化剤、等は一般的に用いられる従来公知のものを使用できる。
【0031】
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物; ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物; 過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、アクリルゴムの重合に用いる全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜1.0重量部である。
【0032】
分子量調整剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類; テトラエチルチウラムスルフィド、ジベンタメチレンチウラムヘキサスルフィド等のスルフィド類;α−メチルスチレン2量体;四塩化炭素等が挙げられる。
【0033】
乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸などの脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤; アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤などを挙げることができる。なかでも、アニオン性乳化剤が好適に用いられる。これらの乳化剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量は、アクリルゴムの重合に用いる全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0034】
また、上記乳化重合において、重合停止剤を用いてもよい。重合停止剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムなどが挙げられる。重合停止剤の使用量は、特に限定されないが、アクリルゴムの重合に用いる全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0035】
乳化重合における水の使用量は、アクリルゴムの重合に用いる全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部、より好ましくは100〜300重量部である。
【0036】
本発明のアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、好ましくは20〜30、より好ましくは24〜30である。ムーニー粘度は、重合時に用いる分子量調整剤や重合開始剤の種類や使用量、重合温度によって調整することができる。ムーニー粘度が高すぎると、成形加工性に劣る。一方、ムーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0037】
(アクリルゴム組成物)
本発明のアクリルゴム組成物は、上記アクリルゴムに配合剤を含んでなる。本発明のアクリルゴム組成物は、配合剤として液状ふっ素ゴムを含む架橋性アクリルゴム組成物であることが好ましい。また、配合剤として、液状ふっ素ゴムに加えて、さらに受酸剤及び架橋促進剤を含んでいてもよい。
【0038】
(液状ふっ素ゴム)
本発明で用いる液状ふっ素ゴムは、常温(20℃)で液体状のふっ素ゴムであれば、特に限定されない。例えば、ビニリデンフルオライド/ヘキサンフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロペンテン−テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン−フッ化ビニリデン共重合体などが挙げられる。これらの液状ふっ素ゴムとして、市販のバイトン(登録商標)LM(デュポン社製)、ダイエル(登録商標)G101(ダイキン工業(株)製)、ダイニオンFC2210(スリーエム社製)などを使用することができる。
【0039】
液状ふっ素ゴムの粘度は、特には限定されないが、混練性、流動性、架橋反応性が良好であり、成形性に優れる観点から、105℃における粘度が、好ましくは500〜30,000cps、より好ましくは550〜25,000cpsである。
【0040】
液状ふっ素ゴムの配合量は、適切な架橋速度を得ることができる観点から、アクリルゴム100重量部に対して好ましくは0.4〜50重量部、より好ましくは0.5〜40重量部、さらに好ましくは1.0〜20重量部である。
【0041】
(受酸剤)
アクリルゴム組成物に用いる受酸剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、珪酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらのなかでも、アクリルゴム組成物の貯蔵安定性が良好である観点から、受酸剤として珪酸カルシウムを用いることが好ましい。受酸剤の配合量は、特に限定されないが、アクリルゴム100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは2〜14重量部、特に好ましくは6〜12重量部である。受酸剤の量が少なすぎると十分な架橋速度が得られない傾向となる。また、受酸剤の量が多すぎるとゴム架橋物の硬度が高くなりすぎる場合がある。
【0042】
(架橋促進剤)
ゴム架橋物は、適切な架橋速度を呈する観点から、架橋促進剤を含有することが好ましい。架橋促進剤としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニム塩が挙げられる。
【0043】
第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、テトラプロピルアンモニウムハイドライトオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドライドオキサイド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライドベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルジメチルアンモニウムクロライド、1,6−ジアザ−ビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7−セチルピリジウムサルフェート、トリメチルベンジルアンモニウムベンゾエートなどが挙げられる。
【0044】
第四級ホスホニム塩としては、例えば、トリフェニルベンジルホスホニムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド、トリシクロヘキシルベンジルホスホニウムクロライド、トリシクロヘキシルベンジルホスホニウムブロマイドなどが挙げられる。これらの架橋促進剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0045】
架橋促進剤の配合量は、アクリルゴム100重量部に対して、通常、0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜2重量部である。架橋促進剤の配合量が少なすぎると、十分な架橋速度が得難い傾向となる。また、架橋促進剤の配合量が多すぎると、スコーチ安定性が損なわれる場合がある。
【0046】
(その他の配合剤)
アクリルゴム組成物は、上述した配合剤の成分以外に通常のアクリルゴム組成物に添加される各種副資材を目的に応じて含有してもよい。このような副資材としては、特に限定されないが、補強材、充填剤、老化防止剤、滑剤、可塑剤、安定剤、顔料などが挙げられる。
【0047】
補強材としては、カーボンブラックやシリカなどが挙げられる。また、ゴム架橋物の強度を向上させる観点から、アクリルゴム組成物は、補強材を含有することが好ましい。補強材の配合量は、アクリルゴム100重量部に対して通常10〜100重量部、好ましくは30〜90重量部である。
【0048】
アクリルゴム組成物が補強材としてシリカを含有する場合は、ゴム架橋物の強度を向上させる観点から、アクリルゴム組成物にシランカップリング剤を添加することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、(メタ)アクリロキシ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤等が挙げられる。アミノ基含有シランカップリング剤としては、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。エポキシ基含有シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。(メタ)アクリロキシ基含有シランカップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。メルカプト基含有シランカップリング剤としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトメチルトリメトキシラン、γ−メルカプトメチルトリエトキシラン、γ−メルカプトヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。ビニル基含有シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン等が挙げられる。なかでもエポキシ基含有シランカップリング剤が好ましく、さらに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100重量部に対して、通常1〜10重量部である。
【0049】
充填剤としては、炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルクケイソウ土などが挙げられる。
【0050】
老化防止剤としては、ジフェニルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体などが挙げられる。なかでもゴム架橋物の耐熱性を向上させる観点からは、老化防止剤として下記一般式(1)で示す化合物を配合することが好ましい。
【化1】
(上記一般式(1)中、Yは−SO2−を表す。RaおよびRbはそれぞれ独立して、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。ZaおよびZbはそれぞれ独立して、化学的な単結合または、−SO2−を表す。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、nおよびmの少なくとも一方は1である。)
【0051】
aおよびRbを構成する炭素数1〜30の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などの炭素数1〜30のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの炭素数3〜30のシクロアルキル基;フェニル基、ベンジル基、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、4−メチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラニル基などの炭素数6〜30のアリール基等が挙げられる。
【0052】
本発明では、RaおよびRbは、それぞれ独立して、直鎖状または分岐状の炭素数2〜30のアルキル基、または炭素数6〜30のアリール基であることが好ましく、直鎖状または分岐状の炭素数2〜8のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基であることがさらに好ましい。
【0053】
このようなRaおよびRbを構成する炭化水素基の好ましい具体例としては、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、t−ブチル基、フェニル基、または4−メチルフェニル基などが挙げられる。これらのなかでも、α,α−ジメチルベンジル基または4−メチルフェニル基がより好ましく、α,α−ジメチルベンジル基がさらに好ましい。
【0054】
一般式(1)記載の化合物は、国際公開第2011/093443号に記載の方法により合成することができる。
【0055】
老化防止剤の配合量は、特に限定されないが、アクリルゴム100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0056】
滑剤としては、パラフィン、炭化水素樹脂、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコールなどが挙げられる。
【0057】
可塑剤としては、フタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、ポリエーテルエステル誘導体などが挙げられる。
【0058】
安定剤としては、無水フタル酸、安息香酸、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、スルホンアミド誘導体等が挙げられる。
【0059】
顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、シアニンブルーなどが挙げられる。また、アクリルゴム組成物がシリカを含有する場合、アクリルゴム組成物を着色する目的で、アクリルゴム組成物はアクリルゴム100重量部に対して5重量部以下のカーボンブラックを含有してもよい。
【0060】
アクリルゴム組成物の調製方法は、特に限定されず、公知の調製方法を用いることができる。例えば、通常ゴム工業で使用されるオープンロール、インターナルミキサーなどで各配合成分を混練することによって、アクリルゴム組成物を調製することができる。
【0061】
なお、アクリルゴム組成物の押し出し成形時にダイの径より押出物の径が大きくなるスウェルと呼ばれる現象が発生し、寸法安定性が低下するおそれがある。ここで、スウェルの程度は、押出スウェルとして表すことができ、押出スウェル(%)は、押出成形品の直径をD(mm)、押出機のバレル径をDo(mm)として、下記式
[(D/Do)−1]×100(%)
により求めることができる。本発明において、押出スウェルは、好ましくは75%以下、より好ましくは70%以下である。
【0062】
本発明のアクリルゴムを用いたアクリルゴム組成物は、押出し加工性に優れる。そのため、このアクリルゴム組成物は押出成形しやすく、押出成形品の押出し肌が平滑な押出成形品を得ることができる。
【0063】
(ゴム架橋物)
ゴム架橋物は、上記のアクリルゴム組成物を架橋することにより得られる。ゴム架橋物の調製方法は、特に限定されず、アクリルゴム組成物を押出成形、ホットプレス、射出成形機、スチーム缶などの通常ゴム工業で使用される成形・架橋機械を使用して、成形及び架橋操作を行うことにより、ゴム架橋物を得ることができる。
【0064】
得られるゴム架橋物は、その特性を活かして、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、メカニカルシール、ウェルヘッドシール、電気・電子機器用シール、空気圧機器用シールなどの各種シール;シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジエーターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローライン等の各種ホース、;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;などとして好適に用いられ、特にホースなどの押出成形品用途に、好適に用いられる。
【実施例】
【0065】
次に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。なお、以下の説明において、特に断りがない限り、「部」は重量部を、「%」は重量%をそれぞれ意味する。
【0066】
実施例および比較例において、ムーニー粘度の測定、スウェルの測定および押出成形試験は以下のように行った。
【0067】
(1) ムーニー粘度の測定
実施例及び比較例で得られたアクリルゴムについて、JISK 6300に従って、100℃で測定した。
【0068】
(2) スウェルの測定
実施例及び比較例で得られたアクリルゴム組成物を、先端にガーベダイを付けた押出機(単軸バレル径20mm、回転数30rpm、バレル温度60℃、ヘッド温度80℃)を用いて、押出成形した。そして、ASTM D2230−77 A法(ガーベダイ押出試験、採点法A)に従い、得られた押出成形品について、押出スウェル(%)を求めた。なお、押出スウェル(%)は、押出成形品の直径をD(mm)、押出機のバレル径をDo(mm)として、下記式
[(D/Do)−1]×100(%)
により求めることができる。
【0069】
(3) 押出成形試験
実施例及び比較例で得られたアクリルゴム組成物を、先端にガーベダイを付けた押出機(単軸バレル径20mm、回転数30rpm、バレル温度60℃、ヘッド温度80℃)を用いて、押出成形した。そして、ASTM D2230−77 A法(ガーベダイ押出試験、採点法A)に従い、得られた押出成形品の表面肌の平滑性について、下記基準により評価した。
○:押出し肌が平滑
△:押出し肌に微細な凹凸
×:押出し肌に深い凹凸
【0070】
(実施例1)
(アクリルゴムの重合)
重合反応器にアクリル酸エチル2.5部、アクリル酸ブチル2.5部、p−ヒドロキシ安息香酸ビニル0.05部を仕込み、さらにアニオン性乳化剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩0.03部を脱イオン水0.9部に溶解したものに二重結合を2個以上有する多官能性単量体としてエチレングリコールジメタクリレート(以下、「EDMA」ということがある。)0.5部を加え、撹拌して乳化させた。次に、窒素気流下で70℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウムの3.0%水溶液8部を添加して第1段目の重合を開始させた。
【0071】
第1段目の単量体混合物の転化率が50%に達するまで反応させた。次に、アニオン性乳化剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩1.5部を脱イオン水45部に溶解したものに、アクリル酸エチル46.5部、アクリル酸ブチル46.5部、p−ヒドロキシ安息香酸ビニル0.95部を加え、攪拌して乳化させたものを重合開始後から逐次的に重合反応器に添加することにより第2段目の重合を行った。モノマーを全量添加した後、重合温度を徐々に80℃まで上昇させ、さらに80〜82℃の範囲で2時間重合反応を継続した。第2段目の重合における重合転化率はほぼ100%であった。得られたラテックスと、塩析剤としての食塩(水溶液の状態)とを混合して、クラム状のアクリルゴムを得た。その後、クラム状のアクリルゴムを水洗、乾燥させて、アクリルゴムを得た。ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、25であった。
【0072】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴム100部、シリカ(ニプシルER、東ソー・シリカ(株)製、補強材)40部、珪酸カルシウム(AS850H200M、富田製薬(株)製、受酸剤)8部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)1部、オルガノシリコーン化合物(ストラクトールWS280、エスアンドエスジャパン(株)製、滑剤)3部、老化防止剤1部、液状ふっ素ゴム(ダイエルG−101、ダイキン工業(株)製、架橋剤)1.5部、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート(TBAHS、広栄化学(株)製、架橋促進剤)0.25部をオープンロールで混練して、アクリルゴム組成物を調製した。なお、老化防止剤としては下記式(2)で表される化合物を用いた。
【化2】
得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0073】
(実施例2)
(アクリルゴムの重合)
第1段目の重合の際に用いるエチレングリコールジメタクリレートの量を1部に変更した以外は、実施例1と同様にアクリルゴムの重合を行った。得られたアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、26であった。
【0074】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例1と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0075】
(実施例3)
(アクリルゴムの重合)
二重結合を2個以上有する多官能性単量体としてエチレングリコールジメタクリレートに代えて、トリメチロールプロパントリメタアクリレートを用いたこと以外は、実施例2と同様にアクリルゴムの重合を行った。得られたアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、24であった。
【0076】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例2と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0077】
(実施例4)
(アクリルゴムの重合)
二重結合を2個以上有する多官能性単量体としてエチレングリコールジメタクリレートに代えて、ジビニルベンゼンを用いたこと以外は、実施例2と同様にアクリルゴムの重合を行った。得られたアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、21であった。
【0078】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例2と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0079】
(実施例5)
(アクリルゴムの重合)
第1段目の重合の際に用いるエチレングリコールジメタクリレートの量を2部に変更した以外は、実施例1と同様にアクリルゴムの重合を行った。得られたアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、28であった。
【0080】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例1と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0081】
(比較例1)
(アクリルゴムの重合)
重合反応器に、アニオン性乳化剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩5部を脱イオン水45部に溶解したものに、アクリル酸エチル49部、アクリル酸ブチル49部、エチレングリコールジメタクリレート1部、p−ヒドロキシ安息香酸ビニル1部を加え、攪拌して乳化させた。次に、窒素気流下で70℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウムの10%水溶液10部を添加して重合を開始させた。重合開始後、重合温度を徐々に80℃まで上昇させ、さらに40〜45℃の範囲で2時間重合反応を継続した。重合転化率はほぼ100%であった。得られたラテックスと、塩析剤としての食塩(水溶液の状態)とを混合して、クラム状のアクリルゴムを得た。その後、クラム状のアクリルゴムを水洗、乾燥させて、アクリルゴムを得た。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、36であった。
【0082】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例1と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0083】
(比較例2)
重合反応器に、アニオン性乳化剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩5部を脱イオン水45部に溶解したものに、アクリル酸エチル49部、アクリル酸ブチル49部、エチレングリコールジメタクリレート1部、p−ヒドロキシ安息香酸ビニル1部を加え、攪拌して乳化させた。次に、窒素気流下で70℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウムの10%水溶液10部を添加して重合を開始させた。重合開始後、重合温度を徐々に80℃まで上昇させ、さらに80〜82℃の範囲で2時間重合反応を継続した。重合転化率はほぼ100%であった。得られたラテックスと、塩析剤としての食塩(水溶液の状態)とを混合して、クラム状のアクリルゴムを得た。その後、クラム状のアクリルゴムを水洗、乾燥させて、アクリルゴムを得た。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、23であった。
【0084】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例1と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0085】
(比較例3)
(アクリルゴムの重合)
重合の際に用いるエチレングリコールジメタクリレートの量を2部に変更した以外は、比較例1と同様にアクリルゴムの重合を行った。得られたアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、33であった。
【0086】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例1と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0087】
(比較例4)
(アクリルゴムの重合)
重合の際に用いるエチレングリコールジメタクリレートの量を2部に変更した以外は、比較例2と同様にアクリルゴムの重合を行った。得られたアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、32であった。
【0088】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例1と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0089】
(比較例5)
(アクリルゴムの重合)
重合反応器に、アニオン性乳化剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩1.5部を脱イオン水45部に溶解したものに、アクリル酸エチル49部、アクリル酸ブチル49部、p−ヒドロキシ安息香酸ビニル1部、を加え、攪拌して乳化させた。次に、窒素気流下で70℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウムの10%水溶液10部を添加して重合を開始させた。重合開始後、重合温度を徐々に80℃まで上昇させ、さらに80〜82℃の範囲で2時間重合反応を継続した。重合転化率はほぼ100%であった。得られたラテックスと、塩析剤としての食塩(水溶液の状態)とを混合して、クラム状のアクリルゴムを得た。その後、クラム状のアクリルゴムを水洗、乾燥させて、アクリルゴムを得た。ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、34であった。
【0090】
(アクリルゴム組成物の調製)
上記で得られたアクリルゴムを用いた以外は、実施例1と同様にアクリルゴム組成物の調製を行った。得られたアクリルゴム組成物について、スウェルの測定及び押出成形試験を行った。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び二重結合を2個以上有する多官能性単量体を共重合してシードラテックスを得て、さらに前記シードラテックスの存在下で前記(メタ)アクリル酸エステル単量体を共重合することにより得られる、二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)を0.1〜2重量%含有してなるアクリルゴムであって、前記アクリルゴムに含まれる前記二重結合を2個以上有する多官能性単量体単位(A)のうちの50重量%以上が前記シードラテックスを得る際に重合してなるアクリルゴムのムーニー粘度は低く、かつ、押出スウェルも良好であり、押出成形品の表面肌も平滑であった(実施例1〜5)。
【0093】
一方、アクリルゴムに含まれる二重結合を2個以上有する多官能性単量体(A)を重合の初期に偏らせて重合させない場合には、押出スウェルは高い値となり、押出成形品の表面肌も平滑ではなかった(比較例1〜4)。
【0094】
さらに、二重結合を2個以上有する多官能性単量体(A)を用いない場合には、押出しスウェルは高い値となり、押出成形品の表面肌には凹凸が見られた(比較例5)。